シナリオ

⑧希死

#√汎神解剖機関 #秋葉原荒覇吐戦 #秋葉原荒覇吐戦⑧

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 #√汎神解剖機関
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⚔️王劍戦争:秋葉原荒覇吐戦

これは1章構成の戦争シナリオです。シナリオ毎の「プレイングボーナス」を満たすと、判定が有利になります!
現在の戦況はこちらのページをチェック!
(毎日16時更新)

▼√EDEN:某所

「せんそーなのよ!」

 小さな星詠み、パルム・ウィトマートル(Expulsion・h06562)が、ぱたぱたと両手を振る。君たちの注目を集めたいらしい。

「アキハバラのダイビルに、リンゼイがあらわれたのよ! |人間災厄《ニンゲンサイヤク》なのよ!」

 √汎神解剖機関、合衆国管轄の『封印指定人間災厄』リンゼイ・ガーランド。彼女は近づく者を皆無差別に自殺させてしまう制御不能の√能力『ヴァージン・スーサイズ』で、王劍戦争の全勢力を妨害するために戦線を混乱させようとしている。

「ここで止めないと√EDENの人たちもまきこまれちゃうかもしれないのよ。なんとかするのよー!」

 簒奪者どもが死ぬ分にはありがたい限りだが、民間人までも巻き込まれて自殺を始めては甚大な被害になってしまう。そのため、彼女の放つ自殺衝動を掻い潜り、自分の自殺を防ぎながらリンゼイ・ガーランドを撃退する必要がある。

「それからね、わたし見ちゃったのよ! リンゼイの『ヴァージン・スーサイズ』には効かない人がいて……それがね、好きな人には効かないらしいのよー!」

 きゃーっ、と赤くなった頬を手を抑えながら小さな星詠みはぴょんぴょんと飛び跳ねる。

「これはたぶんだけど、リンゼイの|自由《ジユー》をだいじにしてあげて、一人じゃないって思わせてくれる人がタイプと見たのよ! オンナのカンってやつなのよ!」

 実際、リンゼイに一瞬でも好かれれば自殺を防ぐことはできる。
 問題は彼女の好みだ。憶測ではあるが、彼女は自由を愛する一方で孤独や拘束、監視を嫌う傾向がある。デートなどの時間や身柄を拘束するアプローチではなく、少しばかりの親切や、言葉によって共感を示すことで好感を得られるかもしれない。

 好かれる以外にも、他にも自殺を防ぐ方法は様々ある。
 気合で防ぐでも、誰かとの絆を頼りに衝動を堪えてもよいだろう。あるいは、自殺の意味を拡大解釈して物理的な死ではなく精神的死、社会的死で解決することもできるだろう。もっと戦術的に解決したいのであれば、遠距離狙撃やロボットの遠隔操縦などを検討するといい。

「ちょっとむつかしーことだけど、あなたたちならきっと乗り越えられるのよ! みんながんばるのよー!」

 小さな星詠みは応援しながら、戦場に向かう君たちを見送るのだった。

マスターより

三味なずな
 今回の舞台が秋葉原ダイビルなんですけど、これって自殺と掛けてDieビルってことなんでしょうか?
 お世話になっております。三味(シャミ)なずなです。

 こちらのシナリオは⑧ヴァージン・スーサイズのものとなっております。

 近づくと襲ってくる自殺衝動に抗いながら、秋葉原ダイビルに現れたリンゼイ・ガーランドを止めます。
 自殺を防ぎながら戦うとプレイングボーナスとして成功・大成功になりやすくなりますので、ぜひ狙ってみてください。

 なずなのマスターページにアドリブ度などの便利な記号がございます。よろしければご参考下さい。
 それでは、あなたのプレイングをお待ちしております。
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第1章 ボス戦 『人間災厄『リンゼイ・ガーランド』』


POW |希死念慮《タナトス》
60秒間【誰にも拘束・監視されない自由な時間】をチャージした直後にのみ、近接範囲の敵に威力18倍の【突発的感染性自殺衝動】を放つ。自身がチャージ中に受けたダメージは全てチャージ後に適用される。
SPD 怪異「|自殺少女霊隊《ヴァージン・スーサイズ》」
【|自殺少女隊《ヴァージン・スーサイズ》】と完全融合し、【自殺衝動の超増幅】による攻撃+空間引き寄せ能力を得る。また、シナリオで獲得した🔵と同回数まで、死後即座に蘇生する。
WIZ |自殺のための百万の方法《ミリオンデススターズ》
【様々な自殺方法の紹介】を放ち、半径レベルm内の自分含む全員の【ヴァージン・スーサイズによる自殺衝動】に対する抵抗力を10分の1にする。
イラスト 芋園缶
√汎神解剖機関 普通11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

伊部谷・純

わたしが死ぬコトで誰かが救われるなら、この命を差し出すコトは惜しくない。でも、そうじゃない。
生きて、何とかしないと。犠牲になる人が、増える前に。

その意思で自殺衝動を抑えつつ、リンゼイさんの処へ。
好感を得る方向でアプローチを試みるよ。

近くで買ってきた缶コーヒー(ホット)を渡しつつ、その境遇への共感や理解を示す言葉をかけていく。
人間災厄って言えば外出も滅多にできないって人多いしね。辛いよね。たまの自由は思いきり満喫したいよね。

それを取っ掛かりに、彼女の方から色々お話してくれる方向に持っていければと。
勿論、全肯定しつつ。

自殺衝動が薄れてきたら、帰ることを提案。
ここだと、皆死んじゃうから…ね。

▼√EDEN:秋葉原ダイビル近く

「あっつ……」

 自販機の取り出し口から拾い上げた缶コーヒーを、|伊部谷《いべや》・|純《じゅん》(→祈るは誰かの新世界・h08847)は袖を使って持ち直す。
 気温が寒くなれば缶コーヒーは熱くなる。もうそんな時期なのかと思いながら、自分用のカフェラテをついでに購入した。アメリカ人はコーヒーをよく飲むと聞いたから、気に入ってくれるといいなと純は願う。もし気に入らなかったら、カフェラテを代わりにあげよう。自分がコーヒーを飲めるかどうかは、挑戦になるかもしれないけれど。

「今からちょっと気が重いな……」

 溜め息をついて、決心するように息を吸い込む。
 二本の缶を抱えるようにして純が秋葉原ダイビルへと歩んでいくと、人気のまったくないカフェスペースのテラス席に女性が見えた。リンゼイ・ガーランドだ。

「うっ……」

 歩み寄る途中で、唐突に吐き気を催した。深夜に不安感に襲われた時のような感覚。あるいは、日常を失った直後のあの日の再現。
 息はできるのに息苦しく、この苦しさから逃れたいと願う。楽になりたい。全てから解放されて――

「――――っ」

 コーヒー缶を素手で触れて、熱さで我を取り戻す。寒気のように襲い来る自殺衝動を、あの日に灯した覚悟の炎が熱で追い払う。

「死なないんですね、あなた」

 テラス席に座るリンゼイが、こちらへ視線を向けることなく言葉を紡ぐ。

「死に損なっちゃった」
「死んだところで生き返るだけでしょう、√能力者は」

 二本の缶を机に置いて、向かい席に座ってから純は口を開いた。

「これ、飲んでよ。カフェみたいにはいかないけどさ」
「……随分と厚遇ですね。正直助かります。店員がいなくて、注文することもできなかったので」

 小気味いい音でプルタブを開いたリンゼイが缶コーヒーを一口含むのを見て、純をそれに倣う。寒い空の下、カフェラテの甘やかな温かさが体に広がる気がした。少しだけマシになった気分で、彼女は話を始める。

「人間災厄って言えば、外出も滅多にできないって人多いらしいね。本当?」
「少なくとも私はそうですね。封印指定までされているので。おかげで、この席に座るだけで多少の感慨があるというものです」
「たまの自由を満喫中ってことね」
「とはいえ、あまり普段と変わった気もしませんが。……私の周りには人が存在できないので」

 缶を置いて、リンゼイは純を見つめる。メガネの奥の瞳は、まるでこちらを見定めるかのような光を放っていた。

「それで。……あなたはなぜ死んでいないんですか?」
「んー、死ぬわけにはいかないから、かな?」

 眉間を寄せた不可解そうな表情が返ってきて、純は苦笑する。それで人が死なないのなら、無差別に自殺衝動を撒き散らす彼女だって苦労はしなかっただろう。

「……衝動への耐性がおありで?」
「ううん、衝動は来てるし実際今もすごく気分悪いよ。普段はもっと元気だもん、わたし。……ただ逃げるためじゃなくて、何かのためにこの命を使いたいってだけ」
「単なる気の持ちよう……というわけではなさそうですね。相当な覚悟で抗っているように見えます」
「覚悟ってほどじゃないかな。……ただ自分が満足したいだけだよ。自分が死ぬことに、意味があってほしい」

 誰かが救われるなら、命を差し出しても惜しくはない。
 純のその気構えは単なる高潔な自己犠牲の精神ではない。死に意味があってほしいと願う欲求だ。だから、何もなしえぬままに終わるような死に様は晒せない。

「わたしが死ぬのは今じゃないし、ここでもない」
「……なんともはや。その高潔な精神に敬意を。あなたの名前をうかがってもいいですか?」
「純。呼び捨てでいいよ」

 自分の名前を口にした瞬間、ふっと重くのしかかっていた気分の悪さが消え失せた。リンゼイの好感を勝ち得たのだという実感を伴った事実に、純は安堵する。

「ジュン。……そうまでして、あなたがしたいこととは何なのですか?」
「犠牲者を増やしたくないだけだよ。……リンゼイさん、帰ってもらえないかな?」
「はいそうですね、と帰れたらよかったのですが……。生憎と、大統領命令ですので」
「……ん、そうだよね」

 沈黙が流れる。
 気まずさはない。束の間とはいえ心を通わせた相手と戦う決心をする、短い時間。なすべきことをなさねばならないという使命感を胸に、二人は席から立つ。
 戦いの火蓋が、切って落とされた。

「――手加減はできませんよ、ジュン」
「被害は広げさせないからね、リンゼイさん」
🔵​🔵​🔴​ 成功

狗狸塚・澄夜

好感、か
普段の私であれば、喜劇の舞台に登る事も吝かではないが──その異能、悪しき神秘に違わず
なれば救いは与えぬ、余興も要らぬ
秘めた恋と共に朽ちろ、邪悪

距離があっても分かる、この衝動
心臓を取り出し、握り潰したくなる希死念慮──忌まわしくも懐かしい感覚だ

悪しき神秘に心寄せる位なら死を選ぶ
紡ぐ力は【融魂・異狐】
此の身を喰らわせ、翼がねじ切れ骨が露な醜い屍となってでも
堕ちた獣と成り果ててでも
此の心は、此の魂は──|喪われた愛《片割れ》の物だ

呪いの獣に変貌したならば、麻痺の呪詛を混ぜつつ目の前の娘を灰になるまで狐火で焼き尽くすのみよ

呪戸の禍津神、怨み給えと畏み申す
呪え、恨め、余多を塵芥に変えるまで

▼√EDEN:秋葉原ダイビル近く

 最初は道化に身をやつすのも悪くはないと思っていた。
 実際、普段の|狗狸塚《くりづか》・澄夜《とうや》(天の伽枷・h00944)であればそうしただろう。自ら喜劇の舞台へ登り、孤独な少女の心を解きほぐす。得手とするものではないが、彼とて永く生きる身だ。やってやれないことはない。

「――邪悪だな」

 カフェのテラス席に座るリンゼイの『ヴァージン・スーサイズ』の効果圏に入った瞬間、澄夜の考えは変わった。
 衝動が襲いかかってきた。
 今すぐにでも己の皮膚に爪立てて、肉を穿ちそのまま己の臓物を引きずり出して握り潰したくなるような希死念慮。唾棄すべき忌まわしき感覚にして、懐かしさを感じる甘美な誘い。

「邪悪は、滅ぼさなくてはならん」

 情けや容赦といった自分の中に未だ残る人間らしい感情を、自らの手で斬って捨てた。
 同情は与えない。救いも与えない。余興すらも不要だ。

「――秘めた恋と共に朽ちよ、悪しき神秘」

 強烈な憎悪の言葉を呼び水にするかのように、彼の足元から何かが溢れ出した。狐のような形状のインビジブルの群れ。それらが澄夜の体へと食らいつき、肉を噛み千切る。折れた黒い翼から、骨の白色が露わになって醜く歪む。
 苦痛の只中にあるはずの男の口元が、笑みに歪んだ。

「邪悪を憐れみ、心を寄せる道を辿るぐらいならば――俺は自らの足で死の道を歩む」

 群がるインビジブルの群れはたちまち澄夜の体を覆い尽くし、歪な塊を形成し――その果てに、巨大な狐の姿を形作った。

「――ッ、出会い頭に言葉も交わさず|自殺特攻《スーサイド・アタック》ですか、度し難いですね……!」

 テラス席から立ち上がって戦闘態勢をとるリンゼイが、横に吹き飛ばされる。
 呪術――と呼べるかどうかも怪しい、呪力を塊として飛ばすだけの放射。体勢を立て直すリンゼイを、「スマリ様」と呼ばれる巨大な狐は見下ろす。
 どこからともなく、声が聞こえてきた。

『――呪戸の禍津神、怨み給えと畏み申す』

 神に捧ぐ祈りの言葉。あるいは、荒御魂に封じる呪いの言葉。一音が紡がれるごとに一つ、また一つと狐火が周囲に浮かぶ。
 いかに自殺衝動を駆り立てる邪悪な異能とて、全てを憎み、呪い、噛み殺さんとする獣たちの|集合体《つぎはぎ》には届きすらしない。

『呪え、恨め、余多を塵芥に変えるまで。――此の心は、此の魂は、|喪われた愛《片割れ》の物だ。一欠片とて、貴様にくれてやるつもりはないと知れ』
🔵​🔵​🔴​ 成功

虚峰・サリィ

「ハロー、恋するガール。もっと違う形で会いたかったわぁ」

【行動】
私は恋するガールの味方だけれど、貴女を放置しておくと他の恋するガール達が死んでしまうのよねぇ。だから、貴女の行動は止めさせてもらうわぁ
でも、その恋だけは応援してあげる
私が乙女に寄り添う手段はこれひとつ。乙女の恋を応援するため、一曲贈らせてちょうだいな。今日のナンバーは『運命・黒白の出会いはカップの中で』(歌唱、楽器演奏)
曲が終わって自殺衝動が消えたなら、心苦しいけれど一撃ガツンとくれてやるわぁ。(全力魔法)
曲が終わるまではギタリストの根性で耐えてみせるわぁ(狂気耐性、精神抵抗)

「貴女の恋が実るといいわねぇ、リンゼイ・ガーランド」

▼√EDEN:秋葉原ダイビル近く

「ハロー、恋するガール」

 声を張り上げ、カフェのテラス席に座るリンゼイへと呼びかけたのは|虚峰《うつろみね》・サリィ(人間災厄『ウィッチ・ザ・ロマンシア』・h00411)だ。怪訝な表情を返すリンゼイを気にも留めず、彼女はギターを手にして言葉を続ける。

「私は恋するガールの味方、サリィ。今日はあなたの恋を応援しに来てあげたわ!」
「応援を……?」
「その通りよ。貴女は今、前に進めていない。勇気のない自分をもどかしく思っている。――そうよね?」
「…………」

 リンゼイはその問いかけに是とも否とも返さなかった。だがそれは、サリィにとっては何よりも雄弁な返答だ。
 沈黙を切り裂くように、サリィがギターを掻き鳴らす。

「そんな貴女が前へと進むために、一曲贈らせてちょうだいな。――今日のナンバーは、『|運命・黒白の出会いはカップの中で《ビタースイートディスティニー》』!」

 あまりにも押し付けがましく、あまりにも強引で、あまりにも唐突なシングソング。
 傍若無人に奏でられるサリィの演奏と歌唱の内容は、意外にも恋する乙女に寄り添ったものだった。普遍的な感情の揺れをコード進行と共に歌詞で表現して共感を呼びかけたかと思えば、刺すようなフレーズが聴く者の胸を打つ。
 嵐のように来たりて、嵐のように心を引き寄せる。人間の形をした災厄――『ウィッチ・ザ・ロマンシア』。

「なぜ……なぜ、こんなことを……?」
「言ったでしょう? 私は恋するガールの味方。恋に臆病になった乙女の前に、私は必ず現れるのよ。どこであろうともね」

 サリィはすでにリンゼイの|自殺衝動《ヴァージン・スーサイズ》の圏内。だが、彼女は湧き上がる衝動すらも音楽への衝動へと昇華していた。死にたいと願う気持ちをギターリフに変えて、叫び出したい思いを歌へと変えていた。
 命を賭け、心を燃やすようなサリィの一曲に、気付けばリンゼイは呆然とした表情で拍手を送っていた。

「素晴らしい……素晴らしい一曲でした。こんなに間近で、震えるような音楽を聞けたのは初めてです……」
「貴女に勇気、分け与えてあげられたかしら?」
「ええ、そうですね。勇気を貰えた気がします。――私、この任務が終わったら先輩に告白してみようかと」

 文字通りの必死の演奏を終え、肩で息をしていたサリィは一つ頷きを返し――リンゼイへと全力の魔法を撃ち放った。椅子から吹き飛ばされた封印指定人間災厄を見下ろしながら、サリィは言う。

「――世界はそれを死亡フラグと呼ぶのよ!」

 いつの間にかに、サリィの中の自殺衝動は消えていた。肩にかけていたギターストラップを外しながら、サリィは恋する乙女に背を向けて去っていく。

「貴女の恋が実るといいわねぇ、リンゼイ・ガーランド」
🔵​🔵​🔴​ 成功

和紋・蜚廉
翅音板より魅了の音を鳴らし、演技も交えて語りかける。

…ふむ、孤独、不自由を嫌うか。
ならばその力を持つことは必ずしも幸いでは無かろう。
強すぎる力は、使命と役割に捕らわれる。
敵ながらにして、その境遇の窮屈さは理解できるぞ。
生きる事に、善も悪もない。
汝はただ、居たい場所に居たいだけなのだろうな。

その為にもその力、打ち破らせて貰おうか。
自死の衝動。√能力無効化を纏う拳にて叩き割る。
襲う前に、潜響骨と翳嗅盤にて衝動の興りを感知。
野生の勘で、繰り出すタイミングを捉えて拳打を繰り出す。

その衝動も、生き方も。
今の汝は随分と窮屈だ。
先ずはその捉われた観念から、我がグラップルで砕いてやろう。

▼√EDEN:秋葉原ダイビル近く

 カフェのテラス席に座るリンゼイの関心を惹き寄せたのは、ガラスを打ち砕くような一つの音だった。

「心なくして技なし。技ありて心あり。自死の衝動、破れたり」

 残心の型を取るのは、|和紋《わもん》・|蜚廉《はいれん》(現世の遺骸・h07277)だ。彼は背負う翅音板を掻き鳴らしながら、リンゼイへと向き直る。

「……今のは、一体?」
「我が拳にて、汝のその力を打ち破らせてもらった」
「出会い頭に無茶苦茶を言いますね……」
「無茶を通さねば汝と相対することも叶わぬ故、赦されよ」
「いいえ、許しません。近寄らないで。――私を独りにして!」

 リンゼイの叫び声と共に、物理的な圧さえ伴った突発的感染性自殺衝動が放たれる。
 しかし、蜚廉は怯まない。こちらへと襲い来る風と衝動を切り裂くように、拳打を繰り返す。一撃、二撃、三撃……。拳打のたびに、彼はリンゼイへと一歩ずつ歩み寄る。

「孤独を嫌うか。不自由を嫌うか。なればその異能、必ずしも汝に幸いをもたらすものではなかっただろう。強すぎる力は、使命と役割に囚われるがゆえに」

 力を持つ者はその力を頼られ、期待される。力を振るう相手を限り、力を振るう機会を奪う。永く生きる蜚廉にも、幾度かその経験はあった。そのたびに彼も窮屈さを感じて、独りを恋しく思うこともあった。

「実に哀れな。生きる事に、善もなく悪もない。汝はただ、居たい場所に居たいだけなのだろうな。その衝動も、生き方も、今の汝は随分と窮屈に見える」

 だが――

「|己《おの》が|魂魄《こんぱく》とは元来自由なもの。|畢竟《ひっきょう》、汝を縛るものは汝の観念に在り。――先ずはその囚われた観念から、我がグラップルで砕いてやろう!」
「何を――知った風な口を!」

 一足一拳の間合い。
 リンゼイの放つがむしゃらな拳を裏拳で弾いて、蜚廉がカウンターの一撃を見舞う。

「来い、小童。汝の力は強いが、汝は弱い。強大な力に押し潰されぬ、強き汝を見せてみよ」
「さっきから、言ってること一つもわかりませんってば!」

 自殺の衝動を拳で砕き、リンゼイの拳を弾いていなす。
 まるで道場の乱取りのような戦いは続いていく。敵ながらにして、成長を願う蜚廉の想いと共に。
🔵​🔵​🔴​ 成功

青梅雨・ミケ
●◎
じ、自殺だって~?!
衝動に負けねーようにいざとなれば気合いで乗りきりますっ
ミケには師匠とのあつ~い絆がありますし!
うぅ…死にたい死ぬミケは弱い
師匠…ごめんなさい

…リンゼイ
お前の気持ち、少しだけわかりますよ
ひとりは、ミケもいやです
本当はさみしい、ですか?
(皆が自殺したら
一人になっちゃいますもんね
自由と自分勝手は別物なので
それは認めねーですけど)
ミケは絶対死にません!死ねません
お前を一人にはしないですよ

敵の足止めが主
常に笑顔
民間人が被害被らない様に、気を惹き派手な行動しておびき寄せ
敵の妨害を妨害

√能力使用
レーザー光線で動き封殺+ダメージ蓄積させる
緋竹で胴を範囲攻撃、串刺し
自殺衝動は自分の首締め

▼√EDEN:秋葉原ダイビル近く

『心意気は認めますが、世の中には精神論だけではどうにもならないこともあるのですよ』

 ――とは、|青梅雨《あおつゆ》・ミケ(羊突猛進・h07999)がかつて師に言われた言葉である。あらゆる事象を気合いと根性で無計画に挑んでは失敗していく彼女に言い聞かせる諫言でもあったのだが、それはさておいて。

「じ、自殺衝動なんて怖くねーですよ! ミケには師匠とのあつ~い絆がありますし、気合いで乗りきれます!!」

 彼女はいつもと同じ愚を犯そうとしていた。
 とりゃー! と勇ましくダイビルの一階、カフェスペースのテラス席に座るリンゼイへと突撃していくミケは、距離が近づくごとにその足は牛ほどに遅くなり、遂には止まってしまった。

「うぅ……死にたい……死ぬ……ミケは弱い……。師匠~、ごめんなさい~……」
「……なんなんですか、この子は」

 唐突に走ってきて唐突に泣き出したミケを見て、リンゼイが怪訝な顔をするのも無理からぬことだろう。最初は迷惑そうに無視を決め込もうとしていた彼女だったが、べそべそと泣き続けるミケを見るに見かねて話しかけ始めた。

「……あの、私のそばにいると自殺衝動が湧いてくるので、さっさと離れた方がいいですよ」
「ぐすっぐすっ……そんなの知ってますよぉ~……」
「……死にたいんですか?」
「死にたいですけどぉ~! ……死んだら一人になるじゃねーですかぁ~!」
「…………」

 泣きべそをかきながら紡がれるミケの言葉が自分に向けたものであることは、リンゼイでもわかった。
 みんなが自殺すれば、リンゼイは一人になる。彼女にとってそれは当たり前のことで、日常だった。だが、ミケはそれを良しとしない。
 自殺衝動に押し潰されそうになりながらも、ミケは|リンゼイ《敵》のことを考えて、|リンゼイ《敵》のために衝動に抗っていた。

「……ひとりは、ミケもいやですよ。さみしいに決まってますから……だから絶対に死にませんし、死ねねーんですよぉ~!」

 うぐ、と唐突にミケの言葉が詰まる。いつの間にかに、リンゼイのかたわらにいた自殺衝動の具現たる『|自殺少女霊隊《ヴァージン・スーサイズ》』がミケの腕に手を添え、自分の喉を締め上げさせていたのだ。
 それでも、ミケは絞り出した息でリンゼイのために言葉を紡ぐ。

「お前を、ひとりになんて……できねーんです……!」
「……馬鹿な人ですね」

 ふっと腕に添えられていた自殺衝動の具現が消えた。ミケは新鮮な空気を貪るように息をする。

「わかってるんですか? 私とあなたは敵同士です」
「けほっけほっ……わかってますよ。でも、一人にしないのは本当ですから」
「あなたのその気持ちはうれしかったですが――命令は、命令なので」

 リンゼイの背に『|自殺少女霊隊《ヴァージン・スーサイズ》』が現れる。その表情に迷いはない。ただ、義務と使命を遂行せんとする決意が現れていた。

「……あなたとは、もっと別の形で出会いたかったです」
「ミケだってそう思いますよ。……でも、民間人に被害を出すわけにもいかねーんで! さあ、やりますよ!」

 リンゼイの『|自殺少女霊隊《ヴァージン・スーサイズ》』から自殺衝動が放たれ、ミケのレイン砲台からレーザーが射出される。
 戦争の中心地で、一人にしないための戦いが始まった。
🔵​🔵​🔴​ 成功

澪崎・遼馬
アドリブ、連携歓迎。

合衆国の封印指定人間災厄、とはな。鳴り物入りの登場というわけだ。とはいえ異能捜査官として引けを取るつもりはない。

自殺衝動については『霊的防護』で減衰する。加えて出来ることなら少し言葉を交わしたい。自殺衝動の増幅が無力化されることを除いても死神の成りぞこないとしては彼女に対して多少のシンパシーを感じるゆえ。
「……自死を撒く災厄といえど孤独は辛いか。分かるとも、死神の紛い物たる当人もAnkerを自身の手で殺めてからは孤独だ。」
「ゆえに、この場で貴様と会えて良かった。こんな状況だが似ているモノがいることに少しばかり安心した」

さて、人々への被害が広がる前に迅速に戦いを終わらせねばな。
【唯識】で敵の√能力を殺し、続けて【汝、埋葬に能わず】による連続攻撃を叩き込もう。

▼√EDEN:秋葉原ダイビル近く

 ダイビル一階、カフェのテラス席。日常であれば人で賑わうその場所も、今はリンゼイただ一人が座っていた。
 静謐な空間。そこへ一筋の不吉な風が舞い込む。

「合衆国の封印指定人間災厄、『リンゼイ・ガーランド』だな?」
「…………」
「こちらは警視庁超常現象関連特別対策室、密葬課|異能捜査官《カミガリ》の澪崎遼馬だ。すまないが貴様には黙秘権も弁護士の立ち会いを求める権利もない。強制執行の対象となる」

 歩み寄りながら告知する|澪崎《みおさき》・|遼馬《りょうま》(地摺烏・h00878)の口調は淡々としていて、感情の色味がまるで欠落していた。
 一瞥すると、嫌なものを見たとばかりにリンゼイは溜め息をつく。

「……ここは『ヴァージン・スーサイズ』の範囲内のはずですが。お引き取り願っても?」
「貴様の能力は霊的な防護で軽減している。抵抗しないでもらえると制圧の手間が省ける」
「立場上、そういうわけにもいきませんので」

 リンゼイが立ち上がると同時に、周囲に満ちていた静謐が“濃く”なった。背筋に冷たいものを感じた遼馬は、反射的に右手を突き出す。ガラスが割れるような音。彼が『唯識』と呼ぶ、異能殺しの異能だ。
 直後、襲ってきたリンゼイの上段蹴りを|魔銃《彼岸》で受け止める。

「私の『ヴァージン・スーサイズ』を無効化してきましたか……!」
「対策は二重三重に取っている。基本だ」

 もう片方の|魔銃《此岸》の銃撃。リンゼイは身を捻って躱すが、脇腹を掠めた弾丸によって一筋の血が流れる。まるで感情の色味を顔に出さない遼馬へと、苦虫を噛み潰したような表情で距離を取ったリンゼイは吼える。

「忌々しい! あなたを見ていると無性に腹が立ってきます……!」
「当人はむしろシンパシーさえ感じているが」
「嫌味か挑発のつもりですか?」
「本心からだ。似たような孤独な者が他にいてくれると、自分だけではないのだと思える」

 平手が飛んだ。
 遼馬はそれを防がなかった。あるいは、防げなかった。大したダメージにならないというのもそうだが、孤独な者の叫びのようにも思えたから。それが拒絶されることなく届いて欲しいと願ったしまったがゆえに。

「……あなたは、絶対に殺します!」

 殺意に満ちたリンゼイの瞳の奥に、遼馬は怒りを見出した。
 自分に対する怒りではない。それはきっと、リンゼイ|以外を殺す《を愛する》|死神《もの》への怒り。
 死神の紛い物たる遼馬は、『|ヴァージン・スーサイズ《しにがみ》』と同列に見られていたのだ。

「……なるほど、嫌われるわけだな」

 初めて、遼馬の口元に薄い笑みが浮かぶ。それを見咎めるかのように飛んできたリンゼイの蹴りを、今度はしっかりと防いだ。
 であれば、尋常に果たし合うのが彼女にかけるせめてもの情けだろう。遼馬の|二丁拳銃《彼岸と此岸》から銃声が轟く。

「人々への被害が広がるまでには終わらせる。――貴様を黒き街へ連れてゆこう」
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

セシリア・ナインボール
リンゼイ・ガーランド…彼女個人に対する悪感情はこれと言っては浮かびませんね。
私もまた、私を慕ってくれる後輩が居ますし、私自身もあの方を慕っている立場ですから、彼女の立場は理解は出来ます。
ただ、やはり連邦怪異収容局、そしてリンドー配下…そしてその自殺衝動。
それだけは止めなくてはいけません。

撞球の雨霰で弾道計算をした乱れ撃ちで攻撃を仕掛けながら、礼儀作法とコミュ力で少しだけ会話を試みてみましょう。
近づくので狂気耐性と精神抵抗は使います。
貴女はリンドーの事を慕っているようですが、あの男…失礼、彼は貴女から見てどのような男性なのでしょうか。
それは私にとってのあの方の様な物なのか、少し気になります

▼√EDEN:秋葉原ダイビル近く

 カン、と軽い音が鳴った直後。降ってきたのは大量のビリヤードボールだった。
 まるで雨霰のように降り注ぐビリヤードボール。腕をひさしにして防ぎながら、カフェスペースのテラス席に立っていたリンゼイは攻撃の元凶たるセシリア・ナインボール(羅紗のビリヤードプレイヤー・h08849)を睨めつける。

「随分な挨拶ですね、√能力者」
「ビリヤードプレイヤーなものでして。まずは自己紹介を兼ねて」
「結構です。……お引き取りを」
「残念ですけど、そうもいかないんですよ。――連邦怪異収容局。リンドー配下。そしてその自殺衝動の異能。止めなくてはいけない理由が尽きませんね」
「……そうですか。では、キューを頭に突き刺して死ぬのはいかがでしょう?」

 冷たく言い放たれたリンゼイの言葉を聞いた瞬間、セシリアの握っていたキューの先端が本人の意思とは関わりなく自分の顎へと向けられる。吐き気を催すような自殺衝動を宿したキューを、セシリアは顔を逸らすことで先端から逃れる。
 安堵の溜め息をつきながら、彼女はずれてしまったショールを正す。

「ふぅ、危ないですね……。これでもかなり備えていたと思っていたのですが」
「これで済むとでも? 先輩を敵視している人は、ここで始末します」

 物理的な重圧さえ放って遅いかかる自殺衝動。セシリアの影からシチリア島の小さな怪異たちが現れ、彼女の壁となって精神汚染を防ぐ。

「随分とあの男……いえ、失礼。リンドーのことを慕っているようですね」
「…………」
「ふふ、わかりますよ。私にも慕ってくれる後輩がいますし、私自身も慕う人がいる身ですから」
「私は――そんなのじゃない!」
「あら、“そんなの”とは?」

 言葉に詰まるリンゼイを見て、セシリアは吐息する。慕う人への感情が自分と同質なのかもしれないとも考えたが、どうやら振り切れたものではないらしい。

「あら、今の|質問《ボール》は|難しかった《トラブルだった》かしら?」

 抵抗の限界に達したらしい、悲鳴を上げて戻ってきたシチリアン・リトル・ファントムを迎えると、セシリアは空中に浮かべた魔術文字目掛けてキューを走らせる。コン、と軽い音と共に文字はビリヤードボールへ変化し、ビリヤードボールは数百へと分裂する。

「もうしばらく付き合ってもらいますよ、リンゼイ・ガーランド。|ナインボール《おわり》まではまだ長いんですから」
🔵​🔵​🔴​ 成功

イリス・ローラ


「この能力が彼女に通用するかは分からないけど、やってみるしかないかな」と言いながら、秋葉原ダイビングビルの中を移動しています。
事前に技能の催眠術による自己暗示を用いて、彼女と遭遇するまでに自殺は行わないように自分の行動を縛っています。

リンゼイ・ガーランドと遭遇したら、すぐに√能力の支配による最終顕現を使用します。
支配の魔力で支配下に置いたインビジブルの群れに自分を喰わせて、「魔術修行の一環で苦痛に耐える訓練は受けているけど、やっぱり慣れないね」と言いながら死亡して、無敵獣を出現させます。
無敵獣が出現した時点で死亡しているので、後は出現した無敵獣に任せます。

▼√EDEN:秋葉原ダイビル近く

 ――支配魔術を使うには、誰かがいなければいけない。
 イリス・ローラ(支配魔術士見習い・h08895)が生前の養父から教わった支配魔術の基礎がそれだった。
 支配とは関係性であり、ゆえに他者が存在する必要がある。言われてみれば当たり前の話で、初めて聞いた時は何を説明したかったのか、幼い彼女にはよくわかっていなかった。

「そういうことかぁ……」

 ダイビル一階。カフェスペースのテラス席に座るリンゼイを見やりながら、イリスは納得したように苦笑する。彼女の周囲には人っ子一人、動物の気配すらない。自殺衝動の異能『ヴァージン・スーサイズ』は、自分以外の存在を認めないのだから。
 操る対象がいなければ支配魔術はその価値の大半を失ってしまう。仮にどこからか調達したとて、かの異能を乗り越えて有効打を与えられるかはまた別の問題だ。
 支配のイリスと拒絶のリンゼイ。奇しくも二人は正反対の志向性を持ち、ゆえに最悪の相性となっていた。

「……この能力が彼女に通用するかは分からないけど、やってみるしかないかな」

 いくらかの迷いを含んだ声音だったが、イリスは決意したように目を閉じる。
 支配魔術と言っても、その対象は多岐にわたる。動物はもちろん、魔力などのエネルギーや概念的なものに至るまで“支配”は行き届く。
 たとえば、“自己の支配”などは彼女にとってお手の物だった。

「…………」

 催眠術による自己暗示で自分の行動を縛る。自殺衝動への対策だった。
 虚ろな表情でリンゼイの元へとイリスが歩み寄る。彼女の歩んだ後は大気が――否、どこからともなく集まってきた、無数のインビジブルたちがざわめいていた。

「――支配の魔力に従い、私を喰らって顕現せよ」

 支配の魔力に惹き寄せられたインビジブルたちが、一斉にイリスへと群がる。皮を剥いで肉に食らいつき、骨を砕く。

「ああ……」

 呻くような声。彼女とて魔術修行の一環として苦痛に耐える訓練は受けるものの、やはり死に至る痛みは慣れることがない。

「けど……自分の手で死ぬよりは……ぜんぜん、いい……よね……」

 絶命するイリスを食らったインビジブルの群れが集まり、一つの形を成していく。
 イリス・キマイラ。顕現した一匹の獣は、破滅の業火と共に主なき戦いを始めるのだった――。
🔵​🔵​🔴​ 成功

斎川・維月
事実としてリンゼイさんは一人じゃないと思いますよ。

だって好きな人が居るんでしょ?
伝えなくたって良いですよ。ただその人の事を想えるなら、一人じゃ無いですし。ちゃんと人間です。怪異上がりのボクがそう言うんだから間違いないでーすよー

人を死なせてしまうのは嫌ですか?
それとも平気だって事にしなきゃ駄目?
どっちも分かりますよ。ボクも丸きりその有様ですから。平気ですって笑います。

比較は無意味です。けれど共感は出来ます。ある程度なら気持ちだって分かると思います。
ねえ、戦いながらで良いですから。もっと話しましょうリンゼイさん。
貴女がボクを好いてくれるかは貴女の自由ですけど。
ボクは、貴女の事、とっても好きですよ。

▼√EDEN:秋葉原ダイビル近く

 秋葉原ダイビル一階。カフェスペースのテラス席にリンゼイは座っていた。
 周囲に人はいない。いや、存在できない。彼女の持つ自殺衝動の異能、『ヴァージン・スーサイズ』が他者の存在を許さないからだ。
 自殺衝動の異能を掻い潜るにはいくつかの方法がある。実際、何人もの√能力者たちが説得するため、戦うために対策を講じて彼女に接近していった。

「はいはいはーい! どーもどーも、可愛いイツキちゃんでーすよー!」

 だが、|斎川《さいかわ》・|維月《いつき》(幸せなのが義務なんです・h00529)のように、普段通りの様子で満面の笑顔さえ浮かべながら歩み寄って行った者は、まだいなかった。
 当惑したような様子のリンゼイを放って、イツキは彼女の座るテラス席に相席する。

「待った? 待ってない? こういう時って『今来たところだよ』って言うんでしたっけ? あ、っていうか今来たのはイツキちゃんの方でしたねー! あっははー☆ ちなみにリンゼイさんって言われた経験あります? リンドーさんとかそーゆーセリフ似合いそうですよねー!」
「ま、待って……そうやって言葉のシャワーをわっと浴びせないで……」

 当たり前のように相席して、当たり前のようにマシンガントークを連発する。あまりの距離感のバグりようにリンゼイは眉間を指で押してから維月へ向き直った。

「……あなた、効いてないんですか……?」
「効いてないって、『ヴァージン・スーサイズ』ですか? 安心してください、ちゃんと効いてますよ! 多分☆」
「最後の一言で一気に不安になりました。……なら、どうしてまだ死んでないんですか」
「それはですねー、ボクが可愛いから☆ ――あっ、ごめんなさい席を立たないで! ちゃんと真面目に答えますから! ね! 今回はお話に来たんですよぅ! ほら、座って座って!」

 立ち上がりかけたリンゼイを再び席に座らせてから、えへんおほんと演技っぽく咳払いを挟んで維月は話し始めた。

「イツキちゃんはですね、幸せなのが義務なんです☆ 幸せじゃないと周りの人が死んじゃうので!」
「それって……」
「はい! |縊鬼《クビレオニ》って言って、ちょっと制御できる点以外はリンゼイさんの『ヴァージン・スーサイズ』と大体同じですね! 幸せじゃなくなると周りの人が死んじゃうヤツです!」
「…………」

 自分と同じ人間災厄。自分と同じ異能。
 それなのに自由に出歩き、能力を御し、幸せそうに笑ってみせる維月を見たリンゼイの表情は、複雑なものだった。

「なんで、って思ってます?」
「……そりゃあ、思いますよ。同じ異能を持った人間災厄なのに、どうしてこうも違うんだろうって……」
「理由なんてありませんよ、リンゼイさん。その比較に意味はないんです。イツキちゃんは可愛い系で、リンゼイさんはクール系! 比べたってどっちも素敵なことに変わりはないですよね? そーゆーことです☆」

 いえい、と決めポーズをする維月を見て、リンゼイはふっと笑った。

「ふふっ……そうなのかもしれませんね。なんだかあなたを見ていると、悩むのが馬鹿らしいように思えてきました」
「リンゼイさんもようやくボクの可愛さを認めてくれたようですね! イツキちゃんの可愛さはまだ万病には効かないですけど、そのうち効くようになりますから!」
「そうですね。……孤独という不治の病には効いてくれそうです」
「何言ってるんですかー、リンゼイさん! 元からリンゼイさんは一人じゃないと思いますよ?」

 首を傾げるリンゼイへ、維月は「だって」と言葉を繋ぐ。

「好きな人、いるんでしょ? 伝えてなくても、ただその人の事を想えるなら一人じゃ無いですし、ちゃんと人間です。怪異上がりのボクがそう言うんだから間違いないでーすよー!」
「……残念ですね。本当に残念です。あなたとはもっと、別の形で出会いたかったです」
「立場的には敵同士ですからねー。本当ならたくさん人殺さなきゃいけない系のお仕事があったりするんですよね?」
「概ねそうですね。……それが私の異能で、私の任務ですから」
「それを止めるのがボクの使命です!」

 よいしょ、と立ち上がった維月は|大槌《マロットマレット》を持ち上げる。それに続いて、少しだけ寂しそうな笑みを浮かべながらリンゼイも立ち上がった。

「ねえ、戦いながらで良いですから。もっと話しましょうよ、リンゼイさん」
「素敵な提案ですね。……なるべく、長く死なないでくださいよ」
「あはっ☆」

 笑みの裏で、維月はふと立ち止まる。
 話している間中、ずっと感じていた自殺衝動が消えていた。

「リンゼイさん、ボクも貴女のこと、とっても好きですよ」
🔵​🔵​🔵​ 大成功

深雪・モルゲンシュテルン
殺人に特化した人間災厄を√EDENに送り込むことを指示するあたり、√汎神解剖機関のアメリカ合衆国大統領はかなり危険な人物のようですね
絶大な影響力を持つ国家のトップが、思い付きで大量の死者を出しかねない判断を下すのは控えてほしいものです

リンゼイさんにとっても、命令されるままに多くの死者を出すことは本意ではないでしょう
遠距離からの攻撃を徹底しながら迅速な決着を目指します

《対WZマルチライフル》を『電極針弾投射形態』に変形
狙撃スコープ越しに、人間災厄として恒常的に発動している能力が影響しない距離から敵を視認して、麻痺効果を持つ弾丸を撃ち込みます

麻痺の隙に畳み掛けるため『殲滅兵装形態』を起動
引き続き私自身はリンゼイさんと距離を取ったまま、六基の『従霊』から[レーザー射撃]の集中砲火を浴びせます

空間引き寄せ攻撃がこの距離まで届くなら、[空中ダッシュ]で回避か素早い離脱を試みましょう

リンゼイさんが自由になれる日は、果たして来るのでしょうか?
大統領を討てば……いえ、世界がそれを赦さないかもしれませんね

▼√EDEN:秋葉原ダイビル近く

 市街地戦は好ましくない。
 |深雪《ミユキ》・モルゲンシュテルン(明星、白く燃えて・h02863)に限らず、多くの戦闘員は好まない。

「……なるべく、犠牲を出さないようにしないと」

 対WZマルチライフルを狙撃用実弾形態に変形させながら深雪は自分に言い聞かせるように呟く。
 市街地戦は戦闘員にせよ民間人にせよ、とにかく犠牲が出やすい。避難が済んでいない今の秋葉原であれば言うまでもないだろう。天災の如き異能を宿したリンゼイがそこを闊歩しようと言うのだから、出来の悪い悪夢のような話である。

「√汎神解剖機関のアメリカ合衆国大統領はかなり危険な人物のようですね……」

 人間災厄も種類は多岐にわたるが、中でも殺人に特化した異能を秘めたリンゼイを絶大な影響力を持つとされる国家のトップが送り込んでくるのは、彼女としても看過できなかった。
 超高倍率スコープを覗き込むと、狙撃対象はすぐに見つかった。一階のカフェスペース、テラス席。まるで人気のないそこで、茶を飲むでもなくただ席に座っている。
 遠距離狙撃に対してあまりにも無防備。一瞬、深雪は何かしらの対策を講じているのではないかと疑ったが、リンゼイの穏やかな表情を見てすぐにその考えを打ち消した。

「……“外”に出られて、うれしいのですね」

 人間災厄として封印指定されていたリンゼイを、サイボーグ化手術を受けた後の自分に重ねてしまう。
 ずっと施設の中にいた。外に出ることは許されなかった。やりたいことは大きく制限された。話に聞いた行きたい場所も見たい景色も、味わいたい食べ物も、壁の内側では届かなかった。
 マルチライフルを握る手が震えていた。ぎゅっと体に押し込めるようにして銃身を支え、安定化させる。

「……大統領を、討てば……」

 あるいは、リンゼイも自由になれるのだろうか。
 そんな疑問がふと口をつく。人間災厄とは言っても、命令されるままに死者を出すことを本意としているわけではないように思えた。それなら、解放するために|大統領《アタマ》を潰せば――そんな思考が脳裏をよぎって、すぐに打ち消した。頭をすげ替えたところで変わらない。国家の利益に関わる問題である以上は、世界がそれを咎めるだろう。

「…………電極針弾モジュール、接続。|殲滅兵装《アナイアレイターモジュール》展開完了。『|従霊《フュルギャ》』各機へ。動作チェックの後、待機モードへ以降」

 広範囲に及ぶ『ヴァージン・スーサイズ』でさえも届かない超長距離。ビルの間隙を縫うような一本の殺意の|射線《いと》を一直線に通す。

「――発射!」

 銃声と共に電極針弾が放たれる。自転速度さえ計算式に入った高精度は過たずリンゼイの体へと命中し、紫電を散らしながら彼女はカフェテーブルの下に転がった。
 胸に抱く憐憫はあれど、他の√能力者たちのようにリンゼイへかける言葉は無い。

「……せめて、迅速な決着を」

 それだけを願って、深雪は砲撃命令を下す。
 叫び声は聞こえない。六基の火砲から放たれた轟音が、遠く離れた彼我の距離が遮ってしまうから。

「……さようなら、リンゼイさん」

 詰まるような喉の奥から、それだけを言い残して。深雪はその場から離れていった。
 今はとにかく、会いたい人の場所に行って、自分が一人ではないと思いたかった。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

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挿絵イラスト