シナリオ

⚡️涙雨の葬列

#√妖怪百鬼夜行 #紅涙流離戦

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⚡️大規模シナリオ『紅涙流離戦』

これは大規模シナリオです。1章では、ページ右上の 一言雑談で作戦を相談しよう!
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(毎日16時更新)

 春に降る雨は冷たく頬をうつ。
「此処は、何処だろう……」
 見渡す限りに続く千本鳥居。見覚えのない場所に女は首を傾げて立ち止まった。
「私は、とにかく走っていて……それから、どうしたんだっけ?」
 女は此処に至るまでの記憶を辿る。
 いつものように仕事を終えて、恋人の待つ家へと帰ったはずだ。
 其処で、見てしまったのだ――恋人が、見知らぬ狐のような女と仲睦まじく過ごして居る様子を。
 誤解だと騒ぐ男の声を無視してひたすらに走っているうちに天気雨が降ってきた。
 天気雨は狐の嫁入りの証なのだという。だとしたら、狐のようなあの女にお似合いなのかもしれない。
「私の存在って、いったいなんだったんだろう――消えちゃいたいな」
 なんとなくこの千本鳥居を抜ければ、この世界から消えてしまえる気がした。
 空白の心に雨が刺す。雨に導かれるまま黄泉への旅路を逝く。


「√妖怪百鬼夜行がどうやら騒がしいみたいだね」
 集まったEDEN達の表情を眺めて八代・霖(天泣・h01795)は今回の依頼もそれ絡みだよと静かに呟いた。
「天気雨の黄昏にだけ現れる森がある。その森を抜けると千本鳥居の不思議空間に出るんだ」
 見渡す限りひたすらに千本鳥居が並んでいて、足元も|脛《すね》あたりまでの浅い清水に満たされている。
 黄昏に照らされた千本鳥居は何よりも朱くて幻想的な光景ではある。
 だけれど、心を蝕み希死をもたらす天気雨が空から無情に降りしきっているのだという。
「例えばさ、誰にも知られずに消えちゃいたいって思ったことはない? この世界から居なくなってしまいたいって――そう思ったことがある人だけが森を抜けて千本鳥居に辿り着けるんだって……ううん、辿り着くというよりも迷い込んでしまうと言った方が適切かな?」
 例えばそれは心に大きな傷を残した過去の出来事なのかもしれない。
 穴があったら埋まりたいと口に出して言えてしまうくらいの、ささやかな失敗なのかもしれない。
 斯様な人の心の隙間に雨は降る。心に少しだけでも消失願望を抱えている人々に降り注いで、希死念慮をもたらすのだ。
「天気雨にあたると辛い気持ちを掘り起こされるような辛い幻影を見せられると思う。だから、傘をさして行くことをお勧めするけど。雨にあたるという選択肢をとるのならば、僕は止めない。それが君の選んだ選択肢ならばね――だけど、決して雨に流されて呑まれてしまわないように気をつけて」
 霖は四葩色の双眸でじっとEDEN達をみつめた。

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第1章 冒険 『雨月語り』


 眩い斜陽が黄昏の空を焦がしている。
 何処までも続く朱い千本鳥居。脛まで満ちる清水。頬を打つのは厭に冷たい天気雨。
 何もかもが赤い、紅い、燃え盛るように死の気配を漂わせる世界の中に佇んでいた。
 この道を逝けば救われる。あなたの|希死《ねがい》を叶えられる。
 さぁ、こっちへおいで。君は救われるべきだ。そして、この世界から消えてしまっても良い。
 ――優しく手招く|希死《ねがい》の雨が、降りしきっている。
白・とわ


 燃え焦げる夕陽は夜を連れてくる。
 黄昏時は逢魔ヶ刻とも云うらしい。
 もし、この黄昏が何かに逢わせてくれるならば己の心の裡に在るかもしれない、|希死《ねがい》や|消失《のぞみ》を見せてくれるのだろうか。
 さしかけた傘からそっと手を伸ばし雨雫を受け止めるれば、誰ソ彼の風にのって懐かしい気配が紅の世界に満ちた。
「慈海」
 眼前に佇む男の名を白・とわ(白比丘尼・h02033)はそっと呼んだ。
 されど、その視線が己を見ることはない。唇とて、静かに結ばれたまま――無のまま佇んでいる。
「――慈海」
 哀願をこめて名を呼んだ。還る声はやはりない。
「何故、幼い頃のように笑ってくれないの?」
 贄として海に沈み、神として陸にあがった。
 海とともに生き、海に希った国の者たちはみな歓喜の声をあげた。
 されど、その笑顔の中に――弟の姿はなかった。
「とわは、ただ、あなたの|笑顔《かお》を――」
 紡ぐ言葉の続きが見当たらない。だって、この言葉だって、感情だって教えてくれたのは弟だったのだ。
 弟から与えてもらったにすぎない|想い《もの》で、彼の心を解きほぐす術など持っているはずがなかった。
(あなただけが、――)
 とわと名付けられた存在は、神の器となる天命を背負って生まれた。
 器に心など在ってはならない。ゆえに、器に言葉は与えられなかった。
 よけいな想いが生まれぬように、己に接する者はみな、顔を布で覆い隠していた。
 そうして、何も知らぬまま、空っぽの器は海に沈められるはずだった。
 だけれど、ひとりだけ――弟だけは違った。
 |感情《こころ》を知らぬ|器《とわ》に笑いかけ、こころを教えてくれた。
 |記憶《おもいで》を知らぬ|器《とわ》に物語を聴かせ、言葉を教えてくれた。
 ことばも、こころも――ぜんぶ、あなたに教えてもらったもの。
 あなたがいたから、何もなかったうつろの心にぬくもりを灯すことができた。
 そうして、心を知ることができて、返す言葉もようやく手にいれたというのに。
「お願い、とわを拒まないで」
 彼から与えてもらった|言葉《こえ》で、生まれた|感情《こころ》を口にする。
 たったひとつの、ささやかな願いごとでさえ天には届かない。
 何が神だ。恵みだ――みなが望む海の底は、ただ冷たいだけで何もないのに。
「あなたに否定されたら、とわは人ではなくなってしまう」
 燃え焦げるように赤い黄昏の中で、弟はただ佇んでいる。
 月のようにただ、其処に在るだけで切願するとわの想いなど、まるで知らぬかのように。

天使・夜宵


 冷たい雨が身を苛むように打ち付ける。
「ああ……」
 はてしなく続く赫の光景。天使・夜宵(残煙・h06264)は光を忘れて久しい紫眸を揺らがせた。
 赤い、紅い、死の気配に満ちた空間は裡に秘めた|希死《ねがい》を呼び起こさせる。
(……あの日も、こういう感じだった)
 思い出すのは過去の残影。√能力に目覚めた|あの日《・・・》のことだ。
 あかい光景の中で、愛情を余すことなく受けた|バケモノ《あいつ》だけが笑っていた。
「あはは、無理無理。兄貴には、オレを捕まえられないさ!」
 弄ぶようにいつもと変わらない様子で笑んだあいつに、自分は為す術もなくやられたのだ。
 ただ、死を受け入れるしかないか――そう、諦観するしかなかった。
 己の人生は、一体何だったのだろう。何の意味があったのだろう。
 何処まで壊されれば済むのか。何処まで踏みにじられれば良いのか。何処まで奪われれば終わるのだろうか。
 此処まで痛めつけるなら、いっそ、一思いに殺して欲しかった――なんて、思わないわけでもなかった。
「過ぎらないわけじゃねぇ……」
 忘れられるはずがない。忘れようとしても過去は何処までも追いかけてくる。
 まるで、背を向けても何処までも追いかけてくる太陽のようだ。
 屈託もなく、悪気もなく、隠そうとしたものを無遠慮に暴いてくる破滅の|陽光《ひかり》。
 だが、今は逃げるだけではない。一方的に太陽に灼かれるだけだった己でも、少しは変われたのだ。
 消えたかった――そんな自分は、もういない。

 ――コッチにおいでよ。

 長年嫌という程に聞き慣れた囁き声は、今日も夜宵を追い詰める。
 夜闇を照らす太陽のような弟。人懐っこくて、屈託のない明るい声でいつも自分の世界を破壊する。
 逃れられない運命なのだろう。だが、もう逃れるつもりもない。
(……ソッチに行く時は、テメェが逝く事になるがな)
 内心で強く言い放ち、進み始めた夜宵の歩みにもう迷いはなかった。
 自分の最期を迎える場所はこんな場所ではない。帰る場所がある。待っている人がいる。その為に、こんな|幻影《うそ》に惑わされている場合ではない。
 誰かほど器用に生きられないし、誰かほど愛嬌を持っているわけでもない。
 だが、不器用は不器用なりに不器用に生きていくと決めたのだ。
 だから、立ち止まらない――往くべき場所に、往くために。

システィア・エレノイア
クラウス・イーザリー


 燃え尽きる間際の太陽が黄昏の空を赤く焦がしている。
 全てが赤い世界だった。何処までも赤く果てがない世界の中でクラウス・イーザリー(太陽を想う月・h05015)は、幻想的な光景に導かれるように足を踏み出す。
 見知らぬ幻想的な光景だ。それでも、見知った赤色がその先で待っている――確信めいた感情はクラウスの歩みを先へ先へと進ませる。
 唐紅に焦げた空からが泣き出すように天気雨を降らせている。クラウスは己が濡れるのも関わらずに
「ぁ……?」
 クラウスの頬に雫が伝う。それは、天から注ぐ雫か、それとも心から溢れ出す雫か。
 だが、どちらでもよい。どちらであろうと些末な問題でしかないのだから。
『クラウス』
 黄昏から現れたその姿にクラウスは小さく息を呑み込んだ。
 燃え尽きるように赤い夕焼けを背にして、|親友《Anker》が己へと手を差し出していた。
 逆光になって表情はよく見えない。それでも、眩しいくらいに赤い双眸だけは力強く燦めいていて、その輝きはあの日と同じように優しく強いままだった。
「――――、」
 からからに乾いた唇が、彼の名を呼ぶために動いた。
 まるで一緒に飯を食いに行こうだなんて誘うくらいに気楽に差し伸べられた手の先が導く先は――|向こう側《あの世》だろう。
『な、一緒に死のう。クラウスをひとりにはしておけない』
 手が、声が、彼の姿が、クラウスを誘う。それら全てがまるで枷を外していくかのように、胸の奥に押し込んで隠した希死念慮をこじ開ける。
「俺、も……、」
 ふらふらと伸ばした手が彼の手を目掛けて伸ばされる。
 クラウスの心にはいつも大きな穴が開いていた。罪悪と寂寞。置いて逝かれて寂しかった――だけど、一緒なら、寂しくないよな。
 あと数センチ。後数歩。ようやく救われる。安堵に包まれながら手がふれる直前、誰かのぬくもりが己を包んだ。
「行かないで」
 耳元で囁く声は、痛みを必死で堪えるように震えていた。
 ぬくもりと声がクラウスの|希死《ねがい》に澱んだ意識をを急速に拾い上げてゆく。
「ぁ……?」
  我に返ったクラウスは、ようやく自分がシスティア・エレノイア(幻月・h10223)に抱き締められていることに気が付いた。
 責め立てるようにクラウスを希死へと誘っていた雨は、システィアが差し掛けた傘が防いでいる。
 雨に暈かされることを止めた心に安堵のような落胆のような複雑な色彩の感情が込み上げてきて、クラウスは双眸を閉じた。
「きみはそういう人だから、でも」
 システィアは解っていたのだ。クラウスは死にたいと願う心を手放しきれないだろう、と。
 ゆえにクラウスが虚空へ手を伸ばした時、きっと|呼ばれて《・・・・》しまったのだろうなと察しがついた。
「彼は、クラウスを守ったんじゃないの? ……きみが死んだら、誰が彼との思い出を守るの」
 システィアは本当の親友を知らない。過去の幻影として、クラウスの心を繋ぎ止めている彼のことを、知らない。
 だけど、連れて逝こうとするような人では決してないはずだ。
 想いは容易に蹂躙されて絶望に満ちた世界でも希望でありつづけた彼が、親友の死を願う者では決してなかったはずだ。
「……そう、だね。ごめん」
 クラウスは弱々しく答える。守った、生きることを願った――それは、クラウス自身が何よりも理解している。
 抱くシスティアの身体が僅かに震える。
(ひとりぼっちにしないで、追いかけるなら先に俺を殺して、置いて逝くなら――人知れずひとりで死んで後を追いたい)
 でも、そんなことを今は伝えられなかった。伝えたかった感情は心の中で絡み合って、胸を苛む。
 それでも今手放したら、クラウスが何処かに行ってしまいそうな気がしてシスティアは彼が落ち着くまで抱き続けた。
 システィアのぬくもりを全身で感じながら、クラウスは瞳を閉じる。
「言うとおりだ。わかってる……わかっては、いるんだ」
 赤い夕陽は、突き刺すように輝き続けている。

鸞奇・檸檬


 今にも燃え尽きそうな斜陽が空を紅色に焦がしている。
「えっ? 雨降ってんのに傘ささない馬鹿いる?」
 水面と心に波紋を広げる天気雨。鸞奇・檸檬 (誰も救えないヤブ医者・h03905)のぼやきはもっともだ。
 こちとらこんなものがなくても万年希死念慮、消失願望に罹患し寛解の兆候もない厄介な症状にうんざりとしているのに。
 いまさら態々避けられる苦しみを背負う必要もない。ゆえに、ちゃっちゃと傘の下で楽に抜けさせてもら――。
「……壊れたんだが?!」
 傘を広げた瞬間に風もろくに吹いていないのに何故壊れた。この傘買ったばかりの傘なのに。
 嗚呼、コンビニで適当に買ったビニール傘だからか。こんなすぐに壊れる不良品を売ってる奴らに文句のひとつでも言ってやりたい気持ちだ。
 でもこういった場合文句って何処に言えばいいのだろう。
 売っていたコンビニか? それとも、製造したメーカーか? でも、高々コンビニのビニール傘の製造メーカーなんて知りやしない。
 コンビニの店員に文句を言おうにも、片言の日本語で懸命に働く深夜バイトの外国人の顔を思い浮かべて気が退けた。
「……チッ……クソッ」
 檸檬は舌打ちしながらいつものようにリキッドを加熱式にセットしようとした――なのに、その手が震えた。
「あぁ、クソックソックソッ!」
 悪態が滝のように口から出る。
「いつ! どうして! 俺はEDENなんかになったんだ! 死にたくても! 何回自殺しても! 死ねねぇじゃねぇか!」
 かつて数多の王が求めた不死を望まずとも得られてしまった。
 祝福だと羨む者もいるかもしれない。だが、これは|呪詛《のろい》でしかない。
 何もかも投げ捨てて、腕に刻むカッターによる切り傷の数が増えても何にも晴れない。
 否、晴れというものがわからない。
 母に捨てられ、学校では虐められ、何処にも居場所がなくて行き着いた界隈。
 同じ傷を抱える彼らと得られたのはただの安心で、救いなどではない。
 生まれていいことなんてひとつもなかった。これまでも、これからも。
 どうして生まれてしまった。どうして産んだのだ。
「あぁ……もう、立ってる気力もねぇわ」
 ぼんやりと紅色の空を見上げ眺める。容赦無く振り付ける希死の雨が目に入り染みるのも、もう、気にする余裕もない。
 死にたい。死にたい――嗚呼、誰か、救ってくれよ。
 ぼやきも嘆きも誰にも届くこともなく、ただ雨が降っている。

神隠祇・境華


 斜陽に焼け焦げた空がまるで血のような紅色をみせている。
 何処までも果てなく続く赤の世界の先を、神隠祇・境華 (金瞳の御伽守・h10121)は金色の双眸で見つめた。
 降りしきる天気雨が水面に波紋を広げてゆく。
(傘は差しません――この雨が何を見せるのか、きちんと知っておきたいと思うので)
 何処か覚悟を決めた表情で進み出せば、無情な程に冷たい足元の水と頬を涙のようにしたたる天気雨が境華に|虚構《まやかし》を見せる。
 まぼろしが映し出すのは、何も変わらない――境華がよく知る日常だ。
 よく見知った顔の人々が、よく見知った仕草で日常を過ごしている。
 よく聞いた声で互いの名を呼んで、他愛のない会話に花を咲かせている。
 欠伸が出る程に平和で、退屈で、何よりも愛おしい光景。
 だけれど、ただひとつ――自分だけが、その光景の中にいなかった。
(やはり、この光景でしたか――)
 己が居ない世界の光景を、境華はまるで絵物語を眺めるかのように見ていた。
 誰かの|人生《物語》が、美しく、正しく綴られ綴じられてゆく。
 境華がいなくとも世界は廻る。むしろ、境華がいない方が世界はより美しく物語が紡がれてゆく。
 そう、必要がない存在なのだ。居なくとも何も変わらない。手を伸ばそうと何も変えられない。
 否、変える必要もない。
 此処で終わるのも悪くない。否、それが正しい姿なのだと以前の自分であれば思わされていたかもしれない。
 綴る頁の終端。此処で結末を迎えるのも完成なのだと)
(ですが、今は……少しだけ違うのです)
 かつて空白だった金眸は様々なものを見て、出逢い、様々な物語に触れてきた。
 世界という大きな物語。その中で紡がれていく自分の物語――いまは、そのつづきを自分で紡ぎたいと想う気持ちがある。
 誰かの筆により与え紡がれる物語ではなく、己の手で紡ぎ、頁を捲りたい。そんな物語の続きを見るために、もう立ち止まるという選択肢はないのだ。
 だから、どのような幻影を見せられようと境華の歩みにもう迷いはなかった。
 そうして歩き続けた黄昏の中で立ち尽くすひとりの男を見つけた。
 人生に絶望し、ただ希死の雨にうたれて終わる時を待つだけの様子の男になんて声をかけようかとしばし思案した境華は口を開く。

「そんなところで終わるなんて、勿体ないですよ――あなたの物語も、ずっと先まで続いていくのですから」

ゾーイ・コールドムーン


 消えてしまいたいと思わなかった――なんて、きれいごとは言えない。
 この世界で存在していくということは、どうしても苦難が伴う。
 だけれど、自分が消えることを望まない人がいる。少なくても|いた《・・》と間違いなく言える。
(――だから、此処で雨に呑まれたりしないよ)
 傘をさして、ゾーイ・コールドムーン(黄金の災厄・h01339)は千本鳥居を歩く。
 予備に持ち込んだ傘は、誰かの為に差し掛けるために用意した。
 一本道だから捜索には苦労しない。ただ、このただひたすらに赤い道を進んでゆけば辿り着けるのだから。
 本当は斯様な場所に迷い込むものが居ない方がよいのかもしれない。
 だけれど、残念なことに世界はそう都合良くはできていないから仕方があるまい。
 千本鳥居を何本潜り、|希死《ねがい》の雨を幾度退けたころだろうか。
 眼前にいたずらに雨に濡らされて、ただ呆然と立ち尽くしている女がいた。年の頃はおよそ20過ぎ頃か。
 華やかな容姿に似合わぬ陰気臭さを漂わせて、生きることを諦観している――そのように、見えた。
「大丈夫かい?」
 ゾーイは声をかけながら彼女に傘を差し掛ける。
 急に止んだ雨に女は驚きながら、振り返り、ゾーイの姿を見て呆然と呟いた。
「あ、あなた……」
「何か?」
「ああ、いえ……すみません。知り合いに似ていたもので」
 俯く少女。彼女がゾーイの顔を見て誰を思いだしたのか解らぬが、彼女が此処に足を向けてしまった切っ掛けにもなってしまったのかもしれない。
 だが、少しでも気持ちが晴れるのならば僥倖だ。
「もう大丈夫だから」
 ゾーイは言葉を紡ぎながら忘れようとする力を使用する。彼女の辛苦も降りやまぬ雨も終わりますようにと願いを込めて。
 少しずつ彼女の顔色に生気が戻ってゆくのを確認してからゾーイは持っていた傘を彼女に手渡した。
「さ、帰るのは彼方だよ。もう迷わず、真っ直ぐに進むんだ」
「は、はい!」
 ゾーイに促された彼女は、進もうとしていた方向とは逆の方向へと歩いていく。
 その足取りはまだ弱いながらも、しっかりと進もうとしている。
 彼女の背を見送りながらゾーイが溜息をつけば、彼女とのやり取りの最中で雨に濡れてしまったのか過去の幻影が一瞬脳裏を過ぎった。
 其れは、かつて守れず希われてこの手で殺した、あの子の姿。
(でも、きみが生きるよう願った。おれも誓った。だから、自分から消えたりはしない、絶対に)
 夕映えは、赤く燃え盛るように空を焦がしていた。

ルカ・ルチア


 燃えるように赤い千本鳥居の中をルカ・ルチア(プラチナファントム・h12654)は歩く。
 歩を進めれば水が鳴る。揺らぐ水面に映る鳥居と夕焼けも揺らめいて、そのさまがあの日の燃え盛る森の道によく似ていた。
「いやだな」
 ぽつりとルカは黄昏に呟いた。
 傘を握る手に力が籠もる。
 雨が掛かってしまわぬように、膝下へかかる雨も見ないように――されど、心掛ければ心掛けるほどに感情は過去へと引き摺り込まれてゆく。
 消えてしまいたいと思ったことがないのかと問われれば、今この場に居ることがこたえになる。
 こころの中には、いつも懐かしい緑が広がっている。風がふく度に木々の葉擦れの音が子守歌のように広がった。
 おだやかで、満たされた、ありふれた愛しい日々。でも、そのおだやかな緑の光景が突然炎の赤色に変わった。
 目の前で焼け崩れていく懐かしい家。
(おれもあの時、みんなと一緒に燃えてしまいたかったと――思わない日なんて、ない)
 たったひとりだけ、残されてしまった世界。
 あの日、焼け落ちていく家の中からきこえた自分を呼ぶ家族の誰かの声を思う度に、より消えたい気持ちは輪郭をはっきりとさせていくようで。
(それから……)
 だけれど、其処まで考えたところでルカは静かに首を振った。
「……わかってるから、まだ、行けないよ」
 静かに、自分に言い聞かせるように呟いて、改めて進む決意をしたルカの耳が拾い上げたのは少女の泣きじゃくる声だった。
 少しだけ歩調を早めて先を進めば、天気雨にうたれてびしょ濡れになった幼い少女がしゃがみ込んでいるのが見えた。
「ひっく……ひっく……お父さん、お母さん、どうしてわたしをおいて死んじゃったの」
 嘆く少女の声に、いつかの記憶が重なる。
 彼女も家族を失ったのだろうか。喪失の痛みは理解ができるからこそ、ルカは自分の傘を半分差し掛けて彼女に降り注ぐ雨から護った。
「あなたはまだ向こうへ行くべきじゃないよ。そのねがいは間違っているとは言わないけど」
 傘を差し掛けられたことで急に止んだ雨とかけられた声に少女が驚いたように振り返る。
 大きな少女の瞳には、雨粒よりもずっと大きな涙が滲んでいた。
 ルカは傘を握るのとは逆の手でハンカチを取りだして、少女へと差し出す。
「――きっと、まだあなたを救わない」
 少女に半分傘をさしかけたことで、ルカの肩には天気雨が容赦無くうちつける。でも、この|傘《おもい》で誰かを護ることができるなら、今はそれで構わない。
 どうか、彼女が向こう側へと進んでしまわぬように――ルカは言葉を紡ぎ、想いを伝えた。

雨夜・氷月
夜鷹・芥


 燃え尽きる間際の斜陽が世界を赤色に焦がしている。
「傘無しで良かったの? 芥」
「傘で防ぐにはもう、今更なんだよな」
 雨夜・氷月(壊月・h00493)が並び歩く夜鷹・芥 (stray・h00864)に訊ねれば、彼は金眸を赤く燃え盛る空へと向けた。
 傘とは、濡れるのを防ぐために差すものものである。既にこの身がじっとりと濡れているのであれば、最早意味などなさない。
(――今は|お前《氷月》が御守りみてぇなもんだから、進む気になれるのは充分過ぎる理由だ)
 過去を苛む|希死《ねがい》の雨が、頬を冷たく伝う。
 軽く拭ってから氷月の方へと視線をむければ、宵月の双眸が芥を真っ直ぐに見つめていた。
「そっか?」
 そうして視線が絡み合うと、氷月はすっと双眸を窄めて僅かに笑むような表情を見せる。
 芥が内心で考えていたことが氷月に伝わっていたのか、そうでなかったのかはわからない。
 どちらであろうと構わない。喩えこの想いが通じてなくとも、少なくてもそれに類する言葉で繋がる関係性を築けてきたとは考えている。
「――まあ、芥が居れば大丈夫か」
 氷月の口調も歩みも軽いものだった。隣に芥がいることが心の支えとなっている。
 随分と厄介な性質を持つ雨のようだが、お互いが隣にいるのであれば惑わされることはないと考えていた。

 そうして、芥とともに千本鳥居の道へ踏み入れた氷月を待っていたのは、取り囲もうとする沢山の人々の幻影だった。
 彼らは皆、氷月に凍て付くように冷たい視線を向けて責めるように指を差している。
 お前のせいで――そう言う彼らの言葉も、芥が認めてくれるから聞き逃せるのだと思っていた。
『認めてくれた人は殺してしまうのに?』
 でも、聞き流せぬ声が氷月の鼓膜に突き刺さった。
『また、罪を重ねるんだね』
『悪い子だ』
 そういって笑うひとを、氷月は知っていた。顔を確認せずともわかる。
 だって、彼は――。
「ちがう、俺は今度こそ大切にするんだ」
 芥へと伸ばしかけた手をとめる。

 ――俺に、そんな資格、あるのかな。

 一方、芥の視界には金色の花が風にのって舞い散っていた。
 噎せ返りそうな程に甘ったるく漂う金木犀の香りが鼻につく。
 そうして金木犀の散る先には、堕ち朽ちた花に囲まれて浅瀬に浮かぶ誰かの姿があった。誰か、ではない――自分は、その人のことを知っているのだから。
 まるで汚染していくように、清らかな水が|生命の色《あかいろ》が滲み、穢されてゆく。
「――」
 思わず呼んでしまおうとした名を留まらせたのは、血溜りのような浅瀬で横たわるひとの唇がひたすらに何かを繰り返して告げようとしていたからだ。
 聞かなくていい。聞きたくない――そう願ってしまったからだろうか。
「何を、言っているんだ」
 芥は呻くように呟けど、血溜りに横たわるひとの言葉だけが聞こえないまま。動く唇と喉元は何の音を発することも出来ないままだ。
 一体、あの唇はなんと言っているのだろう。責めているのだろうか、それとも――赦してくれてるのか。
 解らない。笑いながら言うその言葉が理解できない。否、理解したくもない。
(……っ)
 襲い掛かる悪心に膝をつきそうな身体。
 倒れることだけは必死に耐えて、芥は引っ込めようとしていた氷月の手を掴んだ。
「氷月」
 名を呼んで、芥は氷月を強引に引き寄せる。
 春の雨にすっかりと冷やされてしまった身体を、互いの熱があたためる。
「氷月、此処に居ろ……居てくれ」
 返事はない。氷月の宵月の双眸は虚ろのまま揺らぐことはない。
 戻らぬ自我。それでも、芥は諦めることなく呼び掛け続ける。
「ちゃんと隣に――そう、約束しただろ」
「やくそく……」
 懇願するような芥の金眸と声――芥の存在が虚ろに沈む氷月の存在を拾い上げた。
 約束という言葉を繰り返せば、徐々に氷月の意識が輪郭を持ち、はっきりとしていく。
「そうだね、此処にいる。いてくれて、ありがと」
「いや、俺の方こそ――お前の存在に助けられている」
 不器用に言葉をかわしあって、存在を確かめ合うように繋いだ手にどちらともなく力を込めた。
 もう、無情に頬を流れる雨の冷たさは気にならない。
 今は、|希死《ねがい》よりも、互いを繋ぎ止めるものがあるのだから。

アダルヘルム・エーレンライヒ


 燃え尽きる間際の斜陽が空を赤く染め上げている。
 千本鳥居の中で待ち受けているであろう幻影にアダルヘルム・エーレンライヒ(余花を夢む・h05820)の古傷が疼く。
(……何度相対しても慣れんな、この類の幻影は)
 生を重ねる度に死ねなかった後悔は、一生付き纏ってくるのだろう。
 例えば斜陽に照らされて長く伸びる影法師のように、アダルヘルムが望まぬ不死の運命を歩む限りは決して離れることなく傍にある。
 全ての生命が死に絶えた砂塵舞うだけの戦場でも、アダルヘルムの影法師は絶えず其処にある。
 魔物がもたらした被害は大きく、護れぬ命を数えるのも気が遠くなるくらいに溢れ堕ちていく。
 友も仲間も皆死に絶えて、だけれど、アルダルへルムはひとりだけ生きている。
 何度も繰り返した光景だ。悪夢だ。無くそうと願えど消えなかった過去だ。
 否、棄ててしまうのは赦されない己の罪過。
 もう既にこの身は罪に濡れている。斯様な者に傘をさす資格もない。
 傘をささずに千本鳥居の道を進めば、希死の雨が様々な幻影を魅せる。
 其れは、何も特別ではない。ただ、アダルヘルムが辿ってきた道のりでしかない。
 かつての仲間、友――絆を結んだ相手が浮かんでは消えていく。手を伸ばしても決して届かず、触れられず、追いかけることも赦されない。
 ただ、かつて居た人達の姿とその死に様を映画のようにただ映し出していくだけ。
 薬物に耐性がつき効果が得られなくなっていくように、常に苛む希死念慮は今更強い衝動を生むわけでもない。
 ただ、無数の古傷と後遺症が身を苛んでいる。
 辛苦をなんとか誤魔化す薬も手放せず、後は最期を待つだけ――そのはずだったのに、何かの間違いか今更心に迷いが生まれてきている。
 終わりを迎える迄の僅かな間――さいわいを享受するには、自分は相応しくはない。
 陽のあたるところにも行かないし、本当の姿も晒せない。
 そして、いつの日か、独りになるまで。そう思って、終わり方はもう、決めている。
 最期は友人の墓の隣で――安らかに眠れるかどうかはわからない。
 けれど、もし安らかな常世があるのだとしたら、痛みを誤魔化すための薬ではなく酒のひとつでも酌み交わせたりするのだろうか。
 だが、それはまだ先の話――それまでの、残り僅かな間はもう少しだけこの影法師とともに歩いて行こう。
 赤い景色の中を進むアダルヘルムを見守るように、ひとひらの白い花びらが空を舞った。

夢野・きらら


 話を聞いた時、|地元《√妖怪百鬼夜行》でまた騒動か――と、夢野・きらら(獣妖「紙魚」の古代語魔術師ブラックウィザード・h00004)は思った。
 曰く、希死念慮を誘う天気雨が降る千本鳥居らしい。だが、自分には何処か遠くの出来事のように感じる。
(あいにくぼくはまだまだ本を読み足りていないし、やりたいこともあるけれど)
 でも、それが現象であるなら刺激されたことで何か表に出てくるかもしれない。
 欠けた己に斯様な感情が存在するか甚だ疑問ではあるが、己は大丈夫とも言い切れないのが今の状況でもある。
(なら、助け出さないといけない人がいるかもしれないところに涙目で行く訳にはいかないな)
 そうして、きららは日傘をさしかけて赤い鳥居の道を進めば、何かの音が耳をかすめた。
 少し疑問に思いながら近付けば、それは少女の泣き声だと解った。更に進めば、赤い鳥居の中で蹲り泣きじゃくる着物姿の少女の姿を見つけた。
「えっく、えっく……」
 きららは静かに後ろから近付いて、彼女にそっと傘を差し掛ければ、少女は驚いたように振り返りきららを見上げた。
「ねぇきみ、濡れたら風邪をひいてしまうよ」
「いいの、もうどうせ、心配してくれる人はいないもん……みんな、わたしを棄ててどっかにいっちゃったんだから」
 振り返りきららを見上げる彼女の瞳は絶望の色彩で昏く染まっていた。
 一体、何が少女を斯様な絶望に沈めてしまったのか今のきららには解らないし、聞いても適切な回答は用意できないかもしれない。
 だから、彼女の絶望に染められた世界を変える歌を歌えば、少女の傍らに励ますきららの幻影が現れた。
「君の物語は、まだまだ続くのにこの先は未来へ続かないんだ――|結末《エンディング》は、こんなところで迎えるべきじゃないと、ぼくは思う」
 励ます言葉は素直な本心。人によって物語が紡がれるのであれば無闇矢鱈に終わらせてしまうのは勿体ない。
 人の数だけ、物語がある。生きる限り続く物語は、それぞれが違う味わいを持っている。
「ぼくは、きみの物語の続きがみたい――だから、帰ろう」
 きららは黙り、見上げる少女に静かに声をかけて、手を差し伸べる。
 物語の中の魔法少女のように、希望をふりまく存在になれるかはわからない。
 だが、こうして目の前で泣いている子どもに傘をさしかけて、手を差し伸べることは出来るはずだ。

緇・カナト


 優秀だの最高傑作だのという賛美は所詮他者からの勝手な評価でしかない。
 其処に己の意思や希望や決定権――其れに未来なんてものは何もないのだ。
(――消失願望を刺激する天気雨ねェ)
 頬うつ春の天気雨は冷たい。葉や水面を打ち付ける雫がかき鳴らす音を緇・カナト(hellhound・h02325)は聞きながら、千本鳥居の道を進む。
 |消失願望《そんなもの》は常日頃から抱いている。今更ではあるけれど、人払いも兼ねて足を運ぶのも|吝《やぶさ》かではない。
 ゆえに、傘はささなかった。
 傘というのは雨から身を守るために差すものであって、既に消失願望に身を濡らしているのであれば傘のひとつくらいで今更何の慰めにもならないのだから。
 彼の雨がもたらす衝動や願望は、常にカナトの身を苛んでいる。
 そうして、カナトは燃え盛るような紅の道をただ進む。
 赤い、紅い、燃え盛るような焔の赤も、血の色もいのちを感じさせるモノのはず。
 だけれど、矛盾するように、この場に満ちているのは死の気配だ。
 まるで、この千本鳥居の道は死へと向かうレールのよう。
 この道の先は黄泉路に続いているのだとしたら、恐らく自分の逝く果てに待ち受けるのは昏い地の底だろうか。
 死は救済だと誰かが嘯くが、実際のところは全く以て斯様なことはないのだろう。結局死に逝ったところで救いなどもない。
「全く、皮肉なものだなァ……」
 赤い世界に愚痴を漏らすようにぽつりと呟いてみる。
 喩えばこの死の気配に誘われて、彼岸へ渡れたらどうだろう。
 ――ああ、それでも駄目だ。此岸で救われる方法がなければ彼岸でも救済などはないのだから。
 死んで、何もかも、綺麗さっぱりと消え去れたのならば良かった。
 ――皮肉なことに優秀で有能と持て囃されたこの身体には死して骸となってなお、使い道があるのだという。
 紅い世界の中を穿つように、無機質な空間が広がってゆく。
「優秀」「有能」「傑作」「どう|使おう《・・・・》」
 むせかえるような薬品の香りの中で、白衣の連中が嬉々として話す様子が不快に響く。
「光栄なことなんだ」「よろこびたまえ、きみは選ばれたのだから」
 嬉々と語り続ける連中の姿を、カナトは幻影を冷めた目で他人事のように眺める。
 棄てたと思っていた過去はいつまでも己についてくる。
 傑作だと彼らが持て囃せど、それは本来あった|未来《・・》を摘みとられ、犠牲にされたものだ。
 月に誘われ、救われ、逃げ出したと思っても、結局は今もまだ敷かれたレールの延長線。
「結局、なんだって言うんだろうなァ」
 抜け出したい――なんて、気持ちを抱くことすら嘲笑ってきそうなどうしようもない世界だ。
 こんなに世界は広いというのに、所詮は己を逃さぬ檻籠でしかない。本当に、どうしようもない世界だ。
「はぁ……」
 溜息をつきながら、カナトは空を仰ぐ。頬うつ雨の冷たさも今は全く気にならなかった。
 空は見事に黄昏の赤に染め上げられている。燃やし尽くすように映える斜陽はやがて燃え尽きて、いずれ静寂の夜を連れてくるのだろうか。
 試しに空に手を伸ばしてみても、遙か彼方の先にある空に触れられるわけでもなかった。
 ただ、伸ばした手のひらは何も掴むこともできず、ただ無情な天気雨の粒が打ち付けるだけだ。
 カナトは静かに手を引っ込めてから、ぼんやりと空を眺める。
 今更救いを求めるにはもう遅い。救われようだなんてことも思っていない。
 だけど、もしいつかこの世界から消え去る願いが叶うのならば――その前に為さねばならぬ事がある。
「あ、一番星か……あれ」
 燃え尽きはじめる夕暮れ空に、輝きはじめたのは一番星。
 まるで道を指し示すかのように浮かぶ星を、カナトは目指し歩みはじめた。
 黄昏はやがて夜を連れてくる。そして、夜はいつか必ず明ける。
 いずれ訪れる夜明けの、その果てを目指して進み続けよう。

曇天・ぱぅる
憂・サディスト


 燃え尽きる間際の斜陽が世界を紅く焦がしている。
 紅い空。朱い鳥居。赤い、命の色。視界全てを赤で塗りつぶすかのような千本鳥居の空間には陰鬱な死の気配が漂っていた。
 この終わりが見えぬ程に続く千本鳥居の道は一本道。ひたすら歩いて、辿り着くのは死なのだと容易に想像がつく。
 斯様に重たすぎる終焉の気配が陰鬱に漂っている中で、その空気をまるで気にしないような明るい声が響いていた。
「あっめあっめふれふれ~」
 その声の主は曇天・ぱぅる(甘い儘・h12789)。
 この場にはとても合わない明るい表情で上機嫌に歌を口ずさみ、天気雨の中を傘も差さずに進んでいる。
「ねー、雨綺麗だねー。空も、鳥居も、雨もみーんな真っ赤!」
 陰鬱纏う|希死《ねがい》の雨もぱぅるにとっては綺麗らしい。
 それが単なる強がりなどではないことは、彼の今にも踊り出しそうな程の表情が物語っている。
 清水を蹴り上げて進む足取りだってまるでスキップし出しそうな程に軽やかだ。
(あいつ……)
 そんなぱぅるのやや後ろに続くように歩く憂・サディスト(蝶々結びで、・h12742)の耳を無邪気にはしゃぐぱぅるの声が劈いている。
 まるで二日酔いで酷い頭痛に襲われた時のようだ。陰鬱な気持ちで重たい思考に容赦無くぱぅるの声が容赦無く響き、余計に思考が
(なんで、あんな元気なんだ……?)
 心に浮かんだ疑問のまま、ぱぅるをぼんやりと傍観するようにサディストは眺めて、傘を握る手に力を込めた。
 氷のような冷たさと、悪夢のような陰鬱さをふくんで降りしきる天気雨を防ぐのは全ての色彩を拒絶するが如く漆黒の傘。
 ただでさえ常にこの心は晴れる様子を見せぬというのに、今更余計に苦しむ必要もないだろう。赤の世界の中で思考を斯様に巡らせながら、彼に声をかける。
「……ご機嫌だね、傘は忘れた?」
「えへ、俺も先輩の気持ちを理解してみたくて、きしねんりょ? ってやつ!」
 陰鬱な空気が満つる千本鳥居の空間で、まるで、これからとっておきの映画が始まるような態度。
(しかし、こいつに苦い記憶なんてあるのか……?)
 機嫌よい様子をちらりと眺めながら、あまりにもこの場の雰囲気に似合わぬその様子にサディストは疑問を抱く。
 疑問に思うサディストの隣で、ふとぱぅるが足を止めた。
「おい」
 急に足を止めたぱぅるを不審がったサディストは、彼に声をかける。
 だが、それに対してぱぅるは何も反応しない。試しに目の前で手を振ってみるが、瞳孔が動く様子もない。
(始まったか――)
 雨に濡らされ、幻影に囚われるぱぅるの横顔をサディストは目を窄めて、見守る。

 ぱぅるの視界の中で紅い雨が降る。
 まるで雨粒がノイズとなって、映画が再生されてゆくように映し出された幻影は故郷の積層都市。
 雷素崩壊によって電気エネルギーが不安定になり、その代替された仙術でさえもインビジブルの枯渇によって危機を迎えている。
 裕福なものはインビジブルを求め、より上層へ。捨て置かれた下層は
 その中でも恵まれた上層の――しかも、天人として豊かな生活に興じていられたぱぅるに羨望を向ける者も多かったかもしれない。
 きれいなものに囲まれて、毎日がただ幸せであふれている。
 安定して、豊かで、不変で、普遍――ずーっとずっと延々と続くような日々。
「あーあ、なんてうんざりとする|地獄《日常》!」
 安定している。それは、変化がないことだ。
 変化がないのは、つまりは、刺激も楽しみも何もない。ただ、麻痺させられるだけの生活のようで。
 でも、そんな日々と違って|先輩《サディスト》の側はよかった。
 一緒に怪異の研究をしていた頃だって、全部が楽しかった。
 こんな刺激に満ちた日々ならば、ずっとずっと続いていけばいいとも思った。
 でも、彼がいなくなった研究室は静寂に満ちていた。まるで、心にぽっかりと穴が開いたように■しくて――。
(……あれ、おかしいな。なんか泣けてきちゃったかも)
 ぱぅるの頬に、冷たい天気雨とはまた違う、あたたかなしずくが流れる。
「実験はそこまでだよ、博士」
 その声とともに、ずっと、打ち付けていた天気雨がやんだ。 
 身濡らす天気雨が降り已めば、ぱぅるの意識も徐々に醒めていく。
 そして、完全にぱぅるの意識が現へと戻って気付く――天気雨をやませたのは、サディストがぱぅるに押付けた漆黒の傘だった。
「あは、先輩が濡れちゃうよ。相合い傘でもします?」
「|傷の舐め合い《相合い傘》は結構。俺が濡れたところで何も変わらないからね」
 濡れたことで天気雨はサディストに幻影を見せる。
 それは見慣れた研究室。倫理も人間性も棄てて研究を続けた|日常《地獄》。
 そして、真っ黒な瞳で己を見つめてくる|死体《友》の姿――もう、斯様な白昼夢は散々見てきたのだ。
 まるで|普遍的《モデルケースのよう》に壊れた己の凡庸さには失笑は零れるものの、流す涙は今更ない。
「……先輩、やっぱり研究室に戻ってきませんか?」
 ぱぅるから投げかけられるこの問いは、もう何度目になるだろうか。かえってくる言葉なんて、ぱぅるも解っているはずなのについ溢す。
 サディストとて、この問いを投げかけられるのはもう慣れたはずなのに、毎回一瞬息が止まる。
「………………戻らないよ。もう室長の席はお前のものだし、お前の方が相応しい」
「ですよね、断られるのはわかってました。でも、人の感情なんて脳内物質や雨に簡単に左右されるもの。どれがほんとかなんてわからない。そもそも、存在してるかもあやしいよね。だって、ただの現象でしかないんだから。例えば、先輩の死にたい気持ちも全部うそでしたーってことにして、俺がえいって消しちゃえたらいいのに。戻らないって決意も、全部さ!」
 ぱぅるはサディストの傘をくるくるとまわしながら、赤い世界を眺めながら思考を巡らせて思い至った答えににへらと顔を緩めた。
「……感情操作系の怪異のストックはまだあったっけ? へへ、研究したいことがまた増えちゃった」
 笑んだぱぅるはまるでとっておきの悪戯を思いついた子どものようだ。
 上機嫌そうな彼の様子を眺めながら、サディストは今なお己を見てくる|死体《幻影》にちらりと視線をやった。
(どれだけ人の道を外れても笑っていられるこいつの側にいれば、俺もいつかあいつと同じ道を辿るのだろうか)
 ――案外、それも、悪くないかもしれない。
 |希死《ねがい》の雨は、静かに降り続けている。

メイア・フルエーレ


 忘却は罪なのだと断ずるように射貫く視線が今もメイア・フルエーレ(呪いの檻・h06776)の心に漣を立てている。
 複雑な色彩を帯びる双眸で眺めるは黄昏の世界。燃え尽きる間際の斜陽は最期の力を振り絞るかの如く空を赤く焦がしていた。
 何処までも続く赤で満たされた空間は、まるで|血《いのち》の色にも似ている。
 ――お前の手は既に、こんなにも血で染まっているというのに。
 ふと脳裡にいつかの記憶の聲が蘇る。
 そんなことすら忘れたの?と断ずるような問いかけに、否定することもできなかった。
 忘却は|罪《救い》だ。忘れてしまったとしても、メイアの身体は命を屠る術も、鉄錆の香りも覚えている。
 だから、きっと、自分は斯様な赫が似合うのだろう。
 ゆえに、メイアの心を波だたせているのはこの空間が持つ色彩。
 傘を差して千本鳥居の道を進む。降り注ぐ|希死《ねがい》の雨は傘で防げど視界から襲う鮮烈な赤色がもたらす陰鬱さまでは防げない。
「これで、よかったのでしょうか……」
 メイアが俯けば、怖ろしい程に澄みつつも黄昏の色彩に染まる水面に、己の曖昧な表情が映り込む。
 脳裡で断ずるように射貫く彼女の姿が徐々に実体化していくように、確かな形を伴って甦ってくる。
 |もうひとり《かつて》の自分と邂逅したあの時、メイアは彼女の言葉を拒絶した。
 拒絶はしたが、否定もできなかった。だけれど、彼女に呑まれないと心に決めた。そう、道を定めた。
 だけれど、もし、全てを委ねて彼女とひとつになっていれば――今の自分を消してしまえば、楽になれたのだろうか。
「雨、已みませんね」
 ぽつりと呟く。
 天気雨が静かにうちつけて、水面に波紋を広げてゆく。揺らぐ自分の顔は、まるで曖昧な現状を表わしているかのようだ。
 どれだけ道が続いているのかわからない。でも、消えるその時まで進む道を決めるのは、今を生きる|私《メイア》だ。
 この想いも、進む足も、己のもの。彼女の思い通りになりたくないと伝えた決意も、自分のもの。
「あぁ……、でも、この気持ちは、本当に私のものなのでしょうか?」
 人格というのは過去の経験と記憶の集合体。記憶が曖昧な自分が出した道は、本当に自分が定めたものだと言えるのだろうか。
 抗いたいと、今想うこの感情ですら、何かに動かされている偽物でしかないのだとしたら――。
「――いけませんね、心を強く持たないと」
 天気雨はしとしとと降り荒む。空は未だ晴れているというのに、降り荒む雨には陰鬱さが含まれている。
 まるで、真綿で首を絞めていくような、静かに呼吸を奪っていくかのような、じっとり鬱々とした厭な雨だった。
 斯様な雨は思考を厭な方へと引っ張ってゆく。さぁさぁと静かに降り荒む雨音が思考を塗り替えるように、どうしようもない不安の色彩がメイアを覆っていく。
 少しでも気を緩めれば、かつての自分の意識に呑み込まれてしまいそうだ。
 傘を握る手に力が籠もる。必要以上に強く握られた手のひらに爪が食い込んで鋭い痛みをもたらした。
 痛い。そう、痛いと感じられる。この痛みはきっと、かつての自分にとっては不要なものだと切り捨てたはずだ。
 今、こうして迷っているのだって、彼女ならばきっとしなかっただろう。
(そうです――たとえ偽物であっても、今、ここにいるの私なのですから)
 この迷いも、痛みも、全て今のメイアたる所以なのだ。
 何が正解だなんてことは、終わりが来るまではわからない。終わりがきたとしても、わからないかもしれない。
 だが、諦めて、歩みを止めてしまったら正解に至る可能性ですら自分自身で潰してしまうことに他ならない。
「……進みましょう」
 囁くように静かに呟いて、赤く続く世界の先を見据える。
 斯くして、メイアは黄昏の朱く染まる千本鳥居の道をひたすらに前へと歩き続けるのだった。

神代・ちよ


 燃え尽きる間際の斜陽が空を朱く焦がしている――の、だろう。
 神代・ちよ(追憶のキノフロニカ・h05126)は記憶の中にある赤色と茜色を繋ぎ合わせて、眼前の光景に当て嵌める。
 時間帯からして、多分赤色の度合いはこれくらい。千本鳥居も星詠みの話からすると恐らく鮮烈な朱色。
 |色なき世界《モノクローム》に、まるでパズルのように色を当て嵌めていく作業にも、もう慣れた。
 双眸が|色彩《いろ》を喪った頃に散った落葉は再び春の萌黄となりて、世界に舞い戻る。
 されど、この双眸はあの日のまま色彩を取り戻す日は未だに訪れない。
(取り戻す日など、来るのでしょうか)
 ちよは手持ち無沙汰な手をそっと空に掲げてみる。天気雨がぽつりぽつりと手のひらを叩く感触が物悲しい。
 傘を持っていくか、悩んだちよが出した答えは持たずに|希死《ねがい》の雨をその身で受け止める覚悟だった。
 もし雨が何かの幻を見せるのであれば、それはきっと|紫苑《あのひと》の姿だろう。
 いつか、彼程に恋しいと逢いたいと希った彼に、今は逢ってしまうのを怖ろしく感じる。
 それはきっと、ちよに刻まれた傷が癒えていないからだ。
 あの日負った傷は|瘡蓋《かさぶた》となった今も疼き、苛む。
 瘡蓋に覆われた傷口は治癒に向かっているかと思いきや、その裏ではもしかしたら化膿しているのかもしれない。
 だが、今は信じるしかない。恐れることも、痛むことも、瘡蓋が癒えるまで仕方のないことなのだと言い聞かせるしかない。
 本当に癒える日がくるかどうか解らなくて、怖くても。癒えぬ傷の底を覗き込むためにも覚悟を決めて、ちよは傘を差さずに進む。
 痛んで、疼く、心の傷。その正体を自分は知らなければならない。
 そうしなければ、|この夜《白黒の世界》は明けない気がするから。
 天気雨降る千本鳥居の道を進む。ちよの頬をうつ春の雨は冷たい。ペトリコールに混じって何かの花の香りもする。
(この雨は、希死をもたらすようですけれど、誰にも知られずに消えてしまいたいと――ちよも、思っていたのでしょうか)
 ちよは自らの心を落ち着けるように一度深く息を吸ってから、双眸を開けば眼前にあの日の光景が広がっている。
 否、違う。燃え盛るような赤色は、今はすっかり温度を喪ってモノクロにしか映っていなかった。
 そして、決定的に違うのは、夕陽の中に在る彼が背中を向けていたことだ。
 遠くに行こうとする彼の背中に思わず手を伸ばして、その名を紡ごうと唇を動かせど、音にならぬ呻きだけが漏れた。
 そのまま、どんどん彼との距離が離れていき、やがて夕陽に溶けてゆくようにその姿が消える。
「また、置いて逝くのですね……」
 ぽつりと溢した呟きは、もはや誰にも届かない。
 否、置いて逝くのではない。彼に終焉をもたらしたのは他の誰でもない己が手だ。
 結局、最期まで自分を見てくれない彼に幕引きをもたらすくらいなら、自分が消えてしまいたかった――なんて、気持ちがないなんて綺麗事など言えるはずがない。
 それでも、だけれど、ちよはあの紫眼が自分を映してくれることを望んでいた。
 あの人の双眸が、いつも違う|誰か《おかあさま》を見ていたことなんて解っていた。解っていたからこそ、強く希っていたのだ。
 喩え、それがちよの死の間際だとしても、焦がれる程の望みはこの胸から消えてくれなどしない。
 そう、あの人が見つめてくれない死に意味などあるはずがない。
 同時に其れは、彼が居てはじめて成立する希望だった。
 彼をこの手で討ち、彼が居なくなった現在としては、永遠に叶わない願いなのだ。
「……だから、生きなくては。生きて、ゆかなくては」
 寂しく呟いた声が、ただ、黄昏の世界に零れて消えた。
 燃え尽きる間際、一層に強く燃え盛る斜陽が空を焦がし――あの日のような、全ての色彩を奪い去った灰のような夜がくるだろう。

第2章 ボス戦 『紅涙』



 誰ソ彼にほどけて消えそうな薄紫の花香が儚く唐紅の空間に漂っている。
 玉川上水に身を投げて辿り着いた雨濁りの藤の屋敷には、まるで血涙のような慟哭の雨が降り注いでいる。
「まさかこの様な方法で、雨濁りの藤の屋敷に辿り着けるとはな」
 朱の空間に紅涙の聲が響く。
 紅涙は|方法《・・》についての驚きとともに、その手段を取ったEDEN達にも驚いているかの様子を見せていた。
 だがすぐに紅涙は血のような涙を流したままに、そろりとした視線を現れた敵を見る。
「――良い、お前達のような者に私が止められると云うならばその刃を抜くがいい」
 千切り棄てられた女の嘆きと恨みの化身とも云える紅涙はEDEN達に冷たい殺意を向ける。
 慟哭の雨は降り已む気配がなかった。
鸞奇・檸檬


 ただでさえ死にたい気分だというのに、こんなジメジメとした場所に連れて来られるなんて本当に勘弁してほしい。
  鸞奇・檸檬 (誰も救えないヤブ医者・h03905)は、はぁと溜息をついて周囲を見渡せば血のような涙を流す付喪神がいた。
 あー、あれがこの場のジメジメの原因だろうなぁ。もう湿度の塊だなぁ――なんて檸檬は他人事のように考えながら、軽く頭を掻いた。
「あー……こんにちは」
「お前はこの屋敷に立ち入ってきた不届きものだな」
「そうですか。辿り着いてましたか……いやー、死にたい死にたいってずっと思ってると、気付いた時には目的地についているんで……便利ですよねー、はは……」
 斯様な状況でも口だけは回るものだ。
 流れるように並べた立てた台詞にも紅涙は反応せずに無言を貫いている。
「とりあえず、殺気出すのやめてくれませんか?」
 それどころか紅涙から放たれるのは容赦のない殺気。
 肩を竦めて弱々しい降りをしてみせて、檸檬は言葉を続ける。
「俺ちょっと身体が弱い一般人なもんで、そういうの怖くて仕方ないんです……無理ですよねぇ、やめろって言われてやめられるもんじゃないですよねぇ……すみません……」
「それならば私がお前を殺してやろう
 千切り棄てられた血塗れの懐剣が檸檬目掛けて放たれる。
「うわっ! ちょっとそういうの怖いからやめてほしいって話したのに酷いなぁ」
 軽口を叩きながらなんとか避けて、ふと時計を見る。
(自分語りが得意で助かったァ……そろそろ60秒……)
 目標の時間に達したことを確認した檸檬は後ろを向いて耳を塞ぐ。
「あ、気にしないでください、貴方が苦しむの見たくないだけなんで」
 言い終わるや否や、どうしようもできない絶望が紅涙を襲う。
(……まあ、他のEDENさん達の時間稼ぎにはなったでしょ)
 自分の|役目《出番》は終わったとばかりに、溜息を吐いて檸檬は動いていく戦局をまるで他人事のように眺めた。
 |希死《ねがい》の雨で見たくもないもの見せられるし、買ったばかりの傘だって壊れてしまうし。
 うまく死ねたと思ったらやっぱり行き返ってしまうし、嗚呼、本当に、今日も死にたいくらいに最低な一日だった。

天使・夜宵


 蘇生した今も、身体の芯が冷えていくような感覚が今も身体から離れない。
(やっぱり、あのやり方は好かねぇな……)
 天使・夜宵(残煙・h06264)は溜息をつきながら、軽く身体を揉みほぐすように動かす。
 疾うに人の温度を喪った右腕から伝わる冷たさが余計に心を沈めていきそうだ。だが、感傷も慟哭も後からいくらでもできる。
「……さて、やるか」
 身体にこびり付く意識が遠ざかる感覚とその記憶を振り払うように夜宵は妖刀『|──《無名》』に手を添えて、一気に紅涙の許へと肉薄する。
「…………ク、」
 恨み、嘆き、殺意。ありとあらゆる負の感情が刀越しに伝わってくる。
 余りにも強い怨嗟――だが、それに同情する程の優しさは生憎なことに夜宵は持ち合わせてはいない。
 一閃を叩き込んだ後、距離を取って煙草の煙を纏おうとする夜宵を逃さぬとばかりに紅涙は鋭い視線で射貫く。
「我が許まで飛び込んでくるその蛮勇だけは褒めてやろう」
 千切り捨てられた嫁入り道具より喚んだ懐剣で紅涙は夜宵を切りつけようとするが、夜宵は咄嗟に右腕で受け止めた。
 火花が散って、乾いた音がした。肉を断つつもりで切りつけた懐剣越しに伝わる固い感触に、紅涙も僅かばかりに視線を揺るがせた。
「生憎なこと切りつける肉体はないんでな」
 何も動揺することなどない。再び妖刀『|──《無名》』を握り直し、踏み込む足に力を込める。
「こっちは機嫌が悪いんだ。テメェには、さっさとくたばってもらう」
 夜宵は冷たく言い放つと続けざまに斬撃を一閃、また一閃と切りつけていく。
 跳ね返し、紅涙が放つ反撃はどれも冷たい憎悪と殺意に満ちていて夜宵はフッと目を細めた。
(ああ……)
 内心で納得したような、すとんと落ちたような感覚がする。
 復讐に囚われた末路が此れならば、その道を選ばなくてよかった――そう、再確認できたから。
 改めてそう思えたのならば、もう足を止めるつもりはない。
 その刀に、曇りのひとつもなかった。
(面倒事は、アイツだけでいい……)
 降り続く雨の香りが周囲に立ちこめている。
 いくら雨雲で覆っていても、陽はその向こう側に必ず在るのだから。

クラウス・イーザリー
システィア・エレノイア


 陰鬱な雨の気配が纏わり付くように身体を離れず、心から熱を奪っていくかのようだった。
 頬を伝う雨雫を拭い去ってクラウス・イーザリー(太陽を想う月・h05015)が紅の世界を見据えれば、傍らにシスティア・エレノイア(幻月・h10223)がそっと並び立つ。
「クラウス、寒くない? 大丈夫?」
「ありがとう、ティア。平気だ」
 夜空のような双眸を窄めて笑むクラウスに、システィアの耳がぴくりと動いた。
 直感的に、彼が嘘を吐いたのだと察する。だけれど、今は態々その嘘を咎めたりするつもりはない。
 今なお降り已まぬ雨に傘を差し掛けても、身体を拭い暖めるための布があったとしても意味はなさないし、きっとこの優しい月のような青年は『それよりも』という言葉とともに剣を握るだろう。
 雨が已まないのであれば、戦いも退くことができぬのならば――戦禍の雨を少しでも早く止ませることを願い、システィアも武器を持つだけだ。
 システィアは武器を握る手に力を込めた。
「そうだね、彼女の√能力の強化を何としても阻止したい。止めなきゃ」
「止められるかどうかじゃない。止めるんだ」
「うん、そうだね。クラウスの言うとおりだ。俺達が戦わないと、沢山の人が傷付く。だから、一緒に戦おう」
 強い視線とともに言い切ったクラウスにシスティアは頷きながらも、半歩だけクラウスよりも前に出た。
 クラウスはきっとまだ、動揺している。少しでも彼に降り掛る攻撃を止められたらというつもりだった。
 その意図に気付いたか気付いていないか――クラウスは体内の魔力を錬成し創り出した刀を更に鋭く強化してきつく握り締め、構える。
 足に力を込め、紅涙に肉薄しようとする。だが、紅涙とてそのまま接近を許すわけもない。
 嫁入り箪笥や鏡台――懐剣など千切り棄てられた嫁入り道具が真正面から踏み込んでくるクラウス目掛けて放たれる。
 クラウスは傷を負いながらもそれら全てを切り伏せ、いなしていく。
「その哀しみは理解できても、その力で哀しみを広げようとすることは許せない」
「ああ、あの頃は満ちていた――欠けることなき幸福の器。それを、裏切り、毀し、欠いた者に相応の報いを受けさせなければ彼女らが流した涙に報いる方法がないだろう」
 紅涙がまるで哀歌を口ずさむように紡いだのは幸せな頃の断片。
 契だ――そう勘付いたシスティアは侍っていた二体一対の狼に指示を飛ばす。
「行け」
 たった一言。だが、二体の狼はシスティアの意図を汲む。縦横無尽に駆け回る狼達は戦線を攪乱し、紅涙の集中力を削ぐ。
 その隙を縫うようにシスティアは手に持つ双刃剣に白金の歯車の幻影を輝かせて、踏み込む。
「させない、傷付けさせないから」
 歯車の幻影が、まるでシスティアの背を推すかのようにその身の動きを早める。
 そして、紅涙が次なる攻撃をクラウスにむけて放つため構えていた懐剣をシスティアは叩き落とす。
「ありがとう、ティア」
「大丈夫。クラウスが無事でよかった」
 クラウスが礼を言えば、システィアは心底嬉しそうに笑んだ。
 どれだけ身を嘖む|幻影《あめ》が降りしきろうと、死を求めるような乱暴な戦い方をしようと、クラウスは生きて勝つという意思だけは捨てられない。
 だって、今は、一緒に生きて帰りたい相手が隣で戦っているのだから。

緇・カナト


 身投げしないと辿り着けない屋敷なんて、よくもまぁこんなにイヤになる戦場もあったものだ。
 水に沈み、意識が遠ざかる感覚が未だ消えない。
 緇・カナト(hellhound・h02325)は軽く息を吐いた。
 あの感覚が拭えないのは今なおこの空間でも降り已まぬ雨の所為だろうか。
 千本鳥居の空間で降りしきる天気雨と云い今日はなんだか濡れっぱなしだが仕方あるまい。
(――仕事とあらば、完遂しようかね)
 カナトは手斧を握るてのひらに力をいれて踏み込めば、冷たく澱んだような殺意が|侵入者《カナト》を出迎える。
「ヤァ、藤の屋敷の主人サン――此処でも雨が降り注いでるんだな」
「侵入者か――そのまま雨に呑まれてしまえばよかったものを」
 凍える程に冷たい紅涙の怨嗟の情念やその声にも、カナトは全く動じない。
 怯む様子などまるでなく、ツカツカと歩み寄る。
「そうは言われても、此方も仕事だからねェ」
 カナトは手斧に蒼炎を纏わせる。陰鬱な雨にも負けず燃え盛る焔は紅涙が抱く情念の炎ごと灼き尽くす。
 朱の世界に蒼が舞う。一撃は飛び出でた行灯が身を挺すような形で防いだものの、続く一撃、二撃、三撃――|黎の禍い《ラグナロック》によって大幅に強化された力に紅涙は|蹈鞴《たたら》を踏んだ。
 しかし、断撃を喰らいながらも紅涙は冷静に――或いは、本能のように幸せな頃の断片を語り、虚しき攻撃をカナトへとぶつける。
「そちらが攻撃を必中させてくるならおあいこだなァ」
 力で力を押し返すような戦い。カナトも紅涙も双方引き下がることなどなかった。
「慟哭の雨でも消えない焔の味は如何だろうか」
「――その程度、裏切られた怨嗟と比べるまでもない」
 冷たい殺意と怨嗟がカナトを刺す。
 愛情の反義は無関心なのだという。無関心になりきれなかった|憎悪《愛情の成れの果て》が此れなのだとしたら、彼女が持つ力そのものが皮肉なのだろう。
 不運と不幸が降り積もって生まれただろう嘆きと恨みの化身。
「他者を怨み続けたところで、すくわれる訳もナイんだよなぁ……」
 呟いたところでその身にこびり付いた怨嗟が晴れるわけもないし、届くこともないだろうけれど。
「嘗ては存在していた幸せの断片を抱いて――すべて燃え尽きて消えるがいい」

神隠祇・境華
メイア・フルエーレ


 辿り着いた紅の空間には、ひたすらに重たい憎悪と冷たい殺意の気配が満ちている。
 まるで他者の存在そのものを拒むかのような重苦しい空気。その中でも神隠祇・境華(金瞳の御伽守・h10121)の進む足に迷いはない。
「何度も行いたい方法ではありませんが……辿り着くためには仕方がありません」
「同感です。蘇生が約束されている以上、一瞬の苦しみなど些細なものですが……やはり好き好んで味わいたいものではありませんね」
 境華の言葉にメイア・フルエーレ(呪いの檻・h06776)は静かに頷いた。
 死という感覚も、其れがもたらす苦しみも蘇生が約束されているのであればその時だけ耐えればいい。だが、耐えられるからとはいって気分の良いものでは決してないのだ。
「それに、正直雨の中にいた時の方が、よほど嫌な感覚でした。此処は嫌な空気に満ちていますが、あの雨に比べたらまだ耐えられます」
「ええ――あの雨は気分の良いものではありませんでした」
 メイアは言葉を句切り、移ろう双眸で降り已まぬ陰鬱な雨を見る。
 この雨は幸い|希死《ねがい》をもたらすようなものではないようだが、晴れ間なく降りしきる雨は心までも翳らせていくようだ。
 そして、この重苦しい空気の向こうに|紅涙《彼女》が居る。
「一人ひとりでは止められない相手かもしれません。けれど、私達も一人ではありません。ならば、届くはずです。この刃も、この御伽も――」
「ええ、そうです。背中は任せてください――大丈夫です。かならず」
 斯くして踏み入れた雨濁りの藤の屋敷。
 外よりもなお濃い殺意の気配に、柱に身を隠した境華の霊力を握る手に力が籠もる。
 一方、陽動を引き受けたメイアは正面から紅涙に立ち向かい、その姿を静かに見据える。
「嘆きと恨み、貴方にもそうせざるを得ない事情があったのでしょう。ですが、私の心には響きません」
 メイアは臆することなく杖を構えて、力を込める。
「儀式を完遂されては面倒なことになりますので、阻止するのみです」
 虚しき花嫁道中奇譚が幻影を引き連れてメイアを襲う。
「殺意には殺意を、必中だから何だというのです。先に倒れなければいいだけの話です」
 だが、メイアは冷静にそれらに立ち向かう。飛来物は世界の歪みで呑み込み、襲い来る呪詛は力で跳ね返す。
 手数勝負の持久戦。拮抗する状況を打破すべく紅涙は血霧を立ちこめさせて、新たに何者かを召喚しようとしている。
(今です――!)
 柱に隠れ、隙を伺っていた境華は足に力を込めて一気に肉薄をする。
 引き抜いた霊刀に纏わせるのは紡いだ御伽の力。相手が増えたところで、捉えられず踏み込めばよいのだ。
 立ちこめる血霧も、重なった影も、陰鬱に降りしきる雨も、彼女がいまなお放つ慟哭も何もかも――今の境華を止めることはできない。
「あなたの妄執も慟哭もこの刀で切り伏せましょう――それでも道を塞ぐというのなら……この頁ごと、斬り開きます」
 死角より境華の一閃を受けた紅涙が|蹈鞴《たたら》を踏み、態勢を崩す。
「蝶と共に、せめて幸せな思い出に抱かれて眠って下さい」
 燐光を放つ蝶の群れが紅の空間を引き裂くように飛び舞う。
 胡蝶の夢が飛び舞えば、現の痛みも所詮は夢まぼろし。
 胸を裂く痛みや止まぬ慟哭も、眠りの向こうで燐光のように消え去ってしまえばいい――。

夜鷹・芥
雨夜・氷月


 冷たい雫の感覚は、今もこの身を凍えさせるかのようで夜鷹・芥(stray・h00864)は深く息を吐いた。
 息を吸って、吐いて、酸素を取り込んで、生を燃やす。熱を生む。心臓は確かに動いていて、生きていることを証明してくれた。
「――……」
「……大丈夫、生きてる」
 ただ一言、静寂の月のような雨夜・氷月(壊月・h00493)の言葉が返ってくる。芥が手を伸ばせば、指先が氷月の体温をとらえる。
 立ちこめる紅も、降りしきる雨も心地が悪い。
 だが、微かに触れた互いの肌の感覚がふたりの心に火を灯した。
「さっさと済ませよう、氷月」
「ああ、芥とならいけるよ」
 芥の言葉に氷月の口元に自然と微笑みが咲いた。
 紅も雨も幻影も良い気分にはなれないけれど、傍らにいる彼がいるのならばいつも通りに笑えるから。
 そうして進めば、紅涙がいると言われる場所へと着く。さらに歩を進めれば、雨濁りの向こうに嘆きの鬼女の姿があった。
「あれが紅涙? えーっと、儀式、進められると困るんだったよね?」
「ああ、そうだな」
「んっふふ、俺的には|アレ《紅涙》で遊べればそれでいいから忘れちゃった」
 軽薄とも思える笑みを浮かべる氷月はいつも通り――冷たい殺意と深い憎悪が満ちるこの空間に怯むことも、|希死《ねがい》の雨に心を流されることもない。
 氷月の様子に、紅涙は酷く不快そうに険しい表情を浮かべてふたりを見やる。
「――良い、お前達のような者に私が止められると云うならばその刃を抜くがいい」
 紅涙の腹に響くような怨嗟の一声に、芥の金眸に鋭さが増す。
 抜けと云うのであれば遠慮無く。|瑞花《拳銃》の慣れたつめたさが手袋越しに伝わる。
「あは、芥ったらヤル気満々――そうだね。サクッと済ませよう」
 一方の氷月は戦闘を前にしても、その表情や態度に変化はない。
 何事もなげに軽く言い放ち、眼を閉じる。
「ってことで――|壊れて《遊んで》くれる?」
 ふたたび開いた氷月の双眸が魔眼へと変わる。
 それでも、微笑みを浮かべたまま月光を纏わせた銀片をまるで踊らせるかの如く斬り込んでいく。
「ほら、俺を見て、月に惑って、壊れちゃえ――なぁんて」
 まるで陽動の如き絢爛たる大立ち回り。紅涙も其れに応戦し懐剣で一撃一閃を防ぎ、合間に恨みが籠もった嫁入り道具の呪詛を氷月へと叩き込む。
 呪詛が、氷月の腹を掠める――だが、氷月は涼しげに笑みで窄めた。その刹那、暗冥の黒焔を纏う弾丸が紅涙を撃ち抜く。
 『タイミングばっちり』と、氷月は芥にアイコンタクトする。戦線交代。ひらりと蝶のように紅涙の前から退けば入れ替わりのように暗器ナイフへと持ち替えた芥が前線へと踊り出る。
「その恨み事――喰らってやる」
 一気に紅涙の許へと肉薄した芥は勢いのままにナイフを突き立て切り裂いた。
「紅涙、雨は終いにしよう」
 紅の世界に血の花が咲き、痛い程の嘆きと恨みが飛び散った。
 篠突く雨が心の中まで降りしきるとて、いくら逃れぬ過去が心を責め立てようとて――今は、もう、傍らのあいつがいるから、手も足も止まることを知らない。
 芥の一撃に揺らぐ紅涙の姿をみつめながら、氷月は宵月の双眸をすっと窄める。
「独りで嘆いてなよ――俺達、ソコまで付き合えないんだよね」
 嘆きの雨は、もうふたりの熱を奪うことはできない。

白・とわ


 紅の空間に零れる雨雫は、まるで滴り落ちる涙のようで|水《罪》に濡れて冷えきった魂が凍えている。
 手で覆った指の隙間から赤い涙を流す花嫁と目があった気がした。
(ああ、泣いていらっしゃる)
 白・とわ(白比丘尼・h02033)は金月の双眸を窄めた。
 嘗て幸せを約束されたのであろう誰かの残骸。踏み躙られた哀しみに嘆き憤るそのお姿。
 ――あぁ、なんて。
「なんて……羨ましいのでしょう」
 ぽつりと紅い空間にとわの静かな言葉が溢れ落ちる。
 幸せも、嘆きも、怒りも、哀しみも――今流す、その涙も全てが眩しい。
「貴女は知っていたのでしょう失った幸せの価値を、貴女は理解していたのでしょう断たれた縁を――とわにはわかりませんでした」
 己に与えられていた幸せも、己が絶った縁も自分は理解をしなかった。
 きっと、今まで気付こうと思えば気付ける機会はいくらでもあったのかもしれない。
(それに、気付かなかったのはとわ自身――いえ、)
 喩えば言葉をかけてくれた弟。喩えば物言わぬ自分に閉じ込めてすまなかったと謝罪を口にした老爺。
 己を信奉した少年と、護ろうと月夜の空へと逃がした少女。
 彼らがとわに寄せていたこころに、己は何も還さなかった。
 在るべきままを受け入れる――なんてのは綺麗事。水面に揺らぐ月影のように、己はただ流れに身を任せていただけだ。
 否、今思えば返す程の何かも持ち合わせていなかっただけだ。
「それほどの心をお持ちの貴女が、とわは……妬ましい」
 一方的な逆恨みのような醜い感情が渦潮のように心の中で拡がっていく。なんて、浅ましく愚かなのだろう。
「どうか……来て」
 呼ぶは見えない怪物の群れ。その身ごと捧げれば、自分ごと全てを呑み込んで消してくれるだろうか。
「貴女も沈めばいい――怒りも哀しみも苦しみも何もない、深海へ」
 インビジブルがとわを喰らってゆく。薄れゆく意識の最中に見た。
 白い指先で紅涙を指し示した向こう側。凝りのように立ちこめる血霧の向こうに見えた弟の姿にとわは目を見開く。
 だけれど、その瞳は拒絶するかのようにかたく閉ざされていた。

曇天・ぱぅる
憂・サディスト


「身投げ、スリルがありましたね~」
「まるでジェットコースターにでも乗ってきたような感想だね……俺は慣れてるけど」
 憂・サディスト (蝶々結びで、・h12742)は今なお気分は最悪だというのに、|曇天・ぱぅる(甘い儘・h12789)《この後輩》ときたら、楽しいアトラクションでも楽しんできたかのような上機嫌だ。
 ああ、訂正する。今|なお《・・》というのは少し違うか。だって、今|も《・》自分は死にたいくらいに嫌な気分をしているのだから。
 やはり上機嫌な後輩の声は二日酔い明けのようにガンガン頭に響きそうだ。
 気のせいか本当にかはわからないが、こいつは何ひとつ変わらない
「馬鹿は死んでもなおらないとは誰が言ったものか」
「それを言うなら馬鹿は死ななきゃなおらない、ですよ。先輩! まぁ、俺馬鹿じゃないですけど!」
 言葉とは裏腹に、ぱぅるの表情は相変わらず楽しそうなものだ。口調も何処か弾んでいる。
 上機嫌のまま、小首をこてんと傾げてから、またすぐにぱぅるは、花を咲かせるが如くぱぁっと明るい笑顔を咲かせた。
「先輩こそ死んでも何も変わらなかったじゃないですか~! 先輩と俺、どっちが先に死ぬなって見てたんだけど、先輩ってば死んでるのか生きてるのか分からない顔してて! 今もほら! 眉間の皺の本数も長さも位置もすべてが完璧に揃ってます!」
「ああ、それで最期までニコニコこっちをガン見してたのか……」
 死の間際。薄れつつある意識の中でも感じたのはぱぅるからの熱い視線だった。
 流石のお気楽極楽ハッピー頭のぱぅるでもさすがに死の間際くらいは笑えなくなると思っていた。
 向けてくるのは助けてとか縋り付くような視線であるものなのだと、なんとなく思い込んでいた。いや、そう思いたかったのかもしれない。
 だが、実際のところは――まぁ、お察しの通りである。サディストははぁと息を漏らしてから、それから静かに紅涙の方へと真っ直ぐ見据える。
「――おしゃべりはそこまでにしよう。あの女の「|研究《・・》」の時間だよ」
「はぁい、先輩! 今日は可愛い子をたくさん連れてきちゃった。|齐心协力《チー・シン・シエ・リー》、皆出ておいで」
 黒く蠢くサディストの黒いリボンが浮かぶ空間に、絶えず呪詛を吐き、悲痛に呻く12体の改造怪異が現れる。
 |守備《壁》と|突撃《捨て駒》部隊にわけて戦闘に挑む。突撃してくる改造怪異に紅涙が気を取られている隙。サディストの黒いリボンが紅涙の足を絡め取り、前方よりぱぅるの怪異が、後方よりサディストのリボンがそれぞれ貫く。
「えー、結構今いいとこ喰らいついたと思ったんだけどなぁ。倒れないのかー。流石に手強いねぇ」
 毒でも与えてみようかなんて思案しつつ、ふとぱぅるは先程少しだけ引っかかった言葉を思い出す。
「……ところで先輩、「慣れてる」って死ぬことにですか?」
 問いには無言。だが、表情にそれ以外何があるとありありと書いてあった。
 ぱぅるは一瞬ぷくーと頬を膨らませたのちに、すぐにまた楽しげな笑みを浮かべる。
「むぅ、あんな楽しいこといつも一人でやってたなんて次は俺も一緒に逝かせてくださいね」
「嫌だよ、どうしてお前と心中なんて。お前ってどこにでも付いてきたがるよね、もし現世に帰れず地獄に辿り着いたらどうするの」
「俺は地獄でも先輩となら楽しめますから」
 迷いのない言葉にまた零れてしまいそうになる溜息をこぼしてしまいそうになる。
「……何にせよ、残念ながら死ねないのが|俺達《√能力者》だよ」
 吐き捨てるように呟いた言葉とともに蠢く黒いリボンが蛇のように紅涙へと喰らいついた。

アダルヘルム・エーレンライヒ


 今更、川に身投げするなど造作でもない。
 アダルヘルム・エーレンライヒ(余花を夢む・h05820)の口元を歪めた笑みに歓喜も愉快も何もない。
(それで本当に死ぬ事ができたのならば、どれ程幸せなのだろうか)
 在るのはただの諦観だ。歓喜も愉快も疾うに過ぎて色褪せて、残るはただの灰のような諦めだけ。
 考えるのも、嫌になる。
(……ああ、無駄話は此処までにせねばな)
 アダルヘルムは竜漿兵器を握る手に力を込める。
 何度も嫌となる程に繰り返してきた感覚だ。意識せずとも体が勝手に動く。
「お望み通り刃を抜いてやろう」
 言い放った瞬間にアダルヘルムは紅涙のもとへと肉薄する。
 大仰に振るい、薙ぎ、猛攻を重ねるその姿はまさに捨て身の一撃と称するに相応しい姿だ。
 命など惜しくはない。捨てようとしても捨てられぬのだから、生に未練なぞあるものか。
「契を千切り棄て、傷付くのは結局はその心――」
 紅涙が謳うように呪いの言葉を口にすれば、血霧がアダルヘルムの心象世界にのみ生きるかつての"誰か"を映し出す。
 だが、アダルヘルムは一切動じることはなかった。至って冷静に武器を振るい、無慈悲に幻影を叩き切る姿に紅涙の方が僅かに動揺する気配を持つ。
 その僅かな隙さえも見逃さずに、アダルヘルムは蛮勇とも言える刀を叩き付ける。
 蹈鞴を踏む紅涙を更に突き飛ばして、倒れた紅涙にアダルヘルムは馬乗りになる。
 アダルヘルムの血薔薇のように赤い瞳が真っ直ぐに紅涙の姿を見た。
「約束なぞ往々にして破られるものだ。望んだ未来が叶う事なぞあり得ない――悲嘆に暮れるのならば、喪う事を恐れるのであれば、何も信じなければ良い」
「随分とお前は言い切るのだな。それでもなお、人の縁を捨てられぬのが人と言うものだろう。結局のところ信じることを已められぬゆえ、ふたたび傷を負う」
 諦めた、縁も切れた、けじめをつけたと嘯いても、結局は人に縋り希望を捨てられぬのが人間。
 そうして裏切られ、或いは喪失して余計に傷を増やしていくだけだというのに。
「……俺はそうするよ。どうせ、最後には独りになるのだから」
 アダルヘルムはふっと目を窄めて、寂しげに笑んだ。

ルカ・ルチア
ゾーイ・コールドムーン


 降り已まぬ雨は、死を乗り越えた今もなお苛んでいる。
(うん、大丈夫……生きてる)
 ルカ・ルチア(プラチナファントム・h12654)の鼓動は規則正しく一定感覚でリズムを刻んでいた。
 心臓が脈動する度に全身に熱を運んでいくようだけれど、未だ乾ききっていない体が同時に熱を奪ってゆく。
 生を確かめるかのように深く息を吸って吐く。気道を冷たい湿った空気が通り抜ける感覚に少しだけ安堵した。
(……またひとつ新しい死に方を覚えてしまった)
 果たして此れは良い兆候なのだろうと一瞬考え込む。考え込んで、ルカはすぐにやめた。
(どこれでまたひとつ、こわいものがなくなったから、良しとしようか)
 ルカは物陰に身を潜めて、銃に弾を込める。すっかり慣れた硬い鉄の感覚だけが心を落ち着けてゆく。

 赤い空間には死と絶望と雨音が満ちている。
(また雨――ううん、此処も雨が降っているんだよね)
 一方、ゾーイ・コールドムーン(黄金の災厄・h01339)は屋敷を目指し歩を進めながらも満月の双眸を窄めて紅色の空間を見据えた。
 已まない雨はないのだと、昔何処かの誰かが謳っていたような気がする。
 だけれど、今なお降り荒む雨は悲嘆に暮れる人々の涙とも似ていて彼の者達にとってはその嘆きに添い、復讐を肯定する紅涙の存在は救いのように思えるのだろう。
(……なんだか、皮肉なものだね)
 復讐という行為も、恨み続けるという心理も――綺麗さっぱり捨てて忘れ去ってしまえれば、それが一番の救いになるのではないだろうか。
 恨み続けることで、忘れられない。忘れられないことで、苦しむ。そうして流す涙は今なお降り已まぬ雨として地を打ち付ける。
 だけれど、きっと綺麗事だけでは世界は廻らない。復讐を経ないと晴れぬこともあるかもしれない。
(考えても仕方のないことだね)
 今はそれよりもすべきことがある。ゾーイは金月の双眸で眼前で血涙を流す紅涙の姿を見やる。
 あの涙はきっと、誰かが流した涙なのだろう。多少同情出来る点があったとしても、退けぬ理由がある。
「儀式は止めさせて貰うよ。他の簒奪者がきみの√移動能力を得る事は避けたいからね」
「ふっ、この身には千切り棄てられた幾多の女の情念が込められている。数多の怨念を、お前たち如きが祓えるとは到底思えぬな」
 紅涙は落涙しながらもゾーイの言葉に否定の意思を重ねた。
「光が強ければ影は強くなる。幸せであればあるほど千切れた痛みは絶望へと変わる――この恨み、お前達に解るものか」
 恨みをこめた言葉で語るは全てが満ち足りていた幸せだった頃の断片。
 虚しき花嫁の道中記譚がゾーイを襲おうとするならば、|反駁《はんばく》するように神話の概略を語る。
「恨みも、それに対する救済も全ては理解できないかもしれない――だけど、きみを止めなければならないからね。さぁ黄金の災厄とはどういうものか、その一端を語ろうか」
 付き従う死霊には周囲のインビジブルに混じり、紅涙の傍へ向かうように指示しつつゾーイは魔導書より魔弾を放ちながら距離を取る。
 紅涙は衝立で其れを防ぎ反撃のように血に染まった懐剣を投げナイフのようにゾーイへと放つ。
(なるほど。懐剣を投げるという手もあるのか)
 飛来する懐剣を交わそうとするが肩を切りつけた。
 距離を取っても余り意味を成さないのであれば、ゾーイは思いっきり踏み込んで間合いをつめる。次なる懐剣を放とうとする紅涙の腕を掴む。
「それ以上はさせないし、逃しはしないよ。きみを何処にも行かせるものか」
 ゾーイは紅涙を強く掴み、|黄金の手《ミダス・タッチ》がその身を黄金化させる。
 いきなり黄金化した体が紅涙から自由を奪う。それでも可動する範囲でゾーイへと攻撃を加えようとする刹那――三百発の弾丸が紅涙を撃ち抜いた。
「な……他にも、居たのか」
 紅涙は弾道を辿り、狙撃手がいるであろう方向を見れば紅い世界の中で|白銀《プラチナシルバー》の毛並みが映えていた。
 全く気付かなかった。驚愕する紅涙。自分の姿が見つけられたことを悟ったルカは|猟銃《墓標》を手に紅涙へと接近して、腐食の呪詛を籠めた弾丸を左胸に叩き込む。
「付喪神……人の愛や思い入れを多く受けるほど強い力を持つ、そういうものだと聞いた」
 次弾をリロードしながらルカは呟く。
「あなたもきっとたくさんの愛や祈りを受けた道具だったはず――だけど今は、見る影もないな。せっかく愛されて得た力でやろうとするのはこんなことか」
 口を動かしながらも慣れた猟師の照準は紅涙の眉間に向けられていた。
 もう少し会話をすべきか――斯様に考えたけれど、すぐにその考えを振り払った。
(やめとこう)
 同情してしまうようなことを言われたら、引き金を絞る力が緩んでしまいそうだから。
 そうしてルカは引金を爪弾く指に力を込めた。

静峰・梢


 辿り着いた紅の世界には嘆きの気配が満ちている。
 降りしきるは陰鬱な雨。血のような紅の中。慟哭と悲痛と嘆き。それらすべての|呪詛《おもい》が、まるで突き刺して拒絶してくるかのように満ちている。
「まさかこの様な方法で、雨濁りの藤の屋敷に辿り着けるとはな」
 斯様に語る紅涙の言葉に静峰・梢(月光の牙・h09074)は|射干玉《ぬばたま》の双眸を僅かに見開き、揺らした。
「方法への驚きは……全くもって、ですね」
 静かに同意しながらも梢が思い浮かべるのは、しとやかに黒髪を揺らす物静かな姉の姿。
 身を投げたなど後で姉に話したら――否、知られたら、彼女はどのような表情をするのだろう。
(今から、少し恐ろしいですね)
 怒られるのだろうか。悲しまれるのだろうか。それともまた別の表情か――どのようなものでも、きっと姉の心を揺らしてしまうだろう。
「ですが、そうまでして得たこの機会――無駄にするつもりはありませんので、そのつもりで」
「言葉だけは勇ましいが、千切り棄てられた幾多の女の情念と、数多の女の怨念を裡に秘める私を止められるとは思えぬがな」
 血のような怨嗟の涙を流しながらも憎悪に満ちた低く冷たい声で言い放つ紅涙の姿に梢は目を窄めた。
(――あの身には、幾程の怨嗟や悲哀がこめられているのでしょうか)
 内心で斯様に思って、否と思い当たる。ひとつだけ心あたりがあった。だが、それすらも己は当事者ではないから推し量るほかにない。
「あなたがその裡に秘める――恨み、嘆き。世界を呪うほどの強い感情を、私は知りません」
 怨嗟も悲哀も慟哭も愛憎も――人が人たる情念は、それを抱くに足る世界を構築して初めて得られるものなのかもしれない。
 離れの別邸と、住み込みのふたり。それから、姉様。梢を構築する世界はたったそれだけ。
 |呪詛《のろい》に至る程の情念を、己はまだ知らない。
「――だから、教えてください。その激しい感情を。世界さえおかす、呪いを」
 霊刀「|鬼王丸《きおうまる》」を構えた梢は、静かに告げる。
「私も、ある意味で愛とやらに歪められた存在ではあります」
「――何?」
 その意図を察し損ねた紅涙が訊ね返す。紅涙の訊ねに梢は応えなかった。
 だが、その代わりとでも言うかのように月の護符に秘匿していた月神「月黄泉」を解封した。
「――眼前の困難を立所に清め、打ち倒し給へ。かしこみかしこみ申す」
 応えとともに降り立った月神と融合した梢は霊刀に静寂な月の力を迸らせた。
 月の力は呪詛の気配をひらめく清浄で弾く。
 迎え来る嫁入り道具達を、籠められた呪詛ごと切り伏せる。その脚はまったく止まることなく紅涙の許まで肉薄しその胸元まで飛び込む。
「これこそが私の最も強力な加護であり、呪いに等しい力。魂の束縛です」
 言い放つと同時、薙ぐように梢は剣閃を振るった。月閃の刀は紅涙の胸元を切り裂いて、白無垢を赤色へと染め上げる。
 一閃を叩き込んだ後、すぐに梢は後退し間合いを取る。だが、後退していく梢を逃さぬという意思からか紅涙は懐剣を振るい上げて切りつけようとする。
「――させません」
 早業としか形容する言葉が見つからぬ戦いっぷりだった。梢は紅涙の動作をよく観察し、その攻撃も動きも間合いもすべてを読み見切っていた。
 振り下ろされる懐剣を霊刀で受け止めて振り払うように切っ先を薙げば紅涙の手から懐剣が零れ落ちる。
 からん、からんと乾いた音が鳴って懐剣が床に転がる。
 だが、武器を取り落としてなおも紅涙は血霧を漂わせて誰かの姿を召喚しようとしている。
 其れに気付いた梢は、召喚されようとしている誰かのもとまで跳躍し、動き出す前に切り伏せる。
 召喚により敵の増援を防ぐのと同時に紅涙から更に間合いを取るためでもあった。
(やはり、召喚系の能力を使ってきましたか――二人を相手取る腹積もりでいてよかったです)
 闇を纏い身を隠しながら、梢は紅涙の動きを観察しながら次の一手を思案していた。
 

夢野・きらら


 降り已まぬ雨が陰鬱な気配を紅の世界にもたらしている。
 死後蘇生を経てもなお、身体の芯が冷えるような感覚はきっとこのやけに冷たい雨のせいだろう。
(――慟哭の雨とでも言うべきか、この悲しみが止む気配はないらしい)
 まったく、希望も夢もあったものではない。纏わり付くような湿気を感じながら夢野・きらら(獣妖「紙魚」の|古代語魔術師《ブラックウィザード》・h00004)は冷静に周囲の状況を確認する。
 EDENと紅涙の激闘が繰り広げられている。応戦している紅涙はじわりじわりと体力を削られ追い詰められつつある気配がする。
 きららも間合いをつめれば紅涙の姿を正面から見据えた。
「きみを止められるというのなら刃を抜くがいいと言っていたね――もうひとつ、付け加えさせて貰おうかな」
 相も変わらずに赤い涙をこぼす付喪神。きららは宣言するように紅涙に言い放つ。
「きみの涙をこの出会いの中だけでも拭ってみせる」
「何を戯言を。私がこの裡に抱える嘆きや哀しみは幾人、幾度、幾多――積み重なって固まったもの。拭い去れるものか」
 戯言と言ってしまえばそうなのかもしれない。
 だが、戯言だとしても諦めるという選択肢は最初からきららの中には存在しなかった。
「きみの悲しみはきみだけのものだ。だけど魔法少女は……ぼくは、泣いている子を見ていてもたってもいられないのさ」
 それが物語で定められている魔法少女の役割だ。
 己を魔法少女と定義するならば、喩え敵であろうと手を離さないし諦めない――それが物語に於ける魔法少女の役割というのものだろう。
「とりあえずその、じめじめした花嫁道中奇譚っていうの! 話は聞いてあげるけれど自分の話しかしないのはよくないな」
 移動しながら改めて紅涙の言葉に耳を傾けど、彼女が口にするのは過去の恨み辛みのみ。
 EDEN達が投げかける声も何もかも届いている様子はない。
「もうそこまで行っちゃったなら、悲しみが悲しみを呼ぶような……堂々巡りってやつだよ」
 それこそ思い出を自分を縊る縄にしてしまっている。
 本来未来へ向かう為の原動力にすべき思い出に傷付けられてしまっているような状態なのだろう――全く以て、それはよろしくはない。
「気晴らしになるかわからないけれど、ぼくの”|改変魔術《ドリームマジック》”の世界観も見て貰おうかな!」
 そうしてきららが語るは自身が演じる役割。夢のきららは魔法少女である。魔法少女とは、すなわち希望をもたらす存在。
 斯様な絶望に満ちた光景は見過ごすことは出来ない。
 まるで絶望を塗り替えてゆくかのように紅の虚しき光景が|きららの世界《バンクシーン》へと変わる。
「今週のぼくの答えは"ルートブレイカー"!」
 |必殺技《バンクシーン》は必ず命中する。
 この場で純粋に紅涙を打倒すような術を選ぶのもよかったが、敢えてきららが其れを選択しなかったのは|魔法少女《・・・・》という役割を果たしたかったから。
「その嘆きも、悲しみも! この瞬間は忘れんだパンチ!」
 怨嗟の雨を断ち切るように、きららが放つ|破壊の炎《ひかり》が紅の空間に閃き、打ち砕く。
 雲間を割るような鮮烈な炎が消えた後、また別の光がEDEN達を出迎えた。

『――あ、雨、已んだ』

 そう口にしたのは誰の唇か。紅の世界が消え去った後に見えたのは、優しくEDEN達を照らす月明かりだった。

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