【王権決死戦】永遠の平和へ
『ペンタクルム・ゲート』関連シナリオ
これは、宿敵旅団『ペンタクルム・ゲート』に関連するシナリオです。これまでの物語は、#ペンタクルム・ゲートで確認できます。
このシナリオに登場する宿敵は、宿敵主との『Anker』関係が失われており、シナリオに参加しただけでは絶対死しません。宿敵主に対して冷淡な反応(他の参加者と同程度の反応)を示す事も多いため、その点は理解の上ご参加下さい。
このシナリオに登場する宿敵は、宿敵主との『Anker』関係が失われており、シナリオに参加しただけでは絶対死しません。宿敵主に対して冷淡な反応(他の参加者と同程度の反応)を示す事も多いため、その点は理解の上ご参加下さい。
●立ちはだかる幹部を超えて
EDEN達は強化されたペンタクルム・パールを使用した幹部宿敵を倒し、それぞれが作り出した特殊空間を見事打ち破る事に成功。
負の感情を刺激され、数多の都市伝説に襲われた者。
悪意に襲われた者、|雑音《ノイズ》の中で人形と|踊った《戦った》者、少女の愛を断ち切った者。
ありとあらゆる空間がEDEN達の心を、身体を、満身創痍と言えるほどに蝕んでいった。
だが、多くの戦いを経て強くなった。
数多の苦難を乗り越え、心の強さが幹部宿敵の力を凌駕した。
これは、大きな成果の一つ。
この時点でも命懸けの戦闘だった。
ここから先に進めば、この《ペンタクルム・ゲート》をまとめる黒幕──『アンドロスフィンクス』が待ち構えている。
EDEN達は互いに目配せし、中枢へ向かうべく進み始めた。
──コノ先ニ、行カセナイ。
簡単には進ませまいと、行く手を阻むべく『暗夜の残滓』が立ち塞がった。
●唱えよ
『【唱】ペンタクルム・ゲートを再建せよ。
【唱】楽園EDENを遍く行き渡らせる5つの扉。
【唱】開かれし扉はもはや閉ざされることなし。
【唱】それは永遠の平和へと繋がる道……』
スフィンクスゲート中枢の儀式場。
不意に危機を悟ったのか、微動だにしなかった『アンドロスフィンクス』が高い声で、歌うように詠唱し始めた。
倒された宿敵幹部の一人、骸纏ノ姫『清羅』は『アンドロスフィンクス』の近くで生き返り、高らかに歌い詠唱する様子を眺めていた。
『……アン、ちゃん…』
切なげな声で名を呼ぶが、その声は届かない。
『アンドロスフィンクス』が詠唱するのに応え、白き王劍《縊匣》が召喚された。
《縊匣》が現れると同時に壁と床が割れ、パイプオルガンを思わせる形状の大型儀式装置が姿を見せる。装置から次々とコードが伸び、『アンドロスフィンクス』と《縊匣》に接続されていく。
接続される度、『アンドロスフィンクス』は苦しそうな悲鳴をあげる。だが、どれだけ苦しくても、この儀式を成功させたいという強い意志は変わらない。
その姿を見て、『清羅』は杖についた緑の瞳で《縊匣》をギロリと睨みつけていた。
『アンちゃんを苦しめる、あの白い劍……清羅は、嫌い……』
どうして? どうして?
憎い、許さない。
EDEN達への怒り、友を苦しめる王劍への怒り。
その怒りは、友を助けるために動こうとしている。
第1章 集団戦 『暗夜の残滓』
●
「さ、人間爆弾さんのご到着だ!! ──はは! そう急かさなくても、ちょっぱやでやってやんよ!」
傷を負った状態でも諸共せず、ジェイド・ウェル・イオナ・ブロウクン・フラワーワークス(笑おうぜ・h07990)は【|先陣轟雷《ナノリコウジョウ》】を発動。派手な爆風と共に先陣を切る。
「……永遠の平和とは大きく出たね。それが、本当に誰しもが享受できるならやぶさかではないけれど……手荒な手段を使う連中のいうことは信用できないね」
そしてジェイドと同タイミングで【先陣ロマンチカ】を発動し、風と共に颯爽と現れた夢野・きらら(獣妖「紙魚」の古代語魔術師・h00004)の姿もあった。
「悪いけど、俺たちも退けないんだ。押し通るよ」
この先に進めば中枢へ辿り着く事が出来る。これまでの被害を思えば、ここで決着をつけねばとクラウス・イーザリー(太陽を想う月・h05015)は強く思っていた。
『ジャマスルナ。コノサキ、トオサナイ』
「そっちにも事情はあるみたいだけれど、こっちにもあるんだ。押しとおるよ!」
きららは仲間が進みやすいよう、鉄壁の守りとエネルギーバリアで身を固めれば『暗夜の残滓』の群れの中へと突っ込んでいく。
怪力を発揮し、群れを成す『暗夜の残滓』を掴んでは千切捨てていく。何体も、何体も──後ろに続く仲間が動きやすくなるようにと、次々と千切り倒していく。
「標的を一人には絞らないさ。みんな一緒がいいだろ? 爆破って範囲攻撃だからさ!」
ジェイドが起こす爆発は激しく、取り囲もうとする『暗夜の残滓』を爆風に巻き込む勢いを見せる。何とか避けようとしたところで、逃すつもりはないと【鎖鎌】で拘束。そこから追加の爆発が起きれば、その数は確実に減っていく。
きららとジェイドが数を減らしていくところで、クラウスは二人のすぐ後ろから【|recollection《リコレクション》】を発動。
「どうか、力を貸して」
魔力で創造した金木犀の花弁を【|無明《二丁拳銃》】に貼り付けて威力を高めれば、遠距離からレイン砲台によるレーザーと共に弾丸をばら撒くように乱れ撃つ。
三人が戦っている途中、中枢エリアから音楽のようなものが聞こえ、稲光のような光が見えた。それと同時に感じる魔力は凄まじく、距離があるというのにビリビリと緊張感が伝わるのを感じていた。
「今のは……奥から?」
「綺麗な音楽なら良いが、残念な事にそうじゃないらしいな」
「魔力も相当だね……早く、中枢に向かわないと」
どれだけ凄まじい力を感じたとしても、ここで臆するつもりはない。三人の気持ちは変わらない。前に進むため、攻撃の手を止めず立ち向かう。
「怒りをぶつけたっていい。けれど、それをぼくらにぶつけられる理由はわからない。話し合いができるまで敵を倒して、落ち着いて貰おうかな!」
「どんだけ痛かろうが、耐えりゃいいだけ! 仲間が優位に立つため、このまま突き進む!」
「ここで立ち止まる訳にはいかない。君達には悪いけど、ここで倒させてもらうよ」
押し通すための壁となるきららが前で攻撃を受け、そのすぐ後ろからジェイドとクラウスによる爆破と銃撃は止まらない。塞ぎ続ける『暗夜の残滓』の群れを薙ぎ倒し、奥へ続くための道をつくっていく。
この先は、更なる危険が待っている。
それでも立ち止まらない。確かな正義が、胸にある限り。
●
特殊空間での戦いに疲労感は残るものの、この先に進めば黒幕である『アンドロスフィンクス』が待ち構えている。だが、向かうにも行く手を阻む『暗夜の残滓』の姿を視界に捉えると、イリス・ローラ(支配魔術士見習い・h08895)はポツリと小さく呟いた。
「邪魔な連中が出てきたね」
はぁ…と溜息一つ。邪魔をするならば排除するのみだと、イリスは【|怪異変身術《クリーチャー・チェンジマジック》】を発動。
「支配の魔力で自分を支配・改変すれば、何にだって変身できるよ」
エルフの姿から赤毛の大熊型怪異へと姿を変え、大きく息を吸い込めば焼却の力を込めて激しく火炎を吐き出した。燃え盛る炎は『暗夜の残滓』の視界を奪い、動きを遮った。
「悪いが、これ以上好き勝手させるつもりは無い。──|茨の蔓を操る魔法《シュタルテン》」
イリスの後ろから、システィア・エレノイア(幻月・h10223)は【|茨の蔓を操る魔法《シュタルテン》】を発動。自らの足元の影から黒い影茨を伸ばし、群がる『暗夜の残滓』を捉えれば【詠唱錬成剣】を斧へと変形させ次々と叩き斬っていく。
「スコル、ハティ。お前らも頼む」
二対一体の攻性インビジブルが狼の姿へと変わり、太陽と月を追う【Skoll & Hati】を呼び出すとシスティアやイリスの死角を守るべく立ち回る。
イリスは続けて白猫型怪異へと変身し、音もなく静かに敵の死角へ移動。それに気付いたシスティアは意識を自分に向けようと、わざと大きく立ち回る事でイリスが動きやすいようにした。
すると、中枢から音楽のようなものが聞こえてくる。苦しげな悲鳴と共に奏でる音楽、そして、稲光のような光が激しく明滅していた。
(何? 音楽が聞こえてくる……)
(奥からだな。この先にいるっていうのは間違いなさそうだ)
中枢からビリビリと感じる威圧。
緊張感も伝わる。ここから先に進めば、命懸けになるのは間違いないのだと二人は肌で感じていた。
「それでも、引かないと決めてるから」
白猫に化けていたイリスは、広範囲が視界に入るよう高く跳び上がれば【|支配による不運《ドミネイト・バッドラック》】を発動。
「支配がもたらす不運に耐えられるかな。──この後も戦闘が続くからね。ここは安全策で行くよ」
数多くの敵を視界に捉え、支配の魔力による強制的な運気の低下させれはその隙を狙いシスティアの斧が数多く斬り伏せていく。二人の連携により、取り囲んでいた『暗夜の残滓』の数は減っていった。
「大切なひとのように多くを奪われる犠牲を出さない為に命を賭けるけれど、捨てに来たわけじゃない。……あのひとの傍へ帰りたいと、今なら確かに言えるから」
ここで死ぬつもりはない。
死を覚悟していても、生きて帰るのだという思いは強い。それは──帰りを待つ仲間が、大切な人がいるから。また笑い合うために、今は振り返ることなく戦うと決めている。
塞がれていた道は、確実に通れるくらいにはなりつつあった。
だが、まだ完全に倒しきった訳では無いからこそ、二人は背中を合わせて武器を構え続け、確実に通れるように道を切り開いていく。
●
意識を取り戻し、ふらりと立ち上がった折木・龍也(伏龍・h13162)は小さく溜息をつく。その理由は行く手を阻む『暗夜の残滓』の姿を捉えたからだ。
「ここまで来て、帰れねえだの還りてえだの言われてもな。悪いが、通してもらうぜ」
仲間が先陣切ってくれたのもあり、進行する道は切り拓くことが出来ている。ならばと決戦型WZ【ユーサネイジア】は無闇に突っ込ませることはせず、射線と退路を確保しながら前進させることに。
「ミストレスを倒したのも束の間のエクストラステージ、というやつですね! √WZ出身者としては、あんなヤツらのとこにインビジブルを横流しするなんて認められませんです! このゲート……そしてスフィンクス、まるっとぶっ壊しますです!」
命懸けのエキストラステージが始まろうとしているけれど、ラピス・ノースウィンド(機竜の意思を継ぐ少女・h01171)はめげるどころか、さらにやる気に満ちていた。
今もなお、中枢から響き渡る悲鳴混じりの音楽と、激しい稲光が明滅している。龍也は横目で見ながら、時間をかけている場合ではないというのを改めて感じていた。
(急ぐ必要はある。だが、焦って死ぬ必要はない)
ここから先は危険が伴う。焦ってしまえば、命取りになりかねない。だからこそ、今は焦らず目の前にいる敵に集中するのみ。
──3秒。この短い時間で厄介なものを増やすのなら、それを止めるべく動こうと龍也は意識を集中し始めた。
「……なら、動かすぞ」
広範囲に及ぶ【|霊震《サイコクエイク》】を発動し、詠唱や体幹を崩すのを試みる。大きな揺れに『暗夜の残滓』は詠唱に集中出来ず、数を出そうにも出せなくなっていた。その範囲から逃れている敵が燻る無念を増やしてきたのも冷静に見据え、龍也は【Last Call】を構えて震動に加えて銃撃でも確実に数を減らしていく。
「悪いな。未練話に付き合うほど、俺も暇じゃない」
この場での戦闘を終え、この先へ進まなければならない。
だからこそ、余計な時間を使うつもりは無いから。
それは、共に戦うラピスも同じ思い。
雷撃を纏わせたガントレット【機甲骨格ゲオルギウス】に力を込め、群れを成す『暗夜の残滓』へと突っ込んでいくと、拳を振り下ろしながら【|龍虎猛追撃《リュウコモウツイゲキ》】を発動。
「ブッ壊れるまで、ぶん殴る!」
厄介な詠唱なんてさせるつもりは無いと【ナーガラージャの掌】を構え、グラップルで一気に距離を詰めれば連打を叩き込んでいく。一発、二発、その連撃は止まらない。加えて『暗夜の残滓』の身体に巻きついている鎖を掴めば引っ張って強い一撃を打ち込む。
「こちらは雷を纏っているのでへっちゃらです!」
『暗夜の残滓』は身を守ろうとラピスの攻撃を反射してきたとしても雷撃に対しての耐性は高いのもあり、怯むこと無く追加の一発。目潰ししてこようとしてきても、上を向きつつ攻撃を受け流しながら確実に数を減らしていった。
「そっちは何とかなりそうか?」
「はい! 数はだいぶ減ってきたかと!」
龍也の声掛けに、ラピスは力強く頷く。
後はこのまま押し切るのみ。二人は息を合わせて、敵を倒しながら中枢へ向かいやすくするよう立ち回り続ける。
●
「―――――――変わらんな。変わらんよ。そうとも、変わりはすまいとも。死は絶対であり、死は平等であるが故に」
ぽつり、ぽつり。橋本・凌充郎(鏖殺連合代表・h00303)は静かに言葉を紡ぎながら、バケツに開けた穴越しに『暗夜の残滓』の群れを見据える。
「ここまで皆で頑張ってきたんです。あとはもう、行くしかない!」
ここまで来るのにも、あらゆる苦難がありながらも仲間と共に進んできた。アネリス・コーネリウス(真紅・h09190)が見据える先は、悲鳴混ざる音楽が奏でられる中枢のみ。
「―――――さて。本来ならば俺の与り知らぬところではあるが……ただでさえ面倒な、厄介な√汎神に、これ以上に更に余計なものを繋ぎ止められては困るのでな。災厄や怪異共に、余分な餌を与えかねない行為を見過ごすわけにもいかん。―――――なればこそ、俺も殺しに参加しない訳には、いくまいよ」
凌充郎は淡々と言葉を紡ぎながら、鏖殺本能を覚醒させて【|死喰らいの大叫喚《ビーステッド・ヘルエグゼクト》】を発動。
「──────根絶する。きっと全て殺し、澱みを潰し、腐りを砕き、総て殺すとも。全ての同志、同胞達の為に。――――――ではいくぞ、立ち塞がる者ども。例えなんであれ……砕き、潰し、壊し、踏み越えるまでだ。――――――鏖殺連合代表、橋本凌充郎である」
自らの能力を高めながら、凌充郎は続けて【|死喰らいの等活《ビーステッド・カッティングエッジ》】を発動。
「──────くたばれ。死に損なう事は許さん」
【故絶やしの拳銃】を手『暗夜の残滓』の群れへ向けて弾丸の雨を放ちながら、紛れるように麻痺弾を放つ事で動こうにも体が痺れて動けなくなっていく。その数は弾丸が当たれば当たるほど増えていき、その隙を狙って【故殺しの回転ノコギリ】を構えれば鈍い機械音を響かせながら力強く重い一撃で斬り伏せた。
「――――――無念を謳う、故郷への郷愁の念か。ならばせめて死の淵にて、静かに沈め」
今もなお、中枢からは悲痛の音楽が奏でられている。
この場でどれだけ派手に戦ったとしても聞こえてくるのは、奥で待ち構える『アンドロスフィンクス』の覚悟の表れか。
「このヤバそうな音楽の鳴っているほうへ行けばいいんですよね、わかりやすくて助かります」
アネリスは愛用の白い【羅紗】を手にし、古代の英智を用いた羅紗魔術を唱え【|Turn the Beat Around《ターン・ザ・ビート・アラウンド》】を発動。
「踊るように舞いましょう!」
ひらり、はらりと白い花弁が舞い上がり、広範囲の敵を巻き込むように魔力を放つ。この拠点を進む中でアネリスは確かに成長してきたからこそ、この成長をバネに前へ出る。後ろに続く仲間達の負担が少しでも軽くなるように、軽やかに舞い踊りながら魔法を放ち続ける。
(とはいえ、連戦は少し負担が大きいですね……)
周囲にいる『暗夜の残滓』を倒し終えた段階で足元が少しふらついてしまい、アネリスは近くの壁へと手をついた。
まだ終われない。先に進まねばならない。小さく深呼吸をしながら、羅紗魔術による医術で回復を施していく。
「この先も戦いは続きますからね、短時間でも休息はしっかり」
進むためにも体はしっかり休め、体の塩梅を確認してから小さく頷く。凌充郎はアネリスの状態を横目に確かめ、少しでも負担を減らそうと回転ノコギリを振るい続ける。その援護をするように、アネリスの魔術も放って数を減らしていった。
『暗夜の残滓』の群れが減ることで、中枢で待ち構える『アンドロスフィンクス』の姿が少しずつ見え始める。奏でる悲鳴の音楽は、今もなお戦場に響き渡る。
●
「やっぱり、お友達を大切に思ってらっしゃるんですね。清羅さん……」
遠くに見える『アンドロスフィンクス』の近くで苦しむ『清羅』を見て、見下・七三子(使い捨ての戦闘員・h00338)はキュッと胸が痛んだ。友を思う心は同じなのに、信じるものが違うから戦わねばならない。分かり合えたなら、手を取り合えたらどれだけ良かったかと思わずにはいられなかった。
「|資源の価値《インビジブル》を平等に供給するってか。失楽園戦争で何を目撃したのかは興味深いところだけど、貴さと犠牲が釣り合わないね?」
《ペンタクルム・ゲート》がやろうとしていること、過去に何を見てきたか。未だ情報が分からない部分も多いからこそ、二階堂・利家(ブートレッグ・h00253)は顎に手を添えて興味を示していた。だが、こんな釣り合わないことをしてどうするのだろうという疑問も残り、どちらにしてもこの先に向かわねば分からないかと思えば、取り囲んでくる『暗夜の残滓』へと視線を向けた。
(争いのない世界など存在しない。誰かの正義が、誰かを傷付ける事もある。だから世界の在り方について語るつもりはない)
八月一日・圭(螺鈿を纏う修羅の語り部・h09402)は冷静に考える。世界に等しく燃えることはない。そこには争いが尽きないし、今もこうしてそれぞれが信じる正義がぶつかり合っている。ならば、多く語る必要は無い。
「でも、僕にも、戦う理由があります」
ただ一人、傍にいてくれる大切な妹を守るために。生きて帰るため、失いたくない日常のために戦うのだと心に決めているから。
三人は目配せし、進むべき前を見る。
この奥には『アンドロスフィンクス』が待ち構えている。幹部宿敵との戦いで疲労感が残ったままだとしても、ここで立ち止まるわけにはいかないから。
「……そうですね。そもそも「自然」を尊ぶなら、あなたも手を加えないのが一番「自然」なのでは。ふふ、大丈夫。あなたにも、何か理想があるんですね。ですが、それは私の理想とは違うので、全力で止めさせていただきます」
「貧しい√に施しを与える為に、いったい√EDENの何人の住人が犠牲になるんだよ。富める者が飢える者に手を差し伸べるなら、先ずは限りある生命を浪費する|簒奪者《悪逆無道の徒》が全員消えれば解決だな!!」
「あなたにも理由があるように、僕にもあります。大切な人達の平穏を脅かすなら……それは僕にとって、十分に戦う理由です」
まずはと七三子が前へ出て、利家と圭が動きやすくなるよう【|警邏作戦《パトロール》】を発動。
「ふふ、ちゃんとお護りしますね?」
喚び出した戦闘員達の一部は二人の側に仕え、他の戦闘員達と共に七三子は群れを成す『暗夜の残滓』へと立ち向かう。囲んで詠唱し始めようとする敵から順に鋭い蹴りで吹き飛ばし、例え遠くに離れている敵が詠唱し始めたとて、戦闘員と入れ替われば容易に防ぐことに成功。
七三子が向かったのを見て、利家も【カイザーナックル=アウグストゥス】に力を込めれば【|百錬自得拳《エアガイツ・コンビネーション》】を発動。敵の数は減っているといえど、残しておけば邪魔になるはず。だからこそ少しでも危険なものは排除しようと、力強く、重い一撃を確実に叩き込む。
「抑え続けた想いよ……いま剣に宿り、怨敵を討て――修羅顕現」
利家と別の方から迫り来る敵を見据え、圭は【霊刀真黒】を手に【|修羅顕現《シュラケンゲン》】を発動。業火を宿す怨念の剣鬼“修羅”を纏い、素早い動きで敵の群れへと詰めれば《霊剣術・夢想修羅》を放つ。どれほどの残滓や想念に足を止められたとしても、それを打ち払うかのような鋭い一閃は確かな覚悟を秘めていた。
『暗夜の残滓』が減っていくことで、危険を察知したのか中枢から聞こえる音楽に悲痛なものが増していく。これ以上邪魔をするなと言わんばかりに稲光も激しくなっていた。
「さて、だいぶ数は減ってきたか?」
「減ってはきてますが、油断は出来ません」
「大丈夫ですっ! 力を合わせれば問題ありませんっ!」
確固たる覚悟を胸に、三人は前へと進む。
信じた正義、絆がある限り、立ち止まる理由はない。
●
「ちゃんと喋れたんや。でも大層な事云うてるけど、矛盾ばっかやんな」
『アンドロスフィンクス』が一時的に理性を取り戻したのもあり、独特な話し方をする印象が強かった事から、アストラガルス・シニクス・グリーヴァ(戦場駆ける銀蓮華・h09567)は軽く目を丸くして驚いていた。
「元々、宿敵旅団の簒奪者はスフィンクスが集めたのでしたね。彼女が消えれば瓦解するのか、それとも協力関係自体は維持するのか……」
キッカケは『アンドロスフィンクス』の呼び掛けだった事を、ディラン・ヴァルフリート(義善者・h00631)は思い出す。この先で倒す事により《ペンタクルム・ゲート》という組織がどうなるか、それすらも未知なのは変わらなかった。
「知性を捨てるに足る大義、ですか……それは、本当に正しいのでしょうか?」
知性を捨てたとて、それが正しいかどうかは分からない。そうまでしてでも果たしたい事があるのだということは伝わるけれど、玉響・刻(探偵志望の大正娘・h05240)は『アンドロスフィンクス』の行動には理解が出来なかった。
「いずれ破綻を来たすシステムが自然な状態というなら、それを正し乗り越える為に必要な物こそ、知性では無いのですか?」
「でも大層な事云うてるけど、矛盾ばっかやんな。誰かが|調整した《手を入れた》時点で自然やないし……いずれ腐敗し、戦乱と動乱が起こるなら、それは永遠の平和やないやん?」
「何にせよ、王劍を抜いたなら見逃す理由も無し。仕留めてから経過を見るとしましょう」
言葉が通じぬのなら。そして、行く手を阻もうと群がる『暗夜の残滓』は三人へ敵意を見せているのならやることは一つ。それぞれ武器を構え、道を開くために戦闘態勢に入った。
「まー、ごちゃごちゃ云うた処で俺は敵を殴るんがお仕事やからな、始めよか。先ずは、足止めを突破せなな」
アストラガルスはガトリングガン【リコリス】を構え、照準を合わせると同時に【|総力攻勢《フルアタック》】を発動。
「──ちょおっと、大人しして貰えるか?」
赤い華を咲き散らせるかの如く、大量の弾丸が勢いよく放たれる。【リコリス】から放たれる激しい弾幕は、燻る無念ごと蹴散らしていく。あわよくば『暗夜の残滓』の本体を狙えたら上々と赤い華を咲き散らせていけば、本体にも一部の弾丸が直撃。攻めるなら今だとダッシュで接近すれば、月の光を帯びた退魔の銀鎖【ムーンフラワー】で本体を捕らえ、アストラガルスは【菖蒲】に持ち変え鋭い一閃を繰り出す。
その近くでディランも【Legion/飛葬殲刃】を手に構え、なるべくここで力の多くを使わないよう気を付けながら動き出す。反射されては厄介だと霊視で視野を広げつつ、3秒という短い詠唱する時間すらも逃さないと大きく振りかぶって薙ぎ斬っていった。仮に詠唱が成功したとて、第六感を働かせれば攻撃を防ぐべくオーラ防御でダメージを軽減する。
アストラガルスが本体を見つけてくれたのを見て、ディランはすかさず【|忌刻:邪道ノ業《ロア・リベレイション》】を発動。
「邪を以て……悪を制す。欺瞞、ですね」
ディランの中に何かが干渉してくるのを感じながらも、仲間の動きから必要な力──腕力を高めて【Legion/飛葬殲刃】を力いっぱいに振り下ろす。悪性が顔を覗かせようとするのを感じるがディランは必死に抑え、冷静に『暗夜の残滓』の本体へ攻撃を続けた。
「さて、当然ですが足止めはいますよね。逆に言うならこの先にいる、という事ですねっ! なら、無駄に時間をかけずに突破させて頂きますっ!」
刻も護刀【羽風】に手を添え、まずは取り囲んでくる燻る無念を倒していこうと【|胡蝶乱舞《コチョウランブ》】を発動。
「黒い胡蝶は死を告げる蝶、ですっ!」
淡く光る無数の黒い霊蝶が、ひらひらと飛び交う。それはまるで死神の如く、狙いを定めた敵から順に倒そうと閃刃・告死蝶での素早い一閃を繰り出す。
確実に、一体ずつ。数が減っていけば、その流れで本体へ距離を詰めれば死を告げる鋭い斬撃が『暗夜の残滓』の体を斬り裂いた。
燻る無念に紛れていた『暗夜の残滓』に対し、確実にダメージを重ねている。苦しそうに呻く後ろで、悲鳴混ざりの音楽が稲光の明滅と共に響き続けていた。
三人は息を合わせ、力を温存しながらも戦い続ける。
全てを終わらせる、そのために──。
●
「コノ先ニ、行カセナイ……か。そう言われても…これから起こることを止めたいし……。色々と放っておけないから、引き返すわけにはいかないんだよね」
先程の幹部との攻撃でのダメージがやや残るのを感じながらも、赫夜・リツ(人間災厄「ルベル」・h01323)の黒瞳が捉えるのはこの後向かう中枢エリア。このまま放っておけば、多くの√世界に危険が及ぶ可能性がある。今ここで止めなければと引き返すという選択肢は無かった。
「ついに黒幕……本丸への道筋が見えたのね」
かつて宿敵だった幹部との戦いを乗り越え、ライラ・カメリア(白椿・h06574)もまた空色が見据えるのは進むべき場所。腰に下げた|Valkyrie《愛剣》の柄をぎゅっと握ると同時に、華奢な体が小さく震える。恐怖? 違う、この後戦う強者への戦いを前に武者震いしている、自分にそう言い聞かせて。
「その平和は本当かな? アンドロはペンタクルム・ゲートの元栓を独占したくなる致命的な欠陥?っぽい何かを知っているみたいだけど、裏があるのか言いたくないみたいだね」
何を目論んでいるのか、隠しているのか。情報はまだ少ない現状の中で、レイ・イクス・ドッペルノイン(人生という名のクソゲー・h02896)は少し考えてみる。思えば、知性を無くすのにも理由があるはず。そこまで考えた上で、当然引くという選択肢は無かった。
「……立ち塞がるなら、君達をなぎ倒すまでだ。そこをどいてくれ」
ポケットから【血液貯蔵瓶】を取り出すと、片手で蓋を開ければ【異形の腕『ギョロ』】へどぷりと垂らしていく。新鮮な血を与えられた事で力を発揮すれば硬化し、力が漲るのを感じながら【|荒れ狂う剛腕《アレクルウゴウワン》】を発動。
「どいてくれる?」
《テメェらなんざ倒してやるよ!》と【ギョロ】も煽り文句を叫びながら、ゴウッと勢いよく『暗夜の残滓』の群れへと叩き込む。──嫉妬、悲嘆、無念。いずれ還ると言葉にしながら振るわれる攻撃を黒瞳が捉えれば異形の腕で防ぎ、お返しだとばかりにそのまま勢いをつけて殴り返した。
「……縊匣。今度は、アンドロスフィンクスに強大な力を貸すのか。どちらの望みも叶ったら、大変なことになる。何としてでも食い止めないと……」
これまでも多くの簒奪者が、縊匣によって大きな動きを見せた。そして最期は散っていき、今度は『アンドロスフィンクス』と共謀を図ろうとしている。
変わらず厄介な王劍だと思いつつ、リツの攻撃は激しさを増していた。
「“永遠の平和”……その言葉、わたしは信じられないの。少なくとも、淫蕩の悪魔『|アスモデウス《憎き元宿敵》』がそちらについている限り!」
どんな形であっても、かつての宿敵が《ペンタクルム・ゲート》に手を貸し続ける限り平和が訪れることは無い。ならば立ち向かい続けると強い意志を胸に秘め、ライラは一度深呼吸をして心を落ち着かせる。
今はまだ冷静に、活路を見出さねばこの手は届かない。心を落ち着かせ、深呼吸を繰り返しながら胸に手を当て祈りを捧げると、ふわりと花びらが舞い始めた。祈りを力に変え、ライラは【|pétale《ペタル》】を発動。
「さあ、舞い踊りましょう──!」
軽やかにステップを踏むかのように前へ出れば、祈りに応えた花弁を周囲に放って攻撃を仕掛ける。華やかで鮮烈な花嵐が取り囲もうとしていた『暗夜の残滓』の群れを薙ぎ倒していく。距離を詰められても愛剣【Valkyrie】を抜き、素早く斬り伏せてすぐ花弁に隠れるように姿をくらませれば、死角からの一閃を繰り出した。
このまま『アンドロスフィンクス』の思惑通りに進んでしまえば、大切にしたい|世界《いま》が壊されてしまう。この先でどれだけ命懸けの戦いになろうとも、大好きな人達の笑顔を守りたいからこそ、今は怖いなんて言ってられないから。
「みんなの笑顔を守れるのなら、わたしは戦えるわ」
気高く空色が輝く。ライラの守りたいという祈りが花弁へと伝われば、花嵐の勢いは凄まじいものへと変わっていく。
(どうか、苦しみが一瞬で終わりますように。安らかにお眠りなさい──)
少しでも痛みを感じないまま眠れるよう、激しさの増す花嵐に優しい祈りも織り交ぜて。
「この敵はあまり強くなさそうだけど..……残っている数が多いと、次が厄介になる気配がする」
この先に進むなら厄介になりえそうな敵は排除しなければと考え、レイは保守プログラム【ノンセンチメンタリズム】によって自身を守りながら精神攻撃に耐え抜く。身を守りながらこれは厄介だと感じれば、数多くを倒すべく【|メソッド・亜空間力学《ナゾノシ》】を発動。
「ガバエイムでも安心……なのかな」
レイン砲台【グラビティ・スノウ】によるレーザーの雨、そこに追尾弾【ラビングストライク】の爆破が多くの『暗夜の残滓』を巻き込む。仮に逃れようと動いたとしても、誘導弾が追跡してくるのもあり、逃れることなく着弾していく。
更に、レイは強化パッチ集【トキソプラズマ】に内蔵された処理軽減MODで処理パフォーマンス向上。素早い動きでの攻撃の手数を増やし、素早さを活かした事で残像が残ればフェイントとして攻撃を避けやすくする。
「ここで遊んでられないから、先に進ませてもらうよ」
激しい戦闘音、鳴り響く音楽。
この後に続く戦闘が、さらに激化するのを表しているようだった。
●
(他のEDENも来るんだろ? そんなら、少しでも倒しやすくなるようにしておくか)
怖いものなんて|何も無い《欠落している》。どれだけ厳しい状況であっても、生きるための答えをみつけようと墨・迅(黒衣の迅・h12802)は赤瞳で『暗夜の残滓』を見据えた。
「遠慮はなしだ。派手に暴れようぜ?」
不敵な笑みを浮かべ、大量の暗器【路地裏の百舌】を広げながら【|易経・八卦巡天陣《エキキョウ・ハッケジュンテンジン》】を発動。
「|乾《けん》、|易《えき》を|以《もっ》て知る。|坤《こん》、|簡《かん》を以て|能《よ》くす。──巡天、開陣」
淡々と、粛々と。易経の一節を語れば迅の足元から広範囲に渡り八卦陣が敷かれる。自分も仲間も、語り敷かれた八卦陣の中では力が漲る。さっさと終わらせてやると言わんばかりに、鋼糸、短刀、呪釘を『暗夜の残滓』の群れ目掛けて投げ飛ばす。細い鋼糸が絡むとそのまま絞めて断ち斬り、短刀や呪釘が突き刺さったりと的確にその数を減らしていく。
暗器の雨を潜り抜け、迅の懐へ攻め入ろうとしてくるのが見えれば【朱紐の浄銭】を手に構え、鋼糸で足元を絡めとった後すぐさま斬り伏せた。
「帰りたい、還りたい……か。悪ぃな、俺も帰る場所を守るためにここを通る」
未だ生きる答えは見つからない。けれど、忠誠を誓うと決めた人がいる。野良犬のように生きてきたとしても、恐怖する事を失ったとしても、答えを見つけるために、主人の元に帰るために戦うと決めているから。
どれだけ厄介な想念の残滓が群れを成したとて、迫り来る攻撃を見切り、身を翻してひらりと回避。狙いを誘導されたとしても、そう簡単に狙い通りには動かない。攻撃のタイミングをずらし、迅は【朱紐の浄銭】を構えて捨て身の一撃を叩き込んだ。
「……恐怖はねぇ。けど、失いたくねぇもんくらいはあるんだよ」
だからこそ、《ペンタクルム・ゲート》がやろうとしていることは止めなくてはならない。万が一にでも事が起きてしまえば、失いたくないものまで失う可能性があるのなら、真っ直ぐ迷いなく進む理由になる。
死にに行くのではない。生きて帰るために。
これが、今この場で生きるための答え。
「ちゃんとした答えが見つかるまで、死ぬつもりはないんだ」
迅の覚悟に迷いは無い。
仲間と共に進むため、繰り出す一撃は力強いものだった。
●
「この先にアンドロスフィンクスが……。そうとわかれば、ここで立ち止まる理由はないっすね。忌まわしい事件を止めるために行きましょう」
先の戦いでこめかみを殴られたのもあり、まだ視界が軽く揺らぐのを感じながらも、クロック・ロック(狂気の猟犬・h01715)は力強く立ち上がる。この程度で立ち止まるほどヤワじゃない。これ以上人知れぬ被害を出さないために、こうして攻めに来たのだから。
クロックは気合いを入れ直し、自身の姿を黒い犬のような怪物《ティンダロスの猟犬》へと変えれば【|Lockdown《フウサリョウイキ》】を発動。
「恐怖を、ここに」
始まるは狩猟。猟犬となったクロックは、鋭い【鉤爪】で次々と『暗夜の残滓』の群れを斬り裂く。仮に避けられたとしても空を切る事で、恐怖を引き起こす霧が立ち込める封鎖領域をつくりだし、その空間に群れを閉じ込めるのも計算に入れていた。
封鎖領域に閉じ込められた『暗夜の残滓』は恐怖を感じ、詠唱するにも集中が途切れていて。その隙を狙い、確実に斬り裂き仕留めていきながら、何とか領域から逃れて詠唱試みるのを視界に捉えれば、すぐさま飛びかかって噛み付き他の個体がいる方向へ力いっぱいに放り投げる。
「パールといい、ゲートといい、自分には良いものとは思えません。この歪んだ計画を、終わらせに行くっすよ!」
仲間も言っていた。『アンドロスフィンクス』の言葉は良いように聞こえはするものの、矛盾が生じる事をしているのでは無いかと。ペンタクルム・パールという物自体も厄介だった。悪意から生み出し、飲み込めば強大な力のなっていた。あらゆる√世界を繋ごうとしている技術も相当なものだからこそ、悪用される前に止めねばならない。
歪んだ計画はここで終わらせなければ。
クロックもまた星を詠む力を持つ一人。自分の力も及ばない事件が増えるなどあってはならないからこそ、その決意は揺らぐものではなかった。
「ここら辺で、そろそろ退場してもらうっすよ」
未だ行く手を阻む『暗夜の残滓』を鋭く睨み、この場で狩り尽くさんと戦い続ける。
確実に、前へ進むための道を開くために。
●
先陣を切り、他のEDEN達が《ペンタクルム・ゲート》への逆侵攻を進めたことにより、容易に潜入出来るようになっていた。少し遅れた形にはなったが、花喰・小鳥(ミグラトリス・シェルシューズ・h01076)と瀬条・兎比良(善き歩行者・h01749)は拠点内へと潜入し、中枢へ向かう道中を阻む『暗夜の残滓』を視界に捉えて立ち止まる。
「適度な緊張感は大切です。油断せず進みましょう」
「問題ありません。常通り、適切に対処しましょう」
二人は冷静に状況を判断し、目配せを一つ。
そして、小鳥が先に前へ出れば【|電子妖精《モーラット・コミュ》】を発動。
「月の海より揺蕩いて」
小鳥の呼びかけに《モーラット・コミュ》が召喚されれば「もきゅ!」と気合十分に敵の群れの中へ突っ込んでいき、ワイファイスパークで周囲にいる複数の『暗夜の残滓』へ攻撃。それと同時に【|黒薔薇《フォーミダブル》】を構えれば大きな銃声を響かせた。
小鳥のすぐ近くで兎比良も【|茴香《ミスティリオン》】を構え、特攻に合わせた牽制射撃で撃ち抜く。的確に撃ち抜きながらも、接近してきた『暗夜の残滓』を視界に捉えれば、空想未来の技術が込められた【|左腕《カギ》】の怪力を上乗せしてナイフで応戦する。
二人の攻撃は死角をカバーし合い、的確に数を減らしていく。──が、厄介なのは詠唱による召喚で数を増やすこと。小鳥はそれに気付くと、兎比良に声を掛けた。
「動けば、あの“情念”は消えるようです。何とかなりませんか?」
「承知しました。では、その固定砲台を崩しましょう」
小鳥の言葉と『暗夜の残滓』の動きを見て状況を察すれば、兎比良は【|【物騙】「木偶の舞台装置」《フルオーダースター》】を発動。
「功徳を騙れ」
敵の周囲にある壁や床に《青い星の願い》を宿らせることにより、ぐらりと一定の場所に留まれないよう不安定化させる。それにより詠唱が困難になったことで、次々と情念は消えていくのを見れば二人はその隙を逃さない。
小鳥の援護射撃に、モーラットのスパーク、兎比良の見切り射撃が的確に数を減らしていく。
(戦闘や進行の妨げになってもいけませんね。適宜修復もしておきましょう)
あくまでも『暗夜の残滓』の周辺のみ。
それ以外は進行の妨げにならないよう、兎比良は操作を施していく。
「撃墜は任せます、小鳥」
「任せてください」
「もっきゅる!」
この後に控える戦いは長期戦になり得るかもしれない。ならば邪魔する敵は確実に撃破していき、進行の楔になるよう前に出る。
幸いにもまだダメージは浅い。先に侵攻してくれた仲間が疲弊しているなら、彼らの消耗を抑える事にも繋がるから。
全ての√世界が繋がり、命が均等になったとて、それが幸せに繋がるのか、平和に繋がるのかは分からない。けれど、『アンドロスフィンクス』が成そうとする先に平和は存在しないならば、ここで断ち切る必要がある。
平和な世界が無ければ、守るべきものも守れない。
だからこそ粛々と。二人は、目の前にいる悪を裁き続ける。
●
他のEDEN達と少し遅れて《ペンタクルム・ゲート》に潜入した夜風・イナミ(呪われ温泉カトブレパス・h00003)は、見慣れぬ機械や雰囲気もそうだが奥から聞こえてくる悲鳴が混ざる音楽に思わずビクッとなった。
「決死戦、怖いですがチャンスでもありますよね……頑張ります」
恐る恐る進んでいると、イナミの行く手を阻む『暗夜の残滓』の群れが現れた。不気味な雰囲気も相まって、思わず小さく悲鳴をあげてしまうほど。
「大義だの色々言うなら、理由を話せ理由を! いきなり殴られたら、殴り返すしかないんですよこっちは!」
ビシッと中枢エリアを指差しながら、真心・観千流(最果てと希望を宿す者・h00289)は大きく叫ぶ。攻撃を仕掛けてくるのなら攻撃で返すしかない。『アンドロスフィンクス』の話し合う余地も与えない部分に、怒りを露わにしていた。
「ひいっ! いっぱい……でも進みます」
ここで怖がってばかりでは前に進めない。
漸く掴んだチャンスを無駄にしないためにも前に進むんだと自分を鼓舞すれば、イナミは近くの呪詛を纏い【|怨霊纏《オンリョウマトイ》】を発動。
「うらみはらさでおくべき……です」
呪詛の力と移動力を高めれば、眼鏡を外して紫の瞳が露わにすると【|石化の魔眼《セキカノマガン》】を発動。
「と、止まってください!」
仲間を巻き込まないよう、視界に入れるのは『暗夜の残滓』だけにしながら、鎮メ牛の呪詛による石化の視線で次々と石化させていく。そこから更に巨大な釘を打ち付け、蹄で力いっぱいに踏み付ける。
頭に被っている牛頭蓋によって呪われた事で得た力。望んで手に入れた力ではないけれど、こういう時だからこそ役に立てようと全力を振るい続けた。
「どんどんバケモノ感あがっちゃいますが、決死線でそんな事気にしてる暇もないです……!」
自分の姿が取り憑く鎮メ牛に近くなったとしても、仲間も命を賭けて戦うのなら呪いの力だって存分に発揮するから。
悲嘆の焔を放たれたら厄介だと考えた観千流は【レイン改・叢雲】を起動し、レーザーを一点集中させると光の剣を生成。先ずは近くにいる敵からと言わんばかりに光の剣で叩き斬り、一部の『暗夜の残滓』が標的を観千流に向き出した。焔が光の剣に直撃すれば消えてしまうが、それは想定の範囲内。本命はこっちだというように【|必殺名剣・カミキリ丸《ナンカアソンデタラデキタヤツ》】を発動。
「どこにしまってたとか言わないお約束!」
丸腰だと判断していた『暗夜の残滓』 は隙をついて襲ってくるも、42回折った上で量子固定した折り紙で作ったカミキリ丸を構えてフェイントかけてのカウンターを仕掛ける。
「奥に用事があるので、一気に道を切り開きますよ!」
イナミの石化と蹄での踏み付け、観千流がカミキリ丸を大きく振り回す事で数多くの敵を巻き込んで薙ぎ払う事で敵の数が減り、中枢へ向かう道はどんどん広くなっていく。
道が開けた事で稲光が激しく光るのが見え、悲鳴と音楽が大きく聞こえてくる。成したい事がある。そのために自分を犠牲にしたとしてもという強い思いが痛いほどに伝わるけれど、イナミと観千流の攻めは止まらない。
向かってくるなら戦う。
命を賭けになろうとも、互いに進む道がある限り。
●
「“永遠の平和”ですか。素敵な御噺ですが、そんなものは生物が存在する限り、訪れ得ないのではありませんか? だからこそ、|我々《カミガリ》がいるのですから」
人がいる限り、大なり小なりと争いは絶えない。争い起きるからこそ取り締まり、止める役割があるのだと古出水・潤(夜辺・h01309)は不思議そうに首を傾げた。
「そうだなあ。その永遠の平和とやらは、さぞ対象を限定したものなんだろうな」
潤の言葉にリーガル・ハワード(イヴリスの炁物・h00539)は苦笑しながらも、『アンドロスフィンクス』が望む平和に|自分《EDEN》達はいないのだろうと考えていた。
侵入した拠点の中、あと少しで中枢に辿り着く。
だが、『暗夜の残滓』の群れが二人の行く手を阻もうと立ちはだかる。簡単には通してくれない事も理解しているからこそ、リーガルは冷気と強重力を纏った黒槍【アウィス】を手に戦闘態勢に入った。
「リーガル、任せます」
この先に進めば、より強大な敵との命を賭けた戦いが待っている。だからこそ、用意は周到に。潤は特別製の夜色の霊紙を手にすると【|Code//百獣夜行《コード・ノクターナル》】を発動。
「Code//百獣夜行// 去来宵に闊歩せよ」
霊折紙を手早く折り上げていくと、器用に作り出したのは木兎と蝙蝠の群れ。その数はかなり多く、さながら百鬼夜行の如く。
「木兎、リーガルと狙いを合わせて敵の数を減らすよう動きなさい。蝙蝠は撹乱と私の護衛を。あの【想念の残滓】を近付けないように」
指示通りに動き出すのを確認出来れば、意識を集中させて耳を澄ませてみる。僅かな音の違いを聞き、目を凝らして敵の動きを観察する。現場の状況把握は仕事のうち、そして|相棒《バディ》へのサポートに活かすためだ。
「潤。僕のこともいいが、自分のことも守れよ」
「ええ、ご心配には及びませんよ」
潤の言葉に若干心配は残るものの、信頼もしているからこそ背中を任せられる。リーガルは【アウィス】を構え直し、木兎と共に前へ出れば囲まれないように動きながら攻撃をしていく。
仲間の一部は怪我を負っていたり疲労も見えるからこそ、少しでも負担を軽くするために動いていると、詠唱するべく『暗夜の残滓』が立ち止まったのが見えた。リーガルは紫の瞳を鋭くし、敵を見据えて【|氷振《アイススパイク》】を発動。
「下層、反応。燻るというのなら、その火種ごと消してやろう!」
大地を突き破り、現れる複数の巨大氷塊群が大きく地面を揺らし始める。『暗夜の残滓』らは揺れによって詠唱が困難になり、バランスを崩したのを見計らうと、リーガルは【アウィス】に災厄としての権能《イヴリスの呪縛》を通した絶対零度の冷気を纏わせて力いっぱいに貫いていく。
攻撃の矛先はリーガルだけでなく、潤にも向けられる──が、焔が届く前に冷気で凍てつかせた。
「ありがとうございます、リーガル」
「全く……自分のことも守れって言っただろ」
にこやかにお礼を伝える潤に対し、リーガルは小さく溜息をつく。いつもと変わらぬやり取り。どんなに大変な戦いでも、互いに背中を預けられる|相棒《バディ》だから。
「友を想うがゆえの怒りは理解できますが……それゆえに、時間は掛けたくありませんね」
「同感だ。開かれたら閉じない扉なんて、嫌な予感しかしない!」
この先にいるのは黒幕だけでなく、友として慕う幹部も待ち構えている。
状況が悪化する前にと、二人は息を合わせて戦い続ける。
●
「いよいよ本命へ迫る時だ。これより先に如何なる苦難が待ち受けようと、ちるはと共に向かえばこれ程心強いことは無い」
懐からチリンと小さな鈴の音が聞こえる。
幹部との戦いで助けてくれた清らかな音に耳を澄ませ、和紋・蜚廉(現世の遺骸・h07277)は改めて覚悟を胸に前を見据えていた。
「ご自身の思想のために協力を募って成し遂げるとか、物事の運びはとてもお上手だと思います。ただそれが、納得できるかは別の話ですので」
忍び装束姿で隣に立つ不忍・ちるは(ちるあうと・h01839)は、蜚廉の言葉を聞いて柔らかく微笑みながら小さく頷く。同じ鈴の音をチリンと響かせて前を見据えていた。
手を取り合うことは良いことだし、共に成し遂げるという形は良いけれど。残念ながら、成そうとしている事に賛成することは出来ないと首を小さく横に振る。
奥から響き渡る音楽は、どこまでも悲痛に満ちたもの。伝わる緊張感は計り知れない。けれど、共に戦うならば何も怖くない。ちるはがふわりと微笑めば、蜚廉もまた大きく一つ頷いた。
『暗夜の残滓』は感情に由来する攻撃が多い。様々な感情を翳嗅盤が匂いとして捉える。何処から攻撃が来るのか、匂いの方向や野生の勘を働かせながら、近くにいるインビジブルと入れ替わるように【|潜殻転位《ヨロイノイレカエ》】を発動。
「気配を断ちて巡るは一手。捨て殻は巡り、咎火と化す」
瞬時に入れ替われば背後を取ると透爆を引き起こし、拳に力を込めれば強く殴りつけた。一発、二発。この先に進むためには、道を開かねばならない。確実に倒す。その一心で攻撃を続ける。
「私は、私たちの大事なEDENの平和のために儀式を止めます」
傍で一緒に戦うなら安心出来る。自信を持って前へ出れると、ちるはも『暗夜の残滓』の群れへと駆け出した。
感情が揺らぐであろう攻撃を見切り、残滓に飲まれないよう一定の距離を保つ。そして、攻撃を仕掛けられても避けるようにインビジブルと入れ替わり【|揃忍術 蜚之型《シノバズノオソロイ》】を発動。
「|共色《ともいろ》」
瞬時に入れ替わり、攻撃を避けたところで別の場所へ入れ替わると前方からの飛び蹴りを繰り出した。
「先の幸せを掴む為にも、あらゆる障害を乗り越えて進まねばいかぬのだ」
「がんばる理由は、ここにありますので大丈夫です」
大切な人達がいる楽園を守るため、未来に繋がる幸せを守るため。目指す平和を掴み取るために、手を取り合い戦うことが出来る。あらゆる障害を超えてゆくからこそ、繋がれる絆もたくさんあるから。
聞こえてくるパイプオルガンの音色は、ずっと悲痛が混ざっている。聞こえてくる音色へちるはが視線を向けると、蜚廉はそっと手を取り一つ約束を言葉にする。
「我の傍に居てくれる、頼もしい姿の信頼にも応えたいからな。往こうか、ちるは。この戦い、必ず生きて共に帰ろう」
「はい、いきて帰りましょう」
蜚廉からの言葉に、ちるはは大きく一つ頷く。
生きて帰る──シンプルだけれど大きな約束を胸に、蜚廉とちるはは前へ出て戦い続ける。
楽しい未来を掴むために。
●
先陣切って潜入してくれた仲間がいた事により、中枢に繋がる道まで難なく潜入することに成功した禍神・空悟(万象炎壊の非天・h01729)は、奥から聞こえる音楽と稲光から伝わる殺気に空悟の口元には笑みが浮かんでいた。
「決死戦の空気も久しぶりだ。ちゃんと死ねる戦場ってだけで楽しくなってきちまうな? テメェらはどうだ。自分の死に場所を楽しめてるか?」
命を賭けた戦いの緊張感。これもまた、自分が今生きているのだと実感出来る感覚。今目の前にいる『暗夜の残滓』相手だろうと、それは変わらない。空悟はヤル気に満ちた笑みを浮かべながら【|逆星《サカボシ》】を発動。
「一切合切燃え尽きろ」
放たれた黒炎の波濤は、嫉妬も悲嘆も無念も全てを焼き尽くさんと轟々と燃え盛る。灰すらも残すつもりはないと言わんばかりに、黒炎の勢いは更に増していく。
燃え盛る炎を掻い潜り、『暗夜の残滓』の群れが空悟に向かって攻撃を仕掛けてきたとしても、己の体が防具だというように屈強の鉄壁を発揮し、痛みに対しても耐え抜いた。
「そっちは、ケツに火が付いて是が非でも俺達を通したくねぇんだろ? 安心しろよ、テメェらの目が黒いうちはちゃんと付き合ってやるからよ……どこに目があるかは知らねぇが」
光のような焔のようなものに覆われた顔ではどこに目があるかは判別つかないものの、『アンドロスフィンクス』を守るために道を塞ぐならば最後まで遊んでやると笑みは絶えない。
「まぁともかく、きっちり皆殺しにしてやるよ」
全部倒して、奥にいる強者と戦う。
ビリビリと感じる気迫も緊張感をより感じるならば、ここで立ち止まるつもりはないから。
燃え盛る闘志は黒炎の勢いを強め、容赦なく『暗夜の残滓』の群れを焼き払う。近くの壁や床もじりじりと黒く焦げ、黒炎が消えた後には何も──灰すらも残っていなかった。
一部焦げた通路の先、この先に進めば更なる危険が待っている。そうだとしても、ここまで来て戻るつもりはないと空悟は一歩ずつ歩き出した。
肌に感じる緊張感は、進めば進むほど強くなっていく。
●
「皆さんの心が流れ込んでくる……? 置いてけぼりを喰らった方のような……。見た目が似てますが…彼らは知り合いですか?」
肩に乗せている【闇顎の分体】の方へ視線を向けながら、シスピ・エス(天使の破片・h08080)は軽く首を傾げて問いかけた。
《いや? 知らねェなァ。闇と言っても、区切られてりゃまた違うからな》
「そうですか……。では、遠慮無く行かせて頂きます」
どうやら思い当たるものはないらしく、闇と一言で言っても色々あるしと答える。関係が無いのなら手加減する必要がないと分かれば、碧色を『暗夜の残滓』へ向ける。シスピは、仲間の援護にも回れるよう【ライダー・ヴィークル】に騎乗。空中浮遊しながら【精霊銃】と【魔導SMG】の二丁を構えて【|星脈精霊術【|霓泡《ゲイホウ》】《・》】を発動。
「──」
刃すら通さない水と闇の弾丸を放てば、ブラックスライムと絶対零度によって行動阻害をしつつ、仲間には急所を護る虹色の潤滑泡を施す。
前に大きな戦いで新たにEDENの一人として目覚め、出来る限り助けになるために戦い続けていた。
「王劍云々に関わらず、これまでの事件で人に被害が出ている……。つまり、失われる命のことは考えない相手だ。どんな目的であれ、止めるには充分な理由だよ」
王劍が絡むだけでも、どれだけ多くの被害が出たか。それ以外でもあちこちで簒奪者が起こす事件によって、様々な被害が出ている。このまま放置すれば今後も被害が出てしまうのならと、ゾーイ・コールドムーン(黄金の災厄・h01339)もまた『暗夜の残滓』を見据えると、道を開けるため【|呪霊祟漣《ウェーブレットカース》】を発動。
「きみ達の怨嗟を届けよう」
シスピの援護による守りを受け取り、300発の死霊達の呪力波を広範囲に放つ。行動を制限されたことにより、『暗夜の残滓』は思ったように動くことが出来ず、シスピとゾーイによる攻撃が次々と撃ち倒した。
奥から響き渡る音楽に、何とも言えない緊張感が伝わってくる。その緊張感は、何度経験しても慣れないもの。二人の表情は強ばるが、ここで怯むわけにはいかない。視線を合わせ、息を合わせながら絶対零度で足を止め、怨嗟をばら撒く。行く手を阻む数は確実に減っていき、中枢へ続く道は開き始めていた。
「あと少しで進めそうですね」
「それなら、油断せずに倒していこう」
後から妨害されることのないように、背中を預けて戦い続ける。
──この先に待つ、平和のために。
●
「ふむ、残滓か。後悔無く生きるというのは難しいことだが、だからと言って、何時までも縛られるのも滑稽よな。お前らのその無念も後悔も殴り砕いてやる。そして二度と戻ってくるな」
「ねえねえ。あの身体、どうなってるんだろう~? 複数の思念体が寄り集まって形を成している? もしも一部だけ切り離したら……ふふ、興味深いなあ」
中枢へ向かわせまいと立ちはだかる『暗夜の残滓』の群れを前にして、御剣・峰(蒼炎の獅子妃・h01206)は琥珀色を鋭くさせ、ルメル・グリザイユ(寂滅を抱く影・h01485)は逆に好奇心に満ちた笑みを浮かべていた。
まずは挨拶とばかりに爛々とした笑みを浮かべたままルメルは前に出れば、魔導書【|Abysus Via《アビス・ヴィア》】を手にすると詠唱をし爆発を引き起こす。派手な爆発で『暗夜の残滓』の数を減らしつつ、3秒止まっての詠唱によりどれだけ無念が増えるスピードを確認すると、【|Requiem Fang《レクイエム・ファング》】を構え、敵から生命力と魔力を吸収しながら容赦なく切り裂く。
無念を増やそうと詠唱続けようとするなら、妨害するのも含めてルメルは【|Nexus Gravitor《ネクサス・グラヴィトール》】を発動。
「逃さないよ……。ああ、これでキミは、僕のものだ……!」
どうなってるか知りたいと言わんばかりに、『暗夜の残滓』の群れを指定して重力操作で横方向の重力圧により牽制。詠唱を止めさせたところで再結合を図る余分な残滓を亜空間へ隔離、倒しきれなかった時しても【|Abysus Via《アビス・ヴィア》】での爆破で攻撃していく。
重力操作で吹き飛んできたのを見れば、峰は拳を構えて格闘体勢に入り【|百錬自得拳《エアガイツ・コンビネーション》】を発動。一撃、一撃、確実に。顔面めがけて拳を撃ち込めば、勢いのままに吹き飛ばす。
再び無念が増えても動きはしっかり見切り、第六感を働かせて先読みして先々に攻撃。リミッターを外す事で更なる力を高め、肉体改造、全力魔法で身体能力を限界以上に引き上げれば、峰の拳はより重いものへと変わり、勇気を胸に前へと出れば渾身の一撃を撃ち込んだ。
「他愛ないな。まぁ、前菜ならこんなものか」
「もう、まだ1体目だよ~。王劍に辿り着くためにも、ガンガン行こうぜ!」
そう、まだ本番じゃない。
この後控えているメインディッシュを楽しむために、二人の攻撃に激しさが増していく。
奥から聞こえる音楽が、より一層大きく聞こえ始めていた。
●
「王権決死戦……相手はアンドロスフィンクスか。これまで、みなさんエライ奮闘されたんやな……。あちこちの√で話題沸騰のペンタクルム・ゲートの黒幕、ここで止められたらしばらく安泰やろ」
情報として、起きていた事件の報告書データは頭に入れてきた。どの幹部も厄介で、奮闘した末に、漸く見つけ出した《ペンタクルム・ゲート》の拠点。そして、この進んだ先に『アンドロスフィンクス』が待ち構えているのかと思えば、インディアナポリス・ノーベンバー・サーティーン・ワン(旧レリギオス・ランページ所属 11-13部隊初号・h07933)は改めて気合を入れていた。
「よっしゃ、ここからはわしも加勢するで!」
先に潜入してくれているEDEN達の中には、幹部との戦いで疲弊している人もいる。少しでも負担を軽くするべく、インディアナポリスも加勢しようと『暗夜の残滓』へと立ち向かう。
「最初の障害は、暗夜の残滓か。すまんな、押し通らせてもらうで!」
死角を補うように【|小型無人兵器《ドローン》レギオン『テキサス』】を操作して【レギオンスウォーム】を発動。レギオンミサイルを敵の群れに放ち、隙が出来たところで【浮遊型飛輪武装『アラバマ』】を構え、数を巻き込まんと【|切り拓く者《ブレイクスルー》】を発動。
インディアナポリスの攻撃は全て範囲が広いのもあり、どれだけ群れを成したとしても無意味だと言わんばかりに薙ぎ払う。捕食力を高めた敵には【アラバマ】で叩き斬り、貫通力には【テキサス】による射撃で先手打って撃ち抜き、蹂躙力には【電磁パルスブレード『カンザス』】【レーザーブレード『オレゴン』】の二刀流で直接薙ぎ払うように切り伏せた。
「この案件、縊匣っちゅう去年から蔓延っとる危険物も関わっとるんや。多少無理しても突っ込むけど、油断せずに用心して突破するで!」
振り返れば、縊匣との因縁も長い。
数ある王劍の中でも、縊匣の厄介さは相当。姑息に暗躍し続け、どれだけの簒奪者が命を散らしたか。
この先に進めば、間違いなく白き劍とも対峙する事になる。
それが何を意味するのか理解した上で、インディアナポリスは道を開くべく戦い続ける。
邪魔な敵は一掃し、奥に進まねばならない。
先に進む覚悟は、とうに出来ているから。
●
「インビジブルの不均衡に関しては考慮しなければいけないことだけれど……特定のものに管理を任せることはできないわね。ましてや、縊匣が絡んでいるのならば座視も放置もできない」
インビジブルに関する問題は、どの√世界でも問題視されている。これに関しても、良くする方向で考えたいところだとアマランス・フューリー(星漣の織り手にして月詠の紡ぎ手・h08970)は同意するけれど。
それでも、特定の一人に任せることも出来なければ、王劍が関与するのなら余計に放ってはおけない。だからこそ、こうして拠点に潜入したのだから。
「アンドロさんの考えにも一理あるのかなあ……。でもやっぱりどこかに無理は出てきてしまいますし、それを前提に入れた計画ならやめた方がいいと思いますよ。てか、縊匣が信用できるわけありません」
『アンドロスフィンクス』のやろうとする事に対し、パンドラ・パンデモニウム(希望という名の災厄、災厄という名の希望・h00179)は完全に反対するわけではなかった。それでも、無理がかかった時に新たな問題が起きかねない事、さらに言うなら縊匣が絡むなら余計厄介で、騙されてると同情すらしてしまうほど。
パンドラは【ウラヌスの右目】で超広域観測を、【クロノスの左目】で極超短時間観測を活かし、『暗夜の残滓』の放とうとする悲嘆の焔をしっかり補足する。
「行くわよパンドラ」
アマランスも【紫紗の魔眼】を発動する事で、焔の動きを見切り霊的防御とエネルギーバリアで確実に防いでいく。
隙を作り出したところで、【羅紗】を広げて詠唱しながら【|綾なす運命の変革《フレクテーレ・フォルトゥーナ》】を発動。
「今度はこちらの番ね。──時の果て虚空の彼方より織り為さん、書き換えよ運命、紡ぎ出せ栄光」
因果を操作し命中が確定している運命の魔術を放てば、その魔弾が着弾した場所から広範囲に渡り、運命から切り離され存在を否定されることによるダメージを増幅させる。範囲がもたらす効果は、それだけでない。パンドラに対し、運命操作により攻撃すべてがクリティカル化の強化を付与した。
「さあとどめよ、パンドラ!」
オーラ防御と【ヘパイストスの盾】で攻撃を防いでいるところにアマランスから声を掛けられ、強化を受け取った上でパンドラは【|封印災厄解放「神鋼武装閃光劒」《メタルアーマード・パンドラ》】を発動する。
「存在宇宙そのものを破壊する局所真空崩壊の技、受けてごらんなさい! パンドリオンブレード! パンドラァ……ダイナミック!!」
1ミリ秒で超防御力のメタルを纏った姿へと変身し、全ての能力を高めると封印災厄「局所真空崩壊」を起こす閃光の劒を手に次々と薙ぎ払う。強化に強化を重ねたパンドラの攻撃は凄まじく、群れを成していたはずの数は圧倒的な速さで減っていく。
「……その決めポーズって、どうしてもやらないといけないものなの?」
「カッコよくキメるのに必要ですっ!」
思わず決めポーズするパンドラに突っ込んでしまうけれど、次々と倒していく姿は頼もしい。その姿に小さく笑みを浮かべてから、アマランスもまた魔術を用いて戦っていく。
もう少しで道が開かれる。
決戦まで、確実に近づこうとしていた。
●
「確かに、ずっと平和に過ごせるならそれが良いのでしょうが……かと言って、目の前の犠牲を捨て置くことは出来ません!すみませんが、邪魔させて頂きます!」
平和を得るために、誰かが犠牲になるなんて有り得ない。怒りを露わにしながら、久瀬・八雲(焔剣・h03717)は『暗夜の残滓』の数を確認する。
仲間達による奮闘もあり、残りは僅かとなっているそれならと刀印を結んで【|解焔《カイエン》】を発動。
「その力、お借りします!」
『暗夜の残滓』が詠唱し、燻る無念を召喚する事で数を増やすのが厄介だと判断し、攻撃が被弾したとしても破邪の焔で傷を焼き払いながら立ち向かう。
また別の敵が詠唱し始めようとしていたのが視界に入り、八雲は霊気を練り上げた【破邪の雷】を放って牽制。隙が出来たところを狙い、ダッシュで距離を詰めれば勢いよく蹴り飛ばした事で吹き飛ばされた敵が敵群へとぶつかっていく。
新しく召喚されたとしても【霊剣・緋焔】を手に構え、【浄化の焔】を放って目眩し。囲まれないよう跳躍して上から叩き斬り、着地したところを狙われたとしてもスライディングしながら、敵の群れを薙ぎ払うように断ち斬っていった。
「これで、最後です……!」
ラスト一体。
逃さない、増やさなせないというように一気に距離を詰め、そのまま鋭い一閃で斬り伏せる。最後の一体はドサリと倒れ、黒い霧となり消えたのを見届けてから、八雲は中枢へ向かう道を真っ直ぐ見据えた。
パイプオルガンと悲鳴が織り成す音楽は奏で続けている。激しい稲光が瞬く中、八雲は伝わってくる緊張感に息を飲んでから一歩踏み出す。
『暗夜の残滓』の群れを掃討し、ついに中枢へと侵入。
──そして。
ついにEDEN達は、『アンドロスフィンクス』が待ち構える儀式場へ辿り着く。
ここから先はどうなるか。
少なくとも、ただならぬ緊張感がその場を支配していた。
第2章 冒険 『移動拠点スフィンクス中枢、次元儀式場』
●
EDEN達が辿り着いた拠点の中枢──次元儀式場。
そこには、儀式装置に繋がれた『アンドロスフィンクス』が悲鳴を奏でていた。
パイプオルガンのような装置と共鳴するように、苦しいと悲鳴のような音楽を奏で、それにより儀式場の中心の時空が歪んでいく。
先の戦いで敗北した幹部宿敵達が傍にリスポーンしたようだが、それでも万全に戦えるわけではない。状況的に不利だと判断し、殆どの幹部が戦闘を避けて拠点内を移動していた。現状、移動する幹部を追うことは出来ないだろう。
──ただ、一人を除いて。
『アン、ちゃん……』
例え戦えなくても、友から離れたくない。
『清羅』は悲鳴を奏で続ける『アンドロスフィンクス』を、ただただ静かに見守っていた。
『アンドロスフィンクス』の前に、同じく接続されている王劍《縊匣》がゆっくりと浮遊する。
まるで、時空が歪み続けるのを見守るかのように。
●
次元儀式場。
パイプオルガンを思わせる大型儀式装置に繋がれ、知性を失った『アンドロスフィンクス』は悲鳴を上げ続けていた。その傍では王劍《縊匣》がゆっくりと浮遊し、その禍々しさからアネリスは思わず息を飲む。
その場にあるだけでもビリビリと伝わる緊張感から、一歩踏み出すのにも勇気がいる。自分を鼓舞する意味でも、アネリスは【|白いアネモネは希望の象徴《ホワイト・フローラル・シャワー》】を発動し、希望の力を持って『清羅』へと視線を向けた。
(……さっき散々攻撃されたし、「死を受け入れた方が楽」だとか色々言われた相手です。それに……あちらもEDENのことを憎んでいるのは知っていますが、何か話が出来るかもしれません)
『清羅』との戦闘を思い出すと、アネリスは複雑な表情を浮かべた。負の感情を掻き乱された感覚は今もまだ残っている。やはり良いものではないと思いながらも、対話を試みようと口を開いた。
「今のアンドロスフィンクスの状態や、この空間を受け入れられない。縊匣を許容できないという点は一致しているはず。何かお互いにできることがあるかもしれません。今だけは一次休戦といきませんか?」
問い掛けに対し、心配そうに『アンドロスフィンクス』を見ていた『清羅』はアネリスへ顔を向ける。《縊匣》に対して不信感があるのなら今だけでも手を取り合えるのでは無いかと思っていたが──。
『…アンちゃんの邪魔して、清羅達の家に攻めてきたのは……あなたたち』
『清羅』からの答えは敵意に満ちている。
戦える状況じゃなくても、友の邪魔をしようとしているEDEN達を許せるはずもなかった。
「この時空の歪みは何なのか、いつから始まったのか、歪みをこのまま放置するとどうなるのか……なにかわかることがあれば教えてください。また、アンドロスフィンクスが行っていた儀式について何かご存じですか」
『縊匣より、あなたたちの方がダメ……アンちゃんがするのは、世界の為になる…素晴らしい事。だから、教えない……。アンちゃんの、邪魔……しないで……』
交渉は決裂。
手を取り合えたなら良かったけれど、やはり敵同士には変わらなかった。戦わねばならないのかと思うと心が痛む。それでも、敵意を見せるのならば覚悟を決めねばいけない。アネリスは、改めて戦う覚悟を決める。
ふわり、ゆらり。《縊匣》は悠々と浮遊する。
『アンドロスフィンクス』の悲鳴に合わせて、舞い踊るようだった。
●
次元儀式場へ辿り着いたシスティアは【Alchemical Weapon】を戦斧にしたまま、『アンドロスフィンクス』や《縊匣》、『清羅』に対して警戒を続けていた。
(どんな表情をしているのか、あの姿では分からない……でも、アンドロスフィンクスを案じるあの様子…情が湧いてしまう)
誰かを大切に思うのは簒奪者も同じなのかと、『清羅』の様子を見るとそう思えるほどで。何かを真っ直ぐ思う気持ちが分かるからこそ、システィアは『清羅』の気持ちが理解出来た。
「アンドロスフィンクス先輩、はじめまして。えっと、そこの清羅先輩? も、はじめまして」
ジェイドは丁寧に挨拶をしながらも、【|時限式愛憎爆弾《アイリスアウトニイタルマデ》】で創り出した腹腹時計は片手に握ったまま。第六感を働かせて言葉を選びつつ、『アンドロスフィンクス』に対して対話を試みた。
「大型予兆で、アンドロスフィンクス先輩の大義は聞いた。それって、簒奪者がやらないとだめなもん? 管理者が腐敗するのが嫌なら、簒奪者だけでなくEDENみたいな……お人好しで簒奪者と渡り合えるやつも管理者に据えればいいんじゃね?」
「そのコードを、縊匣を引き離して事態が収束するなら……そのひとを殺しはしないよ」
二人の言葉を聞いて、ゆっくりと『清羅』は杖につく緑の瞳をギロリと光らせる。だが、攻撃してくることはない。問いに対して、言葉に対して少し考えてから、『アンドロスフィンクス』の方を見ながら『清羅』は答えた。
『あの白い劍、清羅は嫌い……。でも、アンちゃんがやりたい事、やるためなら…清羅は、引き離さない』
システィアの提案に、《縊匣》に何かをする事は『アンドロスフィンクス』の邪魔をする事だと判断すればハッキリと断言する。そして、続けて『清羅』は言葉を続ける。
『…それも、良いかもね。ペンタクルムゲートが開いたら、そうだんしよ……?』
ジェイドの言葉に対し、管理に関してはEDENが介入する事も構わないというように否定しなかった。相談する余地があるというのは、対話を続けるキッカケにもなる。その答えにジェイドの笑みに含まれてた緊張感は緩む──が。
「でも、それなら……ペンタクルムゲートを開く邪魔はしないで」
今この場で何もしない事が条件だと『清羅』はハッキリ告げる。邪魔さえしなければ、相談して管理を考えればいい。知性を失った『アンドロスフィンクス』の代わりに『清羅』は、そう答えを示した。
「なるほど、な。そりゃあ、難しい条件だ」
「話し合いが出来ると思ったが……なかなか厳しいか」
やはり、EDENと簒奪者というのは変わらない。
手を取り会えないのかと、二人は小さく息を吐く。それならと警戒を強めたまま、いつ攻撃されてもいいようにと身構える。
『アンちゃん……大丈夫、清羅が守るから…』
『清羅』は知性を失った『アンドロスフィンクス』へ優しく声をかけ、そっと傍に寄り添い続けていた。
●
(怖いものなんざ何もねぇ。だが、清羅とアンドロスフィンクス……迂闊に手を出せばやられるな)
いくら恐怖心を欠落してるといえど、流石に手を出すのはマズいと判断した迅は少し考える。だが、攻撃を仕掛けてこないという確証も無いのもあり、【|黒蜥蜴縛糸《クロトカゲバクシ》】を発動しやすいよう身構えた。
「よぅ、清羅だっけか。単刀直入に聞くぜ。あんたとアンドロスフィンクスは仲良いのか? あいつを助けたいとは思わねぇのか?」
他の幹部の姿は無い。けれど、唯一『アンドロスフィンクス』の傍に残っている様子から仲の良さは伝わってくるもので。仲がいいなら、友だと言うのなら助けたいという気持ちはあるはず。迅からの問い掛けを聞き、『清羅』は敵意を滲ませた瞳の杖で見つめ口を開いた。
「清羅は……清羅は、アンちゃんを助けたい。あの白い劍は、嫌い……! でも……アンちゃんのしたいこと、手伝ってくれてる…アンちゃんが必要なら、清羅は…止めない」
例え《縊匣》が嫌いでも、友がしたい事を叶えてくれる。それが例え知性を失わせているとしても──『アンドロスフィンクス』がしたい事を拒む事はしないと決めているのだと『清羅』は話す。
なるほどなと、迅は『清羅』の言葉に耳を傾ける。友達が大切なのは間違いないし、王劍が嫌いなのも間違いないようだ。だが、判断基準はあくまで『アンドロスフィンクス』がどうしたいかなんだと気付いた。
「俺は馬鹿だから細けぇ事は分からん。あんたらがEDENを嫌ってるのは分かる。俺らが邪魔者なのもな。……だが、あいつが苦しんでるのは本当に望んだ事か? あの白い劍が嫌いなら、他に手はねぇのか?」
『……あなた達は、アンちゃんの邪魔をする。アンちゃんのしたい事、全部邪魔する…。仲間にも酷いこと、たくさんした……。だから、一番の敵は……EDEN』
「やっぱそうなる、か」
一番許さないのは王劍じゃない。
たくさんいる仲間を傷付け、『アンドロスフィンクス』の邪魔をするEDEN達なのだと『清羅』は断言する。『清羅』の答えに、迅は苦笑を浮かべた。分かり合えないならば無理にとも言えない。深追いはせず、今は様子を見ていることに。
びりびりとした緊張感は今も続く。
EDEN達の動きを、ただ静かに《縊匣》は見ていた。
●
「マズい……時空が歪んでいってるのを止めなきゃ」
辿り着いた次元儀式では、『アンドロスフィンクス』と《縊匣》が大型装置に繋がれ、ゲートを開けようと儀式が進行していた。
悲鳴と共に奏でられる音楽が放つ圧は強く、《縊匣》も静かに浮遊しているからこそ伝わってくる緊張感は凄まじい。ビリビリとした威圧を感じながらも、リツは大型装置へと視線を向けて装置を止めることが出来るか試みる事に。
(テレビで楽器の特集をしていた時に、パイプオルガンの仕組みを見たことがある。確かストップノブがあって、押し込んだりすると鳴らさなくできるって説明があったような……)
構造が同じとも限らない。だが、試してみる価値があると考えると【|緋色の舞《ヒイロノマイ》】を発動。
「力を貸して欲しい」
邪気を払う炎の蝶がひらりと舞うように飛んでいき、パイプを熱く出来るか試してみる。
今も変わらず演奏は儀式場に響き渡り、音が変わるかどうか、攻撃が飛んでくるかどうか──リツは何が起きてもいいよう身構える。知性を失ったとしても、装置に対し手を出させないと言わんばかりに炎の蝶を薙ぎ払う。火の粉となって消えてく様子から、やはり壊すには難しいかと眉を顰めた。
「そう簡単には、やっぱ壊させてくれないか……」
『…アンちゃんの、邪魔……しないで』
攻撃を仕掛けて来れなくとも、『清羅』からの警戒も強い。
邪魔さえしなければ敵意を向けるつもりはないと、行動で示しているようだった。
とはいえ、他の仲間も慎重に動いている。
《縊匣》が近くに控えている以上、今は下手に余計な手出しは危険と判断し、仲間の動きを見ながら様子を伺うことに。
装置を壊すにしても、この後控える戦いを前に余計な力を消耗するわけにはいかない。今は辛抱の時。リツは緊張感を胸に秘めたまま、冷静に仲間達による対話を見守る。
少しでも、良き方向へ話が出来ることを祈りながら。
●
「儀式が始まっているなら、猶予はありませんね」
刻、七三子、ディランの三人もまた、次元儀式場へと辿り着く。物々しい雰囲気のある大型装置に繋がれた『アンドロスフィンクス』は悲鳴と共に音楽を奏で、その様子をただ静かに『清羅』は見守っていた。
音楽が奏でられているということは、儀式が始まっているのを示している。だが、事を急いで不利になるのは危険だからこそ、刻は二人や仲間の動き、装置などの様子などをしっかり観察する事に。
(私には彼女みたいな強い思いはないですけど、視野が狭くなった時こそ落とし穴に注意…です)
七三子は『清羅』と直接戦い、友を思う強い気持ちを目の当たりにしてきた。それらを犠牲にしてでも『アンドロスフィンクス』が叶えたい願い。それで良いのかと、疑問にならないわけではない。少なくとも『清羅』に対してなら言葉を交わせる今、思いを伝えるチャンスとも考えていた。
(七三子さん、刻さんの呼び掛けが簒奪者に通じるなら見物ですが……果たして、どうなるのか)
敵対意思を見せるものの、戦えないという現状もあってか『清羅』はまだ話が通じるらしい。刻と七三子が呼び掛けてみると聞いているのもあり、今は様子を見守ることに。とはいえ、ここは敵地。いつ何が起きてもいいよう、必要に応じて|断界《オーラ防御+受け流し》できるようにしておく。
「ご自身の苦しみや、お友達のあなたを大切に想う声とか、全部引き換えにしてまで、叶えたい願い……。インビジブルを均等にして、その先に何を思い描いたんでしょうか。そもそもこう、王劍さんってなんか、ちょっと偉そうで押し付けがましいんですよね。口もうまそうですし。自分の意思まで、捻じ曲げてきそうで、怖い!」
七三子は、ふわりと浮遊する《縊匣》へ視線を向ける。手を出さない今は無害だが、放たれる圧は計り知れない。姑息と言われた王劍に知性を引き換えにする必要はあるのか、七三子にとっては疑問でしか無かった。
「清羅さんも、こんなことで本当に彼女の理想が叶うんでしょうか? 受け入れるだけじゃなくて、一緒に他の道を探すのも友達じゃないでしょうか? 私なら、友達と他の道を探したいです。だって、ずっと一緒に笑い合いたいですから」
『…これは、アンちゃんのしたいこと。だから、止めない……。それに、これは、あなた達にだって……悪い話じゃないの』
ポツリ、ポツリと『清羅』は口を開く。
あくまでも友がしたい事ならば、王劍が憎くても、知性を犠牲にしたとしても止めるつもりはない。さらに、七三子へ杖についた緑の瞳を向けてから言葉を続けた。
『√EDENに侵攻するのは、他の世界にインビジブルが足りないから……。でも、このゲートが開いたら…侵攻しなくても…インビジブルを手に入れられる。戦わないのは、あなた達だって望む……でしょ? 敵が侵略しない……あなた達にとっても、悪くない話』
「貴女は彼女を助けたいのではないですか? そして、その為にはこの儀式を放棄して別の方法を探すべきでは無いですか? 正直、このやり方なら私は賛同できませんが、もしより良い方法を探すというなら、そこで私達は目的を共有できるかもしれません! それに……その儀式が彼女の願いを叶える物と“誰が”言ったのですか? 王劍『縊匣』……本当に真実を話していると言えますか?」
刻も続けて問い掛ける。
例え賛同できなくても、目的を共有出来る可能性があるのなら、命を賭けた戦いをせずとも手を取り合えるかもしれないと投げ掛ける。
『清羅』の杖を握る手に力が篭もる。そして、返す言葉は──。
『まず、帰って……。その後で、戦わずに訪ねて来るのなら…考える。でも……帰る前に、酷いことをした旅団の皆には謝って』
『アンドロスフィンクス』に対してだけではない。家族のように過ごす仲間達を傷付けたことにも、『清羅』へ怒りを露わにしていた。
「大義、平和、再分配。大いに結構ですが……先ず√EDENにインビジブルが偏っている理由が不当だと示せなければ……それも片手落ちでは?」
『実際に、そうなっているでしょ……? なら、理由は関係ないの』
どれだけ歩み寄りたくとも、戦わずに済む道を模索しようとも、困難を極めるものだった。やはり一筋縄ではいかないかと三人は複雑な表情を浮かべ、戦うしかないのだというのを改めて痛感した。
√EDENにインビジブルが偏ってるせいで争いが起きるならば、ゲートを開くことでそれを解消する事が出来る。
『アンドロスフィンクス』がしている事は、EDENにとっても悪い話ではないはずなのにと『清羅』が代弁していた。だが、そこには王劍も関わっている。平和的に解決するとは思えない部分でもあった。
果たして、この対話の先に何が起こるのか。
少なくとも、戦いが待ち構えているのには変わらない。変わらず、絶えず緊張感は漂っていた。
●
次元儀式場へと足を踏み入れれば、ただならぬ威圧にライラは小さく息を飲む。儀式が進むごとに歪む空間も気になる。けれど、ここは冷静にと深呼吸。【|白椿の吐息《カメリア・アンヴィレ》】を発動しながら、『清羅』へ問い掛けてみる。
「友達を大切に思う気持ちは尊いものだわ。|あなた《清羅》も、友達や大義のことを思って行動している……その気持ちはわかるつもりよ」
悲鳴と共に音楽を奏でる『アンドロスフィンクス』へ視線を向け、これが自分の友だったらと想像してみる。願いを叶えるためにと苦しむ友を見て、自分もきっと『清羅』と同じように寄り添うのかもしれない。その姿は痛ましい。友を思う気持ちはこんなにも同じなのにと、思わずにはいられなかった。
「アンドロスフィンクスが成し遂げようとしているのは、どんな未来なの? わたしにも聞かせてくださらないかしら。……大切な友達を苦しめ続けてまで、成し遂げなければならないことなの? 素晴らしい未来のためなら、友達を犠牲にしても構わないのかしら」
『……これは、侵略が必要無くなる世界をつくるためなの。それに…アンちゃんの夢だけじゃない。今は、私達のAnkerだから。あなた達が邪魔しなければ、もっと……』
邪魔さえしなければ、ここまで戦う必要はなかったのにと『清羅』は怒りを見せる。ゲートを開くのは√EDENにとっても良いことやのに何故、と──そう言わずにはいられなかった。
インビジブル問題が解決するのならば、確かに『清羅』の言葉も『アンドロスフィンクス』の目的も聞こえがいい。だが、王劍も絡んでる以上、平和的な解決を見込める確証は無い。それは、これまでに起きた王劍絡みの事件が物語っていた。
(Anker……それほどまでに強い繋がりを持ってるなら、友達を思う心があるなら……どこかで分かり合えると思ったけど…)
やはり難しいのかと分かると、ライラは悲しげな表情を浮かべた。分かり合えたならどれだけ良かったか。けれど、分かり合えないのなら、手を取り合えないのなら──戦う覚悟をしようと気持ちを切り替える。
響き渡る悲鳴と共に奏でられる音楽。
次元は歪み、ゲートは着実に開かれようとしている。
『アンドロスフィンクス』の願いは、確かに動いていた。
●
「あの機械はゲート再生のエネルギー供給装置として、縊匣を手にしたアンドロスフィンクスを電池扱いしてるのかな……」
大型装置に繋がれた状態の『アンドロスフィンクス』を見て、レイはどういう構造なのだろうかと考える。その隣に立つ観千流もまた、緊張した面持ちだった。
「こうも待ち構えられていると不気味ですね……向こうから話すことはないようですし、こちらから探りますか」
仲間は『清羅』と話してくれているものの、友好的な話には持っていけてない。敵意を見せてくるのなら無理もないかと思うと、レイと観千流は装置に着いて調べてみようと動くことに。
「ジェヴォーダンの時は縊匣の手が空間から生えてきて厄介だったんだけど、今回もその気配はあるのか、或いはゲートの再生が優先でリソースがそこまで回らないか……手の横槍ある無しで交戦時の対処法は変わると思う。手の標的は幹部も関係ないだろうしね」
保守プログラム【ノンセンチメンタリズム】のマルチプロファイルMODでデコイを作り出し、装置へとハッキングを試みる。複雑なデータをかいくぐり、あらゆる情報が見えたものの今すぐ分かる内容では無かった。ただ、知り得たものを無事に持ち帰れば今後に活かせるかもしれない。
レイは、下手に刺激しないよう慎重にデータを収集していく。
「こっちもデータを集めてみましょう」
狂気に耐えれるように身を守りながら【|多次元移動用ソナー投射《ルート・アナライズ》】を発動。《縊匣》への攻撃や、干渉が王劍の掌握……ひいては絶対死に繋がるかどうか。その辺に焦点を当てて調べてみる。
(清羅が話してる事、間違いじゃなさそうですね……)
√EDENに漂うインビジブルをゲートを通じて回収することで侵攻する必要がないと『清羅』は仲間との対話で口にしていた。その情報に偽りはないらしい。包み隠さず話してくれたのは、EDEN達にとっても良い話だと考えての事かもしれない。
「だとしても、放っておくわけにはいかないですね」
知り得た情報が偽りじゃない事も確認できた。
それでも危険には変わりないからこそ、レイも観千流も警戒を怠らずに『アンドロスフィンクス』達の動きを観察する。
集めた情報から何が分かるのか。
後に有利になるためにも、待ち構える戦いに備えた。
●
(私もかつて大罪を犯した身。その私を力ずくでも止めてくれた。パンドラを始めとした、EDENの皆には心より感謝しているわ)
嘗て起きた大きな事件、アマランスは敵として襲撃していた。EDEN達が止めてくれたからこそ、仲間として歩む道を選ぶことが出来た。助けてもらった感謝は今も忘れていない。今度は自分が助ける番だと、その決意は強いものだった。
「まあ……罪人って言ったら、私だってアマランスさんと同じです。世界中に災厄をばらまいたのは私の咎ですから。その時のこと、今でも毎夜夢に見るくらい悔やんでいます」
禁忌の匣は開かれ、数多の災厄をばらまいてしまった。底に希望が残るとしても、犯してしまった罪が消えるわけではない。どれだけ悔やんで夢に見たとしても、後悔に押し潰されて立ち止まるつもりはないから。
パンドラは【|封印災厄解放「みんななかよしぱんぱかぱん」《フラットライン・フラタニティ》】を発動し、『清羅』と穏やかに対話出来ないかと落ち着いた様子で口を開いた。
「……あなたも本当に誰かを大切だと思うのなら、その相手に唯々諾々と従うのではなく、間違っているなら止めるべきではないかしら」
「……だからね、後からアンドロさん悔やむかもですよ。好きな人を、そんな毎晩悪夢にうなされるような目に遭わせたくないでしょう? もう一度考え直しませんか」
『…大事、大切。だからこそ……アンちゃんのしたい事を叶えるの。どうして…どうして、邪魔をするの……? 清羅の仲間を、いじめるの。清羅は、ずっと、ずっと……アンちゃんのためなら、何でも出来る……。ゲートを開くまで、何もしないで……帰って……仲間に謝って…』
ゲートを開けた後は話し合いをすればいい。
邪魔をするのなら敵だと、静かな敵意を『清羅』は二人へ向け続けていた。
言葉は伝わるけど、思いはすれ違う。
アマランスとパンドラは複雑な気持ちになりながら、今は出来ることをしようと装置へと視線を向けた。
アマランスは【紫紗の魔眼】を、パンドラもまた【ウラヌスの右目】を駆使し、魔力の流れを見極めて分析しながら情報収集しようと試みる。流れてくる情報は多く、今現状解明するのは困難だった。知り得た知識を持ち帰ろうと判断し、妨害を試みようとアマランスは【|純白の騒霊の招来《エヴォカーエ・レムレース・アルブス》】を発動。
「時の果て虚空の彼方より織り為さん、紡がれよ白き呪いの手」
呼びかけに応えてレムレース・アルブスが姿を表すと、嘆きの光ラメントゥムで魔力の抹消が出来ないから試してみる。──が、『アンドロスフィンクス』の妨害が入り、装置への妨害は失敗に終わってしまう。
装置を止めるにしても、『アンドロスフィンクス』がいる以上は困難を極める。話し合いでの解決は難しい。破壊するにしても、儀式を止めるにしても、王劍《縊匣》が関わる以上は『アンドロスフィンクス』との戦闘も避けられない。
儀式場に伝わる緊張感は高まる。
命を賭けた戦いが、間もなく起きようとしていた。
第3章 ボス戦 『『アンドロスフィンクス』』
歌う、歌う。
永遠の平和への道を繋ぐために。
悲鳴に近い歌に合わせるかのように、パイプオルガンのような装置が詠唱に合わせて音楽を奏でる。
ゆぅらりと浮遊していた王劍《縊匣》に手を伸ばし、『アンドロスフィンクス』は動き出す。そこに知性は無い。意志のない殺人マシーンの如く、EDENへと刃を向ける。
互いに望む平和への道は交わらなかった。
EDEN達はそれぞれ武器を手に、スフィンクスゲートにて『アンドロスフィンクス』との最後の戦いへと挑む。
命を賭けた戦いが、幕を開けた──!
●
「おれはペンタクルム・ゲートが開いてもかまわない。縊匣より、おれらのが駄目って言われたし」
ジェイドは、心配そうに『アンドロスフィンクス』を見守る『清羅』へ視線をチラリと向ける。歩み寄れそうな雰囲気はあったけれど、王劍より敵意を向けられてしまうという結果に肩を竦めるしか出来なかった。
「正直帰ってもいいんだけど……戦った幹部──|邪剣先輩《邪剣・禍骨》らに謝るのだけは嫌かな!」
「交渉決裂か。なら、分かりやすく戦うとしようぜ」
戦った相手に謝るほど、心は広くない。
それに交渉も決裂したとなれば、残された道は戦うのみ。迅もまた『アンドロスフィンクス』を見据えてから、ジェイドと目配せをして戦闘態勢に入る。
ジェイドは早速【|無敵碧眼灰猫《ポカモノ・フラワーワークス》】を発動。体高2mのロシアンブルーへと変身すれば、軽やかに儀式場内を走り、大きく息を吸ってからまったりしてしまう感じのブレスを吐き出す。
悲鳴を上げながら斬烈の赤脚を振り下ろすものの、ブレスの効果から僅かながらに動きが鈍る。儀式の進行までは分からずとも、『アンドロスフィンクス』自身の動きが少しでも鈍るなら仲間も動きやすいはずと見込んでの行動。
「効果はちょっとだけか……でもまぁ、無いよりマシか」
猫になったからこそ、普段以上に働く第六感。
鋭い眼差しが振り下ろされる脚の攻撃を見切り、軽やかに走り避けていく。だが、『アンドロスフィンクス』も知性こそ無くとも、排除しようとする本能が働く。第六感で避けた先を目掛けて振り下ろされた脚により、ジェイドの横腹は大きく切り裂かれた。
「ぐっ……! 流石、王劍の力もあるからか? 一筋縄じゃいかなそうだな!」
どくどくと赤が溢れる。
致命傷ではない。だが、床を赤で濡らすほどの大きな傷。
だが、ジェイドがダメージを負った代わりにボキィッと鈍い音が鳴る。『アンドロスフィンクス』の脚が一本、攻撃を当てた事により真っ二つに折れていた。
(流石に、欲張り過ぎない方がいいな。他の人らに任せるか)
傷も浅いわけではないからこそ、ジェイドは引き際を見極め後退する。そして、ジェイドと入れ替わるように迅が前へ出て【|外法・黒蜥蜴穿眼《ゲホウ・クロカゲセンガン》】を発動。妖魔の血を左眼に集中させ、少しでも隙を見出そうとギラリ光らせる。
迅の姿を捉えると、『アンドロスフィンクス』は大きく悲鳴をあげようとしたところで【路地裏の百舌】から呪符を取り出し素早く投擲。不意打ちを狙った投擲によって、呪符が『アンドロスフィンクス』の身体に貼られると幻影で一瞬だけ迅の姿を見失う。
「悪いな。俺は問いに答える趣味も、見つめ合う趣味もねぇんだよ」
再び迅へと視線を向けた事で、びりっと身体が麻痺する感覚に襲われ身動きが封じられてしまう。痺れは強く、容易に体を動かす事は出来ない──が、黒蜥蜴の群れや刃が迫る幻影を見せる事で『アンドロスフィンクス』は目を閉じざるを得なくなり、強制的に効果を途切れさせることに成功。
(まだ麻痺が残るのは厄介だな)
目を閉じている間に迅は遮蔽物を見つけると、痺れる体に鞭打って移動する。一旦は、本体からの視線は遮られる。痺れが収まればまだ戦える。
傷付いたジェイドへ視線を向けると、痛みに苦笑いしながらも大丈夫というように頷く。無理はしないというのを互いに確認し合い、再び『アンドロスフィンクス』へと視線を向けた。
王劍を持った『アンドロスフィンクス』の強さは計り知れない。
それでも、ここで倒すという強い意志がEDEN達を奮い立たせていた。
●
(あとは戦うしかない、か。……悲しいけれど、仕方ない)
仲間による対話も届かないまま、王劍を手にした『アンドロスフィンクス』は邪魔者であるEDENを排除しようと動き出す。
叶うならば、戦わない道があれば良かった。それが叶わない今、クラウスは覚悟を決めて【|recollection《リコレクション》】を発動。
「どうか、力を貸して」
インビジブルがクラウスの言葉に応え、仄かな魔力の光を帯びた桜の花弁が創造されれば、【|無明《二丁拳銃》】へと貼りつけて照準を『アンドロスフィンクス』に合わせ高火力の弾丸を放った。
一本は仲間へ攻撃が当たった事により折られたものの、残る赤脚で狙いを定めて振り下ろされれば、ダッシュで距離を測りながら攻撃を避ける。一定の距離を保ち、どう撃てば良いかと弾道計算。状況も見ながら、確実に一発ずつ撃ち込んでいく。
弾丸が当たる度、『アンドロスフィンクス』は僅かに怯むけれど、攻撃の手が止まることはない。振り下ろされる赤脚との距離が近いのを見ればクラウスは咄嗟に魔力を盾とし、さらにエネルギーバリアを重ねる事で守りを固めた。
「くっ……重いっ!」
通常とは違い、王劍を手にした『アンドロスフィンクス』の力は凄まじく、魔力の盾すらも貫通しそうなほど。最初こそ拮抗したものの、盾は破られクラウスの左腕を大きく切り裂いた。
痛みが走る。どくどくと血が流れ、床を赤で濡らす。だが、攻撃を当てたことにより、『アンドロスフィンクス』の脚がもう一本鈍い音を立てて折れる。
次の攻撃が来る前にと、クラウスは右手で左腕を抑えながら軽く後退。左腕は動かせそうにない。けれど、それは敵も同様に攻撃の手を減らしている事になる。痛みに耐えながら、クラウスの眼差しは変わらず強いものだった。
(王劍を持っていたとしても、みんなで力を合わせれば勝てるはずだ。怯まず恐れず、果敢に戦おう)
力を合わせれば、どれだけ強大な敵だとしても勝利を掴めると信じて。それは今までの経験もある。一人じゃない、みんなで戦うから強いのだと知っているから。
動かせる右手にはずっと【無明】が握られている。
まだ戦える。生きて帰るために、ここが踏ん張りどころ。
絶えず、響き渡る悲鳴の音楽は望む平和のために──。
●
「俺の大切な人も、誰かの大切な人も、奪わせやしない」
少し離れたところで『清羅』は『アンドロスフィンクス』に対して心配そうに見守っていた。システィアとしては、正直『清羅』に対して気がかりで。友を思い、けれど目的のためなら止めないという姿勢。分かり合えたなら──そう思わずにはいられない。
だが、自分も含めてここに集まった仲間は、死ぬことも奪う事も覚悟して来ている。気掛かりとしても、情に流れるわけにはいかないから。
(互いに歩み寄ることが叶わないなら、多くを守る為に戦うだけだ)
なるべく後衛に回ってくれる仲間に近付けさせないよう、システィアは【詠唱錬成剣】を戦斧へと変形させ、『アンドロスフィンクス』の意識を向けさせるよう動きながら【|斬り刻む魔法《アンプティール》】を発動
「|斬り刻む魔法《アンプティール》」
広範囲に放たれる斬り裂く蜘蛛糸を見極め、戦斧を振るい切り伏せながら【Fimbul Winter】を手に蜘蛛糸を弾く。隙が出来たところで『アンドロスフィンクス』本体へと大きく斬りかかり、急所には入らなかったものの傷を付けることに成功。その間に振り下ろされる王劍が視界に入れば、システィアはすぐに距離を取って回避。【Skoll & Hati】を呼び出し、死角を補いながら攻撃を続ける。
《縊匣》による攻撃を避ける事に意識を向けているところを狙い、蜘蛛糸が放たれるのを見れば魔力でエネルギーバリアをつくりだすも急所こそ免れたが体のあちこちを切り裂かれ傷を負う。
「……ッ!」
鋭い痛みに襲われながらも何とか防ぎ、怪我を負った以上は無理出来ないと判断。一旦後退し、自分の怪我を確認する。
「動けはするが、無理は出来ないな……」
ふと周りを見れば、怪我した仲間は増えている。
深追いをしてしまうと危険が伴うからこそ、システィアは冷静に情報を判断。
【Skoll & Hati】がシスティアを守るように動きながら、足元から伸びる影から【Slay Wolf】が姿を現せば、『アンドロスフィンクス』の動きを見切り、影で捕えて噛み付き攻撃する。
噛み付かれ、本体まで傷付けられた事で悲鳴は大きくなる。
それでも、『アンドロスフィンクス』からの攻撃の手は止まらない。全てはゲートを開くために。その先に繋がる平和のために。知性を失ったとて、その目的は変わらない。
劈くような悲鳴と音楽は、戦闘の激しさを物語っていた。
●
「こちらこそ、有無を言わさず人を殺して、良い人面してる貴方達が嫌いですよ」
観千流は【疑似精霊銃】と【レイン改・叢雲】を駆使し、早業で装置を含めて熱を奪うように攻撃を仕掛ける。放たれる弾丸やレーザーが着弾することで熱が奪われ、少しずつだが『アンドロスフィンクス』へのダメージを蓄積させた。
弾丸の雨で視界をくらませたことにより、観千流は【量子操作マテリアル】を利用して迷彩光学でジャミング、更に幻影を用いて撹乱を試みる。
劈くような悲鳴をあげ、どこにいるのかと『アンドロスフィンクス』の青い瞳が観千流を探す。迷彩により見つけづらくはなってるものの、王劍を持った状態というのもあり効力は完全じゃない。微かにでも視界に捉え、悲鳴をあげたことで観千流の身体は痺れてしまう。
「うっ……今の状態じゃ、完全に見つからないは無理ですか…!」
痺れを解かねばと【叢雲】のレーザーを『アンドロスフィンクス』の顔へと射撃。直撃する事で目を閉じさせ、痺れが取れたところを計らい別の場所へと一旦隠れた。
(今のところ、動きは見せないようだけど……念には念ですね)
戦いの間に割り込まず、見守るだけの『清羅』へ視線を向ける。戦えない状況だからなのか、はたまた別の理由があるのか。どちらにしても『清羅』から妨害してきても良いように、広範囲攻撃は絶やさない。
『アンドロスフィンクス』の悲鳴、そして奏でる音楽は止まらない。邪魔をする者は許さないと言わんばかりに、赤脚を振るい、叫び続けて動きを鈍らせようとしてくる。
だが、観千流とて、やられるばかりでは無い。動きは覚えた。視界に入らないよう遮蔽物を活かしながら、死角を狙って【疑似精霊銃】と【レイン改・叢雲】による弾丸の雨を振らせた。
少しずつ、少しずつ。
まだ大きなダメージは与えれていないものの、『アンドロスフィンクス』へのダメージ蓄積は出来ている。確実に、けれど無理しすぎない程度に。観千流は痺れが僅かに残る体を奮い立たせ、慎重に状況を見ながら距離を置いて戦い続ける。
これ以上好きにさせない。
その覚悟を胸にしながら──。
●
「交渉が上手くいくとは思っていなかったけどね。ここまで来たら、後は戦うだけだね」
そう簡単にいくのなら、今頃ここまで戦うことはなかったはず。交渉は決裂。これ以上歩み寄ることが出来ないと分かったならば戦うのみと、イリスは手に魔力を込めて【|必殺武器創成「バジリスク」《スレイヤークリエイション・バジリスク》】を発動。支配の魔力を凝縮して実体化させた物質を蛇骨を模した、漆黒の蛇腹剣「バジリスク」に変形させると、黒い子猫の霊魂【黒猫の霊魂「クロ」】が憑依する。そこに続けて【|支配による奇術《ドミネイト・イリュージョン》】発動。『アンドロスフィンクス』の死角にいるインビジブルと入れ替わり、刃をしならせて振り下ろす。
「これが、あなたに最期をもたらす武器……そして、支配の魔力が見せる|奇術《イリュージョン》だよ」
しなる刃が『アンドロスフィンクス』の体を切り裂くことで体に傷つき、強制自己崩壊の状態異常も付与されると攻撃が当たった部分から僅かにだがぎこちない動きになる。生命力吸収も試みつつ、劈く悲鳴をあげようとしたところで念動力を顔面にぶつけて中断させた。
(続けて防げるとは思えないし、油断しないようにしないと)
『アンドロスフィンクス』からの攻撃は極力インビジブルと入れ替わって避けるも、王劍を手にしていることからダメージを負ったとて動きが大きく鈍ることはない。『アンドロスフィンクス』の青い瞳が、イリスを捉え、強い麻痺で動けなくなってしまった。
「うっ……これほど動けなくなるなんて…」
防御力をあげたものの、王劍の強大な力を得た『アンドロスフィンクス』の前に、指一本すらも動かすことも困難で。それでもどうにかしなければと、強引に蛇腹剣を持つ手に力を入れて顔面に刃をぶつけた。その結果、視界を遮る事に成功するものの強い痺れが残る。心臓としての役割も持つ【再生核型怪異器官「永命」】の再生力を高め、体に残る痺れを治癒しつつ、一旦は安全を考慮して後退した。
心配そうにしながら【黒猫の霊魂「クロ」】が吸収した生命力のおかげもあり、麻痺は少しずつ治っていくと、「ありがとう」とお礼を伝えた。
「アンドロスフィンクス……確かに強いですが、私達と負けられないから」
覚悟は揺らがない。
無理はせずとも、ここで引くという選択肢は無いから。
●
(何故独りで身を賭す程に決意したのでしょうね……知性を失ったのか、自ら閉ざしたのかさえ、今となっては知る由もありませんか)
『アンドロスフィンクス』に知性が無くなっているのもあり、何故知性を失うという道を選んだのかも分からない。今分かっているのは、《縊匣》を手にした『アンドロスフィンクス』がEDENを敵とみなして攻撃を仕掛けているということ。戦うしか道が残されていない、これが現実だった。
「いきましょう、兎比良さん」
「ええ、任務を遂行します」
敵意を見せるならば戦うまで。小鳥は【|黒薔薇《フォーミダブル》】を手に構えつつ【|電子妖精《モーラット・コミュ》】を発動。
「月の海より揺蕩いて」
『もきゅっ!』とモーラットが姿を見せれば、ワイファイスパークを放つのに合わせて弾丸を撃ち込む。『アンドロスフィンクス』は赤い脚を振るい、前へ出て攻めてくる小鳥に対して薙ぎ払うのを見れば、一旦距離を置いて動き方を見ることに。『アンドロスフィンクス』の脚は、仲間との戦いの中で既に二本折れている。攻撃の手段を減らす意味でも、狙いを定める箇所は決まった。
「彼女の脚を無力化します」
「分かりました、援護します」
小鳥の言葉を受け取り、兎比良は【|【物語】「造花の祝福」《パラノイアオブリーゼ》】を発動。
「審理はどこに在るのか?」
撫子の花による祝福を【|茴香《ミスティリオン》】に付与すれば、小鳥が狙いを定める脚へと弾丸を撃ち込む。【|左眼《チョウツガイ》】に意識を集中させ、負荷が高いであろう箇所を探せば振り下ろされる攻撃を避けつつ、見つけた一点を集中して弾丸を放つ。
「小鳥さん、今撃った場所を集中的に狙ってください」
兎比良の指示と弾丸が当たった場所を確認し、モーラットと共に集中攻撃。大きく悲鳴をあげながらも、『アンドロスフィンクス』は何度と脚を二人めがけて振り下ろすのを避けつつ、小鳥は怪我を覚悟で兎比良に合わせて援護射撃してから赤脚での攻撃から庇った。
「っ、く……!」
的確に防ぎ、痛みにも耐えれる。だが、王劍の力によって強化された『アンドロスフィンクス』からの一撃は重い。防いたとはいえ右肩に脚が深く刺さり、小鳥は表情を歪めた。
だが、直撃した事で小鳥へ攻撃した脚は脆くなり、鈍い音を立ててボキりと折れる。その隙を狙い、兎比良は小鳥の前へ出て射撃を続ける。折れた脚を兎比良目掛けて振り下ろせば、致命傷は避けれたものの胸元から腹まで大きく切り裂かれる。
『もきゅ……』
「私は、大丈夫……兎比良さん、大丈夫ですか?」
「くっ……この程度ならまだいけます」
モーラットが小鳥の傷をぺろぺろと舐めて回復する事で、少しずつ深い傷は癒えていく。兎比良もまた【|略式類型薬剤《激痛耐性》】を使う事で痛みに耐えれる事を確認。
仲間のためにも、まだ後ろに下がるわけには行かない。兎比良は小鳥の怪我を気に掛けつつ、いけるかどうか目線で問いかければ、小鳥は意図を汲み取り小さく頷いた。
(私達は、独りで戦ってはいないのですから)
二人は再び戦闘態勢になり、小鳥はモーラットへ融合の指示を出す。
「融合!」
『もきゅっ!』
『アンドロスフィンクス』に対し、どこまで融合が適応するかは分からない。けれど、少しでも動きを鈍らせる事が出来れば上々という判断だ。
負った傷は大きい。
けれど、少しずつ『アンドロスフィンクス』の傷は増えている。
手を取り合えば必ず勝てると信じ、小鳥と兎比良は前に出て戦い続ける。
●
「譲れないものがあるのはお互い一緒です! 今までの事件の犠牲に報いるためにも、【覚悟】を以て全力で行かせていただきます!!」
ここに至るまで、多くの犠牲が生まれていた。
悪意を持った人達が殺され、あらゆる√世界研究者達が誘拐され、大半が星詠みに予知されないまま行われた。救えた人もいる、救えなかった人もいる。その犠牲を無駄にしないためにも、ラピスの覚悟は強くなる。
『アンドロスフィンクス』の悲鳴は儀式場に響き続け、その気迫は計り知れない。ラピスはそれでも怯まず【|聖櫃の賢明《アーク・プルデンティア》】を発動。
「消えてどこに行くかって? ラピスも知りません!」
ナノ・クォークによる歪みの渦を召喚すると、歪みの渦から粒子を吸い出し纏って増加装甲を着装。
「これより敵、排除します」
淡々とした口調へと変わり、少しでも『アンドロスフィンクス』の攻撃手段を減らすべく脚へと狙いを定めて動き出す。放たれる蜘蛛糸が視界に入れば、随伴させている歪みの渦による再帰反射弾で相殺を試みる。多くは反射出来たものの、しきれなかった蜘蛛糸によってラピスの体に傷が増えていく。『アンドロスフィンクス』によって振り下ろされる赤い脚による攻撃には、雷爪【荒十拳】を構えて相殺するかのように拳を振るう。
「一部損傷。戦闘には支障なし」
多少の怪我はあれど、戦えないほどでは無い。
赤い脚とラピスの拳がぶつかり合うことで、『アンドロスフィンクス』の脚から鈍い音が聞こえてくる。これで三本折れた。残る脚も減ってきているのもあり、その動きは確かに鈍くなっていた。
動きが鈍ったのを見計らい、ラピスは軽く後退して歪みの渦に指示を出して量子固定補修弾による回復を指示。少しずつ傷付いた身体は修復され、戦闘に戻れると判断したところで一気に『アンドロスフィンクス』へ駆け寄れば力いっぱいに顔面へ殴り付けた。
グラリとバランスを崩し、『アンドロスフィンクス』はよろめきながらも《縊匣》を手にしたまま悲鳴を上げ続ける。儀式を続けるために、ゲートを開くために。知性を無くしたとしても意思は揺らがない。
ラピスもまた強い決意を抱き、全力で『アンドロスフィンクス』へ立ち向かい続ける。
●
「お喋りは終いか? なら、お楽しみを始めようじゃねぇか。そんじゃ、本気を出すか」
敵意を見せるならば戦うまで。
空悟は【|竜侮《リュウブ》】を発動し、極限域まで鍛え上げた肉体による純粋な暴力を高めてから『アンドロスフィンクス』との距離を詰める。
『アンドロスフィンクス』もまた弱りを見せ始めているが、攻撃の勢いに鈍さ滲ませつつも強力なのは変わらない。振り下ろされる赤脚での攻撃を、空悟は鍛え上げた肉体で受け止めた。その攻撃は重く、どれだけ鍛え上げたとしても受け止めるのは容易ではない。最初は拮抗するものの力に押され、次の瞬間には激痛が体を襲った。
「……ぐ、っ!」
何とか体を逸らして急所は免れたものの、赤脚が空悟の腹を貫通。引き抜かれると同時に血飛沫が舞い、激痛に耐えながらも倒れてたまるかと踏ん張る。若干視界が霞む。それでも《縊匣》が齎す力を見極めようと、空悟は情報収集を試みる。
(耐えれてるとはいえ、これはかなりヤベェな……)
どくどくと溢れる血は多い。このまま無理をすれば、この場で命を散らす危険が高い。それでも、少しでも大きなダメージを与えねば。空悟は軽く吐血しながらも、ニヤリと笑みを浮かべて口を開いた。
「宴もたけなわってな、そろそろ終いにしようぜ。──討ち殺す」
宣言により【|竜殲《リュウセン》】を発動。一度脱力した後、再び振り下ろされる赤脚を見切って攻撃を避け、瞬時に怪力をのせて装備・天神五衰を以て放たれる体術を放つ。空悟の攻撃が血に塗れた赤脚を砕き、『アンドロスフィンクス』が出来る攻撃の手段がかなり減り、よろける様子から最期が近付いて来てるのを物語っていた。
「永遠の平和なんてモンを望むんなら尚の事、有無を言わせぬ暴力に対する備えは十全以上にしとくんだったな」
空悟の言葉には応えない。
『アンドロスフィンクス』はただただ悲鳴をあげ続け、《縊匣》を手に戦い続ける。
「……んで、縊匣はまだだんまりか? また会う事になるんだ、捨て台詞くらいは聞かせてほしいモンだが」
《縊匣》もまた応えを示さない。
別の王劍のように鹵獲するまで、この先何度も対峙する可能性が高い。姑息と言われている王劍が言葉を残したとて、きっとそれは面倒事になるだろうとも予想出来た。
『アンドロスフィンクス』にも大きくダメージは与えられた。だが、空悟の方も重傷を負ってしまったのもあり、小さく舌打ちしながら後退。死ぬならそれでもいいという覚悟は持っている。殺す気で来ているのにも間違いは無いから。
大怪我にはなったものの、貢献は出来た。あとは仲間に任せ、回復に専念することに。
『アンドロスフィンクス』との戦いに、終わりが近付こうとしている。
平和への道を進むのは、一体どちらか──。
●
「絶対こうなると思ってましたよぉ……敵は倒すしかないのです……っ」
分かり合うのは、話し合うのはやはり難しいのだとイナミは改めて痛感する。仲間達の声が届かなかったという複雑な気持ちを抱きながらも、気持ちを切り替えて戦闘態勢に入る。
「戦うほかに、道はないのね……」
ポツリと。ライラは静かに空色の瞳を伏せる。
痛いほど気持ちは分かるのに。歩み寄りたかった。だけど、平行線となってしまった。複雑な思いを抱きながらも、気持ちを切り替えなければならない。ゆっくりと開かれた空色には覚悟が満ちていた。
「アンドロスフィンクス……あなたに、終焉という名の救済を!」
「ここで、終わらせます……っ!」
既に脚も何本か折られ、動きが鈍くなってきている『アンドロスフィンクス』に対し、さらに動きを鈍らせていこうとイナミは【呪いの釘】を構える。呪詛の篭もる釘を勢いよく『アンドロスフィンクス』の体に打ち込めば、悲鳴に苦痛が混ざっていた。邪魔だと言わんばかりに振るわれる王劍を避けつつ、周囲の怨霊・呪詛・インビジブルを纏い【|怨霊纏《オンリョウマトイ》】を発動。
「うらみはらさでおくべき……です」
丑の刻参りの力も加わり、『アンドロスフィンクス』から放たれる蜘蛛糸を避けるべく儀式場を駆け回る。放たれる数が多い。全てを避けるのは困難で、イナミは咄嗟に【鎮メ牛の魔眼】を見開けば蜘蛛糸は石化。それでも体のあちこちに切り傷は増えるけれど、受けるダメージは減らしていて。
放たれた蜘蛛糸は減り、一時的な隙が生まれると追加で呪詛を付与するために【|恨み晴らし代行サービス《ウサミバラシダイコウ》】を発動。
「呪術も本業ですからねぇ……」
一撃一撃が与える呪いは少ないかもしれない。それでも、蓄積されれば大きなものへとなる。【呪いの釘】を『アンドロスフィンクス』の体に突き立てる度に悲痛の悲鳴があがり、その姿はまるで痛い、苦しいと言っているかのようで。
本当にそう言っているかは分からずとも、情をかけるつもりはない。確実に、少しずつ呪詛を与えることで仲間への攻撃が減るのなら。振るい下ろされる《縊匣》の圧に怯えつつも、しっかり見極めて避けていく。
「ひぃっ、呪いは入ってると思いますが攻撃が激しい……! た、たすけてくださいー!」
「──お覚悟を」
【Valkyrie】の柄をしっかりと握り、ライラは迷いなく前へ出て【|Ma épée《マエペ》】を発動。自身を加護する“白椿”の嵐を纏い、迷彩によって姿をくらませば姿を捉えようと『アンドロスフィンクス』はぎこちなく動き続ける。イナミが与えた呪いや仲間達が戦力を削ってくれたことにより、ライラを捉えようとしてもその動きは鈍い。
素早く『アンドロスフィンクス』との距離を詰め、ひらりと高く跳躍すれば傷ついているところを抉るかのように【Valkyrie】を突き立てた。
痛みからか、悲鳴は大きくなる。
装置による音楽も荒々しい。まるで『アンドロスフィンクス』の心情を表しているかのような音を聞き、ライラは小さく息を飲む。
「あなたの目的が、世界に幸いを齎すものだと……あなたは信じているのかもしれない。けれど、その世界を創る苦しみのために友達が心配しているわ! それに! その悲鳴を聞いている限り、犠牲の上に咲く平和を、わたしは到底受け入れられない!」
『アンドロスフィンクス』を慕い、心配する存在がいる。それが何よりも心を痛める。それでも、多くの犠牲の元に生まれる平和は平和と言えるのか。答えは否。犠牲はゼロに出来なくとも、少しでも誰も傷つかずに平和への道を切り開けるのなら。今ここで打ち砕かねばならないと、ライラは改めて決意する。
「たとえ、王劍が相手だとしても退かないわ。皆の笑顔を護るために、ここで止めなくては──!」
悲鳴を上げながら《縊匣》を振り下ろすのを避けつつ、隙をついて蜘蛛糸が放たれるなら、広範囲攻撃なのもあり避けきれず体のあちこちが切り裂かれる。だが、それが発動へと繋がる。ライラは増える傷に痛みを感じながらも【|révélation《リベレーション》】を発動。
「──侮ったわね?」
【Valkyrie】を強く握り、『アンドロスフィンクス』の胴体へと大きく斬り込む。
ぐらり。大きな体がバランスを崩す。
多少の痛みこそ残れど、『アンドロスフィンクス』へ与えた一撃によってライラの傷は減っていた。
「……出来るなら分かり合いたかった。あなたのその悲鳴が、今度こそ静かな眠りに変わりますように」
もしも分かり合えたなら。
やはり、そう思わずにはいられなくて。
イナミとライラは弱りつつある『アンドロスフィンクス』を見据えながら、それぞれの武器を手に戦い続ける。
悲痛の歌は、心なしか小さくなっている気がした。
●
「一時的でも折り合いがついたら良かったのですが……もうこうなった以上、覚悟を決めるしかありません! 私達にも、大事な物があるのですからっ!」
「私は別に謝ってもいいですが……その、酷いことをされたというあなたの友達達が、無関係の人に酷いことをしたという事実を認めて謝ってくださるのでしたら。それが、平等だと思います」
「……望むものの為に自らも犠牲にする、その覚悟は認めます。ですが、覚悟を持って臨んでいるのはこちらも同じです」
七三子、刻、圭の三人は『アンドロスフィンクス』を見据え、各々の思いを言葉にする。手を取り合う道は得られなかった。互いに払った犠牲は大きいからこそ、覚悟の強さはどちらも対等。
言葉が交わらないなら、残る手段はただ一つ。悲鳴の歌を奏でる『アンドロスフィンクス』を前に、三人は決着をつけるべく動き始めた。
「あなたたちの望みを叶えると、私の大事な人たちが犠牲になるかもしれないんです。ですので、ちゃんとお話合いができないなら、私はやっぱり…立ちふさがります。……ごめんなさい」
複雑な気持ちは残る。だが、半端な感情のまま戦っていい相手じゃないのも分かっているからこそ、七三子は気持ちを切り替えて【|団結の力《カズノボウリョク》】を発動。戦闘員さん達と協調の思念を繋いだ上で刻や圭の側へ控えさせれば、二人への強化はバッチリで。
そこに合わせるかのように刻も【|胡蝶乱舞《コチョウランブ》】を発動。淡く光る無数の黒い霊蝶を纏い、機敏さを高めていくことで『アンドロスフィンクス』からの攻撃に対応しやすくしていく。
悲痛混ざる悲鳴は高らかに。
邪魔をするなと言わんばかりに振るわれる《縊匣》を見切りつつ、七三子は『アンドロスフィンクス』の青い瞳に捉えられないよう【|牽制射撃《チカヅカナイデ》】を発動。煙幕を投げ込む事で視界は遮られ、どれだけ叫んでも麻痺させることは叶わなかった。その隙を狙ったかのように何度か爆発が起きれば『アンドロスフィンクス』の体はぐらりとふらついた。
煙幕と爆発により、標的を七三子へ向けた『アンドロスフィンクス』の隙をつき、刻は【護刀「羽風」】を手に前へ出て【|閃刃・風斬揚羽《センジン・カゼキリアゲハ》】を発動。
「|天《そら》を疾るは風斬る蝶、ですっ!」
悲鳴による叫びが発動のきっかけとなり、脚を狙い鋭い一閃を繰り出す。普通に折ろうとするには硬く、防ぐだけで精一杯ではある。だが、戦闘員さん達が傍にいてくれる事で強化されていた事もあり、我慢比べというように攻撃を防いだ。
七三子と刻が時間を稼いでくれている間、圭は目を閉じ瞑想を始めていた。中枢へ辿り着いてから、ずっと考えていたことがある。
何を断てば、儀式は止まるのか。
何を断てば、この戦いは終わるのか。
──その間、僅か10秒。
仲間を信じ、意識を集中させて答えを探す。
静かに手をかざし、発動するのは【|真書目録《インデックス》】。
「語られた物語は失われず、書かれた真理は沈まない。我は全てを知る者にあらず、ただ、必要な頁を示す者。――真書目録」
圭の声に呼応して、呼び出すのは一人の王。
スフィンクスの謎を解いたギリシャ神話の英雄――オイディプス。静かな眼差しを王へと向ければ、オイディプスは仲間達が戦う前線へ向かう。王に前衛を任せながら、圭は【霊刀真黒】に修羅の怨念を込め始めた。
冷静に、状況を見極めねば。
何を断つべきか、何を残すべきか。その答えを導き出すために。
その間、七三子と刻は圭が攻撃に回れるよう時間を稼いでいた。劈くような悲鳴は絶えず響き渡り、王劍の力を得ているのも相まって『アンドロスフィンクス』の攻撃は凄まじいものばかり。どれだけ煙幕で視界を遮ったとしても、僅かな隙を狙って二人を視界に捉えれば大きく悲鳴を上げる。気迫に圧倒されるだけでなく、青い瞳が七三子と刻を捉えた事で強いしびれに襲われた。
「うっ……動け、ませんっ!」
「し、痺れが強すぎて……戦闘員さんは…」
七三子が周りへ視線を向ければ、一部の戦闘員も麻痺により動けずにいた。動けないのを好機とばかりに残された赤脚で薙ぎ払われれ、二人は容赦なく吹き飛ばされ壁へと激突。
ぶつかった衝撃で激痛が走り、未だ体には強い麻痺も残る。前衛で戦ってくれている王も苦戦を強いられていた。『アンドロスフィンクス』は王劍を構え、死を覚悟した──その時。
「怨念よ、刃に宿れ――ここで断つ」
60秒という短いようで長い時間。
七三子と刻、そして王が繋いだバトンを受け取るかのように放たれたのは、圭による【|修羅の一閃《シュラノイッセン》】。仲間達が戦い、戦場全てを見渡し、探り続けた。
仲間達の攻撃、儀式の反応、時空の歪み。
そこに、答えがあるはずだと信じて。
五感全てと第六感。使えるものは全て使う。
断つべきものを見出した瞬間に放たれた鋭い一閃が『アンドロスフィンクス』へ放たれれば、金色に輝く体に大きな傷を与えた。
視界から逸れた事により、七三子と刻の麻痺は解かれた。残る痛みに耐えながら刻は閃刃・告死蝶を放ち、七三子による鋭い蹴りが傷をさらに深いものにする。
「遅くなりました。体は大丈夫ですか?」
「痛みはありますが……私は、まだまだいけます!」
「私も大丈夫です……! 戦闘員さん達も動けるので、援護に回ります」
圭は申し訳なさそうに二人へ声を掛ける。
痛みや痺れこそあれど、ちゃんと生きているというように七三子と刻は笑みを浮かべた。
たった一人きりだったなら、立ち向かえなかったかもしれない。でも、仲間たちと手を取り合うからこそ、どれだけ強大な力を持っていたとしても真っ向から立ち向かえる。
無事に帰るため、無理をするつもりは無い。
それでも、自分たちの信じる平和のためにここまで来た。
負ってしまったダメージこそ大きいが、それは『アンドロスフィンクス』も同様。傷が増えれば増えるほど、悲鳴は痛々しさを増すばかり。
儀式場には折れた脚が散らばり、金色の体も傷だらけ。EDEN達が流した赤よりも、『アンドロスフィンクス』が流す金が混ざる鈍色の体液が床を濡らしていた。
平和へ繋ぐ歌は続く。
どちらかが勝利を掴むまで。
●
「時空の歪みは止められなかったか……。でも、諦めるわけにはいかない。僕は、止めるためにここへ来たんだから……」
装置の破壊を試みたものの、儀式を止めさせまいと『アンドロスフィンクス』に阻まれてしまった。
だが、ここで諦めるつもりは無い。
リツは目を閉じ、予知をしてくれた星詠みの言葉を思い出す。
(星詠みに察知される前に事件を起こせる特殊なゲート。……悪用されれば、世界を揺るがす脅威になる、か)
察知されず、静かに被害が増えていく特殊なゲート。完全に開ききってしまった先に、EDENが望む平和があるとは思えなかった。
ここに来た以上は、痛みも苦しみも受ける覚悟は出来ている。そこに憎しみが加わったとしても、それだって例外じゃないから。
「だから、ごめんなさい……清羅さん。あなたの大切な友達と戦って……ゲートが開くのを阻止します。──ギョロ、力を貸してくれ。僕らで出来ることを、全力でぶつけよう」
【異形の腕『ギョロ』】はリツと視線を合わせれば、意志を汲み取ったのか、手の甲の目玉は『アンドロスフィンクス』を捉えた。同時にリツは眼帯を外し、ゆっくり右目を開きながら【|熾焰の如く《シエンノゴトク》】を発動。
「燃え盛れ」
開いた右目は深紅に輝く熾焰の瞳へと変わり、自身の身体能力を高めれば真っ直ぐ『アンドロスフィンクス』を見据えて一気に距離を詰めようと駆け出す。
痛々しい悲鳴を上げながら《縊匣》を振り下ろすのを避けつつ、残る赤脚でも攻撃を仕掛けられれば霊的防護を纏った【ギョロ】で受け止める。強大な力を持つ『アンドロスフィンクス』の一撃は重く、受け止めたとしても余裕は少しも無い。更に力を加えられてしまえば流石に抑えきれなくなり、左肩に深く突き刺さった。
「ッ……! ただでは、やられるつもりはない…!」
肩から流れる血が【ギョロ】まで来ると力を増長させ、怪力を持って拳を握り締め力いっぱいに赤脚を殴り付ける。折れはせずとも大きくヒビが入り、距離を離して蜘蛛糸で攻撃してこようとしたところで【|緋色の舞《ヒイロノマイ》】を発動。
「力を貸してほしい」
邪気を払う炎の蝶を召喚し、舞い踊る浄化の炎で放たれる蜘蛛糸を焼き尽くす。リツは高く跳躍し、勢い付けて『アンドロスフィンクス』との距離を詰め顔面めがけて殴り付ければ、大きな体はグラりとバランスを崩した。
『清羅』からの恨みは買うかもしれない。
それでも、目指す平和を作るためにリツは【ギョロ】と共に戦い続ける。
悲しみ、怒り、苦しみ、憎しみ。
それら全てを、一身に受ける覚悟がある限り。
●
「勿論、話し合いだけで解決出来ればそれが良かったんでしょうけれど……猶予はありません、戦う覚悟はできました」
今は知性のない殺人マシーンの如く戦い続ける『アンドロスフィンクス』を見て、アネリスは色々と思うところがあった。
話し合いで相容れる事は無かったかもしれない。けれど、そこに『アンドロスフィンクス』の知性がまだあったならば、考えが聞けたならば、この状況もまた違うものに変わったかもしれなかった。
(それなのに今、縊匣の力によってなのか、こうして悲鳴のようなパイプオルガンの音を背に、無機質な殺人マシンと化していることには……複雑な思いがありますね)
そこまでしてでもゲートを開き、望む平和をつくりたかったのかもしれない。他にもやり方があったかもしれないのに、と──そう思わずにはいられなかった。
アネリスは白く透き通る【羅紗】を手にし、『アンドロスフィンクス』をしっかりと見据え、古代から受け継がれた魔力に霊力攻撃を込めて【|羅紗の解放《アンロック・タペストリグリフ》】を発動。振るい下ろされる《縊匣》の攻撃はしっかりと見極めて避け、避けた先を狙って斬り裂く蜘蛛糸が放たれれば霊的防護で防いでいく。
(勿論、無茶はしませんけれど! けっして、一人で戦っているわけではありませんからね)
古代の魔力で防いでいくけれど、全ては防ぎきれずに体のあちこちが切り裂かれ、肌が裂かれる度に鋭い痛みが走る。痛みに表情を顰めるけれど、一人で戦ってるわけじゃない。仲間もいるという心強さが、アネリスの心を奮起する。
受けた蜘蛛糸の攻撃をコピーし、アネリスはさらに詠唱を唱えながら【|The sky is the limit《スカイズ・ザ・リミット》】を発動。
「連綿と受け継がれた祈りの力を、今――」
詠唱と共に【羅紗】に刻まれた古代の英知を語ることで、白き花舞い散る花園が広がっていく。ひらりと舞い上がる白い花は蜘蛛糸状へと変わり、『アンドロスフィンクス』と同じ攻撃を放つ。
「アンドロスフィンクスもですが、儀式のことも気がかりです 完遂されては世界が……戦いますよ、私の望む平和のために!」
どこまで壊せるか分からないけれど、それでも少しでも進行を止めるべく蜘蛛糸は儀式装置へも放たれる。鈍い音を立てながら装置は傷ついていき、奏でる音楽も不協和音が混ざり出した。
『アンドロスフィンクス』の悲鳴は止まない。
どれだけ傷付き、ボロボロになったとしても、儀式を止めさせるつもりはないと《縊匣》を振るい続ける。
戦いの激しさは増し、それでも信じる平和のために戦い続ける。
●
「続かない平和の為に犠牲を出し、戦乱を招く腐敗は遠くあれと願いながらも、命が沢山失われる事を“自然な状態”として良しとする。……きみのその考えも、それに力を貸す縊匣も、おれは受け容れられない。だから止めるよ、今ここで」
どれだけ話し合いをしたとて、根本的なところが違うならば見逃すことは出来ない。ゾーイもまた、儀式を止めるために敵陣へ乗り込み、そして命を賭けてでも止めると決めているから。
【拾った魔導書】の表紙を開きつつ、『アンドロスフィンクス』から放たれる広範囲の蜘蛛糸に当たらないよう、儀式場の端へと移動する。中央に集中させないことで仲間達が立ち回りやすくし、ゾーイめがけて蜘蛛糸が放たれたところで【|遍在性災厄《アムニプレザント・ディザスター》】を発動。
「災厄はいつだって、近くに転がってるものだよ」
インビジブルと入れ替わって直撃を避け、呪詛を孕んだ次元歪曲をつくりだす。入れ替わる直前に一部の攻撃が当たって切り傷が増えるものの、移動した先でゾーイは『アンドロスフィンクス』の動きを見ながら再生力を持って傷口を癒す。
絶えず悲鳴をあげながら『アンドロスフィンクス』が再び蜘蛛糸を放ってくるなら、ゾーイは【黄金短刀】を片手に構えつつ【|纏霊呪刃《ゴーストドライブ》】を発動。
「さあ、きみの力を貸しておくれ」
強力な死霊を纏い、ゾーイは蜘蛛糸の軌道を見切りながら駆け抜ける。目の前に飛んでくるものは呪詛を帯びた【黄金短刀】で受け流しつつ叩き斬った。放たれる蜘蛛糸の激しさが増し、再びところどころ切り裂かれたとしても、痛みに耐えながら『アンドロスフィンクス』まで接近したところで自身の速さを最大限まで引き出し、そしてすれ違いざまに鋭い一閃で薙ぎ払い──その勢いのままに後方へと退避する。
ゾーイの攻撃によって『アンドロスフィンクス』の動きはさらに鈍り、フラつきながらもまだ戦えると言わんばかりに《縊匣》を振り回す。その姿も弱りを見せ、確実に終わりが近いことを示していた。
「……まだ、戦うつもりなんだね。それなら、おれも戦うまで」
譲れない想いのぶつかり合い。
この戦いの行く末は──。
●
「まあ、オハナシも平行線ならこうなるよな。どっちかが斃れる迄終われへん云うなら仕方なかろ。……とは云っても、俺も仲間もまだ死なれへんからな」
「(情報的な成果は特にありませんでしたね。仮にそれを隠す事も知性を放棄した理由なら……)……さぞ、後ろめたい事を知っていたのでしょう」
「顔も、名前も知らない様な誰かの命を尊ぶ|選択《生き方》に貴賤は無い。なら、誰かの不幸を望むことが赦されざる罪だとしても……今は、自分を通させてもらおうか」
知性を無くしたのは、何かしら隠したかったのかもしれない。だが、それを確認する術はもう無い。この戦いで隠したいナニカを知る事が叶うかは分からない。そして、全ての世界に生きる命に上も下もない。どちらかが倒れるまで戦わなければいけないのなら、三人の覚悟はとうに出来ているから。
ディランと利家が立ち回りやすくなるよう、先手を打つようにアストラガルスは大型ライフル【キングプロテア】を構えて遠距離からの援護射撃を開始。『アンドロスフィンクス』の動き、仲間の動きをしっかり見極めながら動き、射程に入れたところで【|迎撃離脱《オートキラー》】を発動。
「――それは通らん」
少しでも部位を破壊出来るよう、的確な弾道計算により弾丸を放つ。狙いを定めようと『アンドロスフィンクス』が動くが、銀疾風によって身を隠す。
アストラガルスの射撃音をしっかり聞き、視線が逸れたのが確認出来ればディランは【|影刻:音無き残響《ロア・ホロウ・エコーズ》】を発動。
「砕けた欠片……失われし影の門。今……偽りの形を宿せ」
群れなす実体無き魔影の傀竜を呼び出し、回復の指示をしながら『アンドロスフィンクス』の視界外から怪力を持って【Fate/至斬傑牙】を振り下ろす。大きな一撃によって『アンドロスフィンクス』の身体はぐらつき、さらに追撃するべく【Ruth/竜爪:絶破】で鋭い一閃を繰り出した。
「俺達はペンタクルム・ゲートが開く事で起きる、更なる√EDENの|略奪《虐殺行為》を阻止する」
ディランと同タイミングで、利家は【殲術処刑人鏖殺血祭】を手に構えると【屠竜宣誓撃】を発動。【融合装甲】を外し、一気に『アンドロスフィンクス』との距離を詰めれば渾身の一撃を持って重い一閃を振り下ろす。
悲痛混ざる悲鳴を叫ぼうとしたところで、アストラガルスが顔を狙って視線を切る。麻痺を受けることなく、利家とディランの一撃は『アンドロスフィンクス』へ大きなダメージを与えた。
『アンドロスフィンクス』へのダメージが増える事で、ゲートは少しずつ暴走を見せ始める。奏でられる音楽は不協和音が混ざり、悲痛の声が更に大きくなっていく。
三人が気掛かりなのは、傍で見守る『清羅』の動き。今のところ動きはない。『アンドロスフィンクス』がAnkerだという発言から、動きたくても動けずにいるのかもしれないと三人は予想する。
危険なのは『清羅』だけでなく、王劍《縊匣》の動向もそうだ。振るわれる王劍の力は大きい。油断すれば命の危険もあるからこそ、警戒しておく必要があるというのは共通だった。
揺らぎ、奏でるは不協和音の調べ。
悲痛の歌は、何を伝えようとしているのか──。
●
「あ~あ……理性がなくなっちゃったかあ~。ねえ峰ちゃん。装置を傷付けずに、アンちゃんだけを攻撃できる~? 防御は僕に任せてくれて大丈夫だからさ」
「装置以外か、別に問題ない。──にしても、理性が無くなったか。こうなったら獣と変わらんな。いや、獣よりたちが悪いか……。もう良いだろう。今のお前は見るに忍びない。一思いに眠れ」
峰と会話する前から、密かにルメルは【|Automata Detonata《オートマタ・デトナータ》】を発動し、高威力の爆破魔術が組み込まれた魔法人形を呼び出していた。一定数の魔法人形は峰を守れるようにと控えていて、攻撃の邪魔せず動きに合わせて動くよう指示を出す。
不気味に、けれど穏やかに微笑む人形が動いたのを見つつ、ルメルは防御に入るべく前へ出る。『アンドロスフィンクス』は狙いを定めて蜘蛛糸を放ってくるなら魔法人形は爆発で相殺し、さらに新しく魔法人形を召喚して怪力を持って峰を守る陣形へと加えていく。
広範囲に放たれる蜘蛛糸によって、ルメルの体に切り傷は増える。それでも守りに徹するべく痛みに耐え、妨げにならないよう守りに徹した。
そして──。
「僕の役目はここまでだ。後は頼んだよ、峰ちゃん」
ルメルの防御により、魔法人形と共に前へ出る。狙いは『アンドロスフィンクス』一択。【古龍降臨】を発動し、太古の神霊「古龍」を纏えば、俊敏となった峰は放たれる蜘蛛糸を見切って最短距離を見出す。素早い動きに残像が残る事で『アンドロスフィンクス』からの狙いは甘くなり、リミッター解除することで限界を超えた力を発揮。
『アンドロスフィンクス』の真正面、一気に距離を詰めたところで【獅子吼・破軍】による霊剣術・古龍閃を繰り出し一刀両断する。
「意志もなく闘うのは、哀れとしか言いようがないな。そして、意思がないなら、私たちに勝つのは、無理なんだよ。限界を越えられないならな」
意思があるから強くなれる。
限界を超えるために、勝利を掴むために。知性を失った『アンドロスフィンクス』には負けないという覚悟が、より強い力を引き出す。
二人の連携によって、確実に『アンドロスフィンクス』を追い詰める。
この先に勝利がある、そう確信しながら──。
●
「どうやら汝の望む平和とやらは、我が望む平和とは随分景色が違うらしい。交わらぬのなら、やるべき事は一つ。我が意を通し、斬り開く。全ては、ちるはとの――穏やかなひと時の為に」
「アンドロスフィンクスさんの望む平和って、何のためでしょうか? 例え、あなたが見届けられなくても成し遂げたいこと、きっと私と見えているものが違うのでしょうね……。私は、私たちの望む穏やかで大切にしたい日常があります。これからも向き合い見届けます。きっと、私が見ているものは伝わらないでしょうね……。申し訳ないですが、だから譲れません」
お互いに手を取り合い、絆を深めながら望む平和へ歩むこと。その先に明るい未来があると信じて、蜚廉とちるはは進み続けると決めている。ちるはは蜚廉へ視線をちらりと向けて微笑みかければ、蜚廉もまた口元に笑みを携えて小さく頷く。
この先に望む平和があると信じて、二人は強い覚悟を胸に前へ出た。
「ちどりは千の福を取る」
ちるはは早速【||千鳥《sentry gun》《セントリ》】を発動。ファミリアセントリー【8月25日】を複数起動させれば、二機は自身と蜚廉へと随伴させて回復支援に回し、残りは全て『アンドロスフィンクス』を取り囲むように指示。
ちるはからの支援を受け取りながら、蜚廉は鹵獲した王劍《明呪倶利伽羅》を手に構えれば、その力を限定解放しながら【|倶利伽羅・禍繋《マガツナギ》】を発動。
「明呪開きて、禍よ繋げ」
《縊匣》とは違う禍々しさを帯びた《明呪倶利伽羅》は、一時的にだが周囲のインビジブルの制御権を奪えないかと試みる。鹵獲した王劍と違い、やはり《縊匣》の力が大きいからか、想定よりは制御を奪う事は叶わなかったものの、蜚廉は大きく《明呪倶利伽羅》を振り下ろして牽制攻撃。
(清羅は今のところ動かぬ、か。警戒は怠らぬようにしておかねば)
(見守るのも辛いかもしれません……ですが、私たちも譲れませんから)
戦いの最中、二人はこの戦いを見守る『清羅』へと視線をちらりと向ける。
大切な人を倒されてしまう悲しみは計り知れない。もちろん、それは二人も分からないわけではなかった。
もし、自分が同じ立場ならば冷静に見守れるのだろうか。他の道が無いかと模索するかもしれない。けれど、こうして迎える結末が悲しいものだったら──冷静でいられるかどうかは分からないとも思っていた。
それでも、同情していては前に進めない。
穏やかな日常に帰るために、こうして命懸けの戦いに挑みに来た。
お互いの事も大切で、家に帰ったら出迎えてくれる小さな家族がいる。大切なものがたくさんあるからこそ、二人の決意は揺らぐものじゃなかった。
『アンドロスフィンクス』の青い瞳がちるはを捉えようとしたところで、蜚廉はアシカビノウタゲで捕縛。その動きを鈍らせることで麻痺させられるのを避け、その隙を狙うかのようにちるはの【8月25日】は『アンドロスフィンクス』との融合を試みる。
王劍の強大な力を前に、完全に融合することは叶わない。だが、『アンドロスフィンクス』の動きを鈍らせるには十分。二人は静かに目配せをし、息を合わせるべく前へと駆けて出た。
「大切なひとと望む平和を守れるように、いっしょだからできる全力です」
「愛しいと思える日々を。その隣で笑い合える明日を守るために――我はこの力を振るおう」
息の合った二人の勘は完全に重なる。
ちるはの逆手【3月26日】と《明呪倶利伽羅》を強く振り下ろしたクリカラノオオダチによる重い一撃は確実に、そして『アンドロスフィンクス』へ大きなダメージを与えた。
強い一閃は『アンドロスフィンクス』の信念を断ち切るため。
悲痛に満ちた悲鳴は、儀式場に響き渡る。だがそれも、弱みが滲む。
二人に必要なのは、生還を祝う凱歌だけで十分。
勝利と生還を祝う凱歌を奏でるために、二人の強い絆が互いを強くして戦い続ける。
●
「貴方達の理想を否定する術を、私は持ち得ません。しかし、|王劍《その手段》ただ一点において私達は道を違えた。……言葉ももう、通じないのでしょうが」
「互いに譲れないのならばこうするしかないよな。抱える想いが正しいのではなく……間違っていない、と。そのために」
理想はそれぞれあって、理想を叶えるために奮闘するのは皆同じ。けれど、触れてはならぬ力を得てまで理想を叶えようとするのなら、この先手を取り合う事は叶わない。
潤の言葉に、リーガルも小さく頷く。対話虚しく、譲り合うことは叶わなかった。ならば、互いに命を賭けて戦うのみだと黒槍【アウィス】を構えた。
「リーガル、脚を狙いましょう」
「分かった。それじゃ僕は、あんたの死角を補うように立ち回ろう」
「二人同時に彼女の視界内に入らないようご注意を」
「分かった。そっちも気をつけろよ」
弱りを見せている『アンドロスフィンクス』の赤い脚が厄介なのは傷を負った仲間達の様子からすぐ理解すると、潤は敵を見据えたまま作戦を伝える。その言葉に頷いてから互いに死角を補う形で構えたところで、劈くような大きな悲鳴と共に『アンドロスフィンクス』の青い瞳が捉えようとしていた。
「そっちも気をつけろ」の言葉に頷き返してすぐ、潤は黒い霊紙を手に取ると器用に素早く折り込みながら【|Code//餓狼《コード・ガロウ》】を発動。
「Code//餓狼//汝の飢えを満たせ」
折り込まれた霊紙が象るのは、腹を空かせた飢えた狼。悲鳴と似て非なる叫びをした時に目を攻撃するよう指示を出すと、潤は【霊紙刀】を手に視界に入らないよう駆け回る。
潤の死角を補うよう駆け出しながら、リーガルは【アウィス】を手にして【|火継ぐ禍眼《ブレークイン》】を発動。
「あまり|こっち《右目》で見ないよう言われているが、仕方ない! こっちも本気で行く!」
髪で隠れた右目に|人間災厄《イヴリス》の力を集中、凍てつく炎が右目に宿ると残っている赤脚の弱点を見極め、振り下ろされる脚での攻撃の隙を見抜く。風を切る音共に振り下ろされるのを見極めれば、リーガルは【アウィス】を握る手に力を込めれば力いっぱい振り払って軌道を逸らす。弱りを見せているのもあってか、動きが鈍いことで『アンドロスフィンクス』の体はぐらついた。
ただで負けるつもりはないと言わんばかりに『アンドロスフィンクス』は悲痛な悲鳴を大きく上げ、青い瞳が潤を捉えるとビリッと強い麻痺に襲われる。どれだけ弱りを見せても、王劍を手にした事で得た力は強大。潤は僅かに表情を歪めるも、一瞬とも焦りを見せなかった。
「――潤!」
霊紙の狼と共に、リーガルは左手に構えた【PDW-MP7A2】で目を狙い攻撃を仕掛けた事で、視界に捉える標的を変えようと『アンドロスフィンクス』は動き出す。その一瞬の隙を、潤は見逃さない。【霊紙刀】を手に狼と並んで駆け出せば、残っている脚へめがけて振り下ろし──鈍い音を立てて切断に成功。
「道具とは、目的を叶えるためのもの。|王劍《道具》に使われ、己を失った末に得る平和を、あなたは望んだのですか」
「あんたの望む道はそろそろ行き止まりだ。己を失わなかったら、もう少し違ったかもしれないな」
多少痺れが残る体を引きずりながらも、潤が向ける眼差しは真っ直ぐで。多少心配はあれど、大丈夫だというのも伝わったからこそ、リーガルも前を見据えたまま。
掴みたい平和があるなら、己の意思は大切だ。
だからこそ、二人は自らの手で掴むために戦い続ける。
●
「アンドロスフィンクス、きみが……きみたちが歌うのを止められないのなら、ぼくらも決心がついたよ」
悲痛が混ざりながらも、儀式場に響く|悲鳴《歌声》は変わらない。痛々しく、それでもやり遂げるために、『アンドロスフィンクス』は《縊匣》を手にしたまま歌い続けていた。
「話し合いって譲り合いなんだってさ。譲り合える部分がないなら、話し合いはできないよね。でもそんなのかなしいなって、魔法少女は思っちゃうんだ。だからせめて――」
きららは言葉を止める。
仲間達が話をしてくれた。だが結果は残酷で、言葉は交わる事が叶わなかった。譲り合えない、話し合えない。悲しい思いはあるけれど、きららは真っ直ぐと『アンドロスフィンクス』を見据え、ゆっくりと口を開いた。
「――夢野きららは魔法少女である」
自分は魔法少女として戦う。その覚悟を込め、きららは【|改変魔術《ドリームマジック》】を発動。|キラリと輝く空間《必殺技のバンクシーン》を作り出すと、ゆっくりと前へ歩き出す。
劈くような悲鳴をあげながら『アンドロスフィンクス』は蜘蛛糸を放ってくれば、左手を軽く前へ翳しながら“鉄壁”の“エネルギーバリア”を発動させて攻撃を防いでいく。覚悟の強さは同じ、それでも王劍の力を持つ『アンドロスフィンクス』からの攻撃は重い。ある程度は防げたとしても、きららの肌や衣装は蜘蛛糸に切り裂かれ、あちこちから赤い血が流れていく。痛みはある。けれど、決して歩みは止めない。
話し合える距離。
知性の無い『アンドロスフィンクス』は、ただただ悲鳴を上げ続ける。
(なにか言いたいことはないか、最後に一応聞いておくよ。……でも、それが終わりの合図)
きららは攻撃を受けつつも、右手に魔法の杖を持つ。
知性を失った『アンドロスフィンクス』が、最期に言葉を残してくれるかは分からない。
この戦いに終止符を打つ。強い覚悟を胸に【|必殺魔術《ホワイトマジック》】を発動。
「恨むなら、ぼくたちをどれだけ恨んでもいいさ。けれど、このままエンディングまで行かせて貰う!」
魔法の杖からキラキラの虹を放てば、その攻撃は見事『アンドロスフィンクス』に直撃。何本も脚を失い、体はボロボロ。放たれた虹の光による微弱なダメージが、更に追い込んでいく。
「ぼくたちはもう少しだけ、まだ話し合いの余地がある時に出会いたかった。時と場合が違えば、どうにかなったかなんてわからないけれど……そう思いたくなるような相手だったよ。きみたちの望んだ永遠の平和の先を、知りたかった」
『アンちゃん……!』
見守っていた『清羅』が動き出す。
消えないでと、置いてかないでと、悲しみに満ちた声で呼び続ける。
だが、その言葉も虚しく──『アンドロスフィンクス』は画用紙に描かれた絵と化して散っていく。『清羅』にとって、大切な友がいなくなってしまった。
▽
目の前で消えていく。失った悲しみは禍々しい怨嗟へ代わる。
憎い、憎い、憎い憎い憎い。
どうして、どうしてどうして?
ただ、平和にしたいだけなのに。
許さない、許さない、許さない。
『EDENも、白い劍も……許さない。アンちゃん、待ってて……清羅が、清羅がアンちゃんのしたい事……叶えるから』
静かな言葉を残し、骸纏ノ姫『清羅』は王劍《縊匣》と共に、暴走するペンタクルム・ゲートの中に消えていく。不穏な言葉を一つ、言い残して。
「……こんな悲しいエンディングになるなんて」
怪我を負った仲間が多いのもあり、ゲートへ消えていく『清羅』を深追いすることは出来なかった。
そして──きららはポツリと呟く。
けれど、今は犠牲者が出ること無く『アンドロスフィンクス』を打ち倒した勝利を仲間達と分かち合う。
生き残る幹部も多いからこそ、《ペンタクルム・ゲート》との決着がついたわけではない。
再び、対峙する時が来る。一つのきっかけを作ったなら、勝利への道は続いていくと信じる。
──決着は必ずつける。そう心に決めて。