シナリオ

【王権決死戦】◆天使化事変◆第3章『水瓶の置き所』

#√汎神解剖機関 #王権決死戦 #シナリオ50♡ #王劍『ダモクレス』 #王権執行者『ウナ・ファーロ』 #天使化事変 #羅紗の魔術塔

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 静かな街だった。
 人がいない。賑わいの名残は踏み潰されていて、代わりに怪物が闊歩している。
 その地に、部外者は辿り着いた。
「……黒い、オルガノン・セラフィムだとっ?」
「これ何体いるのよ……!」
 星詠みの依頼を受けて踏み込んだ二人は、建物に身を潜みながら周囲を観察している。けれど想定と違う状況に後悔するばかりだった。
 そして、それが振り向く。
「見つかった!? 逃げろ!!」
「でもっ!」
 突き飛ばされた女は、走り出す男を引き留めようとするがもう届いていない。
 男は怪物たちの意識をどうにか自分に向けようとして、しかし一瞬でその体は串刺しになる。
「かは……っ!?」
 死を知らないはずの体は、その瞬間、世界座標との繋がりを絶たれた。もう決して助ける術はないと悟り、女は逃げ出すしかない。
「……っ」
 偶然にも、怪物たちの目をかいくぐる。島の沿岸。波が打ち寄せる音を耳にしながら彼女は息を整えて、しかし途端に異変は起きた。
 心を捻じ曲げられ、体が作り変えられていく。
「そんな、あたしは|対策してきた《レベル22 狂気耐性18》のに——!?」
 なにより、踏み込んでから|しばらく《約400文字》は大丈夫だったというのに。どうして、と浮かべる思考はすぐに掻き消された。
 また、一体の怪物がその地で生まれる。
「……おや、あわや出くわしてしまうところだったか」
 それを避けるようにして、白髪の目立つ初老の男は島に上陸した。



「皆さん、ご協力ありがとうございました」
 星詠みの二軒・アサガオは、|先の戦い《第1章、第2章》で活躍した√能力者たちに対面で頭を下げる。
 無事、苛烈な戦いから戻ってきた勇者たちを称え、また新たな予言を伝えた。
「どうにも、事態はあの塔へと向かわないといけない状況のようです。しかしこのまま向かえば誰一人帰ってこれないでしょう。ええ、どうにも塔が建つあの島こそが【絶対死領域】のようです」
 ついにそれが迫っていると知り、星詠みである彼は言葉を慎重に選ぶ。
「恐らく王劍は、あの塔の頂にあります。そしてこのままにしていれば天使化の光が、世界中の、あるいは全√の人類へと及んでしまう恐れがあります。それだけは避けなければなりません」
 それを阻止するのはあまりに危険。軽い気持ちで協力を求める訳にもいかない。
「ただし、あの島には結界が張ってあり、通常の手段ではそう簡単には乗り込めそうにありません。更には乗り込んでも大量のオルガノン・セラフィムに加え、容赦のない天使化が待っているようでして、とてもではないですが今の状態では皆さんを送りだすことは出来ません」
 あるいは、大まかな座標を知っている上で√能力者としての力を使えば先行する者に追いつくことは可能だろうが、それは自ら死にに行くのと変わらない。だからその可能性を思い付きながらも、二軒・アサガオは口にはしなかった。
「なので、準備をしましょう。万全の状態で、皆さんが戦いへと向かう術は考えておきました」
 人差し指を立てる。
「まず一つは、武器や防具、アイテムなどの充実。あの戦場にて扱える兵装の開発」
 続けて中指。
「次に、更なる戦力増強として羅紗の魔術塔の方々の勧誘」
 最後に薬指も並べた。
「そして、出来るだけ多くの天使の方々との協力交渉です」
 先に述べた二つはある程度想像できるだろうと省略して、三つ目の理由を語る。
「今回の事件で天使となったエドさんには、特別な力がありました。彼の半径20mでは、天使化の光を無効化させるようなのです。更にそれは、島を囲う侵入者を『迷わせる』結界にも有効な事が分かりました」
 彼がいれば、消耗なく島へと辿り着くことが出来る。この作戦において外すことは出来ない人材だ。
「それでなぜ、出来るだけ多くの天使の協力が必要かと言いますと。エドさんのその力を増幅させるためです。彼の力は、『繋がり』を有する者を通して作用するようでして、それは天使化と言う病を通しても可能のようです。更には天使の皆さんも似た力を有していることが分かりまして。つまりは天使を集めるほどに、エドさんの力の効果範囲を——皆さんの活動範囲を広げることが出来ると言う訳です」
 島内では既に天使化の病が蔓延していることが分かっている。エドの傍にいることは、最大の保険となるのだ。だからこそこの準備は最も重要と言える。
「即席的な『繋がり』ではあるので、エドさんと天使の方々にそれなりの契約を結んでもらわなければなりません。その交渉を皆さんにお願いしたいのです。幸いにも皆さんは多くの天使を救ったでしょうし伝手はあるはずですよね? まあもしかしたらまたどこかで発症している方がいるかもしれませんので、自由に連れてきてもらっても構いません」
 |この戦い《王権決死戦》以前の活躍ぶりも信頼してそう告げる星詠みだ。√能力者たちも、彼ら彼女らなら引き受けてくれるはずと思い浮かべている事だろう。
「やらなければならないことは他にもあるでしょう。情報の整理や収集、あるいは、次の戦いに向けて愛する人たちとの時間を過ごすべきかもしれません。ええもちろん、今は覚悟していても、実際向かう時になって怯えたって誰も文句は言いませんよ」
 この先には本当に全てを絶つ死が待っているから、決して無理強いは出来ない。そう配慮しつつ、今だけは大勢に参加してもらうよう投げかけた。
「皆さんで、世界を救いましょう。よろしくお願いしますね」

 その瓶には水が溜められていっている。
 全てを洗い流す洪水は、もう間もなく引き起こされるだろう。
 止めるには急がなければならない。
 それが置かれる塔の頂へ。

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第1章 冒険 『路地裏を駆けるもの』


 プレイング冒頭で【兵装開発】【羅紗勧誘】【天使交渉】のいずれか一つだけを選んでください。追加で情報収集や決戦前夜を自由に過ごしていただいても構いません。現在の状況は第2章からそれほど時間は経っていませんが、避難民は安全に避難して被害地域の復興も進んでいます。エドやマルティナ、あるいは羅紗の魔術塔幹部となら好きに話しかけることは出来ます。

 選んでいただいた【】行動は、リプレイの際に100dで成功判定をします。成功した場合は、次章での数値に関わってきます。それぞれの成功率は初期値10%ですが、プレイング内容によって数値を増やすことが出来ます。

【兵装開発】
・開発成功した『決死戦専用兵装』を、王権決死戦の次章以降のシナリオで参加するプレイヤー全員が、一つ選んで使うことが出来ます。名称は好きに決めていただき、能力は好きな技能を三つ選んでください(技能値はそれぞれ15になります)。
・開発に必要な材料(複数可)の特徴を『』内で説明してください。『』内10文字を超えるにつき2%成功率が上がります。開発に必要な材料の数につき1%成功率が上がります。
(例:『富士山で取れた三又の枝』と『大好きなあの子から貰った赤いリボン』で作った「武器受け」「2回攻撃」「カウンター」の「自家製槍」を作る。→28文字、材料2個、成功率14%)

【羅紗勧誘】
・羅紗の魔術師を勧誘して同行者を増やせます。王権決死戦の次章以降のシナリオで、敵の襲撃に対して抵抗しやすくなったり、人海戦術が取りやすくなります。あるいはピンチの時に庇ってくれるかもしれません。
・勧誘する魔術師の特徴を『』内で説明してください(幹部の説明をしてもいいですが、幹部は同行しません)。『』内10文字を超えるにつき5%成功率が上がります。『』を分けて追加の人物を説明すると、もう一人分の判定を得られます。
(例:『アマランス・フューリーと結婚したい19歳男性羅紗魔術師』と『ひょろがりの羅紗魔術師』を勧誘する。→28文字、成功率20% 11文字、成功率15%)

【天使交渉】
・天使エドによる『天使領域』の効果範囲を天使1人につき10m広げます。この行動を選んだ時点で1人は交渉成功しています。判定で成功すれば更にもう1人交渉成功したことになります。
・交渉する天使との思い出を『』内で説明してください。『』内10文字を超えるにつき10%成功率が上がります。
(例:『彼女と出会ったのは、天使化事変シナリオ「盲目の天使」でのこと。名前はアンナと言った。』→43文字、成功率50%)

【共通】
・成功率は95%までです。それ以上を超えた場合は追加判定の数値となります(得た成功率が105だとしたら、95%と10%で2回判定する。どちらも成功なら2回分の成果が得られる)(【兵装開発】で複数の成功を得た場合は、技能値が増加します)。
・100dの出目が5以下の場合、判定した数値と同じ数値で追加判定を得ます(追加判定でも5以下が出た場合は更に追加判定を得ます)。
・【】行動のみの指定で『』内での説明を一切書かずに判定で成功した場合、100%の追加判定を得ます。
・他の参加者と連携した場合(合言葉なしにMSの判断で行った場合も含む)、共に【】行動の成功率が1.5倍になります(小数点切り上げ)。
・技能「幸運」を持っている方は、その値だけ%が上昇します。
・ジョブ「天使」の方は、参加した時点で【天使交渉】を選んでいなくとも、天使1人の成果を得ます。

・面倒くさかったから好きなプレイングをお書きください。この通りに出来ていなかったから採用しないという事はありません。あくまで上記のような基準でこちらが判定するだけですし、どれだけ成功率を上げても失敗する可能性はある仕様なので、気軽に参加して頂けると幸いです。
天使・純

 天使・純は星詠みの話を聞いて早速その少年へと歩み出す。
「契約を結べばいいんだな? で、それはどうやればいいんだ?」
 全く躊躇いのない彼に少し気後れしながら、エドは伝えられた内容通りにその準備を始めた。
「えっと、血を、頂いてもいいですか? それを飲めばいいだけらしいんですが……」
「ふむふむ、こうか」
 天使・純は躊躇いなく自傷行為を行い、差し出されたコップへと血を注ぐ。20mlほど溜まってからエドが受け取り、少し緊張しながらもグイッと飲み干した。
 天使・純には特に変化はなかったが、エドが感謝を告げてくる。
「これで終わったのか? しかし、お互いに大変だよなぁ」
「いえ、こんなことで救える人がいるなら安いですよ」
「それもそうだな」
 同じ身の上同士同意して、天使・純はさてと周囲の√能力者を見渡した。迫る決戦に向けて万全に至るため皆が駆け回ろうとしている。その様子を見ていては、自分も出来る限りをしようと記憶を掘り返した。
「他の天使の心当たりかぁ」
 そう言えば以前にも星詠みの依頼で関わった天使がいたことを思い出し、彼はその伝手も辿るのだった。

〖リザルト〗
・『』171文字→獲得170%
・ボーナス…ジョブ「天使」で参加
・【天使交渉】95%→94成功
・【天使交渉】85%→75成功
・天使4名との交渉に成功しました

畜生院・茶勒

 畜生院・茶勒は予言による情報に、改めてその気持ちを漏らす。
「死なんて再生出来て当たり前なのに、これは怖いね~」
 とはいえ彼は敵地へ行こうなんて微塵も思っていない。だがそんな考えでも手伝えることがあるならと首……いや足を突っ込んでやろうと顔を覗かせていた。
「ふーん……イイ人じゃなくても天使になったって? なら高純度の悪意のお守りでも試してみようか~」
 どうにもこれから向かう戦場では天使化の病が蔓延しているらしい。それなら託せるのはお守りだろうと、自前のアイテムを参考にして呪物を作り出す。
 自分の死体の右手に、自分を封じるのに使われていた仏像の破片、そしてなんとなくで殺さなかった蜘蛛が紡いだ糸。それによって「|首刈り兎の足《ありがたいあんよ》」を作り出そうとしたのだが、
「んー? あれ、上手くいかんな~?」
 どうにもどこかで手順を間違ったらしい。お守りとして作ろうとしても、いつも通りそれは爆弾となってしまうのだった。

〖リザルト〗
・『』65文字 必要材料3個→獲得15%
・【兵装開発】25%→54失敗

真神・清史郎

 真神・清史郎は敵だった者たちを眺めている。
 √能力者を殲滅せんと襲ってきた羅紗の魔術塔構成員は、戦に負けて多くの者たちが動揺していた。リーダー格が攫われたということもあるだろう。離れていても嘆く声が聞こえてくくる。
 そんな中でも、比較的冷静な者がいた。きっとその組織に加わって長いのだろう、若手たちに一時的でも休息を取らせるよう誘導している。
 彼ならば冷静に話が出来るかもしれないと接触を試みた。
「あんた等の仲間を安全な場所に連れて行きたいんだろう? 手伝わせてくれ」
「……何か、要求でもあるのか?」
「流石だな。だからこそ頼みたいんだ」
 近付いてくる者の意図を聡く感じ取る相手に、自分の目は間違っていなかったと確信する。
「今は一時休戦として力を貸して欲しい」
「……」
「何がどうなって、こうなったのか分からないのはお互い様だ。まだやれる意思がある奴だけで構わない。都合が良い話は分かっているが……お互い、これで終われないだろう」
 古参の羅紗魔術師は黙ったまま、疲れた仲間達を見つめる。それから振り返る事もなく歩き出して。
「あいつらを休ませてからだ」
 要求に応えるため、目の前の問題をさっさと片付けようとした。

〖リザルト〗
・『』87文字→獲得40%
・【羅紗勧誘】50%→9成功
・羅紗魔術師1名の勧誘に成功しました。

御剣・峰

 御剣・峰はその準備作業は自分には適していないと割り切っていた。
 武器の開発は苦手だし交渉ごとはもっと苦手。加えて天使を助ける依頼には一度も行っていない。見るからに詰みだ。このままでは力になれない。
 ならば自分に出来る事は何なのか。その問いにはすぐに答えがあった。
「私は、闘いに専念しよう」
 闘うというのは怖いこと、そしてそれから逃げないこと。
 それは彼女の父からよく伝えられていた言葉だ。今それを噛みしめる。
 この先へと進めば死が待っている。確かにそれは恐怖の対象ではあったが、それ以上に何よりも御剣・峰は負ける事の方が怖かった。
 天武古砕流の史に敗北の二字はない。
 後継者として、その歴史に泥を塗る訳にはいかなかった。だからやることは一つ。
「私は私が収めた技を信じ、目の前の敵全てを打ち砕く弾丸となろう」
 彼女は己を鍛える。来る決戦へと向けて。
 彼女はひたすらに己と向き合った。
 適材適所と言う言葉もあるのだから、きっとそれで良いのだろうと。

白神・真綾

 白神・真綾は自信がありげだった。
「真綾ちゃんそれなりに活動してるデスカラネェ。天使にもいくつかツテがあるデース」
 常に邪悪な笑顔を浮かべている彼女に、交渉事が上手くいくとはとても思えなかったが、戦闘狂であるから天使化事変ではそれなりに奔走している。彼女が関わった依頼は3件もあった。
 農作業中に天使化した老婆は名前を聞いていないが、直接会っていて顔は分かる。カタルーニャで出会った女の子はドロレスと言う名前までわかっている。それに、3件目では複数の天使と出会っていた。
「さーて、これだけのツテを頼って協力してくれるようお願いするデース」
 候補ならいくらでもあると、白神・真綾は邪悪な笑顔のままにヨーロッパの街中へと飛び出す。ちょうどそれと入れ違うように、かつて助けた一人である天使・純がエドに直接協力を申し出る所だった。

〖リザルト〗
・『』157文字→獲得150%
・【天使交渉】95%→93成功
・【天使交渉】65%→70失敗
・天使2名との交渉に成功しました。

山中・みどら

 山中・みどらは予言の内容に辟易とする。
「味方が天使化もしくは死ぬ、って考えると最悪な戦場さね」
 それから、皆の生存率を上げるためにアイテムの制作へと取り掛かった。
 √能力で眷属のぬいぐるみたちを呼び出して、それらと一緒に素材の調達へと向かう。集めたのは√ドラゴンファンタジーで作った風の魔石に、付喪神の本体である山中さん特性のポプリ、妖精が作った丈夫な靴。
 それらをぬいぐるみたちに加工を指示して、風の力を帯びた靴へと作り上げていく。そして仕上げに、えっさほいさと働いていたぬいぐるみを引き裂き布地や装飾として兵装に組み込んだ。
「生きて帰れりゃ一番だけど、命を賭してやらなきゃいけない時もある」
 今まさに眷属の命を賭した彼女のその言葉はやけに説得力があった。そのおかげか、靴は設計通りに出来上がる。

〖リザルト〗
・『』98文字 必要材料4個→獲得22%
・ボーナス…幸運31
・【兵装開発】63%→27成功
・『翔武靴「逃げ足15」「ダッシュ15」「狂気耐性15」』の開発に成功しました。

アイラザード・ゲヘナ

 アイラザード・ゲヘナは怯むことなく応えた。
「ボクだって天使です。微力ながらお力添えをしますよ。…というか、ボクって天使なんだ」
 エドから血液を求められ、そこでようやく彼女は自身の体について知る。とはいえそれで今更何かが変わることはなく、彼女は伝手を頼って知り合いの天使へと交渉に向かった。
「あの方なら…名前は…いえ、居場所は知っています。あのあと安全な場所まで護衛しましたから」
 オルガノン・セラフィム達に襲われていたところを助けて一緒に病院に避難したのが出会いだ。記憶を頼りにかの天使の下へと訪れ、協力を要請する。
「アイラザードさん? どうかしたんですか?」
「お久しぶりです。頼みたい事があってきました」
「頼みたい事?」
「ボクたちはあの時、一緒に√能力者に救われたわけですけど、今度はボクたちが√能力者を助けてあげる番だと思うのです」
 天使化の原因。世界の危機。真剣なまなざしで彼女は事情を説明するのだった。

〖リザルト〗
・『』153文字→獲得150%
・ボーナス…ジョブ「天使」で参加、幸運10
・【天使交渉】95%→44成功
・【天使交渉】75%→33成功
・天使4名との交渉に成功しました。

ハコ・オーステナイト

 ハコ・オーステナイトは次の戦いに向けて兵装開発を行っていく。
 彼女が作ろうとしているのは携帯可能な黒曜石のナイフだ。持っているだけで感覚が研ぎ澄まされるようなものを目指していく。
 武器としても愛用しているモノリスから黒曜石を採取し、天使から分けてもらった神秘金属と市販で買ってきた宝石を組み合わせようとした。
 それぞれの輝きを放つ材料たちは、そのままなら一級品。しかし、
「切れ味の良いナイフに仕上げたい所ですが…。新たな物を作るというのは難しいですね」
 どれもが個としての主張が強く、上手くかみ合わない。それでも重なれば素晴らしい武器になるはずだと何度か試行錯誤を重ねるも、最終的には最も重要な刃となる黒曜石が砕けてしまった。
 その欠片は、採掘源であるモノリスへと吸収されていく。
 けれど特に落胆することもなく、ハコ・オーステナイトは他に手伝いがないかと探しに向かうのだった。

〖リザルト〗
・『』39文字 必要材料3個→獲得9%
・【兵装開発】19%→69失敗

アーシャ・ヴァリアント

 アーシャ・ヴァリアントは|先の戦い《第2章》を振り返る。
「危なかったわ守護霊あの娘のおかげで助かったみたい」
 あわや知らずに絶対死領域へと踏み込もうとしていた事に冷や汗を浮かべつつ、それと比べて消耗することなく結界を突破できるというエドの力は素直に賞賛した。
 そうして彼女もまた、世界の危機のために協力を続ける。
「天使の勧誘ね、ライラは元気にしてるかしら」
 真っ先に浮かべた顔は、ゴミ山の中で見つけた天使だった。
 天使らしくその性格はまさに善性であったが、どこか抜けていた。オルガノン・セラフィムから隠れるために潜んでいたくせに、自分から声を発して存在は教えてしまう。それに黄金のオーラを纏った|自分《ドラゴンプロトコル》を神様などと勘違いをしてしまい、高位な怪異である暴食の破壊者は『腹ペコさん』と呼んでいた。
 思い出すだけで少し表情が和らいでいる。
 アーシャ・ヴァリアントは少し楽しみにしながら、かつて救った天使と連絡を取るのだった。

〖リザルト〗
・『』179文字→獲得170%
・【天使交渉】95%→67成功
・【天使交渉】85%→86失敗
・天使2名との交渉に成功しました。

道明・玻縷霞
アメリア・ヒース

 アメリア・ヒースは道明・玻縷霞と共に、エドとの契約に向かっていた。
 二人の出会いは、とあるオークション。天使化したその体を売りさばかれようとしていたアメリア・ヒースを、道明・玻縷霞がハッタリを駆使して救い出したのだ。その後、生活する場所を与えられてAnkerの繋がりを得た。
 一人で向かおうとするその天使に、道明・玻縷霞は守護する者として無理矢理ついてきた形だ。
 一度きりの関係で終わらず、今もこうしてついてきてくれる恩人に、アメリア・ヒースはぽつりと零す。
「今でも、天使化した時を思い出します。村から逃げて、捕まって……オークションに出されて。自分の身体が変化した理由さえわからなくて、先のことも考えられなかった。もうあんな思いをしたくない」
 根付いた恐怖は、そう簡単に拭えるものではない。けれど彼女はそれ以上に強い意志の持ち主だった。
「でも、誰かに同じ思いをさせたくないんです。私が生き残ったことに意味があるのなら、きっと今がその時。差し伸べてくれたのなら、今度は『そこ』に私が立つ番ですよね」
「……お節介だろうと、やらないという選択肢はない。貴女にそう話したのは、紛れもなく私です」
 頑なな決意を受け止めて道明・玻縷霞がそう言うと、アメリア・ヒース表情は少し和らいだ。
「ええ、そうです。玻縷霞さんが誰かに助けられて、私を助けてくれたように。私も誰かを助けられるのなら……出来ることをしたいんです」
「ならば私も此処で貴女を守り、祈りましょう」
 二人して口元を綻ばせながら、並んで歩む。そうして二人はこの先の戦いのために互いに出来る事をしようとした。
 目に見えないこの繋がりが、次の誰かへとまた繋がっていく事を望んで。

〖リザルト〗(道明・玻縷霞)
・『』66文字→獲得60%
・ボーナス…幸運10、連携
・【天使交渉】95%→70成功
・【天使交渉】25%→9成功
・天使3名との交渉に成功しました。

〖リザルト〗(アメリア・ヒース)
・『』61文字→獲得60%
・ボーナス…ジョブ「天使」で参加、連携
・【天使交渉】95%→7成功
・【天使交渉】10%→86失敗
・天使3名との交渉に成功しました。

八木橋・藍依
八木橋・桔梗

 八木橋・藍依は√能力【|新兵器登場!《パワードウェポン》】によって、√ウォーゾーンへと瞬間移動していた。そして、兵装開発のために必要な人材へと声をかける。
「桔梗! 兵器開発の手伝いをしてください!」
「そう言われる気がしたから、設計図は書いておいたわ」
 発明家としての勘なのか、八木橋・桔梗は姉の頼みごとに先回りして準備を始めていた。さすがは頼れる妹だとほめ称えてから、その差し出された設計図を覗き込む。
「ふむふむ。名称はアンチ√能力マシン、ですか。ほほう、敵からの√能力に対する抵抗力を上昇させる装置なのですね!」
「敵からの不意に行われる攻撃に対しての抵抗力を上げるから、味方の√能力を無効化したりするようなデメリットは無いわよ。だから、味方の回復やバフは問題なく通用するわ。欲を言えば、絶対死に対する抵抗も上昇できればとは思っているのだけれど絶対死の原因が√能力であるかどうか不明だし、それは試してみないとだね」
「なるほど。出は早速作っていきましょう!」
 戦場を体験してきた姉が、そのアイテムの重要性にこれは頼もしいと感嘆して作成を促す。すると妹は、簡単なメモ用紙を取り出し、そこへ必要な材料をリストアップした。
「とりあえず、そこら辺の兵器から再利用したパーツで作ろうと思うから、こんな感じのを取ってきて」
「結構大雑把ですが、大丈夫なのですか?」
「そこは私の発明家としての知識で補うから大丈夫よ」
 そうして材料は集められ、早速開発へと取り掛かるのだが、改めて設計図を眺めた八木橋・藍依はその緻密さに今更になって気付く。
「ところでこれって、どのくらいかかります?」
「んー、まあ並行して他のもやらないとだから1か月くらいかな?」
「それじゃあ間に合いませんよ!?」
 多忙な発明家には、世界の危機がすぐそこまで迫っている実感はなかったらしい。

〖リザルト〗(八木橋・藍依)
・『』46文字 必要材料2個→獲得10%
・ボーナス…連携
・【兵装開発】30%→31失敗

〖リザルト〗(八木橋・桔梗)
・ボーナス…連携、『』なし
・【兵装開発】15%→69失敗

中村・無砂糖
誉川・晴迪

 中村・無砂糖は率先的に考える。
「ほほう、挑むには前準備が必要じゃろうか?」
 この先の戦いで何が求められるか。頭をひねりだしその構想を導き出す。
「…よし! 『ケッ死戦チェンソー剣』を開発じゃ!」
 彼は√能力【|仙術・戦陣浪漫《ダイナミック・エントリー》】を行使して、自らの幸運を引き上げ、作業に取りかかる。
 必要な材料は大容量の竜漿バッテリーに高出力の魔力モーター、対怪異用に打ち鍛えた回転刃と形状記憶合金で出来たチェーンも用意して、それらをなんとなくでがっちゃんこすると運よくそれは形になる。
「出来たぞ。『ケッ死戦チェンソー剣』じゃー!」
 早速自身の尻に挟み込み、覚悟を決めた決戦兵器を見せびらかす。とはいえ、尻で扱う用の武器なんて他に扱う者なんていやしないだろう。
 それでも自前の武器を宣伝するかのように、彼は剣を尻に挟みながらスマイルサムズアップを披露するのだった。


 誉川・晴迪は考え込んでいた。
「……武器ですか。困りましたね。私は呪物くらいしか持てないので」
 しかもそれを皆が使うというのに、果たして役に立つというのか。他のことをするべきじゃないのかと考え込んでいるとふと、それを見つけた。
「出来たぞ。『ケッ死戦チェンソー剣』じゃー!」
 出来上がった武器を知りに挟み、サムズアップを披露する老人。自由気ままなその行動に、幽霊もあれよりはマシかと呪物の制作へと取り掛かった。
 工房は√能力【|開かずの店舗・幽鈴堂《ルインズ・オブ・ユーリンドー》】で建築しておいた小間物店。その内部でそれら単体で呪いが込められていそうな品々を机に並べた。
「99匹の毒蟲を入れ99年経った呪術用の水瓶を、丑の刻参りが成功し99年経過した大樹から引き抜いた五寸釘と使われた木槌で丸ごと粉砕し、地獄の刑場で大活躍とウワサの超強力フードプロセッサーを小型化したもので釘と木槌もろとも更に粉々の粉塵にします。仕上げに毒薬を継ぎ足し続けた結果真水さえも劇薬と化すとウワサの手のひら大の底なし漆黒の小瓶に入れましょう」
 傍から見るだけでも呪いが立ち上っているそれらは、なぜか見事に小瓶の中へと収まってしまう。そして出来上がってしまったそれを、誉川・晴迪は『最も望まぬ責め苦を与える粉塵毒』と名前を付けた。
「はたして私以外の方が使うでしょうか。気をつけてお持ち下さい」

〖リザルト〗(中村・無砂糖)
・『』48文字 必要材料4個→獲得12%
・ボーナス…幸運36、連携
・【兵装開発】87%→34成功
・『ケッ死戦チェンソー剣「限界突破15」「怪力15」「決闘15」』の開発に成功しました。

〖リザルト〗(誉川・晴迪)
・『』131文字 必要材料4個→獲得30%
・ボーナス…連携
・【兵装開発】60%→26成功
・『最も望まぬ責め苦を与える粉塵毒「範囲攻撃15」「暗殺15」「呪詛15」』の開発に成功しました。

神楽・更紗

 神楽・更紗は天使との交渉が必要と聞いて即座に目星をつけていた。
 彼女が目指しているのは、『フェザー』と言う名の料理屋。当日アルバイトを募集していたその店の店主が、天使となっていたのだ。
(オルガノン・セラフィムで行列ができる程の人気店に驚いたものだ)
 当時のことを思い出してつい笑みがこぼれる。店内の混雑ぶりを解消するに、神楽・更紗は戦闘メイド服の烏天狗女子と戦闘割烹着の化狐女子の配下妖怪十数名と共に、給仕や調理に警備と汗を流した良き経験だ。
 息子のトーリーが給与を心配していたが、借金しても払うもんだと叫んでいたのも印象深い。
「それなら、妾と配下達の多額の賃金の支払いをチャラにする代わりとして交渉しようか。ああそうだ、店主はいつも通り皆の腹を満たしてくれればよいとも伝えなければな」
 今度はどんな風に一括飛ばすのかを楽しみにしながら、神楽・更紗は未だ壊れたままの店舗を見つける。

〖リザルト〗
・『』206文字→獲得200%
・【天使交渉】95%→98失敗
・【天使交渉】95%→4成功→追加判定37成功
・【天使交渉】20%→16成功
・天使4名の交渉に成功しました。

オーリン・オリーブ

 オーリン・オリーブはコキンメンフクロウである。
 誰にも警戒されないその野生の姿だからこそ、色々な事を知っていた。
 彼は、とある魔術師の肩に止まる。
「汝、お弟子さんとは様々な社会や組織の慣例を乗り越えて劇的な恋愛の末にパートナーになったほ」
「……君は誰かな?」
 眼鏡をかけた50歳ほどの男性魔術師は、その落ち着いた態度の奥底でうっすらと動揺を膨らませながらフクロウに問いかけた。それにフクロウは名乗りは重要でないと省略する。
「古代語魔術師としては羅紗の魔術師が目指してたところはわからなくもないほ。√EDENでも天使は魔術的には力の源、生命の樹を頂上ケテルまで登って高次元存在のマクルトに行く、という思想はあるほ。もはやカバーストーリー同然かもだけど、それでも手段はともかく自己を保って達成するなら、我輩達と手を組んだほうがいいほ」
「……つい先ほどまで殺し合っていた敵を勧誘するのかね」
「それが最善ほ」
 訝しむ相手を待たずに、フクロウはその方から飛び立つ。そして見上げられていることを感じながら言葉を残した。
「このままでは自我消失して終わりほー」
 破滅を報せるそれはまさに神の使いかのように去っていく。魔術師はしばらく空を見つめ、そから旅支度を始めるのだった。

〖リザルト〗
・『』114文字→獲得55%
・ボーナス…幸運11
・【羅紗勧誘】76%→61成功
・羅紗魔術師1名の勧誘に成功しました。

ハリエット・ボーグナイン

 ハリエット・ボーグナインは手にする素材に自身を重ねる。
「……ヴィンテージものに手を加えるってのはコレクターからは嫌われるもんだけどよ。物置の隅っこで誰からも忘れられてただただ朽ちていくよりは━━最後の最後まで道具らしく扱われて使い潰されていくのが道具の本懐ってやつだろうよ」
 熟練漁師の遺品である水平二連式の散弾銃と持ち主の怨念が籠もったハンティングナイフを材料にして組み合わせるその手つきは、日頃から銃に触れている者のそれだ。
「おまえたちにはそいつをおれがくれてやる。……おれがおまえらに『生命』と『意味』をくれてやる。人が作ったもんなら人を救ってみせろ。殺すことでだって何かを救えるだろ?」
 デッドマンで、暗殺者である自分のように。

〖リザルト〗
・『』39文字 必要材料2個→獲得8%
・【兵装開発】18%→6成功
・『銃剣付きソードオフショットガン「零距離射撃15」「クイックドロウ15」「切断15」』の開発に成功しました。

サティー・リドナー
ラディール・メイソン・らでぃーる・めいそん

 サティー・リドナーとラディール・メイソン・らでぃーる・めいそんの二人は、周囲の視線も気にせず熱い視線を送り合っていた。
「ラディール君、本当はとても危険で、同行拒否したいと思ってました」
「サティー、生死の別れがもしあるなら、現世でも君の側で見守り、手を貸し共に苦難を乗り越えたいんだ!」
 互いの想いを確かめ合うように言葉を交わす。
 サティー・リドナーは前世からの恋人であるその天使のことを当然よく知っていた。彼は、どれだけ危険だろうとも仲間達の安全のために必要と求められたなら、止めても構わずに来てしまうのだ。だから端からその心配は諦めていて、力強い宣言に優しく微笑む。せめても、彼の助力が無駄にならないようにと彼女も伝手をたどって交渉の成功へと目指した。
 思い浮かんだのは二人。以前に依頼で救出した天使たち。親の言いつけを素直に護る心優しきマリーと修道院の院長で同歩の修道女たちを最後まで案じた心優しく勇敢なカルミア。共に女性だ。
 彼女達なら世界中に天使化の病が蔓延することの危機を伝えれば、いや伝えなくとも協力を求めれば仲間になると信じている。たとえまたオルガノン・セラフィム襲撃の脅威に立ち向かうのだとしても。
 そうして早速、サティー・リドナーは依頼の情報を掘り返して交渉へと向かおうとした。だがその前にと、恋人であるラディール・メイソン・らでぃーる・めいそんをエドに預けて挨拶を投げて置く。
「エド君、初めまして。君は一人じゃないよ、こんなに天使のお仲間が世界には居るんだからね。それと君に私の絆の結晶の彼も、預けるから」
 星詠みの話が終わってから多くの天使と契約していて大変そうな少年に、安心させるようそんな言葉を伝えてその場を離れる。
 取り残されたラディール・メイソン・らでぃーる・めいそんは、これから契約を結ぶ同年代の少年を見て、改めて名乗った。
「始めましてだ、俺はラディール、エドこれからは力合わせ皆のためにも頑張ろうぜ、自ら勇敢に戦うのも厭わない、勇敢な君は、俺達の希望の一番星だ。もちろん俺なりにエドを支え力になると制約するぜ!」
 天使の力を増加させるために協力を望まれたし。それに他の同胞とも知り合い仲良くともになる事も目指して笑顔で握手を求める。
 それにエドは少し嬉しそうに顔を綻ばせながら応えてくれた。
「う、うん。よろしくね」
 存外にも好感触と見れば、即座に耳を寄せて男同士のナイショ話で距離を更に近付ける。
「あとここ女性天使の方多くて男性として肩身狭くないか」
「確かに男って少ないよね。ちょっと緊張するかも」
「ま、同性同士、困りごとや相談も何でも言ってくれよ、解決するよう協力もするからさ!」
 その念押しにエドはまた嬉しそうにした。

〖リザルト〗(サティー・リドナー)
・『』141文字→獲得140%
・ボーナス…幸運7、連携
・【天使交渉】95%→16成功
・【天使交渉】95%→59成功
・【天使交渉】56%→23成功
・天使4名の交渉に成功しました。

〖リザルト〗(ラディール・メイソン・らでぃーる・めいそん)
・ボーナス…ジョブ「天使」で参加
・天使1名の交渉に成功しました。

◆◇◆◇◆

 エドは、続々と集まっている天使達になんだか高揚感を覚えていた。
 契約のために休む暇はほとんどない。それでも高ぶる感情に動かされて、その表情は常に笑みを絶やさないでいた。
「お疲れ」
「お疲れ様ですっ」
 何気ない挨拶でも嬉しくなって、こんな小さな自分でも仲間に加われていることが実感出来て嬉しくなる。
 ギュッと拳を握った。みんなを守って、世界を救おうと改めて決心する。
「……これは、僕にしか出来ない事だから」
 だから、もっと頑張らないと。後ろを振り返る暇なんてない。
 彼はひたすら前を見つめていた。

◆◇◆◇◆
——〖途中経過〗兵装4 羅紗2 天使27
山門・尊

 山門・尊はまず最初に周囲で兵装開発している仲間達の手伝いに動いた。
「みんなもどうぞこれを使って」
 マルチクラフトボックスとマルチツールガンを手に渡り歩く。あらゆる作業に適した各種工具となるアイテムのおかげで、何でもかんでもとはいかずとも多くの作業時間を短縮していった。
 余裕が生まれればその分、完成度を高められる。彼のおかげで僅かながらも多くの者たちの作業を順調へと推し進めた。
「本当はもっと時間をかけて試験や調整をしたいけど、仕方ないね。問題はいつも唐突だ」
 来たる決戦でカッコつけられるためにも頑張ろうと意気込む。それから、1%でも勝率を高めるため、可能な限り生き残れるよう、彼は出来る事やれることに力を尽くしていった。
 ただ、手伝いを重視するせいで、自分自身の構想は形にならなかったみたいだ。

〖リザルト〗
・ボーナス…√能力使用
・【兵装開発】13%→21失敗
・適した√能力使用により、以降の【兵装開発】での初期値が3%上昇します。

ガザミ・ロクモン

 ガザミ・ロクモンは天使が切り盛りしていた料理屋『フェザー』へと向かっていた。その道中で、同じ考えで交渉へと向かっていた√能力者と遭遇する。
 同じ|時《章》に同じ場所にいたその人とちょっとした思い出話を交わした。
 トーリーと言う名の息子と二人で切り盛りしていた店主。襲撃の最中でも料理の手を休めず、従業員の弱音を聞き漏らさずはっぱをかけ、代金の回収も忘れない気骨あるしっかりした女性だった。
 オルガノン・セラフィムやアマランス・フューリーに対しても怯まず分け隔てなく食事を提供する商売根性はすごいとしか言えない。空腹なら誰でも歓迎して暖かい料理と居場所をくれる人情味の厚い母。
 そうして料理屋『フェザー』へと辿り着くと、そのテンポは壊れたままだった。しかし厨房では相変わらずの発破をたった一人の従業員へと投げる天使がいた。
 オルガノン・セラフィムの襲撃が落ち着いたことで以前のような大繁盛ぶりはなかったが、それでも忙しそうだ。合間を縫って店主へと状況を説明し、危険を伝える。
「それで、決死隊の方々に協力をお願いしたいのです」
「……そうかい。店はあまり開けたくないんだけど、まあそれで客が来れなくなったら困るしね」
 既に以前の天使化によって常連も何人か怪物化してしまっていたらしい。これが続くなら商売が成り立たなくなっちまうと店主はエプロンを脱いだ。
「ところでアンタは行くのかい?」
「いえ、僕には護るべき大切な人がいるので行けません。けど同じくらい大切な仲間達に帰って来て欲しいんです」
 ガザミ・ロクモンは自分に出来る事をしようとしているのだ。それに店主も気に入ったとばかりに微笑む。
「そうだ。出発前に決死隊の皆さんに手料理を振舞いませんか? 必要なものはすべて用意しますので」
「ははん。出張料理屋かい。悪くないね」
 ふと投げられた提案に、店主は一度手放したエプロンを再び握った。

〖リザルト〗
・『』200文字→獲得200%
・【天使交渉】95%→10成功
・【天使交渉】95%→52成功
・【天使交渉】20%→90成功
・天使3名の交渉に成功しました。

神之門・蓮人

 神之門・蓮人はやれやれとその美しい顔を悩ませる。
「勧誘となると僕の出番になるんだよね。この顔、有効活用させてもらおうかな」
 自身の美貌を理解しながら、彼は羅紗魔術師達がたむろする場所へと向かった。
 すると、
「はーあ、あの子ってば魔術ナシに恋人作ったって。アタシだって負けてられないけど、自分から行動に出るのはなぁ……はあ、王子様現れないかなぁ……ってああ! 王子様!」
 16歳JK羅紗魔術師が通りがかった天啓を得て、
「なんでこんなに上手くいかないの……あいつはあたしのこと振って、ホムンクルスは理想の男にならないし、ううっ、こうなったら洗脳するしか……あ。あの人、絶対あたしのこと好きだよねっ?」
 メンヘラ女子大生羅紗魔術師がロックオンし、
「あーなんでこんな歳まで独身なのよ……またワタシよりも若い子が寿退職してるし。早く、結婚相手を見つけないと……ってあの時のイケメン!? 今度こそ寝返っちゃわなきゃ!」
 アラサー女性羅紗魔術師が逃すまいと飛びつく。
 歩くだけで向こうから寄ってくる。それはまさに女性ホイホイ。

〖リザルト〗
・『』66文字、75文字、81文字→獲得30%、35%、40%
・【羅紗勧誘】40%→26成功
・【羅紗勧誘】45%→45成功
・【羅紗勧誘】50%→50成功
・羅紗魔術師3名の勧誘に成功しました。

天王寺・ミサキ
シンシア・ウォーカー

 シンシア・ウォーカーと天王寺・ミサキは、星詠みの話を聞き終えたところだった。
「やっぱり怖い。震えが止まらない。やり残したことがたくさんある」
「まあ、そうだよね」
「欧州観光してない! 憧れの地中海クルーズにも乗ってない!」
「クルーズ? シンシアは相変わらずで何より……」
 一度は同情しながらも、どこか拍子抜けなやり残しについ緊張感が解ける。それはそれでよかったのかもしれない。と、落ち着こうとしたところでやるべきことを思い出す。
「それより交渉だよ! 縁のある天使が二人いるんだっけ?」
「はいっ。私はあの子と交渉しますよ。修道院で育ったあの子。怪物が元は人間だと分かって殺した私にさえ守ろうとしてくれたあの子に、もう一度力を借りようと思います」
「んじゃオレは、ほらあの、シンシアが森の中で助けた少女に声を掛けようかな。そういや助けに行った側が遭難しかけて、むしろ天使の方が冷静に道を教えてくれてたよな」
 思い出話を咲かせながら、二人は天使の交渉へと向かう。そしてそれが終わると、情報収集を始めた。
「ところで……あの島へは船旅なのでしょうか? 皆で同じ船に乗ったら格好の的では」
「その護衛も√能力者の役目になるんじゃない?」
 海岸の向こうに見える塔を眺めながら、二人は会話をしている。既にシンシア・ウォーカーの√能力【|揺蕩分隊《タヨレルミナサマ》】によって12体のインビジブルが辺りに解き放たれ情報を集めている。
 天王寺・ミサキはその隣で常にもしもに備えて√能力の準備だけは整えていた。
「他√のものですが、この旅行ガイドは参考になるでしょうか」
「まあ、違いとかはわかるかもな」
 次第に、インビジブルたちが戻ってくる。近づける範囲で塔へと近付き、上空から島の全景を把握しようとしていたのだ。12体分の情報を聞き取って、シンシア・ウォーカーは整理してガイドと照らし合わせる。
「それにしても絶対死領域か。耐性と【霊的防護】の準備はしたけど……戦闘経験の浅さは自覚してる。オレは行かないし、何かあったらすぐオレを殺せ」
「ミサキさん……ええ、即座に殺します」
「……ちゃんと帰ってこいよ」
 √能力【|"Be a lady."《ビー・ア・レディ》】で疲労を癒して来るべき時に備える共犯者に、天王寺・ミサキは小さく零す。
 それからしばらくして、情報整理は終わった。
 インビジブルたちが上空から目測した結果、√汎神解剖機関におけるシチリア島は、√EDENのものと比べると随分と小さい事が分かった。それでもその規模は東京都の二倍の面積は有するのだが。
 √が違っていても地理には大きな違いがないはず。だから少なくとも、こちらの世界ではあの島では地形が変わるほどの何かが起きていたのだ。けれど遠目であるものの島の形状からして最近起きた事ではない。
 それはあるいは、数百年前までさかのぼるのかもしれなかった。

〖リザルト〗(天王寺・ミサキ)
・『』84文字→獲得80%
・ボーナス…幸運5、連携
・【天使交渉】95%→13成功
・【天使交渉】48%→11成功
・天使3名の交渉に成功しました。

〖リザルト〗(シンシア・ウォーカー)
・『』122文字→獲得120%
・ボーナス…幸運21、連携
・【天使交渉】95%→33成功
・【天使交渉】95%→48成功
・【天使交渉】37%→84失敗
・天使3名の交渉に成功しました。

櫃石・湖武丸

 櫃石・湖武丸は、天使の子供たちを思い出す。
 ウェッサーマン病理研究所で実験・研究の為に集められていた子供の天使達。人間災厄との戦いで誘惑に耐えてるところに、応援を貰ったのだ。
(あの時は戦いの連続で名前すら聞けなかったんだが息災だといい)
 子供らしく生きている事を願って、彼は過去の依頼情報を頼りに伝手を辿った。直接会う事には至らなかったが、伝言を伝えてくれると言われ、その思いを残す。
「…誰か一人でもいい、力を貸して欲しい。お前達のように姿を変えられてしまった奴がいる。これから変えられようとしている奴もいる。あの時、俺達に戦いで傷ついてほしくなくて。敵に身を捧げようとした優しいお前達ならわかってくれるはずだもしも俺達を想ってくれるなら、あの時みたいに応援して欲しいんだ」
 思わずあの時を思い出して、ふっと口元を綻ばせ、そして願いを続けた。
「『お兄さんたち、頑張れ』ってさ」

〖リザルト〗
・『』97文字→獲得90%
・【天使交渉】95%→29成功
・【天使交渉】5%→20失敗
・天使3名の交渉に成功しました。

隠岐・結羽
静峰・鈴

 隠岐・結羽と静峰・鈴は並んで兵装開発に取り組んでいる
「手伝ってもらえますか?」
「ええ、もちろんです。どのようなものを作るのですか?」
 開発の指揮を執るのは隠岐・結羽だ。彼女は設計図を取り出しながら説明を始める。
「自立射撃支援ドローンを作ろうと思います。名前は『群竜銃』」
「へえ、自立で浮遊とレーザー射撃を行うだけでなくて、精神感応もしているのね」
「それとレーザー射撃でダメージを与えれば同時に魔力を奪い、操縦者に還元もします」
「役に立ちそうですね。それでは早速作りましょう」
 率直な称賛を受けて隠岐・結羽ははにかみ、そんな彼女の思う兵装を作れるよう静峰・鈴も制作に専念した。
 基礎となる部品のほとんどは、√ウォーゾーンから持ってきたもの。誰かの遺品である魔改造されて軽量化と飛行能力が強化されたファミリアセントリーに、魔力を電力に変換する小型バッテリーを積み込み、レギオンコントローラーとレギオン一式も組み合わせる。それらは一度の接合と試行でダメな時用にたくさん用意していた。
「私が調達した物も使ってみてください」
 静峰・鈴から提供された材料は、√ウォーゾーン以外からも集められている。
 誰かの遺品であるレーザー射撃の小型銃口に、妖怪の術師たちが古妖封印に使われる強靭で軽やかな布、人妖の不思議骨董店で売られていた持ち主と持ち主の絆と精神を繋げる神秘の宝石に加え、√ドラゴンファンタジーのセレスティアルに伝わる周囲の空気を操る宝珠、最後は竜漿兵器たる数本ぶんのディヴァインブレイドの飛翔機能を司るパーツ群も重ね合わせて完成だ。
「出来ましたっ」
「とてもいい出来ですね」

〖リザルト〗(隠岐・結羽)
・『』145文字 必要材料3個→獲得31%
・ボーナス…幸運20、連携
・【兵装開発】95%→53成功
・【兵装開発】1%→100失敗
・『群竜銃「レーザー射撃15」「援護射撃15」「狂気耐性15」』の開発に成功しました。

〖リザルト〗(静峰・鈴)
・『』228文字 必要材料5個→獲得49%
・ボーナス…連携
・【兵装開発】93%→74成功
・連携対象と同様の兵装開発に成功しましたので、技能値を「レーザー射撃25」「援護射撃25」「狂気耐性25」へと上昇させました。

眞継・正信

 眞継・正信は早々に天使との交渉を終えていた。
「ええ、このままでは全ての√に天使化の病が蔓延してしまうのです。無理強いは出来ませんが、どうか協力をお願いします」
 とある森の霧の中に囚われていたミス・トフォグと言う名の女性。天使となるにふさわしい事前の心と責任感、そして自己犠牲の精神を持ち、霧を操る異能に恵まれた者だった。
 彼女もまた即答してくれて、次の懸念へと取り掛かれる。
「失礼します。アザレア嬢」
 眞継・正信は礼儀正しく敵幹部へと伺う。まだ少女である彼女はその所作に慣れない様子だったが、敵対心はすっかり見えてこない。
「聞きたい事がございます。もちろん、私たちでアマランス嬢の救出は約束させて頂きますので」
「それでしたらぜひ」
 彼女は誰よりもアマランス・フューリーのことを気にかけているのだろう。何よりも目の前で攫われてしまったのだから。
「それでは、塔とは言った何なのか、その内部構造。そして主の思惑を、推測にしかならないとしても効かせてもらえないでしょうか」
「すみません。それだとあまり分かる事がありません。塔——本部はずっと隔離されていて、あまり情報が出回らないんです。わたしよりも先輩、数十年と組織に所属している者ならあるいは分かるかもしれませんが……」
「そうですか。あなたは随分と若く出世しているようですし仕方がありませんね。他を当たってみます」
「はい。わたしの方でも話をしてくれる方を探しておきます」
 アザレア・マーシーは敵対していたこともすっかり脇に置いて、積極的に協力してくれた。

〖リザルト〗
・『』84文字→獲得80%
・【天使交渉】90%→79成功
・天使2名の交渉に成功しました。

峰・千早

 峰・千早はAnkerを引き連れ、羅紗魔術師の勧誘を行っていた。
「この状況、貴女が望んだ物ではありますまい。このままでは塔も機関も関係なく天使化に巻き込まれてしまう。今日だけは一緒に救いませんか、世界」
 持ち得るコミュニケーション能力を用いて真剣に声をかけるのは25歳ほどの女性だ。
 足首まで届く亜麻色のポニーテールで飴色の瞳、両腕に羅紗を巻き付けた黒いマーメイドラインのイブニングドレス姿の長身のスレンダー美人。
「しかし我々は、敵対していたのだぞ?」
 固い口調で勝気な性格。だがそれは己を厳しく律することで誰かの役に立ちたい義理堅さの裏返し。今もそうして反論するのも、他の魔術師達の面子を立てるためだ。けれど弱点は案外あっさりと見つかった。
「私からもお願いしますぅ」
 峰・千早のAnkerが——女性が口を開いた途端、その魔術師は急に意見を変える。
「……まあ、他にも手伝っている者はいるようだし、仕方ないな」
「ありがとうございます。全員で生存するため尽力します」
 と、峰・千早の力強い発言に対しての反応はいまいちだったが、その魔術師はとにかく女性に甘いようだった。

〖リザルト〗
・『』160文字→獲得80%
・【羅紗勧誘】90%→54成功
・羅紗魔術師1名の勧誘に成功しました。

矢神・霊菜
夜白・青

 矢神・霊菜は傍観だけのつもりだったがそれならと手を挙げる。
「家族が大事だから参加しないつもりでいたけど…でもやっぱり出来る事は協力したいと思うわ」
 死を恐れる自分にも手伝えることがあるのならと、彼女は以前保護した天使へと協力を要請した。
 彼らと出会ったのは、列車の中。彼らにとっては楽しい旅行、あるいはいつもと同じ仕事だった。それが突然天使に、オルガノン・セラフィムに変わってしまった。
 きっと何が何だか分からなくて怖かったと思う。それでも必死に生き残ってくれて、おかげで助けることが出来た。その内の一人である車掌のアルは、列車の止め方を教えてくれて、自ら困難があれば手を差し伸べてくれるような人だった。
「今私達は貴方達の力を必要としている。どうか力を貸してほしい」
 借りを返せと言う訳ではないけれど、きっとまた手伝ってくれると信じてそう交渉した。


 夜白・青も同様に、誰もが生き残るための準備を進めている。
「天使の人たちにツテがあると言えばあるけれど、ちょっと遠くにいるからねい」
 彼も天使との交渉をしようとは思っていたが、連絡を取るには時間がかかるだろうと後回しにしていた。
 それよりもまずはと、√能力【世界を変える歌】を使って、エドたちと契約をしようとしている天使たちの成功率を上げるよう応援する
「わあ、綺麗な歌……」
 世界の行く末を決める重要な任務とあってか、天使の中には緊張や恐怖を感じる者が多かった。しかし夜白・青が歌うそのゆったりとしたBGMが、集まる者たちの表情を和らげてくれる。
 その後押しは些細なれど、確かに世界を変える歌だった。


〖リザルト〗(矢神・霊菜)
・『』181文字→獲得180%
・ボーナス…幸運16、連携
・【天使交渉】95%→54成功
・【天使交渉】95%→37成功
・【天使交渉】95%→1大成功→追加判定38成功
・【天使交渉】24%→71失敗
・天使5名の交渉に成功しました。

〖リザルト〗(夜白・青)
・ボーナス…幸運10、連携、『』なし
・【天使交渉】30%→49失敗
・天使1名の交渉に成功しました。

浅上・菖蒲

 浅上・菖蒲は星詠みからの依頼に首を傾げる。
「俺に刀鍛冶の真似事をしろってか? まぁええけど、そこまでちゃんとしたもん作れるか分からんぞ?」
 でも求められるならと彼も、大勢のためになるよう開発を試みた。
「折角の本当の命懸けの仕事なんやろ? 化け狐がどこまで手伝えるかやけど、多少は手を貸したる」
 彼が目指すのは月の名を冠した物理的な霊剣を作ろうとする。
 取り出したるは玉鋼に使えそうな強度の高い隕鉄。それを極上中取り無濾過の純米大吟醸の酒で清め、√能力の幻影を消し去る焔で焼いて鍛え、霊的加護が付与される煙管の煙で燻した。
 果たしてそれは完成したのだが、
「使う前に試して見んとな」
 と、その出来具合を確かめようとして。必要以上の勢いで耐久を確かめてしまう。と言うかむしろぶっ壊そうとしているのではないかと言った試し切りだった。
 だからそれは、決戦前にぽっきりと折れてしまう。
 その結果に化け狐はついつい噴き出すのだった。

〖リザルト〗
・『』57文字 必要材料4個→獲得14%
・【兵装開発】27%→51失敗

日南・カナタ
青桐・畢
マリー・エルデフェイ
シリウス・ローゼンハイム
広瀬・御影
煙道・雪次

 日南・カナタは集まった捜査三課の面々に情報を共有した。
「俺が関わった天使化事変は4件あるので、三課の皆にも交渉を協力して欲しいんです」
 彼のその要請に、仲間達が拒否するわけもない。その快諾を得て、彼は早速自分が関わった事件の概要を伝えた。
 『聖者は神に祈らない』では天使のヨハンを助けに行ったところでもう一人の天使パウルとも出会った。『メイドカフェに迫る魔術師』ではメイドカフェに潜入する為メイド女装して天使のメイドカフェ店員を助けに行った。『大三角はもう見れない』で出会ったのはライラ。妹が残念な事になったが、もう同じような悲しみを増やさないためにも力を貸してもらいたいと、頼むつもりだ。
「あと一つは……」
「みーくんも行った件ワンね。そっちは任せてニャン」
「お願いします! 出来るだけ多くの人たちが帰ってこれるよう頑張りましょう!」
 と最後に告げて、集まっていた面々はそれぞれの天使の下へと向かっていった。


 青桐・畢は日南・カナタの縁から協力交渉を行う。一人でも多くの協力が得られるよう、丁寧に誠意をもって接していた。
「はじめまして。突然怪物になってしまう事件、ご存じだと思う。それを解決する決戦が、近々行われるんだ。けれど、今のままでは決戦の場に近づくこともできなくてね。どうか、お二人に力を貸して欲しい」
 ヨハンとパウルは突然の訪問に、困惑していた。けれど天使でもある彼らが疑うそぶりは見せない。それにかつて関わった人物の名前を伝えれば、憶えていると前向きに聞いてくれる。
「危険なものと戦って欲しいわけじゃない。ただ、エドという少年と契約を結んで欲しい。……何があっても君達のことは守ってみせる。日南くん達が護衛したときのように」
 青桐・畢がどうかお願いします、と頭を下げると、天使の二人は考える間もなく返事をくれるのだった。
「「もちろん」」


 シリウス・ローゼンハイムは直接的な接点のない自分が向かって話を聞いてもらえるかどうかと不安に覚えていた。
「だが、この危機に一人でも協力者を増やしたほうがいい」
 この行いの必要であるのは間違いない。その事実を胸に、彼もまた日南・カナタの名前を借りて、天使の下へと辿り着いていた。
「日南から聞いた。初対面の俺からの頼みで恐れ入るが、今回の事件に協力してほしい。今回は√能力者も絶対死の危険がある…これ以上大切な者を失う人を増やしたくないんだ。だからどうか、力を貸してほしい」
 その要請を受けるライラも、天使化事変によって妹を失っている。その切実な願いを無視出来るはずもない。
「もちろん。協力させて欲しいわ。あの子みたいな子はもう、生まれて欲しくないから」
「ありがとう。感謝する」
 快い承諾を受けて、シリウス・ローゼンハイムは素直に礼を伝えた。
 それと同時、彼女の亡き人を想う顔に何かを感じる。それが何なのか、シリウス・ローゼンハイムには分からない。
 彼にもまた、守るべき肉親がいる。その別離を恐れる本能が、自然と似た境遇の天使を頼ったのかもしれなかった。


 広瀬・御影は『暗き森の中の光輪』で出会った少年を尋ねていた。
 敵との戦闘中であっても声援を送ってくれるなど恐れず協力してくれたそんな彼なら、この頼み事も聞いてくれるだろうと頼る。
「こんちはー。元気してるワン? 一度森の中で会ったんニャけど覚えてる? 僕はヒーローやモグラさん達のお友達だニャン。その時一緒にいたカナタ君ってお兄さんも君の事を気にかけてたワン」
 真面目な話ではあったが怖がらせないように話しかける。あの時のことを思い起こさせるように言葉を並べると、少年は嬉しそうな顔をしてみせた。
 それからヒーローの近況を伝えるなどして場を和ませてから本題に入る。
「さて、ここから真面目なお願いニャンだけど、力を貸してほしいのだワン。加えてもしも天使化…君と同じ変化が起きたヒトに心当たりがあったら教えてほしいニャン」
「もちろん、力を貸させてください!」
 少年もまた、あの時目を輝かせたヒーローとなるのだ。


 煙道・雪次は、日南・カナタの開いた会議には参加できなかったが、天使の協力が必要と知って率先的に動いていた。
「では俺はクラウス・シェーデルという男に協力を仰ごう」
 仲間達に一応、そう伝えておいて天使の下へと向かう。
 その人物は、ある村の教師だったが、教え子である子供達がオルガノン・セラフィムと化し呆然自失状態だった。いろいろあって彼が落ち着くまで煙道・雪次が面倒を見ているのだ。彼も大切な子供達を失い、これ以上の天使化を阻止した想いはいっしょだろうと協力を仰ぐ。
「クラウス、辛いかもしれないがこれ以上の不幸を広げぬ為に、俺達に手を貸してくれないか?」
「……それで、多くの子供たちが救えるのなら」
 クラウス・シェーデルは未だ暗い面持ちながら手を取った。そうして煙道・雪次は他の天使の当ても探しに行く。
 第一印象は大切だからと、しばらくの禁煙をして。


 マリー・エルデフェイも同じく自らの伝手を辿っていた。
「エド君の力を増幅する為に、以前助けた天使さん達の力を借りる必要がある。ですか……」
 そうと知ってすぐに、過去に縁が出来た天使へと協力を仰ぐ。
「ノア君、この天使化の原因かもしれない存在を止める為に、力を貸して貰えませんか?」
 その心優しき少年は、ケットシーの為に自らの目すら捧げてしまうような人物だった。彼と暴走してしまったケットシーを助けるため、マリー・エルデフェイは四苦八苦して二人を助けたのだ。
 その縁は、こうして自分たちへと返ってくる。
「ぜひ、協力させてください」
 また一人、天使の力を得てマリー・エルデフェイはほっとした。
「そういえば、あれからマルティナさんは大丈夫でしょうか……。少し心配ですね」
 それから少し余裕の出来た心で、気がかりな少女のことを思い浮かべるのだった。


〖リザルト〗(日南・カナタ)
・『』236文字→獲得230%
・ボーナス…幸運5、連携
・【天使交渉】95%→79成功
・【天使交渉】95%→45成功
・【天使交渉】95%→30成功
・【天使交渉】83%→1大成功→追加判定46成功
・天使6名の交渉に成功しました。

〖リザルト〗(青桐・畢)
・『』47文字→獲得40%
・ボーナス…連携
・【天使交渉】75%→9成功
・天使2名の交渉に成功しました。

〖リザルト〗(マリー・エルデフェイ)
・『』111文字→獲得110%
・ボーナス…連携
・【天使交渉】95%→95成功
・【天使交渉】85%→1大成功→追加判定36成功
・天使4名の交渉に成功しました。

〖リザルト〗(シリウス・ローゼンハイム)
・『』124文字→獲得120%
・ボーナス…連携
・【天使交渉】95%→73成功
・【天使交渉】95%→36成功
・【天使交渉】5%→25失敗
・天使3名の交渉に成功しました。

〖リザルト〗(広瀬・御影)
・『』71文字→獲得70%
・ボーナス…連携
・【天使交渉】95%→24成功
・【天使交渉】25%→45失敗
・天使2名の交渉に成功しました。

〖リザルト〗(煙道・雪次)
・『』106文字→獲得100%
・ボーナス…幸運15、連携
・【天使交渉】95%→52成功
・【天使交渉】38%→48失敗
・天使2名の交渉に成功しました。

虚峰・サリィ

 虚峰・サリィは、準備を始める√能力者に背を向けて歩き出す。
「さて、天使や魔術士の勧誘も、装備の準備も大切なんでしょうけど……私にとってはもっと大切なことがあるのよねぇ」
 彼女が向かったのは、ずっと一人だった少女だ。
 忙しなく天使が入れ替わり入ってくるこの建物にて、唯一心を許せる幼馴染の少年の近くにいようとして、しかし声を掛けられないでいるマルティナ。
 その表情はどこか寂し気で、虚峰・サリィは気さくに挨拶を投げかけた。
「ハロー、小さなガール。少しお話できるかしらぁ?」
「え……? は、はい……」
 声音もどこか暗い。そのことを指摘はせず、隣に座って彼女の意志を確認した。
「ねぇマルティナ、貴女はどうしたい?」
「どう、って……」
「エドに付いていきたいのなら、エドの説得に手を貸しましょう。装備が必要なら他の√能力者や魔術師に頭を下げてあげる。ここでエドを待つのなら、私が命に代えても守ってあげるわぁ」
 マルティナは、顔を俯けた。答えを考えこむように。
 それが何であっても、虚峰・サリィは願いを叶えてやるつもりだった。彼女は乙女の味方。ウィッチ・ザ・ロマンシアだから。

◇◇◇◇◇

 その建物は、決死戦に備えるために星詠みが用意したものだった。
 先の戦いが起こった場所からほど近く、外へと出ればうっすらとではあるが塔も窺える。
 そこでは今、天使たちの契約が忙しなく行われていた。
「頑張って下さい」
「ありがとうございますっ」
「この程度しか力になれませんが」
「いえ、充分ですっ」
 その中心にいるのは、エド。天使たちの激励を受けて、決戦に向けての闘志をさらに燃やしている。
 そんな様子を、幼馴染であるマルティナはじっと眺めていた。
 もう身寄りはないから少しでも彼の傍にいようとその建物内にいるが、しばらく声をかける事が出来ていない。それに、何だか今の彼はいつもと違うように思えた。
 戦いに向けて覚悟を決めたその姿は、なんだか怖い。この恐怖はきっと、彼が離れていこうとしているから。
「……」
 マルティナの傍には、彼女を気にかけてその意志を問いかける√能力者がいた。
 どうしたいのか。少女は自身の胸の内に答えを尋ねる。
 本当は、そうするまでもなかったけれど、でも口に出すことを躊躇った。
 だって、これはきっと彼にとって邪魔な望みであるから。
 それでも、想いは口に出てしまう。
「……エドと、一緒にいたい」
 それは、この場限りじゃない。
 出来るならば一生。
 やはりこの不安を繋ぎとめてくれるのは、ずっと一緒にくれた彼しかいないのだと、マルティナは気付いていた。
 あるいは、縋っていた。

◇◇◇◇◇
——〖途中経過〗兵装5 羅紗6 天使66
禍神・空悟
浄見・創夜命

 禍神・空悟は決戦準備で忙しなくなる仲間達を遠巻きに眺めている。
「開発に勧誘に交渉、か。どれも次を考えるなら重要だってのは理解してんだが、どうにも食指がな」
 その準備作業は自分には向いていないと彼は割り切っていた。かといって多くの者が働いている場面で何もせずにダラダラしていれば現場全体の士気に関わるかとも考える。
 そんなお荷物が自分だというのは気に食わない。
「仕方ねぇ、ここは差し入れでも買ってくるか」
 そうして重い腰を持ち上げ、彼も働くことにした。とはいえそれは、自分自身も腹が空いていたからだ。
「作業や会話の合間に食えるもんがいいだろうが……となるとハンバーガー、あとコーラでいいか」
 改めて仲間達の様子を見つめ、状況に適した物を己の好みに合う範囲から選択して、√EDENへと買い出しへ向かう。何も知らないその世界は平和そのものだった。
「いらっしゃいませー。店内でお召し上がりですか?」
「テイクアウトだ。とりあえずこのセットを……」
 定番のセットを指差し、数量を考えた所で止まる。参加者は一体何人いたっけか。前の戦いでは百人ぐらい集まったようだが、今まさに羅紗の魔術塔の連中を勧誘しているみたいだし、天使も呼んでいるはずだから、もっと必要なはずだ。
 数が足りないよりは多いほうがいいと結論付け、馬鹿みたいに食うやつがいても足りるだろう数字を指定する。
「そうだな、1000人分」
「え……と」
「ああ? 金の心配か? 問題ねえよ。これでも実入りがいいんでな」
 店員が困ったような顔をするのでそう伝えるも、その引きつりは消えない。じゃあ何がと首を傾げていると申し訳なさそうな声が発せられた。
「えっと、在庫がないので……」
「なんだそうなのかよ。じゃあまあ、作れる分だけ作ってくれ。それとポテトとナゲットも追加でな」
「は、はいっ!」
 慌てて厨房へと引っ込む店員を見送りながら、禍神・空悟は手隙の連中へと連絡する。一カ所で集められないなら時間がかかりそうだし手伝いをさせるためだ。
「多すぎたか? まあ余るよりはいいだろ」
 なんて言ったって、世界の存亡にかかわる戦いの前なのだから。それに復興作業をしてる連中だっているのだから、そっちにお裾分けしてやればフードロスも怒らないはずだ。
 そんな風に考えながら待っていると、周囲からの視線が集まっていることに気付く。
(……馬鹿みたいに叩かれて炎上しそうだよな)
 店内に客はそれなりにいる。やり取りが聞こえていたのか、何か探るようにこちらを窺っていて、スマホ操作してるやつらはSNSに書き込んでいるのかもしれない。その方に視線を向けるとそいつはさっと顔を逸らした。
 とはいえこのハンバーガーとコーラは恐らく世界で一番売れている食い物。つまりそれだけ多くの生活に縁があるのだから、大勢に提供するには向いている。
 決戦前だからと変に小洒落た食い物出すより、こういう身近なものの方が、天使も羅紗も√能力者も、より守るべき世界だの生活だのってのを意識出来て行動成功率も上がるんじゃないだろうか。
「知らねぇけど」
 つらつらと並べた理屈を自らで吐き捨てる。それからしばらくして注文が届き、禍神・空悟は大量の商品を抱えて店を出た。
 √汎神解剖機関に戻り、差し入れを仲間達へと渡す。
「丁度腹空いてたんだよー」
「やっぱりハンバーガーとコーラが世界一!」
 同じような意見を聞いて、まんざらでもなかった。これでやるべきことは成しただろうと、自分だけで堪能するために別に頼んでいた商品へ手を伸ばそうとして。
 しかしそこに置いていたはずのそれは、いつの間にか消えていた。
「……俺が食おうと買っておいた色々とトッピングしまくったクソデカバーガーが見当たらねぇんだが、誰か取りやがったか?」


「ふむ、美味だな」
 浄見・創夜命は一際大きなハンバーガーを頬張っている。それで腹を満たしながら、彼女は羅紗魔術師が集まる場所を訪れていた。
 彼女は最初に応対した事務担当の羅紗魔術師を勧誘しつつ、レッド・ウーレンとの面会を頼む。そうして案内されたその場所で、元敵は部下たちへと忙しそうに指示を下していた。
「息災か。赤の魔術師よ」
「なに? 弱ってるアタシらにカチコミでもしにきたの?」
「かちこみ? アポなら事務殿の勧誘ついでに伝えたはずだが」
「あらそう。こっちも手が回ってないから勘弁してね」
 浄見・創夜命とレッド・ウーレンはこの戦い以前にも邂逅したことがある。故に、探り合いもなしに用件を伝えた。
「詠めておろうが伝えておくぞ。夜はアマランス嬢の救助に向かおうと思う。勿論それ以外の事象にも対処するつもりではあるが、敵対の意志はない、ということだ」
「それはありがたいわね」
 レッド・ウーレンは視線を合わせない。そうしながらも常に部下への指示を考えているからだ。そうしている理由を、√能力者たちは覗き見してしまっている。
「『お金と友情』で、間違いないな?」
「……」
「羅紗の魔術塔の技術や品々、我らに売ってくれないか。誂うつもりで述べたわけではない。奪わぬ戦い方だよ。我々は救う、守るを題目に挙げたとて、命を奪っている一面はある。天使そのものではなく。天使の如くに皆で陰鬱を払う
例えビジネスからであろうと、これもひとつの|√《選択》」
 浄見・創夜命は手を差し出す。
「何十億分の一の一歩でも。人類の統一に近付くと思わぬか」
 対してレッド・ウレーンは手を取ることはなく、けれど素っ気なくそう告げた。
「好きにしなさい」


〖リザルト〗(禍神・空悟)
・決死戦参加者への差し入れにより、以降の【】行動での初期値が1%上昇します。

〖リザルト〗(浄見・創夜命)
・『』49文字→獲得20%
・ボーナス…幸運72、連携
・【羅紗勧誘】95%→80成功
・【羅紗勧誘】60%→99失敗
・羅紗魔術師1名の勧誘に成功しました。

ヘリヤ・ブラックダイヤ

 ヘリヤ・ブラックダイヤは√能力を行使して、兵装開発を即座に終わらせる。
「前回から戦場に集い、戦ってきた者たちに今更口を出すつもりはないが、この戦いに敗北すれば例の光は√汎神解剖機関全てを覆うのだろう。ならば、力になるくらいはしよう」
 ドラゴンプロトコロルである自身の尾から剥がした鱗で作った『黒竜の守護鱗』。それを持って、羅紗の魔術塔の幹部であるアザレア・マーシーの下へ訪れていた。
「お前たちも持っておけ」
「これは……」
「施しではない。目的を達成するためには戦力は多い方がいい。お前の目的に到達するためにも必要だろう?」
 突然の支給に、かつて敵だった少女は困惑するが、ヘリヤ・ブラックダイヤは受け取る事こそが合理的だと告げる。
「信頼できんというなら今から罠がないか調べておけ」
「……ありがたく、使わせて頂きます」
 罠が仕掛けていると勘ぐったわけではないだろう。ただ、驚いただけだ。アザレア・マーシーは感謝を伝えながら『黒竜の守護鱗』を受け取った。

〖リザルト〗
・『』11文字 必要材料1個→獲得3%
・ボーナス…幸運117
・【兵装開発】95%→6成功
・【兵装開発】39%→25成功
・『黒竜の守護鱗「精神抵抗25」「狂気耐性25」「霊的防護25」』の開発に成功しました。

ジルベール・アンジュー
ジュヌヴィエーヴ・アンジュー

 ジルベール・アンジューとジュヌヴィエーヴ・アンジューは見えざる敵の思惑に正気を疑った。
「全人類をあんな化物に仕立てて世界統一? 狂ってるとしか思えない」
「狂ってるんでしょ。自分の組織に所属してても、区別なく怪物に変えるくらいだもん」
 前回の戦いでの悲惨な景色を思い出しながらそう告げる。そして、それに対抗しようと動き出す√能力者たちを眺めてから、妹は問いかけた。
「でどうするの、お兄ちゃん?」
「まだまともな羅紗魔術師と話を付けようか」
「なるほど、戦力補充と情報収集も兼ねて接触するのね」
 二人は意見を揃えると、早速羅紗の魔術塔の幹部であるレッド・ウーレンとアザレア・マーシーの下へと訪れた。アマランス・フューリーが拉致された以上、指揮を執るのはその二人のはずだから。
 彼女らも忙しい様子だったが、偶然にも二人そろっていたところを見つける。
「レッドさんは一度お会いしましたね。アザレアさんは初めまして。ジルベール・アンジューです。こっちが……」
「はい、私はお兄ちゃんの可愛いお嫁さんのジュヌヴィエーヴ・アンジューです。よろしく。ジェニーでいいよ」
 兄の促しに続いて、周囲の警備のために無人機を飛ばしていた妹も挨拶を繰り出した。対する敵幹部は、少女の方は礼儀正しく受け応えたが、赤魔術師の方はどこか機嫌が悪いのか素っ気ない。
 しかしそれに関係なく、夫婦は早速勧誘を始める。
「あなた方は天使病やオルガノン・セラフィムのことを知っていた。でも自分たちも感染するとは思ってなかった。塔主は既に敵。アマランスさん救出の為、ぼくらと共闘しませんか?」
「あの島に聳えているのが『魔術塔』本部でいいのよね? もう怪物で溢れてるらしいよ。攫われた人を助けたいなら共闘がいいんじゃない?」
「……」
 レッド・ウーレンは応えなかった。それを窺うアザレア・マーシーが代弁する。
「今、わたしたちまで死地に向かってしまえば、羅紗の魔術塔は本当に機能しなくなってしまいます。フューリー様が帰ってくるためにも、わたしたちは家を守らなければならないのです」
「そういうことよ。まあ、フューリーを助けてきてくれるって言うなら感謝するけど」
「そうですか、それなら仕方ないですね。ええもちろん、アマランスさんの救出には全力を尽くします」
「それじゃあ、『|天に選ばれし者《セラフィム・ノア》』を知ってる人は?」
 羅紗魔術師の勧誘で成果を出さなかったジュヌヴィエーヴ・アンジューは、代わりにとそう尋ねるが、幹部二人してもその単語に聞き覚えは無いようだった。


〖リザルト〗(ジルベール・アンジュー)
・ボーナス…連携、『』なし
・【羅紗勧誘】17%→70失敗

〖リザルト〗(ジュヌヴィエーヴ・アンジュー)
・ボーナス…幸運8、連携『』なし
・【羅紗勧誘】29%→86失敗

ラーシェ・リンド

 ラーシェ・リンドはこの状況でならと参加を表明する。
「塔に向かうにゃ力不足だが、手伝えることがあるなら行ってみよう」
 彼が向かったのは羅紗の魔術塔構成員の勧誘だ。これまで戦ってきた敵とは言うが、傍から見るにはただ忙しない組織の構成員と言う風体だった。
 簒奪者は倒さなきゃならない。それがラーシェ・リンドを動かす衝動だ。しかし今の優先順位は分かっていると抑えつけ、滅多にない簒奪者との交渉の機会へと乗り出す。
 まず声をかけたのは、若そうな男性魔術師。いかにも研究者気質と言った風貌のそいつを捕まえ話を聞き出す。
「研究に夢中になってたら、いつの間にかアマランスにも夢中になってた?」
「……まあ、はは」
 照れくさそうに肯定する若者に青春を感じながら、今の状況に同情する。
「……アマランス、心配だよな。あんたの研究成果があいつを助ける手立てになると思うぜ」
「そう、ですよね。おれも何かできないかなって思ってたんですけど、実力がないので足を引っ張るだけじゃって……」
「まあ仮に塔に向かうとしても、みんなで行った方が確実だと思うぞ」
 と話していると、突然ぬっと背の高い中年男性が割って入ってくる。
「行っても無駄だ。どうせ戻っては来れない」
 ぎょろっとした目はインパクトがあってつい驚いてしまったが、彼もまた羅紗魔術師らしい。
「アマランスを失うのは惜しいが、無駄をするべきではない」
「……あんたも、アマランスを慕ってるんだな」
 ラーシェ・リンドはなんとなくそのぎょろ目の言葉から、その感情を読み取っていた。それに対して返答はなかったが、それこそがむしろ応えだろう。
「じゃあ一緒に助けに行こうぜ。あんたの知識だって必ず助けになるはずだ」
「……わたしは行かない」
 彼は頑なだった。結局意見を変える事なく去って行ってしまう。
 けれど若い魔術師の方はむしろ他が行かないなら自分がと意欲を増していて、他にも協力してくれるものがいないか探すと息巻いていた。
 そんな敵だったはずの連中を眺めて、ラーシェ・リンドにも色々と思うところがあった。
「……話してみると、普通の人間なんだよな。あいつらも死ななきゃいいんだが」

〖リザルト〗
・『』51文字、40文字→獲得25%、獲得20%
・【羅紗勧誘】36%→29成功
・【羅紗勧誘】31%→96失敗
・羅紗魔術師1名の勧誘に成功しました。

瀬条・兎比良

「一進一退が続いている気もしましたが、徐々に目標も絞り込めてきましたね。私も今後の準備に尽力しましょう」
 そう呟いた瀬条・兎比良は、戦力増強を優先すべきと考え、羅紗魔術師へと接触することにした。
「……」
 彼は、自分と相性の良さげな人物を探す。勧誘を持ち掛けても理由をスムーズに理解出来るような話しやすい相手がいい。何よりも、能力者だから魔術師だからだのではなく人間として信頼が出来るなら、戦場でも背中を任せられるというものだ。
 そんな中で見つけたのは、上層部である幹部たちからの指示を素直に受け止め、従順に行動をしているような魔術師。
「すみません、お話いいですか?」
「……どういったご用件でしょうか」
 敵対していた身故に、突然の接触には警戒していたようだが、瀬条・兎比良が両手に武器を持たないでいる事にすぐに気づいて、追い返しはしないでくれた。
「私は瀬条・兎比良という者です。今、羅紗の魔術塔の方からもあの塔が建つ島へと乗り込む戦いに参加してもらえないかと勧誘しているところでして」
「ああ。何人か既に引き受けているようですが」
「あなたも、引き受けてはくださいませんか?」
 魔術師はすぐに答えなかった。自分自身の能力が、戦場で通用するのか比較しているのだろうか。しばらく考え込むようなしぐさを見せてからようやく口を開く。
「わたしの友人は、先の戦いでオルガノン・セラフィムと化してしまいました。わたしの性格をよく理解していて、戦うなら彼にしか背中を預けられないと思っていました。ですが、彼は怪物化した恐怖でもう、戦えそうにはありません」
 暗い面持ちは、けれどすぐに持ち上げられる。
「そんな彼が、安心して暮らせるような世界を取り戻したい。そうは思っています」
「それでは、引き受けて下さるのですね」
「微力ながら、手を貸しましょう。いえ、手を貸してください」
 そうして二人は握手を交わした。


〖リザルト〗
・『』119文字、42文字→獲得55%、獲得20%
・【羅紗勧誘】36%→29成功
・【羅紗勧誘】31%→96失敗
・羅紗魔術師1名の勧誘に成功しました。

七々手・七々口

 七々手・七々口は煙草をすぱぁと堪能してから、その小さな足で歩き出す。
「とりま、羅紗の魔術師にでも声かけてみっかねぇ」
 猫が敵組織の内部へと入り込むのは容易だった。警戒されることもなく悠々と吟味する。
 目についたのは、似た趣味を感じる男性魔術師二人だった。
 仕事の片手間に懐から葉巻を取り出す彼は、どうにも煙草ならば全てを愛すると言わんばかりの愛煙家にてニコチン中毒のようだ。けれど古株かつその渋い顔立ちでか周囲からの信用は熱いようで、近接戦闘にもたけているのか肉体もがっしりとしている。常に指先には煙草が挟まっていて、口元からは絶えず煙が揺らめいていた。
 もう一人は、その愛煙家と仲良くしている同年代らしきこれまた中年男性。彼は煙草ではなく酒をこよなく愛しているようで、手には忙しい状況だというのに、酒が握られていた。一言喋るたびに仰ぐ様子はアル中にも見えたが、その手前でギリとどまっているようだ。しかし酔っぱらっている様子はなく、そして誰よりもたくましい体。
 きっとこの二人なら戦場で活躍してくれるだろうと、その猫はそっと近づき声をかけた。
「そこの君ら、オレと同じ|気配《愛煙家と酒好き》を感じるねぇ。どう? 酒でも一緒に飲まない? オレの奢りよ。奢り」
「ん? 猫が喋ってるぞ」
「ああ向こうの奴らだろ。てか何、奢ってくれんの?」
「お、食いついたか。きっと気に入るモンはたくさんあるぜ」
 そう言って、七々手・七々口は揺れる尾の口から宝物庫を開く。取り出したるは数多の酒にツマミ、そして珍しい煙草。その品々だけで二人の中年はまるで少年のように目を輝かせた。
「ほら、好きに楽しめよ。もちろん色々聞かせてもらうけどな」
「まあ別に今更失うモンなんてねぇし、ありがたく貰うか」
「そうだな」
「なんなら他の奴らも混ぜてやっていいぜ。英気を養うってヤツよ。あ、未成年はジュースで我慢しときなぁ。まあ、飲み過ぎて潰れるなんてことないように気を付けようぜぇ」
 猫がそう音頭を取ると、次第にその場は呑みの席へと変わっていった。次々に疲れ切った魔術師達が集まって、ひと時の娯楽にあずかろうとたかってくる。
「その羅紗で行う魔術ってのはどんな仕組みなんだ?」
「詳しいのは分かんねぇけど、まあ簡単に言えば才能のない奴でも魔術師になれちゃう素敵アイテムだ」
「昔はもうちょっと扱いづらかったけど、先代が改良して一気に普及したな」
「丁度黄昏の時期ってのもあって、羅紗の魔術塔は一気に存在感が出たってわけさ。しかもこの羅紗なら、古代の魔術をほぼそのままに使えちまうからな」
 酒を飲んで陽気になっているのか、あるいは奢りに対する仁義か、彼らは聞けば素直に答えてくれた。
「お前らは組織にいて長いんだな? じゃあ塔主のことはしってんのか?」
「ちらっとはな。つってもずっと塔に引きこもってるから、どんななりかは知らねぇ。まあでも、今の塔主に変わってから、羅紗の魔術塔は傾いた気もするんだよなぁ」
「確かに、今の塔主が何かしたのかって聞かれてもぱっと浮かばねぇよなぁ」
「いや、この天使化起こしてんなら、歴代でも一番やべぇことしてるんじゃねぇか」
「確かにな」
 それから二人の話は逸れようとして、その直前で七々手・七々口は本来の目的をこなそうと投げかけた。
「で、お二人さんは一緒に戦ってくれる? 報酬は酒か煙草で」
「「おういいぜ」」
 戦いに向けての乾杯が、早くもその場で鳴らされた。

〖リザルト〗
・『』133文字、114文字→獲得65%、獲得55%
・ボーナス…幸運20
・【羅紗勧誘】95%→44成功
・【羅紗勧誘】1%→11失敗
・【羅紗勧誘】86%→2大成功→追加判定30成功
・羅紗魔術師3名の勧誘に成功しました。

柏手・清音

 柏手・清音は、羅紗魔術師が集まるすぐ傍で√能力【|強制債権回収《キョウセイサイケンカイシュウ》】によって賭博場を建設していた。
 それに釣られてまんまと集まった、魔術師達。
「ちっ、これじゃねぇ」
 違法レートのギャンブル大好きな40歳男性。
「……次こそは」
 柏手・清音の色に誘われてしまった優等生型28歳男性。
「ああもう、取り返さないと……っ」
 先輩に強引に巻き込まれてしまったお人好しな35歳男性。
 彼らはともにその賭場場で負けを連発して、大きな借金を作ってしまっていた。当初は友好関係を築くために開いた賭場場ではあったが、今の状況なら勧誘も出来るだろうと柏手・清音は持ちかける。
「あなたたちの借金、だけれど。これから、協力、してくれるのなら、ちゃらに、するわ」
 その破格な提案に、三人とも息を呑んだ。しかしその協力と言うのが、絶対死領域の展開されている戦場へとお揉む事は、皆がなんとなく理解している。
 命を担保にしろと言っているのだ。だからすぐには応えない。そこへ柏手・清音は更にひと押しした。
「せっかく仲良く、なったの、だもの。ここから、もうひと勝負、行ってみましょう」
「ちっ、負けたままで終われるかよっ! お前も乗るよな!?」
「いやっでも、あの、あ、借金は、返せる、のか……」
 博打好きな先輩に巻き込まれた後輩は迷いながらも、勝負に傾く。そんな様子を嫌いじゃないと眺めながら、柏手・清音はもう一人、若い彼の頬へとその手を添えた。
「さあ、一緒に、いきましょう?」
 ——大丈夫、私は運が、いいのよ。
 その根拠はまさに幾度となく目の前で見せられ、大きな説得力を持っていた。


〖リザルト〗
・『』52文字、51文字、53文字→獲得25%、獲得25%、獲得25%
・ボーナス…幸運51
・【羅紗勧誘】87%→9成功
・【羅紗勧誘】87%→29成功
・【羅紗勧誘】87%→38成功
・羅紗魔術師3名の勧誘に成功しました。

アン・ギニー・スチュアート
一ノ瀬・エミ
アリエル・スチュアート

 一ノ瀬・エミは、先行していた知人からの情報で状況を把握していた。
「うん、わかったリツ君。その兄弟には私から協力をお願いしておくね。アリエルさんの方も任せておいてっ」
 天使との交渉をして欲しいとの願いを聞き届け、彼女は自らの本当の姿を隠すために施していた変異現象を解除して行動を始める。同じ天使なら、幾分か話も聞いてくれるだろうと交渉を試みた。
 そうして無事、兄弟共に協力を快諾してもらった後に、もう一人頼まれていた人物の元へと向かう。
「こんにちは、一ノ瀬エミです。赫夜リツから事情は聞いてるよ」
「よろしくね、エミさん」
 一ノ瀬エミの挨拶に、アン・ギニー・スチュアートも言葉を返す。ぬいぐるみをぎゅっと抱きしめる彼女は、元々は金貨である。とはいえ人と同等の意志を持ち、そして天使らしく皆の力になりたいと考えていた。
「ん、気を付けていってらっしゃいね、アン」
 アン・ギニー・スチュアートの保護者であるアリエル・スチュアートは、自分のやるべきことへと向かうために預けてその場を去っていく。それを見送ってから、天使二人はエドとの契約へと急いだ。
「大変なことになっちゃったけど、一緒に頑張ろうね」
「うん、頑張ろうね」
 天使同士で軋轢が生まれる事もなく、和やかな会話をして各地から天使が集まる建物中へと踏み入る。そこには同じような姿をした者たちがたくさんいて、二人は思わず目を奪われていたが、すぐにやるべきことを思い出して江戸へと歩み寄った。
「あなたたちも、契約をして下さるんですか?」
「はい。私もあなたと同じ天使で…天使化の光からみんなを守りたいと思っています。どうかあなたと契約を結ばせて下さい」
「エドさんって言うんだっけ? イングランドにもエドワードって王子様が居たし、エドさんも何だか王子様みたいだね」
 一ノ瀬・エミの真摯な申し出をまっすぐから受け止め、アン・ギニー・スチュアートからの誉め言葉のようなものに少しだけ照れ臭そうに返す。それからエドは血を分けてもらって契約を進める。金貨からは血液採取は出来なかったので、また別の契約方法を試さなければならず少し時間を要した。
 その間、アン・ギニー・スチュアートは他の天使についても話す。
「エドさん。私と一緒に天使になった他の子もいるの。あの子たちもきっとみんなの力になってくれるよ」
「それは助かります。皆さんのおかげで、本当に助かっています」
 そうしてまた、天使との契約が終わり、死は遠ざかった。


「ん、気を付けていってらっしゃいね、アン」
 アリエル・スチュアートはかつて救った三億円である天使を預け、自身がすべきことへと向かう。
「…まさかアマランスのお姉さんが連れ去られるとはね。流石に敵対してたとは言え、敬愛を抱いた相手、このままでは目覚めが悪いわ」
 向かうのは、羅紗魔術師の勧誘だった。敵幹部とはこの戦い以前からも何度か関わりがある。それが連れ去られたとなれば見過ごすことは出来なかった。
 だからこそ、アマランス・フューリーに対して特に大きな感情を抱いている者を探す。
 耳をすませば、それはすぐに聞こえてきた。
「アマランスちゃんなんて言わせない、絶対お助けする……待っててくださいお姉さま」
「アマランス様をお助けするのは当然です。ですが塔の戦力を失ったのは良くないでしょう」
 二人の女性だ。
 片方は、ぶつぶつと小声で呟いている陰キャ気質のちょっとどころかだいぶ癖の強い18歳ほどの少女。その姿を見てレギオンAIのティターニアが「あれは公爵のもしもの姿かもしれませんね」とアリエル・スチュアートに茶々を入れてくる。当然無視をした。
 もう一人はその陰キャ気質の少女の先輩と思わしき魔術師だ。それはかつての依頼で訪れた銀行でも見かけたことのある顔立ちで、今しがた預けてきた天使の連れを守ってくれていた人物でもある。その辺りの感謝も一応伝えておこうと、アリエル・スチュアートは二人へと歩み寄った。
「アマランスちゃん呼びしてたやつら、天使化で死んでざまぁwどうせ使えないんだからその体で島までの橋になって私たちに踏まれてくれないかしら」
「そんな無駄に使う余力はもう我々の組織にはありませんよ。本当にアマランス様を助けたいのならより綿密な作戦を」
「こんにちは、少しいいかしら?」
 声をかけると二人の魔術師は、当然のように警戒して振り向く。そしてそれが、敵対していた√能力者だと分かると、攻撃の準備すらして。
「私も、アマランスを救いたいの。術者としての彼女は敬愛しているの、絶対に助けて見せるから、あなた達の力も借りたいのだけど、どうかしら?」
 しかしそう伝えると途端に、二人は警戒心を解いた。
「お姉さまのために死んでくださるのね!?」
「いやそこまでは……」
「命を懸ける気のない奴にお姉さまを任せられるわけがないでしょう!?」
「全くこの子は、落ち着いて。あの方の話はとてもこちらにとっても好都合よ」
 暴走する後輩を先輩が宥め、それからどうにか勧誘の話は続けられる。勢いの凄さにアリエル・スチュアートも若干押し切られそうになるものの、その愛情があるからこそ戦場では役に立ってくれるだろうと考えた。
 それから正式に勧誘を承諾され、成すべきことを成し遂げる。
「やっぱり彼女は慕われているのね、彼女が塔主になれば良いんじゃないかしら?」
 敵であった彼女らを見つめ、すっかりなんだか親愛に近いものを覚えるアリエル・スチュアートだった。

〖リザルト〗(アン・ギニー・スチュアート)
・『』75文字→獲得70%
・ボーナス…ジョブ「天使」で参加、連携
・【天使交渉】95%→68成功
・【天使交渉】27%→17成功
・天使4名の交渉に成功しました。

〖リザルト〗(一ノ瀬・エミ)
・『』77文字→獲得70%
・ボーナス…ジョブ「天使」で参加、連携
・【天使交渉】95%→99失敗
・【天使交渉】27%→27成功
・天使3名の交渉に成功しました。

〖リザルト〗(アリエル・スチュアート)
・『』201文字、201文字→獲得100%、獲得100%
・ボーナス…幸運4、連携
・【羅紗勧誘】95%→24成功
・【羅紗勧誘】78%→54成功
・【羅紗勧誘】95%→44成功
・【羅紗勧誘】78%→18成功
・羅紗魔術師4名の勧誘に成功しました。

赫夜・リツ
ヨシマサ・リヴィングストン
リリンドラ・ガルガレルドヴァリス

 赫夜・リツはスマートフォンを耳に当てていた。その話し相手は別行動しているAnkerだ。
「ええ、以前救出した天使の兄弟に協力をお願いしたいです。あの兄弟は、『ギョロ』にも怖がらずいてくれた優しい子たちなので、力になってくれると嬉しいです。それと、アリエルさんと言う方のお連れにも天使の方がいるようなので、預かってあげてください」
 かつてこなした依頼を元に、天使の伝手を辿る。当時のことを思い出してつい微笑みながら、知り合いである天使に状況を伝えて、一緒にエドと契約をしてもらうように頼んでいていた。
「……さて、こちらはこれでいいでしょう」
 天使交渉を終えた赫夜・リツは、次のやるべきことへと向かっていくのだった。


 ヨシマサ・リヴィングストンはどこか茶化すように彼方に霞む塔を眺めていた。
「他√での出来事ですし静観してようかなと思ってたんですけどそういうワケにもいかなさそうですね~。ウチ旅団のボスが天使化してしまった件も含めて、あの塔にはご挨拶に伺わないと」
 彼もまた力を貸す事を決め、可能な天使との交渉を試みる。
「以前助けたアンジェリカさんなら、アマランスさんのことを助けようとしていた彼女なら、力を貸してくれるでしょう。ま、ボクはアマランスさんを盾にしてしまったので心証は良くないと思いますが」
 だから、自分が直接向かうのではなく、とりあえず頼めそうな人に伝言だけ伝えておいた。


 リリンドラ・ガルガレルドヴァリスもまた、天使との交渉を終える所だった。
「ピルヴィさん、お願いしますね」
 彼女もかつての依頼を辿って交渉をする。アマランス・フューリーに狙われていた彼女だが、用生徒の不思議な出会いもあって一度も戦うことなく場を脱することが出来た稀有な依頼だった。だからこそ記憶に残っていて、この場においてすぐに思い出せた。
 危険が身近なこの状況に協力して貰う事には不安と申し訳なさはあったが、天使たちにしか出来ない事がある。それを誠意をもって伝えれば、快諾して貰えた。
 予想以上に時間が巻いた彼女は、次へと向かう。


「二人とも天使の方と交渉されて来たんですか?」
「一応連絡は取りましたよ~。結果は聞いてませんが」
「わたしは無事協力を得られたわ」
 赫夜・リツとヨシマサ・リヴィングストン、リリンドラ・ガルガレルドヴァリスの三人は、それぞれの準備を終えて集まっていた。
 そして、共に向かう。
「それでは、こちらにアザレアさんとレッドさんがいるそうですし向かいましょうか」
「は~い」「ええっ」
 羅紗の魔術塔幹部。その二人へと面会をしに。
「……また来たのね」
「申し訳ないのですが、わたしたちは塔へ行くことは出来ません」
 何度目かの√能力者の訪問に、レッド・ウーレンはどこか億劫そうにしていて、対するアザレア・マーシーが頭を下げる。てっきり二人はアマランス・フューリーを助けに行くと思っていた三人は、その宣言に少し驚いていた。
「事情はもう他にも話してるわよ。アタシたちまで死にに行ったら、羅紗の魔術塔が成り立たなくなるもの」
「……そうですか。やはりアマランスさんを想う気持ちはあなた方の方が強いのですね」
「……」
 素っ気ない言葉に、赫夜・リツはその裏側を見抜く。アマランス・フューリーは意地でも組織を保とうとしていた。けれど彼女がいなくなって、その支えは一気に崩れようとしている。
 だからこそ、一番側にいた二人が彼女が帰ってくるまで支えようとしているのだ。
 きっと、レッド・ウーレンの機嫌が悪そうなのも、助けに行けずモヤモヤしているからなのだろう。それでもここに留まる事の方が大切だと彼女は考えている。
「アマランスさんとは以前、戦わずに話せたことがあって、また話せたら良いなと思ってたけど…そんな彼女が塔主に切り捨てられたと知って…結構ショックだったんですよね。この先どうなるか予測し難いけど、彼女を助けられるよう、僕も力になりたいです」
 その誓いに、レッド・ウーレンは顔を逸らしたまま、けれど小さく「頼んだわよ」と零した。赫夜・リツは当然、それにハッキリと頷く。
「足りてない情報を補完するにはアマランスさんに聞くのが手っ取り早いとは思ってたんすけど…まさか誘拐されちゃうとは」
 その隣でヨシマサ・リヴィングストンは少し場違いに軽い笑みを見せていた。
「ま、お二人でも構いませんので、お話聞かせてもらえません? 一方的に聞かせてもらうのもなんですし、ボクも参加して3人で、アマランスさんの身の安全を守る立場に立つとお約束しますよ~」
「ええ、わたしも約束するわ。個人として魔術塔が掲げる人類統一、そこに共感できる部分があるのよ。そこに至るまでの道筋には共感はできないけれど。あらゆる√世界の異変を解決するうえでわたし達√能力者が手を携えているように、人類皆の力を必要とする時がいつか。そうじゃなくても皆が手を携えて協力できる世界が生まれるならそれほど素敵な事はないわよね!」
 リリンドラ・ガルガレルドヴァリスも続いてその誓いを立てる。ヨシマサ・リヴィングストンは比較的軽いノリだったが、他二人がアマランス・フューリーの無事を純粋に願っているのは事実だ。
 それを、幹部二人も読み取ったのだろう。
「それで、話って?」
「わたしに分かることは少ないですが、協力いたします」
 と、話の場を自ら作り出してくれる。
「あ、じゃあボクからいいですか?」
 真っ先に手を挙げたのはヨシマサ・リヴィングストンだ。その軽薄な態度は透けて見えていたのか、レッド・ウーレンは少しだけ警戒していたが、聞くと決めた以上は拒絶はしない。
 そんな感情の機微に気づいているのか、語調の変わらないままその問いかけは投げられる。
「『ウナ・ファーロ』とはいったい何者か、ですね。星詠みさんから聞いたんですがなんのことだがさっぱりで」
「聞き馴染みないわね。確かイタリア語で一つの灯台、だったかしら? マーシーは?」
「……ウナ・ファーロ」
 レッド・ウーレンの問いかけに、アザレア・マーシーは考え込むように俯いていた。しばらくして彼女は顔を上げ、自信なさげに答える。
「昔の塔主様が、そう名乗っていた記述があったような……いや、違ったかもしれません」
「昔の塔主、ですか。今のではないのですね」
 赫夜・リツが相槌を打つと、リリンドラ・ガルガレルドヴァリスが更なる情報を引き出そうと問いを重ねた。
「ちなみにそれってどのくらい昔の記述なの?」
 生まれた時からその組織にいる少女は、微かな記憶を頼りにそう告げる。
「……700年ほど前かと」


〖リザルト〗(赫夜・リツ)
・『』120文字→獲得120%
・ボーナス…連携
・【天使交渉】95%→66成功
・【天使交渉】95%→28成功
・【天使交渉】7%→80失敗
・天使3名の交渉に成功しました。

〖リザルト〗(ヨシマサ・リヴィングストン)
・『』130文字→獲得130%
・ボーナス…幸運16、連携
・【天使交渉】95%→47成功
・【天使交渉】95%→88成功
・【天使交渉】46%→98失敗
・天使3名の交渉に成功しました。

〖リザルト〗(リリンドラ・ガルガレルドヴァリス)
・『』138文字→獲得130%
・ボーナス…連携
・【天使交渉】95%→97失敗
・【天使交渉】95%→24成功
・【天使交渉】22%→46失敗
・天使2名の交渉に成功しました。

◇◆◇◆◇

 決戦はもう近い。その準備は着実に進められ、そして来るときに向けての作戦会議も開かれていた。
「今集まっている情報を整理しよう」
 とある√能力者がそう告げて、これまでの戦いで得た情報をそれぞれが共有する。
「まず、事件の発端はヨーロッパ各地で起きた天使化ですね。これの原因は、先の戦いでハッキリと可視化されました」
「塔からの光、だね。恐らくきっと、今までもああやってヨーロッパ中に広げられていたんだろうね。ただし薄く広くの要領で、その分、発症する人は限られていた」
「確か天使化の病は、はるか昔に根絶されたんでしたよね? 人心が荒廃した現代ではそもそも発症するはずがなかったとか」
「それをあの光によって精神操作して無理矢理引き起こしている訳だな。最初に感染した者たちが皆善良な人々だったのは、より条件に近かったからか」
「星詠みの予言で、あの塔に【王劍】を持つ【王権執行者】がいる事は分かっているようですが」
「それの建つ島丸ごとが【絶対死領域】となっとるらしいの。だからこそ入念な準備が必要じゃ」
「その島についてなんですが、√EDENで照らし合わせる所シチリア島に当たるらしいです。ただ、何らかの原因で島の大きさは5分の1程度なんですが」
「シチリア島の元の大きさは25000㎢以上だから、ざっくり5000㎢? 東京都の倍以上ね」
「そしてあの塔が、これまで散々ちょっかいをかけてきた羅紗の魔術塔の本部だというな」
「順当に考えて、羅紗の魔術塔の長である『塔主』というのが、【王権執行者】である可能性は高いですね」
「『塔主』についての情報なんですが、不確かではあるのですが、星詠みの予言にあった『ウナ・ファーロ』という名称を名乗っていたと昔の記録に残されていたようです」
「昔? 今じゃないのか?」
「そういえば【王劍】の力って、強大なインビジブルを与えるとかなんとかじゃなかった?」
「過去の亡霊……というわけか」
「考えられるね」
「つーかそれより、あのおっさんが何者かってのも話しとかないといけねーんじゃねーか?」
「ダースさんですね」
「他人の√能力を使って、オルガノン・セラフィムを操る。それに羅紗魔術も使っている可能性が高いそうですね」
「その目的は、|天に選ばれし者《セラフィム・ノア》とやらが関わっているらしいが」
「エド君が、それだって言ってたんだよね? だとしたらそれって、√能力者となった天使の事を指すのかな?」
「分かりませんが、他とは違う天使なのでしょう」
「んー、やっぱりもう少し情報が必要だな」
「いやもう頭パンクしそうなんだけど―」
 その場はそうして一時解散するが、√能力者たちは顔を突き合わせる度に推測を交わし合った。
 少しでも、未知の危険を退かせるため。

◇◆◇◆◇
——〖途中経過〗兵装6 羅紗19 天使81
クラウス・イーザリー

 クラウス・イーザリーは仲間達との作戦会議の最中に抱く。
(話が大きくなってきたな……)
 ヨーロッパ各地で発症した天使化の病。それがよもやこのままでは全√に及ぶ可能性があるとは、星詠みの言葉を聞くまで想像もできなかった。
 まさに世界の危機となっている状況に現実感はどうしても湧かないが、矢継ぎ早に情報を交わされる様を眺めていれば、嫌でも自分がその縁に立っているのだと実感する。
(……島へ向かうために、できる限りの準備をしなければ)
 彼もまた、多くの者が救われるよう最善を目指した。

 少しでも安全息を広げるため、クラウス・イーザリーが声をかけた天使はウィルファネスと言う男性だった。マフィアの一員でありながら、家族同然の存在と街の人たちを助けるために尽力して天使に至った。寡黙だけど真面目で心優しい、天使に相応しい人物だ。
 申し訳ない気持ちを抱きながらも、彼なら力になってくれるはずと協力を要請する。
「巻き込んでしまってすまない。世界の明日のために、明日を見る人達の為に。また力を貸してくれないか」
「アンタには恩がある。そのくらいのことならぜひやらせてくれ」
「ありがとう。これは、君にしかできないことだ。俺も、俺にできることをやってくる」
 快諾を得て、心からの感謝を伝える。そして彼らの厚意が必ず実を結ぶよう、クラウス・イーザリーは更なる情報収集へと向かっていった。
(……他の人も調べたみたいだから大して役に立たないかもだけど、交渉以外何もしないで過ごすのは落ち着かないからね)
 既に島の全景を調べている者はいた。ならば自分は歴史について調べようと書物を漁っていく。
(ウナ・ファーロと言う存在も、700年前の塔主だと言うし)
 その辺りの年代を重点的に絞って調べて、しかし全く記録が残っていない。地中海中央にあって、あれだけ塔も見えているというのに、明確な地図さえ見つからなかった。
(……『迷いの塔』と呼ばれ、決して誰も辿り着けないとされている、か)
 星詠みも、迷わせる結界が張ってあると言っていたし、きっともう数百年も張られているものなのだ。その間はずっと、歴史の中から消えている。
 そうして約1000年ほど前まで遡ってようやく、この世界においてシチリア島の名が現れた。
 その島は、地中海中央に位置するため、沿岸部の国々か他国の侵略拠点とするために狙われていた。更には戦が絶えず起こるせいか、大量の怪異も発生していたという。
(怪異との戦いは、大地を変えるほどに凄惨なものだったのか。√EDENと大きさが違うというのもこれが原因のようだね)
 そこから少しだけ文章は続く。
 数百年単位で続く戦いのせいで、島に住んでいた人々は永く苦しみの中にいた。島外の国に怪異からの侵攻で、生活できる地域も限られていく。けれど島から逃げ出す者はそれほど多くはなかった。故郷を守ろうとするものが大半だった。
 限られた土地の中でも戦いを生き抜くほど、彼らは勇ましく、賢かった。
 そうしてその戦いを経て、島には『王』が誕生する。
 それ以降目ぼしい記述はない。それすら具体的な年代も分からない。
 けれどその存在は、現代で起きる事件と重ねずにはいられなかった。 
「王……王劍、か」

〖リザルト〗
・『』118文字→獲得110%
・ボーナス…幸運46
・【天使交渉】95%→20成功
・【天使交渉】72%→45成功
・天使3名の交渉に成功しました。

祭那・ラムネ

 祭那・ラムネは天使が必要と聞いて、一人の少女のことを思い返していた。
 彼女——リゼルと出会ったのは、とある星詠みの依頼を受けてのこと。北欧の森の中だった。その後もまた、森の中で再会し、交流を重ねた。
 天使化に巻き込まれた彼女は、それでも助けに来た自分たちを信じて前を向いて未来に歩もうとしてくれている。かつてとは変わったかもしれないが、幸せへと戻ろうとしている。
 けれどまた、天使化が起ころうとしていた。今度の被害はもっと無差別に見境なくなるだろう。それによって人生を一変させ、今まで周りにあった幸せのひとつひとつがなくなってしまい、大事な人を失ってしまうことだってあるかもしれない。
 そんな未来を、祭那・ラムネは許容出来なかった。何より友人となった少女の歩んでいく未来を護りたかった。せっかく、前へと歩き始めているのに邪魔をさせたくはない。
 だから少しでも悲劇を減らすため、もう一度彼女の下へと訪れた。
「久しぶり、リゼル」
「お久しぶりです、ラムネさん」
 森の近くの辺鄙な場所で住む彼女は、恩人の声を聞くと嬉しそうに顔を綻ばせた。その機微に祭那・ラムネは少しだけ申し訳なさを抱く。
 本当は戦場に近づけさせたくない。このまま平和な場所で穏やかに暮らして欲しい。それが本音。けど、今は一人でも多くの協力が必要なのは確かなのだ。
 せめて彼女が無事でいられるよう、祭那・ラムネは手を差し伸べる。それが自分に出来る精いっぱいだった。
「きみのことは俺が護る。だから、力を貸してほしい。誰かが泣かなくて済むように。悲しい結末を阻止するために。──きみの力が必要だ、リゼル」
 それに、天使が拒むはずもなかった。

〖リザルト〗
・『』380文字→獲得380%
・【天使交渉】95%→64成功
・【天使交渉】95%→87成功
・【天使交渉】95%→16成功
・【天使交渉】95%→55成功
・【天使交渉】11%→21失敗
・天使5名の交渉に成功しました。

橋本・凌充郎

 殺す事に重きを置く橋本・凌充郎にも、その思い出はあった。
 天使の名について聞くことはなかったが、それでも彼女の青い瞳は、まるで聖印のように青く輝き印象に残っていた。そして何よりも、殺してしてか事を成さない自分のような男も無条件に信用し、それどころかいたわりの精神まで見せてきて、その性質には確かに天使の条件を満たしているようだと妙な気分で納得させられた。
「……澱みも腐りも知らず、平穏に生きているべき女だと思ったな」
 自分らしくない評価に変な感じがしながらも、天使との交渉を成すために過去の依頼を辿って居場所を探す。
 そうして再び邂逅した彼女も、橋本・凌充郎のことを覚えていた様子だった。
「あなたは……」
 と続けようとしたのだろう言葉が止まってそう言えばそうだったと思い出す。
「貴様に面と向かって名乗ったことは無かったか。鏖殺連合代表。橋本凌充郎である。折角だ…貴様の名も、聞いておこうか」
「ヘレナ・エーレンベルクです。あの時はありがとうございました」
 天使はかつて伝えられなかった名前とともに頭を下げた。自分に恐れる様子のないその素振りに、橋本・凌充郎は再び天使である実感を彼女に抱きながら用件を伝える。
「護っておきながらの話ではあるが。貴様の力を借りたい。貴様の様な性根の者は本来こういった状況に似つかわしくない。日の当たる場所、穏やかな空気、人の温もりと共に生きるべきだ」
 彼女の暮らすその空間を見渡しながら、必要以外の意見も述べる。あるいはそれは気遣いとも取れて、天使はその一面を見抜いていたからこそ信頼していたのかもしれない。
「それを承知の上で。鏖殺連合代表として、恥の上で頼む。この一連の状況を、仕組んだ何かが確かにいる。――――それを、殺す為に。力を貸してくれ」
「もちろん、手伝わせてくださいっ」
 ヘレナは、二つ返事で了承した。

〖リザルト〗
・『』207文字→獲得200%
・【天使交渉】95%→65成功
・【天使交渉】95%→67成功
・【天使交渉】21%→72失敗
・天使3名の交渉に成功しました。

マハーン・ドクト

 マハーン・ドクトは天使化事変に関する依頼で出会った天使のことを思い出そうとしていた。
(名前は…ミラ、だったっけ)
 初めて助けた天使であり、自分よりもよっぽどヒーロー、ではなくヒロインらしい少女だと評している。その在り方はまさに立派そのもので、自分にはその在り方をそのまま真似することはとてもではないが出来ないと感じていた。だけど、だから、助けたいと思ったそんな天使だった。
 天使の多くは、自分を度外視して誰かのために行動できてしまう。けれどマハーン・ドクトはそうする前に恐怖で竦んでしまう。誰かのためになろうとして、結局何もかもが上手くいかないことを恐れていた。
(俺が、死んでしまうのは怖い。痛いのが怖い。苦しいのは怖い。何もかもが、どうしようもなくなってしまうのが怖い)
 いつだってその頭の中は恐怖で一杯だ。弱音ばかりを言って、いつも後ろばかり振り返りたがっている。
 なのに彼は、常に変わらずそうして前へと歩んでいた。
 自分なんかが役に立つはずはないと思いながらもそうせずにはいられなくて、歩いている最中でも何度も後悔してしまうのだが、結局はその場へと赴いている。
 かつての依頼を頼りに、マハーン・ドクトは天使のいる場所を訪れていた。
(…出来る事。俺に、出来る事)
 進んでしまったからには考える。こんな情けない自分が力になれる事を。
(何も知らない俺が出来る事は、とりあえず…とりあえず、話そう。天使の皆と話そう。今回の事。この騒動。話して、天使の皆と話して、情報を集めよう。何か、本当に何かでもあればいい。何か違和感とかがあれば、それを繋ぎ合わせていこう)
 そう決意して、ゆっくりと扉をノックする。すると出てきたのは見覚えのある人物。天使のミラだ。
「マハーン様、でしたよね?」
「ああ。覚えていてくれたのか」
「命の恩人のことを忘れはしません」
 ミラはふっと笑いかける。マハーン・ドクトをまさにヒーローとして認識しているが、彼自身は同行していた者たちの力あってこそと考えてしまうから、自尊心は高まらない。
「今日は、協力をお願いしたくて訪れた」
「協力、ですか? 一体どんな?」
 唐突の訪問に何か用があるのは勘づいていたのだろうが、説明された事情を聞いて、天使はすぐには飲み込めないようだった。けれど善なる心を持つ者が、拒むはずもなく。
「大した力になれるとは思えませんが、それでも必要と言うのでしたらぜひ、協力させてください」
「ありがたい。やはりあなたはヒロインだ」
「? どういうことですか?」
 怯えず進む相変わらずの姿に、やはり尊敬に近いものを抱いていて。だからこそ自分も、出来る事をしようと改めて決意した。
 そうでなくとも。
 心細い思いをしてる誰かがいるなら。こんな俺でいいなら、助けになりたい。
 マハーン・ドクトはいつでもそう考えて、気付けばヒーローになっている。

〖リザルト〗
・『』163文字→獲得160%
・ボーナス…幸運16
・【天使交渉】95%→17成功
・【天使交渉】92%→96失敗
・天使2名の交渉に成功しました。

二階堂・利家
見下・七三子
ゴッドバード・イーグル
機神・鴉鉄

 二階堂・利家は、過去の依頼を振り返って天使の伝手を探っていた。
「北欧の森で救助したリゼルという少女がいたはずだけど、まだ誰も当たっていないかな…」
 これだけの√能力者が協力しているのだ。伝手が被ることはあるだろう。と、契約のために天使が集まるその場所を見渡していると、偶然にもその顔を見つけてしまった。
「先約があったか。仕方ない、他を探そう。……うん、ロッテはここには来ていないみたいだ」
 浮かべていた天使の姿に、伝手が一つ潰れる。しかしそれを残念がる間もなくもう一人の候補を思い出して、早速再会を急いだ。依頼当時はメンタルケアに重きは置いていなかったから覚えてくれているだろうかと言う不安を抱きつつ。
 そうして再び邂逅した天使の少女は、幸いにも顔を覚えてくれていた。それに他の√能力者からも声はかかっていないようだった。それらのことに安堵しつつ、二階堂・利家は言葉を交わす。
「あの時以来か。在りし日の日常を奪われる様な目に遭って、隣人と家族の『繋がり』は絶たれてしまった。命の危険に晒されて、もし。全てが上手くいかなければ。無事では済まなかったかもしれない。囚われの身に落ちていたら、今こうやって話せる様な状況では無かった可能性だってある」
「ええ、そうですね。それをあなた方が助けてくださいました。本当に感謝しております」
 どこか心苦しい面持ちの二階堂・利家に対して、天使は慈悲深く相槌を打った。
「そんな経緯を経て尚、貴女をこんな事件に関わらせるような真似は、本来許されない事なのかもしれない。だけど全人類を天使化させる。あの地獄の様な光景が、今や全世界に波及しようとしている。それを俺は許せない。怒りしか湧いてこない。身勝手な糞馬鹿野郎に|人生《生き死に》が振り回されるのは死んでも御免だし、それを見物させられるのも看過できない」
「また、あなた方は戦うのですね。私に出来る事があるのならぜひ何でもおっしゃってください」
 その厚意に甘え、二階堂・利家は苦しい思いをしたはずの少女に助力を乞う。
「下らない企みを阻止する事が出来るのは、どうやら覚悟のある者だけらしい。|君《君達》を絶対に護ると誓う。と言葉だけで約束するのは、あまりにも|安《易い》対価なのかもしれないけれど、どうか俺に、世界を守らせる協力をしてはくれないだろうか?」
「そんな風に口説かれてしまえば断れませんね。どうぞわたくしめをお使いください」
 熱意を込めて交渉する彼に、天使はどこか茶化すように応えた。
 当然、その手は差し出された手を握っている。


 ゴッドバード・イーグルはため息をついていた。
「利家さんってば、全く…どうしようもない人ですね。アイスの棒でお墓ぐらいは立ててあげますよ? 勝手にして下さい」
 二階堂・利家のAnkerであるそのアシスタントAIは、天使交渉で出払っている主の代わりに兵装開発を任されていた。機械使いの粗さにブツブツと文句を言いながらも、彼女は言われた通りの仕事をこなす。
 作ろうとしている装備は、ヘッドセット型ウェアラブルデバイスだ。天使化の病が広がっているという決戦の地において、平常を保っていられるような耐性を付与するつもりである。
 とにかく、出来の良いものを仕上げてくれとの命令なので、様々な√世界から素材を集めてきてあった。
 戦闘機械群ウォーゾーンから強奪し、傍受対策を施した通信機。√マスクド・ヒーローのプラグマ怪人ジョン・ドゥとの交戦時に得られた怪人化結晶(怪人化と悪堕ち洗脳)の解析データ。√汎神解剖機関の怪異『クヴァリフの仔』争奪戦シナリオで鹵獲して持ち帰って来た、超常現象阻害物質クヴァリフ器官。√ドラゴンファンタジーの魔法物質『竜漿』の高純度結晶『竜漿石』。竜漿兵器の強化ガラス瓶。『マガツヘビ』との交戦中に剥ぎ取った、獣妖外皮。
 戦いの最中でコッソリ採集していた秘蔵の品々を、躊躇なく使っていく。
「なんでこんなことをしてあげなくちゃいけないんでしょうね。利家さんが使うなら利家さんでやるのが筋ってものではないでしょうか」
 その口はやはり文句ばかりだったが、機械らしくその作業はよどみなかった。通信機に解析データを入れて、そこへクヴァリフ器官と竜漿石を組み合わせ、強化ガラス瓶と獣妖外皮で外見を整える。様々な曰く付き代物のおかげでそれはまさに外部の干渉を受け付けない出来となった。
「……もう少し、良い出来になるはずだったのですが」
 それは充分な性能だったはずが、高性能AIはより上質なものを想定していたらしい。そのことに少しだけ悔しそうにしていて、とその時主が帰ってくる。
「帰ったよイーグル」
「随分と遅かったですね。協力してくれる天使の方が見つからなかったんですか? 今まで一体何をしてきたんですか? 人助けしていて、信頼を得られないとはとんだ道化ですよ」
「いや、三人ほどと交渉してきて時間がかかったんだ。それで、兵装は開発できた?」
 ねちねちと語るAIに二階堂・利家は特に気にした様子もなく告げ、彼女からも成果を聞こうと尋ねる。それに対してゴッドバード・イーグルは出来上がったその品を示すだけして、小言を続けた。
「精々頑張って命懸けで戦えばいいんじゃないですか? わたしは無関係な世界のために殉死するつもりは毛頭ないので…。武運長久をお祈りさせて頂きます。待っててあげますから、とっとと行って下さい」


 見下・七三子もまた心苦しさを感じていた。
「……一度は平穏を取り戻された方たちに、自分よりもまず人のことに心を痛める優しい方たちに戦場へもう一度来てほしいとは、なんと身勝手なのでしょう。私たちの力不足のせいですね。ですが、ここで食い止めないと、もっとたくさん悲しいことが起きてしまいますから。なんとしても守ります」
 その誓いを抱きながら、彼女は縁のある天使を尋ねていく。
 一人目はゲルダという10歳ほどの少女。
「私達の言葉に応えて顔を見せてくれた時はうれしかった。最後にお母さんとお話ししたあなたが、しっかり前を向いてくれたのが格好良くて、こんな人になれたらいいなと思いました。あなたを揺さぶる言葉にも負けず、私たちを信じてくれた時は、戦闘中だというのに少し泣いてしまいそうでした。私たちはあなたのお母さんと約束しましたから、あなたの心も体も守ります。どうか信じて力を貸していただけませんか」
 二人目もセレナという名の小さな女の子だ。
「大変なことが起きて混乱していたでしょうに、誰かのために惑いの森を走る小さなあなたに、私は尊敬の思いを抱きました。戦う私たちのことまで心配してくれる優しいあなたに、安心してもらえるよう、全力を尽くします。助けていただけないでしょうか」
 見下・七三子は過去を思い出しながら真摯に交渉していた。彼女の語り口に救われた天使たちも、その恩を再認識していく。
「力不足だった私たちを信じて欲しい、というのは虫がいい話だと理解はしていますが、どうぞ力を貸していただけないでしょうか」
 そうして相手が年下であろうとも変わらず、彼女は丁寧な言葉で頭を下げる。その姿勢で懇願する者を、天使でなかろうとも断れるはずはない。
 見下・七三子はそれを続けて次々に天使との交渉を成功させていった


 機神・鴉鉄は協力要請可能な天使について、その万能型人工知能で検索をかけた。そうしてヒットした対象は、イングリッドという名の人物だ。
 何某かの教徒として信仰心は厚く、現在は天使化の影響により人間社会での生活が困難となり、汎神解剖機関に保護されていると推定。ただし、当該救出作戦は純粋に傭兵契約に基づくものであり、恩義を根拠とした協力要請は適切ではないとの判断が下された。
 また、救助済みである状態にもかかわらず戦地同行を求めることも不適当と判断。しかし全√の危機が想定されるこの状況を把握した以上は、イングリッドの協力は不可欠だった。
 その旨を当人に伝えると、その時点で承諾すると伝えたが、しかし状による契約は不適当と論理的な条件がつらつらと並べられていく。
「したがって、正式な業務依頼として必要十分な報酬を提示して協力要請を行います。依頼内容は、現地において他の天使(エド少年)との精神的な繋がりを成立させるための儀式への参加に限られます。儀式完了後は、安全な場所へ避難していただいて問題ありません。そのため実質的なリスクは最小限に抑えられますが、予期せぬ事態を完全に排除することはできません。上述の報酬および警護体制を前提として、当契約の検討を願います」
「えっと、」
 一瞬、文章の切れ間を見つけてイングリッドは再び承諾を伝えようとするが、すぐに間髪入れず補足が加えられた。
「必要に応じて追加的な支援を提供し、対象の安全確保に最大限配慮します。天使および人命は世界構造の根幹を成す重要な要素であり、可能な限りの保護を約束します。ついては、当契約の報酬額は200万円くらいで如何でしょうか?」
 提示された金額に目を見開いて、信心深い天使はとてもではないが受け取れないと首を振る。
「い、いえ、お金はいただけません」
「いえ、報酬を受け取って頂かなければ契約が成り立ちません」
 しかし機械的な機神・鴉鉄は既に制定された契約条件を飲んでもらえなければ話は勧められないと頑ななに告げ、何度か互いにやり取りして結局、天使が折れるようにしてその好条件で引き受けるのだった。

〖リザルト〗(二階堂・利家)
・『』179文字→獲得170%
・ボーナス…連携
・【天使交渉】95%→99失敗
・【天使交渉】95%→12成功
・【天使交渉】82%→8成功
・天使3名の交渉に成功しました。

〖リザルト〗(見下・七三子)
・『』378文字→獲得370%
・ボーナス…幸運23、連携
・【天使交渉】95%→52成功
・【天使交渉】95%→59成功
・【天使交渉】95%→39成功
・【天使交渉】95%→13成功
・【天使交渉】95%→71成功
・【天使交渉】95%→86成功
・【天使交渉】36%→12成功
・天使8名の交渉に成功しました。

〖リザルト〗(ゴッドバード・イーグル)
・『』202文字 必要材料7個→獲得47%
・ボーナス…幸運11、連携
・【兵装開発】95%→19成功
・【兵装開発】13%→88失敗
・『ヘッドセット型ウェアラブルデバイス『ベルセルクインストール』「闘争心15」「環境耐性15」「狂気耐性15」』の開発に成功しました。

〖リザルト〗(機神・鴉鉄)
・『』579文字→獲得570%
・ボーナス…連携
・【天使交渉】95%→71成功
・【天使交渉】95%→3大成功→追加判定98失敗
・【天使交渉】95%→38成功
・【天使交渉】95%→23成功
・【天使交渉】95%→36成功
・【天使交渉】95%→46成功
・【天使交渉】95%→69成功
・【天使交渉】95%→52成功
・【天使交渉】95%→15成功
・【天使交渉】17%→87失敗
・天使10名の交渉に成功しました。

椿之原・希
黒後家蜘蛛・やつで

 黒後家蜘蛛・やつでは多くの天使たちと契約している少年を見つめている。
(エド様をやつでは知りません)
 この戦いに加わっているとはいえ、その中心にいるエドと深い話をする機会はなかった。傍から見る印象の彼は、力あるもの。より優れた天使なのだろうと言う事しか知らない。
(ですが、やつでが知る天使はみな人と変わらず、人と同じ強さを持っていました。天使であっても人のつながりは必要なのだとやつでは考えます)
 あるいはきっと、他とは違うその天使が、結びつきを増やす事で強くなるのもそう言う事なのではないだろうか。強いものであるからこそ余計に、それが肝心なのである。
 そんな風に思考を巡らして多くの協力が必要であると実感する。そのために黒後家蜘蛛・やつでも天使との交渉へ向かう。
 彼女が出会った天使の名は、マリア。それに同じフランスの片田舎の修道院、薔薇の修道院で育てられていた子供達だ。その子らとは一晩を護衛として共にして、友達となった。蜘蛛だと名乗った自分を恐れずに仲良くしてくれて、ともに食事をとりまでした。
 思い返す記憶はもうどこか懐かしい。まだ友達と言ってくれるだろうかと考え、少し不安に放ったけれど、彼女らに限ってそれはないだろうと信頼もしている。
(彼女らを育てていた先生は実は羅紗の魔術塔の魔術師だったのですよね。しかし彼は塔に彼女達を捧げる事はなく、自分たちを愛する教え子たちのために戦う事を選びました)
 そしてもう一人、協力してくれそうな人を思い出していた。彼は天使ではなくもう亡くなってしまってもいるが、立場に縛られながらも自身の意志を貫く立派な人物だった。
(大きな流れに抗うために、あの方は何かを為したのだと。やつでは考えます。その力は天使がもつものではなく、人のつながりが持つものです)
 それこそが、自分達が求めている者なのだと深く刻み、黒後家蜘蛛・やつでは天使の下へと急ぐ。


 椿之原・希が交渉しようとしている天使も同様に、マリアであった。
 薔薇の修道院で育った十代前半と思しき少女。彼女と一緒に暮らしていた4人の他の子供たちの顔も思い浮かべている。襲撃してきたオルガノン・セラフィムと戦っていた所を助太刀したのが始まりだ。
 その天使の下に辿り着いたのは椿之原・希の方が早かったらしい。呼びかけるとすぐに見覚えのある少女が顔を見せてくれた。
「お久しぶりですマリアさん。修道院の皆さんもお元気ですか? 私も今のごたごたが収まったらまた会いたいなって思っていたのです」
「お久しぶりですっ。みんな元気ですよ。私も会いたかったです」
 マリアは愛想よく答えてくれて、それだけでも椿之原・希は嬉しい思いだった。もう少し懐かしい思い出話に花を咲かせていたかったが、そんなに悠長にしている場合でもないと状況を伝える。
「…今回、天使化の被害が全世界に広がる懸念が出ています。だからそれを防ぐ為に√能力者の私達は動きました。
でも√能力者の私達だけの力じゃ足りなくて…マリアさん、天使のマリアさんにも協力をお願いしたくて来ました」
「協力、ですか……」
 マリアは以前の襲撃の後で、アントス先生と言う大事な人を亡くしていた。彼は羅紗の魔術塔の魔術師だったから…もしかしたら親しかった人も集まっているかもしれない。
 その事を伝え、その人たちを助けるためにもと協力を依頼した。
 それに対してマリアは、当然のように拒むことはしない。
「もちろん、私に出来る事なら手伝わせてください。それと、天使は多ければ多い方がいいんですよね? それなら他の子たちも呼んで来るので待っていてくださいっ!」
 と、マリアから更なる助力を用意すると言ってくれて、椿之原・希は彼女が戻ってくるのを待った。とその時、少し遅れて同じ天使を連れて行こうとしていた黒後家蜘蛛・やつでとばったり出くわす。
「あれ、やつでさん? 奇遇なのです」
「おや、先を越されてしまいましたか。マリア様はいなかったのですか」
「いえ、他の4人も連れてきてくれるそうなので。丁度良かったです、一緒に護衛してもらえれば助かるのです」
「もちろんご一緒しますよ」
 当時の依頼でも協力した二人はこの場でもそう交わし合う。そしてマリアが連れてきた天使は、以前よりも三人ほど増えていた。
 修道院と言う場所だからこそ、匿うのにはもってこいだったのだろう。それはかつて彼女達を救った者の遺志を受け継いでるようにも見えて、√能力者の二人はどこか微笑ましく思うのだった。


〖リザルト〗(椿之原・希)
・『』118文字→獲得110%
・ボーナス…連携
・【天使交渉】95%→94成功
・【天使交渉】87%→97失敗
・天使2名の交渉に成功しました。

〖リザルト〗(黒後家蜘蛛・やつで)
・『』281文字→獲得280%
・ボーナス…連携
・【天使交渉】95%→68成功
・【天使交渉】95%→42成功
・【天使交渉】95%→41成功
・【天使交渉】95%→31成功
・【天使交渉】57%→3大成功→追加判定70失敗
・天使6名の交渉に成功しました。

九枢・千琉羽

 天使との交渉を終えた九枢・千琉羽は、一人寂しそうにしているマルティナへと歩み寄っていた。
「おかしたべる?」
 バスケットに詰まった色々なお菓子。そのラインナップを披露してみせると、少し年上の少女も興味ありげに覗き込んできた。
「いいの?」
「うん。辛いこと考えてるとくるしくて、悪いことばかりうかんじゃうけど、甘いものたべてる間はだいじょうぶ」
 自分よりも年下の女の子の気遣いに少し遠慮しながらも、マルティナは厚意に甘えてマカロンを手に取った。それを頬張ると暗かった面持ちが僅かに明るくなったような気がして、九枢・千琉羽の慰めは確かに少女を元気にする。
 それから少し縮まった距離でそのことを伝えた。
「エドさんはマルティナさんを助けようとして一生懸命になりすぎてるから、よゆうがなくなってるんだと思うの」
「……そうかな」
「ほんとのきもちを口にだしてエドさんの手をぎゅっとしてみるといいよ」
 九枢・千琉羽は悩む少女に簡単な方法を告げる。それにマルティナは小さく頷いた。

〖リザルト〗
・『』92文字→獲得90%
・ボーナス…幸運8
・【天使交渉】95%100失敗
・【天使交渉】14%→54失敗
・天使1名の交渉に成功しました。

大神・ロウリス

 エドに話しかけるのを躊躇っているマルティナを見つけ、大神・ロウリスは緩衝材となるように話しかける。
「エドさんは、白い大切な方たちと意思疎通できるんですか?」
「え?」
 振り向いた少年は、そこでようやく幼馴染の少女が近づいている事に気が付いた。
「私の大切な人も、訳あって人の姿ではなくなって会話ができないんです。だから、姿形が変わっても彼らを想い続けるあなたの気持ちは多少理解できます。ですが、あなたが犠牲になる事で彼らやマルティナさんが悲しみ苦しむ事も、どうか忘れないでください。彼らのために自分も守って、彼らの心も守るんです」
「……」「……」
 大神・ロウリスはあえて、その少女の名前も出して二人の視線をぶつからせる。そして最後に少女の耳元で呟いてやった。
「マルティナさん、実は私には愛の女神が宿っているんです。あなたが望むのならその力をお貸ししますので、今の内に自分の気持ちを伝えた方がいいと思いますよ。私はあなたたちの幸せを願っています」
 返事を聞くことはなく、もう自分の役目は終わりだと去っていく。

〖リザルト〗
・ボーナス…『』なし
・【天使交渉】11%→92失敗
・天使1名の交渉に成功しました。

真心・観千流

 真心・観千流は協力してもらえそうな天使と連絡を取っていた。
「もしもしマルコちゃん、ちょっと力なってくれませんか? 私ではなく、大切な人を失おうとしている男の子の力に」
 それは、戦いの準備だけでなく説得のため。いやむしろ、渦中にいる少年の禍根をなくすことこそが、今後の戦いにとって最も大事だと考えて、協力者を募っていた。
『よく分からないけど、まあ手伝えることがあれば……』
 呼び出されたのは元羅紗の魔術塔の団員である天使だった。彼もまた、エドと同じように家族が怪物化してしまった被害者で、重なる境遇故に心強い味方となってくれると思っての人選だ。
「ありがとうございますっ。それじゃあなるはやで来てくださいね!」


「えっと、彼がエドって子……?」
「ええ。丁度マルティナちゃんと一緒にいますね! さあ行きましょう!」
「な、なんか二人で話したそうにしてるけど……」
 マイペースな真心・観千流はマルコを引き連れ、エドとマルティナの傍へと歩み寄る。念には念を入れ、ビットを周囲に大量展開して警戒しつつ、誰にも邪魔されない会話の場を作り出した。
「エドちゃんマルティナちゃん、こんにちは! 紹介したい人がいるのでよろしいですか?」
「あ、そちらも天使の方ですか? すぐに契約しましょうっ」
「ど、どうも」
 エドは新たな協力者が来てくれたと分かれば顔を綻ばせ、すぐに契約の手順に取り掛かった。それにマルコはちょっと遠慮がちにその正面に立って、血液を採取される。
 その作業の中、真心・観千流は連れてきた天使の素性を軽く説明しておいた。
「彼は元々羅紗の魔術塔に所属していた方でして、先ほどの戦いで襲って期はしていましたが、天使化の直接的原因でないことが分かりました。彼らも大切な者のために戦っていたようで、現在は他の方々が協力関係になれないか交渉しているそうですよ」
「へー。協力してくれる人は多いほどいいですしね」
「……」
 エドは興味津々に相槌を打って、戦いとは縁遠かったマルティナはあまり理解していない様子で口を閉ざしている。そんな少女にマルコは気を遣って何かを投げかけようとしたが、初対面相手に気の利いた言葉は浮かばなかった。
 けれど真心・観千流が、その少女の手を取ってやった。
「そしてここからが本題のお話です。エドちゃん、マルティナちゃんの目を見て話していますか?」
「え?」
「あ……」
 好感度低下を恐れずに踏み込む。エドは何のことかよく分からないと疑問符を浮かべていて、マルティナはその反応に気まずそうにした。
「彼女が不安そうな目をしているのに気がついていないなら最悪ですし、気がついていてその態度なら最低です」
「え、っと……」
 言われてエドは、ようやくマルティナの顔を見た。すると少女は俯いて、けれどこっそりと瞳だけを向ける。
 何か言いたげな表情。幼馴染のその機微は何度も見たことのある者だった。
「何か、言いたいことあった?」
「…………」
 マルティナは黙っている。言葉に迷っているのだろうか。
 その些細な表情の変化を真心・観千流は、じっくりと観察し、持ち前の学習力を生かしてマルティナから真意を引き出してやろうとサポートする。
「マルティナちゃんは、不安なのですよね?」
「不安……?」
「こんな戦いの中に巻き込まれてしまったのはそうですし、家族を失い、エドちゃんがそんな風に変わって、そしてエドちゃんはまた戦いに行こうとしている。まるで、なにもかもから置いてけぼりです」
「そう、なの?」
「……うん」
 エドの恐る恐るとした問いかけに、マルティナはゆっくりと頷いた。
 それからぽつりぽつりとせき止めていた思いが零れだす。
「私、いまいち未だに何が起きてるのか分からない。エドも忙しそうであまり話せなかったし、お母さんたちも……」
「いやっ、おばさんたちはまだっ」
「でも、怪物になっちゃってるんでしょ? それって元に戻るの?」
「えっと……」
 エドが言葉に詰まったその隙にすかさず、真心・観千流はマルコへとアイコンタクトで「出番ですよマルコちゃん!」と送った。それに顔を引きつらせながらも、似た境遇の天使は口を挟む。
「あの、実は俺の家族もオルガノン・セラフィムに、あの怪物になっちゃってるんだ。けど、治療の手段はあると思ってる。まだ目星もついてないけどここに集まってくれてる人たちが協力してくれているから、不可能じゃないはずなんだ。それに、俺も諦めるつもりはない。だから、元に戻るよ。エドも、一人で抱え過ぎないでいいんだ」
 何度か言葉を迷いながらも、マルコはそう言い切った。それだけで救いにはならないだろうけれど、けれど僅かな希望にはなってくれた。
 エドは、マルティナに向き直る。
「ごめん……不安にさせるといけないと思って、色々話さないでいた。それがむしろ不安にさせちゃったんだね」
「……うん。怖かった。エドが遠くに行っちゃうみたいで。傍にいて欲しいのに」
「えっと……」
 少女の本音を聞き、少年は何と返すか迷う。そのまどろっこしいやり取りに、真心・観千流が強引に推し進めた。二人の手をガッと掴んで無理矢理握らせる。
「わかりますかエドちゃん? マルティナちゃんはここに居ます、ちゃんと見てあげてくださいね」
 そうして二人の繋がりを、改めて実感させた。

〖リザルト〗
・『』109文字→獲得100%
・ボーナス…幸運16
・【天使交渉】95%→15成功
・【天使交渉】32%→37失敗
・天使2名の交渉に成功しました。

新札・三億円
夢野・きらら

 夢野・きららと新札・三億円は出会いを思い返す
「銀行での依頼だったね、キミを助けたのは。もう見た目からして三億円なんだけど、天使なんだよね。こんなになってもお人よしで――まぁ、その話はおいとくとして」
(そう、銀行で私はきららさんに助けられて……端折らないでください)
 札束に翼を生やした奇妙な存在も天使であった。札束であるから当然喋ることはないが、その心の中の声は流暢だった。それは中断された思い出話を最後まで語りきろうとする。
(莫大なエネルギーを生む新物質として羅紗の魔術塔幹部――アマランス・フューリーさんに狙われていた私はそれでもいいと思っていました。もともとお金として生まれたこともあって、人に喜んで使われるのは嬉しかったから。
けれどそうじゃない生き方もあると知った。その内にお金がお金として使われるだけじゃ生まれない喜びを生むことに興味を持って、私も誰かを助けたいと思うようになって、抜け出す為にきららさんの力を借りたんです。自分が助けたいっていうのはれっきとした欲望で、そういうのはよくないのかもしれないけれど……それでも、あの日見た魔法少女に助けられた私はそれが正しいと感じた。その時の想いを大事にしながら今はアパートに同居していて人間さんがどうすれば助かるのかを勉強させていただいています)
 しかしそんな長話を聞くほど時間を持て余していない夢野・きららは、さっさとその場から離れていて、新札・三億円がそのことに気付くのは、随分と遅れてから。
(ちょっと待ってください、もう別の場所に行ってる。私にとって大事な話なんだけれど……!)
 やるべきことへ向かっていく恩人に、その札束は翼をパタパタとはためかせ急ぐのだった。


「マルティナちゃんに会いに行かないとね。|さっき《第2章》、咄嗟の事とはいえエドくんに君を任されたんだ。だからって訳じゃないけれど言っておきたいことがあってさ」
 夢野・きららは天使を置いて、少女の下へと歩み寄っていた。
 どうにもつい先ほどまで少年と話をしていたようで、しかし忙しい彼はまた少女を一人にする。どれだけ側にいたいと伝えたところで、この状況がそう許してはくれないのだ。
 また悲しそうにしているマルティナに、言葉を投げかける。
「ぼくら……√能力者ってお節介が多いからさ、エドくんと君を引き合わせてよく話すように言ってきたヒトも多かったと思う。でも、解決しなかったって顔をしてる。エドくんが君にクリティカルな謝罪をしてもそれは言わされたもので、心の底から言ってるようには見えなかった。そんなところかな」
「いや……」
 マルティナは見透かした言葉を否定しようとして、けれど続けることは出来なかった。結局彼は、先ほどの会話で側にいて欲しいという願いに頷いてはくれなかった。
 でもそれも仕方ない事だ分かっているから飲み込もうとして、けれど上手くいかない。
 そんな少女の機微を目敏く読み取って、夢野・きららは言葉を重ねた。
「ぼくたちやエドくんは、ある日ある時を切欠に何か欠落させて能力に目覚める。あの様子を見るにエドくんが失ったのは自分を大切にする心――自己愛なんだと思う。マルティナちゃんがエドくんを大事に思って無事に帰ってきて欲しい……いや、違うな。|あんな事を言い出さない《リミッターが壊れていない》エドくんでいて欲しい。そういう願いが届かない存在になってしまったんだ、彼は」
「エドは、変わってしまったんですね……」
「不可逆で、理不尽で、到底納得できないだろうけど、エドくんは戻れない」
 それが現実だと伝える。どうしようも覆せない今なのだと。
 少女の面持ちは更に暗くなった。ただ一緒にいたい。その些細な願いももう叶えられはしないのだろうかと落ち込む。するとその手にそっと手が重ねられた。
「でもね」
 夢野・きららはもう一つの現実を伝える。
「彼がどんなに変わっても、彼が力を振るう理由の根源は『君を守りたい』だよ。自分だけが使える力があるからって張り切って、目線が変わっても」
「私を、守りたい……私、どうなってるんですか……?」
 マルティナは自分の異変に気付いていた。何かがおかしいと。でもそれを誰もが教えてくれなかった。皆がエドから何か言い含められているとは分かっていた。
 その事についても、さっきは聞けなかった。だから首を傾げると、夢野・きららは言葉を選びながら告げる。
「実はマルティナちゃん、君は死にかけた。ダースさんが助けてくれたけど応急処置みたいなものだ。あの塔に行って原因を止めないと君はいずれ死ぬ。だから彼は行くんだ」
「私が死ぬ……だからエドは……」
 そうして初めて彼女は、少年の真意を知った。自分の胸を見つめてジッと何かを考えこむ。
 夢野・きららは繋いだ手を組み替えて、小指をからませ合った。
「これ、知ってる? ゆびきりげんまんっていうの。絶対に破らない約束をする為の、日本の儀式みたいなものだよ」
「それなら、エドをどうか、守ってください」
「……魔法少女が誓う。夢野きららはエドくんを無事に連れ戻す」
 少女の願いを引き受ける。それから絡め合った小指を上下に振った。
「嘘付いたら針千本飲ます、指切った」
 小指が離れる。少女は僅かに不安そうにしていたけれど、その約束を抱える魔法少女は安心させるように未来を語った。
「無事に帰って来れたら、彼の方から話してくれるさ。これまでと、これからを」


 新札・三億円は、マルティナと話し込む夢野・きららを見つけてそっと近づいた。一応その翼でぱたぱたと挨拶は投げて話の邪魔をしないようにする。
 これまでの戦いについてほとんど知らなかった彼女はそこでようやく色々を知った。
(エドくんという天使の方と、マルティナさんの間にそんな関係が……。私も身につまされる思いです。人の力になりたいと思って人を勉強しているけれども、その欠落が埋まる気があまりしていなかったから。マルティナさんはエドくんさんが自分をすり減らしてでも助けたい方なんでしょうね)
 その札束は人の機微に敏感らしく、善なる心の内で推察する。ずっと暗い面持ちの少女を気にかけては思考を巡らせた。
(けれどエドくんさんはマルティナさんを守る為、言う事は聞けないし隠し事だってたくさんしている。マルティナさんは元のエドくんさんに戻って欲しい、知らないところへ行って欲しくない。すれ違いが悲しみを生むのなら、それは悲しいことです。今二人で話し合えと言われても問題が解決しないとすれ違ったまま)
 そして、夢野・きららは少女と小指を絡めた。いつも守ってくれるその魔法少女の真意もまた、札束は読み取る。
(気休めの言葉すらかけないきららさんはそれがわかっているからエドくんさんを連れて帰ってくる約束だけしたんですね。けれど、自分自身を賭けてみせて)
 別れを告げてその場を離れていく。新札・三億円は恩人の後についていきながら、彼女もまた少女に向けて想いを馳せた。
(……マルティナさん、祈らせて下さい。貴女と、エドくんさんと、皆で帰ってきた後に話し合えることを)
 きっと報われるようにと。


〖リザルト〗(新札・三億円)
・『』381文字→獲得380%
・ボーナス…ジョブ「天使」で参加、連携
・【天使交渉】95%→78成功
・【天使交渉】95%→76成功
・【天使交渉】95%→9成功
・【天使交渉】95%→15成功
・【天使交渉】95%→66成功
・【天使交渉】95%→30成功
・【天使交渉】17%→13成功
・天使9名の交渉に成功しました。

〖リザルト〗(夢野・きらら)
・『』70文字→獲得70%
・ボーナス…連携
・【天使交渉】95%→3大成功→追加判定57成功
・【天使交渉】27%→26成功
・天使4名の交渉に成功しました。


◆◇◆◇◆

「これで終わり?」
「はい、ありがとうございましたっ」
 エドは引き続き天使たちとの契約をこなしながらも、幼馴染の少女のことを考えていた。
(側にいて欲しいって言われても……)
 先ほど、√能力者たちに促されるようにして彼女の想いを聞いた。ずっと不安にさせていて、自分もちゃんと彼女を見ていなかったのだと思い知らされた
 そして願いも聞いて。でもそれは出来ない事だと考えていた。
 だってこれから自分は、戦いに行くのだから。
 向かおうとしているそこはあまりに過酷な戦場と言う話で、これまで自分たちを助けてくれた人たちでさえ、入念な準備をしても心許ないと話している。
 そしてその戦いにおいて、エドは必要不可欠な存在だった。彼がいなければ、きっと誰一人帰ってこれない。
(……そこに、マルティナを連れて行くなんて出来るはずない)
 大勢の協力者が今も集まっている。元より助けようとしてくれていた人たちだけでなく、自分たちを狙って襲ってきた人たちも、目的を変えて手を貸してくれるという。
 とはいえそれは必要だからで、決してそれによって余裕が生まれている訳ではない。これだけ集まれば大丈夫だろうと過信している者は、この空間においては一人もいなかった。
 エド自身、大した戦う能力はない。そこへ更に護るべきものが増えてしまっては協力者の負担はかなり大きなものとなってしまうだろう。
 自分はまだ『みんな』がいるが、彼らはエド以外の区別は大雑把にしか出来ない。戦うことは得意だが守るのは苦手だった。
(必ず帰ってくると約束しよう。みんなも元に戻して、今までの日常に帰るんだ)
 だからエドはそう誓いを立てる。それが自分に出来る最大限のことだからと。
 そしてそれを果たせたら、彼女の願いの通りにずっと側にいよう。あるいは自分からそうして欲しいと伝えてしまおう。
 まだ幼い身ではあれど、エドにとってマルティナは最も大切な存在に違いなかった。
 だから彼は、積極的に自分のすべきことを成していく。その瞳が見つめているのは明るい未来だけだ。
 そんな風に何をしている時も、頭の隅で少女のことばかりを考えてしまうから、ふとした時に視線がその姿を探す。一人さみそ巣にしている彼女を見つけては、少しの申し訳なさを覚えつつ頑張ろうと改めて意気込んで、
「あれ、そういえば……」
 ふと、思い出す。それに釣られて近くの時計を見やって。
 でもその違和感は不確かなものだった。ならきっと勘違いだ。
 それにそうだとしても、ああして無事でいるのだからむしろ良い事のはず。
 エドはとにかく目の前のことに集中した。

◆◇◆◇◆
——〖途中経過〗兵装7 羅紗19 天使140

サンクピ・エス
不動院・覚悟
ウィズ・ザー
森屋・巳琥

 ウィズ・ザーと森屋・巳琥は見慣れないその景色をキョロキョロと見渡している。
「ったく、あの野郎…」
「かなり遠くに飛ばされてしまったみたいなのです」
 ダースと会敵した二人は、不意を突かれて遥か彼方へと飛ばされてしまっていた。そのせいで他の√能力者たちとの合流が遅れてしまい、その間に既に戦いは終わっていた。
 現時点で星詠みから新たな予言を伝えられていたが、彼らは未だにさまよっていて、そんな現状につい恨み言を吐くのも仕方ない。
「星詠みさんから次は、決戦に向けて準備をするよう言われたみたいですね」
「ちょっと出遅れちまったなァ。とりあえず不動院に迎えに来てもらうよう連絡するかァ」
 他の√能力者からの連絡を受けて、現状で求められている事を知る。しかしすぐに動き出せない今の状況を、僅かながら申し訳なく思いつつ、遅れを取り返そうと次の方針を決めようとしていた。
「兵装を作るか、天使の方を集めるか、羅紗の魔術塔の方に協力を仰ぐかで分かれているみたいですね。ウィズさんはどうするのです? 私は作業が出来そうな場所に戻れたら兵装開発をするつもりですが」
「ンじゃあ、俺は羅紗の奴らに話付けるか。偶然にもさっきの戦いでストックしてたんでな」
 ウィズ・ザーの√能力【|星脈精霊術【薄暮】《ポゼス・アトラス》】には、敵を捕縛し保持しておく力がある。落ち着いたら事情を聞こうと、倒した羅紗魔術師を何人か捕まえておいたのだ。
 ただしここで出して、万が一にも逃げられたら面倒なため、とにかく仲間が近くにいる場所へと向かう必要があった。
 ウィズ・ザーと森屋・巳琥はやっぱりまずはと合流を目指す。


 不動院・覚悟は、天使との交渉へと向かっている。星詠みからの依頼を受け、真っ先に思い浮かべた対象だ。そうしてやってきた彼を出迎えたのは、盲目の女性だった。
「お久しぶりです、アンナさん。お元気ですか?」
「お久しぶりです。はい、おかげさまで」
 かつて救った天使であるアンナは、相も変わらず笑みを称えている。その瞳は天使化した影響で回復していたが、それによって怪物化しようとしたために今は強引に塞いであった。
 変わらない姿に申し訳なさと安堵を覚えつつ、不動院・覚悟は近況を聞いていく。その最中で伝えそびれていた感謝を告げた。
「そういえばあの時、アマランスの視力を奪い、救ってくださったことに、きちんとお礼が言えていませんでした。本当にありがとうございました」
「いえっ、助けてもらったのは私の方ですから。他の方もお元気ですか?」
「ええ、変わらずですよ」
 当時を振り返ると話は尽きない。一緒に救った仲間達のことも話題に出しながら、二人はしばらくそのゆったりとした時間を楽しんだ。こうしていられるのも、あの戦いを乗り越えたおかげだ。
 アンナの表情から何度も零れる笑みを見るたびに、不動院・覚悟は本当に彼女は救われたのだと実感する。
 それから少しして本題へと入った。
「実は今日は、お願いがあってきたんです」
「お願い、ですか」
 天使への交渉。しかし不動院・覚悟はは天使としてではなく一人の人間、アンナとして向き合い、現在の状況や事情を、順を追って丁寧に説明する。何も隠し事が無いよう、彼女が自分自身が選べるように対等な情報を共有した。
 彼女は真剣に聞いていた。時折その心優しい感情で、危ない目に遭った人々に対して心配も浮かべ、恩人からの『お願い』を待った。
「それで、アンナさんにもどうか協力して頂きたいんです」
 この事件の中枢にいる天使エドとの契約。それによって、自分たちは救われるのだ。
 その願いを伝え、不動院・覚悟は真摯に彼女自身の意志を確認する。それは、かつて仲間の一人が彼女に伝えた言葉を思い出していたから。
 ——「俺がアンナに期待してンのは“自立”だよ。」
 当然、彼女からの協力は期待している。でも何よりもどうしたいと思っているのか、その意志を尊重したいと考えていた。
 だからこそ知っていることは全て包み隠さず伝えた。かつて彼女を狙ったアマランス・フューリーをも救いたい、助けたいと願う者たちも仲間にいるという事も。
 それを伝えてなお、アンナは微笑みを湛えていた。
「もちろん、協力させてください。例え、あの時敵対した方であろうとも、困っているのなら私は力になりたいです」
「……そうですか。やはりアンナさんは優しいですね」
「それは皆さんもでしょう? もうずいぶんの人が動いているって言ったじゃないですか」
 投げられた誉め言葉にアンナはおかしそうに笑って、それからも彼女はやっぱり笑い続けた。すると不動院・覚悟もつい笑みをこぼして、彼女の手を取る。
「それじゃあついてきてください。ご案内します」
「はい、お願いしますね」


 不動院・覚悟は交渉を終えたその足で、仲間との合流に向かっていた。見慣れた姿を見つけて急いで駆け寄る
「ウィズさんお待たせしました」
「おー、早かったな。やっぱ頼りになるぜ……って、ン?」
 ウィズ・ザーはその迎えに感謝を伝え、とそこで同行していた女性に首を傾げる。盲目のその天使を、闇蜥蜴も知っていた。彼も彼女の恩人だった。
「アンナじゃねェか。不動院が交渉した天使ってのはお前だったか」
「お久しぶりです。私も協力させて頂くことになりました」
「こりゃまた頼りになるぜ」
「協力感謝するのです。アンナさん」
 当時の依頼には参加していなかった森屋・巳琥も、その心強い協力者に頭を下げて自己紹介する。それから四人となった一行は、決戦に向けた準備の行われる場所へと向かった。
「案外みんな協力してくれるモンなのか?」
「天使の方々はもう続々と集まっているみたいですね。僕もアンナさんを送り届けたら他にもあたってみるつもりです」
「やはりこれだけ人手があると、順調に事が運ぶのです」
「あ。あの建物ではないですか?」
 ウィズ・ザーの疑問に不動院・覚悟が応え、森屋・巳琥が所見を述べる。そうして会話を交わしていると、アンナが前方を指差し、たくさんの人が出入りする建物を見つけた。
 その中で天使との契約が行われているらしい。早速不動院・覚悟はアンナを連れてその中へと向かい、森屋・巳琥は兵装開発の材料調達のために√ウォーゾーンへとその場を解散した。
 ウィズ・ザーは、既に集まっている羅紗魔術師のいる所を探して、その辺りで闇顎で呑みこみストックしていた戦闘不能の羅紗の魔術塔の構成員を吐き出す。
「よォ、気が付いたか?」
 彼が声をかけたのは、中でも特に能力の高そうな二人だ。
 身長は170手前、金髪に白い肌、紫の眼を持つ25歳女性。戦闘の際には際立って魔術が優れており、冷静かつ合理的でストイックな性格のようだが、アマランス・フューリーの意志に応えるため最後まで戦っていた意志が強く人の想いに応えてくれる人物だ。
 もう一人は、185cmはある背丈に彫りの深い顔立ちと鋭い眼光の青い眼を持つ52歳男性だ。魔術以上に指揮に優れ、味方の半数近くが怪物化して混沌と化した戦場で長く抗い続けていたのは彼の功績が大きい。戦況を俯瞰する目は、よりよい決断をしてくれるだろう。
 ともに理性的で話もしやすい相手と判断してのことだ。それに、既に味方となっている羅紗魔術師の前に出せば、ある程度向こうで状況を理解してくれた。
 それでも一応これまでの顛末やこれから起きうること、そしてアマランス・フューリーを救い出す作戦を決行しようとしていることを伝える。
「てなわけで、勧誘されてくれねェか?」
「……どうやら、それ以外にこちらが取れる手段もなそうね」
「まあそれが無難だな」
 二人は割とあっさりと勧誘を受け入れる。既に√能力者の仲間となっているらしき面々を見て、残っている幹部たちの考えも見抜いていたのだろう。
 暫定的にではあるが、協力関係が生まれ握手が交わされる。。
「とりあえずは、フューリー様を助けるまでよ」
「ああ、それで構わねェ。出来る限りのフォローは惜しまないからよ」
「そいつは助かるね。それで、島の中の状況はどれだけ分かっているんだ?」
 協力するとなれば、前のめりになって状況を欲した。それにやはり期待通りだとウィズ・ザーは応える。
「黒いオルガノン・セラフィムがうじゃうじゃいるらしいな。ところで、そっちの羅紗魔術で奴隷化とか出来ねェのか?」
「それは難しいわね。フューリー様でさえできなかったんだから、あれにはすでに誰かの命令が下されてると考えたほうがいいわ。当然それはフューリー様よりも強い力でね。そんな怪物を奴隷化するとなると、より強い力で強引に抑え込むしかないわ」
「それこそ、王劍の力でもないと無理だろうな」
 それもそうか、とウィズ・ザーも別の作戦を考える事にする。とそこで、男の方の魔術師がこれまでに聞いた情報を並べてふと疑問を抱いた。
「けど、フューリーを攫ったのには全身に桃色の文字が刻まれたんだったよな? それは羅紗魔術で間違いないだろうけど、じゃあ一体誰が隷属させてたんだ?」
「元から塔主が操っているみたいなのに、わざわざ魔術を使う必要はないでしょうしね……」
「第三勢力ってなら一人思いつく奴がいるが、そいつはなんとなく噛み合わねェ気するぜ」
 その気づきは結局どこへも結びつかずに消え去っていく。
 実際に予言を直接見た訳ではない者たちには、それ以上のことを知る術はなかった。


 その頃、森屋・巳琥は√ウォーゾーンに到着し、兵装開発に取り掛かっていた。
「ダースさんを追うなら強行偵察かもですが、あの密度をくぐるのはさすがに危険すぎるのです」
 その可能性を浮かべながらも、今はその時に向けての備えをすべきだと言い聞かせる。
 彼女が作るのは、天使化の病に有効だと分かっている性能を織り込んだ、『対魔式随伴ドローン』だ。
「戦闘力より耐久力を重点に、エドさん達が軸なのは確かですが一時的にでも離れられるようにできれば手札が増えるのです」
 その材料は√ウォーゾーン経由から仕入れたドローンをベースにしてある。
 基礎フレームは重量と耐久性を両立させるために剛性を追求したもので、外部装甲は一目で味方の物と分かるようなぬいぐるみっぽい愛らしい外見を持たせる。簡単に壊れてしまわないよう汎神解剖機関産の職員服を流用した防塵用のフィルターを取り付け、持続性を高めるためにインビジブルを吸入可能なモバイルマナバッテリーも搭載。プロペラ機構は静穏性の保持及び回転能率のロスをなくすべく均質化したベアリングを用いており、モーターは低速回転域強めの急制動に向いた物を選んだ。姿勢制御・移動用にプロペラの回転数を制御する電子式スピードコントローラーによって、咄嗟の進路変更も行える。
 ただ、この兵装において最も重要なのは使用者の天使化を防ぐことだ。
 そのための主な手段は精神気付け用の薬弾であり、天使化の影響を検知するライフセンサで感知次第、噴霧装置から射出させられる。そして、自立性を持たせたコアAIと使用者位置を把握するための光学式カメラに使用者とドローン間で座標共有、行動指示をする送受信装置を備えさせて、常に手離ししていても随伴することも必要だ。
 今後の戦いにおいて、必要な条件を織り込んで開発を進める。その途中経過から見るに、中々にいい出来となりそうで、森屋・巳琥の表情もつい少し綻んでいた。
「ロマン重視で、自爆機構も入れておきましょうか」
 なので茶目っ気も入れた。所有者が死亡時及び、ドローンの盗難時の機密保持用の対応策。それとスペースが余ったので小物入れ用の小型コンテナも取り付ける。
 そうしてハード面が完成させると、仕上げにソフト面へと取り掛かった。
「√ウォーゾーン仕込みの戦闘機動プログラムを組み込むのです」
 √EDENでいう無人航空機操縦士のソフトウェアを組み込み、そしてそれは完成する。
「……充分な出来なのです」
 試しに動かしてみれば、それは想定していた通りに宙へ浮き、そしてどこへ行ってもついてくる。精神気付け薬も十分な効力を発揮することが確認できた。
 さすがに、自爆までは試さなかったが。


 サンクピ・エスはかつてウィズ・ザーに救われた天使だった。
 黒の森でさまよっている時に、今の主と出会い、救われた。
「不安でいっぱいの中、上空から見た景色….忘れられません」
 そうつぶやく彼もまた、エドとの契約へと向かっている。ウィズ・ザーに頼まれていて、二つ返事で協力すると頷いたのだ。
 こんな自分でも皆を守れるなら、役に立てるならと勇み立つ。
「同じ主と関わりのあった方なら力を貸して下さるでしょうか…」
 自分だけでな宇、彼は更なる協力を求めて主の伝手を辿った。
 逃げているところで主が豹海豹型のままで背に乗せて救った少年——リガレア。
 インビジブルとオルガノン・セラフィムに終われていた所を主と他の√能力者方共闘して救った青年——サージ。
 サンクピ・エス自身は話にしか聞いていない人物たちではあったが、ウィズ・ザーに救われた者同士、協力を呼び掛ける。
「一緒にお役に立ちませんか?」
 その誘いを断る天使はやはりいない。交渉を終えたサンクピ・エスは、更なる手伝いになるように、これから決戦へと向かう人たちの武具の手入れを率先して行っていく。
 主に周りを良く見て勉強して来いと言われた彼は、√能力者たちの行動を逐一観察しており、とそんな時、丁度思い浮かべていた声が投げかけられる。
「お、いいところにいたなァ」
 サンクピ・エスの主、ウィズ・ザーだ。その後ろには不動院・覚悟と森屋・巳琥も引き連れている。どうにも彼らはやるべきことを終えて次へと向かおうとしていたらしい。その道連れに、サンクピ・エスも選ばれた。
「羅紗の魔術塔の連中に、資料を見せてもらえるってなってなァ。人手はあったほうがいいってことで、一緒に来てくれ」
「はい、分かりました!」
「それじゃあ行くのです」
「有用な情報を見つけましょう」
 そうして四人は、味方にした羅紗魔術師に案内され、羅紗の魔術塔に関する資料が保管されている場所を訪れる。
「正直、大したものはないと思うぞ。大体と分かってると思うけど、おれたちは切り捨てられてるようなもんだし、それに本部に立ち入ることさえ許されてないからな」
 ここまで連れてきてくれた古株の羅紗魔術師は期待はさせないようにと忠告を入れた。それでも長年ヨーロッパで活動していた組織だから、蔵書量はそれなりにある。
「少しずつですが、情報の入っている今だからこそ気付けることもあるかもしれないのです」
「そうですね。古い記述なら特に、見落としているかもしれませんので」
「ンじゃあ、手分けして探そうじゃねェか」
「はいっ、頑張ります」
 期待はするなと言われながらも、四人は時間が許される限り、その誇り臭い空間で頁をめくっていった。
 とはいえ現れる情報は、知らない事ではあったがそれほど有用とは思えないものばかり。
「羅紗の魔術塔が今みたいに、ヨーロッパの裏世界を牛耳るようになったのは大体250年前ってところか」
「その以前からも組織はあったみたいですが、その時はあの島に引きこもっていて出ていないようですね」
「島の内側の情報があまりに少ないのです。当時からあの結界は張られていたみたいなのです」
「えっと、地図とかは……やっぱりありませんね」
 めぼしい情報は出なくとも、彼らは決してあきらめずに探し続けるのだった。


〖リザルト〗(サンクピ・エス)
・『』278文字→獲得270%
・ボーナス…ジョブ「天使」で参加、連携
・【天使交渉】95%→78成功
・【天使交渉】95%→52成功
・【天使交渉】95%→79成功
・【天使交渉】95%→83成功
・【天使交渉】42%→95失敗
・天使6名の交渉に成功しました。

〖リザルト〗(不動院・覚悟)
・ボーナス…『』なし、幸運9、連携
・【天使交渉】30%→21成功→追加判定40成功
・天使3名の交渉に成功しました。

〖リザルト〗(ウィズ・ザー)
・『』215文字、213文字→獲得105%、獲得105%
・ボーナス…連携
・【羅紗勧誘】95%→16成功
・【羅紗勧誘】79%→79成功
・【羅紗勧誘】95%→42成功
・【羅紗勧誘】79%→70成功
・羅紗魔術師4名の勧誘に成功しました。

〖リザルト〗(森屋・巳琥)
・『』411文字 必要材料16個→獲得98%
・ボーナス…連携
・【兵装開発】95%→26成功
・【兵装開発】73%→26成功
・『対魔式随伴ドローン「狂気耐性25」「精神抵抗25」「霊的防護25」』の開発に成功しました。

贄波・絶奈

 贄波・絶奈が勧誘していた羅紗魔術師は、50代ほどのベテランだった。
「私の名前は、ランドルフ・レッドストランドだ」
 髭は整えられ清潔感があり、身長は高く細身、こんな状況であっても珈琲をたしなむ姿はよほどの通と見えた。
 他の羅紗の魔術塔構成員から話を聞くに、彼は幹部と比べてもそれほどそん色のない実力の持ち主らしい。しかし彼自身はあくまで裏方としてサポートを徹底していて、塔主よりも現場の仲間達との関係に重きを置いている。そのために今回の戦いで多くの同胞が怪物へと変えられてしまったことについては大きな不信感を抱いているようだった。
「長年、この組織に身を置いて活動していたこともあってね、それをここまで来て放棄してしまっていいのかという気持ちで心が揺らいでしまっている」
 ランドルフは訪問者を椅子に座らせると珈琲を提供して自分語りを始める。贄波・絶奈は聞くだけならと楽かととにかく相手に語らせた。
「若い頃はね、連邦怪異収容局と関りもあった事があるんだよ。もちろん争いとかではなくてね。これでも私は研究熱心でね、連邦怪異収容局と共同研究に励んだこともあったよ。まあ今では考えられない事だけれどね」
「……へえそうなんだ」
「まあ、おじさんの昔話なんて興味はないか。それなら動物は好きかな? 私の秘蔵のコレクションを見せてあげよう」
 今時の若い女性が食いつく話題は何かないかと、ランドルフは年代に関係ない趣味を披露する。開かれたアルバムには、彼がかつて飼っていた動物の写真が収められており、犬猫に始まり、鳥や蛇、虎に象までが撮影されていた。
 と言ってもそれは、研究に必要だったいわば検体だという。それでも愛情を注いでいたのは間違いないようで、随分と古びた写真ばかりだったが、どの動物たちも名前を憶えていた。
 一見ダンディーな見た目だったが、愛する動物たちのことを語る時はだらしなく相好を崩している。
「どうだい。かわいい子たちばかりだろう? まあこんな風に、研究か動物にしか興味がなかったものだから、私はこんな歳まで独身なんだろうがね。心配するまでもないとは思うけれど、出会いは早い内に済ませておいたほうがいいよ」
 歳より臭く教訓まで述べて、それらのほとんどを贄波・絶奈はスルーした。
 そして珈琲を飲み干したところで本題を投げる。
「あなたにも協力して欲しい」
「……塔に向かうのだったか」
 すると彼は急に顔つきを変えた。事情は大体知っているらしく、その上で無謀だと判断しているのだろう。
「この状況じゃ魔術塔は機能してないんでしょ?」
「まあね。ウーレン君やマーシー君が必死に立て直そうとしていようだるが、どうなることやら」
「なら大多数の魔術師にとっても今はイレギュラーなワケだしこのままだと無駄に被害者が増えるだけだよ。こっちにとっても人手がいないと対応しきれないから、協力しよう」
 対等な取引だとアピールして説得する。それにランドルフは少し考えてから試すように問いを投げてきた。
「君たちの仲間に、珈琲を愛する者はいるかな? 動物を愛する者でもいい」
「いると思うけど、それがどうして?」
「いや、いるならいいんだ。うん、協力しよう」
 趣旨の分からない問いに頷きながらも首を傾げて、しかしそれだけでランドルフは死と釣り合うと告げた。カップを机に置き、立ち上がる。アルバムを本棚にしまうその背中を、贄波・絶奈は不思議そうに見つめた。
「本当にいいの?」
「いいのさ。この歳になるとね、どうしても後のことを考えてしまう。私が愛している者は、私が消えても残っているだろうか。愛する者はいてくれるだろうかとね」
 棚にしまったアルバムの背を撫でながら過去を馳せる。愛した彼らはもういないが、こうして浮かべる者がいれば永遠に続く。だからランドルフは戦うと決めたのだ。
「君たちの中にそれを受け継ぐ者がいるとするのなら、私は協力しようじゃないか。ああ、年寄りにとってはそれだけでいいのさ。ま、私はまだ50代なんだけどもね」
「そっか。そういうものなんだね」
「ああそうさ。そういうものさ。それで、他に聞きたいことがあるんじゃないかな?」
 話に区切りがつくと更なる要求を求める。それに贄波・絶奈は思い出したようにその質問をした。
「塔主について、何か知ってる? 塔の構造とかも分かればいいんだけど」
「塔の内部についてはさすがに私も知らないね。けれど、塔主様は何度かお会いしたことがある」
 それから随分と昔の記憶を引っ張り出しながら、彼は応えた。
「塔主様は、真面目な人だったよ。もし今回の事件を引き起こしたのだとしたら、何かに追い詰められていたのかもしれないね」


〖リザルト〗
・『』422文字→獲得210%
・【羅紗勧誘】95%→65成功
・【羅紗勧誘】95%→16成功
・【羅紗勧誘】31%→24成功
・羅紗魔術師3名の勧誘に成功しました。

花喰・小鳥
一・唯一

 花喰・小鳥と一・唯一はともに行動している。
「唯一は魔術士たちに協力を求めるんですね?」
「器用さは人並み、天使の知り合いもおらん。とくれば魔術塔の御方らに|協力してもらお《脅すしかない》な」
 アマランスのことも気になっていた花喰・小鳥も、羅紗の魔術塔が協力してくれるかどうかには興味があったらしい。一・唯一の|本音《ルビ》には気付かず、はてその美貌で誘惑するのだろうかと浮かべていた。
 それなら自分にも手伝えることはあるだろうと√能力【|傾城花《アルラウネ》】で魔術師達の魅了に対する抵抗を下げ、√能力【|幻惑草《マンドレイク》】によって辺りに『正直病』をばら撒く。
「彼女のエスコートなんてなかなかあることではありませんよ」
 視線が合った魔術師には、そうやって微笑み手を振り、援護射撃も忘れなかった。
 それに送り出されるようにして、一・唯一は羅紗魔術師達へと接触する。
 かつて√汎神解剖機関の怪異「クヴァリフの仔」争奪戦で|鹵獲ができた《懐いてくれた》仔の協力を得て作り上げた超常現象阻害物質クヴァリフ器官で釣れそうな羅紗魔術師に歩み寄ると、
「なぁ、手柄一つ貸してあげよか」
 そう囁きいて惑わし、
 個人的宗教観で天使に対しあまり良い印象を持って無さそうな羅紗魔術師や逆にアマランスに好意を持ち天使達をつい目で追う羅紗魔術師、有事の際に遺憾なく発揮される見事な筋肉を持った脳筋系羅紗魔術師達には、興味深げにこちらを眺めている花喰・小鳥を示しながら、
「あそこで天使に負けんくらい可愛い|子《小鳥〗が困っとるけど助けてくれん?」
 同情を誘って協力を願い出た。
 所詮は人の子。そう割り切って、ぐいぐいと近付いていく。
「緊急事態やし普段どんな諍いがあろうと水に流して協力し合おうやないか。牙をむくんは、後にしよ」
 警戒されれば、穏やかにそう宥めて、次々に篭絡していった。それは全て、|自分《小鳥》の為。
「死にたぁない。けど、それ以上に小鳥を失いたくない。せやからボクに出来る事をする」
 大切な者を守るため、彼女は脅迫も軽々と成し遂げた。
 死ぬ気なんてない。だってまだやりたいことも戻りた場所もあるのだから。だから、一・唯一は最善を尽くした。
「唯一にかかれば、魔術師達も簡単に篭絡されるのですね」
「小鳥がいてくれたからや」
 一・唯一の見事な成果に、花喰・小鳥は賞賛を与え、それに返すのは謙遜とは言い切れない事実だ。そうして二人は再び並びながら、今度は花喰・小鳥の目指す場所へと連れ立った。
「小鳥は天使の伝手を当たるんやろ?」
「ええ、かつて出会ったミィニアとウィルファネスという二人を尋ねようかと」
「へえ、協力はしてくれそうなん?」
 出来なかったら自分が代わりに|お願い《脅》してやろうと考えながら尋ねると、少し微笑ましそうに答えが返ってくる。
「大丈夫でしょう。天使であることもそうですし、彼女らは聖域と呼ばれた地で懸命に生きていました。世界全ての危機にあるとなれば手伝ってくれるはずです」
「小鳥はどんなふうに活躍したん?」
「その地を任された執政官とも協力して原子炉に関わる管理や利権などの問題と抗争という事態を収拾、最終的に現れた羅紗の魔術士を撃破しました。そういえば、ウィルファネスは女性としてミィニアが気になっているようですが、彼女のほうはどうなのでしょうか? 進展があると嬉しいですね」


〖リザルト〗(花喰・小鳥)
・『』201文字→獲得200%
・ボーナス…連携
・【天使交渉】95%→89成功
・【天使交渉】95%→97失敗
・【天使交渉】95%→84成功
・【天使交渉】32%→41失敗
・天使3名の交渉に成功しました。

〖リザルト〗(一・唯一)
・『』75文字、33文字、28文字、31文字→獲得35%、獲得15%、獲得10%、獲得15%
・ボーナス…幸運18、連携
・【羅紗勧誘】95%→64成功
・【羅紗勧誘】1%→32失敗
・【羅紗勧誘】66%→82失敗
・【羅紗勧誘】59%→31成功
・【羅紗勧誘】66%→93失敗
・羅紗魔術師2名の勧誘に成功しました。

久瀬・千影
結月・思葉

 星詠みからの依頼を受けた久瀬・千影は、悩んでいた。
 彼の実家は古くからある怪異を殺す|術《剣術》を持つ一族だった。そんな家系だからこそ、刀や槍などの物騒な代物を造る専用の炉と火事場が常に身近にあった。
 幼少の頃から出奔するまで、鍛冶師が鍛錬しているのを外から眺めるのは良くしていた事だ。
 実際に作っていたわけではないが、彼には知識がある。武器を作る知識だ。だが、これから向かう決死の戦場において、たがだが刀や槍を作ったところで有効な兵装にはなりえないだろうと考えていた。
「どーしたモンか……」
 多くの者が成果を出している状況で、自分が何もしないというのはあり得ない。ならばこれからの戦いで自分に出来る事はないかと思考を巡らせ、しかしその答えは中々出ないでいた。
 とその時、ふと見上げた視線が見知った顔を見つける。


 結月・思葉も似たような悩みを抱えていた。
 決戦に向けて、星詠みから準備を整えるように依頼された。その選択肢は三つ。その中から自分に出来そうなものは兵装開発だと考えていた。
 彼女の祖母はれっきとした霊能力者だった。彼女自身もその血を濃く引いているのか、物品に効果を付与するなどの能力を持っている。これならきっと開発に有用だと思っていたのだが、一人だと出来る事が限られ、それによって足踏みしているところだった。
「誰かいたらいいけれど、……こういう時に交友が狭いと困るわね」
 これまでの自分の交友関係を嘆きつつ、足を動かしていれば名案が出ないかと思って歩き続けていると、ふと見知った顔を見つける。
「久瀬さん?」
「あれ、結月じゃねぇか」
 顔見知りの二人はお互いに気付くと歩み寄って足を止めた。先に悩みを打ち明けたのは、結月・思葉の方からだ。
「丁度良かったわ。あなたの目の良さと力仕事を対価に、開発の案を提供しようと考えていたの」
「そうかアンタ霊能力があるんだったか。それなら使えそうだな」
 提案された内容に、久瀬・千影もそう言えばと思い出し悩みが解消されていくのを感じる。自分も兵装開発を考えていたと伝えるとならばいっしょにやるしかないと結論づけた。
 そうして二人は話をすり合わせ、共に兵装開発へと取り掛かる。とその前にと、久瀬・千影は更なる成功率を上げるため、周囲にいる人々を指差した。
「なあ、そこらの住民の手も借りないか? 復興の最中であれかもだけどよ、人手はあった方がいいし、俺も持ち合わせてんのはせいぜい知識と単純な筋力ぐらいだしな」
「……なるほど、それは良いかもね。復興するのを待つのも良いけれど、じっとするより手を動かしたり、頭を使う方が気分も晴れるものよ。だから、私からもお願いするわ」
 名案だと結月・思葉も納得し、早速手伝ってくれそうな人を集めるため、彼女自ら声を掛けに向かった。言いくるめて協力を勝ち取り、そうして人手を集めた所で、周囲の√能力者には一言伝えた上で√能力【|茨道を照らす、妖精の光《ミライヲテラス、チエノヒカリ》】を行使する。放たれた眠り姫の妖精たちは、周囲に問題解決へと導く道筋を示してくれる。
「使うかは分からないが、それでも戦場に向かう者に選択肢があるのは悪い事じゃないハズだよな」
「ええ。ここにいる全員の知恵を合わせて、より良いものを作りましょう」
 二人はそうして協力して開発へと取り掛かった。
 まず取り掛かったのは、魔術を吸収し、一回だけ無力化できる使い捨て用の短刀だ。
「名前は祓魔の短刀にしましょう」
「ま、悪くないんじゃないか?」
 素材に使われるのは病魔を祓う力を持つ高純度の玉鋼。そして水も祈りを込められた良質なものを使い、1000℃に達する炉の炎に入れて、避難民の中にいた鍛冶職人と協力して行う。
 素材は、かつて久瀬・千影が√ドラゴンファンタジーのダンジョンに潜ってたから漁りをしていた時に集めた物。金目目当てに収集した物だったが、結局売らずに置いていた。
 そんな過去の自分の判断を英断だと褒めてやりながら作業へと取り掛かる。
(ま、そのお陰で一財産にあたる宝物は消耗品として人知れず使用されるワケだ。これで結果が出なきゃ泣きたくなるぜ…)
 ポツリとそんなことを抱きながら、鍛錬の準備を整えた。
 玉鋼に水と、既に魔術的な素養を持っているが、そこに結月・思葉がそれぞれの能力を結び付けるように力を加える。そしてすかさず久瀬・千影が鍛冶師と協力しながら鋼を打ち、水に浸し炎にいれ、知識の通りに刃を形成していった。
「中々いい出来じゃないの?」
「ああ、これはそれなりに使えそうだな」
 慣れない作業ながらも作業に関わった者たちの力がうまいこと噛み合い、『祓魔の短刀』は見事に完成する。そのことに一息つきながらも、結月・思葉は素材として広げられた久瀬・千影の所持品を眺めながら更なるアイデアを出した。
「次は、身につけられるものにしましょう。そうね……この辺りを使って、マントとかどう? 名前はそうね。闇守のマントにしましょう」
「ふーんいいんじゃねぇか? ただ裁縫ってなると自信ないぜ」
「それもまた協力してもらえそうな人を当たりましょう」
 短刀づくりに協力してくれた鍛冶師にお礼を告げて復興作業に戻ってもらいつつ、次の協力者を探す。マントを作るのだから、裁縫が得意な人はいないかと当たるも、意外にも見つからなかった。
 裁縫なら、鍛冶よりも身近に思えたが、その分復興作業に求められているのかもしれない。それに辺りにいるのは外作業をしている者たちばかりだった。
「√EDENに戻って探してもいいけど」
「つってもそんな時間あるのか? 他の奴らはもうそれなりに終えて、作戦会議始めてるみたいだぜ」
「戦いに参加するなら、会議にも出ておくべきよね」
 先ほどの鍛錬でかなりの時間を消費してしまっていた。そもそも二人が悩んでいたこともあって出遅れていて、そこに鍛冶師探しと、鍛冶場の用意が必要だったからだ。
 久瀬・千影も知識だけで実践はほとんど経験してなくて不慣れで、手際も悪かったように思う。そんな状況で完成したのだからむしろ凄いと言えよう。
「まあ裁縫なら、勢いでやってみても出来るんじゃないか?」
「簡単なものなら私にも出来ないことはないし、やってみましょうか」
「ああ、最悪幸運に任せてやるしかねぇ」
 結局二人は時間に急かされ、協力者のないまま二つ目の兵装開発に取り掛かった。
 主な材料は√ドラゴンファンタジーに出没する魔物が作り出した絹だ。それを結月・思葉が霊力を込めながら黒い糸へと編んでいく。
「型紙は、こんな感じでいいのか?」
「ちょっと不格好だけど試してみましょう」
 型紙はあくまでも手本だと割り切って、少し歪なそれも構わずマントへ形成していく。そうしながら、様々な種類の魔術文字について記載された書物と照らし合わせた。
「この文字を刻んだらその効果が出るのか?」
「ええ。このマントで不要な戦闘を避けたり、塔からの光を遮って天使化を防げるようにしたいわね」
「それじゃあ、これとこれとこれがいいんじゃないか?」
「そうね。そうしましょう」
 文字として編み込むのだからスペースも限られている。魔術として込められるのは三種類。『姿を隠す』『精神安定』『景色に溶け込む』だ。
 その手本と見比べながら、結月・思葉が慎重に刺繍していく。
 そして出来上がったのは、
「なんだこれ、カーテンか?」
「……文字も間違ってるわ」
 歪に歪んだ正方形の布。マントを意識したはずが下に向けて広がることはなく、ピンとまっすぐ伸びている。そして刺繍された文字も、魔術所の物と照らし合わせると微妙に間違っていて効果を発揮出来ないでいた。
 運任せは失敗に終わる。短刀の時と同じように専門家を呼ぶべきだったと後悔するがもう遅い。
 結局時間だけを費やしてしまい、二人してため息を吐くのだった。


〖リザルト〗(久瀬・千影)
・『』163文字 必要材料9個→獲得41%
・ボーナス…幸運44、連携
・【兵装開発】95%→17成功
・【兵装開発】54%→70失敗
・『祓魔の短刀「精神抵抗15」「魔力吸収15」「投擲15」』の開発に成功しました。

〖リザルト〗(結月・思葉)
・『』163文字 必要材料9個→獲得41%
・ボーナス…幸運17、連携
・【兵装開発】95%→97失敗
・【兵装開発】13%→95失敗

ディラン・ヴァルフリート
シアニ・レンツィ

 ディラン・ヴァルフリートとシアニ・レンツィは、羅紗の魔術塔幹部の下へ訪れていた。
「また来たのね」
「こんにちは」
 レッド・ウーレンとアザレア・マーシーは、何度目とも知らない√能力者の訪問にもう手慣れた様子だ。
 幹部として現地に根差した勢力である魔術塔の保有する羅紗や文献に対する知識量やアクセス権に期待でき、アマランス救出や戦後の仲間の安全および権利を守る為の汎神解剖機関との交渉への助力を対価とした交渉の見込みがあるとディラン・ヴァルフリートは考えている。対してシアニ・レンツィの考えは純粋な善意に近い。
 二人が軽い挨拶を済ませると、アザレア・マーシーはその部屋から出ようとする。
「わたしは他にやる事がありますので、失礼します」
「あ、それならあたしもついていっていい?」
 するとシアニ・レンツィが同行を願い出て、許可を得る。その様子を見送ったディラン・ヴァルフリートは、彼女の方が自分よりも相手との距離を縮めるのは適任だろうと任せた。
 それから1対1となってレッド・ウーレンへと語り掛ける。
「僕たちが汎神解剖機関に与するのは彼等の倫理と行動が許容範囲の内に収まる為であり、それを逸脱するが故に魔術塔とは敵対してきた形です。しかし今では、此方には貴女がたとの協力を望む者が複数居ます。アマランスさんの救出に加え……戦後の関係性についても同様に」
「似たようなことは散々聞かされたわ。それで、あなたは具体的に何を望むの?」
「……まずは、特殊個体であるオルガノン・セラフィム二種の分析を協力して頂けますか?」
 これから向かう島に溢れているという黒い個体。そして、エドが使役している白い個体。後者は味方してくれてはいるものの、不信を抱かずにはいられなかった。
 とはいえそれをエドに悟られてしまえばまた関係がこじれる可能性がある。だからこそ、敵だった存在の協力は有効だと判断していた。
「アタシたちなら、多少強引に調べようとしても切り捨てられるものね」
「いえ、そこまで考えていたわけではないすが。当然、あなたがたが責められれば僕も責任を負わせてもらいます」
「あなたたちって本当に面倒くさいわよね。使えるものは使えばいいのに」
 文句を言いながらも、レッド・ウーレンは協力してくれるようだった。そのことに感謝を伝えながら、ディラン・ヴァルフリートも持てる技能や√能力を駆使しながら分析を手伝う。


 シアニ・レンツィはアザレア・マーシーと共に歩いている。その幼き敵幹部は、これから羅紗の魔術塔の構成員たちの様子を見に行こうとしているらしかった。
「あたしね、あなたたちのこと嫌いじゃないんだ」
 シアニ・レンツィが彼女に話しかけたのは、歳が近そうだという理由だ。それは仲良くなりたいというのでもある。
「そりゃひどいやり方は止めるよ。でも前に汎神解剖機関も羅紗の魔術塔も変わらないってアマランスさん言ってた。故国か世界か、何を優先しているかの違いでしかないって。あなたたちも国や家、そこに住む誰かのことを想って働いてるんだよね? そんな人をただ敵だって、いなくなるまで命の奪い合いを続けるなんて嫌だから…、あなたたちのこと知りたい」
「わたしも、あなたがたのことは少し知ってみたいと思っていました。羅紗の魔術塔が再建するには、あなたがたのような考え方が必要なのではないかと考えていましたので」
「それならいっぱい話そっ」
 相手も歩み寄ってくれようとしていると知って、シアニ・レンツィは嬉しそうに笑った。それから歩きながらお互いのことを話し合う。
「ねえねえ、あなたにとって羅紗の魔術塔ってどんなところ?」
「簡単に言うなら、家ですね。生まれてからずっと組織の一員ですので」
「じゃあじゃあ、毎日大変? お仕事してて嬉しかったことってある?」
「それほど大変ではありません。わたしを育ててくれた人たちを支えられるのなら、なんの苦もありません」
「あたしもねーお家や家族のこと大好きっ」
 そう笑いかけると、アザレア・マーシーも小さく口元を綻ばせる。その二人はどんどんとお互いを知っていった。そうする度に、シアニ・レンツィはちょっと前まで敵対していたことが信じられないくらいに好きになってしまう。
 そのまま世間話で限りある時間をすべて使いそうになって、いけないと思いとどまった。
(ディラン先輩にも繋げられるよう、少しは情報収集に繋がる話もしなくちゃ)
 彼だけでなくとも多くの者が来る決戦に向けての準備を整えている。自分も力にならないとと、話題を変えた。
「ところで、あの塔の構造や他の建物のこと何か知らない?」
「いえ、今組織に所属している人で塔の内部に入った方はいないと思います」
「そっかー。それなら、塔主さんは昔から仲間を巻き込むようなやり方する人だった? 王劍のせいでおかしくなったとか?」
「……塔主様は、真面目な方だったと聞いています。ですが、わたしが生まれるより前にその座に着きましたので、お目にかかったことはありません」
「塔主さんになったら会えないの?」
「塔主様の主な仕事は、島の統治ですので。その座に着けば島から出る事はほとんどありません。羅紗の魔術塔の長と言うよりも、島を治める王と表現すべきかもしれませんね」
「王様かー。へー」
 果たしてそれが有益な情報となるのかは分からなかったが、とにかく頭に刻み込んでおく。
 とその時、道の先から重なる声が飛んできた。

「「「マーシーちゃ——マーシー様っ!!!」」」

 三人の羅紗魔術師だ。男性2名に女性1名。彼らはアザレア・マーシーを見つけるや否や、嬉しそうに駆け寄ってくる。
「食事の準備が出来ました! 今日はマーシー様がお好きなシチューですので存分に堪能してください!」
「事務所となりそうな建物を見つけました! 中央が吹き抜けになっていて、いつどこでも見守れ——スムーズなコミュニケーションが可能です!」
「マーシー様に似合いそうな靴を見つけました! ぜひ履いてみて試しに僕を踏んで下さい!」
 三人は我先にと要件を幹部へ伝えた。それに対して、彼等よりも幼い上司は丁寧に聞き取り、対応していく。
 そんな様子を輪の外で眺めていたシアニ・レンツィはふと思いついて呼びかけた。
「みんな、よかったら一緒に戦わない? みんなもアマランスさんのこと気になるよね? あたしもまたあの人とお話してみたいし、それにアザレアさん…、アザレアちゃんの悲しむ顔を見たくないから!」
 すると三人が対抗するように声を上げる。
「お前らなんかにその役目を渡すものか! マーシーちゃんの笑顔を守るのは俺の使命だ!」
「あたしだって、マーシーちゃんが成人するのを見守る前に、世界滅亡なんて許せないわよ!」
「マーシーちゃん! この戦いが終わったら僕を足ふきマットにしてください!」
「「どさくさに紛れて告ってんじゃねぇ!?」」
 三人の名前はマルモ、ミーテ、マレルフと言った。彼らは愛する者のために誓う事をずっと前から決めていた。


 ディラン・ヴァルフリートとレッド・ウーレンは、情報を照らし合わせながら考察を進めている。
「オルガノン・セラフィムについては正直こっちもなんも分からないわよ。天使化だって未知の現象なんだから」
「…それでは、羅紗を調べる事は可能ですか? 羅紗は太古の魔術が刻まれているという事でしたので、もしかしたら何か得られるかもしれません」
「まあ、天使化も古代に流行ったって言う病だったらしいし、一理はあるかしら?」
 そうして取り出された彼女愛用の羅紗——太古の魔術が刻まれた毛織物を、ディラン・ヴァルフリートが魔術的なハッキング等を駆使してそこに秘められた情報を得ようとした。
「…やはり見たことのない言語で構成されていますね」
「今は失われたものよ。噂では、バベルの塔崩壊以前の共通言語らしいわよ」
「神話ではなかったのですか?」
「だから噂よ」
 そうして解析を進めていると、ディラン・ヴァルフリートは違和感を覚える。それを辿ると、毛織物の内側でひっそりと輝く桃色の文字列があった。
「…これは、今も魔術が発動しているのですか?」
「そんなわけ……ホントね」
 言われてレッド・ウーレンも羅紗を覗き込み、そしてその隠された文字を見つける。持ち主でさえ、気付かなかったその呪文を。


〖リザルト〗(ディラン・ヴァルフリート)
・『』112文字、40文字→獲得55%、獲得20%
・ボーナス…幸運50、連携
・【羅紗勧誘】95%→6成功
・【羅紗勧誘】79%→58成功
・【羅紗勧誘】95%→80成功
・【羅紗勧誘】27%→2大成功→追加判定54失敗
・羅紗魔術師4名の勧誘に成功しました。

〖リザルト〗(シアニ・レンツィ)
・『』46文字、43文字、46文字→獲得20%、獲得20%、獲得20%
・ボーナス…幸運46、連携
・【羅紗勧誘】95%→95成功
・【羅紗勧誘】21%→82失敗
・【羅紗勧誘】95%→78成功
・【羅紗勧誘】21%→30失敗
・【羅紗勧誘】95%→66成功
・【羅紗勧誘】21%→40失敗
・羅紗魔術師3名の勧誘に成功しました。

パンドラ・パンデモニウム

「ぱんぱかぱーん! パンドラが来ましたよ!」
 パンドラ・パンデモニウムは愉快に現れ、周囲の注目を集めた。
 そこは羅紗魔術師が集まる場所だった。多くの者たちが行き先の見えなくなった今後のことを話していて、どことなく暗い空気が漂っている。
 だからこそ彼女は√能力【|封印災厄解放「みんななかよしぱんぱかぱん」《フラットライン・フラタニティ》】を行使して周囲にほんわかした雰囲気を放って敵意を弱め、√能力【|封印災厄解放「歌い上げよ技芸女神の舞台」《ポエティックステージ・オブ・ムーサイ》】によって誤解なく分かり合えるようにして多くの者たちと心を通わせようとした。
「……レッドさんとアザレアさんは他の方とお話し中ですか」
 先の戦いで攫われたアマランス・フューリーと特に仲が良さげだった幹部二人なら、話をしやすいと思っていたが、既に他の√能力者が声をかけていたらしい。傷付いて疲弊しているだろう彼女らに差し入れとしてヘスペリデスの黄金林檎も用意していたが、どうも必要なかったみたいだ。
 それなら一人でも多く勧誘しようと周囲の羅紗魔術師に話しかけていると。
「おや? あなたは……」
「なにか?」
 見つけた女性魔術師に見覚えがあった。それはかつてパンドラ・パンデモニウムが星詠みとして見た光景に映った人物だった。情けないアマランス・フューリーを見捨てず気にかけていたバーの女性マスターである。
 連れ去られた幹部と仲がよさそうだった彼女なら、協力してくれるだろうと声をかけた。
「あなたも、アマランスさんを助けに行きませんか?」
「私が、ですか?」
 一見毅然としている彼女だったが、その表情は曇っている。アマランス・フューリーの名前が出た途端、その目が開いて反応し、食いついたのは見るに明らかだった。
「この閉塞した状況を切り抜けるためには多くの力が必要です。…いえ、難しい言葉を使う必要はありませんね。お友達を助けましょう、その一言だけでいいはずです」
「私とアマランス様がお友達とは……」
「いえ、以前バーでのお二人の様子を覗き見させてもらいましたが、とても仲睦まじげでしたよ。上司と部下と言うよりも、お友達の方が似合うと思います」
「……」
 すると彼女は黙り込んだ。何かを思い返すように俯く。それはきっと、これまでバーのマスターとしてアマランス・フューリーを接客した日々だろう。
 ふとその口元を微笑ませて、確かにこれは友情だと認める。
「もとよりあなた方の所業を忘れることはできませんが、罪があるのは世界に災厄を解き放った私も同じこと。味方になれとまでは言いませんが少なくとも今争う必要もないでしょう。進む方向が同じなら肩を並べてもお互い損はしないのでは?」
「それも、そうかもしませんわね。ええ、私でよければ協力しますわ」
「ありがたいです。ちなみに幹部のお二人にも同行して貰う事は可能ですか? 戦力的にいてくれたらとても助かると思うのですが」
「いえ、それは難しいですわね。他の方からも頼まれているみたいですが、全部断っています。今は羅紗の魔術塔再建のために全力を尽くすとのことで」
「アマランスさんが帰ってくる場所を守るためですね」
「ええ。お二人も、あの方が戻ってこられるのを待ち望んでいますわ」
 彼女達は彼女たちなりに戦っている。ならばこれ以上無理に引っ張り出そうとするのは野暮というものだ。
 それから今後の作戦について情報共有していると、ふと魔術師の方から疑問が投げられる。
「ところで、次の戦いはこれまでとは比べ物にならないほど危険なのでしょう? どうしてあなた方は敵対していたアマランス様までをも救って下さるのですか? どうして、それほど一生懸命になるのですか?」
「……どうして、ですか」
 その問いかけに、パンドラ・パンデモニウムは己の過去を思い返し、そしてそれを経た己の感情を、真剣に相手へと伝えた。
「私は、大切なものを全てなくしました。あなた方は『まだ』なくしてはいません。……だから、です」
 そうして、共に大切なものを救いましょうと手を取るのだった。

〖リザルト〗
・『』93文字、93文字、91文字→獲得45%、獲得45%、獲得45%
・【羅紗勧誘】56%→50成功
・【羅紗勧誘】56%→43成功
・【羅紗勧誘】56%→21成功
・羅紗魔術師3名の勧誘に成功しました。

八辻・八重可

 八辻・八重可は天使交渉を早々に切り上げていた。
 彼女が交渉したのは、かつてノルウェーの天使化事件で救った幼い少年だ。自分の近しい者たちを守るために自ら不吉の森と呼ばれる禁忌の地へと赴いた優しい人物。
 彼に八辻・八重可は名乗らなかった。彼の名前も聞かなかった。そんな関係で、負担をかけてしまうのは本当に申し訳ないと思いながらも、これ以上望まぬ天使化を防ぐために協力をお願いした。
「塔への同行が不要なのがせめてもの救いですね」
 無事天使の承諾を得た八辻・八重可は、自分なりのルートで情報収集へと取り掛かる。
 彼女は汎神解剖機関所属だ。と言っても何の権限もない平研究員ではあるが、今回の事件はこれまででもかなり大きなものだ。ある程度の報告は上がっているだろうと職場を訪ねる。
 出迎えてくれたのは直属の上司。彼は八辻・八重可が今回の天使化事変について関心を寄せている事を知っている。
「ヨーロッパの方じゃあ大変だったみたいだな」
「ええ、緊急事態です。人の精神を書き換え、姿を変えるほどの力が振るわれています。何らかの記録は残っていませんか? 今後の戦いに備えるため、私の閲覧権限を一時的に引き上げてもらいたいのですが」
「いやつってもなぁ」
「緊急事態なんですっ」
「ま、まあ一応そうだな。上からも今回の事件に関しては逐一報告するように言われてるし、お前を担当に据えることにしよう。今後の事件報告が義務になるが、構わないな?」
「もちろんです。それでは使わせてもらいますね」
 勢いに押された上司から汎神解剖機関が蓄えた蔵書の閲覧権限を勝ち取り、八辻・八重可は足早に向かう。これまで決して入る事の出来なかったデータベースに触れ、彼女は必死に検索をした。
「情報はあればあるほど良い。噂話のような一見関係なさそうなものでも、駄目でもともとの精神です」
 √能力【|八辻ノート《ザッキ》】も展開して集中力を高め、己の世界知識に第六感、幸運など使える物を駆使して目ぼしい書物に軒並み目を通した。
 しばらく経ったところで、閲覧権限を引き上げてくれ上司が顔を覗かせる。
「どうだ、なんか見つかったか?」
「いえ、初めてなので勝手も分からず、少し手こずっています」
「……じゃあ俺も手伝おうか?」
「いいのですか?」
「流石に世界の危機となったらジッとしてられないしな。んで、王劍について探せばいいんだよな? といってもお前が出た後で軽く調べたけど、何の情報もなかったんだよな」
「それなら天使化についてはどうですか? ヨーロッパの風土病みたいですし、あの地の過去の文献があれば何かわかるかもしれません」
「まあ探してみるか」
 八辻・八重可の提案に、上司も袖をまくって大量の蔵書の頁を捲っていく。データ化されていないものも多く、棚と作業スペースを行ったり来たりして、中々に重労働となった。
 王劍については、言われた通りほとんど分かっていることがなかった。√妖怪百鬼夜行のマガツヘビに関連する『天叢雲』と言う存在が確認はされているらしいが、それ以上は分からない。
 過去に起きた事件、担い手、担い手の能力。どうやって決着したのかも、検索できる範囲には見つからなかった。
 もちろん、天使化との関係も見つからない。当てがないと分かればすぐにヨーロッパの風土病天使化について絞る。
 天使化の病がヨーロッパで流行っていたのはおよそ1000年以上前のことのようだ。人々の文明が発展していくほどに消えてなくなっていて、最後に発見されたのは800年ほど前。それもその数十年で一人だけ。
 天使化についての顛末はどうも記述が少ない。ただ、神秘の金属と化した者たちは当時の人々から崇拝されていたらしい。しかしその者たちがどんな結末を迎えるのか、そういった類のものがほとんど記されていなかった。
 見つかったのはその一文だけ。
「……その病は、天に選ばれた者の証である」
 そして一緒に描かれていたのは、壁画の写しだろうか。
 天使となった人が、光降り注ぐ空へと向かおうとしている。まるでそこに楽園があるかのように、その人物は空を目指していた。
「にしても、話に聞くオルガノン・セラフィムってのは、どこにも見当たらないな」
「それはおかしいですね。天使よりもむしろその姿の分、何かの記録には残されていそうですが」
「本来はあり得ない姿なのかもな。それこそ王劍の力で無理矢理天使化してるから」
「確かにそれはあり得ますね……そうだ、ダースと名乗る魔術師について知っていることはありませんか?」
「羅紗の奴なのか? さあなぁ。あ、そういえばうちの連中があそこの魔術師から羅紗をかっぱらって研究してるって言ってたな。一応調べてみるか?」
「はいっ」
 そうして彼女達も羅紗を前に、分析を進めるのだった。

〖リザルト〗
・ボーナス…『』なし、幸運5
・【天使交渉】16%→83失敗
・天使1名の交渉に成功しました。

◆◆◆◆◆

 羅紗の奥底に隠れた呪文が発光している。

『目ぼしいモン見つかったか?』
『あ、ここに現在の塔主に関しての情報が少しありましたっ』
『……13代目塔主ピエトロ・テスタ、ですか。今年で丁度在位30年になるのですね。歳は70代だそうですが』
『こっちの方では、そろそろ塔主が変わる頃だと書かれてありますね』

『そう言えばこの羅紗に記されている文字、この絵にも描かれてありませんか?』
『おーこの天使を崇拝してるやつらが使ってる文字だな。と言うかよく見たらこの足場って、なんとなく塔の上みたいじゃねぇか?』
『天使でない人たちも、空を目指していたのでしょうか』

『…この魔術はいったい、どんな効果の物なのですか?』
『……これは、通信用よ。聞かれてるわこの会話』

「おや、気付かれてしまったか」
 いくつも並べた羅紗の一つから聞こえた声に、その男——ダースはポツリと零す。
「まあ別に、もう警戒されてしまっているから今更なのだが」
 通信の途切れた羅紗を放り捨て、彼は悠々と歩き出した。
 そこは王劍の力広がる領域。結界に囲われた島。
 誰にも邪魔されず辿り着いた彼は、情報収集を終えると準備を進める。
「彼のためにも少しお膳立てをしておかなくては。流石に今のままでは支障が出そうですからね」
 想定とズレている現状にため息を吐きながら、いずれやってくる厄介者たちを歓迎するために『料理』を用意していた。

◆◆◆◆◆
——〖途中経過〗兵装9 羅紗38 天使153
夜風・イナミ
ソノ・ヴァーベナ
獅出谷魔・メイドウ
アダム・バシレウス
兎網・真
五葉・馳駆丸

 夜風・イナミは決戦に備えて兵装開発を試みようとしていた。
 その手段は先祖代々伝わる方法。作り出すのは幸運と防御を兼ね備えた最強のお守りだ。
「呪はおまじないとも言うんです。皆にも良さげな素材を持ってきてもらって、最強のお守り作りましょう」
 より良いものを作れるようにと連絡の取れる者たちも呼んで、彼女はまず|錬金窯《温泉》作成に取り掛かる。
 合成するスペース以外は安心安全なただの温泉の為、避難民の憩いの湯としても活躍できるよう、避難所の近くの広い土地を借りて作業を始めた。
 まず取り出すのは長年ずっと温泉を沸かすことや呪殺のために使用してきた、血を流しいれる溝が呪紋のように刻まれている先祖代々伝わる黄金の巨大な竜漿釘。それを地面に撃ち込んで浴槽としていく。
 とその最中に連絡を受けたソノ・ヴァーベナが駆け付けた。
「お待たせイナミさーん。それで、一緒にイケてるお守りを作っちゃう計画スタートしちゃってる?」
「あ、お待ちしてました。今丁度始めた所です」
「それじゃあ釘を打ち込む作業からお手伝いしちゃうねー。どんな雰囲気の温泉になるのか、こわいようなワクワクしちゃうような!」
 そうして二人がかりの釘打ちで、地脈をバグらせて温泉を沸かせる。何度かやったことがあるのか手慣れた手つきで、辺りに湯気を充満させていった。
 それからまずは夜風・イナミから素材をぶち込んでいく。
 用意したのは遺跡ダンジョンの最奥の祭壇で見つけた、目の様な模様と呪紋が刻まれている綺麗な黄金の腕輪(凄まじい呪いのオーラがダダ漏れになってる)と、石化の魔眼を持つ呪いの黒水牛の剛角(昔折れたイナミの角)だ。
 続けてソノ・ヴァーベナも渾身の素材を取り出す。
「今日は超自信作の魔法ガジェットを三つも持ち込んだよー!」
 狂乱な暴力性と攻撃力を強制的に引き出す耳飾り『バーサーカーピアス』に、飲んだ瞬間、10分間だけすべての運が味方する奇跡の薬『グッドラックカクテル』、骨の音色で霊たちを引き寄せ、戦力に変える恐るべき笛『コールスピリット』。それら三つを沸き立つ温泉にぶち込んで、『お守り』の糧とした。
「素敵にヤバクリティカルなのができあがるといいなー⭐︎」
「出来るといいですねー」
 ソノ・ヴァーベナのワクワクとした感情を、夜風・イナミも傍で共感しながら、湯につかって地面に座る。言い出しっぺである彼女は、放り込んだ素材たちと共にじっくりコトコト煮詰められながら呪詛を込めて言った。
 それによってカオスが一つへとまとまっていくのだ。言うなれば、完成まで彼女はその湯から上がれない。のぼせる前に完成するだろうかと心配しているそこへ、また仲間が駆け付けた。
「イナミ! 呼んだか! 来たぜ! なんかわからんが、とにかくスゲーもんを入れればいいんだな! 丁度いいのがあるぞ! 他にも色々入れるぜ!」
 溌溂とした声ですっかり浴場と化したその空間に踏み込んだのは獅出谷魔・メイドウだ。事前に事情を聞いていた彼女は、挨拶も早々に素材を取り出し、容赦なくぶち込んでいく。
 かつてダンジョン内で狩猟した、蛇の尾を持ち頭部から無数の蛇が生え、全ての眼球には石化の呪力が宿る、全長3mのニワトリ型モンスターと、換毛期で抜け始めた、生まれてこの方鍛錬と闘争に人生を捧げてきたライオン獣人、つまり獅出谷魔・メイドウ自身の体毛やタテガミ。それは小さなクッションくらいの量があり、あまり手入れされてないのかほとんど枝毛、切れ毛だ。
 そして最後にダンジョン内で適当に拾ってきた金銀財宝。見る人が見ればそれなりにロクでもない呪力が宿っているのがわかるシロモノを、夜風・イナミの浸かっている湯へと放り込む。
 すると最初にいれたニワトリ型モンスターが、湯船で暴れ始めた。
「い、生きたままのモンスターはさすがに危ないですよう……!」
「アタシにはなんも出来ないから見守ってるぜ!」
「ひぃ~、くちばしでつっついてくるーっ」
「ハッ宿敵の気配! アタシを追って来たか! すまん、アタシは先に宿敵を倒さなきゃなんねえ! 皆がんばれよ!」
 呪詛を込め続けなくてはならず、モンスターに襲われながらもその場に留まらないといけない夜風・イナミが悲鳴を上げるも、獅出谷魔・メイドウはお約束のように気配を感じてその場を離れていく。
 助けてくれとSOSを出してはいたが、その脅威は徐々に消滅していった。
「あ、でも蛙みたいにちょっとずつ茹で上がってるよー」
「呪詛のおかげでなんとかなりましたよもう」
 蛙がお湯だとその熱さに気付かずじっくりと息絶えていくように、ニワトリもまた同様にお湯への警戒を怠ってボイルされる。そう告げたソノ・ヴァーベナもまた何もせずニコニコと見守っていたのだが、とりあえずは安全となった状況に夜風・イナミは一息ついた。
 とそんなやり取りをしている間に、アダム・バシレウスはやってきていた。
「おや、なじみの温泉の女将に呼ばれてきたけど、なにか煮ているね…へえ、オマモリつくってるのか…温泉一つ丸々使って、いっぱい作るんだね…」
 一応は挨拶をしていたみたいだが、ニワトリの鳴き声にかき消されてしまったらしい。まあ返事が無くても手伝おうと、彼は持ってきた素材を湯にとぷんと入れる。
「莫大な魔力を秘めた浮遊するレアモンスター【霊牛グラズゥラ】のサーロイン肉に、対策をせずに引っこ抜くと幻惑の叫び声を上げる人参マンドラゴラ、通常の数十倍の層を持つ巨大玉ねぎ【千層幻葱】と形がハートみたいなじゃがいもを加えて、あと味もつけなきゃ」
 そうして取り出すのは各種香辛料。クミン、コリアンダー、ターメリック、レッドペッパー、ガラムマサラ、カルダモン、オールスパイス、クローブと、一気に湯の色が黄色くなっていって。
「隠し味にりんごとはちみつ、よし、これでカレー風味に…」
 これだけ入れればきっとおいしいオマモリが出来るはずと勘違いしながらぐつぐつと煮込みながら湯もみ棒でよーくかき混ぜていく。
 すると立ち込める煙に、さすがの夜風・イナミとソノ・ヴァーベナも気付いた。
「な、なんだかカレーの匂いがしません?」
「おいしそうにいい匂いだねー。ってあれ」
 さまよった視線はアダム・バシレウスを見つけ、彼は湯もみの手を止めて挨拶を投げる。
「やあ来てたよ。ところでオマモリってどんな料理? 楽しみだね」
「お守りは料理じゃないですよぉ……!」
「えっオマモリって料理のなまえじゃないの!?」
「もう、この匂い中々とれないですよぉ」
 体に染みつくスパイシーな香りに夜風・イナミはまた涙目になる。
 とそこへ更なる応援が駆け付けた。
「重要作戦と聞いて! 自分はまだレベルに不安が残るので支援で役に立つでありますよ!」
 兎網・真も意気揚々と素材を持ち寄る。その手に持っていたのは、雨夜の墓場に響く足音のような音を出し続ける、すすけて黒ずんだ少女像の欠片(常に少し湿っている)と真夜中にそれを見つめ続けると目が離せなくなり、その場で何日も立ち尽くしてしまうという噂がある、無数の血管模様がうねうねと脈打ち続ける紅蓮の球体と一つの村を【記録抹消】に追い込んだ享楽兎の尻尾の桃毛皮(真の尻尾の毛)。
 前二人に比べれば随分とそれっぽい品々だった。
「人を救う多面なので怪異の標本をたくさんいただいてきたであります」
 嬉しそうにそう語るが、処分に困っている怪異の素材を押し付けられただけだと兎網・真は知らない。とはいえこの場においては有用なのは間違いなかった。
「今度はちゃんと呪っぽいアイテムたちばかりですね~」
「だけどカレーは全てをカレーにしちゃうね」
「お腹空いたね」
「あれ、……これで大丈夫でありますよね?」
 怪異素材を提供しようとしたところで、辺りに立ち込める匂いと水面に浮かぶ食材たちを見て何か間違ったのではと不安を覚える兎網・真。そこへすかさず、そもそも現状が間違っているのだと促された。
「大丈夫ですからぶち込んじゃってください」
「化け物には化け物ぶつけんだよって言うでありますからね! チャレンジであります!」
 どちゃちゃちゃっ、と勢いよく素材が放り込まれ、その湯はまたまた混沌へと寄っていく。それでもカレーの匂いが負ける事はなかった。
 と手隙だった仲間達はそれぞれ顔を見合わせる。
「せっかくですし、邪魔にならない場所で自分達も温泉に入りましょう」
「それは名案だね僕も浸かろう普通の温泉に」
「さすがにわたしまでカレー味にはなりたくなかったからそうしよ」
「うう、まだお守りは完成しないのですか」
 カレーに侵食されていない湯舟へと向かう三人に、一人取り残される夜風・イナミは泣き言を零した。そんな風に俯いて視線を外している隙に、気付けば宿敵の気配を辿った挙句温泉まで戻ってきた獅出谷魔・メイドウも一緒に交じっていて、更には兎網・真が呼びかけた避難民までもがくつろぎ始めていた。
 お守りが完成してないためにカレーの湯から出られない夜風・イナミはその楽しそうな光景を羨ましそうに見つめている。
 とそんな風に寂しさを味わっているところで連絡を取っていた最後の仲間も駆け付けた。
「お、居た居た。こっちで合ってたな。イナミさん、手伝います」
 戦闘じゃなければ手伝えるだろうとやってきたのは五葉・馳駆丸だ。
「となんだこの匂い。俺が持ってきたの御山のもんだけなんけど、食材を持ってくるべきだったか?」
「いえいえっそれで合ってますよ! 一番お守りに合いそうです」
「あらたかなんて嘯けねぇけど、多少の御利益・霊験はあるといいなぁ」
 彼が持ってきたのは、山のヌシとして居座っている大鹿が落とした後に魔除け兼目印として山の地脈に置かれていたでかい角に山の天狗もどきが本人の言を信じるなら云百年は肌身離さず身に着けて使っていたというヒスイの勾玉の1つとその羽根1本と山姥に今回のことを話して強請ったら迷惑そうな顔と小言と一緒にくれた蘇芳色の何かひんやりする織物。どれも曰くつきではある物の、モンスターだったりカレーだったりしないから正解だ。
「上手い事いくようここで祈っていくよ。そんくらいは罰も当たらないだろ」
 そうして彼もカレーの湯から離れたところで、他のメンバーを見つけてそっちに合流する。
 また蟲毒を味わう夜風・イナミは、早くこれを終わらせようと呪詛に集中するのだった。
「皆の思いや素材を無駄にしないように…っ。皆の要素が混じった素敵なカオスなお守りを!」
 結果、六人が力を合わせた甲斐もあって、それはそれは見事なお守り(カレー味)が完成する。


〖リザルト〗(夜風・イナミ)
・『』157文字 必要材料3個→獲得33%
・ボーナス…幸運92、連携
・【兵装開発】95%→52成功
・【兵装開発】95%→19成功
・【兵装開発】19%→93失敗
・『お守り(カレー味)「狂気防御25」「幸運25」「霊的防護25」』の開発に成功しました。

〖リザルト〗(ソノ・ヴァーベナ)
・『』106文字 必要材料3個→獲得23%
・ボーナス…連携
・【兵装開発】56%→45成功
・連携対象と同様の兵装開発に成功しましたので、技能値を「狂気防御30」「幸運30」「霊的防護30」へと上昇させました。

〖リザルト〗(獅出谷魔・メイドウ)
・『』226文字 必要材料3個→獲得47%
・ボーナス…連携
・【兵装開発】92%→60成功
・連携対象と同様の兵装開発に成功しましたので、技能値を「狂気防御35」「幸運35」「霊的防護35」へと上昇させました。

〖リザルト〗(アダム・バシレウス)
・『』153文字 必要材料14個→獲得44%
・ボーナス…幸運6、連携
・【兵装開発】95%→55成功
・【兵装開発】1%→48失敗
・連携対象と同様の兵装開発に成功しましたので、技能値を「狂気防御40」「幸運40」「霊的防護40」へと上昇させました。

〖リザルト〗(兎網・真)
・『』153文字 必要材料3個→獲得33%
・ボーナス…幸運141、連携
・【兵装開発】95%→34成功
・【兵装開発】95%→40成功
・【兵装開発】92%→46成功
・連携対象と同様の兵装開発に成功しましたので、技能値を「狂気防御55」「幸運55」「霊的防護55」へと上昇させました。

〖リザルト〗(五葉・馳駆丸)
・『』149文字 必要材料3個→獲得31%
・ボーナス…連携
・【兵装開発】68%→73失敗

玖珠葉・テルヴァハルユ
空地・海人
ルメル・グリザイユ
雨深・希海
霧島・光希

 玖珠葉・テルヴァハルユは、兵装開発の準備に取り掛かる。
「実は一回やってみたかったのよね、アイテム調合。ま、見様見真似だけど…」
 どこかワクワクとした感情を抱きながら、√能力【ようこそ探偵事務所へ】を行使して付け焼き刃でながらも知識を身に着け、たぶん効果はないだろうと思いつつ不思議骨董品のお守りを懐に忍ばせてから挑む。
「さてまずは……」
 付け焼刃の知識を頼りにまずは、素材から魔力と存在の力を引き出す錬成陣を足元に敷き、その中央に立つ。そして陣に合わせて周囲に素材を並べていった。
 硬く粘り強い鋼で出来た鉄器は日用品のフライパンで代用、狩猟用などの用途で使われていた長銃に成人男性の身長と同じ位の長さの杖と魔除けや清め等にも使われてきた塩、神事等で奉納される清めの酒、自身の霊気を凝固させた霊気の塊。
 それらを時計回りに配置していって、霊力で錬成陣の魔力を起動する。そうすることで並べた素材から魔力と存在の力を抽出し、玖珠葉・テルヴァハルユ自身に残った霊力を触媒として個々の素材から取り出した力を繋ぎ合わせていった。
「さあ、上手く行ったらお慰み!」
 最後の仕上げに、舞う様に立ち回りながらそれ等を混ぜ合わせて錬成する。
 果たして結果は、
「出来たっ!」
 玖珠葉・テルヴァハルユの手には、銃と杖が一体になった兵装が出来上がっていた。霊力での攻撃に加えて破魔の力と防御も可能な装備だ。
 初めてのアイテム調合に上手くいって、ご機嫌な様子で仲間達へ報告しに行く。


 人手がいると聞いてやってきた空地・海人は、散策しながら探していた。
「俺にもできそうなのは、魔術師達の勧誘……かな?」
 モノづくりに自信はないし、天使の伝手も大してない。それなら見つけ次第声を掛ければいい羅紗魔術師の下へと向かった。話を聞いてくれそうな人物に出会えるよう念のためにと√能力【|不思議写真 Photo by Kaito《パワーフォト》】【|√汎神解剖機関《フォームルートハンジンカイボウキカンフォーム》】で幸運を高めながら。
 そうして彼が出会ったのは、なんだか熱い視線を注いでくる少年魔術師だった。
「あ、あの人さっき見かけたヒーローだっ」
 ヒーローにあこがれを抱いているのか、敵であったにもかかわらずキラキラとした羨望のまなざしをチラチラ向けてきている。戦闘中でもそうだったのだろう。見るからにピュアピュアで純真な少年だった。
「君もヒーローが好きなのかな?」
「好きです! 変身ポーズ見せてください!」
「良いだろう!」
 求められるがままに変身ポーズを取って、それから握手も交わす。ヒーローらしいファンサを終えてから、本題を投げかけた。
「俺達はまた新たな戦いへ向かおうとしている。君も一緒にどうかな?」
「え、オレじゃあ足手まといになるんじゃないかな……」
「協力してくれれば、君もヒーローになれるぞ!」
「ならやるっ!」
 少年はあっさりと手を挙げ、勧誘に成功した。
 そして次に見つけたのは何やら落ち込んでいる様子の女子魔術師。
「ああ、お姉さま……っ。どうして攫われてしまったの……っ」
 どうにもアマランス・フューリーの身を案じているらしい。そんな彼女にはヒーローらしく「アマランスさんはきっとだよ」と励まして、一緒に助けに行こうと味方に引き入れる。
 自分に出来る限りの勧誘を行う空地・海人だったが、ふと疑念を抱いていた。
「……生き残ってるくらいだし、実力はあるんだろうけど……俺の勧誘相手、彼らで良かったのか……?」
 どちらともに未成年ではあったし、これから向かうのは危険な場所だ。本来なら彼ら彼女らを守るのが自分の役目なのではないのだろうか。
 しかし、この戦いで勝てなければ多くを失ってしまう。ヒーローの葛藤はどこまでも尽きない。


 ルメル・グリザイユは天使との交渉が必要と聞いてふと思い浮かべる。
「そういえば、何人か助けた子達が居たっけ…まさかまた、こんな形で関わることになるとは思わなかったけれども…ふふ、やっぱり人助けってしておくものだね~」
 過去の行いがこんなところで巡り巡ってくるとはとどこか嬉しそうに微笑む。そうして他の者たちと同様に、天使の伝手を辿って連絡を取っていった。
 中には既に他の√能力者に声を掛けられている者もいるだろう。とはいえそれをすべて把握するのは至難だと割り切って、持ち得る伝手を一人一人当っていく。
「確か、リーネと言ったかな」
 一人目は、名前を呼ぶ機会はなかったが、不吉の森で出会った天使。向こうも名前を憶えてくれているだろうかと連絡を取る。
「次は、アニカ」
 同様に名前を呼ぶ機会はなかったが、オルガノン・セラフィムの爪で切り裂かれる直前に救い出したことははっきりと覚えている。
 一人また一人と順調に協力を承諾してもらい、最後に思い出したのは双子の姉弟だ。
「双子ちゃんは僕以外にも声をかけてる子がいるかもなあ…」
 その依頼では多くの同業も参加していたようだし、むしろ大勢で押し掛けて迷惑になるかもしれないなと思って当たってみる。すると以外にもその二人に声を掛けたものはいなかったようで、ルメル・グリザイユは更なる手柄を増やすのだった。


 雨深・希海はその集団に僅かな同情の目を向けている。
「羅紗の魔術師達……なんていうか、騙されてた人達って感じがしたからちょっと気の毒なんだよね生き残っている人達に声をかけて一緒に戦うことを提案してみようかな」
 先の戦いで下した彼らにも活躍の機会を与えようと話を聞いてくれそうな人物を当たっていった。
 その最中で見つけたのは、20代らしき女性の羅紗魔術師だ。ほとんど年齢イコール職歴のようで、組織内ではベテランに片足を突っ込んでいる。
「ちょっと話いいかな?」
「何かしら」
 その口調はこの状況であっても落ち着いたように感じながらも、確かに疲弊がうっすらと透けて見えた。どうにも先の戦いでは、オルガノン・セラフィム化した同僚たちの変化していく様を見ているしか出来なかった自分に対しての怒りや悔恨を抱いているらしい。
 仲間が天使化してしまう混戦の最中でも√能力者対立はしていたが、途中で戦う相手が違うと戦闘を放棄し、戦いが収まるまで身を潜めていたようだ。
 そんな事情を知って、雨深・希海は共闘を持ち掛ける。
「ぼく達が戦う相手は、あの塔にいると思う。それはひょっとしたら、あなたたちには反逆かもしれない。それに、あそこは死の危険がつきまとう領域……だけど、できれば力を貸してほしいんです」
「あまりに割に合わない頼みよね」
「それは分かってる。でもあんな光景はもう二度と見たくくないから……。もっとぼく達には力が必要なんです」
 どこか突っぱねるような魔術師の言葉に、雨深・希海は真摯に想いを伝えて頭を下げる。そうしてしばらく魔術師は黙っていたが、最終的には折れたとばかりに引き受けてくれた。
「あたしたちにも、力は必要よね。大した力にはなれないかもしれないけれど、よろしく頼むわ」
「ありがとうございます。一緒に頑張りましょう」
「ええ」
 そうしてまた一人、敵対していた者との絆を結んでいく。


 霧島・光希は準備に勤しむ周囲を見渡している。
「決戦前の準備、ってやつか」
 次々と成果を出している味方達に心の内で賞賛を浮かべながら、自分も出来る事で協力しようとした。
「羅紗の魔術師を説得したり、天使の人達と交渉してエドくんとの繋がりを作ってもらったり……が、出来たらよかったんだけど。生憎、一連の事件に関わってこれなかったからね。そっちの方では力になる自身が無い、となると……あとは、ダメで元々だ」
 と言う訳で選んだのは兵装開発。天使化の力にも対抗できるような耐性の護符の作成を試みた。
 素材のほとんどは√ドラゴンファンタジー由来。錬金触媒となるのはダンジョンモンスターからドロップした魔法金属片に、同じくダンジョンモンスターからドロップした宝石、そしてダンジョンの中で見つけたいかにも魔力が籠っていそうな水晶と、ダンジョンで手に入れた効果を潰して作った金銀を、霧島・光希が扱う謎めいたエニグマティックエネルギーによって、錬金術として仕上げ何やら加工してなんかいい感じに組み合わせていく。
「あとはこれの効果がきちんと発揮さればいいんだけれど、どうだろう? 上手くいくと良いな……」
 慣れない作業だ。自信はない。作業も途中かなり適当な感じにしてしまったからどうだろうかと出来上がりを不安そうな瞳で見つめていると。
「……ダメだったか」
 やはり手順が曖昧だったのがいけなかったのかもしれない。金属や宝石で作ろうとした護符は上手く形にならずボロボロと霧島・光希の手の中で崩れてしまうのだった。


〖リザルト〗(玖珠葉・テルヴァハルユ)
・『』129文字 必要材料7個→獲得31%
・ボーナス…連携
・【兵装開発】68%→34成功
・『ヤドリギの銃杖「オーラ防御15」「霊力攻撃15」「破魔15」』の開発に成功しました。

〖リザルト〗(空地・海人)
・『』90文字、90文字→獲得45%、獲得45%
・ボーナス…幸運62、連携
・【羅紗勧誘】95%→23成功
・【羅紗勧誘】82%→71成功
・【羅紗勧誘】95%→24成功
・【羅紗勧誘】82%→2大成功→追加判定6成功
・羅紗魔術師5名の勧誘に成功しました。

〖リザルト〗(ルメル・グリザイユ)
・『』229文字→獲得220%
・ボーナス…幸運22、連携
・【天使交渉】95%→11成功
・【天使交渉】95%→49成功
・【天使交渉】95%→7成功
・【天使交渉】78%→47成功
・天使5名の交渉に成功しました。

〖リザルト〗(雨深・希海)
・『』200文字→獲得100%
・ボーナス…連携
・【羅紗勧誘】95%→64成功
・【羅紗勧誘】55%→53成功
・羅紗魔術師2名の勧誘に成功しました。

〖リザルト〗(霧島・光希)
・『』100文字 必要材料6個→獲得26%
・ボーナス…連携
・【兵装開発】39%→70失敗

タマミ・ハチクロ
エリミネーター・シクス

 タマミ・ハチクロは、アパートのお隣さんが来ていると聞いて参戦した。
「小生も戦線工兵の端くれ、物作りは得意分野であります」
 星詠みからの依頼は聞いてある。√ウォーゾーン出身として、兵装開発ならば力を貸せるだろうと考えていた。そしてその隣には、作業するのにどうしても人手が必要だからと友人も呼んである。
「疑ってた訳ではないですけれど、別の√って本当にあるんですね。別世界への道なんて、私には見えなかったけれど……ここまで、来れてしまいました」
 エリミネーター・シクスは初めて訪れた√汎神解剖機関に視線をさまよわせていた。彼女はタマミ・ハチクロのAnkerであった。
「死地に付き合わせて申し訳ないであります、エリミちゃん殿」
「私は√能力者ではありませんし、死と隣り合わせなのはいつものことです。困ってる人がいるのなら、私はどこへだって駆けつけます。それがお手伝いロボットの矜持、ですから」
 戦いが起きていないとはいえ、危険に近づいていることは間違いない。エリミネーター・シクスは気を遣われながらも、問題ないと微笑んだ。
 そうして二人は、必要とされている作業へと移る。
「さて、リクエストは専用兵装……この過酷な戦場にも持ち込める装備でありますな」
「皆さんが扱えるものでないといけないんですよね」
 二人はともに機械人形である。故に扱える兵装の幅は広い。だがその基準で作ってしまえば使い手は現れないだろうと言葉を交わしていく。
「ド派手なメインアームを用意するのも乙なものでありますが、多くの方にはすでにお使いの装備があるはず。決死の戦いであるからこそ、使い慣れた得物を望む方もおられるでありましょう。という訳で、小生はサイドアームめいた牽制に使いやすい装備を用意するでありますよ」
「名案ですね」
 作戦がまとまると、早速素材が並べられる。それは事前に準備してあったものだ。
「という訳で、エアバイクのエリミちゃん号で使えそうな資材を色々と運搬して来ました。タマミさんと分けあって使いましょう」
「助かるのであります」
 エリミネーター・シクスが二人分の開発用素材を取り出して、二人はそれぞれ別の兵装開発へと取り掛かった。
 まず、タマミ・ハチクロが作ろうとしているのは『30発装填自動拳銃』だ。弾幕を張る事に特化しており、連射と牽制が得意なサブウェポンとして持っていれば心強い武器。
 そう弾数30発の拡張マガジンを、√√ウォーゾーン製自動拳銃・TMAM896に憑りつけ、グリップにも変形する追加すっ得を組み合わせる。そして最後にエリミネーター・シクスから分けてもらった強装弾薬を込めれば完成だ。
「WZ級の兵器でも扱えるよう、付け替えれば持ち手にもなるストックを用意したでありますよ」
 使い手のことも考えての設計は、さすがは戦線工兵の端くれである。タマミ・ハチクロの半身たる拳銃であるTMAM896だが、しょせん量産品。関係なくじゃんじゃん弄っていく。
 メカニックとして当然構造は把握済み。故に√能力【|創造と破壊《クラフト・アンド・デストロイ》】を行使して作業効率を上げて量産すぴーとを高めていくのだが、

「ああっ、作りかけの爆薬がっ!」

 近くで開発していたどこぞの√能力者が、手を滑らせて量産された『30発装填自動拳銃』の山に爆薬を放り込んでしまう。それは不幸な事に接触とともに爆発し、これまでの成果は全て無駄となってしまうのだった。
「災難であります……」


 エリミネーター・シクスが作ろうとしているのは『使い捨て式ロケットランチャー』だった。自ら弾道計算を行い、広範囲を攻撃して、相手の先を取る事を想定した兵装だ。
「戦えない身で皆さんのお役に立つには、これが一番ですから」
 彼女は戦闘システムの大半がロックされているので、開発にも多少難儀していたが、自分の分を|終えた《失った》タマミ・ハチクロに手伝ってもらいながら開発を行っていく。
「えーと、弾薬パック内の√ウォーゾーン製強装弾薬に弾道計算用コンピューター、それとエリミちゃんアイの予備パーツと、この√ウォーゾーン製のアサルトウェポンへと組み込んで……」
 名称にある通り使い捨て式の為、敵陣に撃ち込んだらすぐに捨てて身軽になるのを前提している。その分一発の威力を追及してあった。弾道計算はコンピューターに任せ、ざっくりカメラを向けて引き金を引けば誰でも簡単に露払いや先制攻撃が出来る……そんな性能がコンセプトだ。
「エリミちゃんアイとは今付けているのを使うのでありますか?」
「いえこれは目の内部用の予備パーツを使うんですよ。眼球とかじゃなくてただのカメラですからご心配なく」
 タマミ・ハチクロのふとした疑問に答えながら、自身のメンテ用部品をも使って武器を作った。
 果たしてそれは二人がかりとあって想定通りのものが出来上がったのだが、

「ああっ、暴走したレーザー砲がっ!」

 またまたどこぞの兵装開発していた√能力者が開発に失敗して、その流れ弾が被弾する。地面を消失させるほどの高出力レーザーが、エリミネーター・シクスの眼前すれすれを通って、手元にあった『使い捨て式ロケットランチャー』を焼き切った。見事に銃身に沿って被害を受けたせいで、無事な部品が一つもない。
「これでは作り直しも出来ないでありますね」
「お互いに運が悪かったようです」
 意気揚々と開発したが、運が悪かったならしょうがない。何の成果も生み出せなかった二人は、すごすごと故郷の√へと帰っていくのだった。
「ああっ、全自動人殺しゴーレムが誤作動をっ!」
「ぎゃぁあー! 俺のキメラがー! なぜ素材に人間を使ってると分かったー!?」
 また引き起こされる誰かの不幸を背中で聞きながら。

〖リザルト〗(タマミ・ハチクロ)
・『』68文字 必要材料4個→獲得16%
・ボーナス…連携
・【兵装開発】24%→47失敗

〖リザルト〗(エリミネーター・シクス)
・『』62文字 必要材料4個→獲得16%
・ボーナス…連携
・【兵装開発】24%→46失敗

澄月・澪
薄羽・ヒバリ
深雪・モルゲンシュテルン
久瀬・八雲

 星詠みからの依頼を受けて、その四人は作戦会議を行っていた。
「エドくんの傍にいれば天使化の光は効かないっていうお話だけど、何があるか分からないもんね。準備はしっかりしなくちゃ」
 澄月・澪は情報を整理しつつ、天使交渉に意欲を見せている。
「深雪は武装を考えてるんだっけ? せっかくあの塔で使うんだし、実用性は当然として、見た目もエモくて映える感じのやつがいいよね〜」
 薄羽・ヒバリも同様に天使の伝手を辿るつもりらしい。
「皆さんの本来の戦術を邪魔せず、生存に寄与する装備が必要ですね」
 深雪・モルゲンシュテルンは兵装開発だ。どこか真面目に方針を語り、それに久瀬・八雲が、自分達の使う装備と聞いて意見を出した。
「どうせ使うならカッコいいのだと盛り上がりますね!」
 するとその一言からアイデア出しが広がっていく。
「あ、それなら皆のマークも入れようよ、私のは🌙のマークっ!」
「外観の個性付けですか。要件に盛り込んでおきます。識別性が向上すれば乱戦時も連携しやすくなりますから」
「わあっ、みんなのマーク! それちょーいいアイディア! 私たちチームのよんこいち感がマシマシなのもテンションあがる〜! 私はもち🐦のマークっ。えっへへ、可愛いっしょ?」
「印が入ってるのも専用感が出てなお良し! まあ装備作りは門外漢ですしそこは本職の深雪ちゃんにお任せして、わたしは魔術師さん達の協力を取り付けに行きます!」
 澄月・澪の提案に、深雪・モルゲンシュテルンが合理的と承諾して、薄羽・ヒバリも乗っかる。久瀬・八雲は出来上がりを楽しみにしながら自分の役目を宣言した。
 それぞれのやるべきことを確認すると、四人は作戦会議を追える。
「√ウォーゾーンの技術力を、世界の存続のため……そして、全員で生還するために役立てましょう」
 深雪・モルゲンシュテルンが最後にそう告げて、皆が視線を合わせて頷いた。そうして四人は、それぞれの成すべきことを成すために散らばっていく。


「ヒバリさん、八雲さんとアイディアを考えて、深雪ちゃんがアイテムを作ってる間に私は天使の人と交渉を終わらせておこう」
 澄月・澪は、他三人の仕事を信頼して自分のやるべきことへと向かう。アドリア海の洋上の島で出会った少女のミルカという名の天使を訪ねようとしていた。
 その少女は明るく優しく、一緒に暮らしていた人たちがオルガノン・セラフィムとなって、故郷から一人脱出することになっても前を向ける、とても気丈で強い女の子だった。
 辛い出来事を忘れず、受け止めて前に進む事を決めた彼女ならきっと力になってくれると思うと、交渉を試みる。再開した天使へと、澄月・澪は率直に要求を伝えた。
「もうあんな悲劇を起こさないために……力を貸して下さい、お願いします!」
「えっと、そのエドさんって方と契約をすればいいんですよね?」
「うん。ちょっと血を抜くから痛いかもしれないけど、本当に危ないところにはいかないし、彼の下へ向かう途中もわたしが護衛するから」
「それでしたらぜひ協力させてください」
 想定通り前向きにミルカは交渉を受け入れてくれた。言葉の通り、彼女をエドの元まで安全に送り届けてから、時間の余った澄月・澪は情報収集へと移る。
「そう言えばミルカちゃんの時にも会ったんだっけ」
 彼女が次に訪れたのは、アザレア・マーシーの下だった。
 つい最近まで戦っていた相手ではあるし、アマランス・フューリーが攫われたのも、自分たちとの戦いがあったからと言える。それならいい感情は持っていないかもしれないと心を決めながら、お互いの目的達成のために、今できる事をしておこうと踏み込んだ。
(……「次」に失敗したら、その次はもうこないから)
 これから先の戦いが、これまでにない過酷さとなるのは誰もが感じている事だ。その覚悟を胸に抱きながら、羅紗の魔術塔再建のために働いている少女を捕まえる。
「アザレアさん、今話いいかな?」
「なんでしょうか?」
「他の人が聞いてなかったみたいだから聞いておきたいことあるんだ。その、ダースさんって人の事知ってたりしないかな?」
「報告は聞いています。ですが、目ぼしい情報はこちらでも見つかっていません。と言っても偽名を名乗るくらいですから、姿を変えて活動している場合もあるとなると、さすがに探すのには一苦労しそうですが」
「そっか。ありがとう。じゃあお互いに頑張ろうね」
 めぼしい情報は得られなかったが、アザレア・マーシーが協力的であることが知れただけで満足と、澄月・澪は労いを伝えてその場を去っていった。


 薄羽・ヒバリは兵装開発の方向性が決まったのを見届けてから天使交渉へと向かっていた。
 訪ねようとしておるのは、湖水地方に住むスピカという天使だ。薄羽・ヒバリより歳が二つ上で、接しているうちにすごく心の綺麗な人だと感じていた。戦いの最中でも助けに来た√能力者たちのことをずっと心配してくれていて、アマランス・フューリーとの戦いでは、粉塵まみれになった自分へとハンカチを差し出してくれた思い出があった。
 当時のことを思い出して再会を楽しみにしながら、天使を訪ねる。
「お久しぶりですっ、スピカさん!
「あ、お久しぶりです」
 挨拶を交わすと、その天使も薄羽・ヒバリのことを覚えていてくれた。それだけで舞い上がりそうになったが、今はやるべきことがあると感情を抑え込んで本題に入る。
「……ええと、今日はお願いがあって、天使化事変を解決するために、世界を救うために、私たちに力を貸してほしいんです! お願いしますっ」
 勢い良く頭を下げ、事情を話す。すると当然とばかりにスピカは協力を約束してくれた。
 そうして交渉を終えた後は、薄羽・ヒバリも情報収集へと向かう。彼女が尋ねたのは羅紗の魔術塔幹部であるレッド・ウーレンだ。
 敵意がないことを示すために武器は持たず、何やら部下たちに指示を下しているその女性へと話しかける。
「ウーレンはやっぱしごできだねっ」
「いきなり何よ」
 ギャルらしい距離の詰め方にその元敵幹部は眉を顰めながらも警戒心は見せなかった。すっかり協力してくれる様子であることを見て取って、薄羽・ヒバリはまた嬉しくなる。
「ねえ、塔主様について、知ってることを教えてほしいの。何か知ってることはない?」
「塔主様ねぇ。アタシもあんまり詳しく知らないのよねぇ。引きこもる前、塔主の座に就く前から魔術塔にいる人達なら多少の人となりは知ってるだろうけど、正直大した情報はないと思うわよ」
「そっか、ありがとっ。それならベテランそうな人を当たってみるねっ!」
 レッド・ウーレンの些細な情報にも感謝を投げて、薄羽・ヒバリは足を止めずに次へと向かうのだった。


「皆さんのマークは、これで間違いないですね」
 深雪・モルゲンシュテルンは他三人から託されたメモを確認しながら兵装開発へと取り掛かるところだった。
 作ろうとしている者は、バリア発生装置と飛行機能を備えた軽装型強化外骨格だ。その名も『CSLM(Combat System for Lethal Missions)』。
 皆の機体を背負っているから失敗は許されない。そう意気込んでから彼女はありったけの素材を集めて、限りなく成功率を高めて開発を進めていく。
 メインフレームを構成するのは、軽量かつ強靭な炭素繊維強化樹脂。飛行機能の妨げにならないかつ、防御性能も兼ね備えさせてある。
 駆動系には人口筋肉繊維を使い、柔らかく衝撃を吸収する薄型金属装甲板に魔術耐性を高める特性の護符を張り付ける。飛行のためのジェットエンジンは、ドローン用装備を転用した小型のものを使い、瞬間的に高推力を発生させる追加ブースターも取り付ける。
 そしてもう一つの要であるバリア発生装置は、WZ用装備のエネルギーバリアからの転用だ。更には今回待ち受けるはずの天使化に備え、外部干渉による精神の変調を計測する脳波モニタを頭を保護するためのヘルメットに搭載してある。そのヘルメットには録画用カメラと各種機能が取得した情報を視野に投影するヘッドマウントディスプレイの要素も加えてあった。
 万が一にも天使化の影響を受けてしまった緊急時には、『善なる無私の心』から強制的に遠ざかるための向精神薬を投与する機構も備え、その状況をいち早く察知するために周囲の情報を集める計器類も必須だった。仮にそれでも間に合湧か鳴った場合には、発信器が自動的に仲間に位置を伝えられるようになっている。当然、逐一情報を伝えられるハンズフリーの通信機も装備していた。
「さてそれでは、皆さんのマークの描画ですね」
 淡々とした作業は確実に人数分の兵装を完成させ、そして後はパーソナルマークの描画の身となっていた。塗装用の塗料を取り出して、皆から渡されたメモと照らし合わせながら、絵を描いていく。
「澪さんが🌙に、ヒバリさんが🐦、八雲さんが雲だとしてどんな形にしましょうか」
 何よりも自身の雪を表現するのが一番難しい事に気付き、試行錯誤を繰り返すのだった。


 羅紗魔術師を探していた久瀬・八雲は、とある一団を見つける。それは大変個性豊かな集まりだった。
「おーい! 俺の話を聞いてるか!?」
「……ビビデバビデブ、エロイムエッサイム」
 快活そうな風貌の羅紗魔術師がハッキリとした声で、呪文を呟きながら深い瞑想にふける羅紗魔術師へ声を投げている。どれだけ話しかけても返事がないからとその瞑想中の頭をシェイクし出していた。
「でさぁ! その犬がマーキングしちゃってさぁ!」
「ふっ、ふっ……!」
「スピードっ! スピードをっもっとぉおおおおお!」
「はははは。なんだよそれ面白過ぎて泣けてくるー」
 大きな声で世間話に没頭している羅紗魔術師の傍では、一心不乱に筋トレをこなす半裸の羅紗魔術師とスピードを追い求めすぎて無駄な筋肉を削ぎ落そうとしている羅紗魔術師が各々の世界に浸っていて、それを挟んで表情筋が死んでる羅紗魔術師が世間話に対してやたらと感情豊かに相槌を打っていた。
 そしてそこからはもう、個々が好き放題やりすぎてまるで祭りの屋台のような光景となっている。
「コインあったらそこ置いて、決っしてこの磨きを止めないでくれ。世界が滅びる」
 世界の命運を背負いながらコインを鏡面仕上げに磨き続ける羅紗魔術師。
「ダイエット! ダイエットしてモテるんだもしゃもしゃっ」
 野菜を食べれば痩せると信じて延々と新鮮な生野菜を致死量に迫るほど食べる羅紗魔術師。
「1679万9998、1679万9999、1680万っ。うん何度数えても1680万色に光ってるぞぉっ……!」
 かつて入れた1680万色に光る刺青を何度も確かめるように数えている羅紗魔術師。
「はあっ、ふうっ、んふっ、はあっ、お、収まれっ、俺の右腕ぇええ……っ」
 どうやっても暴れ回る右腕を必死に抑えようとして息を荒げて地面を転がる羅紗魔術師。
「ようやく授業で習ったサインコサインタンジェントを使う機会だっうっひょう!」
 海に霞む塔への距離を割り出そうとウキウキで三角測量に挑む羅紗魔術師。
「クレイジーフォーユーっ」
 ブレイクダンスが得意なやつ。
「俺ってアザレア・マーシーちゃんと幼馴染でぇ。えっ? うん、40歳だけどなにか?」
 自組織のアイドル的幹部の10代少女と幼馴染であると自称するおっさん。
「このほつれを治したら一緒にゆるキャラグランプリに出ようね、ラッシャーくん」
 羅紗の魔術塔のマスコットの着ぐるみを血眼で繕っている裁縫職人。
「ラッシャーくんしねぇええええっ!」
 修復中の着ぐるみにドロップキックを決めてその座を奪おうとする羅紗の魔術塔非公式マスコット『メリノン』。
「きしめんはいかがっすかー。羅紗を模してるきしめんだよー」
 きしめん売り。
「これを買ってから筋肉がついたから、皆にも広めなきゃ」
 十字形の大きな石を背負っている人。
 そんなあまりにも組織として成り立っているとは思えない面々に、久瀬・八雲はまるで怯むことなく声をかける。
「たのもー!」
 本当にそんな奴らでよかったのかと思うものの、彼女は特に人を選ぶことなく協力者を募るのだった。
 そしたら滅茶苦茶集まった。


〖リザルト〗(澄月・澪)
・『』154文字→獲得150%
・ボーナス…幸運200、連携
・【天使交渉】95%→97失敗
・【天使交渉】95%→2大成功→追加判定54成功
・【天使交渉】95%→64成功
・【天使交渉】95%→8成功
・【天使交渉】95%→61成功
・【天使交渉】67%→99失敗
・天使6名の交渉に成功しました。

〖リザルト〗(薄羽・ヒバリ)
・『』130文字→獲得130%
・ボーナス…幸運49、連携
・【天使交渉】95%→66成功
・【天使交渉】95%→31成功
・【天使交渉】95%→2大成功→追加判定85成功
・天使5名の交渉に成功しました。

〖リザルト〗(深雪・モルゲンシュテルン)
・『』319文字 必要材料16個→獲得31%
・ボーナス…幸運276、連携
・【兵装開発】95%→95成功
・【兵装開発】95%→62成功
・【兵装開発】95%→46成功
・【兵装開発】95%→20成功
・【兵装開発】95%→87成功
・【兵装開発】77%→31成功
・『CSLM(Combat System for Lethal Missions「狂気耐性45」「空中ダッシュ45」「エネルギーバリア45」』の開発に成功しました。

〖リザルト〗(久瀬・八雲)
・『』20文字、20文字、20文字、20文字、20文字、20文字、20文字、20文字、20文字、20文字、20文字、16文字、25文字、30文字、29文字、22文字、20文字→獲得10%、獲得10%、獲得10%、獲得10%、獲得10%、獲得10%、獲得10%、獲得10%、獲得10%、獲得10%、獲得10%、獲得5%、獲得10%、獲得15%、獲得10%、獲得10%、獲得10%
・ボーナス…幸運252、連携
・【羅紗勧誘】―省略(成功54回、失敗14回、大成功2回)
・羅紗魔術師56名の勧誘に成功しました。

ヴォルフガング・ローゼンクロイツ
ゾーイ・コールドムーン
角隈・礼文

 ヴォルフガング・ローゼンクロイツは一際気合いを入れていた。
「俺の本分は、技術者だからな。俺の【錬金術】と魔導工学【メカニック】を活かし、皆の力になる決死戦専用ウォーゾーンを完成させてみせる。今ある俺の全力、いやそれ以上を引き出して完成させてやる!」
 次々と完成させている他の√能力者に遅れは取らないと活を入れ、√能力【|狼印式・店舗建築錬成《ヴォルフスツァイヘン・ラーデンバウ・アルヘミー》】で作り上げた魔導玩具店『狼印』支店内を作業場として、共に召喚した看板娘の|少女人形《レプリロイド》を助手とする。
「助手を担当させて頂きます、必要なものがあればすぐ取り寄せますのでなんなりと」
 畏まった助手の挨拶によろしくと告げて、早速開発のために必要な書籍を調べさせた。その準備が整うまでの間に、√能力【|魔導賦活器創造《アルカーナー・アクティファートーア・シェプフング》】【|薔薇十字大秘儀《ローゼンクロイツ・アルス・マグナ》】で開発成功率を高めて置く。
「本日の設計書になります」
「助かるぜ。よし、作っていこうか」
 助手から書籍を受け取りこれから開発しようとする兵装の構造を頭に叩き込んでから、√能力【|律動創壊術《リュートムス・シュプフングス・ツェアシュテルング》】も使用して作業効率を上げた。
 そうしてようやく開発に取り掛かる。
「装甲材はこちら、タングステンカーバイトとミスリルを主成分にし、硬度と靭性を兼ね備え、軽量化を図った真銀超硬合金になります」
 助手が調達してきた素材を、ヴォルフガング・ローゼンクロイツが受け取って組み上げていく。
「フレームはこちら、錬金術による錬成で生成した|黒化《ニグレド》の賢者の石の粉末をセラミックに混ぜ込み、錬成陣と魔術回路を組み込んだ人の意志や感情で性能を上昇させるプラナセラミック複合フレーム材ですね」
 用意された代物はどれも一級品だ。それ故、失敗は許されないと緊張感も漂っていた。
「動力炉は、火・水・風・土・光・闇の属性を帯びた結晶で出力をブーストすることで、内蔵している|白化《アルベド》の賢者の石を赤化《ルベド》に至らせたティンクトラ・リアクターが適しているかと」
 設計書の内容を思い出しながら、確かに助手の言うとおりだと受け取る。
「コックピットには、機体外部の状況をリアルタイムで表示するディスプレイを配置し、搭乗者の思考やイメージを直接機体に伝える精神感応操縦装置が必要ですね。それに加えてセンサーシステムも充実させましょう」
 魔力探知レーダーに霊視スコープ、音響魔術ソナーと、様々な状況に合わせられるように情報収集の手段を増やし。
「駆動系は、通常の物理法則を超えた加速や非現実的な軌道を描く動きを可能にする霊素モーター、魔力変換器やルーン機構を組み込んだ魔導関節。そして推進装置に魔力噴射式スラスターですね」
 あらゆる世界を渡り歩ける√能力者だからこそ、複数の世界の技術を混ぜ込んで最強の兵器と仕上げていった。
「戦闘補助AIは、魔術的な演算回路と集合無意識を模倣した擬似魂により、搭乗者の思考を直接読み取り、信号伝達を最適化するアーティフィシャル・インテリジェンスを使いましょう。他WZにも移植可能ですので、機体が故障したときはこの部分だけ取り出し転用もおすすめです」
 余裕を持った作業のおかげで故障後にも気を回す事が出来、順調に理想の兵装は開発されていく。
「そして最後に、アカシックレコードを利用した、結果を先に確定する螺旋式逆因果力装置を取り付ければ……」
「よし!」
 全ての作業を終えたヴォルフガング・ローゼンクロイツが、工具を放って立ち上がる。助手と共にその出来上がった兵装を見つめた。
「|決死戦専用WZ『天元突破』《スペラーレ・リミテム・カエレステム》の完成だ!」
 搭乗者の覚悟をもって、リミッターを解除し限界突破させる来る戦いの為だけに作られたWZ。その出来に二人共に感嘆の溜め息を漏らしていて、助手は最後の役目とばかりに投げかける。
「その名称は、どういった意味なのでしょうか」
「ラテン語で『天の限界を超越する』の意、だな」
 ヴォルフガング・ローゼンクロイツの得意げな解説に、助手は拍手をもって称えるのだった。


 ゾーイ・コールドムーンは葛藤していた。
「天使化事変の被害者をこれ以上、この件に巻き込みたくない……が、そうも言っていられない状況になってしまった」
 いっそのこと事情を話して断られたなら、少しの安堵と共にその決定を尊重するのだが、『善なる無私の心』の持ち主である彼らがそれを選ぶとはとても思えない。
 迫るのは世界の危機である以上、協力を願わない訳にはいかない。ならばもう決まっている事だった。
「……さて、話をしに行こうか」
 ゾーイ・コールドムーンは観念して、天使の下へと向かう。
 彼がかつて救った少年はエミリオと言った。救う最中、魔術塔による|生け捕り《奴隷化》を防ぐためにオルガノン・セラフィムと化した少年の家族を手にかけた。更には強力な簒奪者たちから逃走しなくてはならず、結果としてまだ生きていた村人の多くを見捨ててしまった。
 ゾーイ・コールドムーンは己の行動を打算と欺瞞に満ちた行動ばかりだったと悔いている。それでも少年は信じて進んでくれたのだ。
 恐らく村ではもう暮らせなかったはずだ。今どうしているのだろうかと浮かべながら辿り着いたのは、汎神解剖機関に用意された施設。身寄りを失った多くの天使がそこで暮らしているようだった。
「会うのはあの日以来だね。今日はきみに話があって来た」
「あの時助けて頂いた……」
 再会した少年は、恩人の顔を覚えていてくれた。そのことで罪悪感が僅かに薄らぎながら、本題を伝える。
「エミリオの村にも蔓延した天使化の病、実は意図的に拡げている者が居ることが判ってね」
「また、あんなことが起きるんですか」
「ああ、相手は全ての人が天使化するまで、あのような悲劇を生み出し続けるつもりだ。おれは……おれ達はそれを止めたい」
 ゾーイ・コールドムーンは自身の純粋な思いをまず伝えた。協力してもらうためには嘘はあってはならないと、再会を喜ぶ間も惜しんで今が大事な局面なのだと明かした。
「相手にも理由があるのかもしれないが、それが何であれ、ただ普通に暮らしていた人々を犠牲にして。更にこれまで以上の悲劇を起こそうとするような行為を、許したくない。そして、止める為にはきみの協力が必要なんだ」
 何が起きるか分からない。それも余さず明かす。
「きみ自身が戦場に出る事はない筈だけど、何が起こるか分からない以上、危険が全く無いとも言い切れない。もしそうなった時に守れるかどうかも、正直に言えば分からない。おれに全てを救えるような力が無い事は、きみもよく知っているだろう。でも、最大限努力する事は約束する」
 そうして、天使の瞳を見つめた。
 善心を抱くその輝きにはすでに心は決まっていると言わんばかりだった。
 それでも真摯に、彼は頭を下げる。
「……我ながら随分と勝手な事を言っていると思う。それでも、お願いだ。どうか力を貸して欲しい」
「もちろんです。協力させてください」
 悩むことなくエミリオは手を取った。そのことにゾーイ・コールドムーンはやっぱり複雑な感情を抱いてしまう。
 とはいえ、多くを救うために必要なのだと言い聞かせ、天使を連れていくのだった。


 角隈・礼文は高らかに笑い声をあげている。
「はっはっは! 何とも興味深い展開になって参りましたな!」
 一連の戦いに区切りがつき、報告を一通り聞いた彼はその研究者魂に思わず火をつけていた。
「先程は包囲網の突破を優先して、エドさんたちとの交流やダースさんへの関与は後回しにしておりましたが……うむ。今後も、その方針を維持するのが良さそうです」
 とはいえこの場には大勢の味方がいる。適材適所と言う言葉もあるし、自身のような付け焼刃の善心では、天使の前に胸を張って立つことなど厚かましい事だと、一歩引くことにした。当然彼自身は気にしないのだが、人の目を気遣ってのことだ。
「という訳で私は本懐を遂げるべく、残存している羅紗魔術師の方々を探して回りましょう」
 方針を定めて行動を開始する。念には念を入れ、絶対死領域と発覚した島には近づかないようにと気を付ける。
 そうしてある建物の中から複数人の声が聞こえたので赴いた。
 そこにいたのは三人だった。
「ああくそ、戦いは終わったのか? 逃げたってバレたら処罰されてしまうかもしれない……なんて言い訳すれば」
 60代後半と思われる男性羅紗魔術師は、どうにも先の戦いで√能力者に討伐される前に我先にと逃げ出し、その建物を潜伏場所として構築していたらしい。探求心が強くもっと多くの羅紗を扱えるようになりたいと思っているために、どうにか処罰は免れようと、取り繕う言い訳を考えている。
 その候補として若い同僚を匿っていた。
「はあ……もっと簡単に金儲けできると思ったのに……」
「う……」
 想像と違った仕事にため息をつくのは20代前半の羅紗魔術師。混迷した戦況に慄き足が竦んで動けなくなっていたものの、目の前で先輩が負傷して失神したため咄嗟に助け出し、担いでここまで逃げてきたようだ。元々は市井出身で、羅紗を用いた怪我や病気の治療を知り、不治の病を癒せるようになれば金儲けできるかと考えていた。
 そして助けられた先輩であるのは20代後半男性羅紗魔術師。天使を捕まえ手柄を立てて幹部になりたかったが、遠目に見た白いオルガノン・セラフィムを見て心が折れつつあった。それでも幹部たちの命令に従い戦っていたところ、突っ込んできばぎーに跳ね飛ばされて気絶している。
 そんな三人を発見した角隈・礼文は、潜伏しているところに堂々とお邪魔する。
「こんにちは、皆様。角隈・礼文と申します」
「だれだ!?」「だれ!?」
「ああ、警戒なさらず。状況は変わりました、敵対の意志はありません」
 当然のごとく警戒を向けられるものの、物腰柔らかくなだめようとする。とその時、今まで気絶していた20代後半男性羅紗魔術師が、ゆっくりと目を開けた。
「お、お前は、あの時バギーで俺を轢いた……!」
「え? 先程バギーで轢いた? ほっほっほ、終わったことは隅に置いておきましょう。まあまあ、これからのことの方が大事ですよ、ええ」
 負傷している者の証言で更なる疑念が建物内に広がるが、それでも角隈・礼文は引き下がろうとしない。何よりもこっそりと聞いた会話のやり取りから、彼等ならば勧誘も上手くいくだろうと考えていたからだ。
 幹部の命令に従いながらも妄信している訳ではない。自分の思想や野望を持ち、出世や利益などの成果を求めている、いわゆる俗物的な魔術師達。
 ならばいくらでも付け入る隙はあるだろうと、言葉を投げかける。
「あの塔の頂にある存在。幹部たちですら太刀打ちできなかった何か……話によれば、アマランス・フューリーは連れ去られたそうです。それが放つ天使化の光。このまま見過ごせば、その力は全世界に届くでしょう。この場から立ち去ったとして、果たして逃げ切れるでしょうか?」
「「「……」」」」
 ずっと隠れて状況を知らなかった三人は、その言葉をじっと聞く。真偽を確かめている訳ではなく、自分たちがどうすべきかを見定めようとしている。
「それほどまでの脅威、それほどまでの神秘。有象無象を天使にする力、その本質は何か、その意図は何なのか。我輩は、知りたい。この現象を引き起こしている王劍とやらに、とても好奇心がそそられております。皆さんは如何ですかな? もっと知りたいと思いませんか?」
「……知りたい」
 最初に頷いたのは60代後半男性羅紗魔術師だった。探求心の強い彼は、謎が残っていると分かれば、踏み込まずにはいられない。
 その一言で、他二人も空気を換える。その好機を繋げるように更に続けた。
「誰もが知らぬ情報を得れば、凄まじい利益になるでしょう。アマランスを助ける一端を担えれば、組織での評価も得られるでしょう。それに、何より。今回は不幸なすれ違いで衝突しましたが……我輩は、羅紗の魔術塔とも交誼を結びたいと思っているのです」
 一歩更に踏み込む。随分と気安い距離になって、しかし羅紗魔術師達はもう警戒して後ずさる事もしない。どこかすでに心を許してその勧誘の言葉に耳を傾けていた。
「貴方達の扱う羅紗にも大変興味があります。交流できれば……ね? 実は我輩は諸事情があり、今は善良な一般人に味方する正義の√能力者の立場になっておりますが、ええ。同じ穴の狢とでも言いましょうか。目的の為なら、自らの身命尊厳も賭ける悪辣さを有しておりますので。皆さんと親しくなれるだろうと……そう願っているのですよ」
 そうして語り終えた角隈・礼文は、改めてその誘いを差し出した。
「如何です――共に協力しませんか?」
 どこか怪しい問いかけに、しかし三人はつられるように頷く。
 こうして更に三人の羅紗魔術師の協力が得られたのだった。


〖リザルト〗(ヴォルフガング・ローゼンクロイツ)
・『』465文字 必要材料13個→獲得105%
・ボーナス…幸運44(√能力)、連携
・【兵装開発】95%→94成功
・【兵装開発】95%→31成功
・【兵装開発】55%→66失敗
・『決死戦専用WZ|『天元突破』《スペラーレ・リミテム・カエレステム》「覚悟25」「リミッター解除25」「限界突破25」』の開発に成功しました。

〖リザルト〗(ゾーイ・コールドムーン)
・『』226文字→獲得220%
・ボーナス…連携
・【天使交渉】95%→58成功
・【天使交渉】95%→64成功
・【天使交渉】95%→10成功
・【天使交渉】62%→10成功
・天使5名の交渉に成功しました。

〖リザルト〗(角隈・礼文)
・『』135文字、133文字、152文字→獲得65%、獲得65%、獲得75%
・ボーナス…連携
・【羅紗勧誘】95%→27成功
・【羅紗勧誘】19%→20失敗
・【羅紗勧誘】95%→45成功
・【羅紗勧誘】19%→36失敗
・【羅紗勧誘】95%→83成功
・【羅紗勧誘】34%→56失敗
・羅紗魔術師3名の勧誘に成功しました。

◇◆◇◆◇

 √能力者たちによる決戦準備は着実に進められていた。
「俺の所でも兵装を完成させたんだ。誰でも扱えるよう調整したから、試しに使ってみてくれないか?」
 開発された兵装は、戦いに向かう者たちの間で共有され、その性能で安心感を与えている。
「おれも天使を連れてきたよ。彼とも契約してくれるかい?」
 天使化を防ぐための契約も次々に結ばれ、既にその領域はその場にいる参加者も丸ごと覆えるほどの大きさになっていた。
「これほどの羅紗魔術師が集まりましたか。これは頼りになりますね」
 そして、星詠みの依頼を受けたものだけではなく、今まで戦っていた羅紗の魔術塔の構成員たちも死地に臨むために覚悟を決めていた。
 多くの者たちが準備を終えていて、次第に緊張感が高まっている。
 とそんな時にその報告は入った。

「光の環が! 光の環がまた塔のてっぺんに現れたぞ!」

 途端にどよめきが広がり、報せを聞いた者たちから外に出て、海に霞む塔を見つめて確かめた。
「どれだ? 見えないぞ?」
「ああまだ肉眼では遠くてな、ほら」
 双眼鏡を使うと確かに、塔のてっぺんを囲むようにわっかが現れているのが分かる。それはまだその場で留まったままで、しかしまた時間が経てばあの時のように広がるのだろう。
 今度は一体、どこまで被害を及ぼすのか。
「もう、時間はないのか……」
 誰かが呟いた。そのことに誰もが気が付いていた。
 あるいはこれが最後の機会かもしれない。これ以上放っておけば、被害はとても手の届く範囲を超えていく。
 ついに、本当に覚悟を決めなければならないのだ。
 そろそろ夜は更けようとしていた。それでも彼らに眠っている暇などない。
 今すぐにでも、あの塔へと目指さなければ。
 世界を救うために。



   ——第4章に続く。



〖最終リザルト〗
・参加者103名
・【羅紗勧誘】22名選択→104名の勧誘に成功しました。
・【天使交渉】48名選択→174名の交渉に成功、天使領域は半径1760mに及ぶようになりました。
・【兵装開発】29名選択→13種の開発に成功しました(詳細は下記へ)。

『翔武靴』
・技能…「逃げ足15」「ダッシュ15」「狂気耐性15」
・特徴…風の力を帯びた靴。
・制作者…山中・みどら

『ケッ死戦チェンソー剣』
・技能…「限界突破15」「怪力15」「決闘15」
・特徴…高出力の魔力モーターで回転する対怪異用刃と形状記憶合金で出来たチェーンからなる剣。主に尻に挟んで使う。
・制作者…中村・無砂糖

『最も望まぬ責め苦を与える粉塵毒』
・技能…「範囲攻撃15」「暗殺15」「呪詛15」
・特徴…呪物。小瓶の中に入っている。
・制作者…誉川・晴迪

『銃剣付きソードオフショットガン』
・技能…「零距離射撃15」「クイックドロウ15」「切断15」
・特徴…水平二連式の散弾銃と持ち主の怨念が籠もったハンティングナイフを組み合わせた物。
・制作者…ハリエット・ボーグナイン

『群竜銃』
・技能…「レーザー射撃25」「援護射撃25」「狂気耐性25」
・特徴…自立射撃支援ドローン。
・制作者…隠岐・結羽、静峰・鈴

『黒竜の守護鱗』
・技能…「精神抵抗25」「狂気耐性25」「霊的防護25」』
・特徴…ヘリヤ・ブラックダイヤの尾から剥がした鱗で作られた物。
・制作者…ヘリヤ・ブラックダイヤ

『ヘッドセット型ウェアラブルデバイス『ベルセルクインストール』』
・技能…「闘争心15」「環境耐性15」「狂気耐性15」
・特徴…精神の平常を保っていられるような耐性が付与されたヘッドセット型ウェアラブルデバイス。
・制作者…ゴッドバード・イーグル

『対魔式随伴ドローン』
・技能…「狂気耐性25」「精神抵抗25」「霊的防護25」
・特徴…対天使化精神気付け用の薬弾を散布するドローン。
・制作者…森屋・巳琥

『祓魔の短刀』
・技能…「精神抵抗15」「魔力吸収15」「投擲15」
・特徴…病魔を祓う力を持つ高純度の玉鋼で作られた短刀。
・制作者…久瀬・千影、結月・思葉

『お守り(カレー味)』
・技能…「狂気耐性55」「幸運55」「霊的防護55」
・特徴…温泉で色々煮詰めた結果、最終的にカレーが勝利したお守り。
・制作者…夜風・イナミ、ソノ・ヴァーベナ、獅出谷魔・メイドウ、アダム・バシレウス。兎網・真、五葉・馳駆丸

『ヤドリギの銃杖』
・技能…「オーラ防御15」「霊力攻撃15」「破魔15」
・特徴…銃と杖が一体となり、霊力での攻撃に加えて破魔の力と防御も可能な装備。
・制作者…玖珠葉・テルヴァハルユ

『CSLM(Combat System for Lethal Missions』
・技能…「狂気耐性45」「空中ダッシュ45」「エネルギーバリア45」
・特徴…バリア発生装置と飛行機能を備えた軽装型強化外骨格。
・制作者…深雪・モルゲンシュテルン

『決死戦専用WZ|『天元突破』《スペラーレ・リミテム・カエレステム》』
・技能…「覚悟25」「リミッター解除25」「限界突破25」
・特徴…錬金術や魔術によって作られた決死戦専用ウォーゾーン。
・制作者…ヴォルフガング・ローゼンクロイツ

挿絵申請あり!

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挿絵イラスト