⑯疾風迅雷、|刃《は》の道を征け
「よぉ、来てくれてありがとうよ。早速だが、「|秋葉原荒覇吐戦《あきはばらあらはばきのいくさ》」についての予知をしたんでね。ちょいと聞いていってくれや」
|月形《つきがた》・|夜刎《よはね》(Vendredi Treize・h01023)は、自らの呼びかけに応じた√能力者たちにそう礼を述べると、自らの見た予知を語り始めた。
「√ウォーゾーンの新たな王権執行者「鐵浮屠」が、量産型鐵浮屠の大群と共に東京の東方面から大軍勢で押し寄せてきてる」
どうやら、鐵浮屠は低空を高速飛行する事で、巨体の重量からくる|衝撃波《ソニックブーム》で秋葉原ごと何もかもを破壊しようとしているようだ、と夜刎は言う。
「このままのルートで行くなら、「鐵浮屠」は必ず蔵前橋通りを通ると予知が出た。そこで待ち構えて、一気にぶっ潰してやってくれや」
夜刎によれば、「鐵浮屠」の弱点は「小回りがきかないこと」、それ一点のみであるという。
「だが、ここでこいつを撃破することができりゃあ、こいつやその量産型の残骸を多数奪取できる」
鐵浮屠がその√能力で複製してきた武装データを解析して、「武装研究所」を開催するようだ。√能力者たちの戦いに活かせるアイテムとして生み出すことも可能になるようであるらしい。
これからの戦いのためにも、秋葉原を守りきるためにも、ここは勝ちたいところだ、と夜刎は言った。
「それじゃあ、よろしく頼んだぜ」
星詠みは憂いを含んだ声で、あなたたちにそう告げた。
第1章 ボス戦 『鐵浮屠』
「は、随分と巨大な鉄屑だ。輪切りにせねば、地獄の窯にも収まらんな?」
ミーシャ・エン・フォーレヌス(混然の天魔、あるいは十と三つ目の魔剣・h04853)――その肉体と精神を掌握した魔剣「フォーレヌス」は、東京の街を|衝撃波《ソニックブーム》で引き潰しながら飛来する「鐵浮屠」を蔵前橋通りで待ち伏せながらせせら笑う。
その異形の翼を広げて宙に舞い上がったミーシャは、鐵浮屠の死角に回り、己の√能力を発動する。
【|万魔襲来《アポカリプス》】――肉厚の片刃剣「造影魔剣:鬼金棒」のその重量でもって鐵浮屠の金属装甲を砕き、がりがりと削いでいく。鐵浮屠は自身の√能力【対√能力反応装甲】でもってその鬼金棒の破壊力と重量を複製した装甲を生成する――が、魔剣フォーレヌスはその瞬間に「虚構魔剣:|忌々しき猫の遺物《シュレディンガー》」の刀身を伸ばす。先ほどの「鬼金棒」もそうであるが、この「|忌々しき猫の遺物《シュレディンガー》」はかつてミーシャとフォーレヌスが√汎神解剖機関で起こった事件で出会った「猫の可能性」の一体が|持って《銜えて》いた「魔剣を振るう猫」を屠って手に入れたものだ。伸縮自在のその奇妙な魔剣は、まさに猫のようにその刀身を伸ばして【対√能力反応装甲】の一部を密かに剥ぎ取る。
「ほう、これでは攻撃が通らぬぞ――ああ、困った困った!」
そう笑って嘯きながら、ミーシャの肉体を操る魔剣フォーレヌスは剣を持ち変える。「造影魔剣:朧魔覇刃」。鬼神を名乗る簒奪者のそれを擬したその剣は、重く、長く、先ほど「|忌々しき猫の遺物《シュレディンガー》」でもって剥ぎ取った部位から貫き穿つ。ガガガガガッ、朧魔覇刃は鐵浮屠の肉体を鋼鉄の躯体を貫通し、アスファルトをがりがりと傷付けた。しかし「小回りが利かない」のが鐵浮屠の唯一にして最大の弱点。肉体を傷付けられていても、そこで止まることが出来ない。ブレーキが無いのと同じなのだ。
鐵浮屠が突撃する勢いを利用し、魔剣フォーレヌスは「朧魔覇刃」を引き抜くと鐵浮屠の躯体の表面を裂断する。そしてフォーレヌス自身の影から「造影魔剣」を次々と生み出し、傷痕付近をざくりざくりと抉りとってゆき、最後に魔剣フォーレヌス自身――「果ての魔剣、朽ちゆくフォーレヌス」を深く深く突き立てる。
「貴様が蓄えたという武具の情報、実に興味深い!洗いざらい吐いてもらおうか!!」
ミーシャの形の良い唇から、魔剣フォーレヌスの哄笑がその場に響き渡るのであった。
「東京の街ごと、秋葉原を蹂躙――そんなこと、絶対にさせません!」
|架間《かざま》・|透空《とあ》(|天駆翔姫《ハイぺリヨン》・h07138)は蔵前橋通りで鐵浮屠を待ち構えながら、胸に手を当ててそう言った。
(なんとか、撃破してみせます――!)
鐵浮屠の進行ルートは決まっている。東京の東側から、秋葉原の街そのものを|衝撃波《ソニックブーム》で磨り潰す――そこから、逸れることはない。そして、星詠みが言った通り、鐵浮屠の唯一のして最大の弱点は「小回りが利かない」ということ。
(つまり、攻撃を当てるタイミングを合わせることは容易である、ということ。……鐵浮屠さんより速い攻撃をする必要はありますけど……)
「それなら、いけます!」
――変身、解除。
架間・透空は悪の秘密結社に改造された怪人である。故に、女子中学生「架間・透空」の姿こそが「変身した姿」。その返信を解除し、怪人「ハイペリヨン」の姿に戻ると、透空――否、ハイペリヨンは自らと同名の決戦気象兵器を起動し、飛行機能をオンにする。
鐵浮屠が蔵前橋通りへと飛来する。それに合わせ、宙空を旋回しながら決戦気象兵器から雷雲を発生させる。
「彼らは、亜音速で飛行していると聞きました……」
――ですが、雷は、光はそれよりずっとずっと速いんです!
「簡単に躱せると思わないでください!!」
鐵浮屠に、上空からのその「攻撃」を躱すすべはなかった。
【|天色管理機構『雷』《ハイペリヨン・サンダー》】。飛来してきた鐵浮屠に直撃雷を放ち、熱と機械損傷を与える√能力。
その直撃雷の威力たるや、電圧にして1億ボルト。それを「避ける」能力を持たない鐵浮屠は、強烈なダメージを受ける。
むしろ、鐵浮屠が一撃で炭化しなかったことが、√ウォーゾーンの戦闘機械群の技術力の高さを物語っているのかもしれない。雷とは、それほどに強力な大自然の武器であるからだ。
――そう、鐵浮屠は、雷の直撃を受けてなお、まだ止まりはしない。まだ脅威として存在し続けている。
透空はそれを理解すると、まなじりを釣り上げて決戦気象兵器に新たなる命令を下すのであった。
「ほう、ほうほう、「小回りがきかない」――と」
水垣・シズク(機々怪々を解く・h00589)は星詠みが語った鐵浮屠の唯一にして最大の弱点についてそう反芻すると、楽しげに唇をつりあげた。
「それは、すなわちとっさのルート変更が効かないという事」
シズクは眼鏡のブリッジを人差し指でくいと上げ、蔵前橋通り近辺にある跨道橋へと立つ。
【|機怪操術《メクロマンシー》『カルキノス』】。シズクのAnkerは、シズク自身の宿敵機構要塞「カルキノス」であった。その残骸を怪異によって操作し、跨道橋を基礎としてミサイルと神経毒のブレスを放つ蟹型の巨大戦闘機械要塞、機甲要塞「カルキノス」を構築する。
このカルキノスの唯一の弱点は、変身すると同時に要塞内部に作成され、溜め込まれた大量の兵器を「外部からの干渉」の度に大量消費するということ。そして、それらの兵器が枯渇すると一定時間の沈黙状態に陥るという事だ。その耐久力を温存するために、シズクはカルキノスを待機状態にする。元よりカルキノスは鐵浮屠の進行ルートに置く「破壊出来ない壁」の役割だ。
そして、東京を東方面から破壊しながら、秋葉原を|衝撃波《ソニックブーム》によって磨り潰さんと、鐵浮屠が超高速で飛来してくる。
無論、鐵浮屠にとってはカルキノスもまた「破壊し磨り潰す」対象である。それが出来ると信じて疑っていない――鐵浮屠にそこまでの思考能力があれば、の話であるが――。だから、「外部からのあらゆる干渉を完全無効化する」カルキノスに超高速で激突する。激突と同時に、干渉されたカルキノスは鐵浮屠に対して大量のミサイル兵器を叩き込む。それでも進軍を続けようとする――驚くべきことに、その力が残っている――鐵浮屠に対し、カルキノスは要塞内に溜め込まれたミサイルをありったけぶち込んで、そして沈黙した。さすがに沈黙状態となれば、鐵浮屠の障害とはなりえない。カルキノスをぶち破り、鐵浮屠は道を超高速飛翔する状態に戻っていく……とはいえ、カルキノスと正面衝突する直前に比べれば、速度はかなり落ちている。
「まあ、ここまでは上手く行きましたが。上手く行っても致命傷には程遠いと――計算通りです」
尤も、私は一人で戦ってるわけじゃないですしね。
「速度さえ落とせば大きな的。他の方がいかようにでもしてくれるでしょう」
……ってことで、後お願いしますねー。
そう言いながらシズクは戦線を離脱していくのであった。
「わあい、素材がいっぱい飛んできてる~。アレ|解体《バラ》して調べたら、一体どんな聖歌が得られるのかな~」
ふふ、わくわくしちゃうなあ。
ルメル・グリザイユ(寂滅を抱く影・h01485)は蔵前橋通りに向かって超超高速で飛来しつつある鐵浮屠の、まだ小さな影を目にして、ぺろりと唇を舐めた。
ごう、音を立てて鐵浮屠は見る間にルメルの至近距離まで|衝撃波《ソニックブーム》を放ちながら全てを轢き潰してくる。ルメルは己の詠唱錬成剣「|Arato Admix《アラト・アドミクス》」を柄のみの状態から瞬時に刃を生やし、巨大ランスへと錬成する。そのまま上空を通る鐵浮屠へと向かって投擲射出、それとほぼ同時に爆破魔術を重ね、爆風によって推進力を上乗せしたランスの勢いは、鐵浮屠の電脳回路に実態よりも高威力のものだと錯覚させるに十分だった。
鐵浮屠は巨大ランスに貫かれ、その躯体の半ばほどを穿たれる。そのまま鐵浮屠の【対√能力反応装甲】が発動し、ランスは複製され追加装甲になった。それはルメルからしてみれば見なくてもわかるほど大仰な反応であり、けれどそれでもしっかりと装甲の起動を確認し、ルメルは位置を変える。鐵浮屠の脚部を執拗に狙い、そのずんぐりむっくりとした躯体の推進部を重力によって圧迫して姿勢を崩させ、鋼鉄の体を繋ぎ合わせる関節部を亜空間へと転移させ、可動の乱れを誘発する。そしてナイフ「|Requiem Fang《レクイエム・ファング》」を携えて強引に踏み込み――【|Nexus Gravitor《ネクサス・グラヴィトール》】。鐵浮屠に上手く乗り上げたルメルは、その腕には似つかわしくない怪力でもって鐵浮屠の外装の継ぎ目をナイフがまるでバターのように斬って割って抉って貫いて、内部の動力線を引き出してはその電力エネルギーをルメル自身の機動力へと変えていく、鐵浮屠の装甲からは先ほどルメルが放った巨大ランスが旋回しながら突き上げられるが、その動きは「大味」だ。ルメルのナイフによっていともたやすく受け流されていく。
「さあて、どんなお宝が出てくるのかな~」
鼻歌混じりに巨大な鋼鉄の躯体の解剖にかかるルメルのその表情を、鐵浮屠は理解できない――。
(巨体は、力任せに来る)
|和紋《わもん》・|蜚廉《はいれん》(現世の遺骸・h07277)は、蔵前橋通りで星詠みの予知した「時」を待つ。
小さな点だった黒いそれが、瞬く間に大きくなる。|衝撃波《ソニックブーム》を放つほどの速さで、鋼鉄の巨体が飛来してくる。巨体――鐵浮屠はそのまま放っておけば、秋葉原の街を磨り潰す。
(なら我は――動けぬ隅を選んで突き刺すだけだ)
蜚廉と鐵浮屠とが交差するその瞬間、蜚廉は【|翅覇域《ハクドウ》】によって視界内、高域にいるインビジブルの位置まで空を裂くように飛び上がる。飛翔の軌跡そのものが蜚廉の「領域」となり、層を成し、不可侵の領域となる。そこに鐵浮屠は当然のように接触し――「蜚廉の領域」には乱流が生じる。小回りが利かず、ただ光速で飛び続けるという行動を行っている鐵浮屠にとって、それは大きな足かせになる。
空を旋回しながら黒銀の糸――異様なほどの弾性と粘着性を持つ「斥殻紐」が蜚廉の甲殻の隙間から伸び、鐵浮屠の駆動部へと巻きつく。乱流の中で、そしてただでさえ鈍い旋回を更に封じる。駆動部のジェットエンジンが異音を上げ、鐵浮屠は格段に調子の悪くなった自らの躯体に異変を感じて抗うが、暴れれば――と言っても、「高速で飛来する」という鐵浮屠の状態ではまともなあ足搔きは出来ないのだが――蜚廉の不可侵の領域と絡みついた「斥殻紐」が互いに食いあって、鐵浮屠の姿勢は崩れる。
今の鐵浮屠は、自身で自身の状態を|制御《コントロール》出来ず、ただ高速で飛翔しているだけに近い。それはブレーキもなく、ハンドルもなく、ただアクセルのギアだけがトップスピードに入れられているのと同じだ。
鐵浮屠の攻撃対象に入らないまま上空を並走していく蜚廉。速度が上がれば、「加速衝動」が溜まっていく。疾走殻は軋み続けている。体内の振動器官「潜響骨」は装甲越しでも響きを緻密に拾う。鐵浮屠の「弱い場所」は|音《振動》によって手に取るように蜚廉にわかる。
何とかして|制御状態《コントロール》を取り戻さんとエネルギーバリアを纏い、移動速度を更に三倍に跳ね上げる鐵浮屠であったが、そのバリアが蜚廉の不可侵領域によって歪む音、駆動が「斥殻紐」によって引っかかる様さえも、蜚廉には全て筒抜けだ。
幾度も回り込む、そのたびに鐵浮屠の反応が遅れるのがはっきりと理解できた。
そして、蜚廉が微に入り細を穿ち調整しながら窺ってきた「機」は、遂に訪れる。
(そ こ だ)
全ての加速を解放し。バリアも装甲も断ち割る殻駆の一撃を叩き込む。飛行も突撃もさせない。逃がさず、止め、沈めるだけの動きだけに集中する。
(小回りの利かぬ相手ほど、追い詰めれば脆い――!!)
その蜚廉の一撃は、鐵浮屠を穿ち貫き、下のアスファルトまでをも割り砕く。
――けれどそれでも「停止させる」には至らなかった。只飛来するだけの巨体であっても√ウォーゾーンの戦闘機械群、と言うべきか。
(もう一撃が必要か)
蜚廉は冷静にそう観察し、更に追撃の体勢へと移るのであった。
「エレクトリック・マーメイドは討伐されました」
|深雪《みゆき》・モルゲンシュテルン(明星、白く燃えて・h02863)は蔵前橋通りで鐵浮屠を待ち構えながら、戦況を今一度確認する。
「荒覇吐とジェヴォーダンに王手がかかった一方で、新たに三体の王権執行者が誕生しました」
幾ら自分達が簒奪者を倒したところで、新たな脅威はジェミニの審判で生まれ続けるのだろう。
「敵を「根絶」するという希望は今のところありませんが――」
「未来への希望」を欠落した電脳化義体サイボーグの少女は、それでもと鋼鉄の躯体の中で独りごちる。
「それは、今を生きる命を守らない理由にはなりません」
超高速で飛来する鋼鉄の戦闘機械群「鐵浮屠」を屠る為、深雪は決戦型|WZ《ウォーゾーン》「レギンレイヴ」で出撃する。
(相手は小回りが利かない敵。ならば死角からの肉薄が有効と判断しますが――それにはまず、あの速度に追いつかなければ意味がありません)
【|空中戦闘機動《エアー・コンバット・マニューバリング》】によって「レギンレイヴ」は深雪を乗せたまま鐵浮屠周辺に浮遊するインビジブルへと向けて高速飛翔し、速射力に優れたビームバルカン形態に切り替えた対WZマルチライフルでレーザービームを撃ち放つ。それは過たず脚部のエンジンノズルを撃ち抜き、鐵浮屠は体勢を大きく崩す。ガガガガ、と異音が響く。鐵浮屠を構成する鋼鉄の躯体が軋みを上げている。一時的に大きく減じた飛翔速度に肉薄し、深雪を載せたレギンレイヴは鐵浮屠へと取りつく。|異物《・・》が密着したことをセンサーで探知した鐵浮屠はエネルギーバリアを張り、無理矢理に飛翔速度を上げるが、既にレギンレイヴは鐵浮屠に密着している。そこから振り落とされるようなヘマはしない。
鐵浮屠から繰り出される運動エネルギーを溜めた動能重撃を空中での急制動で回避し、深雪はレギンレイヴの左腕部に搭載した【|対WZ用大鎖鋸《アンチウォーゾーンメガチェーンソー》<|滅竜《ノートゥング》>】を起動させる。
「チェーンソーユニット、安全装置解除。工作モードから戦闘モードに移行します」
鐵浮屠の装甲の隙間から捩じ込まれた鋸刃は、金切り声をあげながら鋼鉄を引き裂き、文字通りの|鉄屑《スクラップ》へと変えてゆく。
「……この世界の平和のために、消えてください……!!」
――深雪の叫びは、聞き届けられる。
鋼鉄の躯体は、バラバラに引きちぎられて地面へと転がり、電気系統がバチバチと音を立てながら小爆発を起こした。
鐵浮屠は、ここに沈んだ。
鐵浮屠による秋葉原の破壊は、ここに阻止された。
残骸はやがて秘密裏に回収され、解析されるだろう。
そこから持たされる箱の中身が、希望であることに違いはない。
さあ、抗え、EDENたちよ。
終戦の時は、もうあとわずかにまで迫っている。
