シナリオ

約束

#√ドラゴンファンタジー #√EDEN #√マスクド・ヒーロー #Anker抹殺計画

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 正午になると、彼女は決まって花畑に立つ。
 集落の外れ。緩やかな丘を越えた先に、その花畑は広がっていた。
 季節ごとに違う花が咲く場所だ。春には白と黄色が風に揺れ、夏には濃い青が陽を受け、秋には赤い花弁が夕暮れに燃える。

 花畑の古い木柵の傍らに、彼女は立っている。
 銀色の髪。硝子玉のような瞳。
 人間とよく似た姿をしているが近づけば分かる。呼吸の間隔があまりにも正確で、肌には金属の光沢感がある。
 名前は37号。
 集落の者たちは、彼女をミナと呼んでいた。
 ある者は親しげに。ある者は遠慮がちに。ある者は、彼女がまだここにいることを不思議がるように。
「ミナ、今日も待ってるのかい」
 通りがかった老婆が声をかける。
 37号は静かに振り向き、ほんの少しだけ微笑んだ。
「はい。博士は、帰ってくると言いましたから」
 その声は澄んでいた。
 責める響きも、疑う響きも、寂しい響きもない。
「待っていてくれと」
 彼女は、ただ言われたことを守っている。
 それが十年でも。
 二十年でも。
 ――百年であっても。

 風が吹く。
 花弁が舞い、彼女の肩に触れ、音もなく落ちる。
 37号はそれを拾い上げ、壊れ物のように掌に乗せた。
 花畑の向こうを見る。
 丘の道を。
 遠く、誰かが帰ってくるかもしれない、その道を。

 けれどこの日、その道の果てから近づいていたのは、彼女が待ち続けた博士ではなかった。
「『外星体同盟』からの命令を受領した」

 それは刃だ。
 星の彼方から差し向けられた。彼女を殺すための。



「Anker抹殺計画は知ってるな?」
 君たちを前にして、ジャン・ローデンバーグ(裸の王冠・h02072)は、いつになく硬い声でその言葉を口にした。
 普段なら、どこか楽しげに皮肉を混ぜる少年だ。危険な戦場に送り出すときでさえ、軽口ひとつをどこかに混ぜる。けれど今、彼の目は笑っていなかった。
 ジャンが見たのは、ひとつの暗殺計画。
「今回、奴が狙っているのは――37号。ミナと呼ばれているアンドロイドだ」

 彼女はある集落の端に住んでいる。
 小さな小屋でひとりきり。孤立しているわけではない。集落の者たちは彼女を知っている。
 彼女は水路の修理を手伝い、重い荷物を運び、壊れた玩具を直し、子どもたちに花の名前を教える。表情は少し乏しいが、頼まれれば断らない。祭りの準備にも手を貸す。彼女がそこにいることは、今では集落の風景の一部になっている。
「村を少し行ったところに綺麗な花畑があるんだ。37号は、毎日正午になるとその花畑に向かう」
 ジャンの声が少し低くなる。
「"博士"を待ってるんだと」
 彼女を発明した、ひとりの博士。

 必ず帰ってくる。
 あそこで待っていてくれ。

 そう言われたから。

「百年だ」
 短く告げられた数字。
 人間が約束を覚えていられるには、長すぎる時間。
 人間が誰かのもとへ帰るには、あまりにも遠い時間。
 その博士は、普通の人間だったという。
 ならば、おそらく。
 おそらく、もう。
 ジャンはそれ以上を言わなかった。
「37号に真実を伝えるかどうかは、おまえらに任せる」
 言葉は冷たく聞こえるほど率直だった。
 それは突き放しているのではない。彼にも、そこは決められないのだ。
 彼女の願いを守るのか。彼女の時間を前に進めるのか。
 どうすれば幸せなのかは分からない。どちらも正解で、どちらも間違いなのかもしれない。
「ただし、ひとつだけ確かなことがある。――彼女は命を狙われている。まずは助けてやってほしい」

 今回の舞台となる集落では、ちょうど花祭りが開かれるらしい。
 年に一度、僅かとはいえ訪れる作物の恵みに感謝する祭り。
 通りには色とりどりの布が張られ、家々の窓辺には花飾りが並べられる。
 屋台では花蜜を使った菓子が焼かれ、花びらを浮かべた飲み物が並ぶ。

 祭りの目玉のひとつに、『願い花の栞作り』があるという。
 好きな花を一輪選び、そこに願いや約束を込めて押し花にする、花のおまじないだ。
 特に希望がなければ栞に仕立ててもらえるが、髪飾りや小瓶、手紙に添える封飾など、望む形があれば相談もできるらしい。
 自分の誓いを込めて栞を作ってもいいし、二人の約束を込めて簪を作ったりしてもいいだろう。

 37号もその祭りを手伝っているという。
 飾りつけの支柱を立て、花籠を運び、壊れた屋台の車輪を直し、迷子の子どもを親のもとへ連れていく。
 正午が近づけば、彼女はきっといつもの花畑へ向かうだろう。
 ジャンはそこで、少しだけ息を吐いた。
「花祭り自体は、普通にいい祭りだ。甘いもんもあるし、歌もあるし、花細工なんかも売ってる。物事が起こる前に楽しんでくるのも悪くない」
 それは不謹慎な言葉ではなかった。
 花祭りは37号が守ってきた日常でもある。
 彼女が百年のあいだ見続けてきた景色。彼女が博士を待ちながら、それでも毎年手伝ってきた営み。
「今回の目的は単純だ」
 ジャンは言う。
「37号を守れ。サイコブレイドの作戦を潰せ。必要なら、その後のフォローも頼む」
 少しだけ沈黙が落ちる。
「……おまえらが、必要だと思うことをしてくれ」

 花は咲く。
 百年前と同じように。
 約束の日を知らないまま。

 正午になれば、彼女はまた花畑に立つだろう。
 博士が帰ってくると信じて。
 今日も、明日も。
 その次の日も。

 その時間を終わらせる権利が、誰にあるのかは分からない。

 ただひとつだけ確かなことがある。
 彼女の時間を、刃に断たせてはならない。

マスターより

ぺんぎん胡椒
6本目の依頼となります、ぺんぎん胡椒と申します。
今回は「Anker抹殺計画」から1シナリオをお届けいたします。

【introduction】
・1章(2章)はPOW/SPD/WIZの選択肢は気にせず、ご自由にお過ごし下さい。
・公序良俗に反する行為、未成年の飲酒喫煙等は描写しません。
・連携に関しては『2名様』迄の受付です。

第一章プレイングは6/9(火)朝から受付いたします。

【第一章】
花畑近くにある集落で行われている花祭りに参加しましょう。
メインは『願い花の栞作り』ですが、参加せず歌や踊りに興じても、カフェで休憩していただいても構いません。
37号との接触は任意です。イベント気分でお好きにお過ごしください。

【第二章】
花畑までの37号の護衛任務となります。
第一章で37号に話しかけていただいた方が予想より多かった場合はしっとりとした道中にしますが、
私がコミカルな気分にしたくなった場合は食用キノコ怪人シュルームくんが花畑に攻めてきます。
うおおおお花なんてお呼びじゃねえ!時代はキノコだぜ!!!と叫ぶケミカルなキノコをたくさん食べて花畑を守りましょう。本当に食べて大丈夫ですかこのキノコ。

【第三章】
サイコブレイドとの決戦になります。
特段37号を守るというプレイングを書かずとも、
貴方達が攻撃を仕掛ければサイコブレイドは先ずは貴方を排除しようと動くでしょう。
純粋な戦闘描写となる予定です。がんばります。

〈NPC 37号(ミナ)〉
女性型のサイボーグ。種族ジョブはナイチンゲールになります。
殆ど普通の女性と代わらない見た目ですが、関節や首元に金属の繋ぎ目があります。
希望者がいれば、シナリオ完結時にリプレイの最終行でキャラクター権利を譲渡します。
希望の方は第3章のプレイングの冒頭に🌷を入れて下さい。
37号以外に彼女に名前はありません。登録の際は自由にご設定ください。

ここまでご覧いただき、誠にありがとうございます。
皆様のご参加を心よりお待ちしております!
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第1章 日常 『花溢れる園』


POW 美しい花を愛でながら
SPD 漂う芳香に漂うように
WIZ 花びらの色に思いを寄せて
√ドラゴンファンタジー 普通5 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

 花祭りの朝は、集落中が淡い花の匂いに包まれている。
 屋台からは花蜜を練り込んだ焼き菓子の甘い香りが漂い、透明な飲み物には小さな花びらが浮かんでいた。楽師たちは古い祝い歌を奏で、広場では村人たちが今年の実りに感謝して、花籠を祭壇へ捧げている。
 決して大きな祭りではない。けれど、僅かな恵みを大切に分け合うこの集落らしい、素朴であたたかな祭りである。

 なかでも人々の目当ては、『願い花の栞作り』である。
 祭りの広場には、摘みたての花を並べた小さな工房が開かれている。白い花、青い花、赤い花、名も知らぬ野の花。参加者はその中から好きな花を一輪選び、願いや誓い、あるいは誰かとの約束を込めて、押し花にしてもらうのだという。
 完成した押し花は、特に希望がなければ栞に仕立てられる。旅の本に挟んでもいいし、大切な手帳にしまってもいい。
 もちろん、望む形があれば職人に相談することもできる。髪飾りや簪、小瓶に封じたお守り、手紙に添える封飾、贈り物に結ぶ飾り紐。

 恋人との約束を込めてもいい。
 友との誓いを形にしてもいい。
 まだ言葉にできない願いを、ただ一輪の花に託してもいい。

 花を選ぶ理由は、色でも、香りでも、花言葉でも、直感でも構わない。
 ――大切なのは、その花に何を込めるかだ。
 花祭りの朝は、集落中が淡い花の匂いに包まれている。
 屋台からは花蜜を練り込んだ焼き菓子の甘い香りが漂い、透明な飲み物には小さな花びらが浮かんでいた。楽師たちは古い祝い歌を奏で、広場では村人たちが今年の実りに感謝して、花籠を祭壇へ捧げている。
 決して大きな祭りではない。けれど、僅かな恵みを大切に分け合うこの集落らしい、素朴であたたかな祭りである。

 なかでも人々の目当ては、『願い花の栞作り』である。
 祭りの広場には、摘みたての花を並べた小さな工房が開かれている。白い花、青い花、赤い花、名も知らぬ野の花。参加者はその中から好きな花を一輪選び、願いや誓い、あるいは誰かとの約束を込めて、押し花にしてもらうのだという。
 完成した押し花は、特に希望がなければ栞に仕立てられる。旅の本に挟んでもいいし、大切な手帳にしまってもいい。
 もちろん、望む形があれば職人に相談することもできる。髪飾りや簪、小瓶に封じたお守り、手紙に添える封飾、贈り物に結ぶ飾り紐。

 恋人との約束を込めてもいい。
 友との誓いを形にしてもいい。
 まだ言葉にできない願いを、ただ一輪の花に託してもいい。

 花を選ぶ理由は、色でも、香りでも、花言葉でも、直感でも構わない。
 ――大切なのは、その花に何を込めるかだ。
鸞奇・檸檬
【酸性雨】

栞作りも花祭りも興味ありませーん…もっと若くてきゃぴきゃぴな子誘っていきなさいな…

引きずられて連れてこられた…嘘だろ…ヒョロがりとはいえ男の身体だぞ…?
……ちょっとショック

ったく…花祭りねぇ…
願い花の栞作りィ?
…はぁ…俺、願いとか叶うと思ってないし…

…100年ねぇ…19の青二才には途方もない年数ですわ…
それでも、信じて100年…待ってたんだなァ…

|絋那部さん《Anker》、帰ってこねぇかな…別に、あのアンドロイドに共感したとかそういうのじゃねぇけど…

絋那部さんの目みたいに赤い花…まぁ、思い出作りに作っておこうかな
…早く帰ってきてください

あ?うるさいうるさい!作ってない!作ってない!
架間・透空
【酸性雨】

鸞奇さん!『願い花の栞作り』なんてものがあるみたいですし、
親睦を深めるついでに、一緒に花祭りに行きましょうよ!

やや強引に鸞奇さんを連れ出しつつ、
ルンルン気分で押し花作りを進めて行きます

37号さん、あれだけの永い刻を待ってたんですね
でも、大切な人と交わした『約束』だったら
信じていたいですよね……たとえその人がどうなっていたとしても

37号さんの約束に想いを馳せながら……
白い木春菊に、幼馴染への感謝を籠める
|Anker《晃星》……いつも支えてくれてありがと

鸞奇さんは一体どんな押し花を作ったんでしょう……
ねぇねぇ鸞奇さ~ん!どんな感じのができましたか~!!!!!(わいわいがやがや

「鸞奇さん!」
 名前を呼ばれた瞬間、鸞奇・檸檬(誰も救えない医者・h03905)は嫌な予感しかしなかった。こういう声色をしている奴は、大抵こちらの都合を聞く前に話を進める。しかも目の前の架間・透空(天駆翔姫・h07138)は、たいへん良い笑顔をしていた。眩しい。朝日か。網膜にやさしくない。
「『願い花の栞作り』なんてものがあるみたいですよ! 親睦を深めるついでに、一緒に花祭りに行きましょう!」
「栞作りも花祭りも興味ありませーん……もっと若くてきゃぴきゃぴな子誘っていきなさいな……」
 檸檬は肩を落とした。だらしなく羽織った上着の袖が、手の甲を半分隠している。
 彼は一歩下がった。
 透空は一歩詰めた。
 彼はさらに一歩下がった。
 透空はにこにこしたまま、彼の袖を掴んだ。
「行きましょう!」
「待て待て待て。俺、ヒョロがりとはいえ男の身体だぞ……? 連れて行けると思ってる?」
「はい!」
「即答かよ」



 数分後、檸檬は花祭りの通りにいた。
「嘘だろ……」
 引きずられて連れてこられた。
 比喩ではない。わりと本当に引きずられた。
 途中で三回ほど「人権」と呟いたが、花冠をかぶった子どもに「お兄ちゃんもお祭り?」と無邪気に聞かれたので、それ以上抵抗する元気をなくした。
「……ちょっとショック」
「何がです?」
「俺の身体能力への信頼がまたひとつ死んだ」
 花祭りの集落は、思ったよりずっと賑やかだった。
 通りには色とりどりの布が張られ、窓辺には花飾りが揺れている。楽師たちの笛がぴいひゃら鳴り、子どもたちは花冠を落としては拾い、拾ってはまた落としていた。
「……花祭りねぇ……」
 檸檬はぼやいたが、手元にはいつの間にか花蜜菓子がひとつ増えている。
 透空が買ったものを、当然のように半分押しつけてきたのだ。
「これ、美味しいですよ!」
「……まあ、匂いは悪くないけど」
「それ、気に入ってる時の言い方ですよね?」
「違いますけど?」
「ふふーん」
「なんだその勝ち誇った顔」

 透空はルンルン気分で広場へ向かった。
 そこには『願い花の栞作り』の小さな工房が開かれている。机の上には色とりどりの花が並び、白い布の上で、まるで自分が選ばれるのを待っているみたいだった。
 赤い花。白い花。青い花。名前の分からない小さな野の花。花の傍には、栞用の紙、透明な小瓶、簪の軸、封飾に使う小さな台紙などが置かれている。
「好きな花を一輪選んで、願いや約束を込めるんですって」
「……俺、願いとか叶うと思ってないし……」
「叶うかどうかだけが願いじゃないと思いますよ」
 透空はそう言って、花を覗き込んだ。
「37号さん、あれだけの永い刻を待ってたんですね」
 檸檬は返事をしない。
「でも、大切な人と交わした『約束』だったら、信じていたいですよね……たとえその人がどうなっていたとしても」
 檸檬は花の列を見下ろした。
 100年。
 十九の青二才には途方もない年数だった。自分の生きてきた時間の五倍以上。想像しようとしても、途中で頭の中が白くなる。
 それでも彼女は待っていたのだ。
 壊れずに。
 諦めきれずに。
 あるいは、諦めるという選択肢すら誰にも教えられないまま。
「それでも、信じて100年……待ってたんだなァ……」
 檸檬の声は、花の匂いに紛れるくらい小さかった。

 透空は白い木春菊を手に取った。
 素朴で、明るくて、でもどこか凛としている花。
「私はこれにします」
「へえ。白いやつ」
「はい。幼馴染への感謝を込めようと思って」
 透空は花を両手で包むように持った。銀の瞳が、少しやわらかく細められる。
「晃星……いつも支えてくれてありがと」
 声に出すと照れたのか、透空は少しだけ頬を赤くした。それから、誤魔化すように工房の職人へ駆け寄っていく。
 檸檬はその後ろ姿を見て、ふと息を吐いた。
「……感謝、ねぇ」
 彼にも、思い浮かぶ相手がいないわけではない。
 帰ってきてほしい人がいる。
 会いたい人がいる。
 それを口に出すのは、なんだか負けたみたいで癪だった。
 花に願いを込めるなんて、あまりにも健全で、明るくて、まっとうで、自分には似合わない。
 そう思った。
 思ったのに。

 彼の指は、赤い花の前で止まっていた。

 絋那部さんの目みたいな色だ、と思った。
 思ってしまった。
「……別に、あのアンドロイドに共感したとかそういうのじゃねぇけど……」
 誰に言い訳するでもなく呟いて、檸檬はその花を一輪取った。
「絋那部さん、帰ってこねぇかな……」
 言った直後、彼は周囲を見回した。
 誰も聞いていない。
 よかった。
 いや、聞かれて困るようなことは言っていない。困るようなことは言っていないが、人間とはそういう面倒な生き物である。
 工房の職人が「栞にしますか?」と尋ねてくる。
「まあ、思い出作りに。栞で」
 職人はにこりともせず、茶化しもせず、ただ頷いた。
 花は丁寧に紙に挟まれ、薄く伸ばされ、願いごと形を変えていく。赤い花弁は、潰れるのではなく、思いごと丁寧に保存されていくようだ。

「鸞奇さーん!」
 嫌な予感その二。
 檸檬は肩を跳ねさせた。
「どんな感じのができましたか~~!!!」
「声がデカい」
 透空が白い木春菊の栞を両手に持って駆けてくる。完成したばかりの栞には、白い花がきれいに収まり、細いリボンが結ばれていた。
 彼女はそれを宝物みたいに胸の前で掲げている。
「見てください、かわいくないですか?」
「はいはい。かわいいかわいい」
「心がこもってない!」
「こもってるこもってる」
「二回言うと雑に聞こえます!」
 透空はぷくりと頬を膨らませたが、すぐに檸檬の手元へ視線を落とした。
 彼は反射的に栞を背中へ隠す。
「……鸞奇さん?」
「何」
「作ったんですね?」
「作ってない」
「今、背中に隠しましたよね?」
「隠してない」
「赤い花でした!」
「違う」
「じゃあ見せてください」
「嫌です」
「やっぱり赤い花なんですね!」
「あ? うるさいうるさい! 作ってない! 作ってない!」
 その必死さがもう答えだった。
 透空はぱっと表情を明るくする。からかうというより、嬉しくてたまらない顔だった。
「鸞奇さんも、ちゃんと願いを込めたんですね」
「だから違うって言ってんだろ……ただの思い出作りだよ」
「はい。思い出作りですね」
「その優しい目をやめろ」
「ふふ。やめません」
 願いなんて叶うと思っていない。
 約束なんて、いつか破れるものかもしれない。
 それでも花を一輪選ぶくらいなら。
 誰にも見せない栞を一枚、懐にしまうくらいなら。
「……早く帰ってきてください、か」
 小さく呟いた檸檬の声は、今度こそ誰にも聞こえなかった。
 聞こえなかった、はずだった。
「何か言いました?」
「何も」
「本当に?」
「本当。ほら、行くぞ。37号さん探すんだろ」
「あっ、待ってくださいよ鸞奇さん!」
 透空が慌てて後を追う。
 檸檬は振り返らない。振り返らないまま、少しだけ歩調を緩めた。

 百年の約束が、刃に断たれる前に。
 そして、まだ帰ってきてほしい誰かのために。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

コルヴス・ペネグリーヌ
航空戦力には散々煮え湯を飲まされた。
だが、約束。約束か……。
感情によるものか。あるいはただの|命令《プログラム》か。
定かでないが、その律儀さは好ましい。

今はオフ。祭を楽しもう。
コーヒー片手に散策すれば、『願い花の栞作り』に挑戦する羽目に。
食える草なら知っているが花の名前も花言葉も知らない。
適当な野草で良い気もするが、どうせなら、と37号に話しかける。
「すまない。君が選んでくれないか?」
37号に感謝を述べた後、栞の花の名前と選んだ理由を聞く。
これもある意味情報集だ。
選んだ花から彼女の想いの一端を推察できるかもしれない。

仲間に迷惑をかける行為は「非効率的だから」しない。
【アレンジ、連携歓迎】

 航空戦力には散々煮え湯を飲まされてきた。
 空から来る敵は厄介だ。遮蔽物の意味を半分奪い、射線を増やしてくる。
 コルヴス・ペネグリーヌ(放蕩鴉・h09224)は過去の戦場を思い返しながら、花びらの浮かぶ飲み物ではなく、苦いコーヒーを片手に祭りの通りを歩いていた。

 今日の空は平和だった。
 頭上を渡るのは敵影ではなく、色とりどりの布飾り。飛んでくるのは弾丸ではなく、風にさらわれた花びらばかり。
「……オフだな」
 自分に言い聞かせるように呟く。
 仕事ではない。今回は任務のついでに祭りを楽しむ時間くらいはある。そう判断した。

 それに、37号の件は少し気になっていた。
 約束。――約束か。
 百年、待ち続けるアンドロイド。
 それが感情によるものなのか、あるいはただの命令プログラムなのかは定かでない。
 だが、コルヴスは契約を重んじる者だ。一度交わしたものを守ろうとする律儀さは、嫌いではない。むしろ、好ましい。

 たとえそれが、古い命令から始まったものだとしても。



 通りを歩いていると、広場の一角で人だかりを見つけた。
 白い布をかけた机の上に、色とりどりの花が並んでいる。
 『願い花の栞作り』。
 コルヴスはつい足を止めた。
「……なぜ俺が」

 祭りの空気とは恐ろしい。気を抜くと、合理性のない体験コーナーに参加している。
 順番が来ると、工房の者がにこやかに花を選ぶよう促した。
 コルヴスは机の上の花を見下ろす。
 名札はあるが、覚えがない。
「食える草なら少しは分かるんだがな」
 花の名前も、花言葉も知らない。
 適当な野草でいい気もした。願いを込めるなら、丈夫で、どこにでも生えるものが一番実用的ではないか。
 しかし、どうせ作るなら情報価値を得たい。

 コルヴスは、工房を手伝っていた銀灰の髪の少女へ目を向けた。
 37号。彼女は客の選んだ花を正確な手つきで並べ、押し花用の紙へ挟んでいる。
「すまない」
 コルヴスが声をかけると、37号はゆっくりと顔を上げた。
「何かお困りですか」
「花を選んでくれないか?」
「私が、ですか?」
「ああ。花の知識がない。選択基準を持つ者に任せる方が合理的だ」
「選択基準」
「それに」
 コルヴスは少しだけ間を置いた。
「君が何を選ぶかにも、意味があるだろう」
 37号は数秒沈黙した。
 処理しているのか、考えているのか。どちらにせよ、彼女は花々を見下ろし、やがて一輪を示した。
「この花を推奨します」
 それは、薄い青紫の小さな花だった。
「名は?」
「勿忘草です」
「ワスレナグサ」
「はい。記憶、誠実、私を忘れないで、などの意味を持つとされています」
 コルヴスはその花を見た。
 私を忘れないで。
 記憶。誠実。
 なるほど。
 百年待つ者が選ぶには、あまりにも分かりやすい。
 あるいは、分かりやすすぎるほどに。
「選んだ理由は?」
「あなたは当機――37号について何か思考しているように見えました」
「顔に出ていたか」
「いいえ。しかし視線が複数回、私と花畑の方向へ向きました」
 37号は淡々と答えた。
「よく見ている」
 コルヴスは少しだけ口元を動かした。笑った、というほどではない。
「ではこれにしよう」
 37号は勿忘草を受け取り、丁寧に紙の上へ置いた。
 彼女は花を雑に扱わない。
 約束にまつわる花を選び、理由を言語化できる。
 それだけのことでも、コルヴスにとっては判断材料になる。

 栞はほどなく完成した。
 透明な薄膜の中で、勿忘草は青紫の色を保っていた。戦場で使う装備に比べれば、あまりに軽く、あまりに脆い。
「37号」
「はい」
「君の律儀さは好ましい」
 37号が瞬きをする。
「評価として受領してよろしいですか」
「そうだな。評価だ」
 コルヴスは淡々と言う。コーヒーを飲み干し、空になったカップを手の中で軽く揺らした。
「ありがとうございます」
 オフの祭りで栞を作ることになるとは思わなかった。
 だが、得た情報は少なくない。

 37号は、約束を理解している。
 記憶を重んじている。
 そして、選ぶ花に自分の在り方を少しだけ滲ませる。
「十分だな」
 給料分以上の感傷を抱くつもりはない。
 それでも、勿忘草の栞を雑に扱わない程度には、今日の祭りを悪くないと思った。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

緇・カナト
【黎明】
また逢いに行くから、
百年待っていて下さいって話があるんだよな
…夢の話だよ。
まずは現実の花祭りを楽しませて貰おうか
彼女が百年のあいだを過ごして
守ってきた日常の風景だろうから

小さな花びらが浮かんだ飲み物を手に
花蜜を練り込んだ焼き菓子屋台を
端から覗いていっては食べ歩いて
流石は花にちなんだ祭だなぁ
トールが気になるようなら
栞作りを見学しても良いけれど

野に咲く花に想い託すつもりはナイなぁ
花は其処にあるから咲いている
…再会を望む者同士、
叶った方が良いに決まっているけれど
お前は百年待つ側でも、経つ側でも
雷鳴が轟いて分かりやすそうだよな
トゥルエノ・トニトルス
【黎明】
サイボーグの少女というと、時間の感覚は
精霊などに近いのかもしれないなぁ
待っていて欲しい約束は大事だろうが
全てが叶うとは限らないだろうし
…なんだ、夢の話なのか?
話のオチも気になるが先ずは
花祭りを味わうとしようではないか…!

此方も花びら浮かんだ飲み物を手に
相変わらず主の食べっぷりを眺めておこうか
一等オススメの焼き菓子があれば
わたしに分けてくれても良いぞ!
…む。押し花に栞作り体験も出来るのだな

わたしも、花は季節を移ろい
其処に咲いているのを眺める派かなぁ
百年くらいを待つのは苦ではないが…
再会時の約束事でも決めておけば良いのでは?
主は夜にも目立つような珍しい青紫の花でも
咲かせておいてくれ給えよ

「サイボーグの少女というと、時間の感覚は精霊などに近いのかもしれないなぁ。待っていて欲しい約束は大事だろうが、全てが叶うとは限らないだろうし……」
 トゥルエノ・トニトルス(coup de foudre・h06535)は、黒い髪を揺らして首を傾げた。
「エデンには、また逢いに行くから、百年待っていて下さいって話があるんだよな」
 緇・カナト(hellhound・h02325)はそれに対し、花びらの浮かんだ飲み物を片手に、ぽつりとそんなことを言う。
 甘い香りのする薄桃色の水面で小さな花びらがくるりと回った。
 隣を歩いていたトールはちらりとカナトを見上げる。
「……ま、夢の話だけど」
「なんだ、夢の話なのか?」
「そう」
 カナトは笑った。
「むー。その話のオチも気になるが、先ずは花祭りを味わうとしようではないか!」
「そうだね。まずは現実の花祭りを楽しませて貰おうか」
 祭りの通りには色とりどりの布が張られ、家々の窓辺には花飾りが揺れ、屋台からは花蜜を練り込んだ焼き菓子の匂いが漂ってくる。
 陽の光は明るく、風はどこか涼しい。花広場の隅では老婆たちが笑いながら花を編んでいた。
 それらを見回して、カナトは少しだけ目を細める。
「これも、彼女が百年のあいだを過ごして、守ってきた日常の風景なんだろうね」
 しみじみと呟いて――足を素早く焼き菓子の屋台へ向ける。
「おじさん、それ端からひとつずつ貰えるかい?」
「端から!?」
 屋台の店主が目を丸くする。
 カナトはにこやかに頷いた。冗談ではない顔だった。
 しみじみした空気は三歩で終わりである。
「うん。端から」
「主、相変わらずの食べっぷりだな」
「食べ放題じゃないのが惜しいね」
「祭りの屋台に食べ放題を求めるでない」
 トールは呆れたように言いながらも、自分の手にはしっかり花びら入りの飲み物を持っていた。青い瞳を細め、カナトが次々と菓子を受け取っていく様子を眺めている。
 一つ目は、花蜜を塗って焼いた薄い焼き菓子。
 二つ目は、花の砂糖漬けを乗せたタルト。
 三つ目は、香草と花粉を混ぜた丸い揚げ菓子。
 四つ目を受け取ったあたりで、店主が「兄ちゃん、胃袋どこにあるんだい」と真顔で尋ねた。
「ここだよ」
 カナトは自分の腹を軽く叩く。
「まだ空いてる」
 トールはくすりと笑った。
「一等オススメの焼き菓子があれば、わたしに分けてくれても良いぞ!」
「これなんか美味いよ」
 カナトは迷いなく、齧りかけではない菓子をひとつ差し出した。
 トールは満足そうに受け取り、ひと口かじる。
「む。花の香りがする」
「流石は花にちなんだ祭だなぁ」
「悪くない」
「もう一個いる?」
「いる」
 返事は素早い。
 カナトは笑って、追加で同じ菓子を買った。ついでに自分用も三つ買った。
 店主はもう何も言わなかった。ただ、職人の顔で袋にお菓子を詰めた。

 そうして二人は、屋台を端から覗いていった。
 花蜜の焼き菓子。花びらを散らした団子。香りのよい茶。小さな花を閉じ込めた飴。見た目は可憐だが、誰でも食べられるようにだろうか、量は控えめだった。カナトにとっては、どれも一口で消えてしまう儚い存在に近い。
「主、今の飴は味わったのか?」
「味わったよ」
「ああいうのは舐めて楽しむものではないのか」
「楽しんだよ」



 そんなやり取りをしながら広場へ出ると、人だかりの向こうに小さな工房が見えた。
 白い布をかけた机の上に、いくつもの花が並んでいる。押し花にして、願いや約束を込めた栞を作るのだという。
「……ふむ。押し花に栞作り体験も出来るのだな」
 トールが少し興味を示す。
 カナトは足を止めた。
「気になるようなら、見学しても良いけれど」
「気になる、というほどではない。ただ、ヒトは花にも願いを込めるのだなと思ってな」
 トールは並べられた花々を眺めた。
 赤。白。黄。淡い紫。名もない野の花もある。どれも小さく、柔らかく、触れればすぐに傷んでしまいそうだ。
「オレは、野に咲く花に想い託すつもりはナイなぁ」
 カナトの声は、否定というより観察に近かった。
「花は其処にあるから咲いている」
 願いを込められるためではなく。
 誰かの約束の証になるためでもなく。
 ただ、そこに季節が来て、光が差して、水を吸ったから咲いている。
「わたしも、花は季節を移ろい、其処に咲いているのを眺める派かなぁ」
 トールも頷いた。
 しかし、小さな青紫の花の前でふと、足を止める。
「百年くらいを待つのは苦ではないが……あ、再会時の約束事でも決めておけば良いのでは?」
「約束事?」
「そうだ。例えば、帰ってきた時には雷を三度鳴らす、とか」
「お前は百年待つ側でも、経つ側でも、雷鳴が轟いて分かりやすそうだよな」
 カナトが言うと、トールはなぜか得意げに胸を張った。
「当然だ。雷霆たる我が帰還を告げるなら、空の端まで響かせてやろう」
「うん、近所迷惑そう」
「む」
「でも、見つけやすくていい」
 トールは一瞬だけむっとした顔をしたが、すぐに機嫌を直した。
「ならば主は、夜にも目立つような珍しい青紫の花でも咲かせておいてくれ給えよ」
「オレが?」
「そうだ。月の下でも見えるものが良い」
「難しい注文をするねぇ」
「主なら出来るだろう」
 カナトは笑った。
 けれど、少しだけ考える。
 夜にも目立つ青紫の花。月明かりに輪郭を浮かべ、雷が鳴れば一瞬だけ光って、暗闇の中でも見失わない花。
 そんなものがあれば、確かに再会の目印にはよさそうだった。

「再会を望む者同士、叶った方が良いに決まっているけれど」
 カナトの視線は、工房の向こうへ向いた。
 花籠を抱えた銀灰の少女が、屋台の支柱を直している。37号だ。
 胸元には古びたペンダント。髪には一輪の花。
 百年待っているという少女は、今日も祭りの一部として、ごく自然にそこにいた。
「百年待つ側も、百年経つ側も、どちらも大変だね」
「うむ」
 トールは花びら入りの飲み物を揺らした。
 水面の花びらが、雷雲のない空を映して揺れる。
「だが、待つと決めたものにとって、百年は案外ただの百年かもしれぬ」
 カナトはまた菓子をひとつ口に放り込んだ。
 トールがその手元をじっと見る。
「主」
「いる?」
「いる」
 分け与えられた焼き菓子を、トールは大事そうに受け取った。

 押し花工房では、誰かが白い花に願いを込めていた。別の誰かは赤い花を選び、また別の誰かは小瓶に青い花を封じてもらっている。
 願いを込める者。
 込めない者。
 ただ花を眺める者。
 どれも、この祭りの景色だった。
「では行くか」
「作らなくていいの?」
「ああ、作らぬ。花は咲いているところを見るのが良い」
「気が合うね」
「うむ。では、その分もう一軒屋台を見に行こうではないか!」
 百年待つ少女のいる祭りで、黒妖犬と雷獣は、願いを花に託すことなく、花の中を歩いていく。
 甘い菓子を分け合って、花びらの浮かぶ飲み物を手にして。

 いつか再会する時の目印は、夜にも咲く青紫の花と、空を裂く雷鳴がいいだろう。
 そんな、少しだけ先の話をしながら。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

クラウス・イーザリー
ティア(h10223)と

ふたりで栞作りに参加する
(100年……)
手伝ってくれる37号を見て、途方もない時間に想いを馳せながらカスミソウに手を伸ばす
「……何か言った?」
ぼんやり考え事をしていたから、ティアの羨ましそうな呟きは聞き逃してしまう

ティアの提案には少し首を傾げて頷く
「秘めた想いみたいなのを書くのかな。わくわくするね」
何だかロマンチックだ
ティアはどんなことを書くんだろう
俺は……普段恥ずかしくて言えない好きな気持ちをたくさん書こうかな
帰ったらゆっくり考えよう
こういう些細な『約束』が未来に繋がっていくんだな、とふと思った

花には『俺の大切な人たちがみんな幸せになりますように』という願いを込めるよ
システィア・エレノイア
クラウス(h05015)と
アドリブ歓迎

一緒に願い花の栞作りに参加してみることに
手伝ってくれる37号さんへ頭を下げる
二人で約束を込めて作ることも出来るんだ
「……いいな」
ぽつりと呟き、薄桃色のスターチスを手に取る
「んーん、なぁんにも」

押し花は栞にせず、ラミネートしたり出来るのかな?
「ね、クラウス」と呼び掛けて
「押し花のままラミネート加工をしてもらって、帰ったら絶対に開けちゃいけない手紙に綴じて贈り合わない?」

何を書こうかな、書きたいことは沢山ある
最愛のきみが大好きな気持ちをいっぱい書くのもいいし
たった一言、想いを込めて書いてもいいな

花へ込めるのは、クラウスの願いが全部叶いますように

 広場には甘い匂いが満ちていた。
 花蜜を練り込んだ焼き菓子の香り。窓辺に飾られた花束の青い匂い。子どもたちが走り抜けるたびに揺れる花冠と、色布の影。
 どこもかしこもやわらかな色で満ちていて、クラウス・イーザリー(太陽を想う月・h05015)は、少し眩しそうに目を細めた。
「綺麗だね」
 何気なく零した言葉に、隣のシスティア・エレノイア(幻月・h10223)が小さく頷く。
 灰色の髪が風に揺れた。彼の耳もまた、花祭りの賑わいを拾うようにぴくりと動く。

 ふたりで向かったのは、祭りの目玉だという『願い花の栞作り』の工房だった。
 丁度、工房で37号が手伝っているところだ。
 彼女は客から受け取った花を折れないようにそっと置き、道具の位置を正確に揃えている。
「――お越しいただきありがとうございます。本日は、願い花の加工体験をご利用ですか」
 37号にそう尋ねられ、システィアは自然と頭を下げた。
「ああ。よろしく、37号さん」
「はい。よろしくお願いします」
 37号は少しだけ遅れて頷き、机の上の花々を示した。
「お好きな花を一輪お選びください。願い、誓い、約束などを込めて押し花にします。特に指定がなければ栞に仕立てますが、他の加工も可能です」
「へえ、二人で約束を込めて作ることも出来るんだ」
 システィアがぽつりと呟く。
 その声は、ごく小さかった。
「……いいな」
 クラウスはちょうど花を眺めていて、呟きは中空に消えた。
 彼の視線の先には、小さなカスミソウがあった。細い茎に、小さな花が星のように散っている。
 百年。
 その数字が、胸の中で静かに転がっている。
 百年、待つ。
 百年、同じ場所へ向かう。
 百年、帰らない人を信じる。
「……何か言った?」
 クラウスが顔を上げると、システィアは薄桃色のスターチスを手に取っていた。
 ふわりとした花の房が、彼の指先に似合っている。
「んーん、なぁんにも」
 システィアは何でもないように笑った。
 けれどその笑みは少しだけ、隠しごとをする子どものようで。クラウスは首を傾げたが深く追及はしなかった。代わりに、改めてカスミソウへ手を伸ばす。
「俺はこれにしようかな」
「カスミソウ?」
「うん。可愛いなって思って」
 いくつもの小さな白が集まって、ひとつの花束みたいに見える。
 誰かひとりだけではなく、大切な人たちを思い浮かべるには、ちょうどいい気がした。
「クラウスらしいね」
「そうかな」
「うん。すごく」

「承知しました。込める願いや約束があれば、心の中でお決めください」
 37号はカスミソウを受け取る。
 小さな花々を眺め、ほんのわずかに目を細めた。
「口に出す必要はありません。花に託すものは、本人が保持していれば成立します」
「そっか」
 クラウスは少し安心したように笑った。
「じゃあ、秘密にしておく」
 システィアが、ちらりとクラウスを見た。
「秘密?」
「うん。花に込める願いは、口に出さないでおくよ」
「……そっか」
 システィアは薄桃色のスターチスを、そっと胸の前に持ち上げる。
 花はやわらかな色をしていた。
 スターチスは、乾いても色褪せにくい花だと聞いたことがある。
 残り続ける想いを込めるには、きっと似合っている。なんとなく、そう思って。
「じゃあ、俺も秘密にする」
「お互い秘密だね」
「うん」
 たったそれだけの会話なのに、ふたりの間に小さな約束が生まれた。
 誰にも聞こえないくらい静かで、けれど確かにそこにある約束。

 37号はふたりの花を並べて、丁寧に押し花の準備を進めていく。
 花弁を傷つけないように紙へ挟み、余分な水分を取るために布を重ねる。
「あの、37号さん」
 システィアが少し身を乗り出す。
「はい」
「それ、押し花は栞にせず、ラミネートしたり出来るのかな?」
「可能です。薄い保護膜で封入し、花の形を保持します」
「それなら――」
 システィアは隣を見た。
「ね、クラウス」
「うん?」
「押し花のままラミネート加工をしてもらって、帰ったら、絶対に開けちゃいけない手紙に綴じて贈り合わない?」
 クラウスは少し首を傾げた。
 絶対に開けちゃいけない手紙。
 それは不思議な響きだった。手紙なのに読まない。贈るのに、開けない。
「……じゃあ、花に込める願いも、その中に書こうかな」
「うん。お互い、口では言わないで」
 システィアは少し照れたように目を逸らす。
「秘めた想いみたいなのを書くんだね」
 システィアを見るクラウスの青い瞳が、ふわりと明るくなって。
「わくわくするね。何だかロマンチックだ」
「でしょ?」

 クラウスは手元のカスミソウを見つめる。
 何を書こう。
 花に込めた願いを、そのまま書こうか。
 普段は恥ずかしくて言えない好きな気持ちも、たくさん書こうか。
 いつもありがとう。そばにいてくれて嬉しい。君が笑っていると、俺も前を向ける。
 ――そんな言葉を、開けられない手紙の中へ詰める。

「ティアは、どんなことを書くんだろう」
「秘密。絶対に開けちゃいけない手紙だから」
 ふたりは顔を見合わせて笑った。
 37号は少しだけ不思議そうに瞬きをする。
「開封を禁じる手紙を作成するのですか」
「うん。開けないことも約束なんだ」
 クラウスが説明すると、37号は数秒考え込んだ。
「内容の伝達を目的としない手紙」
「そうなるのかな」
「しかし、想いを記録する目的は達成される」
「うん。たぶん」
「理解しました。約束を保存する容器、ですね」
 クラウスは思わず37号を見た。
 約束を保存する容器。
 たしかに、そうかもしれない。
「……うん。そうだね」
 システィアも、薄桃色のスターチスを見つめていた。
 書きたいことはたくさんある。
 最愛のきみが大好きな気持ちをいっぱい書くのもいい。たった一言、想いを込めて書くのもいい。
 でも、今は言わない。
「帰ったら、ゆっくり考えよう」
 クラウスが言うと、システィアは頷いた。
「うん。急がなくていい」
 大それた誓いではない。戦いの勝敗を左右するようなものでもない。
 帰ったら手紙を書く。
 それを開けずに贈り合う。
 花に込めた願いは、口に出さず、その中へしまっておく。
 たったそれだけの、些細な約束。

 37号がラミネートされた押し花をそっと差し出す。
 白いカスミソウと、薄桃色のスターチス。
 ふたつの花は、透明な膜の中で静かに息をしているようだった。

 クラウスは押し花を胸元に寄せた。
 システィアもまた、自分の花を大切に持つ。
 いつか開けない手紙を書く。
 開けないまま、贈り合う。
 そこに閉じ込める願いは、きっと読まれなくても伝わる。

 そんな気がした。

「帰ったら、便箋を選ばないとね」
「うん。綺麗なのがいいな」
 花祭りの光の中で、ふたりは小さな未来をひとつ持ち帰る。
 それは希望というには、あまりにささやかかもしれない。
 けれどクラウスの掌には確かにあって、システィアの隣で、折れないように大事に抱えて歩くには十分だった。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

茶治・レモン
あっ君/h00070

花祭りですって
なるほど、だから良い匂いがするんですね!
折角ですから、焼き菓子など食べに…
も、もう食べてる!?
ちなみにあっ君、僕の分は?
無いですよねー、知ってました!
良いですよ、自分で買いますから
あっ、お洒落な飲み物も買おう!

あっ君ほら、栞作りをやってますよ
ここまで来て、やらずに帰るわけないでしょ!
僕は…レモンマリーゴールドにします
誓う言葉は決まっています!
もっと強くなれますように、です
あっ君はどうです?
じゃあ、自分の無病息災でも願えばどうでしょう
あっ君が元気で長生きするなら、奥さんもきっと喜ばれますよ!
ほら、「旦那は留守で元気がいい」って言いますから

僕の話聞いてました!?
日宮・芥多
魔女代行くん/h00071

すみません、酒とかありますか?あるなら一杯買いたいです!
あと奥さんのお土産にお菓子も購入したいのですが、オススメとかあります?
これは美味そうですねぇ、俺が食べる分も追加で下さい!

あ、これは俺の分なので

へぇ、誓いや約束を込めて作る栞ですか
折角ですから作っていきますか?あるいは帰りますか?俺もうお土産を買ったので帰ってもいい気分なんですが
はいはい、じゃあ作りますか
花は…白百合で!俺の奥さんの花ですからね
ええと、誓いの内容…こういうの苦手なんですよねぇ
奥さん以外に誓えと言われても

まさか魔女代行くんが四字熟語を知っていたとは驚きです!
でもいいですね、それ
では俺は『商売繁盛』で

「花祭りですって。なるほど、だから良い匂いがするんですね!」
 どこもかしこもやわらかく賑やかで、白い髪と白い服の茶治・レモン(魔女代行・h00071)は檸檬色の瞳をきらきらさせた。
 花蜜を練り込んだ焼き菓子の甘い香り。花びらを浮かべた飲み物の涼しげな色。花冠をかぶった子どもたちの笑い声。
「折角ですから、焼き菓子など食べに……」
 言いかけたところで、横からさくり、と軽快な音がした。
「これ、美味しいですねぇ」
 日宮・芥多(塵芥に帰す・h00070)が、すでに焼き菓子を食べていた。
 片手には花蜜菓子、もう片手には土産用らしい紙包み。ついでに腕には別の袋も下がっている。
「も、もう食べてる!?」
「はい。店先でおすすめされたので」
 レモンは目を丸くしたまま、芥多の手元を見る。
「ちなみにあっ君、僕の分は?」
「これは俺の分なので」
「無いですよねー、知ってました!」
「お土産用ならありますよ」
「もう買ったんですか? お土産用」
「奥さん用のを!」
「そんな気はしました!」
 レモンはむうっと頬を膨らませたが、すぐ隣の屋台に目を奪われる。
 透明な杯に薄い花びらが浮かんでいる。淡い黄色と桃色の飲み物が陽に透けて、まるで宝石みたいだ。
「良いですよ、自分で買いますから! あっ、お洒落な飲み物も買おう!」
「切り替えが早くて助かりますねぇ」
 二人で屋台に並ぶと、店主が花蜜入りの飲み物と花形の焼き菓子を勧めてくれた。
 レモンは檸檬色の花びらが浮かぶ飲み物を選び、芥多は花蜜酒を眺めて少しだけ目を輝かせる。
「すみません、酒とかありますか? あるなら一杯買いたいです」
「昼間からですか?」
「祭りですからねぇ」
「便利な言葉ですね、祭り」
「あと奥さんのお土産にお菓子も購入したいのですが、オススメとかあります?」
「まだ買うんですか!?」
 店主がいくつか並べてくれると、芥多は実に真面目な顔で頷いた。
「これも美味そうですねぇ、俺が食べる分も追加で下さい!」
「今奥さんのお土産って」
「それはそれ、これはこれ」
「僕の分は」
「魔女代行くんはさっき自分で買うって」
「そういうところだけ聞き逃さない!」

 結局、レモンも自分の分をしっかり買った。
 花蜜菓子を一口かじると、ほろりと崩れて、甘い香りが口いっぱいに広がる。
「……おいしい」
「でしょう」
「あっ君が作ったみたいな顔しないでください」



 言い合いをしながら通りを進んでいくと、広場の一角に人だかりが見えた。
 白い布をかけた机の上に色とりどりの花が並んでいる。栞の台紙、透明な小瓶、髪飾りの金具、封飾用の小さな紙片。
 祭りの目玉、『願い花の栞作り』の工房だった。
「あっ君ほら、栞作りをやってますよ!」
「へぇ、誓いや約束を込めて作る栞ですか」
 芥多は紙袋を持ち直しながら、のんびりと看板を読む。
「折角ですから作っていきますか? あるいは帰りますか? 俺もうお土産を買ったので帰ってもいい気分なんですが」
「ここまで来て、やらずに帰るわけないでしょ!」
「やる気満々ですねぇ」
「お祭りの体験コーナーは、やるために存在しているんです!」
 工房では銀灰の髪の少女――37号が手伝いをしていた。彼女は客が選んだ花を、傷つけないように丁寧に受け取っている。
「本日は願い花の作成をご希望ですか」
「はい! よろしくお願いします!」
「お願いしますねぇ」
 37号はこくりと頷き、机の上の花々を示した。
「お好きな花を一輪お選びください。願い、誓い、約束などを込めて押し花にします。特に指定がなければ栞に仕立てます」
「一輪……一輪ですか」
 レモンは急に真剣になった。
 赤い花、青い花、白い花。どれもきれいで、どれも何かに使えそうだ。魔女の店で扱ったら売れるだろうか、などと代理店主らしい考えも一瞬よぎったが、今日は商売ではない。
「僕は……レモンマリーゴールドにします!」
 明るい黄色の花を選び、レモンは胸を張った。
「誓う言葉は決まっています!」
「おや、早いですね。何にするんです?」
「もっと強くなれますように、です」
 レモンは真っ直ぐ言った。
 戦線で両腕を失い、義手と魔力を得て、それでも前を向く、まっすぐな少年の願いだ。
「いいじゃないですか」
 芥多はにこにこしながら頷く。
「魔力ですか? 腕力ですか? 代行力ですか?」
「全部です!」
「欲張りですねぇ」
「必要ですから! 色々と大変なんです!」
 レモンは黄色い花をそっと37号へ渡す。
 37号はそれを受け取り、正確な手つきで紙の上へ置いた。
「レモンマリーゴールド。願意は、強化。成長」
 レモンは「はい!」と勢いよく返事をして、今度は芥多を見上げた。
「あっ君はどうです?」
「俺ですか」
 芥多は花々を眺め、迷うことなく白百合を手に取った。
「花は……白百合で。俺の奥さんの花ですからね」
「即決ですね」
「奥さんに関することは即決です」
「普段からその決断力を出してほしいです」
「出していますよ。奥さんに関する時に」
「条件が増えてないんですけど」
 白百合は凛としていた。
 花弁は清らかで、甘く静かな香りがする。芥多はそれを少しだけ大事そうに持った。
「誓いの内容は……こういうの苦手なんですよねぇ。奥さん以外に誓えと言われても」
 花を眺める芥多を見て、レモンは少し考えたあと、ぽんと手を打った。
「じゃあ、自分の無病息災でも願えばどうでしょう!」
「無病息災」
「あっ君が元気で長生きするなら、奥さんもきっと喜ばれますよ!」
「なるほど。回り回って奥さんのためですね」
「そうですそうです。ほら、『旦那は留守で元気がいい』って言いますから!」
 芥多が、にこにこのまま止まった。
 37号も、押し花用の紙を持ったまま、静かに止まった。
「……魔女代行くん」
「はい?」
「良く難しい言葉を知ってますね!」
「勉強しましたからね!」
 あ、訂正が面倒になった顔だ。
 自慢気なレモンを尻目に、芥多は白百合を37号へ差し出した。

「では俺は、商売繁盛で」
「僕の話聞いてました!?」
「はい! まさか魔女代行くんが四字熟語を知っていたとは驚きです!」
「じゃあ――」
「商売繁盛で!」
「今までの話はなんだったんですか!?」
 37号は白百合を紙に挟みながら、静かに呟いた。
「白百合。願意は、商売繁盛ですね」
「あっ君、ほんとにいいんですか!? 決まっちゃいますよ!?」
「いいんですよ、これぐらいで」

 作業台の上で、二輪の花が丁寧に押し花にされていく。
 レモンは自分の栞に黄色い紐が通されていくのをわくわくしながら見守った。
「わあ……!」
 出来上がった栞には黄色い花が透明な薄膜の下で綺麗に残っている。
 栞になったレモンマリーゴールドは、レモンの手の中で小さな太陽みたいに輝いていた。
「完成しました」
「ありがとうございます、37号さん!」
 続いて芥多の白百合の栞も渡される。
 薄紫の紐がついたそれは、落ち着いた色合いで、土産の包みと一緒に持つには少し勿体ないくらい綺麗だ。
「ありがとうございます。奥さんに見せたら褒めてもらえますかね」
「評価は受け取り手に依存します」
「現実的ですねぇ」
「きっと喜ばれますよ!」
 黄色い願い花と、白い願い花。
 願いは少しずつ違って。けれど、きっと一人で作るよりずっと賑やかな願いを覚えている。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

ココ・ロロ
【花夜】

くんくん…あまくていいにお~い!
たのしそなおうたもきこえて
わくわくしちゃうのです
おかしたべ…は、しおり!
えへへ、はい!あとでみてまわりましょーね

ココはたんぽぽ~
おねがいごとは…うーん
ちいさなしあわせ…
ふふふ、りおさんならきっとたくさんであえるのです
それならココは~…たのしいことにであえますよーに
わ、おしばなつくったことあるですか?
じゃあね、ココはじめてだからおしえてください
こーやって…むむ?あってますか?
…ふぅ、でーきた!
ふたつならべて~どっちもかわい!

…本?わぁあ~…とってもたのしそ!
もちろん、いっしょにさがしにいくのです!
ちいさな前足を伸ばし
そっと指を握って
おともだちとのやくそく!
降葩・璃緒
【花夜】

華やかな飾り付けや並ぶ屋台に視線はあちこち行ったり来たり
全部じっくり見て回りたいんだよ……!
は、あそこのお菓子美味しそうっ。栞を作ったら見に行ってみようよ!

誘惑を振り切って栞作りに挑戦!
花はスミレで、お願い事は……ココさんは決まってる?
よしっ。小さな幸せに出会えます様に
ありがとう、ココさんも笑顔が溢れる位出会えるんだよ!
ふふー、ボク押し花は自信があるんだ
そこはそのままギュッてしてあげれば大丈夫!
綺麗に出来たかもっ。わぁ、ココさんのも可愛い!

そうだ!今度この栞を使って読む本を一緒に探しに行かない?
お互いオススメの本を選ぶのっ
次のお出掛けの約束、どうかな?
やったぁ!指切りすればきっと叶うね

 花蜜を練り込んだ焼き菓子。花びらを浮かべた飲み物。色とりどりの布飾りに、窓辺で揺れる花飾り。
 その賑わいの中で、ココ・ロロ(よだまり・h09066)はちいさな鼻先を上げた。
「くんくん……あまくていいにお~い!」
 体は三十センチくらい。
 ぴょこんと跳ねるように歩く姿は、花祭りの飾りに紛れてしまいそうなくらい小さい。けれど青い瞳はきらきらしていて、わくわくと輝く瞳の光だけは誰よりも大きかった。
「たのしそなおうたもきこえて、わくわくしちゃうのです。おかしたべ……」
「は、あそこのお菓子美味しそうっ」
 隣の降葩・璃緒(花ひらり・h07233)も、同じ方向を見ていた。小柄な彼女は、華やかな飾りつけや並ぶ屋台に視線をあちこち行ったり来たりさせている。
「全部じっくり見て回りたいんだよ……!」
「おかしたべ……は、あれ! しおり!」
「えっ! しおり……!」
 璃緒が踏み出しかけた足をぴたりと止めた。
 視線の先には、広場の一角に開かれた小さな工房がある。
 白い布をかけた机の上に、色とりどりの花が一輪ずつ並べられていた。そばには栞の台紙や小瓶、髪飾りの金具も置かれている。
 願い花の栞作り。
 好きな花を一輪選び、願いや約束を込めて押し花にする、花祭りのおまじない。

 ココはぴょこんと向きを変えた。切り替えが早い。焼き菓子への未練は、尻尾の先にほんのちょっと残っているかもしれないが。
「お菓子も、栞を作ったら見に行ってみようよ!」
「えへへ、はい! あとでみてまわりましょーね」
 誘惑を振り切った二人は、並んで工房へ向かった。
 机の向こうでは、銀灰の髪の少女――37号が手伝いをしている。二人の姿を見ると、37号は静かに一つ礼をした。
「願い花の作成をご希望ですか」
「はいっ!」
「おねがいしますです!」
 二人の元気な返事に、37号は少しだけ瞬きをする。
「承知しました。お好きな花を一輪お選びください。願いや誓い、約束を込めて押し花にします」
「一輪……!」
 璃緒は机の上を覗き込んだ。
 スミレ、たんぽぽ、カスミソウ、白い小花、薄桃色の花。どれも小さな声で「こっちを見て」と囁いているようで、植物好きとしてはひとつに決めるのがなかなか難しい。
「ココさんは決まってる?」
「んん~、ココはたんぽぽ~」
 ココは迷いなく、黄色いたんぽぽを指した。
 ちいさな前足をぴんと伸ばして、ふわふわの花を見上げる。
「たんぽぽ、まあるくて、ぽかぽかしてるのです!」
「ココさんに似合うね!」
「ほんとですか?」
「ほんとだよ。おひさまみたいで、ほわほわしてて」
 ココは照れたように、くるりとその場で回った。
 危うく隣の花びらに突っ込みそうになり、璃緒がそっと手を添える。
「あぶないあぶない」
「えへへ、ありがとです」
 璃緒は、紫の小さな花を手に取った。
「それじゃあ……ボクはスミレにしようかな」
 控えめだけれど、深い色をしている花。
 森の影や、温室の隅でひっそり咲く花に似ていた。璃緒はそれを大事そうに持って、にこりと笑う。
「お願い事は……ココさんは決まってる?」
「おねがいごとは……うーん」
 ココはたんぽぽの前で、ちいさく唸った。
 願い事。
 大好きな家族のこと。森のこと。空のこと。お菓子のこと。魔法の勉強のこと。楽しいこと。
 たくさんありすぎて、ぽんぽん頭の中で跳ねてしまう。
「ちいさなしあわせ……」
「ちいさな?」
「はいです」
「いいね! 私もそうしようかなあ、小さな幸せに出会えます様に――って」
 ココはその言葉を、ころころ口の中で転がすように繰り返した。
 なんだか、たんぽぽの綿毛みたいな願いだ。遠くへ飛んでいって、どこかでぽんと咲きそうな感じがする。
「ふふふ、りおさんならきっとたくさんであえるのです」
「ありがとう。ココさんも笑顔が溢れる位出会えるんだよ!」
「それならココも~……たのしいことにであえますよーに」
 たんぽぽにそう願いを込めると、なんだか花が少しだけ明るくなった気がした。

 37号が丁寧に紙を広げる。
「ふふー、ボク押し花は自信があるんだ」
「わ、おしばなつくったことあるですか?」
 ココが璃緒を見上げると、璃緒はもう一度ふふーんと胸を張った。
「じゃあね、ココはじめてだからおしえてください」
「もちろん! えっとね、茎の向きと花の顔が大事なんだよ。こっちを少し整えて、そこはそのままギュッてしてあげれば大丈夫!」
「こーやって……むむ? あってますか?」
 ココは小さな前足で一生懸命たんぽぽを置こうとした。
 けれど体が小さいので、花の方がちょっと大きく見える。茎を持って、花を倒して、向きを直して、ついでに自分も前のめりになって――。
「ココさん、ココさん、花じゃなくてココさんが押し花になっちゃうよ!」
「はっ」
 璃緒が慌てて支えると、ココはぴょこんと起き上がった。
「ココはおしばなじゃないのです!」
 璃緒は笑いを堪えきれずに肩を震わせた。
 ココもつられて笑う。くすくす、ふふふ、笑い声が小さな工房に転がっていった。

 璃緒のスミレは、さすがの手つきで。
 花びらが折れないように、茎がまっすぐ見えるように。植物を扱い慣れた指先は、やさしくて迷いがない。
「綺麗に出来たかもっ」
「りおさん、すごいのです!」
「ココさんのたんぽぽも、ここをちょっと整えたら……ほら」
 璃緒が手伝うと、たんぽぽはふんわり丸いまま紙の上に収まった。
 37号がそれにそっと布を重ね、押し花用の板で挟んでいく。
「一定時間、圧をかけます。簡易加工のため、祭りの終了前には完成します」
「まつですか?」
「少しだけ待ちます」
「少しならだいじょうぶです。まっているあいだ、おかしの時間にできるです!」
「ココさん、まだお菓子覚えてたんだ」
「わすれてないのです」
「でも、ボクも忘れてないよ!」
 二人は顔を見合わせて、同時に笑った。

 璃緒はぱっと何かを思いついたように顔を上げる。
「そうだ!」
「なんですか?」
「今度この栞を使って読む本を一緒に探しに行かない?」
「……本?」
 ココの耳がぴょこんと動いた。
「わぁあ~……とってもたのしそ!」
「お互いオススメの本を選ぶのっ。次のお出掛けの約束、どうかな?」
「もちろん、いっしょにさがしにいくのです!」
 ココは小さな前足を伸ばした。
 璃緒も笑って、そっと指を差し出す。
「やったぁ! 指切りすればきっと叶うね」
「おともだちとのやくそく!」
 ちいさな前足が、璃緒の指にそっと触れる。
 指切りというには少し大きさが違ったけれど、それでもちゃんと約束だった。
 たんぽぽとスミレの栞を持って本を探しに行く。
 お互いの好きな物語を選んで、栞を挟んで、また次のページを開く。

 花祭りの通りからは、焼き菓子の甘い匂いが流れてくる。
「でも、まずはお菓子だね」
「おかしです!」
「どれから食べる?」
「ぜんぶ、ちょっとずつ!」
「いいね、それ!」
 ふたりは栞を待つ間、屋台の方へ駆け出した。
 黄色いたんぽぽには、楽しいことに出会えますように。
 紫のスミレには、小さな幸せに出会えますように。

 そして、ふたつの願いはもう一つ。
 次のお出掛けを一緒にするという、かわいくて大切な約束。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

ラガルティハ・サンセット
それが途方もない時間なのは
記憶のない僕でもわかる

その結末がなんであれ
いのちを途切れさせることだけはできない
彼女には未来があるから

花祭りのお手伝いをしようかな
迷子のあやし方は慣れてるんだ

こんにちは
お父さんがはぐれちゃったんだ
困ったね(しゃがんで視線合わせ

肩車はすき?ならよかった
君さえよければ、僕とお父さんを探そうよ

そんな風に困っている人が居れば手を貸して
楽しい時間を満喫してもらう
僕ももちろん、楽しんでるよ

ミナさんと出逢ったら挨拶を
ここはいい村だね
人はあったかいし、ごはんもおいしい
それに、花が綺麗だもの

託児所のこども達や園長先生達にも
お土産を買っていこうかな
おすすめのお菓子があるか聞いてみよう

 花祭りの朝は、どこもかしこも甘い匂いがした。
 家々の窓辺には花飾りが揺れていて、通りの上を渡された色布は風を受けるたびにふわりと膨らむ。
「いいねぇ。こういうの、すごくいい!」
 ラガルティハ・サンセット(陽光路・h05245)はにぱっと笑った。瞳には花祭りの色がいっぱいに映っている。
「よし。まずは、お手伝いしようかな」
 祭りを守るには祭りを楽しく続けることも大事だ。
 ラガルはそう判断して、広場の方へ歩き出した。

 早速、通りの端で小さな男の子が泣いていた。
 花冠をかぶって、片手に花びら入りの飲み物を持っている。飲み物は半分くらいこぼれていた。本人もそれがさらに悲しいらしく、しゃくりあげながら鼻をすすっている。
 ラガルはしゃがみ込み、彼と視線を合わせた。
「こんにちは」
「……っ、う……お、父さん……」
「はぐれちゃった?」
 男の子はこくこく頷いた。
「困ったね」
 ラガルはまるで一緒に困ってくれるみたいに眉を下げる。
 その様子に、男の子の泣き声が少しだけ小さくなった。
「でも大丈夫。僕、迷子を探すのはわりと得意なんだ」
「ほんと?」
「ほんと。まかせて」
 ラガルはにぱっと笑った。
「肩車はすき?」
 男の子の目が、少しだけ光った。
「すき」
「ならよかった。君さえよければ、僕とお父さんを探そうよ」

 ラガルは男の子をひょいと肩へ乗せた。
 高い視界に、男の子は一瞬びっくりして、それから涙のあとが残った顔で笑った。
「みえる!」
「よーし、どんなお父さん?」
「おっきい! あと、ひげ!」
「なるほど。おっきくて、ひげ!」
 ラガルは子どもを落とさないように気をつけながら、祭りの通りをゆっくり歩く。
 屋台の人に声をかけ、花籠を運ぶ人を避け、ついでに傾いた花飾りを直していく。
 そうしていると、向こうから真っ青な顔の大きな男が走ってきた。
「トマ!」
「あ、お父さん!」
「発見だねぇ」
 男の子を下ろしてやると、父親は何度も礼を言った。
 ラガルはにぱにぱ笑って手を振る。
「いいんだよ。お祭りは楽しい方がいいからね」



 その後もふらふらと手助けをしながら歩いていくと、広場の端で銀灰の髪をした少女を見つけた。
 あれが、ミナ。
 百年、博士を待ち続けているというアンドロイド。

 このアンドロイドの話を聞いた時、ラガルは胸の奥が少しだけ鳴るのを感じた。
 自分には十五の時より前の記憶がない。百年分の待つ時間がどれだけ重いのか、正確には分からない。
 ――けれど、分からないからといって放っておいていいはずもなかった。

 ラガルは、驚かせないように少し離れたところから声をかけた。
「こんにちは」
 ミナは振り向く。
「何かお困りですか」
「ううん。困ってはいないよ。挨拶したかったんだ」
「挨拶」
「うん。ここはいい村だね」
 ラガルは周りを見回した。
「人はあったかいし、ごはんもおいしい。それに、花が綺麗だもの」
 ミナは数秒黙っていた。
 それから、静かに頷く。
「はい。私を作成した博士も、ここの花畑を好きだと言っていました」
「そっか。じゃあ博士さん、いい趣味してるねぇ」
「いい趣味」
「うん。綺麗なものを綺麗だって思えるのは、いいことだよ」
 ミナの指先が、胸元のペンダントに触れた。
「あのね、託児所のこども達や園長先生達に、お土産を買っていこうと思ってるんだ」
「託児所」
「うん。小さい子がたくさんいる場所」
 ラガルは笑った。
「おすすめのお菓子、ある?」
 ミナは真面目に考え始めた。
 少し間を置いて、屋台の方を指す。
「あちらの花蜜菓子は、子どもの満足度が高い傾向にあります」
「よし、それにしよう」
 ラガルはにぱっと笑った。
「ありがとう、ミナさん。助かったよ」
「はい。土産選定の補助に成功しましたか」
「うん、大成功」
 そう言うと、ミナはほんの少しだけ目を細めたように見えた。
 笑ったのかもしれない。
 ラガルはそれを見て、なんだか嬉しくなった。

 今日は帰りに、花蜜菓子をたくさん買おう。園長先生には少し甘さ控えめのものがいいかもしれない。

 途方もない時間の先にもきっと明日はあるから。
 だから今日は、楽しい話をひとつでも多く持って帰ろう。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

和紋・蜚廉
ちるは(h01839)と待ち合わせ

用事があるのならば仕方ない

待ち合わせの場所で合流するまでの間、
暫し一人で練り歩こう

…久々だな
隣に誰も居ないまま歩く日は

漂う甘い香りに誘われて買う菓子も、
気付けば二人分を頼んでしまう

店主
済まないが、持ち歩ける包みも用意してくれ

この後に約束があるのでな
手土産として持って行こうと思うのだ

先程までは遠く感じた街並みも、
土産を手にした途端、身近な景色へ変わっていく

急ぐつもりは無かったはずの足取りは、
待ち合わせの場所へと向かっていた

やがて、
聞き慣れた足音と声が届く

振りむいてその姿を見つければ、
――何よりも幸せな時間の始まりだ

離さぬよう手を伸ばし、
共に祭りの輪へ混ざろう
不忍・ちるは
蜚廉さん(h07277)と待ち合わせ

どうしてもこっそり作りたいので
待ち合わせの前に別行動で工房へ向かって押し花作りに参加します

目の前にいろんなお花が並ぶと…んん
お名前は呼ばず、アドバイス求めてミナさんちらちら
ええと、おすすめのお花ありますか?
“ずっと”の意味で相手に寄り添う気持ちを込めたいので…
向ける相手を想像してきもちゆるゆるスターチスを選びます

この押し花、封飾にして頂けますでしょうか
お手紙を書く予定がありまして…
ほんわかてれてれしつつお仕立てお願いします

大事にしまって改めて待ち合わせの場所へ
ごきげんに駆け寄って蜚廉さんと一緒にお祭りの続きを楽しみます

(話しかけていますがキノコ食べます!)

 待ち合わせの時間までは、まだ少しだけ余裕があった。
 不忍・ちるは(ちるあうと・h01839)は、花祭りの人波をすり抜けるように歩きながら、胸の前で小さく手を握る。
 願い花の工房。
 どうしても、こっそり作りたいものがあったのだ。
「……ええと」
 選ぶだけなら、きっと簡単だと思っていた。
 けれど目の前に並べられると、思っていたよりずっと難しい。
 自分のための花なら、気ままに選べたかもしれない。――でも、これはそうではない。
 渡したい相手がいる。想いを込めたい相手がいる。

 ちるはは、工房を手伝っている銀灰の髪の少女へ、ちらちらと視線を送った。
 ミナは花を並べ直していた手を止め、静かにこちらを見る。
「何かお困りですか」
「あ、はい。ええと……おすすめのお花、ありますか?」
「用途によります」
 まっすぐな返事に、ちるはは少しだけ頬を緩めた。
「ず……ずっとの意味で、相手に寄り添う気持ちを込めたくて……」
 言いながら、だんだん自分で照れてきた。
 けれどミナはからかわない。ただ真面目に花を見て、ひとつを指す。
「スターチスが適していると判断します。乾燥後も色を保ちやすく、変わらない想い、永続する記憶の象徴として扱われることがあります」
「変わらない想い」
 ちるははその言葉を小さく繰り返した。

 最終的に選んだのは、淡い紫のスターチスだった。
「この押し花、封飾にして頂けますでしょうか」
「封飾ですね」
「はい。お手紙を書く予定がありまして……」
 言った途端、耳まで熱くなる気がした。
 ちるはは、少しだけ視線を落とす。
 手紙。
 そこに何を書くかは、まだ決めきれていない。
 けれど。
 ずっと。寄り添う。
 その二つの言葉を、先に形にしておきたかった。

 ミナの手つきは丁寧だった。
 スターチスを傷めないように紙へ挟み、圧をかけ、薄い台紙と透明な膜で仕立てていく。
 花が封飾になっていくのを見守りながら、ちるはは何度か口元を押さえた。
 にやけてしまう。
 これはいけない。
 待ち合わせ前から、かなり浮かれている。

「ありがとうございます、ミナさん」
「はい。よい手紙になることを願います」
「……はい」
 そのひと言に、また少し照れてしまう。
 ちるはは軽く頭を下げ、待ち合わせの場所へ向かった。



 その頃、和紋・蜚廉(現世の遺骸・h07277)は一人で祭りの通りを歩いていた。
 用事があるのならば仕方ない。
 そう思って送り出したものの、隣にちるはの姿がないだけで、祭りの景色は少し遠く見えた。
「……久々だな」
 ぽつりと呟く。
「隣に誰も居ないまま歩く日は」
 花祭りは華やかだった。
 布飾りは風に鳴り、花びらを浮かべた飲み物を手にした者たちが笑っている。屋台には焼き菓子が並び、花蜜の甘い香りが通りに満ちていた。
 この菓子を見て彼女なら何と言うか。
 この飲み物を渡したら、どんな顔をするか。
 そう考えるたびに、空いた隣の場所がかえってはっきりする。
「店主」
 蜚廉は焼き菓子の屋台で足を止めた。
「この花蜜の菓子を二つ頼む」
「二つですね」
「……ああ、持ち歩ける形にしてくれ」
 店主が手際よく包みを作る。
 蜚廉はその様子を眺めて、少しだけ目を細めた。
「この後に約束があるのでな。手土産として持って行こうと思うのだ」
「いいですねえ。お相手、喜びますよ」
「そうであればよい」

 歩き出してから、蜚廉は自分が二人分の菓子を当然のように買ったことに気づいた。
 一人で歩いていたはずなのに。
 気づけば、食べるものも、見るものも、彼女に渡すことを考えている。

 あの布飾りを、ちるははきっと綺麗だと言う。
 あの飲み物は、甘さ控えめなら気に入るかもしれない。
 あの店の米菓子はどうだろう。
 いや、パンも好きだったはずだ。
 甘味もよい。
 食べ比べも、悪くない。

 急ぐつもりはなかった。
 けれど足は、自然と足早に待ち合わせの場所へ向かっていた。



 ――やがて、聞き慣れた足音が届く。
「蜚廉さん」
 呼ばれて振り向く。
 人波の向こうから、ちるはがこちらへ駆け寄ってきた。黒髪が揺れ、瞳が楽しげに細められている。
 その姿を見つけた瞬間、祭りの音が少し明るくなった気がした。
「ちるは」
 蜚廉は手を伸ばした。
 ちるはも自然にその手を取る。離さぬように、けれど強く握りすぎぬように。
 その加減は、もう二人の間で何度も確かめてきたものだった。
「お待たせしました」
「構わぬ。用事は済んだのか」
「はい。ばっちりです」
「ばっちり」
「ばっちりです」
 ちるはは、ほんの少しだけ得意そうだった。
 蜚廉はその様子を見て、何かあるのだろうと察した。けれど問わない。彼女が言いたくなる時を待つことも、共にいる時間の一部だ。
「ならばよい。こちらも少し祭りを見ていた」
「あ、お菓子の匂いがします」
「これか」
 蜚廉は手にした包みを掲げる。
「花蜜の菓子だ。汝の分も買ってある」
 ちるはの目が、ぱっと輝いた。
「私の分も?」
「当然だ」
「当然」
「うむ。当然だ」
 その言い方があまりにも真面目で、ちるはは少し笑った。
「ありがとうございます。すごくうれしいです」
「そうか」
 蜚廉の声は静かだったが、どこか満ち足りていた。

 二人は少し通りから外れたところで、包みを開く。花蜜菓子は小さな花の形をしていた。表面に薄く蜜が塗られて、陽の光を受けてきらりと光る。
「いただきます」
 ちるはがひと口食べる。
 さくり、と音がした。
 そのあと、ふわっと甘い香りが広がる。
「おいしいです」
「うむ」
「蜚廉さん、選ぶの上手ですね」
「匂いに誘われただけだ」
「ふふ」
「何故笑う」
「なんでもありません」
 ちるははにこにこしている。
 蜚廉は少しだけ眉を寄せたが、その表情もすぐに緩んだ。

 二人は祭りの通りを歩き出した。
 花びらを浮かべた飲み物をひとつ買い、半分ずつ飲む。窓辺の花飾りを眺め、屋台に並ぶ小物を見て、子どもたちが作ったらしい少し歪な花冠に目を留める。
 一人の子どもが、おねえさんに! と花冠をひとつ差し出した。
「いいの?」
 ちるはは笑顔で受け取ると、冠を頭に置く。
 蜚廉はそれを見て、静かに頷いた。
「似合う」
「ふふ。ありがとうございます」
「花が、汝をより輝かせているようだ」
「……そういうことを、急に言うのはずるいです」
「ずるいのか」
「はい。たいへん」
「では、覚えておこう」
「覚えなくてもいいです」
「そうなのか」
「……でも、少しだけなら覚えていてもいいです」
 自分で言って、ますます照れる。

 広場の方では願い花の工房がまだ賑わっている。
「ちるは。何やら、今日は機嫌がよいな」
「はい。今日は花祭りですから」
「それだけか」
 問われれば、ちるはは首を傾げてみせる。
 蜚廉は少しだけ目を細めた。
「ならば、今はそういうことにしておこう」
「はい。そういうことにしておいてください」
 二人は笑う。
 大きな声ではない。祭りの賑わいに紛れてしまうくらいの、小さな笑い声。

 ちるはは、鞄の奥の小さな封飾を思う。
 淡い紫のスターチス。ずっとの意味。相手に寄り添う気持ち。
 まだ秘密。
 けれど、その秘密を持って隣を歩いているだけで、胸の中があたたかくなる。

 いつか手紙を書こう。
 淡い紫の花で封をして、言葉にするには少し照れくさい気持ちを、ゆっくり閉じ込めよう。
 ずっとなんて大きな言葉は、口にするとこぼれてしまいそうだから。

 まずは今日、こうして手を繋いで歩くことから。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

泉・海瑠
【幻鱗】

巳理に片思い中

わ、文字通り華やかだね
それに良い匂い…!
飲食物買って一緒に食べ歩き
迷子防止に照れ&控えめに手を引き

ん~~美味しい
え?…え!?(あーん!?
えと、あり、ありがとう…(ぱく

ね、願い、は…
(巳理さんの安寧と…あと、できたら両思いになれたら、とか…
 内心きゃーきゃー)
顔に出ててたのを咳払いで誤魔化し
巳理さんしか叶えられないけど…(ぼそ

ほ、ほら。オレ花なんて似合わな…
そ、そうかな!?なら…まぁ…
スマホで花言葉調べ黄のミモザ選び
「友情」と「秘密の恋」
どっちに取られるかは賭けでもあるし逃げでもある

賛辞にはえへへと照れ

えーっと…(スマホ操作
愛嬌、望郷、共感…純粋な――(「愛」の文字に吹出す
黛・巳理
【幻鱗】

ふと見せるその表情が気になる

食べ物にも祭にも目を輝かせる海瑠の姿に眦を緩め、手を引かれても自然に共に

海瑠くんは甘いものが好きなのか
これも中々美味しいよ、向日葵の種を使っているらしい(半分いるかい?と千切って差し出し
とても幻想的だね…まさに夢のような

そういえば、海瑠くんはどんな事を花に願うんだい?

(海瑠の様子に
その…願いが、僕の叶えられることなら…と思ってね
でも、君は花がよく似合うだろう?

ミモザ?可愛らしい花だ、君によく似合う
春を連れてくる素敵な花だね
僕は—…これ
サンダーソニア、というらしい

海瑠くん、これの花言葉は?
—なるほど、これは君にぴったりだ(にこ
僕の勘が当たったね(くすくす

 花祭りの通りに足を踏み入れた瞬間、泉・海瑠(妖精丘の狂犬・h02485)の耳はぴんと立つような気分になった。
「わ、文字通り華やかだね。それに良い匂い……!」
 色とりどりの布が頭上を渡り、家々の窓辺には花飾りが揺れている。屋台からは、花蜜を練り込んだ焼き菓子の甘い匂い。
 見るもの全部がやわらかくて、明るくて、少しだけ夢みたいだ。
 海瑠は、隣の黛・巳理(深潭・h02486)をちらりと見る。
 いつもは淡々としていて、少し冷たく見られがちな先生。けれど今は、海瑠が屋台を見て目を輝かせているのを見て、ほんのわずかに眦を緩めていた。

 それに気づいた海瑠の胸が、跳ねる。

 いやいやいや。
 祭りだから。
 花祭りだから。
 浮かれてるだけだから。
 オレが。いや先生も少しは。いやいやいや。

「せ、先生」
「どうしたの、海瑠くん」
「……あの。えっと、迷子防止、ってことで」
 海瑠は控えめに手を差し出した。
 差し出してから、心の中で盛大に転げ回る。
 何してるんだオレ。
 いや、違う。これは安全確保。看護師的にも安全確保。人混みでの事故防止。そう、事故防止。
 片思い相手と手を繋ぎたいとか、そういうのでは――。
「そうだね」
 巳理は、ごく自然にその手を取った。
 瞬間、海瑠の思考が一瞬で花びらみたいに散る。
「……っ」
「どうかしたかい?」
「な、なんでもない!」
 繋いだ手は、思っていたより冷たかった。けれど指先は優しく、力加減はひどく自然で、海瑠の方が余計に意識してしまう。
 巳理はそんな海瑠の様子を見ているのかいないのか、ゆっくり歩き出した。
「まずは食べ歩きかな」
「う、うん! あ、あそこの焼き菓子美味しそう!」
「向こうの飲み物も綺麗だね」
「花びら浮かんでるやつもいいかも」

 二人で屋台に並び、花蜜菓子と、花びらを浮かべた飲み物を買った。
 海瑠は焼きたての菓子をひと口食べて、ぱっと顔を明るくする。
「ん~~美味しい」
「海瑠くんは甘いものが好きなのか」
 巳理は、ほんの少しだけ口元をやわらげる。
「これも中々美味しいよ。向日葵の種を使っているらしい」
 そう言って、巳理は自分の焼き菓子を半分に千切った。
「半分いるかい?」
「え? ……え!?」
 差し出された菓子は、巳理の指先に摘まれている。
 普通に受け取ればいい。
 ――普通に受け取ればいいのに、距離が近い。手を繋いだままなので、なおさら近い。
 そして巳理は、何の気なしにそのまま海瑠の口元へ持ってきた。

 あーん。
 これは、あーんでは。
 いや、先生はそういうつもりじゃないかもしれない。医療従事者の補助動作的な。いや何だそれ。患者じゃないし。
 でもこれは、あーんだ。

「海瑠くん?」
「えと、あり、ありがとう……」
 海瑠はおそるおそる口を開けて、差し出された菓子をぱくりと食べた。
 向日葵の種の香ばしさと、花蜜の甘さが広がる。
 おいしい。
 おいしいのに、味を感じるより先に心臓が大忙しだ。
「どうかな」
「お、美味しい。すごく」
「よかった」
 巳理はいつもの調子で頷いた。
 その横顔が少し満足そうに見えて、海瑠はまた胸の中で転げ回る。

 花祭りの通りは、どこも幻想的だった。
 花飾りの下を歩く人々。淡い色の布。陽を受けて光る花びら入りの飲み物。
 巳理はそれらを眺めながら、静かに言う。
「とても幻想的だね……まさに夢のような」
「うん」
 海瑠は頷いて、手の中の温度を意識した。
 夢みたい、というなら。
 今この瞬間こそ、海瑠にはかなり夢みたいだった。



 やがて二人は、願い花の工房へ辿り着いた。
 白い布をかけた机の上に、色とりどりの花が一輪ずつ並んでいる。好きな花を選び、願いや約束を込めて押し花にする、花祭りのおまじないだ。
「そういえば、海瑠くんはどんな事を花に願うんだい?」
「ね、願い、は……」
 海瑠の脳内に、あまりにも正直な願いが浮かんだ。
 巳理さんの安寧と。
 あと、できたら両思いになれたら、とか。
「……」
「海瑠くん?」
「ごほっ」
 顔に出ていた気がして、海瑠は咳払いで誤魔化した。
 遅い。たぶんもう遅い。巳理の藍色の瞳が、静かにこちらを見ている。
「その……願いが、僕の叶えられることなら……と思ってね」
「……っ」

 それが一番だめだった。

 叶えられる。
 巳理さんしか叶えられない。
 海瑠は視線を逸らして、小さくぼそりと呟く。

「巳理さんしか叶えられないけど……」
「僕しか?」
「な、なんでもない! 花! 花を選ぼう!」
 海瑠は慌てて机の花々を覗き込んだ。
 赤い花、白い花、青い花、黄色い花。どれも綺麗だけれど、自分が選ぶとなると急に照れくさい。
「ほ、ほら。オレ花なんて似合わな……」
「そうかな。君は花がよく似合うだろう?」
「そ、そう!?」
 即座に食いついた声が、思ったより大きくなった。
 海瑠はまた咳払いする。
「なら……まぁ……」
 スマホを取り出し、花言葉を調べる。
 指先が少しもたつく。巳理が隣で静かに待っているのが、さらに緊張を増やす。

 選んだのは、黄色のミモザだった。
 小さな丸い花が集まって、ふわふわと明るい。春を連れてくるような色だった。
「ミモザにする」
「ミモザ? 可愛らしい花だ、君によく似合う」
「……えへへ」
 褒められて、海瑠は思わず笑った。
「春を連れてくる素敵な花だね」
「うん。花言葉も、えっと……」
 友情。
 秘密の恋。
 どちらに取られるかは、賭けでもあるし、逃げでもある。
 けれど今は、それくらいがちょうどよかった。真っ直ぐすぎる願いは、まだ胸の中で大事に抱えていたい。
「巳理さんは?」
「僕は――これ」
 巳理が手に取ったのは、釣鐘のような形をした橙色の花だった。
 小さなランプのようにも、誰かを呼ぶ鐘のようにも見える。
「サンダーソニア、というらしい」
「へえ、かわいい。ちょっと不思議な形」
「海瑠くん、これの花言葉は?」
「えーっと……」
 海瑠はスマホを操作する。
 検索欄に名前を入れて、花言葉を開く。
「愛嬌、望郷、共感……純粋な――」
 次に見えた文字で、海瑠は盛大に吹き出した。
「ごほっ、げほっ!」
「大丈夫かい」
「だ、大丈夫! ちょっと、花言葉が、その」
「何と書いてあったんだい?」
「えっと、愛嬌、望郷、共感、純粋な……」
「純粋な?」
「……愛」
 最後の一文字は、とても小さな声で。
 巳理は数秒黙った。
 それから、ほんの少しだけ目元を和らげる。
「なるほど」
「いや、これは、その、オレが選んだんじゃなくて、巳理さんが選んだ花で」
「これは君にぴったりだ」
「えっ」
「僕の勘が当たったね」
 巳理はくすくすと笑った。
 その笑みは小さくて、けれど海瑠にとってはかなり大事件だった。
 先生が。
 純粋な愛。
 情報量が多い。
「巳理さん、今、さらっとすごいこと言った」
「そうかな」
「そうだよ」

 海瑠は耳まで熱くなりながら、ミモザを工房の人に渡した。
 願いは心の中で込める。
 巳理さんが穏やかでいられますように。
 辛い夢に沈まないでいられますように。
 それから、もし叶うなら。
 いつかこの手を、迷子防止じゃなくて、もっと自然な理由で繋げますように。

 巳理もサンダーソニアを差し出す。
 彼が何を願ったのかは分からない。
 けれど、花を見つめる横顔はひどく静かで、優しい。

 願いはまだ、花の中に隠しておく。
 けれど繋いだ手の温度だけは、隠しようもなくあたたかかった。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

黒南風・螢
【紡旅】
こりゃまた素敵なお祭りだねぃ
祭りの暖かな空気や音に笑み浮かべ

選ぶのはネリネ
押し花でもいいんだけどどうせなら、と贈り物に結ぶ飾り紐を依頼
こりゃ見事な品だ
ありがとね

さて、それじゃお嬢さん(ミナ)に祭りのお礼でも言いに行こうか

花や祭り、村の話のほかに博士の思い出とかも聞けそうなら聞いてみたいねぃ

ずっと待ってるんだねぃ
ならこっちもお土産を用意してみる、ってのはどうだろ
こんな事があったよ、とか、色々と
待つ楽しみ、ってのになるんじゃないかと思ってね

ってそりゃいい考えだねぃ
と作ってもらった飾り紐をムジカの小瓶に結びつけ
【また会う日を楽しみに】ってね
素敵な祭りやらのお礼だよぅ
エメ・ムジカ
【紡旅】
うん!みんなうれしそうな顔してるっ
音楽もとっても綺麗だなぁ…
祭りの声に耳を澄ます

ぼくが選ぶのは赤いゼラニウム
小瓶に封じたお守りを職人さんに作ってもらうの
この花の花言葉は
君ありて幸福
大切な人を想う願い花
職人さんにありがとうって笑って
大事に両手で包む

うん!お話、聴いてみたいよね
博士のお話も、花祭りへの想いも
花祭りもきっと博士に繋がる大事な催しだと思うから

わ!お土産!
そうしたら、これはどう?
螢ちゃんの飾り紐、この小瓶に結わえるんだ
ミナちゃんの約束を守る思いが叶いますようにって
お祭りのありがとうと一緒にプレゼントするの!

えらんだ花の花言葉
ちょうどひとつの物語になりそうだ
喜んでもらえたらいいねっ

 笛の音に、手拍子。子どもたちの笑い声。花びらを浮かべた飲み物を売る屋台の呼び声。
 黒南風・螢(毒雨入之刻・h01757)は、その賑わいを眺めながら、ゆるく目を細めた。
「こりゃまた素敵なお祭りだねぃ」
 隣では、エメ・ムジカ(L-Record.・h00583)がぴょこんと跳ねるように歩いていた。赤い宝石のような瞳を輝かせて、耳を澄ませるように顔を上げる。
「うん! みんなうれしそうな顔してるっ。音楽もとっても綺麗だなぁ……」
 ムジカは一度立ち止まり、祭りの音を聴いた。
 楽師の指が弦を弾く音。菓子を焼く鉄板の上で蜜が焦げる小さな音。花飾りを結ぶ子どもたちの、くすくす笑い。
「聴いてると、花まで歌ってるみたいだね♪」
「はは、そりゃいいねぃ。花の歌とは風流だ」
 二人が早速向かったのは、願い花の工房だった。
 白い布をかけた机の上には、色とりどりの花が一輪ずつ並んでいる。栞、小瓶、封飾、飾り紐。願いや誓いを込めた花は、望む形に仕立ててもらえるらしい。
「かわいい~!」
 ムジカは花の前で、ぱっと笑顔になった。
「ぼくが選ぶのは、赤いゼラニウム!」
 迷いはなかった。
 小さな赤い花が寄り集まったそれは、ムジカの瞳とよく似た色をしている。
「小瓶に封じたお守りを職人さんに作ってもらうの」
「ほう、そりゃまた可愛らしい品になりそうだねぃ」
「うん! あのね、この花の花言葉は――君ありて幸福」
 ムジカは両手で花を包むように持った。
「大切な人を想う願い花なんだよ!」
 その声は明るかった。
 誰かを大切に想うことを、誇らしげに歌うような響き。
 螢は、そんなムジカを見て、少しだけ笑みを深める。
「いい花を選んだねぃ」
「えへへ。螢ちゃんは?」
「私かい?」
 螢は並んだ花々を眺めた。
 白、黄、紫、薄桃。その中から選んだのは、ネリネだった。
 細い花弁が軽やかに反り、どこか踊るような姿をしている。
「ネリネにしようかねぃ」
「ネリネ! きれいだねっ。押し花にするの?」
「押し花でもいいんだけど、どうせなら――」
 螢は工房の職人へ視線を向けた。
「贈り物に結ぶ飾り紐にしてもらえるかい?」
「できますよ」
「ありがとね」

 職人は慣れた手つきで、ネリネを細く仕立てた飾り紐へ添えていく。
 花そのものを損なわないよう色の近い糸と小さな留め具を選び、結び目のところに花をあしらう。
 その間にムジカの赤いゼラニウムは、小さな透明な小瓶の中へそっと封じられた。花の周りには、微かな光を閉じ込めたような液が満たされ、揺らすと赤い花びらがやさしく揺れる。
「わぁ……!」
 ムジカは完成した小瓶を両手で受け取り、ぱっと顔を輝かせた。
「ありがとう、職人さん!」
「どういたしまして」
 やがて螢の飾り紐も完成した。
 ネリネの花を添えた細い紐は、華美すぎず、けれど目を引く品だった。
「こりゃ見事な品だ。ありがとね」
 螢は飾り紐を受け取り、軽く礼を言った。

「せっかくだ、お嬢さんに祭りのお礼でも言いに行こうか」
「ミナちゃんに?」
「そうそう。あの子がこの祭りを手伝ってるんだろう? なら、素敵な祭りやらのお礼を伝えても罰は当たらないだろうさ」
「うん! お話、聴いてみたいよね」
 ムジカは小瓶を胸の前に抱える。
「博士のお話も、花祭りへの想いも。花祭りもきっと博士に繋がる大事な催しだと思うから」
「いい耳をしてるねぃ、ムジカ君」
「耳は自慢だよ☆」
 冗談めかして胸を張るムジカに、螢は小さく笑った。



 二人がミナを見つけたのは、花で飾られた広場の端だった。
 彼女は文句も言わず傾いた飾り布を直している。
「やあ、お嬢さん」
 螢が声をかけると、ミナはゆっくり振り向いた。
「はい。何かお困りですか」
「困ってるわけじゃないよ。素敵な祭りを楽しませてもらってるお礼を言いに来たのさ」
「お礼」
「うん! 花祭り、とっても綺麗だね♪ みんな笑ってて、音楽も楽しくて、お花もいっぱいで!」
 ムジカが両手を広げると、ミナは少しだけ瞬きをした。
「それは、良好な評価と判断してよろしいでしょうか」
「もちろん!」
「そりゃもう、大変良好だねぃ」
 螢は周囲を見渡した。
 花を運ぶ子どもたち。屋台の店主。歌う楽師。笑う客たち。
 そして、その中に自然に立っているミナ。
「この祭りは、毎年こんな風なのかい?」
「はい。規模に大きな変動はありません。花畑の開花状況により、飾りに使用する花の種類は変化しますが」
「へえ。花畑の様子に合わせるんだ」
「はい。博士は、季節の花を無理に揃えすぎる必要はないと言いました」
 その名が出た瞬間、ムジカの耳がぴくりと動いた。
「博士さんも、この花祭りが好きだったの?」
 ミナは少し間を置いた。
「はい。とても」
 そのあとの言葉は簡潔で、明瞭で。
 螢は静かに頷いた。
「ずっと。待ってるんだねぃ」
「はい。博士は必ず帰ると言いましたから」
「そうだな……ならこっちも、お土産を用意してみる、ってのはどうだろ」
「お土産ですか」
「待つ楽しみ、ってのになるんじゃないかと思ってね」
 ミナはすぐには返事をしなかった。
 その代わり、どこか遠くを計算するように視線を落とす。
「待機時間中の記録を、贈呈物として保持するということでしょうか」
「ああ、また会う日を楽しみにってね」
 螢が飾り紐を指で軽く揺らす。
 ムジカがぱっと顔を明るくした。
「お土産! そうしたら、これはどう?」
 ムジカは大事に抱えていた赤いゼラニウムの小瓶を見せる。
「螢ちゃんの飾り紐、この小瓶に結わえるんだ」
「そりゃいい考えだねぃ」
 螢は即座に頷いた。
 ムジカの小瓶に、ネリネの飾り紐をそっと結ぶ。赤いゼラニウムの花が眠る透明な小瓶に、ネリネの花飾りが添えられた。
 赤と淡い色。
 幸福を想う花と、また会う日を思わせる飾り。

 ムジカはそれを両手で持ち、ミナへ差し出した。
「はい、これ! ミナちゃんの約束を守る思いが叶いますように!」
 ミナは小瓶を見つめた。
 赤いゼラニウム。
 ネリネの飾り紐。
 小さな贈り物の中に、二人の願いと祭りの記憶が結ばれている。
「これは、私が受領してよいものですか」
「もちろんだよ!」
 ミナは、ゆっくりと小瓶を受け取った。
 両手で包むように。
「ありがとうございます」
 声は静かだ。
 けれど、その言葉のあとに、ほんの少しだけ間があった。
「博士が帰還した場合、この小瓶について報告します」
「うん!」
 ムジカが胸を張る。
「花言葉は――君ありて幸福!」
 ミナは頷いた。
「君ありて幸福。また会う日を楽しみに」
 その言葉は、まるでひとつの短い詩のようだった。
 ムジカは嬉しそうに手を叩く。
「……私は、この小瓶を保持することに、好ましい感覚があります」
 ムジカの顔がぱっと輝く。
「それって、うれしいってことだよ!」
「嬉しい」
「うん!」
 ミナは小さく頷いた。
「では、嬉しいです」
 花祭りの音楽が、風に乗ってまた近づいてくる。
 誰かが笑い、屋台の鈴が鳴り、花びらが三人の間をくるりと舞った。

 また会う日を楽しみに。
 君ありて幸福。
 二つの言葉が、彼女の中に深く染みていくようだった。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

シルヴァ・ベル
素敵なお祭りだわ
お花を、特に栞にするのが主流…と云うのが粋ですわね
どのような背景で始まったのかしら
いいえ、むつかしい歴史のお話はまた今度
|最初に目の合った《お花お任せ》この子にしましょう
わたくしが重視するのはインスピレーションですわ
鑑定士としては理論立った思考が必要なのですが、サイコメトラーとしては直感は決して馬鹿にできません
…嗚呼、わたくしこのように小さいのですけれど、大きさはお気遣いなく!
普通のひとが読む本のための栞が欲しいと思っていましたの

銀のお髪が美しい彼女は、遠くからそうっと見守るだけに留めましょう
わたくしにも大切な子が居ます
彼女に大事なひとが居るように
…どうするのがよいのでしょうね

 花祭りの広場は、シルヴァ・ベル(店番妖精・h04263)にとって少しだけ大きすぎて、そしてとびきり魅力的だった。

 身の丈およそ十五センチの彼女にしてみれば、屋台の台は見上げるほど高く、そよぐ花飾りはカーニバルの舞台演出のようだ。
 けれど、シルヴァは少しも怯まない。
 背の蝶の翅をふわりと震わせ、風に乗って屋台の高さまで舞い上がる。
「素敵なお祭りだわ。お花を、特に栞にするのが主流……と云うのが粋ですわね」
 シルヴァは願い花の工房の看板を見上げて頷いた。
 好きな花を一輪選び、願いや約束を込め、押し花にして栞にする。
 品物に想いを宿すという発想は、『星の鍵』で働く彼女にとって、とても馴染み深いものだった。
「どのような背景で始まったのかしら。土地の信仰? それとも花畑の由来? あるいは、どなたかの恋文から……」
 考え始めると、知りたいことは次々湧いてくる。
 けれどシルヴァは、はっとして小さな手をぽんと打った。
「いいえ、むつかしい歴史のお話はまた今度」
 今は祭りの日だ。

 ――ならば、まずは参加してこそである。

 工房の机の上には、色とりどりの花が並んでいた。
「どれにいたしましょう」
 こういう時、シルヴァが真っ先に重視するのはインスピレーションだ。
 ふわりと降り立った先で最初に目が合ったのは、淡い青の花だった。
 五枚の花弁が小さな星のように開いている。
 ブルースター。
 名札にそう書かれていた。
「まあ、星」
 シルヴァは思わず頬を緩めた。
 『星の鍵』で店番をする自分が、最初に目の合った花に星の名を見つける。そんな偶然は、ただの偶然として片づけるには少し惜しい。
「決めました。この子にいたしましょう」
 工房の職人が、あまり迷わずに――少なくとも、傍から見ていた者にはそう見えた――に決めたシルヴァに、目を瞬かせる。
「こちらでよろしいですか?」
「ええ。直感は決して馬鹿にできませんもの」
 シルヴァは胸を張った。
 胸を張っても十五センチなので、威厳はたいへん可愛らしい。
「それに、この子は星の形をしていますでしょう? 本のページに小さな星を挟むなんて、とても素敵ですわ」
 シルヴァの決意を聞いた職人は、それを聞いて大きく頷く。
 職人が彼女のサイズに合わせて小さな台紙を探しかけたのを見て、シルヴァは両手を振った。
「……嗚呼、わたくしこのように小さいのですけれど、大きさはお気遣いなく!」
「えっ、でも普通の台紙ですとかなり大きいですよ?」
「いいんです。普通のひとが読む本のための栞が欲しいと思っていましたの」
 職人は少しだけ笑って、通常の大きさの栞台紙を用意してくれた。
 シルヴァにとっては両腕いっぱいどころか、ほとんど寝台のような大きさである。

 ブルースターは丁寧に紙の上へ置かれた。
 淡い青の花弁が折れないように、茎の角度を整え、薄い紙でそっと挟む。
 シルヴァは机の端に腰かけ、真剣な顔でその作業を見守った。
 花はいつか枯れる。
 けれど押し花になれば、今日の色を少し長く残せる。
「この子も、よい品になりますわ」
 シルヴァが確信をもって言うと、職人は楽しそうに笑った。



 帰り際、広場の端で銀灰の髪の少女を見かけた。。
 彼女は倒れかけた飾りを直し、子どもに話しかけられて少し遅れて頷いている。
 シルヴァは、少し離れた花飾りの影に止まった。
 翅をたたみ、そうっと彼女を見守る。

 話しかけることもできる。
 聞きたいこともたくさんある。
 ――気になることばかりだ。
 けれど。
 大切なものは、むやみに触れてはならない時もある。
「わたくしにも、大切な子が居ます」
 小さく呟く。
「……どうするのがよいのでしょうね」

 グッドフェローなら、どうするだろう。
 声をかけるだろうか。
 贈り物をするだろうか。
 それとも、彼女が自分で歩き出す時に邪魔にならないよう、少し離れて見守るだろうか。

 シルヴァは抱えたブルースターの栞に視線を落とした。
 小さな星は道を照らすこともある。
 けれど星は、誰かの足を無理に引くことはしない。

 ただそこにあって、進む者が見上げた時に、静かに光っている。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

汀羽・白露
【白華】

華夜の事は普段「かや」呼び

ああ
普段はなにかと雑多なものに囲まれているからな
素朴な美しさと雰囲気は落ち着く

だからと言って羽目を外――

言い終わらぬうちに回る彼に呆れつつも
内心綺麗で見入って

…そうだな

密やかに賛辞を込め、それだけ返す


かやと栞作り
ふふ、前に手作りのを貰ったな
今でも懐にあるそれに服の上から触れ

…仮にも“神”にそれを聞くか…?(呆れ
まぁ、記憶に残っている限りでは「ない」な
かやはあるのか?(俺宛以外に、と言外に孕み、ないと聞いて内心安堵

迷子?俺がいれば大丈夫だろう?
続く言葉の意味が分からず怪訝な顔

選ぶ花はピンクのスターチス
そつなく作ったらかやへ渡す

俺はずっときみの傍に居るから安心しろ
御埜森・華夜
【白華】
花のお祭りかぁ
いいね、空気も賑やかなのにどっかのんびりしてて……さいこーっ!

へへ、ほら見て|白《はく》ちゃん!
こうやってやると…ほら!きれーじゃない?(花畑でくるりと回れば花が舞って)
…—いいね、ここは本当にいいところだよ

さーってと。ダンスは俺めーーっちゃ下手くそだけど、栞は!作れる!よ!!(ドヤァ)
願い花、だって

そいえばさぁ白ちゃん、なんかお願いしたいことないの?
俺ぇ?
んー…まぁないけどさぁ、
そーだなぁ…強いていうなら、“迷子”になりませんよーに、とか?
そりゃ白ちゃんいるから俺迷わないけど…いーの!

あーとーはー…ひーみつっ!
ピンクの薔薇にしよ
可愛いのできた!

…何突然、当たり前じゃん?

「花のお祭りかぁ」
 御埜森・華夜(雲海を歩む影・h02371)は、髪をふわりと揺らしながら通りを見回した。
 花祭りの通りには柔らかな色が満ちていた。
 頭上には色とりどりの布。窓辺には花飾り。屋台の透明な飲み物の中では色とりどりの花びらがゆっくり揺れている。
「いいね、空気も賑やかなのにどっかのんびりしてて……さいこーっ!」
「ああ」
 隣で汀羽・白露(きみだけの御伽噺・h05354)が頷く。
 男は華夜を視線に収めながらも、花飾りの連なる軒先を静かに眺める。
「普段はなにかと雑多なものに囲まれているからな。素朴な美しさと雰囲気は落ち着く」
「でしょでしょ。たまにはこういう空気吸わないとねぇ」
「だからと言って羽目を外――」
 最後まで言い終わる前に、華夜はすでに花畑の端へ駆けていた。
 その場で体がくるりと回る。
 裾が揺れ、飾り紐が揺れ、ちょうど風にさらわれた花びらが彼の周りでふわりと舞った。
「へへ、ほら見て白ちゃん! こうやってやると……ほら! きれーじゃない?」
 白露は呆れたように眉を寄せた。
 言ったそばからこれだ。
 祭りの空気に浮かされるのは分かるが、――その姿はあまりにも無邪気で、あまりにも楽しそうで――。

 白露はそれに見入った自分を誤魔化すように、少しだけ視線を逸らす。
「……そうだな」
 密やかな賛辞を込めて、ただそれだけ返す。
 華夜は、ぱっと顔を明るくした。
「でしょ?」
「調子に乗るな」
「乗ってない乗ってない。ちょっと花びらと仲良くしてただけ」
「その言い方がもう乗っているだろ」
「白ちゃんってば厳しいなぁ」
 そう言いながらも、華夜は楽しげに笑っている。
 白露は小さく息を吐いた。
 呆れているのは本当だ。だが、その笑顔を見ていると、結局何も言えなくなるのも本当だった。
「……いいね、ここは本当にいいところだよ」
 華夜がぽつりと呟く。
 今度の声は、さっきより少し静かだった。
「そうだな」
 白露も頷いて、行くか、と広場の方に歩き出した。



 広場の一角には、願い花の工房が開かれていた。
 白い布をかけられた机の上に一輪ずつ花が並んでいる。
「ねえねえ。俺、ダンスは俺めーーっちゃ下手くそだけど、栞は! 作れる! よ!!」
 華夜は胸を張った。
 ドヤ顔だ。
「ふふ、前に手作りのを貰ったな」
 白露はそう言いながら、今でも懐にあるそれへ、服の上からそっと触れた。
 華夜から貰った栞。ただの紙片ではない。白露にとっては、自分の文字ばかりの世界に添えられた、綺麗な挿絵のようなものだ。
「え、まだ持ってるの?」
「捨てる理由がない」
「へへ。そっかぁ」
「何だ、その顔は」
「べつにぃ?」
 華夜はにこにこしながら花を覗き込んだ。
「願い花、だって。白ちゃんはなんかお願いしたいことないの?」
「……仮にも神にそれを聞くか……?」
 白露は呆れたように言った。
「えー、いいじゃん。神様だってお願いごとのひとつくらいあるでしょ」
「記憶に残っている限りでは『ない』な。かやはあるのか?」
 白露は何気ない声で尋ねた。
 けれど、その言葉の奥には小さく引っかかるものがある。
 俺宛以外に。
 そんな意味が、ほんの少しだけ混じっていた。

 華夜は花を見ながら、うーんと首を傾げる。
「俺ぇ? んー……まぁないけどさぁ」
 ない。
 その返事に、白露は表情を変えないまま内心で少しだけ安堵した。
 まったく、我ながら狭量だ。
 そう思う。
 けれど、華夜の願いの行き先が気になるのだから仕方ない。
「そーだなぁ……強いていうなら、迷子になりませんよーに、とか?」
「迷子?」
 白露は怪訝な顔をした。
「俺がいれば大丈夫だろう?」
「そりゃ白ちゃんいるから俺迷わないけど……いーの!」
「何がいいんだ」
 華夜は片目を細める。
 白露はその言葉の続きの意味を、すぐには掴めなかった。
 けれど華夜にとって迷子にならないという願いは、道順だけの話ではないのだろう。
 彼が迷わないように。
 あるいは、見失わないように。
「うーん……ひーみつっ!」
「秘密が多いな」
「ロマンチックでしょ」
「便利な言葉だな」
 華夜はピンクの薔薇を選んだ。
 小ぶりで、可愛らしく、けれど花びらの重なりにはどこか秘密めいた奥行きがある。
「ピンクの薔薇にしよ。かわいいし」
「似合うな」
「え」
 華夜が瞬きをする。
 白露は、少しだけ視線を逸らした。
「俺がこのかわいい花に似合うってこと?」
「……作業に集中しろ」
 華夜は楽しそうに笑った。
 白露は今度こそ視線を花へ落とし、ピンクのスターチスを選ぶ。

 工房の者に教わりながら、二人は花を紙へ置いた。
 華夜は最初こそ自信満々だったが、いざ押し花の位置を決めるとなると意外と真剣な顔で。
「ここ、もうちょっと斜めかな。いや、薔薇って正面から見せるべき? でも栞にするなら横顔もかわいいよねぇ」
「栞は作れると言っていなかったか」
「作れるけど、かわいく作るには悩むんだよ!」
 逆に、白露の手つきはそつがなかった。
 スターチスを整え、紙へ置き、花弁を崩さないように押さえる。物語のページを扱うように、丁寧で、静かで、迷いがない。
「白ちゃん、上手いじゃん」
「当然だ」
「神様だから?」
「いや、手先が器用だからだ」
「そこは普通なんだ」
「神にも得手不得手はある」
「ダンスは?」
「かやよりは上手いだろうな」
「言ったな!」
 二人でそんなことを言い合っているうちに、押し花は綺麗な栞に仕立てられていった。
 ピンクの薔薇の栞は、華夜らしく華やかで甘い。
 ピンクのスターチスの栞は、白露らしく控えめで、けれど凛とした美しさがある。
「可愛いのできた!」
 華夜が嬉しそうに栞を掲げる。
 白露はその姿を見て、ほんの少し口元を緩めた。
「ああ。よく出来ている」
「白ちゃんのも見せて」
「……ああ」
 白露は完成した栞を受け取ると、少しだけ間を置いてから、それを華夜へ差し出した。
「ほら」
「え、くれるの?」
「そのつもりで作った」
 華夜は目を丸くした。
 それから、ゆっくりと栞を受け取る。
「白ちゃん」
 白露は、真っ直ぐ華夜を見た。
「俺はずっときみの傍に居るから安心しろ」

 華夜はしばらく黙っていた。
 花祭りの音が、少し遠くなる。
 風が吹いて、二人の間を花びらが一枚通り過ぎた。
「……何突然」
 ようやく出た声は、少しだけ照れくさそうだった。
「当たり前じゃん?」
 華夜は笑った。
 いつものように軽く、けれど白い瞳の奥だけがやわらかく揺れている。
 華夜はスターチスの栞を胸に寄せる。
「でも白ちゃん、今の台詞、結構すごかったね」
「何がだ」
「ずっと傍に居るから安心しろ、って」
「事実を述べただけだ」
「ふーん?」
「何だ」
「かっこよかった」
 白露は一瞬黙った。
 それから、ほんの少し眉を寄せる。
「……からかうな」
「からかってないよ」
「その顔はからかっている」
「えへへ、半分くらい」
「かや」
「はいはい。でも、嬉しかったのはほんと」
 華夜がそう言うと、白露はもう何も言えなくなった。
 ずるいのはどちらだ。
 花の中で回って、笑って、秘密を作って、最後にそんなふうに言う。
 白露は小さく息を吐き、華夜の隣へ並ぶ。

 迷子にならないように。
 ずっと傍にいられるように。
 そしていつか、華夜が一番喜ぶラストへ辿り着けるように。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

花村・幸平
氷野ちゃん/h07198
ミナちゃんに会いに行くよ

もうたくさんの人が君に色んなことを言ったかもね
僕は待たせた側でもあるし、君みたいに待ってた側でもある
大事な子がずっと眠っててね
彼が起きるのを待ってるうちに死んじゃった

君は今日たくさん聞いて、たくさん考えたろう
待たせたひとは――博士は、君が待っていてくれたことを嬉しく感じるだろうし、同じくらい辛いはずだよ
そう、辛い。わかる?「百年この花畑に縛りつけた」って思う
君の百年の待ちぼうけは自分のせいだって、僕なら考える
勿論、言ったように
帰りを待ってくれるひとがいるのは嬉しいことだけどね

やあ氷野ちゃん、お待たせ
話せたよ 幽霊にしか言えないことってあるもんでね
氷野・眞澄
花村/h07197
お前のことですから
彼女に会いに行くと思ってました
いってらっしゃい
私はお前の話を妨げないよう
花でも眺めて少し離れて待ってますよ

彼がどんな話をするのか
何となくわかります
彼は私を待ち続けてくれた人ですからね
きっと彼女に寄り添った言葉をかけてあげられる

そういえば
あの人は私の病室にいつも花を飾ってくれましたね

…、待ち続ける辛さも
待たせ続ける辛さも
どちらも理解できるつもりです

私も何か言葉をかけてあげるべきなのでしょうが
もっと早く目覚めていられたら、なんて
待たせてしまった負い目ばかりで
上手く言葉がまとまりそうもないのです

…おや
上手く話は出来ましたか
それならよかった
おかえりなさい、花村

 37号。あるいは、ミナ。
 彼女は淡い生成りの服にエプロンを重ね、髪に一輪の花を挿していた。胸元には古びたペンダント。
 氷野・眞澄(サイレントキー・h07198)は、少し離れた場所からその姿を見ていた。
「お前のことですから」
 隣にいる花村・幸平(フラットライン・h07197)へ、視線を向けないまま言う。
「彼女に会いに行くと思ってました」
 花村は、いつものようにやわく頬を緩めた。
 白い髪が祭りの風にさらりと揺れる。紫の瞳は明るいのに、輪郭が薄い。煙が人の形をして笑っているような男だった。
「えー、読まれてる? 僕ってそんなに分かりやすいかな」
「非常に」
「即答かあ、厳しいねぇ」
「事実です」
 眞澄は杖をついたまま、ミナの方を見る。
 彼女は壊れた屋台の車輪を直すためにしゃがみ込み、工具を手にしていた。そばで店主が恐縮しているが、ミナは淡々と首を振っている。きっと、修理は日常の一部なのだろう。
「いってらっしゃい」
 眞澄は短く告げた。
「私は、お前の話を妨げないよう、花でも眺めて少し離れて待っていますよ」
「うん。お待たせするね、氷野ちゃん」
「長く待たせない程度に戻ってきてください」
「はいはい」
 花村はひらりと手を振り、人波の中へ歩いていった。
 その背中を見送りながら、眞澄は深く息を吐く。
 彼がどんな話をするのか、何となく分かっていた。

 そういえば、あの人は私の病室にいつも花を飾ってくれた。
 窓辺の花瓶。
 名前を知らない花。
 目覚めてから聞いた、彼が通っていた日々のこと。

 眞澄は、その話を思い出すたびに胸の奥が重くなる。
 自分には静かな心臓が与えられている。動くようになった身体がある。今こうして歩いている。
 それでも、待たせてしまった時間は消えない。

 待ち続ける辛さも。
 待たせ続ける辛さも。
 どちらも理解できるつもりだった。

 だからこそ、ミナに何か言葉をかけるべきなのかもしれない。
 だが、彼女の百年の前では、自分の言葉はうまく形にならない。
 もっと早く目覚めていられたら。
 そう考えることに意味はない。
 意味はないが、負い目はいつも意味を持たないところから湧いてくる。

 眞澄は花飾りの前で足を止めた。
 小さな白い花が編み込まれた輪飾りが、風に揺れている。

 花は黙っている。
 だから、少しだけ見ていられる。



 その頃、花村はちょうど修理を終えたミナへ声をかけていた。
「やあ。少しだけ、時間をもらってもいいかな」
 ミナは工具をしまう手を止め、ゆっくり振り向いた。
 硝子玉のような瞳が、花村を見上げる。
「はい。現在、屋台車輪の修理作業は完了しています。次の花籠運搬まで、四分二十秒の余裕があります」
「じゃあ、その四分二十秒をちょっと分けてもらっても?」
「承知しました」
 ミナは真面目に頷く。
 花村は少し笑った。
「僕は花村幸平。幽霊で、警察関係の仕事をちょっとやってて、あと喋ると長いってよく言われる」
「私は37号です。現在はミナと呼称される場合もあります」
「じゃあ、ミナちゃんって呼んでも?」
「問題ありません」
「ありがと」
 花村は屋台の脇に少し寄った。
 そこなら通行の邪魔にならないし、ミナも作業に戻りやすい。子どもが笑い、屋台の鈴が鳴り、花蜜菓子の匂いが風に混じっていた。

「今日は、もうたくさんの人が、君に色んなことを言ったかもね」
 ミナは瞬きをする。
「はい。本日、複数名から会話要請を受けています」
「だよね。人気者だ」
「人気、ですか」
「うん。人気っていうか、心配されてるっていうか」
「心配は、人気と同義ではありません」
「そうかも」
 花村は軽く笑った。
 それから、少しだけ声を低くする。
「僕はね、待たせた側でもあるし、君みたいに待ってた側でもある」
 ミナの表情はほとんど変わらない。
「待っていた、のですか」
「うん。大事な子がずっと眠っててね。彼が起きるのを待ってるうちに、死んじゃった」
 言い方は、あくまで柔らかかった。
 まるで天気の話をするみたいに。
 ミナは花村を見つめる。
「君は今日、たくさん聞いて、たくさん考えたろう」
「はい。複数の意見を受領しました」
「どれも、たぶん嘘じゃない」
 花村は言った。
 ミナは黙っている。
「でもね。待たせたひとは――博士は、君が待っていてくれたことを嬉しく感じるだろうし、同じくらい辛いはずだよ」
「辛い」
「そう、辛い。わかる?」
「解析中です」
「百年この花畑に縛りつけた、って思う」
 向こう側では、尚も子供の笑い声が聞こえる。
「君の百年の待ちぼうけは自分のせいだって、僕なら考える」
「博士が、そう考える可能性があるのですか」
「あると思うなぁ。勿論、帰りを待ってくれるひとがいるのは嬉しいことだけどね」
 花村は、少し肩をすくめた。
「嬉しいと辛いは、両方あるんだよ。めんどくさいね。人間って」
「……博士は、人間でした」
「うん。だから、たぶんめんどくさい」
 ミナは胸元のペンダントを見下ろした。
 古びたそれは、彼女に残された、博士との数少ない思い出なのだろう。
「私は、博士を辛くさせるために待機していたわけではありません」
「分かってる」
「博士が帰った時、私が不在であれば、博士は困ると判断しました」
「優しいねぇ、ミナちゃんは」
「優しい、ですか」
「うん。すごく」
 ミナは困ったように瞬きをした。
 花村はその表情を見て、少しだけ笑った。
「もし博士が君に会えたら、たぶん言うんじゃないかな。待っててくれてありがとう。それから、ごめんねって」
 ミナは黙った。
 少し離れたところで、屋台の店主が誰かを呼ぶ声がした。花籠を運ぶ子どもたちの足音も聞こえる。祭りは続いている。
 ミナは、また長く黙った。小さく頷く。
「花村幸平さん」
「うん?」
「四分二十秒を超過しました」
「あ、本当? ごめんね、長話って言われるわけだよねぇ」
「しかし、情報提供に感謝します」
「うん。じゃあ、僕は相棒のところに戻るね。待たせすぎると怒られちゃうから」
「相棒の方も、あなたを待っていますか」
「うん。たぶんね」
「待たせすぎない方がよいと判断します」
「そうだね」



 眞澄は花飾りの前で待っていた。
 花村が戻ってくる足音に、彼はゆっくり顔を上げる。
「おや」
 いつものように、静かな声だった。
「上手く話は出来ましたか」
「うん。氷野ちゃん、お待たせ」
「それならよかった」
 眞澄は短くそう言った。
 それから、ほんの少し間を置く。

「――おかえりなさい、花村」
 花村は一瞬だけ目を丸くした。
 それから、ふわりと笑う。
「ただいま、氷野ちゃん」

 二人はしばらく、広場の隅で祭りを眺めていた。
 ミナはまた花籠を運んでいる。子どもに道を譲り、倒れかけた飾りを直し、店主に礼を言われて小さく頷く。
「私は何も言えませんでした」
 眞澄がぽつりと言う。
「そんな日もあるよ」
「お前はいつも、そういう雑な慰めをしますね」
「便利でしょ」
「否定はしません」
 眞澄は花飾りへ視線を戻した。
「私も、待たせましたから」
「うん」
「待たせ続けることが、どういうことなのか。今でも時々考えます」
「僕はねぇ」
 花村は祭りの空を見上げた。
「待ててよかったって思ってるよ」
 眞澄は答えない。
 ただ、杖を握る指がわずかに動いた。
「勿論、辛いこともあったけどね。花代とか。病室で独り言を言いすぎて看護師さんに心配されたりとか」
「そこですか」
「あと、寝てる氷野ちゃんに服の感想を求めても返事がない」
「当たり前でしょう」
「でも、待ててよかった」

 百年の約束は、あまりにも長い。
 それでも、待っていた時間がすべて鎖だったわけではないのだろう。
 その中には、花を替える朝があり、声をかける昼があり、帰りを思う夜がある。

 祭りの花は風の中で淡く揺れていた。
 希望と呼ぶには小さすぎる光が、それでも確かに、そこに残っていた。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

賀茂・和奏
※モリスさん(h09495)と

今回はモリスさんに要請され
狙われている方のこと、気になったんです?
勿論襲撃は防ぎたいし
自分も花は好きですよ
祭りも参加していきましょうか

ミナさんに接触前に、小物作りも
はは、貴方からは指示やお願いはあっても
約束するってことはないですしね
俺はお土産にしようかな
今の時期らしい白と薄緑の紫陽花を押し花にしたら
葉書か、封飾にできないか相談を
込めるなら、送る相手に幸いがあるようにと願い
モリスさんの押し花を見てると
なんともらしいと言うか
俺は、約束や誓いが相手を縛らないか
心配になってしまうけど…
そう言う考えもありますね

できた後は、花びら浮かぶ飲み物片手に
彼が声かけるのを後から追って
モリス・ガルニエ
和奏 (h04310)と

今回狙われるお嬢さんの話が、気になってね
約束がそんな形で途絶えるのは悲しいじゃないか

祭りも楽しむとも!
聞こえて来る曲や飾り付け
のどかかつ華やかで良い
願い花の栞作りも参加するものの
互いにとは浮かばず
和奏は割と無理聞いてくれるしね
やはりここは誓いたい相手を浮かべて作る方が楽しい
妻を浮かべ、紫とピンクのスターチスで栞を
永遠に、変わらず彼女の側にいると誓いを込めて
約束も誓いも、果たされることだけが大切ではない
そうしたいと伝える手段だと思うよ、私は

さて、できたら飲み物や菓子を買って
ミナさんを見かけたら声をかけてみようか
ご機嫌よう、良い祭りですね
村の方、あなたも花で何が作ったのかな

 家々の窓辺には花飾りが並んでいる。
 浮かび上がる花弁に、緩やかな笑い声。それは華やかなのにどこか長閑で、急ぎ足の者まで自然と歩幅を緩めてしまうような祭りだった。
「良い」
 モリス・ガルニエ(déferlant・h09495)は、青い瞳を細めてそう言った。
「聞こえて来る曲も悪くない。人々が安心して楽しんでいる音だ」
「確かに、良い空気ですね」
 隣を歩く賀茂・和奏(火種喰い・h04310)も、にこにこと頷く。
「今回はモリスさんに要請されましたけど。狙われている方のこと、気になったんです?」
「ああ」
 モリスは、花飾りの向こうに広がる空を見た。
「約束がそんな形で途絶えるのは悲しいじゃないか」
 百年待ち続けるアンドロイド。
 帰ると言った博士。
 そして、その約束を断ち切ろうとする刃。
 和奏は少しだけ表情を落ち着かせた。
「勿論、襲撃は防ぎたいですし」
「うん」
「自分も花は好きですよ。祭りも参加していきましょうか」
「勿論楽しむとも!」

「では、ミナさんに接触する前に小物作りもしていきますか」
「良いね。祭り事には積極的に参加するべきだ」
 二人は願い花の工房へと向かう。
 白い布の上に、たくさんの花が一輪ずつ並んでいる。
 押し花にして栞にする者、封飾にする者、小瓶に入れて持ち帰る者。工房の周りには、願いや誓いを形にしようとする人々が集まっていた。
 モリスは楽しげに花を眺める。
 紫の花、白い花、淡い桃色の花。吟味する時間も楽しみの一つである。
「互いに贈る花、は浮かばないな」
 彼は少し笑う。
「はは、貴方からは指示やお願いはあっても、約束するってことはないですしね」
「和奏は割と無理を聞いてくれるしね」
「出来る限りの事はさせていただきますよ」
「信頼しているよ」
「便利な言葉ですねえ」
 和奏は苦笑しながら、机の上の花へ視線を戻した。
 選んだのは白と薄緑の紫陽花。
 今の時期らしい涼しげでやわらかな色。雨上がりの庭先に咲いていそうな花を、和奏は指先でそっと示す。
「これ、押し花にしたら葉書か、封飾にできないか相談してみます」
「いい選択だ。君らしいね」
「そうですか?」
「うん。相手の手元に届いた時、きっと心を穏やかにしてくれる。雨の日の傘のように」
「おや。褒められてます?」
「褒めているとも」
「それならありがたく」
 和奏は軽く頭を下げて笑った。
 ――込めるなら、送る相手に幸いがあるように。
 大げさな誓いではなく、受け取った人が少しだけ穏やかな気持ちになるような願い。
 白と薄緑の紫陽花には、そういう静かな優しさが似合っていた。

 一方のモリスは、迷いのない手つきで紫とピンクのスターチスを選ぶ。
「私はこれにしよう」
「スターチスですか」
「永遠に、変わらず」
 その言い方だけで、和奏には誰を浮かべているのか分かった。
「奥様ですね」
「勿論」
 モリスは穏やかに頷く。
 そこに照れも迷いもなかった。
「やはりここは、誓いたい相手を浮かべて作る方が楽しい」
「楽しそうですねえ」
「楽しいよ。こういうものは」
 モリスは、紫とピンクの花を工房の職人へ差し出す。
「栞にしてもらえるかな。妻に、永遠に変わらず彼女の側にいると誓いを込めて」
「承りました」
 職人が花を受け取る。
 和奏はその様子を見ながら、少しだけ目を細めた。
「モリスさんの押し花を見てると、なんともらしいと言うか」
「私らしい?」
「そこまでまっすぐ言わずとも、奥様には伝わるんじゃないです?」
「それでも、率直に伝えたいだろう?」
 あまりにも当然のように言われて、和奏は思わず笑った。
「俺は、約束や誓いが相手を縛らないか、心配になってしまうんですけど……」
「そうだね」
 モリスは否定しなかった。
 花を挟む紙の上で、スターチスの花弁が整えられていく。
「約束は時に、重くなる。誓いも同じだ。果たせなかった時に、痛みになることもある」
「ええ」
「でも私は、約束も誓いも、果たされることだけが大切ではないと思う」
 モリスの声は、相変わらず穏やかだった。
「そうしたいと伝える手段だと思うよ、私は」
 和奏は、少し考えるように黙った。
 約束を守れるかどうか。
 誓いを果たせるかどうか。
 それは確かに大切だ。けれど、誰かの傍にいたい。幸せであってほしい。そう願った瞬間が、その人へ届くこともあるのかもしれない。
「そういう考えもありますね」
「君のように心配する人がいるから、約束は優しく扱われる。私のように誓いたがる人がいるから、約束は花にもなる」
「上手いこと言いますね」
「研究者は、たまに詩人のふりをするんだ」
「ふりですか」
「本職に怒られない程度にね」
 二人は顔を見合わせて笑った。



 その後、二人は屋台で花びらの浮かぶ飲み物と、花蜜菓子を買った。
 和奏は自分の飲み物を受け取り、ちらりとモリスを見る。
「菓子、多くないですか?」
「君も食べるだろう?」
「食べますけど」
「なら問題ない」
「確かに問題ないですね」
 和奏はあっさり頷き、菓子をひとつ受け取った。睡眠は削れても食事は抜かない男である。祭りの菓子ならなおさらだった。
「おいしいです」
「花の香りがする」
「これは三つくらいいけますね」
「買い足すかい?」
「ミナさんに声をかけてからにしましょう。目的を見失いそうなので」
「そうだな、それは困る」
 言いながら、モリスももうひとつ菓子を手に取った。

 広場の端で、二人はミナを見つけた。
 彼女は屋台の花飾りの位置を直しているところのようだ。無人の屋台の前で、花の位置をミリ単位で修正していた。
「少し声をかけてみようか」
 モリスは飲み物を片手に、ゆっくり歩み寄る。
 和奏は後ろからついていった。彼がどんなふうに声をかけるのか、少し興味がある。
「ご機嫌よう」
 モリスは穏やかに言った。
「良い祭りですね」
 ミナは振り向き、数秒モリスを見た。
「こんにちは。良好な評価を受領しました」
「そういう返しをするのか。うん、評価はとても良好だよ」
 和奏は横で小さく笑った。
「自分も楽しませてもらっています。花も、菓子も、飲み物も」
「ありがとうございます。花蜜菓子は今年、例年よりも甘みが8%増加しています」
 モリスは楽しげに目を細める。
「村の方、あなたも、花で何か作ったのかな」
「私は作成補助を行っています。個人用の作成は未実施です」
「そうか。補助の側なのだね」
「はい。希望者の願いや約束が破損しないよう、形状保持を優先して作業しております」
「願いや約束が破損しないように、か。……良い言葉だ」
 モリスは、ほんの少し声をやわらげた。
「約束が途絶えず、花祭りがまた来ることを、私は願っているよ」
 ミナはモリスを見た。
 その言葉の意味を、ゆっくり分解しているようだった。
「はい」

 花びらが一枚、三人の間をふわりと通り過ぎた。
 祭りの歌は続いている。屋台の呼び声も、子どもの笑い声も、風に揺れる花飾りも。

 約束は、人を縛ることもある。
 けれど、誰かの幸いを願うことも。変わらず傍にいると誓うことも。帰ってきた誰かを思うことも、できる。
「さて和奏君」
 モリスが言った。
「菓子を買い足そうか」
「やっぱりですか」
「君も三ついけると言っていただろう」
「言いましたね」
 モリスの懐には、妻へ誓いを込めたスターチスの栞。
 和奏の懐には、幸いを願う紫陽花の封飾。
「では、行きましょうか」
 二人はミナへ軽く会釈して、再び屋台の方へ歩き出した。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

第2章 集団戦 『食用キノコ怪人シュルームくん』


POW キノコをばんばか増やすっシュー!
【着地点にキノコが繁茂する、多量の胞子】を放ち、半径レベルm内の自分含む全員の【装備にキノコを発生させ、鈍重化】に対する抵抗力を10分の1にする。
SPD √キノコを造ってやるっシュー!!
「全員がシナリオで獲得した🔵」と同数の【胞子をばら撒く、ちびキノコ部隊】を召喚する。[胞子をばら撒く、ちびキノコ部隊]は自身の半分のレベルを持つ。
WIZ お前もキノコの一部になれっシュー!
自身の【苗床と化した非生物や地形】に刻まれた【大量のキノコたち】と融合し、【キノコ空間そのもの】に変身する。レベル秒の間、自身の現在地周辺に24時間以内に存在した全対象の√能力が使用可能になる。
イラスト すずや
√EDEN 普通11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

 キノコは激怒した。
 必ず、かの人気者の花祭りを除かなければならぬと決意した。
 キノコには政治がわからぬ。
 キノコは、ケミカルな色をした食用キノコ星人である。
 菌を吹き、仲間を増やして暮して来た。けれども、自分より人気者のアイツ――つまり花に対しては、人一倍に敏感であった。

「花……花、花、花っシュー! どいつもこいつも花っシュー! 花が綺麗! 花が可愛い! 花に願いを込めましょう! ふざけるなっシュー!」
 ぬめっと光るキノコが叫んだ。その名はシュルームくん。食用である。
 歩くたびに「ぽよん」「ぷにょん」とたいへん緊張感のない音を立てる。見た目はゲーミングに光る完全にアレなキノコだが、成分を調べると栄養価は高く、火を通すと旨味が強い。炒め物、スープ、天ぷら、炊き込みご飯、ホイル焼き、クリーム煮。どれにしても大体おいしい。
 だが、その美味さに反して、性格は面倒くさかった。

「俺を見ろ……!!」
 シュルームくんは、震える菌糸のこぶしを握り締めた。
「俺だって彩り豊かっシュ! 俺だって森の恵みっシュ! なのに何だ、花祭り? 願い花? 栞? お前ら、キノコを栞にするっシュ! 無理っシュか! 無理っシュね! じゃあ鍋にするっシュ!」
 本人も最後の方は何を言っているのか分からなくなっていた。
 そんなシュルームくんの怒りは、実にまっすぐ花畑へ向かっていた。
 Anker抹殺計画?
 サイコブレイド?
 アンドロイド37号?

 関係ない。
 キノコには政治がわからぬのである。
 だが、問題はあった。
 シュルームくんが狙っている花畑は、ミナが博士との約束を抱えて毎日向かう場所でもある。
 花祭りの中心となる大切な花々が咲き、人々が願いを込め、祭りを楽しむための場所でもある。
 そこへ、キノコ星人の大群が押し寄せる。
「花なんかじゃねえ! 俺を見ろっシューーー!!」
 そう叫びながら。



 という訳で、君たちのやるべきことは単純だ。

 ひとつ。
 花畑へ向かうキノコ星人シュルームくんと、その配下の大量キノコたちを止めること。
 ふたつ。
 村人や祭りの参加者に、キノコの大群を見られないようにすること。

 そこで、君たちは大きく二手に分かれることになる。

 キノコ係。
 こちらは、花畑へ向かうシュルームくん軍団を迎撃する班だ。
 とにかく倒す。斬る。撃つ。焼く。凍らせる。捕まえる。刻む。
 料理のできる者はその場で下ごしらえしてもいいし、火力に自信がある者はキノコステーキ量産体制に入ってもいい。食べる専門も歓迎である。
 大量に出るキノコを前に、「俺は食うことで戦う」と胸を張れる者は、今日に限って立派な戦力だ。
 ただし、見た目は非常にケミカルなので、初見の勇気は必要かもしれない。
 でも、食用である。
 繰り返す。食用である。

 一方、花祭り係。
 こちらは、村の広場や通りで祭りを盛り上げ、村人たちの気を引く班だ。
 屋台を手伝うもよし。花祭りの広間で芸を披露するもよし。歌や踊り、手品、紙芝居、料理の実演、謎の即興劇。村人たちが「何だ何だ」と集まってくれれば、それだけ花畑方面へ向かう人が減る。
 37号と話しに行く者が居てもいいだろう。彼女が花畑の異変に気づき、正午前に花畑へ向かってしまわないよう、自然に会話を続けてほしい。花や祭り、博士の思い出、願い花のこと。話題はいくらでもある。
 もちろん不自然に引き留めすぎれば彼女は疑問を抱くだろうから、そこは上手くやってほしい。

 ――キノコは激怒した。

 ならばこちらは、フライパンを熱するまでである。
架間・透空
【酸性雨】

なんかとんでもない量のキノコさんがいる!?
あれ、全部食用なんですよね……思わず涎がじゅるり。
醤油炒めに、キノコ鍋、炊き込みご飯、なんてのも捨てがたい
おっといけない、まずは目の前に集中しませんと!食べるのはその後!

って、鸞奇さん!?どうして急に前にっ!
危ないですから……離れてくださいっ!

──決戦気象兵器、起動。
目標、食用キノコ怪人さん達!
三対の羽根を展開し、電荷を蓄える

今宵の晩御飯は……焼きキノコですっ!
雷撃をキノコさん達に叩き込みつつ、こんがりいい火加減で炙っていきます

そう言えば……鸞奇さん、調理できるんですよね?
もしよろしければ、このキノコさん達の下拵え、お願いしてもいいですか?
鸞奇・檸檬
【酸性雨】
えっ、何このキノコ…でっけぇし、動いてる!?喋った!?怖い怖い怖い!!!

架間のバカはなんか涎垂らしてっけど!なんでだよ!最近の若いヤツってこんなに食べ物に飢えてんのか!?

ちょっと架間下がってろ…!…は?動く青色発光キノコなんて食用だとしても危ねぇに決まってんだろ!
って言って前に出たけど…俺なんも出来ねぇ!やばい!終わった!

架間、だから俺の後ろに隠れとけって…!架間!
えっ…架間?……えっ?

えーっと…架間、さん?
……あなた、戦えるタイプだったの?

わー、見事な焼き加減…
………その、料理の腕は良くも悪くも普通だけど…とりあえず、食べやすいように切ればいい?

 ぽよん。
 ぷにょん。
 ぽよよん。
 歩くたびに緊張感のない音を立てながら、ケミカルな色をしたキノコの大群が押し寄せている。傘は青く光り、紫にまたたき、ところどころ緑色にぬめっと反射する。見た目だけなら完全に「食べてはいけない」側だ。
 だが、食用らしい。
「花なんかじゃねえ! 俺を見ろっシューーー!!」
 先頭で叫ぶ巨大キノコ、シュルームくんの声が花畑に虚しく響いた。
 透空は瞳をまんまるにした。
「なんかとんでもない量のキノコさんがいる!?」
 驚き。
 警戒。
 そして、その後に来るもの。
「あれ、全部食用なんですよね……」
 透空の視線がじっとキノコの山へ向いた。
 醤油炒め。キノコ鍋。炊き込みご飯。焼きキノコ。天ぷら。バターソテー。
 脳内で、キノコたちが次々と料理名に変換されていく。

 じゅるり。

「おい架間」
 隣の檸檬が、心底理解できないという顔で彼女を見た。
「今、涎垂らした?」
「はっ。おっといけない、まずは目の前に集中しませんと! 食べるのはその後ですね!」
「食べる前提なんだ!?」
 檸檬は改めてキノコたちを見た。
 でかい。動いている。喋っている。光っている。
 かなり最悪の四拍子である。
「えっ、何このキノコ……でっけぇし、動いてるし喋ってるし……!? なに!? 怖い怖い怖い」
「でも食用です!」
「食用って言えば全部許されると思うなよ!」
 檸檬は叫んだ。
 それから、透空がまたキノコを見て目を輝かせていることに気づく。
「なんでだよ! 最近の若いヤツってこんなに食べ物に飢えてんのか!?」
「飢えてません! ただ、美味しそうなものを見るとつい!」
「この見た目で美味しそう判定なの!?」
「食材は見た目だけで判断してはいけません!」
「説得力ないって!」

 その時、小キノコたちが一斉に跳ねた。
「花畑へ突撃っシュ!」
「シュルーム!」
「俺を見ろ!」
 檸檬は顔を引きつらせながら、一歩前へ出た。
「ちょっと架間下がってろ……!」
「鸞奇さん!? どうして急に前にっ!」
「動く青色発光キノコなんて、食用だとしても危ねぇに決まってんだろ!」
 そう言って前に出た。
 前に出た。
 出たのだが。

「……」
 檸檬は自分の手を見た。
 そして迫ってくるキノコを見た。
 さらに後ろの透空を見た。
 結論。
「俺なんも出来ねぇ! やばい! 終わった!」
「鸞奇さん、危ないですから――離れてくださいっ!」
「いやだから俺の後ろに隠れとけって……!」
 檸檬が振り返る。
「架間!」

 その時、ふわりと透空の髪が浮く。
 三対の羽根が展開し、銀の瞳に光が宿る。

「──決戦気象兵器、起動」
 檸檬が固まった。
「えっ……架間?」
「目標、確認!」
 透空の背に広がる三対の羽根にばちばちと電荷が蓄えられていく。
 花畑の上に薄い雲が集まった。風が渦を巻く。空気がぴりりと震える。
「えーっと……架間、さん?」
 檸檬の声が裏返った。
「……あなた、戦えるタイプだったの?」
 檸檬の声を浴びながら、透空が凛々しく腕を掲げる。
「キノコさんたち、本日の花畑周辺の天気予報をお伝えします──急な落雷に、ご注意ください!」

 瞬間、空から雷が落ちた。
「シュ!?」
 キノコたちの頭上で、閃電が弾ける。
 青白い光が地面を走り、スパーク放電が周囲の小キノコたちをまとめて包んだ。ばちばち。じゅう。ぱちん。
「今日の御飯は……焼きキノコですっ!」
 透空の雷撃は的確だった。
 花畑の花には当てず、キノコたちだけをこんがり炙っていく。
 しかも火加減が妙にいい。表面は香ばしく、内側はぷりっと旨味を残す絶妙な焼き加減だ。

 シュルームくん軍団が大混乱になる。
 雷に打たれた小キノコたちは、ぽよんぽよん跳ねながら転がり、焼きキノコとして地面に並んでいく。
 中には「醤油を……醤油をかけてくれっシュ……」と悟ったような顔をする個体もいた。

 檸檬はぽかんとしていた。
「わー、見事な焼き加減……」
 思わず素で感心してしまう。
 あんなに危険そうだったキノコたちが、今やかなり美味しそうな匂いを放っている。見た目はまだちょっと派手だが、焼けた部分は落ち着いた色になり、表面にじゅわっと旨味が浮いていた。
「鸞奇さん!」
「は、はい!?」
 透空が振り返る。羽根はまだ展開したままで、雷の名残をまとっていた。
「……鸞奇さん、調理できるんですよね?」
「え? ま、まあ。料理の腕は良くも悪くも普通だけど……」
「もしよろしければ、このキノコさん達の下拵え、お願いしてもいいですか?」
「下拵え」
「はい! 食べやすいように!」
 檸檬は転がる焼きキノコを見た。
 そして、花畑へ向かってまだぽよぽよ来る後続のキノコを見た。
 透空はやる気満々である。
 キノコは焼けている。
 自分はさっき前に出たくせに、何もできないまま終わりかけた。
「……とりあえず、食べやすいように切ればいい?」
「お願いします!」
「了解……」
 檸檬は調理用のナイフを借り、焼けたキノコへ近づいた。
 匂いは良い。
 とても良い。
 見た目さえ見なければ、かなり食欲をそそる。
「うわ、ぷりぷりしてる」
 刃を入れると、断面からじゅわっと汁が滲んだ。
「……美味そうなのが腹立つな」
「鸞奇さん! もう一群行きます!」
 透空の雷撃が再び落ちる。
 ばちん、と焼かれたキノコがちょうど檸檬の足元へ転がってきた。
「すみません!」
「反省してる声で次を焼くな!」
 小キノコたちが悲鳴を上げる。
「俺たちは食材じゃないっシュ!」
「花畑を荒らそうとした時点で、今日の御飯決定です!」

「架間さん強いな……」
 檸檬は小声で呟いた。
 その声は、半分は困惑で、半分は感心だった。



「醤油ある?」
「花祭りの屋台から分けてもらえそうです!」
「じゃあ後で醤油炒めにしよう。鍋は時間かかるから無理かもだけど」
「炊き込みご飯……」
「今から米炊く余裕はない」
「ですよね……」
 透空はほんの少ししょんぼりした。

 雷の羽根を広げたまま、炊き込みご飯に未練を見せるヒーロー。
 檸檬は思わず笑いそうになった。
「まあ、焼きキノコだけでも十分だろ」
 透空はようやく羽根をしまい、ぱっと笑った。
 その顔はさっきまでの威圧感が嘘のように明るい。
 檸檬はそんな彼女を見て、少しだけ肩の力を抜いた。
「架間」
「はい?」
「さっきは……なんか、俺が前に出たけど、普通に架間の方が強かったな」
「えっ、そんなこと」
「あった。すごくあった」
 檸檬は苦笑する。
「でも、危ないと思ったんだよ。一応架間も女だし」
 透空は少しだけ目を丸くした。
 それから、ふにゃっと嬉しそうに笑う。
「ありがとうございます、鸞奇さん」
「……別に。一応な、いちおう」

 そうしてシュルームくん軍団は敗北した。
 花畑は守られた。
 今日の昼御飯のメニューは――たっぷりの焼きキノコ!

「いただきまーす!」
 透空の元気な声に、檸檬は呆れたように笑った。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

クラウス・イーザリー
ティア(h10223)と

「うわ……」
サイコブレイドとか全然関係無さそうな奴らが来ちゃったな……

ケミカルな見た目は|故郷《√WZ》の食べ物で慣れているし、食べてみたい
美味しいものは何でも歓迎だ
「うん!任せたよ、ティア!」
元気よく頷いて|無明《二丁拳銃》を構える
料理はあんまり得意じゃないから、ティアがやってくれるならすごく助かる

「了解!」
熱々のフライパンを手にするティアを微笑ましく見て、追い込まれたキノコを影喰で斬る
横向だとぼよぼよするけど縦向きなら大丈夫そうだ

「美味しそう!いただきます!」
見た目に惑わされずキノコたちをぱくぱくして、幸せそうににっこり
すごく旨味があって美味しい
七味ともよく合うなあ
システィア・エレノイア
クラウス(h05015)と

遠くで奇妙な嘆きが聞こえた気がして、追いかけて花畑へやってきた
「うわ」
見た目は食べたらヤバそうなケミカルさだ、ちょっと尻込みしつつ……でも、気になるよね?そのお味!

「戦いの火力はクラウス、調理の火力は俺。で、どうかな?美味しい料理を作るね」
その辺に落ちていた枝を拾い、熱々のフライパンへ変えて準備完了!

「クラウス!そっち行ったよ!」
追いかけて追い込んでクラウスに仕留めてもらって調理開始
横は割きにくいけど縦はすんなりいくんだね
歯応え残してその辺の食べられる雑草も入れて焼く
マイ七味しか調味料が無いけれど、旨味強そうだからいけるかな?
「はい、召し上がれ」二人で手を合わせる

「花なんかじゃねえ! 俺を見ろっシューーー!!」

 その叫びに、クラウスは花畑へ続く小道の途中で足を止めた。
「うわ……」
 隣でシスティアもまったく同じ声を出す。
「うわ」
 二人の視線の先には、ケミカルな色をしたキノコの群れがいた。
 傘は光る。桃色、青緑、紫、黄色。自然界に存在していいのか不安になる発色で、しかも歩くたびに「ぽよん」「ぷにょん」と音がする。
 その先頭で、ひときわ派手なキノコが菌糸のこぶしを振り上げていた。
「俺たちが、この祭りの主役っシューーー!!!」

「サイコブレイドとか全然関係無さそうな奴らが来ちゃったな……」
 クラウスは少し困ったように笑った。けれど、その青い瞳に怯えはない。
 故郷であるウォーゾーンには、見た目だけならもっとよく分からない食べ物もあった。配給食の色が日によって微妙に違うこともあったし、缶詰を開けた瞬間に「これは本当に食事なのかな」と思ったこともある。
 なので、ゲーミングに光るキノコくらいでは動じない。
「見た目は食べたらヤバそうなケミカルさだね」
 システィアは少しだけ尻込みしつつ、しかしすぐに耳をぴくりと動かした。
「……でも、気になるよね? そのお味」
「うん。食べてみたい」
 クラウスは素直に頷いた。
「美味しいものは何でも歓迎だよ」
「じゃあ、決まり!」
 システィアは、その辺に落ちていた枝を拾い上げた。
 竜漿の魔力が淡く灯り、枝はみるみるうちに黒く艶めくフライパンへ変わっていく。しかも、すでに熱い。たいへん熱い。準備は万端だ。
「戦いの火力はクラウス、調理の火力は俺。で、どうかな? 美味しい料理を作るね」
 クラウスの顔がぱっと明るくなった。
「うん! 任せたよ、ティア!」
 クラウスは料理があまり得意ではない。焼くくらいならできるが、美味しく仕上げるとなると自信がない。だからシスティアがやってくれるなら、すごく助かる。
「俺、仕留める方を頑張るよ」
「うん。頼りにしてる」
 その一言に、クラウスは少し照れたように笑った。

 次の瞬間、キノコの群れが一斉に跳ねた。
「花畑へ突撃っシュ! 俺たちのケミカルな彩りを見せつけるっシュー!」
「シュルーム!」
「シュルーム!」

「――あ、来たね」
「やろうか」
 システィアが熱々のフライパンを構えて走り出す。
 その姿をクラウスは一瞬だけ微笑ましく見た。
 システィアがキノコの群れを追い立てると、クラウスの方にキノコの一団が行軍してくる。
「クラウス! そっち行ったよ!」
「了解!」
 クラウスは無明を抜き、追い込まれたキノコへ踏み込んだ。
 が、横向きに刃を入れようとした瞬間、キノコの弾力に手応えが逃げる。
「ぽ、ぼよぼよする」
「ぼよぼよ?」
「横だと、ぼよぼよする」
「じゃあ縦!」
「やってみる!」
 クラウスは刃を立て、すとんと縦に斬り下ろした。
 すると、キノコは意外なほどすんなり割れた。
「縦なら大丈夫そうだ」
「なるほど、繊維方向……」
「俺を研究対象にするなっシュー!」
 シュルームくんが叫ぶ。
 だが、その叫びをよそに、割られたキノコはシスティアのフライパンへ投入された。

 ……じゅう、といい音がした。
 ケミカルな見た目のキノコが、火を通されることで少し落ち着いた色になる。いや、完全に落ち着いたとは言いがたいが、少なくとも「危険物」から「妙に派手な食材」くらいには印象が変わった。
「横は割きにくいけど、縦はすんなりいくんだね」
 システィアは手際よくキノコを裂き、歯応えが残るくらいの厚みに整える。
 周囲に生えていた食べられる雑草も軽く確認してから摘み、ざくざく刻んで加えた。
「調味料は……マイ七味しかないけれど」
「七味あるんだ」
「あるよ、好きだから」
 システィアは真面目な顔で七味を振った。
 赤い粉が、じゅうじゅう音を立てるキノコの上に散る。
 香りが立った。
「あ、いい匂い」
 クラウスの顔が明るくなる。
「旨味強そうだからいけるかな?」
「絶対おいしいよ」
「まだ食べてないのに?」
「ティアが作ってるから、絶対おいしい」
 システィアは一瞬手を止めた。
 それから、ふっと笑う。
「……そう言われたら、失敗できないね」
「無理はしなくていいよ」
「無理じゃないよ。でも、美味しくする」

 その間にも、キノコたちは次々やってくる。
 クラウスが追い込んで、縦に割る。
 システィアが受け取って、焼く。
 時々勢い余った小キノコがフライパンの端で自ら焼かれそうになり、「まだ心の準備がっシュ!」と跳ねて逃げる。そこをクラウスが捕まえる。
「食材が喋ると、ちょっと罪悪感あるね」
「でも食用だよ」
「食用だね」
「しかも花畑を荒らそうとしてる」
「それは止めないと」
「つまり食べよう」
「うん」
 それは、ひどく穏やかな結論だった。



 やがて最初の一皿が完成した。
 ケミカルキノコの七味炒め、野草添え。
 見た目はまだ少し不安。だが、香りは完全に美味しそうだった。旨味のある湯気に、七味のぴりっとした香りが混ざっている。

 システィアは小さな木皿に盛りつけ、クラウスへ差し出した。
「はい、召し上がれ」
「美味しそう! いただきます!」
 二人で手を合わせる。
 それからクラウスは、迷いなくぱくりと食べた。
 見た目に惑わされない。
 大事なのは味だ。
「……ん」
 クラウスの瞳が丸くなる。次の瞬間、ふわっと幸せそうに笑った。
「すごく旨味があって美味しい!」
「ほんと?」
「うん。七味ともよくあうなあ。歯応えもいい」
 ぱくぱく食べる。
 本当にぱくぱく食べる。
 クラウスの柔らかな顔に、素直な幸福が広がっていく。
 システィアも一口食べて、少し驚いたように頷いた。
「あ、美味しい」
「でしょ?」
「これは……悔しいけど、かなり食材として優秀だね」
 フライパンの上から、シュルームくんの遠い叫びが聞こえた。
「やっと俺を認めたっシュか!?」
「認めたよ。美味しい」
「そういう認め方は本意じゃないっシュー!」
 クラウスはまた一口食べた。
「でも、主役になりたいなら、美味しいのはかなり強いと思うよ」
「そうなのかっシュ?」
「うん。皆で食べたら、きっと覚えてもらえる」
 シュルームくんは、少し黙った。
 菌糸のこぶしがぷるぷる震える。
「……花祭りの記憶に、俺も残るっシュか?」
 システィアが笑いながら、次のキノコをフライパンへ入れる。
「花畑を荒らさないなら、ちゃんと料理名も考えてあげるよ」
「本当っシュか!」
「ゲーミングシュルームのピリ辛炒め、とか」
「かっこいいっシュ!」
「それでいいんだ」
 クラウスはくすくす笑った。

 花畑の方では、きっとまだ祭りが続いている。
 村人たちは、こちらでケミカルキノコの大群が七味炒めにされているなど知らないだろう。
 それでいい。
 花祭りは花祭りとして、楽しく穏やかであればいい。

 こちらはこちらで、戦闘と調理を頑張ればいい。
 花畑を守って、美味しいものも食べる。
 それはきっと、悪くない役目だった。
「いただきます」

 その日、花畑の外れでは、花への嫉妬に燃えたキノコたちが次々と倒され、焼かれ、食べられた。
 そして少なくとも二人にとって、シュルームくん軍団はしっかり記憶に残ることになった。

 主に、旨味として。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

降葩・璃緒
【花夜】

可愛いキノコだねぇ。ふふ、確かにっ
あれがキノコの誇り……!
美味しいキノコはだーい好きだけど、花畑を荒らそうとする悪い子は見過ごせないんだよ!
ボク達が美味しく食べちゃうんだからっ
キノコ狩り、張り切ってこー!
鋏でひたすらチョキチョキ
後は輝葬花で双剣にして切ってみようかな
キミ達にはどんなお花が咲くのか気になるし

ココさんはキノコ好き?
お腹いっぱい食べちゃおうねっ
ボクも初めてだからワクワクしちゃう!
時間があれば炊き込みご飯も食べてみたかったんだけどなぁ……今回は我慢だね
ココさん天才!?どっちも試さなきゃ……!
ボクは醤油で味付けするのが良いかなぁ
ココさんは?
キノコステーキ、いっただっきまーす!
ココ・ロロ
【花夜】

わあ~とってもきれいなそらのいろ~!
あるくおとまでかわいいのです!
ココにくきゅーだからおとならない…いいな~
…はっ!そうでした!
わるいこはココたちがおいしくたべちゃいますよ!
キノコさんたくさんだから
森のともだちにもてつだってもらうのです
みんなでかみついちゃえ~!

ココもキノコだいすき!
はい!いっぱいたべましょ~!
ひかるキノコまだたべたことないからたのしみ!
えへへ、どんなあじでしょうね?
たきこみごはん…!わあ~…たべたかったのです
でもでも
バターでやいたり~チーズをのせてたべてもおいしい!
りおさんはどんなあじのがすきですか?
ふふ~、しょーゆのココもすき~!
キノコステーキ、いただきま~す!

 花畑へ続く小道の向こうで、何かが光っていた。
 花ではない。
 宝石でもない。
 歩くたびに妙にかわいい音を立てながら進んでくる、ケミカル色のキノコ軍団である。
「花なんかじゃねえ! 俺を見ろっシュー!!」

 璃緒は瞳をぱちぱち瞬かせた。
「可愛いキノコだねぇ」
「わあ~、とってもきれいなそらのいろ~~!」
 隣のココも、青い瞳をまんまるにしてキノコを見上げた。
 小さな幻想獣人は、ぽよぽよ進軍するキノコたちを前にちいさな前足をそわそわさせる。
「あるくおとまでかわいいのです!」
「ふふ、確かにっ」
「ココにくきゅーだからおとならない……いいな~」
 ぽよん。ぷにょん。
 その音に合わせて、ココの耳がぴこぴこ動く。
 璃緒は思わず笑った。
 だが、すぐに表情をきりっと引き締める。八重歯がちらりと覗いた。
「でもね、美味しいキノコはだーい好きだけど、花畑を荒らそうとする悪い子は見過ごせないんだよ!」
「……はっ! そうでした!」
 ココもはっとした顔になった。
 あまりにも歩く音がかわいく、色もきれいだったため、うっかり感心してしまっていたのである。
 けれど、彼らは花畑を荒らしに来ている。花祭りの大事な花たちを、ぽよんぷにょんと踏み荒らそうとしている。
 それはいけない。
「わるいこは、ココたちがおいしくたべちゃいますよ!」
「そう! ボク達が美味しく食べちゃうんだからっ」
 璃緒は腰の鋏を構えた。
「キノコ狩り、張り切ってこー!」
「おー!」
 ココがちいさな前足を上げる。
 その声に応えるように、周囲の草むらががさがさと揺れた。

「キノコさんたくさんだから、森のともだちにもてつだってもらうのです!」
 小さな鳥、ふわふわのリス、根っこのような手足を持つ小さな森の精、葉っぱを頭に乗せた謎の丸い生き物。
 どこからともなく、ココの森の友達たちが集まってくる。
「いけ~! みんなでかみついちゃえ~!」
 ココの号令で、森の友達たちが一斉に飛びかかった。
「シュ!? 何っシュ!?」
「小さいのがいっぱい来たっシュ!」
 小キノコたちがぽよぽよ逃げ回る。
 リスが傘に飛びつき、鳥が菌糸をつつき、森の精が根っこで足を引っかける。ココも小さな体でぴょんと跳ね、ころころ転がるキノコの前へ回り込んだ。
「逃げろっシュ!」
「花畑に突撃っシューー!」
「あ~! そっちはだめなのです!」
 ぽよんと跳ねたキノコの進路に、璃緒の鋏が割り行ってきた。
「キノコさん! はい、チョキチョキだよ!」
 ちょきん!
 見た目に反して、キノコは案外きれいに切れた。切り口からはじゅわっと旨味が滲む。
「すごい。断面がきれいだね。しかも香りがもう美味しい!」
 璃緒はさらに鋏を動かして、ひたすらチョキチョキとキノコを狩っていく。
 小さなキノコは一口大。大きなキノコはステーキ用。
「次は、輝葬花で双剣にして切ってみようかなっ!」
 璃緒の手の中で鋏が二本の刃の形を取る。
 剣はひらりと舞い、キノコの群れへ向かっていった。
「キミ達にはどんなお花が咲くのか気になるし」
「キノコに花は咲かないっシュ!」
「チャンスありそうだな~って……」
「ちなみにキノコは地面から上の部分を子実体と呼び、これが繁殖に使われる器官で、つまり俺自身が植物でたとえるならば花のようなものっシュ~~!!」
「うわあ、どこかから引用してそうな文章ありがとう! ちゃんと出典元は示そうね!!」

 双剣の刃が通るたび、ケミカルキノコたちはぽよんぽよんと転がっていく。
 倒れたキノコの周りに小さな光の花片がふわりと散った。本人たちにとっては大変な事態だが、見た目だけならかなり綺麗だ。
「ココさんはキノコ好き?」
 璃緒が聞くと、ココは森の友達を応援しながら大きく頷いた。
「ココはキノコだいすき!」
「じゃあ、お腹いっぱい食べちゃおうねっ」
「はい! いっぱいたべましょ~!」
 ココの尻尾がぶんぶん振れていた。
 ひかるキノコ。
 まだ食べたことがない。
 きらきら光って、ぽよんと鳴って、しかも食用。これはもう、かなりのだいじけんである。
「えへへ、どんなあじでしょうね?」
「ボクも初めてだからワクワクしちゃう!」
 璃緒はキノコを一山に集めながら、少しだけ未練がましく呟いた。
「時間があれば炊き込みご飯も食べてみたかったんだけどなぁ……今回は我慢だね」
「たきこみごはん……!」
 ココの目がきらきら光った。
「わあ~……たべたかったのです」
「だよねぇ。キノコの旨味がご飯にしみて、すごく美味しそうだよね」
「でもでも」
 ココはちいさな前足をぴんと立てる。
「バターでやいたり~、チーズをのせてたべてもおいしい!」

 ……璃緒の動きが止まった。
「ココさん天才!?」
「てんさい?」
「ぜったい、どっちも試さなきゃ……!」
 璃緒は急に真剣になった。
 炊き込みご飯は時間がない。だがバター焼きならいける。チーズ乗せも、屋台から少し分けてもらえばいけるかもしれない。醤油があれば香ばしさも出せる。
「ボクは醤油で味付けするのが良いかなぁ。香ばしく焼いて、最後にじゅわっと」
「ふふ~、おしょーゆ、ココもすき~!」
「ひとつめは何にしようか?」
「ココはね、バターとしょーゆ! あとちょっとチーズ!」
「全部乗せだ!」
「おいしいものは、なかよしにしたらもっとおいしいのです」
「名言だねっ」
 そんな会話の間にも、キノコ狩りは続いている。
 森の友達が追い込み、ココが止め、璃緒がチョキチョキ切っていく。

 やがて十分な量のキノコが集まったところで、璃緒は簡単な調理場を作った。
 錬金術で石を並べ、火を起こし、平たい鉄板を温める。

「じゃあ――れっつ、くっきーんぐ!」



 ふたりで厚く切ったシュルームくん系キノコを鉄板へ乗せる。
「バターを引いて!」
 じゅう、と音がした。
 さっきまでゲーミングに光っていた傘は、火が通るにつれて少し落ち着いた色になり、代わりにいい香りが立ちのぼる。
「……醤油、いくよ」
 璃緒が醤油を垂らすと、じゅわっと香ばしい音が弾けた。
 ココが両手をほっぺに当てる。
「いいにおい~!」
「チーズも!」
「もちろん!」
 バターが溶け、チーズがとろりとのびる。
 火の通っていない部分はまだ青みが残っているが、香りは完全に勝利である。
 璃緒は焼けたキノコを二人分に分け、ココのお友達の前にも小さく切ったものを置いた。
「はい、ココさんたち。熱いから気をつけてね」
「はいです!」
 二人は顔を見合わせる。
 周りでは森の友達たちも、小さな欠片を前にそわそわしていた。
「キノコステーキ、いっただっきまーす!」
「キノコステーキ、いただきま~す!」

 ぱくり。

 一口で、じゅわっと旨味が来た。
 次に醤油の香ばしさ。
 バターの甘い香りと、チーズのとろける塩気。
 そして噛むほどに、きのこの歯応えがぷりっと楽しい。
「……りおさん」
「なあに、ココさん」
「キノコさん、わるいこだけど、おいしいこですね」
 ココはにこにこ笑って、もう一口キノコを食べた。

 その日、花畑の外れには、醤油とバターとチーズのたいへん幸せな香りが漂った。
 花祭りの花は無事。
 キノコ狩りは大成功。
 璃緒とココのお腹も、森の友達のお腹も、ぽかぽかおいしく満たされた。

 ただし炊き込みご飯への未練だけは、しっかり次回へ持ち越されたのだった。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

花村・幸平
氷野ちゃん/h07198
・キノコ係
氷野ちゃん見なよ!やばい毒キノコが立って喋ってるよ!
いや~僕らの世界だったらあんな怪異絶対に二秒で通報されてぶち殺されてるわ~、君らこの世界の住人なんだからそんなふうに出てこなければ死なずに済んだのに…しかもほとんど出オチだし…いたわしい話もあったもんだ…

幽体化すれば胞子の干渉は受けそうにないけど、でもあんまり近づきたくないなあ
遠距離から√能力で射撃するか
氷野ちゃんああいうの料理できる?僕は流石に銃で調理する自信ない~ 火も使えない~
キノコって生で食べちゃダメなんだよね? 火を通せる手段がない以上、う~ん…普通に倒すか…積んどけば誰か食べるでしょ
氷野・眞澄
花村/h07197
・キノコ係
なるほど、食用キノコですか
……、あれが? 食用?
何かの冗談でしょう
あんなにケミカルなのに美味しいと?
エリンギみたいな感じならバター炒めなんか美味しいかもしれませんが見た目が いや火を通せば色が抜けるのか…?

胞子の干渉は避けたいですから
遠くから|霊視《√能力》で刻んで仕留めてしまいましょう
これだけ目立つ色をしていれば見落とすことはない
近付くキノコたちはまあ 花村が何とかしてくれるでしょう
私は視界が開けた立ち位置だけ意識しておきましょうね

残念ですが、ライターはあっても調理器具がありません
私にできるのは刻むところまでです
正直興味はありますが諦めましょう

 花村は目の前の光景を見て、ぱっと相棒の袖を引いた。
「氷野ちゃん見なよ! やばい毒キノコが立って喋ってるよ!」
「嫌でも見えています」
 眞澄は杖をついたまま、青白い顔をさらに少し渋くした。

 見えている。
 とてもよく見えている。
 見えすぎているくらいだった。

 眞澄は一拍置いた。
「……あれが? 食用?」
「情報では食用らしいよ」
「何かの冗談でしょう」
「でも異能事件って大体冗談みたいな見た目してるじゃない」
「それは否定しませんが」
 キノコ軍団は、花畑に向かって進軍している。
 傘はゲーミングに発光し、柄はぷりぷりと弾力があり、足元はぽよぽよしている。
 あまりにも派手だ。
 隠れる気がない。
 怪異としては自己主張が強すぎる。
「いや~、僕らの世界だったら、あんな怪異絶対に二秒で通報されてぶち殺されてるわ~」
 花村はしみじみ言った。
「君らこの世界の住人なんだから、そんなふうに出てこなければ死なずに済んだのに……しかもほとんど出オチだし……いたわしい話もあったもんだ……」
「憐れむ前に撃ってください」
「氷野ちゃん冷たい」
「花畑を荒らす予定の食材にかける情けは、今のところ持ち合わせていません」
「食材って言い切ったね」
「食用なのでしょう」
 とはいえ、眞澄の眉間にはほんの少しだけ皺が寄っている。
「……しかし、あんな色味なのに美味しいと?」
「火を通すと旨味が強いって話だね」
「エリンギみたいな感じなら、バター炒めなんか美味しいかもしれませんが……見た目が」

 眞澄は言葉を切った。
 ちょうどその時、ひとつの小キノコが傘を虹色に光らせたからである。
「俺を見ろっシュ! この彩度! 花に勝ってるっシュ!」
「……いや、火を通せば色が抜けるのか?」
「氷野ちゃん、興味出てきてる?」
「興味ではありません。現象の確認です」
「それ興味っていうんだよ」
「違います」
 言いながらも、眞澄はキノコの形状をかなり真剣に観察していた。
 一方、花村はひらひらと手を振り、軽い口調で言う。
「幽体化すれば胞子の干渉は受けそうにないけど、でもあんまり近づきたくないなあ」
「同感です。胞子の干渉は避けたいですから、遠くから仕留めてしまいましょう」
「じゃあ遠距離戦だね。僕、火は使えないけど銃は使えるよ」
「私も霊視で刻みます。これだけ目立つ色をしていれば、見落とすことはない」
「見落としたら逆にすごいよね。闇夜でも光ってそう」
「夜間任務では助かるかもしれませんね」
「助かるかなぁ」

 キノコたちは、ぽよぽよ跳ねながら迫ってくる。
「花畑まであと少しっシュ! 俺たちの彩りを見せつけるっシュ!」
 眞澄は杖を握り直した。
「視界が開けた立ち位置は私が取ります。お前は前に出すぎないように」
「はーい」
 花村は柔らかく笑い、何気ない動作で銃を構えた。
 軽い鼻歌のような調子で狙いを定める。銃口が向いた先、ぽよんと跳ねた小キノコが、ちょうど空中でぴたりと止まったように見えた。
「まず一匹」
「シュ!?」
 乾いた音が響き、小キノコがくるくる回転して倒れる。
 倒れた先で傘がぷるんと揺れた。
「おお、意外と弾力あるね」
「撃った感想がそれですか」
「だって普通の敵なら倒れるだけだけど、あれ、ちょっと跳ね返ってなかった?」
 眞澄も動いた。
 目に見えない刃が、霊視の先でキノコの群れを細かく刻む。
 ケミカルな傘が縦に裂け、柄が輪切りになり、食材としてかなり下ごしらえされた姿で地面に転がった。
「すごい。氷野ちゃん、もう料理の半分くらいやってるじゃん」
「私にできるのは刻むところまでです」
「十分じゃない?」

 言い合いながらも、二人の手は止まらない。
 花村は遠距離から不可視の弾丸を的確に撃つ。
 撃たれたキノコは「ぽよん!」と跳ねたり、「ぷにょん……」と沈んだりしながら倒れていく。
 眞澄は視界の端に現れる小キノコまで逃さず、霊視の刃で刻んでいく。
 切られた断面からは、じゅわっと旨味らしき汁が滲む。
「……香りは悪くないですね」
「ね。氷野ちゃん、本格的に食べたくなってるでしょ」
「ただの確認です」
「何の?」
「食用という情報の妥当性です」
「キノコって生で食べちゃダメなんだよね?」
「一般論としては避けるべきです。――私も、残念ですが、ライターはあっても調理器具がありません」
「火を通せる手段がない以上、う~ん……普通に倒すか……積んどけば誰か食べるでしょ」
「……雑ですが、方針としてはそれがいいでしょうね」



 ある程度キノコの群れが掃けたのを確認して、倒したキノコを近くの空き地へ集め始めた。
 小キノコ、中キノコ、大キノコ。
 傘の色別に分けられた山は、少し遠目にはかなり前衛的な市場の品揃えに見えなくもない。
「これ、誰かが見たら何だと思うかな」
「見られないようにする依頼です」
「そうだった」
「村人には見せない方がいいでしょうね。祭りの花飾りと間違え……るには、少々ぬめっています」
「ぬめりは隠せないかぁ」
 そこへ、一体のシュルームくんがぽよんと跳ねて現れた。
「貴様ら! 俺たちをどんどん食材置き場にするなっシュ!」
「食材だし」
 花村が即答する。
「食用でしょう」
 眞澄も続く。
「食用だけど尊厳はあるっシュ!」
「花畑を荒らそうとしている時点で、尊厳の取扱いは少し難しくなっていますね」
 シュルームくんは菌糸のこぶしをぶんぶん振った。
「俺を見ろっシュ! この傘の発色を! この旨味を! このぷりぷり感を!」
「はい、撃つね」
「話の途、」
 花村の銃撃が、シュルームくんを撃ち抜く。
 シュルームくんはぽよんと大きく跳ね、そこを眞澄の霊視が切り込んだ。

 遠くからは、花祭りの音楽が聞こえている。
 屋台の呼び声。子どもたちの笑い声。
 こちらの惨状――もとい下ごしらえ場――は、どうやらまだ村人には見つかっていないようだ。
「任務としては上々かな」
「花畑への接近は阻止。村人への露見も現状なし」
 眞澄は積まれたケミカルキノコの山を見て、少しだけ沈黙した。
「……しかし、これは本当に美味しいのでしょうか」
「まだ言ってる」
「確認です」
「じゃあ今度、調理器具持ってこようか」
「二度目がある前提で話さないでください」
「でもまた来そうじゃない? 俺を見ろっシュって」
 花村は楽しそうに笑った。
 眞澄は不健康そうな顔のまま、ありそうな未来にほんのわずかに視線を逸らす。

 花村は最後にキノコ山を見上げて、軽く手を振った。
「じゃ、誰かに食べてもらいなね。君たち、出オチにしてはなかなか頑張ったよ」
 積まれた小キノコのひとつが、最後に小さく鳴いた。
「……バター……」
「うんうん。バターと醤油があれば成仏できそうだね」
「本当にいいんですか、それで」
 眞澄の冷静な声に、花村はまた笑う。
 その後ろで、花祭りの歌がのどかに響いていた。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

賀茂・和奏
キノコ係

任せたよと背を押されてしまった
戦闘班で呼ばれたのはわかってるからいいけど
手分けと別れた上司のファイト!
美味しかったら持ち帰ってね!と言ういい笑顔が引っかかる…

しかし、何をそんなに怒ってるんだい、キノコ君!
花と君の魅力はまた別物で
嘆かずとも、美味しく食べてあげるとも!
(すごい色だけど…味がいいならいいか)

刀抜き、霊力で満たし押し寄せるキノコ君達を狩っていく
花畑の方に向かわせぬよう、射程が届かぬところは衝撃波放ち

体の中で稲ちゃんが『あんなの食べるのか!?』と騒いでいるのが聞こえる
まぁ、下ごしらえに手がかかるものの方が美味しいかもよ
片付けたら、村でフライパン借りてバターソテーにして食べよー!
モリス・ガルニエ
花祭り係

キノコ君のことは気になる
本人(?)が食べられていいと言うなら、採取して後で研究したいし食べたいしおもしろ…
とはいえ得手不得手がある、和奏に任せ私は花祭りへ

広間で芸を披露しているというから、そこで一芸を

行く前にミナ君がいれば声をかけ
やぁ、先ほどぶり
君はミナ君と言うそうだね
花で自分用のものは作っていないと聞いたが
好きな花、見たい、見せたい花などはあるかな?
何ちょっとこの後芸をする気でね、参考に
聞けたら、感謝を伝え広間が空けば前へ

今日はこの村で、素敵な花の景色を見せていただいた
感謝を込めて、手品を一つ
ぱちんと指を鳴らし、光る花の幻影と合わせた香りを放ち
村人たちに不安感を抱かせぬよう魅せようか

 花畑の外れで、ぽよん、ぷにょん、と緊張感のない音が近づいていた。
「俺を見ろっシューーー!!」
 ケミカルな色に発光するキノコ星人たちが花畑へ向かって進軍している。傘は桃色、青緑、紫、黄色。
「……任せたよ、と背を押されてしまいましたねえ」
 和奏は、刀の柄に手をかけながら苦笑した。
 戦闘班で呼ばれたのは分かっている。そこはいい。
 問題は、手分けして別れた上司が「ファイト!」とたいへん良い笑顔で送り出したあと、続けて言ったひと言である。

 美味しかったら持ち帰ってね!

 あの笑顔が、妙に引っかかる。
「上司が部下に頼む土産としてはなかなか攻めてますね」
 とはいえ、食用である。
 繰り返し確認された。食用である。
 ならば持ち帰る余地はある。研究したい者もいるだろうし、食べたい者もいるだろうし、単純に面白がる者もいるだろう。
 和奏自身も、少し気にはなっていた。
「しかし、何をそんなに怒ってるんだい、キノコ君」
「花っシュ! 花ばっかり人気っシュ! 俺だって彩り豊かっシュ!」
「花と君の魅力はまた別物で」
 和奏はにこにこと言った。
「――嘆かずとも、美味しく食べてあげるとも!」
「そういう愛され方は想定外っシュゥ!」
 シュルームくんが叫ぶ。
 和奏は内心で、すごい色だけど味がいいならいいかと頷いた。
 こう見えても凄惨な現場でも動じない胆力ぐらいはある。
 ゲーミングに光るキノコくらいなら、まあ、怪異としてはまだ可愛い方かもしれない。歩く音もぽよぽよしているし。

 ただし、花畑を荒らすのは――進軍を止める理由にはなる。
「さて、」
 和奏は刀を抜いた。
 霊力が刃を満たし、薄い雷光が走る。
 何事も、事態は丸く収まる方が良い。なら。
「今回は、まるく切り分けさせてもらいますね」

 押し寄せてくる小キノコたちを、和奏は軽やかに斬り捨てていく。
 傘を避け、柄を狙い、花畑側へ抜けようとするものには衝撃波を放つ。雷を帯びた斬撃は地面すれすれを走り、ぽよんと跳ねたキノコの進路を綺麗に遮った。
「向かうのはこちらではありませんよ」
「ならどっちっシュ!?」
「んー、フライパン方面でしょうか?」
「案内先が物騒っシューー!」
 キノコたちはぽよぽよ逃げ惑う。
 だが、和奏の動きは穏やかな声に似合わず正確だ。逃げ道を塞ぎ、切り分け、まとめて積む。戦闘というより、途中から完全に収穫作業の手際である。

 その時和奏の内側で、狐型神霊――稲ちゃんが騒いだ。
『あんなの食べるのか!?』
 和奏はキノコを斬りながら、普通に返事をする。
「まあ、下ごしらえに手がかかるものの方が美味しいかもしれませんし」
『色が! 色が食材のそれではない!』
「火を通せば落ち着くかもしれませんよ」
『落ち着かなかったら!?』
「その時は目を閉じて食べましょう」
『ほんとに食う気か!?』
 稲ちゃんの悲鳴を聞きながらも、和奏の手は止まらない。
「片付けたら、村でフライパン借りてバターソテーにして食べよー!」
「軽いっシュ! 俺たちの命運が軽いっシュ!」
「塩胡椒も借りられるといいですね」
 気づけば、烏型怪異の気配も、どこか興味津々にキノコの山を見ている。

 もしかするとこちらは食べる気かもしれないなあと、和奏はひとつ笑いをこぼした。



 キノコの大群は気になる。
 本人――本キノコが食べていいというなら、採取して後で研究したいし食べたい。面白そうでもある。

 だが、人間には得手不得手がある。
 今回モリスはキノコを和奏に任せ、花祭りへと赴いていた。

 広間には祭りを楽しむ村人たちが集まっている。
 花冠をかぶった子ども。花蜜菓子を手にした老人。屋台の店主たち。誰も、花畑の向こうでケミカルキノコが輪切りにされているとは知らない。
 それでいい。
 知らない方がいいこともある。

 広間へ向かう途中、銀灰の髪の少女が見えた。
「やぁ、先ほどぶり」
 モリスがゆっくりと声をかけると、ミナは振り向く。
「ええ、こんにちは。評価の更新でしょうか」
「いや。今度は少しばかり世間話というものをしてみようかと思ってね」
 ミナはモリスを見上げると、小さく頷いた。暫く体は開いていますということだろう。
「君はミナ君と言うそうだね」
「はい。その名称で呼称される場合があります」
「花で自分用のものは作っていないと聞いたが」
 ミナは花籠を抱えたまま、少しだけ首を傾げる。
「はい」
「好きな花、見たい花、あるいは誰かに見せたい花などはあるかな?」
「見せたい花、ですか」
「何、ちょっとこの後、芸をする気でね。参考に」
 ミナの瞳がまるで人間のように瞬いた。
 数秒考えているように見える。実際はロード時間というのだろうか、そういうことになるのだろうけれど。

「博士は、夕方の花畑が特に好きだと言っていました」
「夕方の?」
「白い花は金色に見え、青い花は暗く沈む。ただの視覚的錯覚ですが、博士は、それを"別の花畑になるようで神秘的だ"と言っていました」
「なるほど。良い感性だね」
 声は淡々としていた。
 けれど、言葉の奥には静かな願いがあるように、モリスには思えた。
「ありがとう、ミナ君。とても参考になった」
「お役に立てたのでしたら幸いです」
「ああ。良い花の景色を借りるよ」
 ウインクをしたモリスを、ミナが「どうぞ」と見送った。

 モリスはゆったりとした動作で広間の中央へと向かう。
 ちょうど芸の披露をする者が途切れ、人々の視線が散りかけていたところだ。
 今なら前へ出られる。
「皆さん」
 穏やかな声が広間に通る。
「今日はこの村で、素敵な花の景色を見せていただいた」
 村人たちが顔を上げる。
 子どもが「次は何?」と前の方へ寄ってくる。
「――感謝を込めて、手品を一つ」

 ぱちん、と指が鳴った。

 その瞬間、広間の空に光の粒が集まり、花の形になる。白い花、青い花、淡い桃色の花。
 床から咲くのではなく、空中にゆっくり浮かび上がる。まるで風に持ち上げられた花びらが、そのまま昔の――自分の花の形を思い出したかのように。
「わあ!」
 子どもたちが歓声を上げる。
 光る花々は、くるりと広間を巡った。
 昼の光を浴びる白。
 夕暮れ色に染まる金。
 青く沈む花影。
 そこへ合わせるように、ほのかな香りが広がる。
「……あの花畑だ」
 誰かが呟いた。

 ミナが博士に見せたいと語った景色を、ほんの少し借りた幻影。
 村人たちの視線はもう完全に広間へ集まっている。
 子どもたちは光る花を追いかけ、大人たちは感心したように見上げ、老人たちは懐かしそうに目を細めている。

 幻影の花が最後に大きく輪を描いた。
 金色に染まった白い花がふわりと散る。

 香りが淡く残り、村人たちは拍手を送った。

 モリスは、ミナがもうそこにはない花の幻影を見るように、視線をまだ空へと向けているのを見た。
 その姿は広場の端で、一輪の花のように残っていた。



「そろそろフライパンを借りに行きたいですねえ」
 任務は順調。
 村人たちは楽しく祭りに夢中。
 その裏で、ケミカルキノコたちは山盛りの食材として整列している。

 花祭りは平和だった。
 少なくとも村人たちから見れば、たいへん平和だった。
 そして和奏は、キノコの山を前に満足げに頷く。

「なんとかまるくおさまりましたね」
 足元の小キノコが、ぷるぷる震えながら呟いた。
「まるく切られたっシュ……」
「あ、うまい言い方」

 こうして花畑は守られ、キノコは集められ、バターソテーの未来は刻一刻と近づいている。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

七・ザネリ
『さんぶんこ』

名悪役に不可能なことは少ない

怒れるキノコの群れをブツ切りにし
嫌がるくるりに食わせることなんざ朝飯前

いいか、くるり
俺たちが食わねえとな、祭りが台無しだ

安心しろ、大変良く切れる包丁を拝借してきた
見ろ二本足だ、つまり急所は人と変わらねえ
こうだ、首を落とせ首を
なんだヤるのは嫌か?ひひ、なら食うしかねえなァ

キノコを🔪滅多刺しにすることに飽きた後は
くるりの調理へ野次を飛ばすかね

酒のツマミを作れだの
坊ちゃんの土産が足りねえだの
特に意味はない、趣味だ

ムシャ
まあ見た目はアレだが、ウマいな
食え
食え(強制)

お前思ったより料理上手いな、イイ嫁さんになる
よし、あと5品頼むぞ
憂いはない、タッパ―は持参した
戀ヶ仲・くるり
『さんぶんこ』

素敵なお祭りのはずがキノコ(ケミカル)襲来するのなんで!?
私ほぼ戦えないんですけど!
うん?キノコを?食べる?どうして?あんなに暴れてるのを?あえて?
やだぁ!!
おっ、お祭りはっ、楽しく開催したいですけど!
包丁握らせないで!?
ひえっ、き、キノコ、捌けません!※本来捌くものではない
りょ…料理しますぅ…

うわぁ断面までケミカルカラー…!
焼くと高級茸並みにいい匂いするの腹立つぅ!
…はい♡ザネリさん♡(座った目)
うわ躊躇なく食べた
わーおいしいんだー(棒読み)
えっ私は食べな、むぐぅ!?
く、くやしい…おいしい…
…王様のお土産にも詰めましょうか♡
あと5品も!?作れなくはないですけど、食べきれます!?

「素敵なお祭りのはずが――キノコ襲来するの!? なんで!?」
 戀ヶ仲・くるり(Rolling days・h01025)は、その光景を前に瞳を見開いた。
 ただのキノコではない。
 喋る。歩く。光る。怒っている。
「花ァ! 花ばっかり人気っシュ! 俺だって恵みっシュ! 森のスターっシュ!」
「スターはそんなぬめっと光らないと思います!」
 くるりは一歩下がった。
 ほぼ戦えない。いや、少しは時間稼ぎくらいならできる。できるけれど、目の前にいるのはキノコである。しかもケミカル。しかも大群。
 ……どうして高校一年生が、花祭りでキノコの進軍を止める羽目になるのか。人生は理不尽だ。アクマと出会ってから特に理不尽だ。

 その隣で、七・ザネリ(夜探し・h01301)は煙草をふかし、猫背のままキノコの群れを見下ろしていた。
「名悪役に不可能なことは少ない」
「急に何の話ですか?」
「怒れるキノコの群れをブツ切りにし、嫌がるくるりに食わせることなんざ朝飯前だ」
「嫌がるって分かってるならやめてください!」
「いいか、くるり」
 ザネリは、ひょいと肩を竦めた。
「俺たちが食わねえとな、祭りが台無しだ」
「お祭りは楽しく開催したいですけど! 食う方向で守るんですか!?」
 ザネリは聞いていない。
 というより、聞いていてもやめない顔だった。名悪役の顔である。
「安心しろ。大変良く切れる包丁を拝借してきた」
「不安になる単語しかありませんけど!!」
 ザネリの手には、確かに良く切れそうな包丁があった。祭りの屋台から借りたものらしい。
「あいつを見ろ、二本足だ。つまり急所は人と変わらねえ」
「キノコに足の概念を持ち込まれても」
「こうだ。首を落とせ首を」
「わあ! 包丁握らせないで!?」
 くるりは両手を胸の前でぶんぶん振った。
「ひえっ、き、キノコ、捌けません!」
 もちろん、本来キノコは捌くものではない。だが、今回のキノコは喋って歩くので、なんとなく捌くという言葉が似合ってしまう。そこが無性に嫌だ。
「なんだ、ヤるのは嫌か?」
 ザネリがにやりと笑う。
「……ひひ、なら食うしかねえなァ」
「提示の二択がどっちも嫌なんですけどーー!?」

 その時、キノコの群れが一斉に跳ねた。
「花畑へ突撃っシュ!」
「俺を見ろっシュ!」
「花よりキノコ!」
「あ、キノコが花の方に――!」
 くるりが焦ったような声を出す前に、ザネリが笑って指を鳴らす。
「お前ら、」
 声に応えて、どこからともなくご機嫌なぬいぐるみ共が現れた。
 くたびれたウサギ、片目のクマ、首の傾いた犬、やけに笑顔のカエル。どれも可愛い。
 そして、どれも手に小さな凶器を持っていた。
「かわ……怖っ!?」
「行け」
 ぬいぐるみたちは、実に楽しそうにキノコへ飛びかかった。
「シュ!?」
 小さな体を活かして、ぬいぐるみたちはキノコの周りを走り回る。傘をつつき、柄を引っかき、足元を転がして、花畑とは反対方向へ追い込んでいく。
 ザネリはその隙に包丁をひらりと回した。
「さて、ブツ切りの時間だ」
 ザネリは迷いなくキノコを切った。
 切れ味は良い。
 キノコは叫ぶ。
「俺を見ろっシュ!」
「見てるだろ」

 ざく。

「そういう見られ方じゃないっシュ!」
「知るか」

 ざくざく。

 ザネリとぬいぐるみ共が、次々にキノコを食材サイズへ変えていく。
 切られた断面は、外側に負けず劣らずケミカルカラーだった。
「うわぁ、断面まで……!」
「綺麗じゃねえか」
 やがてザネリは、滅多刺し――もとい下処理に飽きたらしい。
 包丁をくるりの手元へ押しつける。
「後は調理だ」
「やだぁ!!」
「祭りは楽しく開催したいんだろう?」
「おっ、お祭りはっ、楽しく開催したいですけど!」
「なら料理しろ」
「りょ……料理しますぅ……」

 くるりは敗北した。
 キノコにではない。ザネリの圧にである。



 花畑から少し離れた場所に即席の調理台が作られた。
 鍋、鉄板、油、塩胡椒、醤油。祭りの屋台から協力してもらった道具が並ぶ。
 くるりは震える手でケミカルなキノコをフライパンへ入れた。

 じゅう。

 音がした。
「……」
 香りが立つ。
「……焼くと高級茸並みにいい匂いするの腹立つぅ!」
 にんにくと醤油を少し。バターを落とす。
 青紫の断面が火を通すにつれて、いくらか落ち着いた色になっていく。完全に普通の色にはならないが、少なくとも「一度は食べ物として議論してもいい」くらいの見た目にはなった。
 ザネリは横から覗き込む。
「酒のツマミ」
「未成年の前でそういうこと言わないでください」
 くるりは眉を吊り上げながらも、手際よくキノコを炒める。
 料理はできる。できてしまう。悔しいことに。
 仕上げに少し胡椒を振って、皿へ盛った。
「……はい♡ ザネリさん♡」
 にっこり。
 ただし目は座っていた。

 皿の上にはケミカルキノコのバター醤油炒め。
 香りは暴力的に良い。
 見た目は、まだやや納得がいかない。
「ムシャ」
 ザネリは躊躇なく食べた。
「うわ躊躇なく食べた」
 ザネリはもぐもぐと咀嚼し、少しだけ目を細める。
「まあ見た目はアレだが、ウマいな」
「わーおいしいんだー……」
 棒読みだった。
 だが、ザネリは気にしない。
 むしろ皿を彼女の方へ差し出す。
「食え」
「えっ、私は食べな」
「食え」
「いや、だから」
「食え」
「強制!?」
 ザネリの長い腕が伸びる。
 くるりが後ずさる。
 ぬいぐるみのクマが後ろから退路を塞ぐ。
 ウサギが皿を持って待機している。

 逃げ場がない。

「むぐぅ!?」
 結局、くるりの口にひと切れ放り込まれた。
「……」
 噛む。
 ぷりっとした歯応え。
 バターの香り。
 醤油の香ばしさ。
 キノコの強い旨味。
「……く」
 くるりは震えた。
「く、くやしい……おいしい……」
「だろ」
 ザネリは満足げだ。
 悔しさのあまり二口目を食べてしまったところで、くるりはふと、ひとりだけ悔しい思いをする必要はないのでは、とたいへん善良ではない名案に至った。
「王様のお土産にも詰めましょうか♡」
「いいな」
 ザネリは名案にすぐ頷く。
「憂いはない。タッパーは持参した」
 鞄からタッパーを出す。
 ひとつではない。
 複数出てきた。
「多くないですか?」
「あと五品頼むぞ」
「あと五品も!?」
「くるり。お前は思ったより料理上手いな、イイ嫁さんになる」
「突然の褒め! え、ええー……作れなくはないですけど、食べきれます!?」
「坊ちゃんへの土産はいくらあっても足りねえ」
 ザネリはぬいぐるみ共を見た。
 ぬいぐるみ共は小さなフォークを構えている。
 食べる気である。食べられるのかは不明だが、やる気はある。
「こっちに労働力もある」
「このぬいぐるみさんたちって、物食べられるんですか……?」



 それから、くるりの第二ラウンドが始まった。
 バター醤油炒め。チーズ焼き。きのこステーキ。きのこスープ。ホイル焼き。和風マリネ。屋台から分けてもらったパンに挟む、ケミカルきのこサンド。
 作るたびに、くるりは「見た目が!」「匂いが!」「悔しい!」と騒ぎ、ザネリは横から「塩が足りねえ」「もっと焼け」「がんがん詰めろ」と趣味の野次を飛ばした。

「俺、花より目立てたっシュか……?」
 最後のシュルームくんが、チーズ焼きになりかけながら尋ねた。
 くるりは山のような料理とタッパーを見る。
 見た目は忘れられない。
 味も忘れられない。
 存在感は、ものすごい。
「……少なくとも、今日の晩ご飯としては目立ってます」
「晩ご飯……!」
 シュルームくんは、なぜか少し満足そうに言った。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

シルヴァ・ベル
🌷花祭り係
ミナ様が異変に気づく前にお話をします

もし、ミナ様というのはあなた様でしょうか
ずっと大切なひとの帰りをお待ちになっているって聞きましたわ
…寂しくはありませんか?それとも毎日が楽しみ?今日こそは帰ってくるのだって、そう思えますか?

わたくしはね、全てのものに心があると信じています
そしてわたくしたちは、自分の心が願うことに逆らえはしません
ミナ様の機械仕掛けの身に宿る心が待ち続けていたいと願うから、百年も経ってしまった
博士の心もいずれ戻ってきます
だって仰ったのでしょう、帰るって
それは晴天に浮かぶ真昼の月か、花畑を渡る風か、知れませんが
わたくしはあなたの願いを祝福します 遠くの世界からでも

 花祭りの広場は昼の光に満ちていた。布飾りは風に揺れ、屋台からは花蜜菓子の甘い香りが流れてくる。

 少し外れで、シルヴァは翅を震わせていた。
 花畑の方から、何かたいへん賑やかな気配がするような気もしたけれど、そこへ目を向けるのは今ではない。
 シルヴァは先ほど陰から眺めていた銀灰の少女に目をやった。
 彼女は倒れかけた花飾りを直し、花を配る村人に手順を確認され、一つ二つと頷いていた。その動作は限りなく人間に近い。

 シルヴァは花籠の縁にふわりと舞い降り、スカートを整えてから丁寧にお辞儀をした。
「もし、ミナ様というのはあなた様でしょうか」
 ミナは手を止め、ゆっくりとシルヴァへと視線を向ける。
「はい。私は、その名称で呼称される場合があります」
「お初にお目にかかります。わたくし、シルヴァ・ベルと申します。宝飾店『星の鍵』を営んでおります」
「宝飾店の方ですか」
 淡々とした返答に、シルヴァは嬉しそうに微笑んだ。
「はい」

「ずっと大切なひとの帰りをお待ちになっていると聞きましたわ」
「はい。当機は待機命令を実行しています」
 ミナの指が、ペンダントに触れた。
「……寂しくはありませんか?」
 シルヴァは問うた。
 責めるのではなく、壊れやすい宝石に布をかけるように、そっと。
「それとも毎日が楽しみ? 今日こそは帰ってくるのだって、そう思えますか?」
 ミナはすぐには答えなかった。
 花籠の中で白い小花が揺れている。
 その沈黙は、迷いというより、遠いメモリーから言葉を探している時間に思えた。

「寂しいの定義は、当機には照合できません」
 やがて、ミナは言った。
「ですが、博士がいない状態を、私は毎日確認しています」
 シルヴァは胸の前で小さな手を重ねた。
「それは、寂しさに似ているかもしれませんわね」
「――博士が帰る可能性は、年々低下しています。しかし、ゼロではありません」
 ミナは、広場の向こうを見た。
 その先に花畑がある。
 彼女が毎日向かう場所。
「博士は帰ると言いました。私は、その命令を守っています」

 シルヴァは少しだけ目を伏せた。
 宝石にも、古い指輪にも、壊れかけた懐中時計にも、残るものがある。
 持ち主の手の温度。
 最後に交わされた言葉。
 開かれなかった手紙。
 人は去っても、品物は覚えている。

 それならば。

「わたくしはね、全てのものに心があると信じています」
 シルヴァは伏せた顔を上げた。
「石にも、古い鍵にも、使い込まれた銀の匙にも。もちろん、機械仕掛けのお身体にも」
 ミナの淡い瞳が、静かにシルヴァを映す。
「私にも、心があると判断しますか」
「ええ」
 シルヴァは迷わなかった。
「そしてわたくしたちは、自分の心が願うことに逆らえはしません」
 小さな翅が光を受けて透けた。言葉は祈りのように広場へ落ちる。
「ミナ様の機械仕掛けの身に宿る心が、待ち続けていたいと願うから、百年も経ってしまった。きっとそれは、とても強くて、とても美しい願いですわ」
「美しい」
「はい。美しいものです」
 シルヴァは、花籠の中から一輪の白い花を見つめた。
「博士の心も、いずれ戻ってきます」
 ミナはわずかに顔を伏せた。
「……しかし。博士の生命活動は、既に停止している可能性が高いです」
 シルヴァは頷きもせず、首を横にも振らず、ただ続きの言葉を紡ぐ。
「けれど、心は形を変えますもの。帰ると仰ったのでしょう?」
「はい」
「ならば、戻ってくるのです」
 それは晴天に浮かぶ真昼の月かもしれない。
 花畑を渡る風かもしれない。
 誰かが語る思い出の中かもしれない。

 帰るという言葉は、ただ扉を開けて姿を見せることだけを意味しない。
 約束が誰かの中で生きているなら、その心はきっと――何度でも戻ってくる。
 そう。きっと。

「ミナ様」
 シルヴァは小さな体をまっすぐに伸ばし、丁寧に礼をした。
「わたくしは、あなたの願いを祝福します。遠くの世界からでも」
 ミナは瞬きをした。
 それから、ほんの少しだけ、ペンダントを握る指に力を込めた。
「祝福を、受領しました」

 それは、ほんの短い寄り道だった。
 けれど小さな妖精が残した祝福は、花びらよりも静かに、ミナの胸の奥へと降りていった。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

夕星・ツィリ
元々キノコはうま味が強い食材だって
本でみた記憶があるの
そんな美味しさと栄養がたっぷりの大きなキノコ
食べずに帰るわけにはいかないもの…!

調理はできないからせめて食材の確保のお手伝いだけでも!
能力を発動して足止めしたキノコたちを一気に貫く!
綺麗に刺せました!
………串焼きキノコが食べたくなっちゃう見た目
ホイル焼きもいいな…
バターのせてじゅわ~って
見た目はゲーミングだけど食用って聞いたもん
きっと美味しいはず

今からはキノコを楽しむお時間です!
料理得意なひとたちが作ってくれたキノコ料理の数々
この炊き込みご飯美味しそう…あ!ホイル焼きある
バターの良い香り!
これと…クリーム煮も欲しいな
えへへいただきます!

 星ではない。
 海の泡でもない。
 花祭りの綺麗な飾りでもない。

「花なんかじゃねえ! 俺を見ろっシュー!!」
 ケミカルな青と紫と緑に光るキノコ星人たちが、視界の先でたいへん自己主張強めに行進していた。
 足音は妙にかわいいが、本人(本キノコ)たちは本気で怒っているようだ。
 夕星・ツィリ(星想・h08667)は、その光景を前にして、青い瞳をぱちぱち瞬かせた。
「……大きなキノコ!」
「俺を見ろっシュ! 花より俺を見ろっシュ!」
「うん。見てるよ!」
 ツィリは素直に頷いた。
 見ている。とても見ている。
 なにしろ、あの色で動いて喋って跳ねているのだから、見ない方が難しい。

 ――だが、ツィリの心に浮かんだのは恐怖ではなかった。
「キノコはうま味が強い食材だって、本でみた記憶があるの」
 銀髪が風にさらりと揺れる。その瞳は真剣だ。
 花畑を荒らそうとするなら止めなくてはいけない。
 けれど、食用である。美味しさと栄養がたっぷりの大きなキノコ。

 それを食べずに帰るわけにはいかない。

「美味しいかどうかは、まだ分からないけど」
 ツィリは少し首を傾げる。
「でも、きっと美味しいはず!」

 期待を受けたキノコたちは、花畑へ向かってぽよぽよ跳ね始めた。
 このままでは大切な花々が荒らされてしまう。
 ツィリは小さく息を吸う。
「調理はできないけど……せめて食材の確保のお手伝いだけでも!」

 ツィリの魔力が、澄んだ糸のように空気へ編み込まれていく。
 それは星河のきらめき。白砂を撫でる波の音。
 遠い海と空がひとつに重なるような光が、彼女の指先に灯った。
「行かせないよ」
 放たれた魔力は、星屑の針となって地を走る。
 跳ねたキノコたちの進路を塞ぎ、足を止め、そして一気に貫いた。
「シュ!?」
「刺さったっシュ!」
「串っシュ!」
 ケミカルなキノコたちが、見事に一直線に並ぶ。
 まるで夜店に並ぶ串焼きのように。
「綺麗に刺せました!」

 そして、数秒後。
「………串焼きキノコが食べたくなっちゃう見た目」
「やっぱり食べる話っシュ!」
「ホイル焼きもいいな……」
 ツィリの想像の中で、キノコたちが銀色のホイルに包まれていく。
 バターをのせる。
 火にかける。
 じゅわ~っと溶ける。
 キノコの旨味とバターの香りが、湯気になってふわりと広がる。
「見た目はゲーミングだけど、食用って聞いたもん」
 ツィリは真面目に頷いた。

「きっと、きっと美味しいはず!」



 やがて花畑へ向かうキノコたちはすっかり足止めされ、回収され、料理上手な者たちの手へ渡っていった。
 ――しばらく後。
 花畑の外れには、小さなキノコ料理の試食場ができていた。

「これは……キノコを楽しむお時間だね!」
 ツィリの声が明るく弾む。
 並んでいるのは、料理得意な仲間たちが作ってくれたキノコ料理の数々。

 香ばしい串焼き。
 醤油の焦げた香りがたまらないバターソテー。
 湯気を立てるキノコ鍋。
「あ! ホイル焼きがある!」
 ツィリはぱっと顔を輝かせた。
 銀の包みを開くと、湯気がふわりと立ちのぼる。
 中では、厚く切られたキノコがバターをまとい、じゅわじゅわと音を立てていた。
「ううん……バターの良い香り!」
 さらに隣には、白くやさしいクリーム煮。
 キノコの旨味が溶け込んで、花祭りの昼に似合う、まろやかな一皿になっている。
「クリーム煮もおいしそう!」
 器にご飯をよそってもらい、ホイル焼きをひとつ、クリーム煮も少し。
 茶色、白、ほんのり残る青と紫。さっきまで花に嫉妬していたキノコたちは、今やすっかり食卓の主役である。

 ツィリは両手を合わせた。
「えへへ。いただきまーす!」
 まずはホイル焼き。
 熱々のキノコを少し冷まして、ぱくり。
「……!」
 ぷりっとした歯応え。
 口の中いっぱいに広がる旨味。
 バターの香りが、星明かりみたいにふわっと残る。
「美味しい」
 思わず声がこぼれた。
「見た目だけで決めなくてよかった」
 ツィリはにこにこ笑って、もう一口食べる。
 皿の上で、バターをまとったキノコがつやつや光る。

「これは……おかわり、したいかも」
 ツィリの小さな声に、どこかから残ったシュルームくんの声が聞こえた気がした。
「人気者に……なれたっシュ……?」
 ツィリは、幸せそうに微笑む。
「うん。とっても!」
 少なくとも今この瞬間、彼女の中で一番星のように輝いているのは、皿の上のキノコ料理だった。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

緇・カナト
【黎明】
ケミカルな色をした食用キノコ星人…?
普通のも栄養価はともかく、
見た目が毒々しいのは避けられそうだケド…
静かな花畑を荒らされる訳にもいかないし
キノコ狩りを手伝うとしようかァ
…何だか既視感あるように思うのは気のせい?

昏い月夜に御用心、と千疋狼たちを呼び出して
イヌ科ってキノコ食べれるっけ?
問題ない。ならば爪牙のキノコ狩りとしよう
入れ食い状態でファンシーな光景だなぁ〜
オレは生キノコは絵的にちょっと…
わざわざ焼けるの待つのも面倒くさ…
雷の精霊ってこういう時に便利だよナー
芳ばしい香りのキノコステーキだったら食べてもイイよぅ
…ひと味足りないと醤油とか
調味料かけたくなってきたなぁ
トゥルエノ・トニトルス
【黎明】
ケミカル色したキノコ星人が現れるらしいな…!
食用…?自ら食べられに来るとは、
健気というか何というか
おっ、そういえば秋にキノコ狩りしたではないか〜
天ぷら、炊き込みご飯にホイル焼き…
どれも美味しかったよなぁ
ひとまず花畑を守りに向かうとしようか

キノコ星人の大群と千疋狼たちで
既に食べ放題会場と化しているな!
我は応援役でもしておけば良いかな…?
おお、焼き茸を御所望とあらば
バリバリ〜と雷の焼き加減は如何だろうか!
揚げたり炊き込んだり炒めるのは
さすがに道具のある所まで運ばないとなぁ
あとケミカル色合い過ぎるのは
食欲減衰的にどうかとも思うぞ?
美味しそうな食べ物は大体
茶色をしているモノだぞ〜……たぶん

 ケミカル色をしたキノコ星人たちが、花畑へ向かって大行進していた。
 傘は桃色、青緑、紫、黄色。ちょっと遠くから見ると綺麗と言えなくもない。

 カナトはその光景を眺めて、灰色の瞳をゆるく細める。
「ケミカルな色をした食用キノコ星人……?」
 言葉にすると、なおさら意味が分からない。
 隣のトールも瞳をぱちぱちと瞬かせた。
「ケミカル色したキノコ星人が現れるらしい……とは聞いていたが、本当にケミカル色なのだな」
 カナトは青緑にぬめっと光る傘を見た。
 キノコが胸を張っている。胸がどこなのかは分からないが、とにかく張っている。
「食用……?」
「自ら食べられに来るとは、健気というか何というか」
「食べられに来たつもりはないっシュ!」
 先頭のシュルームくんがすかさず叫ぶ。
「俺は花より目立ちに来たっシュ! 食べられに来たわけじゃないっシュ! でも食用っシュ!」
「自己紹介はそれでいいの?」
 カナトは軽く肩を竦める。
 面倒なことはあまりしたくない。だが、静かな花畑を荒らされるわけにもいかない。
 あの花畑は、祭りの大切な場所で、誰かの約束の場所でもある。
「仕方ない。キノコ狩りを手伝うとしようかァ――ん?キノコ狩り……?」
「おっ! そういえば秋にもキノコ狩りをしたではないか~!」
 トールはぽんと手を打つ。
「天ぷら、炊き込みご飯にホイル焼き……どれも美味しかったよなぁ」
 トールは真面目に頷いた。
「既視感の正体はそれか」
 カナトは、ふっと空気を夜の方へ傾ける。

「ま。ひとまず花畑を守りに向かうとしようか」
 柔和な雰囲気が少しだけ陰る。足元に影が落ちた。
「昏い月夜に御用心、」
 声に呼ばれて、影が獣の形を取る。
 一体、二体、十体、二十体。
 オオカミを思わせる影の獣たちが、銀月の瞳を輝かせて現れた。
 月夜に獲物を追う、黒い狩りの群れ。
 ――ただし、今回の獲物はケミカルに光るキノコである。
「イヌ科ってキノコ食べれるっけ?」
 カナトは少し首を傾げた。
 影狼たちはじっとキノコを見つめる。
 そして、ふんふんと匂いを嗅いだ後、一斉に尻尾のような影を揺らした。
「問題ないか。じゃあ、爪牙のキノコ狩りとしよう」

 次の瞬間、影狼たちがどっと走り出した。
「シュ!?」
「黒いのが来たっシュ!」
「わんこっシュ!?」
「傘を噛むなっシュ! 発色が売りっシュ!」
 影狼たちは、キノコの群れへ飛びかかる。噛みつく。引っ張る。転がす。追い立てる。小キノコたちはぽよんぽよん逃げ回り、影狼たちはそれを楽しげに追いかける。
「入れ食い状態でファンシーな光景だなぁ~」
 カナトはのんびり言った。
 確かに、ぱっと見だけならとてもファンシーだ。
 黒い狼たちが光るキノコを追いかけている。
「既に食べ放題会場と化しているな!」
 トールが感心したように言った。
「我は応援役でもしておけば良いかな……?」
「応援だけで済むかなァ。あれ、焼かないと食べづらそうじゃない?」
 カナトは影狼が押さえ込んだキノコを見た。
 生キノコ。しかもケミカルな色。噛んでいる影狼たちは気にしていないようだが、カナトとしては絵的に少し遠慮したい。
「オレは生キノコはちょっと……」
「そうなのか?」
「でも、焼いてくれる人は近くに居そうに……」
 カナトが言い終わる前に、トールの顔がぱっと明るくなる。
「なるほど、主が焼き茸を御所望とあらば!」
 トールは自信満々に胸を張り、ぱちんと指を鳴らした。周囲の空気がぱりぱりと震える。
 花畑に向かおうとするキノコの群れの頭上で、闇夜を裂く万雷が光った。

「闇夜を引き裂く万雷の閃光よ、」
 言葉だけ聞けばとても荘厳。
 実際に起こったことは、――刹那の閃光。雷。ケミカルキノコの大量グリル事件である。

 ばりばりばりばりっ!
「シュワアアア!?」
「焼けるっシュ!」
「焦げるっシュ!」

「――雷の焼き加減は如何だろうか!」
「雷の精霊ってこういう時に便利だよナー」
 雷が落ちるたび、キノコたちの傘からぬめっとした色が少し落ち着き、香ばしい焼き目がついていく。
 派手すぎた青緑は深い茶色に。桃色は焦げ目の下でほんのり残り、紫は妙に艶のある焼き色へ変わった。
「おお、茶色くなったぞ!」
 トールは嬉しそうに言った。
「それなりに美味しそうな食べ物の色になったねぇ」
 カナトも満足げに頷く。
「美味しそうな食べ物は大体、茶色をしているモノだぞ~……たぶん」

 影狼たちは焼けたキノコを鼻先でつつき、くわえて一箇所へ運び始めた。
 完全に狩りではなく収穫である。
「偉いねぇ。ちゃんと集めてくれる」
 雷の合間に、影狼たちは小キノコたちを次々と捕獲している。
 トールは雷の火力を少しずつ調整しながら、焦げすぎないように焼く。
「揚げたり炊き込んだり炒めるのは、さすがに道具のある所まで運ばないとなぁ」
「うん。ここではステーキ止まりだね」
「ホイル焼きもしたかったのだが」
「ホイルがないねぇ」
「今度から持ち歩くとしよう! 雷焼き茸ホイル包みができる!」
「今度があるのかい?」
「キノコがまた来るなら、ありうる」
 会話をしながらカナトは焼き上がったキノコをひとつ手に取った。
 少し冷まして、齧る。

「ん」
「どうだ?主」
 トールがわくわくした顔で見上げる。
「旨味は強いねぇ。歯応えも悪くない」
「成功だな!」
「ただ……ひと味足りないなぁ」
 カナトは少し考える。
「醤油とか、調味料かけたくなってきたなぁ」
「醤油!」
 トールも目を輝かせる。
「秋のキノコ狩りでも、醤油をたらしたらたいへん美味かったな!」
「バターもあればいいねぇ」
「バター醤油!」

 花畑の方では、祭りの音がまだのんびり続いている。
 村人たちはこちらで黒い狼たちがキノコ狩りをし、雷獣がケミカル食材を焼き色に整えているとは知らない。
 知らなくていい。
「ひとまず、これで花畑までは行かせずに済みそうだねぇ」
「うむ。焼き茸も大量だ」
「食べ放題会場としては上々だな!」
 カナトは焼きキノコをもう一口齧る。
 トールは、キノコの山を見ながらうんうん頷いた。
「しかし、見た目はともかく、焼けばちゃんと食べ物らしくなるのだな」
「大体茶色になればいけるのかもねぇ」
 シュルームくんが、焼き目をつけられた傘を押さえながら呟く。
「俺も……茶色になれば花に勝てるっシュか……?」
「花とは別枠かなあ」
「別枠……」
 シュルームくんはしみじみその言葉を噛み締めた。
 噛む前に噛まれる側なのだが、それはさておき。

 カナトは影狼たちを労うように指を鳴らし、トールは胸を張る。
 花畑は無事。
 キノコは確保。
 焼き加減は上々。
 あとは味付けの問題だけ。
「じゃあ、運ぼうかァ」
「うむ。食べ放題会場を移動だな!」
「言い方」
 二人は顔を見合わせて、のんびり笑った。
 花祭りの外れには、雷で焼けたキノコの香ばしい匂いが漂っている。
 それは花の香りとはまったく違うけれど、これはこれで、祭りの夜にふさわしい匂いだった。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

和紋・蜚廉
ちるは(h01839)とキノコ狩り

視ろと言われても、我には視覚が無いのだが…
漂う香りはよく伝わってくる
実に美味そうな匂いだ

ちるはの口上に合わせ、
我も諺にて語ろう

きのこだと名乗ったからには|かご《口》に入れ

汝らも、その覚悟で現れたのであろう?

焼くも良し
炒めるも良し
無論、天ぷらも好みだ

塩を添えれば酒の肴に実によく合う

…だが
今日は一つ、珍しい食べ方を伝授しよう

勿論、品種と安全性を十分に確認した上での話だが
マッシュルームの、生食だ

語りの空間の中、
調理の様子を再現してシュルームを皿へ盛り付ける

岩塩に黒胡椒
そして粉チーズを振り掛けて…
完成だ

さあ、手を合わせて頂こう

|全力《美味しい食事》は、これからが本番だ
不忍・ちるは
蜚廉さん(h07277)とキノコ係

おー…光ってますね
見ろと言われてじいっと見つめます
恵みと聞いてこくこく頷きます
なぜならばそこにキノコがいるからです

おじいちゃんが言っていました
いただきますからごちそうさまでした、まで
ひとは集中力にバフがかかる、と

狩るも食べるも敬意を払って
とてもとてもよい笑顔の全力戦闘態勢で挑みます

蜚廉さんはどういう食べ方がおすきです?
直火焼きも蒸焼きも炒めもいいですね

…え、なま、キノコって生で食べれるんですか…?
確かにまっ…シュルームである以上おっけーです
初めて知って興味津々
蜚廉さんのライブキッチンをにこにこで見守り
青いぴかぴかのカルパッチョ完成ですね
あとは食べてから考えます

「おー……光ってますね」
 ちるはは、光りながら行進するシュルームくんを見つめた。
 真正面から。
 逃げも隠れもしないまなざしで。

「見られたっシュ!?」
 シュルームくんが少しうろたえる。
 見ろと言ったのは自分なのに、いざ丁寧に見つめられると照れるらしい。面倒なキノコである。

「視ろと言われても、我には視覚が無いのだが……」
 蜚廉は逆に、低く響く声でそう言った。
 しかしそういわれたからには、古き武の徒は己の感覚を澄ませる。目で見ることはできずとも、漂う香りはよく伝わってくる。湿った土の匂い、花畑の香り、そしてその間に混ざる、ケミカルなのに妙に旨味を予感させるキノコの匂い。
「――実に美味そうな匂いだ」
「美味そうって言われたっシュ!?」
「恵みです」
 ちるははこくこく頷いた。たいへんよい笑顔だった。
 狩る。食べる。だが、そのどちらにも敬意を払う。
 目の前にいるのは花畑を荒らそうとする悪いキノコである。けれどキノコである以上、恵みでもある。ならば、全力で狩り、全力でいただくのが礼儀というものだ。
「おじいちゃんが言っていました」
 ちるはが静かに口を開く。
「いただきますからごちそうさまでした、まで。ひとは集中力にバフがかかる、と」

 ――あたりの空気が、ふ、と落ちる。
 晦。
 彼女の語る不忍語録が、場の輪郭を少しだけ塗り替えた。
 花畑へ向かおうとしていたキノコたちの足取りが、ほんの一瞬鈍る。

 蜚廉もまた、静かに語り始める。
「殻に刻まれし聲よ、影となりて現れろ。我が語り、いま帳を下ろす」
 聲と影が空間に満ち、蜚廉の語りが場を支配する。
 それは戦場であり、調理場である。キノコたちはなぜか整列したくなる。皿に乗りたくなる。いや乗りたくはないのだが、抵抗感が薄れていくように感じた。
「ちるはの口上に合わせ、我も諺にて語ろう」
 蜚廉は堂々と言った。
「きのこだと名乗ったからには、口(籠)に入れ」
 キノコたちが反抗するように一斉に跳ねた。
「汝らも、その覚悟で現れたのであろう?」
「ないっシュ! 花に勝ちに来たっシュ!」
「ならば、皿の上で勝て」
 ぽよぽよと反抗のまま花畑へ向かおうとするが、晦と語りの帳の中では足取りが鈍い。
 ちるはは軽やかに動き、素早い手際で進路を塞ぐ。踏み込む場所、逃げる方向、花畑へ抜ける隙間。すべてを淡々と潰していく。
 一方、蜚廉は真正面から進む。
 キノコたちはその前でぽよんぽよんと跳ねるが、必中の語りの内では逃げ切れない。彼の一撃が、傘を払い、柄を折り、花畑へ向かう勢いを断つ。
「蜚廉さんは、どういう食べ方がお好きです?」
「焼くも良し。炒めるも良し。無論、天ぷらも好みだ」
「まだ調理法を選ばせてないっシュ!」
「塩を添えれば、酒の肴に実によく合う」
「酒の肴!」
 ちるはが少し目を輝かせた。
 未成年なので飲酒の話ではない。だが、塩で美味しいものはだいたい強い。料理好きとして、そこには反応せざるを得ない。
「直火焼きも良い。蒸焼きも炒めも良い。天ぷらは衣の香ばしさが加わる」
「いいですね。直火焼きも蒸焼きも炒めもいいですね」
 ちるははこくりと頷く。
「――でも、今日は道具が限られています」
「うむ」
 蜚廉は、そこで少しだけ声を低めた。
 まるで秘伝を授ける師のように。
「今日は一つ、珍しい食べ方を伝授しよう」
「珍しい食べ方」
 ちるはが興味津々で見上げる。
 キノコたちも、つい耳を傾けた。耳はないが。
「勿論、品種と安全性を十分に確認した上での話だが」
「はい」
「マッシュルームの、生食だ」
「え」
 ちるはが瞬きをした。
「なま、……キノコって、生で食べれるんですか……?」
 シュルームくんも固まる。
「生でいくっシュか……?」
「確かに」
 ちるははじっとシュルームくんを見た。
「まっ……シュルームである以上、おっけーな気が……安全確認済みですし」
 ちるはは真面目に頷いた。
 生食はなんでもよいわけではない。品種、安全性、鮮度、処理。そこを確認した上での話である。
 このシュルームくんたちは、少なくとも依頼情報では食用。さらに蜚廉の語りの中で、食べられる個体と部位だけを選り分ける。

 ――いける気がした。
 不忍の食卓は、慎重かつ大胆なのだ。

 倒されたシュルームの中から、色合いが比較的落ち着き、肉厚で香りのよい個体が選ばれる。
 水気を拭い、薄く切る。
 皿に扇のように並べる。
 青くぴかぴかした名残が、薄片になると不思議と宝石めいて見えた。
「調理もまた、戦いの一部」
「かっこいいです」
 蜚廉は岩塩を指先でつまむ。
 ぱらり。
 薄いキノコの上に、白い粒が散った。
「岩塩」
 次に、黒胡椒。
 香りが立つ。
「黒胡椒」
 そして最後に、粉チーズ。
「そして粉チーズを振り掛けて……完成だ」

 やったー! 完成だー!!!

 ――え? 本当に? 生で食べるの? これ。



 皿の上には、青いぴかぴかのキノコカルパッチョがあった。

 見た目は少し不思議だ。いや、かなり不思議だ。
 しかし岩塩と黒胡椒と粉チーズの力は偉大である。ぎりぎり料理に見える。
「……青いぴかぴかのカルパッチョ完成ですね」
 ちるはは目を輝かせる。
「あとは食べてから考えます」
「考える前に食べるっシュ!?」
「考えすぎると、食べる機会を逃しますので」
「真理っシュ……?」
 蜚廉は皿を前に置いた。
「さあ、手を合わせて頂こう」
「はい」
 二人は、手を合わせる。
 周囲では、まだ捕まっていない小キノコたちがぽよぽよしながら見守っていた。
 花畑の外れに突然現れた、厳かな生食の儀式。
 シュルームくんは自分たちが何と戦っているのか分からなくなってきていた。
「いただきます」
 ちるはは一切れを口へ運ぶ。
 蜚廉もまた、香りを確かめるように味わった。

 まず、しゃくりとした歯触り。
 次に、意外なほど澄んだ旨味。
 岩塩が甘みを引き出し、黒胡椒が輪郭を作り、粉チーズがまろやかさを添える。
 見た目のぴかぴかに反して、味はかなり素直だった。

「……おいしいです」
 ちるはの顔が、ふわっと明るくなる。
「うむ。悪くない」
 蜚廉も満足げに頷いた。
「青いのに、ちゃんとおいしいです」
「青いのにという評価は避けられぬな」
「はい。青いので」
「青いっシュからね……」
 なぜかシュルームくんまで頷いた。
 ちるはは、もう一切れ手に取った。
「でも、蜚廉さん」
「何だ、ちるは」
「焼きも、蒸焼きも、炒めも、天ぷらも、全部試したくなりました」
「当然だ」
 蜚廉の声に、力が宿る。

「おじいちゃんが言っていました」
 ちるはは、たいへん穏やかに続ける。
「おいしいものは、逃がさない方がよい、と」
「それは本当におじいちゃんが言ったっシュか!?」
「嘘か実か、それはさておきです」
「さておかないでほしいっシュ!」
 蜚廉は誇り高く構え、ちるはは全力でよい笑顔を浮かべた。
 逃げようとするキノコたちの進路は、もうふたりの語りの中にある。
 花畑へは行かせない。
 けれど、恵みとしては丁重にいただく。

 シュルームくんは、皿の上のカルパッチョと、これから待つであろう焼き、蒸し、炒め、天ぷらの未来を見比べた。
「俺を見ろとは言ったっシュけど……」
「見ています」
「そこまでとは言ってないっシュー!」
 花畑の外れに、ちるはの笑い声がふわりとこぼれる。
 蜚廉の語りは低く、厳かで、それでいてどこか楽しげだった。

 全力で美味しい食事は、これからが本番。
 キノコたちの戦いもまた、皿の上で始まったばかりだった。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

日宮・芥多
魔女代行くん/h00071
キノコ係

え?俺はもう帰りますよ?
奥さんへのお土産も購入しましたしね
食材の確保…?あのキノコを?俺が?何故?
成る程、理解しました!
嫌です!

ううむ、何と言われても俺はそろそろ帰りたいんですけど…
…あ、気が変わりました。やります
いやぁ、あのキノコ共、くっそ五月蝿いのでシンプルに癪に障りました!

とりあえず、片っ端から切り刻んで渡していけばいいんでしょうか
はい魔女代行くん、こちらは目が灼けるような蛍光ブルーのキノコ共です
こちらは、どちらかというと抜けるような青空ブルーのキノコ共です
コピペみたいな存在かと思いきや、意外と個体差があって、どれも一様にキモいんですね!

はい、食いません
茶治・レモン
あっ君/h00070

キノコ料理…
まぁ、マンドレイクと似た感じで作ってみましょう
あっ君、食材の確保をお願いしますね
たまには人の役に!たって!

なんだかんだ、あっ君が殺る気になった様なので…
それでは、料理タイムといきましょう!
蛍光色、しかもブルーとは夏らしくて爽やかですねえ
青空ブルーも、まるで抜けるような夏空です
まぁ僕は食べたくはないですが!

まずはキノコとニンニクをスライスして、炒める
塩と胡椒で味付け、最後にバターを加えれば…
キノコのバターソテー!
ただし青色

…あっ君、味見してみます?
奇遇ですね、僕もです
花祭りで配りましょうか
間違ってもあっ君、奥さんへのお土産に持って帰ってはダメですよ!

「キノコ料理……」
 レモンは少し離れた近づいてくるキノコの大群を見て、ふむと顎に手を当てた。
「まぁ、マンドレイクと似た感じで作ってみれば、なんとかなるんじゃないでしょうか!」
「えー……そんなに似てますか?」
 芥多はそれに対して、たいへん嫌そうな顔で尋ねた。

 彼は既に帰る気満々だった。
 奥さんへのお土産も購入した。祭りもそれなりに楽しんだ。あとは帰るだけ。帰って、奥さんにお土産を渡して、平穏な時間を過ごすだけ。
 ――そのはずだった。

「あっ君、食材の確保をお願いしますね」
「え?」
「たまには人の役に! たって!」
「食材の確保……? あのキノコを? 俺が? 何故?」
 芥多は、改めて前方を見た。
 ぬめっと光る青いキノコが、両手のような菌糸を振り上げている。
 すぐ横では蛍光グリーンの小キノコが「俺を見ろっシュ!」と叫び、さらに後ろでは紫のキノコが「バター醤油!」と調理後の夢を語っている。
 芥多はにこりと笑った。
「成る程、理解しました!」
「はい!」
「嫌です!」
「即答!」
「俺はもう帰りますよ? 奥さんへのお土産も購入しましたしね」
「花畑が荒らされますよ」
「それは困りますね」
「キノコが増えますよ」
「……でも、何と言われても俺はそろそろ帰りたいんですけど」
「あと、うるさいです」
 その瞬間、芥多の笑顔が少しだけ変わった。

「……」
「……」
「……気が変わりました! やります!」
「えっ、急ですね!?」
「いやぁ、あのキノコ共」
 芥多は紫の瞳を細めた。

「くっそ五月蝿いので、シンプルに癪に障りました!」

 理由は言葉通り、あまりにもシンプルだった。
 だがやる気になったならそれでいい。
 レモンはぱっと表情を明るくする。
「なんだかんだ、あっ君が殺る気になった様なので……それでは、料理タイムといきましょう!」
 レモンが手を掲げる。
「不思議な魔法のお時間です!」
 その言葉と共に、花畑の外れに小さな店が現れた。
 魔女の店『大鍋堂』。
 薬草瓶、古びた本、銅鍋、鍋敷き、大小の包丁、そしてなぜか店内を歩き回る四肢を持ったマンドレイク。
「ようこそ、大鍋堂へ!」
 看板が掲げられる。
 マンドレイクが両腕のような根を振って歓迎した。

「さて、あっ君」
 レモンは調理台を整えながら言った。
「片っ端から切り刻んで渡してください」
「はいはい。下拵えですね」
 芥多は、血液を纏わせた斧型の怪異兵器を手にした。
 表情は飄々としている。
 けれど、次の瞬間に響いた声は、妙に明るく、妙に仕事が早そうで。
 幕無。
 血を帯びた斧がうなる。
 ぽよぽよ跳ねていたキノコたちが、逃げる間もなくまとめて狩られていく。
「シュ!?」
「切られたっシュ!」
「食材サイズっシュ!」
「とりあえず、片っ端から切り刻んで渡していけばいいんでしょうか」
「はい、お願いします!」

 芥多は本当に片っ端から切り刻んでいった。
 ただ雑に斬るのではない。部位ごとに分けるのが上手い。傘、柄、謎のぷにぷにした部分。青いもの、より青いもの、青すぎるもの。
「はい魔女代行くん、こちらは目が灼けるような蛍光ブルーのキノコ共です」
「わあ、すごい色ですねえ」
「こちらは、どちらかというと抜けるような青空ブルーのキノコ共です」
「夏らしくて爽やかですねえ」
「コピペみたいな存在かと思いきや、意外と個体差があって、どれも一様にキモいんですね!」
「爽やかさとキモさって両立するんですね」
「食べ物で両立しないでほしいですね!」
 レモンは大鍋堂の調理台に青いキノコたちを並べた。
 蛍光ブルー。青空ブルー。若干緑寄りブルー。見る角度によって紫に転ぶブルー。
 どれも食用。どれも安全確認済み。
 だが、食欲をそそるかと聞かれると、かなり哲学を感じる。

「蛍光色、しかもブルーとは夏らしくて爽やかですね。青空ブルーも綺麗な色です」
「褒めてます?」
「僕は食べたくはないですが!」
「でしょうね!」
 芥多が即答する。
 レモンは気にせず調理を始めた。
「では、まずはキノコとニンニクをスライスして……」
 義手の動きは手慣れている。
 マンドレイクが棚から包丁を取り、まな板を運び、にんにくを渡してくる。
 青いキノコを薄く切ると、断面もちゃんと青い。
 レモンは数秒、それを見つめる。
「……青い」
「徹底してますね」
「ここまで来ると少し偉い気もしてきます」
 フライパンに油をひき、にんにくを入れる。
 じゅわ、と音がして香りが立つ。
 そこへ、スライスした青キノコを投入。

 じゅううう。

 思いのほか、美味しそうな音がした。
 香りも悪くない。にんにくの香ばしさと、キノコの旨味らしき匂いが合わさっている。
 ただし色は青い。
「おお……」
 レモンは感心した。
「見た目以外はまともです」
「見た目が大事な場面もありますよ」
 バターが溶ける。
 青いキノコに絡む。
 香りだけなら完全に勝利している。

「キノコのバターソテー!」
 レモンは皿へ盛り付けた。
「ただし青色」
 皿の上には、青いバターソテーがあった。
 蛍光ブルーと青空ブルーの取り合わせが、白い皿の上で主張している。
 にんにくとバターの匂いは最高。見た目は、食卓に出たら一度家族会議が開かれる色だった。
「……あっ君、味見してみます?」
「はい、食いません」
「奇遇ですね、僕もです」
「じゃあ何で聞いたんですか?」
「一応……」
 レモンは皿を眺めた。
 芥多も眺めた。
 青いキノコのバターソテーは、湯気を立てている。
 香りはいい。
 すごくいい。
 でも、青い。

「花祭りで配りましょうか」
「村人に何を配る気ですか」
「食用ですし」
「食用は免罪符じゃないんですよ、魔女代行くん」

 芥多は笑いながら、次の群れを斧でまとめて刈り取る。
「ほらほら、次の青色素材ですよ」
「ありがとうございます。こちらは少し緑がかっていますね」
「青信号みたいですね」
「食卓で青信号は嫌だなあ」
「食べて進めということでしょうか」
 そんな会話をしながら、二人は驚くほど手際よく作業を進めていった。
 芥多が狩る。
 レモンが切る。
 炒める。
 青い皿が増える。
 また狩る。
 また炒める。
 大鍋堂の店先には、青いキノコのバターソテーが次々と並んでいく。

「間違ってもあっ君、奥さんへのお土産に持って帰ってはダメですよ!」
「奥さんへのお土産に、青い発光キノコのバターソテーを混ぜる男だと思われてます?」
「ほんの少し」
「心外ですね!」
「日頃の行いでは?」
「キノコが悪いです」
「責任転嫁っていうんですよ、それ」
 やがて、花畑へ向かうキノコの群れはほとんど片付いた。
 大鍋堂の前には、青いバターソテーの皿が山のように並んでいる。
 花畑は無事。
 村の祭りも、まだ平和に続いている。

 レモンは皿をひとつ持ち上げ、真剣な顔で言った。
「――では、これは勇気のある方へ配るとして」
「勇気の試験みたいにしないでください」
「食べた人には、きっと忘れられない思い出になります」
「それはそうでしょうね。主に色で」
「でも香りはいいですよ」
「香りだけはいいですね」
 二人はもう一度、青いバターソテーを見た。
 湯気がふわりと立つ。
 にんにくとバターの香り。

 花祭りの外れにはたいへん美味しそうな香りが漂っていた。
 ただし、皿の上は青い。
 そしてレモンは、最後に看板を少しだけ直す。

「――ようこそ大鍋堂へ。本日のおすすめは、青色キノコのバターソテーです!」
 芥多は即座に言った。
「おすすめしない方がいいですよ」
「ですよねえ」
 二人の前で、青い料理は今日一番の存在感を放っていた。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

泉・海瑠
【幻鱗】

え…あいつ、一人称”俺”なの…!?
いやいやそのビジュアルならそこは”僕”とか…”おいら”とか
そういう可愛い系じゃなくて…??

んー…食用…食用、ねぇ…
巳理さん、あれ食べる…?
だよね…オレもあんまり…いや、全然食欲湧かないなぁ…
本人は食べて欲しそうな感じだけど…

ま、食べるかどうかはさておき
こんな謎キノコの謎胞子を巳理さんに触れさせるなんて言語道断!
早業でRe:Serum構えて、敵が密集してる地点狙って√能力で先制攻撃
付与する状態異常は勿論”炎”!
周囲に燃え移らないようにしつつ、風牙の風力で延焼範囲を広げるよ

さてと…この大量のキノコステーキ、どうしよう…
…あ。鰯たち、これ食べる?
だよね(苦笑
黛・巳理
【幻鱗】
(色々衝撃的できょとん
(隣の海瑠を見て、驚くところはそこなのかと思い、茸を見つめ
…イメージ戦略的に擦れ違うことはままあることだろう
よって、しかたがないんじゃないかな?

えっ
…い、いや…僕は、そのちょと…おなかいっぱい、かな?
(焦りつつ遠慮して

あの発光は、一体どうなっているのだろう
少し気にはなるが、あまり深堀してはいけない気配がするので、咳払いで切り替えて

圧倒的な早業で茸を切り刻み焼く海瑠の姿に、何でも器用にできて偉いなと目を細めつつ

では、僕もはじめようかな
お喋りな茸にはお似合いだろう?√深淵

鰯の群れを茸に殺到させる
海瑠が怪我をしないように気を付けて観察

なお、鰯はそっと首を振った(拒否

 海瑠は、先頭に立つシュルームくんを見て最初にこう言った。
「え……あいつ、一人称"俺"なの……!?」
 隣の巳理はというと、きょとんとした顔を前に向けている。
 キノコが歩いている。
 喋っている。
 光っている。
 花畑を荒らそうとしている。
 衝撃的な点はいくらでもある。
 その中で海瑠がまず気にしたのが一人称だったことにも、少し驚く。

「そのビジュアルならそこは"僕"とか……"おいら"とか、そういう可愛い系じゃなくて……??」
「……イメージ戦略的に擦れ違うことはままあることだろう」
 巳理は少し考えてから、淡々と言った。
「まあ。よって、しかたがないんじゃないかな?」
「巳理さん、優しいね!? あいつのブランディングまで受け入れるの!?」
「本人が"俺"でやっていきたいなら、それを尊重するしかない」
「キノコの自己決定権……!」

 ふたりの会話を前にして、シュルームくんは菌糸のこぶしを振り上げた。
「俺は俺っシュ! 花より目立つ森の恵みっシュ!」
「ほら、俺って言ってる」
「聞こえてるから余計に気になるんだけど!」
 海瑠は一度深呼吸して、改めてキノコの群れを見た。
 食用。
 食用らしい。
 見た目は食欲が湧くというより、理性が「確認を取れ」と言う色合いである。
「食用……食用、ねぇ……」
 海瑠はちらりと巳理を見る。
「巳理さん、あれ食べる……?」
「えっ」
 巳理はめずらしく、少しだけ焦った顔になった。
「……い、いや……僕は、その、ちょっと……おなかいっぱい、かな?」
「だよね……オレもあんまり……いや、全然食欲湧かないなぁ……」

 前を跳ねる本人(本キノコ)たちは、なぜか食べてほしそうな感じではある。
 花より目立ちたい。
 森の恵みとして認められたい。
 ならば食べられるのもひとつの主張なのかもしれない。

 ――だが、海瑠はすぐに顔つきを変えた。
「ま、食べるかどうかはさておき」
 緑色の瞳が、番犬の色を帯びる。
「こんな謎キノコの謎胞子を巳理さんに触れさせるなんて言語道断!」
 巳理は隣で瞬きをした。
 その顔は無表情に近い。けれど、ほんの少しだけ、目元が柔らかくなる。
「最初に僕の心配かい?」
「当たり前!」
 海瑠は即答し、早業でRe:Serumを構えた。
 キノコたちはこちらの事情などお構いなしに迫ってくる。
「花畑へ突撃っシュ!」
「俺を見ろっシュ!」
 海瑠が素早く銃口を上げると同時に、風牙の弾丸が放たれた。
 着弾地点を中心に咆哮の波紋が広がる。風が唸り、犬の吠え声のような響きが花畑の手前を駆け抜けた。

 付与する状態異常は、炎。
 ただ燃やすのではない。
 周囲の花や草に燃え移らないよう、海瑠は弾道と風の向きを細かく見ていた。
 風牙の風力が炎の範囲を広げる。――広げる先は、キノコの周りだけ。
「シュ!?」
「燃えたっシュ!」
「焼きキノコっシュ!」
「俺たち、ステーキになるっシュ!?」

「花畑には行かせないよ」
 海瑠の声は明るい。
 だが、その底にあるものは揺るがない。
 守ると決めたものの前では、彼は番犬であり、狂犬でもある。

 巳理はその姿を見て、静かに目を細めた。
 圧倒的な早業。敵の密集地点を見極め、炎と風で焼き、周囲に被害を出さない。

 何でも器用にできて偉いな、と巳理は思う。
 口に出すと海瑠が照れるかもしれないので、今は口にはしないけれど。
「あの発光は、一体どうなっているのだろう」
 巳理は焼かれてなお青く光るキノコの傘を見つめた。
「少し気にはなるが……あまり深掘りしてはいけない気配がするな」
「巳理さん、研究しないでね!? 持って帰らないでね!?」
「持ち帰りはしない」
「本当に?」
「少なくとも、生きたままは」
「不穏な限定をしない!」
 巳理は咳払いした。
「では、僕もはじめようかな」

 割ったアンプルの胆礬が、青くきらめく。
 それは水の底に沈む星のように輝き、次の瞬間、青き鰯の群れへと変じた。
 ――その群れは、深淵より来る。
 小さな鰯たちは、巳理の周囲を回遊する。
 青く、冷たく、美しい。だがその実、猛毒の致死率を抱えた"最弱の青嵐"である。
「お喋りな茸にはお似合いだろう?」
 鰯の群れが、キノコへ殺到した。
「シュ!?」
「魚っシュ!?」
 鰯たちはキノコの周りを泳ぐように回り込み、胞子を散らそうとする個体を牽制する。
 海瑠が炎で焼く。
 鰯が動きを乱す。
 風牙が炎を押し、深淵が逃げ道を塞ぐ。
「巳理さん、右の大きいの!」
「見えている」
 青い鰯が一斉に向きを変え、大キノコの足元へ群がる。
 その瞬間、海瑠の弾丸が着弾した。
 炎と風が巻き上がり、巨大なキノコはこんがり焼けて横倒しになる。

「さすが、巳理さん!」
 戦場の真ん中で、海瑠は少し嬉しそうに笑った。
 巳理はそっと視線を逸らす。



 やがて、花畑へ向かうキノコたちはほとんど焼き払われ、いや、焼き上げられた。

 辺りには香ばしい匂いが漂っている。
 見た目は相変わらず少し発光しているが、少なくとも生の時よりは食べ物らしくなっていた。
「さてと……」
 海瑠は大量のキノコステーキを見下ろす。
「この大量のキノコステーキ、どうしよう」
 巳理も見た。
 藍色の瞳が、静かに悩む。
「食用ではあるのだろう?」
「でも食べたい?」
「……おなかいっぱい、かな」
「だよね」
 海瑠は苦笑した。
 それから、ふと思いついたように、巳理の周囲を泳ぐ青い鰯たちへ声をかける。

「……あ。鰯たち、これ食べる?」
 鰯の群れは、ぴたりと止まった。
 一斉に焼きキノコを見る。
 青く光るキノコステーキ。
 香りはいい。色は、だいぶ個性的。

 鰯たちは、そっと首を振った。
 魚に首があるかどうかはさておき、確かに振った。
「だよね」
 海瑠は苦笑した。
「鰯にも拒否権はあるか」
 巳理が淡々と言う。

 シュルームくんの焦げた傘の一部が、最後にぷるりと震える。
「俺……食べられないっシュか……?」
 海瑠は少し困った顔をした。
「食べる人はいると思うよ。オレたちが今ちょっと満腹なだけで」
「本当っシュか?」
「うん。ほら、香りはいいし」
「見た目は?」
「……個性的」
「つまり目立ってるっシュね!?」
「そういうことにしよう」
 巳理がうなずく。
「花とは違う方向で、十分目立っている」
「巳理さんがまとめた」
「まとめる必要がある気がした」
 二人は顔を見合わせて、少し笑った。

 花畑は無事だった。
 胞子は巳理に触れず、海瑠も怪我をしていない。
 青い鰯たちは役目を終えて、静かに巳理の周りを回遊している。
 焼きキノコの山だけが、香ばしい湯気を上げて残っていた。
「じゃあ、料理できる人に渡そっか!」
 海瑠が明るく言うと、巳理はほんの少しだけ目を細めた。

 花祭りの音楽が風に乗って聞こえてくる。
 騒がしいキノコたちは静かになり、花畑には穏やかな光が戻っていた。
 海瑠は大きく伸びをして、隣の巳理を見る。
「じゃ、帰ったら正午までお茶にしよっか。キノコじゃなくて」
「それがいい」
「甘いのもつける?」
「……少しだけ」
「少しだけ、ね」
 そうして二人は、焼きキノコの山を後続の料理係へ託した。
 なお、鰯たちは最後まで、キノコからそっと距離を取っていたという。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

ラガルティハ・サンセット
※連携歓迎

*茸係

ずいぶん素敵な色だなぁ
まぁ激怒する気持ちも…わからなくは…う~ん
とりあえず、調理のお手伝いはできるかな

君達が向かう先の花畑を
とても大切にしてる人が居るんだ
その進撃は止めなくちゃいけないから、ごめんね
あ、君達の言い分もわかるよ
自分を誇りに思うのって大切だし

焔を纏った錬成剣を振るって
一気にキノコの群れそのものを焼き尽くそう【全力魔法、属性攻撃
勿論弾道はきちんと見定めて
土地全体を燃やさず絶妙な焼き加減にしようね【弾道計算

いやあおいしく食べてもらったほうが
キノコくん達もうれしいかなと思って…
そうでもない、のかい?

もしいい感じに料理してくれる人が居たらいただこうかな
…あ、おいしい(もぐ
コルヴス・ペネグリーヌ
37号には栞の礼もある。
村で何かできれば……いや、適材適所だ。俺はキノコの迎撃に向かおう。

普段なら殲滅優先だが、今日は祭りだ。
花を散らすのは忍びない。多少の配慮は必要か。
精霊銃で雷属性の弾丸を射出し、電気締め。状態異常【状態異常耐性低下】を付与。
瞬時に影業で捕縛して食用油で状態異常【油まみれ】に。
止めは詠唱錬成剣でキノコを切断。調味料を振りかけて、状態異常【おいしくなあれ】を付与。ライターで着火し、丸焼きに料理する。

戦闘が終わったら、俺も一口賞味しよう。
ふむ。確かに味は良い。目立ちたがるだけはある。

負傷は覚悟しているが、仲間に迷惑をかける行為は「非効率的だから」しない。

【アレンジ、連携歓迎】

 青、桃色、紫、緑。
 近づいてくるそれは夕焼けの色とも、花の色とも違う。自然界が祭りに便乗して、少し張り切りすぎたような発色にも感じる。

 ラガルは、それを見てにぱっと笑った。
「ずいぶん素敵な色だなぁ」
 素直な感想だった。
 派手で、賑やかで、たしかに目を引く。
 先頭のシュルームくんは菌糸のこぶしを振り上げ、花畑へ向かっている。
「俺だって森の恵みっシュ! 花ばっかり見てないで、俺を見ろっシュ!」
「まぁ激怒する気持ちも……わからなくは……う~ん」
 ラガルは少し首を傾げる。
 自分を誇りに思うことは、大切だ。
 見てほしいと願う気持ちだって、きっと悪いものではない。

 ただし。
「君達が向かう先の花畑を、とても大切にしてる人が居るんだ」
 夕焼け色の髪が、風に揺れる。
 白い瞳は柔らかいままだが、その奥に微かな光が灯った。
「その進撃は止めなくちゃいけないから、ごめんね」
「止められてたまるかっシュ! 花畑を俺色に染めるっシュ!」
「それは、ちょっと困るねぇ」

 ――その時、横合いから乾いた銃声が響いた。
 雷光を帯びた弾丸が、先頭の小キノコの足元を撃ち抜く。
 ばちり、と青白い電気が走り、跳ねていたキノコがその場で硬直した。
「シュ!?」
「加勢する」
 漆黒の髪の傭兵、コルヴスが精霊銃を構えて立っていた。
 金の瞳は冷静に群れの動きを測っている。
 彼もまた、花畑へ向かうキノコたちを前にして、やるべきことを決めていたようだ。
「37号には栞の礼もある。村で何かできればと思ったが……俺は迎撃向きだ。こちらへ来た」
「助かるよ。僕はラガル。君は?」
「コルヴスだ。話は後でいい。前列を止める。いけるか?」
「うん。炎の扱いには慣れてる。土地を燃やさない程度に調整もできるよ」
「十分だ」
 初対面の挨拶としては簡素だった。
 けれど戦場ではそれでいい。
 名を知り、役割を知る。あとは背中で、相手の呼吸を読むだけだ。
「普段なら殲滅優先だが、今日は祭りだからな」
 コルヴスは新たな弾丸を込める。
「花を散らすのは忍びない。多少の配慮は必要か」
「そうだねぇ。焼くなら、キノコだけ」
「問題ない」
「頼もしいね」

 コルヴスは、それ以上の返事の代わりに引き金を引いた。
 雷属性の弾丸が三発。
 ケミカルな群れの前方へ着弾し、電気締めのようにキノコたちの動きを止める。
 ばちばちと放電し、傘がぴくぴく震えた。
「痺れるっシュ!」
「俺、締められてるっシュ!?」
 コルヴスの足元から影が伸びた。影業が獲物を絡め取り、暴れるキノコたちをまとめて縛る。そこへ食用油の瓶が器用に投げ込まれ、影がぱしゃりと中身を広げた。
「状態異常、油まみれ」
「ワオ。じゃ、合わせないとね」
 ラガルは思わず笑い、それから両手で詠唱錬成剣を握った。
 剣身に焔が纏わりつく。夕陽のような赤。黄昏の翼と同じ色。
 ――炎は荒れ狂わない。細く、強く、狙い澄ました線となって、剣に沿う。
「僕は焼きの工程を」
「焦がすなよ」
「うん。おいしく食べてもらったほうが、キノコくん達もうれしいかなと思って」
「嬉しくないっシュ!」
「え? そうでもない、のかい?」
「そんなの、ちょっとしか思ってないっシュ!」
「ちょっとは思ってるんだ」
 のんびりとした声を出しながら、ラガルは一歩前へ出た。

 焔の錬成剣が振るわれる。
 一閃。
 炎の弧がキノコの群れを包み、油をまとった傘に香ばしい焼き目を刻む。
 二閃。
 逃げようとする後列の進路を断ち、花畑へ向かう道だけを綺麗に塞ぐ。

 炎は花に届かない。
 地面を舐めることもない。
 弾道を見定め、風の流れを読み、キノコの群れだけを包み込む。
「ほう」
 コルヴスが短く感心した。
「器用だな」
「救助で火を使う時もあるからねぇ。燃やしたら助けられないもの」
「なるほど。理に適っている」
「そっちもすごいね。動きを止めて、逃げ道も塞いでる」
 会話の間にも、二人は止まらない。
 コルヴスの雷弾がキノコの足を止める。
 影業が絡め取り、列を整える。
 ラガルの焔がそこへ走り、焼き色をつけながら群れを削る。
 逃げた一匹は、コルヴスの詠唱錬成剣が斬り落とす。
 大柄な一体は、ラガルが炎で炙ってから、コルヴスが切断する。
「右、三体」
「はいよ」
「奥に一体抜ける」
「止めるね」
「今のは良い」
「ありがとう」
 初対面のはずなのに、不思議と呼吸が合っていく。
 片方が場を制し、片方が仕留める。
 夕暮れの空を鴉が切り、竜の焔がその軌跡を照らすようだった。

「俺を見ろっシュ! 俺の主張を聞けっシュ!」
 凡そのキノコを払い終わると、ついにシュルームくん本人が飛び出してきた。
 焼き目のついた傘を震わせ、まだ諦めていないとばかりに拳を突き上げる。

「自分を誇りに思うのって大切だし、君の言い分もわかるよ」
 ラガルは真っ直ぐに言った。
「でも、誰かの大切なものを壊してまで見てもらおうとするのは、違うんじゃないかな」
「う……」
「皿の上なら目立てるぞ」
 コルヴスが言った。
 ラガルが瞬きをする。
「皿の上」
「味が良ければ記憶に残る。見た目も派手だ。目立ちたいという要件は満たす」
 シュルームくんは、ぷるぷる震えた。
「皿の上で……主役……?」
「そうだ」
 コルヴスは精霊銃を構えた。

「だからまず締める」
「結局っシュー!」

 雷弾が着弾し、シュルームくんの動きが止まる。
 影が絡む。
 油が散る。
 ラガルが焔の錬成剣を掲げる。
 焦げすぎず、生焼けでもなく。
 シュルームくんは、たいへん良い香りを漂わせながらころんと転がった。

「……俺、目立ってるっシュか……?」
「とても」
 ラガルが笑う。
「まあ、匂いは良い」
 コルヴスも頷いた。



 戦闘が終わる頃には、花畑の手前にキノコの丸焼きが整然と並んでいた。
 油と調味料と焔のおかげで、香ばしい匂いが漂っている。
 花は一輪も焦げていない。
「お見事」
 ラガルが言うと、コルヴスは肩を竦めた。
「そちらもな。広範囲火力をあそこまで絞れるなら、組む価値がある」
「褒めてくれてるのかな?」
「そうだ」
「そっか。じゃあありがとう」

 二人は、焼き上がったキノコのひと切れをそれぞれ手に取った。
 ちょうど通りかかった料理係が、醤油を少したらしてくれる。
 湯気が上がり、香りがさらに強くなった。
「いい感じに料理してくれる人が居たらと思ったけど、もう十分おいしそうだねぇ」
「賞味しておくか」
「うん。じゃあいただきます」
 ラガルはひと口食べて、白い瞳を丸くした。
「……あ、おいしい」
 ぷりっとした歯応え。
 強い旨味。
 香ばしい焼き目と醤油の風味。
 コルヴスも一口食べ、わずかに眉を上げた。
「ふむ。確かに味は良い。目立ちたがるだけはある」
「うん。花とは違うけど、これはこれで主役だねぇ」
 焦げ目のついたキノコは、どこか満足そうに沈黙していた。

 花畑は守られ、祭りは続く。
「またどこかで会ったらよろしくねぇ」
「契約次第だな」
「またキノコがいたら?」
「……調味料次第だ」
 ラガルは声を立てて笑った。
 焔の残り香と、丸焼きキノコの香ばしい匂いが、花祭りの風に混ざっていった。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

汀羽・白露
【白華】

何故そこで棒読みなんだ
…まぁ、俺としてもキノコの苗床になるのは御免だがな

なんだ、かや
アレを食いたいのか
それなら狩り尽くす――
って、だから俺に生える前提で話を進めるな…!

…なんにせよ、ここで倒しておかねばならないのは確かか
37号や村人たちに被害があってもいけないしな…
(なにより、かやに寄生されでもしたらそれこそ大問題だ

かやの動きに合わせて俺も√能力発動
猫紙の攻撃していない対象を撃っていく
生憎俺自身が紙だからな…炎系の技はないが
倒した後に調理すれば良いだろう
見せるのは”美味そうに食って貰えている”幻惑
せめてもの慈悲だ

…で、かや
倒したこれらはどうしたいんだ?
しょうがないからと俺に向けるな…!
御埜森・華夜
【白華】
マジか

…マジか(キノコを見て白露を見てキノコを見た
キノコの栞はちょっと…ねぇ?
俺やだよー、白ちゃんからキノコ生えたらー!(棒読み
えーんえんえん…
てゆか、これは飛んで火に入る初夏キノコ?
キノコがキノコ背負ってきた?
バーベキュータイム的な?

(キノコを見る
(歩く、キレてる、自己顕示欲強め

…えーん!白ちゃんにキノコ生えたらやだよー!

くっ、
かくなるうえは…
いくぞー!チームもふもふ、ふぁいおー!√猫紙

あれじゃん、俺にキノコ生えたらさ“俺を見ろっシュ!”的な?ヤバいね、ふふ

どーしよこのキノコ
猫ちゃん、あーん…え?何?コンプラ違反?う、うそー!?

しょーがないなぁ
白ちゃん。はい、あーんっ

どお?おいしー?

 花畑の外れに、華夜は信じがたいものがいた。
「花なんかじゃねえ! 俺を見ろっシューーー!!」

 ケミカルな色をしたキノコの大群が自己主張強めに跳ねている。傘は青や紫や緑にぬめっと光り、柄は二本足めいて動き、先頭のシュルームくんは菌糸のこぶしを振り上げていた。
 華夜は、それを見た。
「マジか」
 そして隣の白露を見た。
 もう一度、キノコを見た。
「……マジか」
「二度言うほどなのか」
「いや、だって白ちゃん」
 華夜は白い瞳で、たいへん真剣にキノコを見つめる。
「キノコの栞はちょっと……ねぇ?」
「誰も作れとは言っていないだろう」
「俺やだよー、白ちゃんからキノコ生えたらー!」
 棒読みだった。
「何故そこで棒読みなんだ」
「えーんえんえん……」
「泣く気が一切ない声だな――まあ、俺としてもキノコの苗床になるのは御免だが」
 白露は呆れたように言いつつ、前方のキノコたちを見やる。
 歩く。喋る。怒る。自己顕示欲が強い。しかも、食用らしい。
 物語としてはずいぶん奇妙な登場人物だ。ページの隅に落書きされた悪役が、勝手に本編へ飛び込んできたような風情がある。
「えーん! 白ちゃんにキノコ生えたらやだよー!」
「だから俺にキノコが生える前提で話を進めるな……!」
 華夜は両手で顔を覆って嘆くふりをしたが、指の隙間からしっかりキノコを見ている。
 白露はその横顔を見て、ため息をついた。
「なんだ、かや。アレを食いたいのか」
「え?」
「それなら狩り尽くすが――」
「白ちゃん、即断がすごいね」
「君が食いたいなら仕方ないだろう」
「うーん。これは飛んで火に入る初夏キノコ? キノコがキノコ背負ってきた? バーベキュータイム的な……?」
 それでも、キノコたちが花畑へ向かっているのは確かだった。
 37号や村人たちに被害があってはいけない。
 なにより、華夜に寄生されでもしたら、それこそ大問題である。
「……なんにせよ、ここで倒しておかねばならないのは確かか」
「うん。白ちゃんにキノコが生える前にね」
「違う。花畑を守るためだ」
「はいはい」

「俺を見ろっシュ! 花より俺を見ろっシュ!」
「あれじゃん、俺にキノコ生えたらさ。"俺を見ろっシュ!"っていうようになるのかな? ヤバいね、ふふ」
「想像するな。俺にも想像させるな」
「白ちゃん、今ちょっと嫌そう」
「かなり嫌だ」
 華夜はそこで、ぱんと手を打った。
「うん。かくなるうえは……いくぞー! チームもふもふ、ふぁいおー!」
 急ぎ猫の手型の栞をインクに浸す。
 描かれた猫たちが、紙の上からぴょんぴょんと飛び出した。
 丸い猫、長い猫、少し不機嫌そうな猫、なぜか堂々とした猫。彼らは一斉に、爪切りしていない爪をきらりと光らせる。
「猫っシュ!?」
「猫の手っシュ!」
 猫紙様の群れが、キノコたちへ突撃した。
 ひっかく。叩く。足元を転がす。傘の上に乗って勝手にくつろぐ。キノコたちはぽよぽよ跳ねながら大混乱だ。
「白ちゃん、あっち!」
「分かっている」
 白露もまた、華夜の動きに合わせて能力を発動する。
 白銀の光を纏った幻影の弾丸が、静かに指先から放たれた。

 弔弾の光は猫紙がまだ触れていない群れの中心に着弾し、ふわりと幻想霧を広げる。
 キノコたちの目の前に、幻が咲く。
 焼き網の上で香ばしく焼かれるキノコ。
 バター醤油をまとい、皿の上で大歓声を浴びるキノコ。
 村人たちに「美味しい」と言われ、花とは違う意味で注目されるキノコ。
「シュ……?」
「俺たち……美味そうに食われてるっシュ……?」
「目立ってるっシュ……?」

「……見せているのは、"美味そうに食って貰えている"幻惑だ」
 白露は淡々と言った。
「せめてもの慈悲だ」
「それって慈悲扱いでいいの?」
 華夜が笑いながら、猫紙をさらに走らせる。
 猫たちは幻に見惚れたキノコたちの足元へ飛び込み、爪でぺしぺし叩き、花畑とは逆方向へ追い込んだ。
 白露の弾が混乱した群れを射抜き、華夜の猫紙が残りを引っかく。
 ふたりの動きは、言葉以上によく噛み合っていた。
「右の青いやつ、逃げてるよ」
「撃った」
「早」
「君が言う前から見えていた」
「白ちゃん、頼もしいねぇ」
「当然だろう」
 白露の声がまさしく当然と言いたげに少し低くなる。
 華夜はそれを聞き逃さず、にこにこした。

 キノコたちは次々倒れていく。
 猫にひっかかれ、幻惑に惑い、皿の上で主役になる未来を見せられて、戦意がふにゃふにゃになっていった。
「花畑より……皿の上……?」
「俺たち、食卓で輝くっシュ……?」
「バター醤油……」
「敵の意志が弱ってるね」
「幻惑が効いているようだな」
「うーん、元々ちょっと食べられたい気持ちあったんじゃないかな」
「……かなり厄介な自己顕示欲だな」



 やがて、最後の一群も倒れた。
 花畑へ向かうキノコはもういない。
 代わりに花畑の手前には大量の食用キノコが転がっている。

 色は相変わらず派手だが、幻惑のせいか、どことなく「調理待ち」の顔をしているように思った。
「……で、かや」
 白露はキノコの山を見下ろす。
「倒したこれらはどうしたいんだ?」
「どーしよっかなー」
 華夜はしゃがみ込んで、猫紙の一匹を抱き上げた。
「猫ちゃん、あーん……」
 猫紙はじっとキノコを見た。
 それから、すん、と顔を逸らした。
 別の猫も後ろ足で砂をかけるような仕草をした。
「え? 何? コンプラ違反?」
 華夜が目を丸くする。
「う、うそー!?」
「猫にケミカルキノコを食わせるな」
「だって食用だって」
「食にも対象があるだろう」
「猫ちゃんたち、意識高いねぇ」
「そういう問題ではない」
 華夜はしょんぼりしたふりをして、次に白露を見上げた。
「しょーがないなぁ」
「嫌な予感しかしない」
「白ちゃん」
「やめろ」
「はい、あーんっ」
「しょうがないからと俺に向けるな……!」
 白露が後ずさる。
 華夜はにこにこと、いつの間にか誰かが焼いてくれたらしい小さなキノコの欠片を差し出している。
 焼き目がつき、醤油の香りがする。
 見た目はまだ少し青いが、香りは確かに悪くない。
「白ちゃん、ほら。せめてもの慈悲だよ」
「それはさっき俺が敵に使った言葉だ」
「返ってきたね」
「返すな」
「おいしー?」
「まだ食っていない」
「じゃあ食べたら分かるね」
 華夜の白い瞳が、楽しそうに細められる。
 白露はしばらく抵抗した。
 ……抵抗したが、華夜があまりにも嬉しそうなので、結局小さく息を吐いた。
「……一口だけだ」
「やった」
「その顔をするな」

 白露は、差し出された焼きキノコを渋々口に入れた。
 香ばしい。
 ぷりっとした歯応え。
 旨味が強く、醤油がよく合う。
 見た目から想像したより、ずっとまともだった。
「……悪くはない」
「おいしい?」
「悪くはないと言った」
「つまりおいしいんだね」
「言っていない」
 華夜は満足そうに笑った。
 猫紙たちは足元で「にゃあ」と鳴いた。食べはしないが、どうやら任務達成の拍手らしい。
「白ちゃんも認めたこの味」
「認めてはいない」
「はいはい」

 花畑は無事だった。
 村人たちも37号も、ケミカルキノコの自己顕示欲に巻き込まれずに済んだ。
 倒されたキノコたちは、このあと料理係の手でさらに美味しくされるだろう。

「ねぇ白ちゃん」
「何だ」
「白ちゃんにキノコ生えなくてよかったね」
「生えない」
「でももし生えたら、俺が丁寧に栞にしてあげる」
「絶対にやめろ」
「えー」
「えーではない」
 華夜は笑い、白露は呆れた顔をする。
 花祭りの風が、花の香りと焼きキノコの香りを一緒に運んでいく。

 物語のページに挟むには、少しばかり奇妙な一日。
 けれど華夜が笑っているなら、白露にとっては、それなりに悪くない日ではあった。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

黒南風・螢
【紡旅】
元気なキノコの調理は有識者にお任せして、他の人たちが巻き込まれないように、お祭りに音で花を添えようかねぃ。

っ即興でセッションと、洒落込もうじゃないか

(流石に、スパイス、にはちょいと過激だろうからねぇ、この毒は。
なんて思ったのは内緒)

「そういや、博士はどんな音楽が好きだったんだぃ?」
37へ話しかけ

ムジカくんと一緒に持参したJ-45で音楽を奏でたりステップを踏んでみせたり、まつわる想い出を聞いたりして交流

人が集まってきたらリクエストを聞いたり、楽しげな曲で一緒に楽しんでもらうのもよさそうだよねぃ。
どうせなら花に纏わる歌、なんてのもよさそうだよぃ。

その裏で影の獣達に村を回ってもらって戦闘に巻き込まれそうな人がいないかとか安否確認はしてもらったり、戦闘の様子を確認してもらっておくよぃ

(過去を、その記憶が欠落した身には、【忘れられない思い出や約束】ってのはちょいと眩しくてねぃ。
なんて嘯いて
37を含めたヒトの心を守りたいと願う心優しい付喪神の、優しい心も、守られるべきだと思うんだよねぃ)
エメ・ムジカ
【紡旅】
ふふ、キノコはちょっと難しいからねぇ
みんながお怪我しないように!いっしょに守ろう
音楽でお祭りの時間を

(どんな音楽を届けよう?楽しくて、みんなが笑顔になれる歌がいいな)

ぼくも知りたい!どんな感じだろう?
三日月型の竪琴を冒険鞄から取り出し
聞いたままのイメージを爪弾く
どう?ミナちゃん!
即興で螢ちゃんと一緒に再現をする

人が集まって、関心が引けたなら
次は、ぼく達の音楽も聴いてくれる?
みんな!ぼくと螢ちゃんといっしょにお祭りの続きを楽しもう!

人が集まれば沢山の心が寄り集まって
ぼくは紡がれる物語を奏でる旅人として
掬い上げるんだ!

例えば流れ星を見た時の感動のように
心を一つに集めて

この歌は
ずっとずっと高く遠く奔ってゆく
楽しい想い出
幸せな願い
未来への煌きとみんなの希望を繋いで

(僕は人の心を守ると…遠い昔に誓った付喪神)
誰も悲しむ事のないように
顕現する五線譜の輝きは空を舞い
星降るような煌きを宿した白兎の精霊が宙を駆けて
皆を目を惹きつけるようにパフォーマンス

――これは、皆の幸せを守るラプソディ

 花冠をかぶった子どもたちが走り、屋台からは花蜜菓子の甘い匂いが流れてくる。願い花の栞を作る工房は今日も賑わい、村人たちはいつもの祭りより少し浮き立った顔で笑っていた。

 その穏やかな景色の、ほんの少し外側で。
「花なんかじゃねえ! 俺を見ろっシューーー!!」
 何かが、たいへん元気に自己主張していた。

 螢は広場の端でゆるりと肩を竦める。
 首から下を隠す服、紫煙を纏うような飄々とした笑み。琥珀色の瞳は、花祭りの賑わいと、その裏で近づく騒ぎの気配をどちらも見て。
「さて、元気なキノコの調理は、有識者にお任せして」
 螢はJ-45の弦を軽く弾いた。
「他の人たちが巻き込まれないように、お祭りに音で花を添えようかねぃ」
「ふふ、キノコはちょっと難しいからねぇ」
 隣でムジカが、黒兎の耳をぴんと立てて笑う。赤い宝石眼は広場の光を映してきらきらしていた。
「みんながお怪我しないように! いっしょに守ろう。ぼくらの音楽で、このお祭りの時間を!」
「そうさね。即興でセッションと洒落込もうじゃないか」
 螢がにいと笑う。
 ただ、その内側で思う。
 ――流石に、スパイス、にはちょいと過激だろうからねぇ、この毒は。
 それは口には出さない。
 今日ここで振るうべき彩は、毒ではなく音だ。花を散らす雨ではなく、花の上を踊る旋律だ。

 螢の影から、黒い獣たちが静かにこぼれ落ちた。
 吠えはしない。人目を引くこともない。
 影の獣たちは祭りの裏通りへ、花畑へ続く道へ、戦いの気配が漏れそうな場所へと滑っていく。村人が迷い込まないように。巻き込まれそうな子どもがいないように。キノコ係の様子も、必要なら伝えられるように。



 螢とムジカは広場へと向かう。
 そこには銀灰の髪の少女が、花籠を抱えて立っている。37号こと、ミナ。博士の帰りを待つアンドロイド。
「やあ。さっきぶり」
「こんにちは。……先ほどの、飾り紐と、小瓶の方」
「覚えていてくれて嬉しいよ。黒南風 螢だ」
「ぼくはムジカ!」
「37号です。先ほどは誠にありがとうございました」
 機敏な動作でミナは頭を下げる。いいって、と螢は軽く手をひらひらさせると、続いて言葉を紡いだ。
「ちょっと聞きたいんだけど。例の博士は、どんな音楽が好きだったんだぃ?」
 ミナはゆっくり振り向いた。
「博士の好んだ音楽、ですか」
「うん。花祭りに音を添えるなら、少し聞いてみたくてねぃ」
「ぼくも知りたい!」
 ムジカが一歩前へ出る。
 冒険鞄から取り出したのは、三日月型の竪琴だった。光を受ける縁が、夜空から落ちてきた月の欠片みたいに淡く光る。
「どんな感じだろうって、気になってたんだ! 楽しい歌? ゆっくりした曲? 踊れる感じ?」
 ミナは数秒、記録を探すように沈黙した。
 それから、胸元の古いペンダントに指を添える。
「博士は、正確な演奏が得意ではありませんでした」
「おや」
「よく音を外しました。歌詞も間違えました。ですが、花の手入れをしている時、頻繁に歌っていました」
「ふふ、いいねぇ。歌うのが好きだった証拠だよぃ」
「……博士は、花は褒めるとよく育つ気がすると言っていました。歌は、褒める行為の一種だと判断していた可能性があります」
「花を褒める歌かあ!」
 ムジカの顔がぱっと明るくなった。
「ねえねえ、ミナちゃん。その歌、覚えてる?」
「完全な楽譜はありませんが、旋律の一部なら再現可能です」
「聴かせて!」

 ミナは、ほんの少しだけ目を伏せた。
 そして、途切れ途切れに、短い旋律を口ずさむ。
 それは歌というには不完全で、記録というには少し柔らかい。
 上がるはずの音が下がり、下がるはずの音がふいに跳ねる。多分、博士が何度も間違えたまま歌い続けたせいだろう。ミナのメモリーには、そのままの音楽が記録されている。
 ムジカは耳を澄ませた。
 螢はギターの弦に指を置いたまま、ミナの声を拾う。

「……こんな感じかな?」
 ムジカが竪琴を爪弾く。
 細い音が、花びらの間を抜ける風のように広がった。
 螢のJ-45がそこへ低く柔らかな響きを添える。雨上がりの土みたいな音。夕暮れの屋根を打つ、優しい雫みたいな音。
 ムジカが、聞いたままのイメージを音にしていく。
 ミナの口ずさんだ不完全な旋律は、竪琴の光で少しずつ形を得て、ギターの和音に包まれた。
「どう? ミナちゃん!」
 ミナは瞬きをした。
「一致率は高くありません」
「ありゃ」
「……博士より、とても上手です」
 ミナは、ほんのわずかにペンダントを握る。
 螢が喉の奥で笑った。
「それはなかなか、いい褒め言葉だねぃ」
「うん! 博士さんの音、ちょっとは捕まえられたってことだよね☆ やった!」
 ムジカは嬉しそうに竪琴を抱えた。

 気づけば、近くにいた子どもたちが足を止めていた。
 屋台の店主が手を止める。
 花飾りを持った村人が振り向く。
 広場に、少しずつ人が集まってくる。
「何の曲?」
「花の歌?」
「もう一回やって!」
 ムジカは螢を見た。
「螢ちゃん」
「うん?」
「こりゃあもう一曲、やらないとね☆」
「勿論だよぃ。客席はもう、あたたまってるからね」
 螢はJ-45を構え直した。
 影の獣から、花畑の方で大きな混乱は食い止められているという気配が戻ってくる。
 今のところ村人が近づく危険もない。

 ――ならば、ここは明るく。
 楽しく。
 誰も不安にならないように。

 螢は指で軽くリズムを刻む。
「何かリクエストはあるかい?」
「春の花!」
「願い花の歌!」
「踊れるやつ!」
「なるほど、……全部盛りだね?」
 螢が笑う。
「ムジカくん、いけるかい?」
「もちろん!」
 ムジカは三日月の竪琴を高く掲げた。

「みんな! ぼくと螢ちゃんといっしょに、お祭りをめいっぱい楽しもう!」
 歓声が上がる。
 その瞬間、五線譜の輝きが空へ顕れた。
 光の線が広場の上を舞い、音符が花びらのように跳ねる。そこへ、星降るような煌きを宿した白兎の精霊たちが宙を駆けた。
 子どもたちが手を伸ばす。
 白兎はその指先をすり抜け、くるりと宙返りして、音符の上を跳ねた。

 螢のギターがリズムを作る。
 踊りたくなるような軽快な音。
 雨の街角を知る指先が、今日は花祭りの広場を明るく弾ませる。
 ムジカの竪琴はその上を奔る。流れ星のように高く、白い兎の足跡のように軽やかに。

 螢はステップを踏んだ。
 裾を揺らし、紫煙のような気配を残して、くるりと回る。
 ムジカもそれに合わせて跳ねた。黒兎の少年が歌うと、広場の空気が一段明るくなる。
「この歌は、ずっとずっと高く遠く奔ってゆく!」
 ムジカの声が広場に響く。
「楽しい想い出、幸せな願い、未来への煌きと、みんなの希望を繋いで!」
 その言葉に合わせて、五線譜の光が村人たちの頭上を巡った。
 願い花の栞を手にした少女。花冠を直す老人。屋台の火加減を見る青年。ミナのそばで花籠を支える子ども。
 集まった心が、音楽の中でひとつの輪になる。
 ムジカは歌う。
 人が集まれば、たくさんの心が寄り集まる。
 彼はその物語を奏でる旅人だ。
 誰かが笑った音。誰かが息を呑んだ音。誰かが胸の奥でそっと願った音。
 その全部を掬い上げて、歌にする。

 螢はその旋律を支えながら、横目でミナを見た。
 ミナは人々の輪の少し外側で、じっと演奏を聴いている。淡い瞳が、光る五線譜を追っていた。
「ミナ嬢」
 曲の合間、螢は声をかける。
「さっきの博士の歌が、今のに少し混ざっているの、分かるかい?」
「はい」
 ミナは頷いた。
「博士の旋律の一部が、変奏されています」
「勝手に借りちまったねぃ」
「借用は先ほど許可しました」
「おや、ありがたい」
「……博士は、このように音楽が広がることを喜んだと推定します」
 それは淡々とした言葉だった。
 けれど、ミナの指先はペンダントから離れずにいる。

 螢は少しだけ目を細めた。
 過去を、その記憶が欠落した身には、忘れられない思い出や約束というものは、ちょいと眩しい。
 ……口に出せば、それで済む話かもしれない。
 けれど。
 37号を含めたヒトの心を守りたいと願う、心優しい付喪神の優しさも。
 百年待ち続ける少女の、その静かな願いも。
 守られるべきものだと思うのだ。

 螢はギターを鳴らす。
 音は言葉より軽く、けれど時に言葉より深く届く。
「じゃあ、もう一曲。今度は、博士が花に歌った歌を、祭りの皆で歌える形にしてみようか」
「ぼく、やる!」
 ムジカが元気よく手を上げた。
「ミナちゃんも、もしよかったら一緒に聴いててね。これは、博士さんの音から生まれた、今日の花祭りの歌だよ!」
「了解しました。聴取します」
 再び音楽が始まる。

 最初は、博士の少し外れた旋律。
 そこへムジカが光を足す。
 螢がリズムを添える。
 子どもたちが手拍子を始める。
 村人が少しずつ歌を口ずさむ。
 白兎の精霊が空を駆け、五線譜が花びらのように舞い、――広場はいつしか、小さな星空みたいな明るさに満ちていた。



 曲の終わり、ムジカが大きく腕を広げた。
「みんな、ありがとー!」
 拍手が広場を包む。
 白兎の精霊たちは、星屑を散らしながらふわりと消えていった。
 子どもたちはまだ興奮して跳ね、村人たちは口々に「もう一曲!」と笑っている。

 ミナは、少し遅れて手を合わせた。
 拍手の形。
 音は小さい。けれど確かに、何度も手を打って。
 ムジカが笑う。
「とっても嬉しい拍手だね♪」
「……申し訳ございません。こういう時には、金銭を用意するものだと思うのですが」
 ミナは自分の手を見た。
「ううん! そんなことないよ。ぼくにとっては、今の拍手が何よりうれしいんだ!」
 ムジカの横で、螢も微笑む。
「今日の祭りの記録に、この音楽も残るといいねぃ」
「残ります」
 ミナは静かに答えた。
「博士の旋律が、他者の音楽へ変換され、村の祭りで共有されました。これは、新しい記録です」
「いいね。博士さんにいつか話せることが、ひとつ増えたね☆」
「はい」
 ミナはわずかに顔を上げる。
「報告事項が、増加しました」
 それは彼女なりの喜びなのかもしれない。
 ムジカは嬉しそうに竪琴を抱え、螢は静かにギターを鳴らした。

 花祭りは続いている。
 裏側で何が焼かれ、何が調理されているかを村人たちは知らない。
 けれど広場には花と音楽があり、人々の笑顔があり、博士の少し不器用な旋律から生まれた新しい歌があった。

 螢は次のコードを鳴らし、ムジカがまた歌い出す。
 遠く遠く。
 高く高く。
 幸せな願いが、流れ星のように未来へ走っていくように。

 誰も悲しむことのないように。
 誰かの大切な心が、音の中でそっと守られるように。

 ――そう。これは、皆の幸せを守るラプソディ。

 花祭りの空へ、白兎の光がもう一度跳ねた。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

第3章 ボス戦 『外星体『サイコブレイド』』


POW ハンターズ・ロウ
【暗殺】の体勢を取る。移動力と戦闘力を3分の1にする事で、肉眼以外のあらゆる探知を無効にする。嗅覚・聴覚・カメラ・魔術等、あらゆる探知が通用しない。
SPD サイコストライク
【装備中の「サイコブレイド」】による高命中率の近接攻撃を行う。攻撃後に「片目・片腕・片脚・腹部・背中・皮膚」のうち一部位を破壊すれば、即座に再行動できる。
WIZ ギャラクティックバースト
60秒間【サイコブレイドに宇宙エネルギー】をチャージした直後にのみ、近接範囲の敵に威力18倍の【外宇宙の閃光】を放つ。自身がチャージ中に受けたダメージは全てチャージ後に適用される。
イラスト sawada2
√マスクド・ヒーロー 普通11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

 正午になると、彼女は決まって花畑に立つ。
 今日も同じ。きっと、明日も、明後日もだろう。
 花祭りの賑わいは村の方から聞こえている。子どもたちの笑い声。屋台の呼び声。願い花の栞を作る、紙の擦れる音。
 それらを背に、銀灰の髪の少女はいつもの場所へ向かった。

 百年は、人間には長すぎる時間だ。けれどミナにとって、それはまだ終わっていない約束であり命令だった。
 博士は帰ると言った。
 だから彼女は今日も、花を踏まないように立ち、風向きと雲の形を記録する。
 博士が帰ってきた時に、百年分の事項を報告するために。

 ――その時。
 鳥が鳴き止む。
 風が止まる。
 内臓のセンサーが、何らかの異常を検知した。

 ミナが一歩下がった瞬間、何もない空間から刃が現れる。
 黒く、青く、紫にちらつく宇宙の刃。
 それを握る男は、人の姿をしていた。
「外星体同盟からの命令を受領した。『Anker抹殺計画』を、これより開始する」
 人の姿をした闇――サイコブレイドは低く言う。
「お前に恨みはない。お前が何を待っているのかも、俺には関係がない」
 刃がわずかに震える。
 それは迷いではない。迷いを殺そうとする力の震えだ。
「……攻撃理由の提示を要求します」
「理由など、言い訳にしかならん」
 男は一度だけ目を伏せた。
「俺がお前の破壊を拒めば、一人が死ぬ。俺は、この命令に従う外ない」
「その命令の信用性は保証されていますか」
「ない」
「では、あなたの行動は不確実な条件に基づく殺害行為です」
「お前の言葉は正しい」
 サイコブレイドは頷いた。
「だが、それを理由に立ち止まることは、俺にはできない」

 次の瞬間、彼は踏み込む。
 閃く刃がミナの腕を裂き、白い外装に火花が散った。さらに腹部へ向かう二撃目。機械仕掛けの躰が花畑の中で傾ぐ。
 それでも、ミナは倒れなかった。
「まだ私は、破壊されるわけには、」
「俺もだ」
 サイコブレイドの刃に、外宇宙の光が集まり始める。
 これが放たれれば、ミナだけでは済まない。彼女が百年待ち続けた花畑ごと、焼き払われる。
「逃げないのか」
「……逃走した場合、花畑が破壊される可能性があります」
「花など、また咲くだろう」
「はい。ですが、博士が帰る場所は、ここです」
 ミナはペンダントを握り締めた。

「博士、」



 さて。
 君たちが来なければ、未来はここで閉じる。

 百年続いた約束は断ち切られ、博士が帰る場所は焼け落ちる。
 サイコブレイドは勝利の笑みなど浮かべない。ただ空っぽの声で「任務完了」とだけ告げるだけだろう。

 だから、そうなる前に。
 刃が振り下ろされる、その直前に。
 君たちは、この花畑へ辿り着かなければならない。

 サイコブレイドが振り返る。
「……来たか」
 その声には、安堵にも似た諦めが混じっていた。
「ならば証明してみせろ。お前たちがすべてを守るというのなら」
 刃が、黒く光る。

「俺の悪を、ここで止めてみせろ」
鸞奇・檸檬
【酸性雨】

また咄嗟に架間の前に出て庇う

だけど、架間の強さは先程のキノコの件でわかった
実際…今あのクソ野郎相手に戦ってる
前に出たら危険なのは俺の方

他のEDEN達もあいつ相手に戦ってる…

…えっ、戦ってないの俺だけ…?
…俺、ただの役立たず…?

あー…まあ、俺なんてただの薬中で、最近まで自分がEDENだってわからなかったくらいで…ほぼ一般人で…無能で…何も出来なくて…みんなの足を引っ張って…あー、俺には無理だ。なんも出来ん。死のう。帰ったら死のう。

あの…架間…だいたい60秒なんだわ、俺がこうやって病んでると俺より病んで絶望しだす奴が出てくるの…

俺より病まないでくれよ…俺の病みが軽いみてぇに見えるじゃん…
架間・透空
【酸性雨】

やらせません、そんなことっ!
護りたいんです。ミナさんのことも、サイコブレイドさんのことも!

──決戦気象兵器、起動ッ!
再び三対の羽根を展開し……花畑一帯に雨を降らせます

れ、檸檬さん?
ど、どうしたんですか急に
危ないですから、下がっていてください!
前に出ようとする檸檬さんを押さえ、前進します

浮遊砲台によるレーザー射撃でサイコブレイドさんの動きを牽制しつつ、
決戦気象兵器から放たれるウォーターカッターでこちら側に攻撃を引き付けます
大変ですけど、間違ってもミナさん、そして檸檬さんに攻撃が行かないように頑張ります!

って、檸檬さん?それってどういう……
サイコブレイドさんがすごいことになってる!?

「やらせません、そんなことっ!」
 銀の瞳が、真正面から敵を見る。
 殺し屋の目が相対する透空を捉えた。彼女の背に、三対の羽根が展開している。
「護りたいんです。ミナさんのことも――サイコブレイドさんのことも!」
「俺を?」
「はい!」
「俺は、お前たちを殺す」
「それでもです!」
 透空は一歩も引かない。
「誰かを殺して、自分まで悪だと思い込んで。それで全部終わらせようとしているなら――私は、それも止めたい!」
 決戦気象兵器が唸りを上げる。
「起動ッ!」

 ――空が翳った。
 晴れていた花畑に、突如として灰色の雲が集う。
 三対の羽根が大気を掴み、散らばる水分を、一滴ずつ支配下へ置いていく。
「天気予報をお伝えします」
 透空の声が、雨の匂いを孕んだ風へ響く。
「本日の天気――曇りのち雨」
 一滴。
 サイコブレイドの肩を叩く。

 次の瞬間、世界が雨に埋め尽くされた。

 雨粒などと呼ぶには鋭すぎる。
 凝縮された水は空中で乱反射し、無数の軌道を描いて殺し屋へ殺到する。
 一発は軽い。
 ならば、百。千。万。
 数えることすら馬鹿らしい水の矢が、絶え間なくサイコブレイドを穿ち続けた。
「――っ」
 打ち寄せる雨の中、黒い刃が振るわれる。
 一筋の水を斬る。
 背後から三十。
 身を捻れば、足元で反射した百の雨が跳ね上がる。浮遊砲台のレーザーがその隙間を縫った。
「こちらです!」
 透空は自ら前へ出る。
 攻撃を引きつける。
 ミナへ行かせない。檸檬にも行かせない。

 サイコブレイドの刃に、宇宙の光が集まり始めた。
 降り注ぐ雨のすべてを受けながら、外宇宙のエネルギーをチャージする。今受けた傷は後回しだ。六十秒後、この花畑ごと敵を焼けばいい。
 透空は息を呑んだ。
「光が、」
 まずい。
 そう判断した、その横で。

 ――刃が動くより先に檸檬の身体が動いた。
「架間!」
 考えてはいない。
 ただ、また。
 透空の前へ飛び出していた。
 外宇宙の光を孕んだサイコブレイドを前に、ひょろりとした十九歳の青年が両腕を広げる。顔色が悪く見るからに不健康な体は、どう贔屓目に見ても殺し屋の刃を身体で受け止める役には向いていなかった。
「れ、檸檬さん?」
 透空が目を丸くする。
「ど、どうしたんですか。危ないですから下がっていてください!」
「いや、でも架間が……」
「私なら戦えます!」
 ぐい、と肩を掴まれた。
 そのまま脇へ退かされる。
「……」
 檸檬は黙った。
 ……そうだった。
 透空は強い。
 さっきのキノコ騒動でも見た。今もだ。決戦気象兵器を起動し、空を制し、雷だか雨だか知らないが、とにかくすごいことをしていた。
 そして今も、目の前の殺し屋を相手にちゃんと立っている。
 視線を巡らせれば、他の人間たちも戦っている。

 剣を振るう者。
 銃を撃つ者。
 魔術を編む者。
「えっ」
 もう一度見た。
「……戦ってないの、俺だけ……?」
「檸檬さん?」
「……俺、ただの役立たず……?」
 透空の顔が引き攣った。
「えっ」
「あー……まあ、俺なんてただの薬中で、最近まで自分が何かだって分からなかったくらいで……ほぼ一般人で……」
「ちょ、ちょっと待ってください」
「無能で……何も出来なくて……みんなの足を引っ張って……」
「檸檬さん!?」
「あー、俺には無理だ。なんも出来ん。死のう。帰ったら死のう」
「帰ってからでも死なないでください!!」
 花畑にたいへん場違いな絶望が始まった。
「……生きるのも辛いし」
 檸檬が呟いた。
「死ぬのも怖いし……」
 膝を抱えていた。
「……もうどうしようもないね、架間……」
「はい!?」
「でも聞いて。だいたい六十秒なんだわ。俺がこうやって病んでると、俺より病んで絶望しだす奴が出てくるの……」
「それってどういう――」

 透空はサイコブレイドを見た。
「……俺が殺す」
 サイコブレイドが呟く。
「殺さねばならない。俺が選んだ。俺が悪だ。ならばせめて、悪を――」
「なあ、俺より病まないでくれよ」
 檸檬が立ち上がった。
 黒い瞳には覇気がない。
 背筋もしゃんとしていない。
 なのに。
 彼の周囲だけ、世界から色が失せていく。
「俺の病みが軽いみてぇに見えるじゃん……」

 絶望が満ちた。
 それは、きっちり六十秒。

 諦めるには十分な時間だ。

 生きていても仕方がない。
 頑張ったって救えない。
 薬を渡しても明日は変わらない。
 誰も救えない。

 だったら。
「もう踊るしかない」
「なんでですか!?」
 透空の悲鳴じみた声を置き去りに、檸檬はもう一度前へ出た。
 サイコブレイドが刃で反応する。
 速い。
 装備した刃が一閃。
 サイコストライクが檸檬の身体を正確に狙う。
「檸檬さん!」
 透空が叫ぶ。
 だが檸檬は、逃げなかった。
 逃げる気力がない、とでも言いたげに。
「いいよ、別に」
 刃が掠める。
 皮膚が裂けた。
 その瞬間、サイコブレイドが再び動く。

 けれど。
「アンタもさ」
 檸檬は、男を見た。
「どうしようもないんだろ」
 静かな声だった。
「大事な奴が死ぬのが怖くて。だから人を殺して。そしたら今度は、自分が許せなくて」
 どうする事も出来ない絶望が、臨界を越える。
「分かるよ」
 檸檬は寂しそうに笑った。
「そういうの、一人で抱えてると死にたくなるよね」
 そして。
「だから一回、全部諦めようぜ」
 絶望が爆ぜた。
 音はなかった。
 光もない。
 ただ、世界から「どうにかなる」という可能性だけが消失する。

 彼の刃には宇宙が渦巻いていた筈だった。
 膨大なエネルギー。Ankerを救うために他者を殺し、他者を殺す自分を赦さず、それでも止まれない男が積み上げた、破滅そのもの。
 サイコブレイドを満たしていた光が揺らいだ。
 悪を全うする。
 Ankerを救う。
 任務を遂行する。
 積み上げた決意のすべてへ、檸檬の絶望が囁く。

 ――無理だよ。
 どうせ救えない。
 お前にも。
 俺にも。
 誰にも。
「……っ!」
 サイコブレイドの膝が、初めて揺れた。
 溜め込まれていたエネルギーが均衡を失い、空に霧散する。
「サイコブレイドさんがすごいことになってる!?」
 透空が目を丸くした。
「架間……今」
「はい!」
「今なら、たぶん」
 檸檬はふらふらと後ろへ下がる。
「俺はもう無理……」
「そこで力尽きるんですか!?」
「今になってさっき斬られたところが……」
「えっ」
「痛ぇ……死ぬ……帰ったら死の……」
「だから死なないでくださいってば!」
 透空は慌てて檸檬の襟首を掴き、引き寄せる。
 その頭上を無数の雨粒が駆け抜けた。

 天を覆う雨。
 地を沈める絶望。
 まるで正反対のふたつが、ひとりの殺し屋を挟み撃つ。
 サイコブレイドは刃を地面へ突き立て、どうにか立っていた。
 透空は檸檬を背に庇い、再び三対の羽根を広げる。
「檸檬さん」
「なに……」
「役立たずじゃないです」
「……」
「すごく。すごく助かりました!」
 檸檬は黙った。

 数秒後。
「そういうの今言われると、なんか……普通に泣きそう」
「泣いてもいいですけど、戦闘が終わってからにしましょう!」
「架間って意外と厳しいね……」
 花畑には雨が降り続ける。
 透空は前を見る。
 檸檬も、今度は逃げずに同じ方を見た。

 どうしようもない世界で、それでも誰かの前へ立つという一点だけは。
 二人とも、よく似ていた。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

降葩・璃緒
キミにはキミなりの理由があって、どんな言葉を尽くしてもその意思を変えられるとは思ってないよ
ボクが何を聞いても退く事が無いのと同じだろうから

ミナさんはきっと真実を知っても前に進める強い人だと思うんだ
でもごめんね、ボクには言えないや
だからボクがやるべきは一つだけ
ミナさんと、ミナさんの思い出を守る為に全力で戦う。それだけなんだよ!

輝葬花で鋏を双剣にして攻撃するよ
この花が手向けになります様に
他の攻撃を受けたり誰かに攻撃を仕掛けた直後みたいに避けにくいタイミングを狙っていきたいな
敵の攻撃は双剣を盾にするか、受け流してダメージを出来る限り抑えていくね
一部でも身体を破壊されちゃうのは困っちゃうし!

連携歓迎

 花畑の風が金の髪を揺らしている。
 その向こうで宇宙の刃が黒く光っていた。璃緒の瞳はサイコブレイドをまっすぐに捕らえている。
「キミには、キミなりの理由があるんだよね」
 璃緒は静かに言う。
「どんな言葉を尽くしても、その意思を変えられるとは思ってないよ」
「ならば退け」
「ううん」
 紫の瞳が細くなる。
「――ボクが何を聞いても退くことがないのと、同じだよ」

 相手には守りたいものがある。
 だから人を殺す。
 そんな理屈を、璃緒は理解できないわけではなかった。
 理解した上で受け入れない。

 ミナはきっと強い人だ。
 博士がもう戻らないかもしれないという真実を知っても。
 百年待った時間を抱えたままでも。
 きっと、自分の足で前へ進める人なのだと思う。

 けれど。
「……ごめんね。ボクには言えないや」
 その真実を告げる役目を、自分が背負うことはできない。
 ならば。
「ボクがやるべきことは一つだけ」
 璃緒は金色の大きなアンティーク鋏を構える。
「ミナさんと、ミナさんの思い出を守るために、全力で戦う。それだけなんだよ!」
 鋏が開く。
 金属音。
 次の瞬間、その形がほどけた。
 金の刃は二つへ分かれ、宝石の蕾をまといながら双剣へ変じる。
 刃に沿って、小さな結晶が芽吹く。
 赤。
 青。
 紫。
 朝露を閉じ込めたような透明な花弁。
 宝石の花が咲く双剣を、璃緒は逆手と順手に握り分けた。
「キミの命、咲かせてあげる」

 駆ける。

 サイコブレイドの姿が跳ねた。
 サイコストライクの黒い刃が正確に璃緒の片腕を狙う。
 身体の一部を壊されれば、次の一撃が来る。
「一部でも身体を破壊されちゃうのは困っちゃうし!」
 璃緒は双剣を交差した。
 刃と刃がぶつかる甲高い音。
 正面からは受け止めず片方で角度をずらし、もう片方で軌道を流す。宇宙の刃が璃緒の肩の横を通り過ぎた。
「そこ!」
 返す双剣。
 一撃目。
 サイコブレイドの脇腹を斬る。
 二撃目。
 背へ回り込み、肩口を薙ぐ。
 宝石の花弁が、傷口の周囲で咲いた。
「――これは」
「宝石花だよ」
 璃緒は少しだけ笑う。
「綺麗でしょ?」
 花は命を糧にする。
 咲けば咲くほど、その身から力を奪う。

 サイコブレイドが振り返ると、璃緒はもうそこにいない。
 小さな身体が花の間を縫い、次の死角へ滑り込む。
 誰かへ斬りかかった直後。大きく踏み込んだ直後。刃を振り切り、身体の重心が戻りきらない一瞬。
 璃緒は、そこだけを狙う。
「待ってたよ」
 双剣が閃く度に、一つ二つと宝石の蕾が増える。
 刃の軌跡を追うように、空中へきらきらと光が散った。まるで花畑の上にもう一つ別の花園が咲いていくように。

 サイコブレイドの身体には、宝石の花がいくつも咲いている。
 美しい。
 残酷なほどに。
「人の未来を閉ざすなら」
 双剣を構える。
「せめて、その前にボクを越えてみてよ」

 サイコブレイドが刃を握り直す。
「お前も、俺を止めるか」
「うん」
「俺の事情を知っていてもか」
「うん」
 璃緒は頷いた。
 花畑を振り返らない。
 そこにはミナがいる。思い出がある。百年分の時間がある。

 璃緒は今一度地を蹴った。
「願わくばこの花が、キミの手向けになりますように」
 宝石の双剣が陽を弾いた。
 金色の光。散る結晶。
 花びらのような剣閃で璃緒は一気に間合いへ飛び込み、サイコブレイドの斬撃を一方の刃で流す。
 もう一方の刃で、サイコブレイドの胸元に大輪の宝石花が咲いた。
 まるで命そのものを飾る最後の花のように。
 璃緒は一歩下がり、双剣を構え直した。

 花はまだ散らない。
 この戦いも、まだ終わらない。
「さあ」
 紫の瞳が、まっすぐ敵を映す。
「次はどこに咲かせようか?」
🔵​🔵​🔵​ 大成功

システィア・エレノイア
クラウス(h05015)と

邪魔されて終わらず、戦うあなたの為に全力で挑もう
クラウスがきっと、影縫で抑えてくれるだろうと信じて
双剣を手に死角から不意打ちを狙って斬りかかる

気が遠くなる程の年月、再開を願って守ってきた場所を、彼女の最期の場所にしたくない
誰かと歩むかも知れないし、そうでなくても願わくば、博士が見たであろう景色を旅して欲しい

速めた移動速度で致命傷は避けつつ、クラウスの攻撃を遮らないよう連携を意識して立ち回る
Ankerであるクラウスもしつこく狙うなら、わざとこの身で受け止め斬らせ、影縫をし易くし刃を返す
「しぶといだろう?」
クラウスの強さを認めて信頼しているから、少しくらい強引に戦える
クラウス・イーザリー
ティア(h10223)と

どこか安心したようなサイコブレイドの様子に胸が痛む
彼の境遇も辛いものだけど、だからと言って見逃す訳にはいかない
「止めてみせるよ。そのために来たんだから」
ティアが不意打ちしやすいように話しかけながら、囚影で変形した二丁拳銃を構えて射撃
影縫いで移動を妨げてティアの攻撃に繋げる

以降はティアと呼吸を合わせて連携攻撃
距離を取って様子を見ながら射撃し、影縫いの付与を重視する
サイコブレイドがティアを狙うなら牽制射撃で妨害し、俺を狙ってくるなら体内の魔力を刀の形に錬成して居合で反撃
俺だってAnkerだから狙われるかもしれないけど、恐れはしない
ティアと一緒なら大丈夫だと信じているから

「来たか」
 花畑の中、サイコブレイドが刃を下げることなく振り返る。
 止める者が来た。
 目の前の男は、それをどこかで待っていたように感じる。
 ……クラウスは、その響きを聞き逃さなかった。
 胸が痛む。
 大切な存在を人質に取られた。
 拒めば失う。従えば、罪のない誰かを殺す。
 酷い話だと思う。自分ならどうするだろうと考えれば、簡単に責める言葉など出てこない。

 けれど。
 傷ついたミナがいる。
 その背後には、彼女が気の遠くなるような時間を守ってきた花畑がある。
「止めてみせるよ」
 クラウスは穏やかに言った。
「そのために来たんだから」
「ならば来い」
 サイコブレイドが刃を持ち上げる。
「俺に同情するな。殺すべき敵として扱え」
「うん」
 クラウスの青い瞳が、静かに細められた。
「ちゃんと戦うよ」
 無明の紋様が光り輝く。
 両手に構えた二丁拳銃。その内側で眠っていた竜が、暗い吐息を漏らすように銃身を歪ませた。

 引き金を引く。
 銃声が二つ、ほとんど一つに重なった。
 黒い弾丸がサイコブレイドの足元へ穿たれ、次の瞬間、その影が生き物のように蠢く。
「影喰らい」
 無明の影竜が地を這った。牙を立てる先は肉ではない。
 影。
 サイコブレイドの足元に伸びた黒を喰らい、縫い、地面へ繋ぎ止める。
「――影縫いか」
 殺し屋の足が止まった。
 ほんの一瞬。
 それで十分だった。
 クラウスは知っている。
 自分の背後にいる狼が、この一瞬を決して無駄にはしない。
「ティア」
 名を呼ぶ。
 返事はなかった。必要ないからだ。刹那、サイコブレイドの死角に白金の光が咲いた。
 歯車。
 幾重にも重なるホワイトゴールドの歯車の幻影が、夜空に現れる月輪のように回転する。
 その中心を、システィアが駆けていた。
 詠唱錬成剣は二振りの剣へ。
 順手に握った右。
 逆手に構えた左。
 月光を鍛え上げたような双剣が、白金の軌跡を引く。
「遅い」
 一閃。サイコブレイドの脇腹を右の剣が薙ぐ。
 二閃。返す左刃が肩口を斬り上げる。
 加速した身体は、もはやひとつの姿として目に映らない。白金の歯車だけが次々と位置を変え、そこを結ぶように剣閃が走った。

 サイコブレイドが影縫いを力任せに引き裂く。
 振り向いた時には、システィアはもうそこにいない。
「クラウス」
「うん」
 銃声の直後、逃げた先へ影喰らいが撃ち込まれる。
 影がまた縫われる。その横をシスティアが走り抜けた。
 言葉は少ない。
 右へ追えば左から撃つ。
 クラウスの射線が通れば、システィアは身を沈める。
 影縫いが入れば、双剣が行く。
 長く肩を並べてきたふたりに、細かな確認など必要なかった。

「……見事な連携だ」
 サイコブレイドが呟く。
 その姿が、不意に掻き消えた。
 システィアの耳が動く。
 音がない。
 匂いもない。
 魔力の揺らぎすら、消えている。
 肉眼以外の探知を殺し、自らの力と速度を削って、暗殺者は狩りの姿勢へ沈む。
「ティア!」
 クラウスの声。
 システィアは振り返らない。狼の耳も役には立たない。
 ならば、目で見るだけだ。

 花の揺れ。
 光の陰り。
 そして。――白金の歯車、その隙間に一瞬だけ映った異物。
「そこか」
 双剣を交差する。
 火花が散った。
 現れたサイコブレイドの刃を、二本の剣で受け止める。
「探知の能力か」
「いいや」
 システィアは笑った。
「見えた」
 そのまま刃を滑らせ、身体を捻る。
 双剣が返る。
 だが相手は殺し屋だ。サイコブレイドが踏み込み、擦れ違いざまシスティアの肩を斬り裂く。
 血が飛ぶ。
「ティア!」
「平気だ」
 システィアは止まらない。
 受ける傷は倍。分かっている。――致命傷だけを避ければいい。
「気が遠くなるほどの年月だ」
 双剣が踊る。
「彼女はここで、再会を願ってきた」
 血を流しながら、速度を維持する。
「その場所を、彼女の最期の場所にしたくない」
 サイコブレイドの刃が迫る。
 システィアは身を反らし、次の一撃は紙一重で避ける。
「博士を待ち続けてもいい。誰かと歩く日が来てもいい」
 歯車の幻影が回る。
「そうでなくても――願わくば、博士が見たであろう景色を、彼女自身の目で見に行ってほしい」
「他人の未来を、随分勝手に願うものだ」
「そうだな」
 システィアは穏やかに笑った。
「でも、生きていれば選べるだろう?」

 その言葉に、サイコブレイドの瞳が揺れた。
 刃が向きを変える。
 システィアではない。
 クラウスへと、サイコブレイドが駆けた。
 クラウスは退かない。
 拳銃を下げる。
 体内の魔力が腕を伝い、刃の形へ錬成されていく。
「怖くはないよ」
 クラウスは少し笑った。
「ティアと一緒だから」
 サイコブレイドの刃が閃くと、高精度の斬撃がクラウスの腹部を狙う。
 同時。
 クラウスが抜いた。
 魔力の刀による居合。
 二つの刃が正面から激突する。
「――っ!」
 クラウスの腕が痺れる。
 敵は速い。
 そしてサイコブレイドは、自らの身体を壊してでも次の行動へ繋ぐ。
 皮膚を裂く。血が流れる。即座に二撃目。
「クラウス!」
 今度は、システィアが名を呼んだ。
 その身体が割り込む。
 刃が脇腹を裂いた。
「ティア!」
 血を流しながら、システィアは笑う。
 サイコブレイドの刃はシスティアの身体に深く食い込んでいる。
 あえて受けた。
 避けなかった。
 クラウスには、それだけで十分だった。
 銃口を上げる。
「影喰らい」
 至近距離。
 外しようがない。
 弾丸が影へ沈み、サイコブレイドの動きを地面へ縫い止めた。
「――貴様」
「しぶといだろう?」
 システィアは笑った。
 それは強がりではない。
 クラウスが必ず繋ぐと知っていたから。
 少しくらい無茶ができる。
 少しくらい傷を引き受けられる。
 自分ひとりなら、きっとこんな戦い方はしなかった。

「クラウス」
「分かってる」
 システィアが刃を返す。
 クラウスが撃つ。
 白金の双剣と、無明の影。
 月の牙が敵を裂き、黒き竜がその足を喰らう。
 二人分の軌跡が交差した。
 サイコブレイドの身体が大きく弾かれる。
 花畑に、短い静寂が落ちた。
「俺を止めるか」
 殺し屋が、掠れた声で言う。
 クラウスは銃を構えたまま答えた。
「止めるよ」
「俺の事情を知ってなお?」
「知ったからだよ」
 クラウスの声はどこまでも柔らかい。
「見逃すことと、分かろうとすることは違うから」
 システィアも双剣を下げない。
「あなたは戦っている。なら、俺たちも全力で挑む」
 赦すためではない。
 裁くためでもない。
 ただ、ここで終わらせないために。
 ミナの百年を。
 サイコブレイドの迷いを。

 そして互いの命を。

「まだやるだろう?」
 システィアが問う。
 サイコブレイドは刃を握り直した。
「ああ」
「そうか」
 白金の歯車が再び回り始める。
 クラウスの足元で、無明の影が牙を剥く。
 二人は一度だけ、視線を交わした。
 それだけでいい。
「行こう、ティア」
「ああ。クラウス」
 次の瞬間。
 二人は同時に、殺し屋へ駆けた。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

茶治・レモン
あっ君/h00070

まぁ、あなたのお立場も分からなくはないのですが…
さぁどうぞと、見逃す訳にも行かないんですよ
ここは男らしく、喧嘩で決着を着けましょう
と言うかあなたも、止めて欲しそうに見えますし

あっ君!話を聞いてましたか?
半分も聞いてないじゃないですか!
帰らないで、ミナさんと花畑を守って!
はいはい、後でお礼に青いキノコソテーをご馳走しますから

近距離戦は面倒そうなので、遠方から失礼します!
魔法属性の弾丸です、遠慮なくご堪能下さい
あっ君も、普段より暴れていただいて構いませんよ
な、なんていらない置き土産を…!
まぁご安心下さい
僕、50%あれば充分当てられますので
あっ、ダメみたいです
回避!!
日宮・芥多
魔女代行くん/h00071

聞いてましたよ、半分!
あの男はミナさんとやらを殺したくて仕方なくて、
君はあの男を殺したくて仕方ないってことですよね?
一応仕事で来てますので、殺す手伝いなら別にしても構いませんが…
妻以外の言う事を聞き続けるのって本気で不快ですねぇ
はは、興味のない相手の礼なんて受け取る筈ないでしょう!

初手で『現無』の一撃を、外すのを目的に振います
移動力と戦闘力だけでなく、暗殺という行動の成功率も激減させてあげましょう
あとは心置きなく敵を切り裂いて参りたく
俺は魔術とか使えないので、肉眼で探知できるなら十分有り難いです

あれ、これって魔女代行くんも半減でしたっけ?
いやぁウッカリ!お気をつけて!

「まぁ、あなたのお立場も分からなくはないのですが……」
 レモンは、少し困ったように眉を下げた。
 白い少年の向こう、花畑にはサイコブレイドが立っている。
 星の外から来た殺し屋。大切なものを人質に取られ、誰かを殺すことでしか、それを守れない男。
 同情はする。
 ――だからといって。
「さぁどうぞと、見逃す訳にもいかないんですよね」

 檸檬色の瞳が、真っ直ぐに敵を捉える。
「ここは男らしく、喧嘩で決着を着けましょう」
「喧嘩か」
「ええ」
 レモンは義手を掲げた。
「と言うかあなたも、止めて欲しそうに見えますし」
 サイコブレイドの顔から、表情が消えた。
「勝手な解釈だ」
「違いました?」
「俺は命令を遂行する」
「では、遂行出来ないようにします」
「簡単に言う」
「割と無茶振りには慣れているんです」
 そこでレモンは、隣にいる男を見た。
「あっ君!」
「はい」
「話を聞いてましたか?」
「聞いてましたよ、半分!」
「半分しか聞いてないじゃないですか!」
 芥多は、いつものように笑っていた。
「あの男はミナさんとやらを殺したくて仕方なくて、君はあの男を殺したくて仕方ないってことですよね?」
「半分も聞いてないじゃないですか!」
「惜しいってことですか」
「違いますって!」
「登場人物は合ってます」
「国語の採点でもそんな加点しませんよ!」
 言い合う君たちの前で、サイコブレイドが無言で刃を構え直した。
 敵を前にしている。
 間違いなく。
 なのに二人の会話だけ、どうにも締まらない。
「一応仕事で来てますので、殺す手伝いなら別にしても構いませんが……」
 芥多は斧型の怪異兵器を肩に担ぐ。
 有刺鉄線のような血液が絡みついた、大振りの刃。
「妻以外の言う事を聞き続けるのって、本気で不快ですねぇ」
「帰らないで、ミナさんと花畑を守って!」
「嫌です」
「じゃあ後でお礼に青いキノコソテーをご馳走しますから!」
 芥多の足が止まった。
「はは、興味のない相手の礼なんて受け取る筈ないでしょう!」
「すごく嫌そうですね」
「とても」
「じゃあ行ってください!」
「仕方ないですねぇ」

 行った。

 レモンは一瞬、目を丸くした。
「えっ、行くんですか」
「君が行けと言ったんでしょう」
「言いましたけど!」
 芥多は笑ったまま、サイコブレイドへ近づいていく。
 真正面から。
 当然、敵もそれを見ている。
「近接戦闘か」
 サイコブレイドの姿がふっと揺らぐ。
 次の瞬間、消えた。
 魔力の反応も、機械的な探知も通らない。
 己の移動力と戦闘力を削り、その代わり、肉眼以外のあらゆる探知から存在を切り離す。
「……おや、便利な技ですね」
 芥多が目を細める。
 返事はない。
 芥多は笑う。
「じゃあ、そこですか?」
 斧が振るわれる。

 だがサイコブレイドはそこにはいない。
 刃は空を切った。
「あっ」
 レモンが言う。

 地面に斧が叩き込まれる。
 飛び散った血液が、草原の一角を赤黒く染め上げた。
 有刺鉄線のような血が地を這う。
 汚染地帯。そこへ踏み込んだ者すべての行動を鈍らせる、異様な領域。
「わざと外しました?」
「まさか」
「わざとですよね?」
「当てるつもりでしたよ、多分!」
「多分!」
 けれど。
 サイコブレイドの気配がほんの一瞬乱れた。
 暗殺という行動すら、現無の汚染は鈍らせる。
「俺は魔術とか使えないので、肉眼で探知出来るなら十分有り難いんですよねえ」
 完全に消えていた輪郭が、肉眼の前へわずかに浮かぶ。
「――さ、見つけましたよ」
 芥多が笑った。
「後はどうぞ、魔女代行くん!」
「はい!」
 レモンは既に距離を取っていた。
 近接戦は面倒だ。ならば。
「魔法属性の弾丸です。遠慮なくご堪能下さい!」
 殉愛。
 レモンの周囲に淡い光が満ちる。
 それは炎ではない。雷でもない。白い羽根に似た魔力の刃だ。
 一枚二枚と、数える間もなく増えていく。
 少年の背後に、まるで見えない翼が開いたかのようだ。レモンが手を伸ばす。
「これが、僕なりの愛です」
 弾丸が放たれた。
 無数の羽根が空を裂き、サイコブレイドへ降り注ぐ。
 美しい。そして、容赦がない。
 外宇宙の殺し屋は、その光の中を駆けた。
「魔女代行くん!」
 芥多が呼ぶ。
「はい!」
「俺が作った汚染地帯なんですが!」
「はい!」
「君も半減でしたっけ?」

 レモンは止まった。
「……え?」
「いやぁウッカリ! お気をつけて!」
「な、なんていらない置き土産を……!」
 魔力刃が微妙に軌道を逸らす。しかし、まだ弾は――
「まぁご安心下さい!」
 レモンは胸を張る。
「僕、五十%あれば充分当てられますので!」
 魔力弾を構える。
 更に撃つ。

 あ、外れた。
「あっ、ダメみたいです」
「早いですね、諦めが!」
「回避!!」
 サイコブレイドが迫る。レモンは全力で走った。
 その後ろから、芥多が笑いながら斧を振り上げる。
「いやぁ、実に楽しそうですね」
「助けてくださいよ!」
 レモンは身を伏せる。
 その頭上をサイコブレイドの一撃が通過した。
「――今です!」
 レモンが叫ぶ。
 瞬間、知らぬ間に二人に追いついていた芥多の斧が真横から叩き込まれた。
 血の絡む刃をサイコブレイドが受ける。
 重い。真正面からの力比べ。
「さっきは外しましたが、今度は当てますよ!」
 レモンの魔力弾が、その隙を撃ち抜く。
 着弾。
 今度こそ無数の魔力刃が弾けた。
 白い羽根。光の雨。敵を切り裂きながら、同時に芥多の身体へ魔力を与える。
「おや」
 芥多が目を細める。
「悪くないですね」
 二人の攻撃が重なる。
 斧が裂き、魔力刃が舞う。サイコブレイドはその中心で刃を振るい続ける。
「あなたのお立場は分からなくもありません」
 白い羽根が、少年の周囲を巡る。
「でも」
 檸檬色の瞳が細められた。
「止めて欲しいなら、もっと分かりやすく言ってください」
「……何?」
「僕ら、察しが悪いので」
「君はともかく俺まで混ぜないでいただけます?」
 サイコブレイドの刃が、ほんの僅かに下がる。
 一瞬。それだけ。
 けれど。
 レモンは見た。
「ほら」
 微笑む。
「やっぱり、止めて欲しそうじゃないですか」
 返事はなかった。
 ただ宇宙の刃を握る指に、わずかに力が籠もり――次の瞬間、サイコブレイドは刃を大きく薙いだ。
 血の斧を弾き、続けざまに白い魔力刃を切り払う。弾けた光が花びらのように散る中、地を蹴って二人から一気に距離を取った。
 否定するなら簡単だったはずだ。違うと、黙れと、そう斬り捨てればいい。
 けれど男は何も言わない。
 レモンも、それ以上は追及しなかった。
 助けてほしいと口に出来るなら、そもそもこんなところまで来てはいないのだろう。

 ならば今は。言葉の代わりに、全力で止めてやればいい。
 魔力弾を構える。
 芥多も斧を担ぎ直す。
「ではまぁ、ここは男らしく」
「殺し合いですか?」
「喧嘩です!」
「似たようなものでは?」
「全然違います!」
 白い魔力の羽根が舞う。
 血の斧が赤黒い軌跡を引く。
「さあ、もうちょっと行きますよ、あっ君!」
「はいはい」
 芥多が笑う。
「青いキノコソテー、後で本当に食わせたら恨みますからね」
「それは戦いが終わってから考えましょう!」
 そして二人は、再び宇宙の殺し屋へ飛び込んだ。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

エメ・ムジカ
【紡旅】
ミナちゃんの姿を見て
ふっ…と何かが切れたように
Sanctuaire de loi.を抜刀
ミナちゃんから敵を離すように薙ぐ!
彼女を背に庇うように立つと
鋭い眼で敵を見据える

何をしているの?
ミナちゃんを、こんなに傷つけてっ
彼女は待つべき人がいる
約束があり、花畑も大切な場所

敵の許へ駆ける
ミナちゃんや螢ちゃんの方へ接近させないよう
竪琴を演奏し音響弾で牽制

螢ちゃんの力が敵の動きを留める間に躍り出る
…逃がさないよ
未来を閉ざそうとする君を
僕は許しはしない

『楽園よ眠れ、冥付よ踊れ――!』
剣の竪琴を鳴らす
聖なる輝きを放つ剣撃
冥府を震わす昏き剣撃
交互に繰返し
剣奏が敵へ斬撃が舞う

最後は冥府の音が終止符を送る
黒南風・螢
【紡旅】
ミナが傷つけられた様子に眉を顰め
走り出すムジカを追うようにミナと相手の間に入り盾になるよ

そちらさんも色々理由があるみたいだけど、だからと言って見逃す義理もお前さんに優しくする義理もないんだよねぃ

相手の動きを先んじるように、指を一つ鳴らして能力発動
相手の動きを封じると共に、相手の暗殺の体制を崩して邪魔するよぅ
ムジカ君が攻撃を続けられるようにPlume sphereによる毒やマヒ攻撃もつかってサポート
視野を広く保つように意識
花畑も含め、周囲に戦闘の影響がないように気をつけ、こちらに近寄らせない様に
ミナを庇いつつ何かあればすぐに動けるように備えておくよぅ

 ほんの少し前まで花畑には歌があった。
 博士の不器用な旋律を拾い、今日という日の音へ編み直した歌。
 光の五線譜を白兎が駆け、花びらと手拍子が風に舞っていた。

 そんな過去を知っている二人にとって、花の中に散った火花は、ひどく異質な存在に見えた。
「……ミナちゃん?」
 ムジカの声から音符が消えた。

 銀灰の髪の少女がよろめいている。
 裂かれた腕。機械仕掛けの身体から零れる光。それでも胸元のペンダントを庇うようにして、ミナは花畑に立っていた。
 その前に、宇宙の刃を持つ男がいる。
「損傷を確認。ですが、待機継続は――」
 ふっ、と何かが切れた。
 ムジカの赤い瞳から、いつもの陽気な光が消える。

 抜刀。

 瞬間、白銀の刃が一閃した。
 サイコブレイドの追撃を薙ぎ払い、そのまま男をミナから引き剥がす。刃と刃が噛み合い、鋭い金属音が花畑を震わせた。
「何をしているの?」
 低い声。
 黒兎の少年はミナを背に立つ。
「ミナちゃんを、こんなに傷つけてっ」
「ムジカ君」
 駆け出したその背を追い、螢も間へ滑り込んだ。
 いつもの人好きのする笑みはある。けれど琥珀色の瞳は、まるで笑っていない。
「ミナ嬢。そこに居ておくれ」
「しかし、戦闘継続時の被害予測が、」
「大丈夫」
 螢は指を一本立てた。
「今度は、私達が前にいるからねぃ」
 ぱちん。
 指を鳴らす。

 ――Erase Beat.
 音にはならない振動が、サイコブレイドだけを捉えた。

 地面は揺れない。
 花も揺れない。
 ミナの髪一本すら乱れない。
 ただ男の肉体と、装備と、その足元だけへ。
 空気そのものが牙を立てる。
「――ッ」
 サイコブレイドの膝が沈んだ。
 振動が骨を揺らす。筋肉の収縮を狂わせ、刃を握る指へ震えを送り込んだ。
「そちらさんも色々理由があるみたいだけど」
 螢はゆるく首を傾げる。
「だからといって、見逃す義理も、お前さんに優しくする義理も、ないんだよねぃ」
 膝を折りかけた男の姿が消える。
 匂いが途絶える。
 足音が消える。
 魔力にも、機械にも、あらゆる探知にも映らない。
 ムジカが目を走らせる。
「消えた……?」
「いや」
 螢は動かない。
「そこにいるよぅ」
 空気は嘘をつかない。
 探知ではない。
 既に対象へ作用している振動そのもの。
 ――絡みついた震えは、隠れたからといって途切れない。
「そこ」
「見つけた!」
 ムジカの竪琴が鳴る。
 鋭い一音が歪みへ撃ち込まれた。
 姿を現したサイコブレイドが刃で受ける。その瞬間、螢の周囲に浮かぶPlume sphereが淡い毒彩を曳いて飛んだ。

 綺麗なものほど、毒を疑うべきだ。
 球体から放たれた毒が男の動きを鈍らせ、続く麻痺が指先を僅かに遅らせる。
「これには、こういう使い方もあるんだよねぃ」
 螢は笑う。
「暗殺には、静けさが必要なんだろう?」
 振動が跳ね上がる。
「悪いねぇ。私、音で遊ぶのが好きなんだ」
 サイコブレイドが地を蹴った。
 探知を殺し、速度と力を削りながら。それでもなお殺し屋は速い。

 刃は螢を狙う。
 ミナの前に立つ盾。
 ならば、まず壊す。
「螢ちゃん!」
 ムジカが駆けた。
 螢は退かない。

 視野を広く。
 ミナの位置。花畑。ムジカ。
 全部を見る。

 刃が迫る。――その一歩前。
「任せたよぅ、ムジカ君」
「うん!」
 信じて螢は身体を半歩だけずらした。
 宇宙の刃が服を裂く。
 けれど、その向こうからムジカが躍り出る。
「逃がさないよ」
 サイコブレイドの眼前。
 剣と化した竪琴を、両手で握る。
「彼女には、待つべき人がいる、約束がある」
 弦を爪弾く。
 一音。
 聖堂の鐘のような、澄んだ響き。
「この花畑だって、大切な場所なんだ!」
 二音。
 底の知れない穴へ石を落としたような、昏い音。
 刃を振るう。

「未来を閉ざそうとする君を――僕は許しはしない」

 赤い瞳が、殺し屋を射抜いた。
 剣奏が始まる。
「楽園よ眠れ、冥府よ踊れ――!」
 白き剣撃が、花のように咲いた。
 剣が通った軌跡に光の花弁が生まれる。
 天より降る祝福のように静謐で、それでいて一切の邪を許さぬ白。
 サイコブレイドの刃と激突し、光が散る。

 次に、音が反転する。
 白は黒へ。
 華やかな旋律は地の底へ沈み、死者の足音にも似た低音が大地を這った。
 昏い剣撃。
 冥府そのものが刃を得て、敵の影を食い破る。
 交互に絶え間なく。
 ムジカの剣は、一つのセッションのようであった。
 斬撃が音を生み、音が次の刃を呼ぶ。
 一撃を避ければ、次の旋律が待つ。
「――ッ!」
 溜まらずサイコブレイドが闇に沈もうとする。
 だが。
「そこだよぅ」
 螢が指を鳴らす。
 振動。
 対象だけを襲う震えが、暗殺の体勢を内側から崩す。
 足がぶれる。
 刃が揺れる。
「気にせず続けな」
「うん!」
 花畑に、光と闇の旋律が重なる。
 その外側で螢は立つ。
 ムジカの剣が届かない死角へ能力を飛ばす。
 毒で踏み込みを削ぎ、麻痺で反撃を遅らせる。
 サイコブレイドがミナへ視線を向ければ、震動を強める。
「そっちは駄目だよぅ」
 微笑む。
「私を越えてからにしておくれ」
「退け」
「嫌だねぇ」
 柔らかな声音だった。
「人の心を守りたいって願う、優しい子がいる」
 ムジカを見る。
 いつも笑い、歌い、出会った物語を喜んで集める黒兎。
 ――その少年が今は、怒っている。誰かの心を傷つけた者へ。
「その優しい心も、守られるべきだと私は思うんだよねぃ」
 過去を持たない自分には。
 忘れられない思い出も。
 百年を繋ぐ約束も。

 少しばかり、眩しい。

 だからこそ。
 消されるところなど、見たくない。

「ムジカ君」
「うん!」
「終止符を」

 黒兎は剣の竪琴を高く掲げる。
 ここまで繋いだ旋律。
 天と地。
 祝福と冥哭。
 相反する音は、狂詩奏の果てでひとつへ重なる。

 サイコブレイドが逃れようとするが、動けない。
 螢の振動が、その身体をその場へ縫いつけている。

「逃がさないって言ったよね」

 最後の一音。
 冥府の底で、巨大な鐘が鳴った。

 そんな幻聴すら抱かせる、深く、暗い音。
 黒き斬撃が地を奔る。
 花は傷つけず。ミナへも届かず。ただひとり、未来を断とうとした殺し屋へ。
 冥府の旋律が、終止符を叩き込んだ。

 轟音。

 サイコブレイドの身体が弾かれる。
 宇宙の刃が地を擦り、ようやく止まった。

 しばし静寂。

 ムジカは剣を下げない。
 呼吸を整えながら、じっと男を見る。
 螢もまた、ミナの前から動かなかった。
「……随分、怒ってるねぇ」
 螢が言う。
「怒ってるよ」
 ムジカは答える。
 いつもの「ぼく」ではない。
「僕は、人の心を守ると誓ったから」
 赤い瞳が静かに煌めいた。
「ミナちゃんの心も。あの約束も。壊させたくない」
「……そうかい」
 螢は、ほんの少し笑った。
 紫煙のような、柔らかな笑み。
「じゃあ、私ももう少し付き合おうかねぃ」
「うん!」
 今度こそ、ムジカの声に小さな音符が戻る。

 サイコブレイドが立ち上がる。
 螢は指を上げる。
 ムジカは剣の弦へ指を添える。
 祭りに花を添えたふたりの奏者は、今度は誰かの未来を守るため。
 ふたりは戦場に、次の曲を奏ではじめた。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

花村・幸平
氷野ちゃん/h07198 ※お互いがAnker
セーフ!間に合った〜!
出来れば会わせたくなかったからギリギリアウトだけどまあセーフカウントで!
ミナちゃんは無事だね?オーケー、僕らは僕らの仕事しよ
民間人の保護・危険人物の確保…は無理だから排除で
√能力で幽体化と煙化を繰り返しながら《零距離射撃》で攻撃していこう
後衛に氷野ちゃんが控えてるからあまりそっちに意識向けさせたくないんだよね
ちょっとお喋りしちゃおうっかな
おいお〜い、折角の花畑が台無しになっちゃうよ
足がないと立てない上に戦いに大立ち回りが必要なひとは大変だ
君も銃にしたら?だってさ、
…遠くからクソデカ霊能波が飛んできても悪あがきくらいはできるぜ
氷野・眞澄
花村/h07197
※お互いがAnker

まだ間に合ってます
間に合わせます

彼女にはまだ未来がある
その未来を閉ざそうとする貴方の行為を許容できない
我々が介入する理由はそれだけで充分

前衛は任せて
視界を広くとれる場所を確保
花村が敵を惹き付けてくれるので
攻撃は最低限に搾り
目立つ動きは可能な限り避けます

花村の回避が間に合わなさそうな攻撃があれば
《霊力攻撃》なりで軌道を逸らすくらいはしますが
まああの人なら大丈夫でしょう

大技の隙など相手の回避が困難な瞬間に
|霊視《√能力》の一撃を叩き込みましょう

私の相棒はよく喋りますから
お喋りも疲れたでしょう
そろそろ終わらせてあげますよ

 宇宙の刃が振り下ろされるその寸前。
「セーフ! 間に合った~~!」
 花畑に、あまりにも軽い声が響いた。
 サイコブレイドの視線が動くと同時に、ミナの目前を白い煙が横切った。
 細くくゆる沈丁花の香り。
 刃が煙を裂くが手応えはない。
 煙は風にほどけ、少し離れた場所で人の輪郭を結んだ。
 白い髪。白い肌。紫の瞳をやわく細め、花村が笑っている。

「出来れば会わせたくなかったからギリギリアウトだけど、まあセーフカウントで!」
「まだ間に合っています」
 杖をつく音がした。
 氷野は青白い顔のまま、ゆっくりと花畑へ足を踏み入れる。
「いいえ、間に合わせます」
 淡々とした声だった。
 けれど、その言葉には一分の迷いもない。
 花村はサイコブレイドから目を離さないまま、後ろへ声を投げた。
「ミナちゃんは無事だね?」
「……はい。機体損傷は軽微です」
「オーケー。そのまま稼働履歴、更新してこ」
 花村は銃を抜く。
「じゃあ、僕らは僕らの仕事しよっか」
 紫の瞳が、刃を持つ男を映した。
「民間人の保護。危険人物の確保――」
 ほんの少し首を傾げる。
「は、無理そうだから排除で」
「随分軽いな」

「花村」
「あー。うんうん。聞いてるよ、氷野ちゃん」
「まだ何も言っていません」
「いつもの小言かなって」
「では今から言います。前を見てください」
「はい」
 眞澄は小さく息を吐いた。その間にも、彼の視線は動いている。
 ミナの位置。
 サイコブレイドの間合い。
 花畑の高低差。
 花村が走るだろう軌道。
 自身は視界を広く取れる場所へ。
 前は任せる。彼なら敵を惹きつける。頼まずとも勝手に。
「彼女にはまだ未来がある」
 サイコブレイドの目が、後方に立つ男へ向く。
「その未来を閉ざそうとする貴方の行為を、私は許容できない」
「俺にも守るべきものがある」
「そうでしょうね」
 眞澄の声は変わらない。
「……ですが、我々が介入する理由はそれだけで充分です」
「氷野ちゃん、今日ちょっとかっこよくない?」
「黙ってください」
「ひど」
 軽口を叩きながら、花村の身体がほどけた。輪郭が崩れる。白い男は煙となり、花の隙間を滑るように走った。
 サイコブレイドの刃が薙ぐ。
 煙を裂く。
 空振り。
「おいお~い」
 声は、もう背後にある。
「折角の花畑が台無しになっちゃうよ」
 零距離の銃口がサイコブレイドの背へ押し当てられた。
 銃声。
 男の身体が僅かに傾ぐ。
 振り返る刃に対し、花村は幽体へ。
 宇宙の刃が白い身体を何の抵抗もなく通り抜ける。
「足がないと立てない上に、戦いに大立ち回りが必要なひとは大変だね」
 右。
 実体化。
 発砲。
「君も銃にしたら?」
「黙れ」
「お喋り嫌い?」
 左。
 また銃声。
 花村は煙と幽体、実体を目まぐるしく切り替える。
 形が定まらない。
 サイコブレイドの目が、初めて苛立ちに細められた。
「鬱陶しい男だ」
「よく言われる~」

 次の瞬間、サイコブレイドが踏み込んだ。
 速い。
 近接に特化した高精度の一撃が、花村の変身、その僅かな間隙を射抜く。
 脇腹に刃が走り――。
「花村」
 眞澄の声。
「へーきへーき」
 裂けた部分から、血の代わりに灰色の煙が溢れる。
 だが敵は止まらない。
 サイコブレイドは自らの皮膚を裂いた。
 代償に、即座に再行動。
 二撃目が花村の首を狙う。

 その軌道が僅かに逸れた。
 見えない霊力が横殴りに刃を叩き、数センチだけ進路を変える。
 ほんの数センチ。
 けれど花村には充分だ。身体を幽体へ変え、刃を通過させる。
「氷野ちゃん。今、助けてくれた?」
「軌道を修正しただけです」
「世間一般ではそれを助けたって言うんだよ」
「口を動かす暇があるなら撃ってください」
「はぁい」
 花村は楽しそうに銃を構え直す。

 後ろに眞澄がいる。
 だから前だけを見ていられる。
「ねえ、君さ」
 花村はまた喋り始めた。
「悪になろうとしてる割には、ずいぶん丁寧だよね」
「……何?」
 刃を煙で避ける。
「悪い奴ってさ。もっと楽しそうに人を殺すんじゃない?」
 実体化。
「君、ずっと苦しそうじゃん」
 銃声が響く。
「それで悪を全うしました、って言われてもねぇ。説得力足りなくない? 悪役的に」
「貴様に何が分かる」
「分かんないよ」
 あっさり答える。
「僕、自分がどう死んだのかも分かんないし」
 サイコブレイドの刃が、ほんの一瞬止まった。花村の笑顔は変わらない。
「でも、誰かのために自分を使い潰す奴の顔くらいは、ちょっと見覚えあるんだよね」
「花村」
「怒った?」
「いいえ」
 眞澄は淡々と答えた。
「事実なので」
「氷野ちゃんまで~」
「お前は自覚してください」
「やだなあ」
 軽口。
 その裏側で眞澄は一瞬たりとも、敵を見失っていない。
 花村の銃撃に対する反応。攻撃は最低限。目立つ必要はない。
 前で白い煙がこれほど派手に舞っているのだ。
 自分まで踊る意味はない。

 サイコブレイドが距離を取った。
 刃へ、外宇宙の光が集まり始める。星の死骸を押し固めたような、冷たい輝き。
「氷野ちゃん」
「大技ですね」
「あ、やっぱり?」
 降り注ぐ銃弾を受けようと、煙に翻弄されようと。
 痛みを後回しにして、最後に全てを焼けばいいという選択。

 花村はサイコブレイドの前を横切る。
「こっちこっち」
 発砲。
「おい、まだ溜める?」
 幽体化。
「六十秒って結構長いよ?」
 実体化。
 零距離。
「カップ麺も半分くらい出来るじゃん」
「花村、集中してください」
 それでも。
 花村は敵の視線を奪い続ける。
 サイコブレイドが刃を向けるのは、白い煙。
 後方にいる眞澄ではない。
 ミナでもない。
 それでいい。
 ――それが仕事だ。

「花村」
 眞澄が呼んだ。
 今までと違う声。
 短く。
 鋭い。
「そこを退け」

 花村の表情から笑みが消えた。
 躊躇はない。
「了解」

 煙となる。

 一瞬で射線上から消えた。

 眞澄の緑色の瞳がサイコブレイドを捉えている。
 視えている。
 身体の内側などではない。魔力でもない。あらゆる存在を形作る、結び目。
 サイコブレイドと刃。
 数え切れないつながりが、眞澄の視界には線として在る。

「私の相棒はよく喋りますから、お喋りも疲れたでしょう」
 静かな声。
 彼の視線が、世界をなぞる。
「そろそろ終わらせてあげますよ」
 断裁。
 音はない。光すらない。ただ切れた。

 サイコブレイドと、ギャラクティックバーストを結んでいたものが。

「――何を」
 膨れ上がった外宇宙の輝きが崩れる。
 放たれるはずだった閃光は行き場を失い、黒紫の星屑となって宙へ散った。
 花びらの上で幻の夜空のように消えていく。
「視えている、そう申し上げたでしょう」
「氷野ちゃん、ナイス」
 煙が集まり人型を取る。いつのまにかサイコブレイドの真正面に花村がいた。
 銃口が胸元へ触れる。
 出力を上げる。数回目かの零距離射撃。
 サイコブレイドの身体が弾き飛ばされる。

「……ありゃ、結構威力あったのにな」
 吹き飛んだサイコブレイドがすぐに、再び立ち上がった。
 まだ終わらない。
 花村は銃を構えた。
 眞澄は杖をつき、静かにその少し後ろへ立つ。
「氷野ちゃん」
「何ですか」
「次も僕が前?」
「当然です」
「冷た~い」
「まあ」
 眞澄は僅かに目を細めた。
「お前なら大丈夫でしょう」
 花村が瞬きをした。
「じゃ、行ってくるね」
「ええ」
 眞澄は前を見る。
 煙は形を持たない。
 掴めない。

 それでもあの白い煙だけは。
 見失うことなど、ありはしない。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

シルヴァ・ベル
√能力者を弑するならまずはAnkerたりうる存在から
理に適っていますわ、ほんとうに悪党と云うのは悪知恵が回りますのね
でも例え自分と関係なくとも義のために動く者が大勢居る、わたくしたちの特性はご存知ないみたい

すこし花畑を荒らしてしまいますがご容赦を
後で元通りに直しますからね
多数ある腕の《怪力》と炎のブレスで応戦します
彼、耐久力にも秀でているのでしょう
けれどわたくしだって根競べなら負けませんわよ

妖精が物語の主人公に祝福を授けたのですから、命を落としてはいけません
願いが叶ってめでたしめでたし それ以外のエンディングがあっては駄目
その為ならわたくし、暴れん坊の竜にだってなれてしまうわ

 シルヴァはサイコブレイドを見上げた。
 片や身の丈およそ十五センチの妖精。片や外宇宙より飛来した殺し屋。
 その刃には星の外の冷たい光が宿り、眼差しは真っ直ぐミナへ向けられている。
「能力者を弑するなら、まずはAnkerたりうる存在から。理に適っていますわ」
 シルヴァは、静かに言った。
 青い瞳が細められる。
「ほんとうに悪党と云うのは、悪知恵が回りますのね」
「……褒めているのか」
「まさか」
 ぱた、と蝶の翅が震えた。
「ただ、あなたにもひとつ見落としがございますわ」
 花畑の向こうには、既に何人もの能力者が集まり始めている。
 誰も彼も、ミナの身内ではない。博士を知る者ばかりでもない。
 それでも来た。
 見ず知らずの誰かが待ち続けてきた場所を、守るために。
「例え自分と関係なくとも、義のために動く者が大勢居る。わたくしたちの特性は、ご存知ないみたい」
 シルヴァは胸を張った。
「善意で命を賭けるか」
「ええ」
「愚かだ」
「そうでしょうか?」
 シルヴァは首を傾げる。
「童話では、案外そういう者が最後に幸せになりますのよ」

 サイコブレイドの刃が動いた。
 黒い斬撃の狙いは真っ直ぐ、ミナ。
「させませんわ!」
 シルヴァが飛び込む。
 小さな身体。普通なら一太刀で消し飛ぶ。
 だが。
「させませんわ」
 空気が軋んだ。
 炎が咲く。
 灼熱と共に、花畑の空を覆うほどの巨大な影が一瞬で膨れ上がった。

 蝶の翅は消え。小さな手足も消え。代わりに現れたのは、燃え盛るような鱗を持つ赤い飛竜。
 その巨体がミナの前へ割り込み、宇宙の刃を真っ向から受け止めた。
 火花すら散らない。
 斬撃は鱗へ触れた瞬間、存在を拒まれたように消え失せる。
「何?」
「根競べなら」
 竜の口から、シルヴァの声が響く。
「わたくしだって負けませんわよ」
 灼熱のブレス。赤い光が花畑を染めた。
 シルヴァは首を振る。
 炎の軌道を絞る。
「すこし花畑を荒らしてしまいますが、ご容赦を!後で元通りに直しますからね!」
 謝罪と同時に、炎。
 地面が焦げ、花の一部が熱風に伏せる。

 サイコブレイドは身を翻す。
 ハンターズ・ロウ。
 姿が消える。音も匂いも、あらゆる探知から抜け落ちる。
 けれどシルヴァは慌てない。
 巨大な翼を広げると花畑の上へ影を落とし、ミナを丸ごと覆う。
「見つけられなくても構いませんの」
 竜の瞳が光る。
「あなた様がこちらへ来れば、わたくしに当たりますもの」
 暗殺者にとって、標的へ至る道そのものが巨大な竜で塞がれている。
「随分と強引だな」
 どこからか、サイコブレイドの声。
「ええ。わたくし、サイズに見合わず力持ちですの」

 次の瞬間。
 宇宙の刃が竜の脇腹へ突き立つ。
 シルヴァの内側から、霊気が大きく削られた。
「……っ」
 竜の身体が僅かに揺れる。
 サイコブレイドは見逃さない。
「魔力も無限ではないな」
 二撃と三撃。
 斬撃が来る。そのたびに霊気が減る。
 けれど、シルヴァは退かない。
「彼女へ祝福を授けましたの」
 竜の爪が大地を掴み、翼を広げる。
「妖精が物語の主人公に祝福を授けたのですから」
 炎が喉の奥へ集まる。
 灼熱が爆ぜる。
「命を落とさせはしません!」

 次の瞬間、炎の奔流がサイコブレイドを飲み込んだ。
 まるで童話の挿絵だ。城を焼く竜。王国を脅かす怪物。
 けれどこの竜は、誰かを守るために燃えている。
「願いが叶って、めでたしめでたし、それ以外のエンディングがあっては駄目」
「物語は、そんなに都合よくいかない」
 炎の向こうからサイコブレイドの声がする。
「知っていますわ」
 シルヴァは答えた。
「だから、都合よくするために努力するのです」
 霊気は減っている。身体は重い。
 視界の端が、少し霞む。
 それでも背後にはミナがいる。
 百年待った少女。さっき自分が、祝福を渡した相手。

 赤い竜は、もう一度大きく息を吸った。
 喉の奥で炎が燃える。
「――そのためならわたくし、暴れん坊の竜にだってなれてしまうわ」
 今度こそ花畑の空を、真紅の炎が貫いた。
 童話の妖精は、小さくて愛らしいもの。――普通はそうだ。しかし、そう決まっているわけではない。

 時には幸せな結末を守るため。
 物語の頁いっぱいに描かれるほど大きな竜になることだって、できるのだ。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

汀羽・白露
【白華】

成程、このままでは読後感の悪い終幕となるというわけか
"博士の死"を知らぬまま逝くのは
ある意味メリーバッドエンドというものかもしれないが…
生憎、かやも俺も、そういう結末は好かんのでな

どうせどちらかが倒れるまで終わらんのだろう?
ならば、お前と語らう意味も時間も惜しい

敵と相対する前から魔力溜め
ミナには後ろに隠れているよう伝え
全力魔法で【幻想叙録】による範囲攻撃にて先制攻撃
「敵との融合」を指示

幾ら潜伏しても無駄だ
肉眼で見えようが見えまいが
俺が"敵との融合"を命じた以上、お前はいずれ潰える

かやと俺にはオーラ防御を
負傷時は回復優先

ミナ
今は終わった後の事だけを考えろ
…この先、どんな未来にしたいかをな
御埜森・華夜
【白華】

何であの人、止められてホッとしてるんだろう?と思いつつ
けど、今は聞くべきではない気がして口を噤む
星も、そんな話をする気はないだろうし…

なら白ちゃんの言う通り、やることは一つだけ

剣で戦うのが得意なわけじゃないけど、俺、避けたりするのは得意なんだ
だからふわふわくるくる、躱して踏み込んで、√
抜いた栞は俺の刃
物語を遮り、今一時閉じるもの

誰も喜ばない物語はここでおしまい
一旦閉じよう
それに—…望んでない、悲しい苦しい物語も

白露とは特に合図なくても息を合わせて行動
37号の守りは白露に任せて、最前線で注意を引く
悪を止めるなんて一方的なヒーローみたい
—そんな人、珍しいけど

けど俺は、君の願いも聞いてあげる

 サイコブレイドの声には、安堵に似たものがあった。
 止めてみせろ。そう口にした男の声音を聞いて、華夜は白い瞳を細めた。

 何であの人、止められてホッとしてるんだろう?
 問いは浮かんだ。
 けれど、今は聞くべきではない気がした。相手もそんな話をする気はないだろう。
 だから。
「……白ちゃんの言う通りかな」
 やることは一つだけだ。
「成程」
 白露は既に幾冊もの洋書の幻影を周囲へ浮かべていた。
 風もないのに頁がめくれる。
 古びた紙。金箔の文字。異国の挿絵。綴じられた物語たちは、花畑の空に静かな書架を築いていく。
「このままでは、随分と読後感の悪い終幕になるというわけか」
 傷ついたミナを一瞥する。
「博士の死を知らぬまま逝くのは、ある意味メリーバッドエンドというものかもしれないが……」
「俺、そういうのやだなぁ」
「知っている」
 白露は淡々と言った。
「生憎、かやも俺も、そういう結末は好かんのでな」
 サイコブレイドが刃を持ち上げる。
「ならば来い」
「ああ。どうせ、どちらかが倒れるまで終わらんのだろう?」
 白露の緑の瞳が冷たく細まる。
「ならば、お前と語らう意味も時間も惜しい」
 サイコブレイドへ向けた視線は一度も揺れない。
「ミナ、俺たちの後ろにいろ」
「しかし、私の待機位置は――」
「今は終わった後のことだけを考えろ」
 頁が鳴る。
 ぱらり。
 ぱらり。
「……この先、どんな未来にしたいかをな」
 ミナは、少しだけ黙った。
「未来」
「ああ」
「現時点では、未定義です」
「なら、それでいい」
 白露は答えた。
「未定義なら、まだ書ける」

 洋書の幻影が一斉に開いた。
 幻想叙録。
 無数の頁から、文字が溢れ出す。
 黒い活字。白い余白。語られなかった一文。欠けた章。存在しなかったはずの挿絵。
「――融合」
 白露が命じる。
 文字の群れが、サイコブレイドへ殺到した。
「何?」
 男が身を翻すと気配が消える。
 音も。匂いも。魔力も。探知のすべてから、その存在が抜け落ちる。
 だが。
「幾ら潜伏しても無駄だ」
 白露の声は変わらない。
「肉眼で見えようが、見えまいが。こいつらは獲物を見失わない」
 これは追跡ではない。既に書き加えられた指示だ。物語の中へ組み込まれた、ひとつの役割。
「俺が敵との融合を命じた以上、お前はいずれ潰える」
 白露は頁を閉じるように、指を曲げる。
 何もない空間へと文字が絡みつくと、サイコブレイドの輪郭が一瞬だけ浮かんだ。
「かや」
「うん」
 返事と同時に。
 華夜も消えた。
 ――いや。消えたのではない。ただ、速いだけだ。
 加速した身体が、頁の花びらの間をふわりとすり抜けていく。
 華夜は剣の達人ではない。だから、剣士のようには戦わない。
 ふわふわと。刃が来れば半身で躱し、次の一撃には身体を沈め、時には花びらを追うように回る。
「剣で戦うの、得意ってわけじゃないんだけどさ」
 サイコブレイドの横を抜ける。
「俺、避けたりするのは得意なんだ」
 古書から、栞を抜いた。
 細い小さな。物語の途中を示すためだけのもの。
 けれど華夜の手の中で、それは鋏めいた刃へ変わる。
 喜びも、悲しみも、始まりも終わりも。積み重ねられた物語のすべてが、一振りへ宿る。
「抜いた栞は、俺の刃」
 華夜が踏み込む。
「物語を遮り、今一時、閉じるもの」
 鋏栞が閃いた。

 装甲を貫く。
 サイコブレイドの脇腹を斬り裂き、その人生の一瞬を、強引に切り取る。
「――ッ」
 宇宙の刃が返るが、華夜は笑ったまま身を捻る。
 頬の横を刃が通り過ぎた。
「惜しい」
「ふざけているのか」
「まさか」
 薄く頬に血を滲ませた華夜はくるりと回る。
 次の瞬間には、もう反対側。
「結構真面目だよ、俺」
 一閃。
 サイコブレイドの物語を途中で閉じるように、斬撃が入る。

 だが、敵も止まらない。
 刃に外宇宙の光が集まり始めた。
 ギャラクティックバースト。六十秒後の死。傷を後回しにして、最後に全てを焼き払うための技。
「白ちゃん」
「視えている」
 白露の周囲で、洋書が旋回する。
「防御」
 頁から光が溢れ、華夜と白露を淡い膜が包んだ。
 同時に華夜の頬に走った薄い傷へ一冊の白い本が開く。傷に頁が振れると、裂けた肉が静かに塞がっていく。
「ありがと」
「礼は後だ」
 華夜が前へ出れば、白露は後ろを守る。白露が頁を開けば、華夜はそこに生まれた隙へ飛び込む。

 また一閃、華夜がサイコブレイドの刃を躱した。
 そして一歩。懐へ。
「誰も喜ばない物語は、ここでおしまい」
 鋏栞を開く。
「一旦、頁を閉じよう」
 刃を振るう。
 サイコブレイドが受ける。
 火花。
 華夜は押し合わず、すぐに離れる。
 白露の文字がその空白へ入り込んだ。頁が皮膚を透過し、装甲へ沈み、存在そのものへ溶け込んでいく。
 行動力を奪う。
 一頁ずつ一章ずつ、終幕へ近づける。
「……俺の物語を、終わらせるつもりか」
 サイコブレイドが問う。
 華夜は少しだけ目を細めた。
「違うよ」
「何?」
「君が望んでない、悲しい苦しい物語だけを、ここで一度、閉じるだけ」
「勝手な」
「うん。勝手だよ」
 華夜は笑った。
「悪を止めるなんて、一方的なヒーローみたいだよね」
 自分だって別に、正義を掲げているわけではない。
 ただ。
 
 ――目の前の男が、俺たちに止められて安堵した。
 その一瞬を見てしまった。
「けど俺は、君の願いも聞いてあげる」
 華夜が言う。
「……俺の?」
「うん」
 サイコブレイドの刃が揺れた。
「今は言わなくていいよ」
 鋏栞を構える。
 白露が横から言う。
「かや」
「なに?」
「敵に情けをかけるなら、まず倒してからにしろ」
「白ちゃんって現実的」
「お前がふわふわしすぎなんだ」
 華夜は笑いながらもう一度、サイコブレイドに向けて駆けた。
 白露の洋書が開く。敵との融合が、さらに深まる。
 相手の動きが鈍る。
 あと僅か。華夜は迷わない。
「ここでお終い」
 鋏栞が閃く。
 外宇宙の刃と、その持ち主を繋ぐ一瞬へ。
「続きは――……今度いつかにしよ?」
 一閃。
 人生すべての瞬間を遮る刃が、サイコブレイドを深く断った。
 同時に無数の洋書が閉じる。
 膨れ上がっていた宇宙光が沈むと、行き場を失った光は細かな星屑となり、花畑の上へ散った。

 華夜が着地する。
 白露はすぐ、その傷へ回復の頁を向けた。
「白ちゃん」
「何だ」
「今の、結構いい挿絵にならない?」
「自分で言うな」
「じゃあ白ちゃん撮ってよ」
「戦闘中だ」
「終わったら?」
「……考えておく」
 華夜は少し笑った。
 その向こう。サイコブレイドはまだ、完全には倒れていない。

 華夜は鋏栞を下げない。
 白露も頁を閉じない。
 なぜなら、まだ頁が最後まで綴られていないから。
 だから華夜は前に立ち、白露はその背を支える。

 悲しいだけの終幕なんて、ふたりとも好まない。
 ならばせめて、この先を選べるところまで――物語を繋いでやればいい。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

和紋・蜚廉
ちるは(h01839)と護る

徹するとはいえよく手が回る
…汝は花が嫌いなのか?

翅音板から放つ音と転位を繰り返す挙動をちるはと合わせてサイコブレイドを翻弄

力が解き放たれるまで蓄積され続けるというのなら
その時が来た後に、動けぬ程の手傷を負わせるのみ

怯まず繰り出される反撃は野生の勘で捉えて回避
ちるはへ危機が迫れば、斥殻紐で捕縛し隙を作ろう

やがて蓄積が解放される瞬間、
放つ先を誘導するようグラップルで宙へ放り投げる

外宇宙の光が届く寸前で範囲外にいるインビジブルと位置を入れ替え、
その一撃を躱そう



良いものだぞ、花は

想いを伝える手段にも
共に過ごすひと時を彩るものにもなる

いつか汝も、
この祭りへ参加すると良い
不忍・ちるは
蜚廉さん(h07277)と護り護られ

サイコブレイドさんのご事情は伺っていますが…
すみませんが私たちもミナさんとこの花畑は譲れません
私はAnkerとして護られるためにも蜚廉さんのちかくで並びます

なるべく花畑を荒らさないように空中のインビジブルと入れ替わり
すれ違いつつ蹴り上げ連携パスするように
蜚廉さんと合わせてサイコブレイドを包囲し蹴撃します

敵のチャージ完了前に合わせて体勢を崩すように足払い
蜚廉さんがぶん投げたらお花が無い場所を背に避けましょう


ミナさんにもう会えないとは言いませんが…博士の軌跡を辿ったり
待つのもよいですけど迎えに行くのもよいかもですね
今日がひとつのきっかけになればいいなって思います

「サイコブレイドさんのご事情は伺っていますが……」
 ちるはは、静かに前へ出た。
「すみませんが、私たちもミナさんとこの花畑は譲れません」
 そのすぐ隣へは、蜚廉が立つ。
 目は敵を見ていない。
 だが。
 花の匂い。
 風の流れ。
 土を踏む気配。
 そして、そばにいるちるはの呼吸。
 彼にはそれだけで充分だ。

「徹するとはいえ、よく手が回る」
 蜚廉が低く言う。
「……汝は花が嫌いなのか?」
「関係のないことだ」
「そうか」
 翅音板が鳴った。
 耳障りではない。硬質で、乾いた、命の芯を震わせるような音。

 次の瞬間、蜚廉の姿が消えた。
 否。
 入れ替わった。
 空中を漂う、どこにでもいるインビジブルと。
 その位置へ転位し、残された透明な存在が透爆の火を孕む。
 サイコブレイドが振り返るより早く。
「こちらです」
 ちるはの声が、反対側からした。
 彼女もまた、空中のインビジブルと位置を入れ替えていた。
 すれ違いざまに蹴り上げる。
 サイコブレイドの顎が跳ね、身体が浮く。
「蜚廉さん」
「応」
 転位。
 その先に、蜚廉。落ちてきた殺し屋の脇腹へ、重い蹴撃を叩き込む。
 弾かれる。今度はちるはの方へ。
 まるで連携のパスだった。
「戻します」
 ちるはの足が鳴る。横薙ぎの蹴り。
 サイコブレイドを押し返す。その先に蜚廉の拳。

 お手玉状態になっていたサイコブレイドが一旦距離を取る。
 刃に、外宇宙の光が集まり始めた。
 黒。遠い星の死を煮詰めたような光。
「初撃から大技ですね」
 ちるはが言う。
「ああ」
 蜚廉は気配で知る。
 刃に力が蓄積されていく。六十秒後に周囲を焼き払うための力。
「ならばその時が来た後に、動けぬ程の手傷を負わせるのみ」
「分かりました」
 ちるはは、蜚廉のそばから離れない。
 護られる存在。けれど。護られるために、ただ後ろへ隠れるつもりはない。
「私は、蜚廉さんと並びます」
「今さら遠ざけても、来るだろう」
「来ますね」
「ならば、我の届く場所にいろ」
「――はい」

 サイコブレイドが踏み込み、刃がちるはを狙う。
「ちるは」
「はい」
 斥殻紐が走る。
 蜚廉の手から放たれた紐がサイコブレイドの腕へ絡みつき、刃の軌道が逸れる。
 その隙にちるはが低く沈んだ。
 足払い。
 殺し屋の体勢が崩れる。
「今!」
 蜚廉が踏み込み、敵の腕を取る。
 腰を落とす。
 そして。
「飛べ」
 サイコブレイドの身体が宙へ投げ出された。
 花畑の上ではない。花の少ない、開けた地面。
 ――ちるはは既に移動している。
「こちらです」
 転位。
 空中で踵を叩き込む。さらに軌道が逸れる。
「……見事だな」
 サイコブレイドが低く言った。
「合図もなしに」
「必要ありません」
 ちるはは答える。
「蜚廉さんがどこへ投げるか、大体分かりますから」
「ちるはがどこにいるかも、我には分かる」
「見えていないのに?」
「見えずとも」
 蜚廉は淡々と答える。
「分かるものはある」

 次の瞬間。
 外宇宙の光が膨れ上がる。
 ぴったりと、六十秒。
「来ます」
「ああ」
 外宇宙の閃光に、蜚廉が走った。
 真正面。
「蜚廉さん」
「予定通りだ」
 花畑とは逆へ光を引きつける。そして、サイコブレイドの身体を掴む。
「何を――」
「向きが悪い」
 光の射線を――己へと向ける。
「花を守るために死ぬ気か」
 刹那、閃光が放たれる。
 星が死ぬ瞬間をそのまま地上へ落としたような光が、蜚廉へ届く。

 その寸前。
「否」
「はい」
 転位。
 蜚廉の姿が消えた。
 光の範囲外、花のない場所へ退避していたインビジブルと瞬時に位置を入れ替える。

 外宇宙の閃光が空を貫いた。
 雲を裂く。
 昼の青へ。
「逃れたか」
「気配を断ちて巡るは一手」
 蜚廉の声が、背後からした。
「我は、生き延びることにかけては慣れている」
 大地を踏む。
 ちるはも並ぶ。
「自らの罪悪を清算したいならば」
 声が低くなる。
「こういう花畑ではなく、場所を選べば良い」
「……」
「自分に守りたいものがあるからと、何かを踏み躙っていい理由にはならん」
 一歩。
 一歩。
「弱さとは、そういうところだ」
「――ならば、貴様は強いのか」
 サイコブレイドが問う。
 蜚廉は少し考えた。
「我は生き延びてきた」
 それから。
 隣のちるはの気配を感じる。
「そして今は、独りではない」
 ちるはも静かに前を見る。
「独りですべてを守るのは、難しいですからね」
「……俺には、他に選択肢がなかった」
「そうでしょう」
 ちるはは否定しなかった。
「選択肢の少なさを、弱さだと切り捨てるつもりはありません」
「ならば」
「ですが」
 黒い瞳が、真っ直ぐ敵を見る。
「今、ここには私たちがいます」

 蜚廉がいる。
 自分がいる。
 他にも。
 花畑を守ろうとする者がいる。

 サイコブレイドは答えない。
 ちるはは、それ以上言わなかった。
 代わりに。
 少し後ろのミナへ声を向ける。
「ミナさん」
「はい」
「博士ともう会えないとは、私は言いません」
 百年待つこと。
 約束。
「でも、――待つのもよいですけど、博士の軌跡を辿ったり、迎えに行くのもよいかもですね」
 ミナは黙った。
「迎えにいく」
「はい」
「その行動は、待機とは異なります」
「そうですね」
「……検討します」
 ちるはは、ほんの少し笑った。
「今日が、ひとつのきっかけになればいいなって思います」
 蜚廉が、息を吐く。
「良いものだぞ、花は」
 サイコブレイドへ。
 今度は、戦う声ではなかった。
「想いを伝える手段にも、共に過ごすひと時を彩るものにもなる」
 白い花。
 青い花。
 百年を見てきた花。
「いつか汝も、この祭りへ参加すると良い」
 蜚廉は構えを取る。

「生き延びろ」
 蜚廉は言った。
「我は、それを強さと呼んでいる」
 ちるはが隣に並ぶ。

 翅音。
 転位。
 虚爆。
 透爆。
 二人の姿が同時に消える。

 次の瞬間。
 蜚廉とちるはが、サイコブレイドを挟んでいた。
「行きますよ、蜚廉さん」
「応」
 独りではない。ならば。
 生き延びるための道は、きっと一つではない。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

緇・カナト
【黎明】
悪をここで止めてみせろ、だってさ
正義だ何だと語るのはキライなんだけど
百年続いた想いがあり、
誰かにとっての帰る場所が在り
日常とはそう言うものの積み重ねなので
踏み躙ろうとするヤツは排除しよう
オマエの悲願は叶わない

綴られし記銘を遂行せよ、と
影業Luckと融合して大鎌を携えて
花畑などに向かう攻撃は
すべて空間引き寄せ能力で此方が引き受けよう
大鎌でサイコブレイドを斬り伏せつつ
多少の耐久性と連れもいるから
何とかしてみせるとも

自らの罪悪を清算したいならば
こういう花畑じゃなくて場所を選べば良いものを
自分に守りたい物があるからって
何かを踏み躙っていい理由にはならない
弱さってそういうところだよね
トゥルエノ・トニトルス
【黎明】
どんな理由があれ、花畑もミナも日常も
傷付けさせる訳にはいかないからなぁ
わたしは平穏を守るものの味方だ

主が大鎌を備えるならば
こちらは神の槍でも呼び寄せようか
自身の周囲に雷纏う無数の投槍を浮遊させ
食らえば痛い黄昏の呪詛も付けて、
状態異常も積み重ねていこうか
レイン砲台からのレーザー射撃で追撃もあるし
手数の多さならば任せたまえよ

独りですべてが守れる訳もなく
守り通したい物があるからこそ
手を取り合おうとするのが
ヒトの世だとは思っているのだが
選択肢の少なさを弱さだと
切り捨てるつもりもないが…
倒される事が報いと言うのであれば
こちらも全力で相手をするとしようか

「悪をここで止めてみせろ、だってさ」
 カナトは、ひどく気のない声でそう言った。
 花畑の向こうでサイコブレイドは黒い刃を携え、ミナへ至る道を塞ぐ者たちを睨んでいる。
「正義だ何だと語るのはキライなんだけど」
 カナトの灰色の瞳が、静かに細められた。
「百年続いた想いがあり、誰かにとっての帰る場所が在る。――日常とは、そういうものの積み重ねだ」
 昨日と同じ道。
 いつもの食事。
 待ち合わせる場所。
 帰れば誰かがいる部屋。
 大仰な名前などなくても、人はそういう小さなものを抱えて生きている。
「それを踏み躙ろうとするヤツは、排除しよう」
 声音から、柔らかさが消えた。
「オマエの悲願は叶わない」
 サイコブレイドが刃を構える。
「ならば止めろ」
「そうするよ」
 カナトの足元で、影が揺れた。
 黒が伸びる。
「綴られし記銘を遂行せよ」
 人の輪郭を持たぬ闇が、カナトの身体へ絡みつく。服を、腕を、指先を呑み込み、ひとつになる。
 その手に現れたのは巨大な鎌だった。影のような黒い物質が模倣した、死神の大鎌。
 光を反射しない夜よりなお暗い刃が、花畑の陽光へ不吉な弧を描く。

「主が大鎌を備えるならば」
 傍らで、トールが空を見上げた。髪が風に揺れる。
「こちらは神の槍でも呼び寄せようか」
 青い瞳に雷光が走った。
「駆けよ迅雷」
 空気が鳴る。
 白金の雷が少年の周囲へ落ち、そのまま槍の形を取った。
「――黄昏れこえて、射貫けよ神の槍」

 雷霆万鈞。
 無数の投槍が宙に浮かぶ。
 一本ごとに雷を纏い、穂先から青白い火花を散らしていた。
 雷鳴はまだ遠い。けれど。空はもう、神の武器庫だ。
「どんな理由があれ、花畑も、ミナも、日常も。傷付けさせる訳にはいかないからなぁ」
 雷槍が一斉に穂先を向ける。
「わたしは、平穏を守るものの味方だ」
 サイコブレイドが低く唸る。
「俺の平穏は既に無い」
「そうか」
 トールは否定しない。
「ならば、お主が怒るのも、剣を取るのも理解はできる」
「だが止めるのか」
「止めるとも」
 あまりにも当然のように。
「理解することと、好きにさせることは別だろう?」
 その言葉と同時に、雷が落ち、神の槍が走る。
 サイコブレイドが槍の間を縫って踏み込んだ。
 黒い刃が、一直線にトールを狙う。

 だが。
「そっちじゃない」
 空間が歪み、刃の軌道が引かれる。
 トールへ向かっていた殺意そのものが、見えない手に掴まれたように曲がった。
 カナトが大鎌を手に、殺し屋の前に立つ。
「オレを見ろ」
 宇宙の刃を大鎌が迎え撃った。
 激突する黒と黒。影の刃と外宇宙の刃が噛み合い、衝撃だけが花畑の上を走る。
「主」
「平気」
 鎌を押し返す。
「多少は丈夫だし」
「多少なのか?」
「連れもいるからね」
 カナトは笑った。
「何とかしてみせるとも」

 鎌を返す横薙ぎ。サイコブレイドが身を沈める。
 その頭上で、またも空が鳴った。
「手数の多さならば任せたまえよ」
 トールが指を振る。
 雷の槍が頭上から一直線に落ちてくる。
 サイコブレイドが刃で弾く。
 一。
 二。
 三。
 四本目を避ける。
 五本目が肩を掠める。
 雷の残滓が、傷口から黒紫の光となって這った。
 動きを鈍らせ感覚を狂わせたそこへ、レイン砲台のレーザーが走る。
「まだあるぞ」
 光条。
 着弾。
 サイコブレイドが後退する。
 その足元へ、大鎌が突き立った。
「おっと、逃がさないよ」
 カナトが空間ごとサイコブレイドを引き、間合いへ引き戻す。
「――ッ!」
「トール」
「分かっている」
 雷槍が旋回。
 逃げ道という逃げ道へ、神の槍が浮かぶ。
 カナトが前を塞ぐ。
 トールが周囲を閉じる。

 一人が殺意を引き受け。
 一人がその隙を雷で穿つ。
「独りですべてが守れる訳もなく」
 トールは雷の中心で言う。
「守り通したい物があるからこそ、手を取り合おうとするのがヒトの世だとは思っているのだが」
 サイコブレイドが刃を振るう。
 カナトが引き受ける。
 肩が裂けた。
 血が飛ぶ。
 ――だが、倒れない。
 鎌を振る。
「選択肢の少なさを弱さだと、切り捨てるつもりもない」
 雷槍がサイコブレイドの脚へ突き刺さる。
「お主には、それしか残らなかったのかもしれない」
 トールの声は、どこか静かだった。
 雷光が増す。
「だが、倒されることが報いだと言うのであれば――こちらも全力で相手をするとしようか」
 浮遊する槍が神の槍へ変わる。

 サイコブレイドが歯を食いしばる。
「……哀れむな」
「哀れんではいないさ」
 カナトが答えた。
 影の大鎌を肩へ担ぐ。
「弱いと思ってるだけ」
 空気が凍る。
「自分に守りたいものがあるからって、何かを踏み躙っていい理由にはならない」
「貴様に――」
「分かるよ」
 カナトは遮った。
「誰かの狗になって、命令通りに噛みつくしかない時があることくらいはね」
 首輪。
 鎖。
 かつて自分も知っていた跡。
 だからこそ。
「でもさ」
 灰色の瞳が、サイコブレイドを見る。
「自らの罪悪を清算したいなら、こういう花畑じゃなくて場所を選べば良いものを。自分を悪にするために、他人の大切なものまで巻き込む」
 大鎌を握る。
「弱さって、そういうところだよね」
「――黙れ!」
 サイコブレイドが踏み込む。
 刃が閃き、カナトの腹を深く裂いた。
 深い一撃に身体が崩れる。
「主!」
 地へ落ちる一瞬。

 そして。
 影が笑った。

 倒れた体が即座に蘇生する。
 黒い物質が死体の輪郭をなぞり、次の瞬間には、カナトがもう一度立っていた。
「……だから言っただろ」
 口元から血を拭う。
「多少は丈夫だって」
「それを多少とは言わん!」
 トールの声に、少しだけ呆れが混じる。
「そう?」
「後で説教だな」
「嫌だなぁ」
 カナトは笑いながら大鎌を振り上げた。
「今」
「ああ」
 トールの周囲で、全ての雷槍が鳴った。
 カナトが空間を引く。
 サイコブレイドの身体が、強制的に前へ引き寄せられる。
 逃げられない。
 足元には影。周囲には雷。

「お主の痛みまで否定するつもりもない」
 神の槍が降る。
「――だが、オマエの悲願は叶わない」
 黒い大鎌が振り下ろされる。

 夜を模した影と、黄昏を越える迅雷。
 二つの軌跡が、ひとりの殺し屋へ重なった。

 轟音。
 花畑の上へ雷光が広がる。
 全ての力は、ただ一点。サイコブレイドだけを穿つ。

 ……やがて光が収まると、カナトは大鎌を構えたまま立っていた。
 トールの周囲には、まだ幾本もの雷槍が浮かんでいる。
「主」
「なに?」
「次に死ぬ時は、先に言え」
「無茶言うね」
「心構えというものがあるだろう」
「じゃあ次から」
「次がある前提なのか?」
「どうせ蘇るから」
 トールは数秒黙った。
「……説教を増やしておこう」
「それは困るなぁ」
 軽い声。
 けれど。
 サイコブレイドを見る二人の目は、少しも逸れない。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

コルヴス・ペネグリーヌ
🌷

悪を名乗るとは潔し。
サイコブレイドの境遇には同情するが、仕事は仕事だ。
割り切らせてもらうよ。

斬り結ぶ最中に太刀筋を見切り、受け流し、戦闘錬金術を発動。
|一息《ダッシュ》で踏み込んで|刺突《貫通攻撃》。串刺しのサイコブレイドに【錬金毒】を流し込む。
「煮ても焼いても食えないお前には錬金毒がお似合いだ」
毒使いの特製レシピ。とくと味わうが良い。

村に帰るまでが任務だ。|37号《ミナ》 と共に博士を待とう。
とは言え手持ち無沙汰か。
「ミナ。少し話さないか」
例えば、花畑に咲く花の名前。
あるいは百年で花畑が最も美しく見えた瞬間。
あとは博士との思い出話とか。

恐らく何らかの事情があった。
だとしても博士に対しては少々苛立ちを覚える。
約束は果たされるべきであり、年月は関係ない。

必要だと判断したら|神聖竜詠唱とゴーストトーク《アフターサービス》をしよう。
願いは『博士のインビジブルをこの場に召喚する』の予定だが、他の者と重複するなら『博士の生前の記憶を復元する』等ミナを第一に考え適宜変更(お任せ)。
俺自身は再会に立ち会う必要はない。
哨戒を口実に離れ、√能力の効果が切れない位置で2人の語らいを見守ろう。

去り際に営業トークも忘れずに。
「力になれることがあったら連絡してくれ」

負傷は覚悟済みだが、仲間に迷惑をかける非効率的な行為はしない。
戦闘後の√能力に関しては熟慮を重ね、仲間にも配慮する。

【アレンジ、連携歓迎】
モリス・ガルニエ
🌷
和奏(h04310)と共に

さあ、キノコ君の興味深い味も堪能し力も満ちた
後は今日の目的を果たさねば
花畑へ急ぎ
彼女の道と意思が断たれるのを防ぐ

前は和奏に任せ
私は到着次第、攻撃がミナ君に行かぬよう
護れるよう
彼女の近く
後衛からの援護といこうか

やあ、無事かい?
美しい花畑を見に来たら
なんとも無粋な襲撃だ
今日はとても楽しかったから
ここや君を傷つけられるのは避けたい
手を出させていただくよ

オーラ防御で万一こちらに飛んできたら庇う用意はし
敵の放つ刃、光線の軌道や癖を注視
防御優先だが
前衛が踏み込む機を作るため太刀筋を鈍らせられたらと
ナイフに麻痺毒を仕込み投擲で放つ

人の寿命の長さ
君は知らぬわけではないね
村で人を見ていたなら
でも、誰かの帰る場を待ちたい気持ち
約束を望むこころをわたしは美しいと思う
実際、自分がそうなっても待つだろうし
この先ここで待ちつつけるも
他の地へ自分で歩き
思い出を増やし再開を望むひとと
いつか会えた時の話題を増やすも
素敵だから心のままに
ただ、今は
夕方の花を見ながら待ち人の話を聞かせてくれるかい
賀茂・和奏
モリス(h09495)さんと

バターソテーは思ったより美味しかった
ええ、今日のよき日をぶち壊しにする襲撃など
防いでみせます、その為に来たわけですから

悪と認識して行動をなす、言い訳をしない
サイコブレイドの今までの事件でも
彼に事情があってしていること
本人が望んでないことは知ってるけれど

花畑に到着次第
稲ちゃんを喚び別雷に力を下ろす
任されました
前、サイコブレイドへ距離を詰め
早業で彼の太刀筋より早く切り抜き
攻撃を弾けたら
ずっと避けることは難しいとしても
急所にくらわなければよい
体勢立て直しに離れられたり
攻撃がミナさんやモリスさんの方に行きそうになったら
斬撃で空間引き寄せ、ずらすなどしつつ
戦いながら、隙を探す
…見てるあの人も、後ろからなら参加できるでしょうと
ある種信じつつ
見出したら、至近に飛び込み
武器持つ腕狙い断てたら

拒めば大切なものに危険が及ぶと聞くが
なら、解放の為に助力や情報を漏らせはしないのだろうか

無事護れたなら…
話を邪魔する気はないから
綺麗なこの花畑の空が夕暮れになるまで
ゆったり楽しんで行こうか
泉・海瑠
【幻鱗】
誰かに"必ず"って言葉を使ったのなら
その博士は誠実な人だったんだろうな
彼女が待ち続ける相手だもの
そうあって欲しい

例え片方が約束を守れなくなっても
もう片方が守れるようにしたい
だって、生きてれば自分で選べるもの
そうだよね?巳理さん

望んでもいないのに暗殺者として命を奪い続け
それしか生きる理由を知らず
死にゆく心の儘、命すらどうでも良くなってたあの頃
偶然出会った先生がそう教えてくれた

Re:Formulaで意志と魔力をDissectraへ注ぐ
|暗殺者として《ナイフ》じゃなく|医療従事者として《メスで》
裡に何か抱えてそうな敵も患者の一人に見えて

"止めてくれ"、って言ってるように聞こえるのは気のせいかな
ミナさんも見てるし極力苦しまずに終わらせたい

早業と不意打ち、高速移動駆使してStray Reaper発動
毒は|超睡眠《麻酔》
|暗殺業で《奪う為に》仕込まれた技を今、護る為に
ミナさんも勿論巳理さんも絶対に護りきる
花畑は荒らさないよう
敵の攻撃が二人に行かないようにしつつ
オレも全力で回避・受け流す

お互いに何かを護りたい事情がある
…だから、恨みっこなしだよ

…さてと
そういや、ミナさん
正午以外の時間は自由なんだよね?
なら、その時間でミナさんも博士を探してみたらどうかな
色々調べたり、誰かに話を聞いたり
待ちながら博士の足跡を辿ることだってできると思う

ま、これは一案だから
どうするかは、あなたが決めて良いんだよ
黛・巳理
【幻鱗】
そうだね、海瑠くん
言葉とは意思を持って放つもの
—それが願いであれ、理想であれ、ね

ただ“言ってみただけ”とは、ヒトである限り中々通用しない
そして生きるとは選び続けることだとも、海瑠くん

最前線へ出る海瑠の向こう、サイコブレイドを観察する
何かを傷つけることを望んでいない—…寧ろ止められることを望むようなサイコブレイドの口ぶり
その意味

観察して気になったのは、その存在と名前の由来
見る限り犬と一心同体で動いているように見えて、どこか“剣の動きの方が早い”錯覚を覚える
同時に浮かぶあの男が“使われている”可能性を否定しきれず保留としながら、違和感を信じて行動

ミナを守りつつ、√雲の雨をサイコブレイドの剣目掛けて撃ち込めば、気のせいでなければ体より先に“剣が動いている”ような?
思案ののち、仮定を置き、雨で狙い撃つのはサイコブレイドの剣と、その一歩先
海瑠の動きに合わせて放ち、√海神で鮟鱇へ出すのは融合の指示

戦闘が終わったのち、
海瑠の言葉に頷き、新聞やインターネットなど、情報媒体はもちろん人伝いにでも人探しをしてみるのはどうかとミナに提案
海瑠の言葉の後押しに過ぎないが、やっみるのも価値だと、

待つだけで得られなかっものを今度は掴みに行くのも、悪くはないだろうから
勿論、あくまで提案だがね

 花畑を渡る風の中、サイコブレイドはまだ立っていた。
 既に無傷ではない。全身には幾人もの能力者が刻んだ傷が残り、外宇宙の装甲は裂け、黒い光が血の代わりのように傷口から零れている。
 それでも宇宙の刃を握る腕は下がらず、男の視線はただひとつ、花の奥にいるミナを見据えていた。
「任務を継続する」
 誰に聞かせるでもなく呟き、男は一歩を踏み出す。
 止めてみせろと口にした。己を赦されざる悪と呼び、そう在ることを選んだ。
 だからこそ、ここで膝をつく気はないのだろう。
 命令されたから。
 ほかに選択肢がなかったから。
 どれも事実であり、同時に本人が言った通り、殺される側には何の関係もない話だ。



「……誰かに必ずって言葉を使ったなら、その博士は誠実な人だったんだろうね」
 彼女が百年も待ち続ける相手なのだ。そうであってほしいとも思う。
 片方が約束を守れなくなっても、もう片方が自分でその先を選べるようにしたい。
 昔の自分は、選べるとは思っていなかった。
 望んでもいないのに暗殺者として命を奪い、それしか生きる理由を知らず、己の命さえどうでもよくなっていた。
 死に損なって、流れ着いて、偶然ひとりの医師に出会った。
「ああ。言葉とは意思を持って放つものだよ。それが願いであれ、理想であれね」
 必ず帰る。
 口を離れた言葉は、それを受け取った者の中に残る。
「ただ言ってみただけは、ヒトである限りなかなか通用しない。……そして生きるとは、選び続けることだとも思うよ」
「うん……そうだよね」
 海瑠は前を見たまま問いかける。
 巳理は少しだけ目を伏せた。
「あの人も、やっぱり止まらないか」
 海瑠は苦く息を吐いた。
「止まれないのかもしれないね」
「同じじゃない?」
「似ているが、少し違う」
 巳理の目は、先ほどからサイコブレイドの全身を追っていた。敵意の方向、視線、呼吸、重心、刃を振るう直前の筋肉の動き――心療内科医の観察としては随分と物騒だが、彼は人と人成らざる者を分けずに診てきた男だ。言葉より先に身体が語ることも、本人が気付かぬ違和感が行動へ滲むこともよく知っている。
「海瑠くん。あの剣」
「剣?」
 海瑠が目を凝らした。
 外宇宙の刃が僅かに傾き、その切っ先が海瑠へ向いた。次いで肩が回り、足が地を蹴る。
 一瞬だった。
 それでも海瑠は、巳理の言葉を聞いた後だからこそ気付いた。
「あれ……」
「そう」
 動くのはいつも、剣が先だった。
 刃が進む方向を決め、その軌道へ腕が追従し、最後に男の身体がついてくる。
 あまりにも滑らかで、あまりにも僅かな差だから、熟練した剣士の動きだと言われれば納得してしまうだろう。
 しかし巳理には違和感が残った。
「彼と剣は一心同体に見える。だが時折、剣の意志に彼が従わされているようにも見えるね」
「使われてるってこと?」
「可能性の話だよ。断定には足りない」
「じゃあ、試してみよっか」
 あっさりと言われ、巳理は海瑠を見る。
「私の仮説だけで?」
「巳理さんがちゃんと見て考えた仮説だろ?」
 海瑠は笑った。
「オレには充分だよ」
 それは盲信ではない。巳理なら間違えないと思っているわけでもなかった。
 間違えた時は自分も一緒に間違えるし、その後ふたりでどうにかすればいい。

 海瑠の緑の瞳から、笑みが消えた。
「じゃあ、行ってくる」
「ああ」
「ミナさんも巳理さんも、絶対に護るから」
「私まで対象に含まれているのかい?」
「当たり前だろ」

 サイコブレイドが踏み込んだ。
 次の瞬間、海瑠の姿も消える。
 極めて高い精度を持つ近接斬撃が海瑠の首を狙った。
 だが敵意がこちらへ向いた時には、Stray Reaperは既に始まっている。
 海瑠の身体が跳躍した。
 刃の射程へ、自ら飛び込む。斬られるためではない、斬られるより先に――こちらが切るために。
「ごめんね」
 宇宙の刃とメスが交差した。海瑠は身を捻って切っ先を流し、サイコブレイドの懐へ入る。
 メスが肩口を裂いた。
 Re:Formula。必中の刃から流れ込むのは、暗殺のために調合された毒ではない、超睡眠の麻酔だ。
「お互いに、何かを護りたい事情がある――だから、恨みっこなしだよ」
「甘い」
 サイコブレイドが己の皮膚を裂いた。
 サイコストライクの代償で即座に再行動し、二撃目が海瑠の腹部へ走る。
「そうかな」
 海瑠はそれを身を反らして避け、不可視の魔霧へ姿を沈める。
「アンタも、ちょっと甘い顔してるけど」
「何?」
「止めてくれって聞こえるんだよね」
「世迷言を」
 刃が霧を切り裂く。
「嘘下手だねぇ」
 海瑠の声だけが別の場所から響いた。
「海瑠くん、左へ」
 巳理の声がする。
 説明はないが、海瑠は迷わず左へ飛んだ。
 直後、それまで彼がいた場所へ黒紫の閃光が走る。
「沈んでしまおう、共に」
 追撃に巳理が先に能力を発動した。
 花畑の底が深海へ繋がったように、更に青い闇が広がり、奥から巨大な提灯鮟鱇が浮かび上がる。
 不気味な燈。母なる海の片鱗。
 巳理の指示を受け深海がサイコブレイドへ絡みついたが、一歩先に刃が動き、安全圏へと回避する。
「……やはり、最初に離すべきはあの刃か」
 海瑠が笑う。
「見込みは合ってた?」
「まだ診断には早いよ」
「慎重だなぁ」
「医師だからね」
 二人が話している間も、深海の護霊は男を見失っていない。
 直撃は退避したが、既に海との融合は始まっており、暗殺者の行動を一歩ずつ沈めていく。
 その中でも、サイコブレイドが荒々しく刃を振るった。
 麻酔。深海。それらの阻害を受けても全力で歩を進める。
 止めてほしいのかもしれない。――だが、だからといって手加減をするような男ではない。



「悪を名乗るとは潔し」
 その時、銃声が花畑を走った。
 精霊弾がサイコブレイドの刃を弾き、海瑠との間へ僅かな距離を作る。
 コルヴスは短機関銃を下ろし、片手で詠唱錬成剣を抜いた。
「境遇には同情するが、仕事は仕事だ。割り切らせてもらう」
「……俺の境遇を理解したとでも?」
「言わん」
 コルヴスは即答した。
「他人の事情を全て理解できると思うほど傲慢ではない」
 サイコブレイドの目が僅かに細まる。
「だが、お前がミナを殺すなら俺は止める。それだけだ」
「単純だな」
「ああ、契約とは単純な方がいい」
 言葉の終わりとともに、刃がコルヴスを狙う。
 傭兵は退かず、一撃目を受け流す。
 外宇宙の刃をレイピアの腹で滑らせ、身体の横へ流した。
 攻撃が失敗したことを悟ったサイコブレイドは自ら片目を潰し、再行動。二撃目はコルヴスの空いた腹部を狙い、
「太刀筋は見た」
 半歩。傭兵がそれだけずれる。
 それだけで、刃が軍服を裂くが皮膚には届かない。
「俺の命は安くないぞ」
 コルヴスがその態勢のまま一息で踏み込む。
 竜漿兵器は対標的必殺兵器へ姿を変え、細身の切っ先がサイコブレイドの脇腹を貫いた。
「煮ても焼いても食えないお前には、錬金毒がお似合いだ」
 レイピアを捻ると、敵の体内に毒が流れ込む。
「毒使いの特製レシピだ。とくと味わうが良い」

「なんか今日、毒の使用者多くない?」
 海瑠が後ろから言った。
「お前のは麻酔だろう」
「分類上は毒にもできるよ」

「――やあ、随分と賑やかだね」
 耳心地のよい声が、続き更に後方から届いた。
 モリスがミナの近くへ立ち、戦場全体を見渡している。
「ミナ君は無事かい?」
「……機体の一部に損傷がありますが、活動継続に大きな支障はありません」
「そうか」
 モリスは頷き、花畑へ視線を巡らせる。
「美しい花畑を見に来たら、なんとも無粋な襲撃だ。今日はとても楽しかったからね、ここや君を傷つけられるのは避けたい」
 ナイフを指に挟む。
「私も、少し手を出させていただくよ」
 投擲されたナイフをサイコブレイドは事も無げに刃で弾く。
 が、既にモリスは別のナイフを投げた後。
 一投目は牽制。二投目が本命。
 麻痺毒を仕込んだ刃が、男の肩へ刺さる。
「いい子だから暴れないでね」
 命中した部位の機能が止まる。
 サイコブレイドの右肩が、僅かに落ちた。
「モリスさん!」
 和奏が声を上げる。
「右腕」
「任されました!」
 走りながら狐神を呼ぶ。
 稲ちゃん――気分屋の神霊が和奏へ力を下ろし、雷が刀へ絡みつく。
 人と狐神が完全に重なると、和奏は刀を構えた。
「今日のよき日をぶち壊しにする襲撃など、防いでみせます。そのために来たわけですから……バターソテーも思ったより美味しかったですし」
「食事の感想から入るのかい?」
「腹が減っては戦ができませんので」
「道理ではあるね」
 モリスが笑う。
「君たち、前は任せたよ」
「はい」
 和奏が懐に入ると、サイコブレイドも動く。
 武器を持つ右肩を麻痺させられてなお、刃は異常な速度で和奏の喉元へ伸びた。
 和奏は早業で刀を差し込み、雷を纏った刃で受ける。

 火花。
 雷。
「悪と認識して行動をなす。言い訳もしない」
 刀を返す。
「あなたが今まで起こした事件にも事情があり、本人が望んでやっていることではない。自分たちは、それも知っています」
「ならば退け」
「それは無理ですねぇ」
 斬撃。更にサイコブレイドが避ける。
「知ったから許すでは、被害に遭った方へ申し訳が立ちません」
 もう一撃。こちらも男が受ける。
 和奏は刃を押し込む。
「でも、拒めば大切なものへ危険が及ぶなら……解放のために助力を求めることも、情報を漏らすこともできなかったんですか!」
「――出来るなら!」
 サイコブレイドが怒鳴った。
 刃が和奏の肩を裂く。
「とっくにしている!」
「でしょうね!」
「……何?」
「なら聞き方を変えます!」
 和奏の刀が雷鳴を上げる。
「今、あなた自身はどうしたいんですか!」
 サイコブレイドの動きが止まった。
 ほんの一瞬。
 それは迷いではなかった。
 答えようとしたのだ。
「俺は――」
 その言葉を遮るように剣が動いた。男の腕を引く。切っ先が和奏へ向く。
「モリスさん!」
「見えているよ」
 ナイフが剣を握る男の手首へ飛んだ。
 解剖執刀術を受けた男の五指が機能を失う。
 それでも剣は落ちない。……手に貼りついているかのように。
「成程」
 モリスの声から柔らかな響きが少し消えた。
「先ほどの紳士が言っていた剣が先に動くという推測は、中々興味深いね」
「実験対象に興味津々になるのは戦闘後にしてくださいよ」
 和奏が空間を引く。
「む? 顔には出ない方なんだが」
「青い目がキラキラしてます!」
「これは元からだよ」
 冗談を交わしながらも二人の呼吸は乱れない。
 和奏が踏み込めば、モリスは太刀筋を少しずらす。
「下に来るよ」
 和奏が跳ぶ。
 刃が足元を薙ぐ。
「二歩右へ」
 動く。
 外宇宙の光が左を焼く。
「前」
「はい!」
 和奏の刀がサイコブレイドの刃を正面から刀で受けた。
「やはり後ろからでも充分参加できますね、モリスさん」
「任せると言った以上、見ているだけでは申し訳ないからね」
「その点は信じてましたよ」
「それは光栄だ」

 和奏が笑うと、モリスも穏やかに目を細めた。



 巳理の雨が剣を削る。
 海瑠の麻酔が身体を沈める。
 コルヴスの錬金毒が内部を侵し、モリスの麻痺が腕を止め、和奏の雷が逃げ道を断つ。
 それでもサイコブレイドは止まらない。
 刃へ宇宙光が集まり始めた。
「大技です!」
 和奏が叫ぶ。
 ギャラクティックバースト。チャージ中に受けた傷は、全て後へ回される。
 ――つまり今この瞬間だけ、男は痛みから解放される。
「全員まとめて消す」
 サイコブレイドは言った。声に迷いはない。
「……そう」
 海瑠がメスを握り直す。
「最後までやるんだね」
「俺は殺し屋だ」
「うん」
「悪を全うする」
「分かった」
 海瑠は笑わなかった。
「オレたちも、最後までやるよ」
 海瑠が駆けるのをサイコストライクが迎え撃つ。
 刃が海瑠の肩を深く裂く。
「海瑠くん!」
「平気!」
 嘘だ。
 巳理には分かる。
 しかし……海瑠もまた自分で選んだのだ。ならば今は、その選択を支える。
「海神」
 提灯鮟鱇が口を開くと、深海がサイコブレイドの足を沈めた。
「このままあいつの動きを止められるか」
 コルヴスが口を開いた。
「力が足りない、精々少し足を止める程度だね。海瑠くんは?」
「まだいけます! 麻酔追加しましょうか!」
「では、私は腕を止めよう」
「引き寄せは僕が。多少太刀筋を変えられるでしょう」
「任せる」
「あなたは?」
「このままだと埒が明かん。――狙うは急所だ」

 僅かな作戦会議の後、サイコブレイドが海瑠へ刃を振るうが、応対して海瑠が高く跳んだ。
「まず寝てもらうね!」
「――ッ」
 超睡眠麻酔が首元を狙うと男の膝が沈む。即座に、刃が男の身体を無理やり引き上げた。
 海瑠の麻酔と共に剣の根元へ王水が降り注ぎ、宇宙の金属が軋む。
「モリスさんは!」
「もう投げた後だよ」
 ナイフは武器を握る腕へ。
「少し休みたまえ」
 腕の神経を断ち、右腕が完全に止まる。しかしサイコブレイドは左手で剣を掴んだ。
「まだだ!」
 叫ぶ。
 男自身の意思で剣を握る。
「俺はまだ戦える!」
 和奏が目を見開く。
 それから、笑った。
「ええ、そうこなくっちゃ」
 雷刀を構えると、帯電した刃が走った。
 サイコブレイドの身体が引き寄せの力で和奏へ強く引かれる。剣は反対へ進もうとする。
 身体と刃が初めて明確に、二つの方向へ引かれた。
「今!」
 巳理が叫ぶより早く、コルヴスは既に動いている。
 一息のダッシュ。
 男と剣の間へレイピアが突き出される。

 サイコブレイドが笑った。
 初めて。
 僅かに。
「甘い」
 左脚を自ら破壊することで、即座に再行動。
 剣との距離を高速で詰めた男の剣先が、コルヴスの首へ向かう。
「危ないですよ!」
 和奏が空間を引き僅かに軌道をずらすと、モリスのナイフが刃の腹を叩いた。
 巳理の雨が切っ先へ落ちる。
 その隙に海瑠が、コルヴスの背を蹴った。
「乱暴だな!」
「死ぬよりいいだろ!」
 コルヴスの身体が一歩前へ押し出され、刃は首ではなく肩を裂いた。
 血が飛ぶが、コルヴスは退かない。
 予定続行。
「……捕まえたぞ」
 レイピアが、次はサイコブレイドの胸を貫く。
 錬金毒。
 既に流し込んだ毒と合わせると、確実に致死量だ。
「ッ……!!」
 男が声もない叫びをあげると同時、ギャラクティックバーストの光が臨界へ至る。
「六十秒」
「全員離れろ!」
 巳理が言うが、コルヴスがレイピアを抜かない。
「俺ごと引け!」
「本気ですか!?」
「早くしろ! 今はこれが一番効率的だ!」

「和奏君」
 モリスが静かに言った。
「引こう」
「――はい!」

 和奏が刀を振るうと空間そのものが引かれる。
 コルヴスと、レイピアに貫かれたサイコブレイドがまとめて、花畑の外へ。
 花のない岩場へ。

「巳理さん!」
「分かっている」
 海神の深海の力がコルヴスだけを引き戻す。
 敵との融合を解く寸前でコルヴスへ向けられた殺意に反応し、海瑠が跳んだ。
 サイコブレイドの腕へメスを一太刀。
「おやすみ!」
 超睡眠麻酔。それでも、男は眠らない。
「――俺は!」
 瞬間、外宇宙の光が爆ぜ、続きの言葉あが閃光に呑まれた。
 星の外で生まれた光が岩場を白く染める。

 モリスがミナの前へ立ち、破片をオーラで防御した。
 和奏が雷刀で空間をずらす。巳理の海が余波を呑む。海瑠は地面へ身を伏せる。
 コルヴスはぎりぎりのところで深海に引かれ、光の範囲から転がり出た。
 閃光が消える。
 岩が溶けていた。
 空気が焼けている。

 その中心。
 サイコブレイドは立っていた。
「まだ」
 一歩。
 一歩。

 次の一歩で、後回しにされていた全ての傷がすべて、男へ返る。
 麻酔。
 王水。
 深海。
 麻痺。
 雷。
 錬金毒。
 無数の戦士が刻んだ傷。
 サイコブレイドの膝が折れた。
「――」
 男が何か呟く前に、指先が光へ変わる。
 刃も身体も少しずつ崩れていく。
「……任務は、失敗だな」
 殺し屋が静かに言う。
「ああ」
 コルヴスは答える。慰めは必要ない。
「完敗だ」
 男は少しだけ、笑ったように見えた。
 光が散る。
 男が何を言おうとしたのか、誰にも分からない。
 殺し屋の身体は宇宙の星屑となって消えた。花畑へ届く前に、風へ溶けていく。

 次に目を覚ました時。再び同じ命令へ従うのか。今度こそ助けを求めるのか。
 それは。
 きっと、彼が次に選ぶことだ。

「……消滅を確認、しました」
 ミナが言った。
 海瑠は、空になった岩場を見る。
「今はね」
「今は」
「また会うかもしれない」
 海瑠は笑った。
「その時は、その時だよ」
「再度戦闘になる可能性がある、と?」
「あるね」
「では、何故笑っているのですか」
「んー……次があるって、悪いことばっかりじゃないから」
 海瑠は言うと、巳理が隣へ来る。
「そうだね、海瑠くん」
「でしょ」
「だが」
 巳理は海瑠の肩を見る。
「まずきみは治療だ」
「……え」
「座りなさい」
「巳理さん、今いい話のところ」
「出血している」
「これぐらい平気」
「海瑠くん」
「はい」
「座りなさい」
「……はい」
 狂犬も、先生の前では大変聞き分けが良かった。



 戦いが終われば花畑にはいつもの風が戻ってくる。
 倒れた花はあった。熱に少し葉を巻いたものも。だが根まで失われたものは少ない。
「思った以上に、皆よく気を遣ったものだね」
 モリスがしゃがみ伏せた花へ指を添える。
「これなら、また綺麗に咲くだろう」
「花は見た目よりもずっと強いですからねぇ」
 和奏も隣にしゃがんだ。
「人もそうだろう?」
「どうでしょうか」
 和奏は笑う。
「自分はどちらかというと、怪異の方が詳しいので」
「私も似たようなものだよ」
「それは知ってます」
 二人は顔を見合わせる。
「モリスさん」
「何だい?」
「意外と楽しかったですね、今日」
「戦闘が?」
「そこだけ切り取ると自分たち、かなり危ない人ですよ」
「否定は難しいね」
「キノコは?」
「興味深い味だった」
「また食べたいみたいな顔しないでください」
「ああ、花まつりも美しかったね」
「……なら、良い日ですね」
 モリスは少し考える。
「そうだね」

 視線を上げる。花畑の中央にはまだミナが立っていた。
「少し、彼女と話してくるよ」
「はい」
「和奏君は?」
「自分は、後片付けでも」
「気が利くね。では頼むよ」

 モリスはそのままミナの方へ歩いていった。鷹揚とした足取りにミナは令を返す。
「ミナ君」
「はい」
「隣にいても?」
「許可を求める必要はありません」
「そうか」
 もう陽が傾き始めている。
 白い花は少しずつ金色へ。青い花は深い色へ。昼とは違う花畑が広がってくる。
「美しいね」
「はい」
「もう少し、例の博士の話を聞かせてくれるかい?」
 ミナがモリスを見る。
「博士についてですか」
「ああ」
「何故ですか」
「興味がある」
 モリスは素直に答える。
「私は未知への興味が強くてね」
「博士は未知ではありません」
「私にとっては未知の人間だよ」
 穏やかな声。
「それに百年、誰かが待ち続けたいと思った人物だ。少しくらい、知りたくなるだろう?」
 夕方の花を見ながら、ミナがしばらく沈黙する。

「――博士は」
 やがて。ぽつぽつと、言葉を零し始める。
「歌唱能力が高くありませんでした。けれど、花を褒める目的でよく歌唱を行っていました」
「可愛らしい人だね」
「博士は成人男性です」
「成人男性も可愛らしいことはあるよ」
 モリスが笑う。
 ミナは話を続けた。
 博士は新しい植物を見つけると名前をつけたがったこと。
 正式名称を調べる前に勝手な名前をつけたこと。白い小花へ星の砂。青い花へ眠れない空。
「随分と詩的だ」
「学術的には不適切です」
「でも、きみは覚えている」
「はい」
「なら良い名前だったのだろう」
 ミナは白い花を見る。
「……星の砂」
 呟く。
「うん」
 モリスも見る。
「良い名だね」
 少し沈黙。
「ミナ君」
「はい」
「人の寿命の長さを、きみは知らないわけではないね」
「理解しています」
「村で人を見てきたなら、尚更だ」
「出生、成長、老化、死亡を多数確認しています」
「それでも待った」
「はい」
「何故だい?」
「博士が帰ると言ったためです」
 返事はすぐだ。
 モリスは穏やかに頷く。「そうか」と、否定せず、ゆっくり言葉を選ぶ。
「私はね、誰かの帰る場所を守りたい気持ちも、約束を信じたい心も、とても美しいと思うよ」
 ミナの淡い瞳がモリスを見た。
「美しい」
「ああ」
「本日、同様の評価を複数回受領しました」
「人気の意見らしい」
「統計的優位性を検討します」
「ふふ」
 モリスは笑う。
「ただね、ここで待ち続けるのもいいが――他の土地へ歩いて、新しい思い出を増やすのもいいね」
 海。街。知らない花。
「いつか再会を望む人と会えた時、話したいことを増やしておく。それも、素敵だと私は思うよ」
 ミナはペンダントへ触れた。
「私は、博士への報告事項を毎日記録しています」
「百年分の?」
 モリスは少し笑う。
「きみらしいね」
 夕陽がミナの銀灰の髪へ金色を落とす。
「……もう少し、待ち人の話を聞かせてくれるかい」
「はい」
 ミナは博士の話をした。
 モリスは聞いた。
 急かさず、答えを決めず――ただ少女が百年抱えていた記憶を。少しずつ。少しずつ、外へと出すように。



「痛い?」
 包帯を巻きながら海瑠が聞いた。
「疼痛感覚は設定されていますが、活動不能に至る損傷ではありません」
「うん」
「修復可能性も高いです」
「うん」
「よって問題は――」
「ミナさん」
 海瑠はもう一度、優しく聞く。
「痛い?」
 ミナが止まる。
 三秒。
 四秒。
「……疼痛を確認しています」
「そっか」
 海瑠は頷く。
「痛かったね」
 それだけ言った。
 ミナは返事をしなかった。
 巳理は少し離れたところからそのやり取りを見ている。
「そういや、ミナさん。正午以外の時間は自由なんだよね?」
「はい。正午前後に待機位置へ到達することを最優先としていますが、それ以外の時間について、博士から明確な指定はありません」
「ならさ」
 海瑠は包帯を留める。
「その時間で、ミナさんも博士を探してみたらどうかな」
「私が、博士を探す」
「そう」
 海瑠は笑う。
「色々調べたり。誰かに話を聞いたり」
 巳理も近くへ来る。
「新聞やインターネット。図書館。行政記録なども使えるだろうね」
「巳理さん、そういうの得意だもんね」
「図書館が好きなだけだよ」
 海瑠はミナを見る。
「待ちながら博士の足跡を辿ることだってできると思う」
「待機を終了せず?」
「しなくていいよ」
 巳理も頷く。
「待つことを選んだのは、きみだ。なら別の何かを追加で選ぶこともできる」
 ミナが二人を見た。
「……検討します」
「ゆっくりでいいよ」
「回答期限は」
「ない」
「長期間になる可能性があります」
「じゃあ、気長に待つよ」
 海瑠が言う言葉に、ミナの目が僅かに動く。
 巳理は気付いた。海瑠は多分気付いていない。
「待つだけでは得られなかったものを、今度は、自分で掴みに行くのも悪くはないだろう」
 巳理は静かに言う。
「あくまで提案だがね」
「では、提案を受領しました」
「うん」
 海瑠は立つ。
 そしてふらつく。巳理が腕を掴んだ。
「海瑠くん」
「あ」
「座りなさい」
「いや、オレもう大丈夫」
「出血している」
「これは返り血で」
「きみの血だ」
「ほんとに大丈夫。さっき自分の手当てもしたし」
「海瑠くん」
「はい」
「座りなさい」
「はい」
 ミナは二人を見る。
「質問があります」
「何?」
「お二人は、常時このような会話を行いますか」
「否定したいところだが」
 巳理は考える。
「概ね」
「記録します」
「記録しなくていいよ!?」



 陽がもうすぐ山の向こうへ沈む。
「ミナ、少し話さないか」
 コルヴスが呼んだ。
「はい。先ほど、モリス様とも会話を行いました」
「まだ順番待ちが?」
「いいえ。あなたで最後です」
 コルヴスはミナの隣へ立つ。
「……おまえに、花の名前を教えてもらおうと思って」
「花ですか」
「ああ」
「コルヴス様は植物の知識が不足していますか」
「詳しくはない」
「了解しました」
 ミナは近くの花を指す。
「あちらはハクチョウソウです」
「白いな」
「はい」
 次。
「ルリマツリです」
「青い」
「はい」
「……」
「……」
「俺の感想が貧弱だな」
「情報量は少ないとは判断します」
「正直だな」
 コルヴスは僅かに笑う。
 白い花。金の花。青い花。深い藍の花。
「博士も、あまり花の正式名称は知りませんでした」
 周囲を見る。
「……その博士とやらのことも、聞かせてくれるか」
「博士に関してですか。――分かりました。少し、長くなりますが」

 少し沈黙があったが、そのあとは滑らかにミナは話した。
 博士が雨の日に転び、花壇に突っ込んだこと。珍しい植物を発見したと騒ぎ、雑草だったこと。整備工具を紛失したと泣き、三日後白衣のポケットから見つけたこと。
「随分と抜けた人間だな」
「博士は高い知能指数を記録しています」
「生活能力とは別らしい」
「同意します」
「同意するのか」
「客観的評価です」
「そうか」
 コルヴスは少し笑った。
「ミナ。俺は、約束は果たされるべきだと思う」
 ミナを見る。
「……博士には、何らかの事情が発生した可能性があります」
「理解している。だが、もし何らかの事情があったとしても、待たせた者に何らかの連絡はするべきだと考える」
「……」
「分かることと、腹が立つことは別だ」
「私は自ら待機を継続しています」
「それも分かっている」
「では何故」
「だが、腹は立つ」
 ミナは考える。
「理解と感情は別だと」
「そうだ」
「本日、類似した概念を複数回学習しました」
「今日は勉強になるな」
 夕暮れ。
 コルヴスは、ミナが首に下げたペンダントを見た。
「……少し、アフターサービスだ」
「アフターサービス?」
 コルヴスが神聖竜詠唱を発動する。空が白く光り――純白の巨大な竜が顕現した。
「巨大です」
 ミナが言う。
「見れば分かる」
「先ほどのコルヴス様と同程度の情報量です」
「……ミナ」
「はい」
「少し黙っていろ」
「了解しました」

 龍を前に、コルヴスは願いを考える。
 博士の霊を呼ぶ。一瞬頭に浮かんだが、――少し考えた後で却下した。
 再会を与え、すぐ奪う。
 それが少女のためになる保証はない。
「この少女が次へ進むために必要なものを。博士が、最後に向かった場所の手掛かりを返してやってくれ」
 言葉を受けた神聖竜が光を吐く。
 優しい、誰も傷つけない光が、ミナの古いペンダントへ降り注ぐ――。



『ミナ、次は少し遠くへ行く用事があってね』
『距離を要求します』
『海の向こうになる』
『帰還予定は』
『分からない』
『不明確です』
『そうだな』
 笑い声。
『でも帰るよ。必ず帰る』
 夕方の花畑。
『東の港から、アレクシア航路へ乗る』

『もし、私の帰りがあまりに遅かったら』

『……いや』
『博士。どうかしましたか』
『何もないよ。何でもないんだ。――続きは、帰ってから話そう』



 ミナが目を開ける。
「東の港、アレクシア航路」
 ペンダントを握る。
 コルヴスは待った。彼女の次の言葉を。
「忘れていました」
「人間も忘れる」
「私は機械です」
 神聖竜が光へ消えても、ミナは暫く中空を見つめていた。

「海瑠様と黛様から、博士の痕跡を探すことを提案されました」
「聞いていた」
「モリス様からは、思い出を増やし、再会時の話題を増加させる選択も美しいと提案されました」
「そうか」
「――今」
 ミナは……初めて花畑の外の、東を見た。
「私はそれらの案を実行する価値があると判断します」
「なら行け」
「正午には、可能な限り帰還します」
「ああ」
「待機は継続します」
「好きにしろ」
「ですが」
 ミナは初め花畑の外を見る。
「コルヴス様」
「何だ」
「コルヴス様は、村に再訪されますか」
 傭兵は黙る。
 金にならない。依頼も。契約もない。
「……何故だ」
「聞かせていない博士の思い出話が、あと推定二百七十一時間以上あります」
「全部聞かせる気か」
「本日はただの一部です」
「続きがあると」
「はい」
 コルヴスは額を押さえる。
「随分、回りくどい誘い方だな」
「より明確な言葉が必要ですか」
 ミナは考える。
 百年前。必ず帰る。そう言われた。
 今度は自分が。
「また来てください。次の花祭りの日に」
 それは、一年後だ。
 百年よりはずっと短い。けれど、短すぎるわけでもない。
 コルヴスはミナを見る。
「返答を要求します」
「……ああ」
 傭兵は答えた。
「契約成立だ」
「対価は」
「いらん」
 ミナの口元が、ほんの少し緩んだように見えた。
 コルヴスはそれ以上のことを確認しない。
「次の花祭りの日の夕方、私はここにいます」
 傭兵は振り返らない。
「契約は交わした。俺は契約を破らん」
 それだけ。
「……他にも、力になれることがあったら連絡してくれ」
 ミナは――今度は確かな笑みで、ペンダントを握った。

「契約を、受領しました」



 花祭りの音が遠くから聞こえていた。
 花は変わらず咲いている。
 海瑠は巳理に座らされ、自分の傷を処置されていた。
「ミナさん!」
 手を振る。
「どうするか決まった?」
「はい」
 ミナが歩いてくる。
「東の港から、アレクシア航路について調査します」
「アレクシア航路?」
「コルヴス様の能力により、博士の道程の情報が復元されました」
「よかったね!」
「はい」
 ミナは少し間を置いた。
「――そうですね。"よかった"と判断します」
 巳理が目を細める。
「調査方法が必要なら相談に乗ろう」
「ありがとうございます」
「人探しは専門ではないがね」
「巳理さん、調べもの得意だから大丈夫だよ!」
「海瑠くんは座っていなさい」
「座ってるじゃん!」
「立とうとした」
「ミナさんに近づこうと」
「座ったまま話せる」
「厳しい!」
 ミナが。二人を見る。
「本日の会話も記録します」
「だからしなくていいって!」

 モリスが少し離れた場所で笑う。
 和奏が隣へ来た。
「良い顔してますね」
「誰がだい?」
「ミナさん」
「そうかい?」
「ええ」
 和奏は夕暮れを見る。
「俺には、そう見えますよ」
 モリスも花畑を見る。
「なら、今日がひとつのきっかけになったのかもしれないね」
「ですね」
「待つのもいい、歩くのもいい……きっと。両方でもいいだろう」
「欲張りですねぇ」
 和奏の笑い声に、モリスの笑いが重なる。
「人生は、案外それくらいでいいのかもしれないよ」



 ミナは花畑の中央へ歩く。
 正午の待ち合わせのためではない。
 ただ、花を見るために。

「博士」
 ペンダントに触れる。
「本日の花畑は、晴天でした」
 サイコブレイドと呼称される外星体の襲撃を受けたこと。
 多数の方から救援を受けたこと。
 待つことについて、複数の意見を受領したこと。
「――また博士に関する、未記録情報が復元されました」
 東の港、アレクシア航路。
 ミナは花畑の外を見る。
「明日から調査を開始します。正午には帰還する予定です」

 約束は捨てない。
 けれど。

 少女は、やっと自分の足で歩きだした。

【MS】
 🌹当シナリオの結果を受け、『コルヴス・ペネグリーヌ(放蕩鴉・h09224)』様へと、『37号(ミナ)』の登録・作成権利を譲渡いたします。
 名前含め、OP等で明記されている以外の情報や設定はご自由になさってください。
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