シナリオ

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【王権決死戦】星芒は生まれず、死なずか

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●星詠み
 それは冷たい水面のような青い瞳だった。
 黒髪が揺れて、星詠みである鍵宮・ジゼル(人間(√汎神解剖機関)の怪異解剖士・h04513)は、冷静さこそが常であるような平らな表情で集まった√能力者たちに呼びかけた。
「お集まりいただき、ありがとうございます」
 彼女はいつもと変わらぬ顔立ちのまま、言葉を発する。
「√EDENにおける『病院』を端を発する事件の数々をご存知の方々もいらっしゃるかと思います。数々の事件を解決された皆様のご活躍により、√ウォーゾーンにて『今回の事件に関わる重要人物』がいる基地が存在することがゾディアック・サインにて予知されることとなりました」
 その言葉に√能力者たちは、やはり、と思ったかも知れない。
 √EDENの病院にて起こった事件の数々。
 それに関与していたのは、戦闘機械群と呼ばれる簒奪者たちであった。
 であれば、ジゼルに降りたゾディアック・サインは当然√ウォーゾーンに関するものであるように思うのは当然の帰結である。

「この『重要人物』は『星詠み』の力を持っており、これまで事件の黒幕が行ってきた作戦の立案に関わった存在と予測します」
 つまり、それは『星詠み』の予知能力。
 であれば、黒幕がこちらに気が付かれないまま勢力を拡大していたのも頷けるし、その星詠み力を利用して『事件が露見する未来』を掻い潜ってきたのも辻褄が合う。
 √能力者達は次なる行動を如何にすべきかを理解する。

「はい。この√ウォーゾーンの『重要人物』が存在する基地に乗り込み、これを確保。そうすれば、必ずこの事件の『黒幕』と言うべき√能力者が施設に乗り込んでくるでしょう。これを撃退してしまえばいいのです」
 √能力者がするべきことは三つ。
 第一に、ゾディアック・サインにて彼女が見た√ウォーゾーンの基地を強襲し、基地内部に乗り込み迎撃に出てくる戦闘機械群との戦闘を行いながら『重要人物』を探し出し、確保しなければならない。
 第二に、確保した『重要人物』から情報を聞き出すこと。
 第三に、今回の事件を引き起こした黒幕の撃破である。

「ですが、この黒幕は、これまでの経緯、規模からも見ても『|王権執行者《レガリアグレイド》』で間違いないしょう」
 ジゼルの瞳はいつもと変わらない光を湛えていたが、それ故に√能力者たちは理解した。
 これが『王権決死戦』である、ということを。
 極めて危険な任務。
『王権執行者』が持つは√EDEN侵略兵器『王劍』。
 その力は絶大であり、強大なインビジブルの大群を与える。
 加えて『王劍』は『絶対死領域』を生み出す。これはその影響範囲内にいるすべての√能力者の『Ankerとのつながり』を遮断する。
 つまり、この状態で死ぬことがあれば、二度と蘇生されることはない。
 そして、インビジブル化し、『王劍』に融合されてしまうのだ。
 だがしかし、これは『王権執行者』も例外ではない。これは、『王権執行者』を撃破する好機でもあるのだ。

「故に此度の事件に参加する皆様に、私から言えることがあるとすれば……【死を覚悟する】ことです。|Memento Mori《死を思え》、諸行無常、人生は夢の如し、無常を観ずる、すべての魂は死を味わう……有史以来、様々な文化圏において伝えられてきた死生観……皆様は√能力者。故に死から最も遠ざかった者。ですが、今一度思い出して頂きたいのです」
 これは【死を覚悟する】戦いなのだと。
 ジゼルは、やはりいつもと変わらぬ瞳の色で√能力者達に事件の解決を託し、その背を見送るのだった――。

●Ashes to ashes, dust to dust
 塵は塵に、灰は灰に。
 死の後に来る無常を説く言葉である。
 けれど、同時に死によって自然に還るという言葉であり、例外はないことを示している。
「もう嫌だ……」
 だが、例外がある。
 飢えている。乾いている。なのに、死ねない。
 窓もない、光も差し込むことのない暗い部屋の中に閉じ込められて、もうどれだけの時間が経ったのかもわからない。
 繋がれた鎖が音を立て体が震える。

 どうしてこんなことになったのだろう。
 考えてもわからない。
「なんで私がこんな目に遭うの?」
 呟いた言葉に答えはない。
 ただ伽藍洞の闇の中に自分の声と自分を繋ぐ鎖の音が響くばかりだった。
「嫌だ! もう! 誰かっ、誰か助けて!!」
 力を振り絞る。
 かすれた声。
 もう自分が戸を壁を叩いているのか、床を叩いているのかもわからない。
 だが、応える者はいない。
 死が救いだというのならば、死を与えて欲しい。
「誰かぁ……ッ!!」
 この闇の中では、何一つ、与えられない――。
これまでのお話

第3章 ボス戦 『指名手配吸血鬼『マローネ・コール』』


POW レディ・クロー
自身を攻撃しようとした対象を、装備する【赤き爪】の射程まで跳躍した後先制攻撃する。その後、自身は【鮮血色のオーラ】を纏い隠密状態になる(この一連の動作は行動を消費しない)。
SPD アルター・ブラッド
【魔力に満ちた血の雨】が命中した部位を切断するか、レベル分間使用不能にする。また、切断された部位を食べた者は負傷が回復する。
WIZ ブラッドアウェイク
知られざる【旧き血族の魔力】が覚醒し、腕力・耐久・速度・器用・隠密・魅力・趣味技能の中から「現在最も必要な能力ひとつ」が2倍になる。
イラスト モツ煮缶
√EDEN 至難30 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

●|王権執行者《レガリアグレイド》
『どれだけ生きるのだとしても、土に帰る。
 己は土塊。
 なれど歩き回り、考えうる限りを考える土塊。
 例え塵だから、塵に帰るのだと言われても、己の一片も奪われることはない』

「ちっ、この場所まで突き止めてきたのね、あなた達」
 それは唐突に振って湧いたような声だった。
 破壊された√ウォーゾーンの基地。
 地下までぶち抜くかのような破壊の痕。
 まるで大地が隆起した山の頂きのような施設の瓦礫の頂点に、一人の少女が立っていた。
 風になびくのは金色の髪。
 睥睨するのは赤い瞳。
 広げたのはコウモリの翼。
 手にしているのは、白い剣。

 浅い溜息が溢れた。
「これまで、アタシがどれだけ準備に時間を掛けてきたと思っているの」
 それは落胆の感情だった。
 彼女――指名手配吸血鬼『マローネ・コール』は、しかしその言葉とは裏腹に冷静だった。
「でも、もう無理ね。ここはアタシの負け」
 潔いと言えば潔いのだろう。
 彼女は肩をすくめた。そこにはある種の余裕さえ見て取れるようだった。
「この『王劍』の力がある限り、私は何度でもやり直せる」
 手にした白い剣。それが『王劍』であるのだろう。それを証明するように彼女の周囲には強大なインビジブルの大群が渦巻くようだった。
 そして同時に彼女の周囲に渦巻くのは赤い深海魚の如き『暴走インビジブルの群れ』。
 彼女が一人で姿を現す訳が無い。
『マローネ・コール』を守るように『暴走インビジブルの群れ』は渦巻き、さらに√能力者たちを取り囲む。
 まるで逃げ場などないというかのように渦巻いているのだ。
 そして、√能力者たちは、己の『欠落』を埋め得る存在、Ankerとのつながりが途絶したのを直感的に理解しただろう。
 寄る辺もなく、寄す処もない。
 ただ独り海原に漂うかの如き不安が襲い来る。

 故に『絶対死領域』。

「ここで、あなた達を全部殺して、また最初からやり直させて貰うわ」
 皆殺し。
 鏖殺。
 眼の前の強大なインビジブルの大群が揺らめく姿を見ては、それが可能なのだと思わせるには十分だった。
 言いようのない不安がこみ上げる。
 例えようのない恐れが溢れる。
 震える手足はしびれゆく。
 されど、眼の前に迫るは『『絶対死』。
「ふふん、ざぁ~こ……なんて言うわけないわ――」

――――!!!警告!!!――――
 ※このシナリオに参加希望の方は、プレイングの冒頭に【死を覚悟する】と記載してください(【 】も必要)。記載がない場合は採用できません。
 ※前章までのご自身のキャラクターのリプレイにおける状態、​🔴の数をよくご確認ください。ですが、それも宛にはできません。
 ※難易度をよくご確認ください。『至難』です。
 ※このシナリオは王権決死戦です。参加者には『絶対死』の危険性があります。
 ※絶対死したキャラクターは殆どのコンテンツが使えなくなり、二度と蘇ることはありません。覚悟のうえで、王権決死戦にご参加ください。
――――!!!警告!!!――――

●√
 誰かの瞳に写った|亀裂《√》走る世界を視るのは『欠落』。
『欠落』を抱えるのは、その心が健全ではないからだ。 
 健やかな心には、忌むべき真実の記憶は刻まれない。
 真実は時として人を不幸にする。
 なら目指すべき約束の場所――|楽園《√EDEN》を知りながら、√能力者は皆等しく不幸である。

 君は否定するだろう。
 しかし、厳然として眼の前には真実しかない。現実は偽らない。偽るのは己の心だけだ。
 それでも忘れることはできない。
 √能力者は『欠落』得て、知ってしまったからだ。
 正道ではない己を。
 王道ではない己を。
 さりとて邪道でもない己を。
 ただ不幸にも異端に成ってしまった己を。
 故に、君は視るだろう。
 数多に重なった√を。

 死することのできぬ運命は、今、『王劍』によって断絶された。

 選べ。
 その手で。
 生か、死か。その√を――。
伊和・依緒
【死を覚悟する】

『選べ』?
そんなの選ぶまでもないでしょ。

『絶対死』ってあらためて言われると、怖くないわけじゃないけど、
もともと死なないなんて思ってやってないし、
つながりが断絶した、って言っても、待っててくれるみんながいなくなったわけじゃないしね。

それに、ここまで来て逃げるのも気分悪いし、ここはこのまま倒させてもらうよ。

気合いを入れて手をひと打ちしたら、【葦原中国】を発動させるよ。

そしたら自分の足下に【イクタチ】で【滅魂撃】を撃ち込んで【気脈静粛状態】を作り出したら、
インビジブルに【切り込】んで【薙ぎ払い】ながらラスボスまで【ダッシュ】をかけるよ。

ラスボスにエンカウントできたら【リミッター解除】して【八千矛】での【滅魂撃】。
吸血鬼だって穴だらけは厳しいよね!

相手の攻撃は【見切り】と【フェイント】をメイン躱しつつ、
【イクタチ】で【武器受け】したり、【空歪捻】の【鉄壁】や【受け流し】で捌いていくね。
どうしても当たってしまうものには【武装ジャケット】の【オーラ防御】と【霊的防護】で対応するよ。

 物語がある。
 誰かの目に留まるものもあれば、留まらぬものもあるだろう。
 それを残酷だと、これが現実だと言うのはあまりにも極論が過ぎるというものだ。生命はいずれも物語を内包する。
 故に選び続ける。
 死に行く者の定めは、生きること。
 生きることは死にゆく結末をたどること。
 であれば、死より遠ざかった√能力者にとって、改めて突きつけられる選択は、ひどく――。

「そんな目をしてもダメよ。どちらにしたってあなた達は逃さない。ここで全部殺す」
 指名手配吸血鬼『マローネ・コール』は強大なインビジブルよりエネルギーを引き出しながら、嵐のように『暴走インビジブルの群れ』を 伊和・依緒(その身に神を封ずる者・h00215)へと差し向けた。
 心に恐怖がないわけではない。
 現実は常に選択を強いてくる。
 つまり、この場においては戦うか生きるか、逃げるか死ぬか。
 どちらにしたって彼女には意味もない選択肢であった。
 選ぶまでもない。
 ここは『絶対死領域』。
 逃げられない。
「もともと死なないなんて思ってないし」
「Ankerとの繋がりが途絶しているってのいうのに、強がりね?」
「つながりが断絶したって、待ってっくれるみんながいなくなったわけじゃないから」
 それに、と依緒は己が手を打ち据えた。

『暴走インビジブルの群れ』が迫る。
 赤い霊気を纏った巨体は、牙を向いて彼女の体を噛み殺さんとしているし、彼女に襲うは赤き汚染。
 疑心暗鬼。
 果たして己の心にあるものは、本当に正しいのか。『マローネ・コール』の言う通り、強がりではないのか。
 そう思えてならない。
 だが、依緒は頭を振る。

 己が語るは|葦原中国《アシハラノナカツクニ》。
 彼女を取り巻く周囲は、国津神の結界に代わり、振るう霊刀の一撃が『暴走インビジブルの群れ』の一体を切り裂いた。
 赤い霊気が飛沫のように飛び散る中、彼女は走る。
 切り込む、というのが正しいだろう。
 薙ぎ払うようにふるった霊刀の一撃が『暴走インビジブル』の鱗に激突して火花を散らす。
 だが、敵は『暴走インビジブル』だけではない。
『マローネ・コール』を討とうと迫るのであれば、当然、『マローネ・コール』もまた彼女に迫っている。
 もとよりやり過ごす、という意識はない。
 彼女にとってのこの戦いは、鏖殺でしかない。
 故に『マローネ・コール』の赤い瞳が√能力の発露に煌めいた。

「ねえ、どうして、あなた達はそうなのかしらね?」
 眼前に『マローネ・コール』の笑む顔があった。
 一瞬。 
 そう、一瞬で『マローネ・コール』は依緒の眼前に迫っていた。
 赤い爪。
 鋭き爪の一閃が依緒の霊刀を弾き、横薙ぎの一撃が彼女の身を切り裂く。
 防御が間に合わない。
 空間の歪みすら間に合わぬ爪の一閃。武装ジャケットを切り裂き、オーラすらも引き裂きながら最後に残ったのは、彼女の霊的防護であった。
 それ故に、内蔵に致命的な一撃を免れていた。
 しかし、それでも、だ。
 浅くはない。
 鮮血が舞う中、依緒は呻き血反吐を堪え、振りかぶった。
「出力差は歴然。これだけの力の差を見ても向かってくるのは、勇敢だけれど、蛮勇、無謀とは思わないのかしら?」
 消える。
 オーラを纏って『マローネ・コール』の姿が依緒の眼の前から消えていく。

 姿を隠されては、と彼女は思ったかもしれない。
 だが堪えた血反吐を撒き散らしながら依緒の瞳にインビジブルの孤影が揺らめいた。
 引き出されたエネルギーの発露。
 手繰り寄せるは、無数の矛。
 空に浮かぶ彼女の『八千矛』の切っ先が消えゆく『マローネ・コール』を睨めつけるように剣呑な輝きを放った。
「吸血鬼だって、穴だらけは厳しいよね!」
 込めた力は、|滅魂撃《メッコンゲキ》。
 放った無数の矛は空を切る。
 だが、それも彼女には目論見の一つだった。『マローネ・コール』を認識できない。だが、確実に彼女に向けて放たれた。

 そして、彼女の矛は視えぬ敵に降り注いだ。視えないはずだ。なのに、どうしてか彼女の矛は宙を走って『マローネ・コール』に迫っているのだ。
 まるで視えているように。
「なんでよ!」
 語るべくもないが、彼女の語る物語によって、その矛は必中。
『マローネ・コール』は舌打ちする。
「だったら、逃れるまでよ」
 彼女の打ち込んだ矛。その雨は効果範囲が限定されている。
 であれば、その範囲から逃れれば必中効果からも逃れられるのだ。
 切り裂かれた腹部を抑え、血を滴らせながら、けれど、視えぬ敵を睨めつけた。
「災厄には消えてもらわないとね……!」
 そう、逃さない。
 赤い爪が閃き、注ぐ矛を弾く。
 その様を見やりながら依緒は、また一つ血の塊を地面に吐瀉するのだった――。
🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​ 苦戦

クラウス・イーザリー
【死を覚悟する】

(繋がりを絶たれるのは、こんなにも不安になるものなのか)
死んでしまった後も、|お前《Anker》は俺をずっと繋ぎ止めてくれていたんだな

「悪いな、それはさせないよ」
ずっと苦しみに耐えてきた三玲さんを元の場所に帰すためにも、首謀者の情報を持ち帰るためにも
負けられない

マローネ本人も脅威だけど、インビジブル達も無視できるような相手じゃない
氷の跳躍で暴走インビジブル達の突撃や包囲から逃れつつ、虹色の雨の範囲攻撃で数を減らしていく
マローネが接近してきたら高速詠唱+全力魔法で魔法をぶつけて怯ませ、マヒ攻撃で動きを鈍らせてから氷の跳躍で逃れる

魔法を詠唱している隙が無い時は思念操縦でレイン砲台やサイコドローンを操ってレーザー射撃
敵の攻撃は見切りと幸運で回避を試み、直撃しそうな時はオーラ防御と霊的防護を重ねて防ぐ
インビジブルの攻撃にはインビジブル制御での割り込みも試みよう

とにかく思考を、攻撃の手を止めずに戦って
苦戦しても諦めずに前を向く
死は覚悟しているけど、死ぬために戦っている訳じゃないから

 誰かの死が誰かの生を繋ぎ止めている。
 きっとそこに『|■■《希望》』はあったのだろうかと考えてしまう。
 詮無きことだとはわかっている。
 だが、クラウス・イーザリー(希望を忘れた兵士・h05015)の身を襲っているのは、恐怖よりも心細さだった。
 多くの√能力者たちがいる。
 けれど、その中にあってクラウスは一層の孤独を感じていた。
 つながりが絶たれている。
 Ankerとの。
 それが『絶対死領域』である。

 それ故にクラウスは気がついた。
 つながりを絶たれたがゆえに彼は今の今まで己のAnkerが、今に自身を繋ぎ止めてっくれていたのだということを。
 涙は出ない。 
 恐怖は打ち消せない。
 だが、いつか見た闊達な笑顔を思い出した。
「負けられない」
「ふふん、意気だけはいいのよね、どいつもこいつも」
 指名手配吸血鬼『マローネ・コール』は白い剣を掲げ、周囲に強大なインビジブルを引き寄せた。
 さらに呼応するように『暴走インビジブルの群れ』がクラウスに迫る。
「全員皆殺しだっていうのに、逃げもしないんだから。まあ、逃がすつもりもないけれど」
「悪いな、それはさせないよ」
「させない? どの口が言っているのよ」
『マローネ・クローネ』の姿を認め、クラウスは赤いオーラを見据える。
『暴走インビジブルの群れ』から放たれた√能力の爆発がクラウスに迫る。

「……!」
 手を伸ばす。
 爆発の最中、|氷の跳躍《フリーズリープ》によって瞬時に周囲に漂うインビジブルと己の位置を入れ替える。
 だが、すぐさま爆発が迫り、なおかつ『マローネ・コール』が眼前に踏み込んでいた。振りかぶるのは白い剣。
 その一閃がクラウスの体を袈裟懸けに切り裂く。
 跳躍が間に合わない。
 血潮を撒き散らしながら、クラウスは後方に飛ぶ。
 インビジブルと位置を入れ替えたことで冷気を放つ状態となったインビジブル。
 それを『マローネ・コール』は振り払いながら、さらにクラウスにトドメを刺そうと迫るのだ。

「彼女を……ずっと苦しみに耐えてきた三玲さんを元の場所に帰すためにも……!」
 負けられない。
 だが、『マローネ・コール』は笑った。
「ふ、ふふふ、あははは! 元の場所に帰す? ばっかじゃないの? “元の場所”なんてあるわけないじゃない!」
「なに?」
 クラウスは眉根を寄せる。
 痛みに、ではない。『マローネ・コール』の言葉に、だ。

「察しが悪いわね。あの星詠みの帰る元の場所なんてとっっく、アタシが消してるに決まってるじゃない」
 つまり、それは。
 彼女に強いる要因ともなるであろう彼女の家族や、それに類するものを『マローネ・コール』は手にかけているということだ。
 彼女が引き連れた『暴走インビジブルの群れ』なら、証拠も残さず、それができる。
 そう、彼女がこの場を逃れても、待つのは、ただの地獄。生き地獄だ。

 クラウスの瞳にインビジブルの孤影が揺らめく。
 引きずり出すようなエネルギーの奔流と共に、クラウスは天へと手を掲げた。
 注ぐは、|虹色の雨《ニジイロノアメ》。
 火球が『マローネ・コール』へと注ぎ、彼女の体が傾ぐ。
 さらに『暴走インビジブルの群れ』へとレイン砲台やサイコドローンで砲撃を敢行する。
 だが、その砲火の中を『暴走インビジブルの群れ』がかき分けるようにしてクラウスの体を弾き飛ばし、『マローネ・コール』は白い剣の切っ先を真っ直ぐに彼の首へと突き出す。
 死、が近づいている。
 それを悟った瞬間、クラウスはオーラと霊的防護を重ねて身を捩る。
「……っ、そんなことを!」
「したわよ。だって、家族がいたら騒ぎ立てるでしょう? 騒ぎ立てる者がいなければ、そもそも存在なんてしていなかったことになる。そういうものよ」
「許されると思っているのか!」
「許す許さないじゃないわ? できるか、できないか!」
 血潮が飛ぶ。
 その最中にクラウスは氷の柱を生み出し、『マローネ・コール』へと叩きつけた。
 死は覚悟している。
 けれど、死ぬために戦っているわけじゃあない。
 例え、己が劣勢に立たされていようとも。
 例え、『■■』が己になかったとしても、それでも今のクラウスを突き動かすものがあるからこそ、その一撃は渾身の力を持って叩きつけられたのだった――。
🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​ 苦戦

空地・海人
【死を覚悟する】

王劍を手にした王権執行者が相手となれば、一筋縄ではいかないよな。
仕方ない。この力を使うしかないか……。

フォトシューティングバックルにルートフィルムを装填。「……現像」の掛け声で、【インビジブル化】した灰白色の形態『フィルム・アクセプターポライズ √ウォーゾーンフォーム』へと[変身]。現在最も必要な能力として、速度を2倍に強化。

(※以下、『√ウォーゾーンフォーム』変身中、海人の意識は失われ、言葉を発することなく、敵の撃破を最優先とした行動を取ります)

ネガフィルムセルで全身に|装備を形成《[防具改造]+[武器改造]》。両脚のネガミサイルランチャーから|ミサイル《[誘導弾]》を発射して暴走インジブルの群れを撃破していく。
暴走インビジブルの数が減ってきたら、マローネにもミサイルを発射し、『レディ・クロー』を誘発させる。前述の速度強化と合わせて、|一瞬でネガシールドを形成して赤き爪を防御《[ジャストガード]+[盾受け]+[鉄壁]》。マローネが隠密状態になったら、左肩のネガレーダーで[追跡]して見失わないようにする。

マローネが攻撃の動きを見せたら、√能力『ファイナルクラスタデュープ』を発動。マローネの赤き爪を自身の右手に複製し、『レディ・クロー』を模倣する。跳躍して接近する途中、進路上の暴走インビジブルが障害となるならば、左腕のネガビームシザーズで即座に[切断]し駆除していく。
先制攻撃直前、変身時√能力を再使用。腕力を2倍にして攻撃の威力を高める。
先制攻撃後、自身も隠密状態になったら、変身時√能力を再々使用し、隠密を2倍にして一旦距離を取る。すぐに右肩のネガプラズマキャノンを連射。エネルギー爆発によって、マローネと残りの暴走インビジブルを|まとめて殲滅《[無差別攻撃]》。

 覚悟しなければならない。 
 相手は『王権執行者』。
 そして、手にするのは『王劍』。
 Ankerとのつながりを立つ『絶対死領域』に踏み込んだのならば、空地・海人(フィルム・アクセプター ポライズ・h00953)は己のバックルに手を触れる。
 手にしたのは『ルートフィルム』。
 気が進む、進まないの話ではない。
 事態は一刻を争う。
 であれば海人は、手にした『ルートフィルム』の一つを手に取った。
 灰白色のアクセプトカートリッジ。
「……現像」
 呟いた瞬間、海人の姿は『フィルムアクセプターポライズ √ウォーゾーンフォーム』へと変身する。

 瞬間、彼の体が駆け出す。
 最も必要なのは今、速度だと判断したのだ。
 意識はすでにない。
 あるのは敵を殲滅しなければならないという意思ではなく、プログラムめいた行動原理だけだった。 
 全てにおいて敵の撃破最優先。
 それが『√ウォーゾーンフォーム』なのだ。

『フィルム・アクセプターポライズ』となった彼の身を覆うのはナノマシンであるうネガフィルムセル。
 ナノマシンであるから、全身に装備を形成し、両足のネガミサイルランチャーからミサイルが発射され、『暴走インビジブルの群れ』に飲み込まれていく。
 爆発が巻き起こる中、『暴走インビジブルの群れ』は構わず、海人へとまるで海の波をかき分けるようにして迫っていた。
 剥き出しになった牙がナノマシンの装甲を貫く。
 だが、止まることはなかった。
「――」
 そう、敵の撃破以外は何もいらない。
 再び両足からミサイルが放たれ、食らいついた『暴走インビジブルの群れ』を吹き飛ばす。

「面白いわね、妙な力のあり方! それもあなたの√能力ってわけ?」
 指名手配吸血鬼『マローネ・コール』は『暴走インビジブルの群れ』に群がられる海人を見やり笑っている。
 だが、そこに油断はなかった。
 彼女の立っていた場所に叩き込まれるミサイル。
 爆風が立ち上り、『フィルム・アクセプターポライズ』の双眼のレンズが揺らめく光に照らされて輝く。
 しかし、爆発の中に彼女はいなかった。
 一瞬。 
 一瞬で彼女は『フィルム・アクセプターポライズ』の眼前にあらわれていた。
 √能力。 
 赤き爪の射程にまで飛ぶ彼女の√能力は速く、そして鋭い。
 如何に彼が速度を二倍に√能力で増加させているのだとしても、振り切れる速さではなかった。

「ねぇ、いくら速くても、相性っていうものがあるでしょう? あなたとアタシ、言っておくけれど相性最悪よ?」
 振るわれる赤い爪。
 その一閃がナノマシン装甲を容易く切り裂かれ、血が噴出する。 
 返り血。
 それを彼女は一滴たりとて浴びることなく、その場から消えていた。
 双眼レンズに捕らえられない。
 肩部のネガレーダーで追跡せんとするが、それすらも躱すように『マローネ・コール』は、嘲笑う。
「だから言ったでしょう? あなたとアタシは相性最悪だって。ああ、最悪だっていうのは、あなたにとっては最悪。アタシにとっては最高よ?」
 背後に唐突に現れた『マローネ・コール』は海人の背から赤い爪の一撃を叩き込まんと腕を振り上げた瞬間、海人は振り返っていた。
「……!?」
「――」
 手にしていたのは、砕けたファイナルクラスタデュープ――ナノマシンセルだった。
 彼は『マローネ・コール』から受けた√能力を複製し、我が物としていたのだ。
 だが、それも初撃を耐える必要があった。
 故にナノマシン装甲でもって身を護り、致命傷を避けたのだ。

「チッ、面倒なことを!」
「――」
 距離を取らんとする『マローネ・コール』。
 しかし、それを許さない速度で海人は踏み込んでいた。それが何故可能なのか。
 言うまでもない。
 速度2倍にしても届かなかった速度。
 だが、今や彼は√能力によって√能力を模倣し、『マローネ・コール』へと己の間合いで踏み込んでいたのだ。
 振るわれるネガビームシザーズ。
 その一撃は『マローネ・コール』の手にした白い剣に受け止められ、力の奔流が周囲に火花と成って散る。

「上等じゃないの。このアタシを速度で」
「……現像」
 さらに√ウォゾーンフォームが腕力を二倍にし彼女の体を白い剣ごと弾き飛ばす。
 そして、その体躯がゆらりと消えゆく。
 これもまた『マローネ・コール』の√能力であった。
 瞬く間に再びフォームを変更し、隠密力を二倍にし『マローネ・コール』、そして『暴走インビジブルの群れ』から逃れて距離を取るのだ。
「鬱陶しいったらないわね。こんなんでアタシをどうにかできるとでも思ったの?」
「――」
「なんとか言ったらどうなのよ」
「――」
 関係ない。
 意識のない海人には、『マローネ・コール』の言葉など無意味だ。
 姿を消し、距離を取った海人は即座に右肩のネガプラズマキャノンを向ける。
『暴走インビジブルの群れ』を巻き込む形で放った一撃が、爆風を巻き上げ、√ウォゾーンの基地そのものを巻き込みながら破壊を齎すのだった――。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​ 成功