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#√妖怪百鬼夜行 #ノベル #夏休み2025

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 #√妖怪百鬼夜行
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 禍津宮市にも夏が来た。
 √妖怪百鬼夜行と言えど、並行する√EDN同じく猛暑の気配。
 ここ、|黄龍会《YellowDragon》の五常ビルにも燦々と夏の日差しが降り注いでいた。

 そんな7月の半ば、ビルの1階――ミルクホール『ちゃちゃ』の片隅でミルグレイス・ゴスペリジオン (魔境を巡る舞軍師・h02552)が1枚のチラシを取り出し皆に見せる。

「これさ、どうよ! 新しくグランピング施設が出来るって!」

 フットワークの軽い彼女の元気な声だ。
 この一言は「行こう!」ということ。
 皆は一斉に集まる。

「あら、確かに良さそうね。
 コテージもあるし、川も森も近いから自然の中で涼しく遊べそう」

|矢神・霊菜《やかみ・れいな》(氷華・h00124)が横から覗き込む。

「ほう、川か。いつ頃行く予定だ?」

|潮根・源八《しおね・げんぱち》(らあめん潮根屋大将・h02162)が顎に手を当てて、渋い声で呟いた。

「うーん、そっか! 日は先に決めちゃった方が良いよね。
 えーっと……この時期とかどう? 来月の終わりくらい!」

 ミルグレイスがチラシに書かれていた、営業日カレンダーを指差す。

「……そこなら、すずが臨海学校で家に居ないな。
 俺も顔を出せそうだ」

 強面の眉が少しだけ下がる。
 1人で出かけていく娘の顔が浮かべば、もちろん心配なのだ。

「潮根さん、素敵なお父さんの顔ね。
 うーん、そうね……私も娘を旦那にお願いすれば参加できるかしら」
 
 父親の顔をする源八を見て、ふと脳裏に浮かぶのは夫の疾風。
 零もたっぷりお父さんに甘えられるだろうし、偶には二人きりも良いかも知れない。

『楽しそう! 行きたい、アクアちゃん!』
「うん! 素敵だね、アルマちゃん!」

 飛び出してきた星河・あくあ(零を上書き歩む【始発点】/ 零で塗り潰し辿る【終着点】・h05769)と、あるまが二人で一緒に声をあげる。
 ご機嫌なぷにゃんとした声。弾む心が見て分かる、ぷるぷる感。

 現八と霊菜が目を見合わせ、親の顔になる。
 皆が能力者であり、心配など野暮なのだけれど。
 父や母の性、とでも言うのだろうか。安全に遊べるように見守る親心が溢れてしまう。

「川遊びは浅い場所でも危険が多い、と記録に残っています。
 得意な地形とは言え深い場所の判断が難しく、楽しい遊びの最中で姿を消す可能性もあります」

 |深雪《ミユキ》・モルゲンシュテルン(明星、白く燃えて・h02863)が盛り上がるあくあ達の横から静かに呟く。
 声のトーンや表情に変化はなく、シビアな言葉回し。けれどそれは欠落の影響……心配だよ、という優しい言葉だ。
 それに楽しいという形容詞が含まれた一言、彼女なりの共に行きたいという意思表示。

「み、深雪ちゃん! た、確かに危ないけど、皆で気をつけたら大丈夫だよ……ね?
 楽しそうだし、一緒に行ってみる?」

 |澄月・澪《すみづき・みお》(楽園の魔剣執行者・h00262)が慌てて深雪の横でフォローする。
 表情は変わらないけれど、深雪が静かに頷く。

「気をつけよう!」
『気をつける!』

 スライムの二人も、深雪達に楽しそうに微笑む。

「これは、俺達がしっかりしないとか」

「大丈夫なのは分かるけれど、そうね」

 あくあ達を心配する二人の事も、もちろん心配なのが保護者チームのお二人。

「ふーん、川か。魚とか取れんだろー、酒持って行こうぜ」

 |七々手・七々口《ななて・ななくち》(堕落魔猫と七本の魔手・h00560)が目を細くして隣で鳴いた。
 ゆらゆらと|尾《手》がご機嫌そうに揺れている。
 オトナの種類も様々。グランピングは多くの欲を満喫できるレジャーなのだ。

「おっ、そりゃあ参加しないワケにはいかないでしょ!」

 グレン・アレイシャ(memoria・h00446)がひょいと顔を出して笑う。
 ここは酒好きの出番とばかりに輪に加わり、ゆっくり歩いてくる会長――|神薙《カンナギ》・ウツロ(護法異聞・h01438)に声をかける。

「会長さんって飲めるの? 行けるなら飲み比べしない? ここに行くついでに、ほら」

「おー? 飲みのお誘い……じゃないね。なるほどグランピング、いいじゃん!」

 モルドレッド・アーサー(防導の騎士・h04734)が、ふむ――と後ろから一歩前に。

「責任者殿が参加するのならば安心だな。
 若者達も多い、監督者も多い方が良いだろう」

 霊菜と源八に続く保護者の顔。
 その目線は言い出しっぺかつ弟子のミルグレイスに向かっていた。

「モルドレッド卿も来るなら安心だね」

 ニッと笑って見せるウツロに、小さく礼を返すモルドレッド。

「こりゃぁおじさん、ただの呑兵衛みたいになっちゃった」

「んにゃ、折角なんだから良いだろー。オレも持ってくし飲むぜー」

「いいねぇ!」

 その時、バッと輪に飛び込んでくるのはウララ・ローランダー(カラフルペインター・h07888)。

「グレン様ちゃんがお飲みになるのなら、お酒の準備は僕様ちゃんにも任せてだわ!」

 瞳に星を輝かせ、一目惚れしたグレンのお世話の為にと意気込みたっぷり。
 皆様ちゃんにもしっかりお給仕しますね! の笑顔はもちろん皆にも伝わっている。

「おっ、そりゃおじさん楽しみだよ」

「アリガトね、私達のだけでなくちゃんと君の分も忘れずにねー」

 親指でグッドサインを作るグレンと、助かるよと笑うウツロ会長。

 そんな時、チラシを皆に見せるミルグレイスが思いついたように声をあげた。

「川遊びとお酒、ならバーベキューも必要だよね!」

「そうね、それなら肉は準備していきましょう」

 アネット・ファーネリア・リングストン(動物保護官・h06517)が穏やかな声で横に立つ。

「牛肉、豚肉、鶏肉、羊肉……√EDENで仕入れられる普通のお肉はしっかり持っていくわ」

 瞬間、夫であるエヴァンス・アレクサンドロス・シートン(だらけた獅子・h06312)の目が見開かれる。

「では、オレも【肉】に参加だ」

 肉ではない、食だ。でも肉だ、間違いない!
 ぐるるると喉元から漏れる肉への興奮を示す唸りは、大きな猫さんの甘え声にも聞こえる。
 実に楽しそうな顔。

「超すごい肉をご用意すれば良いって事でありますな!」

 猫屋敷・レオ(首喰い千切りウサギ・h00688)が飛び込んでくる。

「レアな肉は、ネットで頼んだ方が早いわよ」

 アネットがレオに優しく笑う。

「ふふふ、その施設のそば……噂を聞いたであります! バッチリ|狩猟して《つかまえて》来るでありますよ!」

「レアな肉か! 肉は新鮮に限る、楽しみだな……ぐるるる」

「アレク、涎」

「む――」

 手の甲で口を拭うエヴァンスの横で、レオもまた静かに口元を拭っていたのであった。

「ここ、川の側なんだよね? イワナとかヤマメとか川魚も釣れるかも!」

 |斎賀・奏斗《さいが・かなと》(響応する複音の刃・h04615)が肉で盛り上がる皆へ、新たな食材を提案する。
 川遊びをしながら、新鮮な川魚をゲット出来るかも知れない。

 そんな奏斗に|四之宮・榴《シノミヤ・ザクロ》(|虚ろな繭《Frei Kokon》・h01965)が鈴のような声で話す。

「……あ……あの、斎賀様……僕は……泳げないの、ですが……。
 釣りなら、お手伝い……出来る、かも……しれません」

 |古花《このはな》・アオ (悠然サテライト・h07245)が榴の言葉にえへへ、と苦笑いを浮かべる。

「私も、泳げないんです。でも釣りならご一緒できますね」

「……僕、だけ……でなく、すこしホッと、しました……。……ご一緒、できます……」

「それなら、皆で釣りもしよう! 危なくないように、僕も側にいるから安心してね」

 優しく笑う奏斗に、二人の緊張した顔が解ける。

「うん、私達もいるから大丈夫だよ!」

『泳げないの? 安心して! わたし達がいるよ!』

 あくあとあるまがすかさず顔を出す。スライムの二人が居るならさらに安心だ!

「……ふむ」

 モルドレッドが保護者の顔で榴とアオを見つめる。
 やはり、若者が気になってしまうのは弟子や子を持つものの性だろう。

「大丈夫よ、それなら私が側で見ているわ」

 母の顔で霊菜が笑う。

「川沿いに貴殿が居るのならば安心だな」

「俺は呑兵衛達でもしっかり見ておく事にするか――」

 ラーメンでも作りながら。
 飲み過ぎも危なっかしいのも、色々見ておかないとな。

 父、源八は呑兵衛ズの親父の役割を引き受ける。

「ラーメン! というか肉と魚があるんだべ?
 よっしゃ! いっぱい食べるべよ!!」

 |小花衣《こはない》・ミリ(槍バカ・h07936)がいよいよ我慢ならず声をあげた。
楽しみでならないべ、という満面の笑み。
 握った両手の拳には、なんとなく槍が見える。

 お弁当のピックに槍を奨める彼女だ。
 肉と魚と出てくれば、皆の脳裏に浮かぶのは伝説の槍に刺さった食材。
 槍バーベキュー。

「焼くのにも大きいお肉を用意したほうが良さそうね」

 アネットが優しい声で呟く。

「大きな肉――!」

 夫の反応も早い。

「いいねぇ、盛り上がってる。私もそのでっかい肉、楽しみにしちゃおうかなー」

 会長、ウツロがふふと声を出して笑った。

「肉は火を通さないと危険です。
 大きな肉は火を通すのが時間がかかるので大変かもしれません。
 しかし、ジューシーで味が良いとの話も――」

 深雪が冷静な顔で話す。

「ええ、そうね。深雪さんが言う通りよ。
 わたくし達がしっかり調理するから安心して」

「大きなお肉、初めてかもです! 楽しみだね」

 澪が深雪に寄り添う。出発前の談笑だって、永遠に消えない思い出だ。

「でっかいのもちっさいのも、全部美味しくいただくべ!」

「違いねーな、オレもそいつを貰ってチビチビいくぜー」

 ガッツポーズのミリの横で七々口の尾が、ビールの缶を掴むジェスチャー。
 まだ企画段階の皆、でも空気は夏の暑さよりすでに熱い!

「ごっはーん! お肉お肉! 楽しみなのー!!
 こういう時はしっかり食べるのよ!」

 |十六夜・宵《いざよい・よい》(思うがままに生きる・h00457)が元気に笑う。

「でも、料理もしっかりするよ! 野菜も用意しておくね!」

 男の娘ゆえ、健康や美容配慮もバッチリだ。
 しかしながら、この集団――野菜を残しそうな顔ぶれが多い。
 今、目を反らしたライオンさんが筆頭である。

「そうだね、野菜も有ったほうが良いかも。他の料理も出来るしね。
 後は……花火とか、どうだろう。折角の夏の夜だから」

 |猫宮・弥月《ねこみや・みつき》(骨董品屋「猫ちぐら」店主・h01187)が宵に微笑む。
 骨董品店の店主らしい、風流な提案。

「おっ、良いね花火。おじさん、酒のつまみにしゃちゃう」

 楽しそうなグレンの声に、弥月が頷く。

「花火をつまみに――確かに風流やなぁ。風流な気が――しますわぁ」

 朔月・彩陽《さくづき・あやひ》(月の一族の統領・h00243)がしっとりとした声で呟く。
 言葉の持つ意味、空気感は分かれど消えた認識の中にある確かな実感へとは続かない言葉。

「うん、風流だと思う。線香花火とか……手に持って遊ぶのはさ、特に」

 弥月が彩陽の顔を覗いた。

「せやなぁ、確かに――」

 確かに、なんなんだろう。でも、或いは。
 その空気の中なら、その気持ちと感覚を"分かる"事が出来るかも知れない。

「いや! ちょっと待った!! しんみりしすぎじゃない!? 花火だよ!?
 打ち上げていかないと! 打ち上げてやりましょうよ、一発!」

 オーガスト・ヘリオドール(環状蒸気機構技師・h07230)が駆け込んでくる。
 花火、のワードに釣られた男は大きな声で熱弁する。

 これは――花火を楽しむというより、一発打ち上げたいだけの男だ!!
 溢れんばかりのテロリズム……まぁ、楽しいやつだし問題ない!

「それは爆弾ですか」

「だめだよ、爆弾!」

 深雪が先陣を切ってバシッと忠告、澪も続く。
 保護者チームも腕組みをしてその姿を見つめ。

「大丈夫!!! ちゃんと許可取るから!!!」

 大きな声で叫ぶオーガストに、皆が大笑い。
 その後は入念に打ち合わせをして、ミルグレイスが代表としてグランピング計画が決定。

 当日まで皆が準備をすすめ、ついに8月末。
 グランピング当日がやってくるのだった。

 日が昇り始めた頃――会場近くの森で獣の咆哮が響く。
 威嚇……いや断末魔。
 狩猟者が何かを仕留めたのだ。

「よーし、ばっちりであります!」

 朝焼けの朱の中、口元を朱に染めた|狩猟者《レオ》は成果を川へと運んでいた。
 ジビエは綺麗な水での処理がウマさに繋がるという。

 ずりずり――と運ばれている黒い影。
 グランピング会場付近に現れた諸々悪い熊を、猟友会の皆様と「協力」して狩猟。
 その御礼として貰った熊肉ではあるのだが……。
 纏う空気は、狩人というよりも捕食者の者だ。

 それから数時間して、次々と皆が姿を現す。

 一番乗りは、榴。

 すこし緊張した面持ち。
 誰か先に来ていないか……とキョロキョロしたり。
 大きなバッグには、釣りの道具や簡単な飲み物や着替え。
 皆の分もしっかり準備して、少し重そうである。

 水場での遊びに備えて、水着はしっかり着用済み。

「む、貴殿のが先であったか!」

 モルドレッドがおはよう、と姿を見せる。
 甲冑はなく、アオザイのようなインナー姿で涼しげだ。
 5分前到着、騎士として保護者としての責任感の現れ。
 しっかりとグランピングの道具も用意し、抜かりはない。
 緊急セットやら、ケガに対する準備も万全。
 
「……あ、アーサー様……お、おはようござい……ます……!」

 ハッとした顔の榴が慌てて挨拶を返す。

「一番乗りは取られちゃったかー! アタシも一緒だよ! おはよ~~!」

 弟子ミルグレイスも一緒だ。
 こちらは言い出しっぺだからという責任感より、楽しそうな空気につい早く到着してしまった、という雰囲気。

「……おはよ、うございます!」

 空気に花が咲くように、緊張感を奪っていくミルグレイスの笑みに少し肩の荷が降りた顔の榴。

 そして、次々に皆が到着する。
 なぁに、今日が楽しみすぎてバッチリ打ち合わせを重ねてきた面々。
 まるで簒奪者を手早く討伐するかのごとく――到着次第、持ち場へと向かう。

「凄い早さに……おじさんびっくりしちゃったよ」

「まー、ほら、一日あるし。頑張りすぎると疲れるぜー」

「おじさんだからなぁ、確かに」

 グレンと七々口はのんびり歩きながら談笑。

「バタバタする前に程々に動いておいたほうがいい」

 ケガに気を付けてな、と源八が腕組みして一言。

「おじさんだからなぁ、確かに……」

「あっ、グレン様ちゃんが動くなら、僕様ちゃん一緒に張り切っちゃうね!」

「うんうん、張り切っちゃってもいいんじゃないかな!
 みんな凄いね~、私も張り切っちゃおうか」

 元気いっぱいなウララに、ウツロが優しく微笑む。

 まだ飲んでない。
 飲んでないのだが……飲み会の二次会みたいな空気の集団が駆け出していった皆を追う構図だ。

 日中はバーベキューと川遊びがメイン。

「野営地の設営は迅速に! いつでも襲撃に備え警戒を怠ってはいけません!
 川沿いでは、自然への対応も必要です。野外行動に適した服装を心がけた方が無難でしょう」

 深雪が迷彩服を身につけ、軍人らしい声をあげている。

 川沿いにはやパラソル、簡易テントなどが立ち並び休憩も食事も、飲み会もバッチリな状態。
 石を組んで簡易竈が作られたり、バーベキュー用の火起こしも始まっている。

「あ……深雪ちゃん、水場で遊ぶんだし、迷彩服はちょっと固い……かも?」

「澪さん……何か間違っていたでしょうか……」

「そ、そんなことないよ! 動きやすい服が一番だし!」

「あたしも長袖よ、悪い虫が居ることもあるから正解ね。
 二人とも手伝ってくれて助かるわ。大きなお肉は焼き始めてしまいましょう」

「はい!」

 アネットの声に、バシっと敬礼する二人。
 肉焼き場の準備はバッチリだ。

「……ふふ、これもあるであります! レアな肉!」

 ふらりと下流から姿を見せたレオが巨大な何かを眼の前に置く。

「あら、クマかしら」

「悪いクマの退治報酬に、分けてもらったであります!」

「く……クマだと!!」

 エヴァンスが慌てたような声をあげる。
 顔は引き攣り、目が泳ぐ――娘の1人、マナが熊だ。
 食べてバレるのは避けたい……という顔。

「妻よ……」

「そうねぇ」

「肉はクーラーボックスに入れておくでありますよ。
 さて……折角だし、昼のラーメンを作るであります!
 こういう所で食べるラーメンはインスタントでも特別感があるでありますから!」

 遠くで、その声に源八が頷いている。
 爆盛ラーメンの猫屋敷さんの店の子だ。きっと面白いものを作る……そんな親心の目。
 腕組みして見ている姿は、ラーメン屋のポスターのようだけれど……。

「僕は耐火の術を予防に使っておくよ。皆気をつけているし大丈夫だと思うけれど」

 弥月が柔らかく微笑んで、調理場の周りに術を張る。
 夜の花火の準備も兼ねている。
 明るいうちに、火が飛んでは危なそうな場所に術を準備しておくわけだ。

「弥月くんがカバーしてくれてるなら問題ないよね! ぶち上げられるってワケ!」

 横でガッツポーズするオーガストに、その熱意に期待しているという優しい笑顔を返す弥月。

「よっしゃあ!」

 反応が嬉しい。気合も入る、準備に熱が入る。
 打ち上げる為に来た男の導火線にも火がついてしまった。

 一方、川沿い。
 こちらも素晴らしい盛りあがりだ。

「ひゃっほぅ、川だぁ~~~~~!!」

 ミルグレイスの楽しそうな叫び声と共に、川で大きな飛沫があがる。

 持ち込んだ買い物袋はしっかりと野営地……いや、皆の休憩所に預けて来た。
 ゆえ、駆け込んでも問題ない!

「うぉ~~!」

「楽しそう!」『一緒にやる!』

 あくあとあるまも続く。
 ぷにゃぷにゃ輝く二人も、川の一部のように煌めいて美しい清流を飾っている。

「……」

「!」『!』

 三人の目が合った――そして、同意の笑顔。
 一斉に始まる、水のかけあい。
 バシャバシャと飛び散る水が、キラキラと光を写して輝いていた。

「ははは、凄いね、あくあさん達。豪快!
 アオさんと榴さんは大丈夫かい?」

 白のTシャツに青のサーフパンツにサンダル、夏の川にぴったりな服の奏斗が泳げないと言っていた二人に声を掛ける。

 露出が少ないしっかりとした水着にパーカー、水遊びの準備はバッチリの榴。
 夏とは思えない服装だけれど、体質によるもの。問題はなさそうなアオ。

「は……はい、だ、大丈夫です……!」

「へっ? 私ッ……」

「……古、花様……?」

 問題はなさそうに見えていたアオだが、表情も声も強張っている。
 いつもの冷静な雰囲気は何処へやら。

「ここでも怖い……かな?」

 奏斗がアオに優しく尋ねる。

「これ以上近づくと、私、飛沫がだめ、かも」

 敬語が途切れてしまうほどの緊張。

「……あ……古花様、それならパラソルがあり、ます……!
 ここから皆を見たり……そうです、ここからなら釣りも、できます……」

 榴が持ってきていたパラソルをサッとその場に準備する。

「うん、ここから釣って、当たりがあったら僕に言って。捕まえてくるよ。
 あとこれ、あっちのみんなにジュースを分けてもらってきたから、このパラソルの所に置いておくね」

 奏斗がクーラーボックスを一つ、パラソルの下に。

「あ、助かります!」

 緊張が解けてきたアオも笑顔を見せる。

「それ……じゃ、一緒に……釣りをしましょう、古花様」

「うん、そうだね榴さん!」

 二人は笑い合う。
 酒の魚の一品にはなるかも、なんて。

 ああ~、釣れないなぁ、なんて嘆くアオを横で励ましながら、二人は釣りに打ち込みだす。

 サポートする奏斗も釣りを楽しみつつつ、岩場でカゲロウの幼虫を見つければバケツに入れて二人の前へ。
 3人で覗き込み、歓声をあげていれば他のメンバーも集まってくる。

「ほぅ……これがカゲロウになるんやなぁ。たしかカゲロウも儚いって話やな」

 しんみりとした顔の彩陽だけれど、これでも充分に楽しんでいる。

「綺麗な川にしか居ないって話だよ。
 綺麗な川が羽になるのかも」

「そりゃぁええ話やな」

「……そ、そうなんです、ね……!」

「私は……うーん……いや、それでもいいかもです」

「この子が綺麗で可愛くなるの?
 不思議なの……」

 料理班からのお使いでやってきた宵がひょいと顔を出して覗き込む。

「うん、ニンフって呼ばれる段階があったり、成虫になるとか弱く短命だったり、概ねそんな感じかな」

「まだ黒っぽいの」

「そうだね、この子は緑色の半透明の綺麗な羽になるんだ」

「それは素敵なのよ!」

 そこへ走り込んでくるミルグレイス。

「ちょっとーみんな!? 何してるの?
 こっち、今霊菜さんがね、ウォータースライダー作ってくれてるよ!?」

「そうだよ!」『つくってくれるって!』

 あくあ達も到着、川の方を指出して笑う。

「ウォータースライダー……やて?」

「……? おわ、ホントだ……氷のスライダーが……!! 霊菜さん、流石だね!
 僕やる! 思いっきり水に飛び込めそうだし!」

「……い、行ってきてくださ、い! 皆を見てるのも楽しいし、カゲロウさんも居ます、から……」

「私は水ちょっと怖いけど……皆が楽しそうなのは、嬉しいです!」

「えへへ、それなら悪い! ちょっと行ってくる!」

 駆け出していく奏斗。

「魚、針から離してここへ持ってくればええんか?
 引いとるよ、二人とも」

「わ……あ……!」

 釣り組の声が重なる。
 はんなりと見てくれるお兄さんがサポートを奏斗から交代、ここからも安心だ。

 奏斗もウォータースライダーへと辿り着く。

「ほら、出来たわよ、斎賀さん! せっかくだからアクティビティどうかしら!」

「もちろん!
 あっ、霊菜さんのアドバイス助かったよ!」

「それなら良かったわ。
 四之宮さん達なら釣りかな、と思ったけれど楽しんでくれたかしら」

「霊菜さん見て、あそこ!」

「あら……凄い、大量じゃない!」

 霊菜が視線を向ければ、思ったよりも釣れている川魚。
 慌てるアオと榴、それを雅にぽいぽいと外してバケツに移す彩陽。
 魚を見た途端、疾風のごとく現れた七々口も七本の手の尾でお助け中。

「お、おー……これは思ったよりすげーな」

「思ったより忙しいがね、この笑顔を見ていると、これが楽しい……で良さそうや」

 釣れた魚はすぐに焼き場へと運ばれていった。
 鮮度もバッチリ!

「魚はァ! 槍に刺して食べたほうがうまいべな!」

 ミリのどデカい声が響く。
 同時に焼き場で閃光が煌き、輝く光の柱が登り立つ。
 荘厳な輝きを纏う伝説の槍が姿を現し、イワナを2匹刺して――。

 火にくべられている。

「こっちもだべ!」

 空へと放り投げられた槍が、風を帯びてぐるりと向きを変えて飛んでくる。
 狙った獲物は必ず貫く幻の槍――ちゅっ。

 しっかり、イワナのど真ん中を刺す。

 こちらも火へ。

「次は――」

 叫び声は川沿い、ウォータースライダーにも届いていた。

「あっちも凄いわね……さ、折角なんだから斎賀さん、楽しんで行って!
 とはいえね……こんなの作っちゃったけど、大丈夫かななんて思ってたのよ」

 バツが悪そうに笑う霊菜の元に、ご機嫌ぷにゃぷにゃが2人で走り込む。
 ぴょんぴょん跳ねながら、奏斗に手を振って誘う。

「大丈夫! すごいよ、とっても! 楽しいね!」
『大丈夫、楽しいよ! 一緒に行こう!』

「よーし、一緒に行くよ!」

「足元には小石もあるから、気を付けてね」

 母の顔の霊菜に、3人は親指を立てて完成したスライダーへと登る。
 疾走感からの水柱。
 あくあ達が最初に滑り降り、奏斗が続く。
 ぐるぐると渦を巻くように作られた滑り台を川の清流が走るスライダー。
 一歩踏み出せば、まるで水の中を真っ直ぐに泳ぐ魚のような気分。
 最後は川へと飛び込む作り。
 最高のウォーターアクティビティに、歓声が響く。

「それじゃ、満を持してアタシの登場だよ!
 作ってる時からずっと気になってたんだー、いくぞー!!」

「楽しんで、企画者なんだから!」

 霊菜が満面の笑みでミルグレイスを送り出す。
 遠く――モルドレッドが腕組みしてその様子を眺めていたのは、きっと誰も知らない。

「よっしゃー、一番上に到着!」

 氷で出来た、夏には冷たくて気持ちの良いウォータースライダー。
 流れる水も冷え、熱い身体によく染みる。

「大丈夫そうだから、少しコースを変えるわね!」

 冷たい風が辺りを吹き抜けると、ウォータースライダーがパワーアップ。
 川の水と氷の力で拡張された部分は、360度のループ。
 子ども達には心配だったけれど、彼女には最高のアクティビティだろう。

「ひゃー! すごいよ、ぐるって回るやつだね!
 よーし、いっくよー!」

 ミルグレイスが、スライダーへと滑り込む。
 水流に身体を乗せ、ぐんぐんと加速していく。
 カーブを回り、少し登り、下って回り……上がる。

 ここからぐるぐるとループを一気に降りてから――。

「一回転だ~!!!」

 ぐるり、と回って水しぶきをあげながらそのままゴールへ一直線。
 ぴょーんと川へと飛び込む姿はイルカのようだった。

 遠くで――騎士が静かに頷いた。

「私もやってみたくなったな」

 ウツロが立ち上がる。

「おじさんも良いかな」

 グレイもまた、立ち上がった。

「グレイ様ちゃんが行くなら!」

 ウララも続く。

 キャンプやパラソルの下からも人がワイワイと集まってくる。
 あっという間に大人気観光スポットだ。

「……ふむ」

 腕組をしたラーメン屋もふらりと。

「潮根さんも如何? ほら、ケータイ貸して!
 写真撮っておくわ、娘さんに送ってあげたら」

「なら、お前も次にやれ。
 オレが撮っておくから」

「そうね、折角だから送ってあげましょう!」

 スライダーをキリっとした顔で腕組みして滑り落ちる父の写真と、ご機嫌な弾ける笑顔の母の写真が家族に届くのはもう少し後の事。

 水しぶきで盛り上がる皆のところへ、大きな声と、咆哮が響く。

「ほら、皆! 肉が焼けたよ!!」

「肉だああああ! ぐるるる!」

 こちらの御夫婦もご機嫌な笑顔。
 アネットとエヴァンスが皆を呼ぶ。

 元気な声と良い香りが、遊んでお腹を減らした皆の所へと流れてきた。

「よっしゃ! いっぱい食べるべよ!!」

 エヴァンスの咆哮に負けないくらいのミリの声。

「こっちは牛、こっちは豚。
 鳥は味噌で下味をつけたやつもあるよ。
 生が良い人はここに塊があるからね。
 アレクが咥えている肉がそれよ」

「んまぃ……ぐる……ふまよ、ふまはなはったか」

「アレク」

「ごく……妻よ、馬は無かったか?」

「今日は焼くのがメインと聞いたから準備していないわ。
 日本だと刺しで食べると知っているけど」

「確かに国柄で馬肉を避ける者も多いな。それなら牛肉でも頂くか」

 ライオンという見た目とはいえ、やはり豚を生で食べると心配されがちだ。
 ゆえ、牛を選んでおく。

「この大きな肉、ジューシーで食べ応えがあって槍のようにウマいべ!」

「うんうん、その大きいのは山鯨、熊であります!
 新鮮でバッチリ血抜き済み、美味しいに決まってるでありますよ。
 あとこちら。特製、インスタントラーメン!」

 レオがにっこり親指でサムズアップ。

「やはり野営にはインスタントラーメンですね」

 同じく、サムズアップする深雪。

「もう、野営じゃないってば……だけど美味しそう!
 忘れられない味、ってやつだよね」

 突っ込みが安定し始めて苦笑いではあるけれど、深雪が楽しそうなので大満足の澪。

「忘れられない味なら、槍に刺した魚も美味いべ!
 槍に刺したから特に美味いべ!」

 ミリによって皆の前に突き出される焼き魚。
 だが食べにくい……!
 高貴な光が溢れ出る神器のような槍に、美しく2匹の塩焼きが刺さっている……!

「ふむ、貴殿が作ってくれたのか。頂こう」

 気を遣ってか、ナチュラルか……静かにモルドレッドが槍で魚を受け取った。
 絵面がヤバい。
 酒を飲む約束をしていた面々が目を逸らす。

「おっ、皆集まってきたね!
 ごっはんごっはんー! お肉お肉ーー! 楽しみなのー! はい、皆もどーぞー!」

 ルンルンでお皿にお肉を取り分けた宵が、テキパキと皆に配膳する。
 気を利かせて好みに合わせたプレート。

 受け取る皆が笑顔に――。

「ほら、皆お肉食べるの。合間に野菜も食べるのよ」

 プレートに乗る、串にさしたピーマンやとうもろこし、カボチャ……!
 彩りと見た目が最高に美味しそうで、飾りつけとしても抜群。
 カワイイを知る彼らしい、カンペキな付け合せ。

 だが――意外と。意外とお野菜が嫌いな人も居るのだ。

 ミリがそっと苦手な野菜をスルーする。
 エヴァンスもオレは関係ない、ビジュアル的に関係ないと思ってもらえると、スルーする。

「……ミリは、槍で刺したら苦手でも美味しいものになるはずなの」

「なるほどだべ……!」

「……エヴァンスは、何でも食べられるとカッコイイの」

 上手い。
 野菜が苦手チームが、少し心を動かされている……!

「お肉食べるなら野菜も食べるのよ。ちょっとでもいいから、ね?」

 宵が皆に笑う。

「十六夜さんも、ほら、ゆっくりなさって。
 ちゃんと食べているかしら? 」

 霊菜が優しく微笑めば、こくりと宵が頷く。

「それじゃ一緒に食べましょう」

「わかったの、頂くの! ごはんごっはんー!」

 宵もとっても楽しみにしていたご飯。
 キラキラ輝くお肉と、美しい彩りの野菜たちを美味しく頂くのであった。

「ビール開けたいぜ」

「おじさんもだわー」

「……夜まで待て。締めのラーメンもある。美味くなるぞ」

「私もそれは思うね、間違いない」

「しかし、この焼き魚は今しかねーぞ」

「確かに……」

 飲み会を待つ民は、既に限界の一歩手前だ。
 けれど最高の「プハーッ」の為に、皆は皆を見つめ合い我慢の誓いを立てたのだ。

 そんな昼のバーベキューは中盤戦。

「お魚持ってきたよ! スライダーからぴょーんしたら居たよ!」

『大きなお魚居たよ!』

 あくあ達が、なんとも大きな魚を抱えて戻って来る。

「……お昼の休憩、で……釣りをしたら……お魚が取れ、ました……」

「私も取れました!」

 続いてバケツを抱えてくる、今日は釣り担当の2人。

「ぐるる、すごいな……! 魚も豊富だ!
 よし……オレも捕まえに行くぞ!」

「そうね、アレク。折角だから行ってきましょ、スライダーもあるみたいよ」

「それなら……料理は……受け、もちます……!」

「うん、手伝うよ!」『手伝う!』

「私達に任せてください」

「それなら、ウォータースライダーやり投げの時間だべ!」

「うっしゃー、なら肉を焼く!!」

「じゃー、おじさん達も料理しますか、つまみとか自分で作っちゃう。
 ほら、若者は遊んで来な?」

「……! そ、それじゃ! 僕様ちゃん出来上がった瞬間に戻ってくるわね!」

「つまみいいねぇ~、そんなら出来上がるまで私はスライダー行ってこようかなー」

「それならすぐに戻るわね、私が側に居たほうが良いわ」

「む……貴殿は休んでいてくれ、朝から任せてしまった。俺が行こう。
 監督者なら任せてくれ」

「じゃ、甘えちゃうわね!」

 皆が良い感じに交代し、混ざり、大騒ぎ。
 がるるる! なんて咆哮がスライダーから響いたり、魚が槍で捕まったり。

 楽しげに水遊びする会長を撮影したり、隠れて開けようとしたビールを取り上げられる猫とおじさんが居たり。

「よし……準備はカンペキって奴じゃないですかね。
 打ち上げ位置、発射方向、周辺……良し!」

 オーガストはキャンプや川周りを走り回っては何かをしている。

「あれ? 彼は……?」

 と気配を探れば居なくなるような。
 さっき確かにスライダーに居たような、というか……。

 終始居るんだけど居ない空気。

「オーガストさん、しっかり準備してるなぁ」

 そんな中、弥月は時折何かをチェックしている姿を見て、感心するのだった。
 大騒ぎの昼が過ぎ、キャンプのキッチンは少し落ち着いてくる。

「釣り、一緒にしよう!」『しよう~!』

 あくあ達が昼間川に居なかったメンバーの手を引いて、釣りに誘う。

 水と光に輝く2人は、本当に楽しそうに河原を走り回る。
 釣り仲間、水遊び仲間をどんどん増やして賑やかに。

 ウォータースライダーを作ったり保護者の役目を果たしていた霊菜も参加。

 宵と共に釣り糸を垂れている傍ら、自ら飛び込んで魚をキャッチしようと狙うエヴァンスが泳いでいたり。
 酒を我慢しているチームも、いよいよ水遊びに参加。
 そこから激しい水の掛け合いが発生、中々のバトルでお腹もペコペコに。
 
 夕焼けが広がり、水遊びが終れば全員が戻って来る。

 いよいよお楽しみの夜の幕開けだ。

 これから料理はバータイム。
 お酒もおつまみもばっちり。
 川を撫でる風も涼やかな夏の香り。

「ってなわけでカンパーーイ!!」

 グレンの元気な声で、皆の酒の禁が解かれた。
 待ちに待った、お酒の時間。
 乾杯の掛け声も一際でっかい。

 花火もある。
 手持ちはもちろん――駆け回った彼が準備していた「とびきり」だって控えている。

「ミルグレイスさん楽しんでる?」

 皆を照らし美味しそうな香りを生み出す火をずっと見守ってくれていた弥月が、今日の企画者に優しく微笑んだ。

「もちろん!」

 まるで昼間の太陽のような笑顔が帰って来る。

「お昼から楽しませてもらってるよ。もちろん、これからも。
 花火、そろそろ始まりそうだよ。
 耐火の術も済ませてあるから、安心して楽しんでね」

 ビッ、と親指を立てて微笑むミルグレイス。

「それじゃ、早速始めようか。耐火の術があってもバケツは忘れずにね。
 ここに色々あるよ」

 弥月が手持ちや小さな置き型、線香花火、ネズミ花火……誰もが楽しめる花火をその場に並べる。

「私もいろんな色で綺麗な手持ち花火をたくさん持ってきましたっ!」

 続いて澪が、色とりどりの光を吹き出す、派手なタイプの手持ち花火をずらりと置いた。

 既にこれだけでも花火屋さん。
 選べる花火は無限大、自分の好きな花火が必ず見つかる。

「澪さんはこのタイプのが好きなんだね。深雪さんは?」

「そうですね、士気高揚のためには演出が重要です」

 迷彩服の襟元をバシっと整えて凛とした顔。

「演出、なるほど。……澪さんも綺麗なタイプが好き……。
 なら、こんな風に持ち手が綺麗なのもあるよ。キラキラしてたり、色紙でくるまれてたり。
 火を付ける前から綺麗なのも楽しいんじゃないかな」

「なるほど、一理あります。ありがとうございます、弥月さん――私はこの銀色のものを」

「すごい、綺麗です! 私も銀色で!」

 二人が美しい包み紙で巻かれた手持ち花火を手にする。

「さ、遊ぼうか!」

 弥月が微笑めんで二人の花火に火を。
 今日は最初の花火だ。

 シュウウウ、と光の粒が溢れ、まっすぐ伸びた光の帯へと変わる。
 輝きは一気に当たりを照らし、歓声すら生まれるほど。

「見て見て、綺麗……!」

「綺麗ですね」

 虹色の輝きに照らされた顔で二人が微笑む。

「綺麗だね!」『綺麗!』

 あくあ達も同じように手持ち花火を受け取り、照らす光で身体を虹色に輝かせる。

「走らずに遊ぶのだぞ」

 先ほどまで食事とつまみの仕込みをしていたモルドレッドが静かに顔を出し、花火を楽しむ若者を穏やかに見つめ始めた。
 無論、霊菜も同じ。
 危険や火傷が無いか、と母の目で見つめている。

「これが大槍花火……だべ!!!」

 並べられた花火のパッケージの中から、大槍と書かれた花火を瞬間的に手に取って目を輝かせるミリ。
 吹き上げる輝きは、まるで一本の槍のようにまっすぐ。

「これでみんなも槍が好きになるべな!」

 きっと、これは間違ったプレゼンテーションではない気がする。

「槍で肉が美味しく焼けるのは分かったでありますよ。
 また焼くのを手伝ってもらえるでありますか? まだまだ焼くであります」

 顔を出したレオがミリに、好物の肉串を差し出す。
 折角だからと、夜のレオは調理のお手伝いと熊肉料理を提供中。
 ジューシーなジビエは人気で、串焼き、いや槍焼きのワイルドな旨味はグランピングにバッチリだった。

「もちろんだべ!」

「うひょー、夜のは香りが違うね! スパイスかなー!
 出来てるやつ一つ貰うね!」

「どうぞであります! あっ――そういえばあれから進展はあったでありますか?」

「ひんへんはねー……!」

 もぐぐ、と串を咥えたミルグレイスが返事は返したものの、今ひとつ聞き取れなかった。
 その時の表情だけで、レオには伝わっただろう。

 忙しそうに駆け出していくミルグレイス。
 企画者の気遣いか、いつもの行動力か。
 花火ではなく肉の串を手に持っても、夜空の開く花のような笑顔は花火と変わらないものだ。

 その弟子を見るモルドレッドは、穏やかな顔で頷いている。

「やっほー、騎士サマ飲んでるぅ~?」

 そのモルドレッドの顔を、ひょいと飛び出たウツロが覗き込む。

「ああ、頂いている」

 料理やつまみの準備をしつつも、グラスには酒。
 まさにグランピングの真髄のような、バッチリ具合だ。

「今日は料理の準備から何からホントにありがとね」

「大したことではない。それよりあり合わせで良ければ、肴になるモノを用意しよう」

「そりゃ嬉しいね!
 つかモルドレッド卿、酔っ払ったらなんかなるみたいな面白展開ないの?
 全然シラフじゃん」

「飲んではいるが――面白展開……」

「おっ、いつも冷静なアーサーくんが酔ってる姿っておじさんすっごい気になるー。
 ねけ、今まで酔った事無いの? 酔った経験あったら聞きたいカモ」

 グレンも合流。
 確かに気になるぞ、と囲まれるモルドレッド。

「酔った経験……」

「お、旦那達じゃん。酔った経験……いやいやいや、これはさァ」

 そこに魔手それぞれに缶ビールとツマミをバッチリ持った七々口が顔を出す。

「モルドレッド、あれやってよあれ。乾杯の挨拶的なヤツ。
 なんか面白いヤツ聞きたいなーなんて」

「お、いいね、おじさんも期待しちゃう」

「私もそれ気になるな、シラフじゃない風で頼むよ」

「シラフじゃない風、か――」

 真面目な顔。考え込む――真剣に皆に応えようと、むむ、と悩ましい顔。

「あっ、グレン様ちゃん! 楽しんでますか?」

 そこへ皆にお酒やフードを配っていたウララが通りかかる。
 いわゆるキッチンから出た時には両手いっぱいだったドリンクも今は0。
 皆の手元へ配り終わった後だ。

「乾杯は何回やっても盛り上がるし良いんじゃねーか?
 面白いヤツってのはジョークよ、ジョーク」

「そうか、ならば」

「あ、ちょっと待ち。
 未成年はダメな、乾杯はジュースにしときー。
 ……あったよね? 強欲さん」

 七々口の魔手がツマミを別の手に渡してVサイン。
 ひょいと宝物庫を開けば、中からカワイイパッケージのジュースを一つ掴んで取り出し。

「わ、わぁ……ジュース、ありがとうなのだわ?」

 目が点になるウララ。

「お、そこに無限に酒があるって事だな。おじさん気づいちゃった」

「お酒のストックがもう、と思っていたのよ……!?」

 魔手が再びVサイン。

「オレもまだまだ飲むしなー、お?
 なんかラーメンの匂いがするな……」

「ああ、今仕込み中だ」

 ――ウララが戻ってこないので心配して来てみたが。

「大丈夫そうだな」

 ――だが、暗いから気をつけろ。

 お父さん顔、給仕中のウララのことが心配で見に来てしまった源八が頷く。
 顔はうっすら赤いが、それほど呑んでいない雰囲気。

「お、飲んでるかい?
 その様子だと、ふだん娘さんの前じゃガバガバ呑んだりはしてないんじゃない?」

「すずの前ではそれほど、な」

「ならば貴殿も今日は飲むといい、そして、だ。
 ……話の最中にすまない、そろそろ乾杯させてもらっても良いか?」

 モルドレッドが、先程からずっとグラスを上げたままで固まっていた。
 シラフだが面白いやつ……かもしれない。
 真剣に、真面目な顔で、士気をあげる乾杯の待機中だった。

 皆が一瞬、これ酔ってる?
 違うの? 真面目なだけ……? とほろ酔いの中でふわふわ考える。
 しかしもう皆酔っ払いだ。
 自分がシラフでないなら、もはや誰が酔ってシラフかなんて分からないのだ!

「っしゃ、それなら乾杯と行こうぜ!」

「では参る――乾杯!」

「かんぱーーーい!」

 カァン、と再びグラスが良い音を立てていた。

「盛りあがってますなァ」

 けふ、と小さく咳を漏らしつつ飲み会と花火遊びを見つめる彩陽。
 手渡された花火がしゅうう、と輝きを終えて消えた。
 何かが――懐かしい気がする。
 バケツの水の中で消えた花火のように、認識の底で熱をもっているような。

「彩陽くん、花火面白いかな?」

 弥月が笑顔で横に立つ。

「せやな、楽しいのかな――」

「これは、どう?」

 そっと弥月が彩陽に線香花火を手渡す。
 ちりり……と赤い玉が火花をあげている。

「せやなぁ……」

 懐かしい、のかそうなのか、良くわからない。

「この花火の香り、懐かしいって思うんだよね」

「懐かしいかぁ」

 そう言われれば、そうなのだろう。
 面白い、と聞かれればそうな気がする。

 ぽとりと線香花火の光が落ちた。

 儚い――と分かる。こうして、生きられたら――。

「しんみりしちゃうよね」

「せやなぁ……」

「楽しい一日が終わっちゃう感じ。でも、楽しいから不思議な」

 一日が終わってしまう、その残念な感覚。
 それが楽しい……なら。楽しいんかも。

「おおきにね、弥月はん」

 細めた目が少し、孤を描いた気がする。

「ストーーーップ!!! しんみりしすぎ! まただよね!
 何か終わりの空気がでちゃってるって!
 そいじゃ、そろそろいきましょうか!」

 今まで何をしていたんだ……というくらい気配がなかったお調子者、オーガストが顔を出す。

「ここで一発打ち上げてやりましょう!」

 目線が周囲全てを舐めるように見る。
 プロ、だ。

 テロというのはタイミング場所、全てを見てこそ最大の効果があるわけだ。
 その目は肥えている。

 盛り上げる最高の瞬間を、彼は一日かけて準備してきたのだ。

 二回目の乾杯、腰掛けてゆるやかな食事、給仕のバタバタも終わり皆が席についた。
 花火も一段落、しっとりタイムの手前――今だ。

 グランピング施設、川の対岸から光の玉が音をあげて空へと舞う。

 ヒュウウウ……という音。
 皆がハッと気づいて空を見る。

 パアアアアン! という激しい音。

 高く高く飛んだ玉が空で緑の花へと変わる。

 辺りを緑の光が包み込む。

 繰り返し射出される花火は、川沿いから順番に空へ。
 赤、橙、白。花火大会なんて目じゃない程の、輝く閃光の数々。

 同時に、川水面を光のシャワーが走る。
 滝の名前がついた花火――空も、川も、辺りも全てが凄まじいカラフルに包まれていた。

「オーガストさんも火薬を扱う業種でしたか。それにしても優れた技術です」

「個人でそんなしっかりした打ち上げ花火用意できるんだ……」

 ザッ……と川沿いに深雪が立つ。
 心配して追いかけてきた澪の顔が引き攣っている。

 彼女横にはウォーゾーン製の兵器。
 ロケットランチャー……に見えるが、設置型のターレットのようにも見える。
 グリーンのライトが点滅し、どうみても武器だ。

「み、深雪ちゃん、大丈夫だよね……?
 それ、対戦闘機械群のやつじゃないのよね……?」

「√ウォーゾーン製の花火をご用意しました。
 プラスチック爆弾や地雷の符牒ではありませんよ。
 ――システムアンロック、モルゲンシュテルンが使用を申請します。
 ロック解除完了、全武装正常に起動」

「花火の発射シーケンスじゃないよ!?」

「|撃ち方はじめ《たまや》!!!」

 多連装ランチャーの砲門がデジタル管理され、次々に開く。
 赤いレーザーライトが空へと突き刺さり、着弾地点を示す。

 ミサイルの形状をした花火は空へと舞い上がり、空中で風や速度を感知、制御。
 揺れることなく、製図の如く完璧な花を空へと描く。

 素晴らしいアートだ。
 けれど、音がヤバい。爆発音含め、ほぼミサイルである。
 綺麗だが――音が、ヤバい!

「……!」

 振り向けば彩陽がその様子に少し驚いて固まっていた。

「彩陽さん、驚かせてしまいましたか?」

「少しなァ、でも楽しい、な気がするで」

 手をひらひらと振って見せる彩陽に深雪の眉が少しだけ上がった気がする。

「しゃーー!!! ひと仕事終わった!
 さあ、遊ぼう! 食べましょう!」

 打ち上げ花火タイムが終われば、オーガストも普段通りの様子に。

「やあオーガストさん、打ち上げすごいね
 技術も熱意もすごいなぁ」

 弥月がオーガストに手を振る。

 帰って来るのはVサインと、最高のドヤ顔。
 バッチリだ、と顔に書いてある。

「ふふ、凄かったよ。みんなも喜んでた」

「ええ、私も写真に撮って2人に送ったわ! 本当に素晴らしい花火だったわ」

 霊菜がケータイを見せながらオーガストに笑う。

「それじゃ、こっからさらに楽しんで行こうじゃないですか!」

 バッと置き型の打ち上げ花火を肩に担ぎ、まさにロケットランチャー。
 火をつければ、まるでロボットのキャノン砲のように花火を射出する。

 続いて手持ち花火を二刀流。ぐるぐると回って――。

「!!!――ひぇ、旦那――」

 遠くで酒を呑んでいるモルドレッドが視線が、闇の中から突き刺さる。
 監督者の目。そんなに怖くはないのだけれど、なんとなく刺さるのだ。

「|I didn’t do nothin’ bad, seriously! C’mon!《悪いことしてないってーの! まったく!》」

 なんて呟いてみたり。それでも楽しいから良いんだけどね!
 飯も美味い、空気もサイコー。スペシャルな夜だ。

「……ふふ、バタバタしてるの、お祭りっぽくて良いものね」

 慌てたり、ご機嫌に走り回るオーガストを見て霊菜が笑う。

「ああ、オレもそう思うぞ。
 花火、娘達にもやらせてやっても良いかもしれん」

 エヴァンスがその横で父の顔。

「アレク、まず貴方の鬣に火が付くかもしれないわ」

「ぐるるぅ……それは……困るな……。 ン……!」

 突如エヴァンスの腹が鳴る。視線が一点に集まった。

「これでありますか? 新鮮な熊肉であります!」

「ハッ……」

 娘の事を考えている時に、レオが突然眼の前に熊肉を持ってきた。
 父エヴァンスは今日一日で一番の葛藤と向き合う羽目になる。
 食べるか、食べないか。選択は極めて大きなものだ……。

「……夜も……とても、綺麗でした……」

「うん! 昼の水も、生き物も素敵だったけど、夜も凄いね!」

 榴に奏斗が微笑みかける。

「今日は良い一日だったと、私も思います。
 線香花火を貰ってきました、一緒に如何ですか?」

「……お誘い嬉しい、です。……ぜひ、お願いします……」

「うん、僕もやるよ!」

 ぱちり、と線香花火が音を立てて光を放ち始めた。

「――今日の思い出も、絶対に忘れないよ」

 同じように線香花火を持った澪が静かに呟く。
 隣には深雪。
 目線の先には、飲み会する仲間、花火で騒ぐ仲間、楽しい大切な仲間たち。

 皆と一緒のこの時間が楽しいから、私はまた頑張ろうって思えるの――。

 言葉にしなくても、思いは伝わる。
 きっと、みんな、同じ思いだから。

「あっ、宵さんも一緒にどうですかっ」

「僕? それじゃ、一緒になの!」

「どうぞ!」

 宵が受け取った線香花火に、火が渡される。
 じぃ、とい音の後キラキラと光が弾け始めた。

 宵はじっと手に持った花火を見つめていた。

「小さくて綺麗で可愛いのよ」

「綺麗……です、ね……」

「私、他の花火も貰ってきます!
 一緒にやりましょ」

 こくりと頷く皆。
 まだまだ、輝くシャワーは終わりそうにない。

 飲みの席は順調に出来上がってきている。

「いんやー、美味いね! でも終わっちゃった……七々手くーん。
 お代わりちょーだい。ついでにモフらせてー」

「うん? グレンは酒追加? んじゃ、ほい」

 七々口の嫉妬を司る魔手が缶ビールをグレンに渡す。

「んだけど、オレに勝ってないし、モフりはダメでーす」

 色欲を司る魔手が、ちっちっと指を振ってから間に飛び込んでブロック。
 ついでに飲み終わった缶を回収、暴食の手に放り投げれば掴んで飲み込んで消滅。
 エコだ。

「……暴食って缶も食べるんだ、おじさんびっくりだよ」

「その手、便利なモンだな」

 源八が七々口をじっと見る。
 ラーメンを出来立て最速で提供できそうな魔手だ、なんて眺めながら。

「だろー?」

「モルドレッド卿もそうだけど、七々口君もへべれけになってるとこ見ないよねぇ……。
 ホント妖怪さんって酒つっよ。
 源八さんもかな? 普段控えてるなら、偶にはオトナだけで夜飲みってね」

 ウツロが源八に酌をすれば、すかさず返杯が帰って来る。

「悪くはないな」

 少し顔が赤いか。
 皆の中では少し酒が回っている……ような雰囲気もある。
 いつもより口数が多い気がする。

「そいや、グレン君、タバコと酒好きとは聞いてるけど、普段どんなの呑んでるの?
 冒険者と言えばエール酒?」

「……ん、おじさんの普段? そうね、ドラファンだとエールは多いかな。
 でも、ウィスキーとか甘いカクテルとかも飲むよ。
 というか会長さん結構飲めてるよね、付き合ってよ」

「それなら! グレン様ちゃん!
 施設の人に教えてもらって、とっておきのお酒を準備したのだわ!
 良かったら呑んでね!」

 ぱたた、とおつまみと酒瓶を持ってウララが走ってくる。

「おっ、凄そうなお酒だ、おじさんこれは楽しみだなぁ」

「おお、ホントだ! ウララちゃん、君も好きなもの摘んで食べなよ~」

「あら、ありがとうなのだわ!
 せっかくだから少しお料理いただくわね!」

「あり合わせになってしまうが、俺が作ったものもある。
 良かったら食べてくれ」

 モルドレッドがプレートを差し出す。

 昼のバーバキュー用の野菜とオーリーブオイル、肴と肉で作ったアヒージョ。
 燻製した鳥肉。
 肉を包丁で細ぎりし、粗挽きにして作ったハンバーグ――。

 リメイクとは思えない、キラキラと美しい料理が卓上に並んでいた。

「モルドレッドの料理、美味いぜ」

 七々口の魔手がガッツポーズをして見せる。

「わぁ……」

 ウララが見惚れて止まる。
 そっと手を伸ばして一口。

「……んー、美味しい……!!
 それなら余った野菜とかがあっちにあったから、もってくるわね!」

「気をつけろよ」

 ――足元に。

「む……そろそろか」

 源八がウララを見送ると、寸胴鍋へと向かっていく。
 仕込んでいたラーメンのスープが炊きあがったようだ。

「ミルグレイス」

 その様子を見ていたモルドレッドが手招きする。

「ん、|師匠《パパ》? ……ラーメン出来そうな感じ!?
 うっひょー、超楽しみだね~~! 皆に声かけてくる!」

 走り出したモルドレッドが、大きな声で皆を集める。
 ラーメンは出来立てが一番だからだ。

 皆が手伝う構え。
 一斉に熱々を食べるために。

「――うむ」

 源八が鍋のスープを味見する。

 しばし腕組みして――考える。

「美味いな」

 普段はマズイと評判なラーメン。
 とはいえ、時々めちゃくちゃ美味い当たりのラーメンがあり、それがやめられない。
 そんな評判の源八のラーメンだが――今は、ほろ酔い。
 舌の感覚もズレがあり……今日のラーメンはその「大当たり」の予兆が出ている。

 醤油ダレを器に一杯。
 そこに昼間のバーベキューで使われた肉の骨を合わせて取った出汁。
 動物系でワイルド、そこに香る醤油が完璧にマッチング。

 さっぱりでありながらしっかり、味わい深い淡麗辛口なスープ。

 持参した玉子麺を入れたら、上にはネギとチャーシュー。
 グランピング飯というより、最高な屋台のラーメンが生まれていく。

 盛り付けをレオとウララが手伝って、皆が一斉に運ぶ。
 素早い手際――チームワーク。

 皆の前に、ついにラーメンが届いた。

「頂きます……!!」

 全員の声が重なる。
 誰も声をあげず、スープを飲み、麺を啜る。

 そして。

「美味いな――」

 モルドレッドの一言の後、全員が美味い! と歓声をあげるのだった。

「すずちゃんに送ってあげるといいわ、写真撮らなきゃ」

 霊菜が少し誇らしげな顔の源八をそっと写真に収め。
 あっという間にラーメンタイムは過ぎた。

 けれどまだまだ、グランピングの夜は続いていく。
 酒あり、花火あり、歌あり。

「えへへ、今日は最高に楽しかったよ!」

 笑うミルグレイスに皆が拳を掲げる。

「……とても、幸せ……でした……」

「水場だからちょっと緊張しましたが、とても楽しかったです」

「うん! とっても良かったよ!!」

「ふふ、皆が元気でとっても良かったわ」

「サイコーだね!」『サイコーだよ!』

「間違いないべ! 槍くらい素晴らしかっただよ!」

「ええ、素敵な一日だったわ。ね、アレク」

「……もう……食べら……ぐるる……」

「ハッ……お腹いっぱいで寝てるであります……!
 始まる前から良い一日でありました!」

「美味しいご飯も綺麗な花火も、みんな素敵だったのよ!」

「うん、素敵な一日だった! さ、片付けだね。
 来たときよりも綺麗にしちゃおう」

「お、おうよ! ちゃんと許可取った花火、良かったろ!」

「……せやな、これが楽しい一日言うんやろな」

「はい、これが楽しい一日だと思います」

「うん、私もとっても楽しかった!」

「おじさんもいっぱい飲めて良かったよ!」

「グレン様ちゃんが楽しそうで嬉しいのだわ!」

「オレも充分飲めたし、締めのラーメンまであるとは、贅沢で良きねぇ……」

「ああ、いい一日だった」

「そうだな。俺もとても楽しめた。
 さて――責任者殿、ここは一度締めてもらうのはどうか?」

「モルドレッド卿、ここで私に振るの!?」

 ウツロは静かに立ち上がると、ビールの缶を持つ。

「んじゃ、今日はサイコーだったって事で!
 ミルグレイスちゃんに乾杯で!」

 続いて、高く缶を掲げる。
 皆の「乾杯」の声が辺り一面へと響くのだった。

 そして。

「――皆の楽しそうな写真が届いたよ、ほら」

 笑顔の父と一緒に携帯電話の画面を覗き込む娘。

「これ……今日のラーメンは大当たりかも」

 父のラーメンが、お客様が楽しみにする「大当たり」だったのを確信する娘。

 ああ、それと――美味しそうな料理を作る|師匠《パパ》の姿もしっかりと弟子の携帯電話に輝いていた。

 世界の為に簒奪者と戦う者達に、日常という素敵な夏休みがあらんことを。
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