『かみのて』が差し伸べられて
●さあ手を取って
ゆきましょう、ゆきましょう。
しあわせな場所にゆきましょう。
密やかな少女の声が、使われていない教室に入った子供の耳をくすぐった。
振り向けば、そこには緋袴の巫女が立っている。
「そこに行けば、幸せなの?」
「ええ。『かみさま』があなたに手を差し伸べてくださいますよ」
「冒険できる?」
「楽しい場所?」
「怖くない?」
「魔法は? 魔法もある?」
「ぶたれない?」
「……お腹、いっぱい食べられる?」
「きっと、叶いますよ」
巫女の優しげな笑みに誘われるままに、子供達がその手を取れば——ぶわりといくつもの『手』が現れた。
怯え慌てて逃げ出そうとしてももう遅い、巨大な手が小さな子供を包み込み攫ってしまう。
行きましょう、往きましょう。
神様が手を差し伸べる、幸せな場所に行きましょう。
巫女の笑い声が、誰も何もいなくなった教室に小さく響いた。
●怪異、現る
「√汎神解剖機関にある小学校の使っていない教室から、どこかに行けるという噂が、その学校の児童の間に広まっている」
猫宮・弥月(骨董品屋「猫ちぐら」店主・h01187)は、星詠みの内容を語り始めた。
その噂はこのままでは事実になる。今の現実から逃れたい子や、興味本位で覗きに行く子がその教室に行くと、実際に姿を消してしまうのだ。
「これは最近復活した怪異の仕業だよ」
『神隠し』と呼ばれるその怪異が、なぜ子供を攫うのかはわからない。けれど子供達が怪異に出会ってしまったら、もう逃げられないことだけはわかっている。
「そうならないように、まず子供達を止めてほしい」
星詠みによれば、これから小学校の空き教室へと数人の子供達がやってくる。空き教室を警備できるよう手続きは済んでいるから、彼らと話したり、実力行使で捕まえたり、別の噂で気を引くなどして追い払ってほしい。
「そのうちに怪異に惹かれて下級の怪異が現れる。それを倒して『神隠し』本体の力を削いでほしい」
そうすれば、本体が現れてその教室にいるものを連れて行こうと手を伸ばしてくる。そうなったら怪異を倒しすなり封印するなりして、その肉体を汎神解剖機関へと持ち帰ればいい。
「子供達をどうか守ってほしい。もちろん怪異の討伐もお願いするよ」
気をつけて、よろしくお願いします、と弥月は頭を下げるのだった。
●子供達は希望を胸に
「なあなあ、別の世界だって! どんな場所だろ」
目を輝かせて、結翔は空き教室へと向かう。
「ロボットいっぱいいる世界とか、ドラゴンが出てくる世界とか?」
うきうきした顔で朝陽は後に続き。
「おばけがでるとか……?」
結那は少し怖そうにしながら。
「妖精がいて、魔法が使えたりして!」
心春はわくわくしながら。
「どこでもいいよ、どこかに行けるなら」
理久はどこか投げやりに。
「……うん。どこでもいい。どこかに行きたい」
凪紗は細い腕を片方の手で握って。
動機はそれぞれに、事情もそれぞれに。けれど「どこかに行きたい」と願う子供達は、噂の空き教室へと向かっていく。
マスターより

ゆきましょう、ゆきましょう。子供達を救い、怪異を倒しに。
霧野です、よろしくお願いします。
●シナリオについて
√汎神解剖機関にて、復活した怪異による子供達の失踪を防ぎ、怪異の取り巻きを倒し、怪異本体を倒す。
そんなシナリオです。
子供達にはそれぞれに動機や事情がありますが、全員まとめての対応でも、複数人へ、一人だけへの対応でも構いません。
34
第1章 冒険 『どこかにつながる教室』

POW
怪しい場所に居る子供を連れ戻す
SPD
偽の噂を流して別の場所に連れていく
WIZ
子供に不用意な行動を控えるよう説得する
√汎神解剖機関 普通7 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵

得体のしれない希望に手を伸ばす子か
くだらねえ。全くくだらねえ
不幸がない事が希望だなんてふざけてやがる
未知への憧れってのはまぁわかる
知らない場所に今とは違う、知らない幸せがある
そんな冒険心で踏み出すのは、ガキの特権さ
でもよ、未知の世界に、今の不幸がない世界を求めるのは……やめてくれよ
そんなもんは希望なんかじゃない、消極的な自滅だ
今の不幸から抜け出したいなら、未知に踏み出すことじゃない
『助けて』と願うことだ
叩かれたくないなら、俺が守ってやる。腹が減ったなら、俺が美味いもん食わせてやる
怖いもんが現れたら、俺が倒してやる
だからさ、頼むよ。幸せを願ってくれ
全く、くだらねえ。まるで昔の俺を見てるみたいだ

アドリブ歓迎
好奇心かあるいは現実逃避か…別の世界に行きたいなんてな。
…別の世界は確かにある。だがそれを夢物語で語ってられるうちは幸せだ。
だが本当に今の現実が辛い子供がいたら?
ならば√能力者ではなく大人として出来ることをするしかない。
もし…困ってることがあるなら大人を…俺を頼るといい。【社会的信用】の証。警察手帳をみせ。必要な子供が居るなら名刺を渡す。
まだ、この世界はすてたもんじゃないと。
せめて子供達にはそう思って欲しいだろ。

アドリブ・連携歓迎
WIZ使用
俺自身、まともな子供時代を送っていない自覚はあるが……保護対象の子達も何かしらの事情がありそうか
先ずは彼らを災禍から引き離さなければ
空き教室に先に待機、彼らにこちらから声を掛ける
「結翔に朝陽、それから結那、理久に凪紗だね。初めまして。ま、俺は君達の事、よーく知ってるけど?」
「噂を確かめに来たんだろ?イケないなァ……行きたいどこかがこわぁいところかも知れないって考えなかった?」
翼と天輪を見せつけるようににやりと笑い、この世ならざる者の様に振る舞い「恐怖を与える」としよう
怯えて逃げてくれるよう、半機半妖達も見せびらかして念押しもしようか……仮にも大人としては心が痛むがな

Wiz
怪異が子供達を攫う……
放っておく訳にはいきませんね……幸せを引き合いに出して何かをしようとするなんて……僕としては見過ごせません。怪異がまともに子供達を扱うとは思えませんから……
子供達の説得……難しいかもしれませんが、できるだけ【優しさ】を込めた声で全員に届くようにやってみましょう。
君たちは異世界に憧れているんですね。
けれど、1度立ち止まって考えた方がいいかもしれません。もしかしたら、怖いお化けがあなた達みたいな子供を食べる為にそんな噂を流したのかも。異世界が安全とは限らないかもしれない。
都合のいい幸せが本当にそこにあるのか、まずは考えてみませんか……?

かみさまなんて、いいものじゃない——って、言ってもわかんないだろうけど……止めないと。
怪しい場所にいる子どもを捜して、連れ戻そう。
けど、「別の世界に行ける」なんて噂以上に魅力的な『エサ』あるのかな。
兄ちゃんみたいに素直な子たちならいいけど……。
……かみさま、見せようかな。
乱暴だけど『たこすけ』の触腕(非能力者からは不可視)で脅かそう。物を掴んで浮かせたり、地面叩いて揺らしたり。
もし……命が惜しくないみたいな子がいたら——その子は警察署に連れて行こう。俺が出入りさせてもらってる『八曲署』に。
俺は出来た人間じゃないから、背負ってあげられない、けど……助けてくれる大人はちゃんといるって知ってほしい。

お話しを聞きたいと思います。
いきなり声をかけたら不審者でしょうし、警備の人に見えるような幻影を自分にかけます。
知らない人と話すのは厳しいでしょうから、√能力の助けを借ります。心の壁(警戒心)と心の傷をちょっと消させて頂いて、どうしてそんなに別の世界に行きたいのか聞いてみましょう。
どこかに行きたい。どこでもいい。ここではないどこかなら。
ただここに居たくない。でもどこにも行ける場所がない。
そう思っているのなら、わたくしが手を引いて差し上げます。こう見えてまともな警察とも知り合いですから、しかるべき対処を取って下さるはず。
どうしても、というなら……あなたから、嫌な物全てを忘れさせて差し上げます。

…怪異は、救いなんてもたらさない。
教室に向かう廊下で待ち伏せ。
座り、ネクタイ緩めタバコを吸いながら…
「んだコラ?何見てんだ。」
睨みを利かせる。ここは俺達の場所だぞどこの差し金で来てんだオイ!
(柄悪い不良アピール)
これで、興味本位の奴らが逃げりゃいいが…演技がうまい?はは…。
問題は強い意志を持って来た奴だが…
恨まれても良い、√能力で動きを止めて捕獲を試みる。
ビビらせて悪かった、だが…この先は行かないでくれ。行き着く先は、何もないから。
無意識に傷痕を撫でながら、目線を合わせ愚直に願う。
●補足
・普段は男性的な丁寧言葉、目上の人には敬語、荒ぶるとヤンキー口調(あぁ?じゃねぇか!等)
・アドリブ、連携歓迎

人の姿で子供達と接触
噂話を確かめる為、小学校に忍び込んだと話します
先生には内緒にしてください
僕も皆さんの事を先生に内緒にします
別世界に行く前に、腹ごしらえをしませんか?
子供達にしおむすびを配ります
この世界の食べ物は二度と食べられないかもしれません
旅立てば、元の世界に戻れる保証はありません
家族や友達と永遠のお別れになるかもしれません
安心して眠れる家もすぐには見つからないでしょう
別世界の住人達に歓迎されるとも限りませんし
望む世界がバラバラですから、きっと独りぼっちです
今日、一日考えて、明日にしませんか?
怖い大人をどうにかするくらいなら、僕にもできます
理久さん、凪紗さんに、大丈夫だよ、と安心させます

【アドリブ・連携歓迎】
子供たちを攫ってなにがしたいの?理不尽に大切な人を奪われて、残される者は辛いだけなのに。
とにかく、まずは子供たちを止めなくちゃ。彼らがどんな事情でここに来てるかは推察することしかできない。きっと簡単に解決できるものでもない。ただ、このままだと彼らの望みは確実に叶わなくなる。それだけでも防いでみせるわ。
基本、私自身の姿は見せず、ウィザードフレイムを召喚して子供たちの興味を引くわ。そしてそのまま安全なところまで誘導するわね。
すぐに忘れてしまう一夜の夢のようなものだけど、世界には楽しいことがあるって伝えたいわ。それは何かを『失った』私たちにしかできないことなんだから。
●
子供達が現れる前に、√能力者達は小学校へ、件の教室の前へ到着する。
事前に聞いた話から、子供達にも何か事情がありそうだったり、動機がありそうだというのもわかっていた。
(得体のしれない希望に手を伸ばす子か)
竜堂・爪牙(人間の職業暗殺者・h01012)は歯噛みする。
(くだらねえ。全くくだらねえ。不幸がない事が希望だなんてふざけてやがる)
子供達のその、希望に。声に出せない訴えに、くだらないと苦虫を噛むような思いを抱えていた。
(好奇心かあるいは現実逃避か……別の世界に行きたいなんてな。彼らにも、彼らなりの決意があるかもしれないが、それを見過ごすわけにもいかない)
静寂・恭兵(花守り・h00274)は茫洋とした見目ながら、深く考えて目を静かに伏せ、どうするべきかと思案している。
(かみさまなんて、いいものじゃない——って、言ってもわかんないだろうけど……止めないと)
自身の傍に憑いている『かみさま』を思い、過去を思い、八手・真人(当代・蛸神の依代・h00758)は色の悪い唇を軽く噛んでしまう。
(俺自身、まともな子供時代を送っていない自覚はあるが……保護対象の子達も何かしらの事情がありそうか)
「忌雛様」と呼ばれ崇められた過日を思い、狗狸塚・澄夜(天の伽枷・h00944)は青い瞳を少し揺らめかせ。
(怪異が子供達を攫う……放っておく訳にはいきませんね……幸せを引き合いに出して何かをしようとするなんて……僕としては見過ごせません)
幸せを願い、導き、それが人を破滅させかねない存在、「楽園導師」の白石・翠咲(花を撒く者・h02856)は物憂げに星降る夜の翼を微かに揺らし。
(そう、怪異がまともに子供達を扱うとは思えませんから……)
まるで自分が「そうである」と言われたかのように、そっと白蓮の花を揺らした。
(どうして彼らは別の世界に行きたいのか、彼らの事情もあるのでしょう)
「忘却」の人間災厄、アイン・スフィア(パン屑、ペン先、古びた筆・h00834)はそっと胸に手を当てて、子供達の事情を慮る。
(彼らのお話しを聞きたいと思います)
見た目で怯えさせないよう、いつもの自分とは違う、警備に来た大人のような幻影を被りながら。
(……怪異は、救いなんてもたらさない。幸せになんて、してくれない)
色城・ナツメ(頼と用の狭間の警視庁異能捜査官カミガリ・h00816)は整えた髪をあえて手ぐしでぐしゃりと乱し、ネクタイを緩めて待つ。子供が怯えるような見た目を意識して、目付きもいっそう悪くして。
(子供たちを攫ってなにがしたいの? 理不尽に大切な人を奪われて、残される者は辛いだけなのに)
怪異の思惑などわかるはずもないけれど、小明見・結(もう一度その手を掴むまで・h00177)は身を隠しながらも憤る。連れて行かれてしまう子供達を思い、その周囲の人を思い、いつか失った面影を思いながら。
各々思いも考えも抱えながら、しばし√能力者達が待っていれば、廊下の向こうから高い声が聞こえてくる。
「どんな場所だろ。騒いでも怒られないかな」
「楽しいこといっぱいあればいいな!」
「ちゃんと、見てくれるかな……」
「きっといいことあるよ!」
「怖い大人がいなければいい」
「……食べ物、ちゃんとあるかな」
話しながら子供達がやってくると、普段学校で見ない人達の姿に驚いた顔をする。大人に怯えている子供もいるようだが、それで引き返す素振りはない。
「お客さん?」
「挨拶しようねって、先生が言ってた」
「こんにちはー!」
「こんにちは……」
口々に挨拶を始める子供達を、行儀悪くしゃがみ、タバコを咥えたナツメが睨みつける。
「んだコラ? 何見てんだ、あぁ?」
低くドスのきいた声で、さもこの廊下は、この教室前は自分達のシマだと主張するナツメに、子供達の肩が揺れる。
「ここは俺達の場所だぞどこの差し金で来てんだオイ!」
目を見開いたり怯えて顔をくしゃりとする子供に心がちくりとしたけれど、今はそっと痛みに耐えて。これで興味本位の子供が逃げてくれたらそれでいい。いかにもな柄の悪い不良アピールで子供達を脅しつける。
なお、あとで仲間から演技がうまいと褒められ、乾いた笑みを返すしかなかったりするナツメである。
「……いこ」
「うん」
「じゃーね、にーちゃん!」
けれど子供達は逃げることはなかった。ぎゅっと手を握り合う子はいたけれど、その足はまた進み始める。ナツメの、√能力者達の側を通り抜け、噂の教室へ向かおうとしているのだ。
(……ああ)
興味本位だけでないと、それでわかってしまう。体を固くし怯えながらも進む子、目を輝かせて希望を、その影に諦念や不安を隠した子ばかりだったから。害されてもそこに行きたい、と望む子供達だったから。
(恨まれてもいい)
ナツメは一度こらえるように目を瞑ってから、進む子供達を見つめ直す。
「俺から逃げんじゃねぇぞ!」
今ここにいる、ナツメから逃げないでくれと願いながら決めた言葉を発すれば、びりりと空気を震わす怒号に痺れたように、子供達の動きが止まる。
「……ビビらせて悪かった」
髪を整え直し、タバコを始末しネクタイを少し締め直して。ナツメは再度目を閉じる。麻痺が解けた子供達きょろきょろ己の体を確認していた。
「びりびりってした!」
「動けなかったね、にーちゃんも不思議な世界の人?」
「びっくりー!」
動けなかったことにもそわそわ、わくわくと憧れも浮かべる子供達に、澄夜はにっこり微笑んだ。前に進みでれば、一気に翼と天輪に、興味と驚きの視線が向けられる。
その視線の奥、憧れと驚きの影にいる、怯えや弱さ、かすかな震えに、ろくでもない事情を感じ取ってしまえるからこそ、頭の奥はいっそう冷静にもなる。
(なるほど、憧れだけではなさそうだ。でも先ずは彼らを災禍から引き離さなければ)
澄夜はことさらにゆっくり、見た目以上に年と経験を重ねた存在として子供達へと語りかける。
「結翔に朝陽、それから結那、理久に凪紗だね。初めまして。ま、俺は君達の事、よーく知ってるけど? この学校の生徒で、これから別の世界に行きたいんだろう? わくわくしてたり、どきどきしてたり、あとは……ここからいなくなりたい、とか思ってたりすることも知っているよ」
「すごい! はじめましてなのに知ってる!」
「やっぱり魔法? 別の力?」
「わぁ、名前言ってないのに……びっくり」
驚き、足が止まったままの子供達に、アインの『ⅩⅤ:壇上の悪魔』の効果で生まれた光がそっと届いた。子供達の顔つきが少し変わる。
「別の世界に行きたいことは知っています。けれどあなた達から、その理由を聞いておきたいのです。どうしてそんなに別の世界に行きたいのですか?」
そっと警戒心と心に負った傷を消された子供達は、それでも記憶にある大人への恐怖に体を強張らせ。それでも諦めたくないという気持ちで異世界への憧れを抱いて。
「俺、強くなって戻ってきて母ちゃんを守るんだ! 母ちゃん泣いてるから!」
結翔は小さな胸を精一杯張って。
「そこならいっぱい遊んでも冒険しても、怒られないでしょ? ずっと勉強しなさいって、言われない」
朝陽はふわりと笑い。
「不思議な力があったら、お手伝いいっぱいできて……人の役に立ったら、お父さん、きっと喜んでくれる……褒めて、くれる」
結那はおずおずと。
「魔法があって、妖精がいるなら。きっときっと皆喜んでくれるから! わたしのことも見てくれるから!」
心春は明るく笑って。
「そこに行けば、嫌な大人はいない。痛いのが変わらないなら、今よりはいい」
大人を憎々しげに睨みながら、理久は言う。
「……お腹いっぱい、食べたい。ゆっくり、眠りたい」
細い体を抱きしめるように腕で自分を守って、凪紗は小さく呟いた。
翠咲は柔らかな声音で語りかけた
る。彼らを思っていると、彼らが心安らぐようにと、叶う限りの優しさを込め、語りかけた。
「君たちは異世界に憧れているんですね。素敵な場所があるんだ、と思って、行けたらいいなと願っている」
「うん……」
「……素敵な、世界がいい」
頷きや呟きに、翠咲はそっと目を伏せた。それが素直な憧れだけならば、どれほど素敵だっただろう。
「ね、ぼくは噂話を確かめる為、こっそりお邪魔したんです。先生には内緒にしてください。僕も皆さんの事を先生に内緒にしますから」
動けず驚く子供達に、ガザミはしゃがんで話しかける。
「内緒はいいけど、俺達は内緒にしなくていいよ?」
「別に近づいちゃだめなんて言われてないもん」
「センセ達、うわさ知らないから……」
にこーと笑う人懐っこい子にも、警戒する子にもガザミはそうなんですね、と頷いてみせた。
「じゃ、行ってくる! じゃーね!」
「じゃあね、ばいばい」
「さようなら……」
「ばいばーい」
「さようなら」
「……さようなら」
止められる前にと急ぎだし、浮き立つ子供達の声に、隠れたままの結はそっと目を伏せて拳を握りしめた。このまま飛び出して教室に行ってしまいそうな子供達の足をとにかく止めなくては、と考える。
(彼らがどんな事情でここに来てるかは、彼らの言葉や態度から推察することしかできない。いくら考えても、ここでは解決できない)
それでも、それでもと結は小さく詠唱を始める。子供達を救いたいと願って。
(彼らの問題はきっと簡単に解決できるものでもない。ただ、このままだと彼らの望みは確実に叶わなくなる。それだけでも防いでみせるわ)
幸せになりたい、新しい世界を見たい、どこかに行きたい。そんな願いもこのまま進めば、怪異に握りつぶされ叶わなくなる。それを防ぐために結もここに来たのだから。
進もうとした子供達の前にふわりと炎が浮かび上がる。それはくるりくるりと彼らの側を漂って、ゆっくりふわりと飛び回る。一つずつ、一つずつゆっくり増えて飛んでいる。
「すげー! 火が浮いてる!」
「魔法! 便利そう!」
「熱いの、やだな……熱いかな……」
はしゃいで触ろうとする子もいれば、怯えて縮こまる子供もいる。それで一時は足が止まったままになる。
ほんの一時、すぐに忘れてしまう一夜の夢のようなものだけれども、子供達の目には楽しいかもと映る炎を動かして、結は祈る。
(世界には楽しいことがあるって伝えたいわ。それは何かを『失った』私たちにしかできないことなんだから)
そのためにも彼らを進ませてはいけないのだ。
炎に浮かれる子供達を見て真人は悩む。別の世界に憧れている子供達を、簡単な言葉だけで引き留めようとするのは何とも難しそうだ。
(けど、「別の世界に行ける」なんて噂以上に魅力的な『エサ』あるのかな。兄ちゃんみたいに素直な子たちならいいけど……)
己を待っているだろう兄の笑みを思い浮かべながら、真人はうんと悩んでいた。
その間に澄夜は子供達をゆっくり眺めて、にやりと笑ってみせる。
「噂を確かめに来たんだろ?イケないなァ……行きたいどこかがこわぁいところかも知れないって考えなかった?」
いかにも、と雰囲気を作った澄夜の口ぶりに、子供達はきょとんとしたり、きゅっと拳を握って見たりする。
「怖いの、いるの?」
「ああ、そうだね。俺みたいな妖や、機械と化物が混じったのがいる世界だよ。妖と機械が入り混じり、色々な妖がいるんだ。そんな世界で小さな子供を見つけたら——ふふ。どうしようかなぁ?」
バサリと背の翼とを広げ、天輪を見せつけるように腕を軽く上げ、広げてにやりと笑い、まさにこの世ならざる者の様に振る舞って見せた。広がる重圧に、子供の一人の目に涙が浮かびだす。ついでに半機半妖も語りに合わせて周囲を飛ばせれば、結那の目からはぽろりと涙が溢れていった。
(……仮にも大人としては心が痛むがな)
今の見た目は彼らに近いくらいだけれども、実年齢は外見の倍以上である。小さい子供を脅かして泣かせて、怯えさせるというのは、決して澄夜としても本意ではない。それでも行かせないようにしなくては行けないならば、悪も演じてみせよう。
そして泣いている子には悪いけれど、と真人の腹も決まった。
(……かみさま、見せようかな)
己に憑いた、神の権能を示すことにする。楽しいだけじゃなくて、怖いことが待っているのだと教えるために。
「ほら、こんな怖いかみさまもいるんだよ」
『たこすけ』の触腕がうぞりと真人の背後から現れた。廊下に置かれた消化器を持ち上げ浮かばせたり、床を叩いて揺らしたりとうぞりうぞり蠢きまわる。
子供達には見えない腕が引き起こす現象に、小さな顔の中の目は驚きに見開かれた。怖そうにする子もいたが、むしろ目を輝かせる子もいる。
「すっげー! 俺もその力ほしい! それで母ちゃん守れるじゃん!」
「それで、大人を防げるよね」
「え、いや、だめだよ。こわいかみさまに怒られて、痛い思いしちゃうよ。死んじゃうかもしれないよ?」
「でも強くなれるんなら、行く!」
「別に、痛いのは今と変わらないし」
憧れと羨望に目を輝かせ、むしろ行きたいと進もうとする結翔を真人はそっと押しとどめる。理久も乗り気なようだ。ちゃんと言うことを聞いてくれる素直さはあまりないようだった。
「そうだ、別世界に行く前に、腹ごしらえをしませんか? お腹が空いたら冒険するにも大変でしょう?」
ぽんとガザミは手を打って、白いおむすびを子供達へと渡していく。
いただきますと素直に食べる子供はいい。けれど食べたそうにしながらも口を結んだ凪紗もいる。飢えているわかるのに、頑なに口を結んで我慢している。
「しおむすび、嫌いですか?」
「……食べたら、ぶたない? 取ったりしない?」
「大丈夫ですよ、ゆっくり食べてください」
ほら、手も届きませんよ、とガザミが距離を取ったなら、凪紗もゆっくり食べ始める。ゆっくりと、けれどしっかりと。
子供達が食べる様を見守りながら、ガザミはそっと口を開く。
「別の世界に行ったなら、この世界の食べ物は二度と食べられないかもしれません。旅立てば、元の世界に戻れる保証はありません」
√能力者でなければ、この世界の何もかも忘れて、その世界の存在になってしまうことだってありえるのだ。
「家族や友達と永遠のお別れになるかもしれません。安心して眠れる家もすぐには見つからないでしょう。別世界の住人達に歓迎されるとも限りませんし、皆さんが望む世界がバラバラですから、きっと独りぼっちです」
そう言われるとちょっと不安そうに顔を見合わせた子達もいて、むしろそれでもいいと言う子もいて。
そんな子供達に、翠咲はふわりと笑いかける。幼さゆえの純粋な憧れと期待、その影の悲しい理由や事情を受け止めて、それでもそっと道を示さなければ、と心を定めて。
「そう、何も怖くなくて、もしかしたら素敵な世界が待っているかもしれませんね。けれど、1度立ち止まって考えた方がいいかもしれません」
そっと声をすこうし、低くして。
「もしかしたら、怖いお化けがあなた達みたいな子供を食べる為にそんな噂を流したのかも。危険な地形や、恐ろしい敵、過酷な自然……今より苦しいかもしれません」
怯えて大きな目をうろつかせる子供達に、眉を下げて翠咲は諭す。
「ただ、楽しくて、うれしいだけ。ちょっと冒険して、良いものが手に入る。そんな都合のいい幸せが本当にそこにあるのか、まずは考えてみませんか……?」
「そうですね、今日、一日考えて、明日にしませんか?」
そっと投げかけた翠咲と一緒に、ガザミももう少しだけ待ってほしいと声を揃える。
「どこかに行きたい。どこでもいい。ここではないどこかなら。ただここに居たくない。でもどこにも行ける場所がない」
歌うように、柔らかく、子供達の心をそっと拾い上げ、アインは手を差し伸べる。
「そう思っているのなら、わたくしが、皆が手を引いて差し上げます。大丈夫ですよ、あなた達を助けてくれる人もいるのです」
「ああ。……頼む、この先は行かないでくれ。行き着く先は、何もないから。俺達が、ちゃんと助けてやるから」
失った場所を、傷痕を無意識に撫でながら、ナツメも丁寧にしゃがみ込み、それぞれに目線を合わせ、愚直に願う。
「うん。大丈夫、ちゃんと頼れる場所に行こう。怖いこともされない場所、知ってるよ」
真人も頷き、自身も通う『八曲署』を思い浮かべる。真人自身は兄と一緒に支え合うだけで手一杯で、子供達を背負ったりはできないけれど。この場にいる仲間もいる、頼れる人たちもいる、あの場所なら大丈夫だと知っているから。
(俺は出来た人間じゃないから、背負ってあげられない、けど……助けてくれる大人はちゃんといるって知ってほしい)
未知への憧れだけであれば、微笑ましいと笑って諭せただろう。夢に見た世界への希望だけであれば、頭でも撫でて別の話で目をそらしたかもしれない。
(けれど彼らはそれだけではなかった。本当に今の現実が辛い子供だ)
何も知らず、ただはしゃぐ子供の顔だけではなかった。その影に怯えが見えたり、切羽詰まる雰囲気があったり、それぞれに理由があって別の世界を目指していたのだと、わかってしまう。
(ならば√能力者ではなく大人として出来ることをするしかない)
今、怯える子供を保護すること、危険に向かう子供を止めること、その子達の今後の未来を考えること。そういったことが、恭兵にもできるのだ。彼の花に、胸を張っていれる大人であるように。
「もし……いますぐでなくてもいい。これからでも、困ってることがあるなら大人を……俺達を頼るといい。すぐに、と言うなら一緒に行こう」
警察手帳をみせ、不審者ではないと改めて証明し、警戒する理久のような子供には、名刺を渡す。
「学校の先生にこれを見せて連絡してもらってもいい。誰か、助けてくれる人がいるなら、その人に電話してもらってもいい。自分でかけてもいんだ。ちゃんと迎えにいく。助けにいく」
「本当に?」
「でも、大人は嘘つきだよ」
朝陽の疑う言葉に、理久の断言に、彼らの境遇を僅かに知らされながらも、恭兵は祈るように伝える。
「本当だ。すぐに信じてくれるとは思っていないが、きっと助けにいく」
どうか、まだ、この世界はすてたもんじゃないと、せめて子供達には思ってほしいから。
「未知への憧れってのはまぁわかる。知らない場所に今とは違う、知らない幸せがある」
ああそうだ、何もかもがわからなくて、何があるかも知らなくて、全てが輝かしく見えるようで。爪牙だって、そんな世界を夢見たことだってあったのだ。
「そんな冒険心で踏み出すのは、ガキの特権さ」
知らないからこそ、足が動く。そんな時間があることを知っている。けれど、今目の前の子供達の願いは、それとは違うとわかるのだ。
「でもよ、未知の世界に、今の不幸がない世界を求めるのは……やめてくれよ。そこは、幸せな世界じゃないんだよ」
彼らはどうしようもない現実に、誰かに助けを求め、手を伸ばすことも声を上げることもできなくて。消えてしまいたい、とどこかで願っているのだと。
「そんなもんは希望なんかじゃない、消極的な自滅だ。今の不幸から抜け出したいなら、未知に踏み出すことじゃない」
爪牙はかがんで子供達へ目を合わせた。
「『助けて』と願うことだ」
近づく手に怯える子に、大人が近寄ることに震える子に、そっと手を広げて。
「叩かれたくないなら、俺が守ってやる。腹が減ったなら、俺が美味いもん食わせてやる。怖いもんが現れたら、俺が倒してやる」
祈るように、静かな声で爪牙は願うのだ。
「だからさ、頼むよ。幸せを願ってくれ」
幸せの望み方を知らず、助けてと言えず。ただ新しい何かに救いを求めている姿に、爪牙はそっと目を閉じて、子供達を諭すのだ。
(全く、くだらねえ。まるで昔の俺を見てるみたいだ)
そんな苦さも抱えながら。
「怖い大人をどうにかするくらいなら、僕にもできます。僕も強いんですよ。君達を皆で守ります」
そっと安心させるように、ガザミも微笑んだ。
「幸せを望んでいいんです。今抱いている気持ちはとても大切なんですよ。でもその気持ちは、別の世界では叶えられないんです。……今の辛さから、助けることは僕達ができます」
守りたい、遊びたい、褒められたい、自分を見てほしい、痛いのは嫌だ、満たされたい。その気持ちを翠咲も肯定する。そしてそれをきちんと満たせるよう、支えに来たのだと告げた。
「でも、この世界は、辛いこといっぱいだよ……?」
心春がそう、悲しげに言えば、アインがしゃがんで幻影の顔で笑いかける。
「どうしても、というなら……あなたから、嫌な物全てを忘れさせて差し上げます。嫌なものも、辛いことも全て忘れることができますよ。大丈夫、選ぶ時間はあります」
きゅっと唇結んだ心春の頭を撫でて、アインは告げる。然るべき対処をする間、|時間薬《忘却》を少し効きよくすることならできるから、と。
「怖いことがある世界に行かなくたっていいじゃないか。今の世界が怖くないように、僕達も手伝うよ」
結那の涙を拭った後、澄夜はそっと頭を撫でてやる。
静かに、足を止めて考える子供達を守るように、結の炎も揺らめいて、そっと温かに照らしていた。
きっと、子供達の先は良いようになるだろう。手を差し伸べてくれる人達が、こんなにもいるのだから。たとえ再び苦難があったとしても、いつか満面の曇りのない、子供らしい笑顔を浮かべる日がきっと来る。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功

【美永久家別邸】
WIZで行動
「何も知らない子供を狙う神隠しですか。」
「良くある話ですが、絶対に阻止しないとですね。」
久留さんの話を隣で聞いてから子供たちに目線を合わせながら
「このお姉さんの言ってる事は残念だけど本当ですよ。」
「別の世界に行ったからって今の辛い現実から逃げたとしても幸せになれるとは限りません。」
「まずは今の現実を受け入れて、そこからどうしたいか考えてみませんか?」
「いつでも相談に乗りますよ?」
必要なら警察だと伝えて、アイテム「偽装式警察手帳」を使用
虐待の疑いのある子に対しては専門機関への相談も行います。
【アドリブ歓迎】

【美永久家別邸】
WIZで行動
子どもに幸せとか希望とかチラつかせて誘い込むって手口が気に食わねぇな。
子どもにこんな事言いたくないけど、残念ながら世界はそんなに甘くも優しくもないんだ。
とにかく子ども達の説得だ。
「どこに生まれてもこういう悩みは変わんねぇんだな」
「とりあえず、ロボだらけの世界はあんまり良いもんじゃなかったぞ。お姉ちゃんちょっとだけ知ってんだ」
「違うとこに行ってもそこがここより良いとこなんて保証はなくってさ、もっと怖いところかもしれないんだぞ?」
と、こんな内容でいいかな。
脅しみたいになっちまうけど、必要なら義体外してこうなっちまうてのを見せるのも子どもには有効かもな。
アドリブ・共演歓迎
●
事件のあらましを聞いたとき、志藤・遙斗(普通の警察官・h01920)も久留・春過(志魄ドライブ適合者・h00263)も苦い顔になっていた。
「何も知らない子供を狙う神隠しですか」
「子どもに幸せとか希望とかチラつかせて誘い込むっていう、その手口が気に食わねぇな」
「良くある話ですが、絶対に阻止しないとですね」
「ああ、絶対に止めるぞ」
そして到着した小学校で、子供達を二人は出迎える。
「こんにちはー」
「こんにちは……」
大人に怯える子供、逆に明るく振る舞う子供。無邪気に異世界に、別の場所に憧れるその影の事情や動機も見える。√汎神解剖機関でもありえるように、√ウォーゾーンにもいたような子供達だった。
「どこに生まれてもこういう悩みは変わんねぇんだな」
「ええ。変わらないからこそ、尽きない悩みですね」
それでも異世界へ、幸せな場所を望む子供達を止めるべきなのは変わりない。その願いは叶わず、怪異に握りこまれて連れされた先には、きっと安寧など存在しないのだから。遙斗と久留は視線を交わし。
それから一歩、久留は前に出る。
(子どもにこんな事言いたくないけど、残念ながら世界はそんなに甘くも優しくもないんだ)
久留自身に、彼女の友人に降り掛かった過去のように。甘く優しい言葉の裏側に、過酷な運命が待つように。
「とりあえず、ロボだらけの世界はあんまり良いもんじゃなかったぞ。お姉ちゃんちょっとだけ知ってんだ」
「そうなの?」
「ああ。怖いロボットが家を襲ってくるし、家族とも離れ離れになっちまう。爆弾や銃がいっぱいあって、怪我する人も多い。ご飯も少ない」
夢見た世界はないのだと、一つの現実を示すべくゆっくり語りかける。子供にもわかるように平易な言葉を選び、そっと片手にもう一方の手を添えて。
「違うとこに行ってもそこがここより良いとこなんて保証はなくってさ、もっと怖いところかもしれないんだぞ? こういう風に、変わっちまうこともある」
義手を外して見せれば、怯える子もいれば逆に目を輝かせる子もいた。
「痛かった?」
「おう。めちゃくちゃ痛かった」
「今は大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ」
「でもかっけー! いいなぁ!」
「良くないけどなぁ」
様々な反応を返す子供達へ、遙斗もしゃがんで目線を合わせる。
「このお姉さんの言ってる事は残念だけど本当ですよ。ここ以外にも怖くて辛い世界があるんです」
そっと考えを促すように、良き大人として手を差し伸べる。この世界は暗く苦しいけれど、今の辛い現実に目を背けたって何も解決師はしない。彼らの環境は悪くなるかもしれないと、慮って言葉を紡ぐ
「別の世界に行ったからって今の辛い現実から逃げたとしても幸せになれるとは限りません。まずは今の現実を受け入れて、そこからどうしたいか考えてみませんか? いつでも相談に乗りますよ?」
「相談……えっとね、寂しいのはやだから、いなくていい子なら別の場所に行ったほうがいいでしょ? 違う?」
けれど返ってきた言葉に眉は下がる。もう今の現実にいっぱいいっぱいで、幸せの望み方も、助けてということもわからない子供達に、遙斗の胸はきしむ。
「もし君達が居なくなったら、俺は寂しいです」
「そうなの?」
「はい」
「私も寂しい。せっかく会えたのに、居なくなるなんていやだな」
「おねーちゃんも? 変なのー」
初めて会うのに、そうなんだ、不思議だ、とびっくりする子供達へ遙斗は偽装式警察手帳を見せた。
「俺も警官です。君達を保護することができます。今の辛いことをちょっとでも、変えることができるから。寂しくないようにお手伝いできます」
「私も、話聞いたりできるし……一緒に遊ぶのもちょっとならできる」
彼らの仲間もいる、だから行かないでくれないか、と引き止める遙斗と春過に。他の仲間達からの説得に
子供達の足は止まって、この世界でのこれからのことを考え始める。
きっと、子供達は素直で幸せな、眩しい笑顔を浮かべられるだろう。遙斗や春過のように、彼らを助けたいと手を差し伸べる人が、たくさんいるのだから。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功
第2章 集団戦 『ヴィジョン・ストーカー』

POW
影の雨
指定地点から半径レベルm内を、威力100分の1の【影の雨】で300回攻撃する。
指定地点から半径レベルm内を、威力100分の1の【影の雨】で300回攻撃する。
SPD
影の接続
半径レベルm内の味方全員に【影】を接続する。接続された味方は、切断されるまで命中率と反応速度が1.5倍になる。
半径レベルm内の味方全員に【影】を接続する。接続された味方は、切断されるまで命中率と反応速度が1.5倍になる。
WIZ
影の記憶
知られざる【影の記憶】が覚醒し、腕力・耐久・速度・器用・隠密・魅力・趣味技能の中から「現在最も必要な能力ひとつ」が2倍になる。
知られざる【影の記憶】が覚醒し、腕力・耐久・速度・器用・隠密・魅力・趣味技能の中から「現在最も必要な能力ひとつ」が2倍になる。
●あざ笑う黒い手の怪異
子供達は納得し、然るべき機関に引き取られ帰っていった。
誰も来ない教室に、くすくすと笑う声がする。
「残念、残念。せっかくテレビから幻想を見せたのに」
「幸せな世界に行けるって惑ってくれたのに」
「辛い現実に戻されてカワイソウ!」
くすくす、黒いテレビが現れて、黒い腕が幾つも生まれてくる。
影のような怪異、ヴィジョン・ストーカーはくすくすと、耳障りな声を出す。
「カワイソウカワイソウ、見たくない現実に引き戻されて!」
「カワイソウに! また苦しむんだよ!」
まるで√能力者が悪いかのように、責め立てるかのようにキィキィ喋っていた。
そんなことは決してない。子供達の道はまだ苦しいかも知れないけれど、彼らは必ず救われると、√能力者達は知っている。
むしろ今は、今後も子供達を惑わしかねないこの怪異を倒さなくてはならないときだと、わかっているのだ。

はっ、アイツらは甘い幻想じゃなく、辛い現実に立ち向かうことを選んだんだ
そんな強さを見せたガキ共を憐れむなんざ、誰が許したって俺が許さねえ
竜漿魔眼で影の雨の隙間を狙う
僅かでいい、多少の手傷は上等、影の雨を突っ切るなんて下策、考えもしねえだろう
辛い現実から逃げたい心を利用する連中なんざにはな
影の雨が止む前に、影という闇に紛れて俺の間合いに入って、卒塔婆で破魔の霊力攻撃をぶっ叩くぜ
暗殺者にして禍祓士の俺の一撃、食らって見な。精々迷わぬよう|幸せな世界《あの世》に送ってやるからよ
苦しむと知って尚、前に踏み出すのが強さなんだよ、畜生が
ああ、いってぇ!(カッコつけつつ緊張解けると被弾を痛がる締まらない感じ
●
くすくすとあざ笑い、憐れみ、責め立てるようなヴィジョン・ストーカーに、爪牙は冷たく紫色の瞳を向ける。浮かぶのは何もわかっていない怪異に対して苛立ちと、確実に倒すという決意だ。
「はっ、アイツらは甘い幻想じゃなく、辛い現実に立ち向かうことを選んだんだ」
泣きながら、もしくは笑いながらも幻想に向かうのをやめて、暗くて辛く、けれどいつかは明るい優しさに変わる現実へ向かうために進んだ子供達を思って、爪牙は影の異形を睨みつける。
「そんな強さを見せたガキ共を憐れむなんざ、誰が許したって俺が許さねえ」
「許さない、許さない! できるかな? できるかなぁ」
ヴィジョン・ストーカーが大きな声で笑いだせば、影より生じた黒い雨が、爪牙に向かって吹きつけてくる。一つ一つは小さな痛みでも、積もれば確実に爪牙の体力や気力を削いでいくだろう。
(今は、耐えろ。多少の手傷は上等)
影の雨の中で爪牙の右眼が燃え上がる。緋と紫を交えた炎が鮮やかに影の中で輝いて、嗤うヴィジョン・ストーカーの姿を見出した。
(見えた)
ほんの僅かな隙、雨を降らして嗤う腕に見出した隙に向かって、爪牙は影の雨の中を一直線に駆けてゆく。いっそう激しく吹き付ける痛みに耐え、右眼の炎を燃え上がらせて真っ直ぐに走る。
(あいつは影の雨を突っ切るなんて下策、考えもしねえだろう。辛い現実から逃げたい心を利用する連中なんざにはな)
弱者をいたぶるような雨の中を一気に抜けて、爪牙はヴィジョン・ストーカーへと接近し。
「暗殺者にして禍祓士の俺の一撃、食らって見な。精々迷わぬよう幸せな世界あの世に送ってやるからよ」
確実に殺し、確実に祓う。握った卒塔婆に霊力込めて、見出した隙へと叩き込めば、腕もテレビもひしゃげて残ったのは怪異の残骸ばかりになる。
「苦しむと知って尚、前に踏み出すのが強さなんだよ、畜生が」
冷静に、そう告げたあと。
「ああ、いってぇ! くっそ全身いてぇ……」
解けた緊張に痛みも強くなり。思わず見をすくめ、涙目になる爪牙だった。
🔵🔵🔴 成功

……確かに、僕たちは酷なことをしたのかもしれませんね。脅かして、辛い現実に引き戻した。
けれど、彼らに決して救いがない訳では無いと思います。少なくとも、ここに来てくれたたくさんの人のおかげで助かる子もいると思いますよ。僕はそう信じます。
さて、耐性は精神的なものと物理的なもの、どちらに対してなんでしょうね。
精神的耐性の方がない方に賭けて、【幸せの花々】を降らせましょう。少しは足止めになるはずです。
●
くすくす嗤うヴィジョン・ストーカーに、翠咲は優しげな緑の目を伏せた。
「……確かに、僕たちは酷なことをしたのかもしれませんね。脅かして、辛い現実に引き戻した」
「ひどい! ひどい! カワイソウ!」
幸せな夢を信じてやってきた子供達に、冷たく辛い現実を突きつけて、彼らに痛みに向き合えと諭した。泣きながら、あるいは笑いながら、子供達は引き戻されて、これから辛いことに向き合うのだろう。
「……けれど、彼らに決して救いがない訳では無いと思います。少なくとも、ここに来てくれたたくさんの人のおかげで助かる子もいると思いますよ。僕はそう信じます」
助けて、と言えるように。幸せをこの世界で望めるように。笑いながら、素直に泣きながら、子供らしい幸福を享受できるようにきっとなると、翠咲は思うのだ。
「そうかな? どうかな? カワイソウな子供達、ひどい大人!」
けれどそんなことはないと、ケタケタと詰るヴィジョン・ストーカーは、ありもしない記憶を呼び起こして己の速度を上げようとした。また子供達を惑わさなくてはならないから。
それより先に、ふわりと花が舞い降りる。
美しい花びらの雨が影の中に降り注ぐ、暗がりの中浮かび上がるようにひらりひらりと舞い降りて、影の中に降り積もる。
「アハハ、幸せ、幸せ! 幸せ、いっぱい!」
花びらを受けたヴィジョン・ストーカーの声が大きくなった。これは失えないと言わんばかりに己から花びらを受け止めて、恍惚とした声を上げて身を苛まれに向かう。
(精神耐性は少なかったようです)
ふわりふわりと花びらを降らせながら、翠咲はほっと息をつく。失い難い幸福を求め、花びらへと自分から向かう影を見つめ、そっと翼を揺らし。
(これで、少しは足止めになるはずです)
子供達を追いかける暇など与えずに、彼らを倒す時間がこれで生まれる。うまくすれば、正気に戻る前に倒せるかもしれない。
翠咲は花を降らし、影の存在を見つめ直す。幸せに浸る彼らの姿を、目をそらさず最後まで見つめていた。
🔵🔵🔴 成功

カワイソウ、か…嘲笑うような、他人事の薄っぺらい憐れみの言葉に腹が立つ。が、怒りに任せれば思うツボだろうな。落ち着け、俺…。
タバコの香りを纏い(【霊的防護】)霊剣を構える。
影が厄介だな。力を借りる、頼んだぞ…。
√能力で速さを上げて、敵の攻撃を【受け流し】ながら接近を試みよう。
【霊力攻撃】の剣撃と√能力の【疾・鎌風】で、影の接続を断っていけば他者のサポートになるだろうか?
多少の攻撃は引き受けられる(【カウンター】【受け流し】【根性】)から、その間に誰か本体を頼んだ…やっちまえ!
●補足
・普段は男性的な丁寧言葉、目上の人には敬語、荒ぶるとヤンキー口調(あぁ?じゃねぇか!等)
・アドリブ、連携歓迎
〆

アドリブ、連携歓迎
君達、児童福祉の論文を……読んだ事はないか、怪異だものな
自由に動き回られては都合が悪い
【神域・雪月花】にて周囲を神の領域に塗り替えて仲間達を強化し、同時にシリングシューターより霊氷弾を射出し敵郡を凍結させる
なるべく多くの怪異を巻き込みたい
併せて、俺自身は「月白」に騎乗し動き回りつつ「オーラ防御」を張ってダメージを受けづらくするよう立ち回りを
さて、話が途中だったな
確かに彼等には辛い現実が待ち受けているかも知れない
親の庇護なく健やかに育つ事は本当に難しいから
……だが、我ら人類はその為に社会制度を整えた
失敗から学び、死者の血で学問を修めた
その重みを知らぬ君達の嘲りこそ、哀れなのだ
●
「カワイソウ、カワイソウ! 辛くて苦しい世界に戻されて、夢を覚まされて!」
くすくすあざ笑うヴィジョン・ストーカーに、ナツメの瞳の紫は色を濃くし、目つきは険しくなる。
(カワイソウ、か……薄っぺらい、他人事の憐れみの言葉。くそ、落ち着け、俺。怒りに任せるな)
子供達も√能力者達も嘲るようなその笑い、その言葉。上っ面で憐れみながら笑いは止めず、挑発しているかのような態度に覚えた怒りのまま、冷静さを失って戦えば相手にいいようにされかねない。
いつもの【14番】のタバコを一つ吸って吐き出して、甘いバニラとタバコの香りを纏って冷静さを取り戻し、ナツメは霊剣を構えた。こいつらを逃してはいけない、ここで倒してしまうべく。
片や澄夜はあざ笑う黒い腕の怪異達をくるりと見回し、そっと清々しい氷色の目を眇めた。
「君達、児童福祉の論文を……読んだ事はないか、怪異だものな」
「読まない、読まない! でも知っている、子供は幸せであるべきだ! 辛い現実から目を背け、幸せな幻想に連れて行かなきゃいけない。だから惑わしてあげなくちゃ」
くすくす笑う怪異は、知っていると言いながら堂々と間違いを口にする。無論、澄夜も話が通じることなどないとわかっていた。決して相容れることはない相手に澄夜は目を閉じて、影から月白を呼び出した。
「アハハ、カワイソウカワイソウ!」
笑うヴィジョン・ストーカーはありもしない記憶を呼び覚まし、その速度を強化した。早送りのように言葉も動きも速くなり、ケタケタ笑う様も耳障りさが増していく。
ぐんと伸びた腕が澄夜に届く前、ナツメが前に出た。ふわりと風がその身を覆って力を貸していく。
「力を借りる、頼んだぞ……」
清らな風が影を切り裂く。はぐれ鎌鼬「蒼」を纏ったナツメは腕の攻撃を受け流し、速度を上げた腕を切り裂いていく。協力して飛び込んでこようとする影の異形を受け流し、カウンターで剣を叩き込んでその数を減らしていった。
「繋がって繋ガッテ、すべて飲み込もう!」
とぷりと影が溶けて混ざる。ヴィジョン・ストーカー同士が溶け合って、大きくその身を膨らませた。互いに影を繋ぎ合い、目の前の獲物も飲み込んでしまえとケタケタ笑い出す。
「姓より欠けたる神、蝋梅に微睡む貴方様を乞い願う」
澄夜が祝詞と共に、膨らんだ影へと神狐の氷弾を撃ちだした。コォン、と清浄な鳴き声が響くと同時、着氷した氷が繋がったヴィジョン・ストーカーの下部を氷漬けにする。同時に氷の領域一体に蠟梅の香りが仄かに漂い、ナツメの、澄夜の力を強めていく。
ひらりと月白に騎乗し、伸びてくる腕をひきつけて、澄夜は口を開く。
「さて、話が途中だったな」
動けぬように、と一部を凍らされたヴィジョン・ストーカーを澄夜は冷たく見据えた。
「確かに彼等には辛い現実が待ち受けているかも知れない。親の庇護なく健やかに育つ事は本当に難しいから」
年を重ねた知恵もなく、それによって得る権利もない。親の愛という本来何不自由なく享受できるものも得られずに、他人との生活を強いられる。生きることはできるだろう、けれど愛情という必要不可欠な栄養素は十二分には与えられないだろう。
「……だが、我ら人類はその為に社会制度を整えた。失敗から学び、死者の血で学問を修めた。その重みを知らぬ君達の嘲りこそ、哀れなのだ」
それでも子供が、身体が健やかに、傷ついた心が少しでも癒やされるように、人々は学んで思いやって、悲しみをすくい上げてきたのだ。
ひらりと月白が影の間を駆けてゆき、腕が空振り影がたわむ。風纏ったナツメが、動きの鈍った影をざくりと霊剣で切り裂いていく。すれ違う合間に、ナツメは澄夜へと声をかけた。
「本体を頼んだ。……やっちまえ!」
「承った」
頷く澄夜に頷き返し、一気に飛び込んだナツメが影の中を切り開く。風を纏い、剣を閃かせ、自身を止めようと脚や体に伸びた腕から伝わる痛みをこらえて切り捨て、繋がった影を霊剣で断つ。
それでもケラケラ笑うヴィジョン・ストーカーだが、切り裂かれ続ければ繋がった影の向こう、その本体もはっきり見えてくる。
月白の背に乗った澄夜は確実に狙いを定め、シリンジシューターから霊氷弾を撃ちだした。
吸い込まれるように怪異の本体に当たった弾が、きんと貫き抜けてゆく。ぽっかり空いた穴からヴィジョン・ストーカーは凍りつき、声もなく砕けて散っていった。
🔵🔵🔵🔵🔴🔴 成功

★ 独白はラフ/共闘時は相手の年齢性別問わず砕け敬語、苗字+さん
★志藤さん、静寂さんとは同旅団なので顔見知りです
(◆耳障りな声に耳を貸さないよう、塞ぎつつ)
子どもたちをちゃんと助けられてよかった、けど……影って、換金できる素材残るのかな……?
「たこすけ、やっちゃって」
テレビから遠い位置から『蛸神大暴れ』で広範囲に連続攻撃をしかけてみよう、かな。
相手が文字通り『手数』なら、こっちも……当たらなくても、牽制にはなるハズ。
他の人が危なくなったら、たこすけの触腕で庇ってもらおう。……みんな強そうだし、その必要はないかもだけど。
……なんでもいいから、解剖機関に買い取ってもらえるものが残りますように。

アドリブ・連携歓迎
(子供達が居た時は吸わなかった煙草を吸って)
あぁ、随分とやかましい奴らだ。
そんなお前達があの子供達を惑わせた。
ありもしないものへの期待を抱かせた。
現実は厳しい。だがお前らがもたらす『世界』とやらには何がある?
何もナイかそれ以上の苦しみなんじゃないか?
俺は大人として出来ることはするし彼らが助けを求めるのならこれからも助けてやるつもりだ。
もう嘘の別世界などいらない。
居合からの√能力『秘花』
紫煙に隠れながらの攻撃。
●
くすくすと耳障りな嘲る声に貸す耳はない。聞いても意味のない言葉など聞く必要もない。真人はそっと耳を塞ぎ、じっと深海のい黒の目で、影の怪異を観察する。
(子どもたちをちゃんと助けられてよかった、けど……影って、換金できる素材残るのかな……?)
生きるためにもこの世界のエネルギーのためにも、怪異の素材は大切だ。
影のようなテレビとそこから生えた腕の怪異にも、利用できる器官はあるだろうか。影だけで構成された存在ならば、押しつぶして退治してしまえば何も残らず消えてしまいそうな気もするがどうなのだろう。テレビの部品のような肉体は残るだろうか。腕だけでも留まるだろうか。残らなかったらどうしようか、このあとの怪異が稼げるものであることを祈るべきだろうか。耳を塞ぎながらも、ヴィジョン・ストーカーを見つめる真人の悩みは尽きない。
恭兵は子供がいた時には吸わなかった煙草に火をつけた。青い目を細めて緩やかに紫煙をくゆらせる煙草を吸って、吐き出して煙を纏い、静かに口を開く。
「あぁ、随分とやかましい奴らだ」
「やかましい? やかましい、それはそう。惑わすなら言葉を尽くさなきゃ、大きな声で伝えなきゃ!」
くすくす笑う声を大きくするヴィジョン・ストーカーに恭兵は眉を寄せる。惑わすと堂々と言い切る影の怪異をじっと睨めつけた。
「そんなお前達があの子供達を惑わせた。ありもしないものへの期待を抱かせた」
「辛いよりはいいじゃない? でしょう?」
「いいや。辛くともこの世界は捨てたもんじゃない。確かに現実は厳しい。だがお前らがもたらす『世界』とやらには何がある?」
怪異の齎す未来など、それこそろくなもんじゃない。子供達にも大人にも、何一つ幸せなどありえはしない。
「なぁ、何もナイかそれ以上の苦しみなんじゃないか?」
「どうだろうね? そうかも? そうかも!」
否定せず、肯定のような言葉を呟いて、ケタケタと大きく声を上げて笑い出すヴィジョン・ストーカーは、その速度を上げようとした。ぐっと腕を握りしめ、増やした速度で襲いかかろうとしてくる。
「……たこすけ、やっちゃって」
その光景を前に、悩み終えた真人が『たこすけ』に小さく願う。途端、ずるりじゅるりと粘液まとうような蛸神の巨腕が真人の背後より現れた。テレビから生えた腕達から遠い場所よりはいよって、一気に上へと振り上げ、届く範囲を薙ぎ払う。
(相手が文字通り『手数』なら、こっちも……当たらなくても、牽制にはなるハズ。他の人の助けにも、なるだろうし。……みんな強そうだし、その必要はないかもだけど)
真人は他の人が危なくなったら、たこすけの触腕で庇ってもらうことも考えながら、大きな巨腕の動き振り回されるのに耐えていた。
蛸神の巨大な腕はべだん、びたん、と好き勝手に動き回る。真人の背から届く範囲を思う存分薙ぎ払い、触れたヴィジョン・ストーカーを押し流し、ケラケラ笑う影も、真人と恭兵に迫ろうとした個体もべちりと押しつぶしていく。
「っ、と、と……なんでもいいから、解剖機関に買い取ってもらえるものが残りますように」
背から伸びたたこすけに思いっきり暴れられた真人はたまったものではなく、ぐらぐら振り回されてはいたが、どこか冷静に残骸が残るかを見据えつつ、ふんばって耐えている。帰りを待つ兄のため、倒れてなどいられない。
「ダメダメ、速くいかなきゃ。追いかけて飲み込んで連れてきてあげなきゃ!」
ヴィジョン・ストーカーは散らされながらも影を繋げ、目の前の障害を排除するつもりだ。そして子供達を連れてくるつもりだった。
けれど、それは叶わない。
「俺は大人として出来ることはするし、彼らが助けを求めるのならこれからも助けてやるつもりだ」
助けてと言う方法を知らなかった子供達。手を差し伸べてやれるなら、その手を取ってくれるなら。恭兵はそれに応えたい。
煙草の香りを纏った恭兵は、繋がった影達を見据える。鞘に納めた宝刀・曼荼羅の柄をしっかと握り、程よく力を入れ。
「もう嘘の別世界などいらない」
とんと地面を軽く蹴り、手を伸ばした影の上を取る。紫煙を纏い、身を隠しながら、曼荼羅を滑らせ振りぬいた。
黒い影を紫煙が払う。残ったのは、繋がった影ごと本体まで切り払われ、崩れゆく怪異の残骸だった。
🔵🔵🔵🔵🔴🔴 成功

【美永久家別邸】で参加【共闘・アドリブ歓迎】
「子供たちは無事に避難したようですし、ここからが本来の仕事ですね。」
「久留さん、サポートします全力突っ込んでください!」
戦闘時
刀と銃を使い分けて通常攻撃を行う。
距離に合わせた武器を使用します。
久留さんや他の人が攻撃する時や、敵の攻撃に合わせて
√能力「威嚇射撃」を使用する。
戦闘後
「お疲れ様です。この流れで親玉をとっとと倒して、屋敷に戻りましょう。」

【美永久家別邸】
お前らに任せて問題が解決すんなら私たちだって余計な事しないんだよ。
それにあの子たちは辛い現実と戦う為に戻ったんだ。
未来を潰す為のお前らと一緒にすんな。
わざわざ|閉鎖空間《教室》で待ち構えてたのがお前らの運の尽きだな。
夜の暗がりに紛れて影が奇襲って算段かもしれねぇけど生憎アイウェアで【暗視】持ちだ。
襲われる前に【クイックドロウ】の志魄ドライブ『魄光』で撃ち抜く。
一応狙うが外れても構わねぇ。
教室内なら間違いなく着弾地点から攻撃範囲の圏内だ。
周りの味方への支援にもなるしな。
志藤、フォロー頼んだ!
アドリブ・共闘歓迎
●
くすくすあざ笑う影の怪異を前に、遙斗と春過は警戒を強めるばかり。
「子供たちは無事に避難したようですし、ここからが本来の仕事ですね」
「ああ。さっさと怪異は倒してしまおう」
「倒す? 倒す? 何で? 幸せになれない子を救おうとしただけなのに」
くすくす、笑う声は大きくなる。二人を苛むように、責める資格があるのか問うように。
そんな怪異に遙斗は刀を抜き、春過は眉をひそめ志魄ドライブを構えながら、ヴィジョン・ストーカーをしっかり見据えて口を開く。
「お前らに任せて問題が解決すんなら私たちだって余計な事しないんだよ。でも何も解決しないだろう?」
「解決しなくてもいい、幸せならいいじゃない!」
解決する気もない怪異達はくすくす笑っているばかり。けれどそれが子供達のため、彼らの環境のため、世界のためになるかと言えば、否、と答えるのみだ。
それにあの子供達は、また辛い目に合い続けるために戻ったのではない。苦しいままで生きていたいわけでもないのだ。
「あの子たちは辛い現実と戦う為に戻ったんだ。ちゃんと先を見て、どうしたいかを選ぶんだ。未来を潰す為のお前らと一緒にすんな」
「どうして、どうして? 幸せならいいじゃない!」
影色の怪異達はケタケタ笑いだし、互いの影を繋ぎ始めた。ぞろりと繋がり膨らんで、遙斗も春過も飲み込もうと迫ってくる。
「一緒、一緒、幸せに惑って辛いことから目をそらして! ぎゅっと握られて、一緒に惑えばいい!」
ケタケタ耳障りな笑い声を響かせながら。
遙斗は迫る影を小竜月詠で切り払い、特式拳銃【八咫烏】で撃って牽制する。きんと刃が奔る度、銃弾を穿つ度、ヴィジョン・ストーカーの勢いは一時削がれるけれど再び膨れて迫ってくる。それは春過の方にも同様に押し寄せていた。
この状況を早急に納めるべく、遙斗は刀を一度納め、春過へと声をかける。
「久留さん、サポートします。防御は任せて、全力で突っ込んでください!」
「おう。志藤、フォロー頼んだ!」
遙斗の声に春過は応じ、真っ直ぐに影へと向き直る。迫る影から目をそらさず、避ける素振りも防ぐ素振りも見せずに志魄ドライブの先を向けた。その動きは見えている、このままでは飲み込まれる。
けれど、そうならないことを春過は知っている。
「一緒いっしょ、幸せにひたろう! 覚めない夢を見ていよう!」
ぞぶりと春過を飲み込もうとする影を、遙斗はしっかり黒いその目で見据え、あらかじめ決めた言葉を叫ぶ。
「動くな! 次は当てるぞ!」
途端、ヴィジョン・ストーカーの動きが止まる。膨れ上がった影がしぼみ、元の形に収束する。繋がった影はそのままで、遙斗が目を閉じるまで動き出すことは叶わない。
長くは持たないだろう。けれどそれだけの間があれば、春過には十分だ。
「わざわざ|閉鎖空間《教室》で待ち構えてたのがお前らの運の尽きだな」
影の暗がりでも見逃しはしない、影に隠れても逃すはずがない。この狭い空間ならば、当てても外しても√能力者の有利になる。
冷静に判断しつつ、暗い暗いその先を紫の瞳で見分け、春過は集めたイーサリオンエネルギーを撃ちだした。
「穿て──魄光!」
影を切り裂く魄光が真っ直ぐにヴィジョン・ストーカー目掛けて飛んでいく。
当たらなくとも教室の中なら支援の範囲内だ、遙斗や仲間の力になる。そう思って撃ちだしたエネルギーの弾は影を貫いていった。
撃ち抜かれた怪異の本体は穴を開け、そこからほろほろと怪異の体が崩れていく。影が溶けて消えるように、耳障りな声ももう聞こえない。
ぱちりと目を閉じ√能力を止めた遙斗は、春過のそばに駆け寄った。
「お疲れ様です」
「お疲れさん。フォローありがとうな」
「いえ。この流れで親玉をとっとと倒して、屋敷に戻りましょう」
「ああ。さっさと帰って、茶でも飲もう」
暗い暗い影など払いのけ、温かく明るいいつもの場所へと帰るのだ。平穏な、いつもの日常へと。
🔵🔵🔵🔵🔴🔴 成功

子供達の件、僕の考えとは違いますね
子供達は、どうしたら失敗するかを学び、良い経験をしたのです
いずれ、次の成功に繋げて、更なる学びを経て自らの力で幸せを手に入れるでしょう
失敗を人のせいにするアナタと違ってね
人化けの術を解除して大蟹の姿で戦闘開始
獣妖外皮、龍王之護、鉄壁で防御を強化
影の雨をルートブレイカーで無効化
影の手は切断力を上げた蟹鋏で切り落とし、呪詛で再生を妨害
本体と思われるテレビに近づいて、蟹鋏の重量攻撃で叩き潰します
●
「カワイソウ、カワイソウ! 幸せにひたれなくて! 苦しみに戻らされて、辛い目に合うんだ!」
くすくすあざ笑う影の怪異を前に、ガザミはゆっくり首を振る。決してそんなことはないと、ガザミも知っている。
「子供達の件、僕の考えとは違いますね」
たとえまた苦しむとしても、それは永遠ではない。偽りの幸せに浸るより、いつか手に入れる本当の幸いのために彼らは歩みを進めるのだ。
「子供達は、どうしたら失敗するかを学び、良い経験をしたのです。いずれ、次の成功に繋げて、更なる学びを経て自らの力で幸せを手に入れるでしょう」
「そうかな? どうかな? 不幸なままかもしれない」
くすくす笑ってヴィジョン・ストーカーはガザミに向けて雨を降らせてくる。暗い暗い影の雨、受ければ重く沈む痛みを与える、避けづらい雨だ。
「ええ、彼らは自分の手で、誰かに助けられて、ちゃんと幸せになりますよ。失敗を人のせいにするアナタと違ってね」
ガザミの人の姿は揺らぎ、新たに現れたのは大きな蟹の妖の姿。青に白い星の甲羅を黒龍の憑依で覆い、鉄壁の防御で、たとえ影の雨を受けても、影の手に殴られようと耐えれるようにして、右の鋏を振り上げた。
右鋏の内側に雨が触れた途端、雨は降るのを止める。無効化された影の雨は瞬時に消え失せて、ケラケラ笑う怪異が残るのみ。
「でも苦しいのはきっといやだ。だから幸せに惑わせてあげなくちゃ! もう一度誘いにいかなくちゃ!」
子供達を惑わす怪異を放って置くこともない。ガザミは蟹鋏を豪快に振るい、すぱりと蠢く幾つもの腕を切り落とす。再び腕が生じぬよう、呪詛をまぶして切り落としていった。
残った本体だろうテレビの部分に近づいて、ガザミは大きな鋏を振り上げる。重力に引かれるままに重量のある鋏を振り下ろし、未だにケラケラ笑っているヴィジョン・ストーカーを叩き潰した。
ぐしゃりと画面も筐体も歪んで潰されて、怪異はほろりほろりと崩れていく。耳障りな笑い声も言葉も消えて、教室には静寂が戻ってきていた。
🔵🔵🔴 成功
第3章 ボス戦 『神隠し』

POW
攫う『かみのて』
【虚空より生える無数の『かみのて』】を用いた通常攻撃が、2回攻撃かつ範囲攻撃(半径レベルm内の敵全てを攻撃)になる。
【虚空より生える無数の『かみのて』】を用いた通常攻撃が、2回攻撃かつ範囲攻撃(半径レベルm内の敵全てを攻撃)になる。
SPD
増殖する『かみのて』
自身の【かみのて】がA、【かみのうで】がB、【かみのかいな】がC増加し、それぞれ捕食力、貫通力、蹂躙力が増加する。ABCの合計は自分のレベルに等しい。
自身の【かみのて】がA、【かみのうで】がB、【かみのかいな】がC増加し、それぞれ捕食力、貫通力、蹂躙力が増加する。ABCの合計は自分のレベルに等しい。
WIZ
荒ぶる『かみのて』
【虚空より生える『かみのて』】により、視界内の敵1体を「周辺にある最も殺傷力の高い物体」で攻撃し、ダメージと状態異常【掴む腕】(18日間回避率低下/効果累積)を与える。
【虚空より生える『かみのて』】により、視界内の敵1体を「周辺にある最も殺傷力の高い物体」で攻撃し、ダメージと状態異常【掴む腕】(18日間回避率低下/効果累積)を与える。
●ゆきましょう、ゆきましょう
教室に影が一つ現れた。
「ゆきましょう」
涼やかな少女の声で怪異は|誘《いざな》う。
「ゆきましょう」
たおやかな手が差し伸べられた。
「幸せな場所にゆきましょう」
数多くの『かみのて』と共に、差し伸べられた。
巫女に戦う力はない。ただ幸せな場所に導くだけだ。かつての誰かが、そうしてもらったように。
手を伸ばして、すくい上げて。悲しみが少しでも、減るように。
『かみのて』も伸ばされる。

アドリブ・連携歓迎
まるで疑似餌の様だな。
『かみのて』と巫女装束の少女をみやり。
結局のところあの無数の手が本体の様な物なのだろうとは思う。
しかし、少女然とした姿は少々堪えるな。
だが、ここで自分が惑わされる訳にはいかない。
インビジブル制御でしっかりと死霊を制御し
拳銃を向けて狙いを定める
√能力『花嵐連撃』
少しばかりの祈りの様なものを込めてしまうのはあの少女の見かけのせいだ

アドリブその他諸々歓迎
……ケホ。暴走する神様なんざ、反吐が出る。って奴ですわ。
悪いけど倒させていただきますわ。
……式神達よろしゅうね。【月御霊・式神戦】。
式神達突撃させて攻撃するわ。範囲攻撃何するものぞ。問題はないでって事で。
こっちの弾も数はおるんでな。数対数や。どっちが勝つかの根競べやで。神様。
勿論勝つのはこっちやけどな。

…人の姿の怪異はやりにくい。
けれど、怪異だ。やるしかない。
「こんな世界でも、望むなら」
√能力を展開し、仲間と教室の回復を行いながら戦う。
霊剣による【受け流し】と【カウンター】を主に、仲間へ向かう攻撃の数を減らせるよう試みる。
木片ガラス片のような殺傷力の高いものとならぬよう、壊されたものを能力で元に戻しながら…
怪異のいう幸せが、人の幸せであるはずがない、だが…この巫女にとっての幸せとは、何だったんだろうな
最終的に、空き教室が元通りになればいいが。
こういう場所は、悪ガキ共の秘密のたまり場くらいが丁度いい。
●補足
・普段は男性的な言葉、目上の人には敬語、荒ぶるとヤンキー口調
・アドリブ、連携歓迎
〆
●
揺らめく無数の『かみのて』と、その真ん中に淑やかに佇む巫女の少女を見て、恭兵は一つ、息をこぼす。
(まるで疑似餌の様だな)
仲間だと思わせる、獲物だと思わせる、偽物の餌。油断を誘い、警戒を緩め、その手を取らせるための飾りであり、装置であると、巫女の少女を見て感じたのだ。
彼女の感情はとても希薄で、ただ命じられたことに忠実で、かすかに辛くて寂しいものをすくいたい、という情を感じるような、気もしなくはない。
けれど、それは錯覚なのかもしれない。
(結局のところあの無数の手が本体の様な物なのだろう)
それでもたおやかに手を差し伸べて、どこか祈るような瞳で見てくるのだ。
「ゆきましょう?」
それが幸せなのだ、と疑わない、その目で。
顔色は少々悪くとも、意気込みは悪くない朔月・彩陽(月の一族の統領・h00243)は『かみのて』を見て、少し咳き込んでから呟く。
「……ケホ。暴走する神様なんざ、反吐が出る。って奴ですわ。人にはそんな存在は害になる。必要ないんよ」
祀られて求められて初めて手を伸ばすのが人の望む神である。神の思いつくまま望むまま、人の望まぬことをするならば、神でなくなることすらありえるのだ。今目の前にいる怪異のように。
朔月の御霊の式神を呼び出し、彩陽はその手を力なき人達に届かないよう払いのけるのだ。
(……人の姿の怪異はやりにくい)
ナツメは苦々しい顔をそのままに、『神隠し』を睨んだ。
いくら後ろに異形があるとはいえ、人の形をしている部分があるというだけで、心理的なハードルはぐんと上がる。けれどそれで惑っていられはしない。
(けれど、怪異だ。やるしかない)
ナツメも霊剣を手に立ち向かう。
「ゆきましょう?」
巫女はふわり、どこまでも虚ろで澄んだ笑みのまま手を差し伸べた。
合わせるように虚空より生えた無数の『かみのて』が周囲を薙ぎ払う。すべてを握りこむように、手の届く限りどこまでも、いくらでも。何もかも握り、抱え、捉えて、離さないように。
「花嵐……」
恭兵は死霊の制御を改めて確認したあと、拳銃の狙いを正しく定めた。そして無数の腕が届く前に、的確に撃ち込んで牽制する。僅かに怯んだ『かみのて』に数珠をぐるりと繋ぎ動きを封じた。
怪異の中心、どこか悲しげにすら見える笑みを浮かべ、手を差し伸べる少女を見つめながら、恭兵は僅かな心の動きを自覚する。
(少女然とした姿は少々堪えるな)
異形であっても何か意味があるのか、それとも己の大事な花を僅かにでも思い起こさせるからか。
(だが、ここで自分が惑わされる訳にはいかない)
大切な花を守るため、この世界を守るため。制御下に置いた死霊に命じ、『かみのて』を、少女を押しつぶす。
(少しばかりの祈りの様なものを込めてしまうのは、あの少女の見かけのせいだ)
どうか安らかに、苦しまずに、と。
彩陽は迫る腕を赤茶色の眼で見つめ、呼び出していた式神を放つ。
「悪いけど倒させていただきますわ。……式神達よろしゅうね」
無数に伸びてくる『かみのて』を牽制するように式神が行く。真正面から突撃して払い除け、横から当たって軌道を変え、上から下から攻撃して『かみのて』を払っていく。範囲攻撃何するものぞ、縦横無尽に突撃していく式神で押していく。
「こっちの弾も数はおるんでな。数対数や。どっちが勝つかの根競べやで。神様」
いくらでも生まれる『かみのて』と式神の突撃の拮抗はすぐに崩れ、彩陽が呼び出し続ける式神達が押していく。無数の『かみのて』に負けないほどに数を呼び、その度突撃して『かみのて』を払い除けていく。
「勿論勝つのはこっちやけどな」
彩陽に『かみのて』が届くことなく、その青い髪の一本も損なうことなく。伸ばされた手は式神に払い除けられ消えていく。
『かみのて』が暴れるとともに壊した教室は、時間を逆戻しするように治っていく。
「こんな世界でも、望むなら」
望むなら、手を差し伸べる。この世界のありのままに生かしてやる。いつか見たあの青空を見て、笑ったあの日の心のままに。
ナツメから広がる力が世界に届く。この教室と仲間の傷を癒やし、生きたいという気持ちを増幅させる。無機物の教室の、子供達を迎えたい、見守りたいという「生きたい」が壊れた部分を直していく。
自身に迫る『かみのて』は霊剣で受け流し、ときには前に出て仲間に向かう前の腕をカウンターで切り払う。
壊れた机や割れた窓が、鋭い木片や割れた鉄、切れ味のいいガラス片にならないようにもとに戻しながら。
合間に、巫女を見る。
(怪異のいう幸せが、人の幸せであるはずがない、だが……この巫女にとっての幸せとは、何だったんだろうな)
この巫女がどんな経緯で『かみのて』の巫女となったのか。どんな思いで人に手をさし伸べて『かみのて』に救わせるのか。明確にはわからない。
理由はわからなくても、その手を届かせるわけにはいかないのだ。
この教室が元に戻るよう祈りながら、ナツメは腕をまた切り払う。
(こういう場所は、悪ガキ共の秘密のたまり場くらいが丁度いい)
放課後に少しだけわくわくしながら覗くような。こっそり入って、いつもと違う景色に目を輝かせるような。先生に見つかって、怒られながら友達と笑いあうような。
そんな、小さな楽しみを得られるくらいの場所でいい。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴 成功

さっきのやつよりも、手がいっぱいだ……応戦するには8本じゃ足りない、かも。
だから、手を増やす。手は手でも、搦め手ってやつ……。
兄ちゃんからもらったお守りを握って、祈る——……来て、『蛸神様』。
かみさま同士、仲良く融合してもらおう。これで、いくら手がいっぱいでも思うように動けない……ハズ。
向かってくる手は、たこすけに弾いてもらって……捕まらないように下がってよう。
——捕まったら、どこかに連れていかれちゃうのかな。
にしても、見た目がヒトみたいなのが、すごく……やりづらい。売れる素材は欲しいけど……アレを解体は、ちょっと……無理、かも……。
そもそも、何も残さずに消えそう、だし……も、儲からない……!
●
巫女の少女の後ろから現れた無数の数の手に、真人はううん、と少し唸る。
「さっきのやつよりも、手がいっぱいだ……」
『たこすけ』の腕は大きく太いが、数は八本。幾つも見えるその腕に対しては、数が足りていないかもしれない。
(だから、手を増やす。手は手でも、搦め手ってやつ……)
ぎゅっと胸元の兄が作ってくれた折り紙のお守りを握って真人祈る。
「……来て、『蛸神様』」
ぶわりと教室に海の気配が溢れだす。ぐちゅりぐちゃりぬめる音、磯の香り、うねる触腕。いとし子の祈りに応えて現れる海より来る神、『蛸神様』。
いくつもの分け御霊と共に現れて、無数の腕と重ねっていく。
(これで、いくら手がいっぱいでも思うように動けない……ハズ)
なぎ払い、掴み、抱き、巻き込む腕の暴れっぷりがゆっくりと動きを遅くしていった。かみさま同士、仲良くして融け合ってしまえばいい。
それでも『かみのて』は真人に手を伸ばす。動きを遅くしたそれは、簡単に『たこすけ』に払われて消えていく。真人はそっと下がって腕の届く範囲から遠ざかった。
(——捕まったら、どこかに連れていかれちゃうのかな。かみさまのいる場所、かな……)
『かみのて』の場所、あの巫女がいつもいる場所。そこは幸せなのだというけれど、どんな場所だろうか。自身に憑いている『たこすけ』は、どんな場所にいるのだろうか。
ゆっくり動きを止めて消滅していく『かみのて』を見て、真人は思考を切り替える。『かみのて』が消滅して残るは巫女の少女だけになってしまったら。
(見た目がヒトみたいなのが、すごく……やりづらい。売れる素材は欲しいけど……アレを解体は、ちょっと……無理、かも……)
さぁっと真人の血色の悪い顔からさらに血が引く。
(そもそも、何も残さずに消えそう、だし……も、儲からない……!)
消えゆく『かみのて』と同様、真人の生活費の明日も消えていきそうな事実に、くらりと気が遠くなるようだった。
🔵🔵🔴 成功

これが、神隠し……巫女は神の使い、と言ったところなのでしょうか。……なんだか、装置的にも見えますね。ただ人を招くだけの……(巫女にどこか憐れみの念を抱く災厄)
【涅槃の花】、召喚します。無数の手の攻撃に対して、こちらも広範囲に向けて浄化の光を向けましょう。(【範囲攻撃】使用)
僕自身も加勢を。破壊の炎で【焼却】攻撃を仕掛けましょう。幻の炎なのだから、校舎には燃え移ることはないでしょうね。
すみません。僕もきっと、あなたと同じようなものかもしれないけれど……人々のために、その導きを、否定します……
●
「これが、神隠し……」
人に手を差し伸べ、招き、掴んで連れて行ってしまう怪異。もしかしたら、いくつも伝わる神隠しの中にはこの怪異の手が連れ去ったものもあったのかもしれない。
穏やかに、虚ろに笑う巫女の少女の向こう側、無数の『かみのて』が手招いている。あなたもこちらにおいでなさい、と誘ってくる。
「巫女は神の使い、と言ったところなのでしょうか。……なんだか、装置的にも見えますね。ただ人を招くだけの……」
巫女に感情の起伏はさほど感じられず、ただ何かをなぞるように繰り返される言葉、動作に人らしさを見いだせず。詳細などわかるはずはないけれど、幸せを与える人間災厄はどこか憐れみすら抱いて巫女を見ていた。
「ゆきましょう?」
そんな巫女の手が、『かみのて』が差し伸べられる。無数に現れた手は辺りを掴み、抱き、捉えて離そうとしない。ただがむしゃらに手を伸ばして、伸ばして、伸ばして。
その手は翠咲にも向けられた。いくつもの手が現れて翠咲へと伸ばして、掴もうとしてくる。幸せな場所へと共にゆこうと、伸びてくる。
「どうか幸福のままに、終わらせてあげてね……」
その手が届く前に、美しい花が降った。涅槃より呼び出された花は『かみのて』にふわりと降り注ぎ、吸い込まれるように消えていった。ゆっくりと『かみのて』の動きが鈍くなっていく。このまま待てば腕は消えていくだろう。
「すみません」
それを後押しするように、翠咲は破壊の炎を広げていく。全てを燃やし尽くす幻の炎は、意図した通り怪異だけを燃やしていった。
燃える『神隠し』を見つめながら、緑の瞳は陰りを見せる。
「僕もきっと、あなたと同じようなものかもしれないけれど……」
人を思い、幸せを与え、その在り方を脅威だと見なされた心優しい災厄は憂いを浮かべながらも。
「人々のために、その導きを、否定します……」
目の前の幸せへと連れ去ろうとする異形を否定した。
🔵🔵🔴 成功

アドリブ、連携歓迎
……巫女殿、貴殿と俺は似ているのだろう
唯一の違いは憑いたモノが神か否かであっただけでな
手数で攻めてくるならば此方は柔軟性で対応
「零式・悪行罰示」を起動
視認が条件ならば目を潰そう
江戸の奇談・梅翁随筆に語られし妖、野衾
其は目を覆い、血を啜る悪しきモノ
嘗て捉えたその妖を詠唱を続け、幾柱も呼び出して視界と血を奪う
併せて使役する『天音』の焔で焼却し、『月代』の爪牙で影も娘も散らすのみ
攻撃された際は「幻影使い」の虚像での撹乱や「オーラ防御」で軽減を
自身より強きモノに魅入られた者は正気ではいられない、貴殿も俺も
覆った盆の水が戻らぬ様に、決して元通りにはならない
故に、せめてもの慈悲を与えよう
●
ゆらり、ゆらりとたおやかに細い手をさし伸べて招く巫女に、澄夜は氷の瞳に憂いを乗せた。
「……巫女殿、貴殿と俺は似ているのだろう。唯一の違いは憑いたモノが神か否かであっただけでな」
『かみのて』が真に神かはわからない。けれど確かなことは、『かみのて』は人に、生に寄り添うモノではなかったということだ。
「ゆきましょう」
巫女が手招くと共に『かみのて』が荒れ狂う。辺り一帯のものを無造作に掴んで、澄夜目掛けて投げつけてきた。共に連れてゆく、ゆかぬならば一度潰してでも連れて行く、と。
「思考統制シークエンス解凍、降霊座標位置固定」
けれど机や椅子が投げつけられた先は、氷に写った幻影だった。
「機構式神術「悪行罰示」を開始」
澄夜が呼び起こすのは野衾、江戸の奇談・梅翁随筆に語られし妖だ。ムササビのような、あるいはコウモリのような姿で空をゆき、目を塞ぎ、血を啜る悪しきモノ。
かつて捉えた妖を機構霊術に組み込んで制御し、三秒ごとに呼び出した。野衾は巫女の目を覆い、その血を啜って力を奪う。『かみのて』は煩わしげに取り付いた野衾を、新たに迫る個体を払う動きに変わる。
巫女は取り付かれようと噛まれようと、ただ静かに笑みを浮かべ、手招くだけだ。
「天音、月白」
追い打ちをかけるため、澄夜は従機妖「天音」と従霊狐「月白」も呼び出した。天音の焔で『かみのて』を焼き払い、月白の爪牙が腕も娘も引き裂いていく。
「ゆきましょう」
赤に濡れながらも巫女は、ただ手招いていた。
「自身より強きモノに魅入られた者は正気ではいられない、貴殿も俺も。覆った盆の水が戻らぬ様に、決して元通りにはならない」
かつてただの人であった、何も知らなかった頃には戻れない。今と昔、どちらが幸せかなど比べることもできないが、知ったが故の不幸はあるのだ。
「故に、せめてもの慈悲を与えよう」
もう手招かずに済むように、ゆっくりと眠りにつけるように。
🔵🔵🔵 大成功

はっ、これが『かみのて』に導かれた末路ってわけか
生憎と巫女よりシスターが馴染みでな、改宗勧誘はお断りだぜ!
ハチェットと卒塔婆二刀流、2回攻撃を捌きながら無数の手を斬り、霊力を叩き込む
ったく、千手観音じゃあるまいに、文字通り手数だけは多いな!(軽口で悪態つき
禍祓大しばきで載霊無法地帯を展開
幸せな場所なんてのはな、ハナからねぇんだよ
あるように見えるなら、そいつは誰かの献身や犠牲で成り立ってる
俺達に出来るのは幸せであろうと努力することだけだ
強引に手を引こうとした時点で導きじゃねぇ
何が幸せかは俺が決める、断じてテメェなんかじゃねぇ!(霊力と破魔の一撃を叩き込む
俺は憐れまねぇぜ
ただ安らぎあれと祈るだけだ
●
人としての意思はほぼ感じられず、『かみのて』に囲われた巫女を見て爪牙は乾いた声を上げる。
「はっ、これが『かみのて』に導かれた末路ってわけか」
穏やかに、虚ろに微笑んで、優しげに手をさし伸べて手招く巫女は何も答えない。
「生憎と巫女よりシスターが馴染みでな、改宗勧誘はお断りだぜ!」
爪牙はそう言い捨てて、ハチェットと卒塔婆の二刀流で飛び出した。
「ゆきましょう」
静かに誘う巫女の言葉と共に、無数の『かみのて』伸ばされる。掴み、抱き、捉えて、連れて行くために爪牙へと伸びてくる。
ハチェットで払い除け、卒都婆で叩き落とし、霊力を思いっきりぶつけ、爪牙は『かみのて』の攻撃をいなした。
「ったく、千手観音じゃあるまいに、文字通り手数だけは多いな!」
どこまでも静かに微笑んで手招く巫女と対象的に、いくつもの手を伸ばしてどこかすがるようにすら感じられるほど、『かみのて』は伸びてくる。
爪牙は紫の瞳を眇め、大きく卒都婆を振り上げた。
渾身の力を込めた一撃は教室の床を叩き、爪牙だけを強める領域を作り出す。
「幸せな場所なんてのはな、ハナからねぇんだよ」
動きの鈍った腕を払い除け、爪牙は『神隠し』へ距離を詰める。
「あるように見えるなら、そいつは誰かの献身や犠牲で成り立ってる」
誰かが尽くして、誰かが何かを削って、初めて幸せが存在し得るのだ。巫女の背後の『かみのて』に向けて、爪牙は床を蹴った。
「俺達に出来るのは幸せであろうと努力することだけだ
、強引に手を引こうとした時点で導きじゃねぇ。何が幸せかは俺が決める、断じてテメェなんかじゃねぇ!」
思い切り、霊力と破魔力を握りしめた卒都婆に注ぎ、上段から勢い良く決意とともに振り下ろした。防ぐように重ねられた手を押し断って、巫女の背後の『かみのて』を叩き潰す。
「俺は憐れまねぇぜ。ただ安らぎあれと祈るだけだ」
神に祈る形に手を組むことはしないけれど、それでも祈ることはできるから。
🔵🔵🔴 成功

「これが神隠し・・・悪いけど、子供たちに偽りの理想を与えるのはやめてもらいますね。」
「久留さん、本気で行きましょう!」
戦闘時
刀と銃で攻撃
敵との距離を保ちながらヒット&アウェーで
√能力「正義執行」しよう。
一気に距離を詰めて切り捨てます。
戦闘後
「任務完了。人的被害なしっと。後で報告書出さないとな。」
「無事に終わったし、帰ってお茶にしましょう。おすすめのケーキ買ったんですよ。」

【美永久家別邸】
アドリブ・共闘歓迎
今度は悪意じゃなくて善意っぽいのが面倒だな……。
とは言え、こっちも譲れないもんはある。
私だけじゃない、ここにいる奴らは戦わなくていい幸せよりも大切な何かを守るために戦う道を選んだんだ。
お前の言う“逃げて誰かに与えられる”ような幸せな場所は、要らない。
(戦って勝ち取る事でしか生き残れない√の生まれなので上位存在から与えられる運命みたいなのが地雷です)
志魄ドライブ『重魄』でぶん殴る。
『かみのて』の攻撃は√能力の移動速度3倍と【武器受け】で直撃だけは避ける。
その後の戦闘は回避率低下するらしいが【覚悟】決めて【根性】と【激痛耐性】で対処。
無理やりでもぶん殴ってやる。
●
たおやかに佇む巫女の背後の無数の手に、遙斗も春過も警戒を強めた。
「今度は悪意じゃなくて善意っぽいのが面倒だな……」
「これが神隠し……悪いけど、子供たちに偽りの理想を与えるのはやめてもらいますね」
巫女に悪意はない。ただ『かみのて』と共に手招くだけだ。いつかの誰かがそうしてもらったように、そうしたように、幸せな場所へと手招くだけ。『かみのて』に悪意はない、その意図もわからない。けれど誰かを何かを、掴んで連れて行くだけだ。
「とは言え、こっちも譲れないもんはある。私だけじゃない、ここにいる奴らは戦わなくていい幸せよりも大切な何かを守るために戦う道を選んだんだ」
上から押し付けられてこうしろと言われ、これが幸せだとあてがわれるなんて、春過にはとても許容できない。そんなものを幸せとは言えない。
自身の手であがいて、精一杯伸ばして、掴みとるものでなければ、満たされた幸せだとは言えないのだ。
「お前の言う“逃げて誰かに与えられる”ような幸せな場所は、要らない」
いっそ冷たく思えるほどの熱い憤りを制御して、春過は志魄ドライブで練ったエネルギーを全身に纏った。
奪われる悲しみを知っている遙斗も春過の言葉に頷いた。たとえその先で連れて行かれた彼らが幸せであっても、残された人々と親しくあればあるほどに、連れ去られた人の心にも傷は残り続けるのだから。
タバコの煙を身に纏い、遙斗は小竜月詠と特式拳銃【八咫烏】を握りしめた。
「久留さん、本気で行きましょう!」
「ああ。いくぞ!」
二人は前へと飛び出していく。怪異『神隠し』を倒して屋敷へと帰るために。
「ゆきましょう?」
巫女の少女は緩やかに手招いた。『かみのて』は荒ぶり机や椅子、ロッカーを掴んで二人に投げつけ、二人を掴もうとしてくる。
遙斗は上がった移動速度で投げられた物体を、掴みかかる腕を避ける。刀で届く距離は切りつけて、遠くからものを投げて来る手には銃を撃って。決して入り込みすぎず、離れすぎず、隙を狙い。
一瞬の攻防の間、見つけた間隙に一気に距離を詰め、『かみのて』を柔らかなものを切り飛ばすように簡単に切り捨てた。刀を振るった白い剣線のあと、ぼたぼたと伸びてきていた腕が落ちていく。
春過も同じく上がった移動速度で投げられた椅子や机やらを交わし、掴んでくる腕は火かき棒で受け流した。
それでもすり抜け絡みついた腕が、春過の義足をかすめてまるで生身の部分をぎゅうっと締め付けたような痛みを残した。引きずられるような重みに、ありえない痛みに、動きが少しだけ鈍っていく。
「久留さん!」
「平気だ、構うな!」
痛みも動きの鈍った体も根性で耐えて動かして、『かみのて』を引き離して春過も一気に距離を詰めた。
「砕けろ!」
重い体も痛みで弾ける視界も無理矢理動かして、大きく振りかぶった火かき棒が、止めようと重なる『かみのて』を砕いて叩き落とした。エネルギーを纏った重い一撃は床から振り上がった勢いのままに怪異を薙ぎ払っていったのだった。
無事に怪異を倒したあとのこと。
春過は息をついて体の力を抜いた。幻の痛みも、錯覚の重みもいまは堪えなくてもいい。すぐに回復していくはずだ。
遙斗は武器を納め、周囲の状況を検分する。
「任務完了。人的被害なしっと。後で報告書出さないとな」
噂の顛末から怪異の退治に至るまでの一連の事件は報告すべきだろう。操作手帳にメモを書き、閉じたあとで春過へと振り向いた。
「久留さん、お疲れ様でした。無事に終わったし、帰ってお茶にしましょう。おすすめのケーキ買ったんですよ」
「ああ、それがいいな。今は早く帰りたいよ」
あの温かい場所に、幸せを握りしめた場所に。お茶を煎れて、ケーキを食べて、笑える場所へと。
🔵🔵🔵🔵🔴🔴 成功

鉄壁と龍王之護で防御力を上げて、大蟹の姿で攫う「かみのて」から逃げ回り距離を詰めます
鬼ごっこは得意なんですよ
簡単には掴まりません!
大きな無数の手に、妖獣狩りに追いかけられた頃を思い出します
今よりも身体が小さくて、知恵も無く力も弱くて
追いかけまわされる恐怖と疲労と
壊滅した隠里の現状と絶望
略奪者たちが唱える「幸せな世界」を無理やり信じようと思えたのは
僕が何かを失って能力を得ていたからです
攫う「かみのて」をルートブレイカーで無効化
巫女に向けて蟹鋏での捨て身の重量攻撃をして、八咫烏「カムロ」の獄火で焼却
信じる事は悪くありません
ただ、僕は、今の自分自身にとって有益なのかを見極めたいのです
ガザミ・ロクモン (レベル18 男)
★0.5個(1連撃/リプレイ400文字以上)
あと84時間(2025年1月18日土曜日朝08:30締切)
「ゆきましょう」
穏やかに、虚ろに微笑む巫女が手招いた。『かみのて』無数に現れて、ガザミを掴んで、抱いて、連れて行くために伸びてくる。
黒に染まったままの大蟹の姿で、万が一に触れられてもいいように、ガザミは咄嗟に防御力を高めて逃げ回る。
「鬼ごっこは得意なんですよ、簡単には掴まりません!」
素早く動いて避けながらも、幾度も迫る大きな手に、ガザミは過去の記憶が呼び覚まされてしまう。
今よりも小さくて、今まで得た知恵もなくて、今よりずっと力も弱く、抗えなどしなかったあの頃を。妖獣狩りにどこまでも追われるかのような恐怖と癒えない疲労、そして壊滅した隠れ里の現状と、落ちていくような絶望を。
(略奪者たちが唱える「幸せな世界」を無理やり信じようと思えたのは、僕が何かを失って能力を得ていたからです)
『かみのて』に向かってガザミは右の鋏を突き出した。失ったが故に得た無効化の力に触れた『かみのて』の数が減っていく。無数ではなくなり、有限になっていく。
「信じる事は悪くありません」
そうなれば、巫女の少女にも鋏が届く。防ぐために伸びる残りの『かみのて』に構わずガザミは距離を詰め、蟹鋏を巫女に、その背後の『かみのて』に振り下ろした。重量のある大鋏の重さと振り下ろす勢いがそのまま力に加わって、巫女と『かみのて』を押しつぶしていく。
「ただ、僕は、今の自分自身にとって有益なのかを見極めたいのです」
赤に染まりながらも微笑む巫女の顔を見つめて、ガザミは呟いて。しばらく蘇らないよう、八咫烏「カムロ」を呼び出して、破壊の炎で焼き尽くした。
●そうして怪異は
巫女は虚ろに微笑んだまま倒れていく。その身は崩れて消えて、何も残らない。
後の『かみのて』はぼとぼとと落ちて転がった。これを機関に持ち込めば、解剖し研究されるだろう。
怪異の目的はあったのかもわからない。もしかしたらなかったのかもしれない。ただ彼らにとって幸せな場所を示したのかもしれない。
けれどそれは、人には望まれないものだったのだ。
子供達を救い、√能力者達は帰還する。この世界を繋ぐための資源を手に、何らかの思いと共に。
🔵🔵🔵 大成功