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夕されば、色なき風に紅葉散る

#√妖怪百鬼夜行 #連撃歓迎 #第二章プレイング受付は12/11(木)9:00より #プレイング受付前

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 #√妖怪百鬼夜行
 #連撃歓迎
 #第二章プレイング受付は12/11(木)9:00より
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 決して癒えぬ傷があった。
 大切な者を喪った喪失感。その穴はどのような想いを重ねても晴れることのない絶望感。
 彼が好きだった紅葉。彼と眺めていた唐紅。燃えるような夕映えに照らされた眩しい光景。
 世界だけは色褪せることはない。なんて皮肉で、哀しいことなのだろう。

「どうして私を置いて逝ってしまったの? ずっと、共にいてくれると約束したじゃないの」

 色なき風に悲壮をのせて女はひとり佇んでいた。
 てのひらに握られたのは彼が最期にくれた約束の指輪。揃いで買った指輪も今はひとつきりで手のひらに握られている。
「ああ――可哀想に。あなたは、喪ってしまったのですね」
 燃えるような唐紅の中で静かな声が聞こえた。
 女が振り返ればまるで|色彩を奪われたか《モノクローム》のような男が憐れむような表情を浮かべて女の姿を見下ろしていた。
「喪ったものは戻りません。一度虫籠から離れた蝶は還らないように、その哀しみは生涯癒えることがないのです」
 断じるような言葉。無責任な慰めの言葉や憐憫の感情ばかりを寄せられていた女にとっては何処か心地よさを感じるものだった。
 元気を出して。あなたが笑うことをきっと彼も望んでいるわ――そんな綺麗な無責任の言葉は聞き飽きた。
 ただ、哀しみに寄り添ってくれる誰かの存在が欲しかった。女は僅かな期待をこめて男の姿を見つめる。
「私の名は紫苑――あなたの癒えぬ哀しみを救いましょう」
 紫苑が手に持っていた何かを掲げたのが女が見た最期の記憶。
 美しい世界の色彩。燃えるように映える唐紅の中で、主を喪った指輪がさみしくその場に転がっている。

「そう――帰らない。還らない」

 決して埋まらぬ穴があった。
 大切な何かを喪った喪失感。その穴を埋めるためにあらゆる想いを飲み込んでも治まることのない飢餓感。
「一度、喪ったものは――かえってこないのです」
 何を喪ったのか紫苑自身も最早覚えてはいないけれど、きっとこの切望は失くした何かを取り戻すその日まで満たされることはないのだろう。

●色なき風
「もう、すっかり寒くなりましたね」
 年の瀬に向かう時候。肌を撫でる色なき風は冬の気配を間近に連れてきていた。
 星詠みの青年史記守・陽(黎明・h04400)はホワイトボードに地図や資料の画像を貼り付けていく。
「今回、√妖怪百鬼夜行で事件を予知しました。紅葉の名所でもある山なんですが出現する妖怪の名は紫苑。蜘蛛の妖怪です」
 紫苑は古妖に狂わされ正気を失わされて、好ましく想った存在を蝶へと変えて奪い『虫籠』に収めている人妖。
 つまり彼の抱く虫籠に閉じ込められている蝶の数は此れまで彼が積み重ねてきた罪過そのものである。
「俺が視た光景はある女性が紫苑と接触する場面でした。恐らく、大切な人を喪った人なんだと思います。そのようなことを言っていましたから――しかし、彼女を助け出すことはできません。既に蝶に変えられてしまっている」
 間に合わなかった。手遅れだ。しかし、このまま紫苑を放置すれば周囲の人里に降りた紫苑が更なる罪を重ねる可能性もある。
 ――せめて、彼女の無念を晴らすためにも撃破をお願いしたいんです。
 陽は空色の双眸を哀しげに伏せながら言葉を続ける。
「紫苑が出現するのはどうやら夕方のようです」
 今から向かえば日暮れまでに充分な時間がある。紅葉の名所というだけあって近くの街は観光業が盛んだ。
 大正浪漫情緒溢れるハイカラ街。
 レトロモダンなアイテムを求めショッピングをしたり、カフェーやレストランで一休みするのも良いだろう。
 その後、紫苑の出現場所である紅葉山へ向かうが時間を潰すのも兼ねて紅葉狩りを愉しむのもいい。
 先程の手作りもしくはハイカラ街で調達したお弁当を食べて行楽というのもありだ。
「喪われた命が戻ることはありません。彼女を救うことはできませんが、新たな犠牲を出さないためにも――どうか、皆さんよろしくお願いします」
 綺麗な紅葉山を死の紅で染めるようなことはしてはいけない。
 陽は真摯に一礼をした後に√能力者達を見送った。
これまでのお話

第2章 冒険 『紅葉に染まる双子山』


POW とにかく現地の山に登る
SPD 噂を山里の人に聞き込み
WIZ 書物やデータと照らし合わせ
イラスト 音七香
√妖怪百鬼夜行 普通7


 色なき風が紅葉山に秋の彩りを連れてきた。紅葉の名所と名高い紅葉山は一面が映えるような唐紅に染め上げられている。
 今まさに見頃を迎えた錦紅葉達目当てに訪れた人々で賑わいを見せていた。
 蜘蛛の人妖が現れるのは黄昏時。いくら名所と言えど日が落ちた後の山は危険が伴うからその頃には多くの人々が下山するだろう。
 日が西に傾き世界が赤色に染まる夕暮れまでは未だ時間がある。今は素直に冬が訪れる前の世界が魅せるひとときの彩りを愛でよう。