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たぬき、秋の恩返し
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実りの秋に、とあるたぬきは喜んでいた。
「ぽーん♫」
このたぬきのいるダンジョンには、秋に果物が実るフロアがある。時期も種類も問わず、梨に栗、葡萄に林檎、柿といった秋の果物は言わずもがな、いちごにラズベリークランベリー、さくらんぼに桃、メロンにスイカ、パイナップルにマンゴー、スターフルーツなどなど。
そこをせっせと手入れし結果、たっぷり幸せの豊作になったのだ。さらにどんぐりやさつまいも、いも類もしっかり蓄えて、たぬきはうきうき準備をする。
春の頃、たぬきはとてもすてきな体験をした。
たくさんの|冒険者《EDEN達》が訪れて、心地よい水のフロアで遊んだり、美味しいサンドイッチを食べたりと、素晴らしい時間だった。
その恩を誰かに返してあげよう、と、今回たぬきは一生懸命に準備したのだ。
素晴らしい実りのフロアに、すてきな花の道を辿ってもらって、最後には一緒に焼き芋をしよう、とわくわくしていた。
「ぽこー♩」
誰か来てくれるといいですね、楽しみです、と踊りながら。
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「っていう、のんきなたぬきがいるんだよ」
猫宮・弥月は詠んだ星を、EDEN達へと語り始める。
癒水のダンジョンという場所に、『かわいいたぬき』が現れる。訪れた人をもてなして、一緒に焼き芋食べたいと踊っているのだ。
このダンジョンには秋になると様々な果物が実るフロアがあるので、訪れた人にはまずそこで果物を楽しんでもらおうと思っているようだ。
それから歩く度に、歩く人の想いや記憶のかけらの花が咲くすてきな道を辿って、たぬきがせっせと育てたさつまいも(じゃがいもや里芋もある)のフロアで、焼き芋をして楽しんでほしい、と望んでいる。
「人懐っこくてのんきにぽんぽこ鳴くたぬきでさ、喜ぶ人を見るのが好きみたいだ」
なので一緒に果物を食べたり、花の道を散歩したり、さつまいもを楽しんだり、遊んだりすれば満足する。
一応、「たぬき、もうだめです」「たぬき、かわいいですよ?」とつぶらな目で迫ってくるが、普通に戦うことだってできる。
「良ければ秋の行楽として、気軽に遊んであげてほしいな」
よろしくお願いします、と弥月は頭を下げるのだった。
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たくさんの果物が実るフロアには、食べ頃の果物達が溢れていた。
冷たいきれいな湧き水も流れており、喉を潤し、手を洗ったり、果物を冷やすのにも使えたりする。
気の向くままに収穫して食べて、豊かな味覚を味わうのもいいだろう。
「ぽん♪」
もちろん、たぬきと一緒に食べたっていい。
おいしいですよ、いっぱいどうぞ! と目を輝かせて待っている。
これまでのお話
第1章 冒険 『果実を摘んで』
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「天高く秋晴れの空〜」
「芸術や食欲の秋だな……!」
晴れた空の下、トゥルエノ・トニトルス(coup de foudre・h06535)と野分・時雨(初嵐・h00536)はわくわくとした足取りで、ダンジョンへと入っていく。
春に出会ったのんきなたぬきが、再び癒水のダンジョンに現れたらしい。せっかくだし秋の味覚を味わいがてら、遊びに行こうと二人でやってきたのだ。
「なんか、ぽーん、て可愛い鳴き声聞こえた気がする」
「うん、あっちだな〜」
「早く会いた〜い! サンドイッチ無いけどお気に召してくれるかな」
ぽんぽこと可愛い鳴き声の方へと辿っていけば、いろんな果物が実るフロアに辿り着く。
たぬきはぽてぽてとした足取りで、小躍りして出迎えてくれた。もちろんサンドイッチが無くても構わない、訪れてくれたことがとっても嬉しいようだ。
ようこそ、いっぱい食べてください! と言わんばかりにぽーんと鳴くたぬきに軽く挨拶してから、トゥルエノと時雨は早速実りを堪能することにした。
「たしか時雨殿の好物は、メロンやスイカという話だったか……?」
「スイカ好きですよう。メロンもあんまり食べないけど好き!」
「どちらもそれぞれの甘みと味わいがあるよなぁ」
しゃくっとジューシーで、甘みと少し青みのある香りがたまらない、ウリ科の品々もある。ちょっと小ぶりな物を一つずつ選んで、冷たい水に浸しておいた。冷やして食べるのも涼やかでいい。
「あとは最近、ちょっと良い白ぶどうを食べてみまして。かなりお気に入り」
「白ぶどうは確かマスカットという名だったか〜」
輝くようなマスカットを一房収穫し、軽く洗ってひと粒摘んで口に運ぶ。皮ごとかじると、じゅっと果汁が溢れて口の中にぶどうの香りがいっぱいに満ちてくる。
「苺やラズベリーやクランベリーは、甘酸っぱくてジャム等にしても旨いよなぁ」
「うんうん、香りも良い感じな! パンやお菓子にも合います」
そのまま摘んで食べてももちろん美味しいが、ジャムやソースも楽しめるのがベリー系だ。
きゅっと口を窄めそうな酸っぱめの物も、お砂糖と一緒に煮込めば甘みと香りが味わえる。形が残った粒感の強いものも、しっかり煮詰めたとろりとしたものも、どちらも美味しく捨てがたい。
「スターフルーツの見た目もカッコよさそうではあるか?」
「スターフルーツてな~に? 星?」
「|五斂子《ゴレンシ》ともいう名の通り、五つの角がある果物だなぁ」
五つに分かれた実の形は、特に面白いものだろう。鮮やかな黄色の実から緑の縁を少し削いで、輪切りにすれば名前の由来が見えてくる。
「うん、星の形をしてるのは大変オシャレ!」
「確かに星っぽい!」
「甘酸っぱくてしゃきしゃきしているなぁ」
気の赴くままに果物を楽しみつつ少し歩けば、秋の味覚がたくさんあふれる区画にやってきた。
「エノくんも、特に好き!な果物とか、秋の味覚探そ~」
「うむ、ここらには、実りの秋らしい果物が沢山なっているなぁ」
「柿とか梨とか、ぶどうとか〜」
「そうだなぁ、主も秋らしい葡萄は好きなようだし、此れを機会にわたしもひとつ、好きなフルーツを見つけてみようかな」
しっかり色づいた紫のぶどうはひと粒、ひと粒と楽しんで。明るいオレンジ色の柿は、外側の少し硬い部分も、内側のちょっと柔らかな部分も甘みと風味がとても美味しい。茶色の梨はずっしり重く、しゃくしゃくとした食感と、水気たっぷりの果汁が味わえる。
「さっき、春の美味しさでベリー系上げてましたね」
「うん、甘酸っぱい味も風味も好みかもしれない」
「なら、ザクロとかすももは? ちょっと酸っぱいかな」
「ふむ、酸味が強いものもあるなぁ。でも、このほのかな甘みも悪くない」
秋の恵みと春の味わい、どちらも味わっていると二人に見えてくるものがある。
「もちろん、食べ物の美味しい秋の季節も良いが。春の恵みもわたしは良きものだとは思っているぞ……!」
「秋は芳醇な食べ物多いですが。春は青い香り、というか酸っぱさや苦味も含めて美味しいイメージありますね。両取りできる幸せ空間だ……」
春の青みがかった味わいの果物や、苦味のある菜の花に山菜、柔らかな葉物野菜も。
秋の甘みの強い果物や、ほくほくしたかぼちゃや根菜も。
夏の味も、冬の美味しさも。
全部美味しくいただける二人なのだから。
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(あのときのたぬきにまた会えるの!?)
春頃出会ったのんきなたぬきに再び会おうと、野分・風音(暴風少女ストームガール・h00543)は意気揚々とダンジョンにやってきた。
たぬきに会えるのももちろん嬉しいが、今回は更にお楽しみが待っている。
(果物が実るフロアがあると聞いたら、来ない訳に行かないよね♪)
うきうきわくわく軽い足取りで目的のフロアへと向かえば、嬉しそうな鳴き声が出迎えてくれた。
「ぽーん♪」
お久しぶりです、と歓迎の踊りを踊るたぬきに風音はほっこりする。楽しんでくださいね! ときりっとした、けれどやっぱりのんきそうな顔のたぬきをなでてから、風音はフロアを見て回った。
「ホントに色んな季節の果物が実ってる!」
見渡す限りにあちこちに、春夏秋冬あらゆる果物達が食べ頃の姿で風音を出迎える。甘酸っぱいベリーに大きなスイカ、甘い柿や梨に、真っ赤なりんごや爽やかなみかんなどなど、どれもこれも美味しそうだ。
「けど秋はやっぱり秋の果物食べたいなぁ」
秋以外の果物ももちろん美味しそうだけれど、せっかくなら旬の味を楽しみたい。風音はそう思って、秋の実りを見て回る。木になる果物は、光が当たりやすい上の方や、外側に実る果実のほうが美味しいらしいと聞く。せっかくなら、美味しいものをたぬきと一緒に楽しみたい。
じっくり見比べる風音の視線に、たぬきはおもてなしします、と果物を採りに木を登る。高い枝目指して、んとこしょ、よっこいしょとやや鈍くさいくらいの動きでよじよじと。時々ふさふさ尻尾が重いのか、ずりずり落ちてきそうな雰囲気だ。
(うん。木登りあんま得意じゃ無さそうだし、甘いところの果物持って行ってあげよう)
風音は努力するたぬきに温かい視線を向けてから、するすると木を登っていく。危なげない軽やかな動きで、色づきも良く、しっかり熟した柿や梨、ぶどうやりんご、無花果などを次々と収穫していった。
(よし、こんなものかな。取り過ぎは良くないしね)
分ける前に軽く味見を、とりんごを一つ、軽く洗って一齧り。しゃくりと小気味良い音を立てて実は割れて、じゅわっと甘酸っぱい果汁が溢れてくる。しゃくしゃくと噛んでいくと、甘みは一層増していった。
「んー、甘くてジューシー!」
ようやく一つもいで、ぽてっと落ちてきたたぬきへと風音は近づいていく。
選んだ果物は、どれも美味しいものだった。もちろん、たぬきも大喜びで、一緒に果物を楽しんでいたのだった。
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春に出会ったのんきなたぬきが、今日も元気にやっているらしい。
紫雲・明良(|無銘の悪魔《デモノイド》・h01797)と花倉・月笠(童話の魔女にはなれないが・h00281)は、そんなたぬきに出会うため、たぬきの心遣いに応えるため、以前も訪れたダンジョンへと足を運ぶ。
「あの時のたぬきちゃんとー、また会えるなんて嬉しいなー」
「無事に生きてたんだな、あのタヌキ……」
おっとりのんびりしていて、すぐに騙されたり倒されたりしそうなたぬきだった。むしろ無害そうだったからこそ、放置されていたのかもしれない。
元気そうで何よりだ、と月笠は喜び、明良はなんとなく良かったかもしれない、と思う。
「前のサンドイッチもおいしかったっすけどー、果物も焼き芋も楽しみっすー!」
「うん。たぬきに構う前に、まずは果物を頂いていこう」
以前は自分達で選んだサンドイッチをピクニック気分で楽しんだが、今回は果物狩りが楽しめるらしい。様々な果物への期待を胸に、実りのフロアへと入ってみれば、名前の通り実りに溢れた光景が広がっていた。
「わあー、見て見てーアキラさーん! 色んな果物たくさんっすー!」
「これだけの実りが揃った光景は壮観だな」
以前の柔らかな水に満ちた空間も良かったが、このフロアも良い場所だ。季節も種類も問わずに豊作の果物達が、明良と月笠を出迎える。
のんびり屋のたぬきも、訪れる人達に喜んでいるようだ。おそらく今ものんきな性格は変わっていないのだろう、たくさん訪れるEDEN達に喜んで、歓迎するようにくるくる踊っているのが遠目に見える。はしゃぎすぎて、時折転びそうにもなっていた。
相変わらずで何より、と月笠はほのぼのし、明良はまあそんなものだろう、と頷いた。
たぬきはあとでゆっくりと挨拶することにして、まずは果物を楽しもうかと歩いていく。
月笠はきらきらした期待の表情をしながら、果物をきょろきょろと見比べる。
「どれから食べようかなあ……やっぱり秋の果物かなー」
そう言いながらおいしそうな梨へと手を伸ばす。薄い皮を剥いて一口齧ってみたならば、しゃくしゃくの果肉から、じゅわりと豊富な果汁が溢れてきた。
「ん! みずみずしくってー、しゃくしゃくでー、とってもおいしいっすー!」
「よかったな」
瞳もきらきら輝かせ、顔と体でおいしいと表現する月笠を、明良は微笑ましそうに見守っていた。
「アキラさんは何食べるっすー?」
「それじゃあ俺は柿を貰っていこう」
明るいオレンジに染まった柿も、たっぷり甘みと旨味を蓄えていた。少し硬い外側も、ちょっと柔らかめな内側も、どちらも楽しい食感で。
「梨の食感とは異なるものだが、甘くて美味いぞ、こっちも食べてみたらどうだ?」
「わあい! じゃあじゃあ梨もあげるっすー。……柿もうまいっすー!」
「……うん、梨はこの瑞々しさがいい」
お互い交換して食べてみれば、やっぱりおいしいと笑いあう。
実る季節も種類も様々だが、どれも本当によく、美味しく実った果物ばかりで次は何を食べようか、と悩むのもまた楽しい。
そんな二人の目に、ちょっと変わった形の果物が飛び込んできた。
「おー? アキラさんー、変わった形の果物あるっすー」
「あの黄色の……なんていうんだろうな、五つ角があるあれか?」
「そうっすそうっす」
ぽちぽちとスマホで調べれば、すぐに答えも見つかった。
「スターフルーツっていうみたいっすねー。食べてみるっすー?」
「スターフルーツか……名前くらいは聞いたことあるけど、見るのは初めてだ」
透明感のある黄色の、五つの角のある実を手にとって、薄緑の縁を削ぎ落とし。そのままスライスしていけば、名前の通りの断面が綺麗な星の形をしている。
「断面が星型という話だったが、本当だな」
「なるほど、名前の通りっすね!」
「折角だ、食べてみようじゃないか」
「そうっすねー、じゃあ早速、いただきまーす!」
「どんな味がするんだろうな……? いただきます」
薄く切った一枚を口に入れれば、しゃきしゃきした食感に、甘酸っぱい味が広がってくる。トロピカルな風味ながらも、爽やかで食べやすい味わいだ。
「もっと酸っぱいやつはサラダにしたり塩や砂糖と合わせてもいいらしいっすよ」
「面白いな」
二人は心ゆくまで、果物の実りを楽しんだのだった。
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「私の生活圏において犬や猫は馴染みがありますが、最近それに匹敵する一大ブームが到来しています」
不忍・ちるは(ちるあうと・h01839)の語るとおり、普段の生活で馴染み深い動物以外に、時折ブームを巻き起こす動物がいる。
そう、たぬきだ。
どこかのんきな振る舞いや、ちょっとドジな部分、愛嬌のある見た目で人々の心を掴んでいく、愛され動物なたぬきが、春に受けた嬉しさを誰かに分けたい、お返ししたい、と準備をして待っているというのだ。
「うん。|仙境・五神山《お山》にもたぬきは居るが、お互い過度な干渉はしない間柄だ」
人と距離を取り、お互いの生活圏が重なる部分でも僅かな思いやりで、少しずつ譲り合うくらい。そっと見守り、直接触れ合ったりはしない。それこそが正しい距離感なのだろう、とわかっている。
そんな生活を送る六合・真理(ゆるふわ系森ガール仙人・h02163)にも、空前のブームは訪れる。
今回のたぬきは人と触れ合いたいと望む個体で、自分が人に嬉しいことをたくさんもらったから、誰かにお返しをしたいのだというのだ。
(小動物の無垢な善意とは何故こうも胸を打つのか)
真理はしみじみと、たぬきを思って吐息を零す。ちるはも真理の語るお山の話、たぬきの話を聞いて、いっそうたぬきへの思いを深めていた。
「……なんといじらしい子だろう、これはもう全力で甘やかすしかないねぇ」
「はい。いっぱい甘やかしましょう」
そんな二人でダンジョンに赴き、実りのフロアに進んでいけば、たぬきがぽーんと嬉しげにぽてぽて踊って出迎えてくれる。
「おや、可愛いねぇ」
「こんにちはたぬきさん」
「ぽん♪」
たぬきは、両手を広げておいでおいでの構えのちるはへとぽってぽて駆け寄り、ぽこっと飛び込んでくる。
この流れならば、撫でたりもふったりも行けるだろうか、とちるはが静かに真理を視線で窺えば、真理は厳かに頷いた。
(いけますか)
(いけるね)
二人でそっと、たぬきの毛並みを撫でていく。もふもふの毛並みは、実った果物やお芋を味見として食べたことで、春よりもいっそうふかふかもふもふしていた。少し指を毛皮に埋めたなら、硬い毛並みと柔らかな奥の毛が優しく受け止めてくれる。
「いいこいいこもふもふ……」
「おとなしいねぇ。毛並みも素敵な子だ」
「あったか柔らか……ほわー……ああぁ……」
「ぽこー」
気持ちよさそうにちるはの腕の中で撫でられとろけるたぬき。しばしもふもふしたあと、真理も抱っこして見ると、ぬくぬくとしたぬくもりと柔らかさが伝わってくる。
そのまま果物を見て回れば、たぬき、がんばりました! と言わんばかりに、じゃーんとしながらどやっとするたぬきに、ちるはと真理は微笑ましいと笑いあう。
そうしてたぬきおすすめの|果物《おもてなし》を堪能し、程よく喉もお腹も満たしていった。ちょっとずつ分けてもらったたぬきも幸せそうだ。
たぬきへのお礼にと、真理はいくつかの花を摘む。それを芯にした蔦と茎を絡ませて、輪になるように編み上げていく。隣に座ったちるはも、真理と合わせた花を摘み、葉や蔦と組み合わせていった。
「真理さん、お願いします」
「ああ。いいかい、こうやって花に伝わるように、仙気をね」
「ぽこ?」
出来上がった花冠が朽ちないよう、真理は仙気を込めて作っていく。ちるはも、真似するように葉っぱを握ったたぬきと一緒に、ぎゅぎゅっと真理へと近づいて、仙気を込めて仕上げていくのを見守った。
「これで完成さ。さあ、今回の功労者に冠と飾りを授けようかね」
「はい。たぬきさん、ありがとうございます」
「素敵な果物だったよ」
「ぽん!」
真理は、そっとたぬきの頭の上に完成した花冠を載せてやる。ぱちぱちと拍手して見守ったちるはも、花飾りをふかふかの毛皮に添えるように渡してやった。
「ぽーん♪ ぽこ?」
すてきです! ありがとうございます、にあってますか? と首を傾げて見上げるたぬきに、真理はゆっくり頷いた。その顔に浮かぶのは、年長者が年若を見守り微笑ましく思う、慈愛の笑みだ。ちるはもにこにこと可愛いと言うような満面の笑みを浮かべている。
「うんうん、良く似合っとるよ」
「はい。気に入ってくれましたか?」
「ぽん!」
もちろんです、とたぬきは鳴くのだった。
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フロアにあふれる実りに、間宵・理央(まっさらから書き綴るわたし・h12873)と真白・漆黒(|漆黒の支配者《ダーク・ルーラー》のジェネラルレギオン・h09483)は二人揃って目を輝かせていた。
「すごいなぁ! いろんな季節の果物でいっぱいだ!」
「ね! すごいです!」
フロアのどこでも素敵な果物狩りが楽しめそうで、理央と漆黒は視線を合わせて笑いあう。
「よし! 一緒にたくさん楽しもうか、理央!」
「ふふ、ええ! 一緒に楽しい思い出にしましょう!」
どちらからともなく手を伸ばし、そっと握りあって、肩が触れ合う距離で二人は歩きだす。
「理央は桃が好きだったよなぁ」
「! はい!」
何を食べようか、と探し始めたその時に、漆黒が口にしたのは理央の好みだ。桃が好きなことを覚えていてくれて嬉しい、とはにかながら、理央も漆黒の好みを口にする。
「漆黒さんの好みも勿論、覚えていますよ♩ 梨!」
「うん、梨食べたいと思っていたんだ。どちらも収穫してみようか!」
早速、と手を伸ばした漆黒は、食べ頃で一番美味しそうだと思った桃を収穫し、理央へ笑いかけた。一緒に梨ももいでおく。
「これが一番美味しそうだから、ぜひ理央に食べて欲しい」
「! ありがとうございます」
自分の分も採ってくれていて嬉しい嬉しい、と目を輝かせて微笑む理央に、漆黒はドキドキしながらも暖かい気持ちになっていた。
もっと彼女が喜ぶ顔が見たい、と『雪妖の祝福』で氷の器にナイフ、フォークを作り出す。透き通ったガラスのような器には、ちょんとした耳につぶらな目、のんきそうな縁取りのたぬきっぽい形が象られていた。ナイフは滑らかな刃を持ち、フォークは理央が持ちやすいように、少し細めの柄をしている。
ナイフで桃の皮を剥く漆黒を、理央は頬を桃の色に染めて見惚れていた。手際よく器や道具を作る姿は凛としていて、そのまま手際よく桃をカットして食べやすくしていく姿もかっこいい。ほう、と感嘆のため息を零したなら、綺麗に盛られた桃が爽やかな笑みといっしょに差し出される。
「どうぞ」
「ありがとうございます♩ あ、器の形たぬきさんだ!かわいい……♩」
触っても滑らかなのに、冷たくない氷の器を見ながら、理央はフォークで一切れを刺し、ぱくりと桃を頬張った。噛めば柔らかな果肉がとろけていくようにほぐれ、甘い果汁が口の中いっぱいに溢れてくる。
幸せな感覚に、んー、と静かに、けれど顔を輝かせて喜ぶ理央。
そんな彼女を見ながら漆黒は可愛さに胸をまた高鳴らせつつ、自分用の梨を頬張った。こちらも爽やかな甘みの果汁が、齧るたびに広がっていく。果肉のしゃくしゃくとした食感が心地よい。
「わ〜美味しい……」
「……うん! すごく美味しいな!」
「幸せ〜♩」
「ああ、タヌキにちゃんとお礼を言わないと!」
「はい、たぬきさん、そして漆黒さんに感謝です……♩」
うっとり幸せに浸りながら、果物を楽しみつつ、たぬきへの感謝を口にする。
それから、感動の山を超えたところで、漆黒が少し視線を揺らめかせた。
「なぁ、理央。良かったら桃と梨、少し交換してみないか?」
少し照れくさそうなその言葉に、理央はぱっと顔をいっそう輝かせる。
「! したいです、交換!」
「そうか! ええと……。あ、あーん」
器を交換して食べるのかと思いきや、漆黒は梨の一切れを理央の口元に差し出した。その顔は年頃の男子らしい表情で、どこか恥ずかしそうで、でも食べてほしい、喜んでほしいと期待している顔だった。
理央はちょっと恥ずかしいけれど、それ以上の嬉しさでいっぱいになって、差し出された梨を齧る。
「どうだろうか」
「……ふふ、きっと……普通に食べるよりも美味しく、甘く感じてます」
「それなら、よかった」
とても甘くて、美味しくて。嬉しさに満ち溢れた理央は、素敵な笑顔を見せてくれる。漆黒も面映ゆそうに微笑んでいた。
理央も、桃を一切れ漆黒の口元へと差し出した。
「……では、漆黒さんも……あーん」
「うん……」
漆黒が差し出された桃を齧ると、やっぱり幸せな甘さが広がっていく。
「どうですか……?」
「……照れるけど、もっと美味しくなった気がする」
「ふふ。一緒ですね♩」
「! ああ、一緒だな!」
そうやって二人で交わす笑みは、どこまでも幸せな笑みだった。
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豊かに実った果物を見ながら、月森・千尋(守護者・h07085)は、隣でゆったりと歩を進める柊・七瀬(鎮魂歌・h07075)に声をかける。
「美味いもんが食えるって誘われたけど」
「うん。可愛いたぬきさんが頑張ったと聞いた」
食べ物といえば絶対に来てくれる千尋を誘った七瀬は、おっとり頷いた。
「確かにすげぇ節操なく実ってんな」
「ね、すごいね。果物いっぱい」
千尋の言うように、季節も種類も関係なく、いちごの隣にパイナップル、桃の隣に柿が実り、さくらんぼとりんごが並んで実をつけている。
それが不気味なものでないのは、どこか温かみのある光や、精一杯手入れした形跡が残る庭のような場所だからかもしれない。平和そうなたぬきがうろついていて、種々様々に果物が実った光景はまるでおとぎ話そのものだ。なんだか見ているだけでも幸せになる、と七瀬は辺りを見回して微笑む。
千尋はそんな七瀬を見守りながら、早速手近に実った柿を手に取った。
綺麗な艶のある皮を剥いて歯を立てれば、外側の少し固めのところがしゃくりとした感触を伝えてきた。内側の柔らかな部分はとろりと甘く、濃厚な味わいだ。
「ん、美味い」
「よかった」
満足げな彼の様子に七瀬もなんだか嬉しくなる。
自分も何か食べようか、と視線を動かせば、真っ赤に染まったりんごが少し高い位置にあるのが見えた。
手を伸ばしてももう少し先、ほんの少し届かない。爪先立ちになり、ぐっと精一杯に腕を伸ばしてみる。
(もう少し……もう少しなんだけど……)
本当にあと少し、ほんの少しだけ先にあるりんごに、七瀬は一生懸命に腕を伸ばす。
千尋は、ぷるぷる震える手と懸命な顔の義姉を見る。あまりに健気に震えるさまは、ちょっと面白い。
(ったく。取って、って言えばいいものを)
柿の最後のひとくちを飲み込んだ千尋は、彼女の後ろからひょいと腕を伸ばした。
「仕方ねぇな。これでいいんだろ、なな姉」
「うん。ありがとう、ちーちゃん」
七瀬は軽く表面を磨いてから、半分に切った。お礼に、と片方を千尋に渡してから皮ごと齧ってみる。
しゃくしゃくとした食感といっしょに、甘酸っぱい爽やかな果汁が口の中に広がった。外から中心へと食べ進めれば、一層甘さは強くなる。黄金色の蜜がたっぷりと詰まった、優しい味わいのりんごだった。
ゆっくり食べる七瀬の隣で、数口でりんごを平らげた千尋は、別の果物に手を伸ばしている。
「葡萄や、梨もいいな。栗は……ちょっと手間か」
健啖に食べ進める千尋を見上げ、七瀬は軽く首を傾げた。
「そういえばちーちゃん、甘いもの苦手なのに果物は食べるよね」
「あー……」
七瀬は何の気なしに尋ねたことだったが、千尋から返ってきたのは思案顔。少し考える素振りに七瀬はゆっくり、りんごを齧りながら答えを待つ。
千尋としても、改めて考えると何でだろうと思うことだったのだ。苦手な甘い菓子や味付けと、果物の違いを考えて、答えを一つ、見出した。
「菓子とかの甘さに比べて、さっぱりしてるからじゃね?」
「そっか」
確かにしっかりした砂糖やはちみつの甘みに比べれば、果物は甘さが控えめだ。酸味や青みを感じる味わいも多く、爽やかなさっぱりさがある。
そんなものか、と七瀬は納得し、最後の一口を飲み込んだ。そのままそばの、真っ赤に熟れたいちごへと手を伸ばした。甘い香りが広がって、いかにも食べ頃、おいしそうないちごだったのだ。
(いつもあんま食わないのに、珍しい)
それだけ果物の味が気に入ったのだろうか。そんな義姉を見ていた千尋は、でも、と口を開く。おそらく声をかけないと、七瀬はしょんぼりしてしまうかもしれないから、と。
「あんま食い過ぎんなよ。最後に芋もあるんだろ」
「そうだった、お芋!」
ほくほくの甘みたっぷり、そしてお腹にしっかりたまるお芋が待っているのだ。七瀬ははっとした顔で動きを止める。
そんな彼女の顔が面白くて、千尋は思わず吹き出していた。再び首を傾げた七瀬に、笑いながらも千尋は、大丈夫だ、と声をかける。
「ひと粒ふた粒なら、いいんじゃね? ほどほどにして、行こうぜ」
「うん、のんびり行こうね」
言われたとおり、七瀬はふた粒だけいちごを摘み取る。
「はい、ちーちゃん」
「おう。これもうまいな」
「うん。お芋も楽しみだね」
「ああ」
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見渡す限りの果物の実りに、雪願・リューリア(願い届けし者・h01522)と四希・アーデュラ(エルフの|古代語魔術師《ブラックウィザード》・h08215)は、感嘆の声を零す。
「ダンジョンでも豊作になることがあるのだな。本当に沢山の果物がある」
「不思議なフロアの力でしょうか。それと、たぬきさんが頑張ったからかもしれません」
リューリアの愛猫のアーシアも、ゆらゆら尻尾を揺らして実りが気になる様子。三つ首な子猫の猫妖怪、ニャンベロスのミケ・トラ・ラミは、それぞれの首で果物を見つめ、今にも飛び出していきそうだった。
そんな四匹の向こうでは、たぬきが、ようこそ、いっぱい食べてくださいね、とぽてぽてくるくる踊っている。元気そうな様子に、リューリアもアーデュラも思わず笑みが浮かんでいた。
「かわいいたぬきも元気そうで何よりだ」
「ええ。ダンジョンも平和そうで安心しました」
危ないモンスターも沸いていないのだろう、踊るたぬきと同じような、のんびりした空気が漂っている。行楽にももってこいの雰囲気だ。
「たぬきに感謝して、好意に甘えさせてもらうぞ」
「はい。たくさん楽しませてもらいましょう」
「にゃん」
「うん、アーシアにもたくさん採ってこよう」
その言葉に反応し、早く果物を持ってきてね、と言わんばかりに見上げるアーシアだけを、リューリアは頷きながら撫でて宥める。独占欲も満たされて、アーシアは満足げに甘える声を出してみせた。
「みゃー」
「みー」
「うみゃー」
「はい、皆さんもたくさん食べましょうね」
一方、あれ食べてみたい、あっち食べたい、そっちがいい、と三頭三様に鳴きながら、今にも駆け出しそうなミケ・トラ・ラミを、アーデュラはぽんぽんもふもふと愛でる。やはりそれぞれの頭に意思があるようで、気になるものも少しずつ違ったようだった。
ひとまず大人しくなった四匹にも果実を味わってもらおうと、リューリアとアーデュラはせっせと果物を集めていく。
「手に入れた果物でジュースやスイーツを作りたいな。たぬきさんにもお返しがしたい」
「そうですね、たぬきさん用にも食べやすいフルーツの盛り合わせも用意したいです」
「うん。アーシアも、ミケ、トラ、ラミも気に入ってくれるものがあるといいな」
「妹にも、お土産として持って帰りたいですね」
「それはいいな」
真っ赤なりんごや大きく実った梨、つやつやのオレンジの柿にぶどうなどを収穫した二人は、猫達も連れて水場の方へと向かっていく。
「水場の近くが料理したり食事するのにいいでしょうか」
「よさそうだな。やっぱり味見も必要だからな」
手や果物、道具を洗えるように水場を確保し、リューリアとアーデュラは果物をすりおろしたり、一口大に切って皿に盛っていく。
小さな平皿に盛り付けた分は、猫達用だ。先にアーシアの前に置き、次にミケ、トラ、ラミの前それぞれに並べていく。
小さく切られた果物達を、猫達はしゃぐしゃぐと食べていく。
「ふむ、アーシアは梨が気に入ったみたいだ」
「三つ首猫さんは柿も気に入ったようですね」
スイーツを作りながら、アーデュラはエルフだし、やはり自然のものを好むのか、とふと気になったリューリアは、何か作業を続けるアーデュラに問いかけてみる。
「アーデュラは、果物は好きだろうか」
「はい、好きですよ」
「そうか、たくさん楽しむといい」
「ええ。リューリアもぜひ」
どうぞ、と差し出されたのは柿のカナッペだ。チーズと重ねて砕いたナッツをかけ、少しはちみつを添えれば甘みと塩気が絶妙な塩梅になる。
「アーデュラも作っていたのか。我も食べていいだろうか」
「もちろんです」
「ありがとう。アーデュラも、これ、どうぞ」
リューリアが差し出すのは、梨とヨーグルトのスムージー。すりおろした梨とヨーグルト、牛乳を混ぜれば、爽やかな酸味と優しい甘みが味わえる。
「ありがとうございます。おいしいですね」
「よかった。この柿のカナッペもおいしいぞ」
「よかったです」
「沢山食べたくなってしまうが、まだこれからだし食べ過ぎないようにだな」
「ええ。焼き芋もあるそうですし、たぬきさんのぶんまで食べ過ぎないよう注意ですね」
それでももう少しだけ、とリューリアとアーデュラの手は果物に伸びてしまう。猫達ももうちょっと欲しいと言っているし、あとちょっとだけ。
そんな風に、一行は果物をたっぷりと楽しむのだった。
●
春に出会ったたぬきにまた会うために、神隠祇・境華(金瞳の御伽守・h10121)と小夜雀・小鈴(雀風招き・h07247)は、件のダンジョンへとやってきた。
「ここが実りのフロアですか」
「秋の味覚がたくさんなのですね」
実りのフロアに入ったならば、まず境華と小鈴の目が惹かれたのは、秋の味覚の果物達。色とりどりに色づいた果物達がたわわに実り、収穫の時を待っている。
「梨に、葡萄に、柿に、りんごに、いちじくに、ざくろ!」
「たくさん実っていますね」
「はい。それに、不思議なダンジョンとタヌキさんが一生懸命にお世話したからでしょうか。色んな季節の果物があるのです」
「季節を問わない果物の数々……いちごやベリー、桃にスイカ、メロン……なんだか見ているだけで幸せになりますね」
「はい!」
まずはたぬきに挨拶していこう、と境華と小鈴はたぬきを探す。
すぐに、たくさんの人の訪れを歓迎するように、うきうき踊るたぬきの姿が見つかった。
なんとものんきで楽しげな姿に、境華と小鈴は顔を合わせてほっこり笑い、たぬきへと近づいていく。
「お久しぶりです、たぬきさん」
「こんにちはなのです。お元気でしたか?」
「ぽん!」
おひさしぶりです、はい、げんきです! と言わんばかりのたぬきは、境華と小鈴をぽてぽて踊って出迎える。たくさん楽しんでくださいね、という雰囲気だ。
「春も私達の方が沢山癒していただいた気がしますけれど……ふふ、今日はお言葉に甘えさせていただきますね」
「たくさんいただくのです、ぜひたぬきさんも一緒に楽しみましょうです」
「ぽーん♪」
ありがとうございます、とますますぽてぽてと踊るたぬきに見送られ、境華と小鈴は早速果物を採りに向かった。
先程、心が惹かれた秋の果物を狙って収穫していくつもりだ。
甘い香りの梨に、濃く薄く、品種それぞれの食べごろに色づいたぶどう。境華は迷い無く、特においしそうなそれらを中心に収穫していく。
梨はずっしりと重たくて、皮の向こうからほのかに甘い香りが伝わってくる。ぶどうはひと粒ひと粒がしっかり色づき、ぱんぱんに果汁を閉じ込めている。
小鈴は迷いながら、真っ赤なりんごや大きな梨、美味しそうに色づいた甘柿をもいでいく。
上から下まで綺麗に赤く色づいたりんごは香りも良く、オレンジの甘柿はつやつやとした皮も鮮やかだ。中の実も、きっと甘いだろうと期待できる。
「境華さん、いっぱい取れました!」
「わあ、随分立派ですね。本当にたくさん。頑張りましたね」
仲良しの境華によろこんでほしい、と張り切った小鈴の大収穫に、境華も笑顔で褒め称える。
「では、一緒にいただきましょうか」
「はい、一緒に食べましょうなのです!」
冷たい湧き水で果物を少し冷やしてから、二人は食べやすいように切って分け合うことにする。
「あ、タヌキさんはどこでしょう? 頑張りなので持っていくのです!」
「そうですね、準備ができたら一緒に食べましょうか」
大きな梨とりんご、甘柿は皮を剥いて、櫛切りにしてから一口大にし、ぶどうはひと粒ずつ摘んで器に盛る。少し収穫した、いちじくやザクロなども食べやすいように切ったり千切ったりした。
そうして出来上がった果物の盛り合わせを持って、うきうきしているたぬきへと近づいて。どうしました、と首を傾げたたぬきに、果物の器を差し出してみる。
「たぬきさん、一緒に食べましょう。どれがお好きですか?」
「タヌキさんの頑張りに、ありがとうございますなのです!」
「ぽーん♪」
ありがとうございます、いただきます、と喜んでいた。水場の側の空いた場所へと座って、境華と小鈴は果物を楽しんでいく。
りんごや梨はシャクシャクした果肉と、甘みと酸味のバランスが取れた果汁が口の中を幸せにしてくれる。ぶどうはひと粒ひと粒、どれも果汁がたっぷりで、皮ごと食べてもおいしい。甘柿は、少し固い外側と、柔らかな内側の食感の違いも楽しい。いちじくやザクロも、それぞれの美味しさがふんだんに詰まっている。
「おいしいですね」
「はい、どれもすばらしいのです」
「ぽこっ♪」
おいしいおいしいと、笑みを浮かべながら、境華と小鈴はたぬきと一緒に、のんびりと果物を楽しむのだった。
●
ノヴァ・フォルモント(月影・h09287)は、相棒の仔竜ノクスと最近旅の仲間入りをした仔パンダのテネラを連れ、件のダンジョンへと赴いた。
春夏秋冬とりどりに、種類も大きさも様々に。いちごにベリー、メロンにスイカ、桃、パインナップル、柿、梨、ぶどうにりんご、みかんにスターフルーツなどなど。見渡す限りに豊作の、果物に溢れたフロアだった。
そこにはのんきそうなたぬきがいて、たくさんの訪れが嬉しいとぽんぽこぽてぽて踊っている。
「なんとも長閑だ」
ここがダンジョンの中だということも忘れてしまいそうな、ゆったりした光景にノヴァの頬もゆるりと緩む。
さて、連れてきた二匹にはきっと溢れんばかりのご馳走の山に見えるだろう、と思っていたら、傍らから飛び出していく夜の色。ふわふわ飛んでいたノクスが、その身に纏った布を翻し、早速食べたい果物めがけて羽ばたいていった。
その姿を少し見送ってから、ノヴァが懐に抱いた仔パンダへと視線を向ければ、期待たっぷりに瞳を輝かせるテネラと視線がばっちり合う。
「ふふ、テネラは何が食べたい? やはり秋らしい果物がいいかな」
梨やぶどう、りんごなど、秋の実りの果物はもちろんたっぷり実っている。
テネラも選びやすいよう、抱き上げて近くに寄せてみたり、収穫したものを渡してみたりしながら、ノヴァは少しずつ摘んで集めていた。
それらが抱えるテネラの腕の中にいっぱいになった頃、ノクスが彼らのもとへと戻ってくる。
「ノクス、ずいぶんと集めてきたな……」
ノクスが運ぶ膨らんだ布の中は、もちろん山盛りの果物達。どれも良い頃合いに熟しており、美味しそうだ。中身を覗いたテネラはすごいとノクスを称えるように拍手をし、ノクスは嬉しげに獲物を見せて胸を張っているようだ。
そんな二匹に微笑みながら、ノヴァは少し首を傾げてみせた。
「これ、全部食べられるか?」
その問いを聞いたノクスの顔を見て、ノヴァは苦笑を浮かべる。
あれは三匹なら行ける、という顔だ。つまり、ノヴァを含んだこの場の皆で食べればいいということだろう。
「やれやれ、それじゃあ一休みしつつフルーツパーティーを始めようか」
どれが食べたい、と問えば、二匹ともまずはこれ、と嬉しげに選んでいく。食べやすいように手伝いながら、ノヴァも果物へと手を伸ばした。
梨やりんごはしゃくしゃくの果肉から、甘酸っぱい果汁が溢れてくる。ぶどうはひと粒ひと粒がしっかり熟していて、ぱつんと皮をかじれば甘いジュースが噴き出した。
二匹も食が進んでいるようで、次はこれ、今度はこっち、と選んでは食べていく。
豊かな秋の味わいを、一人と二匹はのんびり楽しむのだった。
●
「庵くん、秋の味覚を食べに行かないかい」
「ん、行こうかな」
なんて会話があったから、てっきりオッサンこと照山・椛(払暁・h00569)のおごりで、果樹園で果物狩りなり食べ放題なりを楽しむのか、と思っていたのにな、と九条・庵(Clumsy Cat・h02721)は頭の後ろで手を組んでいた。
「このダンジョンで狸が秋の味覚を準備してくれているそうだよ」
「へー」
果物がまさかたぬきのもてなしとは、露ほどにも思っていなかったのだ。のんびりと楽しみだね、と話す椛に返す言葉には、隠しきれない呆れの色が滲んでいた。
「狸君の頑張りを見学しに行こうじゃないか」
「ソウデスネー」
「うん? どうかしたのかい?」
「いえいえ、何でもないデスヨ?」
ならいいけど、とのほほんと椛はダンジョン内を歩いていく。その隣を庵は腕を組んだままでついていった。
「ね、果物と同じくらい狸も気になるだろう?」
「まあね、せっかく用意してくれたらしいし、狸には感謝だ」
「そうだね、ちゃんとお礼を言っておこう」
そう言いながら踏み入れたフロアでは、まさに「実り」が二人を待っていた。
季節も種類も問わず、様々な果物がフロアいっぱいに実っていて、味わわれるのを待っている。いちごにベリー、メロン、スイカ、梨や柿、ぶどうにりんご、みかんにスターフルーツなどなど、あらゆる果物が揃っているようだった。
それから、のんきそうなたぬきが、たくさん楽しんでくださいね、と言わんばかりにぽんぽこぽてぽて、楽しそうに踊りながら訪れた人達を出迎えているのも見えた。
「これはまたすっげー量集めたね。いや育てたのか?」
「これは壮観だ。美味しそうだねぇ」
さて、まずはお礼を、と、たぬきへと感謝を述べる椛。その横に並び、庵も軽く礼を言う。
すると、どういたしまして! とたぬきは嬉しげにぽてぽて回って喜んでいた。
そんなたぬきを見ながらも、庵はこっそり椛にも視線を送る。この果物祭りの世界に、誘ってくれた感謝はしているのだ。
「うん? 何かついてるかい?」
「別にー」
その感謝を口にはしないけれど。そのまま、庵は周囲を見渡して、何を食べようかと考え始める。
一方、椛は艶のあるオレンジに色づいた四角い甘柿を手に取った。くるくる皮を剥いていけば、少し丸みを帯びた、明るい色の果肉が見えてくる。
ちょっとお行儀悪いけれどたまにはいいだろう、とそのままかぶりつけば、少し固めの外側も、柔らかめな内側も、しっかり甘く熟した美味しさで。柿の濃厚な味わいが口の中いっぱいに広がっていく。
(どの果物も好きだけれど、柿が一等好きかもしれない)
幼少の頃、庭に柿の木がある家が大層羨ましかった記憶を思い起こし、少し目を細めながら、椛は柿を最後の一口まで味わう。
それから果物を選ぶ庵へと声をかけた。
「庵くん、どれを食べるか決めたかい? 剥いてあげよう」
「謹んで辞退いたしマス」
保護者の立場からか、ついつい世話を焼こうとする椛の申し出には、庵はノールックで断りを入れる。そんな生意気な素振りも、彼の良いところだと椛は微笑み受け止めた。
優しく見守られていることに気づいているのかいないのか、庵は悠々と大粒のぶどうへと手を伸ばしている。中でもつやつやした、濃い紫が綺麗な一房をもぎ取った。
「おや、おいしそうなぶどうだねぇ」
「俺の髪とか瞳と同じ色デショ。なんなら今日の袴に爪ともお揃い」
「うん、綺麗な色だ」
濃く薄く、紫のグラデーションを描く爪と髪によく似た色味のそれを、ぷちんとひと粒、摘みとる。
「秋の果物って言ったらコレが好きかな」
そのままぱくんと一口で、皮ごと頬張り噛みしめる。ぱつんと皮が弾ければ、甘みと酸味のバランス取れた果汁と果肉があふれ出した。
(この甘味と酸味がいいんだよネ)
庵がそう思いつつ、もっと味わおうと奥歯に軽く力を入れる。
途端、ガリッとした音と硬い感触が伝わってきて、やべっと眉をしかめることになる。
「コレ種有りだ、失敗したー」
「おやおやお気の毒に」
失敗顔の庵にそう声をかけながらも、椛の手には二個目の柿。今度は気をつけながらぶどうを摘む庵を見守りながら、皮を剥いた柿をぱくりと齧るのだった。
●
「わ~この前の狸さんやん♪ 久しぶりやなぁ!」
「ぽーん♪」
おひさしぶりです、というように鳴いたたぬきは、ぽんぽこぽてぽて、喜びの舞を踊って濱城・茂音 (HATAKEの伝承者・h00056)を歓迎した。
「お、元気にしとった?」
「ぽん!」
「そかそか、それならええねん。ほな一緒に果物食べよ!」
「ぽこー♪」
良いお返事のたぬきと一緒に、茂音は実りのフロアを見て回る。
季節も種類も問わず、様々な果物がたわわに実っているけれど、茂音のとりあえずの目当ては決まっていた。
「欲しいのは蜜柑と林檎やね。お、ええ色のみっけた!」
「ぽん♪」
綺麗に色づいたりんごとみかんをいくつか収穫し、たぬきと共に水場の近くに腰を落ち着ける。
「りんごの皮は、これ使こて……」
茂音は八つに切ったりんごの皮を、持ってきたナイフで剥いていく。薄く長くくるくる切るのは難しいが、くし切りから皮を剥いていくくらいはできそうだ。
「このナイフ使うん久しぶりやわ~。いつ以来やっけ……多分、十年ほど前かなぁ」
小さめのナイフは、十年ほど前の茂音が家事の手伝いに使っていたものだ。あの頃は両親も祖母もいて、料理を一緒に作っていた。
もう、彼らはいない。家に帰っても彼らの声は聞こえない。優しい手も、温かな抱擁も、穏やかな眼差しも。
しゃり、しゃりとナイフを動かす茂音の手はだんだんとゆっくりになっていく。彼女の表情は少しずつ眉が下がり、かつての過去を見るような、しんみりとした潤んだ瞳へと変わっていった。
そんな彼女の足元に、たぬきがぽて、ぽてと近づいていく。物憂げな茂音を窺うように、そっと小さな声で鳴く。
「ぽこー……」
「ん? 何鳴いとるん狸さん」
「ぽん」
茂音はナイフを置き、寄ってきたたぬきを撫でる。温かな毛皮と温もりが、過去を見つめていた気持ちをすくい上げてくれた。
「そんなにうち、しんみりしとった?」
「ぽーん」
「ふふ、心配せんでええよー。大丈夫やからねー」
両親と祖母はもういないけれど、大切な祖父はあの家で待っていてくれる。茂音の大事なAnkerだ。厳しくも優しい彼がいてくれる。
「やからね、大丈夫なんよ」
「ぽこー……」
「さ、剥けたし食べよか! まずはりんごから!」
りんごはたっぷり蜜が詰まっており、甘みと穏やかな酸味が程よく味わえる。香りも良く、噛むごとにじゅわりと果汁が溢れてきた。
みかんの皮を剥けば、爽やかな香りが辺りいっぱいに広がった。一房齧れば、甘酸っぱい味が口いっぱいに広がっていく。
「……この蜜柑と林檎うんまっ!! 完熟やねぇ♪」
「ぽん!」
茂音は、がんばりました、というように鳴いたたぬきを撫でてやり、美味しい果物をもう一口、と頬張るのだった。
●
「知らなかった……こんなに素敵でかわいいたぬきさんがいたなんて……!」
霧島・光希(ひとりと一騎の冒険少年・h01623)が実りのフロアに訪れたとき、出迎えたのはたくさんの実りと、なんとものんびりした、かわいいたぬきだった。
「ぽーん!」
ようこそ、いらっしゃいませ。いっぱい食べていってくださいね! と鳴いたたぬきは、ぽてぽてぽんぽこ歓迎の舞を踊っている。光希の訪れも大変嬉しい、たくさん楽しいおいしい思いをしていってほしい、という気持ちに溢れているようだった。
「こんにちはたぬきさん、お出迎えありがとう」
「ぽん♪」
たぬきへと軽く頭を下げたあと、光希は敵に対する備えの防具を外すことで害意がないことを表した。流石に武器は外せないが、たぬきにその誠意は伝わっている。
これはこれはご丁寧にありがとうございます、とぺこんと頭を下げるたぬきに穏やかに微笑んで、用意してきたお返しの品を渡してから、光希はフロアを見渡した。
甘い香りといっしょに飛び込んでくるのは、ベリー類にメロンにスイカ、桃にスターフルーツ、柿や梨、りんごにぶどうなどなど。このフロアの特性に加え、たぬきの頑張りが実ったのか、季節も種類も問わずに様々な果物がたくさん食べごろを迎えていた。
「すごい!」
「ぽーん」
光希は豊かな実りにも、こんなに平和でいいところもダンジョンにはあるのだと知れたことにも、目を輝かせる。
「すごいねたぬきさん、すてきなおもてなしだ」
「ぽこっ」
足元でどやっとしているたぬきを褒めたくなって言葉を伝えれば、たぬきは嬉しげに鳴いて、いっそうくるくるぽってぽてと、飛び跳ねるように回って踊ってみせた。
もちろん果物をただ見て回るだけではもったいない。せっかくの実りを味わわなくては、と光希はまずベリーの類を摘んでいく。
「甘酸っぱい……!」
赤く色づいたいちごは甘く、つやつやと大振りなものも、小振りなものも楽しめる。クランベリーは酸味が少し強く、持ち帰ってジャムやソースにしてもいいだろう。ラズベリーや、少し黒みがかったマルベリーは甘酸っぱさと一緒にぷちぷちした食感も楽しめる。
それから手を伸ばすのは桃とスターフルーツ。一つもいだら、|竜漿短剣《イグニス》を使ってまずは桃から綺麗に色づいた皮を剥いて、実を切り分けておく。スターフルーツは緑の縁を削ぎ落とし、星型を活かしてスライスした。
「うーん、瑞々しい。おいしい……!」
しっかりした肉質の桃は、食感も心地よい。甘みもたっぷり詰まっていて、香りもふくよかだ。とろりと柔らかな食感の部分はより甘く、少し固めの部分は爽やかな甘みが味わえる。スターフルーツを齧ればシャキシャキとしていて、トロピカルな風味と甘酸っぱさが口の中を満たしていった。
「スターフルーツって初めて食べるけどこんな感じなんだ。いいね」
「ぽん♪」
いいでしょうそうでしょう、とむふんと胸を張るたぬきは、たくさん食べてもらってうれしいと言わんばかりだ。
「はい、たぬきさんもどうぞ」
「ぽんっ」
ここにあるものは、たぬきの頑張りで実ったものだ。だからたぬきと一緒に味わいたい、と光希は積んだ果物を差し出した。
たぬきはいいんですか、と窺ってからぱくっと果物に食いついて、その美味しさにふわふわぽこぽこ幸せそうな顔を見せた。
「おいしいね」
「ぽこー♪」
のんびりしたたぬきと一緒に果物を味わうと、なんだかいっそう美味しさを感じる気がしてくるから、もう一つ食べようかどうしようかと、フロアを再び見渡す光希なのだった。
●
たぬきがおもてなしをしてくれるダンジョンの話を聞いて、古出水・蒔生(Flow-ov-er・h00725)が真っ先に思い浮かべたのは、リーガル・ハワード(イヴリスの炁物きぶつ・h00539)と、彼のインビジブルであるエゾタヌキのグレンデルのことだった。
(果物なら、甘すぎるものは好きじゃないって言うリーガルさんも一緒に楽しめるかも!)
それはとってもいいことだ。ちょっとツンとしているけれど、優しい王子様と一緒にすてきな時間を楽しみたい。
だから、蒔生はリーガルのもとに赴いて挨拶をしたあと、まずはグレンデルを誘う。将を狙うなら、馬ならぬたぬきから落とすのだ。
「ね、グレンデルちゃん、たぬきと一緒に恩返ししない?」
「恩返し?」
蒔生が勧誘するのに合わせ、リーガルはグレンデルを実体化した。
恩返しとは、と不思議そうなリーガルとグレンデルに、蒔生はたぬきの出るダンジョンの話をする。そのたぬきと一緒に、グレンデルも恩返しをしないかと勧誘したい、ということも。
「へえ、たぬきがおもてなし」
リーガルは、危険はなさそうだし、蒔生も乗り気のようだし、と少し思案してから頷いた。
「果物がたくさん、か。まあ、秋の味覚を楽しめるなら行っても――おっと。グレンデル待て」
『じぶん、喜んで行きます』と蒔生の方へ、ととと、と近づくグレンデルに、リーガルは待ったをかける。
並んで首を傾げる蒔生とグレンデルに、リーガルはこのお出かけに必須の道具を取り出した。
「行くなら迷子防止と識別用に首輪とハーネスをつけるぞ」
「そうだね、グレンデルちゃん、はぐれたら大変だもんね」
『安心、大事です』と、グレンデルも首輪をつけてほしい、と大人しくリーガルの手を待つのだった。
さて、出かける準備を終えた二人と一匹は早速ダンジョンへと向かう。
グレンデルのハーネスに繋がったリードを持つリーガルの腕を、蒔生がしっかりがっちり掴んで、にこにこと嬉しげである。
「蒔生。そんなにしなくても行くよ」
「わかってますー」
半目ジト目を向けたリーガルの確認にも、うきうきと蒔生は頷いた。エスコートしたい、という気持ちの他に、ちょっとだけ腕を組んで行きたい、という気持ちもあったかもしれない。
リーガルの腕を引っ張りながら、ふんふん童謡を口ずさむ蒔生は、とっても機嫌が良さそうだ。
(……でも、いやにご機嫌だな)
いつも以上に楽しげで、なにかわくわくとしているような風情すら窺える。
「…………何か企んでいないよな?」
「そ、そんなことないよ? ねー、グレンデルちゃん!」
『そうだと思います』とグレンデルも同意するように首を縦に振っていた。
もちろん、蒔生の言葉に嘘はない。別に悪いことは企んでいない。ただちょっと、やってみたいことがあるだけで。
ジト目が直らないリーガルに、蒔生は話を変えることにする。
「そんなことより、リーガルさんは果物って何が好き?」
「果物はあまり好き嫌いはない方だと思うが、強いて言うなら洋梨とぶどうかな。あとは桃とか」
「そうなんだ。わたしね、梨! ぶどうも好き!
「ぶどうは、蒔生と一緒だな」
「そうなんだ……あ、グレンデルちゃんはどう?」
『じぶん、何でも食べます』と言いたげなグレンデルに、リーガルも蒔生も、いい子だと頷いてみせた。
件のダンジョンの、実りのフロアに足を踏み入れれば、一行を豊かな実りが出迎える。
あちらこちらに美味しそうな果物がたわわに実っており、収穫されるときを待っていた。
遠目には、話にあったたぬきが訪れる人々を歓迎しているようで、ぽてぽてとのんきに歓迎の舞を踊っているのが見える。
早速果物を楽しもうと、蒔生はきょろきょろフロアを見渡して。
「あ! ほらリーガルさん、梨! わたし剥いたげるね!」
美味しそうに色づいた大きな梨を一つもいで腰を下ろし、皮を剥き始める。リーガルもその向かいに座り、グレンデルはちょこんとその隣に並んでいた。
ただ、手袋をしたままの皮むきは難しい。梨もナイフも錆びさせないためには必要な措置だが、手の感覚や指先の動作などがうまくいかないのも当たり前で。
最初は薄く剥けていた皮も、どんどん身がくっついて、分厚くなっていく。
「――おい。その梨、皮が剥きづらいのなら僕が剥く」
「大丈夫! て、手袋なかったらもっと上手にできるもん!」
「そうだろうが、今は無理だろう。僕でもそれ位はでき――」
「食べられない訳じゃないんだからいーでしょっ、はい! あーん!」
「はあ!?」
やや小さくなった梨が切り分けられ、言葉を続けようとしていたリーガルへと差し出された。思わず声を上げたその口元へ、蒔生はぐっと近づけていく。
(いや。食べられなくはないのは分かるが、あーんて)
どうすべきか、どうしようか悩むリーガルだが、蒔生は梨を持ったままじっとこちらを見つめてくるし、太腿にはグレンデル前足を置いてぱかっと口を開けて自分の番を待っている。
ぐぐっと迫る蒔生と、『おいしそうです』と待つグレンデルに挟まれたリーガルは、プレッシャーに負けて口を開けた。
「……あ、あーん」
「はい、どうぞ!」
蒔生の手から、リーガルの口元に梨が運ばれる。しゃくりとリーガルが梨を噛んでいけば、蒔生はやった! と喜んで顔を綻ばせた。
「ね、おいしい?」
「あ、ああ」
気恥ずかしさで梨の味がよくわからないことになっているが、多分おいしいはずだ、とリーガルは頷いた。耳のあたりが何だか暑い気がする。
ぱっと顔を輝かせて、もう一切れ、と切り分ける蒔生に、リーガルはグレンデルをそっと押し出した。
「ほ、ほら。グレンデルが順番待ってる」
「んふふ、グレンデルちゃんもお待たせ! あーん」
しゃくっとかじりつき、『おいしいです』と喜ぶグレンデルに、蒔生はにこにこしていた。そのまま再び梨を切り分けて、一切れは自分で食べてみる。しっかり甘くてみずみずしい美味しさに、ふわっと顔を緩めた。
その表情によかったな、という顔をしたリーガルへ、蒔生はもう一切れ、と差し出してみる。
「はい、あーん」
それをあーんと食べたかは、二人と一匹だけが知っている。
第2章 冒険 『花の道行き』
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心ゆくまで果物を楽しんだならば、今度はお芋の出番である。
たぬきは、こっちです、というように、とある通路へとぽてぽて歩いていく。
縦にも横にも余裕にある通路は、何の変哲もない、地面と壁、天井の通路に見えた。
しかしそこをたぬきが歩くたび、ふわりと花が咲き始める。
一歩一歩、ぽてぽてと行くたびに、可愛らしい花や美しい花、みずみずしい花が咲いては消えて、また咲いて。
ここは花の道、歩く者の想いのかけらや記憶の一片を種にした花の咲く道。
楽しい思い出にも、悲しい記憶にも、怒りのかけらにも、喜びの想いにも、花が咲く。