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さくら、お花見、春灯祭
はらり、ひらり、くるくると。
舞い踊るひとひらたちが染め上げるのは、この時期だけの特別な春の色。
√妖怪百鬼夜行の世界にある公園は、一足先に桜が満開に咲き綻んでいる。
だって……ほら、今年も桜を咲かせようか。ほれほれ、見事な桜だろう? って。
花咲か妖怪たちが待ちきれずに、公園中の桜を満開に咲かせたから。
でも、それは悪戯ではなくて。何せ今宵開かれるのは、桜の祭りなのだから。
麗らかな春の陽を浴びてのどかに咲く、昼の桜。
灯された光と月に照らされて美しく幻想的に浮かび上がる、夜の桜。
今日はそのどちらも満喫できる、絶好のお花見日和。
桜が咲き誇る公園内は、十分に広いけれど。
その中でもより良い場所を、日中からばっちり確保しておいたり。
青空の下、昼の桜を眺めながらのお花見も勿論楽しめるし、公園の中央にある広場には昼から屋台も並んでいる。
そして、公園の近くにある妖怪百貨店も、今だけ満開の春色。
日中は『桜フェア』が行われている百貨店巡りをしてから、夜に開かれる『春灯祭』に赴いてもいいだろう。
妖怪百貨店の今の目玉は、美味しさも爛漫な花見弁当や桜スイーツが買える、春グルメの催事。それにいわゆるデパ地下でも、桜にちなんだものや妖怪世界ならではな、食べ物や飲み物などを調達したり味わえたりもできるし。成人していれば、春らしい酒類も買えるだろう。
あとは、√コレクションも近いから、春ものの服や桜の装飾を見たりだとか。本屋や文房具屋や雑貨屋などで、桜の栞やブックマーク、文具や日用品等を見てみてもいいし。春限定の桜コスメを買ったり、桜デパコスでプロの妖怪化粧師に春メイクやネイルをして貰うのもまた気分が変わって良いかもしれない。
それから夜になれば、はじまるのは『春灯祭』。
日が落ちた頃、妖怪たちが、仄かな灯火を数え切れないほどたくさん燈して。
柔く降る月光と共に満開桜を照らしては、春の夜に美しく浮かび上がらせるという。
そんな光を纏う幻想的な桜を愛でながら、夜桜の花見を存分に楽しめるし。
公園の広場には屋台もずらりと並ぶから、花より団子のグルメ三昧も堪能できる。
この祭り限定の屋台や妖怪グルメが楽しめるもあるようなので、要チェック。
勿論、手作り弁当や購入品を持ち込むこともできるし、屋台並ぶ広場で現地もできるというわけだ。
だが、そんな桜咲く祭りに潜むのは――人を化かす存在と、化かされた存在。
化かす存在は、上手に夜桜に紛れているようだけれど。
決して、機が訪れるまでは気づかれないように。
でもしっかりと、その尻尾をつかまえて、こらしめるためにも。
桜咲く中で密かにはじまるのはそう、化かし合いのかくれんぼ。
●桜尽くしな一日
「すっかり春めいてきたな。ということで早速だが、春のお出かけなどどうだろうか」
楪葉・伶央(Fearless・h00412)は穏やかな笑みで皆を迎え、礼を告げてから。
星詠みの内容を語り始める。
「今回皆に赴いてもらうのは、√妖怪百鬼夜行だ。凶暴で他者の血肉を喰らう危険な「古妖」の封印は、√妖怪百鬼夜行の各地に存在するが。「情念」を抱えた人がこの封印に引き寄せられ、その願いを叶えるという約束と引き換えに、古妖を封印から解き放ってしまったようだ」
解き放たれた古妖を自由にのさばらせておく訳には当然いかないし。
封印を解いてしまった人も、また同じ過ちを犯してしまいかねないから。見つけられれば、何らかのフォローをしてあげられるといいかもしれないし。
また、古妖や人々に怪しまれぬよう、春のお出かけを目一杯満喫している一般人のフリをすることも必要だろう。
そして時が来れば、解き放たれた古妖を倒す――これが今回の依頼である。
それから伶央は、詳細を説明する。
「古妖を解き放った人は、大学合格を約束すると古妖にそそのかされたようだ。そして結局は結果も出せずに、自責の念に駆られ、「自分の願いの為には必要だった」と自分にいい聞かせるように、祭りがおこなわれる公園や妖怪百貨店で春グルメをやけ食いしたり、桜を呆けたように眺めたりしているらしい。そして解き放たれた古妖は、巧妙に次にそそのかすターゲットを探しつつ人に紛れ、満開桜咲く祭りの会場にいるという。だが祭りは夜なので、日中は自由に過ごしてもらって構わないし。夜の桜祭りでも、敵に怪しまれないように、花見や屋台巡りを楽しんでいる客を装う役割を担う人も必要だろうし。古妖を解き放ってしまった人に声をかけたりなど、色々と行動できる時間は十分にある」
敵が尻尾を見せるのは、夜に公園で催される『春灯祭』が終わる頃の時間。
なので、それまでは自由に過ごせるというから。
敵に怪しまれぬよう一般人を装うべく、公園の桜や百貨店や花見を楽しむも良し。封印を解いた人を探してみてフォローしてみるのもまた良し。
他にもやれることをできる時間は伶央も言うように、十分なほどにある。
そして、解き放たれた古妖が尻尾を見せれば、機を逃さずに倒して欲しいというのが、今回の依頼内容である。
そこまで星詠みの説明した後、皆を見回して。
「古妖を退治するのが一番の目的だが、時間までは自由に過ごして貰って構わないし。桜咲く春を目一杯楽しめば、敵を欺くことにもなる。それに、妖怪世界ならではな珍しいものもあるだろうし、燈される灯りと夜桜も美しいのだろうな」
だから、折角なのでお出かけも楽しんできてくれ、と伶央は小さく笑んだ後。
改めて、よろしくお願いする、と丁寧に頭を下げて皆を送り出すのだった。
これまでのお話
第1章 日常 『お祭りを楽しもう!』

――さぁ、今年も桜を咲かせようじゃぁないか!
――桜、さくら、爛漫、満開じゃ!
春が訪れれば、花咲か妖怪たちは大忙し。
何せ『春灯祭』が催される公園はとても広くて、桜の木も数え切れないほど。
でもそれ以上に皆が春の季節を、そして、春の祭りや花見を楽しみにしていたから。
緑溢れる公園の敷地が、満開の桜色に染まってゆく。
けれど張り切っているのは勿論、花咲か妖怪たちだけではなくて。
満開桜を照らす数多の灯篭の設置に、屋台の準備等々、妖怪たちは皆大忙し。
そして、花見や祭りの準備をする妖怪達もだけれど。
春の訪れに心躍らせる花見客だって、準備万端で春を目一杯楽しみたい。
公園内はどこでも、満開に桜が咲き誇っているけれど。
折角ならばより良い場所で花見をしたいという人も多いはずだし。
日中の桜と夜の桜は、雰囲気や印象ががらりと変わるから。
春の陽光を浴びて青空に咲く昼の桜を眺めながら、場所取りをしたり、日中から花見に興じても良いし。ぶらりと公園内をお散歩したり、昼からすでに沢山の屋台が営業している広場で早速屋台グルメ三昧も楽しめる。
また、公園近くの妖怪百貨店では、花見にうってつけの春の弁当フェアの催事がやっていたり、デパ地下で色々なものが買えるから、立ち寄ってからでも良いだろう。百貨店では、食べ物だけでなく、全館あげての『桜フェア』が催されているというから、花見の前にデパート巡りをするのも楽しそうだ。
●春の妖怪百貨店巡りのご案内
妖怪百貨店でまず注目するのは、春らしい弁当や総菜を集めた催事。
桜花や花弁型に飾り切りされた旬の素材を使った「幕の内弁当・桜」やちょっぴり豪華な気分になれる「春の爛漫御前」。
ころんとひとくちサイズで食べやすく桜モチーフが凝っていて可愛「春の手まり寿司」、見目華やかな「春彩ちらし寿司」、桜色の酢飯に春の具材が詰まった狐さん型の「桜お稲荷さん」も人気のようで。桜色クリームと様々な果物が入った「桜フルーツサンドセット」や、桜型のキュートな弁当箱に入った「桜おこさまランチ」などの洋風のものもある。
それに、弁当の催事場だけでなく、定番のデパ地下でも、色々なものが購入できる。
自作のお弁当に少し追加したり、弁当ほどがっつりではなくちょこちょこ摘まみたい人にはうってつけな、様々な総菜が買えるし。
桜花弁があしらわれた「桜あんぱん」「桜カレーパン」「桜色メロンパン」などが春限定で売っているベーカリーもある。
そして花見の準備もできるが、単純に妖怪百貨店巡りを楽しむのもいいだろう。
ビューティーフロアでは、春コスメの販売やお化粧サービス、ネイルサロンがあり、男性の利用も勿論大丈夫。
桜リップや桜チーフは春らしい限定色でパケも桜があしらわれていて大人気。
ネイルサロンでは、色やモチーフお任せでもいいし、指定もできるから、春のお出かけに彩を添えてみるのも良いだろう。
コレクションも近いので、ファッションフロアで服や装飾品を見るのも良いし。
アクセサリーフロアでは、限定桜デザインのものも沢山。可愛いものから男性もつけられるシックなものまでお好みで選べるし。
日用品売り場で、生活に必要な雑貨や家電やキッチン用品などを桜色や桜型のものにすれば、家の中も春色に。
文具店では、春限定の桜インクや桜万年筆、手帳など、心くすぐる桜モチーフや春色の文具がいっぱい。
それに何せここは妖怪百貨店だから、謎の妖怪風な、面白くてへんてこなものも。
「妖怪花見弁当」は、一つ目ミートボールや桜おばけご飯、ぬりかべこんにゃくの煮つけやタコ入道ウインナー等が並んでいて。
弁当の催事場の一角で催されている妖怪市は、いわくつきな不思議なものがずらり。
デパ地下妖怪スイーツも、不思議な色をしていたり、どんな味がするかわからないものも沢山あるし。妖怪メイクや妖怪ファッションなどに挑戦してみても、いいかもしれない……?
●昼のお花見も勿論楽しめます!
桜のお祭り『春灯祭』が本格的にはじまるのは夜からだけれど。
昼からも勿論、満開桜の公園で花見などを目一杯楽しめる。
むしろ昼と夜の桜を同時に楽しむ、桜三昧な過ごし方というのもまた乙だ。
公園には、手作り弁当の持参も勿論できるし、購入品を持ち込んでも大丈夫。
また、夜から開く屋台も一部あるものの、日中から公園の広場には沢山の屋台が並んでいるので、現地調達もできる。
屋台を覗いてみれば、わた飴やチョコバナナやリンゴ飴などの定番の甘味は勿論。香ばしい焼きトウモロコシや焼き鳥、イカ焼きやタコ焼き、焼きそばやお好み焼きなどの鉄板焼き等々、祭りならではな定番メニューは勿論のこと。桜や春にちなんだ限定メニューやドリンク、成人していればアルコール類もあるという。
例えば人気なのはやはり、パステルカラーのグラデーションがキュートな春色わたあめや、桜モチーフ満開のお花見パフェや桜あんみつ、桜色ソフトクリームに桜苺ドーナツ、桜色の猫型をしたお花見猫さん団子などのお花見スイーツ。桜モチーフだったり、桜のようなピンク色をした甘味も、春爛漫。
そしてこの祭り限定の飲み物とえいば、からんと音を立てる桜模様のビー玉が瓶の中でころがる、桜ラムネ。しゅわり弾ける味わいは、青空ソーダ、夜空グレープ、桜空苺サイダーの三種類から選べて。
他にも、桜ストロベリーラテや桜タピオカミルクティー、桜紅茶や桜茶などの、春らしい飲み物であったり。
夜に開く屋台バーもあるようだが、成人していれば昼からでも、春色をした「桜ビール」や「|桜舞《さくらまい》」という名のふわり優しい飲み口の日本酒、他にも各種アルコール類も用意されている。飲み過ぎない程度に楽しむのも問題ないだろう。
それに、食べ物の屋台だけでなく、桜柄のヨーヨー釣りや桜色水槽の金魚すくい、桜型抜きや射的などの遊べる屋台だったり、お面を売っている屋台など。
他にも屋台は沢山あるから、目に留まった好みの店へと足を運んでみたり巡ってみるのも楽しいだろうし。
これらの屋台は、夜でも同様に楽しめるので、夜の祭りも楽しむならば時間差で満喫ことも可能だ。
今日は天気も良く過ごしやすい、絶好のお花見日和。
桜満開な時間をどう楽しむかは、勿論、貴方次第。
目一杯、色々なことをして欲張ってもいいし。
がっつりとひとつのことを楽しむのも、また良き。
さぁ――桜尽くしな一日をいざ、爛漫に楽しもう。
<マスターより補足>
第1章の時間帯は、午前午後問わず、明るい時間帯(朝~夕方頃まで)です。
夜の時間帯を楽しむのは、第2章でとなります。
時間帯が明るいうちであれば、百貨店と日中の花見は、どちらとも楽しんでいただいても大丈夫です。
百貨店では、お花見準備だけでなく、単純にデパート巡りやお買い物を楽しんでいただいても構いません。
また、お好きな章に、何名様ででもお気軽にご参加ください。
第1章のみでも、第2章から知り合いさんと合流でも、第1章と第2章で別グループでの参加でも、それに勿論3章通してでも、自由にお好みでどうぞ!
はらり、ひらひら、淡い彩りが舞い降る春の日。
麗らかな晴天広がる今日は、絶好のお出かけ日和。
ひたすら何もしないで引き籠って過ごす休日というのも良いのだけれど。
(「いつも仕事に追われて疲れているからね」)
だから、たまには楽しく過ごしたいって、岩上・三年(人間(√妖怪百鬼夜行)の重甲着装者・|載霊禍祓士《さいれいまがばらいし》・h02224)はそう思ったから。
足を向けたのは、√妖怪百鬼夜行にある広い公園。
満開に咲く桜や舞う花弁たち、ぽかぽか陽気や爽やかに吹く春風。
そんな春の景色の中を歩いてみれば、わくわくそわりと、気持ちもちょっぴり明るくなるような気がして。
(「たまに休みの日にはぱぁーっとしたい気分だった時にこの依頼があって良かった!」)
上司の小言に説教、仕事量に見合わない給料や人間関係のギクシャク等々。
何かとストレスの多い日々に疲れている心も癒されるような感覚。
それからいつものように猫背でそっと、でも密かに心躍らせながらも、三年がやって来たのは賑やかな公園の広場。
そして、花見酒を楽しむ為にまずは、並ぶ屋台を巡ってみて。
缶のクラフトビール片手に、焼き鳥とイカ焼きやタコ焼きも買って。
屋台の戦利品をはむりと味わい、それから口に運ぶのは、ホップの苦味がたまらないインディアペールエール。
小麦色の濃くて苦い、度数高めなアルコールで、口の中の脂をごくごくと洗い流せば。
(「マカロニチーズにチリコンカンも美味しそう!」)
屋台の定番を味わった後は今度は、お酒にこれまたぴったりな、好きなアメリカ料理系の屋台を見つけては巡ってみて。
他人の邪魔にならないように……と、一人で静かに騒がずに過ごしながらも。
満開桜の下で、次の肴のアテを買ってはほくほくと、それも勿論美味しく食べちゃいます!
春空から舞い降る花びらたちも心なしか楽しそうに、くるりひらひら。
桜が満開に咲いた今日は、良いお天気に恵まれた、絶好のお花見日和。
そして柔らかな陽光が降る中、薄紅に染まる園内に足を踏み入れれば、その賑やかさに心もわくわくそわり。
だって、今日は何と言っても。
「お祭りだ~っ……!! 屋台、スゴイ、雰囲気だけで楽しい……!!」
「へ~! ボク、ちゃんとした"お祭り"に初めてきました」
春の訪れと満開桜の花見を目一杯楽しむ、お祭りの日なのだから。
そんな桜の祭り『春灯祭』は夜からが本番ではあるのだけれど、でもそれはそれとして、日中の桜もまた夜とは違った雰囲気が楽しめるし。
八手・真人(当代・蛸神の依代・h00758)やヨシマサ・リヴィングストン(朝焼けと珈琲と、修理工・h01057)が視線を巡らせている公園の広場には、すでに準備万端、ずらりと並んでいるから。
「お祭りと言えば出店! 屋台!」
そう、マリー・エルデフェイ(静穏の祈り手・h03135)が言うように、お祭りの醍醐味である出店や屋台がたくさん。
ということで!
「お花見は夜に満喫するとして、昼間は屋台巡りをしましょう!」
皆でまずは、屋台巡りを目一杯堪能します!
そんな屋台を、物珍しそうに見ているのはヨシマサ。
「√ウォーゾーンではテントでの炊き出し自体はよく見ますけど、こんなウキウキした空気のものが大量に並んでいる様子は見たことないから不思議な気分です」
野外で用意された食べ物を受け取るという点では、確かに配給と一見似ている……かも、しれないけれど。
まじまじと屋台の店先を見つめながら、ヨシマサは興味津々。
「それに配給量は一食分じゃなくて一品制なんすね~。選び放題だ!」
必要な分の食料を配っているのではなく、ポップだったりがっつりだったり甘い物だったり、多種多彩なものを自由に好きなだけ選べるのだ。
そして日南・カナタ(新人警視庁異能捜査官カミガリ・h01454)は、不思議と知識としてはあることもあって、あたかも知っている風に見えるのだけれど。
(「シャドウペルナとして目覚めてまだ1年満たないんでお花見初めてなんだよね……だからすっごい楽しみ!」)
実は花見ははじめてで、この√妖怪百鬼夜行自体もはじめて訪れたから。
「は~~~、綺麗~~……」
満開に咲く桜を実際に目の当たりにして、感嘆の溜息を漏らしたりしつつ、感動したりだとか。
「お店の数がすごく多いですねーっ。って、店主さんが妖怪なんですかーー!!?」
広場に並ぶ屋台の多さと、その店主が妖怪だということにびっくりしたりだとか。
きょろきょろうろちょろ、人も多いし今にも迷子になりそう、なのだけれど。
「桜ー桜ー♪ あ、カナタンこっちだよー」
十六夜・宵(思うがままに生きる・h00457)は機嫌よく歌いつつ……カナタンの制御と先生役任されました! と。
屋台のあれこれをレクチャーしたりつつも、幼馴染が迷子にならないように、頑張って引っ張っていきます!
それに、勿論。
「美味しいものいっぱい食べようね」
春のお祭りグルメも一緒に、目一杯楽しむつもり。
そんな、ばっちり介護されているカナタとお世話する宵の、幼馴染ふたりの様子を微笑ましく眺めつつ。
「遊べる屋台もあるみたいですケド……やっぱり食べ物屋さんが、気になっちゃいますよね」
真人の目がやはり向いちゃうのは、良い匂いがする食べ物の屋台で。
ヨシマサも射的屋台のヨーヨーなどの玩具の景品は少しだけ気にはなったものの、顔にめちゃ当たった過去をそっと思い出しては今回はやめておくことにして。
マリーはいつの間にか早速、パステルカラーのふわふわ春色わたあめをゲット済。
しゅわり溶ける甘やかさに舌鼓を打ちながらも、ぐっと気合十分。
「さあ皆さん、お祭りの屋台グルメは制覇がマナーですよ!」
次は、心擽られたお花見パフェの屋台へと嬉々と足を向けて。
目についた傍から色々なお花見スイーツや春グルメを、あれもこれもと買っていきます!
いや、そんな屋台グルメは確かにどれも魅力的なのだけれど。
カナタはおずおずと訊いてみる。面白珍しいものを見つけては……買ってもいい? って。
一応星詠みの依頼だから経費で落ちるのか否か、当然気になるところではあるが。
「お金の心配は要らないです、今日の為に貯金をおろしてきたので軍資金も潤沢です!」
「マジすか!?」
マリーの謎の財力に、思わず声を上げてしまう。
というわけで、お金の心配もないということで、心置きなくあれもこれも皆で見て回って。
「日持ちしそうな物は三課の皆さんへのお土産にしましょうね」
とは言え食べきれないのは分かり切っているので、おなかいっぱいになった時のために、お土産にできそうなものもチョイス。
これも、謎の財力の賜物です!
そしてヨシマサと真人も、気になったものをそれぞれ選んでみて。
「じゃあ~、ここの焼きそばと焼き鳥とポテトフライ、たこ焼きとお好み焼きと……」
「桜のスイーツ……綺麗だし、おいしそう……」
「デザートもかわいいっすね!」
「お花見、って感じがするし……記念に、ドーナツとお団子、1つずつ食べちゃお……」
真人がそう、春らしいドーナツとお団子をひとつずつ買ってみた後。
「えーと、桜あんみつ、苺ドーナツ、桜餅……」
「っていうかヨシマサ先輩見かけによらず食べますね!?」
「色々ありすぎて迷っちゃいますが、いっそ気になるもの全部買っちゃいましょう!」
「ヨシマサさんもマリーさんも、すごい勢い……」
ヨシマサとマリーの買いっぷりの良さに、カナタと真人も思わず瞳をぱちり。
けれど、当のヨシマサもそんな声にきょとりと首を傾けるも。
「……え、食べすぎ? いや、このぐらいならイケますって」
メチャ・食うモードの彼は、まだまだ余裕そう……!?
そんな言葉を聞けば、真人もその食べっぷりにはニッコリしちゃうし。
「で、でも——いっぱい楽しまないと損、ですよね……!」
「皆もいっぱい食べてる僕も食べるー!」
宵もそう、改めて並ぶ屋台をわくわくきょろり。
「あったかくなって来たから冷たいものもいいなあ。あるかな?」
「あ、すみません! 青空ソーダっていうのもください」
そうすかさず注文したヨシマサに続いて、カナタを手招きながらも。
「あ、サイダーいいなあ。僕たちもこれのもうよ。カナタン」
サイダーをお揃いでふたり分、ちゃりーんと購入です。
それから、後はソフトクリームも食べたいなーなんて言いつつ、しっかりゲット。
ちまちま早速食べている宵の何処に入ってるのかってくらい、あれもこれも食べています。
けれどきっちり、カナタの動向には目を配って、迷子になりそうな幼馴染を引っ張っては連れ戻して。
彼のおかげで逸れずに済んでいるといっても過言ではないカナタは、また新たなものを見つけ、駆け寄ってみてから。
「タコ入道ウインナーだって!」
美味しそうにぱりっと焼けているそれと、じいと暫しお見合いしながらも、ぽつり。
「タコ入道ってたこすけ先輩の……親戚?」
「タコ入道さん? とは……面識ない、ですね……」
真人の背からうにょんと伸びるたこすけとは、親戚ではないみたい。
そして沢山すぎる戦利品をほくほく抱えているヨシマサは、ふと耳に聞こえた声に首を傾けてから。
「……あっ、ここも電子マネー扱ってないんすね? ヤバ、財布に入れてた現金なくなっちゃったかも」
「電子マネー……さすがウォーゾーンっ子……」
真人がそのハイテクさに呟きを落とす中、カナタへと視線を向けて。
「……カナタくん、ボクの代わりにATMで現金出しに行ってくれません?」
「って、なんでやーーーー! 出し子ですかーーーー!!」
自分も何気におまわりさんなのだけれど……まさかの詐欺罪で逮捕案件!?
そしてそんな、詐欺ダメ絶対にっ、とふるふる首を振るカナタの姿を見れば。
「……えっ、出し子? 犯罪?」
ヨシマサはちょっぴり考え直してから、改めて。
「そっか〜……ん~……じゃあお弁当を買って来て下さい」
パシリ……いえ、こうお願いを――デパート限定の桜幕の内弁当ってやつ! と。
というわけで!
「やだな、パシリじゃないですって〜、ほら、宵さんと一緒に行って来て下さい。弁当分の電子マネー送っとくんで〜」
そう百貨店へとおつかいに行くふたりを見送りながら、ヨシマサはほっこり。
「ふふ〜、宵さんの助け舟になったかなあ? これ」
「春だけにぴったりですね! うんうん」
……あれが青春なのかな? なんて。
彼のパシリ作戦大成功に、そう和むマリー。
カナタと宵のふたりのやり取りを眺めていると、微笑ましくて。
そう――宵がそっと呟くのを、さり気なく耳にしたから。
「後ね、そのね。宵ちょっとコスメも見たい、なーって。可愛い色もあるから……ちょっと見たいなって、ダメ……かなあ?」
百貨店に向かう道中にもそう訊く彼の要望は、ダメなんかじゃきっと全然ないから。
桜幕の内弁当を買った後、ふたりで買い物も楽しんで来られるようにと。
それから、はむはむ相変わらず沢山食べては、お花見グルメを思い切り満喫するヨシマサやマリーと共に。
真人ももう一度、屋台へと足を向けてみる。
「俺の分とおんなじドーナツとお団子、喜んでくれるかな……」
兄ちゃんにも、持って帰ってあげたいな、って――美味しさ満開の春スイーツを、お裾分けしたいって思ったから。
満開の桜が咲き誇っているという春の報せを聞けば。
交わしていた約束の蕾も、満を持してふわりと花開く刻。
刻・懐古(旨い物は宵のうち・h00369)は、とある依頼の道中で彼らと約束していたから。
――“またの機会に、花見酒に興じよう”、って。
だから、満開の桜に春灯祭と聞いたら、真っ先に声をかけたのは付喪神の友人たち。
そして約束の日――祭り当日に至れば、思わず綻ぶ。
「三方で酌み交わすのは幾度目か。約束を楽しみにしておりました」
「ふふ。やっと花見酒が出来るのね。以前からお話していたからとても楽しみにしていたの」
誘いを受けてこの日を心待ちにしていた、六・磊(垂る墨・h03605)と壬生・縁(契・h00194)に咲く笑みも。
そんな本日の祭りの本番は夜、まだ明るい春空を見れば、始まるまでは随分と時間があるのだけれど。
早いうちから集ったのは何も、逸る気持ちだからだけではなくて。
「やはり花見酒なら清酒だろうか。めでたく金箔入りも良いね」
夜の祭りに向け、百貨店で酒やつまみを調達するため。
懐古はそうふたりと共に、花見酒に相応しい酒を吟味して。
「この日本酒、桜の香りがするんですって。味覚でも桜を感じる事が出来るなんて、贅沢ね」
縁が手に取ってみるのは、桜の香りに酔い痴れそうな逸品。
そして美味しい酒には、肴がつきものだから。
「酒の肴は……あら、春の手まり寿司? 美味しそうだわ」
そうころんと可愛らしくて美味しい春が咲く手まり寿司を彼女が見つけた隣で。
懐古は確信するように頷いて、即決。
「これはもう、絶対おいしいじゃないか」
枝豆に桜の塩漬けがのったおにぎりに惹かれて。
「こちらはフルーツサンドセット。甘いものもお酒に合うものね」
縁も美味しそうなものを見つければ、迷う事なく購入。
そんなふたりが着々と美味な準備を進めていくのを、六磊は瞳を細め、見つめながら。
「懐古さん、緑さん、お二人の品々も興味深いものばかりですね」
自分もと選んでみるのは、ふたりとはちょっぴり違う酒。
「僕は変わり種として果実酒にしましょうか。ちょうど三種セットになっていて、飲み比べできるようですから」
苺・桃・梅の、春を思わせる三種の果実酒をチョイス。
それから旬のものをさくりと揚げた、彩豊かな天ぷらもいくつか購入してみて。
「懐古さんと六磊さんが選んだ品も美味しそう」
縁は思わずそうわくわくと笑みを零して。
春灯祭に向けた品を探す最中、懐古は興味津々――そう、“二人の興味”にも。
そんな懐古が視線を向ける先、春灯祭に向けた品を探す最中で。
「おや、これはなんと……可愛らしい」
そっと開いた六磊の金のいろに映る花。
ふと雑貨屋で目に入ったのは、花は花でも、髪に咲かせる桜の髪飾り。
いや、普段は興味を刺激するような品ではないはずなのに。
六磊の手が伸びるのは、こうふと考えたから――あの娘に向けて、と。
そして食でも酒でもない、桜にちなんだ雑貨に吸い込まれてゆく姿を見て。
懐古は縁へとこう、ひそりと耳打ちを。
「あれは贈り物だろうね」
「あら、本当ね。どんなものを贈るのかしら」
そうして彼が選ぶ物にも静かに興味を向けていれば、やはり思った通り。
「……すみません、お待たせいたしました」
密かにと六磊は思っているのだけれど。
春色の包紙とひらり蝶々結びされたリボンでおめかしされたそれが贈り物であることは、見守っていたふたりには一目瞭然。
それから、買い物を済ませ公園へと足を踏み入れれば。
今度は懐古がふらりと、誘われる。
「ふふ、懐古さんは吸い寄せられているようでしたがお好みの品を見つけられたのでしょうか?」
そう六磊が縁と共に見つめる先には、何やら嬉々と屋台で購入している彼の姿。
気になるそれが何であるかはまだわからないけれど、でも楽しみにしつつも。
花見酒もよりすすみそうな、桜が見事に咲き誇っている絶好の場所を確保して。
懐古はひらり舞う花びらたちと共に、その心をわくわくと躍らせる。
――鯛焼きの素晴らしさを彼らへも語る時が来たか、と。
春を彩る満開桜の下、桜餡の鯛焼きを3つ、ほくほくと抱えながら。
晴れ渡る今日の春空を彩るのは、ふわりひらひら、淡い桜色たち。
そんな春の景色の中、薄墨に染まりゆく白桜のいろを花岡・泉純(櫻泉の花守・h00383)がより躍らせるのは、リリアーニャ・リアディオ(深淵の爪先・h00102)の姿を見つけたから。
「ごきげんよう! 今日はお花見日和だね」
だって、話を聞いた時に思ったのだ――桜フェア、あなたと見て回りたくて! って。
そしてリリアーニャも、桜の似合う彼女へと笑いかける。
「ごきげんよう、今日は誘ってくれてありがとう」
そんなふたりがまず向かうのは、ぐるりと見渡せば春爛漫な百貨店。
心惹かれるフロアはいくつもあるのだけれど。
「コスメもお買い物できるなんてすごいのね」
「限定色、やっぱり可愛い」
ふたりの足が止まったのはそう、春コスメコーナー!
そして泉純の声を聞けば、リリアーニャは大きく頷いて返して。
「この限定色、あなたに似合うと思ってた!」
桜色にミルクを流し込んだみたいに、甘やかなマーブル模様を描くアイシャドウ。
そんな淡く柔らかな彩りのアクセントになるのは、キラキラの煌めき。
「この白い部分がラメになっているみたい」
そして泉純は、おすすめしてくれた色にも一目惚れしたし。
「あ、このラメのアイシャドウ、夜桜みたいでリリアーニャちゃんに似合いそう!」
「え、こっちの色を私に? 試してみようかしら?」
リリアーニャに似合うって思った色も見つければ。
「お化粧サービスもあるみたいだね……!」
「どれも春らしくて素敵」
気になるものを見繕ったなら、実際にふわりといろを乗せてみることに。
そして軽くブラシでくるりと撫でてみただけで、まるで春告げの魔法のように。
「このチーク、一気に華やかになった! 桜ミルクみたいなアイシャドウもピュアな印象でとても好み」
「私も似合ってる?」
「わ、リリアーニャちゃん……とっても可愛い……!」
ぱっと互いを彩るのは、それぞれの桜色。
泉純の頬にふわりとチークが乗れば、ほんのり恋する乙女のようで。
ライトアップされた夜桜のように、青白く光るラメを乗せた瞼を瞬かせるリリアーニャの蠱惑的な雰囲気に、思わず見惚れちゃう。
そしていざ、どの春色を連れて帰ろうかと作戦会議するも。
「思いきって全部買っちゃおうかな……!」
もう、お財布の紐はゆるゆる。
でもそれも、必然の選択。
(「あなたとお揃いがとても嬉しい」)
(「お揃いなのも嬉しいな」)
心に咲く気持ちだって、ふたりお揃いなのだから。
そして夜の桜彩をひと足先に纏うリリアーニャに、泉純は言の葉を咲かせる。
「ふふ、この後のこと応援してるね!」
――素敵な夜になりますように、って。
そんな向けられたエールに擽ったさを感じながらも。
「ふふ、この後の予定への応援もありがとう」
リリアーニャは嬉しそうに瞳を細めて返す。
桜色の魔法で彩られた顔を見合わせて、ふわり微笑み合いながら。
春の訪れを感じる、穏やかな陽光が降る中。
話に聞いた桜咲く祭りに赴いてみるのは、シャリス教団の聖女様と教皇様。
そして、見事に桜咲く公園に足を踏み入れたリニエル・グリューエン(シャリス教団教皇・h06433)は、颯爽と紡ぐ。
「聖女様と共に『春灯祭』なる祭りへと参加するわ!」
でも、そう張り切って告げるの声に、レティシア・ムグラリス(シャリス教団聖女・h06646)はぱちりと瞳を瞬かせてから。
「えっと……今日はその、レティシアと名前で呼んでください……は、恥ずかしいです」
「え? 聖女様は恥ずかしい? ……では、せめてレティシア様と呼ばせてね?」
人も沢山いることだし、そっとお願いしてみれば、「様」付けこそ取ってはもらえなかったのだけれど。
でも気を取り直して、二人で桜咲く青空の下、祭りの会場を巡ってみることにする。
それからリニエルは、どこに行くか悩んだのだけど。
「やはりお祭りの会場に立ち並ぶ屋台巡りね」
沢山の良い匂いに導かれるかのように、ずらり屋台が並ぶ広場へと向かってみて。
きょろりと店々を見回したレティシアが、ふと見つけたのは。
「どれも美味しそう……、私はその、ソフトクリームなるものを頂きたく……」
冷たくて甘い、桜の彩りをしたソフトクリーム。
リニエルも、気になったものをまずはひとつ買ってみて。
「わたしは焼きトウモロコシを……、レティシア様はソフトクリームね?」
それからそれぞれ、焼きトウモロコシと桜色ソフトクリームをはむりと口に運んでみれば。
口に広がる味わいは、互いにとても美味!
そしてリニエルはレティシアと共に屋台グルメを満喫しながらも、こくりとひとつ頷く。
……今日くらいは二人して食べ歩きをしても、シャリス神も喜んで見逃してくれるはず! って。
いや、美味なものもたくさん堪能するつもりだけれど。
「ぁっ、射的ですって、やってみましょう!」
リニエルが見つけてレティシアを誘い、挑戦してみるのは射的。
射的なるもので遊んでみようとリニエル様に誘われ、レティシアもいざ実践!
そしてまずは初撃、リニエルは狙いを定め、満を持して引き金をひいてみるも……景品に当たるに至らず。
もう一度気を取り直してチャレンジしてみるも、またもやはずれ。
「……むむ、な、なかなか当たらない……」
折角聖女様のために景品を献上しようと、再び構えて狙いを定めていれば。
――ぽこんっ。
「えっと、こうして……ぁっ、当たりました!」
見事に景品を撃ち抜いてゲットするレティシア。
そしてさらに、続けてもう一撃。
――ぱこんっ。
「次はこう……、また上手くいきました、ふふ♪」
狙いを定めて引き金をひいていけば、次々と景品を撃ち落としていって。
「……って、ぇぇ!?」
「リニエル様、見てください! 私、がんばりまし……た……?」
ほくほくと両手に景品を抱えたレティシアはふと、きょとりと首を傾げる。
景品を手に持つ自分を見たリニエルが、何だかポカーンとしている気がして。
いや、これもシャリス神のご加護の賜物??
聖女様が抱える景品を目にすれば、驚きを隠せないまま、リニエルはこう思わずにはいられないのだった。
――レ、レティシア様の才能を垣間見たわ……、って。
ふと空を見上げれば、薄紅の花びらたちがよく映える青が広がっていて。
「晴れて良かったね」
「ふふ、ほんとうだね」
芟花・鐵(花散里・h00703)の声に、赤薔薇の瞳を細めて返すリリィ・ルーナ(無垢の華・h00375)。
そしてほわりとうれしさが咲いたのは、彼が差し出してくれたから。
「はぐれると行けないから」
大きな手をそう、当たり前みたいに。
だから、眼前のその手へとそっと指先を乗せながらも、リリィは思う。
……きみとこうして手を繋げるのが、ぼくだけだったらいいのになあ、なんて。
いや、たとえ彼女が何処にいてもみつける自信はあるのだけれど。
でもそれでも、その手を鐵が差し出したのは、欲しかったから――彼女と手を繋ぐ理由が。
そしてそっと相手の手のぬくもりを感じながらもやって来たのは、『桜フェア』が行われている百貨店。
外の桜も見事に満開に咲いていたけれど、でも、百貨店の中も桜や春の彩りでいっぱい。
「リファ、何食べたい?」
「うーん、何食べようかなぁ。おいしそうなものがいっぱいで迷っちゃう。桜ラテは絶対飲みたい……!」
鐵に訊かれ、リリィがまず外せないと選んだのは、ふわり春色をした桜ラテ。
それから、美味爛漫なお花見ごはんたちをくるりと見てみるも。
「食べ物はクロが食べたいものにしよう?」
彼の方がいっぱいご飯を食べると思ったから、そう提案を。
そしてその言葉を耳にすれば、鐵が手に取ったのは、ころんと可愛らしい春めいた手毬寿司。
それから、こう続けるのだった。
「二人で分けよう」
だって、鐵は知っている。
一人より二人で食べると美味しい、って。
そしてそんな喜びを教えてくれたのも、彼女なのだから。
それからふたり手と手を繋いで、賑やかな百貨店をくるりと巡っていれば。
鐵の目にふとついたのは、春風にひらりと躍る、まるで今日の景色のような春。
そんな、見つけた桜染めの桜の花が刺繍されたスカーフを購入して。
「夜は冷えるかもしれなからね」
差し出すのは勿論、隣の彼女へ。
それをくるりと首に巻いてみせて、はにかんで。
「わ……! ありがとう、クロ。とってもすてきだね」
リリィは彼へと赤薔薇の瞳を向けて訊ねてみる――どう、かな? なんて。
それからふと、くれたスカーフと同じ彩りが満ちる小さな瓶を手にし、購入すれば。
……お礼と今日の記念に、と。
鐵へと差し出すのは、目についた桜のネイル。
「私にかい?」
そう紡ぎつつも、彼女からの贈り物に、ありがとうと微笑んで。
汚れた己のにはあまりにも眩しい桜色だと、そうも思うのだけれど。
でも鐵は彼女へと、こんなお願いを。
「後で塗ってくれるかい?」
――君の手で染めてられたのなら、まるで祝福のようだから、って思うから。
そしてリリィも、もちろん、と頷いて返す。
だって、彼のその爪を桜色に彩ったなら。
「いつだってぼくを思い出してくれるでしょ?」
ふわりとそう花咲む。隠しきれない独占欲をそっと、満ちる春のいろに滲ませて。
ただでさえ、パステルの色合いと雰囲気に心躍る春がすきって、そう思うのに。
不忍・ちるは(ちるあうと・h01839)が仰ぐ今日の空は晴れやかで、春のいろがいっぱいに満ちていて。
薄紅が染める桜色の道をゆくその足取りも、わくわくととても軽やか。
だって今日はいつもよりぐっと意気込んで、いざ向かうは――いわゆるデパ地下!
そして、ちるはがそんなデパ地下へと導かれし目的は……そう。
(「限定の桜あんぱんを買いたいから!」)
というわけで、逸る気持ちを抑えきれずに。
焼き立てパンの香り漂う、百貨店の地下にあるベーカーリーへと直行すれば。
刹那瞳を輝かせ、ぱあっと満開に喜びを花開かせる。
だって、お目当てはすぐに見つけられたのだから。
ほんのりしょっぱい桜花弁となめらかなこしあんと酒種のふかふか生地。
そして、手のひらに収まるころんとまんまるフォルムのかわいらしさ――。
(「あああ、すき……」)
心に満ちる幸せもふわふわ、春のように爛漫で。
恒常ももちろんすきなのだけれど、でもやはり、その魅力には抗えない。
――限定に惹かれてしまうのは真理だから、って。
他にも勿論、食べたい春はいっぱいあって。
ちるはは、店内を染める彩りに心も弾みっぱなし……特にこのパン屋さんの桜推しがすき、って。
だからほくほく、限定の桜パンをあれもこれもと購入すれば。
天気も良いし、公園にも寄りたいところなのだけれど。
(「上の階の春服も桜コスメも気になるから、もう少しぶらりとしようかな」)
まだもう少しだけ、お買い物でいっぱいの春を満喫するつもり。
桜花弁がひらひら舞う中、キラキラと目を輝かせながら。
「まつりだー!!」
獅猩鴉馬・かろん(大神憑き・h02154)がやって来たのは、満開に桜が咲く昼の公園。
春色に染まる園内に足を運べば、きょろりと視線を巡らせて、賑やかな雰囲気にうきうき。
だって、祭りは楽しくて好きだから。
そして祭りの楽しみといえば、やはり屋台。何せ、おいしいから!
それから今日は桜のお祭りだと聞いてはいるし、見事に咲き誇っている桜を見てみれば。
「きれいなー?」
そのくらいの感想は、一応出てはくるのだけれど。
でもやっぱり、かろんはまだお子様だから。
「ど・れ・に・し・よ・う・か・な!」
意識はすぐにおいしいものへ。花より団子なお年頃なのです。
それからわくわく屋台の人へと声をかけるべく、うんと爪先立って。
「くださいなー!」
お小遣いを握りしめまず向かったのは、香ばしい匂いがたまらない、定番の焼きそば屋台から!
そして出来立ての焼きそばを受け取って、早速はむはむと食べてみれば、大きくこくりとひとつ頷く。
屋台の焼きそばは妙においしいってみんな言ってるし、実際おいしいって、かろんもそう思ったから。
いや、焼きそばだけじゃなくて、タコ焼きもイカ焼きも全部美味しくて。
ぺろりと制覇したら――今度は、甘いものも欲しくなってくるころ。
だからきょろりと周囲を見回せば、すたたっと屋台を再び巡って。
限定メニューだという春色わたあめやお花見猫さん団子、桜ラムネも気になるところ……なのだけれど。
しかし――ここで問題が。
そう、お子様のお腹は小さかった……!
だから気持ち的には全部自分で食べてしまいたいのだけれど、お腹いっぱいにすぐになっちゃうから、少しずつで我慢して。
みんな仲良し、大神や眷属たちにも美味しいをおすそわけ。
晴れ渡る空に淡き春の彩りを舞い踊らせ、ひとひら、またひとひら積もらせては世界を薄紅に染め上げる。
そんな見事に満開に咲き綻ぶ桜の花も、勿論綺麗なのだけれど。
天國・巽(同族殺し・h02437)の金の瞳に今咲き誇る華は、隣を歩く美しきフリージア。
「お、こないだ俺がオススメしたコーデか、お嬢さんっぽいな? イイじゃねェの」
黒のワンショルダーの長袖ニットにマーメイドラインのデニムスカート。
それに白のキャスケットとウェッジソールを合わせて、黒い丸型サングラスをかけた装い。
花喰・小鳥(夢渡りのフリージア・h01076)は向けられた声に、綺麗な笑顔を咲かせて。
「せっかくのデートですから。巽さんは動きやすそうでいいですね」
彼の姿を映す赤のいろを美しく細め、紡ぎ返す。
白のシャツに薄青のYシャツを着て袖は捲り、ベージュの綿パンはロールアップでくるぶしを出して、その足元には粋な雪駄。
小鳥と同様に、今日の巽も洒落た格好。
そう、だって何せ、折角のデートなのだから。
「いい日和だ」
手を繋いで指を絡め、ふたり屋台を巡ってそぞろ歩き。
そんな絡め合う指先が素直に嬉しくて。小鳥にふと芽生えるのは、こんな小さな悪戯心。
「ご希望なら二人きりになれるところにいきますか?」
なんて言って、煽るような美しい笑みを咲かせてみるけれど。
爛漫に咲く花を、巽は余すことなくどれも欲張るつもりだから。
「満開の花が二種も見放題なんだぜ? それをほうって篭るほど野暮じゃねェよ」
ふっと笑って、桜もフリージアも、どちらも愛でることを迷わず選ぶ。
そしてそんな二輪の花へと視線を向けては軽やかに言の葉を返す彼に、小鳥は綻ぶような笑みを浮かべて。
「もう満開ですね」
改めて桜の花を見上げれば、花弁と共に降るのは、麗らかな春の陽光。
ともすればそれは暑いと感じるくらいの、ぽかぽか陽気だから。
小鳥が足を運んで並ぶのは、アイスクリームの屋台。
選ぶフレーバーは桜と小豆、春を思わせる二種にして。
(「俺はたこ焼きでも買っとくかね」)
巽の買ったまんまるたこ焼きも一緒に、ふたりで美味しい半分こ。
「はい、あーん」
「ん」
にっこり笑って小鳥が差し出せば。巽はあーんして、はむり。
そして食べさせてもらえば勿論、今度は食べさせる番。
「ほいよ、あーん」
お返しは基本、そしてそれを受けるのだってごく自然に。
小鳥も彼から差し出されたそれを、あーんして、ぱくり。
ふたりで仲良くイチャイチャ戯れ合えば、今度は木漏れ日の下、ベンチに並んで腰掛けて。
「偶にはいいなこういうのも」
こてんと預けられた小鳥の頭の重みを肩に感じながらも、巽はのんびりと満喫する。
桜とフリージアが仄か香る、ゆったり穏やかな春爛漫のひとときを。
爛漫に綻ぶ春のお出かけへと誘うのは、ふんわり咲いた桜色。
「流石お祭りと言ったところでしょうか、随分人が多いですね」
屍累・廻(全てを見通す眼・h06317)が視線巡らせているのは、後輩に連れられてやって来た、春の催しが行われている会場。
桜が満開に咲く広い公園では、桜の夜祭りも開かれると聞いているけれど。
桜良・ひな(春の呪詛・h06323)はそんな桜を愛でる前に、先輩へとこんな誘いの声を。
「お花見は夜にするとして、春コスメも見たいから先にそっち行きません?」
ということでまず足を向けたのは、公園の傍にある妖怪百貨店。
公園の満開桜も見応えがありそうだけれど、百貨店に並ぶ春色の品々だって目移りするほどに豊富で。
桜フェアが行われている館内もくるりと見渡す限り一面、春色爛漫。
ひなはわくわく、新緑のような明るい瞳を巡らせながら。
「あ、文具店もあるみたいですよ! アクセも見たいからそこ待ち合わせで、一旦別行動にしましょっか」
「別行動ですか? 分かりました。後ほど、アクセサリーフロアで合流しましょう」
暫くの間、ふたりわかれて、それぞれ見たいフロアをまずは楽しむことにして。
ひながやってきたのは、ビューティフロア。
春色チークに華やかなラメ入りパウダー、心擽られる限定デザインのパケ。
見るものどれも可愛くて、あれもこれもと思うけれど……でもお財布事情から、桜リップとアイシャドウパレットだけ購入して。
戦利品を鞄に大事に仕舞えば、うきうき弾む心と足取りで、待ち合わせのアクセサリーフロアへ。
そして同じ頃、廻も文具店へと足を運んで。
(「せっかくなので、図書館で使う用に買いましょうか」)
手に取ってみるのは、桜モチーフの万年筆に桜色のインク。
さらに色々と吟味しては、しっくりくるものをいくつか一緒に。
(「ボールペンやメモ帳も色々使えるし買っておきましょう」)
日常でも使えるものを選んで購入した後。
「デパ地下も賑わってるんですね」
通りかかったデパ地下で、ふと足を止める。
ふいに見つけたのはやはり、桜の彩り。
けれど桜は桜でも、外はかりかり、中はふわふわ。
「おや、ひなさんに買ってあげましょう」
甘やかで美味しそうな、焼き立ての桜色メロンパン。
それから廻は合流先のアクセサリー売り場で、ひなを待つ間、様々なデザインのものを眺めていれば。
「こういったものは疎いですが……これは良さそうですね」
……気に入ってくれるといいですが、って。
目をひかれてそう手に取ったのは、ふんわり春色の髪にきっとよく似合うと思った、桜モチーフのヘアゴムとネックレス。
そしてひなも、到着した待ち合わせ場所で、廻を探してきょろり視線を巡らせれば。
ふと見つけたのは、桜のトップにイニシャルが入っているネックレス。
それから合流する前に、それを買って包んでもらうことにする。
こうしてお花見に付き合ってくれる、お礼にと。
その後、改めて売り場を見回してみれば、お互いの姿を発見。
「……あ、先輩! お待たせしました。なにかいい文房具ありましたか?」
「ひなさんは目的のもの買えました?」
ふたり揃って、相手に贈る桜色を密かに忍ばせているなんてことは――まだお互い、この時は知らずに。
桜花弁がひらり舞い降る、麗らかな春の風景を歩きながらも。
矢神・疾風(風駆ける者・h00095)がふと思い返すのは、星詠みから聞いた今回請け負った案件の詳細。
「今日の依頼は『春灯祭』に現れる古妖の退治か……」
そしてこの祭りは、灯りを燈してライトアップした夜桜を楽しむものだという。
ということは、そう。
「……つまり夜までは、霊菜とデートを満喫出来るってことだな!」
事が起こるまでは自由、すなわち、デートを楽しめるということ!
勿論依頼はきちんとこなすけれど、それはそれとして。
春デートに気合十分な疾風の様子に、矢神・霊菜(氷華・h00124)も瞳を細めて。
「ふふ、疾風と2人で出かけるのは久々ね。娘と家族3人で出かけるのも愛おしい時間だけど、たまには夫婦水入らずも大切よね」
そう紡ぐ彼女だって、疾風とふたりのお出かけに上機嫌。
そしてやはり、ふたりきりのお出かけなのだから。
「はは、こうして二人でデートも、なんだか久しぶりで良いもんだよな」
そっと手を伸ばした疾風は、霊菜のその手を取って。
指を絡めて、恋人繋ぎに。
そんな刹那与えられた手の感触とぬくもりに、霊菜は一瞬立ち止まって。
自分の足が止まったことに一瞬不思議な顔をする彼を後目に、少し考える様子を見せた後。
ふいに繋いだその手を、するりと解けば。
「一緒に、たくさん楽しみましょうね」
そう紡ぐと同時に、疾風と腕を組む霊菜。
手を繋ぐよりももっと、より近くで寄り添って。
そしてふわりと腕に彼女の熱を感じれば。
(「今日の霊菜はなんだか積極的だな、結婚前のデートを思い出すようで照れるな!?」)
思わずちょっぴり照れくさくなって、照れ笑いしてしまう疾風だけれど。
でもすぐに、霊菜の言葉に頷いて返す。
「……じゃ、今日は目一杯楽しむとするか!」
それから桜色に染まった街を改めてくるりと見回して……さて、どこを回ろうかしら、と。
霊菜は思案した後、向けるのはこんな提案。
「折角だし桜フェアを見に行かない? お留守番してくれてる零にお土産も買いたいし」
「そうだな、桜フェアいいじゃん! 行ってみるか~!」
疾風もすぐに賛成して、ふたりで早速足を運んでみるのは、妖怪百貨店。
公園や街並みに負けないくらい、デパート内も春色に溢れていて。
「……お、この桜飾りのバレッタ、霊菜似合いそうじゃね?」
疾風はふと見つけた髪飾りを手に取って、綺麗な金色の髪にそっと当ててみれば。
大きくひとつ、こくりと頷いて即決。
「よし購入~!」
似合うとは思っていたけれど、春を纏う桜のバレッタは彼女に似合いすぎるから。
それから春の催事をふたりで楽しく見て回り、愛娘へのお土産もばっちりと買った後。
購入したのは、季節の美味しさに彩られた、ころんと可愛い『春の手毬寿司』。
そして飾り切りされた桜が咲くそれを、疾風はひとつ摘まんで。
「はい霊菜、あーん?」
彼女へとあーんと、差し出して。
それをあーんと口にしつつ、はむりと味わえば。
「ほら疾風も、あーんして?」
勿論霊菜からも、疾風へとお返しのあーんを。
美味しさ爛漫な春を、ふたりで仲良く、食べさせあいこ。
足を踏み入れた公園は、桜が満開の見ごろ。
晴れ渡った空の下、今日は皆で桜のお祭りに参加……ではあるのだけれど。
(「菫さん仕事忙しいらしいのでお姉ちゃんと昴さんと先にきました」)
(「菫さんが仕事立て込んでいて遅れるから先に来た!!」)
というわけで、桐生・綾音(真紅の疾風・h01388)と桐生・彩綾(青碧の薫風・h01453)は一足先に、祭りの会場へ。
そしてそんな姉妹と共にやって来たのは。
「姉さんいつも仕事忙しいしな。さすがに昼はあけれないだろう」
……なので先に綾音と彩綾ときた、と。
海棠・昴(紫の明星・h06510)も姉を待ちつつ、ふたりと共に、桜咲く春のおでかけに。
いや、桜もとても綺麗で、見事に咲き誇っているのだけれど。
「屋台で一杯美味しいもの食べる!!」
「これが屋台!! わたあめ、りんご飴!! チョコバナナ!! イカ焼きもタコ焼きもいいな!」
「わたあめは定番、焼き鳥、焼きそば、お好み焼き!! うん、美味しい」
綾音と彩綾がキラキラと輝かせた瞳を向ける先は、花より団子ならぬ、花より屋台?
けれどふたりがわくわく心躍らせるのも、ある意味当然のことなのだ。
(「こういう屋台に馴染みがない綾音と彩綾には夢のような風景だろう」)
普段は道理をわきまえていて賢い子達だが、けれどやはり素は年頃の女の子だと。
あれもこれもと買っては、一杯美味しそうに食べている、ふたりの姿を見守る昴。
そして、そんな彼の視線に気づいて。
「え? 昴さんが苦笑してる。食べ過ぎ?」
綾音はぱちりと瞳を瞬かせるけれど、でもすぐに笑んで返す。
「実は昴さんも屋台好きなんでしょ? 両手に持っているクレープとドーナッツは?」
「何気に昴さん両手にクレープとドーナッツもってるし!!」
何せ昴だって、何気にこっそり桜ドーナッツと桜クレープを買って食べているのだから。
それから彩綾の声に、綾音は頷きながらも続けて。
「意外と甘党なんだよね。昴さん」
「え、好きなんだね。意外」
自分を見つめる彩綾に、今度は昴が意外な表情を宿す。
「え? 甘いの好きの意外だったか? これでもいきつけのカフェあるんだ」
そう、綾音の言うように、昴はいきつけのカフェがある程度には甘党で。
スイーツと聞けば、お年頃の女の子が反応しないわけがないから。
「え? 美味しいスイーツ食べれるところ知ってるの? いつか連れていってね」
彩綾がお強請りするのは、そんなお出かけの約束。
そしてそう言いながらも、ソースの香りが食欲をそそるお好み焼きをはむり。
(「彩綾も幸せそうにお好み焼きをもぐもぐしてる」)
その姿を見れば、綾音もほっこりしちゃうから。
「お好み焼き美味しそう! りんごあめとチョコバナナ食べる?」
「あ、お姉ちゃんりんごあめありがとう。お好み焼き美味しい」
買ったものを仲良く分け合いっこして、一緒にほくほくもぐもぐ。
それから改めて、綾音はくるりと賑やかな屋台が並ぶ春の光景に視線を巡らせながらも思う。
(「育ったところはめちゃくちゃ閉鎖されていたから屋台なんか無縁だったしなあ」)
昴が彼女達をあたたかく見守っているのも、こんな屋台が並ぶ祭りに参加することが、ふたりにとっては物珍しくて新鮮なことを知っているから。
でもあまり馴染みはこれまでなくとも、知識としてはそこそこ知っているから。
選んだ飲み物は、やはりこれです!
「祭りでラムネ、憧れだった!!」
「お祭りの定番!! 憧れだった」
「桜ラムネか。3人で並んで飲もう」
そう、飲み物は3人で桜ラムネ!!
からんと桜が咲くビー玉を落とせば、しゅわしゅわと小気味良い音が耳に聞こえて。
口にしてみれば、弾ける炭酸が爽やかな、甘やかで憧れの味わい。
そんな桜ラムネを一緒に飲みながら、屋台の戦利品を美味しく口に運ぶ姉妹に、昴は思い出したように告げる。
「ああ、夜には姉さんが弁当持ってきてくれる。俺も手伝ったので楽しみにしてくれ」
「え? 夜には菫さんが手作りお弁当もってきてくれるんだ。楽しみだなあ」
そんな言葉に、綾音はさらにわくわく期待も膨らんで。
そしてそれは勿論、彩綾だって同じだから。
「え? 菫さんが夜に手作りお弁当持ってきてくれるの? 昴さんも手伝ったなら楽しみだなあ」
お手製弁当が食べられる夜の花見を心待ちにしつつも、今は昼の屋台を目一杯楽しみます!
はらりひらひら、薄紅色の花びらたちが舞う空は良く晴れていて。
麗らかな春の陽光が降る今日は、絶好のお出かけ日和。
そんな満開桜が咲く街を、皆で並んで歩きながら。
「目的は古妖の退治ですが、祭を楽しむのも任務の一環とか」
シイカ・メイリリィ(ジュール・ドゥ・ミュゲ・h01474)がそう、本日の目的を改めて口にすれば。
「お祭り楽しむのお仕事、だもんね? みんなで目一杯楽しんじゃおう」
「まずは祭をたっぷり楽しもな」
椿木・キサラ(未開の蕾・h02046)と鬼之瀬・玄(道楽一口話・h02765)も、こくりと大きく頷いて返す。
今日の目的は、人に危害を加える古妖の退治。
そのためにまずは、敵に気づかれぬよう現場に赴き、時が来るまで、一般人を装う必要があるというのだ。
ということで……今宵開催される桜祭りを楽しむことも、れっきとした任務なのです、ええ!
「花見だなんだは柄じゃねぇが……ま、たまにはいいだろう」
だからレヴィア・ルウォン(燃ゆるカルディア・h02793)も、そんなわくわく依頼に臨む皆と一緒にお花見を。
そしてお花見といえば、欠かせないのはやはりこれ。
「お嬢たちのお弁当も楽しみや」
玄の言うように、お花見弁当!
しかもキサラとシイカのお手製とあれば、尚のこと期待も高まるのだけれど。
でも、桜の祭り『春灯祭』が始まるのは、夜からだという。
だから、昼から花見もできるのだけれど、でもその前に。
「あっ! でも時間には遅れないでね!」
「では2時間後に公園集合です」
折角だからと立ち寄ってみることにするのは、公園の傍にある妖怪百貨店。
花見も控えているから、集合時間もきっちり決めて。
「今日はキサラとお弁当を作りましたので、時間厳守でお願いしますね」
「遅刻したら手作りお弁当なしだから!」
待ち合わせに遅れたら、お弁当なしです!?
ということで、集合時間まで、百貨店で男女わかれて自由行動。
キサラは桜とお揃いの色の髪を躍らせて、足を踏み入れた百貨店をくるりと見回せば、わくわくしちゃう。
「春は芽吹きの季節だもんね。花柄や淡い優しい色合いのお洋服多くて嬉しい!」
広いデパートもそう、春爛漫。
あれもこれも、気になるものでいっぱいだけど。
「ええ、たくさんお買い物しましょう。荷物持ちならお任せくださいね」
シイカはそう微笑んで返しながらも、キサラと共に向かうのは、ファッションフロア。
春らしいワンピースも可愛いし、花の様なフリルのトップスも人気のよう。
マネキンが着ている淡色コーディネートの一式も素敵なのだけれど。
「この時期は花柄の服が多くて素敵ですね。まだ冷える日がありますし、ニットカーディガンはいかがですか」
シイカが手に取ったのは、今の時期のおでかけにあると重宝するカーディガン。
それに実用性だけでなく、デザインも心惹かれる春がひらり。
「ほら、これは桜の透かしが入っていますよ。きっとキサラに似合います」
桜を思わせる彩を湛える彼女に、シイカがそうお勧めすれば。
選んで貰ったカーディガンに、キサラもルンルンで即決。
「桜の透かしがすごい気に入っちゃった!」
それから今度は、キサラがふと見つけて手に取る。
「ねぇ、シイカはこのストールとかどう? 桃と白のグラデーションが春っぽくてオシャレ!」
「えっ、私に、ですか?」
ふわり淡色の、春らしいストールを。
シイカはそんなキサラの声に、一瞬ぱちりと瞳を瞬かせるけれど。
「……キサラが選んでくれて嬉しいです」
「桜の刺繍も入ってるし、桜でお揃いだよ!」
瞳を細めれば桜咲くお揃いのそれを、ふたり一緒にお買い上げ。
それから次に向かうのは、やはり春をお洒落に彩る品々が並び咲くフロア。
「あとね私春コスメも気になってるの!」
そして春の限定色や桜咲くパケをくるりと見回して。
「ええ、桜コスメもお揃いで買いましょう」
「リップがいいかな、ネイルがいいかな」
あれもこれも可愛くて、どれにしようか目移りしちゃうけれど。
「ふふふ! 時間幾らあっても足りないね!」
でも、そうふたりで悩んで選ぶ時間も、とてもうきうき楽しいから。
そして――女性陣が買い物を目一杯満喫している、同じ頃。
「男とデートなんて趣味じゃないねんけど、仕方ないやんな」
「デート? こっちこそ金積まれてもお断りだ」
ふらりと百貨店内を歩く玄に返しつつ、レヴィアは視線を向けて。
「百貨店なんて何年振りやろ」
「玄、勝手にはぐれんじゃねぇぞ」
そう釘を刺しながらも、改めて並ぶ店々へと目を遣れば。
「一概にデパートつっても色々あるもんだな」
折角だから、ふと頭に思い浮かんだものを見てみることに。
そして玄もすかさず、お目当てのものを口にする。
「な~レヴィア~、僕久しぶりにお酒飲みたいんやけどぉ~」
久しぶり……というわりには、つい最近飲んでいた気がしないでもないが。
さらに甘えるように、こうもお強請りを。
「できればツマミになりそなホタルイカも食べたくてぇ~?」
けれどレヴィアは、そんな玄をチラ見して。
「……あ? 酒? 未成年いんだぞ、今回はやめとけ。大体花見の用意はキサラやシイカ達がしてんだろが」
ぶりっ子作戦、失敗のようです。
そして即却下されれば、今度はぷんすかしてみて。
「なんや! 僕がこんなに頼んどるのに!」
「お、この服悪くねぇな。素材も良いし桜柄で春感もあって丁度良い」
「お前さんずっと服ばっかり見て、そんなキャラじゃ……」
いつの間にお洒落に目覚めたのか、真剣に服を吟味しているレヴィアにそう言いつつも。
どうやら気に入ったらしい、彼が手にした服に視線を向けてみれば。
「……って、犬のかい!」
レヴィアが探してみるかと見ていたのはそう、家で留守番している犬の服。
そしてひとりツッコんでいる玄を置いて、レヴィアはレジへと足を向けて。
「もー知らん!」
「ちょっと一着買ってくるわ、……?」
会計を済ませるも、小さく首を傾ける。
「……アイツ何処行きやがった」
引き続きぷんすかしつつ、いつの間にか姿が見えなくなった玄に気づいて。
そんな彼は、近くにいた女の子を絶賛ナンパ中。
「な~今僕めっちゃ暇やねん。おもろい話あんねやけど聞いてくれへん?」
買い物目的で来ている子にそう声をかけた結果は、お察しであるのだけれど。
レヴィアはそんな玄を探しつつ、やって来たのはいわゆるデパ地下。
様々なグルメが並ぶフロアを散策しながらも、手土産にといくつか購入する。
女子達には桜餡の三色団子を、そして玄にはホタルイカの沖漬けを。
そして時計を確認すれば、そろそろ待ち合わせしている時間だから。
百貨店を出てきっちりと時間通りに集合場所へと赴くレヴィア。ええ、大人ですから。
女性陣も勿論、時間厳守でちゃんと戻ってきたのだけれど。
シイカは、最後にようやくやって来た彼の姿を見つければ。
「……さて、それでは鬼之瀬さん。遅刻した理由を教えてくださいますか」
向けるのは、いつも通りのいい笑顔……?
いえ――キサラを待たせるなんて言語道断です、と。
まんまと遅刻してきた玄へと向ける目と声は、全然笑っていません。
そんなシイカの笑顔に顔引き攣らせながらも。
「ち、ちゃうねん! 元はと言えばレヴィアが悪いんや!」
慌てて何だかんだ言いがかりをつけて誤魔化そうとする玄だけれど。
「知らねぇよ。勝手にテメェが迷子になったんだろ」
「……ゲンあれだけ言ったのに。大人でしょ、しっかりして! 次約束破ったら一週間事務所掃除の刑だからね!」
やはり作戦は即失敗、一番ダメな大人です。
だからもう、こうなったら。
「なんでや! やけ酒したるからな!」
そしてそもそも酒以前に、お手製弁当に果たしてありつけるのかすら危ぶまれている彼を後目に。
「ぐだぐだ言ってねぇでさっさと花見始めようぜ」
ひらり花弁たちが舞う中、皆で揃って向かうのは、桜が満開に咲いた賑やかな春の公園。
桜が満開の公園でこの日催されるのは、春の夜祭り。
でもまだ明るい昼の時間から、すでに公園の広場には屋台がずらり並んでいて。
夜の祭り本番を前に、日中の花見を楽しんでいる人で賑やか。
星詠みによれば、この祭りに古妖が潜んでいるのだというが、まだ事を起こす時間ではないし。
事件解決へと乗り出す前に敵に気づかれてしまっては、逃亡される恐れもあるから。
まずは現場に赴き、時間まで花見客を装う必要がある。
そして警察庁魔法少女課の面々も、このお祭り会場にすでに到着しているのだけれど。
まずはそれぞれ、分かれて行動することに。
戌亥・酉子(警察庁魔法少女課所属巡査・|魔法少女《プリマステラ》ガルディアーノ☆マルテ・h06171)は、そんな活気ある広場を歩きながら。
(「花より団子というわけではないですが、せっかくで店も出ている事ですし」)
……ということで、屋台巡りをします、と。
足を向ける屋台は勿論、お団子をはじめとした和菓子系の出店。
何せ酉子は、和菓子と昆布茶を一緒にほっこりといただくのが好きな、庶民的であるのだから。
(「お花見ということで、三色団子は欠かせませんし。桜餅もどちらのタイプも出ています」)
巡るのは専ら、和菓子系の出店ばかり。
けれど、花見団子や桜餅をただ買えばいいというものではない。
(「一口に三色団子と言っても、出店しているお店によって、味が違います」)
店によって団子の味わいや食感も異なるし。
何より桜餅は、道明寺と長明寺の二種類があって、人によって拘りや好みも様々だ。
評価レビューをつするもりはないのだけれど、和菓子好きとして。
酉子にも、どの店の味が好きかという判断は当然あったから。
試しに買って食べてみつつ、出店の和菓子を堪能して過ごしながら、気に入った和菓子を皆の分も購入してみる。
この後、夕方になれば、待ち合わせ場所で皆と合流することになっているから。
そしてカレン・スフィア・バンガード(警察庁魔法少女課所属巡査・|魔法少女《プリマステラ》ガルディアーノ☆セレス・h06175)も、同じように屋台を巡っていたのだけれど。
和菓子の屋台ばかり回っていた酉子とは違って、ふと散策中に足を止めたのは、子供に人気がありそうなお菓子系の出店。
しかもただ売っているだけではないようで、何だか盛り上がっていて。
ちょっぴり興味をひかれて、ひょこりと覗いてみれば。
「ソースせんべい……?」
屋台の暖簾にはそんな文字が書かれていて、さいころを転がすゲームみたいなことをしている模様。
というわけで、ルールを確認してみれば。
(「さいころを3つ振って表に書かれている目が出たら、通常の10枚よりも多くもらえるみたい」)
2つが同じ目だと50枚、3つの目が階段だと100枚。さらに全部同じ目だと、200枚ももらえるらしい。
そして1枚にソースか梅のジャムか練乳をお店の人が塗ってくれて、それを別の1枚で挟む……というもののようだ。
10枚でも皆でわけて食べられるし、ちょっとそわりと試してみたくなったから。
カレンはさいころを受け取って、いざ挑戦!
ころりと転がした結果は――。
「おお、2つが同じ目だったから50枚だね!」
なんと、50枚ゲット!
そして、中には何を塗るかい? と訊かれれば、練乳を選んで。
ソースせんべいならぬ練乳せんべいをほくほく抱えて、皆の元へ。
そんな単独行動をするメンバーが多い中、共に並んで歩いているのは、辰巳・未卯(警察庁魔法少女課所属巡査・|魔法少女《プリマステラ》ガルディアーノ☆ヴェネレ・h05895)とルナ・ナイト・イクリプス(警察庁魔法少女課所属(階級:嘱託)/ドワーフ。たまに露天商店主の野良冒険者・h05941)。
ふたりは同郷の親友だから、日中から一緒に行動しているのだ。
それからふたりで寄ってみるのは、未卯が見つけたひとつの出店。
「たこ焼きは、よく見かけるけど」
広場に出ていたのは、たい焼きの屋台。
ルナも未卯と並んで、屋台へと目を向ければ。
「わぁ。色んな種類がありますね!」
味のバリエーションの多さに、視線をきょろりと巡らせる。
定番のつぶあんやこしあん、カスタードは勿論のこと。
餡の中に白玉が入っているものだったり、クリームチーズの入っているもの、さらには。
「食事みたいな、たい焼きの型でお好み焼きを作ったようなものまであります」
そんな、定番から変わり種までたくさんの種類があるたい焼きを見つめるルナへと、未卯はひとつ買ってあげることにする。
魔法少女のフォームや仏器をルナが作ってくれているから、労いの意味も込めて。
そしてルナもそのお返しに、カスタードのたい焼きを未卯へとプレゼント。
ふたりでお互いのたい焼きを買い合って、仲良く交換こしたりして。
「あ、桜餡もあります。酉子ちゃんが好きそうじゃないですか?」
「確かに、好きそう」
和菓子が好きな酉子には桜餡のものを、勿論皆のものも人数分買っておくことにして。
外側はさくさくぱりぱり、中の餡はしっとり、見目も可愛い美味しいたい焼きをふたり抱えて、皆との待ち合わせ場所へ。
そして、聖・ライプニッツ・リーゼンフェルト(警察庁魔法少女課警部・|魔法少女《プリマステラ》ガルディアーノ☆アルタイル・h06154)は、見た目は7歳程度であるものの。
(「この√なら、外見の容姿と実年齢が一致しないなんてことも、ままありそうですけど……」)
そう思いながらも屋台広場を歩く彼女の年齢は、実はれっきとした成人。
警察庁魔法少女課の主任というポジションについているくらいであるが。
夕方以降もあるからと、お酒は自重する24歳。
いえ、酒類は今回は飲まないけれど……でも酒にぴったりな、焼き鳥やおでんやもつ煮は、すでに堪能済。
そして、それはそれとして、魔法少女課の他の娘達は未成年だから。
いくつかの屋台を見て回って、夜も開いている屋台の内、目ぼしい店があるかをチェック。
(「夜は冷える気がしますの。甘酒でしたら身体もあたたまりますし、未成年でも飲めるものもありますの」)
そうピックアップしておくのは、未成年でも飲める甘酒を提供している屋台。
だが甘酒といっても、アルコール入りのものだけだったり、アレンジしたものがあったり、店によって色々と違うから。
中でも、桜の塩漬けを使った『桜甘酒』を提供している屋台を見つければ。
アルコールではない、未成年が飲んでも問題ないものであることを抜かりなく確認しておく聖。
それから、夕方になれば、夜桜鑑賞の準備も終わった頃だろうから。
聖も、ひらり桜色に一面染められた景色の中、祭り本番の夜を迎えるその前に。
魔法少女課の皆と合流するべく、待ち合わせ場所へと向かうのだった。
あまり人が多かったり、騒がしかったりするのは、お互いに苦手だけれど。
訪れた妖怪百貨店をくるりと見回す、空廼・皓(春の歌・h04840)のお耳がぴこり。
「おおお……すごい。いろんなもの、売ってる……」
「百貨店……人が多いから、一人では中々来ないけど……壮観ね」
白椛・氷菜(雪涙・h04711)も隣でそわりと尻尾を揺らす彼の言葉に、こくりと頷く。
お出かけ日和のデパートは、確かに沢山の人が訪れてはいるのだけれど。
でも百貨店は大きくて広いから、意外とゆったりと見て回れそう。
だから氷菜は早速、皓へと今回の目的を改めて紡ぐ。
「じゃ、夜のお花見に備えて、一緒に買い物しよう?」
そんな声に、今度は皓がこっくり頷けば。
ぎゅうぎゅうではないにしろ人は多いし、迷子になりそうなくらいデパートは広いから。
「広いし人たくさん。迷子になると大変……」
そうきゅっと、迷子にならないよう、しっかりと氷菜の手を握る。
そして手を繋がれれば、氷菜はこう紡ぐ。
「……別に、雪女もどきでも春が苦手じゃないのよ」
皓はその声に、目を丸くして。
「じゃあ俺は狼もどき、だ」
「晧は狼もどき?」
楽しげにふりふり揺れる彼の尾を見れば、氷菜はそっと小さく笑っちゃう。
そんな百貨店内で、ふたりがまず足を向けたのは、花見には欠かせない美味しい物が色々と売っている催事場。
「晧はどうする? あっちはお弁当だし、向こうにパンも売ってたわよ」
でも、どこも色々あって迷うね……なんて。
ついあちこち目移りしてしまう氷菜と同じように。
「……俺?」
皓も、同じくじーっと見て。
ふと気になるお弁当を見つけたのだけれど、それを見つめたまま首を傾げる。
「……おこさまランチはおこさまじゃないと食べられない?」
一応、おこさまだけでなく、おとなでも普通に買えるようだけれど。
「お子様ランチも、器が可愛い……私はやめておくけども」
「可愛すぎる、ダメ?」
「年齢より、器がこう……可愛過ぎて」
「他にも楽しいの、あるかな」
氷菜の言葉を聞きながら、皓は更に不思議げに、改めて並ぶ花見弁当へと目を向けてみて。
ふいに目に飛び込んできたものに、今度は迷わず手を伸ばす。
「……俺これにする。妖怪花見弁当」
何だかゆる可愛かったり、妙にリアルだったり、何の具材なのか謎なものもあるけれど。
「晧のお弁当は面白いね」
「でしょ。それに普通に色々入って美味しそう」
味はお墨付きらしい、この世界ならではな、ちょっぴり摩訶不思議で愉快な、妖怪花見弁当。
そして氷菜に褒められれば、ご機嫌にぱたぱた尾を揺らして。
「……よし、春彩ちらし寿司にしよう」
「氷菜のちらし寿司きれい」
「後でお裾分けするわ」
その声を聞けば尚更……それも楽しみ、だな、って。
表情のかわりに、尻尾やお耳がわくわくぴこり。
でも美味しい物も爛漫だから、気になるものも、次々と見つけちゃって。
「メロンパンも美味しそう……」
「あっ……メロンパン。氷菜半分食べられる?」
「……ん-半分は多いかも」
「一口だけでも味見、しない?」
「うん、一口貰おうかな。飲み物もあるし、夜は屋台も見て回ろう」
おなかの具合を考えつつも、お花見に向けて、色々作戦会議を。
それからお花見に必要なものは大体買えて準備もばっちり、お祭りで買うものの目星もつけた後。
「あとは大丈夫?」
……お花見かかわらず欲しいものとか、と。そう皓に訊ねられれば。
氷菜がちらと視線を向けるのは、他の階の案内図。
「……実は桜のアイテム達も気になってて」
「雪女でも春っぽアイテム似合うと、思うな」
そう返されれば、やはりそわりとしちゃう氷菜。
「う……雑貨とか見たい、かも」
でも折角、普段余り足を運ぶことのない百貨店に来ているのだし。
それにまだ、窓の外に見えるのは、満開桜が映える青空。
祭りが始まる夜までは、時間もまだまだあるのだから。
こくっと頷いてから、皓は繋いだ彼女の手をそっと引いて歩き出す。
やっぱり楽し気に尾を揺らしながら、雑貨屋がある階へと一緒に……いいのあると、いいね、って。
眼前に広がるのは、思わず目を奪われるほどの魅力的な春。
でも今、ナギ・オルファンジア(Cc.m.f.Ns・h05496)がきょろきょろと見回しているのは。
「全部おいしそう!」
足を運んだ妖怪百貨店の催事場に満開に咲く、美味爛漫。
様々な種類がある花見弁当や季節のメニューにあれもこれも心惹かれるけれど、でも決めました!
「ナギは桜お稲荷さんにします」
「ナギ殿は桜稲荷を選ばれたか。何とも愛らしい」
「ね、可愛いよねぇ」
そうキュートで美味しそうな桜お稲荷さんを手にしつつ、彼の言葉に頷きながらも。
アダルヘルム・エーレンライヒ(砂塵に舞う・h05820)が選んだ弁当を見れば、瞳をぱちりと瞬かせるナギ。
「アダル君はそれ?」
「目移りするが、俺は妖怪花見弁当にしよう。味の想像は付かんが」
「妖怪弁当は普通のお味なのかな。個々のネーミングがすごいよ」
色々と個々の主張やインパクトが激しい、謎の妖怪弁当に。
いや一応、味はどれも美味しい……らしい。アダルヘルムも言うように、想像は、見た目からはできないけれど。
そして各々花見をしながら食べるものを調達し終えれば。
折角、様々な店が並ぶデパートに来ているのだから、買い物だって満喫するつもり。
ということで、次にやって来た、コスメフロアで。
「桜リップほしいなちょっと待ってて」
再び選択を迫られるナギ。
キュートな淡い桜色にするか、夜桜のようにクールな色にするか、はたまた青空に映えるような華やかな色味にするか。
ひとことに桜リップといっても、どの桜色にするか悩みまくってしまう。
でもまだ、祭りが始まる夜までは十分に時間の余裕もあるし。
「ゆっくりで構わんぞ?」
……俺も見たい品がある、と。
アダルヘルムも、コスメフロアに並ぶ品を見遣り、お目当てのものを探してみることに。
そんな彼の言葉は、ナギにとってちょっぴり予想外だったけれど。
「アダル君もメイク用品買うなんて意外だなぁ」
「傷痕に苛まれている|親友《ダチ》の土産になればと遊び心あるメンズ向け妖怪コンシーラーでも」
「なるほどお土産!」
そう聞けば納得。愉快な妖怪コンシーラーは、傷跡を楽しくカバーするのにきっと最適だから。
ということで、妖怪コンシーラーも無事に見つけて。
いざ、お会計――といきたいところだけれど。
「……リップは、に、2本買います」
いや、2本まで頑張って絞ったのだ。けれど、1本にはどうしても絞り切れずに。
「ナギ殿は選びきれんかったか」
そう苦笑するアダルヘルムの言う通り、選びきれなかったから。
ならばいっそと、2本お買い上げするナギ。だってどちらも限定色、仕方ないです、ええ。
そして戦利品を抱え、妖怪百貨店での買い物を存分に満喫すれば。
「満開すごいねぇ」
「見頃を迎えた桜は見事なものだ」
次にふたりが足を踏み入れたのは、満開に桜が咲き誇っている公園。
それから桜を眺めながらも早速、即ふたりが確保するのは勿論、花見酒です!
ナギは日本酒の桜舞を、アダルヘルムは桜ビール片手に。
酒の良い肴になりそうな春の景色が臨める特等席をばっちり確保して。
「おいし、桜きれい!」
桜花も美味も美酒も、全部目一杯満喫します!
それからはむりとお稲荷さんをひとつ摘まんで口に運びながらも、ナギは何気にちらり。
「妖怪弁当、生きてたりする?」
色々と気になるものが多い、アダルヘルムの妖怪弁当を覗き込んで。
「ああ、生きているし動いているぞ」
こくりと頷いてそんな冗句を返しつつ、ふと大きく首を傾けてみせながらも、アダルヘルムはこう続ける。
「ナギ殿の桜稲荷狐も1匹此方の弁当に遊びに出かけていないか?」
「お稲荷さん逃亡!?」
その声にハッとして、ナギは慌ててお稲荷さんの行方を確認してみれば。
お稲荷さんを攫った犯人と、こんな取引を。
「ぬりかべ蒟蒻を要求します」
「要求はぬりかべ蒟蒻か。良いだろう、交換といこう」
というわけで、桜お稲荷さん逃亡事件も、攫ったアダルヘルムと交換こで即、平和的解決。
でも、まだまだ油断ならないから。
ナギは今度は、こう彼に持ち掛けてみる。
「食いしんぼうな君はお弁当だけでは足りないのでは?」
……桜を見ながら屋台も見に行こうか、って。
そしてその声を聞けば、赤の瞳を細めてこたえるアダルヘルム。
「ふ、物足りんのはそちらも同じではないか?」
食いしん坊なのは、お互い様であるし。
それに何より、アダルヘルムが断る理由はひとつもないから。
「桜と屋台を見て回るか」
――折角のナギ殿からの誘いだ、と。
青空に映える桜を愛でながらも、ふたりで美しく楽しく、今度は屋台グルメに酔い痴れるつもり。
頬をくすぐる心地良い春風に大きな瞳を細めて、桜花弁たちと一緒に、躍る様にひらりら。
「わぁ、すっごい……。淡いピンクのお花がとってもかわいくて綺麗ー♪」
エアリィ・ウィンディア(精霊の娘・h00277)がやって来たのは、ぽかぽか小春日和の賑やかな公園。
空を見上げれば、はらはらと降る薄紅はまるで、雪のようでも星のようでもあるのだけれど。
寒い寒い冬の後の暖かい春の訪れを、ステラ・ノート(星の音の魔法使い・h02321)は改めて感じるのだ。
(「桜や様々な花が咲いて、たくさんの命目覚める音が聴こえて、なんだかわくわくしちゃう」)
思わず小さな歌を口遊んじゃうように、心も足取りも軽やかに。
そして一足先に、ひときわ大きな桜の木の下――まさにベストポジションにシートを敷いて。
春のぽかぽか陽気の中、ゆったりと皆の到着を待つのは、ルナ・ルーナ・オルフェア・ノクス・エル・セレナータ・ユグドラシル(星樹ホシトキの言葉紡ぐ妖精姫ハイエルフ・h02999)とアドリアン・ラモート(ひきこもりの吸血鬼・h02500)。
お昼寝マイスターいちおしの快眠枕・すやすや君を抱きしめて、桜が積もるのも構わずに早速うとうとしているアドリアンの隣で。
持ってきた桜茶を片手に、気になっていた漫画のページをぱらりめくりながら待っていれば、ルナはふと顔を上げて。
「あ、ルナさんだー。場所取りありがとー♪」
同時にやって来たエアリィとステラの姿を見つけ、顔を一瞬上げて手招いた後。
ひらりと降ってきて挟まった桜花弁の栞に瞳を細めてから、詠んでいた本を閉じる。
それから……皆の者の所に急がなきゃね★ と春の景色を駆けながら、最後に到着したのは。
「Yeah! 春だ★ 桜だ★ お花見だ〜!」
……満開に咲き誇り、花弁舞う綺麗な桜の季節がやってまいりましたぞ〜! って。
今日も元気満開な、ユナ・フォーティア(ドラゴン⭐︎ストリーマー・h01946)。
「Sorry! お弁当作ったら遅れちゃった!」
「駆けつけ一杯じゃないけど、桜茶をどうぞ」
ルナはやってきたみんなにも、ふわり春の香がする桜茶を振る舞って。
ほっこりとひと息ついて落ち着けば――ずらりとシートに各々並べていくのは、お花見の醍醐味!
「それじゃ、おなかがすいていると思うし、まずはお弁当タイムっ♪」
ちょうど時間もお昼時、おなかも気付けばぺこぺこだから。
満開桜の下、エアリィとステラ、ユナが持ってきてくれたお花見弁当を、いただきます!
ルナはそんな美味しそうに並ぶお弁当をくるりと見回して。
「3人は手作りのお弁当を持ってきてくれたんだ。うん、どれもとても美味しそうだね」
「ママと一緒に作ったよ。たくさんあるから、皆もどうぞ」
「ステラさんのお弁当おいしそう……。あたしもお母さんと一緒に作ったよー」
「エアやステラはママと一緒にお弁当を作ってきたんだね」
「みんな手作りなのか〜!」
きゃっきゃと弾む華やかな女の子たちの声に、アドリアンも春眠からちょっぴり覚醒して。
「……あれ、もうみんな揃ってる?」
「ラモート氏も、場所取りおつかれいしょーんず! ステラ氏のお弁当は……肉巻きおにぎりと卵焼きだー♡ エアリィ氏はほうれん草ソテーとタコさんウィンナーと唐揚げ!」
「肉巻きおにぎりと甘めの卵焼きは、自信作だよ」
「あたしのお弁当のおかずは、ほうれん草のソテーにたこさんウインナー。そして、ちょっと頑張った唐揚げだね」
「ユナね、角煮とハンバーグと肉じゃが! 皆の者で分けっこしよ★」
「角煮にハンバーグ……。ワイルドだぁ~。それじゃ、みんなでいただきますっ♪ ……ん、玉子焼き美味しいー♪」
外せない定番からガッツリ系まで揃った、彩りも春らしく鮮やかな多種多彩なお弁当を、楽しくわいわいいただいて。
そしてアドリアンも、皆が持ってきてくれたお弁当に舌鼓を打ちながら。
「皆と合流する前に予め屋台で買っておいたよ」
「ラモート氏は春っぽいドリンクと春スイーツですな! さっすが!」
抜かりなく用意して差し出すのは、春っぽいドリンク各種と皆で摘まめる春スイーツ。
「春のスイーツいいよね! きれいー♪」
エアリィの言うように、見上げる青空や淡く咲き誇る桜の色みたいな春スイーツにも、うきうきしちゃう。
それから勿論、花も美味しいものも、目一杯満喫すれば。
ステラはふと、ひらひら舞い降る桜花弁を見ながら、こう口にする。
「そう言えば、桜の花びらが地面に落ちる前に掴めると、願い事が叶う、って聞いたことがあるけれど」
――皆もやってみる? って。
そんな桜の逸話とお誘いに、皆も興味津々。
「桜の花弁を着地前に掴むと願い叶うって! これは楽しそうですな〜!」
「ふむ、舞い落ちる桜の花びらにそんなおまじないがあるんだ」
「へー、花弁をつかむと願い事が……」
そしてそう聞けば、勿論!
「せっかくだからやってみよー♪」
その話に乗っかって、皆でやってみることに!
アドリアンも皆と一緒にタイミングをうかがいながらも、お箸をしゃきんと構えて。
春風がふわりと吹いて、桜吹雪がひらひらたくさん舞ったタイミングで――レッツチャレンジ!
「って空飛んじゃ……ダメだよね?」
ユナはそう翼は使わずに、降って来た花弁へと張り切って手を伸ばしてみるけれど。
――ズザーッ。
「転んだ〜……掴みづらいね〜……」
桜色に染まった花弁の絨毯に、勢い余ってダイブ!?
エアリィも気合を入れて、ここは心眼……第六感を信じて――。
「えいっ!! ……むずかしいー!」
「……む。むむむ。風に乗って、ひらひら、ふわりと舞う花弁は、結構、掴み、にくい……っ」
話を持ち掛けたステラも、思いのほか難しくて、皆と一緒に大苦戦。
ルナも目の前にひらひら降ってきた花弁へと手を伸ばしてみるも。
「よっと……うん、これは中々難しいね」
指の間を巧みにするりとすり抜けるひとひら。
それからアドリアンも、満を持して。
「闇よ、全てを飲み込む王となれ。我が影を纏い、破滅と栄光の力を示せ――Umbra Dominus!」
影を纏い、自身の移動速度を3倍に強化して、威力2倍の|得物《お箸》を繰り出します……!?
そして、その結果はというと。
「あちゃー、流石にお箸で掴むのは無理だったや。願い事叶えたかったなーー」
|見事《わざと》、チャレンジ失敗です。
そんな追いかけっこするようにくるくるひらひら、手練れの√能力者たちでさえ翻弄する桜花弁たちだけれど。
追いかけてはつかまえ損ねて、声を上げては笑って、皆もくるくるひらひら。
「えへへ、皆の者と花見楽しむ配信撮れた〜!」
「ん、楽しいひと時、だね♪」
花弁をゲットするのはなかなか難しいけれど、でも、ユナの声にエアリィもそう頷いて。
ステラも、まるで桜の魔法にかかったみたいな、ぽかぽかな心地になりながらも。
(「なんだか、皆と一緒に花弁と遊んでいるみたいで楽しくなってきちゃう」)
そう瞳を細めればー―ひらり。
星唄いの帽子にぴとりとくっついた、ひとひらに気づいて。
そっと手に取れば、心に紡ぐのは、こんな春の魔法のおまじない――皆の願い事が、叶うといいな、って。
訪れた公園を染め上げるのは、晴れ渡る春空からひらりと絶え間なく降る桜の彩り。
今日は桜も満開の見ごろ、天気も良く陽光も心地良い、絶好の花見日和。
「満開の桜、とてもきれいです」
そう春空を見上げるガザミ・ロクモン(葬河の渡し・h02950)がわくわく心躍らせるのは、眼前に咲く桜の花が綺麗だと思うことも勿論のこと。
何よりも、気の置けない友人達との花見散策が、とても楽しみだから。
そして今回訪れたのは√妖怪百鬼夜行、色々な妖怪がいるとは聞いてはいるけれど。
神来社・紬(月神憑きの仔兎使い・h04416)は、桜の景色に雰囲気もぴったりな和風にアレンジの制服の裾をひらり。
「わぁ、綺麗に咲いてる〜。花咲か妖怪? っているんだね。童話みたい」
美しい桜を満開に咲かせたという、花咲か妖怪とやらにちょっぴり興味を抱きつつも、皆と共に桜色いっぱいの春の風景を歩いて。
一面の桜爛漫に大層上機嫌なのは、ウィズ・ザー(闇蜥蜴・h01379)。
「春の陽気に暖かい空気。穏やかながら賑やかな声に美味いメシ。これぞ春だな。いやー、花と若葉の匂いも良いねェ〜♪」
花見のお出かけということで、今日の彼の装いはカジュアル寄りの私服。
そんなウィズの言うように、ぽかぽか陽気に吹く風が運んでくるのは、花たちの香であったり……それに、食欲をそそる美味しそうな匂い。
万菖・きり(脳筋付喪神・h03471)も、やって来た公園の広場に並ぶ屋台へと、きょろり視線を巡らせて。
「いろいろありますね……どうします??」
食べることがライフワークで特に甘い物が好きな彼女が探してみるのはやはり、春スイーツの屋台。
春らしい甘い物各種に、屋台飯や飲み物だって、目移りするほどたくさん売っているけれど。
ふわりと桜が舞い散る中、神鳥・アイカ(邪霊を殴り祓う系・h01875)は、活気があっていいね♪ なんて。
既にたくさん購入した戦利品――花弁が浮いた「|桜舞《さくらまい》」のカップ酒を早速飲みながらも、祭り会場をぶらぶらと巡って。
「最近、ロクでもないことが多すぎたし、たまには良いよね? たまには~ねぇ~」
いえ、何時もと変わらないだろなんていうツッコミは野暮です、ええ。
そしてアイカが嬉々と「|桜舞《さくらまい》」をまたひとくち、飲んでは味わう中。
紬も、屋台並ぶ広場を歩いている途中で見つけた飲み物を買ってみる。
思わず目を奪われた、桜空の苺ラムネを。
それからガザミは、何だか自分を見つめる誰かの視線を感じる気がして。
ふとその方向を見れば、ぱちりと目が合う。
そう――露店のお花見猫さん団子と、コンニチワ。
でも、じいと見つめてくるお団子猫さんたちを見つめ返せば、おもむろに首をふるり。
「わぁ、……かわい過ぎて食べるの無理ぃ」
「あ、ちょっと向こうでドーナツ買ってきます!!」
色々と葛藤しているガザミを後目に、きりはまずはドーナツが売っている屋台へと早速足を運んで。
ぐっとこう心に決める――せっかくなのでお花見スイーツはできるだけ買いたい、って。
ということで、春らしいドーナツを沢山購入した後。
さらに気づけばソフトクリームに加えて沢山の袋が……!?
いや、あれもこれも美味しそうであったから、つまるところ。
(「買いすぎた!!」)
かなり買い込んでしまいました、荷物が歩いているかと思ってしまうくらい盛り盛りに。
それからきりは何とか、両手いっぱいに抱える戦利品の隙間から周囲を見回してみれば。
「えーっと、みんなどこだろ。あ、ウィズさん見つけた!!」
ウィズを発見、彼もきりに気づいて。
「確かに見えねェが"解る"からな。よし俺も買うかねェ」
まず購入したのは、桜チップでスモークされた鶏脚を丸ごと。良い色に燻されたそれは、仄かに桜が薫る絶品。
さらには、カマンベールチーズ、ゆで卵にサラミ、魚の切り身と――芳ばしい香りが食欲をそそる、春薫る燻製グルメをいっぱい買い込んでから。
見つけるのは、団子屋台の店先でひたすらじいと見つめるガザミ。
それからウィズは無言でイイ笑顔を浮かべてから、猫さん団子を買って。
「だって、中々見ないメニューだぜ? 折角だしな」
そう、ガザミと交換こ。買った団子の猫さんたちと、彼がひとまず確保したお花見団子を。
そしてさらに手渡されたお団子をじっとガザミは見つめながら、ぽつりとひとこと。
「……食べろと?」
もっと悩ましくなっちゃいます。
そして日本酒を口にしながらも歩いていたアイカは、刹那思わず大きく瞳を瞬かせる。
「「袋お化け」!? じゃないキリちゃんを発見」
それからその袋お化けの正体がきりとわかれば、器用にカップ酒を口に咥えながら。
「アイカさん大丈夫ですっ。自分で持てます」
何個か彼女が抱える袋を預かって、一緒に屋台を巡ることに。
最初は遠慮してきりだけれど、でも、どこからどう見ても「袋お化け」状態であったから。
「えーっと、ありがとうございます!!」
素直にアイカの厚意に甘えることにしてから。
「あ、あそこの屋台でお花見あんみつ買ってきます!! あと、そこの屋台でわた飴と、チョコバナナとりんご飴も!!」
「て、どんだけ買うの!?」
「ん? きりちゃん? ……すごい量持ってるね」
まだ甘い物を買う気満々な様子にアイカが声を上げれば、桜空ラムネを飲みながら屋台巡りをしていた紬も「袋お化け」なきりにぱちりと瞳を瞬かせて。
きりご所望の甘い物系の屋台へと一緒に赴けば。
「よく似てるね~妹さん可愛いね? サービスしとくね」
アイカへとそう声を向けた屋台のおじさんが、多めにサービスしてくれました!
勿論それを受け取るアイカは、貰えるものは下町貰うスタイルであるし。
きりはきりで、かわいいとか言われ慣れてないから、きょろりと周囲を見たり挙動不審になっちゃいます。
そうこう各々で屋台巡りをしていたのが、いつの間にやら、他の仲間とも合流してワイワイ。
「ウィズっちの燻製美味しそー」
「喰いたきゃ摘んでくれ?」
紬の言葉に、ウィズが皆にも購入した燻製グルメを差し出せば、ガザミもお言葉に甘えてひとつ摘まんでみて。
「いただきます、んっ!?」
はむりと口にすれば何故か、3秒停止……?
いや、だって、貰った燻製が驚くほどに美味しくて。
それから我に返れば、何気にまだ食べられずにいた猫さん団子を改めて見つめて。
「……かわい過ぎて、やっぱり食べるの無理ぃ」
思わずまたそう、悩みのループに陥ろうとしたのだけれど。
彼の声を聞いたきりは、ひとつ猫さん団子をお裾分けして貰った後。
「確かに猫さん団子かわいいですねっ!!」
――パクッ。
全く気にせず口に運べば、うんうんと頷いてから、うまい!! っていう顔。
「……きりさん、美味しそうに食べてる」
ガザミはそんな彼女の様子を見てから。
「猫さん、食べない方がかわいそうですよね」
改めて猫さん団子と見つめ合い、食べてあげることが猫さんのためだと決意を。
けれど、食べるのは――桜花と猫さん団子を並べた写真を撮ってから。
ウィズは、ぱしゃりと撮影するその様子にほっこりしつつも。
「万菖はブレ無ェなァ」
猫さんを躊躇なく美味しくいただいたきりのブレなさにそう紡いで。
桜咲く中、ちょこりと並んだ猫さん団子を紬も見つめて。
「ガザミんの買った猫さんのお団子もいいな! 可愛い過ぎて写真撮りたくなるね」
写真を撮り終われば……美味しくいただきました。
それからガザミは、焼きトウモロコシに焼き鳥にイカ焼きと、屋台を梯子して。
「こちらも、どうぞ、召し上がれ」
……ホント、芳ばしい香りには抗えませんねぇ、とほくほく。
そして甘辛いものを食べていれば、喉も乾くから。
「桜ラムネ要るか? 日本酒のノンアルも欲しい所だァな〜」
ウィズは皆に尋ねつつ買い渡して、自分もしゅわりと夜空グレープで流し込みながら。
何杯目かわからないカップ酒を嬉々と口に運ぶアイカへと目を向けて。
「私も桜色の可愛いクレープ買ったよ! 飾り付け凝ってるんだよね〜」
紬は華やかで可愛い映えるクレープを皆にも見せつつも、こう提案を。
「それに筍焼いたやつも買ったよ! 買ったものを分け合いっ子しない?」
「紬さん、分け合いっこしましょう!! わたしのおすすめは桜空金平糖です!!」
それから楽しく美味しく、分け合いっこの交換こを皆でし合って、屋台グルメをシェアしながらも。
「あと差し入れあるんだお母さんから。だし巻き卵だよ!」
さらに紬が続いて取り出すのは、持参したお母さん特製のだし巻き卵。
「みんなと一緒ならおつまみ兼おかずが必要じゃない? って用意してくれたんだ。もち多めにあるからね!」
「お、ありがとうよォ♪」
「卵焼きのやさしい甘さがうれしい」
それも皆で摘まみながら、花も団子も存分に満喫して。
楽しそうな声がそこかしこから聞こえる春に、ガザミも笑みを咲かせる。
「静かなのもいいですが、賑やかなのもいいですね~」
「やっぱ祭りは最高♪」
そしてアイカは、カップにひらり降ってきて浮かんだひとひらを眺めながらも。
もう少し皆と一緒に、楽しい春に酔い痴れることにする――ずっとこんな時間が続けばいいなぁ、って。
柔らかな春の陽光と花弁たちがひらり降る中、見上げる空に咲くのは薄紅の花。
「桜満開! 春だぁ!」
戀ヶ仲・くるり(Rolling days・h01025)がそう声を弾ませるのは、春のお出かけにわくわくしているから。
それと、もうひとつ。
(「ゆっくりと誰かと連れ添う花見は初めてかもしれない」)
(「人とお花見なんて初めて」)
共に歩く夜鷹・芥(stray・h00864)と可惜夜・縡(咎紅・h05587)の姿を見れば、ほっこりと咲く笑み。
どこか足取りのふわふわした2人に……楽しいならよかった、と。
そして、出店の賑やかな雰囲気と合わせてドキドキしている縡へと、芥が声を掛ければ。
「何処か高鳴って仕舞うのは縡の様子に同じだな」
「夜鷹さんも、ですか?」
彼とお揃いだという、ふわり咲く心地に、縡は思う。
……これは桜のせい、それとも笑ってくれる人がいるからかな、なんて。
それから桜の風景をわくわくそわりと歩いて、3人がやって来たのは公園の広場。
「屋台も賑わってんな」
「出店のワクワクする感じが好きなんだよねぇ……お祭りならでは!」
沢山広場に並ぶ屋台からは、美味しそうな匂いが漂ってくるから。
「夜のために買い出しがてら何か探してみるか」
夜ごはんの調達もあるし、良い匂いに誘われるように、屋台を巡ってみることに。
それからくるりは、ふと見つけた屋台へと足を向けて。
「縡ちゃん顔色白過ぎるからまず食べて欲しいはいお団子あーん!」
縡の口元へとずいっと、息継ぎする間もない勢いで、買ったお団子を差し出して。
眼前のお団子に目を白黒させつつも、縡はそろりと、小さく開けた口でぱくり。
もぐもぐ味わってみれば、ほわほわ。
「……お、美味しいです!」
口の中の甘い気遣いと美味しさに、胸と頬が温かくなって。
「おいしい? よかったぁ」
色付く顔に、くるりも笑みを浮かべる。
そして、早速団子を見つけた、そんな女子二人の光景を後方から眺めながら。
「好きなものを食えよ」
そうこくりと頷いて見守る芥の言動は……お父さん?
いえ、つい保護者目線になってしまうも。
くるりは今度は、彼にも視線を向けて。
「……芥さんもですよ。今日何か食べてます?」
そう訊かれれば、ふと考えてみた後に、芥はこたえる。
「――俺? そういや朝から食ってない」
「ない?」
……ということで!
「食べて!!」
再びずいっと、今度は芥にくるりが握らせるのは、キュートで美味しそうなお花見猫さん団子。
縡も、ほわほわな気恥ずかしさを誤魔化す様に。
こくこく彼女に同調するように頷いて促す――夜鷹さんも、と。
そんな向けられる視線ふたつに、ハイ、と。
素直に猫団子をはむっと齧ってみれば、芥は相変わらず表情筋はお留守ではあるものの、瞳を小さくぱちり。
「これは桜味か、美味い」
見目が可愛いだけでなく、春の優しい美味しさに。
そして、そんな春スイーツも沢山満喫するつもりだけれど。
「夜のご飯も買わなきゃ〜」
くるりは改めて、屋台へと目を向けてみるも。
「夜飯は百貨店の妖怪弁当面白そうだから、最後に見に行きてーかなって」
「屋台にもご飯はたくさんありますけど、百貨店のお弁当もあるんですね。どんな中身なんだろう……」
「中身面白そうだぜ」
「百貨店にそんなものが!? 行かねば!」
芥の言う百貨店の妖怪弁当とやらに、縡と一緒に興味津々。
それから、きょろりと見回していたくるりの瞳に刹那、飛び込んできたのは。
「あ、あのラムネ綺麗! 空の色と桜色!」
春の空色を纏う瓶にしゅわり弾ける、桜ラムネ。
ラムネといえば、お祭りの定番でもあるし。
「へえ、くるり良いもの見つけたな。綺麗なラムネだ」
「……わ、本当だ、桜の模様のビー玉が入ってますよ。可愛い……」
「……本当だぁ! 桜のビー玉入ってる、かわいい!」
からんと音を鳴らすビー玉に咲くのは、桜の花。
そして芥は、やっぱり保護者感を醸しながらも、屋台へと足を向けて。
「店主、ラムネ三本貰えるか?」
「え! 買ってくれるんですか? 流石所長!」
「夜鷹さん、ありがとうございます……!」
それから、ではどの空色にするかを、告げなければいけないのだけれど。
「どれにしよう……選べないよぉ……おじさん、おすすめひとつ!」
「私も色を迷ってしまって、お任せしようかな」
そんなくるりと縡の声に、芥も頷いて注文する。
……どの空色かは決めて貰おう、って。
そしてそれぞれ手渡されたラムネは、くるりと縡は桜空苺サイダー、芥には青空ソーダ。
その彩りは、そう――見上げる今の空と桜のいろ。
それから、ぽんっとビー玉を落とせば、からから、しゅわり。
耳に聞こえる音たちや爽やかな味わいを存分に堪能しながらも。
「桜ビー玉は土産にしようか」
芥のそんな提案に、勿論ふたりも大賛成。
瓶の中に咲く桜を鳴らしては見つめれば、縡は改めて頷いて返す。
……花が散っても残せる想い出に、大事にとっておきたいです、って。
満開に咲き誇っているという桜も、勿論楽しみだけれど。
「おべんと、どれも食べたくて迷うんよ」
八卜・邏傳(ハトでなし・h00142)がそわりと見つめる先に咲くのは、美味爛漫。
翊・千羽(コントレイル・h00734)も、くるりと視線を巡らせながら。
「お花見弁当ってはじめて食べる」
ちょっぴり豪華な感じがする弁当箱には何が入っているのか、覗いてみたくなるけれど。
「中はあけてからのお楽しみ? なんだか、玉手箱みたい」
「玉手箱? 確かに! 何入ってるかワクワクすんねー!」
「俺も俺も、何入っているかわくわくだ」
邏傳の言葉に、ハイデ・ロビカ(荒野のクーリエ・h05520)もこくこく頷く。
だって……花見も楽しみだけど、見ながら食う飯も格別だろうし、ってそう思うから。
でも玉手箱ならば、時が来るまで、あけちゃうわけにはいかないから。
わくわくそわそわ、どうせなら一番玉手箱っぽいお花見弁当を買ってみて。
「喜んでくれるお土産……」
「みんなのお土産、どんなのがよいだろ」
花見を楽しむその前に、皆にも春をお裾分けしたいから、お土産を探してみることに。
訪れた百貨店も桜や春の彩りが満開で、あれもこれもと悩んでしまうけれど。
邏傳がふわりと誘われたのは、淡い桜の香。
「このメモ帳ほんのり桜の香りするんだ? 面白いね〜」
「ほんとだ、邏傳。メモ、いい香りがする」
それからふと手を伸ばした千羽に、邏傳は気づいて。
「お、千羽ちゃん良いの見つかった?」
「うん、みてみて。桜の栞にキーホルダー」
「え〜栞もキーホルダーもすんごい可愛い!」
「オレも欲しくなっちゃった」
選んでいる自分達も、つい欲しくなっちゃう。
ハイデも、ふたりが手にした桜に瞳を細めて。
「千羽も邏傳も流石のセンス!」
ふたりのセンスの良さに、やはりどれも素敵で決められないけれど。
でも――悩んだ時の一番の解決法はそう、これです!
「栞にメモ帳、キーホルダー。まとめて春の文房具セットだ」
……決めらんないし全部お揃いで買っちゃうか、と。
そんなハイデの名案に、千羽は感心したようにすぐに頷いて返して。
「ハイデ、天才的発想……! 春の文房具セットで、お揃いしたい」
「お揃い!? 良いね! 大賛成〜♡」
邏傳も勿論、大賛成!
そうと決まれば、ハイデは改めて視線を巡らせてみて。
「そうだな、皆へのお土産も買おう。こっちのカンテラは桜花の意匠が綺麗だ」
「なんて綺麗なカンテラちゃん。ハイデちゃんセンス良すぎっ」
「カンテラ、綺麗」
手にして皆で眺めるのは、桜花の意匠のカンテラ。
ハイデはそれから、これを選んだ理由をこう紡ぐ。
「夜の傍に置いてさ。皆で星を見たり、できたら嬉しい」
「あの森で、お花見の次は星見会?」
「みんなで星見会ステキじゃんね」
今日の空は桜花弁が舞い降っているけれど、今度は星が降る夜を眺めるのもまた心躍るに違いないし。
このカンテラを灯せば、星と一緒に、桜だってキラキラ、一緒に楽しめるのだから。
それから楽しく悩んで、うきうき買い物を終えれば。
「桜いっぱい咲いてるの壮観ね〜。うきうきしてきちゃう!」
「晴れた空の陽を浴びる桜、生き生きとしてるな」
やって来たのは、桜が満開に咲いた公園。
邏傳とハイデのそんな声を聞きながら、千羽はそっと手を伸ばして。
桜――満開だ、って。
両手を広げ、青空を見ようと……した、その瞬間。
「わ――危ない、危ない」
弁当を落としかけるも、間一髪でキャッチ。
そんな千羽の姿を見れば、ハイデも思わず頷いてしまう。
両手一杯抱きしめたくなる気持ち、分かる気がする、と。
いや……こうやって桜を眺めて歩くのも、勿論とても楽しいのだけれど。
「そしてお弁当! 待ってましたぁ♡」
「お腹、ぐうぐう言ってる」
「はは! 俺も丁度弁当のこと考えてた」
そろそろ、お腹の虫も催促していることだし。
美味しい玉手箱をあけてもいいだろう、わくわくな時間。
「場所この辺りにするか」
ハイデはそう、良い感じの場所を見つけて、ふたりと共に腰をおろして。
いざ、お花見弁当を御開帳!
「! お弁当の中も、桜満開でかわいい」
「へぇ、ほんとだ、桜だ! 可愛いな」
蓋を開けば、ぎゅっと詰まった美味も、桜でいっぱい。
早速手をあわせて、いただきます!
それから千羽は、ふと訊いてみる。
「ふたりはどれが好き?」
「お気に入りのおかず?」
「オレはこの桜色の玉子焼きが好みでした」
「その玉子焼き、ほんと可愛ぇね〜」
千羽が気に入ったのは、桜のいろをした甘やかな玉子焼き。
そして、邏傳とハイデが推すのは。
「俺はこの桜の生麩? てやつ。おいしい」
「生麩、ふわふわだ」
「俺は彩たっぷりの具材乗ってるこれ、んまい」
「いなりちゃんも美味そうなん」
「いなり寿司、オレも食べたいな」
桜の生麩に、桜お稲荷さん。
でもどれも可愛いし、美味しいし、おなかも満足……と言いたいところだけれど。
「ね、やっぱお花見猫さん団子も食べたいや!」
「美味しいもの巡りデザートの陣だな」
屋台で売っていた、お花見猫さん団子も実はすごく気になっていたから。
今度は別腹のデザートを求めて、いざ!
「よーし、食べ尽くしー♡」
「賛成! 行こう行こう」
「買いに行こう、お団子」
そわそわ逸るように、お花見猫さんを求めて、団子屋台へ。
いや、猫さん団子も、桜のソーダも、他にもあればいくらでも――まだまだ桜咲く春を目一杯、今日は楽しみまくるつもり。
くるりと季節は巡って、これが何度目の春かなんて、とうに数えてはないのだけれど。
「もうすっかり桜の季節だねー」
でも彩音・レント(響奏絢爛・h00166)は早速、今年の桜の季節にひとつ、新しい発見をする。
「桜、きれいだよね。だいすきなの!」
「桜が好きなのは初耳だよ!」
わくわくしている隣の萃神・むい(まもりがみ・h05270)が、桜がだいすきだということを。
そしてそんな桜が今、満開に咲いて見頃であると聞いたから。
春を彩る薄紅の花を愛でながらお花見を楽しむ……のも、勿論なのだけれど。
本物の桜を見にいく前に、まずは百貨店で一緒にお買い物をすることに。
そんなデパートも今は春のいろで爛漫で。
「桜のグッズも沢山あるらしいよー?」
「桜のグッズ? たくさんあるんだったら悩んじゃいそうなの」
桜が大好きだと言っていたむいに、レントはさらに訊いてみる。
「むいちゃんはどんなものが好きかなー?」
「きれいなものも、かわいいものも好きだよ」
そうお喋りも楽しみながら、くるりとふたりで色々なお店を見て回ってみて。
気にいるものを探しつつ、やって来たのはアクセサリーフロア。
そんなフロア内は、むいが好きだと言っていた、桜も、きれいも、かわいいも、いっぱいで。
レントの赤い瞳が見つけたのは、しゃらり桜が並び咲く円環。
「これとかむいちゃんに似合いそう!」
目に留まったのは、可愛くて綺麗な桜が咲いたブレスレット。
むいも青い瞳に勧められた桜を咲かせれば、春の陽気のように心がほわほわ。
だって、レントが選んでくれた桜のブレスレットが、とてもかわいくて。
でもむいは彼に、もっとうれしい気持ちになるお強請りを。
「せっかくだし、むい、レントといっしょがいいな。レントのも選ぼう?」
「僕のも? そういえば水族館の時もお揃いにしたよね」
そしてレントはまたひとつ、友達の好きを知る。
「むいちゃんは一緒が好きなんだね」
「お揃いはうれしい気持ちになるから好き」
水族館では、海の中に雪が舞うお揃いだったけれど。
今日は、春に桜が咲いたお揃い。
「これなら僕でもつけられるかな?」
レントが選んだのは、むいに勧めた淡い桜色のブレスレットと同じデザインの、シルバーのもの。
むいはそんなレントが選んだブレスレットを見れば、にこにこしちゃう。
だって、桜色も似合いそうだけど。
「似合うね!」
シルバーはもっと似合っているって、そう思ったから。
それからレントは、むいがお揃いが好きだというのが、わかった気がする。
「同じものを持っているって特別仲良し! って感じがするかも!」
「えへへ。特別仲良しな証。うれしいな」
お互いにつけてあげたり、くるりブレスレットを巻いた腕を並べてみたり、鏡に映してみたりしながら。
仲良しの証がまたひとつ増えて、顔を見合わせては、ふわほわ笑みも満開に咲いちゃうし。
「冬の子なむいちゃんだけど春色も似合って可愛いね」
「ほんと? かわいい色でドキドキしたけど。似合ってるならよかったの!」
お互いよく似合っている桜を買って早速、お揃いで手首に咲かせて――たのしい思い出と一緒に、うれしい春を連れて帰る。
お子のそわそわした姿を見れば、目・魄(❄️・h00181)はすぐにこう察する。
……何処かで聞いてきたようだ、って。
でも、魄にとっても、お出かけしない手はないと思うのだ――喜ぶ顔を見れるなら、と。
そして、目・草(目・魄のAnkerの義子供・h00776)が聞いてきた『春灯祭』は、花咲か妖怪たちが満開に咲かせた桜のお祭りだという。
人の子だけれど、妖怪が好きな草にとって、妖怪が咲かせた桜というのにも興味も津々だし。
(「お家にも|桜の木《妖怪桜》は在るけど、たくさんの桜を見るの楽しみ」)
この時期になれば毎年、八百万屋敷にも|桜の木《妖怪桜》が迷い込んでくる。
今年もきっと気紛れにさわさわと枝を揺らしては、願いが叶う桜の花弁をくれることもあるかもしれない。
でもそんな|桜の木《妖怪桜》とはまた違う、数え切れないほどいっぱいの桜というものを見てみてみたいと、草は魄を春のお出かけに誘ったわけで。
だから、小さくも元気が良いお子のことだ。
「草、走って迷子にならない様に手は繋いでおこうね」
桜に攫われて迷子にならぬよう、小さなその手を取って。
満開桜の彩りの中を並んで歩いてみる。
そして魄は正解だったと、改めて思う。
「花見って聞いてたけど、それだけじゃなくてお店も一杯」
そわそわ視線を巡らせるお子は逸るように彼方此方、手を繋いでなければ、今にも駆け出しそうな様子だから。
それから、何が良いって聞いてみれば、より一層きょろりと。
(「どれもめうつりしちゃう」)
興味を擽るものもいっぱいで、草はわくわくしちゃうし。
魄だって分かるのだ、お子が落ち着きないのも。
だって、魄も思うから。
(「俺もこの雰囲気は嫌いじゃない」)
むしろ、珍しい物から季節限定の物など、喉から手が出そうな物はたくさんあるのだ。
けれど魄が優先するのは、お子の目指すもの。
魄が巡る店で一番手にしたいのは、草が欲しいと思うもの。
だがそれが何であるかは、この時の魄は、まだ知らない。
何せ、ちょっと目を離した隙に何か買っていたようだということしかわからなかったから。
そして草が、こっそりと探しているのは。
(「魄に似合いそうな桜のイヤリングを贈りたいなって思ってて」)
でもうまく、魄が見ていない隙に店に足を運んだものの。
色々なものがずらりとたくさん並んでいて。
(「悩むな……こっそり、お店の人に聞いちゃおう」)
手招いた妖怪店主と、そうっと内緒話を。
「なにがいい? どれが合うかな? おそろいもいいなって」
草のおこずかいで買えるのはどれかな……って、握りしめた駄賃程度を見せてみたりしながら。
そして見繕って貰ったのは、猫と桜が戯れるように揺れるイヤリング。
ちょっぴりおまけして貰えたから、お揃いのチャームも自分用に買えて。
包んで貰ったところを間一髪、魄に見つけられる。
それから何を買ったのか聞かれるも――勿論それは、まだ秘密。
(「秘密と言われたら、仕方ないね」)
魄もそう言われれば、それ以上は聞かないことにして。
桜咲くひとときを堪能すれば、そろそろ帰る時間に。
でも、そんな帰りもそわそわ何気に気になって、落ち着かないのだけれど。
お子を抱えて、帰路に着くことに。
そんな草は、やはり何だかそわそわ落ち着かない様子で。
だがそれもそのはず、密かに彼は決めているのだから。
(「帰り道に、魄に渡すんだ」)
――いつもありがとうって、と。
とはいえ、嬉しいし恥ずかしいから。
抱き上げて貰えば、ぎゅって抱き着いて、一緒にお家に帰ることに。
そして魄が知るのは、もうすぐ。
何にも代えがたい宝物になる、沢山遊び疲れたお子の、最大限の贈り物のことを。
麗らかな春の陽光が降る空も、一面の桜色に染まっていて。
そんな春の風景は確かに、とても美しいのだけれど。
(「ああ、幸せで溶けてしまいそう……」)
ライラ・カメリア(白椿・h06574)が目を奪われているのは、そう。
――暖かな春の陽光! その下で輝く満開の桜と俺!
「今日は目一杯楽しむ心算だ」
そう何よりも輝く、完全無欠の魔王様・皮崎・帝凪(Energeia・h05616)の姿である。
いや、ただでさえ、その御姿は輝いていて眩しいというのに。
「ライラ、遅れずに着いてくるのだぞ!」
そんな言葉と同時に――ぱちーん、と。
ライラに向けられたのは、星が出そうなウインク!
そしてそれを見れば、思わずくらり。
(「き、今日のわたし一日保つかしら……!?」)
不意のウインクに真っ赤になって、尊さによろめいてしまうライラ。
推しとの春のお出かけはまだ始まったばかりだというのに、もう情緒が極まってしまいそうだ。
けれど、ダイナ様と過ごすひとときをライラは目一杯堪能したいし、何よりも楽しんでいただきたいって思うから。
「まずは買い出しだな! 薬液での補給だけでラボに篭る日も多いゆえ、たまの食事の機会は重要なのだ!」
「まあ、流石ダイナ様、研究熱心でいらっしゃいますわ! 偶の機会をご一緒させていただけるだなんてこの上なく光栄です……!」
何とかなるべく理性を保つようにと心がけながら、彼についていく。
それから道すがら桜を愛でながらやって来たのは、桜フェアが催されている百貨店。
花見に必要な弁当などの食べ物や飲み物を調達するべく、様々な弁当や軽食が並ぶ催事場へとまずは足を運んで。
「幕の内弁当は外せない。フルーツサンドと、あとは……」
そう悩む帝凪の姿を見れば、ライラはそっと瞳を細める。
(「美味しそうなお食事を見つめるダイナ様、なんだかとても嬉しいの」)
これぞ、ファン冥利に尽きるというものである。
……それに。
「この彩り鮮やかな弁当はどちらも寿司なのか?」
そうこてりと首を傾ける仕草も、格好良いのにお可愛いらしいし。
「ちらし寿司と手毬寿司、ダイナ様のおしゃる通り、どちらも寿司ですわ!」
「面白い、両方頂こう!」
結局どちらも買うという潔い決断力もまた、堪らない。
そんな幸せいっぱいな心地のライラに、帝凪が次に告げた目的地は。
「そうだ、アクセサリーフロアにも立ち寄ろう」
「ええ、ぜひご一緒させてくださいまし」
様々なデザインの装飾品が並ぶ、アクセサリーフロア。
それから帝凪は、ライラへと目を向けて紡ぐ……ずっと思っていたのだ、と。
そして続いたダイナ様の言葉に、ライラは大きく瞳を見開いてしまう。
「ライラ、貴様には桜の髪飾りがよく似合うと!」
「ま、まあ……!? そんな、畏れ多いです…!」
ふるりと思わず首を振り――先刻見た美しい花が似合うだなんて、と。
けれど帝凪は、見繕った桜咲く髪飾りをそっとライラの金色の髪に当ててみて。
こくりと、大きくひとつ頷いて。
「……うむ、やはりな! 桜の下でも一際輝く優美さだ」
それから、こうはっきりと言い放つ。
「自信を持て、俺の目に狂いはない! この俺の隣を歩くのだから、最高に美しい姿だと胸を張るべきだ!」
その言葉を聞けば、ライラはハッとして。
ダイナ様が自分のために選んでくれた髪飾りをそっと手に取れば、彼へと頷いて返す。
「……ありがとうございます。貴方様がそう仰ってくださるなら」
美しくも淡く、されど凛と咲いていた、先程目にした桜の花のように――きっと恥じない姿になりますわ、って。
柔らかに降る陽光が心地良い今日は、絶好のお出かけ日和。
そして青空のような祭那・ラムネ(アフター・ザ・レイン・h06527)の瞳に映るのは、ふりふりと大きく揺れる、入道雲みたいなふわふわ白い尻尾。
そんなソータもご機嫌にニコニコで、桜色に染まる春の風景の中を、くるくるわふわふとはしゃいでいるし。
ラムネだって、嬉しいのと楽しいとでちょっぴり浮かれている――俺も久瀬と来れたから、って。
いや、勿論仕事で来ているから、気を引き締めねえとなとは思っている。
でも、それはそれとして……今ばかりは楽しんだって罰は当たらないだろう、とも思うわけだから。
「あっち行ってみようぜ、久瀬!」
そう笑って、友たる彼の手を、心躍るままにわくわくと引けば。
誘うのは、美味しそうな香りが漂う、様々な屋台がずらり並ぶ公園の広場。
そして桜の香を仄か纏うそよ風が、優しく頬を撫でるようにふわりと吹く中。
久瀬・千影(退魔士・h04810)の耳に届くのは、春のお出かけを楽しむ人々の楽し気で賑やかな声と。
「分かった、分かった。そう引っ張るな、って。子供じゃねぇんだから」
逸るように自分を促す、友人の弾む声。
そんな少し見上げるくらいの長身の友は、眼前のたくさん人の波だって難無く。
持ち前の行動力で、すいっと抜けていって。
「何か買って、花見でもしながら食おう」
そう提案してきたから、屋台の香りに空腹も刺激されていた千影も当然、了承したのだけれど。
たこ焼きや唐揚げ、イカ焼きに焼きそば……そんなよく見かける、間違いのない定番のものも、勿論あるものの。
でも其処は、互いに初めての√妖怪百鬼夜行。
目を向けて探してみるのは、千影曰く、ちょいと俺達の世界にはない面白いモン。
ラムネにとっても屋台に並ぶもの全てが新鮮で、ソータと一緒にわくわくそわり。
でも、あれもこれも目にすれば生じるのは、こんな悩ましさ。
「何を買うか迷ってしまうな」
とはいえ、これだけは決まっているから。
……せっかくだから二人でシェア出来るものがいい、って。
そして色々と目移りする友に、千影は揶揄うような苦笑交じりの言葉を向けてみるも。
「そういや、食えないモンとかあるのか? 野菜が嫌いだ、なんて言うなよ?」
「っはは、野菜もちゃんと食えるって。けど苦手なものか……、……ん?」
ラムネはそう笑って返す最中、ふとその足を止める。
視界にふいに飛び込んできて咲いた春の彩り――淡い桜色の瓶を見つけて。
「……酒か。綺麗な色だな」
でもそれは、自分達にはまだちょっぴり早い代物。
千影も、ソーダを閉じ込めたような彼の視線を追ってみれば。
その先にある桜色が、どうやらまだ自分達が飲める品じゃないらしいと分かる。
そう……俺たちにはまだ早い。けれど、呑める歳になったら――。
「……なー久瀬、成人したらさ、一緒に酒飲んでみようぜ」
「なら、その時は洒落てるBARにでも行ってみるか?」
また一つ増えるのは、未来への楽しみ。
そして互いに笑いながら、こんな未来予想。
「久瀬は酒に強そうだ」
「逆に祭那は弱そうだな。1、2杯で潰れてる気がするよ」
実際のところは如何に、それがわかるのも、あと数回季節が巡った先。
そして酒はまだ先のお楽しみだけれど、今ここでしか味わえないものを存分に堪能するつもりだから。
「この目玉串団子、リアルすぎじゃねぇか?」
「血の池ソーダに地獄焼きそば……どんな味か、想像つかないな」
この世界ならではな妖怪屋台飯にも、果敢にチャレンジです……!?
そしてふいにてしてしアピールする、もふもふな感覚に気づいて。
「ソータも食うか? 旨い……かどうかは分からねぇけど」
屈んで瞳を細め、千影がそう訊ねれば。
――ソータもたべる! と言わんばかりに、ぶんぶん揺れる尻尾のお返事。
楽しくて愉快な春のひとときは、まだまだこれからだから。
桜花弁が舞う青空の下、いざ、妖怪屋台巡りへ。
仰ぐ赤き花一華の双眸にも、薄紅の花びらたちが、ひらりひらひら。
「咲麗な桜の美しいこと」
ララ・キルシュネーテ(白虹・h00189)は、柔らかな陽光降る心地良い春の日に、改めて瞳を細める。
……絶好のお花見日和ね、って。
詠櫻・イサ(深淵GrandGuignol・h00730)と椿紅・玲空(白華海棠・h01316)も同じように桜空を見上げれば、こくりと頷いて。
「春うららって感じだ」
「ん、良い天気で桜がよく映えている」
春色に染まる街を並んで歩いて、まずやって来たのは。
「空も店も満開だな」
「桜の季節……百貨店も、とても力を入れているのですね」
玲空の声に続いたセレネ・デルフィ(泡沫の空・h03434)の言うように、活気溢れる妖怪百貨店。
でも足を踏み入れた百貨店内は、普段とはちょっぴり違う春仕様。
「食べ物も雑貨も……桜でいっぱいです」
「百貨店の桜フェスか……それも一種のお花見になりそう」
そう、今このデパートでは『桜フェア』が催されていて、どこをみても桜モチーフでいっぱい。
イサはそんな華やかな館内をくるりと見回してみつつも興味津々。
「あんまり行ったことない、どんな物が売ってるか楽しみだ」
百貨店は、日用品から趣向品、服飾やグルメまで、何でも揃っているから。
ララは此処へと足を向けた目的を改めて口にする。
「素敵な花の宴にする為には準備が必要」
……宴に備えて桜のアイテムを見繕うの、と。
でも必要なものを調達しつつも、折角だから、百貨店に咲く桜も楽しむつもり。
「外の桜も綺麗だけど、売り場に桜花絢爛に飾られた商品達も可愛らしいわ」
「よくこれだけの桜のアイテムが揃ったな」
そう玲空が見つめるのは、桜色のノートや栞などの文房具、そしてその先には桜モチーフのアクセサリー。
そんな中、ふと見つけて手を伸ばしてみるのは。
「……ふむ、このリボンで何かに仕立ててもらうのも良さそう」
桜咲く春のリボン。そして、それを手に思い浮かべるは白兎の少女。
イサもきょろりと華やかな売り場を見渡してみて。
「文房具にアクセサリーにって本当に色々あって迷うな……」
たくさん並ぶ桜グッズの中でも、特に気になった一品はこれ。
「この春暁の桜の手帳もいいかも」
「桜の万年筆は学園で使うのに丁度よさそう」
ララもお気に入りを見つければ、るんるんご機嫌に。
そしてセレネも、皆のあとをついてきょろきょろ。
並ぶ桜の文具はどれも可愛くて、選ぶのがむずかしいけれど。
「夜桜のブックカバー……かわいい……」
そっと手に取ったのは、綺麗でかわいい夜桜柄のブックカバー。
ララも……あ、可愛い、と。
桜ハーバリウムの枝角のカチューシャをすちゃりと試着してみて。
「これも買うわ」
「ああ、いいじゃないか。ララよく似合ってるよ」
……樂園のみんなにも見せよう、と。
玲空が紡げば、イサとセレネも頷いて。
「ララさんのカチューシャ、とてもお似合いです。桜の化身のようで……すてき」
「はは! ララ……なんか、桜の龍みたいだな? いいじゃん、似合うよ」
「ララ、桜の龍みたいでしょう?」
ララは胸を張ってえっへん得意げに咲む――自慢よ、って。
それから、皆にも目を向けて。
「お前達もお気に入りが見つかったかしら」
「詠櫻さん、椿紅さんはどういったものがお好きなのですか?」
セレネのそんな問いに、まずこたえたはイサ。
「俺は夜桜より黎明の……朝の桜が好きなんだ。朝露がきらきら宝石みたいで」
……1日のはじまりを祝って貰える気がしてさ、なんて。
紫苑から桜色に移ろうキーホルダーを手に笑めば。
「イサは夜明けの桜がすきなの? ララも好きだから、嬉しい」
「へぇ、イサの好みは初めて聞いたかもしれない」
玲空はそう言った後、ふと、彼の手にあるキーホルダーと聖女サマを交互に見て。
「……ふふ。それ、ララの色か?」
なんて小声で悪戯っぽく笑ってみせれば。
思わぬ言葉に、イサの乙女椿の彩がぱちり。
それから大きく瞳が見開くと同時に、声を上げる。
「は!? ララの色じゃないしっ」
いや、確かに言われてみれば、似ている色をしているから。
イサはちょっぴりむきになりつつも、こう続ける……少し、少しだけ! って。
そんな様子に、ララはさらに満足げに咲んで。
「むふふ、照れ屋ね」
同じキーホルダーをお買い上げ。
それから少し気を取り直した後、今度はイサが訊ねてみて。
「そういう玲空はどれにした?」
「私はこれかな。昼の桜がこんなに綺麗だとは思わなかったから、さ」
そう玲空が見せるのは、抜けるような青空に桜広がるポーチ。
それはまるで、今日の景色のような。
「玲空のは明るい昼桜ね、明るいお前にぴったりよ」
「へぇいいじゃん。晴桜を持ち歩くみたいで」
ララとイサも納得の、彼女にお似合いの昼桜のもの。
セレネも、ふたりから返ってきたそれぞれの返答に、こくこくと小さく頷いて。
「なるほど、朝の桜に、昼の桜……どの桜も素敵ですね」
ふたりの選んだ桜とはまた違った印象の、手元の夜桜を改めて見つめて呟きを落とす――ずっと傍に置きたくなるくらい、って。
それからもうひとつ、セレネの目にふと飛び込んできたのは、桜が咲き溢れる簪。
淡く揺れるその様子は、春風にひらりと舞うそれに似ていて。
……とても綺麗、って思わずそう声を零せば。
「セレネは簪?」
「セレネの簪もすごく綺麗だ」
「セレネの簪は桜のお姫様みたいだわ」
3人に告げられた言葉に、擽ったくて嬉しく思うも。
小さく首を傾けて、じっと桜の簪を見つめるセレネ。
「けど、どう着けたらいいか……」
だがそんな悩みも、すぐに解決。
「俺、やり方知ってるから教えるよ」
「イサは簪の扱いも知ってるのか? すごいな」
「詠櫻さん、わかるのですか? 是非……教えてください」
そうとなればもう、悩むことはないから。
「私、これにします」
ゆらり桜が揺れる簪を、お持ち帰りすることに決める。
そんな桜咲く文具のお気に入りを、それぞれが選び終えれば。
「もちろん、桜スイーツもたくさん買うわ」
お花見しながら味わうの、と。
わくわくと気合十分なララ。
そんな聖女サマの食べっぷりは、イサはよく知っているから。
「桜スイーツは山ほど買いそうだな」
でも、花より団子という言葉もあるくらいだから。
こう思いなおし瞳を細める……それも花見の醍醐味か、なんて。
そして玲空も尻尾をゆらりら、美味爛漫にも期待大。
「花見をしながらの桜スイーツ、わくわくするな」
「では次は食の桜と……本物の花見、ですね」
セレネも勿論、たのしみです、と。皆と一緒に、沢山満喫するつもり。
美味しい食の桜も、本物の楽しい花見も。
ヒト型を取れば、何故かその視線は低いものなのだけれど。
黒髪青眼の少年姿をしたトゥルエノ・トニトルス(coup de foudre・h06535)は、高い空を見上げてみる。
「春は花見の季節とも聞いたな」
常いる世界とは別の土地……別の光景を眺めてみるのも、風情があると言うもの、なんて。
春に咲く薄紅の風景の中を歩きながら。
そして口にしたように、これから緇・カナト(hellhound・h02325)と共に楽しむのは花見、なのだけれど。
満開に桜が咲き誇っているという公園にいくその前に立ち寄ってみるのは、妖怪百貨店。
カナトは沢山の人や妖怪たちが訪れている館内をくるりと見回して。
「桜フェアの妖怪百貨店も賑やかだねぇ」
「……なに、桜フェアが催されている?」
ぱちりと瞳を瞬かせるトゥルエノに頷きながらも、やはり気になる春グルメの催事……は、一旦置いておいて。
「のんびり満開の春色でも眺めるかぁ」
「楽しそうだな見に行こう」
折角だから、色々なものを見て回りたいと、百貨店巡りを。
そして、トゥルエノにとっては。
「初ウィンドウショッピングというヤツだ」
これが初めてだという、わくわくなウィンドウショッピング。
上から下まで、色々なフロアを一緒に漫ろ歩いてみながらも。
ふたり交わすのは、こんな会話。
「妖怪百貨店と聞いていたが、デパートとは違うものなのだろうか?」
「……言われて見ればそうだなぁ。百貨店とデパートは大体一緒じゃないの?」
「……大体同じか。そうか」
それから少し考えた後、トゥルエノは今度は、こうカナトに訊ねてみる。
「ちなみに……コンビニと駄菓子屋は違うもの?」
「駄菓子屋とコンビニじゃ、だいぶ品揃え違ってるケド」
「……そうか」
そして教えて貰えば、ひとつこくりと頷いてから。
カナトへとこう続ける。
「いや、何でもないぞ。主は気にしなくても良い事だ」
そんなお喋りも楽しみながら。
カナトが次に見てみるのは、独り暮らすには便利な家電たち。
「ハンディクリーナーとか電気ケトルとか、買い揃えても良いかもなぁ」
「あの部屋に置くには此の彩はどうか?」
トゥルエノも春色した品々眺めては、部屋に置かれた様子を思い描きつつも、一緒に楽しく選んでみたりして。
「何か面白そうなの見つかった?」
カナトは改めて、連れの彼にそう訊いてみるも。
でもやっぱり、気になって釣られてしまう。
「桜フルーツサンドセットは食べたいなぁ」
そこかしこから漂ってくる、春グルメの美味しそうな香りに。
でも何も、気になるのは桜フルーツサンドセットだけではなく。
おこさまランチも見た目が愛らしくて心擽るし。
「桜カレーパンに桜あんパンに……」
春限定のパンだなんて、それこそ勿論、買いである。
そしてそんな春グルメの数々に釣られる彼の様子を見れば、トゥルエノはふふりと笑ってしまうけれど。
「春のパンは幾らでも食べられそうだから、お土産も摘み食いも沢山になりそうかもね」
「パンなら我も沢山食べるの協力できそうだ」
パンを完食するための助っ人を買って出て。
ふわり香る美味しそうな匂いに、嬉々と青の瞳を細める……初めて食べる味を楽しみにしておこう、と。
いつもは、目を離せないというかほっとけないというか。
尻尾をふりふり、隣をご機嫌に歩く五十鈴・珠沙(Bell the cat・h06436)は、ひょんなことから出会った後輩分なのだけれど。
でも浮石・尾灯(ウキヨエ・妖怪・ヒーロー・h06435)は、今日は彼女に導かれるまま歩くことにする。
「素敵な桜、見せてあげるねっ」
……今回はあたしの育った√でのお花見! と。
そううきうきしている珠沙の案内で、今日は√妖怪百鬼夜行にお花見をしにきたのだから。
いや、春を迎えた桜の風景も。
「妖怪√の桜は絵になりそうだなぁ」
隣でそう紡ぐ先輩の言うように、とても美しくて心躍るのだけれど。
珠沙にとって尾灯は……ビート先輩は、助けてくれたヒーローであり、憧れの人で。
だから、よりいっそう一緒に楽しめるとなれば、珠沙は張り切っちゃうし。
「じゃーん、ここが妖怪百貨店! すごいでしょ?」
「ほーほーこれが妖怪百貨店。賑やかだ。自分のとこの百貨店なんて行かないのも相まって物珍しさに溢れてるよ」
尾灯が物珍しそうに、あれやこれやと視線巡らせる姿を見れば、珠沙も嬉しくなる。
そして訪れた妖怪百貨店は、百貨店というだけあって。
並ぶ店々や品物も多種多彩、色々なものがたくさん売っているが。
珠沙はこう、尾灯に提案を。
「夜に一緒にお花見するためにお弁当買っていこ?」
花も団子も、両方一緒に、目一杯満喫したいから。
それにちょうどお腹もすいてきた頃、尾灯も勿論、彼女へと頷いて返して。
「腹が減っては戦はできぬと言うからねぇ」
「ビート先輩はおなかいっぱい食べそうだよねえ」
「場所も取ってないし手掴みで食べれるのが良いね」
お喋りもいっぱい楽しみながら、夜に向けての作戦会議を。
それからパン屋さんで見つけたのは、手掴みで食べられそうで、珠沙も気になっていたもの。
「あたしは迷っちゃうけど、桜フルーツサンド。えへへ、サンドイッチは憧れなの! あとで半分こしようね、先輩」
「はいはい、はんぶんこね」
でも、はんぶんこしたいのは、それだけではなくて。
「桜あんぱんもいいなあ……先輩、これも半分こしない?」
「まぁお花見だしなぁそれと……メロンパンも付けよう」
「メロンパンもいいの? わーん、先輩、だから大好きー!」
「飲み物も後で忘れずに買おうねぇ」
……もちろんこれもはんぶんこ、って。
桜フルーツサンドに桜あんぱん、それにメロンパンまで。
桜のようにぱっと笑顔咲かせる彼女と、仲良くいっぱい、はんぶんこの約束を。
はらりひらりと舞う桜も、摩訶不思議な世界の雰囲気にぴったりで。
「パッと見は普通そうに見えて面白いモノが多いねぇ」
「ツボにはまりそうなモノ、たくさんありそ」
古賀・聡士(月痕・h00259)と高城・時兎(死人花・h00492)がやって来たのは、妖怪百貨店。
いや、普通のものも沢山あるのだ。
でもよく見れば、ところどころあれもこれも、何だかへんてこなものもたくさんあって。
立ち寄ってみた妖怪アンティークショップを覗いてみれば、ある意味、お宝探しのような様相。
そしてまず、気になる一品を見つけたのは、聡士。
「あ、これいいなぁ。ろくろ首スタンドライトだって」
ぽちぽちボタンを押してみれば、ピカピカ、チカチカ。
さらには、やっぱりろくろ首だから、首がうにょーん。
「顔が光るのと目が光るので光量切り替えられるんだ。首が伸び縮み角度自在だから便利そう」
何気に実用性も抜群な、グッドデザイン!
そんなスタンドライトのろくろ首と、時兎はじいと暫く見つめ合えば。
「ろくろ首スタンドライト……それ、欲し」
……いーの見つけたね、聡士、と大きくこくり頷いてから。
今度は、自分が発見したものを差し出して見せてみる。
「おれは、こんなの見つけた。目目連の無限ぷちぷち」
「へえ、無限ぷちぷちならぬ無限目潰しかあ」
「途中で面倒になって、雑巾絞りしそ、だけど」
「雑巾絞りはぷちぷちの意味……いや、音があるか?」
じわじわひとつずつ潰すにせよ、一気に雑巾みたいに絞ってぶちぶちっとするのも。
ぎゃあっと目目連の悲鳴が、何だか聞こえてきそうな気がしないでもないけれど。
そもそも、それは潰すためのぷちぷちなのかという疑問が。
他にも、へんてこなものだったり、何に使うのかすらわからない謎のものもあったりするけれど。
ショップの主人お手製だという眼球型の風船入りプリンを見ていた時兎は刹那、ハッとする。
「時兎、どうしよう。疼いてた右目が……飛び出して……」
向けられたそんな聡士の所作と言葉に。
そして、両手で彼の肩をゆさゆさ。
「ちょと、あんたの右目の封印が解けたら、世界滅ぶでしょーが!」
それから、前髪に隠れた目から飛び出したという、ふわふわ眼球妖怪をひょいと取れば。
「あっはっは、流石に世界は滅ばないよー」
ちょっとした悪戯を仕掛けてけらけら笑う聡士と、何となくちょこんとその頭に乗せてみた眼球の妖怪らしきモノを、時兎は思わず交互に見遣る。
前髪で隠れた片目、頭に眼球の妖怪――。
「……どっかで見た、コレ」
そしてされるがまま、頭に人形を乗せられている聡士も、そう言われればそわり。
「見たことあるのかい? ちょっとどこかに鏡無い?」
彼女の愛用の手鏡を受け取って見てみれば、確かに――。
それから、鏡を覗く彼の姿をまじまじと目にしながらも、時兎は紡ぎ落す。
「やっぱ聡士の瞳、漆黒、好き」
そして……とりあえず、ゲタ履いとく? なんて。
謎にもうちょっとだけ、見たことある何かに寄せてみたりしてみます……?
桜がひらりと目の前で舞えば、思わずてしっとしたくもなるけれど。
今日はばっちり姿は人のものである、ジズ・スコープ(野良古代語魔術師ブラックウィザード・h01556)がまず向かったのは、賑やかな妖怪百貨店。
そんな彼のお目当ては、「春の手まり寿司」と「桜お稲荷さん」。
そしてどちらも無事に調達することができて、桜が満開だという公園へと向かうのけれど。
「想像以上の人の多さでした……」
百貨店のふぇあ、侮れません……と。
何気に限定品を求める人たちの多さと熱気に、ちょっぴりぐったり。
そしてほんのり疲れを感じつつも、桜に癒やされようと公園で花見を楽しむことに。
それから桜が綺麗に見える場所を求めて、のんびりと歩いていれば。
「おや……わたがし………」
屋台並ぶ広場でふとジズが見つけたのは、わたあめやさん。
「昔から好きなんですよね……あまくて、ふわふわで。ああ、こちらでは、わたあめと言うのでしたね」
そして知っているわたがしとはちょっぴりだけ違う、そのカラフルな色に多少驚くも――折角ですから、と。
春色わたあめをわくわくひとつ購入すれば、にこにこ御機嫌に。
それから再び満開桜の風景を歩いて、善き場所を探して、其処でいただくことにして。
「昼の桜は清楚で優しく見えますね……」
いい感じの場所を確保すれば、綺麗な桜を眺めつつも、はむり。
甘くてふわふわなわたあめと、ころんと可愛い春の手まり寿司をいただいては、ほっこり。
桜お稲荷さんも続けていただきたいところだけれど――また改めて美味しく楽しめるように、お持ち帰りすることに。
晴れ渡る春の青空に咲く桜はちょうど満開、今日は絶好のお花見日和。
けれど、小倉・ミルク(|五穀豊穣の大鎌《ハーヴェスト・サイズ》・h04719)がまず足を向けてみるのは、そんな桜が咲き誇る公園ではなくて。
(「桜好きとしてお昼の桜も見たかったところだけど……」)
後ろ髪引かれる思いはあるものの、でもやっぱり。
……お洒落アイテムとかのチェックは最優先なのですっ!
付喪神とはいえ、今のミルクは女の子の姿をしているから。
話に聞いた、妖怪百貨店の化粧品売り場に、春コスメを見にいってみることに。
だから昼のお花見はできないけれど、でも、デパートへと向かう道は桜色に染まっていて。
春色の街を歩いていれば、それだけでもうきうき、心も足取りも軽やかな踊るような心地に。
そしてお目当てのコスメコーナーへと足を運んでみれば、ますます気持ちがぱっと華やぐ。
「リップもチーフもまず見た目からしてかわいい……!」
心ときめく春限定パッケージは、それだけでつい買っちゃいそうになるのだけれど。
ミルクはふるりと小さく首を振って、何とか思いとどまる。
(「お化粧品はあたしとの相性もあるから慎重に選ばないとだね!」)
限定の春色とひとことにいっても、ふわり甘やかな淡いピンクもあれば、春空に映えるような鮮やかな薄紅、夜桜のように煌めくラメ入りなど。
色味も数種類あって、人それぞれに似合うものも違うだろうから。
だからひとつひとつ手に取っては、色や質感を見て確かめようと思うミルクなのだけれど。
「にゅぅ~……。見れば見るほど何が良いのか分からなく……」
こっちの色は可愛いし、でもその色も綺麗だし、あの限定色も気になるし。
自分にどれが似合うのか、イマイチわからずに頭を悩ませるミルクであったけれど。
ここは、ちょうど声をかけてきたプロである妖狐な店員さんに、おススメを聞いてみることにして。
(「桜リップと桜チークを1つずつ買っていこっと!」)
あれこれ試した後、透けつや感が綺麗なチェリーピンクの桜リップと、甘めでキュートな桜ミルク色のチークを購入。
もちろん、春限定の桜パッケージで!
それから春コスメを買った後、ミルクは、きょろりと春色爛漫なフロアを見回して。
(「お化粧品の店員さんがネイルサロンも勧めてくれたけど場所はここかな?」)
探してみるのは、爪を整えたり彩ってくれるというネイルサロン。
だって、ミルクは思うから。
せっかくのお祭りだし、ネイルもしっかりと整えていけばより楽しくなりそうだから――いざ突撃!
「この後に春灯祭に行くから、右手のネイルは桜をイメージした感じにしちゃおうかな!」
そして左手のネイルは、猫又ネイリストさんにお任せ。
(「ふふっ、どんなネイルになるのかすごく楽しみだね☆」)
こうして出会えた縁もあるし――って、自由に彩を添えてもらうことに。
それからネイルをして貰えば、ミルクの爪も桜爛漫。
右手は、ピンクから藍色に移ろうグラデーションのベースに、淡ピンクとハニーミルク色の桜が描かれ、咲き誇っていて。
左手は夜空の様な藍色のラメ入りネイルの上に、ひとひらふたひら、桜花弁がひらりひらひら。
これで夜の祭りに行く準備もばっちり。桜色を纏えば、気持ちもわくわく満開に。
春の陽光が降る今日は、ぽかぽかの小春日和。
そして、吹き抜ける春風が頬を心地良く擽ると同時に、ひらりひらひら。
「澄み渡った青空に見渡す限りの桜のお花……!」
青い空に舞い踊るのはそう、春の彩りを纏った桜花弁たち。
そんな、満開桜が咲き誇る風景に……とても、とても美しく見事な光景です、と。
瞳輝かせるブルーベル・ラ・フォンテーヌ(最果ての碧落・h06210)の声に、ジョン・ファザーズデイ(みんなのおとうさん・h06422)も頷いて。
「お花見、素敵だねぇ。風流だねぇ」
うんうん……|花見客《子どもたち》がみんな楽しそうで、おとうさんは嬉しいよ、なんて。
ほわりと満足気に瞳を細めつつ、くるりと巡らせて。
「迷子はいないかな、困った子はおとうさんのところにおいで~」
ジョンはみんなのおとうさんだから、全ての|花見客《子どもたち》へと抱くは、花の様に咲く慈しみの気持ち。
ステラ・ラパン(星の兎・h03246)も、賑やかな春の公園を軽やかに歩きながら。
「青い空に薄桃の花、春めいて何とも気持ちいいじゃないか」
……皆の表情も晴れやかでイイね、って。
春の景色に綻ぶ、人々の楽しそうな様子に笑み咲かせて。
「眩いばかりの晴天だが、花雨と云うのも悪くない」
「ぬくい木漏れ陽、やわい色した薄雲までも、桜に霞んで見えるようだのう」
……何より花見は胸が躍るものだ。
……うむ、これぞ宴日和よ。
小沼瀬・回(忘る笠・h00489)とツェイ・ユン・ルシャーガ(御伽騙・h00224)も、その心を躍らせる。
はらりと降っては煙るように淡い、春色を皆で愛でるひとときに。
そして、破場・美禰子(駄菓子屋BAR店主・h00437)も。
「こりゃ見事!」
そう桜空を見上げ、感嘆の声を上げた後。
ばさりとシートを広げるのは、花盛りの桜の元。
そして……さあ入った入った、と。
十分な広さがあるそんな花見の特等席に、皆を手招けば。
吉祥・わるつ(浄刹・h05247)はふわふわ綺麗な桜の下、皆と一緒にちょこんと座って、敷かれたシートにお邪魔します。
ということで、いざ花見のはじまりであるが。
花より団子ならぬ、花も駄菓子も、皆で楽しむべく。
皆がよく集う、駄菓子屋Bar「B BA」で、各々予めオヤツを選んでおいたのだけれど。
店主である美禰子からのお約束は、そう――「オヤツは300円まで」。
そして、シートの上に嬉々とオヤツを取り出す様子を見ながら、美禰子はふっと柔くその目を細める。
……皆お約束は守ってくれたようで、と。
「駄菓子屋のババアはそういう律義さ嬉しくなっちゃうんだよ」
その声を聞けば、約束を守れる良い子な面々はえっへん得意顔で。
「無論、確と収めたぞ、美禰子殿」
「お菓子は税抜き300円まで。ちゃんと守りましたよ、美禰子先生っ」
「先生は少々こそばゆい……」
回に続いたブルーベルの言葉に、美禰子はそうそっと小さく肩を竦めてみせるも。
「我らが頭の定めた三百円の掟は確と」
「花見の菓子はお決まり通り、ちゃんと守ったよ美禰子の姐御」
「……ン? 頭と姐御?」
店主で、それに先生で頭な美禰子の言う通り、ちゃんとオヤツは300円まで!
そして、なぁんてね、なんて悪戯っぽく笑うステラの隣で、わるつもツェイも頷いてみせて。
「美禰子おばさま、300円、私もちゃんと守ったわ! ちょっぴり大変だったけど何度も計算したの」
「いましめの中で探すもまた愉快だったとも」
美禰子はそんな良い子たちが並べたオヤツへと改めて視線を巡らせれば、こくりとひとつ頷いて笑み宿す。
「シートの上も春が咲いたようじゃないか」
其々が選んだ菓子たちは、季節を感じるのも多くて。
そう、ブルーベルが選んだのは、まさに春のオヤツ。
「苺の4個入りミニドーナツと抹茶の鈴カステラと……春限定とお伺いしまして、つい買ってしまいました」
「ブルーベルちゃんの春限定、おいしそう!」
「限定の菓子とは、ブルーベル殿は御目が高うておられる。抹茶の菓子とは実に美味そうだ」
しっかり春限定のものを選んでいる彼女に、わるつとツェイは言葉を向けつつも。
桜色のラムネ菓子、ころころしたみるくぼうろ、苺味のビスケット――わるつのチョイスも春色いっぱいで。
「そら、此方も召し上がるとよいぞ」
ツェイの選んだオヤツは、桜ん坊餅と、七色らむねに苺の粒ちょこ。
「ふふ、桜を思い浮かべておったのが丸解りだの」
やっぱり同じように、桜を思わせるラインナップで。
回が桜の下に並べたのも、桜桃餅に、きびだんご、三色団子代わりのかすてら串。
「三百円分と思えぬ豪華さだな」
「桜桃餅は、あははお揃いが沢山だ」
ステラも勿論、お揃いの桜桃餅と。
「それから一口羊羹に、あとは弾ける綿菓子さ」
……ふふ、刺激も必要だろう? って。
ぱちぱちなふわふわもそっと仕込んで、やっぱり楽しそうに笑む悪戯っこ。
そしてシートの上も、あっという間に春爛漫。
「桜に溢れたものに限定品然り、選ぶものにも春が滲む様で佳い」
「苺と桜、皆様と同じ考えに辿り着いたのかもしれません」
「ふ、その上揃うとなると尚佳いな」
……心はひとつ、と言ったところか、と。
ブルーベルの声に頷く回が紡ぐように、しかも皆考えることが仲良くお揃いとなれば、嬉しさや楽しさも綻んで。
ツェイも摘み転がし笑み咲かす――似たり被りも息合えばこその御愛嬌、と。
それから勿論、ジョンも。
「さてさて。駄菓子は300円まで、ということで……」
オヤツは300円まで……と、言いたいところなのだけれど。
「200円の瓶オレンジジュースと、100円の詰め合わせ袋を持参したよ」
「おやジョン、飲物も予算に入れてくれたのか」
オヤツだけでなく、ジュースもいれて300円分だというから。
餅あられに桜大根にポン菓子にと、美禰子は彼の前に差し出す。
「その分菓子が少ないだろ。アタシが持ってきたのも摘みなよ」
「あれあれ、なんだか お菓子を分けてもらっちゃって……ありがとう、いただきます」
甘いも塩味も満遍なく、これでジョンのオヤツも300円分くらいになるだろうから。
そしてこれだけたくさんの駄菓子が並べば、ブルーベルはそわり。
「交換して下さる方がいらっしゃいましたら是非……!」
「皆の菓子も個性があって楽しいね。ブルーベル、僕のとも交換しようよ」
そんな交換このお誘いに、ステラや皆は勿論乗って。
ふふ、ではステラ様や皆様とお菓子と交換を、なんて微笑み咲かせるブルーベルであるけれど。
「バナナはデザート枠だ、安心しとくれ」
「やったぁ、バナナも……!」
美禰子が近くに房で置いてくれたバナナを見れば、ぱあっとさらに笑顔を綻ばせて。
ステラの果物付きの耳も、ぴょこんっ。
「あ、バナナ」
「食べすぎないように気をつけましょう」
お耳も心もわくわくと跳ねるけれど、食べすぎにはちゃんと注意します、皆良い子ですから!
そしてオヤツを用意すれば、やはり花見の始まりといえばこれ。
皆が各々手にするのは、飲み物。
宴の乾杯の定番は、とりあえずビール……といきたいところだけれど。
「私は酒精を未だ知らぬゆえ、戯れに子供用の麦酒で」
「わたしも子供用の麦酒で」
「乾杯は僕も子供麦酒にしようかな。飲めぬ分の憧れってやつさ」
回とブルーベルとステラ、わるつが手にするのは、ビールはビールでも、ノンアルコールの子供用の麦酒。
そしてツェイは林檎水、ジョンはオレンジジュースの杯を、それぞれ掲げれば。
「それじゃァ乾杯!」
美禰子の音頭に合わせて――乾杯!
「しゅわしゅわは同じでも、私はきっとこっちの味のほうが、大人になってもずっとすきな気がするわ」
わるつはそうしゅわり口の中で弾けるこども麦酒を口にしつつ、そう紡ぎながらも。
何気に気になって、じっと注目するのは。
「やっぱり、鳥籠から流れてこない……!」
おとうさんジョンさんの飲む姿。
それから思わず、ほわあ……! と声を上げては、瞳を瞬かせる。
だって、おむろに開いた|鳥籠《頭部》の小さな扉へと運ばれたジョンの飲み物は。
「……そのジュースは一体何処へ?」
美禰子も瞳をぱちり。零れることなく摩訶不思議、どこかへ消えたのだから。
そしてステラとブルーベルも、思わずびっくり。
「ジョン、それどうなってるの!?」
「ジョン様、それは手品でございましょうか……!?」
「おお、ジョン殿の奇術、いや幻術であるな」
ツェイは、そんな彼の奇術なのか幻術なのかを眺めつつ、パチパチと拍手!
そしてそんな皆の各々な反応を見て、今度はジョンがぱちくり。
「おとうさんが食べたり飲んだりするところ、そんなに面白い?」
そして、それが逆に面白くて、くすくす笑っちゃうし。
やはり皆と同じように、自分をじいと見つめる回のこんな言葉に。
「――そう手品めいた事をされると、私もじょん殿に何か分けたくなる」
「手品、手品か……子どもたちに披露したらウケるかなぁ」
そう首をこてりと傾ければ、ステラは大きく頷く。
「あははっ! 人気者だね」
だって、自分達だってこんなに大注目したし、とても驚いたのだから。
それから美味しく楽しく、オヤツと花見を楽しんで。
ほわりと春を満喫している面々の前に美禰子が取り出したのは。
「玩具も持ってきたんだった」
駄菓子屋にも並べている、組立式の飛行機にシャボン玉。
「遊んでも公園は広いし大丈夫さ」
「店主さん、おもちゃをありがとう」
「ふむ、春風に遊ばせるのに最適だな」
そしてジョンが礼を告げた後、回も……なれば、と。
挑戦心で飛行機に手伸ばしてみれば、ブルーベルも同じように、まずは飛行機の組み立てからチャレンジ!
……なのだけれど。
「飛行機の組み立て方、これであっているのでしょうか……?」
「? 単純そうで、器用さが要る様だ」
ふたり顔を見合わせ、首をこてりと一緒に傾げてしまう。
そんな、実は組み立て方を把握していない様子のふたりに、美禰子はお手本を。
「飛行機は組立が肝心でね」
……こう、と。
回やブルーベルの前で、手際良く作ってみせて。
「美禰子先生、は流石熟れているな」
「なるほど……さすが美禰子先生ですっ」
やはり美禰子は頼りがいのある先生です、ええ。
それから先生の見様見真似で、ブルーベルは飛行機のカタチに仕上げて。
「空中でバラけてしまいませんように……ぁ、変な方向に」
先生の指導の賜物でバラけはしなかったけれど――投じれば、明後日の方向に。
けれど、飛んで行った方向はともかく。
「最初なら上出来だよ」
しっかりと形をとどめている彼女の飛行機に、そう頷いて返してみせて。
「おや、これは懐かしいものが、我も拝借しようかの」
「あ、しゃぼん玉。やります!」
ツェイとわるつは――ふぅ、と早速、青空へと向けて吹いてみる。
虹のシャボンが膜張る輪の中を。
そしてふわりふわふわ、揺れては煌めいて舞うシャボン玉をツェイは見上げ、見送る。
透明なしゃぼん玉に映る逆さの花見席を眺めながら――運んでおくれ、と。
わるつも、春の彩りと煌めきを纏うシャボン玉たちを見つめてから。
「虹色の泡がふわふわ桜に浮かぶのがとっても綺麗」
次のシャボン玉を飛ばすべく、わるつは再びシャボン液をつけた輪っかをすちゃり手にしながらも。
共にシャボン玉をふぅっとした同士に目を向ける。
「ツェイさん、しゃぼん玉をつくるのが上手なのね」
「ふふ、お褒めに与り光栄だのう。わるつ殿とて手練れの技よ」
そして、さらにいっぱい浮かべて沢山飛ばして、一番遠くまでと。
おおきいのをえいえい、って吹くわるつに、ツェイもほっこりと返せば。
「ツェイもわるつもシャボン玉の名人だ」
「わるつ様もツェイ様もシャボン玉のめーじんっ。格好良いです」
「大きいのに沢山にツェイも皆も上手いね」
美禰子とブルーベル、ステラも、ふたりのシャボン玉の腕前に太鼓判。
「ふわふわキラキラな桜とシャボン玉、なんとも幻想的な光景ですね」
「桜と虹色の取り合わせがいいね」
「シャボン玉は僕も好きなんだやらせてよ」
そしてステラも参戦して、ふぅって吹いてみれば……桜や空を写す虹泡が綺麗だ、って。
そう馳せながらも手を伸ばすのは、虹とお揃いのいろを纏う七色ラムネ。
ジョンも、春の風景に皆が作り出す彩りや飛ばす飛行機を、眺めていたのだけれど。
(「シャボン玉と飛行機、そして桜……」)
……なんだかとっても春らしくて、ほっこりする光景になりそうだ、と。
「よーし、おとうさんもシャボン玉で遊んじゃおう。大きいシャボン玉作りに挑戦だ」
張り切ってチャレンジするのは、大きなシャボン玉作り。
だって、きっと、特別大きなシャボン玉を飛ばすことができたら。
「上手にできたら、子どもたちの人気者になれちゃうね」
子どもたちも大喜び、おとうさんも人気者になっちゃうだろうから。
そんなシャボン玉はふわふわ飛んで、でもすぐにぱちりと弾けて消えてはしまうのだけれど。
ツェイは、それもまた良いと見送る。
「くもと融けて尚甘やかな綿菓子と同じ」
……はじけて消えども眸に残るさ、と。
それから、飛行機を組み立てていた回も、目の前をふわりと飛ぶシャボン玉たちに気づいて。
「おっと、つぇい殿達も熟れているようだ」
名人達によって作り出される、キラキラまんまるい泡沫たちに拍手!
「大きかったり、数多だったり、桜色に染まるしゃぼん玉が綺麗だ」
それから、そう虹のような彩りたちを見上げた後、手元へとふと視線を戻して。
「飛行機も飛ぶといいが……」
改めて、桜空を仰いで――それ、と。
お手製の飛行機を、満を持して投じれば。
「あっ回さんの飛行機もよく飛んでる!」
桜花弁が舞う空を、すいっと軽やかに飛んでいく。
そしてステラは、ふわりと舞う泡に桜の中を飛ぶ紙飛行機――そんな景に、うずうずと。
「ね、誰か一緒にあの中に行かないかい?」
春にぴょこんと飛び込む同士を募ってみる。わくわく燥ぐ気持ちを、照れ隠すように。
そしてそんな、ちょっぴり悪戯っ子で照れ屋な彼女のお誘いに、わるつは、よろこんで、と。
歩調をあわせて同じくぴょこんと、ちょっぴりかけっこ。
「やった、よし行こうわるつ!」
「ステラ達、足元に気を付けなよ」
美禰子は駆け出したふたりにそう声をかけつつも、それを追いかけて飛ぶそれらに瞳を細める。
「お、飛行機と特大シャボン玉も伴走だ」
「併走、とは行かぬ低空飛行だが」
そして飛んいる位置は低めではあるけれど、回は真っ先に賞賛してくれたわるつの言葉に誇らしげに。
それから、春を駆けるその背中に託す。
「私の代わりにお前さん達に混ぜてやってくれ」
それからステラは跳ねるようにかけつつも、低くも並走する紙飛行機へと視線を向けて。
見上げるばかりの友を重ねたら、ちょっぴり笑み零す……いつもとあべこべだと。
それから、自分達を見ている皆にひらり手を振って。
振り返してくれる姿を見れば、春のようにぽかぽかな心に思う。
(「あたたかで長閑で笑顔に満ちて」)
――こういうのを幸せって言うんだろう、って。
そしてツェイは、そらを横切る紙飛行機と戯れるようなシャボン玉をふぅと飛ばしつつ、追い駆ける子らを見下ろして思う。
(「春風任せの遊覧飛行――と来れば、見えぬ乗客らもさぞや愉しんでおられようの」)
そんな眼前に満ちるような春が、わるつは元からだいすきだったけれど。
桜の花も、生き物も、やっぱり全部がきらきらして見えて。
独特の空気を吸い込んで、ほわりと満開に笑顔を咲かせる。薄紅色のなかで笑顔でいるのがうれしいなって。
それから、とびきり大きなしゃぼん玉を吹くジョンの隣で、回とブルーベルも、春のひとときをまだまだ楽しむつもり。
華やぐ景の満ちて開いた佳日に、知らずと笑みも浮かぶまま――春の日に身を浸そう、と。
(「これもまた思い出なのでしょう」)
忘れ難い一日になりそうだから。
そして美禰子にとって、そんな皆の楽し気な姿は、何よりの花見酒の肴。
桜とに交じって楽し気にかける彼らを眺めながら呑む酒は――まあなんとも、格別なモンだ、って。
満開に咲く桜を愛でに、今日は春のお出かけ。
天気も良く麗らかで、絶好のお花見日和……なのだけれど。
九条・庵(Clumsy Cat・h02721)と花咲・果乃(いつか花ひらく・h06542)が向かうのは、桜咲く公園ではなく妖怪百貨店。
夜の花見の前に、まずは買い物も楽しんじゃおうという作戦だから。
そんな、今日のお出かけに誘ったのは、庵で。
だから、ずっと果乃はそわそわ。いつがいいかと考えれば考えるほど、なかなかタイミングを掴めずにいたのだけれど。
「お出掛け、誘ってくれてありがと」
ようやく伝えられたのは、百貨店の中を歩きながらであった。
そして、突然不思議なタイミングで告げられたお礼に。
「え、果乃、今?」
庵は思わず一瞬、きょとりとしたけれど。
でも――勿論全然いいって、そう思う。
だって、すぐ隣をみれば。
(「タイミングはおかしいし、声もしっかり上擦っちゃった」)
はわはわと、赤くなっている彼女の顔。
そんな果乃は可愛いって思うし、それに何よりも。
「わ、笑わないでよぅ……」
「ごめんごめん」
届いた小さな咎めの声にそう笑って返しつつ……内気なコだし、きっと勇気出してくれたんだろな、って。
そう思えばむしろ、嬉しくなるから。
でも、果乃にはまだ、彼に伝えたいことがあるのだ。
「これも、すごく気に入ってる。ありがと」
そう、大切なもうひとつのお礼を。
そしてそっとみせるのは、四葉のチャームのブレスレット――それは庵がこの間、くれたもので。
(「√能力者なりたての私に、新人冒険者さん達用の幸運のお守り……頑張れって、庵くんの気持ちが詰まってる気がして嬉しかった」)
だから……今日は、私がお返しする番、って。
彼にお礼の品を贈ろうって、そう思っていたから。
そして、続けざまに告げられた不意打ちのチャームのお礼を聞けば。
「はは、どういたしまして」
そう返しつつも、庵は流石にちょっと照れくさくなってしまう。
だって同じクラスに、同じ力持った子が出来るなんて思わなくて。
だから、つい嬉しくなっちゃって。
(「先走って、先輩風吹かせて贈ったヤツ」)
でも、身に付けてくれているのは嬉しいから。
「喜んで貰えて良かった」
そう飄々と返してみせるのだけれど。
庵にだって、わかっているのだ――絶対今、顔赤いって。
けれど、改めて彼女を見れば思いなおす……お互い様だからいっか、って。
そしてそんな桜色にほんのり染まった、お揃いの顔で。
「庵くん、オシャレでセンスがいいから。折角だし、庵くんの気に入ったものを選んで欲しい」
律儀にお返しとは果乃らしい、なんて思いながらも、庵はくるりと視線を巡らせて。
あまり値の張らないもの、と見て廻れば。
「店長オッサンのとこの本、古書だからカバー欲しかったんだ」
文具店で目に飛び込んできたのは、一面の春。
「……ブックカバー? あ、庵くんのおうち、古書店だもんね」
桜が咲いたブックカバーを見つめる彼に、果乃はそう返しつつ、ほわりと心に嬉しさが咲く。
……庵くんも本好きなんだ、なんて、新しい発見ができて。
そしてコレ、と指差し見せれば、庵は気づくのだった。
(「目が輝いてる、好きそうだもんな」)
だから、ふたつ、手に取って。
「お揃が嫌じゃなきゃお互いに買おう。今日の記念に」
そう提案すれば、ぱちりと瞬く果乃の瞳。
だって、すごく可愛い、桜の花いっぱいのブックカバーで。
私も欲しいなって思っていたところだったから。
そしてそう言って貰えたことに、また胸がぽかぽかあたたかくなるけれど。
「お互いに? ……それは、すごく嬉しいけど」
でも、今日の目的を思えば、頷いていいかわからなくて。
「それじゃお返しにならないよ……?」
そうおそるおそる言ってみたのだけれど。
「焦んなくていーよ、まだ時間いっぱいあるじゃん?」
……夜まで時間使って、いいモノ探そ、なんて。
(「私が欲しそうなのに気付いてくれて、時間はまだまだ、って笑ってくれて」)
果乃はそんな彼に、素直に今の気持ちを紡ぐ――優しいね、庵くん、って。
それからふたり、春爛漫な百貨店を並んで歩きながら。
次に足を向けてみるのは、アクセサリーフロア。
「チャーム、使ってくれてて嬉しかった。俺も果乃からの気持ち、身に付けて使いたいしね」
そしてそう笑って言ってくれる彼を見れば、果乃はその心に、そっと思い咲かせるのだった。
……私も、庵くんの欲しいに気付けるようになりたい、って。
ひらひらと桜花弁が舞う中、とてとてと。
桜満開の街を仲良く並んで歩くのは、小さな幼女たち。
3歳相当の双子の姉妹と、双子たちよりも頭一つ分身長が低い子と、4歳くらいの女の子。
いや……見た目は小さな女の子、というのが正確であるのだが。
そんな彼女たちが今向かっている、目的地はといえば。
(「クロエとシロエと、アロエと一緒に、百貨店のスイーツパーラーで春のスイーツフェスに行くのです」)
待雪・子虎(家ではなく人につく座敷童女専属婬魔・h05362)がわくわく思っているように、スイーツパーラーが入っている妖怪百貨店。
アロエ・ウィズダム・エクレール(Une fille cool de la machinerie・h05563)も、春のスイーツフェスがやっているという店へと歩きながらも、ふたりの姉たち――姉のクロエ・ウィズダム・エクレール・妹のシロエ・ウィズダム・エクレール ドゥ・エクレール・ド・サジェス(Deux éclairs de sagesse・h04561)の方をちらり。
(「姉さんたちが本気の目をしている」)
全制覇は出来ると思うけど……とは思いつつも、大きな百貨店へとやって来て。
ちょっぴり背伸びしながらもフロアガイドをちゃんと確認して、お目当てのスイーツパーラーへ。
それから子虎は、入り口の看板をじいと見つめて。
「料金は先払いらしいのです」
そう言っている間に、アロエに手招かれて店内へと足を踏み入れる。
子虎ちゃんだけ子供料金、姉さんたちとわたしは大人料金、と。
「見た目は幼く見えても、5桁の時を生きているからね」
アロエが代表して、料金はばっちり支払い済。
そう――皆、見た目は小さな幼女なのだけれど。
クロエとシロエは実は45007歳、アロエも28000歳を越えていて。子虎は6歳だけれど、身体の成長は4歳時点ですでに停止しているというから。
とはいえ、今日やって来た√妖怪百鬼夜行は、文字通り妖怪たちの世界。
クロエとシロエのように外見と実年齢が大きく一致しないという場合も、この√では割とよくあることで。中には、同じ年くらいの猫さんとかだっているほど。だから料金を支払う際も不思議な顔はさほどされず、周囲にとっての違和感も少ないようだ。
そして店内をきょろきょろと見回す子虎の瞳に映るのは、春色のスイーツたち。
「テーマに沿ったスイーツがたくさん並んでいるのです。キラキラしているのです!」
そんなたくさんの甘いものも可愛くてキラキラとしているけれど、それを見つめる子虎の目もわくわくキラキラ。
アロエも、並ぶスイーツなどのラインナップを見回して。
「桜の季節だから、桜をテーマにしたものがメインなんだね」
……あとは、苺を使った季節もの、と要チェック。
クロエとシロエも、桜をテーマにした和菓子も洋菓子が色々な種類出ていることをばっちりと確認。
だって、案内された席に着席した後。
「アロエと子虎は、席に座ってていいぞ」
シロエがそう言えば、クロエもこくりと頷いて。
「わたし達で、全部確保してくるからね!」
それを聞きながら、子虎はアロエと共にちょこんと席に座って。
言われた通り、ふたりを待つことに。
(「クロエとシロエが、両サイドから攻めていくらしいのです」)
(「席を取られることはなくても、迷う事はあるだろうからね」)
アロエも、スイーツを取ってきてくれるという姉さんたちを子虎と一緒に、ふたりが迷わないよう席で待機しておくことにして。
ビュッフェ形式のスイーツ食べ放題――クロエは右側から、シロエは左側から、攻めては確保していく作戦。
そう、全種類制覇する意気込みで!
いや、ふたりは外見年齢はともかくとして、45007歳である永遠の時を生きるエルフなので、年だけでいえばお酒もいけるのだけど……見た目は幼い女の子にしか見えないので。
アルコールは自重して、今回堪能するのはスイーツの全制覇。
ということで、クロエもシロエも、張り切って色々なスイーツを席で待つふたりと一緒に楽しむべく、いざビュッフェ台へと……向かおうとしたのだけれど。
(「テーブルに乗り切るのか心配なのです」)
子虎がそうちょっぴり不安気に思った矢先に。
「テーブルに乗らない量は、とってこないでね?」
何せ、ビュッフェ形式のスイーツ食べ放題。
やはり同じく心配に思ったアロエが、一応姉たちへとそう釘を刺しておく。
「取り切れなければ、皿が空いてから取りに行けばいいし。ワゴン系もありそうだしね」
全制覇するにしても、一気に全てのスイーツは到底テーブルには並べられないから。
でも、クロエとシロエも、それは心得ていて。
テーブルに置ききれなくなるということは、やらかさない。
だって、もしもやらかしちゃったら、釘も刺されたことだし、妹のアロエにメチャクチャ怒られるのはわかっているから。
だが、早速ふたりの分もスイーツを取って持ってきたクロエとシロエは、やらかすどころか。
(「しっかりと人数分、テーブルに収まる量のスイーツが並んだのです。テーブルに収まる最大量なのです」)
子虎は、ちょうどきっちり綺麗にテーブルに収まっているスイーツたちに、瞳をぱちり。
それから、こてりと首を傾けながらも思う……双子の感覚がなせる技なのです? なんて。
ということで、怒られることもなく無事に――みんなで、いただきます!
アロエも、姉たちがとってきてくれたスイーツをはむりと口にしては堪能して。
テーブルに沢山並んでいたはずのスイーツも、ぺろりと完食です……!?
でもこれはまだ、食べ放題メニューのうちのほんの一部。
「アロエと子虎はどれが気に入った? おかわりを持ってくるぞ」
「わたし達で、まだ食べてないものも確保してくるからね!」
クロエとシロエに言われれば、こうこたえるふたり。
「|子虎《ねこ》は、これが気に入ったのです」)
子虎のお気に入りは、モチモチな桜色のぎゅうひに、桜餡がくるりと包まれた季節限定の和菓子。
アロエも、追加分も取りにいってくれるという姉たちにお願いする。
「わたしは、イチゴ系のスイーツのお代わりを頼もうかな」
やっぱり春らしい、店に入る前から気になっていたイチゴなスイーツを。
それから、2巡目、3巡目と、甘くて美味しい春のスイーツを皆でいっぱい堪能するのだけれど。
子虎の「お気に入り」はその都度、主に和菓子メインに増えていくばかり。
でも、それも当然のこと――だって、街に咲き誇る桜みたいに、此処には甘くて美味しいものが満開で爛漫なのだから。
第2章 冒険 『見ざる、言わざる、聞かざる』

陽が落ちて、夜を迎えれば。
今かと待ち侘びていた妖怪達の手によって、刻が来た、と一斉に灯りが燈る。
それが桜の夜祭り『春灯祭』のはじまりの合図。
数え切れぬ灯篭に炎が宿れば、これまでは春の陽光を浴びた花弁が纏っていた輝きが、仄かな灯火の彩りへとかわって。
雲一つない春の空を見上げれば、和らかな月光が桜たちを照らす、一面の星月夜。
燈る灯篭、月の光、屋台の明かり――春に灯る数多の煌めきたちは桜を様々な表情に染めて、降る花弁たちは花見客とひらりらと戯れるように舞い踊る。
桜が満開に咲き誇っている期間は短いけれど、でも、これからはじまる春の夜はこれから。
まだまだ長い春夜の花見の祭りを、目一杯楽しむ人で、公園の賑わいも最高潮。
この夜祭りでやることは、至ってシンプル。満開の夜桜を各々楽しむこと。
けれどどのように楽しむかは、千差万別、十人十色。
お気に入りの桜の木の下にシート等を敷いての、花見の宴会も定番の楽しみ方であるし。
ふらり広い公園の桜の風景を散歩するも良し、気軽にベンチに座って花を見上げるのもいいだろうし。
公園の展望台からの眺めも絶景のようなので、足を運んでみてもいいし。
賑やかな雰囲気の中で花見を楽しむのも、逆に人が少ない穴場を見つけてみるのもいいだろう。
花より団子で屋台巡りに全力投球する過ごし方だって勿論、祭りの醍醐味。何をすればいいか迷う時は、祭りの催しに参加するのも楽しいかと。
昼に百貨店や屋台などで買っておいたものや、手作りの花見弁当を持ち込んで味わうのも勿論のこと。
昼間から公園の広場に出ている屋台は、夜も引き続き出ているし。『春灯祭』がはじまった夜だけ開く屋台もある。
たとえば、夜桜スイーツの屋台。夜を思わせる夜桜チョコパフェ、黒の餡子に夜空色の寒天に桜色や白の白玉に黒蜜をかけていただく夜桜あんみつ、薄紅色パウダーが香る桜黒糖ドーナツ、桜など春のデコが施された夜桜カヌレなど、昼にはなかった夜桜スイーツが楽しめるし。
夕食として屋台飯でおなかを満たすのもいいし、生地にイカ墨を練り込んで桜色のマヨネーズかけた夜桜イカタコ焼きを売っている夜限定屋台も。
そして人気なのは、ぴかぴかと光る春灯ソーダ。提灯型のボトルの中にはぴかぴか光る桜色の電球が施され、しゅわり星空のようなサイダーが弾けて。ちょっぴり愉快な気持ちになるし、足元が暗い夜道のお供にも最適かもしれない。光る桜カチューシャや光る桜ねこ耳、桜色のピカピカブレスレットや謎の光る棒などの、愉快な光る玩具も祭りならでは。
そして夜限定で、屋台バーも開店する。昼にもいただけた、春色をした「桜ビール」や日本酒の「|桜舞《さくらまい》」は勿論。夜の屋台バーでは、オリジナルカクテルがいただける。自分の好きなイメージやモチーフを伝えて作ってもらうこともできるし、好みのカクテルを指定してもいいし。この祭り限定の透明感あるすっきりした藍色の和酒に食べられる桜花弁を浮かべた和カクテル「|春灯《はるあかり》」を注文するのもいいだろう。ノンアルコールのモクテルにもできるので、未成年やアルコールが苦手でも好きなカクテルを楽しめる。
他にも、食べ物の屋台だけでなく、夜桜を纏う動物や人物のお面を各種売っている珍しい桜面の屋台だったり。定番の桜柄ヨーヨー釣りや桜色水槽の金魚すくい、桜型抜きや射的などの遊べる屋台も勿論並んでいる。
他にも、沢山の妖怪たちが訪れた花見客を楽しませようと、催しを行っているという。
妖怪骨董夜市は、桜にちなんだ様々なものがごちゃっと雑多に並んでいて、ちょっとした宝探しのよう。綺麗な桜アクセサリーや桜和雑貨、何に使うかわからない不思議道具まで、掘り出し物が沢山。
妖怪職人による、ストールの桜染め体験や、桜の花びらを閉じ込めたハーバリウム作り、チャームやブレスレットなど好きな種類のアクセサリーを、好きな色の組紐や摘まみ細工の桜で作れる桜アクセサリー作りなどのお花見ワークショップであったり。
桜ラムネ一気飲み大会などの愉快なものまであるというので、参加してみるのもいいだろう。
そして星詠みによれば、この祭りには悪戯が過ぎる怪異が潜んでいるようだが。
祭りで盛り上がっている人々の多い公園で戦闘になるのは得策ではなく、怪異も人が減るまでは次のターゲットを見定めながら大人しく潜んでいるという。
隠れるのが上手だという怪異に討伐に来ていると気付かれれば、逃げられてしまうかもしれないし。
怪異の封印を解いた唆された彼もこの祭りにきているというが、祭りを楽しんで盛り上げれば、きっと気分も晴れるだろうから。
だから――見ざる、言わざる、聞かざる。何も知らぬ顔をして、夜祭りを目一杯楽しむ客を装うのがいいだろう。
仄かに照る夜の桜を楽しんでいれば、きっと怪異の尻尾は掴めるだろうから。
人の賑わいから離れたその場所にも満開に咲き誇る、美しい夜桜たち。
灯火に仄か照らされた薄紅の彩りは、はらりひらりと、春の宵を幻想的に染め上げていて。
その光景は目を奪われるほどなのだけれど。
でも、ヴェーロ・ポータル(紫炎・h02959)の目を何よりも惹いたのは、薄明りの下に立つ彼女の姿。
そしてリリアーニャ・リアディオ(深淵の爪先・h00102)も、自分の元へと真っ直ぐに歩んでくる彼へと向けた鮮やかな碧の瞳を、嬉し気に綻ばせる。
……ああ、ちゃんと見つけてくれたのね、って。
いや、でも、見つけてくれただけではなくて。
「……おや、今日は一段と美しい。特別な準備をしてくれたのですか?」
向けられた言葉にぱちりと瞬けば、瞼を彩るラメもきらり。
「今夜の為に少しだけね」
ちょっぴり特別な煌めきに気付いてくれたことにそう微笑み、リリアーニャはその手を伸ばす。
……さ、行きましょうか? って。
そっと手を取ってくれた彼と、手と手を繋いで。
そして桜色が降り積もる春の夜道を並んで歩き出しながら。
「今日は友人とお出かけをしていたそうですね」
「ええ、今つけているコスメも友達と買ったのよ。お揃いの春限定の桜コスメなの」
「よく似合っています。限定と言われれば、余計に心惹かれますね」
「そうなの、迷いながら友達と色々試してみるのも楽しかったのだけど」
今日これまでのことをお喋りしつつ辿り着いたのは、活気と美味しそうな匂いに溢れた、屋台が並ぶ公園の広場。
そんな賑わいの中心を歩きながら、たまにふと足を止めたりして。
「屋台のメニューも、春らしい限定のものが多くあるのですね」
「やっぱり限定のものは人気みたいね」
目に付いたものについて話したり、他愛もない会話を交わしては、色々と見て回る。
いや、このような人混みは、正直あまり得意じゃないというリリアーニャなのだけれど。
彼と手を繋ぎ直したり身を寄せたりすれば、心もほっと安心するし。
何より、こうやって一緒に、春の賑わいを巡る時間は楽しいって思う。
ヴェーロも彼女と一緒に屋台を見て回りながらも咲くのは、ほっこりとした気持ち。
……ちょっとしたお喋りを楽しむ時間が心地よい、って。
そして少し歩いた後は、また静かな場所でひと休みすることにして。
一緒に夜桜を眺めながら堪能するのは……少しだけだから、と。
リリアーニャが強請ったお酒。勿論、屋台で買った春限定。
そんな春の味わいを手に、花見酒とふたり洒落込むのだけれど。
でもやっぱりすぐに頬を染めてふわふわと。
「……月も桜も綺麗」
リリアーニャが桜空を仰げば、ふと隣から届く声。
「桜より綺麗、なんて、月並みかな」
そして瞳を彼へと移し向ければ、ぱちりと合う視線。
だって、桜を見上げる彼女の横顔が光に浮かんで……ヴェーロは目を奪われてしまっていたから。
それからふわりと、桜色に染まった笑みをそっと開き咲かせながら。
「……ね、これからどの季節の花を見ても、同じように言ってくれる?」
リリアーニャは花弁が舞う中、再びそんなお強請りを。
……そうだといいなと、願いを込めて。
でもそれは、きっとまた近いうちに叶うはず。
だってヴェーロも、胸に咲き灯る思いをこう告げるだから。
……この先も、廻る季節の中で貴女と同じ景色を分かち合いたい、って。
夜が訪れれば、見事に満開を迎えた桜は幻想的な彩りを纏う。燈された灯火の輝きを纏って。
そしてそんな春の夜、ふたり並んで歩くのは、沢山の屋台が並んだ祭りの風景。
活気溢れる声と漂う美味しそうな香りに思わず、ふらり誘われそうになりながらも。
「桜色モクテルと、食べ物何か二人分用意したいところですね」
屍累・廻(全てを見通す眼・h06317)は並ぶ屋台へとくるり視線を巡らせて。
「桜色モクテルなんてお洒落ですね、大人になった気分」
桜良・ひな(春の呪詛・h06323)も、桜とお揃いの色をした髪をふんわりふわり。
まるで今の気持ちと同じように、春の夜に躍らせて。
大人になったみたいで、ドキドキしちゃうけれど。
でもやっぱりそわそわ目がいってしまうのは、夜桜のお祭りならではのグルメ。
そして美味しそうな匂いに誘われるまま、食べ物の屋台をひなが軽く見ている間に。
おや、これは……なんて。
「こんなアイテムまであるんですね」
廻の気をふとひいたのは、食べ物とはまた違った屋台。
それからひとつ買ってみてから、戻ってきた彼女へと向けた金の瞳を細めて。
「ひなさん、何か食べたいもの見つかりましたか?」
「えっと……夜桜イカタコ焼きと、あっ、黒糖ドーナツも美味しそう!」
そうくるりと新緑のような瞳で目移りしている彼女の頭に、すちゃり。
「あぁ、それと……光る桜ねこ耳を頭につけてあげますね。ふふ、似合っていますよ」
ぴかぴかにゃーんと、不意打ちのアイテム――そう、光る桜ねこ耳を。
そして、急につけられた桜色猫耳に、ぱちりと瞬いた後。
「わぁ、可愛い! ありがとうございます、廻先輩っ」
ぱあっと笑みを綻ばせたひなは、嬉しそうにはにかむ。
そんな様子に再びそっと目を細めた後。
「あの辺なら、ゆっくり二人で座れそうですよ」
桜花弁のじゅうたんが敷かれた、空いてるスペースへ。
人混みではぐれないようにと、彼女の手を取って。
そんな感じる手のぬくもりに、ひなは顔が赤くなってしまう。
そして繋がれた手をきゅっと握り返すのは、ほんのり恨めしく思うから。
ふわり密かに綻ぶ嬉しさと、胸に咲いた恋心を刺激してくる先輩を。
それからふたり腰掛ければ――夜桜の下ではじまるのは、ちょっとした交換会。
昼間、妖怪百貨店で別行動をしている時に、互いに買っておいたもの。
「これは、桜とイニシャルの入ったネックレスですか」
ひなが廻へと贈るのは、桜のトップにイニシャルが入っているネックレス。
そんな彼女が選んでくれた桜を眺めれば。
「結構シンプルで、けれど可愛すぎないので付けやすそうですね」
「えへへ、喜んでもらえてよかったです」
「ありがとうございます。早速、付けさせてもらいますね」
そっと首元にも桜花を咲かせて。
ひなの胸が高鳴るのは、桜の交換こも勿論なのだけれど。
「廻先輩は……桜モチーフのヘアゴムとネックレス? 可愛い……! 大切にします!」
お互いに、ネックレスを選んだ偶然に。
それから、傍らの彼女にも咲いた桜を見た後、廻はふいに天を仰いで。
「こうして誰かと夜桜を楽しむ日が来るなんて思いませんでした」
「そうなんですか? じゃあ、初めてを私とですね」
「今日はゆっくり楽しみましょう」
そう告げる彼はやっぱり、恋心を刺激してくる罪な先輩。
それに勿論、仄かに燈る淡い気持ちだけじゃなくて。
「はいっ、買ったものも食べましょ?」」
「妖怪百貨店で、ひなさんに桜色メロンパンも買っておいたんです」
「わ、可愛くて美味しそう!」
ひながわくわく眺めるのは、美味しさ爛漫の桜。
そっと向けられた彼の声に頷きつつ――大好きな桜を大好きな人と見られる幸せを、噛み締めながら。
ふわふわな毛並みにも、舞い降ってきた花弁がひらり、ひらひら。
そんな桜色に飾られた、白いワンちゃんみたいなハニーを連れて。
「のんびり夜の花見もええもんやねぇ」
ネム・レム(半人半妖の駄菓子屋店主・h02004)はそう、夜空に浮かび上がる幻想的な桜を見上げた後。
ふと屋台に目を向ければ、わくわく擽られる好奇心。
「なんやおもろそうなんもあんなぁ」
美味しそうな食べ物も、桜や春を思わせるような限定のものも多いのだけれど。
ネムがふと見つけて手を伸ばしたのは、桜は桜でも。
「あっ、これとかハニーに似合いそうやん」
そう――ぴかぴか光る、桜カチューシャ!
そしてすちゃりと、ふわふわな頭にそれを飾ってあげれば。
満足げに、こくり。
「かいらしい桜の妖精さんみたいやねぇ」
それから、光る桜がはしゃぐようにみょんみょん揺れる様を見れば、笑み咲かせる。
……ハニーがご機嫌さんでネムちゃんもうれしいわぁ、って。
でも、ネムはふと、こうも思うのだった。
(「やけどハニーにだけやと他の子が拗ねてまうやろか……」)
だから――なんか他に……と。
桜をぴこぴこ揺らすご機嫌なハニーを連れて、他の屋台を見て回れば。
「この洒落とる首輪……すたいいうの? これにしよか」
でも、沢山の色や柄があって目移りしちゃうから。
「せっかくやから桜のを……ハニーはどれがええ思う?」
品物が見えるよう小さな体をわふっと抱えれば――ぽふ、ぽふり、ぽふん。
小さな前足が選ぶのは、ひらひらとまるで花弁みたいなデザインの、桜のワンポイントが咲いた春色スタイ。
それを……色違いのお揃いでどう? なんて言わんばかりに見つめてくるハニーに。
「どれもかいらしなぁ……さすがやでハニー」
ネムはそう言いつつ、迷わずみんなの分お買い上げ!
それから、猫さんや狐さんや蛇さん、どの子にどの色がいいかなんて考えながらも、戦利品にほくほく。
「みんなでお洒落しとる姿見るのん楽しみやわぁ」
やっぱりぴかぴかご機嫌に揺れる、光る桜に瞳を細めながら……ハニーのと他の子のと、お土産たくさんや、って。
ひらりくるくる、灯火を纏っては輝く夜の桜花弁も気侭だけれど。
舞い降る春の彩りの中を歩む白・琥珀(一に焦がれ一を求めず・h00174)も、見つめる彩りや姿はその時の気分。
今日の彼は、接客される側だから、青年の姿をとっているものの。そもそも琥珀にとって、性別は飾り程度のものだ。
とはいえ、その見た目は若々しいのだが……でも、やはり。
「夜桜と言えば酒盛りだと言える」
――だからもちろん目指すのは屋台バー、と。
そういそいそ嬉々と向かう姿は、のんべぇな爺を思わせる……気がする。
何せ琥珀は、実際はかなりの年月を過ごしているのだから。
そして花見酒と洒落込むのならばと、まず向かうのは。
「ただしその前にいくつかつまみになりそうな食い物を見繕ってからだな」
酒にぴったりな肴は必須ですから。
屋台をぐるりと回ってみて、つまみになりそうなものをいくつか調達すれば。
屋台バーへと満を持して向かって、やはりまずは――とりあえずビールから。
ビールはビールでも、桜の彩りと香を纏う桜ビールで開幕した、気侭な春の酒宴なわけなのだけれども。
「次はどうするかな……」
琥珀は狭い屋台に犇めくように並べられた酒たちをくるりと眺めてみつつ。
(「結構他の香りのするビールは好きだから続けて頼んでもいいんだが」)
でもやはり、いろいろ呑めるときに吞みたいのがのんべぇ根性。
だからビール以外のものにしてみることにして、ふと次に見つめるのは「桜舞」という名を冠する酒。
だが、そんな日本酒もいいのだけれど……今の琥珀の気を、もっとひいたのは。
(「オリジナルカクテルもいいな。俺は人に聞く自分の印象ってのは結構好きでな」)
……自分が思ってるのとの違いに結構新鮮味を感じたりする、と。
そう思えば、こくりとひとつ頷いてから。
「うんそうだな、カクテルを頼もう」
「どんなカクテルにしましょうか?」
「自分は本体がロイヤルアンバーの勾玉の付喪神だ。今の見た目からでもいいし、本体イメージからでもいい。好きに作ってくれ」
どのようなカクテルが出てくるか、わくわくとつまみを口に運びながら待てば。
黄色から緑そして青へと、色が移ろうグラデーションが綺麗な、柚子リキュールにオレンジジュース、ブルーキュラソーをメインに使ったカクテル。
それに添えられているのは、くるりと開いた、小さくてかわいい和傘のピック。
そして、口にしてみれば――ふわりと感じる桜の香。
そう、先程見ていた日本酒「桜舞」が隠し味の、和カクテル。
春の彩りの中を歩くその姿は、うきうきと楽し気なのだけれど。
ツァガンハル・フフムス(忘れじのトゥルルトゥ・h01140)は勿論、また綺麗に忘れてしまっていて。
でも、それももう慣れっこだし、それに何よりも。
「おお、賑やかな「まつり」だなぁ」
まつり――そう道行く人が言っているのを聞きながら歩けば。
仄かに覚えのある雰囲気に、心も弾むから。
そしてふと、とある屋台に目が留まって。
「あの輪っかみたいなの、思い出せないけどなんかすごく食べたいぞ……!」
他にも美味しそうなものは沢山あるのだけれど、ツァガンハルの心を離さないのは、屋台に並ぶ輪っかみたいなもの。
そして、ふらふら引き寄せられる途中――ぽすん、と。
小さな衝撃を感じた足元に、目を向けてみれば……桜色のぴかぴか猫さん?
いや、よく見れば、光る桜ねこ耳をぴこりとつけたちっこいやつ。
それからぱちりと目があえば、きょとりとして首を傾けてしまう。
その光る桜ねこ耳のちびっこが、わぁんっと泣き出したのだから。
でも、何で泣かれたのか、わからなくて。自分が泣きたくなるようなことを考えてみれば。
「どーした、「はらへり」か?」
そう同じ目線に屈んで訊いてみるツァガンハルだけれど。
「違う? ああ、「まいご」なのか……って。なんだ、オレはでっかいけど怖くないぞ! ……たぶん!」
ふるふる首を振っては、まいご、とだけ精一杯発した子は、大きな自分にちょっぴりびびっているようだと。
理由が色々となんとなくわかれば、しゃがんだまま笑いかけて。
「じゃあさ、一緒にアレ食べながら探そうぜ」
指差すのは勿論、めちゃめちゃ気になっている輪っかのやつ。
そんな指先を目でそろりと追った子は、ドーナツ、と口にしつつ泣き止んだから。
すかさず輪っかを手帳に描いて、ドーナツ、とその名前もちゃんと書き記してから。
「うおお、すっげえうまいな「ドーナツ」!」
桜のドーナツを並んではむはむ一緒に食べれば、すっかりちっこいのとも仲良しに。
だから、輪っかの名前を教えてくれたお礼に肩車!
キャッキャ喜ぶちびっこの姿を見れば、嬉しくなるし。
「誰か近寄ってくる……あんたさんの親か!」
……うはは、でっかくて良かった、って。
大きいから目立ったことで、無事に親も見つかりました!
そして手を振って見送った後、ツァガンハルは上機嫌で手帳を開いて。
すっげえうまい輪っかことドーナツの絵の横に、ばっちり記しておく――『まいごをたすけた』! って。
桜花弁が舞い降る公園を、足早に歩きながら。
「ふう、なんとか仕事終わらせてきた」
そう言葉を零すのは、仕事を片付けてやって来た藤原・菫(気高き紫の花・h05002)。
その足が逸るように速度をあげるのは、先に来ている3人を待たせてしまっているから。
だって菫が抱えているのは、皆の分作ったお弁当なのだから。
ということで、急ぎ、お花見の会場へと足を踏み入れた菫の姿を見つけて。
一瞬ぱちりと瞳を瞬かせ、桐生・綾音(真紅の疾風・h01388)と桐生・彩綾(青碧の薫風・h01453)が思わず紡ぐのは、同じ言葉。
「あ、菫さん来た……凄い荷物じゃない?」
「菫さん来たね。凄い荷物だね」
確かに皆の分のお弁当の量は、それなりに多いだろうが。
それにしても、菫の荷物が凄い量だと思うのは、きっとふたりの気のせいではない。
けれどそれはそれとして、綾音と彩綾も迎えにいきがてら、賑やかな屋台でスイーツや飲み物は調達済。
「よし、ドーナッツとカヌレとサイダー買った!!」
「桜の下にシートをしいて昴さん準備してくれてるから行こう。荷物持つよ」
そうまずは出迎えに出てきた綾音と彩綾の言葉や姿をみれば、菫は瞳を柔く細める。
ふたりが持っている美味しそうなお菓子をみれば、楽しんでるようでよかった、という気持ちになるから。
そして向かうのは、先程から話に出ている彼が待つ、桜の木の下。
「昴がきっちり場所を確保してくれてるというのでいこうか」
そう菫も、綾音と彩綾と一緒に、春の夜道を歩んでいる頃。
(「まあ、楽しんでれば目的の怪異は尻尾を掴めるというので星詠みの言うとおり夜を存分に楽しく過ごそうか」)
海棠・昴(紫の明星・h06510)はそう思いながらも、視線を巡らせて。
「姉さんは綾音と彩綾が迎えにいったのでベストなところに場所を確保しないとな」
燈された提灯の光を纏う満開の夜桜が綺麗に見える場所を見つけて。
その桜の木の下にシートを敷いて準備をしつつ、3人を待てば。
やって来る菫を遠くに見つけた昴は、やはりまず思ったことは、綾音や彩綾と同じ。
「姉さん、随分な荷物になったな」
でもそれは、昴にはある程度分かっていることでもあったから。
だって、無事に皆で合流して、シートの上に早速並べられていくお弁当を見れば。
「お弁当は各種海苔巻きと卵焼き、鶏唐揚げ、豚肉のロール巻き、各種サンドイッチ、エビフライ?」
「海苔巻きも種類あるし、たまご焼き、鶏唐揚げ、豚肉のロール巻き、エビフライ?」
彩綾と綾音はびっくりしちゃって。
「流石菫さんと昴さんが組むと最強だ」
「凄い……これ、昴さんのお手伝いないとダメだね」
「まあ、海苔巻きと卵焼きと鳥の唐揚げだけでもいいのに姉さんが更に作りたいというから」
「ああ、折角の4人の花見なので昴と張り切った。まあ、巻き寿司とサンドイッチはさすがに分担したね」
昴もさすがに手伝ったのだという、菫お手製弁当はまさに美味絢爛。
「サンドイッチは昴の方が作り慣れてる。よく会社の作業の時に差し入れてもらってるしね」
「まあ、サンドイッチは俺は作りなれてるな」
菫もお墨付きのサンドイッチを綾音は手にして、はむり。
もぐもぐと味わえば――今宵の桜のように、灯篭の光を仄か纏う笑みを宿す。
「うん、おいしいよ。そしてとっても幸せだよ」
それに彩綾も続いて、花見弁当を美味しくいただけば。
「昴さんに料理習ってるけどいつかはこういう豪華なお弁当作れるようになるかなあ」
「え? 彩綾も昴さんに料理習ってるの? 私も菫さんに習うかな」
今度は料理を習って、自分達の手料理をいつか振舞う番がくればいいなって思う。
眼前の豪華な菫のお弁当へと箸を伸ばしながら、その美味しさに舌鼓を打ちつつ。
そして沢山の品々を並べた花見弁当を完食すれば、ご馳走様……のその前に。
(「桜灯ソーダを飲みながらドーナッツとカヌレを食べる!!」)
勿論、食後のデザートと飲み物は欠かせませんから!
ドーナッツとカヌレを食べながら、4人で飲むのは春灯ソーダ。
それから彩綾と綾音は、昴と菫を見つつも、改めてこう口にする。
「菫さんと昴さんが並んでいるのをみてると本当そっくりだなあと思う」
「私と彩綾も良く似てると言われるけど、菫さんと昴さんも良く似てるよね。こうして並んでるのをみてると」
だがそんな言葉にも、どこか慣れたように。
「まあ、小さい頃から言われてるな」
「まあ9歳も離れてるが、並んでると姉弟にしか見えないと良く言われる」
「従姉弟だからだろうけど、知的で世話好きなところとか。笑顔も似てるよね」
そっくりだと言う姉妹の言葉に菫が微笑めば、昴も頷きながらもこう続けるのだった。
「従姉弟のはずだが実の姉弟のように似てると。とても嬉しくて光栄に思ってるぜ」
……姉さんも悪い気はしないだろう、なんて。
ゆうらり手元で揺れる夜色に、ふわりと浮かぶ桜花弁。
それはまるで、今ふたり並んで眺めている桜の夜空の様で。
夜桜を望む屋台バーで、花喰・小鳥(夢渡りのフリージア・h01076)と揃いで注文した和カクテル・春灯を手に。
「ほい乾杯。今日はお誘いありがとよ」
天國・巽(同族殺し・h02437)は、彼女とグラスを重ね合う。
そして乾杯を済ませ、カクテルを口に含めば、仄か桜の香がして。
片手は恋人繋ぎのまま、暫くはとくに会話もせずに、春の夜のひとときをただ共に過ごす。
それから、眼前の夜を思わせる春灯を花弁ごと飲み干せば、次は桜舞。
春の如き柔らかさを纏った味わいの日本酒をくいっとやりながらも、巽はすぐ隣にいる小鳥へとそっと目を向ける。
夜桜を照らす燈籠の明かりが、満開に咲く桜だけでなく、彼女の白い面も照らし出して。
不思議な女だと、思う。
そしたら刹那、ふいに向けられた赤と視線が重なったから。
「ん? ああ、いや。なんでもねェよ」
桜舞を再び口に運びながらも、敢えてこう思ったなんてことは言わないでおく。
……なんでこんなに、俺のことなんざ気に入ってくれてんのかね、なんて。
そして桜舞も飲み終われば、次は――といきたいところだけれど。
でも、これでおしまい。だって、飲み過ぎると眠くなるから。
「そうさねェ、二杯くれェで止めとくか」
「酔い潰れても巽さんがいるから安心なんですけど」
その美貌にふわりと綺麗に咲いた無防備な小鳥の笑みは、信頼と好意の証。
じわり互いの体温がまざりあう、手のひらと肩のぬくもりが心地よくて。
そんな熱にこそ、浮かされて酔い痴れてしまいそうなくらいだけれど。
「一応このあと、悪さする妖怪の尻を叩いてやらねェとならねェからな」
此処を訪れた任務を忘れない今くらいのほろ酔いが、きっと丁度良い。
そして小鳥は、懐から出したそれを巽にも一本お裾分け。ふと、煙草が吸いたくなって。
それから小鳥は、自分の煙草には燐火で火を着けてから。
差し出した一本を咥えた巽にも火を分けてあげる――顔を寄せて、シガレットキスで。
そんな人間災厄の胸に燃える炎を、巽はほんの少し貰って。
「ありがとよ」
花を照らす月の如き目を細めて静かに微笑む。
そんな耳を擽るように紡がれた声に、小鳥は笑み返して。
「怪異の悪戯よりは赦されるでしょう?」
春の夜に燻る二人の紫煙が混じり合っては、桜咲く喧騒に溶けていく。
それから、こんな花見酒にずっと興じているのも、いいかもしれないけれど。
「一服つけたら夜桜あんみつでも食いにいかねェ? もちっと腹に入れておきてェわ」
巽が持ち掛けるのは、そんな提案。
それからあと――お目当ては、もうひとつ。
「それと桜カチューシャもな、買ってやるからつけててくれよ」
小鳥も、彼の夜桜あんみつの提案には、頷いて返すものの。
「でも、カチューシャなんてどうしたんです?」
そうこてりと首を傾げるのだけれど。
「あン? 決まってるだろ」
……お前がつけた姿を見てェからだよ、って。
言い切る彼の言葉に浮かべたのは、そう、春の夜に花咲くような笑み。
昼に巡った百貨店にも、色々な楽しい桜が満開だったけれど。
「桜、すごい……!」
「夜の桜も綺麗ね……」
公園内に足を踏み入れれば、まさに息を飲むほどの夜桜が咲き誇っていて。
空廼・皓(春の歌・h04840)は尻尾をふりふり、白椛・氷菜(雪涙・h04711)へと視線を移せば。
「氷菜、どこにする?」
「公園で少し静かな所が良いかな、穴場探しね。展望台は食べ終わったら行ってみたい……」
賑やかな百貨店も楽しめたのだけれど、でもやっぱり、静かなところが好きだから。
桜花弁が降る春の夜を巡って、いざ穴場探し――。
「あ、その前に、何か屋台見る?」
「うん、まず飲み物買おう」
……の前に、夜桜を楽しむ準備を。
まずは飲み物が売っている屋台を見てみることにするのだけれど。
「屋台も沢山……」
「飲み物も……たくさん、あるね? 何にしよ……夜限定のもある、みたい?」
並ぶ屋台も沢山で、飲み物の種類もいっぱい。
だから皓はきょろりと、困った様子をみせるも。
「氷菜、は?」
「私は……昼からの屋台で桜ストロベリーラテで」
「なる、ほど……それも美味しそう」
氷菜の言葉を参考に、夜とか限定とかとりあえず関係なく、気になったものを選んでみる。
「俺も夜限定じゃない、けど。桜空苺サイダーにする」
そして選んだ桜空のいろをした苺サイダーを受け取れば、お耳がぴこり。
「……しゅわしゅわ」
そんなじいとしゅわしゅわを見つめる様子と、ふりふりと揺れる尻尾を見れば、氷菜は瞳を細める。
「晧、しゅわしゅわが気に入ったのね」
甘やかな春色をした桜ストロベリーラテを受け取りながら。
それから飲み物も無事調達し終われば、桜色の絨毯が染める春の夜の道を歩いて。
「ここ、落ち着いて桜も弁当も楽しめそう」
静かにお花見を楽しめそうな穴場を見つければ、シートを敷いて。
氷菜もシートには御礼を言ってから、皓と共に座って。
「乾杯、してみる?」
桜色のサイダーを掲げる皓に合わせて、ラテも掲げて――乾杯。
それからひとくち、それぞれ飲んでみれば。
「ん、ほっとする味」
「……しゅわしゅわ」
そんな乾杯が終われば、おなかもすいているから。
昼に百貨店で買ったごはんを、わくわく御開帳。
「わ、綺麗……」
「わっすごい……妖怪花見弁当やっぱり豪華、だ」
氷菜の春彩ちらし寿司は彩り華やかでまさに美味爛漫。
皓の妖怪花見弁当も、楽しいと美味しいがぎゅっと詰まっていて。
「氷菜のも綺麗」
そう相手の花見弁当にも目を向けた後、ミートボールをぱくと頬張れば……うん美味しい、って。
やっぱり尻尾がゆらゆら。
「酢飯も良い具合で美味しい」
氷菜の春彩ちらし寿司も見た目だけではなく、酢飯も絶妙な塩梅でとても美味。
でもひとりで楽しむより、ふたりで楽しむほうがきっと、嬉しくて美味しいから。
「晧、お弁当の蓋貸して、お裾分けするから」
「氷菜もどれか食べる?」
「じゃあ…蒟蒻の煮付け、一つ貰っても良い?」
交換こしたものを、一緒にぱくりと口にすれば。
「交換した寿司も美味しい、よ」
「……蒟蒻もしみしみ」
あまり感情を大きく表に出すふたりではないのだけれど。
春の美味を味わいながら、ほわほわと綻んで。
花見弁当を堪能した後は、デザートトがてらに桜メロンパンをぱく。
「甘くて美味しい……氷菜も食べて」
勿論、氷菜にもお裾分けして。
皓からひとくち貰って、食べてみれば。
「うん、甘さが程良くてラテとも合うわ」
口に広がるのはやっぱり、優しくて甘い春のような味。
それからおなかも満たされて、ふと氷菜は樹を見上げて。
そっと伸ばした手の中に招き入れる。
「あっ花びら」
ひらり降って来たひとひらを掌で受けて。
それを見た皓の尻尾は、ゆらゆらご機嫌。
「雪女に桜、あり、だ」
「ん? ……春と場違いな気がしてたけど、良いのかな」
でも……晧も居るしね、って。
嬉しそうな姿を見れば、良いかなって思う。
ふりふり尻尾を振る彼に降る桜花弁たちは、春に舞う雪の様にも見えるから。
花とは縁は深いのだけれど、冬菫と常磐のいろにも、はらりひらり。
「わぁ、綺麗な夜桜だね」
灯火に耀う桜花弁たちを舞い降らせながら。
花七五三・椿斬(椿寿・h06995)は天を仰ぎ、言の葉を咲かせる。
これが……春の夜……、と。
そして、赤椿咲かせた雪玉のようなもふもふな相棒を指先にとまらせれば、桜に染った夜をひらりと舞う。
「僕の住処はいつも冬だから……新鮮だな」
桜花弁たちと戯れるように、六花を連れて。
そんな椿斬にとっては、見るものも彩りも咲く花も、普段知っているものとはちょっぴり違って。
「何を食べよう。この夜桜カヌレは初めて見た、このたこ焼きも」
わくわくな気持ちを咲かせながら、屋台を巡っていく……気になるものは全部楽しみたいね! って。
それから、買ってみたものをそっと食べてみれば。
「六花、これも美味しいよ?」
ぱっと花笑んで、六花にも、お裾分けの半分こ。
しゅわり弾ける桜ソーダも飲みながら、勿論もっとたくさん、色々なことを目一杯楽しむつもり。
花も美味もお祭りの空気も、どれも全部。
そしてふと目に留まったのは、食べ物系ではなさそうな出店。
何の店だろうと、六花と一緒に覗いてみれば。
「これは……桜のつまみ細工が作れるの?」
花のつまみ細工が作れるのだというから。
「丁度いいね。羽団扇の飾りが欲しかったんだ」
当然、挑戦してみることに。ちゅんとやる気を見せる六花と一緒に。
そして頑張って楽しく作業を進めて、出来上がり。
ころんと掌の上にふたつ咲かせるのは、可愛いつまみ細工の桜たち。
そんな賑やかな屋台が並ぶ公園の広場も、楽しくて心躍るのだけれど。
でも椿斬が足を向けたのは、人の少ない小高い場所。
そして静かに夜桜を眺めながら、胸に花開く想いをそっと零れ咲かせる。
「……いつか、兄様とも来られたらいいのにな」
でも、わかってもいるのだ。
それはきっと……春の夜の夢のような、儚い願いだということは。
けれどそれでも、椿斬は春の宵に想い願う。桜舞う夜風にゆらり、つまみ細工の桜を揺らしながら。