さくら、お花見、春灯祭
はらり、ひらり、くるくると。
舞い踊るひとひらたちが染め上げるのは、この時期だけの特別な春の色。
√妖怪百鬼夜行の世界にある公園は、一足先に桜が満開に咲き綻んでいる。
だって……ほら、今年も桜を咲かせようか。ほれほれ、見事な桜だろう? って。
花咲か妖怪たちが待ちきれずに、公園中の桜を満開に咲かせたから。
でも、それは悪戯ではなくて。何せ今宵開かれるのは、桜の祭りなのだから。
麗らかな春の陽を浴びてのどかに咲く、昼の桜。
灯された光と月に照らされて美しく幻想的に浮かび上がる、夜の桜。
今日はそのどちらも満喫できる、絶好のお花見日和。
桜が咲き誇る公園内は、十分に広いけれど。
その中でもより良い場所を、日中からばっちり確保しておいたり。
青空の下、昼の桜を眺めながらのお花見も勿論楽しめるし、公園の中央にある広場には昼から屋台も並んでいる。
そして、公園の近くにある妖怪百貨店も、今だけ満開の春色。
日中は『桜フェア』が行われている百貨店巡りをしてから、夜に開かれる『春灯祭』に赴いてもいいだろう。
妖怪百貨店の今の目玉は、美味しさも爛漫な花見弁当や桜スイーツが買える、春グルメの催事。それにいわゆるデパ地下でも、桜にちなんだものや妖怪世界ならではな、食べ物や飲み物などを調達したり味わえたりもできるし。成人していれば、春らしい酒類も買えるだろう。
あとは、√コレクションも近いから、春ものの服や桜の装飾を見たりだとか。本屋や文房具屋や雑貨屋などで、桜の栞やブックマーク、文具や日用品等を見てみてもいいし。春限定の桜コスメを買ったり、桜デパコスでプロの妖怪化粧師に春メイクやネイルをして貰うのもまた気分が変わって良いかもしれない。
それから夜になれば、はじまるのは『春灯祭』。
日が落ちた頃、妖怪たちが、仄かな灯火を数え切れないほどたくさん燈して。
柔く降る月光と共に満開桜を照らしては、春の夜に美しく浮かび上がらせるという。
そんな光を纏う幻想的な桜を愛でながら、夜桜の花見を存分に楽しめるし。
公園の広場には屋台もずらりと並ぶから、花より団子のグルメ三昧も堪能できる。
この祭り限定の屋台や妖怪グルメが楽しめるもあるようなので、要チェック。
勿論、手作り弁当や購入品を持ち込むこともできるし、屋台並ぶ広場で現地もできるというわけだ。
だが、そんな桜咲く祭りに潜むのは――人を化かす存在と、化かされた存在。
化かす存在は、上手に夜桜に紛れているようだけれど。
決して、機が訪れるまでは気づかれないように。
でもしっかりと、その尻尾をつかまえて、こらしめるためにも。
桜咲く中で密かにはじまるのはそう、化かし合いのかくれんぼ。
●桜尽くしな一日
「すっかり春めいてきたな。ということで早速だが、春のお出かけなどどうだろうか」
楪葉・伶央(Fearless・h00412)は穏やかな笑みで皆を迎え、礼を告げてから。
星詠みの内容を語り始める。
「今回皆に赴いてもらうのは、√妖怪百鬼夜行だ。凶暴で他者の血肉を喰らう危険な「古妖」の封印は、√妖怪百鬼夜行の各地に存在するが。「情念」を抱えた人がこの封印に引き寄せられ、その願いを叶えるという約束と引き換えに、古妖を封印から解き放ってしまったようだ」
解き放たれた古妖を自由にのさばらせておく訳には当然いかないし。
封印を解いてしまった人も、また同じ過ちを犯してしまいかねないから。見つけられれば、何らかのフォローをしてあげられるといいかもしれないし。
また、古妖や人々に怪しまれぬよう、春のお出かけを目一杯満喫している一般人のフリをすることも必要だろう。
そして時が来れば、解き放たれた古妖を倒す――これが今回の依頼である。
それから伶央は、詳細を説明する。
「古妖を解き放った人は、大学合格を約束すると古妖にそそのかされたようだ。そして結局は結果も出せずに、自責の念に駆られ、「自分の願いの為には必要だった」と自分にいい聞かせるように、祭りがおこなわれる公園や妖怪百貨店で春グルメをやけ食いしたり、桜を呆けたように眺めたりしているらしい。そして解き放たれた古妖は、巧妙に次にそそのかすターゲットを探しつつ人に紛れ、満開桜咲く祭りの会場にいるという。だが祭りは夜なので、日中は自由に過ごしてもらって構わないし。夜の桜祭りでも、敵に怪しまれないように、花見や屋台巡りを楽しんでいる客を装う役割を担う人も必要だろうし。古妖を解き放ってしまった人に声をかけたりなど、色々と行動できる時間は十分にある」
敵が尻尾を見せるのは、夜に公園で催される『春灯祭』が終わる頃の時間。
なので、それまでは自由に過ごせるというから。
敵に怪しまれぬよう一般人を装うべく、公園の桜や百貨店や花見を楽しむも良し。封印を解いた人を探してみてフォローしてみるのもまた良し。
他にもやれることをできる時間は伶央も言うように、十分なほどにある。
そして、解き放たれた古妖が尻尾を見せれば、機を逃さずに倒して欲しいというのが、今回の依頼内容である。
そこまで星詠みの説明した後、皆を見回して。
「古妖を退治するのが一番の目的だが、時間までは自由に過ごして貰って構わないし。桜咲く春を目一杯楽しめば、敵を欺くことにもなる。それに、妖怪世界ならではな珍しいものもあるだろうし、燈される灯りと夜桜も美しいのだろうな」
だから、折角なのでお出かけも楽しんできてくれ、と伶央は小さく笑んだ後。
改めて、よろしくお願いする、と丁寧に頭を下げて皆を送り出すのだった。
第1章 日常 『お祭りを楽しもう!』

――さぁ、今年も桜を咲かせようじゃぁないか!
――桜、さくら、爛漫、満開じゃ!
春が訪れれば、花咲か妖怪たちは大忙し。
何せ『春灯祭』が催される公園はとても広くて、桜の木も数え切れないほど。
でもそれ以上に皆が春の季節を、そして、春の祭りや花見を楽しみにしていたから。
緑溢れる公園の敷地が、満開の桜色に染まってゆく。
けれど張り切っているのは勿論、花咲か妖怪たちだけではなくて。
満開桜を照らす数多の灯篭の設置に、屋台の準備等々、妖怪たちは皆大忙し。
そして、花見や祭りの準備をする妖怪達もだけれど。
春の訪れに心躍らせる花見客だって、準備万端で春を目一杯楽しみたい。
公園内はどこでも、満開に桜が咲き誇っているけれど。
折角ならばより良い場所で花見をしたいという人も多いはずだし。
日中の桜と夜の桜は、雰囲気や印象ががらりと変わるから。
春の陽光を浴びて青空に咲く昼の桜を眺めながら、場所取りをしたり、日中から花見に興じても良いし。ぶらりと公園内をお散歩したり、昼からすでに沢山の屋台が営業している広場で早速屋台グルメ三昧も楽しめる。
また、公園近くの妖怪百貨店では、花見にうってつけの春の弁当フェアの催事がやっていたり、デパ地下で色々なものが買えるから、立ち寄ってからでも良いだろう。百貨店では、食べ物だけでなく、全館あげての『桜フェア』が催されているというから、花見の前にデパート巡りをするのも楽しそうだ。
●春の妖怪百貨店巡りのご案内
妖怪百貨店でまず注目するのは、春らしい弁当や総菜を集めた催事。
桜花や花弁型に飾り切りされた旬の素材を使った「幕の内弁当・桜」やちょっぴり豪華な気分になれる「春の爛漫御前」。
ころんとひとくちサイズで食べやすく桜モチーフが凝っていて可愛「春の手まり寿司」、見目華やかな「春彩ちらし寿司」、桜色の酢飯に春の具材が詰まった狐さん型の「桜お稲荷さん」も人気のようで。桜色クリームと様々な果物が入った「桜フルーツサンドセット」や、桜型のキュートな弁当箱に入った「桜おこさまランチ」などの洋風のものもある。
それに、弁当の催事場だけでなく、定番のデパ地下でも、色々なものが購入できる。
自作のお弁当に少し追加したり、弁当ほどがっつりではなくちょこちょこ摘まみたい人にはうってつけな、様々な総菜が買えるし。
桜花弁があしらわれた「桜あんぱん」「桜カレーパン」「桜色メロンパン」などが春限定で売っているベーカリーもある。
そして花見の準備もできるが、単純に妖怪百貨店巡りを楽しむのもいいだろう。
ビューティーフロアでは、春コスメの販売やお化粧サービス、ネイルサロンがあり、男性の利用も勿論大丈夫。
桜リップや桜チーフは春らしい限定色でパケも桜があしらわれていて大人気。
ネイルサロンでは、色やモチーフお任せでもいいし、指定もできるから、春のお出かけに彩を添えてみるのも良いだろう。
コレクションも近いので、ファッションフロアで服や装飾品を見るのも良いし。
アクセサリーフロアでは、限定桜デザインのものも沢山。可愛いものから男性もつけられるシックなものまでお好みで選べるし。
日用品売り場で、生活に必要な雑貨や家電やキッチン用品などを桜色や桜型のものにすれば、家の中も春色に。
文具店では、春限定の桜インクや桜万年筆、手帳など、心くすぐる桜モチーフや春色の文具がいっぱい。
それに何せここは妖怪百貨店だから、謎の妖怪風な、面白くてへんてこなものも。
「妖怪花見弁当」は、一つ目ミートボールや桜おばけご飯、ぬりかべこんにゃくの煮つけやタコ入道ウインナー等が並んでいて。
弁当の催事場の一角で催されている妖怪市は、いわくつきな不思議なものがずらり。
デパ地下妖怪スイーツも、不思議な色をしていたり、どんな味がするかわからないものも沢山あるし。妖怪メイクや妖怪ファッションなどに挑戦してみても、いいかもしれない……?
●昼のお花見も勿論楽しめます!
桜のお祭り『春灯祭』が本格的にはじまるのは夜からだけれど。
昼からも勿論、満開桜の公園で花見などを目一杯楽しめる。
むしろ昼と夜の桜を同時に楽しむ、桜三昧な過ごし方というのもまた乙だ。
公園には、手作り弁当の持参も勿論できるし、購入品を持ち込んでも大丈夫。
また、夜から開く屋台も一部あるものの、日中から公園の広場には沢山の屋台が並んでいるので、現地調達もできる。
屋台を覗いてみれば、わた飴やチョコバナナやリンゴ飴などの定番の甘味は勿論。香ばしい焼きトウモロコシや焼き鳥、イカ焼きやタコ焼き、焼きそばやお好み焼きなどの鉄板焼き等々、祭りならではな定番メニューは勿論のこと。桜や春にちなんだ限定メニューやドリンク、成人していればアルコール類もあるという。
例えば人気なのはやはり、パステルカラーのグラデーションがキュートな春色わたあめや、桜モチーフ満開のお花見パフェや桜あんみつ、桜色ソフトクリームに桜苺ドーナツ、桜色の猫型をしたお花見猫さん団子などのお花見スイーツ。桜モチーフだったり、桜のようなピンク色をした甘味も、春爛漫。
そしてこの祭り限定の飲み物とえいば、からんと音を立てる桜模様のビー玉が瓶の中でころがる、桜ラムネ。しゅわり弾ける味わいは、青空ソーダ、夜空グレープ、桜空苺サイダーの三種類から選べて。
他にも、桜ストロベリーラテや桜タピオカミルクティー、桜紅茶や桜茶などの、春らしい飲み物であったり。
夜に開く屋台バーもあるようだが、成人していれば昼からでも、春色をした「桜ビール」や「|桜舞《さくらまい》」という名のふわり優しい飲み口の日本酒、他にも各種アルコール類も用意されている。飲み過ぎない程度に楽しむのも問題ないだろう。
それに、食べ物の屋台だけでなく、桜柄のヨーヨー釣りや桜色水槽の金魚すくい、桜型抜きや射的などの遊べる屋台だったり、お面を売っている屋台など。
他にも屋台は沢山あるから、目に留まった好みの店へと足を運んでみたり巡ってみるのも楽しいだろうし。
これらの屋台は、夜でも同様に楽しめるので、夜の祭りも楽しむならば時間差で満喫ことも可能だ。
今日は天気も良く過ごしやすい、絶好のお花見日和。
桜満開な時間をどう楽しむかは、勿論、貴方次第。
目一杯、色々なことをして欲張ってもいいし。
がっつりとひとつのことを楽しむのも、また良き。
さぁ――桜尽くしな一日をいざ、爛漫に楽しもう。
<マスターより補足>
第1章の時間帯は、午前午後問わず、明るい時間帯(朝~夕方頃まで)です。
夜の時間帯を楽しむのは、第2章でとなります。
時間帯が明るいうちであれば、百貨店と日中の花見は、どちらとも楽しんでいただいても大丈夫です。
百貨店では、お花見準備だけでなく、単純にデパート巡りやお買い物を楽しんでいただいても構いません。
また、お好きな章に、何名様ででもお気軽にご参加ください。
第1章のみでも、第2章から知り合いさんと合流でも、第1章と第2章で別グループでの参加でも、それに勿論3章通してでも、自由にお好みでどうぞ!
はらり、ひらひら、淡い彩りが舞い降る春の日。
麗らかな晴天広がる今日は、絶好のお出かけ日和。
ひたすら何もしないで引き籠って過ごす休日というのも良いのだけれど。
(「いつも仕事に追われて疲れているからね」)
だから、たまには楽しく過ごしたいって、岩上・三年(人間(√妖怪百鬼夜行)の重甲着装者・|載霊禍祓士《さいれいまがばらいし》・h02224)はそう思ったから。
足を向けたのは、√妖怪百鬼夜行にある広い公園。
満開に咲く桜や舞う花弁たち、ぽかぽか陽気や爽やかに吹く春風。
そんな春の景色の中を歩いてみれば、わくわくそわりと、気持ちもちょっぴり明るくなるような気がして。
(「たまに休みの日にはぱぁーっとしたい気分だった時にこの依頼があって良かった!」)
上司の小言に説教、仕事量に見合わない給料や人間関係のギクシャク等々。
何かとストレスの多い日々に疲れている心も癒されるような感覚。
それからいつものように猫背でそっと、でも密かに心躍らせながらも、三年がやって来たのは賑やかな公園の広場。
そして、花見酒を楽しむ為にまずは、並ぶ屋台を巡ってみて。
缶のクラフトビール片手に、焼き鳥とイカ焼きやタコ焼きも買って。
屋台の戦利品をはむりと味わい、それから口に運ぶのは、ホップの苦味がたまらないインディアペールエール。
小麦色の濃くて苦い、度数高めなアルコールで、口の中の脂をごくごくと洗い流せば。
(「マカロニチーズにチリコンカンも美味しそう!」)
屋台の定番を味わった後は今度は、お酒にこれまたぴったりな、好きなアメリカ料理系の屋台を見つけては巡ってみて。
他人の邪魔にならないように……と、一人で静かに騒がずに過ごしながらも。
満開桜の下で、次の肴のアテを買ってはほくほくと、それも勿論美味しく食べちゃいます!
春空から舞い降る花びらたちも心なしか楽しそうに、くるりひらひら。
桜が満開に咲いた今日は、良いお天気に恵まれた、絶好のお花見日和。
そして柔らかな陽光が降る中、薄紅に染まる園内に足を踏み入れれば、その賑やかさに心もわくわくそわり。
だって、今日は何と言っても。
「お祭りだ~っ……!! 屋台、スゴイ、雰囲気だけで楽しい……!!」
「へ~! ボク、ちゃんとした"お祭り"に初めてきました」
春の訪れと満開桜の花見を目一杯楽しむ、お祭りの日なのだから。
そんな桜の祭り『春灯祭』は夜からが本番ではあるのだけれど、でもそれはそれとして、日中の桜もまた夜とは違った雰囲気が楽しめるし。
八手・真人(当代・蛸神の依代・h00758)やヨシマサ・リヴィングストン(朝焼けと珈琲と、修理工・h01057)が視線を巡らせている公園の広場には、すでに準備万端、ずらりと並んでいるから。
「お祭りと言えば出店! 屋台!」
そう、マリー・エルデフェイ(静穏の祈り手・h03135)が言うように、お祭りの醍醐味である出店や屋台がたくさん。
ということで!
「お花見は夜に満喫するとして、昼間は屋台巡りをしましょう!」
皆でまずは、屋台巡りを目一杯堪能します!
そんな屋台を、物珍しそうに見ているのはヨシマサ。
「√ウォーゾーンではテントでの炊き出し自体はよく見ますけど、こんなウキウキした空気のものが大量に並んでいる様子は見たことないから不思議な気分です」
野外で用意された食べ物を受け取るという点では、確かに配給と一見似ている……かも、しれないけれど。
まじまじと屋台の店先を見つめながら、ヨシマサは興味津々。
「それに配給量は一食分じゃなくて一品制なんすね~。選び放題だ!」
必要な分の食料を配っているのではなく、ポップだったりがっつりだったり甘い物だったり、多種多彩なものを自由に好きなだけ選べるのだ。
そして日南・カナタ(新人警視庁異能捜査官カミガリ・h01454)は、不思議と知識としてはあることもあって、あたかも知っている風に見えるのだけれど。
(「シャドウペルナとして目覚めてまだ1年満たないんでお花見初めてなんだよね……だからすっごい楽しみ!」)
実は花見ははじめてで、この√妖怪百鬼夜行自体もはじめて訪れたから。
「は~~~、綺麗~~……」
満開に咲く桜を実際に目の当たりにして、感嘆の溜息を漏らしたりしつつ、感動したりだとか。
「お店の数がすごく多いですねーっ。って、店主さんが妖怪なんですかーー!!?」
広場に並ぶ屋台の多さと、その店主が妖怪だということにびっくりしたりだとか。
きょろきょろうろちょろ、人も多いし今にも迷子になりそう、なのだけれど。
「桜ー桜ー♪ あ、カナタンこっちだよー」
十六夜・宵(思うがままに生きる・h00457)は機嫌よく歌いつつ……カナタンの制御と先生役任されました! と。
屋台のあれこれをレクチャーしたりつつも、幼馴染が迷子にならないように、頑張って引っ張っていきます!
それに、勿論。
「美味しいものいっぱい食べようね」
春のお祭りグルメも一緒に、目一杯楽しむつもり。
そんな、ばっちり介護されているカナタとお世話する宵の、幼馴染ふたりの様子を微笑ましく眺めつつ。
「遊べる屋台もあるみたいですケド……やっぱり食べ物屋さんが、気になっちゃいますよね」
真人の目がやはり向いちゃうのは、良い匂いがする食べ物の屋台で。
ヨシマサも射的屋台のヨーヨーなどの玩具の景品は少しだけ気にはなったものの、顔にめちゃ当たった過去をそっと思い出しては今回はやめておくことにして。
マリーはいつの間にか早速、パステルカラーのふわふわ春色わたあめをゲット済。
しゅわり溶ける甘やかさに舌鼓を打ちながらも、ぐっと気合十分。
「さあ皆さん、お祭りの屋台グルメは制覇がマナーですよ!」
次は、心擽られたお花見パフェの屋台へと嬉々と足を向けて。
目についた傍から色々なお花見スイーツや春グルメを、あれもこれもと買っていきます!
いや、そんな屋台グルメは確かにどれも魅力的なのだけれど。
カナタはおずおずと訊いてみる。面白珍しいものを見つけては……買ってもいい? って。
一応星詠みの依頼だから経費で落ちるのか否か、当然気になるところではあるが。
「お金の心配は要らないです、今日の為に貯金をおろしてきたので軍資金も潤沢です!」
「マジすか!?」
マリーの謎の財力に、思わず声を上げてしまう。
というわけで、お金の心配もないということで、心置きなくあれもこれも皆で見て回って。
「日持ちしそうな物は三課の皆さんへのお土産にしましょうね」
とは言え食べきれないのは分かり切っているので、おなかいっぱいになった時のために、お土産にできそうなものもチョイス。
これも、謎の財力の賜物です!
そしてヨシマサと真人も、気になったものをそれぞれ選んでみて。
「じゃあ~、ここの焼きそばと焼き鳥とポテトフライ、たこ焼きとお好み焼きと……」
「桜のスイーツ……綺麗だし、おいしそう……」
「デザートもかわいいっすね!」
「お花見、って感じがするし……記念に、ドーナツとお団子、1つずつ食べちゃお……」
真人がそう、春らしいドーナツとお団子をひとつずつ買ってみた後。
「えーと、桜あんみつ、苺ドーナツ、桜餅……」
「っていうかヨシマサ先輩見かけによらず食べますね!?」
「色々ありすぎて迷っちゃいますが、いっそ気になるもの全部買っちゃいましょう!」
「ヨシマサさんもマリーさんも、すごい勢い……」
ヨシマサとマリーの買いっぷりの良さに、カナタと真人も思わず瞳をぱちり。
けれど、当のヨシマサもそんな声にきょとりと首を傾けるも。
「……え、食べすぎ? いや、このぐらいならイケますって」
メチャ・食うモードの彼は、まだまだ余裕そう……!?
そんな言葉を聞けば、真人もその食べっぷりにはニッコリしちゃうし。
「で、でも——いっぱい楽しまないと損、ですよね……!」
「皆もいっぱい食べてる僕も食べるー!」
宵もそう、改めて並ぶ屋台をわくわくきょろり。
「あったかくなって来たから冷たいものもいいなあ。あるかな?」
「あ、すみません! 青空ソーダっていうのもください」
そうすかさず注文したヨシマサに続いて、カナタを手招きながらも。
「あ、サイダーいいなあ。僕たちもこれのもうよ。カナタン」
サイダーをお揃いでふたり分、ちゃりーんと購入です。
それから、後はソフトクリームも食べたいなーなんて言いつつ、しっかりゲット。
ちまちま早速食べている宵の何処に入ってるのかってくらい、あれもこれも食べています。
けれどきっちり、カナタの動向には目を配って、迷子になりそうな幼馴染を引っ張っては連れ戻して。
彼のおかげで逸れずに済んでいるといっても過言ではないカナタは、また新たなものを見つけ、駆け寄ってみてから。
「タコ入道ウインナーだって!」
美味しそうにぱりっと焼けているそれと、じいと暫しお見合いしながらも、ぽつり。
「タコ入道ってたこすけ先輩の……親戚?」
「タコ入道さん? とは……面識ない、ですね……」
真人の背からうにょんと伸びるたこすけとは、親戚ではないみたい。
そして沢山すぎる戦利品をほくほく抱えているヨシマサは、ふと耳に聞こえた声に首を傾けてから。
「……あっ、ここも電子マネー扱ってないんすね? ヤバ、財布に入れてた現金なくなっちゃったかも」
「電子マネー……さすがウォーゾーンっ子……」
真人がそのハイテクさに呟きを落とす中、カナタへと視線を向けて。
「……カナタくん、ボクの代わりにATMで現金出しに行ってくれません?」
「って、なんでやーーーー! 出し子ですかーーーー!!」
自分も何気におまわりさんなのだけれど……まさかの詐欺罪で逮捕案件!?
そしてそんな、詐欺ダメ絶対にっ、とふるふる首を振るカナタの姿を見れば。
「……えっ、出し子? 犯罪?」
ヨシマサはちょっぴり考え直してから、改めて。
「そっか〜……ん~……じゃあお弁当を買って来て下さい」
パシリ……いえ、こうお願いを――デパート限定の桜幕の内弁当ってやつ! と。
というわけで!
「やだな、パシリじゃないですって〜、ほら、宵さんと一緒に行って来て下さい。弁当分の電子マネー送っとくんで〜」
そう百貨店へとおつかいに行くふたりを見送りながら、ヨシマサはほっこり。
「ふふ〜、宵さんの助け舟になったかなあ? これ」
「春だけにぴったりですね! うんうん」
……あれが青春なのかな? なんて。
彼のパシリ作戦大成功に、そう和むマリー。
カナタと宵のふたりのやり取りを眺めていると、微笑ましくて。
そう――宵がそっと呟くのを、さり気なく耳にしたから。
「後ね、そのね。宵ちょっとコスメも見たい、なーって。可愛い色もあるから……ちょっと見たいなって、ダメ……かなあ?」
百貨店に向かう道中にもそう訊く彼の要望は、ダメなんかじゃきっと全然ないから。
桜幕の内弁当を買った後、ふたりで買い物も楽しんで来られるようにと。
それから、はむはむ相変わらず沢山食べては、お花見グルメを思い切り満喫するヨシマサやマリーと共に。
真人ももう一度、屋台へと足を向けてみる。
「俺の分とおんなじドーナツとお団子、喜んでくれるかな……」
兄ちゃんにも、持って帰ってあげたいな、って――美味しさ満開の春スイーツを、お裾分けしたいって思ったから。
満開の桜が咲き誇っているという春の報せを聞けば。
交わしていた約束の蕾も、満を持してふわりと花開く刻。
刻・懐古(旨い物は宵のうち・h00369)は、とある依頼の道中で彼らと約束していたから。
――“またの機会に、花見酒に興じよう”、って。
だから、満開の桜に春灯祭と聞いたら、真っ先に声をかけたのは付喪神の友人たち。
そして約束の日――祭り当日に至れば、思わず綻ぶ。
「三方で酌み交わすのは幾度目か。約束を楽しみにしておりました」
「ふふ。やっと花見酒が出来るのね。以前からお話していたからとても楽しみにしていたの」
誘いを受けてこの日を心待ちにしていた、六・磊(垂る墨・h03605)と壬生・縁(契・h00194)に咲く笑みも。
そんな本日の祭りの本番は夜、まだ明るい春空を見れば、始まるまでは随分と時間があるのだけれど。
早いうちから集ったのは何も、逸る気持ちだからだけではなくて。
「やはり花見酒なら清酒だろうか。めでたく金箔入りも良いね」
夜の祭りに向け、百貨店で酒やつまみを調達するため。
懐古はそうふたりと共に、花見酒に相応しい酒を吟味して。
「この日本酒、桜の香りがするんですって。味覚でも桜を感じる事が出来るなんて、贅沢ね」
縁が手に取ってみるのは、桜の香りに酔い痴れそうな逸品。
そして美味しい酒には、肴がつきものだから。
「酒の肴は……あら、春の手まり寿司? 美味しそうだわ」
そうころんと可愛らしくて美味しい春が咲く手まり寿司を彼女が見つけた隣で。
懐古は確信するように頷いて、即決。
「これはもう、絶対おいしいじゃないか」
枝豆に桜の塩漬けがのったおにぎりに惹かれて。
「こちらはフルーツサンドセット。甘いものもお酒に合うものね」
縁も美味しそうなものを見つければ、迷う事なく購入。
そんなふたりが着々と美味な準備を進めていくのを、六磊は瞳を細め、見つめながら。
「懐古さん、緑さん、お二人の品々も興味深いものばかりですね」
自分もと選んでみるのは、ふたりとはちょっぴり違う酒。
「僕は変わり種として果実酒にしましょうか。ちょうど三種セットになっていて、飲み比べできるようですから」
苺・桃・梅の、春を思わせる三種の果実酒をチョイス。
それから旬のものをさくりと揚げた、彩豊かな天ぷらもいくつか購入してみて。
「懐古さんと六磊さんが選んだ品も美味しそう」
縁は思わずそうわくわくと笑みを零して。
春灯祭に向けた品を探す最中、懐古は興味津々――そう、“二人の興味”にも。
そんな懐古が視線を向ける先、春灯祭に向けた品を探す最中で。
「おや、これはなんと……可愛らしい」
そっと開いた六磊の金のいろに映る花。
ふと雑貨屋で目に入ったのは、花は花でも、髪に咲かせる桜の髪飾り。
いや、普段は興味を刺激するような品ではないはずなのに。
六磊の手が伸びるのは、こうふと考えたから――あの娘に向けて、と。
そして食でも酒でもない、桜にちなんだ雑貨に吸い込まれてゆく姿を見て。
懐古は縁へとこう、ひそりと耳打ちを。
「あれは贈り物だろうね」
「あら、本当ね。どんなものを贈るのかしら」
そうして彼が選ぶ物にも静かに興味を向けていれば、やはり思った通り。
「……すみません、お待たせいたしました」
密かにと六磊は思っているのだけれど。
春色の包紙とひらり蝶々結びされたリボンでおめかしされたそれが贈り物であることは、見守っていたふたりには一目瞭然。
それから、買い物を済ませ公園へと足を踏み入れれば。
今度は懐古がふらりと、誘われる。
「ふふ、懐古さんは吸い寄せられているようでしたがお好みの品を見つけられたのでしょうか?」
そう六磊が縁と共に見つめる先には、何やら嬉々と屋台で購入している彼の姿。
気になるそれが何であるかはまだわからないけれど、でも楽しみにしつつも。
花見酒もよりすすみそうな、桜が見事に咲き誇っている絶好の場所を確保して。
懐古はひらり舞う花びらたちと共に、その心をわくわくと躍らせる。
――鯛焼きの素晴らしさを彼らへも語る時が来たか、と。
春を彩る満開桜の下、桜餡の鯛焼きを3つ、ほくほくと抱えながら。
晴れ渡る今日の春空を彩るのは、ふわりひらひら、淡い桜色たち。
そんな春の景色の中、薄墨に染まりゆく白桜のいろを花岡・泉純(櫻泉の花守・h00383)がより躍らせるのは、リリアーニャ・リアディオ(深淵の爪先・h00102)の姿を見つけたから。
「ごきげんよう! 今日はお花見日和だね」
だって、話を聞いた時に思ったのだ――桜フェア、あなたと見て回りたくて! って。
そしてリリアーニャも、桜の似合う彼女へと笑いかける。
「ごきげんよう、今日は誘ってくれてありがとう」
そんなふたりがまず向かうのは、ぐるりと見渡せば春爛漫な百貨店。
心惹かれるフロアはいくつもあるのだけれど。
「コスメもお買い物できるなんてすごいのね」
「限定色、やっぱり可愛い」
ふたりの足が止まったのはそう、春コスメコーナー!
そして泉純の声を聞けば、リリアーニャは大きく頷いて返して。
「この限定色、あなたに似合うと思ってた!」
桜色にミルクを流し込んだみたいに、甘やかなマーブル模様を描くアイシャドウ。
そんな淡く柔らかな彩りのアクセントになるのは、キラキラの煌めき。
「この白い部分がラメになっているみたい」
そして泉純は、おすすめしてくれた色にも一目惚れしたし。
「あ、このラメのアイシャドウ、夜桜みたいでリリアーニャちゃんに似合いそう!」
「え、こっちの色を私に? 試してみようかしら?」
リリアーニャに似合うって思った色も見つければ。
「お化粧サービスもあるみたいだね……!」
「どれも春らしくて素敵」
気になるものを見繕ったなら、実際にふわりといろを乗せてみることに。
そして軽くブラシでくるりと撫でてみただけで、まるで春告げの魔法のように。
「このチーク、一気に華やかになった! 桜ミルクみたいなアイシャドウもピュアな印象でとても好み」
「私も似合ってる?」
「わ、リリアーニャちゃん……とっても可愛い……!」
ぱっと互いを彩るのは、それぞれの桜色。
泉純の頬にふわりとチークが乗れば、ほんのり恋する乙女のようで。
ライトアップされた夜桜のように、青白く光るラメを乗せた瞼を瞬かせるリリアーニャの蠱惑的な雰囲気に、思わず見惚れちゃう。
そしていざ、どの春色を連れて帰ろうかと作戦会議するも。
「思いきって全部買っちゃおうかな……!」
もう、お財布の紐はゆるゆる。
でもそれも、必然の選択。
(「あなたとお揃いがとても嬉しい」)
(「お揃いなのも嬉しいな」)
心に咲く気持ちだって、ふたりお揃いなのだから。
そして夜の桜彩をひと足先に纏うリリアーニャに、泉純は言の葉を咲かせる。
「ふふ、この後のこと応援してるね!」
――素敵な夜になりますように、って。
そんな向けられたエールに擽ったさを感じながらも。
「ふふ、この後の予定への応援もありがとう」
リリアーニャは嬉しそうに瞳を細めて返す。
桜色の魔法で彩られた顔を見合わせて、ふわり微笑み合いながら。
春の訪れを感じる、穏やかな陽光が降る中。
話に聞いた桜咲く祭りに赴いてみるのは、シャリス教団の聖女様と教皇様。
そして、見事に桜咲く公園に足を踏み入れたリニエル・グリューエン(シャリス教団教皇・h06433)は、颯爽と紡ぐ。
「聖女様と共に『春灯祭』なる祭りへと参加するわ!」
でも、そう張り切って告げるの声に、レティシア・ムグラリス(シャリス教団聖女・h06646)はぱちりと瞳を瞬かせてから。
「えっと……今日はその、レティシアと名前で呼んでください……は、恥ずかしいです」
「え? 聖女様は恥ずかしい? ……では、せめてレティシア様と呼ばせてね?」
人も沢山いることだし、そっとお願いしてみれば、「様」付けこそ取ってはもらえなかったのだけれど。
でも気を取り直して、二人で桜咲く青空の下、祭りの会場を巡ってみることにする。
それからリニエルは、どこに行くか悩んだのだけど。
「やはりお祭りの会場に立ち並ぶ屋台巡りね」
沢山の良い匂いに導かれるかのように、ずらり屋台が並ぶ広場へと向かってみて。
きょろりと店々を見回したレティシアが、ふと見つけたのは。
「どれも美味しそう……、私はその、ソフトクリームなるものを頂きたく……」
冷たくて甘い、桜の彩りをしたソフトクリーム。
リニエルも、気になったものをまずはひとつ買ってみて。
「わたしは焼きトウモロコシを……、レティシア様はソフトクリームね?」
それからそれぞれ、焼きトウモロコシと桜色ソフトクリームをはむりと口に運んでみれば。
口に広がる味わいは、互いにとても美味!
そしてリニエルはレティシアと共に屋台グルメを満喫しながらも、こくりとひとつ頷く。
……今日くらいは二人して食べ歩きをしても、シャリス神も喜んで見逃してくれるはず! って。
いや、美味なものもたくさん堪能するつもりだけれど。
「ぁっ、射的ですって、やってみましょう!」
リニエルが見つけてレティシアを誘い、挑戦してみるのは射的。
射的なるもので遊んでみようとリニエル様に誘われ、レティシアもいざ実践!
そしてまずは初撃、リニエルは狙いを定め、満を持して引き金をひいてみるも……景品に当たるに至らず。
もう一度気を取り直してチャレンジしてみるも、またもやはずれ。
「……むむ、な、なかなか当たらない……」
折角聖女様のために景品を献上しようと、再び構えて狙いを定めていれば。
――ぽこんっ。
「えっと、こうして……ぁっ、当たりました!」
見事に景品を撃ち抜いてゲットするレティシア。
そしてさらに、続けてもう一撃。
――ぱこんっ。
「次はこう……、また上手くいきました、ふふ♪」
狙いを定めて引き金をひいていけば、次々と景品を撃ち落としていって。
「……って、ぇぇ!?」
「リニエル様、見てください! 私、がんばりまし……た……?」
ほくほくと両手に景品を抱えたレティシアはふと、きょとりと首を傾げる。
景品を手に持つ自分を見たリニエルが、何だかポカーンとしている気がして。
いや、これもシャリス神のご加護の賜物??
聖女様が抱える景品を目にすれば、驚きを隠せないまま、リニエルはこう思わずにはいられないのだった。
――レ、レティシア様の才能を垣間見たわ……、って。
ふと空を見上げれば、薄紅の花びらたちがよく映える青が広がっていて。
「晴れて良かったね」
「ふふ、ほんとうだね」
芟花・鐵(花散里・h00703)の声に、赤薔薇の瞳を細めて返すリリィ・ルーナ(無垢の華・h00375)。
そしてほわりとうれしさが咲いたのは、彼が差し出してくれたから。
「はぐれると行けないから」
大きな手をそう、当たり前みたいに。
だから、眼前のその手へとそっと指先を乗せながらも、リリィは思う。
……きみとこうして手を繋げるのが、ぼくだけだったらいいのになあ、なんて。
いや、たとえ彼女が何処にいてもみつける自信はあるのだけれど。
でもそれでも、その手を鐵が差し出したのは、欲しかったから――彼女と手を繋ぐ理由が。
そしてそっと相手の手のぬくもりを感じながらもやって来たのは、『桜フェア』が行われている百貨店。
外の桜も見事に満開に咲いていたけれど、でも、百貨店の中も桜や春の彩りでいっぱい。
「リファ、何食べたい?」
「うーん、何食べようかなぁ。おいしそうなものがいっぱいで迷っちゃう。桜ラテは絶対飲みたい……!」
鐵に訊かれ、リリィがまず外せないと選んだのは、ふわり春色をした桜ラテ。
それから、美味爛漫なお花見ごはんたちをくるりと見てみるも。
「食べ物はクロが食べたいものにしよう?」
彼の方がいっぱいご飯を食べると思ったから、そう提案を。
そしてその言葉を耳にすれば、鐵が手に取ったのは、ころんと可愛らしい春めいた手毬寿司。
それから、こう続けるのだった。
「二人で分けよう」
だって、鐵は知っている。
一人より二人で食べると美味しい、って。
そしてそんな喜びを教えてくれたのも、彼女なのだから。
それからふたり手と手を繋いで、賑やかな百貨店をくるりと巡っていれば。
鐵の目にふとついたのは、春風にひらりと躍る、まるで今日の景色のような春。
そんな、見つけた桜染めの桜の花が刺繍されたスカーフを購入して。
「夜は冷えるかもしれなからね」
差し出すのは勿論、隣の彼女へ。
それをくるりと首に巻いてみせて、はにかんで。
「わ……! ありがとう、クロ。とってもすてきだね」
リリィは彼へと赤薔薇の瞳を向けて訊ねてみる――どう、かな? なんて。
それからふと、くれたスカーフと同じ彩りが満ちる小さな瓶を手にし、購入すれば。
……お礼と今日の記念に、と。
鐵へと差し出すのは、目についた桜のネイル。
「私にかい?」
そう紡ぎつつも、彼女からの贈り物に、ありがとうと微笑んで。
汚れた己のにはあまりにも眩しい桜色だと、そうも思うのだけれど。
でも鐵は彼女へと、こんなお願いを。
「後で塗ってくれるかい?」
――君の手で染めてられたのなら、まるで祝福のようだから、って思うから。
そしてリリィも、もちろん、と頷いて返す。
だって、彼のその爪を桜色に彩ったなら。
「いつだってぼくを思い出してくれるでしょ?」
ふわりとそう花咲む。隠しきれない独占欲をそっと、満ちる春のいろに滲ませて。
ただでさえ、パステルの色合いと雰囲気に心躍る春がすきって、そう思うのに。
不忍・ちるは(ちるあうと・h01839)が仰ぐ今日の空は晴れやかで、春のいろがいっぱいに満ちていて。
薄紅が染める桜色の道をゆくその足取りも、わくわくととても軽やか。
だって今日はいつもよりぐっと意気込んで、いざ向かうは――いわゆるデパ地下!
そして、ちるはがそんなデパ地下へと導かれし目的は……そう。
(「限定の桜あんぱんを買いたいから!」)
というわけで、逸る気持ちを抑えきれずに。
焼き立てパンの香り漂う、百貨店の地下にあるベーカーリーへと直行すれば。
刹那瞳を輝かせ、ぱあっと満開に喜びを花開かせる。
だって、お目当てはすぐに見つけられたのだから。
ほんのりしょっぱい桜花弁となめらかなこしあんと酒種のふかふか生地。
そして、手のひらに収まるころんとまんまるフォルムのかわいらしさ――。
(「あああ、すき……」)
心に満ちる幸せもふわふわ、春のように爛漫で。
恒常ももちろんすきなのだけれど、でもやはり、その魅力には抗えない。
――限定に惹かれてしまうのは真理だから、って。
他にも勿論、食べたい春はいっぱいあって。
ちるはは、店内を染める彩りに心も弾みっぱなし……特にこのパン屋さんの桜推しがすき、って。
だからほくほく、限定の桜パンをあれもこれもと購入すれば。
天気も良いし、公園にも寄りたいところなのだけれど。
(「上の階の春服も桜コスメも気になるから、もう少しぶらりとしようかな」)
まだもう少しだけ、お買い物でいっぱいの春を満喫するつもり。
桜花弁がひらひら舞う中、キラキラと目を輝かせながら。
「まつりだー!!」
獅猩鴉馬・かろん(大神憑き・h02154)がやって来たのは、満開に桜が咲く昼の公園。
春色に染まる園内に足を運べば、きょろりと視線を巡らせて、賑やかな雰囲気にうきうき。
だって、祭りは楽しくて好きだから。
そして祭りの楽しみといえば、やはり屋台。何せ、おいしいから!
それから今日は桜のお祭りだと聞いてはいるし、見事に咲き誇っている桜を見てみれば。
「きれいなー?」
そのくらいの感想は、一応出てはくるのだけれど。
でもやっぱり、かろんはまだお子様だから。
「ど・れ・に・し・よ・う・か・な!」
意識はすぐにおいしいものへ。花より団子なお年頃なのです。
それからわくわく屋台の人へと声をかけるべく、うんと爪先立って。
「くださいなー!」
お小遣いを握りしめまず向かったのは、香ばしい匂いがたまらない、定番の焼きそば屋台から!
そして出来立ての焼きそばを受け取って、早速はむはむと食べてみれば、大きくこくりとひとつ頷く。
屋台の焼きそばは妙においしいってみんな言ってるし、実際おいしいって、かろんもそう思ったから。
いや、焼きそばだけじゃなくて、タコ焼きもイカ焼きも全部美味しくて。
ぺろりと制覇したら――今度は、甘いものも欲しくなってくるころ。
だからきょろりと周囲を見回せば、すたたっと屋台を再び巡って。
限定メニューだという春色わたあめやお花見猫さん団子、桜ラムネも気になるところ……なのだけれど。
しかし――ここで問題が。
そう、お子様のお腹は小さかった……!
だから気持ち的には全部自分で食べてしまいたいのだけれど、お腹いっぱいにすぐになっちゃうから、少しずつで我慢して。
みんな仲良し、大神や眷属たちにも美味しいをおすそわけ。
晴れ渡る空に淡き春の彩りを舞い踊らせ、ひとひら、またひとひら積もらせては世界を薄紅に染め上げる。
そんな見事に満開に咲き綻ぶ桜の花も、勿論綺麗なのだけれど。
天國・巽(同族殺し・h02437)の金の瞳に今咲き誇る華は、隣を歩く美しきフリージア。
「お、こないだ俺がオススメしたコーデか、お嬢さんっぽいな? イイじゃねェの」
黒のワンショルダーの長袖ニットにマーメイドラインのデニムスカート。
それに白のキャスケットとウェッジソールを合わせて、黒い丸型サングラスをかけた装い。
花喰・小鳥(夢渡りのフリージア・h01076)は向けられた声に、綺麗な笑顔を咲かせて。
「せっかくのデートですから。巽さんは動きやすそうでいいですね」
彼の姿を映す赤のいろを美しく細め、紡ぎ返す。
白のシャツに薄青のYシャツを着て袖は捲り、ベージュの綿パンはロールアップでくるぶしを出して、その足元には粋な雪駄。
小鳥と同様に、今日の巽も洒落た格好。
そう、だって何せ、折角のデートなのだから。
「いい日和だ」
手を繋いで指を絡め、ふたり屋台を巡ってそぞろ歩き。
そんな絡め合う指先が素直に嬉しくて。小鳥にふと芽生えるのは、こんな小さな悪戯心。
「ご希望なら二人きりになれるところにいきますか?」
なんて言って、煽るような美しい笑みを咲かせてみるけれど。
爛漫に咲く花を、巽は余すことなくどれも欲張るつもりだから。
「満開の花が二種も見放題なんだぜ? それをほうって篭るほど野暮じゃねェよ」
ふっと笑って、桜もフリージアも、どちらも愛でることを迷わず選ぶ。
そしてそんな二輪の花へと視線を向けては軽やかに言の葉を返す彼に、小鳥は綻ぶような笑みを浮かべて。
「もう満開ですね」
改めて桜の花を見上げれば、花弁と共に降るのは、麗らかな春の陽光。
ともすればそれは暑いと感じるくらいの、ぽかぽか陽気だから。
小鳥が足を運んで並ぶのは、アイスクリームの屋台。
選ぶフレーバーは桜と小豆、春を思わせる二種にして。
(「俺はたこ焼きでも買っとくかね」)
巽の買ったまんまるたこ焼きも一緒に、ふたりで美味しい半分こ。
「はい、あーん」
「ん」
にっこり笑って小鳥が差し出せば。巽はあーんして、はむり。
そして食べさせてもらえば勿論、今度は食べさせる番。
「ほいよ、あーん」
お返しは基本、そしてそれを受けるのだってごく自然に。
小鳥も彼から差し出されたそれを、あーんして、ぱくり。
ふたりで仲良くイチャイチャ戯れ合えば、今度は木漏れ日の下、ベンチに並んで腰掛けて。
「偶にはいいなこういうのも」
こてんと預けられた小鳥の頭の重みを肩に感じながらも、巽はのんびりと満喫する。
桜とフリージアが仄か香る、ゆったり穏やかな春爛漫のひとときを。
爛漫に綻ぶ春のお出かけへと誘うのは、ふんわり咲いた桜色。
「流石お祭りと言ったところでしょうか、随分人が多いですね」
屍累・廻(全てを見通す眼・h06317)が視線巡らせているのは、後輩に連れられてやって来た、春の催しが行われている会場。
桜が満開に咲く広い公園では、桜の夜祭りも開かれると聞いているけれど。
桜良・ひな(春の呪詛・h06323)はそんな桜を愛でる前に、先輩へとこんな誘いの声を。
「お花見は夜にするとして、春コスメも見たいから先にそっち行きません?」
ということでまず足を向けたのは、公園の傍にある妖怪百貨店。
公園の満開桜も見応えがありそうだけれど、百貨店に並ぶ春色の品々だって目移りするほどに豊富で。
桜フェアが行われている館内もくるりと見渡す限り一面、春色爛漫。
ひなはわくわく、新緑のような明るい瞳を巡らせながら。
「あ、文具店もあるみたいですよ! アクセも見たいからそこ待ち合わせで、一旦別行動にしましょっか」
「別行動ですか? 分かりました。後ほど、アクセサリーフロアで合流しましょう」
暫くの間、ふたりわかれて、それぞれ見たいフロアをまずは楽しむことにして。
ひながやってきたのは、ビューティフロア。
春色チークに華やかなラメ入りパウダー、心擽られる限定デザインのパケ。
見るものどれも可愛くて、あれもこれもと思うけれど……でもお財布事情から、桜リップとアイシャドウパレットだけ購入して。
戦利品を鞄に大事に仕舞えば、うきうき弾む心と足取りで、待ち合わせのアクセサリーフロアへ。
そして同じ頃、廻も文具店へと足を運んで。
(「せっかくなので、図書館で使う用に買いましょうか」)
手に取ってみるのは、桜モチーフの万年筆に桜色のインク。
さらに色々と吟味しては、しっくりくるものをいくつか一緒に。
(「ボールペンやメモ帳も色々使えるし買っておきましょう」)
日常でも使えるものを選んで購入した後。
「デパ地下も賑わってるんですね」
通りかかったデパ地下で、ふと足を止める。
ふいに見つけたのはやはり、桜の彩り。
けれど桜は桜でも、外はかりかり、中はふわふわ。
「おや、ひなさんに買ってあげましょう」
甘やかで美味しそうな、焼き立ての桜色メロンパン。
それから廻は合流先のアクセサリー売り場で、ひなを待つ間、様々なデザインのものを眺めていれば。
「こういったものは疎いですが……これは良さそうですね」
……気に入ってくれるといいですが、って。
目をひかれてそう手に取ったのは、ふんわり春色の髪にきっとよく似合うと思った、桜モチーフのヘアゴムとネックレス。
そしてひなも、到着した待ち合わせ場所で、廻を探してきょろり視線を巡らせれば。
ふと見つけたのは、桜のトップにイニシャルが入っているネックレス。
それから合流する前に、それを買って包んでもらうことにする。
こうしてお花見に付き合ってくれる、お礼にと。
その後、改めて売り場を見回してみれば、お互いの姿を発見。
「……あ、先輩! お待たせしました。なにかいい文房具ありましたか?」
「ひなさんは目的のもの買えました?」
ふたり揃って、相手に贈る桜色を密かに忍ばせているなんてことは――まだお互い、この時は知らずに。
桜花弁がひらり舞い降る、麗らかな春の風景を歩きながらも。
矢神・疾風(風駆ける者・h00095)がふと思い返すのは、星詠みから聞いた今回請け負った案件の詳細。
「今日の依頼は『春灯祭』に現れる古妖の退治か……」
そしてこの祭りは、灯りを燈してライトアップした夜桜を楽しむものだという。
ということは、そう。
「……つまり夜までは、霊菜とデートを満喫出来るってことだな!」
事が起こるまでは自由、すなわち、デートを楽しめるということ!
勿論依頼はきちんとこなすけれど、それはそれとして。
春デートに気合十分な疾風の様子に、矢神・霊菜(氷華・h00124)も瞳を細めて。
「ふふ、疾風と2人で出かけるのは久々ね。娘と家族3人で出かけるのも愛おしい時間だけど、たまには夫婦水入らずも大切よね」
そう紡ぐ彼女だって、疾風とふたりのお出かけに上機嫌。
そしてやはり、ふたりきりのお出かけなのだから。
「はは、こうして二人でデートも、なんだか久しぶりで良いもんだよな」
そっと手を伸ばした疾風は、霊菜のその手を取って。
指を絡めて、恋人繋ぎに。
そんな刹那与えられた手の感触とぬくもりに、霊菜は一瞬立ち止まって。
自分の足が止まったことに一瞬不思議な顔をする彼を後目に、少し考える様子を見せた後。
ふいに繋いだその手を、するりと解けば。
「一緒に、たくさん楽しみましょうね」
そう紡ぐと同時に、疾風と腕を組む霊菜。
手を繋ぐよりももっと、より近くで寄り添って。
そしてふわりと腕に彼女の熱を感じれば。
(「今日の霊菜はなんだか積極的だな、結婚前のデートを思い出すようで照れるな!?」)
思わずちょっぴり照れくさくなって、照れ笑いしてしまう疾風だけれど。
でもすぐに、霊菜の言葉に頷いて返す。
「……じゃ、今日は目一杯楽しむとするか!」
それから桜色に染まった街を改めてくるりと見回して……さて、どこを回ろうかしら、と。
霊菜は思案した後、向けるのはこんな提案。
「折角だし桜フェアを見に行かない? お留守番してくれてる零にお土産も買いたいし」
「そうだな、桜フェアいいじゃん! 行ってみるか~!」
疾風もすぐに賛成して、ふたりで早速足を運んでみるのは、妖怪百貨店。
公園や街並みに負けないくらい、デパート内も春色に溢れていて。
「……お、この桜飾りのバレッタ、霊菜似合いそうじゃね?」
疾風はふと見つけた髪飾りを手に取って、綺麗な金色の髪にそっと当ててみれば。
大きくひとつ、こくりと頷いて即決。
「よし購入~!」
似合うとは思っていたけれど、春を纏う桜のバレッタは彼女に似合いすぎるから。
それから春の催事をふたりで楽しく見て回り、愛娘へのお土産もばっちりと買った後。
購入したのは、季節の美味しさに彩られた、ころんと可愛い『春の手毬寿司』。
そして飾り切りされた桜が咲くそれを、疾風はひとつ摘まんで。
「はい霊菜、あーん?」
彼女へとあーんと、差し出して。
それをあーんと口にしつつ、はむりと味わえば。
「ほら疾風も、あーんして?」
勿論霊菜からも、疾風へとお返しのあーんを。
美味しさ爛漫な春を、ふたりで仲良く、食べさせあいこ。
足を踏み入れた公園は、桜が満開の見ごろ。
晴れ渡った空の下、今日は皆で桜のお祭りに参加……ではあるのだけれど。
(「菫さん仕事忙しいらしいのでお姉ちゃんと昴さんと先にきました」)
(「菫さんが仕事立て込んでいて遅れるから先に来た!!」)
というわけで、桐生・綾音(真紅の疾風・h01388)と桐生・彩綾(青碧の薫風・h01453)は一足先に、祭りの会場へ。
そしてそんな姉妹と共にやって来たのは。
「姉さんいつも仕事忙しいしな。さすがに昼はあけれないだろう」
……なので先に綾音と彩綾ときた、と。
海棠・昴(紫の明星・h06510)も姉を待ちつつ、ふたりと共に、桜咲く春のおでかけに。
いや、桜もとても綺麗で、見事に咲き誇っているのだけれど。
「屋台で一杯美味しいもの食べる!!」
「これが屋台!! わたあめ、りんご飴!! チョコバナナ!! イカ焼きもタコ焼きもいいな!」
「わたあめは定番、焼き鳥、焼きそば、お好み焼き!! うん、美味しい」
綾音と彩綾がキラキラと輝かせた瞳を向ける先は、花より団子ならぬ、花より屋台?
けれどふたりがわくわく心躍らせるのも、ある意味当然のことなのだ。
(「こういう屋台に馴染みがない綾音と彩綾には夢のような風景だろう」)
普段は道理をわきまえていて賢い子達だが、けれどやはり素は年頃の女の子だと。
あれもこれもと買っては、一杯美味しそうに食べている、ふたりの姿を見守る昴。
そして、そんな彼の視線に気づいて。
「え? 昴さんが苦笑してる。食べ過ぎ?」
綾音はぱちりと瞳を瞬かせるけれど、でもすぐに笑んで返す。
「実は昴さんも屋台好きなんでしょ? 両手に持っているクレープとドーナッツは?」
「何気に昴さん両手にクレープとドーナッツもってるし!!」
何せ昴だって、何気にこっそり桜ドーナッツと桜クレープを買って食べているのだから。
それから彩綾の声に、綾音は頷きながらも続けて。
「意外と甘党なんだよね。昴さん」
「え、好きなんだね。意外」
自分を見つめる彩綾に、今度は昴が意外な表情を宿す。
「え? 甘いの好きの意外だったか? これでもいきつけのカフェあるんだ」
そう、綾音の言うように、昴はいきつけのカフェがある程度には甘党で。
スイーツと聞けば、お年頃の女の子が反応しないわけがないから。
「え? 美味しいスイーツ食べれるところ知ってるの? いつか連れていってね」
彩綾がお強請りするのは、そんなお出かけの約束。
そしてそう言いながらも、ソースの香りが食欲をそそるお好み焼きをはむり。
(「彩綾も幸せそうにお好み焼きをもぐもぐしてる」)
その姿を見れば、綾音もほっこりしちゃうから。
「お好み焼き美味しそう! りんごあめとチョコバナナ食べる?」
「あ、お姉ちゃんりんごあめありがとう。お好み焼き美味しい」
買ったものを仲良く分け合いっこして、一緒にほくほくもぐもぐ。
それから改めて、綾音はくるりと賑やかな屋台が並ぶ春の光景に視線を巡らせながらも思う。
(「育ったところはめちゃくちゃ閉鎖されていたから屋台なんか無縁だったしなあ」)
昴が彼女達をあたたかく見守っているのも、こんな屋台が並ぶ祭りに参加することが、ふたりにとっては物珍しくて新鮮なことを知っているから。
でもあまり馴染みはこれまでなくとも、知識としてはそこそこ知っているから。
選んだ飲み物は、やはりこれです!
「祭りでラムネ、憧れだった!!」
「お祭りの定番!! 憧れだった」
「桜ラムネか。3人で並んで飲もう」
そう、飲み物は3人で桜ラムネ!!
からんと桜が咲くビー玉を落とせば、しゅわしゅわと小気味良い音が耳に聞こえて。
口にしてみれば、弾ける炭酸が爽やかな、甘やかで憧れの味わい。
そんな桜ラムネを一緒に飲みながら、屋台の戦利品を美味しく口に運ぶ姉妹に、昴は思い出したように告げる。
「ああ、夜には姉さんが弁当持ってきてくれる。俺も手伝ったので楽しみにしてくれ」
「え? 夜には菫さんが手作りお弁当もってきてくれるんだ。楽しみだなあ」
そんな言葉に、綾音はさらにわくわく期待も膨らんで。
そしてそれは勿論、彩綾だって同じだから。
「え? 菫さんが夜に手作りお弁当持ってきてくれるの? 昴さんも手伝ったなら楽しみだなあ」
お手製弁当が食べられる夜の花見を心待ちにしつつも、今は昼の屋台を目一杯楽しみます!
はらりひらひら、薄紅色の花びらたちが舞う空は良く晴れていて。
麗らかな春の陽光が降る今日は、絶好のお出かけ日和。
そんな満開桜が咲く街を、皆で並んで歩きながら。
「目的は古妖の退治ですが、祭を楽しむのも任務の一環とか」
シイカ・メイリリィ(ジュール・ドゥ・ミュゲ・h01474)がそう、本日の目的を改めて口にすれば。
「お祭り楽しむのお仕事、だもんね? みんなで目一杯楽しんじゃおう」
「まずは祭をたっぷり楽しもな」
椿木・キサラ(未開の蕾・h02046)と鬼之瀬・玄(道楽一口話・h02765)も、こくりと大きく頷いて返す。
今日の目的は、人に危害を加える古妖の退治。
そのためにまずは、敵に気づかれぬよう現場に赴き、時が来るまで、一般人を装う必要があるというのだ。
ということで……今宵開催される桜祭りを楽しむことも、れっきとした任務なのです、ええ!
「花見だなんだは柄じゃねぇが……ま、たまにはいいだろう」
だからレヴィア・ルウォン(燃ゆるカルディア・h02793)も、そんなわくわく依頼に臨む皆と一緒にお花見を。
そしてお花見といえば、欠かせないのはやはりこれ。
「お嬢たちのお弁当も楽しみや」
玄の言うように、お花見弁当!
しかもキサラとシイカのお手製とあれば、尚のこと期待も高まるのだけれど。
でも、桜の祭り『春灯祭』が始まるのは、夜からだという。
だから、昼から花見もできるのだけれど、でもその前に。
「あっ! でも時間には遅れないでね!」
「では2時間後に公園集合です」
折角だからと立ち寄ってみることにするのは、公園の傍にある妖怪百貨店。
花見も控えているから、集合時間もきっちり決めて。
「今日はキサラとお弁当を作りましたので、時間厳守でお願いしますね」
「遅刻したら手作りお弁当なしだから!」
待ち合わせに遅れたら、お弁当なしです!?
ということで、集合時間まで、百貨店で男女わかれて自由行動。
キサラは桜とお揃いの色の髪を躍らせて、足を踏み入れた百貨店をくるりと見回せば、わくわくしちゃう。
「春は芽吹きの季節だもんね。花柄や淡い優しい色合いのお洋服多くて嬉しい!」
広いデパートもそう、春爛漫。
あれもこれも、気になるものでいっぱいだけど。
「ええ、たくさんお買い物しましょう。荷物持ちならお任せくださいね」
シイカはそう微笑んで返しながらも、キサラと共に向かうのは、ファッションフロア。
春らしいワンピースも可愛いし、花の様なフリルのトップスも人気のよう。
マネキンが着ている淡色コーディネートの一式も素敵なのだけれど。
「この時期は花柄の服が多くて素敵ですね。まだ冷える日がありますし、ニットカーディガンはいかがですか」
シイカが手に取ったのは、今の時期のおでかけにあると重宝するカーディガン。
それに実用性だけでなく、デザインも心惹かれる春がひらり。
「ほら、これは桜の透かしが入っていますよ。きっとキサラに似合います」
桜を思わせる彩を湛える彼女に、シイカがそうお勧めすれば。
選んで貰ったカーディガンに、キサラもルンルンで即決。
「桜の透かしがすごい気に入っちゃった!」
それから今度は、キサラがふと見つけて手に取る。
「ねぇ、シイカはこのストールとかどう? 桃と白のグラデーションが春っぽくてオシャレ!」
「えっ、私に、ですか?」
ふわり淡色の、春らしいストールを。
シイカはそんなキサラの声に、一瞬ぱちりと瞳を瞬かせるけれど。
「……キサラが選んでくれて嬉しいです」
「桜の刺繍も入ってるし、桜でお揃いだよ!」
瞳を細めれば桜咲くお揃いのそれを、ふたり一緒にお買い上げ。
それから次に向かうのは、やはり春をお洒落に彩る品々が並び咲くフロア。
「あとね私春コスメも気になってるの!」
そして春の限定色や桜咲くパケをくるりと見回して。
「ええ、桜コスメもお揃いで買いましょう」
「リップがいいかな、ネイルがいいかな」
あれもこれも可愛くて、どれにしようか目移りしちゃうけれど。
「ふふふ! 時間幾らあっても足りないね!」
でも、そうふたりで悩んで選ぶ時間も、とてもうきうき楽しいから。
そして――女性陣が買い物を目一杯満喫している、同じ頃。
「男とデートなんて趣味じゃないねんけど、仕方ないやんな」
「デート? こっちこそ金積まれてもお断りだ」
ふらりと百貨店内を歩く玄に返しつつ、レヴィアは視線を向けて。
「百貨店なんて何年振りやろ」
「玄、勝手にはぐれんじゃねぇぞ」
そう釘を刺しながらも、改めて並ぶ店々へと目を遣れば。
「一概にデパートつっても色々あるもんだな」
折角だから、ふと頭に思い浮かんだものを見てみることに。
そして玄もすかさず、お目当てのものを口にする。
「な~レヴィア~、僕久しぶりにお酒飲みたいんやけどぉ~」
久しぶり……というわりには、つい最近飲んでいた気がしないでもないが。
さらに甘えるように、こうもお強請りを。
「できればツマミになりそなホタルイカも食べたくてぇ~?」
けれどレヴィアは、そんな玄をチラ見して。
「……あ? 酒? 未成年いんだぞ、今回はやめとけ。大体花見の用意はキサラやシイカ達がしてんだろが」
ぶりっ子作戦、失敗のようです。
そして即却下されれば、今度はぷんすかしてみて。
「なんや! 僕がこんなに頼んどるのに!」
「お、この服悪くねぇな。素材も良いし桜柄で春感もあって丁度良い」
「お前さんずっと服ばっかり見て、そんなキャラじゃ……」
いつの間にお洒落に目覚めたのか、真剣に服を吟味しているレヴィアにそう言いつつも。
どうやら気に入ったらしい、彼が手にした服に視線を向けてみれば。
「……って、犬のかい!」
レヴィアが探してみるかと見ていたのはそう、家で留守番している犬の服。
そしてひとりツッコんでいる玄を置いて、レヴィアはレジへと足を向けて。
「もー知らん!」
「ちょっと一着買ってくるわ、……?」
会計を済ませるも、小さく首を傾ける。
「……アイツ何処行きやがった」
引き続きぷんすかしつつ、いつの間にか姿が見えなくなった玄に気づいて。
そんな彼は、近くにいた女の子を絶賛ナンパ中。
「な~今僕めっちゃ暇やねん。おもろい話あんねやけど聞いてくれへん?」
買い物目的で来ている子にそう声をかけた結果は、お察しであるのだけれど。
レヴィアはそんな玄を探しつつ、やって来たのはいわゆるデパ地下。
様々なグルメが並ぶフロアを散策しながらも、手土産にといくつか購入する。
女子達には桜餡の三色団子を、そして玄にはホタルイカの沖漬けを。
そして時計を確認すれば、そろそろ待ち合わせしている時間だから。
百貨店を出てきっちりと時間通りに集合場所へと赴くレヴィア。ええ、大人ですから。
女性陣も勿論、時間厳守でちゃんと戻ってきたのだけれど。
シイカは、最後にようやくやって来た彼の姿を見つければ。
「……さて、それでは鬼之瀬さん。遅刻した理由を教えてくださいますか」
向けるのは、いつも通りのいい笑顔……?
いえ――キサラを待たせるなんて言語道断です、と。
まんまと遅刻してきた玄へと向ける目と声は、全然笑っていません。
そんなシイカの笑顔に顔引き攣らせながらも。
「ち、ちゃうねん! 元はと言えばレヴィアが悪いんや!」
慌てて何だかんだ言いがかりをつけて誤魔化そうとする玄だけれど。
「知らねぇよ。勝手にテメェが迷子になったんだろ」
「……ゲンあれだけ言ったのに。大人でしょ、しっかりして! 次約束破ったら一週間事務所掃除の刑だからね!」
やはり作戦は即失敗、一番ダメな大人です。
だからもう、こうなったら。
「なんでや! やけ酒したるからな!」
そしてそもそも酒以前に、お手製弁当に果たしてありつけるのかすら危ぶまれている彼を後目に。
「ぐだぐだ言ってねぇでさっさと花見始めようぜ」
ひらり花弁たちが舞う中、皆で揃って向かうのは、桜が満開に咲いた賑やかな春の公園。
桜が満開の公園でこの日催されるのは、春の夜祭り。
でもまだ明るい昼の時間から、すでに公園の広場には屋台がずらり並んでいて。
夜の祭り本番を前に、日中の花見を楽しんでいる人で賑やか。
星詠みによれば、この祭りに古妖が潜んでいるのだというが、まだ事を起こす時間ではないし。
事件解決へと乗り出す前に敵に気づかれてしまっては、逃亡される恐れもあるから。
まずは現場に赴き、時間まで花見客を装う必要がある。
そして警察庁魔法少女課の面々も、このお祭り会場にすでに到着しているのだけれど。
まずはそれぞれ、分かれて行動することに。
戌亥・酉子(警察庁魔法少女課所属巡査・|魔法少女《プリマステラ》ガルディアーノ☆マルテ・h06171)は、そんな活気ある広場を歩きながら。
(「花より団子というわけではないですが、せっかくで店も出ている事ですし」)
……ということで、屋台巡りをします、と。
足を向ける屋台は勿論、お団子をはじめとした和菓子系の出店。
何せ酉子は、和菓子と昆布茶を一緒にほっこりといただくのが好きな、庶民的であるのだから。
(「お花見ということで、三色団子は欠かせませんし。桜餅もどちらのタイプも出ています」)
巡るのは専ら、和菓子系の出店ばかり。
けれど、花見団子や桜餅をただ買えばいいというものではない。
(「一口に三色団子と言っても、出店しているお店によって、味が違います」)
店によって団子の味わいや食感も異なるし。
何より桜餅は、道明寺と長明寺の二種類があって、人によって拘りや好みも様々だ。
評価レビューをつするもりはないのだけれど、和菓子好きとして。
酉子にも、どの店の味が好きかという判断は当然あったから。
試しに買って食べてみつつ、出店の和菓子を堪能して過ごしながら、気に入った和菓子を皆の分も購入してみる。
この後、夕方になれば、待ち合わせ場所で皆と合流することになっているから。
そしてカレン・スフィア・バンガード(警察庁魔法少女課所属巡査・|魔法少女《プリマステラ》ガルディアーノ☆セレス・h06175)も、同じように屋台を巡っていたのだけれど。
和菓子の屋台ばかり回っていた酉子とは違って、ふと散策中に足を止めたのは、子供に人気がありそうなお菓子系の出店。
しかもただ売っているだけではないようで、何だか盛り上がっていて。
ちょっぴり興味をひかれて、ひょこりと覗いてみれば。
「ソースせんべい……?」
屋台の暖簾にはそんな文字が書かれていて、さいころを転がすゲームみたいなことをしている模様。
というわけで、ルールを確認してみれば。
(「さいころを3つ振って表に書かれている目が出たら、通常の10枚よりも多くもらえるみたい」)
2つが同じ目だと50枚、3つの目が階段だと100枚。さらに全部同じ目だと、200枚ももらえるらしい。
そして1枚にソースか梅のジャムか練乳をお店の人が塗ってくれて、それを別の1枚で挟む……というもののようだ。
10枚でも皆でわけて食べられるし、ちょっとそわりと試してみたくなったから。
カレンはさいころを受け取って、いざ挑戦!
ころりと転がした結果は――。
「おお、2つが同じ目だったから50枚だね!」
なんと、50枚ゲット!
そして、中には何を塗るかい? と訊かれれば、練乳を選んで。
ソースせんべいならぬ練乳せんべいをほくほく抱えて、皆の元へ。
そんな単独行動をするメンバーが多い中、共に並んで歩いているのは、辰巳・未卯(警察庁魔法少女課所属巡査・|魔法少女《プリマステラ》ガルディアーノ☆ヴェネレ・h05895)とルナ・ナイト・イクリプス(警察庁魔法少女課所属(階級:嘱託)/ドワーフ。たまに露天商店主の野良冒険者・h05941)。
ふたりは同郷の親友だから、日中から一緒に行動しているのだ。
それからふたりで寄ってみるのは、未卯が見つけたひとつの出店。
「たこ焼きは、よく見かけるけど」
広場に出ていたのは、たい焼きの屋台。
ルナも未卯と並んで、屋台へと目を向ければ。
「わぁ。色んな種類がありますね!」
味のバリエーションの多さに、視線をきょろりと巡らせる。
定番のつぶあんやこしあん、カスタードは勿論のこと。
餡の中に白玉が入っているものだったり、クリームチーズの入っているもの、さらには。
「食事みたいな、たい焼きの型でお好み焼きを作ったようなものまであります」
そんな、定番から変わり種までたくさんの種類があるたい焼きを見つめるルナへと、未卯はひとつ買ってあげることにする。
魔法少女のフォームや仏器をルナが作ってくれているから、労いの意味も込めて。
そしてルナもそのお返しに、カスタードのたい焼きを未卯へとプレゼント。
ふたりでお互いのたい焼きを買い合って、仲良く交換こしたりして。
「あ、桜餡もあります。酉子ちゃんが好きそうじゃないですか?」
「確かに、好きそう」
和菓子が好きな酉子には桜餡のものを、勿論皆のものも人数分買っておくことにして。
外側はさくさくぱりぱり、中の餡はしっとり、見目も可愛い美味しいたい焼きをふたり抱えて、皆との待ち合わせ場所へ。
そして、聖・ライプニッツ・リーゼンフェルト(警察庁魔法少女課警部・|魔法少女《プリマステラ》ガルディアーノ☆アルタイル・h06154)は、見た目は7歳程度であるものの。
(「この√なら、外見の容姿と実年齢が一致しないなんてことも、ままありそうですけど……」)
そう思いながらも屋台広場を歩く彼女の年齢は、実はれっきとした成人。
警察庁魔法少女課の主任というポジションについているくらいであるが。
夕方以降もあるからと、お酒は自重する24歳。
いえ、酒類は今回は飲まないけれど……でも酒にぴったりな、焼き鳥やおでんやもつ煮は、すでに堪能済。
そして、それはそれとして、魔法少女課の他の娘達は未成年だから。
いくつかの屋台を見て回って、夜も開いている屋台の内、目ぼしい店があるかをチェック。
(「夜は冷える気がしますの。甘酒でしたら身体もあたたまりますし、未成年でも飲めるものもありますの」)
そうピックアップしておくのは、未成年でも飲める甘酒を提供している屋台。
だが甘酒といっても、アルコール入りのものだけだったり、アレンジしたものがあったり、店によって色々と違うから。
中でも、桜の塩漬けを使った『桜甘酒』を提供している屋台を見つければ。
アルコールではない、未成年が飲んでも問題ないものであることを抜かりなく確認しておく聖。
それから、夕方になれば、夜桜鑑賞の準備も終わった頃だろうから。
聖も、ひらり桜色に一面染められた景色の中、祭り本番の夜を迎えるその前に。
魔法少女課の皆と合流するべく、待ち合わせ場所へと向かうのだった。
あまり人が多かったり、騒がしかったりするのは、お互いに苦手だけれど。
訪れた妖怪百貨店をくるりと見回す、空廼・皓(春の歌・h04840)のお耳がぴこり。
「おおお……すごい。いろんなもの、売ってる……」
「百貨店……人が多いから、一人では中々来ないけど……壮観ね」
白椛・氷菜(雪涙・h04711)も隣でそわりと尻尾を揺らす彼の言葉に、こくりと頷く。
お出かけ日和のデパートは、確かに沢山の人が訪れてはいるのだけれど。
でも百貨店は大きくて広いから、意外とゆったりと見て回れそう。
だから氷菜は早速、皓へと今回の目的を改めて紡ぐ。
「じゃ、夜のお花見に備えて、一緒に買い物しよう?」
そんな声に、今度は皓がこっくり頷けば。
ぎゅうぎゅうではないにしろ人は多いし、迷子になりそうなくらいデパートは広いから。
「広いし人たくさん。迷子になると大変……」
そうきゅっと、迷子にならないよう、しっかりと氷菜の手を握る。
そして手を繋がれれば、氷菜はこう紡ぐ。
「……別に、雪女もどきでも春が苦手じゃないのよ」
皓はその声に、目を丸くして。
「じゃあ俺は狼もどき、だ」
「晧は狼もどき?」
楽しげにふりふり揺れる彼の尾を見れば、氷菜はそっと小さく笑っちゃう。
そんな百貨店内で、ふたりがまず足を向けたのは、花見には欠かせない美味しい物が色々と売っている催事場。
「晧はどうする? あっちはお弁当だし、向こうにパンも売ってたわよ」
でも、どこも色々あって迷うね……なんて。
ついあちこち目移りしてしまう氷菜と同じように。
「……俺?」
皓も、同じくじーっと見て。
ふと気になるお弁当を見つけたのだけれど、それを見つめたまま首を傾げる。
「……おこさまランチはおこさまじゃないと食べられない?」
一応、おこさまだけでなく、おとなでも普通に買えるようだけれど。
「お子様ランチも、器が可愛い……私はやめておくけども」
「可愛すぎる、ダメ?」
「年齢より、器がこう……可愛過ぎて」
「他にも楽しいの、あるかな」
氷菜の言葉を聞きながら、皓は更に不思議げに、改めて並ぶ花見弁当へと目を向けてみて。
ふいに目に飛び込んできたものに、今度は迷わず手を伸ばす。
「……俺これにする。妖怪花見弁当」
何だかゆる可愛かったり、妙にリアルだったり、何の具材なのか謎なものもあるけれど。
「晧のお弁当は面白いね」
「でしょ。それに普通に色々入って美味しそう」
味はお墨付きらしい、この世界ならではな、ちょっぴり摩訶不思議で愉快な、妖怪花見弁当。
そして氷菜に褒められれば、ご機嫌にぱたぱた尾を揺らして。
「……よし、春彩ちらし寿司にしよう」
「氷菜のちらし寿司きれい」
「後でお裾分けするわ」
その声を聞けば尚更……それも楽しみ、だな、って。
表情のかわりに、尻尾やお耳がわくわくぴこり。
でも美味しい物も爛漫だから、気になるものも、次々と見つけちゃって。
「メロンパンも美味しそう……」
「あっ……メロンパン。氷菜半分食べられる?」
「……ん-半分は多いかも」
「一口だけでも味見、しない?」
「うん、一口貰おうかな。飲み物もあるし、夜は屋台も見て回ろう」
おなかの具合を考えつつも、お花見に向けて、色々作戦会議を。
それからお花見に必要なものは大体買えて準備もばっちり、お祭りで買うものの目星もつけた後。
「あとは大丈夫?」
……お花見かかわらず欲しいものとか、と。そう皓に訊ねられれば。
氷菜がちらと視線を向けるのは、他の階の案内図。
「……実は桜のアイテム達も気になってて」
「雪女でも春っぽアイテム似合うと、思うな」
そう返されれば、やはりそわりとしちゃう氷菜。
「う……雑貨とか見たい、かも」
でも折角、普段余り足を運ぶことのない百貨店に来ているのだし。
それにまだ、窓の外に見えるのは、満開桜が映える青空。
祭りが始まる夜までは、時間もまだまだあるのだから。
こくっと頷いてから、皓は繋いだ彼女の手をそっと引いて歩き出す。
やっぱり楽し気に尾を揺らしながら、雑貨屋がある階へと一緒に……いいのあると、いいね、って。
眼前に広がるのは、思わず目を奪われるほどの魅力的な春。
でも今、ナギ・オルファンジア(Cc.m.f.Ns・h05496)がきょろきょろと見回しているのは。
「全部おいしそう!」
足を運んだ妖怪百貨店の催事場に満開に咲く、美味爛漫。
様々な種類がある花見弁当や季節のメニューにあれもこれも心惹かれるけれど、でも決めました!
「ナギは桜お稲荷さんにします」
「ナギ殿は桜稲荷を選ばれたか。何とも愛らしい」
「ね、可愛いよねぇ」
そうキュートで美味しそうな桜お稲荷さんを手にしつつ、彼の言葉に頷きながらも。
アダルヘルム・エーレンライヒ(砂塵に舞う・h05820)が選んだ弁当を見れば、瞳をぱちりと瞬かせるナギ。
「アダル君はそれ?」
「目移りするが、俺は妖怪花見弁当にしよう。味の想像は付かんが」
「妖怪弁当は普通のお味なのかな。個々のネーミングがすごいよ」
色々と個々の主張やインパクトが激しい、謎の妖怪弁当に。
いや一応、味はどれも美味しい……らしい。アダルヘルムも言うように、想像は、見た目からはできないけれど。
そして各々花見をしながら食べるものを調達し終えれば。
折角、様々な店が並ぶデパートに来ているのだから、買い物だって満喫するつもり。
ということで、次にやって来た、コスメフロアで。
「桜リップほしいなちょっと待ってて」
再び選択を迫られるナギ。
キュートな淡い桜色にするか、夜桜のようにクールな色にするか、はたまた青空に映えるような華やかな色味にするか。
ひとことに桜リップといっても、どの桜色にするか悩みまくってしまう。
でもまだ、祭りが始まる夜までは十分に時間の余裕もあるし。
「ゆっくりで構わんぞ?」
……俺も見たい品がある、と。
アダルヘルムも、コスメフロアに並ぶ品を見遣り、お目当てのものを探してみることに。
そんな彼の言葉は、ナギにとってちょっぴり予想外だったけれど。
「アダル君もメイク用品買うなんて意外だなぁ」
「傷痕に苛まれている|親友《ダチ》の土産になればと遊び心あるメンズ向け妖怪コンシーラーでも」
「なるほどお土産!」
そう聞けば納得。愉快な妖怪コンシーラーは、傷跡を楽しくカバーするのにきっと最適だから。
ということで、妖怪コンシーラーも無事に見つけて。
いざ、お会計――といきたいところだけれど。
「……リップは、に、2本買います」
いや、2本まで頑張って絞ったのだ。けれど、1本にはどうしても絞り切れずに。
「ナギ殿は選びきれんかったか」
そう苦笑するアダルヘルムの言う通り、選びきれなかったから。
ならばいっそと、2本お買い上げするナギ。だってどちらも限定色、仕方ないです、ええ。
そして戦利品を抱え、妖怪百貨店での買い物を存分に満喫すれば。
「満開すごいねぇ」
「見頃を迎えた桜は見事なものだ」
次にふたりが足を踏み入れたのは、満開に桜が咲き誇っている公園。
それから桜を眺めながらも早速、即ふたりが確保するのは勿論、花見酒です!
ナギは日本酒の桜舞を、アダルヘルムは桜ビール片手に。
酒の良い肴になりそうな春の景色が臨める特等席をばっちり確保して。
「おいし、桜きれい!」
桜花も美味も美酒も、全部目一杯満喫します!
それからはむりとお稲荷さんをひとつ摘まんで口に運びながらも、ナギは何気にちらり。
「妖怪弁当、生きてたりする?」
色々と気になるものが多い、アダルヘルムの妖怪弁当を覗き込んで。
「ああ、生きているし動いているぞ」
こくりと頷いてそんな冗句を返しつつ、ふと大きく首を傾けてみせながらも、アダルヘルムはこう続ける。
「ナギ殿の桜稲荷狐も1匹此方の弁当に遊びに出かけていないか?」
「お稲荷さん逃亡!?」
その声にハッとして、ナギは慌ててお稲荷さんの行方を確認してみれば。
お稲荷さんを攫った犯人と、こんな取引を。
「ぬりかべ蒟蒻を要求します」
「要求はぬりかべ蒟蒻か。良いだろう、交換といこう」
というわけで、桜お稲荷さん逃亡事件も、攫ったアダルヘルムと交換こで即、平和的解決。
でも、まだまだ油断ならないから。
ナギは今度は、こう彼に持ち掛けてみる。
「食いしんぼうな君はお弁当だけでは足りないのでは?」
……桜を見ながら屋台も見に行こうか、って。
そしてその声を聞けば、赤の瞳を細めてこたえるアダルヘルム。
「ふ、物足りんのはそちらも同じではないか?」
食いしん坊なのは、お互い様であるし。
それに何より、アダルヘルムが断る理由はひとつもないから。
「桜と屋台を見て回るか」
――折角のナギ殿からの誘いだ、と。
青空に映える桜を愛でながらも、ふたりで美しく楽しく、今度は屋台グルメに酔い痴れるつもり。
頬をくすぐる心地良い春風に大きな瞳を細めて、桜花弁たちと一緒に、躍る様にひらりら。
「わぁ、すっごい……。淡いピンクのお花がとってもかわいくて綺麗ー♪」
エアリィ・ウィンディア(精霊の娘・h00277)がやって来たのは、ぽかぽか小春日和の賑やかな公園。
空を見上げれば、はらはらと降る薄紅はまるで、雪のようでも星のようでもあるのだけれど。
寒い寒い冬の後の暖かい春の訪れを、ステラ・ノート(星の音の魔法使い・h02321)は改めて感じるのだ。
(「桜や様々な花が咲いて、たくさんの命目覚める音が聴こえて、なんだかわくわくしちゃう」)
思わず小さな歌を口遊んじゃうように、心も足取りも軽やかに。
そして一足先に、ひときわ大きな桜の木の下――まさにベストポジションにシートを敷いて。
春のぽかぽか陽気の中、ゆったりと皆の到着を待つのは、ルナ・ルーナ・オルフェア・ノクス・エル・セレナータ・ユグドラシル(星樹ホシトキの言葉紡ぐ妖精姫ハイエルフ・h02999)とアドリアン・ラモート(ひきこもりの吸血鬼・h02500)。
お昼寝マイスターいちおしの快眠枕・すやすや君を抱きしめて、桜が積もるのも構わずに早速うとうとしているアドリアンの隣で。
持ってきた桜茶を片手に、気になっていた漫画のページをぱらりめくりながら待っていれば、ルナはふと顔を上げて。
「あ、ルナさんだー。場所取りありがとー♪」
同時にやって来たエアリィとステラの姿を見つけ、顔を一瞬上げて手招いた後。
ひらりと降ってきて挟まった桜花弁の栞に瞳を細めてから、詠んでいた本を閉じる。
それから……皆の者の所に急がなきゃね★ と春の景色を駆けながら、最後に到着したのは。
「Yeah! 春だ★ 桜だ★ お花見だ〜!」
……満開に咲き誇り、花弁舞う綺麗な桜の季節がやってまいりましたぞ〜! って。
今日も元気満開な、ユナ・フォーティア(ドラゴン⭐︎ストリーマー・h01946)。
「Sorry! お弁当作ったら遅れちゃった!」
「駆けつけ一杯じゃないけど、桜茶をどうぞ」
ルナはやってきたみんなにも、ふわり春の香がする桜茶を振る舞って。
ほっこりとひと息ついて落ち着けば――ずらりとシートに各々並べていくのは、お花見の醍醐味!
「それじゃ、おなかがすいていると思うし、まずはお弁当タイムっ♪」
ちょうど時間もお昼時、おなかも気付けばぺこぺこだから。
満開桜の下、エアリィとステラ、ユナが持ってきてくれたお花見弁当を、いただきます!
ルナはそんな美味しそうに並ぶお弁当をくるりと見回して。
「3人は手作りのお弁当を持ってきてくれたんだ。うん、どれもとても美味しそうだね」
「ママと一緒に作ったよ。たくさんあるから、皆もどうぞ」
「ステラさんのお弁当おいしそう……。あたしもお母さんと一緒に作ったよー」
「エアやステラはママと一緒にお弁当を作ってきたんだね」
「みんな手作りなのか〜!」
きゃっきゃと弾む華やかな女の子たちの声に、アドリアンも春眠からちょっぴり覚醒して。
「……あれ、もうみんな揃ってる?」
「ラモート氏も、場所取りおつかれいしょーんず! ステラ氏のお弁当は……肉巻きおにぎりと卵焼きだー♡ エアリィ氏はほうれん草ソテーとタコさんウィンナーと唐揚げ!」
「肉巻きおにぎりと甘めの卵焼きは、自信作だよ」
「あたしのお弁当のおかずは、ほうれん草のソテーにたこさんウインナー。そして、ちょっと頑張った唐揚げだね」
「ユナね、角煮とハンバーグと肉じゃが! 皆の者で分けっこしよ★」
「角煮にハンバーグ……。ワイルドだぁ~。それじゃ、みんなでいただきますっ♪ ……ん、玉子焼き美味しいー♪」
外せない定番からガッツリ系まで揃った、彩りも春らしく鮮やかな多種多彩なお弁当を、楽しくわいわいいただいて。
そしてアドリアンも、皆が持ってきてくれたお弁当に舌鼓を打ちながら。
「皆と合流する前に予め屋台で買っておいたよ」
「ラモート氏は春っぽいドリンクと春スイーツですな! さっすが!」
抜かりなく用意して差し出すのは、春っぽいドリンク各種と皆で摘まめる春スイーツ。
「春のスイーツいいよね! きれいー♪」
エアリィの言うように、見上げる青空や淡く咲き誇る桜の色みたいな春スイーツにも、うきうきしちゃう。
それから勿論、花も美味しいものも、目一杯満喫すれば。
ステラはふと、ひらひら舞い降る桜花弁を見ながら、こう口にする。
「そう言えば、桜の花びらが地面に落ちる前に掴めると、願い事が叶う、って聞いたことがあるけれど」
――皆もやってみる? って。
そんな桜の逸話とお誘いに、皆も興味津々。
「桜の花弁を着地前に掴むと願い叶うって! これは楽しそうですな〜!」
「ふむ、舞い落ちる桜の花びらにそんなおまじないがあるんだ」
「へー、花弁をつかむと願い事が……」
そしてそう聞けば、勿論!
「せっかくだからやってみよー♪」
その話に乗っかって、皆でやってみることに!
アドリアンも皆と一緒にタイミングをうかがいながらも、お箸をしゃきんと構えて。
春風がふわりと吹いて、桜吹雪がひらひらたくさん舞ったタイミングで――レッツチャレンジ!
「って空飛んじゃ……ダメだよね?」
ユナはそう翼は使わずに、降って来た花弁へと張り切って手を伸ばしてみるけれど。
――ズザーッ。
「転んだ〜……掴みづらいね〜……」
桜色に染まった花弁の絨毯に、勢い余ってダイブ!?
エアリィも気合を入れて、ここは心眼……第六感を信じて――。
「えいっ!! ……むずかしいー!」
「……む。むむむ。風に乗って、ひらひら、ふわりと舞う花弁は、結構、掴み、にくい……っ」
話を持ち掛けたステラも、思いのほか難しくて、皆と一緒に大苦戦。
ルナも目の前にひらひら降ってきた花弁へと手を伸ばしてみるも。
「よっと……うん、これは中々難しいね」
指の間を巧みにするりとすり抜けるひとひら。
それからアドリアンも、満を持して。
「闇よ、全てを飲み込む王となれ。我が影を纏い、破滅と栄光の力を示せ――Umbra Dominus!」
影を纏い、自身の移動速度を3倍に強化して、威力2倍の|得物《お箸》を繰り出します……!?
そして、その結果はというと。
「あちゃー、流石にお箸で掴むのは無理だったや。願い事叶えたかったなーー」
|見事《わざと》、チャレンジ失敗です。
そんな追いかけっこするようにくるくるひらひら、手練れの√能力者たちでさえ翻弄する桜花弁たちだけれど。
追いかけてはつかまえ損ねて、声を上げては笑って、皆もくるくるひらひら。
「えへへ、皆の者と花見楽しむ配信撮れた〜!」
「ん、楽しいひと時、だね♪」
花弁をゲットするのはなかなか難しいけれど、でも、ユナの声にエアリィもそう頷いて。
ステラも、まるで桜の魔法にかかったみたいな、ぽかぽかな心地になりながらも。
(「なんだか、皆と一緒に花弁と遊んでいるみたいで楽しくなってきちゃう」)
そう瞳を細めればー―ひらり。
星唄いの帽子にぴとりとくっついた、ひとひらに気づいて。
そっと手に取れば、心に紡ぐのは、こんな春の魔法のおまじない――皆の願い事が、叶うといいな、って。
訪れた公園を染め上げるのは、晴れ渡る春空からひらりと絶え間なく降る桜の彩り。
今日は桜も満開の見ごろ、天気も良く陽光も心地良い、絶好の花見日和。
「満開の桜、とてもきれいです」
そう春空を見上げるガザミ・ロクモン(葬河の渡し・h02950)がわくわく心躍らせるのは、眼前に咲く桜の花が綺麗だと思うことも勿論のこと。
何よりも、気の置けない友人達との花見散策が、とても楽しみだから。
そして今回訪れたのは√妖怪百鬼夜行、色々な妖怪がいるとは聞いてはいるけれど。
神来社・紬(月神憑きの仔兎使い・h04416)は、桜の景色に雰囲気もぴったりな和風にアレンジの制服の裾をひらり。
「わぁ、綺麗に咲いてる〜。花咲か妖怪? っているんだね。童話みたい」
美しい桜を満開に咲かせたという、花咲か妖怪とやらにちょっぴり興味を抱きつつも、皆と共に桜色いっぱいの春の風景を歩いて。
一面の桜爛漫に大層上機嫌なのは、ウィズ・ザー(闇蜥蜴・h01379)。
「春の陽気に暖かい空気。穏やかながら賑やかな声に美味いメシ。これぞ春だな。いやー、花と若葉の匂いも良いねェ〜♪」
花見のお出かけということで、今日の彼の装いはカジュアル寄りの私服。
そんなウィズの言うように、ぽかぽか陽気に吹く風が運んでくるのは、花たちの香であったり……それに、食欲をそそる美味しそうな匂い。
万菖・きり(脳筋付喪神・h03471)も、やって来た公園の広場に並ぶ屋台へと、きょろり視線を巡らせて。
「いろいろありますね……どうします??」
食べることがライフワークで特に甘い物が好きな彼女が探してみるのはやはり、春スイーツの屋台。
春らしい甘い物各種に、屋台飯や飲み物だって、目移りするほどたくさん売っているけれど。
ふわりと桜が舞い散る中、神鳥・アイカ(邪霊を殴り祓う系・h01875)は、活気があっていいね♪ なんて。
既にたくさん購入した戦利品――花弁が浮いた「|桜舞《さくらまい》」のカップ酒を早速飲みながらも、祭り会場をぶらぶらと巡って。
「最近、ロクでもないことが多すぎたし、たまには良いよね? たまには~ねぇ~」
いえ、何時もと変わらないだろなんていうツッコミは野暮です、ええ。
そしてアイカが嬉々と「|桜舞《さくらまい》」をまたひとくち、飲んでは味わう中。
紬も、屋台並ぶ広場を歩いている途中で見つけた飲み物を買ってみる。
思わず目を奪われた、桜空の苺ラムネを。
それからガザミは、何だか自分を見つめる誰かの視線を感じる気がして。
ふとその方向を見れば、ぱちりと目が合う。
そう――露店のお花見猫さん団子と、コンニチワ。
でも、じいと見つめてくるお団子猫さんたちを見つめ返せば、おもむろに首をふるり。
「わぁ、……かわい過ぎて食べるの無理ぃ」
「あ、ちょっと向こうでドーナツ買ってきます!!」
色々と葛藤しているガザミを後目に、きりはまずはドーナツが売っている屋台へと早速足を運んで。
ぐっとこう心に決める――せっかくなのでお花見スイーツはできるだけ買いたい、って。
ということで、春らしいドーナツを沢山購入した後。
さらに気づけばソフトクリームに加えて沢山の袋が……!?
いや、あれもこれも美味しそうであったから、つまるところ。
(「買いすぎた!!」)
かなり買い込んでしまいました、荷物が歩いているかと思ってしまうくらい盛り盛りに。
それからきりは何とか、両手いっぱいに抱える戦利品の隙間から周囲を見回してみれば。
「えーっと、みんなどこだろ。あ、ウィズさん見つけた!!」
ウィズを発見、彼もきりに気づいて。
「確かに見えねェが"解る"からな。よし俺も買うかねェ」
まず購入したのは、桜チップでスモークされた鶏脚を丸ごと。良い色に燻されたそれは、仄かに桜が薫る絶品。
さらには、カマンベールチーズ、ゆで卵にサラミ、魚の切り身と――芳ばしい香りが食欲をそそる、春薫る燻製グルメをいっぱい買い込んでから。
見つけるのは、団子屋台の店先でひたすらじいと見つめるガザミ。
それからウィズは無言でイイ笑顔を浮かべてから、猫さん団子を買って。
「だって、中々見ないメニューだぜ? 折角だしな」
そう、ガザミと交換こ。買った団子の猫さんたちと、彼がひとまず確保したお花見団子を。
そしてさらに手渡されたお団子をじっとガザミは見つめながら、ぽつりとひとこと。
「……食べろと?」
もっと悩ましくなっちゃいます。
そして日本酒を口にしながらも歩いていたアイカは、刹那思わず大きく瞳を瞬かせる。
「「袋お化け」!? じゃないキリちゃんを発見」
それからその袋お化けの正体がきりとわかれば、器用にカップ酒を口に咥えながら。
「アイカさん大丈夫ですっ。自分で持てます」
何個か彼女が抱える袋を預かって、一緒に屋台を巡ることに。
最初は遠慮してきりだけれど、でも、どこからどう見ても「袋お化け」状態であったから。
「えーっと、ありがとうございます!!」
素直にアイカの厚意に甘えることにしてから。
「あ、あそこの屋台でお花見あんみつ買ってきます!! あと、そこの屋台でわた飴と、チョコバナナとりんご飴も!!」
「て、どんだけ買うの!?」
「ん? きりちゃん? ……すごい量持ってるね」
まだ甘い物を買う気満々な様子にアイカが声を上げれば、桜空ラムネを飲みながら屋台巡りをしていた紬も「袋お化け」なきりにぱちりと瞳を瞬かせて。
きりご所望の甘い物系の屋台へと一緒に赴けば。
「よく似てるね~妹さん可愛いね? サービスしとくね」
アイカへとそう声を向けた屋台のおじさんが、多めにサービスしてくれました!
勿論それを受け取るアイカは、貰えるものは下町貰うスタイルであるし。
きりはきりで、かわいいとか言われ慣れてないから、きょろりと周囲を見たり挙動不審になっちゃいます。
そうこう各々で屋台巡りをしていたのが、いつの間にやら、他の仲間とも合流してワイワイ。
「ウィズっちの燻製美味しそー」
「喰いたきゃ摘んでくれ?」
紬の言葉に、ウィズが皆にも購入した燻製グルメを差し出せば、ガザミもお言葉に甘えてひとつ摘まんでみて。
「いただきます、んっ!?」
はむりと口にすれば何故か、3秒停止……?
いや、だって、貰った燻製が驚くほどに美味しくて。
それから我に返れば、何気にまだ食べられずにいた猫さん団子を改めて見つめて。
「……かわい過ぎて、やっぱり食べるの無理ぃ」
思わずまたそう、悩みのループに陥ろうとしたのだけれど。
彼の声を聞いたきりは、ひとつ猫さん団子をお裾分けして貰った後。
「確かに猫さん団子かわいいですねっ!!」
――パクッ。
全く気にせず口に運べば、うんうんと頷いてから、うまい!! っていう顔。
「……きりさん、美味しそうに食べてる」
ガザミはそんな彼女の様子を見てから。
「猫さん、食べない方がかわいそうですよね」
改めて猫さん団子と見つめ合い、食べてあげることが猫さんのためだと決意を。
けれど、食べるのは――桜花と猫さん団子を並べた写真を撮ってから。
ウィズは、ぱしゃりと撮影するその様子にほっこりしつつも。
「万菖はブレ無ェなァ」
猫さんを躊躇なく美味しくいただいたきりのブレなさにそう紡いで。
桜咲く中、ちょこりと並んだ猫さん団子を紬も見つめて。
「ガザミんの買った猫さんのお団子もいいな! 可愛い過ぎて写真撮りたくなるね」
写真を撮り終われば……美味しくいただきました。
それからガザミは、焼きトウモロコシに焼き鳥にイカ焼きと、屋台を梯子して。
「こちらも、どうぞ、召し上がれ」
……ホント、芳ばしい香りには抗えませんねぇ、とほくほく。
そして甘辛いものを食べていれば、喉も乾くから。
「桜ラムネ要るか? 日本酒のノンアルも欲しい所だァな〜」
ウィズは皆に尋ねつつ買い渡して、自分もしゅわりと夜空グレープで流し込みながら。
何杯目かわからないカップ酒を嬉々と口に運ぶアイカへと目を向けて。
「私も桜色の可愛いクレープ買ったよ! 飾り付け凝ってるんだよね〜」
紬は華やかで可愛い映えるクレープを皆にも見せつつも、こう提案を。
「それに筍焼いたやつも買ったよ! 買ったものを分け合いっ子しない?」
「紬さん、分け合いっこしましょう!! わたしのおすすめは桜空金平糖です!!」
それから楽しく美味しく、分け合いっこの交換こを皆でし合って、屋台グルメをシェアしながらも。
「あと差し入れあるんだお母さんから。だし巻き卵だよ!」
さらに紬が続いて取り出すのは、持参したお母さん特製のだし巻き卵。
「みんなと一緒ならおつまみ兼おかずが必要じゃない? って用意してくれたんだ。もち多めにあるからね!」
「お、ありがとうよォ♪」
「卵焼きのやさしい甘さがうれしい」
それも皆で摘まみながら、花も団子も存分に満喫して。
楽しそうな声がそこかしこから聞こえる春に、ガザミも笑みを咲かせる。
「静かなのもいいですが、賑やかなのもいいですね~」
「やっぱ祭りは最高♪」
そしてアイカは、カップにひらり降ってきて浮かんだひとひらを眺めながらも。
もう少し皆と一緒に、楽しい春に酔い痴れることにする――ずっとこんな時間が続けばいいなぁ、って。
柔らかな春の陽光と花弁たちがひらり降る中、見上げる空に咲くのは薄紅の花。
「桜満開! 春だぁ!」
戀ヶ仲・くるり(Rolling days・h01025)がそう声を弾ませるのは、春のお出かけにわくわくしているから。
それと、もうひとつ。
(「ゆっくりと誰かと連れ添う花見は初めてかもしれない」)
(「人とお花見なんて初めて」)
共に歩く夜鷹・芥(stray・h00864)と可惜夜・縡(咎紅・h05587)の姿を見れば、ほっこりと咲く笑み。
どこか足取りのふわふわした2人に……楽しいならよかった、と。
そして、出店の賑やかな雰囲気と合わせてドキドキしている縡へと、芥が声を掛ければ。
「何処か高鳴って仕舞うのは縡の様子に同じだな」
「夜鷹さんも、ですか?」
彼とお揃いだという、ふわり咲く心地に、縡は思う。
……これは桜のせい、それとも笑ってくれる人がいるからかな、なんて。
それから桜の風景をわくわくそわりと歩いて、3人がやって来たのは公園の広場。
「屋台も賑わってんな」
「出店のワクワクする感じが好きなんだよねぇ……お祭りならでは!」
沢山広場に並ぶ屋台からは、美味しそうな匂いが漂ってくるから。
「夜のために買い出しがてら何か探してみるか」
夜ごはんの調達もあるし、良い匂いに誘われるように、屋台を巡ってみることに。
それからくるりは、ふと見つけた屋台へと足を向けて。
「縡ちゃん顔色白過ぎるからまず食べて欲しいはいお団子あーん!」
縡の口元へとずいっと、息継ぎする間もない勢いで、買ったお団子を差し出して。
眼前のお団子に目を白黒させつつも、縡はそろりと、小さく開けた口でぱくり。
もぐもぐ味わってみれば、ほわほわ。
「……お、美味しいです!」
口の中の甘い気遣いと美味しさに、胸と頬が温かくなって。
「おいしい? よかったぁ」
色付く顔に、くるりも笑みを浮かべる。
そして、早速団子を見つけた、そんな女子二人の光景を後方から眺めながら。
「好きなものを食えよ」
そうこくりと頷いて見守る芥の言動は……お父さん?
いえ、つい保護者目線になってしまうも。
くるりは今度は、彼にも視線を向けて。
「……芥さんもですよ。今日何か食べてます?」
そう訊かれれば、ふと考えてみた後に、芥はこたえる。
「――俺? そういや朝から食ってない」
「ない?」
……ということで!
「食べて!!」
再びずいっと、今度は芥にくるりが握らせるのは、キュートで美味しそうなお花見猫さん団子。
縡も、ほわほわな気恥ずかしさを誤魔化す様に。
こくこく彼女に同調するように頷いて促す――夜鷹さんも、と。
そんな向けられる視線ふたつに、ハイ、と。
素直に猫団子をはむっと齧ってみれば、芥は相変わらず表情筋はお留守ではあるものの、瞳を小さくぱちり。
「これは桜味か、美味い」
見目が可愛いだけでなく、春の優しい美味しさに。
そして、そんな春スイーツも沢山満喫するつもりだけれど。
「夜のご飯も買わなきゃ〜」
くるりは改めて、屋台へと目を向けてみるも。
「夜飯は百貨店の妖怪弁当面白そうだから、最後に見に行きてーかなって」
「屋台にもご飯はたくさんありますけど、百貨店のお弁当もあるんですね。どんな中身なんだろう……」
「中身面白そうだぜ」
「百貨店にそんなものが!? 行かねば!」
芥の言う百貨店の妖怪弁当とやらに、縡と一緒に興味津々。
それから、きょろりと見回していたくるりの瞳に刹那、飛び込んできたのは。
「あ、あのラムネ綺麗! 空の色と桜色!」
春の空色を纏う瓶にしゅわり弾ける、桜ラムネ。
ラムネといえば、お祭りの定番でもあるし。
「へえ、くるり良いもの見つけたな。綺麗なラムネだ」
「……わ、本当だ、桜の模様のビー玉が入ってますよ。可愛い……」
「……本当だぁ! 桜のビー玉入ってる、かわいい!」
からんと音を鳴らすビー玉に咲くのは、桜の花。
そして芥は、やっぱり保護者感を醸しながらも、屋台へと足を向けて。
「店主、ラムネ三本貰えるか?」
「え! 買ってくれるんですか? 流石所長!」
「夜鷹さん、ありがとうございます……!」
それから、ではどの空色にするかを、告げなければいけないのだけれど。
「どれにしよう……選べないよぉ……おじさん、おすすめひとつ!」
「私も色を迷ってしまって、お任せしようかな」
そんなくるりと縡の声に、芥も頷いて注文する。
……どの空色かは決めて貰おう、って。
そしてそれぞれ手渡されたラムネは、くるりと縡は桜空苺サイダー、芥には青空ソーダ。
その彩りは、そう――見上げる今の空と桜のいろ。
それから、ぽんっとビー玉を落とせば、からから、しゅわり。
耳に聞こえる音たちや爽やかな味わいを存分に堪能しながらも。
「桜ビー玉は土産にしようか」
芥のそんな提案に、勿論ふたりも大賛成。
瓶の中に咲く桜を鳴らしては見つめれば、縡は改めて頷いて返す。
……花が散っても残せる想い出に、大事にとっておきたいです、って。
満開に咲き誇っているという桜も、勿論楽しみだけれど。
「おべんと、どれも食べたくて迷うんよ」
八卜・邏傳(ハトでなし・h00142)がそわりと見つめる先に咲くのは、美味爛漫。
翊・千羽(コントレイル・h00734)も、くるりと視線を巡らせながら。
「お花見弁当ってはじめて食べる」
ちょっぴり豪華な感じがする弁当箱には何が入っているのか、覗いてみたくなるけれど。
「中はあけてからのお楽しみ? なんだか、玉手箱みたい」
「玉手箱? 確かに! 何入ってるかワクワクすんねー!」
「俺も俺も、何入っているかわくわくだ」
邏傳の言葉に、ハイデ・ロビカ(荒野のクーリエ・h05520)もこくこく頷く。
だって……花見も楽しみだけど、見ながら食う飯も格別だろうし、ってそう思うから。
でも玉手箱ならば、時が来るまで、あけちゃうわけにはいかないから。
わくわくそわそわ、どうせなら一番玉手箱っぽいお花見弁当を買ってみて。
「喜んでくれるお土産……」
「みんなのお土産、どんなのがよいだろ」
花見を楽しむその前に、皆にも春をお裾分けしたいから、お土産を探してみることに。
訪れた百貨店も桜や春の彩りが満開で、あれもこれもと悩んでしまうけれど。
邏傳がふわりと誘われたのは、淡い桜の香。
「このメモ帳ほんのり桜の香りするんだ? 面白いね〜」
「ほんとだ、邏傳。メモ、いい香りがする」
それからふと手を伸ばした千羽に、邏傳は気づいて。
「お、千羽ちゃん良いの見つかった?」
「うん、みてみて。桜の栞にキーホルダー」
「え〜栞もキーホルダーもすんごい可愛い!」
「オレも欲しくなっちゃった」
選んでいる自分達も、つい欲しくなっちゃう。
ハイデも、ふたりが手にした桜に瞳を細めて。
「千羽も邏傳も流石のセンス!」
ふたりのセンスの良さに、やはりどれも素敵で決められないけれど。
でも――悩んだ時の一番の解決法はそう、これです!
「栞にメモ帳、キーホルダー。まとめて春の文房具セットだ」
……決めらんないし全部お揃いで買っちゃうか、と。
そんなハイデの名案に、千羽は感心したようにすぐに頷いて返して。
「ハイデ、天才的発想……! 春の文房具セットで、お揃いしたい」
「お揃い!? 良いね! 大賛成〜♡」
邏傳も勿論、大賛成!
そうと決まれば、ハイデは改めて視線を巡らせてみて。
「そうだな、皆へのお土産も買おう。こっちのカンテラは桜花の意匠が綺麗だ」
「なんて綺麗なカンテラちゃん。ハイデちゃんセンス良すぎっ」
「カンテラ、綺麗」
手にして皆で眺めるのは、桜花の意匠のカンテラ。
ハイデはそれから、これを選んだ理由をこう紡ぐ。
「夜の傍に置いてさ。皆で星を見たり、できたら嬉しい」
「あの森で、お花見の次は星見会?」
「みんなで星見会ステキじゃんね」
今日の空は桜花弁が舞い降っているけれど、今度は星が降る夜を眺めるのもまた心躍るに違いないし。
このカンテラを灯せば、星と一緒に、桜だってキラキラ、一緒に楽しめるのだから。
それから楽しく悩んで、うきうき買い物を終えれば。
「桜いっぱい咲いてるの壮観ね〜。うきうきしてきちゃう!」
「晴れた空の陽を浴びる桜、生き生きとしてるな」
やって来たのは、桜が満開に咲いた公園。
邏傳とハイデのそんな声を聞きながら、千羽はそっと手を伸ばして。
桜――満開だ、って。
両手を広げ、青空を見ようと……した、その瞬間。
「わ――危ない、危ない」
弁当を落としかけるも、間一髪でキャッチ。
そんな千羽の姿を見れば、ハイデも思わず頷いてしまう。
両手一杯抱きしめたくなる気持ち、分かる気がする、と。
いや……こうやって桜を眺めて歩くのも、勿論とても楽しいのだけれど。
「そしてお弁当! 待ってましたぁ♡」
「お腹、ぐうぐう言ってる」
「はは! 俺も丁度弁当のこと考えてた」
そろそろ、お腹の虫も催促していることだし。
美味しい玉手箱をあけてもいいだろう、わくわくな時間。
「場所この辺りにするか」
ハイデはそう、良い感じの場所を見つけて、ふたりと共に腰をおろして。
いざ、お花見弁当を御開帳!
「! お弁当の中も、桜満開でかわいい」
「へぇ、ほんとだ、桜だ! 可愛いな」
蓋を開けば、ぎゅっと詰まった美味も、桜でいっぱい。
早速手をあわせて、いただきます!
それから千羽は、ふと訊いてみる。
「ふたりはどれが好き?」
「お気に入りのおかず?」
「オレはこの桜色の玉子焼きが好みでした」
「その玉子焼き、ほんと可愛ぇね〜」
千羽が気に入ったのは、桜のいろをした甘やかな玉子焼き。
そして、邏傳とハイデが推すのは。
「俺はこの桜の生麩? てやつ。おいしい」
「生麩、ふわふわだ」
「俺は彩たっぷりの具材乗ってるこれ、んまい」
「いなりちゃんも美味そうなん」
「いなり寿司、オレも食べたいな」
桜の生麩に、桜お稲荷さん。
でもどれも可愛いし、美味しいし、おなかも満足……と言いたいところだけれど。
「ね、やっぱお花見猫さん団子も食べたいや!」
「美味しいもの巡りデザートの陣だな」
屋台で売っていた、お花見猫さん団子も実はすごく気になっていたから。
今度は別腹のデザートを求めて、いざ!
「よーし、食べ尽くしー♡」
「賛成! 行こう行こう」
「買いに行こう、お団子」
そわそわ逸るように、お花見猫さんを求めて、団子屋台へ。
いや、猫さん団子も、桜のソーダも、他にもあればいくらでも――まだまだ桜咲く春を目一杯、今日は楽しみまくるつもり。
くるりと季節は巡って、これが何度目の春かなんて、とうに数えてはないのだけれど。
「もうすっかり桜の季節だねー」
でも彩音・レント(響奏絢爛・h00166)は早速、今年の桜の季節にひとつ、新しい発見をする。
「桜、きれいだよね。だいすきなの!」
「桜が好きなのは初耳だよ!」
わくわくしている隣の萃神・むい(まもりがみ・h05270)が、桜がだいすきだということを。
そしてそんな桜が今、満開に咲いて見頃であると聞いたから。
春を彩る薄紅の花を愛でながらお花見を楽しむ……のも、勿論なのだけれど。
本物の桜を見にいく前に、まずは百貨店で一緒にお買い物をすることに。
そんなデパートも今は春のいろで爛漫で。
「桜のグッズも沢山あるらしいよー?」
「桜のグッズ? たくさんあるんだったら悩んじゃいそうなの」
桜が大好きだと言っていたむいに、レントはさらに訊いてみる。
「むいちゃんはどんなものが好きかなー?」
「きれいなものも、かわいいものも好きだよ」
そうお喋りも楽しみながら、くるりとふたりで色々なお店を見て回ってみて。
気にいるものを探しつつ、やって来たのはアクセサリーフロア。
そんなフロア内は、むいが好きだと言っていた、桜も、きれいも、かわいいも、いっぱいで。
レントの赤い瞳が見つけたのは、しゃらり桜が並び咲く円環。
「これとかむいちゃんに似合いそう!」
目に留まったのは、可愛くて綺麗な桜が咲いたブレスレット。
むいも青い瞳に勧められた桜を咲かせれば、春の陽気のように心がほわほわ。
だって、レントが選んでくれた桜のブレスレットが、とてもかわいくて。
でもむいは彼に、もっとうれしい気持ちになるお強請りを。
「せっかくだし、むい、レントといっしょがいいな。レントのも選ぼう?」
「僕のも? そういえば水族館の時もお揃いにしたよね」
そしてレントはまたひとつ、友達の好きを知る。
「むいちゃんは一緒が好きなんだね」
「お揃いはうれしい気持ちになるから好き」
水族館では、海の中に雪が舞うお揃いだったけれど。
今日は、春に桜が咲いたお揃い。
「これなら僕でもつけられるかな?」
レントが選んだのは、むいに勧めた淡い桜色のブレスレットと同じデザインの、シルバーのもの。
むいはそんなレントが選んだブレスレットを見れば、にこにこしちゃう。
だって、桜色も似合いそうだけど。
「似合うね!」
シルバーはもっと似合っているって、そう思ったから。
それからレントは、むいがお揃いが好きだというのが、わかった気がする。
「同じものを持っているって特別仲良し! って感じがするかも!」
「えへへ。特別仲良しな証。うれしいな」
お互いにつけてあげたり、くるりブレスレットを巻いた腕を並べてみたり、鏡に映してみたりしながら。
仲良しの証がまたひとつ増えて、顔を見合わせては、ふわほわ笑みも満開に咲いちゃうし。
「冬の子なむいちゃんだけど春色も似合って可愛いね」
「ほんと? かわいい色でドキドキしたけど。似合ってるならよかったの!」
お互いよく似合っている桜を買って早速、お揃いで手首に咲かせて――たのしい思い出と一緒に、うれしい春を連れて帰る。
お子のそわそわした姿を見れば、目・魄(❄️・h00181)はすぐにこう察する。
……何処かで聞いてきたようだ、って。
でも、魄にとっても、お出かけしない手はないと思うのだ――喜ぶ顔を見れるなら、と。
そして、目・草(目・魄のAnkerの義子供・h00776)が聞いてきた『春灯祭』は、花咲か妖怪たちが満開に咲かせた桜のお祭りだという。
人の子だけれど、妖怪が好きな草にとって、妖怪が咲かせた桜というのにも興味も津々だし。
(「お家にも|桜の木《妖怪桜》は在るけど、たくさんの桜を見るの楽しみ」)
この時期になれば毎年、八百万屋敷にも|桜の木《妖怪桜》が迷い込んでくる。
今年もきっと気紛れにさわさわと枝を揺らしては、願いが叶う桜の花弁をくれることもあるかもしれない。
でもそんな|桜の木《妖怪桜》とはまた違う、数え切れないほどいっぱいの桜というものを見てみてみたいと、草は魄を春のお出かけに誘ったわけで。
だから、小さくも元気が良いお子のことだ。
「草、走って迷子にならない様に手は繋いでおこうね」
桜に攫われて迷子にならぬよう、小さなその手を取って。
満開桜の彩りの中を並んで歩いてみる。
そして魄は正解だったと、改めて思う。
「花見って聞いてたけど、それだけじゃなくてお店も一杯」
そわそわ視線を巡らせるお子は逸るように彼方此方、手を繋いでなければ、今にも駆け出しそうな様子だから。
それから、何が良いって聞いてみれば、より一層きょろりと。
(「どれもめうつりしちゃう」)
興味を擽るものもいっぱいで、草はわくわくしちゃうし。
魄だって分かるのだ、お子が落ち着きないのも。
だって、魄も思うから。
(「俺もこの雰囲気は嫌いじゃない」)
むしろ、珍しい物から季節限定の物など、喉から手が出そうな物はたくさんあるのだ。
けれど魄が優先するのは、お子の目指すもの。
魄が巡る店で一番手にしたいのは、草が欲しいと思うもの。
だがそれが何であるかは、この時の魄は、まだ知らない。
何せ、ちょっと目を離した隙に何か買っていたようだということしかわからなかったから。
そして草が、こっそりと探しているのは。
(「魄に似合いそうな桜のイヤリングを贈りたいなって思ってて」)
でもうまく、魄が見ていない隙に店に足を運んだものの。
色々なものがずらりとたくさん並んでいて。
(「悩むな……こっそり、お店の人に聞いちゃおう」)
手招いた妖怪店主と、そうっと内緒話を。
「なにがいい? どれが合うかな? おそろいもいいなって」
草のおこずかいで買えるのはどれかな……って、握りしめた駄賃程度を見せてみたりしながら。
そして見繕って貰ったのは、猫と桜が戯れるように揺れるイヤリング。
ちょっぴりおまけして貰えたから、お揃いのチャームも自分用に買えて。
包んで貰ったところを間一髪、魄に見つけられる。
それから何を買ったのか聞かれるも――勿論それは、まだ秘密。
(「秘密と言われたら、仕方ないね」)
魄もそう言われれば、それ以上は聞かないことにして。
桜咲くひとときを堪能すれば、そろそろ帰る時間に。
でも、そんな帰りもそわそわ何気に気になって、落ち着かないのだけれど。
お子を抱えて、帰路に着くことに。
そんな草は、やはり何だかそわそわ落ち着かない様子で。
だがそれもそのはず、密かに彼は決めているのだから。
(「帰り道に、魄に渡すんだ」)
――いつもありがとうって、と。
とはいえ、嬉しいし恥ずかしいから。
抱き上げて貰えば、ぎゅって抱き着いて、一緒にお家に帰ることに。
そして魄が知るのは、もうすぐ。
何にも代えがたい宝物になる、沢山遊び疲れたお子の、最大限の贈り物のことを。
麗らかな春の陽光が降る空も、一面の桜色に染まっていて。
そんな春の風景は確かに、とても美しいのだけれど。
(「ああ、幸せで溶けてしまいそう……」)
ライラ・カメリア(白椿・h06574)が目を奪われているのは、そう。
――暖かな春の陽光! その下で輝く満開の桜と俺!
「今日は目一杯楽しむ心算だ」
そう何よりも輝く、完全無欠の魔王様・皮崎・帝凪(Energeia・h05616)の姿である。
いや、ただでさえ、その御姿は輝いていて眩しいというのに。
「ライラ、遅れずに着いてくるのだぞ!」
そんな言葉と同時に――ぱちーん、と。
ライラに向けられたのは、星が出そうなウインク!
そしてそれを見れば、思わずくらり。
(「き、今日のわたし一日保つかしら……!?」)
不意のウインクに真っ赤になって、尊さによろめいてしまうライラ。
推しとの春のお出かけはまだ始まったばかりだというのに、もう情緒が極まってしまいそうだ。
けれど、ダイナ様と過ごすひとときをライラは目一杯堪能したいし、何よりも楽しんでいただきたいって思うから。
「まずは買い出しだな! 薬液での補給だけでラボに篭る日も多いゆえ、たまの食事の機会は重要なのだ!」
「まあ、流石ダイナ様、研究熱心でいらっしゃいますわ! 偶の機会をご一緒させていただけるだなんてこの上なく光栄です……!」
何とかなるべく理性を保つようにと心がけながら、彼についていく。
それから道すがら桜を愛でながらやって来たのは、桜フェアが催されている百貨店。
花見に必要な弁当などの食べ物や飲み物を調達するべく、様々な弁当や軽食が並ぶ催事場へとまずは足を運んで。
「幕の内弁当は外せない。フルーツサンドと、あとは……」
そう悩む帝凪の姿を見れば、ライラはそっと瞳を細める。
(「美味しそうなお食事を見つめるダイナ様、なんだかとても嬉しいの」)
これぞ、ファン冥利に尽きるというものである。
……それに。
「この彩り鮮やかな弁当はどちらも寿司なのか?」
そうこてりと首を傾ける仕草も、格好良いのにお可愛いらしいし。
「ちらし寿司と手毬寿司、ダイナ様のおしゃる通り、どちらも寿司ですわ!」
「面白い、両方頂こう!」
結局どちらも買うという潔い決断力もまた、堪らない。
そんな幸せいっぱいな心地のライラに、帝凪が次に告げた目的地は。
「そうだ、アクセサリーフロアにも立ち寄ろう」
「ええ、ぜひご一緒させてくださいまし」
様々なデザインの装飾品が並ぶ、アクセサリーフロア。
それから帝凪は、ライラへと目を向けて紡ぐ……ずっと思っていたのだ、と。
そして続いたダイナ様の言葉に、ライラは大きく瞳を見開いてしまう。
「ライラ、貴様には桜の髪飾りがよく似合うと!」
「ま、まあ……!? そんな、畏れ多いです…!」
ふるりと思わず首を振り――先刻見た美しい花が似合うだなんて、と。
けれど帝凪は、見繕った桜咲く髪飾りをそっとライラの金色の髪に当ててみて。
こくりと、大きくひとつ頷いて。
「……うむ、やはりな! 桜の下でも一際輝く優美さだ」
それから、こうはっきりと言い放つ。
「自信を持て、俺の目に狂いはない! この俺の隣を歩くのだから、最高に美しい姿だと胸を張るべきだ!」
その言葉を聞けば、ライラはハッとして。
ダイナ様が自分のために選んでくれた髪飾りをそっと手に取れば、彼へと頷いて返す。
「……ありがとうございます。貴方様がそう仰ってくださるなら」
美しくも淡く、されど凛と咲いていた、先程目にした桜の花のように――きっと恥じない姿になりますわ、って。
柔らかに降る陽光が心地良い今日は、絶好のお出かけ日和。
そして青空のような祭那・ラムネ(アフター・ザ・レイン・h06527)の瞳に映るのは、ふりふりと大きく揺れる、入道雲みたいなふわふわ白い尻尾。
そんなソータもご機嫌にニコニコで、桜色に染まる春の風景の中を、くるくるわふわふとはしゃいでいるし。
ラムネだって、嬉しいのと楽しいとでちょっぴり浮かれている――俺も久瀬と来れたから、って。
いや、勿論仕事で来ているから、気を引き締めねえとなとは思っている。
でも、それはそれとして……今ばかりは楽しんだって罰は当たらないだろう、とも思うわけだから。
「あっち行ってみようぜ、久瀬!」
そう笑って、友たる彼の手を、心躍るままにわくわくと引けば。
誘うのは、美味しそうな香りが漂う、様々な屋台がずらり並ぶ公園の広場。
そして桜の香を仄か纏うそよ風が、優しく頬を撫でるようにふわりと吹く中。
久瀬・千影(退魔士・h04810)の耳に届くのは、春のお出かけを楽しむ人々の楽し気で賑やかな声と。
「分かった、分かった。そう引っ張るな、って。子供じゃねぇんだから」
逸るように自分を促す、友人の弾む声。
そんな少し見上げるくらいの長身の友は、眼前のたくさん人の波だって難無く。
持ち前の行動力で、すいっと抜けていって。
「何か買って、花見でもしながら食おう」
そう提案してきたから、屋台の香りに空腹も刺激されていた千影も当然、了承したのだけれど。
たこ焼きや唐揚げ、イカ焼きに焼きそば……そんなよく見かける、間違いのない定番のものも、勿論あるものの。
でも其処は、互いに初めての√妖怪百鬼夜行。
目を向けて探してみるのは、千影曰く、ちょいと俺達の世界にはない面白いモン。
ラムネにとっても屋台に並ぶもの全てが新鮮で、ソータと一緒にわくわくそわり。
でも、あれもこれも目にすれば生じるのは、こんな悩ましさ。
「何を買うか迷ってしまうな」
とはいえ、これだけは決まっているから。
……せっかくだから二人でシェア出来るものがいい、って。
そして色々と目移りする友に、千影は揶揄うような苦笑交じりの言葉を向けてみるも。
「そういや、食えないモンとかあるのか? 野菜が嫌いだ、なんて言うなよ?」
「っはは、野菜もちゃんと食えるって。けど苦手なものか……、……ん?」
ラムネはそう笑って返す最中、ふとその足を止める。
視界にふいに飛び込んできて咲いた春の彩り――淡い桜色の瓶を見つけて。
「……酒か。綺麗な色だな」
でもそれは、自分達にはまだちょっぴり早い代物。
千影も、ソーダを閉じ込めたような彼の視線を追ってみれば。
その先にある桜色が、どうやらまだ自分達が飲める品じゃないらしいと分かる。
そう……俺たちにはまだ早い。けれど、呑める歳になったら――。
「……なー久瀬、成人したらさ、一緒に酒飲んでみようぜ」
「なら、その時は洒落てるBARにでも行ってみるか?」
また一つ増えるのは、未来への楽しみ。
そして互いに笑いながら、こんな未来予想。
「久瀬は酒に強そうだ」
「逆に祭那は弱そうだな。1、2杯で潰れてる気がするよ」
実際のところは如何に、それがわかるのも、あと数回季節が巡った先。
そして酒はまだ先のお楽しみだけれど、今ここでしか味わえないものを存分に堪能するつもりだから。
「この目玉串団子、リアルすぎじゃねぇか?」
「血の池ソーダに地獄焼きそば……どんな味か、想像つかないな」
この世界ならではな妖怪屋台飯にも、果敢にチャレンジです……!?
そしてふいにてしてしアピールする、もふもふな感覚に気づいて。
「ソータも食うか? 旨い……かどうかは分からねぇけど」
屈んで瞳を細め、千影がそう訊ねれば。
――ソータもたべる! と言わんばかりに、ぶんぶん揺れる尻尾のお返事。
楽しくて愉快な春のひとときは、まだまだこれからだから。
桜花弁が舞う青空の下、いざ、妖怪屋台巡りへ。
仰ぐ赤き花一華の双眸にも、薄紅の花びらたちが、ひらりひらひら。
「咲麗な桜の美しいこと」
ララ・キルシュネーテ(白虹・h00189)は、柔らかな陽光降る心地良い春の日に、改めて瞳を細める。
……絶好のお花見日和ね、って。
詠櫻・イサ(深淵GrandGuignol・h00730)と椿紅・玲空(白華海棠・h01316)も同じように桜空を見上げれば、こくりと頷いて。
「春うららって感じだ」
「ん、良い天気で桜がよく映えている」
春色に染まる街を並んで歩いて、まずやって来たのは。
「空も店も満開だな」
「桜の季節……百貨店も、とても力を入れているのですね」
玲空の声に続いたセレネ・デルフィ(泡沫の空・h03434)の言うように、活気溢れる妖怪百貨店。
でも足を踏み入れた百貨店内は、普段とはちょっぴり違う春仕様。
「食べ物も雑貨も……桜でいっぱいです」
「百貨店の桜フェスか……それも一種のお花見になりそう」
そう、今このデパートでは『桜フェア』が催されていて、どこをみても桜モチーフでいっぱい。
イサはそんな華やかな館内をくるりと見回してみつつも興味津々。
「あんまり行ったことない、どんな物が売ってるか楽しみだ」
百貨店は、日用品から趣向品、服飾やグルメまで、何でも揃っているから。
ララは此処へと足を向けた目的を改めて口にする。
「素敵な花の宴にする為には準備が必要」
……宴に備えて桜のアイテムを見繕うの、と。
でも必要なものを調達しつつも、折角だから、百貨店に咲く桜も楽しむつもり。
「外の桜も綺麗だけど、売り場に桜花絢爛に飾られた商品達も可愛らしいわ」
「よくこれだけの桜のアイテムが揃ったな」
そう玲空が見つめるのは、桜色のノートや栞などの文房具、そしてその先には桜モチーフのアクセサリー。
そんな中、ふと見つけて手を伸ばしてみるのは。
「……ふむ、このリボンで何かに仕立ててもらうのも良さそう」
桜咲く春のリボン。そして、それを手に思い浮かべるは白兎の少女。
イサもきょろりと華やかな売り場を見渡してみて。
「文房具にアクセサリーにって本当に色々あって迷うな……」
たくさん並ぶ桜グッズの中でも、特に気になった一品はこれ。
「この春暁の桜の手帳もいいかも」
「桜の万年筆は学園で使うのに丁度よさそう」
ララもお気に入りを見つければ、るんるんご機嫌に。
そしてセレネも、皆のあとをついてきょろきょろ。
並ぶ桜の文具はどれも可愛くて、選ぶのがむずかしいけれど。
「夜桜のブックカバー……かわいい……」
そっと手に取ったのは、綺麗でかわいい夜桜柄のブックカバー。
ララも……あ、可愛い、と。
桜ハーバリウムの枝角のカチューシャをすちゃりと試着してみて。
「これも買うわ」
「ああ、いいじゃないか。ララよく似合ってるよ」
……樂園のみんなにも見せよう、と。
玲空が紡げば、イサとセレネも頷いて。
「ララさんのカチューシャ、とてもお似合いです。桜の化身のようで……すてき」
「はは! ララ……なんか、桜の龍みたいだな? いいじゃん、似合うよ」
「ララ、桜の龍みたいでしょう?」
ララは胸を張ってえっへん得意げに咲む――自慢よ、って。
それから、皆にも目を向けて。
「お前達もお気に入りが見つかったかしら」
「詠櫻さん、椿紅さんはどういったものがお好きなのですか?」
セレネのそんな問いに、まずこたえたはイサ。
「俺は夜桜より黎明の……朝の桜が好きなんだ。朝露がきらきら宝石みたいで」
……1日のはじまりを祝って貰える気がしてさ、なんて。
紫苑から桜色に移ろうキーホルダーを手に笑めば。
「イサは夜明けの桜がすきなの? ララも好きだから、嬉しい」
「へぇ、イサの好みは初めて聞いたかもしれない」
玲空はそう言った後、ふと、彼の手にあるキーホルダーと聖女サマを交互に見て。
「……ふふ。それ、ララの色か?」
なんて小声で悪戯っぽく笑ってみせれば。
思わぬ言葉に、イサの乙女椿の彩がぱちり。
それから大きく瞳が見開くと同時に、声を上げる。
「は!? ララの色じゃないしっ」
いや、確かに言われてみれば、似ている色をしているから。
イサはちょっぴりむきになりつつも、こう続ける……少し、少しだけ! って。
そんな様子に、ララはさらに満足げに咲んで。
「むふふ、照れ屋ね」
同じキーホルダーをお買い上げ。
それから少し気を取り直した後、今度はイサが訊ねてみて。
「そういう玲空はどれにした?」
「私はこれかな。昼の桜がこんなに綺麗だとは思わなかったから、さ」
そう玲空が見せるのは、抜けるような青空に桜広がるポーチ。
それはまるで、今日の景色のような。
「玲空のは明るい昼桜ね、明るいお前にぴったりよ」
「へぇいいじゃん。晴桜を持ち歩くみたいで」
ララとイサも納得の、彼女にお似合いの昼桜のもの。
セレネも、ふたりから返ってきたそれぞれの返答に、こくこくと小さく頷いて。
「なるほど、朝の桜に、昼の桜……どの桜も素敵ですね」
ふたりの選んだ桜とはまた違った印象の、手元の夜桜を改めて見つめて呟きを落とす――ずっと傍に置きたくなるくらい、って。
それからもうひとつ、セレネの目にふと飛び込んできたのは、桜が咲き溢れる簪。
淡く揺れるその様子は、春風にひらりと舞うそれに似ていて。
……とても綺麗、って思わずそう声を零せば。
「セレネは簪?」
「セレネの簪もすごく綺麗だ」
「セレネの簪は桜のお姫様みたいだわ」
3人に告げられた言葉に、擽ったくて嬉しく思うも。
小さく首を傾けて、じっと桜の簪を見つめるセレネ。
「けど、どう着けたらいいか……」
だがそんな悩みも、すぐに解決。
「俺、やり方知ってるから教えるよ」
「イサは簪の扱いも知ってるのか? すごいな」
「詠櫻さん、わかるのですか? 是非……教えてください」
そうとなればもう、悩むことはないから。
「私、これにします」
ゆらり桜が揺れる簪を、お持ち帰りすることに決める。
そんな桜咲く文具のお気に入りを、それぞれが選び終えれば。
「もちろん、桜スイーツもたくさん買うわ」
お花見しながら味わうの、と。
わくわくと気合十分なララ。
そんな聖女サマの食べっぷりは、イサはよく知っているから。
「桜スイーツは山ほど買いそうだな」
でも、花より団子という言葉もあるくらいだから。
こう思いなおし瞳を細める……それも花見の醍醐味か、なんて。
そして玲空も尻尾をゆらりら、美味爛漫にも期待大。
「花見をしながらの桜スイーツ、わくわくするな」
「では次は食の桜と……本物の花見、ですね」
セレネも勿論、たのしみです、と。皆と一緒に、沢山満喫するつもり。
美味しい食の桜も、本物の楽しい花見も。
ヒト型を取れば、何故かその視線は低いものなのだけれど。
黒髪青眼の少年姿をしたトゥルエノ・トニトルス(coup de foudre・h06535)は、高い空を見上げてみる。
「春は花見の季節とも聞いたな」
常いる世界とは別の土地……別の光景を眺めてみるのも、風情があると言うもの、なんて。
春に咲く薄紅の風景の中を歩きながら。
そして口にしたように、これから緇・カナト(hellhound・h02325)と共に楽しむのは花見、なのだけれど。
満開に桜が咲き誇っているという公園にいくその前に立ち寄ってみるのは、妖怪百貨店。
カナトは沢山の人や妖怪たちが訪れている館内をくるりと見回して。
「桜フェアの妖怪百貨店も賑やかだねぇ」
「……なに、桜フェアが催されている?」
ぱちりと瞳を瞬かせるトゥルエノに頷きながらも、やはり気になる春グルメの催事……は、一旦置いておいて。
「のんびり満開の春色でも眺めるかぁ」
「楽しそうだな見に行こう」
折角だから、色々なものを見て回りたいと、百貨店巡りを。
そして、トゥルエノにとっては。
「初ウィンドウショッピングというヤツだ」
これが初めてだという、わくわくなウィンドウショッピング。
上から下まで、色々なフロアを一緒に漫ろ歩いてみながらも。
ふたり交わすのは、こんな会話。
「妖怪百貨店と聞いていたが、デパートとは違うものなのだろうか?」
「……言われて見ればそうだなぁ。百貨店とデパートは大体一緒じゃないの?」
「……大体同じか。そうか」
それから少し考えた後、トゥルエノは今度は、こうカナトに訊ねてみる。
「ちなみに……コンビニと駄菓子屋は違うもの?」
「駄菓子屋とコンビニじゃ、だいぶ品揃え違ってるケド」
「……そうか」
そして教えて貰えば、ひとつこくりと頷いてから。
カナトへとこう続ける。
「いや、何でもないぞ。主は気にしなくても良い事だ」
そんなお喋りも楽しみながら。
カナトが次に見てみるのは、独り暮らすには便利な家電たち。
「ハンディクリーナーとか電気ケトルとか、買い揃えても良いかもなぁ」
「あの部屋に置くには此の彩はどうか?」
トゥルエノも春色した品々眺めては、部屋に置かれた様子を思い描きつつも、一緒に楽しく選んでみたりして。
「何か面白そうなの見つかった?」
カナトは改めて、連れの彼にそう訊いてみるも。
でもやっぱり、気になって釣られてしまう。
「桜フルーツサンドセットは食べたいなぁ」
そこかしこから漂ってくる、春グルメの美味しそうな香りに。
でも何も、気になるのは桜フルーツサンドセットだけではなく。
おこさまランチも見た目が愛らしくて心擽るし。
「桜カレーパンに桜あんパンに……」
春限定のパンだなんて、それこそ勿論、買いである。
そしてそんな春グルメの数々に釣られる彼の様子を見れば、トゥルエノはふふりと笑ってしまうけれど。
「春のパンは幾らでも食べられそうだから、お土産も摘み食いも沢山になりそうかもね」
「パンなら我も沢山食べるの協力できそうだ」
パンを完食するための助っ人を買って出て。
ふわり香る美味しそうな匂いに、嬉々と青の瞳を細める……初めて食べる味を楽しみにしておこう、と。
いつもは、目を離せないというかほっとけないというか。
尻尾をふりふり、隣をご機嫌に歩く五十鈴・珠沙(Bell the cat・h06436)は、ひょんなことから出会った後輩分なのだけれど。
でも浮石・尾灯(ウキヨエ・妖怪・ヒーロー・h06435)は、今日は彼女に導かれるまま歩くことにする。
「素敵な桜、見せてあげるねっ」
……今回はあたしの育った√でのお花見! と。
そううきうきしている珠沙の案内で、今日は√妖怪百鬼夜行にお花見をしにきたのだから。
いや、春を迎えた桜の風景も。
「妖怪√の桜は絵になりそうだなぁ」
隣でそう紡ぐ先輩の言うように、とても美しくて心躍るのだけれど。
珠沙にとって尾灯は……ビート先輩は、助けてくれたヒーローであり、憧れの人で。
だから、よりいっそう一緒に楽しめるとなれば、珠沙は張り切っちゃうし。
「じゃーん、ここが妖怪百貨店! すごいでしょ?」
「ほーほーこれが妖怪百貨店。賑やかだ。自分のとこの百貨店なんて行かないのも相まって物珍しさに溢れてるよ」
尾灯が物珍しそうに、あれやこれやと視線巡らせる姿を見れば、珠沙も嬉しくなる。
そして訪れた妖怪百貨店は、百貨店というだけあって。
並ぶ店々や品物も多種多彩、色々なものがたくさん売っているが。
珠沙はこう、尾灯に提案を。
「夜に一緒にお花見するためにお弁当買っていこ?」
花も団子も、両方一緒に、目一杯満喫したいから。
それにちょうどお腹もすいてきた頃、尾灯も勿論、彼女へと頷いて返して。
「腹が減っては戦はできぬと言うからねぇ」
「ビート先輩はおなかいっぱい食べそうだよねえ」
「場所も取ってないし手掴みで食べれるのが良いね」
お喋りもいっぱい楽しみながら、夜に向けての作戦会議を。
それからパン屋さんで見つけたのは、手掴みで食べられそうで、珠沙も気になっていたもの。
「あたしは迷っちゃうけど、桜フルーツサンド。えへへ、サンドイッチは憧れなの! あとで半分こしようね、先輩」
「はいはい、はんぶんこね」
でも、はんぶんこしたいのは、それだけではなくて。
「桜あんぱんもいいなあ……先輩、これも半分こしない?」
「まぁお花見だしなぁそれと……メロンパンも付けよう」
「メロンパンもいいの? わーん、先輩、だから大好きー!」
「飲み物も後で忘れずに買おうねぇ」
……もちろんこれもはんぶんこ、って。
桜フルーツサンドに桜あんぱん、それにメロンパンまで。
桜のようにぱっと笑顔咲かせる彼女と、仲良くいっぱい、はんぶんこの約束を。
はらりひらりと舞う桜も、摩訶不思議な世界の雰囲気にぴったりで。
「パッと見は普通そうに見えて面白いモノが多いねぇ」
「ツボにはまりそうなモノ、たくさんありそ」
古賀・聡士(月痕・h00259)と高城・時兎(死人花・h00492)がやって来たのは、妖怪百貨店。
いや、普通のものも沢山あるのだ。
でもよく見れば、ところどころあれもこれも、何だかへんてこなものもたくさんあって。
立ち寄ってみた妖怪アンティークショップを覗いてみれば、ある意味、お宝探しのような様相。
そしてまず、気になる一品を見つけたのは、聡士。
「あ、これいいなぁ。ろくろ首スタンドライトだって」
ぽちぽちボタンを押してみれば、ピカピカ、チカチカ。
さらには、やっぱりろくろ首だから、首がうにょーん。
「顔が光るのと目が光るので光量切り替えられるんだ。首が伸び縮み角度自在だから便利そう」
何気に実用性も抜群な、グッドデザイン!
そんなスタンドライトのろくろ首と、時兎はじいと暫く見つめ合えば。
「ろくろ首スタンドライト……それ、欲し」
……いーの見つけたね、聡士、と大きくこくり頷いてから。
今度は、自分が発見したものを差し出して見せてみる。
「おれは、こんなの見つけた。目目連の無限ぷちぷち」
「へえ、無限ぷちぷちならぬ無限目潰しかあ」
「途中で面倒になって、雑巾絞りしそ、だけど」
「雑巾絞りはぷちぷちの意味……いや、音があるか?」
じわじわひとつずつ潰すにせよ、一気に雑巾みたいに絞ってぶちぶちっとするのも。
ぎゃあっと目目連の悲鳴が、何だか聞こえてきそうな気がしないでもないけれど。
そもそも、それは潰すためのぷちぷちなのかという疑問が。
他にも、へんてこなものだったり、何に使うのかすらわからない謎のものもあったりするけれど。
ショップの主人お手製だという眼球型の風船入りプリンを見ていた時兎は刹那、ハッとする。
「時兎、どうしよう。疼いてた右目が……飛び出して……」
向けられたそんな聡士の所作と言葉に。
そして、両手で彼の肩をゆさゆさ。
「ちょと、あんたの右目の封印が解けたら、世界滅ぶでしょーが!」
それから、前髪に隠れた目から飛び出したという、ふわふわ眼球妖怪をひょいと取れば。
「あっはっは、流石に世界は滅ばないよー」
ちょっとした悪戯を仕掛けてけらけら笑う聡士と、何となくちょこんとその頭に乗せてみた眼球の妖怪らしきモノを、時兎は思わず交互に見遣る。
前髪で隠れた片目、頭に眼球の妖怪――。
「……どっかで見た、コレ」
そしてされるがまま、頭に人形を乗せられている聡士も、そう言われればそわり。
「見たことあるのかい? ちょっとどこかに鏡無い?」
彼女の愛用の手鏡を受け取って見てみれば、確かに――。
それから、鏡を覗く彼の姿をまじまじと目にしながらも、時兎は紡ぎ落す。
「やっぱ聡士の瞳、漆黒、好き」
そして……とりあえず、ゲタ履いとく? なんて。
謎にもうちょっとだけ、見たことある何かに寄せてみたりしてみます……?
桜がひらりと目の前で舞えば、思わずてしっとしたくもなるけれど。
今日はばっちり姿は人のものである、ジズ・スコープ(野良古代語魔術師ブラックウィザード・h01556)がまず向かったのは、賑やかな妖怪百貨店。
そんな彼のお目当ては、「春の手まり寿司」と「桜お稲荷さん」。
そしてどちらも無事に調達することができて、桜が満開だという公園へと向かうのけれど。
「想像以上の人の多さでした……」
百貨店のふぇあ、侮れません……と。
何気に限定品を求める人たちの多さと熱気に、ちょっぴりぐったり。
そしてほんのり疲れを感じつつも、桜に癒やされようと公園で花見を楽しむことに。
それから桜が綺麗に見える場所を求めて、のんびりと歩いていれば。
「おや……わたがし………」
屋台並ぶ広場でふとジズが見つけたのは、わたあめやさん。
「昔から好きなんですよね……あまくて、ふわふわで。ああ、こちらでは、わたあめと言うのでしたね」
そして知っているわたがしとはちょっぴりだけ違う、そのカラフルな色に多少驚くも――折角ですから、と。
春色わたあめをわくわくひとつ購入すれば、にこにこ御機嫌に。
それから再び満開桜の風景を歩いて、善き場所を探して、其処でいただくことにして。
「昼の桜は清楚で優しく見えますね……」
いい感じの場所を確保すれば、綺麗な桜を眺めつつも、はむり。
甘くてふわふわなわたあめと、ころんと可愛い春の手まり寿司をいただいては、ほっこり。
桜お稲荷さんも続けていただきたいところだけれど――また改めて美味しく楽しめるように、お持ち帰りすることに。
晴れ渡る春の青空に咲く桜はちょうど満開、今日は絶好のお花見日和。
けれど、小倉・ミルク(|五穀豊穣の大鎌《ハーヴェスト・サイズ》・h04719)がまず足を向けてみるのは、そんな桜が咲き誇る公園ではなくて。
(「桜好きとしてお昼の桜も見たかったところだけど……」)
後ろ髪引かれる思いはあるものの、でもやっぱり。
……お洒落アイテムとかのチェックは最優先なのですっ!
付喪神とはいえ、今のミルクは女の子の姿をしているから。
話に聞いた、妖怪百貨店の化粧品売り場に、春コスメを見にいってみることに。
だから昼のお花見はできないけれど、でも、デパートへと向かう道は桜色に染まっていて。
春色の街を歩いていれば、それだけでもうきうき、心も足取りも軽やかな踊るような心地に。
そしてお目当てのコスメコーナーへと足を運んでみれば、ますます気持ちがぱっと華やぐ。
「リップもチーフもまず見た目からしてかわいい……!」
心ときめく春限定パッケージは、それだけでつい買っちゃいそうになるのだけれど。
ミルクはふるりと小さく首を振って、何とか思いとどまる。
(「お化粧品はあたしとの相性もあるから慎重に選ばないとだね!」)
限定の春色とひとことにいっても、ふわり甘やかな淡いピンクもあれば、春空に映えるような鮮やかな薄紅、夜桜のように煌めくラメ入りなど。
色味も数種類あって、人それぞれに似合うものも違うだろうから。
だからひとつひとつ手に取っては、色や質感を見て確かめようと思うミルクなのだけれど。
「にゅぅ~……。見れば見るほど何が良いのか分からなく……」
こっちの色は可愛いし、でもその色も綺麗だし、あの限定色も気になるし。
自分にどれが似合うのか、イマイチわからずに頭を悩ませるミルクであったけれど。
ここは、ちょうど声をかけてきたプロである妖狐な店員さんに、おススメを聞いてみることにして。
(「桜リップと桜チークを1つずつ買っていこっと!」)
あれこれ試した後、透けつや感が綺麗なチェリーピンクの桜リップと、甘めでキュートな桜ミルク色のチークを購入。
もちろん、春限定の桜パッケージで!
それから春コスメを買った後、ミルクは、きょろりと春色爛漫なフロアを見回して。
(「お化粧品の店員さんがネイルサロンも勧めてくれたけど場所はここかな?」)
探してみるのは、爪を整えたり彩ってくれるというネイルサロン。
だって、ミルクは思うから。
せっかくのお祭りだし、ネイルもしっかりと整えていけばより楽しくなりそうだから――いざ突撃!
「この後に春灯祭に行くから、右手のネイルは桜をイメージした感じにしちゃおうかな!」
そして左手のネイルは、猫又ネイリストさんにお任せ。
(「ふふっ、どんなネイルになるのかすごく楽しみだね☆」)
こうして出会えた縁もあるし――って、自由に彩を添えてもらうことに。
それからネイルをして貰えば、ミルクの爪も桜爛漫。
右手は、ピンクから藍色に移ろうグラデーションのベースに、淡ピンクとハニーミルク色の桜が描かれ、咲き誇っていて。
左手は夜空の様な藍色のラメ入りネイルの上に、ひとひらふたひら、桜花弁がひらりひらひら。
これで夜の祭りに行く準備もばっちり。桜色を纏えば、気持ちもわくわく満開に。
春の陽光が降る今日は、ぽかぽかの小春日和。
そして、吹き抜ける春風が頬を心地良く擽ると同時に、ひらりひらひら。
「澄み渡った青空に見渡す限りの桜のお花……!」
青い空に舞い踊るのはそう、春の彩りを纏った桜花弁たち。
そんな、満開桜が咲き誇る風景に……とても、とても美しく見事な光景です、と。
瞳輝かせるブルーベル・ラ・フォンテーヌ(最果ての碧落・h06210)の声に、ジョン・ファザーズデイ(みんなのおとうさん・h06422)も頷いて。
「お花見、素敵だねぇ。風流だねぇ」
うんうん……|花見客《子どもたち》がみんな楽しそうで、おとうさんは嬉しいよ、なんて。
ほわりと満足気に瞳を細めつつ、くるりと巡らせて。
「迷子はいないかな、困った子はおとうさんのところにおいで~」
ジョンはみんなのおとうさんだから、全ての|花見客《子どもたち》へと抱くは、花の様に咲く慈しみの気持ち。
ステラ・ラパン(星の兎・h03246)も、賑やかな春の公園を軽やかに歩きながら。
「青い空に薄桃の花、春めいて何とも気持ちいいじゃないか」
……皆の表情も晴れやかでイイね、って。
春の景色に綻ぶ、人々の楽しそうな様子に笑み咲かせて。
「眩いばかりの晴天だが、花雨と云うのも悪くない」
「ぬくい木漏れ陽、やわい色した薄雲までも、桜に霞んで見えるようだのう」
……何より花見は胸が躍るものだ。
……うむ、これぞ宴日和よ。
小沼瀬・回(忘る笠・h00489)とツェイ・ユン・ルシャーガ(御伽騙・h00224)も、その心を躍らせる。
はらりと降っては煙るように淡い、春色を皆で愛でるひとときに。
そして、破場・美禰子(駄菓子屋BAR店主・h00437)も。
「こりゃ見事!」
そう桜空を見上げ、感嘆の声を上げた後。
ばさりとシートを広げるのは、花盛りの桜の元。
そして……さあ入った入った、と。
十分な広さがあるそんな花見の特等席に、皆を手招けば。
吉祥・わるつ(浄刹・h05247)はふわふわ綺麗な桜の下、皆と一緒にちょこんと座って、敷かれたシートにお邪魔します。
ということで、いざ花見のはじまりであるが。
花より団子ならぬ、花も駄菓子も、皆で楽しむべく。
皆がよく集う、駄菓子屋Bar「B BA」で、各々予めオヤツを選んでおいたのだけれど。
店主である美禰子からのお約束は、そう――「オヤツは300円まで」。
そして、シートの上に嬉々とオヤツを取り出す様子を見ながら、美禰子はふっと柔くその目を細める。
……皆お約束は守ってくれたようで、と。
「駄菓子屋のババアはそういう律義さ嬉しくなっちゃうんだよ」
その声を聞けば、約束を守れる良い子な面々はえっへん得意顔で。
「無論、確と収めたぞ、美禰子殿」
「お菓子は税抜き300円まで。ちゃんと守りましたよ、美禰子先生っ」
「先生は少々こそばゆい……」
回に続いたブルーベルの言葉に、美禰子はそうそっと小さく肩を竦めてみせるも。
「我らが頭の定めた三百円の掟は確と」
「花見の菓子はお決まり通り、ちゃんと守ったよ美禰子の姐御」
「……ン? 頭と姐御?」
店主で、それに先生で頭な美禰子の言う通り、ちゃんとオヤツは300円まで!
そして、なぁんてね、なんて悪戯っぽく笑うステラの隣で、わるつもツェイも頷いてみせて。
「美禰子おばさま、300円、私もちゃんと守ったわ! ちょっぴり大変だったけど何度も計算したの」
「いましめの中で探すもまた愉快だったとも」
美禰子はそんな良い子たちが並べたオヤツへと改めて視線を巡らせれば、こくりとひとつ頷いて笑み宿す。
「シートの上も春が咲いたようじゃないか」
其々が選んだ菓子たちは、季節を感じるのも多くて。
そう、ブルーベルが選んだのは、まさに春のオヤツ。
「苺の4個入りミニドーナツと抹茶の鈴カステラと……春限定とお伺いしまして、つい買ってしまいました」
「ブルーベルちゃんの春限定、おいしそう!」
「限定の菓子とは、ブルーベル殿は御目が高うておられる。抹茶の菓子とは実に美味そうだ」
しっかり春限定のものを選んでいる彼女に、わるつとツェイは言葉を向けつつも。
桜色のラムネ菓子、ころころしたみるくぼうろ、苺味のビスケット――わるつのチョイスも春色いっぱいで。
「そら、此方も召し上がるとよいぞ」
ツェイの選んだオヤツは、桜ん坊餅と、七色らむねに苺の粒ちょこ。
「ふふ、桜を思い浮かべておったのが丸解りだの」
やっぱり同じように、桜を思わせるラインナップで。
回が桜の下に並べたのも、桜桃餅に、きびだんご、三色団子代わりのかすてら串。
「三百円分と思えぬ豪華さだな」
「桜桃餅は、あははお揃いが沢山だ」
ステラも勿論、お揃いの桜桃餅と。
「それから一口羊羹に、あとは弾ける綿菓子さ」
……ふふ、刺激も必要だろう? って。
ぱちぱちなふわふわもそっと仕込んで、やっぱり楽しそうに笑む悪戯っこ。
そしてシートの上も、あっという間に春爛漫。
「桜に溢れたものに限定品然り、選ぶものにも春が滲む様で佳い」
「苺と桜、皆様と同じ考えに辿り着いたのかもしれません」
「ふ、その上揃うとなると尚佳いな」
……心はひとつ、と言ったところか、と。
ブルーベルの声に頷く回が紡ぐように、しかも皆考えることが仲良くお揃いとなれば、嬉しさや楽しさも綻んで。
ツェイも摘み転がし笑み咲かす――似たり被りも息合えばこその御愛嬌、と。
それから勿論、ジョンも。
「さてさて。駄菓子は300円まで、ということで……」
オヤツは300円まで……と、言いたいところなのだけれど。
「200円の瓶オレンジジュースと、100円の詰め合わせ袋を持参したよ」
「おやジョン、飲物も予算に入れてくれたのか」
オヤツだけでなく、ジュースもいれて300円分だというから。
餅あられに桜大根にポン菓子にと、美禰子は彼の前に差し出す。
「その分菓子が少ないだろ。アタシが持ってきたのも摘みなよ」
「あれあれ、なんだか お菓子を分けてもらっちゃって……ありがとう、いただきます」
甘いも塩味も満遍なく、これでジョンのオヤツも300円分くらいになるだろうから。
そしてこれだけたくさんの駄菓子が並べば、ブルーベルはそわり。
「交換して下さる方がいらっしゃいましたら是非……!」
「皆の菓子も個性があって楽しいね。ブルーベル、僕のとも交換しようよ」
そんな交換このお誘いに、ステラや皆は勿論乗って。
ふふ、ではステラ様や皆様とお菓子と交換を、なんて微笑み咲かせるブルーベルであるけれど。
「バナナはデザート枠だ、安心しとくれ」
「やったぁ、バナナも……!」
美禰子が近くに房で置いてくれたバナナを見れば、ぱあっとさらに笑顔を綻ばせて。
ステラの果物付きの耳も、ぴょこんっ。
「あ、バナナ」
「食べすぎないように気をつけましょう」
お耳も心もわくわくと跳ねるけれど、食べすぎにはちゃんと注意します、皆良い子ですから!
そしてオヤツを用意すれば、やはり花見の始まりといえばこれ。
皆が各々手にするのは、飲み物。
宴の乾杯の定番は、とりあえずビール……といきたいところだけれど。
「私は酒精を未だ知らぬゆえ、戯れに子供用の麦酒で」
「わたしも子供用の麦酒で」
「乾杯は僕も子供麦酒にしようかな。飲めぬ分の憧れってやつさ」
回とブルーベルとステラ、わるつが手にするのは、ビールはビールでも、ノンアルコールの子供用の麦酒。
そしてツェイは林檎水、ジョンはオレンジジュースの杯を、それぞれ掲げれば。
「それじゃァ乾杯!」
美禰子の音頭に合わせて――乾杯!
「しゅわしゅわは同じでも、私はきっとこっちの味のほうが、大人になってもずっとすきな気がするわ」
わるつはそうしゅわり口の中で弾けるこども麦酒を口にしつつ、そう紡ぎながらも。
何気に気になって、じっと注目するのは。
「やっぱり、鳥籠から流れてこない……!」
おとうさんジョンさんの飲む姿。
それから思わず、ほわあ……! と声を上げては、瞳を瞬かせる。
だって、おむろに開いた|鳥籠《頭部》の小さな扉へと運ばれたジョンの飲み物は。
「……そのジュースは一体何処へ?」
美禰子も瞳をぱちり。零れることなく摩訶不思議、どこかへ消えたのだから。
そしてステラとブルーベルも、思わずびっくり。
「ジョン、それどうなってるの!?」
「ジョン様、それは手品でございましょうか……!?」
「おお、ジョン殿の奇術、いや幻術であるな」
ツェイは、そんな彼の奇術なのか幻術なのかを眺めつつ、パチパチと拍手!
そしてそんな皆の各々な反応を見て、今度はジョンがぱちくり。
「おとうさんが食べたり飲んだりするところ、そんなに面白い?」
そして、それが逆に面白くて、くすくす笑っちゃうし。
やはり皆と同じように、自分をじいと見つめる回のこんな言葉に。
「――そう手品めいた事をされると、私もじょん殿に何か分けたくなる」
「手品、手品か……子どもたちに披露したらウケるかなぁ」
そう首をこてりと傾ければ、ステラは大きく頷く。
「あははっ! 人気者だね」
だって、自分達だってこんなに大注目したし、とても驚いたのだから。
それから美味しく楽しく、オヤツと花見を楽しんで。
ほわりと春を満喫している面々の前に美禰子が取り出したのは。
「玩具も持ってきたんだった」
駄菓子屋にも並べている、組立式の飛行機にシャボン玉。
「遊んでも公園は広いし大丈夫さ」
「店主さん、おもちゃをありがとう」
「ふむ、春風に遊ばせるのに最適だな」
そしてジョンが礼を告げた後、回も……なれば、と。
挑戦心で飛行機に手伸ばしてみれば、ブルーベルも同じように、まずは飛行機の組み立てからチャレンジ!
……なのだけれど。
「飛行機の組み立て方、これであっているのでしょうか……?」
「? 単純そうで、器用さが要る様だ」
ふたり顔を見合わせ、首をこてりと一緒に傾げてしまう。
そんな、実は組み立て方を把握していない様子のふたりに、美禰子はお手本を。
「飛行機は組立が肝心でね」
……こう、と。
回やブルーベルの前で、手際良く作ってみせて。
「美禰子先生、は流石熟れているな」
「なるほど……さすが美禰子先生ですっ」
やはり美禰子は頼りがいのある先生です、ええ。
それから先生の見様見真似で、ブルーベルは飛行機のカタチに仕上げて。
「空中でバラけてしまいませんように……ぁ、変な方向に」
先生の指導の賜物でバラけはしなかったけれど――投じれば、明後日の方向に。
けれど、飛んで行った方向はともかく。
「最初なら上出来だよ」
しっかりと形をとどめている彼女の飛行機に、そう頷いて返してみせて。
「おや、これは懐かしいものが、我も拝借しようかの」
「あ、しゃぼん玉。やります!」
ツェイとわるつは――ふぅ、と早速、青空へと向けて吹いてみる。
虹のシャボンが膜張る輪の中を。
そしてふわりふわふわ、揺れては煌めいて舞うシャボン玉をツェイは見上げ、見送る。
透明なしゃぼん玉に映る逆さの花見席を眺めながら――運んでおくれ、と。
わるつも、春の彩りと煌めきを纏うシャボン玉たちを見つめてから。
「虹色の泡がふわふわ桜に浮かぶのがとっても綺麗」
次のシャボン玉を飛ばすべく、わるつは再びシャボン液をつけた輪っかをすちゃり手にしながらも。
共にシャボン玉をふぅっとした同士に目を向ける。
「ツェイさん、しゃぼん玉をつくるのが上手なのね」
「ふふ、お褒めに与り光栄だのう。わるつ殿とて手練れの技よ」
そして、さらにいっぱい浮かべて沢山飛ばして、一番遠くまでと。
おおきいのをえいえい、って吹くわるつに、ツェイもほっこりと返せば。
「ツェイもわるつもシャボン玉の名人だ」
「わるつ様もツェイ様もシャボン玉のめーじんっ。格好良いです」
「大きいのに沢山にツェイも皆も上手いね」
美禰子とブルーベル、ステラも、ふたりのシャボン玉の腕前に太鼓判。
「ふわふわキラキラな桜とシャボン玉、なんとも幻想的な光景ですね」
「桜と虹色の取り合わせがいいね」
「シャボン玉は僕も好きなんだやらせてよ」
そしてステラも参戦して、ふぅって吹いてみれば……桜や空を写す虹泡が綺麗だ、って。
そう馳せながらも手を伸ばすのは、虹とお揃いのいろを纏う七色ラムネ。
ジョンも、春の風景に皆が作り出す彩りや飛ばす飛行機を、眺めていたのだけれど。
(「シャボン玉と飛行機、そして桜……」)
……なんだかとっても春らしくて、ほっこりする光景になりそうだ、と。
「よーし、おとうさんもシャボン玉で遊んじゃおう。大きいシャボン玉作りに挑戦だ」
張り切ってチャレンジするのは、大きなシャボン玉作り。
だって、きっと、特別大きなシャボン玉を飛ばすことができたら。
「上手にできたら、子どもたちの人気者になれちゃうね」
子どもたちも大喜び、おとうさんも人気者になっちゃうだろうから。
そんなシャボン玉はふわふわ飛んで、でもすぐにぱちりと弾けて消えてはしまうのだけれど。
ツェイは、それもまた良いと見送る。
「くもと融けて尚甘やかな綿菓子と同じ」
……はじけて消えども眸に残るさ、と。
それから、飛行機を組み立てていた回も、目の前をふわりと飛ぶシャボン玉たちに気づいて。
「おっと、つぇい殿達も熟れているようだ」
名人達によって作り出される、キラキラまんまるい泡沫たちに拍手!
「大きかったり、数多だったり、桜色に染まるしゃぼん玉が綺麗だ」
それから、そう虹のような彩りたちを見上げた後、手元へとふと視線を戻して。
「飛行機も飛ぶといいが……」
改めて、桜空を仰いで――それ、と。
お手製の飛行機を、満を持して投じれば。
「あっ回さんの飛行機もよく飛んでる!」
桜花弁が舞う空を、すいっと軽やかに飛んでいく。
そしてステラは、ふわりと舞う泡に桜の中を飛ぶ紙飛行機――そんな景に、うずうずと。
「ね、誰か一緒にあの中に行かないかい?」
春にぴょこんと飛び込む同士を募ってみる。わくわく燥ぐ気持ちを、照れ隠すように。
そしてそんな、ちょっぴり悪戯っ子で照れ屋な彼女のお誘いに、わるつは、よろこんで、と。
歩調をあわせて同じくぴょこんと、ちょっぴりかけっこ。
「やった、よし行こうわるつ!」
「ステラ達、足元に気を付けなよ」
美禰子は駆け出したふたりにそう声をかけつつも、それを追いかけて飛ぶそれらに瞳を細める。
「お、飛行機と特大シャボン玉も伴走だ」
「併走、とは行かぬ低空飛行だが」
そして飛んいる位置は低めではあるけれど、回は真っ先に賞賛してくれたわるつの言葉に誇らしげに。
それから、春を駆けるその背中に託す。
「私の代わりにお前さん達に混ぜてやってくれ」
それからステラは跳ねるようにかけつつも、低くも並走する紙飛行機へと視線を向けて。
見上げるばかりの友を重ねたら、ちょっぴり笑み零す……いつもとあべこべだと。
それから、自分達を見ている皆にひらり手を振って。
振り返してくれる姿を見れば、春のようにぽかぽかな心に思う。
(「あたたかで長閑で笑顔に満ちて」)
――こういうのを幸せって言うんだろう、って。
そしてツェイは、そらを横切る紙飛行機と戯れるようなシャボン玉をふぅと飛ばしつつ、追い駆ける子らを見下ろして思う。
(「春風任せの遊覧飛行――と来れば、見えぬ乗客らもさぞや愉しんでおられようの」)
そんな眼前に満ちるような春が、わるつは元からだいすきだったけれど。
桜の花も、生き物も、やっぱり全部がきらきらして見えて。
独特の空気を吸い込んで、ほわりと満開に笑顔を咲かせる。薄紅色のなかで笑顔でいるのがうれしいなって。
それから、とびきり大きなしゃぼん玉を吹くジョンの隣で、回とブルーベルも、春のひとときをまだまだ楽しむつもり。
華やぐ景の満ちて開いた佳日に、知らずと笑みも浮かぶまま――春の日に身を浸そう、と。
(「これもまた思い出なのでしょう」)
忘れ難い一日になりそうだから。
そして美禰子にとって、そんな皆の楽し気な姿は、何よりの花見酒の肴。
桜とに交じって楽し気にかける彼らを眺めながら呑む酒は――まあなんとも、格別なモンだ、って。
満開に咲く桜を愛でに、今日は春のお出かけ。
天気も良く麗らかで、絶好のお花見日和……なのだけれど。
九条・庵(Clumsy Cat・h02721)と花咲・果乃(いつか花ひらく・h06542)が向かうのは、桜咲く公園ではなく妖怪百貨店。
夜の花見の前に、まずは買い物も楽しんじゃおうという作戦だから。
そんな、今日のお出かけに誘ったのは、庵で。
だから、ずっと果乃はそわそわ。いつがいいかと考えれば考えるほど、なかなかタイミングを掴めずにいたのだけれど。
「お出掛け、誘ってくれてありがと」
ようやく伝えられたのは、百貨店の中を歩きながらであった。
そして、突然不思議なタイミングで告げられたお礼に。
「え、果乃、今?」
庵は思わず一瞬、きょとりとしたけれど。
でも――勿論全然いいって、そう思う。
だって、すぐ隣をみれば。
(「タイミングはおかしいし、声もしっかり上擦っちゃった」)
はわはわと、赤くなっている彼女の顔。
そんな果乃は可愛いって思うし、それに何よりも。
「わ、笑わないでよぅ……」
「ごめんごめん」
届いた小さな咎めの声にそう笑って返しつつ……内気なコだし、きっと勇気出してくれたんだろな、って。
そう思えばむしろ、嬉しくなるから。
でも、果乃にはまだ、彼に伝えたいことがあるのだ。
「これも、すごく気に入ってる。ありがと」
そう、大切なもうひとつのお礼を。
そしてそっとみせるのは、四葉のチャームのブレスレット――それは庵がこの間、くれたもので。
(「√能力者なりたての私に、新人冒険者さん達用の幸運のお守り……頑張れって、庵くんの気持ちが詰まってる気がして嬉しかった」)
だから……今日は、私がお返しする番、って。
彼にお礼の品を贈ろうって、そう思っていたから。
そして、続けざまに告げられた不意打ちのチャームのお礼を聞けば。
「はは、どういたしまして」
そう返しつつも、庵は流石にちょっと照れくさくなってしまう。
だって同じクラスに、同じ力持った子が出来るなんて思わなくて。
だから、つい嬉しくなっちゃって。
(「先走って、先輩風吹かせて贈ったヤツ」)
でも、身に付けてくれているのは嬉しいから。
「喜んで貰えて良かった」
そう飄々と返してみせるのだけれど。
庵にだって、わかっているのだ――絶対今、顔赤いって。
けれど、改めて彼女を見れば思いなおす……お互い様だからいっか、って。
そしてそんな桜色にほんのり染まった、お揃いの顔で。
「庵くん、オシャレでセンスがいいから。折角だし、庵くんの気に入ったものを選んで欲しい」
律儀にお返しとは果乃らしい、なんて思いながらも、庵はくるりと視線を巡らせて。
あまり値の張らないもの、と見て廻れば。
「店長オッサンのとこの本、古書だからカバー欲しかったんだ」
文具店で目に飛び込んできたのは、一面の春。
「……ブックカバー? あ、庵くんのおうち、古書店だもんね」
桜が咲いたブックカバーを見つめる彼に、果乃はそう返しつつ、ほわりと心に嬉しさが咲く。
……庵くんも本好きなんだ、なんて、新しい発見ができて。
そしてコレ、と指差し見せれば、庵は気づくのだった。
(「目が輝いてる、好きそうだもんな」)
だから、ふたつ、手に取って。
「お揃が嫌じゃなきゃお互いに買おう。今日の記念に」
そう提案すれば、ぱちりと瞬く果乃の瞳。
だって、すごく可愛い、桜の花いっぱいのブックカバーで。
私も欲しいなって思っていたところだったから。
そしてそう言って貰えたことに、また胸がぽかぽかあたたかくなるけれど。
「お互いに? ……それは、すごく嬉しいけど」
でも、今日の目的を思えば、頷いていいかわからなくて。
「それじゃお返しにならないよ……?」
そうおそるおそる言ってみたのだけれど。
「焦んなくていーよ、まだ時間いっぱいあるじゃん?」
……夜まで時間使って、いいモノ探そ、なんて。
(「私が欲しそうなのに気付いてくれて、時間はまだまだ、って笑ってくれて」)
果乃はそんな彼に、素直に今の気持ちを紡ぐ――優しいね、庵くん、って。
それからふたり、春爛漫な百貨店を並んで歩きながら。
次に足を向けてみるのは、アクセサリーフロア。
「チャーム、使ってくれてて嬉しかった。俺も果乃からの気持ち、身に付けて使いたいしね」
そしてそう笑って言ってくれる彼を見れば、果乃はその心に、そっと思い咲かせるのだった。
……私も、庵くんの欲しいに気付けるようになりたい、って。
ひらひらと桜花弁が舞う中、とてとてと。
桜満開の街を仲良く並んで歩くのは、小さな幼女たち。
3歳相当の双子の姉妹と、双子たちよりも頭一つ分身長が低い子と、4歳くらいの女の子。
いや……見た目は小さな女の子、というのが正確であるのだが。
そんな彼女たちが今向かっている、目的地はといえば。
(「クロエとシロエと、アロエと一緒に、百貨店のスイーツパーラーで春のスイーツフェスに行くのです」)
待雪・子虎(家ではなく人につく座敷童女専属婬魔・h05362)がわくわく思っているように、スイーツパーラーが入っている妖怪百貨店。
アロエ・ウィズダム・エクレール(Une fille cool de la machinerie・h05563)も、春のスイーツフェスがやっているという店へと歩きながらも、ふたりの姉たち――姉のクロエ・ウィズダム・エクレール・妹のシロエ・ウィズダム・エクレール ドゥ・エクレール・ド・サジェス(Deux éclairs de sagesse・h04561)の方をちらり。
(「姉さんたちが本気の目をしている」)
全制覇は出来ると思うけど……とは思いつつも、大きな百貨店へとやって来て。
ちょっぴり背伸びしながらもフロアガイドをちゃんと確認して、お目当てのスイーツパーラーへ。
それから子虎は、入り口の看板をじいと見つめて。
「料金は先払いらしいのです」
そう言っている間に、アロエに手招かれて店内へと足を踏み入れる。
子虎ちゃんだけ子供料金、姉さんたちとわたしは大人料金、と。
「見た目は幼く見えても、5桁の時を生きているからね」
アロエが代表して、料金はばっちり支払い済。
そう――皆、見た目は小さな幼女なのだけれど。
クロエとシロエは実は45007歳、アロエも28000歳を越えていて。子虎は6歳だけれど、身体の成長は4歳時点ですでに停止しているというから。
とはいえ、今日やって来た√妖怪百鬼夜行は、文字通り妖怪たちの世界。
クロエとシロエのように外見と実年齢が大きく一致しないという場合も、この√では割とよくあることで。中には、同じ年くらいの猫さんとかだっているほど。だから料金を支払う際も不思議な顔はさほどされず、周囲にとっての違和感も少ないようだ。
そして店内をきょろきょろと見回す子虎の瞳に映るのは、春色のスイーツたち。
「テーマに沿ったスイーツがたくさん並んでいるのです。キラキラしているのです!」
そんなたくさんの甘いものも可愛くてキラキラとしているけれど、それを見つめる子虎の目もわくわくキラキラ。
アロエも、並ぶスイーツなどのラインナップを見回して。
「桜の季節だから、桜をテーマにしたものがメインなんだね」
……あとは、苺を使った季節もの、と要チェック。
クロエとシロエも、桜をテーマにした和菓子も洋菓子が色々な種類出ていることをばっちりと確認。
だって、案内された席に着席した後。
「アロエと子虎は、席に座ってていいぞ」
シロエがそう言えば、クロエもこくりと頷いて。
「わたし達で、全部確保してくるからね!」
それを聞きながら、子虎はアロエと共にちょこんと席に座って。
言われた通り、ふたりを待つことに。
(「クロエとシロエが、両サイドから攻めていくらしいのです」)
(「席を取られることはなくても、迷う事はあるだろうからね」)
アロエも、スイーツを取ってきてくれるという姉さんたちを子虎と一緒に、ふたりが迷わないよう席で待機しておくことにして。
ビュッフェ形式のスイーツ食べ放題――クロエは右側から、シロエは左側から、攻めては確保していく作戦。
そう、全種類制覇する意気込みで!
いや、ふたりは外見年齢はともかくとして、45007歳である永遠の時を生きるエルフなので、年だけでいえばお酒もいけるのだけど……見た目は幼い女の子にしか見えないので。
アルコールは自重して、今回堪能するのはスイーツの全制覇。
ということで、クロエもシロエも、張り切って色々なスイーツを席で待つふたりと一緒に楽しむべく、いざビュッフェ台へと……向かおうとしたのだけれど。
(「テーブルに乗り切るのか心配なのです」)
子虎がそうちょっぴり不安気に思った矢先に。
「テーブルに乗らない量は、とってこないでね?」
何せ、ビュッフェ形式のスイーツ食べ放題。
やはり同じく心配に思ったアロエが、一応姉たちへとそう釘を刺しておく。
「取り切れなければ、皿が空いてから取りに行けばいいし。ワゴン系もありそうだしね」
全制覇するにしても、一気に全てのスイーツは到底テーブルには並べられないから。
でも、クロエとシロエも、それは心得ていて。
テーブルに置ききれなくなるということは、やらかさない。
だって、もしもやらかしちゃったら、釘も刺されたことだし、妹のアロエにメチャクチャ怒られるのはわかっているから。
だが、早速ふたりの分もスイーツを取って持ってきたクロエとシロエは、やらかすどころか。
(「しっかりと人数分、テーブルに収まる量のスイーツが並んだのです。テーブルに収まる最大量なのです」)
子虎は、ちょうどきっちり綺麗にテーブルに収まっているスイーツたちに、瞳をぱちり。
それから、こてりと首を傾けながらも思う……双子の感覚がなせる技なのです? なんて。
ということで、怒られることもなく無事に――みんなで、いただきます!
アロエも、姉たちがとってきてくれたスイーツをはむりと口にしては堪能して。
テーブルに沢山並んでいたはずのスイーツも、ぺろりと完食です……!?
でもこれはまだ、食べ放題メニューのうちのほんの一部。
「アロエと子虎はどれが気に入った? おかわりを持ってくるぞ」
「わたし達で、まだ食べてないものも確保してくるからね!」
クロエとシロエに言われれば、こうこたえるふたり。
「|子虎《ねこ》は、これが気に入ったのです」)
子虎のお気に入りは、モチモチな桜色のぎゅうひに、桜餡がくるりと包まれた季節限定の和菓子。
アロエも、追加分も取りにいってくれるという姉たちにお願いする。
「わたしは、イチゴ系のスイーツのお代わりを頼もうかな」
やっぱり春らしい、店に入る前から気になっていたイチゴなスイーツを。
それから、2巡目、3巡目と、甘くて美味しい春のスイーツを皆でいっぱい堪能するのだけれど。
子虎の「お気に入り」はその都度、主に和菓子メインに増えていくばかり。
でも、それも当然のこと――だって、街に咲き誇る桜みたいに、此処には甘くて美味しいものが満開で爛漫なのだから。
第2章 冒険 『見ざる、言わざる、聞かざる』

陽が落ちて、夜を迎えれば。
今かと待ち侘びていた妖怪達の手によって、刻が来た、と一斉に灯りが燈る。
それが桜の夜祭り『春灯祭』のはじまりの合図。
数え切れぬ灯篭に炎が宿れば、これまでは春の陽光を浴びた花弁が纏っていた輝きが、仄かな灯火の彩りへとかわって。
雲一つない春の空を見上げれば、和らかな月光が桜たちを照らす、一面の星月夜。
燈る灯篭、月の光、屋台の明かり――春に灯る数多の煌めきたちは桜を様々な表情に染めて、降る花弁たちは花見客とひらりらと戯れるように舞い踊る。
桜が満開に咲き誇っている期間は短いけれど、でも、これからはじまる春の夜はこれから。
まだまだ長い春夜の花見の祭りを、目一杯楽しむ人で、公園の賑わいも最高潮。
この夜祭りでやることは、至ってシンプル。満開の夜桜を各々楽しむこと。
けれどどのように楽しむかは、千差万別、十人十色。
お気に入りの桜の木の下にシート等を敷いての、花見の宴会も定番の楽しみ方であるし。
ふらり広い公園の桜の風景を散歩するも良し、気軽にベンチに座って花を見上げるのもいいだろうし。
公園の展望台からの眺めも絶景のようなので、足を運んでみてもいいし。
賑やかな雰囲気の中で花見を楽しむのも、逆に人が少ない穴場を見つけてみるのもいいだろう。
花より団子で屋台巡りに全力投球する過ごし方だって勿論、祭りの醍醐味。何をすればいいか迷う時は、祭りの催しに参加するのも楽しいかと。
昼に百貨店や屋台などで買っておいたものや、手作りの花見弁当を持ち込んで味わうのも勿論のこと。
昼間から公園の広場に出ている屋台は、夜も引き続き出ているし。『春灯祭』がはじまった夜だけ開く屋台もある。
たとえば、夜桜スイーツの屋台。夜を思わせる夜桜チョコパフェ、黒の餡子に夜空色の寒天に桜色や白の白玉に黒蜜をかけていただく夜桜あんみつ、薄紅色パウダーが香る桜黒糖ドーナツ、桜など春のデコが施された夜桜カヌレなど、昼にはなかった夜桜スイーツが楽しめるし。
夕食として屋台飯でおなかを満たすのもいいし、生地にイカ墨を練り込んで桜色のマヨネーズかけた夜桜イカタコ焼きを売っている夜限定屋台も。
そして人気なのは、ぴかぴかと光る春灯ソーダ。提灯型のボトルの中にはぴかぴか光る桜色の電球が施され、しゅわり星空のようなサイダーが弾けて。ちょっぴり愉快な気持ちになるし、足元が暗い夜道のお供にも最適かもしれない。光る桜カチューシャや光る桜ねこ耳、桜色のピカピカブレスレットや謎の光る棒などの、愉快な光る玩具も祭りならでは。
そして夜限定で、屋台バーも開店する。昼にもいただけた、春色をした「桜ビール」や日本酒の「|桜舞《さくらまい》」は勿論。夜の屋台バーでは、オリジナルカクテルがいただける。自分の好きなイメージやモチーフを伝えて作ってもらうこともできるし、好みのカクテルを指定してもいいし。この祭り限定の透明感あるすっきりした藍色の和酒に食べられる桜花弁を浮かべた和カクテル「|春灯《はるあかり》」を注文するのもいいだろう。ノンアルコールのモクテルにもできるので、未成年やアルコールが苦手でも好きなカクテルを楽しめる。
他にも、食べ物の屋台だけでなく、夜桜を纏う動物や人物のお面を各種売っている珍しい桜面の屋台だったり。定番の桜柄ヨーヨー釣りや桜色水槽の金魚すくい、桜型抜きや射的などの遊べる屋台も勿論並んでいる。
他にも、沢山の妖怪たちが訪れた花見客を楽しませようと、催しを行っているという。
妖怪骨董夜市は、桜にちなんだ様々なものがごちゃっと雑多に並んでいて、ちょっとした宝探しのよう。綺麗な桜アクセサリーや桜和雑貨、何に使うかわからない不思議道具まで、掘り出し物が沢山。
妖怪職人による、ストールの桜染め体験や、桜の花びらを閉じ込めたハーバリウム作り、チャームやブレスレットなど好きな種類のアクセサリーを、好きな色の組紐や摘まみ細工の桜で作れる桜アクセサリー作りなどのお花見ワークショップであったり。
桜ラムネ一気飲み大会などの愉快なものまであるというので、参加してみるのもいいだろう。
そして星詠みによれば、この祭りには悪戯が過ぎる怪異が潜んでいるようだが。
祭りで盛り上がっている人々の多い公園で戦闘になるのは得策ではなく、怪異も人が減るまでは次のターゲットを見定めながら大人しく潜んでいるという。
隠れるのが上手だという怪異に討伐に来ていると気付かれれば、逃げられてしまうかもしれないし。
怪異の封印を解いた唆された彼もこの祭りにきているというが、祭りを楽しんで盛り上げれば、きっと気分も晴れるだろうから。
だから――見ざる、言わざる、聞かざる。何も知らぬ顔をして、夜祭りを目一杯楽しむ客を装うのがいいだろう。
仄かに照る夜の桜を楽しんでいれば、きっと怪異の尻尾は掴めるだろうから。
人の賑わいから離れたその場所にも満開に咲き誇る、美しい夜桜たち。
灯火に仄か照らされた薄紅の彩りは、はらりひらりと、春の宵を幻想的に染め上げていて。
その光景は目を奪われるほどなのだけれど。
でも、ヴェーロ・ポータル(紫炎・h02959)の目を何よりも惹いたのは、薄明りの下に立つ彼女の姿。
そしてリリアーニャ・リアディオ(深淵の爪先・h00102)も、自分の元へと真っ直ぐに歩んでくる彼へと向けた鮮やかな碧の瞳を、嬉し気に綻ばせる。
……ああ、ちゃんと見つけてくれたのね、って。
いや、でも、見つけてくれただけではなくて。
「……おや、今日は一段と美しい。特別な準備をしてくれたのですか?」
向けられた言葉にぱちりと瞬けば、瞼を彩るラメもきらり。
「今夜の為に少しだけね」
ちょっぴり特別な煌めきに気付いてくれたことにそう微笑み、リリアーニャはその手を伸ばす。
……さ、行きましょうか? って。
そっと手を取ってくれた彼と、手と手を繋いで。
そして桜色が降り積もる春の夜道を並んで歩き出しながら。
「今日は友人とお出かけをしていたそうですね」
「ええ、今つけているコスメも友達と買ったのよ。お揃いの春限定の桜コスメなの」
「よく似合っています。限定と言われれば、余計に心惹かれますね」
「そうなの、迷いながら友達と色々試してみるのも楽しかったのだけど」
今日これまでのことをお喋りしつつ辿り着いたのは、活気と美味しそうな匂いに溢れた、屋台が並ぶ公園の広場。
そんな賑わいの中心を歩きながら、たまにふと足を止めたりして。
「屋台のメニューも、春らしい限定のものが多くあるのですね」
「やっぱり限定のものは人気みたいね」
目に付いたものについて話したり、他愛もない会話を交わしては、色々と見て回る。
いや、このような人混みは、正直あまり得意じゃないというリリアーニャなのだけれど。
彼と手を繋ぎ直したり身を寄せたりすれば、心もほっと安心するし。
何より、こうやって一緒に、春の賑わいを巡る時間は楽しいって思う。
ヴェーロも彼女と一緒に屋台を見て回りながらも咲くのは、ほっこりとした気持ち。
……ちょっとしたお喋りを楽しむ時間が心地よい、って。
そして少し歩いた後は、また静かな場所でひと休みすることにして。
一緒に夜桜を眺めながら堪能するのは……少しだけだから、と。
リリアーニャが強請ったお酒。勿論、屋台で買った春限定。
そんな春の味わいを手に、花見酒とふたり洒落込むのだけれど。
でもやっぱりすぐに頬を染めてふわふわと。
「……月も桜も綺麗」
リリアーニャが桜空を仰げば、ふと隣から届く声。
「桜より綺麗、なんて、月並みかな」
そして瞳を彼へと移し向ければ、ぱちりと合う視線。
だって、桜を見上げる彼女の横顔が光に浮かんで……ヴェーロは目を奪われてしまっていたから。
それからふわりと、桜色に染まった笑みをそっと開き咲かせながら。
「……ね、これからどの季節の花を見ても、同じように言ってくれる?」
リリアーニャは花弁が舞う中、再びそんなお強請りを。
……そうだといいなと、願いを込めて。
でもそれは、きっとまた近いうちに叶うはず。
だってヴェーロも、胸に咲き灯る思いをこう告げるだから。
……この先も、廻る季節の中で貴女と同じ景色を分かち合いたい、って。
夜が訪れれば、見事に満開を迎えた桜は幻想的な彩りを纏う。燈された灯火の輝きを纏って。
そしてそんな春の夜、ふたり並んで歩くのは、沢山の屋台が並んだ祭りの風景。
活気溢れる声と漂う美味しそうな香りに思わず、ふらり誘われそうになりながらも。
「桜色モクテルと、食べ物何か二人分用意したいところですね」
屍累・廻(全てを見通す眼・h06317)は並ぶ屋台へとくるり視線を巡らせて。
「桜色モクテルなんてお洒落ですね、大人になった気分」
桜良・ひな(春の呪詛・h06323)も、桜とお揃いの色をした髪をふんわりふわり。
まるで今の気持ちと同じように、春の夜に躍らせて。
大人になったみたいで、ドキドキしちゃうけれど。
でもやっぱりそわそわ目がいってしまうのは、夜桜のお祭りならではのグルメ。
そして美味しそうな匂いに誘われるまま、食べ物の屋台をひなが軽く見ている間に。
おや、これは……なんて。
「こんなアイテムまであるんですね」
廻の気をふとひいたのは、食べ物とはまた違った屋台。
それからひとつ買ってみてから、戻ってきた彼女へと向けた金の瞳を細めて。
「ひなさん、何か食べたいもの見つかりましたか?」
「えっと……夜桜イカタコ焼きと、あっ、黒糖ドーナツも美味しそう!」
そうくるりと新緑のような瞳で目移りしている彼女の頭に、すちゃり。
「あぁ、それと……光る桜ねこ耳を頭につけてあげますね。ふふ、似合っていますよ」
ぴかぴかにゃーんと、不意打ちのアイテム――そう、光る桜ねこ耳を。
そして、急につけられた桜色猫耳に、ぱちりと瞬いた後。
「わぁ、可愛い! ありがとうございます、廻先輩っ」
ぱあっと笑みを綻ばせたひなは、嬉しそうにはにかむ。
そんな様子に再びそっと目を細めた後。
「あの辺なら、ゆっくり二人で座れそうですよ」
桜花弁のじゅうたんが敷かれた、空いてるスペースへ。
人混みではぐれないようにと、彼女の手を取って。
そんな感じる手のぬくもりに、ひなは顔が赤くなってしまう。
そして繋がれた手をきゅっと握り返すのは、ほんのり恨めしく思うから。
ふわり密かに綻ぶ嬉しさと、胸に咲いた恋心を刺激してくる先輩を。
それからふたり腰掛ければ――夜桜の下ではじまるのは、ちょっとした交換会。
昼間、妖怪百貨店で別行動をしている時に、互いに買っておいたもの。
「これは、桜とイニシャルの入ったネックレスですか」
ひなが廻へと贈るのは、桜のトップにイニシャルが入っているネックレス。
そんな彼女が選んでくれた桜を眺めれば。
「結構シンプルで、けれど可愛すぎないので付けやすそうですね」
「えへへ、喜んでもらえてよかったです」
「ありがとうございます。早速、付けさせてもらいますね」
そっと首元にも桜花を咲かせて。
ひなの胸が高鳴るのは、桜の交換こも勿論なのだけれど。
「廻先輩は……桜モチーフのヘアゴムとネックレス? 可愛い……! 大切にします!」
お互いに、ネックレスを選んだ偶然に。
それから、傍らの彼女にも咲いた桜を見た後、廻はふいに天を仰いで。
「こうして誰かと夜桜を楽しむ日が来るなんて思いませんでした」
「そうなんですか? じゃあ、初めてを私とですね」
「今日はゆっくり楽しみましょう」
そう告げる彼はやっぱり、恋心を刺激してくる罪な先輩。
それに勿論、仄かに燈る淡い気持ちだけじゃなくて。
「はいっ、買ったものも食べましょ?」」
「妖怪百貨店で、ひなさんに桜色メロンパンも買っておいたんです」
「わ、可愛くて美味しそう!」
ひながわくわく眺めるのは、美味しさ爛漫の桜。
そっと向けられた彼の声に頷きつつ――大好きな桜を大好きな人と見られる幸せを、噛み締めながら。
ふわふわな毛並みにも、舞い降ってきた花弁がひらり、ひらひら。
そんな桜色に飾られた、白いワンちゃんみたいなハニーを連れて。
「のんびり夜の花見もええもんやねぇ」
ネム・レム(半人半妖の駄菓子屋店主・h02004)はそう、夜空に浮かび上がる幻想的な桜を見上げた後。
ふと屋台に目を向ければ、わくわく擽られる好奇心。
「なんやおもろそうなんもあんなぁ」
美味しそうな食べ物も、桜や春を思わせるような限定のものも多いのだけれど。
ネムがふと見つけて手を伸ばしたのは、桜は桜でも。
「あっ、これとかハニーに似合いそうやん」
そう――ぴかぴか光る、桜カチューシャ!
そしてすちゃりと、ふわふわな頭にそれを飾ってあげれば。
満足げに、こくり。
「かいらしい桜の妖精さんみたいやねぇ」
それから、光る桜がはしゃぐようにみょんみょん揺れる様を見れば、笑み咲かせる。
……ハニーがご機嫌さんでネムちゃんもうれしいわぁ、って。
でも、ネムはふと、こうも思うのだった。
(「やけどハニーにだけやと他の子が拗ねてまうやろか……」)
だから――なんか他に……と。
桜をぴこぴこ揺らすご機嫌なハニーを連れて、他の屋台を見て回れば。
「この洒落とる首輪……すたいいうの? これにしよか」
でも、沢山の色や柄があって目移りしちゃうから。
「せっかくやから桜のを……ハニーはどれがええ思う?」
品物が見えるよう小さな体をわふっと抱えれば――ぽふ、ぽふり、ぽふん。
小さな前足が選ぶのは、ひらひらとまるで花弁みたいなデザインの、桜のワンポイントが咲いた春色スタイ。
それを……色違いのお揃いでどう? なんて言わんばかりに見つめてくるハニーに。
「どれもかいらしなぁ……さすがやでハニー」
ネムはそう言いつつ、迷わずみんなの分お買い上げ!
それから、猫さんや狐さんや蛇さん、どの子にどの色がいいかなんて考えながらも、戦利品にほくほく。
「みんなでお洒落しとる姿見るのん楽しみやわぁ」
やっぱりぴかぴかご機嫌に揺れる、光る桜に瞳を細めながら……ハニーのと他の子のと、お土産たくさんや、って。
ひらりくるくる、灯火を纏っては輝く夜の桜花弁も気侭だけれど。
舞い降る春の彩りの中を歩む白・琥珀(一に焦がれ一を求めず・h00174)も、見つめる彩りや姿はその時の気分。
今日の彼は、接客される側だから、青年の姿をとっているものの。そもそも琥珀にとって、性別は飾り程度のものだ。
とはいえ、その見た目は若々しいのだが……でも、やはり。
「夜桜と言えば酒盛りだと言える」
――だからもちろん目指すのは屋台バー、と。
そういそいそ嬉々と向かう姿は、のんべぇな爺を思わせる……気がする。
何せ琥珀は、実際はかなりの年月を過ごしているのだから。
そして花見酒と洒落込むのならばと、まず向かうのは。
「ただしその前にいくつかつまみになりそうな食い物を見繕ってからだな」
酒にぴったりな肴は必須ですから。
屋台をぐるりと回ってみて、つまみになりそうなものをいくつか調達すれば。
屋台バーへと満を持して向かって、やはりまずは――とりあえずビールから。
ビールはビールでも、桜の彩りと香を纏う桜ビールで開幕した、気侭な春の酒宴なわけなのだけれども。
「次はどうするかな……」
琥珀は狭い屋台に犇めくように並べられた酒たちをくるりと眺めてみつつ。
(「結構他の香りのするビールは好きだから続けて頼んでもいいんだが」)
でもやはり、いろいろ呑めるときに吞みたいのがのんべぇ根性。
だからビール以外のものにしてみることにして、ふと次に見つめるのは「桜舞」という名を冠する酒。
だが、そんな日本酒もいいのだけれど……今の琥珀の気を、もっとひいたのは。
(「オリジナルカクテルもいいな。俺は人に聞く自分の印象ってのは結構好きでな」)
……自分が思ってるのとの違いに結構新鮮味を感じたりする、と。
そう思えば、こくりとひとつ頷いてから。
「うんそうだな、カクテルを頼もう」
「どんなカクテルにしましょうか?」
「自分は本体がロイヤルアンバーの勾玉の付喪神だ。今の見た目からでもいいし、本体イメージからでもいい。好きに作ってくれ」
どのようなカクテルが出てくるか、わくわくとつまみを口に運びながら待てば。
黄色から緑そして青へと、色が移ろうグラデーションが綺麗な、柚子リキュールにオレンジジュース、ブルーキュラソーをメインに使ったカクテル。
それに添えられているのは、くるりと開いた、小さくてかわいい和傘のピック。
そして、口にしてみれば――ふわりと感じる桜の香。
そう、先程見ていた日本酒「桜舞」が隠し味の、和カクテル。
春の彩りの中を歩くその姿は、うきうきと楽し気なのだけれど。
ツァガンハル・フフムス(忘れじのトゥルルトゥ・h01140)は勿論、また綺麗に忘れてしまっていて。
でも、それももう慣れっこだし、それに何よりも。
「おお、賑やかな「まつり」だなぁ」
まつり――そう道行く人が言っているのを聞きながら歩けば。
仄かに覚えのある雰囲気に、心も弾むから。
そしてふと、とある屋台に目が留まって。
「あの輪っかみたいなの、思い出せないけどなんかすごく食べたいぞ……!」
他にも美味しそうなものは沢山あるのだけれど、ツァガンハルの心を離さないのは、屋台に並ぶ輪っかみたいなもの。
そして、ふらふら引き寄せられる途中――ぽすん、と。
小さな衝撃を感じた足元に、目を向けてみれば……桜色のぴかぴか猫さん?
いや、よく見れば、光る桜ねこ耳をぴこりとつけたちっこいやつ。
それからぱちりと目があえば、きょとりとして首を傾けてしまう。
その光る桜ねこ耳のちびっこが、わぁんっと泣き出したのだから。
でも、何で泣かれたのか、わからなくて。自分が泣きたくなるようなことを考えてみれば。
「どーした、「はらへり」か?」
そう同じ目線に屈んで訊いてみるツァガンハルだけれど。
「違う? ああ、「まいご」なのか……って。なんだ、オレはでっかいけど怖くないぞ! ……たぶん!」
ふるふる首を振っては、まいご、とだけ精一杯発した子は、大きな自分にちょっぴりびびっているようだと。
理由が色々となんとなくわかれば、しゃがんだまま笑いかけて。
「じゃあさ、一緒にアレ食べながら探そうぜ」
指差すのは勿論、めちゃめちゃ気になっている輪っかのやつ。
そんな指先を目でそろりと追った子は、ドーナツ、と口にしつつ泣き止んだから。
すかさず輪っかを手帳に描いて、ドーナツ、とその名前もちゃんと書き記してから。
「うおお、すっげえうまいな「ドーナツ」!」
桜のドーナツを並んではむはむ一緒に食べれば、すっかりちっこいのとも仲良しに。
だから、輪っかの名前を教えてくれたお礼に肩車!
キャッキャ喜ぶちびっこの姿を見れば、嬉しくなるし。
「誰か近寄ってくる……あんたさんの親か!」
……うはは、でっかくて良かった、って。
大きいから目立ったことで、無事に親も見つかりました!
そして手を振って見送った後、ツァガンハルは上機嫌で手帳を開いて。
すっげえうまい輪っかことドーナツの絵の横に、ばっちり記しておく――『まいごをたすけた』! って。
桜花弁が舞い降る公園を、足早に歩きながら。
「ふう、なんとか仕事終わらせてきた」
そう言葉を零すのは、仕事を片付けてやって来た藤原・菫(気高き紫の花・h05002)。
その足が逸るように速度をあげるのは、先に来ている3人を待たせてしまっているから。
だって菫が抱えているのは、皆の分作ったお弁当なのだから。
ということで、急ぎ、お花見の会場へと足を踏み入れた菫の姿を見つけて。
一瞬ぱちりと瞳を瞬かせ、桐生・綾音(真紅の疾風・h01388)と桐生・彩綾(青碧の薫風・h01453)が思わず紡ぐのは、同じ言葉。
「あ、菫さん来た……凄い荷物じゃない?」
「菫さん来たね。凄い荷物だね」
確かに皆の分のお弁当の量は、それなりに多いだろうが。
それにしても、菫の荷物が凄い量だと思うのは、きっとふたりの気のせいではない。
けれどそれはそれとして、綾音と彩綾も迎えにいきがてら、賑やかな屋台でスイーツや飲み物は調達済。
「よし、ドーナッツとカヌレとサイダー買った!!」
「桜の下にシートをしいて昴さん準備してくれてるから行こう。荷物持つよ」
そうまずは出迎えに出てきた綾音と彩綾の言葉や姿をみれば、菫は瞳を柔く細める。
ふたりが持っている美味しそうなお菓子をみれば、楽しんでるようでよかった、という気持ちになるから。
そして向かうのは、先程から話に出ている彼が待つ、桜の木の下。
「昴がきっちり場所を確保してくれてるというのでいこうか」
そう菫も、綾音と彩綾と一緒に、春の夜道を歩んでいる頃。
(「まあ、楽しんでれば目的の怪異は尻尾を掴めるというので星詠みの言うとおり夜を存分に楽しく過ごそうか」)
海棠・昴(紫の明星・h06510)はそう思いながらも、視線を巡らせて。
「姉さんは綾音と彩綾が迎えにいったのでベストなところに場所を確保しないとな」
燈された提灯の光を纏う満開の夜桜が綺麗に見える場所を見つけて。
その桜の木の下にシートを敷いて準備をしつつ、3人を待てば。
やって来る菫を遠くに見つけた昴は、やはりまず思ったことは、綾音や彩綾と同じ。
「姉さん、随分な荷物になったな」
でもそれは、昴にはある程度分かっていることでもあったから。
だって、無事に皆で合流して、シートの上に早速並べられていくお弁当を見れば。
「お弁当は各種海苔巻きと卵焼き、鶏唐揚げ、豚肉のロール巻き、各種サンドイッチ、エビフライ?」
「海苔巻きも種類あるし、たまご焼き、鶏唐揚げ、豚肉のロール巻き、エビフライ?」
彩綾と綾音はびっくりしちゃって。
「流石菫さんと昴さんが組むと最強だ」
「凄い……これ、昴さんのお手伝いないとダメだね」
「まあ、海苔巻きと卵焼きと鳥の唐揚げだけでもいいのに姉さんが更に作りたいというから」
「ああ、折角の4人の花見なので昴と張り切った。まあ、巻き寿司とサンドイッチはさすがに分担したね」
昴もさすがに手伝ったのだという、菫お手製弁当はまさに美味絢爛。
「サンドイッチは昴の方が作り慣れてる。よく会社の作業の時に差し入れてもらってるしね」
「まあ、サンドイッチは俺は作りなれてるな」
菫もお墨付きのサンドイッチを綾音は手にして、はむり。
もぐもぐと味わえば――今宵の桜のように、灯篭の光を仄か纏う笑みを宿す。
「うん、おいしいよ。そしてとっても幸せだよ」
それに彩綾も続いて、花見弁当を美味しくいただけば。
「昴さんに料理習ってるけどいつかはこういう豪華なお弁当作れるようになるかなあ」
「え? 彩綾も昴さんに料理習ってるの? 私も菫さんに習うかな」
今度は料理を習って、自分達の手料理をいつか振舞う番がくればいいなって思う。
眼前の豪華な菫のお弁当へと箸を伸ばしながら、その美味しさに舌鼓を打ちつつ。
そして沢山の品々を並べた花見弁当を完食すれば、ご馳走様……のその前に。
(「桜灯ソーダを飲みながらドーナッツとカヌレを食べる!!」)
勿論、食後のデザートと飲み物は欠かせませんから!
ドーナッツとカヌレを食べながら、4人で飲むのは春灯ソーダ。
それから彩綾と綾音は、昴と菫を見つつも、改めてこう口にする。
「菫さんと昴さんが並んでいるのをみてると本当そっくりだなあと思う」
「私と彩綾も良く似てると言われるけど、菫さんと昴さんも良く似てるよね。こうして並んでるのをみてると」
だがそんな言葉にも、どこか慣れたように。
「まあ、小さい頃から言われてるな」
「まあ9歳も離れてるが、並んでると姉弟にしか見えないと良く言われる」
「従姉弟だからだろうけど、知的で世話好きなところとか。笑顔も似てるよね」
そっくりだと言う姉妹の言葉に菫が微笑めば、昴も頷きながらもこう続けるのだった。
「従姉弟のはずだが実の姉弟のように似てると。とても嬉しくて光栄に思ってるぜ」
……姉さんも悪い気はしないだろう、なんて。
ゆうらり手元で揺れる夜色に、ふわりと浮かぶ桜花弁。
それはまるで、今ふたり並んで眺めている桜の夜空の様で。
夜桜を望む屋台バーで、花喰・小鳥(夢渡りのフリージア・h01076)と揃いで注文した和カクテル・春灯を手に。
「ほい乾杯。今日はお誘いありがとよ」
天國・巽(同族殺し・h02437)は、彼女とグラスを重ね合う。
そして乾杯を済ませ、カクテルを口に含めば、仄か桜の香がして。
片手は恋人繋ぎのまま、暫くはとくに会話もせずに、春の夜のひとときをただ共に過ごす。
それから、眼前の夜を思わせる春灯を花弁ごと飲み干せば、次は桜舞。
春の如き柔らかさを纏った味わいの日本酒をくいっとやりながらも、巽はすぐ隣にいる小鳥へとそっと目を向ける。
夜桜を照らす燈籠の明かりが、満開に咲く桜だけでなく、彼女の白い面も照らし出して。
不思議な女だと、思う。
そしたら刹那、ふいに向けられた赤と視線が重なったから。
「ん? ああ、いや。なんでもねェよ」
桜舞を再び口に運びながらも、敢えてこう思ったなんてことは言わないでおく。
……なんでこんなに、俺のことなんざ気に入ってくれてんのかね、なんて。
そして桜舞も飲み終われば、次は――といきたいところだけれど。
でも、これでおしまい。だって、飲み過ぎると眠くなるから。
「そうさねェ、二杯くれェで止めとくか」
「酔い潰れても巽さんがいるから安心なんですけど」
その美貌にふわりと綺麗に咲いた無防備な小鳥の笑みは、信頼と好意の証。
じわり互いの体温がまざりあう、手のひらと肩のぬくもりが心地よくて。
そんな熱にこそ、浮かされて酔い痴れてしまいそうなくらいだけれど。
「一応このあと、悪さする妖怪の尻を叩いてやらねェとならねェからな」
此処を訪れた任務を忘れない今くらいのほろ酔いが、きっと丁度良い。
そして小鳥は、懐から出したそれを巽にも一本お裾分け。ふと、煙草が吸いたくなって。
それから小鳥は、自分の煙草には燐火で火を着けてから。
差し出した一本を咥えた巽にも火を分けてあげる――顔を寄せて、シガレットキスで。
そんな人間災厄の胸に燃える炎を、巽はほんの少し貰って。
「ありがとよ」
花を照らす月の如き目を細めて静かに微笑む。
そんな耳を擽るように紡がれた声に、小鳥は笑み返して。
「怪異の悪戯よりは赦されるでしょう?」
春の夜に燻る二人の紫煙が混じり合っては、桜咲く喧騒に溶けていく。
それから、こんな花見酒にずっと興じているのも、いいかもしれないけれど。
「一服つけたら夜桜あんみつでも食いにいかねェ? もちっと腹に入れておきてェわ」
巽が持ち掛けるのは、そんな提案。
それからあと――お目当ては、もうひとつ。
「それと桜カチューシャもな、買ってやるからつけててくれよ」
小鳥も、彼の夜桜あんみつの提案には、頷いて返すものの。
「でも、カチューシャなんてどうしたんです?」
そうこてりと首を傾げるのだけれど。
「あン? 決まってるだろ」
……お前がつけた姿を見てェからだよ、って。
言い切る彼の言葉に浮かべたのは、そう、春の夜に花咲くような笑み。
昼に巡った百貨店にも、色々な楽しい桜が満開だったけれど。
「桜、すごい……!」
「夜の桜も綺麗ね……」
公園内に足を踏み入れれば、まさに息を飲むほどの夜桜が咲き誇っていて。
空廼・皓(春の歌・h04840)は尻尾をふりふり、白椛・氷菜(雪涙・h04711)へと視線を移せば。
「氷菜、どこにする?」
「公園で少し静かな所が良いかな、穴場探しね。展望台は食べ終わったら行ってみたい……」
賑やかな百貨店も楽しめたのだけれど、でもやっぱり、静かなところが好きだから。
桜花弁が降る春の夜を巡って、いざ穴場探し――。
「あ、その前に、何か屋台見る?」
「うん、まず飲み物買おう」
……の前に、夜桜を楽しむ準備を。
まずは飲み物が売っている屋台を見てみることにするのだけれど。
「屋台も沢山……」
「飲み物も……たくさん、あるね? 何にしよ……夜限定のもある、みたい?」
並ぶ屋台も沢山で、飲み物の種類もいっぱい。
だから皓はきょろりと、困った様子をみせるも。
「氷菜、は?」
「私は……昼からの屋台で桜ストロベリーラテで」
「なる、ほど……それも美味しそう」
氷菜の言葉を参考に、夜とか限定とかとりあえず関係なく、気になったものを選んでみる。
「俺も夜限定じゃない、けど。桜空苺サイダーにする」
そして選んだ桜空のいろをした苺サイダーを受け取れば、お耳がぴこり。
「……しゅわしゅわ」
そんなじいとしゅわしゅわを見つめる様子と、ふりふりと揺れる尻尾を見れば、氷菜は瞳を細める。
「晧、しゅわしゅわが気に入ったのね」
甘やかな春色をした桜ストロベリーラテを受け取りながら。
それから飲み物も無事調達し終われば、桜色の絨毯が染める春の夜の道を歩いて。
「ここ、落ち着いて桜も弁当も楽しめそう」
静かにお花見を楽しめそうな穴場を見つければ、シートを敷いて。
氷菜もシートには御礼を言ってから、皓と共に座って。
「乾杯、してみる?」
桜色のサイダーを掲げる皓に合わせて、ラテも掲げて――乾杯。
それからひとくち、それぞれ飲んでみれば。
「ん、ほっとする味」
「……しゅわしゅわ」
そんな乾杯が終われば、おなかもすいているから。
昼に百貨店で買ったごはんを、わくわく御開帳。
「わ、綺麗……」
「わっすごい……妖怪花見弁当やっぱり豪華、だ」
氷菜の春彩ちらし寿司は彩り華やかでまさに美味爛漫。
皓の妖怪花見弁当も、楽しいと美味しいがぎゅっと詰まっていて。
「氷菜のも綺麗」
そう相手の花見弁当にも目を向けた後、ミートボールをぱくと頬張れば……うん美味しい、って。
やっぱり尻尾がゆらゆら。
「酢飯も良い具合で美味しい」
氷菜の春彩ちらし寿司も見た目だけではなく、酢飯も絶妙な塩梅でとても美味。
でもひとりで楽しむより、ふたりで楽しむほうがきっと、嬉しくて美味しいから。
「晧、お弁当の蓋貸して、お裾分けするから」
「氷菜もどれか食べる?」
「じゃあ…蒟蒻の煮付け、一つ貰っても良い?」
交換こしたものを、一緒にぱくりと口にすれば。
「交換した寿司も美味しい、よ」
「……蒟蒻もしみしみ」
あまり感情を大きく表に出すふたりではないのだけれど。
春の美味を味わいながら、ほわほわと綻んで。
花見弁当を堪能した後は、デザートトがてらに桜メロンパンをぱく。
「甘くて美味しい……氷菜も食べて」
勿論、氷菜にもお裾分けして。
皓からひとくち貰って、食べてみれば。
「うん、甘さが程良くてラテとも合うわ」
口に広がるのはやっぱり、優しくて甘い春のような味。
それからおなかも満たされて、ふと氷菜は樹を見上げて。
そっと伸ばした手の中に招き入れる。
「あっ花びら」
ひらり降って来たひとひらを掌で受けて。
それを見た皓の尻尾は、ゆらゆらご機嫌。
「雪女に桜、あり、だ」
「ん? ……春と場違いな気がしてたけど、良いのかな」
でも……晧も居るしね、って。
嬉しそうな姿を見れば、良いかなって思う。
ふりふり尻尾を振る彼に降る桜花弁たちは、春に舞う雪の様にも見えるから。
花とは縁は深いのだけれど、冬菫と常磐のいろにも、はらりひらり。
「わぁ、綺麗な夜桜だね」
灯火に耀う桜花弁たちを舞い降らせながら。
花七五三・椿斬(椿寿・h06995)は天を仰ぎ、言の葉を咲かせる。
これが……春の夜……、と。
そして、赤椿咲かせた雪玉のようなもふもふな相棒を指先にとまらせれば、桜に染った夜をひらりと舞う。
「僕の住処はいつも冬だから……新鮮だな」
桜花弁たちと戯れるように、六花を連れて。
そんな椿斬にとっては、見るものも彩りも咲く花も、普段知っているものとはちょっぴり違って。
「何を食べよう。この夜桜カヌレは初めて見た、このたこ焼きも」
わくわくな気持ちを咲かせながら、屋台を巡っていく……気になるものは全部楽しみたいね! って。
それから、買ってみたものをそっと食べてみれば。
「六花、これも美味しいよ?」
ぱっと花笑んで、六花にも、お裾分けの半分こ。
しゅわり弾ける桜ソーダも飲みながら、勿論もっとたくさん、色々なことを目一杯楽しむつもり。
花も美味もお祭りの空気も、どれも全部。
そしてふと目に留まったのは、食べ物系ではなさそうな出店。
何の店だろうと、六花と一緒に覗いてみれば。
「これは……桜のつまみ細工が作れるの?」
花のつまみ細工が作れるのだというから。
「丁度いいね。羽団扇の飾りが欲しかったんだ」
当然、挑戦してみることに。ちゅんとやる気を見せる六花と一緒に。
そして頑張って楽しく作業を進めて、出来上がり。
ころんと掌の上にふたつ咲かせるのは、可愛いつまみ細工の桜たち。
そんな賑やかな屋台が並ぶ公園の広場も、楽しくて心躍るのだけれど。
でも椿斬が足を向けたのは、人の少ない小高い場所。
そして静かに夜桜を眺めながら、胸に花開く想いをそっと零れ咲かせる。
「……いつか、兄様とも来られたらいいのにな」
でも、わかってもいるのだ。
それはきっと……春の夜の夢のような、儚い願いだということは。
けれどそれでも、椿斬は春の宵に想い願う。桜舞う夜風にゆらり、つまみ細工の桜を揺らしながら。
明るい間は、百貨店に咲く色々な桜を見て回ったのだけれど。
日が落ちる頃、緇・カナト(hellhound・h02325)は公園に向かいながらわくわく。
だって、これからの時間は、旅団の皆とも合流して夜桜見物。
そんな数多の灯篭に浮かび上がる夜桜のお花見も、勿論楽しみなのだけれど。
でもやはり、カナトが楽しみにしちゃうのは、これ。
(「はじまる『春灯祭』の色々屋台がやっぱり楽しみに〜」)
賑やかなお祭りの屋台で、どんな美味しい春に出会えるのか。そう思えばもっと心躍ってしまう。
そして、合流した霓裳・エイル(夢騙アイロニー・h02410)と廻里・りり(綴・h01760)も。
「夜桜やっぱり綺麗っすね……! 昼の風情とは違って屋台のメニューがまた最高」
「どれも美味しそうで目移りしちゃいます!」
花もだけれど、どちらかといえばカナトと同じように、かなり団子寄り……?
いえ、楽しむのは花も団子も勿論、そしてそれだけではなくて。
「来る時、ポン酒ゲットした。めちゃくちゃ美味しかった」
そう、花見酒! それは大人限定の楽しみ方……というか。
野分・時雨(初嵐・h00536)は合流前からすでにもう、堪能済です!?
ということで、ひらひらひらりと花弁が舞う桜色の春の夜を、皆でふらふらふらりと。
早速まず巡ってみるのはやはり、屋台が沢山並ぶ公園の広場。
けれど、あれもこれも美味しそうで。
「気になる夜桜イカタコ焼きは絶対に買いだけども、光る春灯ソーダもお洒落な雰囲気」
「夜桜イカタコ焼き、一番目をひかれちゃいました」
目移りしちゃって、いっそのこと全制覇――。
「全制覇は無理だって。お腹爆発しますよ」
「全制覇……は確かにキツそう」
……は、確かにちょっとおなかがパンパンになって、時雨の言うようにもしかして爆破するかもしれないから。
エイルもそれに同意するけれど、でも、ふと閃いたのはこんな作戦。
「イカタコ焼き……カナト君半分ことか平気な人?」
「お裾分け半分こは勿論〜」
「胃袋借りるっす!」
「ちょっとずつお裾分けするの素敵ですね」
りりもそんな名案にほわりと笑み咲かせて。
きょろりと視線を巡らせれば、気になる甘やかな春を発見。
「わたしは甘いものが食べたいので……夜桜あんみつにしようかな」
そんな声を聞けば、エイルが向ける桜色のプリズムもいっそうキラキラ。
「あ、りり君あんみつ私も食べたいっす! 一緒に買おう?」
「エイルさんおそろいで買いましょう!」
「桜の下であんみつとか贅沢すぎる〜」
ほくほくキャッキャ、夜桜あんみつを一緒に購入して、仲良くお揃い!
満開桜の下で並んで食べる夜桜あんみつの味は格別です。
そして、甘い物好きだというりりに、時雨は視線を向けてから。
「りりちゃん甘党さん? 餡のとこだけちょっとだけください」
夜桜あんみつの餡子をちょっぴりお強請り。
そんなお願いにすぐに頷いて返すりりだけど、ふと首を傾ける。
「時雨さん餡だけですか? 白玉もどうぞっ」
「白玉はメインでしょ、食べな~」
そう言ってくれる言葉に笑んで、りりは餡と白玉を一緒にひと掬い。
「わけっこした方がおいしさアップなので!」
ころんと入った白玉は、わけっこしてもまだちゃんと残っているから。
そしてそんなお裾分けをはむりともらった後。
「屋台の香りって良いですよねぃ」
時雨はそこかしこから漂う美味しそうな匂いにつられるように、瞳をくるり巡らせるけれど。
でも先程、彼自身が言っていたように、全制覇は到底無理だから。
「カナトさん一通り食べて。美味しかったやつください」
しれっと立てた作戦は、自分のおなかは温存しておいてからの、いいとこ取り!
そんな時雨の声に、カナトはあ~んとひとつ差し出す。
それは出来立ての夜桜イカタコ焼き。そう、出来立てである。
というわけで。
(「時雨君にあ〜んして熱々お見舞いしようかァ」)
カナトが差し出した夜桜イカタコ焼きを、時雨はぱくりっ。
「……あっついさいあく!」
思わず悶えてしまうほどの熱々さを浴びて、はふはふ口の中が一大事になるのだけれど。
「時雨君、桜ゼリー分けたげるっすよ!」
エイルから桜ゼリーを貰って、すかさず火傷寸前の口の中に突っ込んでもらえば……ぷしゅうっと。
「お口冷やせた?」
「エイルちゃんからもらったゼリー、冷え冷え」
無事になんとか、熱々だった口の中も冷え冷えに。
そう、だって今日のエイルは――とことんよんぶんこ、な気分で。
よんぶんこと、そして沢山のお裾分けも忘れずに。
「夜桜カヌレは大鍋堂のお土産に!」
見つけてしっかりとゲットしたお土産は、春のデコが咲き誇る夜桜カヌレ。
そんな皆が選ぶものを見れば、カナトはこう気付くのだった。
「りりさんの餡蜜も、エイルさんのカヌレも、幸せ気分になれそうだよねぇ」
……甘いもの沢山、と。
そして甘やかで美味しい桜をいっぱい堪能すれば。
「さて! 乾杯しましょ」
「若干1名の酒飲みたがりサンが……」
足を運んでみた屋台バーで、開口一番嬉々と言った時雨に、カナトはそう呟いてから。
「モクテル有だったら皆んなで乾杯も出来そう?」
まだ年齢的にお酒が飲めないエイルとりりでも大丈夫な、モクテルもあるという話だから。
「ふふっお酒を飲めるのはまだ先っすけど、モクテルで気分だけはご一緒に」
「夜に桜を見ながらの乾杯なんて、ちょこっとおとなの仲間入りな気分です」
ちょっぴり大人気分で、アルコールが入っていないカクテルをわくわく頼んでみることにして。
でも、どんな種類でどのような味かは、わからないのだけれど。
「レッドムーンとかシャーリーテンプルも、赤系見た目で桜っぽさがあるような」
「カクテルのお名前っておしゃれなんですねぇ」
そうカナトに色々教わりながら、りりは感心するように言った後。
……ご希望のイメージ伝えて素敵な一杯を、と。
時雨はバーの楽しみ方を教えるように紡ぎながらも、彼自身が選んだ一杯は。
「せっかくなんで春灯いただこうかな」
「悩んじゃいますけど、モクテルにできるのなら、今日は春灯をいただきます!」
そしてりりとエイルも、ノンアルコールの春灯にして。
「オレも春色モチーフでお任せにでもしようかなぁ」
お任せにしてみたカナトのカクテルは、グラスを満たす淡い桜色にレモンピールの月がぷかりと浮かんだ、春宵のカクテル。
それから全員の手元に飲み物が揃えば。
「カンパイと思い出撮るのも忘れずに〜」
カナトの声に、皆でそれぞれグラスを手にしてから。
エイルも、春灯で舞い散る桜を掬うようにグラスを掲げたら。
――乾杯!
カチリとグラスを鳴らし合って、春のカクテルを揃って口にすれば、その味わいに酔い痴れてしまいそう。
そしてカクテルやモクテルの味もだけれど。
(「夜桜な下での風流な光景にて、其々楽しい時間が過ごせるなら何よりで」)
それから次は、カナトが言っていたこと、もうひとつ。
時雨はおもむろにすちゃりと向けられたそれに気が付いて。
「エイルちゃん。何、そのスマホ」
すかさずそう言わずにはいられなかった時雨に、エイルは悪戯っ子の顔。
「えー酔っ払い撮りたかったのに」
「ぼくそんな酔いませんよ」
そう、時雨は本人曰く、酔っぱらいではないようなのだけれど。
でもカメラを向けられれば、これしかできないのである。
「カメラ向け続けても、可愛いポーズするぼくしか撮れませんて」
「あっでも可愛い時雨君は撮れ高なので、ほらポーズポーズ!」
「では、皆様で渾身の可愛いを決めましょうか」
そうドヤ顔して言う時雨は果たして、酔っぱらいなのか、素なのか。
りりも……みなさんとの思い出もぜひ、と笑んで。
「あ、かわいいポーズ教えてください!」
時雨の可愛いポーズを参考に、真似っこして可愛いポーズ!
それからまずは一枚、ぱしゃりと可愛い写真を撮ってみて。
「写真を撮ってすぐ確認できるのって便利ですね。どんなふうに撮れたか見たいです!」
りりの可愛いチェックが済んだなら、エイルは改めて皆にお誘いの声を。
「最後は皆で一緒に撮ろ?」
そしてやはり、カメラへ向けて取るポーズは――皆でお揃い可愛い、はいぴーす!
謎の軍資金で、たっぷりすぎるほど美味しい物は確保できたし。
夜になれば、春の夜のお祭り――春灯祭もいよいよ始まる。
日が落ちた頃、妖怪達は待っていましたといわんばかりに、数多の灯篭に明かりを燈して。
昼間よりもさらに多くの屋台が開けば、賑やかな声と美味しそうな香りで溢れる公園の広場。
昼に色々と、食べ物とか食べ物とかスイーツとかを買い物している間に見た桜も、青空に映えて綺麗だったのだけれど。
春の夜に灯った明かりに照らされた、満開桜を見上げれば。
「夜のお花見、昼間とはまた違った雰囲気! 白い桜が灯りに照らされてすっごい綺麗……」
日南・カナタ(新人|警視庁異能捜査官《カミガリ》・h01454)は思わず、ほけ~~と見入ってしまって。
「昼間の桜は可愛らしいかったですけど、夜桜になるとライトアップされていたりで綺麗になりますね!」
マリー・エルデフェイ(静穏の祈り手・h03135)も、昼は団子の方を全力で楽しんだから、夜は三課の皆と花の方を満喫するつもり。
「わァ、綺麗……。夜桜、ってヤツですね……なんか、じ〜んとする感じです」
そして八手・真人(当代・蛸神の依代・h00758)も、眼前に咲き誇る夜桜にそう感激を覚えれば。
たこすけもお花見に参加するように、真人の背中からうにょり。
それから、真人はすちゃっとカメラを構えてみて。
「写真、あんまりうまくないケド……撮って、兄ちゃんにも送っとこ……」
ぱしゃりと1枚試しに撮ってみれば。
「……たこすけ、次は邪魔しないでね……!」
舞い降る桜花弁と追いかけっこしていたたこすけの、どアップショットが撮れました。
それから改めて、咲き乱れる桜を今度はちゃんとカメラに収めた後。
真人はふと、小さく首を傾ける。
「わ~、昼間とは打って変わって幻想的な雰囲気の空間になりましたね~」
「ヨシマサさん? なんか、気になるものありましたか……?」
じいと桜を見上げている、ヨシマサ・リヴィングストン(朝焼けと珈琲と、修理工・h01057)の様子に。
そして真人の言葉に、こう返しながらも。
「なんでしょう、違和感と言っては風情がないですが、不思議な気分です」
己の心の中に咲いた違和感の理由をふと追いかけてみたヨシマサは、仄かに明るい春の夜空を仰いで辿り着く。
(「……あ~、違和感の正体がわかりました」)
夜中なのに明るい風景、その感覚にはおぼえがあったのだけれど。
自分の知っているそれとは、眼前の夜は、明らかに違う気がして。
でも、自分が知っている明るい夜が何であったかに気づけば、納得したのである。
夜中なのに明るい風景、ヨシマサが知っているそれは。
(「√ウォーゾーンではほとんど夜襲があった時だからですね~…」)
けれど、暫く物思いに耽っていた自分を不思議そうに見つめる真人や他の皆には、これは黙っておくことにする。
(「せっかくの綺麗な風景を見ている時に水は差したくないですしね!」)
ヨシマサ的には、そんな√ウォーゾーンの過酷で刺激的な明るい夜は嫌いではなく、むしろ好きなのだけれど。
今目の前に広がっている、また違った桜咲く明るい夜も、皆と一緒にいっぱい楽しんでいるから。
そして、綺麗なのー! と。
「夜は夜で雰囲気変わりますねえ」
十六夜・宵(思うがままに生きる・h00457)も、笑顔でふわふわほわほわ。
正直一人じゃないから、今の彼は大分気を抜いている模様。
そんな宵のふわほわを見れば、カナタはすかさずその手を取って。
「あ、でもほら、足元は暗いからさ! 迷子にならないように手を繋いでいこうね! 宵ちゃん!」
そして……皆もちゃんとついて来てね! なんて。
張り切って言う姿は、何だか真っ先に迷子になりそうな気しかしない。
でもそんなばりばりのフラグを立てるかのようなカナタの言葉に、真人は素直に頷いて。
「そ、そうですね。迷子には気をつけないと。俺は特に……」
逸れないように、たこすけと共に皆を見失わないよう、頑張ってついていく。
それから早速、きょろきょろと。
「夜のお店も魅力的なお店いっぱいだけど……」
カナタはあっちにこっちに、あれやこれや、気を引かれてはうろうろしてしまうのだけれど。
「あ! なんかやってるよ! ワークショップだって!」
見つけたのは、ちょっぴり珍しいワークショップの屋台。
ひとつの屋台に興味が向いたことで、迷子フラグは多分折られた……みたい?
そんなカナタの視線を追ったヨシマサも、興味を示して。
「へ~、桜アクセサリー作りなんてやってるんすね。参加費もお手頃ですし、なにか作ってみましょうか」
「ね、皆で思い出に何か作って交換しようよ!」
カナタの提案に、マリーと宵も賛成!
「ワークショップでアクセサリーを作って交換しあうだなんて、とてもいいアイデアですね!」
「手作り? 交換? いいですよぉ」
「手作りの交換……いいですね、楽しそう……!」
真人もそわり、手作りの交換こと聞けばわくわくしちゃうけれど。
「お、俺、得意ではない——んですが……が、頑張りますっ」
受け取った方が、悲しくならないように……と。
頑張る気持ちとやる気を密かに咲かせつつ、ワークショップにいざ臨む。
ということで、まずは。
「えーと……何作ろうかな?」
屋台に視線を巡らせる宵の言うように、各々何を作るか、であるが。
「組紐に桜のつまみ細工組み入れてみるのは出来るかな?」
「私はつまみ細工の桜を使ったブローチでも作ろうかな」
宵とマリーは、つまみ細工の桜にしてみる。
そして、よいしょよいしょと。
「崩さないように慎重にして……」
細々丁寧に作業を進めていく宵の隣で、マリーは桜の花を3つブローチに咲かせていきながらも。
(「男性も居るから、あまり可愛らしいのはどうかと思ったけど、比較的線の細い方たちばかりだし、大丈夫でしょう!」)
桜が似合うメンツだから、思いのままに作っていくことにして。
「よし、出来たのよ」
「私も完成です!」
同じつまみ細工の桜でも、それぞれ違った趣きや彩りを咲かせた桜の出来上がり。
そしてカナタが作るのは。
「俺はね、桜の花びらを閉じ込めたバーバリウムを作って、それをキーホルダーに!」
ひらり舞い降るひとひらたちを、瓶の中に閉じ込めて。
「見て! なかなか上手に出来たでしょ!」
キーホルダーにしたから、これでいつだって、春と一緒。
ヨシマサも、春の彩り咲かせる組紐を何色か選んで。
「ボクは組紐でミサンガを作ります」
色々と合わせてみつつ、ピンときた春色の組み合わせで編んでいく。
「こういう願掛け、結構好きなんすよ」
過酷な√ウォーゾーンでは、運もかなり重要なものであるから。
そして真人もきょろりと。
「エート……無難にチャームとかが、いいかな。記念に、桜っぽい感じで……」
冒険はせず、定番の桜のチャーム作りに挑戦してみるけれど。
道具や材料を持つ手が、ぷるぷる。
「うぅ、細かい作業……緊張で、手が……」
誰かにあげるものとなれば尚のこと、緊張してしまうから。
何だか自分の作業に興味津々なようにうねるたこすけに気づいて。
「……たこすけ、絶対邪魔しないでね、絶対……!」
真人はフラグ……いえ、そう念を押して言っておく。
それから色々な意味で完成まで真人が苦労したのは、言うまでもない。
けれど全員、無事に完成したから。
次は交換こなのだけれど……屋台の人に、中が見えない袋にひとつずつ包んで貰って。
ジャンケンで勝った人から好きなものを選ぶことに。
そして、交換この結果はというと。
「私は日南さんのですね、ハーバリウムのキーホルダー、かわいいです」
「僕はマリーのなのよ。カナタンは?」
「わ、俺は、宵ちゃんの……!」
「ふふ~、ボクと真人さんはお互い交換こですね」
「……きれいなミサンガ、早速つけようかな……」
マリーのものは宵に、宵のはカナタに、カナタのハーバリウムはマリーに。
そして真人とヨシマサはお互いのを交換こ、という結果に。
それから皆とわいわい、引き続き、春灯祭を楽しみながらも。
カナタはふと夜空に浮かぶ満開の桜を見上げて、そっと思いを咲かせる。
(「こうして「俺」の記憶として思い出が出来ていくの楽しいな」)
……彼方ごめんね、もう少しだけ体貸してね、って。
まだまだ皆と、春の夜を目一杯楽しむつもりだから。
幼馴染と今見ている同じ景色は、桜花弁が舞う春の夜。
オフィーリア・ヴェルデ(新緑の歌姫・h01098)は、初めて見る本物の桜をじいと見つめてみれば。
夜空に浮かぶように映えるその姿や、満開に花が咲く木に葉がない事に、驚いたりしながらも。
わくわく心躍るまま、はしゃぎながら夜桜を目一杯堪能している。
それからお花見らしさを求め、途中の屋台で手に入れたのは、甘やかな春の宝石。
艶やかに輝く苺飴を買って、幼馴染の手を逸るように引く。
――やってみたい事があるから人の少ない所へ行きましょ、って。
そんな春宵染める桜に心躍らせる幼馴染に手を引かれるまま、クレス・ギルバート(晧霄・h01091)が辿り着いたのは、人通りが少ない公園の一角。
そしてようやく足を止めたオフィーリアへと、首を傾けて不思議そうに訊いてみる。
「リアは何をしたいんだ?」
彼女の言うやりたいこと、とは一体何なのかと。
でもその答えを聞けば、思わず一瞬瞳をぱちり。
「舞い落ちる桜の花弁を空中でキャッチ出来ると願い事が叶うんでしょ? だから、挑戦してみたくて!」
そう、それは誰でもないクレスが以前話した、桜のおまじない。
幼馴染の彼から聞いた時から、オフィーリアはいつかやってみたいと思っていたのだ。
それから、びしっとやる気満々に。
「ズルしてない証明としてちゃんと見ていてね?」
満を持して花弁舞い踊る夜空に、意気揚々と手を伸ばすその姿を見れば。
「俺は簡単に掴めるけど、リアは……まあ、頑張れ」
……転びそうになったら受け止めてやるよ、なんて。
彼女の苺飴を一旦預かりつつ、応援するクレス。
道すがらの屋台で買った葡萄飴片手に、チャレンジするその勇姿を見守ることにして。
ひらりらとちょうど目の前に降って来たひとひらに気づけば、チャンス到来!
狙いを定め、えいっと掴んでみて。そうっと手を開いて見てみるオフィーリアだけど。
むぅと首を傾ける。取れたかと思ったのに、掌の中には何も無くて。
でもめげる様子などなく、数回それを繰り返して。
クレスが目で追うのは、ふわりふわふわ、桜色に光る幾重もの軌道。
ひらり夜風に遊ぶ花弁を掴もうと頑張る少女の腕には、自分が買った桜色に輝くブレスレットが。
それは、桜祭の想い出という名の迷子防止にと、自分が渡したもの。
そんな頑張る彼女はきっと、つかまえるまで諦めないだろうし、どれだけ時間がかかるかわからないけれど。
でも、彼女が春の夜に描く光をこうやって眺めているのも、結構楽しいって思うから。
桜花弁たちに翻弄されながらも、真剣に追いかけっこする様子を気長に見守っていれば。
「……やっと掴めたのか」
手のひらを見つめて表情を輝かせる様子を見れば、幾度目かの挑戦でようやく掴めたことを察して。
そんなクレスに、ねぇ見て! って。
つかまえたひとひらを、えっへん見せつけるオフィーリア。
それから、じいとつかまえた花弁を見つめながら思案する。
花弁をつかまえただけで大きな達成感を感じていたけれど、彼から聞いた話はそう。
「願い事は何にしよう」
舞い落ちる桜の花弁を空中でキャッチ出来ると――願い事が叶う、というもの。
(「一緒に何処へでもついて行けるように健康な身体を願おうかな」)
そして真剣に考えている彼女を見れば、クレスは思わず咲かせた笑みを零してしまう。
嬉々として見せる掌には、一片の桜の花弁……だけではなくて。
豊かな金糸の髪にも春色がふわり、沢山の花弁たちで飾られていて。
その愛らしい姿に柔い笑みを向け、クレスはオフィーリアへと告げる。
「リアの願い、必ず叶うよ」
まるで桜咲く春のように、柔く優しい響きで。
明るいうちから存分に、久しぶりな夫婦水入らずのデートを思い切り楽しんでいるのだけれど。
「おっ、日が落ちてきたな、いよいよ『春灯祭』の始まりか!」
矢神・疾風(風駆ける者・h00095)の言うように、これからが桜咲く祭りの本番。
それに、今ふたりで眺めている桜は、昼のものとはまたがらりと、その表情をかえていて。
「昼間の桜も綺麗だったが……ライトアップされた桜もまた違う美しさがあって良いな!」
「灯籠に照らされる桜、とても幻想的で素敵ね」
妖怪たちが張り切って燈した灯篭の明かりが、満開の夜桜をより浮かび上がらせて。
花見に興じる楽しそうな人々の声で賑わう中、活気あるたくさんの屋台を目にしながらも。
「夜はまた違った賑やかさがあって楽しいわ」
霊菜は昼間と同じように、疾風と腕を組んで歩く。
そんなお祭りデートを楽しんでいれば、ふと春風に乗って聞こえてきたのは、通りすがりの妖怪たちの会話。
疾風はその話に耳を傾けてみて。
「へえ、展望台からの景色が絶景だって?」
どうやら、公園にある展望台から見る景色がとびきりの絶景らしい。
そして霊菜もそんな耳より情報を聞けば、ふわりと笑み咲かせて。
「あら、展望台? 良いわね、上からの桜も絶対綺麗だと思うわ」
「行ってみようぜ!」
ふたりでくるりと方向転換、向かうは噂の展望台。
それから程なくして辿り着いた展望台は、話に聞いた通りの絶景で。
春の夜の景色を堪能していれば、疾風は桜吹雪舞う中、不意に見つける。
まるで桜たちが隠しているかのような、公園の外れにある人気が少ない池を。
そして隣で瞳輝かせている彼の様子に気づいて、霊菜は小さく首を傾けるけれど。
「ん? どうしたの、なんだかとても嬉しそうね」
「あ……オレ、すごいところ見つけちゃった!」
……ちょっと移動しようか、霊菜。
そう逸るような彼に手を引かれながらも、ぱちりと瞬いて。
「すごい場所?」
具体的な場所は敢えて言わず、少し暗がりをずんずん進む疾風に、素直に導かれるまま。
桜色に染まる世界を足早にふたり、歩んでいけば。
桜色で満ちていた視界が、ふわっと開けた瞬間。
「ほら、すごいところだろ??」
「まぁ、これは……本当に綺麗……」
眼前に広がった春の彩りに、霊菜は感嘆の声を咲かせる。
今ふたりが見ているのは、揺れる湖面にも満開に咲き誇る夜桜。
まるで鏡の様に、池に桜が反射した、美しい景色であった。
そして並んで、とっておきの絶景を、ふたりじめ。
「こんな景色が見れるなんて。ふふ……疾風、連れてきてくれてありがとう」
霊菜はそう紡ぎながら、そっと彼の腕に身を預けてみるのだけれど。
でも、それよりも一瞬早く。
「それに、ここなら人が居ないし……」
ぐいっと不意打ちでその胸に抱き寄せられれば、向けられた声に耳を擽られて。
「確かに人も居ないし、2人だけの世界って感じね」
彼のぬくもりをより感じれば、機嫌良くクスクス笑う霊菜だけれど。
「なぁに、疾風。急に……っ!」
刹那――ふわりと与えられたのは、もうひとつの不意打ち。
唇に落とされた優しくて柔らかなキスの感触に、霊菜は瞬時に真っ赤になって。
「……たまにはこういうのも良いだろ?」
そう笑む疾風の胸に――ぽふり。
顔を埋めて思わず隠してしまうのは、とても自覚しているから。
「……たしかに、たまにはいいわね」
満開の桜よりも、今の火照った自分の顔の方が色づいているだろうってことを。
きっと花好きの彼女は喜ぶって、そう思ったから。
九条・庵(Clumsy Cat・h02721)が選んで歩くのは、灯籠の明かりが導く通り、光に沿った桜溜まりの道。
そして、庵と並んで春を歩む、花咲・果乃(いつか花ひらく・h06542)も。
(「灯篭伝いに、群生してる桜の樹下をくぐるみたいに歩いてる」)
自分が今連れられている風景をくるりと見回した後、視線を向けて紡ぐ。
「夜のお花見って、実は初めてなの。幻想的で、すごく綺麗」
隣を歩く彼へと、ふわりと笑みを咲かせて。
「それに、桜の積もった道はふかふかって柔らかくて、楽しいね」
足下は桜の絨毯、見上げれば天埋め尽くす桜の花。
そして狙い通り果乃が楽しそうで、振り向いた庵だけれど。
「……え、人の顔見て笑っちゃう?」
何故か自分を見て思わず笑う彼女に、ぱちりと瞳を瞬かせる。
いや、そんな笑顔は凄く嬉しいのだけど。
「満喫してるなぁ」
首から提げた春灯ソーダがぴかぴか。
ゆうらり首から提げて、ぶらぶら花見をするその顔まで、桜色にぴかぴか光っているから。
飄々としているかと思えば、無邪気で楽しそうな、そんな彼を見ると笑っちゃって。
でも庵はくすくす笑う彼女に、ふいにニンマリ掲げてみせる。
「いいよ、こーんな素敵ギフト貰って俺ゴキゲンだし?」
果乃に貰った懐中時計を。
「桜の意匠が洒落ててさ、お気に入り」
ちょい仕返ししたくなって。
そして、果乃の顔を見れば……案の定の桜色。
そんな仕返しに気恥ずかしくて、顔がカアッと熱くなっちゃって。
「あれー? 果乃ちゃんもぴかぴかソーダ買ったっけ?」
「か、からかわないでよぅ……」
そう両手で頬を押さえながらも、果乃はこう律義に答えるのだった。
私にはぴかぴかソーダがないから、これは自前のピンクです……って。
そして庵は笑いながら、春の夜に仄か照る桜溜まりの道をゆけば。
「気付けば結構歩いたね」
……果乃、疲れてない? と声を掛ける。
目標は、もうちょっとだけ先の展望台だから。
果乃はそんな声に、こくりと頷いて。
(「楽しい時間はあっという間」)
それをふいに感じれば、彼へと返す。
「でも、うん。展望台までは」
そしてまた、頬が火照るのを感じちゃう。
「手を繋いだら、ゆっくり歩こう」
差し出された彼の手に、どきりとして。
そして手と手をそっと繋いで、速度を落として歩きながらも、庵は紡ぐ。
「この時間が、少しでも長く続いたら嬉しいからね」
そんな言葉に……うん、と。
そう返すので精一杯なのは、また自分の顔が桜みたいに色づいていることがわかるから。
だから桜咲く道を行きながら、果乃はこう祈るのだった――握り返す手から、どきどきが伝わりませんように、って。
まだ、陽が落ちてそう時間は経ってはいないのだけれど。
でも、獅猩鴉馬・かろん(大神憑き・h02154)にとっては、どきどきわくわくのおでかけ。
「よふかしだー!」
そう、お子様ゆえに、あまりこれまで夜更かしの機会もなかったようだから。
滅多にないよふかしという行為に、テンションも上がっていて。
桜が咲き誇るお祭りの喧騒の中を、はしゃぐようにすたたっと駆け出していく。
そんなかろんがやってきたのは、訪れた公園の中でも、一番賑やかな場所。
保護者代わりの大神や眷属たちを引き連れて、夜店を冷やかしに、公園の広場をくるりと巡ってみて。
あれもこれも、気になるものでいっぱいなのだけれど。
でも、ふと財布を覗いてみれば、しょぼん。
そう……昼間にいっぱい買っちゃったものだから、お財布の中身が心許なさすぎて。
だから残りのお金で何を買うか、慎重に見極める必要があると……がんばって、がまん。
けれど、食べ物系の屋台は昼間にたくさん見たから。
夜のお祭りでは、遊ぶ系の屋台を中心に、見てみようと足を向けてみて。
ヨーヨー釣りや金魚すくい、型抜きに射的――やっぱりどれも楽しそうで、できるならば全部やりたいところなのだけれど。
でもふと、色々と心惹かれるものが多い中で目に留まった屋台。
その店先に、かろんはすかさず駆け寄って。
「くださいなー!」
なけなしの残金で迷わず買おうと決めたのは、夜桜を纏う動物のお面。
動物も色々な種類があったのだけれど、かろんが選んだのは、狼型のもの。
だって、格好良かったし……それに何より、大神とおそろいだから!
それからすちゃり、狼のお面を頭に乗せてから――桜咲く春の夜空に、ぴゅるる~っと。
ご機嫌にくわえて吹いて歩くのは、おまけにもらった吹き戻し。
昼の桜も、青空に映えるピンク色で愛らしくて。
桜満開の中で食べたお花見弁当も美味爛漫で、ひらり舞う桜花弁との追いかけっこもはしゃいじゃったけれど。
陽が落ちれば、かわりに桜の景色を照らすのは、妖怪たちが張り切って燈した数え切れないほどの灯篭。
昼間はひらりくるりと皆を翻弄していた花弁たちも、光を纏って幻想的な印象にかわって。
そして昼から盛況だった屋台も、夜になって祭り本番を迎えれば、さらに活気づいて賑やかに。
そんな夜桜咲く祭りの喧騒の中、きょろりとユナ・フォーティア(ドラゴン⭐︎ストリーマー・h01946)は視線を巡らせて。
「昼も楽しかったけど夜の祭りもあるんだ! 超楽しそう!」
「お昼もいいけど、夜のお花見もいいよねー」
エアリィ・ウィンディア(精霊の娘・h00277)も、春の夜に咲く満開桜を見上げては円らな青の瞳にもたくさんの薄紅を舞わせる。
公園内の桜は、花咲か妖怪の妖術でどこも満開に咲いているようなのだけれど。
でもその中でもやはり、どこで桜を観るかで、印象もまた大きく違ってくるだろうから。
「ふむ、公園の展望台からの夜景が素晴らしいそうだけど……」
ルナ・ルーナ・オルフェア・ノクス・エル・セレナータ・ユグドラシル(|星樹《ホシトキ》の言葉紡ぐ|妖精姫《ハイエルフ》・h02999)は、特に絶景スポットだと聞いた公園の展望台の位置を確認してみて。やはり絶景を望めるだけあって、展望台は公園の端寄りに位置しており、現在地から少し歩かないといけないようだから。
「みんな、この妖怪骨董夜市にも先に寄って行ってみないかい?」
その途中にある妖怪骨董夜市に、展望台へと向かいがてら寄ってみる提案を。
エアリィとアドリアン・ラモート(ひきこもりの吸血鬼・h02500)は、そんなルナの言葉にすぐに頷いて返して。
「せっかくだから、骨董市に行ってみようか? ウインドウショッピングって感じでっ♪」
「ご飯は昼間に沢山食べたから夜は骨董夜市巡りでもしようか?」
ユナとステラ・ノート(星の音の魔法使い・h02321)も、勿論賛成!
「骨董市か……可愛い物あるといいな!」
「掘り出し物、見つかるかな?」
だって、ステラはまだまだ、遊び足りないから。
いやステラだけでなく、それは皆同じで。
皆でわくわく一緒に、妖怪骨董市の会場をまずは目指して、夜桜が咲く下を並んで歩き出す。
そして到着すれば、エアリィはくるりと市に並ぶ商品を見回してみて。
「ふむふむ、こんなにいろいろあるんだね」
可愛くて繊細な和細工から、何に使うかも不明な謎アイテムまで、雑多に置かれていて。
この中から掘り出し物を見つけるのは大変そうだけれど、ちょっとした宝探しみたいでもあるから。
皆それぞれ、興味の赴くまま、骨董市を巡ってみれ。
「綺麗な桜柄の湯呑みだ!」
目を輝かせながら見て回っていたユナの心を掴んだのは、このお祭りにもぴったりな桜咲く湯飲み。
そしてそっと手に取ってみれば、ほわほわと綻んで。
「皆の者とこれで緑茶飲んだら美味しいだろうな〜」
……皆の者の分まで買お♪ って、早速お買い上げ。
この湯飲みで緑茶を皆と飲む機会をうきうき楽しみにしながら。
そして、ステラが探してみるのは。
(「わたしは学校の新学期用の春色の文具や、お出掛け用の帽子を見たいな」)
それから骨董市を見て回ったその足が、ふとぴたりと止まって。
そっと伸ばした手で取ってみたのは、所望していた品物のひとつ。
「……このピンク色のベレー帽、桜餅みたいで可愛い」
もちっとした不思議桜餅手触りの、淡い桜色のベレー帽を。
ルナが興味深そうに見ているのは、ちょっとどれも曰く付き感がある、怪しげな骨董品たち。
そして、売られていたそれ――同じく怪しげな古書をゲットして。
ぱらりと開いてみれば、ますます興味をそそる怪しさ。
「へー、桜に関する怪談が載ってるみたいだね」
だから、ちょうど今の季節にも合っていることだし。
ちょっぴり悪戯っぽく小さな笑み咲かせながらも、ルナは楽し気にこう続ける。
「ふふ、みんなにも後で内容を教えてあげるよ」
お祭りの次は身も凍るほどの、春の夜の怪談話がはじまる予感……?
そしてアドリアンも、ルナが見ているものとはまた別の意味で怪しいものを見て回って。
目についた変わった雑貨を適当に手に取りながら物色してみた結果。
よくわからないヘンテコな人形や、快眠グッズ! と宣伝されていた妖怪百目柄アイピローなどの、いかにも怪しい道具をいくつか購入。
それから、ウインドウショッピングを楽しんでいたエアリィが、ふと見つけたのは。
「へー、体験教室まであるんだー。目移りしちゃうよね」
桜や春モチーフの装飾品が作れるというワークショップ。
そしてエアリィが体験教室へと足を向けてみれば。
「せっかくだから、一つ買っていこうかな?」
「ワークショップも楽しそう」
「ワークショップでチャーム作りできるの? ユナもチャレンジしよ!」
ステラとユナも、エアリィに続いて。
「ボクもお試しで」
「僕もアクセサリー作りをしてみようかな」
みんながチャーム作りに挑戦するみたいだからと、ルナもやってみることに。
アドリアンも勿論皆と一緒に、ワークショップへ。
ということで、いざ――チャーム作りにチャレンジっ♪
「えーと、これとこれを組み合わせて……」
エアリィは、繊細で綺麗系な桜の花を選んでは、繋いでみて。
「明るい桜もいいけど、落ち着いた桜もいいと思うのっ♪」
今回作ろうと試みるのは、夜桜イメージのイヤリング。
そんなちょっぴり大人な雰囲気の桜アクセに、ステラとユナもほわほわ。
「エアさんのチャームは、落ち着いた夜桜が綺麗」
「エアリィ氏の夜桜イヤリング愛おかし♡」
そしてエアリィが大人っぽい夜桜ならば。
「桜の花びらを1枚ずつチェーンと繋いで、ブレスレットを作ろうかな」
「ラモート氏の桜のブレスレット、可愛らしいな……」
「アドリアンさんの桜のブレスレット、すごく可愛い」
アドリアンはキュートな桜を連ね咲かせたブレスレットを。
それから、色々とお喋りしたりしながら、楽しく作業を進めていけば。
「ユナは桜と鶯のチョーカー作ったよ!」
「ユナさんのチョーカーも桜に鶯を合わせてお洒落だね。わたしは、桜色の蝶のブローチを作ってみたよ」
「ステラ氏のブローチも壮麗だ……」
「ボクは髪飾りにしてみたけど、どうかな?」
「ルナさんの髪飾りは桜の妖精さんみたいで素敵だね」
ユナは桜と鶯のチョーカーを、ステラは桜色の蝶のブローチを、ルナは桜の妖精のような印象の髪飾りを、それぞれ完成させて。
皆が作り終わったのを見れば、エアリィはこう提案を。
「作ったもの、みんなでシャッフルして交換しちゃう?」
「僕が着けるには可愛らしいすぎるかもな出来だったけど、女の子が着けるにはちょうどよかったかも!」
その案に、アドリアンは大賛成。折角作ったから、着けてもらえれば嬉しいから。
そして皆もわくわく、交換会。
中身が見えないように贈り物用の包装をそれぞれして貰って。
ランダムでひとりひとつずつ選べば、誰のものが手元に来たのか、御開帳。
(「気に入ってくれたら嬉しいな」)
ステラはそうちょっぴりドキドキしながらも、包みを開けてみれば。
「あ、エアさんのイヤリングだね、やっぱり綺麗」
「あたしは、ルナさんの髪飾りだね!」
「うん、我ながらよくできてるね。とても似合っていてかわいいよ。ふむ、ボクの元には、桜と鶯のチョーカーが来てくれたね」
「あ! ユナのは、ラモート氏の桜のブレスレットだ~!」
「桜色の蝶のブローチ、どこにつけようかな?」
エアリィの夜桜イヤリングはステラに、ユナの桜と鶯のチョーカーはルナに、ステラの桜色の蝶のブローチはアドリアンに。
そしてルナの髪飾りはエアリィに、アドリアンの桜のブレスレットはユナに――という交換こに。
それから、皆でわくわく交換会をした後は。
「と言う訳でお待ちかね! スマホ構えて桜の展望台へ!」
妖怪骨董市の先にある、絶景が観られるという展望台へ向けて、再び皆で桜色の道を歩いて。
展望台に、辿り着けば。
「……!」
スマ―トフォンで撮ることも一瞬忘れて、ユナは目を輝かせる。
眼前に刹那、ふわぁっと広がった夜桜の景色に。
「絶景かな……素晴らしき美景だぁ……」
「わぁぁ……。すっごく綺麗……」
エアリィもそう感嘆の声を漏らして、アドリアンも展望台から見渡す景色に息を飲む。
「凄く綺麗!」
「うん、予想以上に素敵な夜景だね。ライトアップされた桜がとてもきれいだ」
「お昼が子供の時間なら、夜は大人な時間だね」
ルナの声に、エアリィもうんうんと頷いて。
そして、そんな見惚れるほど圧倒的に美しい、春の夜の絶景なのだから。
皆が収まるように自撮りするべく位置を調整して、シャッターをぱしゃりと切ってみたユナは、皆にも撮った写真をはしゃぐようにみせる。
「皆の者との最高の一枚撮れちゃった!」
「こんなに表情が変わるんだね~。すっごーいっ!!」
最高の一枚が撮れました、ええ!
そんな今の時間をいつでも見れられるように閉じ込めた写真に、アドリアンは瞳を細めてから。
皆の楽し気な声を聞きつつ、改めて灯火に仄か照る夜桜を見上げ、そっと思い咲かせる。
(「この景色が特別に感じるのはきっと、一人じゃないからだね」)
そしてステラも、目の前の夜桜とお揃いのイヤリングを耳元で揺らしながら。
あともう少し、この春の夜を最後まで皆と一緒に楽しむつもり。
心に満開に咲き誇る今の気持ちを胸に……この美しい光景を、皆と一緒に見られて良かった、って。
昼の桜も青空に映えて、鮮やかで綺麗だったけれど。
夜になって本格的に祭りが始まる中、ガザミ・ロクモン(葬河の渡し・h02950)は色濃くなった美しい夜桜を見上げて。
昼も、何気に色々いっぱい食べまくっていた気もするのだけれど。
昼よりもさらに活気に満ちる春色の公園広場で、水は確り確保しつつも、ふらふらふらりと屋台めぐり。
いや、屋台は何も、食べ物の店だけではないから。
ウィズ・ザー(闇蜥蜴・h01379)は取ったばかりの桜柄ヨーヨーをバシバシさせつつ、ピカピカ光る春灯ソーダで喉を潤して。
桜色に光りながらも水風船で遊ぶウィズの姿を見れば、ガザミも心が和まされて、ほわ~と。
そんな盛り上がっている祭りの喧騒の中、妙に落ち着かずソワソワ……?
並ぶ屋台へと視線を巡らせている、神鳥・アイカ(邪霊を殴り祓う系・h01875)の目的は勿論これ。
「やっぱ『限定』と聞いたらさー酒飲みとして和カクテル「春灯」は呑まないとね?」
昼も『限定』の日本酒に抗えなくて初手から「桜舞」のカップ酒を飲んでいた神鳥・アイカ(邪霊を殴り祓う系・h01875)なのだけれど。
やはり酒飲みとしては、夜桜の祭り限定の「春灯」は何としても飲みたいところ。
それから一応、皆の様子を見つつ。
(「割と昼間でお腹いっぱいだし、みんなは出店周り中心かな?」)
一緒に屋台を巡りながら隙を見て、「春灯」も購入する気満々。
いえ、呑みはじめたら「春灯」だけでは済まないと思うのですが……そこは酒豪ムーブ。
そしてそんなアイカが逸れないよう眺める他の皆が足を向けたのは。
「へー射的って初めて見たかも。なんだか昔懐かしい感じでエモい!」
桜色のモクテルを満足そうに飲みながら言った神来社・紬(月神憑きの仔兎使い・h04416)の視線の先にある、射撃の屋台。
そしてガザミは、そんな射的の屋台をチェック。
「1回のお値段は……高過ぎくん」
世知辛い昨今、射的の値段も高くなっている。
けれど、お値段が高過ぎくんであるならば。
――お値段以上に遊ぶしかない。
そう強く頷いてから、ガザミはこう皆に声をかけてみる。
「目隠し射的しません?」
「ふむ、目隠しでの射的ですか。面白そうですね」
そうまず反応を示し、早速、しかも目隠しで挑戦してみるのは、不動院・覚悟(ただそこにある星・h01540)。
そんな覚悟の勇姿を見て、ウィズは笑って。
「お、射的かァ。クカカ、不動院のお手並み拝見だァな?」
万菖・きり(脳筋付喪神・h03471)も射撃を応援!
いえ、夜桜チョコパフェをはむりと食べるそんな彼女の頭の中は今、8割チョコパフェなのですけれど。
そんなきりや紬、ガザミやウィズが見守る中、覚悟は一度ぐるり景品を見て。
(「皆に一つずつ喜んでもらえそうなものを狙いたい」)
そう思いつつ、すちゃりと。
弾道計算や情報収集を駆使し、狙う一点を頭に叩き込んで構えて。
引き金をひけば――ぽこんっ!
寸分違わず願い通りに、妖怪駄菓子詰め合わせをゲット!
「……おォ、やるじゃねェか!」
ウィズはそう感心したように声を上げたあと……勿論、参加するぜェ♪ と銃を構えれば。
――こてんっ、ぽこん、ぽこんっ。
覚悟と共に、次々と景品を落としては、取りまくり!
そんなふたりの圧倒的な射撃力に驚いちゃいながら、応援する紬。
「いけいけー! 2人ともナイス!」
「チョコがビターでクリームと無限にいける!!」
きりもそう上げるのは、応援の声……?
いや、隣から聞こえる紬さんの歓声に反応しては、徐々に集中してちゃんと応援して。
目隠し射撃の提案者であるガザミも、射撃に参戦!
勿論ガザミも√能力者、景品を撃ち落とすことくらい容易なこと、なのだけれど。
……勝てる! いや、甘かった!
覚悟とウィズの洗練された銃さばきの凄さに見惚れて、トゥンク。
けれどスナイパー技能持ちの実力も併せ、3人で景品を落としまくり、総舐めにして。
「ウィズさんの狙撃技術には、いつもながら感嘆させられます。ガザミさんの目隠し案には、楽しい驚きをいただきました」
礼儀正しくそう紡ぐ覚悟であるけれど、何気にやり遂げた表情。
でもそんな凄腕景品スナイパー達とは真逆の表情をしている人物に紬は気づく。
「ウィズっち……屋台のおじさんが渋い顔してるよ?」
そう、ぼったくり……いえ、お値段高過ぎくんに設定していたはずなのに、商売あがったりになってしまった屋台の店主。
けれど、きっちり景品をいただきつつ、再び公園の広場を歩きながら。
「ん? 適切、適切」
店主の渋い顔もなんの、ウィズはそう満足げに返して。
ガザミも思わず笑っちゃう。
「屋台の店主の驚いた顔、最高でしたね!」
それから紬は、律義に自分がゲットした商品を山の様に抱える彼に声をかけて。
「覚悟君景品持つよ! 最近どう?」
ついでに、近状もきいてみれば。
礼儀正しく端的に自分の近状を話しつつも、覚悟は思うのだった。
(「神来社さんには、以前ご心配をおかけしたこともありましたので」)
……元気な様子をお見せして、少しでも安心していただけたらと思っています、と。
そして紬に少しだけ持って貰ってもまだたんまり戦利品がある、射的屋を不毛の地にした覚悟やスナイパーたちへと、それはもう元気に声をかけるきり。
「いらないお菓子引き取ります!!」
そんな彼女とは、まだあまり話をする機会がなかった覚悟だけれど。
「万菖さん、このようにたくさんありますので。貰っていただければ、こちらこそ助かります」
この場が、仲良くなるきっかけになれば嬉しいと、お菓子系の景品を差し出しつつ、そう思うのだけれど。
「え、こんなにもらっていいんですか?」
お菓子をいっぱいくれる覚悟とも、きり的には既に距離感は他とあまり差は無く。
「ありがとうございます!!」
力強く喜んでは、くれる分全部お菓子を貰うきり。
そして、ウィズにも。
「ウィズさんも、こちらいかがですか。ふたつ取れましたので」
「何の生きモンかはわからないが、良い記念になるぜェ!」
桜色をした謎のもふもふ妖怪ぬいぐるみをお裾分け。
そんなウィズも喜んでご機嫌だけれど。
ガザミも、ふーっと吹いては、キラキラふわふわ。
景品のシャボン玉を吹いて、桜咲く夜空に浮かべれば、上機嫌に。
「シャボン玉って割りたくなりませんか?」
「きりさんもシャボン玉する?」
そして言うだけで割らないですけれど、そうシャボン玉を見上げるきりにも、ガザミはシャボン玉セットを差し出せば。
ありがとうございますと礼を言いつつも、ぶぉっと、力一杯吹いちゃうきり。
それから、ウィズの戦利品である妖怪駄菓子詰め合わせをちらりとチラ見すれば。
「……万菖、妖怪駄菓子好きなのか?」
ウィズは何気にちょっと食べる勇気が出ない妖怪駄菓子をきりに差し出して。
そんな彼に、きりは力強くこう言うのだけれど。
「ウィズさん、変な味もあるけど、当たれば美味しいんです」
早速ひとつ、ぱくりと食べてみれば――途端に渋い顔。
見た目も妖怪世界感溢れているし、ぶっちゃけると妙な味しかしなかったから。
「こういう事もあります……紬さん、気をつけてください」
「……ぉう。OK、神来社には別のヤツ渡すかね」
ウィズはその様子と言葉から察し、こくりと頷いて返すのだった。
それから、屋台のおじちゃんは気の毒ではあったけれど。
射撃の戦果も上々で、楽しかったー なんてひと息付いてると……。
何だか人が集まっていて盛り上がっている場所があるから、ふとそちらへと目を向けてみれば。
「ラムネ一気飲みは、ビー玉の角度と無呼吸で……」
「ガザミんがラムネ一気飲みやってる!」
「ガザミの気持ちの良い飲みっぷり!」
いつの間にかガザミがエントリーしているのは、ラムネ一気飲み大会!
そして、ぴくりとその言葉に反応を示したのは。
「一気飲み……? 樽酒一気勝負?」
皆が射的をしている隙に、近くの屋台でお目当ての「春灯」をゲットしてきたアイカ。
それから、ラムネだけでなく樽酒一気勝負があると知れば、その概要に目を向けて。
「商品はプレミア酒」
そんな魅力的な文字列を見れば当然、胸がきゅん。
「ほほぅ……ほほほぅ〜……やったろうやないの♪」
ということで、樽酒一気勝負に参戦!
「隣では樽酒一気飲み……もしかして許容量ないの?」
紬はラムネや樽種をごくごく飲むふたりに、瞳を瞬かせるも。
でも、こうも思うから。
「とにかく2人共気持ちいい飲みっぷり〜」
そういうわけで、景気よくごくごくと樽酒を呷りながら。
「下町の蟒蛇アイカちゃんを舐めんなよ〜♪」
「アイカさん、かっこよすぎ~」
「神鳥さんは……さすがの蟒蛇ですね。安定感がすごいです」
「神鳥は安定だなァ? 流石だぜェ」
そう……祭りと言えばどんちゃん騒ぎ!
そんなアイカの酒豪ムーブに、ガザミは大笑いしちゃって。
覚悟やウィズも、ぶれない彼女へと視線や声を向ける中。
(「アホなムーブもご愛嬌って事で♪」)
プレミア酒のためにも、豪快な飲みっぷりを披露しちゃいます!
それから、無事にプレミア酒も手に入れれば。
「ボクもお酒はほどほど?」
すでにアイカは散々飲んでいるような気しかしないし――こう思っていた時間が、数秒くらいはありました。
けれどすぐに、手のひらくるり。
「神鳥が春灯を頼むなら他にも色々頼んで見ねェ?」
「カラフルなカクテル! ノンアルもあるよね?」
紬の声に頷くウィズが注文していくのは、桜色ベースグラデに白ベース桃マーブル、抹茶ベースに水色ベースバニラアイス乗せ……その他等々。
――日頃の感謝を込めてな、なんて。想い紡ぎながら。
というわけで、ほどほどになんてしていられないから。
「ちょっとそんなカクテル並べられたら飲まないわけには行かないじゃん♪」
ノンアルコールにもできるから皆で飲めるし、何よりもそう、お酒だから。
あっさりと手のひらを返せばいざ、酒盛りです!
そんな酒の宴が始まらんとする中、ガザミは忘れないうちにと、紬へと手渡す。
「ツムツムさんの卵焼きのお礼に、桜紅茶と桜のお菓子です」
……美味しいお料理を毎日食べられて羨ましい、と続けて。
そんな紬は、彼から渡された紙袋をそっと覗いてみれば。
「可愛くて美味しそう。ありがとう! 遠慮なく貰うね」
嬉しくてぎゅうと紙袋を大事に抱える。
そして……祭りはまだまだコレから! と。
アイカは桜降る春の夜を満喫しながらも、景気良くグラスを掲げて。
本日何度目かは正直わからないのだけれど。でも、みんなと楽しく――何度だって、乾杯!
夜を迎えた桜空に、ぴんと伸びる龍角。
ご機嫌に春の夜を歩む、そんなララ・キルシュネーテ(白虹・h00189)がちょこんとつけているのは、桜ハーバリウムな龍角カチューシャ。
いや、これは、ただの龍角ではないのだ。
「しかも光るの」
春の宵に、桜ひらひら、桜色がぴかぴか。
ララは得意気に、えっへんと紡ぐ。
「ふふん、ララは迷子にならないわ」
そんなララお気に入りの龍角を目にして。
「その龍角カチューシャ光るのか。中の桜が揺れて照らされて綺麗だな」
椿紅・玲空 (レベル20 女)がそう花海棠を抱く瞳を細めれば。
「ララの角が光るなら、迷子防止に丁度よさそうだ」
「ララさんが光るなら……はぐれても安心、ですね」
詠櫻・イサ(深淵GrandGuignol・h00730)とセレネ・デルフィ(泡沫の空・h03434)も、もしも逸れてもぴかぴかを目印にすれば、迷子にはならないだろうと思いつつ。
(「ちょこまかするからよく見とかないと」)
イサはその光る目印である本人が迷子にならないようにと、そっと注意しながらも。
ふと、桜咲き誇り灯篭燈る春の空を仰いでみて。
「こうして見ると夜桜もいいな。幻想的というかミステリアスというか」
「夜桜あまり見ることがないから新鮮だわ」
「月光を受けた夜の桜は幻想的ですが。灯篭や祭りの明かりでまた違った印象を受けます」
イサとララの声に続いて――これもまた……お祭りの醍醐味ですね、と。
言ったセレネに、玲空もこくりと頷いて返しながら、皆と共に桜空を眺めてみる。
「ああ。夜桜も燈籠の灯りだと雰囲気が違っていいな」
……特別って感じがする、って。
そして見上げる空には満開に桜が咲いているけれど。
公園の広場に並ぶ屋台に爛漫なのは、勿論これ。
「ララは夜桜スイーツが食べたいわ。特に夜桜カヌレは欠かせない」
「早速スイーツ屋台から、なんてらしくていいじゃん?」
イサも、いつも通りの食いしん坊さんにそう笑って。
ララは全部制覇しそうだし……なんて思いながらも、皆と屋台を巡っていれば。
「結構色んな種類の屋台が出てるんだな」
玲空も、定番から限定に変わり種だとか、沢山並ぶ舞台に再び視線を向けながらも。
揺るぎないララの声を聞けば、選んだのは見つけた甘味。
「ふふ、早速スイーツから行くのか? なら私は夜桜あんみつが食べたい」
「私は夜桜チョコパフェが食べたいです」
そしてセレネもそう続けて。
玲空はふと、イサへと目を向けて紡ぐ。
「イサは何にする? みんなが選んだ夜桜スイーツも美味しそうだ」
そう訊かれれば、イサは皆の手元にあるものを改めてくるりと確認して。
……セレネは夜桜パフェ、玲空は夜桜あんみつ、と復唱した後、決断する。
「俺は桜黒糖ドーナツにする」
「セレネいいわね、夜桜パフェも食べたいわ。玲空はあんみつでイサはドーナツ?」
ララも皆の選んだ甘味にそわりとしながらも……どれも美味しそうで迷ってしまう、と目移りしちゃって。
「端から端まで全部食べたいわ」
「どれも食べてみたくなってしまいますね」
セレネはララに頷きながらも、ほわほわ。
……食の桜も時に応じて姿を変えるのが素敵で、と。
だから、どれにするか迷ってしまって、決めきれないのならば。
「ひとくちずつ交換こしないか?」
「それは名案だ。夜桜のシェアだね」
「名案ね、夜桜甘味シェアよ」
「夜桜甘味シェア……! 素敵な案ですね」
少しずつ分けっこすれば、気になるもの全制覇も夢ではない……かも!
そんな、すぐに返ってきた賛成の声に。
「夜桜シェアいいな、どのスイーツも春灯ソーダも美味しい」
皆と共に早速、夜桜シェア大作戦を決行!
はむりと口にしてみれば、玲空の尻尾もゆらゆりら。口に広がる美味しさを堪能すれば。
セレネもこくりと頷いて、瞳を細める。
「春灯ソーダと合わせて贅沢なお花見です」
そんな、皆が片手にして飲む春灯ソーダも、しゅわり光ってはぴかぴか。
ララも龍角をぴかぴかさせつつ、光る春灯ソーダ片手に満喫する――夜桜と甘い春を。
それから、花も団子も楽しんだ後は。
「金魚すくいしてみたいの」
ララが次に足を向ける夜桜屋台は、金魚すくいができる出店。
「屋台遊び……色々とあるのですね」
「金魚すくい? 聖女サマもお子様だな」
イサはそう言いつつ、何気に密かに気にはなりながらも、セレネと共に応援係に。
そして玲空はララの隣で、金魚すくいに挑戦。
「あ……向こうから1匹近づいてきますよ」
セレネの声に、迫る1匹へと狙いを定めて。
今だと、金魚をいざ掬うべく、ポイを振るうのだけれど。
「……金魚すくいってやっぱり難しいんだな」
「椿紅さん……ドンマイです……」
首を傾けてみせながらも、ぽっかり穴が空いたポイをふりふり揺らす玲空。
だから今度は、隣できりり真剣にぽいを握る彼女へと応援の声を。
「ララ、頑張れ」
それから、狙い定めては掬わんと試みるも、ひらりひらひら。
花筏のように逃れる金魚がなかなか掬えなくて。
耳に届く玲空とセレネの応援に、今度こそと、ぎゅと気合を入れて取り組めば。
「ほら、来たぞ。もっとゆっくり……今だ!」
「むぎゅ……難しいわ」
「ほら〜、優しくしないから……」
ついつい、口を挟んでしまうイサ。
そんな彼の声に、むぅと視線を上げてから。
「む、イサ! ならお前がやってみなさい」
ララはそう、ポイをずいっと差し出すのだけれど。
「俺? こういうの得意だよ、実は」
……聖女サマの分まで掬ってやろうかな、なんて。
次々と金魚を、ひょいひょいっと容易く掬っていくイサ。
そんな彼の華麗な腕前に、皆も思わず注目して。
「詠櫻さんは器用なのですね……すごいです」
「へぇ……イサすごいな」
セレネと玲空と並んで、ぱちりと花一華の想紅を瞬かせるララ。
それからぽつりと、思わず言の葉を零すのだった。
「……すごいのね、お前」
けれど、気を取り直して次に見つけたのは。
「次は射的? いいわ、ララの腕前をみせてあげる」
「射的、いいね」
ララは言わずもがな、イサも今回は最初からやる気を見せて。
セレネもチャレンジしてみたいと思うから。
「あの……射的って、難しいでしょうか。次、ご一緒してもらえませんか……?」
「コツさえ掴めばいけるよ。教えてあげる」
「是非とも、コツを教えてもらえると嬉しいです」
「射的はたぶんコツを掴めば大丈夫」
射的のコツを教えてもらいつつ、やってみることに。
そんな彼女の挑戦に、玲空も尻尾をゆうらり。
「私もセレネと射的やろうかな」
景品という名のターゲットを仕留めるべく、視線を巡らせる。
……みんな何か景品は落とせるといいな、なんて、思いとやる気を咲かせながら。
昼間見た桜の花も、薄紅色に色づいては鮮やかな春を彩っていて綺麗だったけれど。
今、可惜夜・縡(咎紅・h05587)が見上げるのは、宵の空にふわりと光る桜。
「本当に、昼と雰囲気が違いますね」
「陽光に包まれた桜も綺麗だが、夜桜はまた神秘的だ」
夜鷹・芥(stray・h00864)も夜桜浮かぶ春を楽しむべく、桜が見易い場所を確保して。
ゆるりと座って、花見に興じることにする。
そして、見事に満開に咲いた桜も、勿論なのだけれど。
「桜舞、春の酒実は結構楽しみにしてた」
芥がそわりと心躍るのは、手元にあるもうひとつの桜。
戀ヶ仲・くるり(Rolling days・h01025)も、夜の帷に、桜がひらひら。
その手には、そんな風景を表現したという、ちょっと大人な気分になる飲み物。
「折角の夜桜なので、大人っぽい「春灯」のモクテルにしました!」
……つい買っちゃったよねぇ、縡ちゃん、って。
視線向けた彼女の手にも、お揃いの春が。
「モクテルの春灯も気分が上がって良いな」
「芥さんのも綺麗なお酒ですねぇ」
そう言葉を交わしながら、それぞれの春で満ちたグラスを掲げれば。
「――乾杯」
「かんぱーい!」
「か、かんぱい……!」
縡も、くるりと一緒に頼んだ春灯のモクテルを掲げて、カチリ。
芥は耳に響くそれらに、ふと瞳を細める。
揃う音、春と藍色を重ねて――夜桜がまたひとつ、ふわりと咲いて。
そして乾杯をした後に楽しむのは、美味が爛漫に咲いたお花見弁当。
でも、ただの花見弁当ではなくて。
「妖怪花見弁当もおいしい、……目が合って、ちょっと食べにくいけど!」
「た、確かに少し食べにくいかも……でも美味しいです」
ちょっぴり不思議な、おかずの妖怪達が詰まっていて。
ふたりはじいと妖怪さんと暫しお見合いするのだけれど。
意を決して――はむり、もぐもぐ。
「縡はどれが美味かった?」
「こんにゃく、しっかり味が染みてました」
「ん、こっちも美味い」
そっと食べてみた蒟蒻のぬりかべを、縡は思いのほか美味しくいただいて。
タコ入道ウインナーを遠慮なく箸でぷすりと芥は刺してから。
「ん、こっちも美味い」
特に抵抗もない様子で、ひょいと口へと放り込まれるタコ入道。
そんなおいしそうに食べるふたりの姿に、くるりは頬をふわりと緩める。
けれどすぐに、ぱちりとその瞳を見開くのである。
「あんぱんだ、カミガリなので」
「……張込み中って辛いですから、甘いものって嬉しいですよね」
「えっカミガリとあんぱんってそんな関係だったんです??」
追加で買った桜あんぱんを差し出し受け取る芥と縡の、そんなやりとりに。
それから、おなかも心もいっぱいになって、ご馳走様を揃ってした時。
「薄灯りに夜空から降る春の細雪か、風情があるな」
ふわっと春風に吹かれ舞う、雪の如き桜吹雪。
縡とくるりも、ふたり並んで桜を見上げて。
「……春に見る雪、夢みたいに綺麗」
「夜色の中だと白が際立って雪みたい……」
そう感嘆の言葉を紡いでいる――のだけれど。
刹那、芥は気づくのだった。
「くるりの手の中に在る其れは……」
横でちらつくぴかぴかに。
「……気付かれましたか……」
そしてそう紡いでから、満を持してくるりは取り出す。
「はしゃいだ思い出写真、撮りませんか!?」
その手には――ぴかぴか光る、桜ねこ耳みっつ。
縡はふいに出てきたぴかぴかの眩しさに、キュッと一瞬目を瞑るけれど。
そう――桜ねこ耳は3つ、用意されているということは。
「えっ、俺も」
「みんなでつければ怖くない!」
くるりはそう頷いてから、まずはぴかぴかお耳を縡へと手渡せば。
「縡ちゃんどーうーぞっ!」
まずは縡は、受け取った猫耳をまずはくるりの頭へと。
「……あれ? 私に? ……ふふ、つけてくれてありがと」
そう笑顔を綻ばせて――いつも明るく笑ってくれる貴女が更に眩しい、って。
そして芥はそんなやりとりを眺めれば、こう思わずにはいられないのだけれど。
「くるりと縡だけのが映えそう」
ぽろりとそう思わず口にすれば、女子高生二人からの視線が刺さる。
「ね、芥さんも!」
「で、でも思い出になるなら良いのかも……」
縡もくるりの方に寄って、芥へとふたりで向けるのはお伺いの顔。
それから、そうふたりの言葉を聞けば。
「思い出なら……」
どうせやるのならば、中途半端ではなく。
「光る猫狐さん、フォトジェニック……!」
全力でぴかぴか猫狐になる芥!
そして仕方なくカメラを構えれば。
「ほら、撮るぞ」
「わぁい、ピース!」
「ぴ……ピース……!」
スマホ構えて真顔ピースする、光る猫狐さんだとか。
にぱっと笑顔咲かせるくるりと一緒に、縡もぎこちなく作った笑顔を添えながら。
ぱしゃりとシャッターが切られたこの桜の風景を――優しく彩る春の夜を、まだまだ一緒に、皆で楽しむつもり。
ぽかぽかと心地良く降っていた春の陽も、今はもうすっかり沈んで。
夜が訪れれば、妖怪たちが一斉に公園中の灯篭に明かりを燈す。
今夜は皆が待ちに待った、夜桜のお祭り――春灯祭だから。
そして祭りのはじまりを、八卜・邏傳(ハトでなし・h00142)は輝かせたその瞳にも灯して。
「わぁぁ! 灯りついたぁ!」
「さっきまで歩いて来た道も、別世界みたいだな」
ハイデ・ロビカ(荒野のクーリエ・h05520)の声に、翊・千羽(コントレイル・h00734)も感じるままに口にする。
「夜だけど、あったかい雰囲気だ」
そんな夜桜も勿論、見惚れるほどに美しいのだけれど。
やっぱり、どうしても興味が向いちゃうのは。
「いい香り――お腹空いてきた」
「いっぱい食べたけど、いい香りでまたお腹空いてきたんよ」
ふわり桜花弁とともに春の夜風が運んでくる、美味しそうな匂いの元。
邏傳と千羽の言葉に、ハイデもこくりと頷いて。
「分かるぞ、夜限定の屋台もあるなんて聞いちまったら俺たちのお腹が黙ってないもんな」
そしてふたりへと誘う声を――行こう、美味しい匂いのする方へ、と。
それから発見した、気になる美味しそうなもの、それは。
「夜桜イカタコ焼きちゃん?」
「夜桜イカタコ焼きって――イカ? タコ?」
これは果たして、イカの形をしたタコなのか。
それとも、イカ墨色のタコ味?
じいと見つめても、生地が黒くてころんと丸いかたち……ということしか、見ているだけではわからないから。
正解を知るべく、皆でいただきまーす!
そんなイカタコ焼きの中に入っていたのは、ごろりと大きなタコ。
つまり、イカ墨色のタコ味が正解!
いや……もしもたとえ、イカの形をしたタコであったとしても。
「おいしい」
「夜桜イカタコ焼き! なんか強そうな響きだな……いや、味はんまい!」
「確かに! 何者強者感あるけど、んまー♡」
今みたいに皆で嬉しいきもちで、美味しいって、食べただろうけれど。
それから、はふはふ夜桜イカタコ焼きを食べながら。
「夜は夜で食べたいのいっぱいだし、なんかキラキラしちょん」
邏傳がきょろりと視線を巡らせれば、見つけたのは夜に映えるぴかぴか!
「夜もソーダあるんね? 光っちょる!」
「本当だ。ぴかぴかしてる」
「はは、ぴかぴかもお供に連れて行くか?」
そう笑うハイデに、邏傳はふと訊ねてみる。
「そいえばハイデちゃんてお酒飲んだりするん?」
「酒は好きだが、すぐ真っ赤になっちまうんだ」
それから小首を傾けつつも、自分へと視線とこたえを向けたハイデに邏傳は続ける。
「うん、飲めないからね、どんななんかなーち思って……」
「二人はまだ飲める歳じゃないんだったか。ふふ、興味があるのか?」
ハイデはそんな邏傳に、こう提案を。
「俺も一緒にモクテルを頼むから、三人で乾杯するか!」
「……て? もく、てる?? 千羽ちゃんも? 俺も? 乾杯できるん!?」
「うん、みんなでお酒の雰囲気だけ味わっちゃおう」
千羽もそう頷けば、当然邏傳は瞳をキラキラさせて――したい! って。
そして、千羽がお揃いにと示したのは。
「真っ赤――じゃあこれにする?」
この春の夜だからこそ楽しめる限定の、春灯のモクテル。
それから乾杯して、ちょっぴり大人気分を美味しく味わえば。
「動物のお面、つけたい。邏傳もハイデもつける?」
千羽の目に留まったのは、沢山の動物のお面が並ぶ屋台。
そしてそれぞれ好きなお面を買ってみるけれど。
「お面もすげー似合ってる! 俺もこうやって被れば妖怪気分に?」
「お面で妖怪ちゃん気分にわくわく止まらんの」
「みんなで妖怪の宴に参加してる気分」
歩くだけでもとっても楽しいのだけど――妖怪にどろんと変身して、三人夜行!
それから桜の道を、はしゃぎながらも歩いた先。
そこから見る夜桜は、絶景だと言われている展望台……なのだけれど。
千羽は展望台から観るだけでは、なんだかちょっぴりだけ物足りない気がして。
「展望台もいいけどどオレたちのとっておきも見つけたい」
「俺たちだけのとっておきの場所!」
「とっておきの場所は夜桜を広く見渡せる方がいいよな」
三人しか知らない、とっておきの場所探しへ。
それからきょろりと視線巡らせていた千羽は見つける。
「あ、あのアスレチックの上――」
「わ、千羽ちゃん素敵!」
今度は子供の気分で登ってみる千羽と。
高いとこテンションあがっちゃう邏傳。
そして足元に気を配りながら、千羽が見つけた先へとのぼるハイデ。
そんな三者三様の足取りだけれど、でも向かう場所は一緒。
見つけたとっておきの場所から見下ろせば、桜色に光る世界が思った通り、一等綺麗で。
「なんだか夜の桜って、月の光と灯籠でなんか厳かな感じ、すんげ、かっくいー……!」
「厳か、ふふ。うん。すごく立派な、桜の国みたい」
邏傳と千羽の言葉に頷きながら、ふたりと一緒に、ハイデもとっておきの景色を三人占め。
それから桜吹雪が舞う只中で、自分達だけの桜の国の彩りに酔い痴れる。
「綺麗だ、ずっと見ていたいぐらいに」
まるで三人、春の王様になったような気分で――楽しくて夜が足りない、って。
今宵の目的は、満開の夜桜を楽しむ花見。
そんな春の夜のお出かけに誘ってくれたのは、うちの子達。
「いやあ、久方ぶりの異世界だ。√能力者だった頃に来たことがあるけど、賑やかでいいね」
そう柔く微笑む館花・恭司(天ヶ瀬・勇希のAnkerの√能力喪失者・h05086)に、アリス・アイオライト(菫青石の魔法宝石使い・h02511)も笑み咲かせて。
「ふふ、こうして3人でお出かけは初めてですね!」
そして勿論、天ヶ瀬・勇希(エレメンタルジュエル・アクセプター・h01364)も楽しみには違いないのだけれど。
でも、少しだけ心配も。
(「おじさんを連れてくのは心配だけど、酒飲んだ師匠の方も心配だからな」)
今は√能力者ではない恭司を、普段居る√とは違う√へと連れて行くのも心配なのだけれど。
でも、それ以上に。
「せっかくなので花見酒なるものをしてみようと思いまして!」
そう張り切っている師匠の方が心配である。
そして恭司もそのことはよく分かっているから。
(「今日の僕はアリスくんの酒飲み相手」)
先月解禁されて家では記念に呑んだのだけれど。
その時のことを思い出せば、やはりこう思ってしまうから……勇希と2人の時に呑むのは心配だから、って。
そんな男性陣の心など全くミリも知らず、うきうきと。
アリスが張り切って突撃するのは、花見酒ができる屋台バー。
そして意気揚々と入る師匠とは逆に、勇希はドキドキしてしまう。
「わあ、ちょっとオトナの雰囲気?俺場違いじゃないか……!?」
けれどそれも一瞬、席につけば、限定カクテルに釘付けに。
「なあ、俺あれ飲みたい!」
「この春灯というお酒が気になります! ふふ、ユウキくんもですか?」
「師匠も? じゃあ俺はノンアルで……へへ、見た目だけならオトナの仲間入りだ!」
そんなふたりのやりとりをにこにこ見守りながらも、恭司もぱらりとメニューを眺めて。
「僕はとりあえずビールかな。桜色なんておしゃれだね」
おつまみも適当に盛り合わせを注文、店員さんおすすめの春のケークサレもお願いして。
「それじゃ、乾杯しよう」
「それでは、美しい桜に乾杯!」
「かんぱーい! うん、おいしい!」
「はあ、桜もカクテルも綺麗ですね! 飲みやすくてぐいぐいいけちゃいます」
何だか雲行きが怪しいことをアリスが言っている気もするけれど。
勇希もちょっぴり大人気分を味わいながら、すっかり楽し気のご機嫌で。
そんな姿を肴に眺めながら飲むビールは、恭司にとっては何よりも嬉しくて美味しく感じる。
そして……なまじ飲みやすいカクテルだから、言っていた通りにぐいぐいといっちゃったアリスは。
「このグラス越しのキラキラ……宝石に通じるものがありますよね……」
うっとりと、酔い痴れるようにふにゃり。
けれどすかさず、恭司はすちゃっと水を差し出して。
「ああほら、アリスくんはお水も飲んで」
「あっ、はい、お水も飲みます! ちゃんと覚えてますとも!」
ぐびぐびーと水を飲む師匠の姿を見ながら、勇希はそっと思うのだった。
(「師匠、酒飲む時も宝石のこと考えてるのな」)
本格的に考えだしたら、危険な予感しかしないのだけれど。
でも今日は、恭司も一緒だから……今のところはまだ、何とか大丈夫そうで。
恭司もマイペースに飲んで、桜舞もちびちびと楽しんで。
(「こうして花見ができるなんて、去年の僕が聞いたら驚くだろうな」)
そうそっと瞳を細めて、少しだけ、桜降る夜に物思いに耽ってみる。
……のだけれど。
「って師匠! 重い〜!」
「ふふ〜、いいじゃないですか、師弟関係なんですからたまには」
ふわふわほろ酔い、気分もよくて――こてんと。
隣の勇希に寄りかかって、絡み酒し始める師匠。
それから、そんな師弟の姿を見つめれば、やっぱり恭司はにこにこしてしまう。
(「アリスくんが同居するようになって、勇希も楽しそうだし、僕も楽しい」)
こうやって出かけられるなんてことも、去年は思ってもいなかったくらいだから。
「みんな、お祭りを楽しんでるといいですねぇ」
「おじさんもニコニコ眺めてないで何とか言ってくれよ!」
そして、すやぁと寝そうな勢いのアリスをどうすることもできず、かといってにこにこ微笑んで見守っているだけの恭司に、勇希は唇尖らせつつも。
でも――こういうのも悪くないって言うか、楽しいって思うし。
(「おじさんはいつも忙しいし一緒に遊びに出掛けたことってあんまりないんだ」)
だから今、勇希はちょっと思っているのだ――家族っていいなあって。
「って、師匠! こんなところで寝たら風邪引くから!?」
そして弟子に介護されている師匠の姿を微笑まし気に眺めつつ、恭司はもう1杯オーダーを――今しか飲めない「春灯」を。
……3人で過ごす春に、乾杯しよう、って。
満開桜が咲き誇る公園は広いから、ぎゅうぎゅうでこそないのだけれど。
「わー、結構人多いね?」
「夜なのに、人がたくさんなの」
やはり特に、屋台が並ぶ公園の広場あたりは賑やかで、人もいっぱいで。
だから――ハイ! って。
彩音・レント(響奏絢爛・h00166)が差し出すのは、迷子防止の大きな手。
そして手を差し出されれば、萃神・むい(まもりがみ・h05270)は微笑みながら彼の手を取って。
なんだか心が、春みたいにぽかぽか気分になる。
だって、ふたりお揃いのブレスレットが見えたから。
それから迷子にならないようにって、手と手を繋いで。
ふかふか桜色の絨毯が敷かれたような、春の夜道をゆっくり歩いてみる。
そしてふと天を仰げば、灯火に浮かぶ夜桜が満開に咲き誇っていて。
「夜桜ってしっかり見るのは初めてかも」
「むいも夜桜はじめて。お昼の桜もキレイだけど、夜はまた違う雰囲気だね」
「お昼と比べると別世界感? 幻想的でちょっと切なくなるような……でも、すごーく綺麗!」
ふたりでそんなお喋りをしながらも、たっぷりいっぱい、一緒に初めての夜桜を眺めてみて。
春の夜のお散歩が一息ついた頃、満を持してレントはむいへと告げる。
――ここで僕からのサプライズ! って。
それから差し出すのは、昼間こっそり買っておいた小さな紙袋。
そんなお花見を楽しんでいる最中の思わぬサプライズに、むいはぱちりと瞳を瞬かせるけれど。
「むいに? もらっていいの? ありがとう!」
ふわりと嬉しさを咲かせながらも、開けてもいい? と訊ねてから開けてみれば。
「今度スマホ買うって聞いたから……一足先にプレゼントするね」
彼女の瞳のような色の天然石と桜のチャームがゆらゆら、仲良く寄り添うように揺れるストラップ。
そんな白群色と桜色を、キラキラした瞳に重ねながらも。
「スマホ買うの、覚えててくれたの? えへへ、ありがとう」
そう顔を上げれば、貰ったものと同じいろが、ゆらり。
嬉しくてにこにこ微笑んでいたむいは、レントのスマ―トフォンにも見つける。
貰ったものと、同じストラップが。
そしてそれが見つかれば、レントは自分のスマ―トフォンを見せて、ニッコリ。
「ブレスレットはちょっと違うのにしちゃったから……これは正真正銘のいっしょ!」
「わ! ほんとだ、レントとお揃いなの!」
そして……お揃いがたくさんでうれしいの、とむいが満開に咲かせる笑顔を見れば。
レントの心にもぽかぽかと咲くのはやっぱり、こんな思い――お揃いで思い出を残すのっていいね、って。
推しに贈り物をされた、それだけで天にも舞い上がるような夢心地なのだけれど。
でも、折角贈って貰ったのだからと、ライラ・カメリア(白椿・h06574)はヘアサロンで髪をセットしてもらってから、人生で初めての夜桜鑑賞へと臨もうと思ったのである。
そして編み込みのハーフアップにしてから、最後の仕上げに、煌めく白金へと桜を添える。
(「ダイナ様に贈って頂いた桜のバレッタ」)
そう、皮崎・帝凪(Energeia・h05616)から贈られた、桜のバレッタを。
そんなライラの髪のセットを待つ間、帝凪は夜桜咲く公園の広場を歩いてみて。
喉が渇いたからと買ったのは、二人分の春灯ソーダ。
そしてしゅわりと弾けるその味も美味だけれど、それ以上に、ぴかぴか光るボトルは彼の興味をいたく引いて。
(「ボトル側の形状と機能を工夫するのは悪くない案である! 次の発明品に活かせるかもしれないな!」)
そうその構造などをご機嫌に眺めながら、座るベンチも確保しておく。
それから連絡が入ってほどなくして。
「お待たせいたしました……!」
推しを待たせるわけにはいかないという思いと、全力で駆けたら折角のヘアセットが乱れてしまうという思いの狭間で、彼女がとても葛藤していたなんてことは当然知る由もない帝凪なのだけれど。
己が渡した桜のバレッタが飾る、美しい彼女を手招いて。
ライラも、ダイナ様が確保してくださっていたベンチに座って空を見上げれば、感嘆の溜息を漏らす。
宵闇に星々と桜が夢のように灯っている景色を眺めて。
そして……。
「うむ、美しい光景だな!」
興味深そうに空を見上げ、夜桜鑑賞に興じるそのご尊顔と横顔の麗しいこと!
だから見惚れるように推しをガン見しながらも、ライラは思わず言葉を溢れさせてしまう。
「とても美しいですわ」
けれどすぐにハッとして、慌てて主役の桜へ目を戻す。
(「いけないわライラ、抑えるのよ……!」)
そのお姿を直視してしまえば、情緒が極まりそうだから。
「昼の桜は日光を浴びて輝いていたが、夜は薄紅色が夜闇によく映える!」
饒舌に語る素晴らしいダイナ様を眺めるのは、桜を見る視線の端にちらちらっとチラ見する程度にしておいて。
何だかおかしな挙動をしているにもかかわらず……む、どうかしたか? なんて。
首を傾げて心配してくれるところも、神!
……なんて、そうひとりこっそりと推し活動に勤しんでいたライラであるが。
「ライラ、今日貴様は楽しめていたか?」
ふいに向けられたダイナ様の言葉にきょとんと目を瞬いてから。
「ええ、もちろん……!」
「偉大なる魔王様といえど、萎縮させてしまうのは本意ではないゆえ!」
「とても楽しい1日を有難うございました」
それから、ならばよいのだが、と。
瞳細めるダイナ様へと、ライラはぐっと力強く紡ぐ。
「ダイナ様の座す場所がこの世で最上に輝くと、再確認できました!」
「うむ、俺にとっても実り多い一日であった!」
それから帝凪はライラへと、こうも続けるのだった。
「桜にせよ、ライラにせよ……同じ対象であっても、見られる美しさは一種類ではないと実感できたのだから!」
そんな耳に届いた言葉に、耳まで赤くなって。
すぐ隣にいる彼を直視できないまま、でも、桜のように色づき染まった己の頬に手を添えながらも、酔い痴れるような夢見心地に。
だってライラは思うから……聞き間違いだとしても嬉しくて、って。
青空の下、咲き誇る鮮やかな満開桜と。
それになによりも、この春のひとときを目一杯楽しむ賑やかな声や笑顔。
ジョン・ファザーズデイ(みんなのおとうさん・h06422)にとっても、破場・美禰子(駄菓子屋BAR店主・h00437)にとっても、それが何より嬉しいことで。
「お昼のお花見もとっても楽しかったけれど、夜も雰囲気が変わって素敵だねぇ」
「そうだね、青空と桜の取り合わせも良かったけれど、夜は夜でイイもんだ」
陽が落ちて夜になれば、今度はゆったりとふたりで花見に興じてみようと、夜の公園内を並んで歩く。
それは、ジョンにとって、ほっこり楽しい時間だけれど。
「店主さん、疲れてないかい?」
何気に朝からずっとお出かけしているから、そう美禰子へと声をかければ。
「なァに、昼に呑み食いして喋って楽しんだお陰で気力体力十分さ」
ジョンはこう美禰子へとへと告げる。
「よかったら、一緒に屋台を見て回りたいな。遊んでいる子どもたちを見守っておきたいんだ」
それから、今はまだ平和そのものな春の風景を目にしながらも続けるのだった。
「星詠みさんの言っていた『古妖』のことで、ちょっと心配でね」
そんな彼の声を聞けば、美禰子はふっと瞳を細めて。
「ふーん……アタシもこの後の事はちょいと気になってる」
だからジョンの申し出に頷いて返す――いいとも、って。
そして並んでゆうらり、賑やかな方へと歩き出す。
「一緒に見回りがてら屋台巡りといこうじゃないの」
とはいえ『古妖』はこの祭りのどこかに潜んでいて、戦いも避けられないとのことだけれど。
でも今はまだ、敵もその尻尾を巧みに隠しているというから。
何もまだ起こってはいない、今の祭りのひとときを、ふたりで楽しむのも悪くないと思うし。
「店主さんは――美禰子さんは、小さい頃はどんな子だったんだい?」
「何だいジョン、藪から棒に」
「ふふ、こんな時でもないと聞けないような気がするからね」
歩きながら、普段はあまり聞けなさそうな、そんな雑談を。
美禰子はその問いに、ふと夜桜が咲く空を仰ぎながらもこたえる。
「アタシの小さい頃、ねェ……昔の事なんで殆ど忘れちまったよ。ただ大人しくて引っ込み思案で、親に逆らいもしない。そんな子供だった様な気もするね」
それから今度は、美禰子が訊く番――なんて思ったのだけれど。
「ジョンは……あー」
鳥籠の頭を見つつ、一瞬言葉を切るも。
やはり彼に、訊き返してみることにする。
「子供時代ッてのはあったのかい?」
「おとうさんは、昔のことは覚えてはいないけれど」
でも、楽しそうな祭りの賑わいを眺めながら、ジョンは思いの言の葉を咲かせる。
……その分 今を大切にしたいんだ、って。
そんな、色々なことを話しながら、屋台並ぶ広場を歩いていれば。
「わぁ、射的の屋台があるよ」
「射的か、いいね! やろう」
見つけたのは、景品がずらり並ぶ射撃の屋台。
「美禰子さん得意そうだね」
「得意かどうかはさておき、それなりに回数は重ねてるかなァ」
それからジョンは、美禰子に持ち掛ける――せっかくだし勝負しないかい? と。
そして、そんな勝負のお誘いへの返事は勿論。
「勝負も受けてたつ! 手加減はナシだよ?」
今日は気分も良いし、負ける気もないから、いざ勝負!
お互い全力で、それに何より楽しみながらも、狙い定めては引き金をひいていって。
そんな勝負の結果は。
まだまだ美禰子は若い者……かはともかく、負けません!
いくら、花咲か妖怪達が妖術をかけているとはいっても。
桜が今みたいに満開なのは、ほんの僅かなひとときだけ。
そして夜を迎え、灯篭に燈された明かりが、咲き誇る夜桜を照らす中。
桜色降り積もる道を行きながら、ゼズベット・ジスクリエ(ワタリドリ・h00742)が視線を向けるのは桜ではなく、隣を並んで歩く彼のこと。
「レンズなくても大丈夫?」
そう訊ねられれば、ドミニク・ヘレルヴルフ(泥塗れのアポロ・h04748)も視線と言葉を返す。
「ん、このくらいなら大丈夫だ」
遮光レンズを外して、咲き誇る夜桜に目を細めて。
そんな声が耳に届けば、ゼズベットは改めて桜へと目を向けて。
「昼間の桜は可愛いって感じだけど、夜の桜ってキレイだよね。何かこう、神秘? 幻想的? みたいな!」
そう楽しそうにはしゃぐ姿をみれば、思わずぽつりとドミニクは言葉を落とす。
「……悪いな、色々気を遣わせちまって」
あとでなんか好きなもん買ってやるよ、なんて約束しながら。
そんなふたりが足を向けてみるのは、祭り会場で開かれているという骨董市。
このルートは妖怪の世界ということもあって、いわくつきだったり、謎なものであったり、へんてこなものも多いけれど。
だからこそ、そのごちゃっと物が適当に積まれたような品物たちをみれば、ゼズベットは納得する。
「骨董市ってすごいねぇ。宝石箱みたい!」
……宝探しって意味がよく分かるかも、って。
そしてドミニクが真剣に眺めるのは、出店の職人技。
創作活動の参考にと興味深いし、職人愛用だという和ビーズや桜柄のトンボ玉をいくつか購入して。
そういえば迷子なんかになってやしないかと、ゼズベットの姿を探してみれば。
「あっ! 見てみて! これでドニとお揃いじゃない?」
見つけられた彼はそう、しゃきんと得意気にポーズ!
桜模様の遮光グラスをかけて、ニヘッとゼズベットが笑んでみせれば。
「……はは、似合ってるぜ」
ドミニクはそう小さく笑って返す。
……アンタにはそんくらい派手な方が良い、なんて。
それから骨董市をふたり楽しんで、買い物も済ませれば。
「屋台いく?」
「ああ、次は屋台だな」
やはり祭りとなれば、屋台は見て回りたいし。
ゼズベットがそわりと向かうのは、ぴかぴか光っている人気の屋台。
だからつい、逸るように足早になって。
「僕あの春灯ソーダってのが気になってて……?」
「っておい、あんまはしゃぎすぎんなよ」
転ぶぞ、と聞こえた瞬間、ゼズベットはドミニクを振り返る。
無意識に、手を繋がれたから。
けれどすぐにそれは、ぱっと離されて。
「ッ……すまん、間違えた。アンタ、俺の弟とそそっかしいところが似てんだよ」
……ま、相手は小せえ子供だが、なんてつけ加えられて。
そんな、ちょっぴりだけバツの悪そうなドミニクに、明るく笑んで返すゼズベット。
「もー! 大丈夫だってば! 転ばないよ、転ばないけど……」
一応大人だから、転ばないとは思うけれど。
でも、転びは多分しないけれど――うきうきと今、どうしようもなく心躍るから。
「君と一緒のお祭りだからはしゃぐなってのが無理なハナシ!」
そしてそんな彼を見れば、ドミニクは改めて気付いてしまう。
自分の中の弟は、小さい子供なのだけれど。
「そうか、弟たちも生きてたらアンタくらいに……」
だが刹那、離した手をふいに繋ぎ直されて。
湿っぽくなりかけた瞬間、我に返ったのは、手を取られた感触をおぼえたから。
それから楽しそうなゼズベットや周囲の人々をドミニクは見回しながらも思う。
(「楽しんでる奴に水を差すのは野暮だな」)
だから、繋がれた手はそのままにしておいたのだけれど。
手と手を繋いだまま、ゼズベットはドミニクの手を引いて、桜咲く春の夜を共に駆けて。
「今ここに居なくても思い出は持って帰れるよ」
無邪気な笑みを宿して向けながら紡ぐ……弟君達にもこの景色いっぱい見せてあげよ、って。
燈された灯篭の明かりに照らされて浮かぶ夜桜は、満開の見頃。
そしてやはり、桜と言えば。
「騎士団の皆と夜のお花見だぁ!」
「夜のお花見なんて素敵ですっ!」
そう、ネルネ・ルネルネ(ねっておいしい・h04443)や玉響・刻(探偵志望の大正娘・h05240)の言うように、お花見です!
ネルネはそわりと躍る心のまま、桜色に染まった春の夜をわくわく歩く。
「僕こういうの初めて……! ウキドキ〜!!」
昼に桜が咲いているのを見かけることは、春になれば当たり前の風景のように思えるけれど。
桜の夜祭りで花見となると、イベント感も増し増しだし。
さらに今宵の花見は、光霧騎士団の皆で赴いているのだから。
剣崎・スバル(気弱な機械剣使いドラゴンスレイヤー・h02909)も、初めての光霧騎士団の皆とのお出かけを楽しみにしつつも。
(「ワクワク半分、そして緊張半分といった気持ち……」)
初めてとなれば、ちょっぴり緊張もしちゃってドキドキ。
ということで、お花見! ……の、その前に。
やはり花見をするにあたって、美味しい食べ物や飲み物は必須。
とはいえ、複数人での花見となれば、尾崎・光(晴天の月・h00115)は考えてしまう。
(「皆の好みというか気になるお店や物が分からないんだよね」)
だから皆で一緒に屋台を巡っても面白そうなのだけれど。
「今回は集合場所と時間を決めて、で行こうか」
それぞれが好きなものや気になるものを調達すれば、何も食べられるものがないなどにはならないだろうし。
それに、メインのお花見を沢山皆で一緒に楽しみたいから、屋台は各個人で回れば効率的。
公園の広場には、屋台も数え切れないくらいいっぱい並んでいるから。
「屋台も沢山、美味しい物を見つけますっ!」
「まずは各自で回るんですね。じゃ、じゃあボク何か遊べるものでも探してみますね」
刻やスバルの言うように、皆で手分けしてお花見準備をするべく。
作戦会議が終われば一旦解散、いざ各々買い出しへ!
ということで、皆とわかれて、早速。
光が最初に気になったのは、お酒……なのだけれど。
未成年が居るから、今回はお土産のみにして。
(「日本酒なら外さないかな」)
折角だからとこの祭りオリジナルの日本酒「桜舞」をお土産として購入した後。
お花見の時に食べる物を、次に見て回って。
(「複数の種類から選べる、摘まめる程度の物なら外さないかな」)
そう考えながらも選んだのは、華やかで可愛らしい春の手まり寿司に、桜餡や抹茶餡のミニ大福。
それからふと見つけたのは、別のお祭りでも以前あった、猫型たい焼き。しかも限定の桜餡らしい。それも、人数分買って。
いい感じにお花見用の食べ物は調達できたけれど。
(「今回時間が無くて来られなかった人向けに、さくら色の金平糖やクッキーの入った詰め合わせのお菓子を買っておこう」)
来られなかった人用にも、桜咲く春の甘味をお裾分け。
そして、まずは各々フリータイムということで。
ネルネも、店々を観ながら、お花見で食べる物探しちゃいます!
とはいえ、くるりと見回してみただけでも、色々なものがたくさん。
(「何がいいかな……喜んで貰えそうないい感じのものを……」)
あれこれ目移りしつつも、選んだのは。
「夜桜イカタコ焼き……両方入っててお得感がある……いいかも!」
ちょっぴり変わっている、でもこの祭りならではな夜桜イカタコ焼きだったり。
「春灯ソーダ! お洒落〜! いいかも!! 買ってこ!!」
ぴかぴか光る容器にしゅわりと入った春灯ソーダも、良さそうって思ったから。
それら特に気になったものを、うきうきと買った後。
ネルネの目や興味を惹いたのは、食べ物系ではなく、異様にぴかぴかしまくっている店。
「わぁ〜! 他にも光る物いっぱい売ってる〜!!」
祭りでよく見かけるような、光るカチューシャだったりブレスレットだったり。
「眼鏡もある! 眼鏡on眼鏡しちゃお! こっちの輪っかはヴィヴィアンに着けてあげようねぇ」
ネルネが手にして、すちゃっとかけて眼鏡on眼鏡した眼鏡だって、勿論ぴかぴか!
自分用のぴかぴか眼鏡と、箒のヴィヴィアンに着けるぴかぴかも選んで。
いざお会計……かと思いきや。
「これも欲しい! こっちも! あとこれと……」
気になるぴかぴかがありすぎて迷うから、いっそあれもこれも全部買っちゃいます……!?
それからスバルも、きょろりと屋台へと目を向けて、見て回るのだけれど。
(「う~ん……何かいいものないかな……」)
そう悩んでいれば、ふいに目に飛び込んできた屋台で売られていたのは。
「あ、あれは「ガッ」ってやるラムネ……!」
祭りでよく見かける、「ガッ」ってやるラムネ!
というわけでスバルは、見つけたその屋台へと足を運んで。
(「よし、とりあえずこのラムネをみなさんで飲もうっと」)
人数分購入してそうこくりとひとつ頷いた後、他には……と、再びきょろきょろ。
それから屋台の他に、賑わいをみせている店々があることに気づいて。
「あ、骨董市かな? 遊べるものが売ってるかも……」
骨董市を覗いてみれば、様々なものが並んでいて。
宝探しするみたいに、何かお花見しつつも遊べるものがないか見てみれば。
「これは……花札? 面白そう……!」
楽しそうな妖怪花札を見つけて、お買い上げ!
それから、刻が気になるのはやっぱり。
「スイーツ良いですねー」
いや、ただでさえお祭りスイーツは沢山なのに、限定のものなどもあって。
こんなに有ると目移りしちゃうから。
「ちょっと、ちょっとだけ味見を……」
どれがいいかを決めるべく、ちょっとだけ味見してみます。ええ、ちょっとだけ!
ちょっとだけ……のつもりだったのです。
……ぱく。
…………はむり。
……………もぐもぐ。
「はっ! 何故か夜桜チョコパフェの空いた器が!?」
そう瞳を見開きつつも、パフェを完食をして、ご馳走様でした!
そして、うっかり美味しくパフェを堪能すれば。
(「……真面目に探します」)
お花見用のものも、ちゃんと探します、ええ。
ということで、桜黒糖ドーナツと夜桜カヌレを幾つか買った後。
「あんみつも良いですが、1人ではあまり運べませんねー」
春らしいあんみつもすごく心惹かれるけれど、人数分となると持てなさそうで。
悩まし気に思っていたら――ピコン。
「そうだ! 私の秘密基地ですっ!! でくぅちゃんに鍋とお玉を送って貰いますっ!」
刻は、あんみつを買っても大丈夫なそんな名案を思い付いて。
……これにお願いしますっ! と、あんみつも人数分無事に確保です。
そして、それぞれが買い物を済ませれば。
まず、少し早めに集合場所に到着したのは、光。
運よく空いていたベンチを見つけて、皆を待とうと……顔を上げた、その時だった。
「お〜い!」
「めちゃくちゃ光ってる人が……あ、ネルネルさんだ」
やたら全身ぴかぴかグッズだらけな人がご機嫌で近づいてくると思ったら……ネルネでした。
そしてめちゃくちゃピカピカ光って駆け寄ってきた彼に、光はこう訊いてみる。
「これなら皆も集まり易いかな。ひょっとして考えてました?」
「集まり易さを考えて……? うん!!!!!」
いや、めっちゃ元気に頷いたネルネだけれど、何も考えていません。
でも、それがたとえ、特に考えていないぴかぴかだったとしても。
光の言うように、目印としてめちゃめちゃ有能で。
「えーっと……このあたりで集合のはず……。ん……?あの光っている人……ネ、ネルネさん!?」
「ネルネさんのお陰でわかりやすかったですっ!」
スバルと刻も迷うことなく、さくっと集まれました!
それから改めて、それぞれの戦利品を見せ合いこ。
「私もくぅちゃんに光る桜ねこ耳、お土産に買いましたっ!」
そうぴかぴかグッズを何気に買っていた刻の、お花見用の購入品を見れば。
「刻くんはスイーツ系かぁ。あんみつ多いね、好きなのかな?」
「玉響さんのお鍋であんみつっていうのは圧巻だなあ。これ、桜餡だったりします?」
やはり存在感を放つのは、お鍋のあんみつ!
そしてネルネも自分の買ったものを並べつつ。
「スバルくんは? いい物見つかった?」
「あ、えっと……ラムネ買ってきました。「ガッ」ってやりましょう……!」
「まずは剣崎くんの買ってきてくれたラムネで乾杯しようか」
そう言いながらも、光が買ってきたものを見れば、ネルネはハッとする。
(「光くんのラインナップから好き嫌いへの配慮を感じる……! そこまで考えていなかった……!」)
とはいえ、彼の配慮に感心しながらも。
……まあ僕は何でもおいしくいけちゃうんだけどね! と。
「いただきま〜す!」
ラムネで「ガッ」ってやって乾杯をしてから、いただきます!
そんな花見に必要な他の諸々なものや、もしも足りないものがあっても、刻に言えば大丈夫。
「何か必要ならくぅちゃんに送って貰いますっ!」
それに、花も団子も勿論、目一杯楽しむけれど。
「それから花札も買ってきました……!」
「花札は食べ物が片付いたらやろうか」
スバルが骨董市で見つけた、妖怪花札だってあるから。
刻は、はむりと皆が買ってきたスイーツを嬉々と口に運びながら、桜の木の下で笑顔も満開。
……楽しいお花見になりそうですっ!! って。
陽もすっかり沈んで迎えた春の宵、満開に咲き誇る桜が舞う夜になっても。
いや、夜になったからこそ、今宵はさらに沢山の人の声で賑わっている。
夜になって本格的に、桜の祭りがはじまったのだから。
そんな楽しい喧騒の中、壬生・縁(契・h00194)は、燈された灯篭の光纏う夜桜を見上げて。
「静かに楽しむ夜桜も好きだけれど、賑わいの中咲く夜桜も良いものね」
「こういった賑わう夜も好いものですね」
六・磊(垂る墨・h03605)もそう頷けば、刻・懐古(旨い物は宵のうち・h00369)も、ふたりと共に夜桜を眺めながらも思う。
「彼の木も、此の木も見事だと、つい見上げて瞳に焼き付けてしまうね」
灯りに照らされた眼前の桜は、日中のものとはまた違う彩りだと。
でも、そんな夜桜も勿論のこと。
……けれどお楽しみはそれだけじゃない、と。
懐古は、弾む心のまま軽やかな足取りで、縁と六磊と、桜色の夜道を練り歩く。
そう――屋台だって一期一会。
「桜に染まる屋台、どれも素敵で惹かれてしまうかしら」
満開の夜桜だけではなく、公園の広場にずらりと並ぶ屋台も桜色に溢れていて。
春風がふわり纏う美味しそうな香りにも、つい誘われそうになっちゃう。
けれど、こんな誘惑をふと囁くのは、六磊。
「ええ。何やら夜限定のものもあるそうですよ」
「限定……今回しか出会えない様な気持ちにさせる、魅力的な言葉よね」
限定――それは心擽る、魅力的すぎる言葉で。
さらに、懐古のアンテナが刹那ぴこんと立ったのは、酒の気配。
「ふむ、屋台バー。これは面白い酒の数々」
そんな酒の魅力も抗い難いもので。
ふらりと足を運べば、六磊は小さく首を傾けつつも紡ぐ。
「そして見事に吸い寄せられてしまいましたね」
「どうにも“限定”の文字に弱くなってしまうね。ふふ、この感じわかるかい?」
「ふふ、もう手に入らないかもしれないものを求める気持ちは……分かる気がします」
懐古の言葉に頷きながら、笑み咲かせて。
というわけで、3人が選んだのは勿論。
「では、和カクテル「春灯」をひとつ」
「では、僕は此方の日本酒を」
「私も日本酒の「桜舞」をいただこうかしら」
皆揃って、限定の酒を。
そして折角、今だけしか味わえない酒と出会えたのだから。
「今しか見ることのできない景色、やはり格別な場所で見たいですよね」
どうぜならば特等席で、花を愛でたいというもの。
それから暫く桜花弁舞う春の夜を歩いて、見事に咲き誇る桜の木の下、腰を下ろせる場所を見つければ、3人並んで花見酒。
先程屋台で買った酒と、昼間に購入しておいたおつまみやおにぎり等も、夜桜と共に堪能……するのだけれど。
六磊がさり気なく少しだけ気にかけておくのは、懐古の顔色。
そして、懐古が飲みすぎないようにと六磊が気にかけている様子を見て、縁は彼の面倒見の良さを改めて感じながら。
縁自身も懐古のことを少し気にかけつつも、六磊と共に、まずは見守る方針。
六磊も様子は窺っておくけれど、でも酒や夜桜に酔い痴れるのもまた、花見醍醐味であるし。
何より、ふわふわ楽しくしている彼を見るのも楽しくはあるから。
(「構わずそのままにしておきましょうかね……僕も縁さんもいますし」)
酔いすぎなければ良しと本人の意思に任せる縁と、一瞬だけ目を合わせては、小さく笑みを咲かせ合うだけにしておく。
そんな、ふたりに何気にちょっぴり心配されていることを、知ってか知らずか。
桜花弁が浮かぶ夜色の「春灯」を口に運びつつ――甘いものと酒はいけるかな? なんて。
そう尋ねながらも、ふたりに懐古が勧めて差し出すのは。
「ふふ、先ほど買っていたのはこれだったのね」
「そうそう、桜餡の鯛焼きは絶品なんだ」
そう――見つけて買っておいた、桜餡の鯛焼き。
そんな眼前に差し出されたそれは、確かにその名の通り、鯛を象っていて。
「鯛焼き? 魚の形をしていますが甘味なのですね」
魚の意匠なのに甘味だというそれに、首を傾ける六磊だけれど。
「六磊さんは鯛焼き、初めてかしら?」
縁の声に頷きながらも、懐古が勧める初体験の甘味を――はむり。
お言葉に甘えて食んでみれば、刹那、ふわりと。口の中に広がり咲いたのは、桜味と桜の香。
そして……覚えておきます、と六磊はゆっくり味わうことにする。だって、舌触り好みの甘味であったから。
そして縁も桜餡のたい焼きを口にしてみれば、ほくほく上機嫌。
「桜餡の鯛焼きとお酒、中々良い組み合わせ」
そんな嬉しい、新しい発見に。
懐古も勧めた鯛焼きを口にして綻び咲くふたりの姿を肴に、景気よく「春灯」を口にしては花見を楽しむ。
ふわふわほろ酔いしつつ――今だけ限定の、この春の夜に酔い痴れながら。
日中も、百貨店や公園で沢山の桜を、美味しく楽しく堪能したのだけれど。
「春灯祭も本番だな」
「夜桜見物だね」
夜になれば、春の祭りも始まって。
咲き誇る夜桜が灯篭に照らされて、昼間のものとは印象ががらりと変わっている。
そして勿論、そんな夜の桜も目一杯楽しむつもりだから。
ナギ・オルファンジア(Cc.m.f.Ns・h05496)はまずは、アダルヘルム・エーレンライヒ(片翅黒蝶・h05820)を連れて、ある屋台へと。
それから、満ちる桜色の光たちにくるり視線を巡らせてから。
「ナギは光る桜にしましょう。アダル君は猫耳ね」
選んだそれ――ピカピカ光る桜猫耳カチューシャを、彼の頭にちょこりとつけてあげて。
「何で俺が猫耳なんだ……」
「ねっ! これも君が逸れて迷子にならないようにする為だよ」
そう、迷子防止のためなのです!
そして、そう告げる声と肩がぷるぷる震えているナギに目を向けて。
「迷子防止とか言いつつ、絶対に面白がっているだけだろ……」
呆れ顔で眺めるアダルヘルムだけれど、それにしても、圧が凄い上に外し辛い。
それから、面白愉快……いえ、迷子防止もばっちりとすれば。
まずナギが足を向けるお目当ては、スイーツの屋台。
「私は桜黒糖ドーナツで」
でも当然、それだけではなくて。
「夜桜イカタコ焼きと普通の焼きそばも買うよ」
それから……君は何が食べたい? って。
そうアダルヘルム目を向けた後、ナギは続ける。
「約束、忘れてはいないね?」
そんな彼女の言葉に、瞳を細めて返すアダルヘルム。
「半分こだろ?」
……言われずとも憶えている、と。
だから、約束通り。
「俺は夜桜あんみつが気になるな。あと焼き鳥と、夜桜イカタコ焼きはナギ殿から貰って良いか?」
半分こするべく、ふたりで気になるものをそれぞれ買ってみることに。
そして、隣に並ぶ彼女の戦利品を見れば、思わず目をみはるアダルヘルムだけれど。
「食いしん坊は夜も沢山食うんだな」
「くいしんぼうでなくとも、今食べなければ後悔してしまうよ」
満開桜の景色が今だけしか見られないのと同じように、春の屋台グルメだって期間限定。
だから後悔のないように、気になるものは全部食べておくのです。
そしてそんな食いしん坊なナギへと、アダルヘルムはこう訊ねる。
もうひとつ、気になる屋台に。
「屋台バーに寄っても良いか?」
けれど、思いのほかすぐに返事がかえってきたのは。
「いいも何も本命は屋台バーです」
「ふ、確かにこっちが本命かもしれんな」
ナギにとっても、屋台バーは本命なのだから。
そしてやって来た屋台バーでふたりがオーダーするのは。
「私は「春灯」と、私のイメージで作っていただこうかな」
「春灯と……ナギ殿は自分のイメージカクテルか。俺もその二つでお願いしようか」
春限定のカクテル「春灯」と、自分のイメージカクテル。
それから、作って貰っている間も。
「アダル君もご自分イメージのカクテルかい? 君だと黒のカクテルでしょうか」
「黒いカクテルはあまり聞かんが、どうだろうな? どんな色になるか楽しみだ」
わくわくしながら、そうお喋りも楽しんでいれば。
運ばれてきたのは、まるで窓の外に広がる風景のような「春灯」と。
「わ、綺麗な色」
「ナギ殿のは美しい色合いをしているな」
ナギの前に置かれたのは、アマレットとミルク、クランベリージュースで作った、白と赤のグラデーションが綺麗なカクテル。
そして、アダルヘルムイメージのものは、ナギの言っていたように黒のカクテルで。
ナギのものとお揃いのクランベリージュースにブラックウォッカの、黒と赤のグラデーションカクテル。
それから、早速口に運んでみるアダルヘルムをじいと見遣って。
「お味はどう?」
その味にも、ナギは興味深々!
そして、アダルヘルムも。
「俺のもなかなかに美味いぞ」
そう頷いて返した後――そちらはどうだ? なんて、訊こうとしたのだけれど。
でも、聞かなくてもその前に、教えてくれたのだった。
「おいし……!」
ぱっと満開に咲き誇った、彼女のそんな言葉と笑みが。
夜になっても、夜桜が咲き誇る公園は楽しそうな人達の声で溢れている。
いや、夜になったからこそ、その賑わいも最高潮。
だって夜が、この「春灯祭」の本番なのだから。
そんな桜色に染まった風景を歩きながら。
「お祭り、すごく賑わってるね!」
マリー・コンラート(|Whisper《ウィスパー》・h00363)は、灯りに照らされた夜桜を見上げながらも。
「色々屋台を回りたいけど、時間足りるかな?」
そうちょっぴり思ってしまうのは、夜桜がとても綺麗でついつい足を止めちゃうから。
豊橋・瑞穂(DD.Ⅴ・h01833)も、そんなマリーの声に頷いて。
「賑やかで楽しいお祭りだわ」
でもつい早足になりそうなのは、くるりと見回す祭りが盛況だから。
「綺麗な装いの人も沢山……欲しい小物なんかがあったら早目に買っておかないとね」
綺麗な夜桜の誘惑はあるけれど、後悔がないように勿論目一杯、満喫し尽くすつもり。
マリーとふたりで、一緒に。
それから、気になる屋台を色々と巡っていれば。
瑞穂がふと見つけたのは、夜だけしか開いていないという屋台。
「ねぇマリー、あそこ屋台バーらしいわよ。一緒に行ってみない?」
「屋台バー? いいね、行ってみよう!」
花見酒と言うだけあって、飲み物と桜を楽しめるバー形式の屋台みたい。
そして足を運べば、ふたりが目を奪われたのは同じ彩り。
「春灯……すごく綺麗なカクテルだね」
「綺麗な色……この桜と夜にとても似合ってて素敵だわ」
でも、ふたりはまだアルコールが飲めない年齢。
綺麗だけれど、残念ながら眺めるだけ……かと思いきや。
「へぇ、モクテルって言うのもあるんだ?」
ノンアルコールのモクテルで作ってくれるとのこと。
そう聞けば、勿論オーダーするのは。
――じゃあ、春灯のモクテルをお願いします! 2人分!
目を奪われた夜桜を、ふたりで一緒に味わってみることに。
そしてわくわく乾杯して、揃って飲んでみれば。
「──うん、人々の温かみが伝わってくる味だね。すごく美味しい!」
「桜花弁も飲めるのね。桜の香りが春らしいわ」
春のような優しい味わいと、ちょっぴり大人になった気分に、ふたり笑み咲かせて。
顔を見合わせて、楽し気に笑い合う。
そして、そんな桜咲く春の味を提供してくれたバーのマスターに。
「どこかでお店をやってるなら行ってみたいな。ごちそうさま!」
「ふふ、ご馳走様でした。私もとっても美味しかったわ、また機会があったら寄らせて頂戴」
また巡り来る季節の様な再会の願いと、御礼の言葉を告げて。
そっと特別に手渡されたのは、お店のショップカード。
それから、屋台巡りの後、瑞穂のIBISにふたり横掛けして。
少し高い所から、無数の灯に映える満開の夜桜と賑わう人々を眺めてみる。
「なんだか優しい甘さですごく好きな味!」
「桜の香りとしょっぱさ、黒糖の穏やかな甘さがドーナツと凄く合ってるわ。これは正解ね」
スイーツ屋台で買った、桜黒糖ドーナツ片手に。
そしてマリーが桜吹雪舞う中、満開の笑みを綻ばせれば。
「これからも2人で色んなところに行って、思い出をたくさん作ろうね!」
「ええ、2人で色んな世界と景色を見に行きましょうね」
瑞穂もこくりと頷いて、まだまだこの春のひとときをふたり楽しみながらも、咲かせて返す。
……きっとそれも楽しいわ、って。
満開桜の下、様々な屋台がずらりと並び、沢山の花見客が訪れている祭り会場。
そんな中、ふたりが探すのは、人がいない且つ広めのスペース。
だが今宵こそ祭りで賑わっているけれど、元々ここは公園。
だから、喧騒に背を向けて春の夜を歩けば、ふたりが所望するうってつけの場所は容易に見つかる。
ラインもリングもないけれど……でも今日は、それだけで十分。
久瀬・千影(退魔士・h04810)と祭那・ラムネ(アフター・ザ・レイン・h06527)が探していたのは、自分達だけの特別な桜色のコート。
美味しそうな食べ物やスイーツ、お面や玩具、金魚掬いなどの遊べる屋台。
屋台や出店には、祭り定番のものから珍しいものまで、色々な品々――本当に様々な物が置いてあった。
そして千影はふと、その中で見つけたのだ。今手にしている、桜色のバスケットボールを。
だって、バスケが好き、なんて隣のコイツが言うモンだから。
「お祭り騒ぎに乗じて遊んでみるか」
そう誘うように声をかけてみるも、でも分かり切っている。
返ってくる反応なんて、聞かなくても最初から。
ということで、ラムネは逸るように視線を巡らせながら、公園の奥へと足を運んで。
バスケをするに十分な、この場所を見つけたのだ。
行うのは1on1、攻撃側が守備側を抜けたら攻守交代。
そして攻撃中にボールを奪われたら負け――そう、これはテクニックと体力の勝負。
先攻は千影。千影は桜色のバスケットボールを手にしながらも思う。
(「身長タッパと経験があるのは祭那の方だ」)
……けど、俺は何でも器用にこなせるスマートさがウリでね、と。
当然ながら、負ける気などないし。
テクニックや器用さは千影に分があることは、ラムネもよく分かっているが。
(「けど体力には自信ある」)
だからラムネだって、勿論全力で勝ちにいくけれど。
でも、何よりも満開に咲き誇るのは、わくわく心躍るこの気持ち。
(「久瀬と1on1してみたかったから、すっげえ楽しみ!」)
だからこそ、互いに全力で勝負したいから。
「遠慮はいらねえからな、久瀬」
腕捲りして千影の前に立ち、ラムネは気を引き締めて臨戦体制へ。
自然と取るディフェンスの姿勢はさすがの経験者、距離は抜かれないよう基本通りワンアーム。
桜色の地を踏むその足は肩幅に開いて腰を落とし、ハンズアップしてプレッシャーをかける。
しかもラムネは自分よりも身長のある分、より圧を感じるけれど。
でも、その構えに隙がないのならば、守りのずれを作るまで。
タンッと地に積もった桜花弁が、突いたボールで小さく舞う中。
ドリブルをしながら、千影は細かいステップを刻んで横移動しつつ、フローティング。
当然ラムネもそれに反応し、相手の動きを読んで、どこまでも食らいついて。
息さえつかせないとばかりにボールを奪取せんと果敢に攻める。
だがそれを振り切るべく、踏み込んだ足、そして視線でフェイントを掛けながら。
すかさず左右に切り替えてクロスオーバー、動きを見切り持ち前の素早さや器用さを駆使して、両足の間にボールをバウンドさせてドリブルチェンジ。
そんなレッグスルーなんか確りと決めて、鮮やかに抜いていく千影。
そう、ラムネは知っている――彼は強い、って。
だから思った通り、こうやって好きなバスケで勝負するのが、楽しくて仕方ないし。
逆に攻撃側になった時だって、果敢に攻めることは変わらない。
だから、視力を活かして動きを見極めんとし、体幹と頑強さをもって身体を張って止めて。
ボールを奪う隙をすかさず突かんとする千影の動きを逆に読み切って。
(「簡単には終わらせない。とことんまで付き合ってもらうさ」)
今度はラムネが、そのディフェンスを抜いてみせる番。
抜かれれば悔しいし、だから負けじと抜き返せば、果敢にボール奪取を狙って。
それの繰り返しで、なかなか勝負がつかないけれど。
でも、だからこそ。
「あー……、……たのし」
流れる汗をシャツで拭って、ラムネは笑う。
刺激された闘争心のまま、常よりも獰猛さを隠す気もなく宿しながら。
そして互いに一歩も引かない長丁場の攻防に勝負がついたのは、ほんの一瞬の隙。
長くなればなるほど、やはり有利になるのは体力がある方。それにそのほんの僅かについた差はやはり、バスケの経験。
肩すれすれの低い姿勢でスピードを駆使し、巧みに再び相手を抜かんとする千影だけれど。
これまでの動きから、きっとそうくるだろうと。
「……!」
経験からその行動を読み、狙った位置に誘導したラムネが、ついにボールを奪取したのだった。
それから存分に勝負を楽しんだ後、吹く春風に心地良さを感じながらも。
ちょっと息が上がる千影のあちこちにくっついているのは、桜の花びら。
でもそれは、ラムネだって同じで。
勝負している時は全く気づかなかったけれど、まるで健闘を称えるように舞い降る春の彩りを、ふたりお揃いで積もらせていたから。
自然な動作で千影に付いた桜の花弁を取りつつ、今度がラムネから提案を。
「折角だから屋台も覗いてこうぜ」
……俺、春灯ソーダが気になるな、なんて言えば。
喉が渇いている千影も、勿論賛成に決まっている。
そしてふたりで屋台が並ぶ広場に戻りながら、ラムネがそっと心の内にだけ咲かせるのは、こんな目論み。
(「ボール調達してもらったし俺が奢りたい」)
それから奢りの春灯ソーダを手に、おつまみも買って軽く腹拵えしながらも。
「楽しかったな、一日分遊んだ気がするよ」
そう紡ぐ千影に、ラムネも屈託なく咲かせる。
「本当に楽しかった。またバスケやろう」
桜が満開の楽しい春の夜のひとときに――溢れる笑みと言の葉と、またいつかの約束を。
夜になればはじまるのは、桜照る春の祭り「春灯祭」。
そんな夜桜と賑やかな声が咲く公園に足を踏み入れて。
「妖怪百貨店面白かったねぇ」
そう紡ぎながらも古賀・聡士(月痕・h00259)が見遣る先には、比翼の存在と先程増えた奇異な連れ。
ちゃっかり「ろくろ首スタンドライト」を購入し連れ帰るべく抱えながら、高城・時兎(死人花・h00492)は彼と共に春の夜を歩く。
そんなふたりの目的は、勿論。
……面白いものを存分に堪能したなら、今度こそ桜を楽しむとしようか、と。
数多照る灯篭に彩られ、見事に咲き誇る満開の夜桜鑑賞。
でもつい目を向けてしまうのは、桜花弁と共にふわりと春風に運ばれてくる、美味しそうな香り。
だから、魅惑的な匂いや心なしか感じる空腹感に抗わずに。
「お、屋台がいっぱいあるね。いくつか買ってどこかいい感じの場所探して食べようか」
……時兎、何にする? と。
そう彼女に訊ねてみた聡士なのだけれど、返って来たのは、意外な提案。
「食べ物もいーケド、ね、あれやろ、弓の射的」
時兎の視線の先にある屋台はそう、景品がずらりと並ぶ射的の屋台。
「うん? 射的? へえ……銃ではなくて弓を使うやつもあるんだ。やってみる?」
勿論そう訊けば、やる気満々にこくりとひとつ頷いて。
「ん、久々に勝負、負けたら…光る桜ねこ耳付けて歩くこと」
「んじゃ、どっちがより高得点が取れるか……勝負だね」
負けた方がぴかぴか光る桜ねこ耳を着けるという約束を交わせば、いざ射的勝負!
「弓なんて久しぶりだ」
「銃は聡士に負けるけど。弓なら、けっこ、いー勝負できるはず、だよ」
そうぐっと何気に気合十分で臨む時兎は、早速弓を番えて。
狙い澄まして一矢放ってみれば、ゆるかわ蛸入道ぬいぐるみをぽこんっ。
続いて聡士も、弓は久しぶりだと言うが、蛸入道とお揃いの大王イカぐるみの脳天を見事撃ち抜き倒して。
ふたりとも果敢にぽこんぽこんと景品を射抜いてはゲットしていくけれど。
ふと真剣そのものな時兎の様子を微笑ましく思っていれば――。
「あ、最後外してしまったねぇ」
高得点狙いで小さな景品へと聡士が放った矢は、微か標的を掠めただけで。
今回は、確り最後の一矢も景品に当てた時兎の勝ちに。
ということで。
「光る桜ねこ耳……なんというか、目立つねぇ」
すちゃりと聡士の頭に着けられたのは、ぴかぴかな猫さんのお耳。
それから、今度こそ。
「さて、存分に射的を楽しんだところで、お腹も空いたしご飯系でも探そう」
花見にはやはり必須な、美味しいものを求めて、屋台が並ぶ公園の広場を改めて巡れば。
「おれ、とりあえず春灯ソーダ、欲し」
「夜桜イカタコ焼きって面白いね。僕はこれにしようかな」
「夜桜イカタコ焼き、気になってたから……ちょと、分けて?」
「うん? 時兎も欲しいの? いいよ、分けてあげる」
聡士の猫耳と同じようにぴかぴか光る春灯ソーダに、真っ黒でころんとした夜桜イカタコ焼きはお裾分けの約束を。
そして、大人の夜桜鑑賞の嗜みといえば。
「あと桜舞も欲しいなぁ……」
そう、花見酒。
しかも春限定の日本酒となれば、聡士はそわりとするけれど。
ふと、そんな彼の袖をちまっと掴んで、ちょいちょいと。
引っ張った時兎の目に留まったのは、酒は酒でも、オリジナルカクテルの屋台バー。
好きなカクテルを作って貰えると聞けば。
「あれ、作ってもらうの、やってみたい」
時兎は早速、やってみます!
ということで。
「オリジナルカクテルかぁ、いいね。どんなものを作ってもらうんだい?」
「希望のモチーフは……、三日月と金木犀……夕暮れの空、深い漆黒」
色々とマスターに好みを告げながらも、時兎は聡士の姿をちらっ。
そんな彼女の注文を、楽しげに目を細めて見守る聡士は、思わずにやりと笑う。
だって勿論、すぐの気付いたから。
「どんなカクテルになるか……楽しみ。きっと、刺激的で、おいし」
「ほんと、僕のこと大好きだねぇ」
彼女がわくわく作ってもらっているのは、自分のモチーフであると。
いや、そういう聡士も、隣で真剣な表情をしている彼女に目を奪われて、先程の屋台では一矢外したなんて。
そんな言い訳は心にだけ咲かせて、口にはしないのだけれど。
そして出来上がったカクテルは、金木犀の彩りから黄昏空、そして底には深い漆黒が沈む、グラデーションが美しいカクテル。
ダークラムに金木犀のリキュールをメインにしたもので、三日月のレモンピールがぷかりと浮かんでいる。
聡士も、ご所望通りに「桜舞」を購入して。
人気の少ない場所を探して落ち着けば、月夜の桜の下で――乾杯。
時兎はふと、春の月夜を見上げて。白い桜を向けた瞳にも咲かせながら。
辿ってみるのは……ずっと以前も、同じように隣で見た記憶。
そうちょっぴり夜桜とカクテルに、ふわり酔い痴れていたのだけれど。
「ん、このタコ焼き美味しいな」
聡士のそんな声が耳に届けば、彼へと視線を移して。
「はい時兎、あーん」
不意に差し出されたタコ焼きを何気なく、あーん……。
「!? あつっ」
超絶猫舌な時兎が涙目で悶絶したのは、言うまでもなく。
そして、はふはふ熱そうにする様子を見て、ぱちりと目を瞬かせて。
「あっはっは、ごめんねぇ?」
そう楽し気に笑えば、自分もひとつ、ぱくり。
いや、どちらかといえば今猫さんなのはむしろ、猫のお耳をつけた聡士の方であるというのに。
「何であんたは平気な顔して食べてンの!?」
平然と熱々のたこ焼きをもぐもぐする彼に驚愕する、猫舌な時兎。
でも顔を見合わせて笑いあったり、こうやって美味しい物を分けっこして貰ったり。
そんな桜咲く春の夜に、時兎はそっと思いを綻ばせる――変わらず一緒、居られるのがしあわせ、って。
人は、昔からお祭りが大好きで。
訪れる季節ごとに、祝い願い祈り感謝し、くるりとひととせ巡って。
再びまた巡って来た季節の祭りを楽しむ。
この「春灯祭」だって、きっとそうだろう。
「夜だけどすごい活気だねっ! これぞお祭りって感じで心躍っちゃうな~♪」
人も妖怪も他の種族も、それに付喪神だって勿論、そう。
特別な春の夜のお祭りを楽しむべく、わくわくと心躍らせながら、この場所に足を運んでいるのだ。
そして小倉・ミルク(|五穀豊穣の大鎌《ハーヴェスト・サイズ》・h04719)は、一期一会の縁が咲かせた夜桜ネイルを連れて。
妖怪たちが張り切って燈した灯篭の明かりに導かれながら、仄か輝く夜桜咲く中を軽やかに歩く。
(「あたしも参加出来るようになったのは嬉しい限りだよっ!」)
だってミルクは神社に祀られていた頃から、お祭りの雰囲気や皆の楽しそうな笑顔が好きだったから。
そしてその頃は、奉納されている社からそれを眺めるだけでも満足していたのだけれど。
年月が経ち、何度も季節を巡り、そしてこうやって少女の身を得て。
この喧騒に身を置けるようになった今、満開に咲き綻ぶ。わくわくと嬉しさが、その心に。
でも、やはりここでも、ミルクの頭を悩ませるのは。
(「夜桜を見ながら色々な露店も見てみたけど……」)
――何にしようかここでも迷っちゃう……! って。
あれも美味しそうだったし、これも可愛かったし、それだって気になっちゃって。
さらに迷ってしまうような誘惑もいっぱい。
「限定と聞くと試したみたくなっちゃうし……。でも、お祭りといえばの定番もここで味わうからこそのっていうのもありそうだし……!」
今の季節しか味わえないという、限定のものを堪能してみるか。
それとも、お祭りだからこその定番を思い切り満喫するか。
「どうしようかな~……」
どれも魅力的すぎて、なかなか決めきれないから。
……よし、とミルクは、ある屋台へと足を向けてみる。
(「まずはあの可愛かったお花見猫さん団子と、あとは桜茶を買ってからお花見しつつゆっくり考えようかな」)
あれもそれも見ていたら、全部美味しそうにしか見えないから……とりあえず一服し花を愛でながら、脳内で作戦会議をしてみることに。
だから、お花見団子な猫さんとふわり香る桜茶を手に入れれば。
ひらり花弁が舞う中、桜が綺麗に見られそうな場所に移動して、お花見を始めることにする。
というわけで、お団子を食べながらいざ花見……も、わくわくなのだけれど。
さてと、食べる前に――と。
(「スマホでパシャリと撮影して思い出を形に残してからいただきますっ!」)
せっかくの可愛いお団子と、それにせっかくだから桜茶も一緒に――パシャリ。
眼前の夜桜と今宵の思い出を、ばっちりスマートフォンの中にも咲かせれば。
ミルクは目一杯、大好きなものを同時に楽しむことにする。
人が作った美味しい食べ物と。自然が作り出した、目の前に広がる桜達の景色を。
はむりとお団子や桜茶を口にすれば、その甘やかさや春の香りに笑みも咲いて。
綺麗に咲き誇る夜桜を眺めながら、舞うひとひらを、そっと桜咲かせた指先で招いてみたり。
花も団子も存分に楽しみつつも、ミルクは春の夜に祈りを馳せる。
――「来年も素敵な笑顔と桜が咲き誇りますように」と。
それから、パッと立ち上がって。
「来年への期待もだけど、まずは今年!」
……気になるもの全部食べたり飲んだりして楽しむぞ~! なんて。
まだまだこの満開桜が彩る春の夜を、余すことなく堪能するつもり。
「考えるよりまず行動! その方があたしらしいお祭りの楽しみだからねっ☆」
舞い遊ぶ桜花弁のように、ひらりひらりらと――心行くまま、気の向くままに。
晴れ渡る青空に満開に咲く桜、そしてひらりくるりと舞う桜花弁たち。
そんな柔い陽光と薄紅たちが咲き誇り降る昼の彩りは、間違いなく春のものであった。
けれど陽が沈み、夜を迎えた今、咲き誇る桜に変化が生じる。
それは、季節が少しだけ戻ったようだと錯覚するような……いや、その只中に、雪女である親の容姿を継いだのだという、目・魄(❄️・h00181)が佇んでいるからかもしれない。
真白の彩りが夜空からはらりひらひらと降る様は、まるで雪のようで。
中性的で美しい彼の面立ちは、老若男女問わず、思わず皆が振り返るほど目を引く。
けれど今、彼の周囲に舞い吹雪いているのは、吹雪は吹雪でも雪ではなく、桜吹雪。
燈された沢山の灯篭と柔く降る月の光が、数多舞い降る薄紅たちを真白の輝きで仄照らして。
浮かぶ白きひとひらたちは、決して溶けることなく静かに地に積もってゆく。
そんな満開の夜桜の下、魄が心に咲かせているのは、こんな算段。
こういう時にしか会えないからと――目一杯甘やかす気満々である。
だってこれから、この春の夜のひとときを、別√の義子と共に散策を楽しむのだから。
いや、右神・蒼紫(目・草の異世界同位体・h03033)だって、昼間の桜咲く風景は見ていたのだ。
己の在る√より鏡越しから観察していたのだけれど。
でも、春に潜む不穏な気配の尻尾をもうすぐ掴めるだろうから。
妖怪達が闊歩するこの√へと、夜桜満開の公園へと、実際に赴いた次第……ではあるものの。
おっとりとした空気感はそのままに、ぱあっと刹那、蒼紫が満開に咲き誇らせるのは、満面の笑顔。
魄の姿を見つければ、逸るようにタタッと小走りで、出会い頭にたまらず、ぎゅー。
全身で伝えるのは、会えた喜び。
そんなお子のことを受け止めて、魄は蒼紫に訊ねる。
……好きな所は何処か、行きたい所は何処だろうか、と。
それから、お子の好きな物は何かと聞きながらも。
(「昼間と違う所を探すのもいい」)
そう思っていれば、ふいにそっと袖を微か引かれる感覚を覚えて。
少し内気な所があるお子だけれど、その表情をみれば、魄は察して瞳を柔く細める。
離れない様にと、そっと己の袖を摘まみつつ、きょろりと視線巡らせるお子が興味津々であることを。
そして魄は好きにさせておく。
(「迷子防止ではないけど、お子から掴んでくれたのなら」)
お子が、そうしたいのならば。
だから魄は、共に微か袖引くお子の歩調に合わせ、賑やかな喧騒のほうへと歩みながらも告げるのだ。
「蒼、好きなのをしたらいいんだよ」
それから公園の広場に辿り着けば、並ぶ屋台を見て回って、お子へといくつか勧めてみる。
「あのお面も似合うだろうし、きらきらしたジュースもあるよ」
そんな魄の声とその指先を追えば、蒼紫はたどたどしいながらも、言の葉で伝える。
「えっと……じゃあ、黒い狐の……お面が、良いな」
そしてちょこりと、買った黒狐さんのお面を頭に乗せれば。
次に見つめるのは、魄の言うように、きらきらなしゅわしゅわ。
「光る、じゅーす? 何これ、ぴかぴかひかって……綺麗」
そうじいと見つめる瞳にも、桜色を宿すものだから。
祭りに燈された灯篭とお揃いの形をした容れ物に入った、ぴかぴかな春灯ソーダも勿論、買ってあげた後。
「お腹がすいたなら、食べ物も沢山あるね」
「御猫様、も好きそうな……猫の好きそうな、おもちゃも……欲しい」
食欲をそそるような香りよりも、お子の関心を今引いているのは、桜色に光る玩具のお土産らしい。
最初は魄についていくばかりであったが、そのうち、あれもこれもと。
途中からは、お子が行く方へ付いて行くことになって。
掴んでいただけの手は彼の袖をいつしか引いて、あちらにこちらにと。
いつもよりも饒舌で行動的なのは、引っ張っていくほどに楽しいという思いが、蒼紫の胸に咲き誇っているから。
だけど、途中でハッとしたかと思えば、蒼紫は急にゆるりと歩む速度を落とす。
そして、はしゃいでいる今の自分に――ああ、恥ずかしい……と。
だが同時に、それ以上に生じる気持ちは、どうしようもなく。
(「けど、楽しいしもっと一緒に居たい」)
だから、気になったものを見つけては、わくわくそわりと屋台を巡っていく。
そんなお子に引かれるままである魄だが、でも忘れずに。
(「好きな物はそれか、あれはあまり興味ないんだな」)
彼の遣りたいことや言葉にうんうんと全て頷きながらも、お子の好き嫌いをそっと把握する。
途中、掘り出し物が見つかりそうな宝探し感覚で、珍しい骨董屋も気になる様子であった蒼紫なのだけれど。
(「それよりも興味があるのは大人な雰囲気らしい」)
骨董屋エリアを見るのもそこそこに、蒼紫が特に気になったのは、行く先で幾度も耳にした、ちょっぴり珍しい屋台。
お酒がどんなのかまだ分からない蒼紫だけど、でも大人な感じは素敵で心擽るから。
ちょっとおませな事をしたいので、わくわくそわりと屋台バーへ。
そんなお子が目指す屋台に気づけば、魄は手をひかれて良いのかと躊躇するも。
そのままやはりお子の好きにさせたのは、ノンアルコールの文字を見つけたから。
蒼紫も勿論、お酒はまだ先のお楽しみだとわかっているから。
気分だけでもちょっぴり背伸びしたくて、開いたメニューを眺めてみるのだけれど。
「蒼と、魄に……合う、ノンアルカクテルを……下さい」
ちゃっかりと、自分の分と蒼自身のカクテルを頼むのを、魄は一歩引いて見ていることにする。
……似たイメージもいいけど、ちょっと意外性のあるものもいい、と。
「どんなカクテルが出るのか楽しみだね」
上手に買い物できるかどうか、少しだけ密かにそわりとしながらも、見守る身内の心で。
そしてきちんと伝えられたから、並べられたのは、銀を思わせるような白と、紫から青へと映ろうカクテルがふたつ。
お揃いの桜花弁をぷかりと浮かべたモクテルを受け取れば、蒼紫の心もわくわく踊って。
だから、普段よりもちょっぴり積極的に。
「後ね……お土産に何か、お祭り……ならではの、無いかな?」
バーの店主に、そう訊いてみる蒼紫。
「土産かい? そうだなぁ、どういうものがいいんだい?」
「飾りでも……良いし、お菓子でも……良い。できれば、最後は……形が残る、物だと……嬉しいんだよ」
「カタチに残るものか。じゃあ、あれがいいんじゃないかい? 桜の花びらを閉じ込めたハーバリウム」
「それか、摘まみ細工の桜の根付なら色も好きなのが選べるし、いつでも身に着けられるんじゃあないかい?」
「んー、あとは使い勝手も良い桜染めのストールとかアクセサリー?」
「自分で作ることもできるし、妖怪職人が作ったものも勿論買えるしな」
「ハーバリウム……? あとは……摘まみ細工の桜の根付……桜染めのストール……」
そう、ちゃっかり祭りのお土産もと。
屋台の人やバーで飲んでいた妖怪に尋ねるのを忘れない。
それから、幾つか候補をもらって、実際に見てからと。
カクテルを手に、ちょっぴりだけ逸るように、魄を引っ張って。
聞いたお勧めの中でまず気に入ったのは、桜の景色をぎゅっと閉じ込めたようなハーバリウムと。
それに、各々を思わせる彩りを咲かせた、摘まみ細工の桜の根付を遠慮なく3人分。
さらには、見つけたお花見猫さん団子も勿論、3人分買って。
買った猫さん団子たちを見れば、蒼紫は再びきょろり。
(「猫が好む何かもあると良いな……」)
そして、先端にぴかぴか光る桜がついた、みょんみょん揺れる玩具を見つけて。
それを買って手にすれば満足げに、ぴかぴかみょんみょん揺らしてみる。
桜のハーバリウムと摘まみ細工の白銀の桜の根付は、魄へと後で渡すつもりだし。
お子が望んだお土産を手渡された際には、魄も迷わず受け取って大事にするつもり。
それに蒼紫は、久しぶりに会えた魄に沢山甘えられたと思うほどの満足感に満たされながらも、ほくほくの笑顔を満開に咲かせて。
桜吹雪が舞う中、その手を再び引きながらも思うから――躍ったままの心で、まだまだこの春の夜を一緒に過ごしたい、って。
第3章 ボス戦 『隠神刑部』

皆が満開に咲く桜に夢中になって、天を見上げているのはお誂え向き。
様々な人間や妖怪が自然と集まってくる祭りも、誰を標的にしようか選り取りみどりで好都合。
それに、裏で暗躍している存在は、かくれんぼがとても上手なのだ。
だから、次はどいつを化かして嘲笑ってやろうかと、夜の闇と桜吹雪に紛れていたのだけれど。
人間を誑かす際には、さすがに隠れたままだとできないし。
まんまと騙される人間の表情や姿は、近くでよーく眺めたいから。
もうすぐお開きになりそうなものの、まだまだ盛り上がっている祭りの喧騒からは少し離れた、広い公園の端にそっと移動する。
『ふふふ、わかりやすく溜息をついているかと思えば、人のいないところで物思いにでも耽るのか? 標的にぴったりだ』
ターゲットにと目をつけていた人間の後を、そっとつけながら。
それから、人がほぼいないその場所へとやってくれば、古妖――『隠神刑部』はほくそ笑みつつも考える。
まんまと誑かし封印を解いてもらった人間は年頃の男性であったし、街の路地裏で声を掛けたから、少し色っぽいおねえさんに化けて受験の合格を餌に唆したが。
逆にこの祭りでは、そんなおねえさんの姿はそぐわず、不自然すぎて怪しまれるので、今回はその姿には化けないことにして。
神々しい桜の中から現れそうな神の如き姿となって、見るからに傷心っぽい標的の心に寄り添うふりをして近づくことにしよう……なんて。
そう決めれば、巧みな化け術でどろんと姿を変じて。
『悩める人間よ、汝の憂いを桜の神である我が晴らしてやろう』
桜吹雪が舞う中、それっぽいことを言いながら、颯爽と姿を現す古妖。
だが、この時の『隠神刑部』はまだ知らない。
星詠みによって、この場所で行動を起こすべく姿をみせることを、予見されているだなんて。
天から降り注ぐそれは、ひらり舞い落ちる桜花弁かと一瞬思ってしまうような。
ぱらりと刹那降りはじめたのは、そんな通り雨。
勿論この雨は唯の雨に非ず――麓より 吹き上げられし 浮雲は 四方の高根を 立ちつつむなり。
そう紡ぎ上げた天國・巽(同族殺し・h02437)の詠唱が合図。
あれほど晴天が広がっていたというのに、さあ、と降りかかる驟雨が桜花を濡らして。
誰よりも先行したことにより、浮雲の位が発動すれば天の水気が揺らいで。
春の夜に、一刻の雨が降る。
そう、これは己が魂に秘められし龍氣を開放し――能力も技能も、三倍にも膨れ上がる。
だがしかし、敢えて巽が思う難点は。
(「とはいえ、人の体では長く保てないのが玉に瑕」)
けれど目の前には、狐に抓まれたかのような表情を浮かべる狸。
『なっ、何!?』
そう、少しばかり憂いを帯びた演技をしてみせれば、桜の神だとそれらしく騙り、のこのこと現れたわけだが。
「へっへ、まんまと引っかかったな?」
まさかターゲットにと目をつけた男が能力者だとは思うまい――巽は刹那、手に在る黒檀助六煙管を以て、空を裂いてみせる。
驚く狸へと、不意打ちのだまし討ちをお見舞いするべく。
そしてようやく状況を少し把握し、苦々しい表情を宿る古妖を見遣りながら。
「えっちなおねえさんに変身できるらしいですよ?」
花喰・小鳥(夢渡りのフリージア・h01076)はそう紡いだ後、煙草に火を着ければ、紫煙がぷかり。
燻る煙と纏う香りで、狸をおびき寄せる。
そして化け術を駆使し、配下の化け狸達を差し向けては襲い掛かってくる古妖であったが。
小鳥は一歩も引かず、ダメージを請け負うべく身を呈して。
巽へと攻撃を通さぬよう、激痛耐性を用いては壁となる――彼が征く道を開くために。
それから小鳥へと意識が向いた狸どもへと、巽が漏らすはこんな感想。
「どうやら戦闘についちゃあちょいと抜け作な分体らしいな」
そして、小鳥へと攻撃を仕掛けんとした狸へとすかさず掴みかかって。
『何だと……ぐ、ぎゃ、ぎゃあっ!?』
その抜け作な面や身体を、滅多打ちにしてやる。
そんな古妖を見遣り、小鳥はふとこう息を漏らす。
「私はわりと興味がありました」
……それが桜の神だなんて、いささか憮然としています、と。
だから斬り裂いて、その命を喰らってやる。
――玲瓏な死よ、下れ。
極めて美しい天獄の刃を振るい、その傷口を抉ってやりながら。
そして狸が上体を揺らした刹那。
『ガァッ、く……!』
「巽さん!」
小鳥の声が響けば、ふたり同時に一気に仕掛けては畳みかけて。
『ちょ、待ってくれっ。俺はただ、ちょこーっとだけ悪戯好きな狸さんなだけだ、だからここいらで……』
「なに見逃せ?……なら、ちょいとえっちなおねえさんに化けてみな?」
何とか逃亡の隙でもはかろうとしているのか、そう言う狸へと、逆に巽は嗾ける。
彼女をちらと横目でみながら……なにせそこで憮然としてるのが居る、なんて。
それから再度、狸へと告げてみれば。
「化けてみてくれたら考えなくもない」
『く、これならどうだ?』
狸の拘りなのか、この場にそぐう程度の、色気のあるお姉さんに変じてみせる狸。
それから巽は、化けた狸と小鳥を交互に見比べて――暫し。
「えっちはともかく、イイ女ならここにいるわけですし?」
……どこを見て言ってるんですか? なんて。
首を傾けてみせながらも、微笑み胸を張る小鳥を再度見つめて。
うん、と短く紡いでから、ジャッジを下す。
「小鳥の勝ち」
『なっ、ふぎゃっ!』
容赦ない追撃と共に、言うまでもない結果を。
夜桜降る春の夜に、どうやら上手に隠れているつもりらしい。
でも、もうその正体はお見通し。
「みんなを騙しちゃう悪い子は、ちゃんと叱ってあげないとね」
そう、ジョン・ファザーズデイ(みんなのおとうさん・h06422)は、子どもたちを騙すような古妖をメッとしにきたのだから。
けれど、どうぜ懲らしめるのならば、ただ普通にわからせるよりも。
「妖怪サンは化術が十八番らしい。ひとつ乗ってやろうじゃァないか、ジョン」
「いいね、店主さん。乗ったよ」
破場・美禰子(駄菓子屋BAR店主・h00437)の提案に、どこか楽し気に頷いて返して。
姿を変じ、仲間の攻撃から溜まらず逃げてくる古妖の姿を見つければ。
「桜神様だ!」
「わぁ〜神様? すごいすご〜い」
すかさずそうふたりで、化けた隠神刑部を指さし近寄っては、やいのと騒ぎたててみせる。
その思わぬ声に、一瞬びっくりした様子ではあるが……すぐにコホンと気を取り直せば。
『あー、いかにも。我こそは桜の神!』
どや顔で桜の神として振舞う古妖。
美禰子はさり気なく一般人がいる方向を塞ぐように位置取りつつも。
(「元々遠慮なんて店の物置に忘れて来てるンで」)
「毎朝、足腰痛いし夜は目が霞むんだけど如何したらいいかねェ?」
無遠慮な老人を装い、桜の神こと隠神刑部へとぐいぐい。
『えっ? そ、それは……我に供え物を捧げれば、神通力で治してしんぜようっ』
「神通力かい、それはすごいねェ。ジョンも何か聞いてみたら」
さらに、ジョンも桜の神様へと訊いてみる。
「ねぇねぇ桜神様、おとうさんは一体誰のおとうさんだったんだい?」
『……へ?』
「みんなのおとうさんではあるんだけれど、誰かのおとうさんだった気もするんだ」
『一体、お前は何を言って……』
「こりゃ大事な質問だよ、確り答えてやンな」
真剣なジョンと、質問が理解できず戸惑う狸と、つい真剣味が滲んで告げる美禰子という図柄になっているが。
狸は大きく首を傾け、つい本音を。
『誰のおとうさん?? いや、そもそも何のことやら……』
「……教えてくれないのかい、それはションボリだね」
「え、分からない? 神様なのに?」
そして意外としょぼんとしているジョンに続いて、美禰子は古妖へと紡ぐ。
「じゃ、そんな神様……妖怪はお帰り願おう」
『!?』
刹那――おいで、かわいい子どもたち、と。
桜の神様が首を傾けていた子どもたちのことを、狸へと見せてあげるように差し向けて。
美禰子のことを、現れた|揺らめく不思議な光《子どもたち》に支援してもらうジョン。
敵からの攻撃を反射して跳ね返したりだとか、時には攻撃に加わってもらったりして――おとうさんや店主さんのお手伝いをしてもらって。
美禰子はジョンの支援を頼りに、桜の神が所望していたお供えものをくれてやる。
いや、正確にいえば、お供え替わりの『飴霰』を――大サービスだ、と。
『何、何だこれは……くっ!』
強力な神通力を以て、殺傷力の高い物体を飛ばしてこんとする狸だけれど。
『!! ぐあっ』
さすが駄菓子屋Barの店主、スライムで絡め取ったり、300にも及ぶジャンボな飴玉で飛来物は撃ち落としてやって。
少々化かされて視界がちょい変でも、広い範囲に渡る攻撃でカバー。
『い、痛ッ、いた、いたたっ』
激しい攻撃という名の貢ぎ物に、思わず情けない声を上げる狸。
そしてそんな古妖に、ジョンはおとうさん然と言って聞かせる。
「古妖さん、もう悪いことしちゃダメだよ。子どもを悲しませるなら、おとうさんたちは何度でも懲らしめに来るからね」
勿論、その言葉を聞いた美禰子も、大きく首を傾けてみせながらも、
戯が過ぎる狸へと向けた瞳を、ふっとちょっぴり愉快気に細める……序でにババアも来ちゃうかもね? なんて。
桜咲く春の夜、存分に「まつり」を楽しんだ後。
「やっと敵のお出ましか?」
わたわたと仲間達の猛攻から逃れようと逃げてきたその姿を見れば、そう口にして。
自分自身が自然とそう紡いだ言葉に、ツァガンハル・フフムス(忘れじのトゥルルトゥ・h01140)は笑う。
……うははっ、目的を忘れる前で良かった、って。
それから、一応メモを見れば、狸っぽいものの絵が書き留めておかれてもいたから。
「えっと……「隠神刑部」だっけ。困ってる人をだまして更に困らせるなんて駄目だぞ!」
『いきなり攻撃されて、困っているのはこっちだぞ!?』
そう紡ぐやいなや、どろん、と。得意な化け術で、この場も凌ごうと動く古妖。
そんな変化の術を目の当たりにすれば、ツァガンハルは瞳をキラキラ。
「おお、本当に姿を変えられるんだな!」
無邪気に反応しつつも、思い出せないが確かに在った己の能力を解放させるツァガンハル。
――今ならオレ、なんかできる気がする。……たぶん! と。
大きくなってみせて威厳がある風に見せかけている桜の神とやらにも、耐久を上げて対応しつつ。
ふと思いつき、手にした大剣ぐるんと振り回してみれば――ぶわっと刹那舞い上がるは、降り積もっていた桜の絨毯。
そして落ちている花弁を巻き上げ、敵の視界を奪えば。
『なっ、ぐあっ!? 目が!? ぎゃっ!』
神様の姿で騙る狸へと、全力の不意打ちをお見舞いしてやるツァガンハル。
それから、慌てて退く狸ではなく、忘れる前に声を掛けておくのは。
「「だいがくごうかく」、オレにはよく分からんけど、あんたさんにとって大事なことなんだよな」
「えっ? それはそうだろう、だから一生懸命やってきたのに……」
古妖を解き放ったという、唆されて大学受験を失敗した人物。
急にツァガンハルに声をかけられて、少々驚いた様子であったが……でも。
「あんたさんにとって大事なことなんだよな。じゃあ、腐らないで頑張れよ」
……今度こそ最後まで自分の力で、さ、って。
その言葉を聞いてハッとする彼にツァガンハルは笑んで、再び歩き出す。
(「桜見て、気分転換もいっぱいできただろ」)
自分も忘れるまでもう少し、たとえ忘れるとわかっていても。
春の夜をもっと満喫しようと思うくらいに、咲き誇る桜は見事だから。
今日は一日、昼も夜も桜満開のお花見三昧で。
沢山の人達が楽しんだ春灯祭も、そろそろお開きの時間。
「今日一日とても楽しい時間でしたね」
「おいしいものいっぱい食べて、兄ちゃんへのお土産も買って、プレゼント交換もして……すごく楽しいお花見だった……」
マリー・エルデフェイ(静穏の祈り手・h03135)の声に、八手・真人(当代・蛸神の依代・h00758)も噛みしめるように今日一日のことを振り返って。
そしてふたり、これからやることを紡ぐ。
「後は今日の締めとして本題の古妖退治だけです」
「終わっちゃうのが寂しいケド、仕事はちゃんとしないと――ですよね」
今回此処に赴いた目的はそう、古妖退治のためである。
桜咲く春を目一杯楽しんだ後は、きっちりとお仕事、というわけだ。
「さて、楽しい時間は終わりかな」
「すごい楽しかったのー!」
十六夜・宵(思うがままに生きる・h00457)の声に、うんうんと頷きながらも。
――これからが捜査三課の本領発揮の時間だ!
日南・カナタ(新人|警視庁異能捜査官《カミガリ》・h01454)もそう、ぐっと気合を入れて続ける。
「皆で頑張って狸の妖怪捕まえて封印しないとね!」
というわけで!
カナタが実行するのは、こんな作戦。
「隠神刑部を誘き出す為に哀愁漂わせてみるかな!」
……そういうの得意なんだ! とえっへん得意顔で。
というわけで意気揚々、得意の悲壮感たっぷりの溜息をはァ、とつきつつも。
桜が舞う中、しょぼんと背中を丸めて膝を抱えて、ちまっと体育座りを披露!
そんなしょぼくれている演技をするカナタを、ヨシマサ・リヴィングストン(朝焼けと珈琲と、修理工・h01057)はそっと見守りながら。
「おお……カナタくん、なんか真に迫ってますね……」
その余りの哀愁に思うのだった。
(「帰りにタケノコの里、買ってってあげようかな……」)
色々と間違ったら戦争がまた起きかねない、敢えてギリギリを攻めつつも。
そしてマリーと宵も、そっと彼の渾身の寸劇を邪魔しないように木陰で様子見しながらも、口にせずにいられない。
「カナタンの悲壮感がすごいのー」
「演技力抜群ですね!」
「日南さん、頑張って……!」
不意打ちを狙って物陰から見守りつつ、そうカナタのことをそっと応援する真人。
しかし、そう簡単に古妖を誘き出すことが、果たしてできるのか――。
『ふふ、我は桜の神! 悩める人間よ、我が汝の憂いを払ってやろう!』
めっちゃ軽率に引っかかった!?
勿論この桜の神は、他の仲間に攻撃されて、ひぃひぃ逃げてきた古妖――『隠神刑部』が化けたもの。
哀愁漂いまくるカナタを見つけて、これ幸いと標的に定め、誑かさんと近づいてきたのだ。
そんな桜の神の登場に、ちまっと縮こまっていたカナタはぱっと顔を上げて。
「え、俺の憂いを払ってくれるの?」
『ああ、何せ我は桜の神だからな!』
どや顔で頷く隠神刑部へと、こう続けるのだった。
「……じゃあ、じゃあ……俺の検挙率の一旦となってください!」
『よしよし、検挙率の一旦と……って!? ぶわっ!??』
刹那、蛸神の触腕が飛び出して、狸目掛けて墨を発射!!
たこすけの目潰しで、完全に怯んだ古妖へと、カナタはびしっと言い放つ。
「隠神刑部! 警視庁異能捜査官カミガリだ! 大人しくお縄につくがいい!」
そして――その化けの皮、剥いでやる! と。
文字通り、正体を暴くべく、満を持して桜の神に触れれば。
『なっ!? 俺の化け術が!』
どんな姿に化けたって、ルートブレイカーを発動したこの右掌が変化を解いて正体を暴きます!
そしてまんまと化けの皮が剥がれた狸をひっ捕まえるべく、ヨシマサはすかさず潜んでいた場所から飛び出して。
「今日は人数もいますからね、全員で検挙と行きましょ~!」
そう言いつつも、ふと夜桜がひらりと舞う中、思案する。
……でもボクの武器、全部風情とかないんですよね、って。
「大体爆発するし……重火器はもちろんレギオンで攻撃しても多分桜がただでは済まなさそうなので……」
√ウォーゾーンであれば、爆発も日常茶飯事であるし。
祭りの締めに大爆発というのも、ワンチャン盛り上がるかもしれないが。
八曲署『捜査三課』の一員として一般人を守ることが務めであり、桜を傷つけるのは当然ながら本意ではないから。
ヨシマサはこくりとひとつ頷き、素早く決断する。
……うん、ここは皆の能力を底上げするために『神経過駆動接続』を使用しましょう! と。
そういうわけで――みんな頑張って~と。
皆へと、サイバー・リンケージ・ワイヤーを接続して、命中率と反応速度を増し増しにすれば。
『ぐぬぅ! 桜の神になんてことすんだ!』
「不意打ち成功――なのカナ……。と、とにかく、畳みかけましょうッ」
完全に桜の神ではなく狸な眼前の敵を、そう真人はそっと見遣りながらも。
皆と同時に、悪さをする古妖を検挙するべく――たこすけ、やっちゃって……! と。
『!? ぶわっ!』
タコ墨煙幕による牽制、タコの大腕による捕縛、そして必殺タコ殴りによる強撃でぼこぼこにせんとうねるたこすけ。
「さてさてこっからはお仕事ですの!」
――月の力を借ります。その力で祓いて清めて貫いて!
宵も刹那、月属性の弾丸を射出し、カナタが暴いた敵へと攻撃を仕掛けつつ味方の補助も担って。
月光の修祓による強烈な衝撃を見舞いながら、皆には戦闘力強化を施す月の加護を与えれば。
――時よ、揺り戻れ。
マリーもレヴェリオ・アエテルナを展開し、すかさず増幅させるは時の力。
「10分以内の出来事なら怪我も周囲の破壊も無かった事に出来るので、皆さん、周囲を気にせず全力で戦ってください!」
心置きなく皆が戦えるよう、確りとお膳立てして。
決して相手へと攻撃はしないが、敵からの攻撃が皆に向かない様にと、囮役を買って出ては攻撃を庇うべく位置取って。
「さ、皆さんもたこすけも、美しい桜をバックに後片付けと行きましょう~」
『ぐ、そうはさせない……!』
桜の神を装うのはやめた狸は、ヨシマサの声にぐぬぬっと歯噛みしつつも。
やはり狙うは、哀愁感迸らせるのが得意だと自負していたカナタ。
しかも、今回化けるのは桜の神ではなく。
「何回化けても無駄……、って!!?」
思わずカナタが固まってしまうのは、よりによってちょっと色っぽいおねえさんの姿に狸が変化したから。
狸なのだけれど、でもおねえさんに触れることが出来ずに、あわあわするカナタは仲間に視線をちらり。
そして、そんなピンチに陥っている幼馴染の、助けてのサインを受けて。
真人がたこすけを差し向けて、敵を引きつければ。
「どれ程の敵が出てこようとも全員射貫きますの!」
敵へと目掛け仕掛けるのは、すなわち狙撃――宵の得意な事の一つ、なの、と。
決戦型WZ「ツクコヨミ」に騎乗しつつ、属性銃から敵を貫通するレーザー発射!!
弾道計算もしっかりして無用な物を巻き込まない様にしつつも。
勿論狙うは、狸が化けた、けしからんおねえさんのみ!
『え、ちょ!? ぎゃあっ!!』
「敵は逃がしませんの!」
「宵ちゃん……!!」
容赦なき決戦型WZの圧倒的な火力を以て、カナタがおねえさんに殴られる前に、狸へと攻撃をぶっ放して。
「とっつかまえて縛って転がして検挙よ」
「きっちり退治して気持ちよく終わりましょう!」
「お花見は帰るまでがお花見、って誰かが言ってた気もしますからね~」
皆の声に頷きながら、真人も――来年も、みんな揃ってお花見したいです、と。
何度見ても嬉しくて笑み零れちゃう、ヨシマサからもらったミサンガにそうそっと願いながらも。
夜桜が咲き誇る中、他の仲間達とも協力して、古妖を検挙するべく確りお仕事です!
今日は明るいうちから夜まで沢山、満開桜咲く春のお出かけを、皆でこれでもかと満喫したから。
「あー春灯祭楽しかったー!!」
「春灯祭、沢山JOYしちゃったな〜♡」
そう満足げに夜桜咲く公園を歩きながら、アドリアン・ラモート(ひきこもりの吸血鬼・h02500)とユナ・フォーティア(ドラゴン⭐︎ストリーマー・h01946)は続ける。
「やっぱりお祭りは皆と来るのが一番楽しいね!」
「皆の者と桜と祭りを楽しみながら想い出作りは最高だね★」
ステラ・ノート(星の音の魔法使い・h02321)もふたりの言葉に頷きつつ。
「ふふ、桜もお祭りも堪能できて大満足。さてと、そろそろお家に………」
そろそろ、楽しかった春灯祭も終わりの時間を迎える頃だろうから。
あとは帰路に着くだけ――ならば、良かったのだけれど。
このままお布団にもぐればいい夢が見られそうなのに、アドリアンは何気に忘れていない。
「このまま隠神刑部は無視して帰っちゃだめ? ……ダメかー」
そう、本来此処に来た目的を。
そんな彼の声を聞けば、ステラとユナはハッとして。
「ぁ、そうか。まだお仕事があったんだっけ。べ、別に忘れていたわけじゃないよ?」
「ゲッ!? 人々の皆の者を化かす隠神刑部氏が居るからお仕置きしに来たの忘れてた!! ユナちゃん……本当ダメな子……」
「ふふ、帰りたい気持ちも分からないでもないけど、このまま帰ったら遊びにきただけになっちゃうからね」
楽しすぎてちょっぴりお仕事のことを忘れていたふたりに、ルナ・ルーナ・オルフェア・ノクス・エル・セレナータ・ユグドラシル(|星樹《ホシトキ》の言葉紡ぐ|妖精姫《ハイエルフ》・h02999)はこう続けて紡ぐ。
「大丈夫、みんななら人間を誑かすような妖怪なんてすぐにやっつけられるさ」
これからやるべきことはそう、人々を化かしては翻弄されている人間を嘲笑い糧にする、古妖を退治すること。
だからまずはと、そんな古妖をおびき出すために、アドリアンが囮役を買って出てくれたから。
エアリィ・ウィンディア(精霊の娘・h00277)は目立たないようにして隠れながらついていくことにして。
(「物音を立てないようにして……」)
(「ボク達は気づかれないように後をついていって」)
(「ユナ達は隠神刑部が来るまで隠れて待機だね!」)
ルナとユナも来たる時まで、彼のあとをついていきながら静かに待ちの態勢を。
そしてステラも、目立たないようにこっそり隠れておくべく距離を取る前に、アドリアンにそっと告げておく。
……えっちなおねえさんに化かされないように気を付けて、ね? なんて。
というわけで、アドリアンはこれ見よがしにため息をつきながら、とぼとぼと人気の無い所へ向かって歩いていく。
(「この倒すのめんどくさ、帰りたい気分をでため息つきまくって隠神刑部をおびき寄せちゃうか……」)
それからもう一度、深いため息をつけば。
ふいに現れたのは、色っぽいおねえさん……では、状況的にさすがになく。
『そこのお前、何か悩み事でも? この桜の神が叶えてやろう』
他の仲間から攻撃を浴びせられ、慌てて逃げてきた古妖『隠神刑部』は、人を誑かして力を得るつもりのようだ。
だが古妖は逃げてきたわけではない、他の仲間に誘導されて此処に来たわけだから。
(「隠神刑部が出てきたところを一斉攻撃しようか」)
(「後は隠神刑部が尻尾を出した瞬間、ユナ達も総攻撃仕掛けよう!」)
――皆の者、狸をポコパンだ〜!! と。ばっちりと待ち構えているのである。
そして、桜の神こと隠神刑部がまんまと釣られれば。
『さぁ、汝の悩みを我に……』
「僕の悩みの源はあんただーーーーー!! 大人しく倒されて!」
『えっ!? わ、ぎゃっ!』
アドリアンが影より生み出したNoirgeistの鎖が無音で伸び、古妖『隠神刑部』をすかさず拘束する。
悪戯が過ぎる狸へと、皆が攻撃しやすいようにと。
エアリィはそんな敵の出現に、潜んでいた場所から飛び出しつつ。
(「問題はどうやって戦おうかなぁ……。ステラさんは前に出るみたいだし、それなら支援かな?」)
高速詠唱で隙を減らしてから……使うはそう。
「世界を司る六界の精霊達よ、銃口に集いてすべてを撃ち抜く力となれっ!!」
複合六属性の弾丸を射出する、六芒星精霊速射砲!
でも攻撃も狙いだけれど――その真の狙いは、味方の強化のための支援!!
「ふふふ、こう見えてもいろいろ考えているんだよ♪」
刹那、空中移動で桜花弁が躍る上空に舞い上がってから、打ち下ろすようにして発動!
敵には複合六属性の魔力弾によるダメージを、そして味方には六属性の精霊の加護を与えて。
『なっ、ぐぅっ!!』
「支援がはいったはずだから、みんな行っちゃってーっ!!」
苦い表情をしつつも、配下の化け狸達を戦場に召喚する隠神刑部だけれど。
「敵さんはふえても……。半径28m以内ならオッケーっ♪」
……さぁ、どんどん撃ち抜くよっ!! って。
エアリィは支援しつつ、皆が攻撃を仕掛けやすいように、周囲の有象無象へと弾丸をぶっ放して。
「暗黒よ、双嵐の刃を形作れ。その黒き力の前にすべてが沈黙する――Zwillingssturm Noir!」
アドリアンも隙をみて、Noirgeistで広範囲の敵へと連続で攻撃をお見舞いすれば。
ルナも戦闘が始まり次第即、素早く高速詠唱をして。
「大地に宿る生命の息吹、絡まり伸びる繁茂せし蔓、緑の鎖となりて敵を締め上げろ――ヴァーダント・グラスプ!」
『ぐぉっ! み、身動きが……ッ』
「エアの支援もあるからね。化かされ状態になっても逃がすつもりはないよ」
新緑の縛鎖を展開、瞬間、繁茂する蔓植物を放って。
さらに蔓の感触で、いくら姿をかえようとも隠神刑部を確りと識別し、狸をさらに拘束すれば。
「さて、蔓で縛っているうちに……ふむ、ステラがおしりぺんぺんするみたいだね」
ルナが後を託すのは、前へと躍り出たステラ。
……化かすのが得意なら、こっちも星剣の騎士で変身して対抗するね、と。
「……聖き路を、切り拓く為に。煌く星々よ、我が手に剣を、我が身に騎士の鎧を授け給え」
いくらまやかしの術を施されようとも冷静に対処し、聖なる星々の加護を宿せば。
黄金に輝く剣を携えた、凛々しい星の姫騎士に変身!
周りの皆と連携を取り合い、ガンガン切り込んでいって。
『なっ、我は桜の神だぞ! このような不敬……ふぎゃっ!!』
ステラが狸をお尻ぺんぺんすれば、ユナもドラゴンプロトコル・イグニッションでドラゴンに変身!
「ラモート氏と人々の皆の者を唆す狸にはカチカチ山の刑だぞー!」
――ドラゴ〜ン☆ブレス〜!!
『!? あつっ、うぎゃっ!!』
お見舞いするのは、容赦ない灼熱のブレス!
そしてステラは皆と連携し攻撃の手を緩めぬまま、美しく満開に咲き誇る桜の下、びしっと無粋な狸へと言い放つ。
「……人を化かして嘲笑う奴が、桜の神を名乗るなんて桜に失礼だ」
――大人しく封印されていなさい! と。
桜咲く春の夜、ようやく尻尾を掴んだ古妖の正体。
アダルヘルム・エーレンライヒ(月冴ゆる凍蝶・h05820)は、共に征くナギ・オルファンジア(■からの堕慧仔オトシゴ・h05496)へと、ふと視線を向けて。
「悪戯好きな狸とは、ナギ殿に似てないか?」
「ナギに似ている、この狸さんがですか?」
そう言われれば、思わぬ言葉に一瞬瞳を見開くも。
無表情ながらも心外な色を滲ませつつ、彼へと視線と共にナギが返せば。
「お望みならば、アダル君に悪戯を試みても構わないけれど。泣いてしまっても知らないよ」
「ふ、やれるもんならな。其方こそ仕返しされて泣いても知らんぞ?」
「よろしい。この戦いが終わり次第受けて立ちます」
煽りには煽りで返し合いながらも、アダルヘルムはそんな戯れに瞳を細めて。
「良いだろう、何処からでもかかってこい」
『おい、桜の神が降臨したんだ、こっち』
そういえば置いてけぼり気味になっている狸……いや、自称桜の神へと視線を移して。
「桜の神に希う憂いは何でも良いのか?」
『ああ、勿論だとも! その憂いを払ってやろう』
誑かせる気満々なのは当然分かっているけれど。
アダルヘルムは……ならば、と口を開く。
「あの子を、蘇らせてくれないか。もう、何年も前に、」
……俺が殺した、と。
そして、眼前の桜の神とやらは。
『我に身を委ねれば、叶えてやろう』
いとも軽々しく口にするものだから、ふつりと湧く感情もあれど。
「──なんてな」
アダルヘルムは一拍置いて、からりと笑ってみせる。
それから改めて、桜の神を騙る狸を見遣り、紡ぐ。
「ふは、今のは冗談だ。お前の正体は判っている」
そして吐き捨てるように、眼前の敵へと続けるのだった。
「できもしないことを言うんじゃないぞ、クソ狸」
ナギはそんな茶番を鑑賞し、煽りのお勉強をしつつも。
「流石は騎士様、勉強になるよ。お口が悪い、うんうん」
……いや、これはもしやカツアゲというものでは、なんてどこか愉快気に瞳を細めつつも。
目の前の狸へと目を向けば、大きく首を傾けてみせる。
「そんな獣臭満載の桜の神様はどうかと思うよ」
……世の女子はそういったことに敏感です、なんて教えてあげながらも。
『な、我は桜の神だと言っているだろう……、ッ!』
さり気なくまだひとり茶番を続け、隙をみて『念じる』ことをしれっとしようとするのを、ナギは許さずに。
『煙草:厭魚』をもって、くゆる殺戮を桜空へと泳がせれば、絶え間無く傷口を抉る攻撃を指示しつつも。
――さぁ、踵を鳴らそう。
『! ふぎゃっ!?』
集中力を乱し揺さぶるべく、取り換え仔由来の力で地をも大きく揺るがせてみせる。
そしてアダルヘルムも、傷を刻めるようハルバードを手にして。
「尻尾か? 腕か? さよならする部位は何処が良いだろうなあ?」
……今なら選ばせてやる、と。
今まで数えきれぬ程の命を葬り去ってきた相棒の刃を閃かせて。
『そんなのどこも嫌に決まってるだろう! ……こほん、桜の神になんてことを――ぎゃっ!?』
――感謝しろ。俺が直々に手を下してやる。
『! びえっ』
敵へと一撃振り下ろした後、続くもう一撃は敢えて狙いを外してみせる。
「俺が攻撃を外すヘマをするとでも?」
それは、砂塵の舞う戦場を作り上げるためと。
「目に砂が、埃っぽい!」
「……ふ、この砂塵は猫耳のお返しだと思え」
「猫耳かわいいのに!」
文句の嵐なナギへと向けた悪戯心。
それから彼女へと何気に確認するように目を向ければ、瞳を細めて口にする。
「しかし文句が言えるなら大丈夫か」
『ぐっ、目がァ! 桜の神に、なんて罰当たりな……!』
それから、此方も文句三昧なニセモノの桜の神へと、ふたりは視線を投げてから。
「残念だが、神なんて俺は信じちゃいないんだ」
「神様ねぇ……」
アダルヘルムの言葉に続いて、ナギは告げる……居ますけど、相互理解はできないよ、って。
はらりひらり、幻想的に桜が浮かび上がる春の夜。
さぁ今から悪戯が過ぎる狸を懲らしめ……ようと、待ち構えていた時だった。
戀ヶ仲・くるり(Rolling days・h01025)と可惜夜・縡(咎紅・h05587)は宵の中、思わず目をみはる。
次第に近づいてくる桜色のピカピカと、見覚えのあるお顔の、光る桜ねこ耳仲間……!
「光る桜ねこ耳装備で皆が戦うらしい噂を聞いて〜」
というわけで、途中の屋台で。
桜色に光る猫耳をわざわざ入手してから、合流をはからんとやってきた、
「あれは用意万端なカナトさん!」
「わ、緇さん……も桜ねこ耳仲間に……!」
そう、緇・カナト(hellhound・h02325)であった。
そんなカナトに、くるりは無言で手を挙げて。
「萬花メンバーもノリが良いよネ……!」
カナトはそんなくるりと、パァンとうきうきハイタッチ!
そして、萬花メンバーはノリが良い。
それをものすごく今、実感している夜鷹・芥(stray・h00864)は。
「どうしてこうなったのか俺にもよく分からない」
……カナトも猫耳を持ち参戦する其の心意気たるや、なんて。
ちょっぴり遠い目をしているのは気のせいか。
と、そういうわけで。
「仲間が増えましたよ芥さん! 縡ちゃん!」
「これも萬花のチームワーク……ですか?」
こうなったら思いきりぴかぴかに……!?
そして、もうここまできたら芥も。
「ヤッターナカマダー頼りにしてるぜ」
無我の境地で耳をすちゃりと装着し、キラキラピカピカ。
――さて、狩りの時間だ。
ピカピカお耳の猫さんたちによる、にゃんにゃん狸狩りのはじまりです!
とはいえ、ただ古妖の狸を待ち構えているよりも。
「刑部な変身タヌキは囮役で、誘導するのが良さそうだろうか」
そうお耳を光らせながらも、真剣にきりりと思案するカナト。
それから、作戦会議の結果。
「戦闘能力が虫並な私、役立つよう囮役やります!」
くるりがそう申し出れば。
(「縡ちゃんの気遣う視線を感じる……」)
囮役のくるりに縡が向けるのは、応援の念と様子に気を配ってくれている視線。
いや、戦闘能力は虫並と本人は言っているけれど。
(「一回くらいはルートブレイカーでなんとかなるよ……多分……!」)
なんとか、なる……きっと、多分……!
ということで、くるりが囮を担ってくれる間、そのポイントへの包囲を固めつつ。
「猫耳なワンちゃんもヨシが出るまで待機中〜」
「カナトはわんにゃーになってんな。俺はこんにゃー……?」
「わんにゃー、こんにゃー…哀愁漂っていない?」
お互いを見遣りつつ、わんにゃーこんにゃーしているカナトと芥と。
妖し獣の混戦に挑むに、にゃあと鳴くには些か気恥ずかしく……真似るなら忍ぶ足で這寄る猫の様に、なんて猫っぽくしてみる縡とで。
「写真撮っとくか?」
「緇さんとの写真はまだでしたね」
「折角光ってるんだし写真撮ったり、後衛の子に預かってて貰う方がイイかなぁ」
「終わったらまた皆さんで撮れたらいいな……」
ひとときの、ほのぼの猫端会議……?
そしてその頃、囮役のくるりといえば。
「……えーん! 萬花のみんなスタイリッシュだよぉ! 私すごい浮いてる! 混ざれないよぉ!」
そう哀愁漂わせて、猫耳をピカピカさせていれば――。
(「気配を感じる……これで来るんだ……」)
『そこの猫、何を嘆いている? この桜の神が憂いを払ってやろう!』
めちゃくちゃちょろく現れた、桜の神こと化け狸。
他の仲間の攻撃を受けて人間を誑かし英気を養いたいらしいとはいえ、即引っかかった様子を改めて確認すれば。
「えーん! 慰めて桜ねこ耳! ……あっ電池切れ!?」
刹那、消えてしまうピカピカ!
いや――電池切れを装い、くるりが電源をオフにしたのだ。
だって、それが。
「へえ、縡は動きも猫っぽい……光る猫耳が消えたな、合図かもしれない」
「……あ、もう戦っても大丈夫そうか〜。それじゃあ思う存分殴ろうねェ」
くるりからの合図であるのだから。
そしてカナトは牽制代わりに遠吠えひとつ。
『! 何だ!? ぐっ』
――どんな姿に変身しようと鎖で縛って逃がさないよぅ、と。
恐慌状態を齎す遠吠えによる牽制に続けて、虚空から伸びる鎖による捕縛を試みて。
芥も、遠吠え合わせてけん、と鳴き真似して。
カナタと縡の援護にと、霊能震動波を放てば、霊震の衝撃で大きく地が揺れて。
『じ、地震!? ふぎゃあ!!』
(「刑部タヌキの足場を崩して油断を誘い捕えよう」)
そして狙い通り、よろよろしている古妖目掛けて。
くるりは暗闇で、ピカンッ!
「光る桜ねこ耳目眩し! これは効く……といいなぁ」
「へえ、化かし合いか?」
そう瞳細める芥の声と姿を確認すれば、くるりはすかさず声を上げる。
……芥さん、拾ってください! って。
そして芥は、その声通りにくるりをひょいと拾えば――猫耳を、ピカッ!
『……!!』
子供騙しでも目眩しくらいには、と。
それから改めて、回収したくるりへと声を向ける。
「無事か、くるり」
「無事です〜!」
その声を聞けば、ひとつ頷いてみせて。
瑞花で援護射撃をしながら間合いを取りつつ、改めて戦場を見遣る芥。
「猫と狐と犬とタヌキが混戦だ」
……すげぇアニマル、と。
くるりはそんな猫さんな皆を見回してから、ずばっと断言する。
「私は戦えませんが! みなさんは強いですから!」
――猫と犬と狐の勝ちです! って。
縡は、そんなくるりが無事狸から離れたのを視認し、芥に拾われたのを確認すれば。
──黄泉軍も、ここまでと知れ。
カナトが敵を捕縛したのと合わせ、展開した追儺で上げた速度のまま、地を踏みしめて懐へと切り込んで。
「夜闇だと、この耳も眩しいでしょう?」
『く、このッ、揃ってピカピカして~!』
古妖へと見舞うは、ピカピカお耳の目晦ましと、桃の花片舞う祓邪の一閃。
「的の大きい方が殴りやすくはあるケドねぇ」
カナトもそう、獣爪化した腕の強撃も大活躍〜って、鋭利な爪を立てたり振るったり薙いだり、皆と連携し攻撃を仕掛けていって。
(「一人誘いに出た背と、並んだ肩は其々頼もしく」)
縡は、桜に桃に纏う刀と胸躍らせながらも――さぁ百鬼夜行の花盛りの夜、どうぞ楽しんで下さいね、と。
『くっ、ぐうッ!!』
皆とピカピカ、狸狩りに勤しんで。
カナトも戦場を改めて見回せば、珍しメンツに猫狐犬とタヌキが混戦……そんな様子に、わくわくをわんにゃーと咲かせる。
――戯れ合いするのも愉しいね、って。
夜の闇に浮かぶように、見事に咲き誇った桜の花。
けれど、その美しさに紛れて、人を誑かす存在があるのだという。
そもそもこの祭りへと赴いた目的は、春の祭りに潜む古妖を退治するということではあったが。
九条・庵(Clumsy Cat・h02721)は、隣にいる彼女の表情をそっと窺いながらも、小さくひとつこくりと頷く。
(「少し不安そうだったから、確りカバーしないと」)
そう、花咲・果乃(いつか花ひらく・h06542)は戦い慣れていないし、自信があるわけでもない。
庵に気づかれるくらいには不安ではある。でも、
(「出来ること、頑張らなくちゃ」)
戦闘から背を向けるなんて考えがないのは、きっと彼と一緒だから。
だって、果乃の心に一番強く咲いている思いは、そう――庵くんの力になりたい、って。
それに事前に確りと、ふたりで作戦会議だってしたのだから。
『むむ、新手か!?』
(「俺が前、果乃は後ろ、うん段取り通り」)
天をも裂く牙の刃を手に、庵はきっちり位置取っている姿を一瞬確認してから。
大きく地を蹴り、敵前へと踊り出ながらも……ちょい火力弄っとくか、と。
抜かりなく攻撃強化を発動すれば、手数を重視し攻め込みつつも、その攻撃の行方には特に注意を払っておく。
果乃へと向く攻撃は最優先で防ぎ、それでも抜かれそうならば影業で防御支援して絶対に通さないつもりだ。
だって、庵も強くその心に思うから――傷付いて欲しくねーし、って。
そして戦い慣れてないながらも、狙い撃ちされないようにって、出来るだけ沢山動き回るように心掛けつつ。
出すぎないように距離は保ちながら、けれども、防戦一方って思われない様にと、破壊の炎で攻撃も頑張ってみる果乃。
敵の動きは勿論、そんな彼女の動きも、庵は極力把握しておこうと……思っていたのだけれど。
ふと違和感を覚え、周囲へと視線を巡らせる庵。
(「あれ? 果乃、どこ行った?」)
それから彼女を探して目を凝らしてみれば。
(「あり得ないモンが動いたりしてるしな」)
いくら妖怪が闊歩する世界とはいえ、明らかに視界がおかしいことには気づいたのだけれど。
「庵くん……?」
そう呼ぶ声しか聞こえないが、不安にさせないように、大丈夫! って答えてみせるも。
だが、事前に聞いていた相手の能力を思い返せば、迂闊に動けなくなる。
(「これは拙い……もし果乃や仲間に攻撃しちまったら」)
そしてそんな彼の様子に、果乃も気づいていて。
(「庵くんの様子がおかしい……?」)
庵くん、って呼んでみるけど、大丈夫って声は返ってきても、こっちを向いてくれなくて。
だから……もしかして、って。思い切ってその手を掴んで、確かめてみる。
「ね、庵くん、声は聞こえるよね? 私が何に見える?」
そして腕掴まれる感触に、庵ははっとする。
確かに熱を感じる腕の先を見遣れば、ふわりと優しい色を湛える小さな花を咲かせた観葉植物の姿が。
でも、声で解る――これ果乃だ、と。
果乃も彼の反応を見て確信する。
(「そっか、正しく見えていないんだ」)
敵が使う忌まわしき神通力が、まやかしをみせているのだと。
そう気付けば、果乃は自分に今できることを考えて、しっかりと実行する。
戦闘は自信がないけれど、でも――私の小さなお友達、力を貸して、って。
「お願い、正しく見える瞳を庵くんに」
肩に乗るくらい小さな|碧花竜《グリーンドラゴン》に、想いをいっぱいに込めてそう祈れば。
小さな|碧花竜《グリーンドラゴン》は、ひとつだけ少女の願いを叶えて、春の夜の桜空へと消えていく。
……ああ、見えた。
不意に瞳が温かくなったかと思えば、庵の瞳に映るのは、心配そうな果乃の顔。
そして思わずその手を握り返して、安堵の言葉を零す庵。
「あー良かった、果乃……見失ったかと……」
「ちゃんと見えてる……? 良かった」
そんな彼の様子に、果乃もほっとしながらも。
でも――つい、頬が熱くなっちゃう。握り返された、彼の手のぬくもりに。
『なっ!? 何で化かされ状態から戻ったんだ!?』
それから、術が解けたことに驚く眼前の古妖へと、庵は言い放つ。
「おい狸、倍返しは覚悟しろよ?」
果乃だって、自分ができることを一生懸命やってくれたのだし。
何より、格好悪いまま終われない――だから今度は庵が、自分にできることを全力でやる番。
『!? ひぃっ!』
夜桜が舞う春の只中、狸に牙を剥く刃を閃かせて、いざ倍返しを。
数多の灯りに照らされて、美しく仄光る夜桜。
そんな春の夜の満開桜咲く景色の中、振り返るのは、皆で過ごした楽しかったひとときのこと。
「桜もお祭りも楽しかったわね」
赤き花一華を細め紡ぐララ・キルシュネーテ(白虹・h00189)の声に、詠櫻・イサ(深淵GrandGuignol・h00730)も勿論頷いて。
「ちょっとはしゃぎ過ぎてしまったかな。でも、夜桜の祭りは楽しかった。射的も上手くいってほくほくな気分だよ」
「買い物にスイーツ、それに遊びも。満喫できて良かったな」
そう紡ぐ椿紅・玲空(白華海棠・h01316)の尻尾も、満足げにゆうらり。
いや、目一杯皆で楽しんだのは確かなのだけれど。
「ララ、まだまだ食べられるわ」
ララのおなかは、まだまだ余裕ありな模様……?
でも、イサや玲空が思わず瞳を瞬かせるのも、当然だろう。
「え? あんなに食べたのに?」
「まだ食べるのか……」
食いしん坊な聖女サマの食べっぷりを思えば。
そんな皆の様子を微笑まし気に見つめながら、セレネ・デルフィ(泡沫の空・h03434)も改めて口にする。
「とても楽しかったです」
もうすぐ、この春灯祭も終わりを告げる時間なのだけれど。
「ですが……素敵なお祭りの余韻に、ゆっくりと浸る暇はなく……」
セレネの言うように、このまま、楽しかった、で帰路に着くにはまだ早いのだ。
ララも、まだもう一巡ほど、夜桜を愛でながら屋台巡りをしたいところなのだが。
「けど……食後の運動も必要かしら?」
「……嗚呼、そうだね。偽物の桜の神退治は、いい運動になるのかも」
イサの見遣る先に在るというのは、桜の神様を騙る存在。
「……ふふ、食後の運動だなんて」
セレネもそう小さく笑んで、桜花弁舞う風景を皆と共に征く。
……普段なら気負ってしまう戦いも、皆さんと一緒ならば怖くありませんね、と。
そして待ち構えていれば、他の仲間にこっぴどやられて慌てて逃げてきた情けない古妖の姿。
だがその古妖、隠神刑部は4人のことに気づいて、咄嗟にそれらしく振舞ってみせる。
『我は桜の神ぞ。迷える汝らの願いを叶えてやろう』
彼ら彼女らが、自分を倒しにきたのだということを、愚かにもまだ知らずに。
確かに化けるのがうまいかもしれないし、上手に化けたその姿は、知らぬ者が見れば桜の神様だといわれれば信じてしまうかもしれない。
だがそれは、知らなかったら、の話。
ララは眼前でのうのうと行なう古妖の茶番を鼻で笑ってやって。
「ふん、たぬきが桜の神を名乗るだなんて……図々しいのではない?」
そして、身を持って教えてやる。
……桜の女神はもっと──うつくしいものよ、と。
それから、満開に咲く夜桜の下、誘いの声をかける。
「影踏みしましょ」
――踏んで、ふまれて、 花の影。
いくら配下の化け狸達を差し向けてこようとも、窕と銀災の射程に入れば、切り裂くだけ。
桜吹雪と戯れるようにひらりひらりら、とんと早業で駆けて窕のナイフで切断してやる。
そして一見無謀に見えるほどに敵前へと飛び出していくのは、ララはちゃんと知っているから。
「ララ! 鉄砲玉みたいにかけていったら危ないって!」
そう泡沫のバリアを成し、守るという意思の元に。
「イサが邪魔なものを牽制してくれるから駆けやすいわ」
イサが敵を抑えたり、敵の攻撃から守ってくれて、己をかばうように立ち回るということを。
いや、勿論イサだけではない。
「トルテ、狩りの時間だ」
……ララに遅れをとるな。
そう追いつく勢いで玲空が差し向けたトルテが、もふもふの尾を揺らしながら、巨獣化し咆吼してララの周りにいる敵を牽制させたなら。
ララの後ろを駆け、医神の霊薬が模るガンソード――dea.PANAKEIA-Elixirで斬り捨てんと、玲空も斬撃を閃かせる。
そして、桜の神などではないと疾うに暴かれているのに。
『!? なっ、桜の神に何を……!』
まだそう言ってのける狸に、ララは己の姿すら知覚させない。
桜吹雪の薄紅たちに紛れて姿をくらまして、死角を狙うように斬りつけて、生命を喰らって弱らせる。
配下の狸たちだって当然、近寄らせなどしない。
そんな戦場を駆ける皆の姿を見つめながらも、ふいに足を止めたセレネは詠唱し、戦場へと解き放つ。
「古妖……あなたが皆から笑顔を奪おうとするならば、天罰が下ることでしょう」
――星が瞬いて、煌めいて、流れていくの。
紡がれし星夜ノ幻想がひらり、星煌蝶の耀うはばたきを。
イサに玲空、それにセレネの祈りが背をおしてくれるから。
ララは夜桜の戦場に舞う蝶々に、綺麗だわ、と笑みながらも、敵を屠るべく前へと臆することなく躍り出ることができるのだし。
「セレネの存在だって心強いに決まってる」
舞う蝶に笑って、容赦なく全力でレーザーをぶっ放せるし。
「セレネの祈りは心強いな」
……ん、後ろは任せる、と。
玲空だって、その背を彼女へと預けられるのだ。
そう、セレネが浮かべた蝶は皆が存分に戦えるように、そのサポートに古妖の目を潰すために、そして皆と自分へ向かう攻撃を弾くために、春の夜を舞う。
――どうかこの力が、戦いの一助となりますよう。
ひたすらに祈りを捧げ、空に輝く星々の如く戦場にひいらりひらりと、セレネによって数を増やしながら。
そして桜花弁と蝶々舞う中、イサは玲空へと、こんなお誘いを。
「玲空、挟み撃ちでもしてみる?」
「いいな、挟み撃ち」
そんな声に即、玲空も頷いて返して。
……イサ、奴らを翻弄してやろう。
dea.THETIS. Charōnから牽制射撃を弾幕のように放ち、闇に紛れるように近づいてはdea.THETIS-ABYSSで薙ぎ払い斬らんとひらり身を翻すイサに合わせて。
『ぐっ!! くぅ……っ』
不敵な笑み浮かべ、合わせてひらりら、玲空も剣を振るってみせる。
「どんな姿を変わろうと、お前自身は変わらない」
……虎の威を借る、狸ってやつ、と。
斬撃と言の葉で確りと、狸へと現実を突きつけながら。
「さぁ、玲空。一緒に串刺しにしてやりましょう」
「ああ、我が|雛女《ひめ》の意のままに」
今度はララの動きに合わせて、玲空は再び刃を振るう。
破魔の迦楼羅焔纏う彼女が花篝のように焼却せんとする古妖を、容赦なく貫かんと。
そしてセレネも引き続き、力を尽くして守護する。
「真っ先に飛び込むララさんを守るため、詠櫻さん、椿紅さん……どうぞ、後ろは任せてください」
……皆さんが大きな怪我なく帰れるよう、と。
『なんで化かされんのだ! 我の化け術は完璧のはず……ぐあっ!』
「狸はすきだけど、桜咲くお祭りの後は……皆、笑顔でなければね」
「楽しい祭の余韻を邪魔したこと、延々と後悔すればいい」
セレネの加護の元、ララや玲空とともにあくまで攻めの姿勢を崩すことなく。
「さて祭りの終わりに、花火でも打ち上げてやろうか」
イサも桜舞う春の夜を駆けながら、改めてその心に咲かせる――皆が居てよかった、と。
満開に咲く夜桜の影に隠れて暗躍する、無粋な輩。
その尻尾を掴んだ今、人を誑かす悪戯が過ぎる古妖が仲間に懲らしめられ、逃げてくる姿を目にすれば。
待ち構えていたふたりは、その行く先を遮る様に立ちはだかる。
『! く、一体どれだけいるんだ!?』
だって、眼前に現れた古妖『隠神刑部』は、このままみすみす逃がすなんてできない存在だから。
「名高き大妖が、楽しい祭りに乗じて人を誑かし取り殺そうだなんてね」
「こんなに楽しそうな人たちを騙して殺そうだなんて、絶対に止めなくちゃいけないよね。被害が出ない内に倒さなくちゃ!」
マリー・コンラート(|Whisper《ウィスパー》・h00363)の言葉に、豊橋・瑞穂(DD.Ⅴ・h01833)も頷いて続ける。
「私達でその企み、挫いてあげましょう」
そして刹那、しゃらりと一振りするは、手に握るブルームロッド。
満開の夜桜と戯れるかのようにひらりひらひら、マリーが振りまく花弁が春の夜に一層の彩りを添えて。
舞わせるひとひらと同時に、存在感ある動きで、敵の意識を自分へとマリーは集める。
そう……一瞬あれば十分なのだ。
マリーと花吹雪に狸が意識を向けた一瞬、瑞穂は既にもう動いていて。
天導の書で武器改造を施した『"|Sunset《サンセット》"FT8-R』によるクイックドロウで、閃光弾から阻害弾のマヒ攻撃にすかさず繋げて。
『!? ぐぅっ!』
優美な8連装リボルバーを引き金をひいて、視界や視覚機能に対し連続で妨害をはかり、インビジブルを隠して√能力発動を遅らせるべく立ち回れば。
――いらっしゃい、私の騎士達。 その槍働き、また見せてもらうわ。
そのまま行使するは、集結せし我が聖鋭なる騎士達。
そしてランスチャージを行った無数の召喚騎兵が一斉に、防護を透過する陽光の輝きを放てば。
「さぁ、あなたも配下を出しなさいな。 私の騎士達が撃ち破ってあげる」
そう煽ってみせつつも言葉通り、化術が得意だという配下の化け狸達へと、瑞穂は騎士達を差し向けては打ち倒していって。
マリーも妨害を瑞穂に引き継いだなら、配下召喚に混乱が広がらないよう歌に移る。
――私の届けるこの歌……あなたは聴こえる?
戦場に響かせるはそう、確固たる自信に裏打ちされた流麗絢爛な歌声。
心の込められた歌『Bloomy Affection』は、敵の心をもとらえて離さずに魅了して。
桜がくるりと舞う様子に合わせて、歌いながら軽いパフォーマンスで、この華やかな雰囲気を表現する。
(「不安にさせない内に倒しちゃうのが一番だと思うの」)
それに……ついでにこのお花見をもっと盛り上げたいからね! って。
「古妖を一般の人達ごと私の歌で魅了させて釘付けにしちゃおう!」
桜舞う戦場を、己の歌やパフォーマンスを披露する、春の夜の舞台の如く変えれば。
瑞穂は戦闘知識を駆使した巧みな連携で、マリーに釘付けの八百八狸の軍勢を食い破ってやりながらも。
「王たる私が居て、素敵な歌姫も居るのよ」
堂々たる美しき歌が響く中、声高らかに聖鋭なる騎士達を集結させ、命じる。
『うぐっ! く、うっ』
――皆……悉く貫き、勝利を持ち帰って来なさい!! と。
美しく桜咲く夜に紛れて、どうにかやりすごさんと。
かくれんぼしようとする古妖の姿を、ふたりが見逃すわけはない。
だって、疾うに待ち構えていた矢神・疾風(風駆ける者・h00095)と矢神・霊菜(氷華・h00124)にとっては、ようやくのことなのだから。
「おっと、ついに古妖のお出ましか! 待ってたぜ?」
「やっと出てきたわね。疾風と沢山楽しみはしたけど、さすがにちょっと待ちくたびれちゃったわ」
疾風と並び立ちながら、霊菜は瞳を細めて続ける。
ふたりきりのデートも思い切り満喫したから……そろそろ留守番してる娘も心配だしきっちり倒して帰りましょう、と。
この場所に赴いた目的は、この悪戯が過ぎる古妖『隠神刑部』を懲らしめて退治することだから。
そして相手の能力は、星詠みの予知ですでに把握済。
だから疾風は、颯爽と言い放つ。
相手は化け術を使う狸、故に変身が得意だという話だから。
「オレたちも変身で対抗してみようじゃないか!」
そんな彼の言葉に、霊菜もふっと笑み咲かせて。
「なんだか疾風が変身合戦をやる気満々みたいだし、私ものってあげる」
――いくわよ、氷翼漣璃。
刹那声をかけるは、2体1対の氷の体を持つ鷹の神霊たち。
そして氷應降臨――氷雪の神霊「氷翼漣璃」を降ろして纏えば、春風に靡く金の髪がうっすらと青みを帯びた白へと変化して。
「風龍神よ、力を貸しな!」
疾風も『龍化の陣』を発動すれば、顕現するは風龍神。その姿を龍へと変じさせて。
『ふ、化け術合戦ならば得意だ……ふぎゃっ!?』
変化で得た、自然現象を自在に操れる『覇王の扇』を以て、天候を操り攻撃する。
それに対抗し、古妖も変幻百鬼夜行を展開せんと対抗してくるも。
それがどのような能力かも、疾風にはわかっているから。
……敵はおそらく配下を呼び出すと思われるから、と。
化術を使われるその前に、戦場に成すのは強烈な竜巻。
『……ッ!?』
そして多くの配下たちを巻き込めば――爪で切り裂いてやろう! と。
容赦なく引き裂き、次々と打ち倒していく。
そんな疾風が配下を相手している間に。
『ぐ、我の誇る、化け狸軍団が……、っ!?』
古妖へとすかさず接近するのは、霊菜。
上がった速度とダッシュで一気に距離を詰め、繰り出された敵の強力な神通力も、第六感で予測し対処すれば。
そのまま、隠神刑部が対応してくるその前に。
「神様ってそう簡単に願いを叶える存在ではないわ。甘い言葉を囁くのは悪者だって相場が決まっているものよ」
『!! ぐはっ!』
容赦なくお見舞いするのは、強烈な先制攻撃の一撃!
そしてたまらず大きくよろめく古妖へと、疾風も霊菜に続いて。
「神頼みするというのは、悪いことではない。だが、『人事を尽くして天命を待つ』とも言うよな。出来うる努力を全部やり尽くしてから、最後に神様に頼むもんだぜ?」
改めてはっきりと、人を誑かす存在の正体を暴いてやる。
「何もしていないのに「憂いを晴らそう」なんて甘言をチラつかせる神様なんていない」
美しく咲き誇る桜の神様だなんて、言語道断――そいつは偽物だ!! って。
仲間の攻撃を浴び続け、よろりとよろめきながらも姿を現したのは。
「たぬき? あらいぐま?」
獅猩鴉馬・かろん(大神憑き・h02154)はじいと、その姿を見遣っては首をこてりと傾ける。
パッと見れば、その姿はタヌキっぽく見えているのだけれど。
でも……2足歩行するならアライグマなのかもしれない??
そう、かろんは暫く悩んでいたのだけれど。
大神に促されて、そういやと思い出す。
『く、今度はお子さまか? ふふ、我の妖術で化かしてやろう』
このタヌキのようでアライグマでもあるような存在は、封印から解き放たれた古妖――敵だったということを。
今回の目的は一応、この古妖『隠神刑部』の退治であって。
ちょっぴりそのことを忘れていたかろんであったが、狸退治にやる気をみせる。
だって、桜咲く日のこの祭りが楽しかったから、終幕を邪魔されないようにと。
だから、こくりと頷いて――大神に言われるままに。
「みんなあつまれ!」
壱百霊壱式降霊撃を発動し、桜舞う戦場に喚ぶのは眷属たち。
大神の判断は、小さくなろうと大きくなろうと数で攻めればどうにかなる、と。
だから、そんな彼女の指示に従って。
『ぐっ、ちなみに我は化け術が得意な狸だ! って、ふぎゃっ!!』
「たぬきなんだー?」
姿をいくら変じようとも、連携攻撃を仕掛ける眷属たちが次々と、狸だと主張する古妖へとその牙を剥いて。
引き裂いたり食らいついたり、それらを陽動にして奇襲を仕掛けていく。
そして、かろんは。
「みんな、がんばれ!」
いつも通りの応援係、がんばって応援します!
灯篭に照る夜桜がこんなにも幻想的で美しいというのに。
見事に咲く桜ではなく、しょんぼり俯いて盛大な溜息をつき、ひとり歩いている人物。
そういう「いかにもなやみがありますよ」みたいな人間を、これまで祭りの喧騒に潜んでは探していたから。
『そこ行く少女よ、何を悩んでいる? 我が悩みを聞いてしんぜよう』
これまで散々ぼこられて満身創痍の古妖は、敵を誑かして少しでもエネルギーを得ようと必死で。
お誂え向きのターゲットをみつけるやいなや、再び桜の神へと変じ、悩める少女へと声をかけたのだ。
そして、大げさに溜息をついていた万菖・きり(脳筋付喪神・h03471)は、突如かけられた声に、しゅんと下げていた顔を上げて。
「誰です?」
眼前に現れた、神様っぽい姿をした彼を見遣れば。
『我は、人々の願いを叶える桜の神だ』
どや顔でそう告げる、桜の神こと『隠神刑部』をさり気なく連れて歩く。
「え、わたしも付喪神なのでお揃いですね、ちょっと聞いて下さい。さっき屋台で並んでたんですけどー」
同行している皆のもとへ。
そう、これは、逃げてきた古妖のターゲットとなって、まんまと引っかかった敵を皆の元へと誘導する作戦。
けれど、古妖の詳細を聞いた時、ガザミ・ロクモン(葬河の渡し・h02950)はこう思ったから。
(「狸さんはお調子者が多いので、気分を良くして動けない状況を作って、皆さんの攻撃を当たりやすくしてみます」)
まずは、きりが連れてきた、古妖ならぬ自称桜の神様へと目を向けて。
「……あっれー? すっごく神々しいお姿していらっしゃいます、どなた様?」
……やっと正体を現しましたね、と思いながらも、声を上げれば。
「えーっと、この人、桜の神様らしいです。わたしの悩み? を晴らしてくれるって。楽しみに買いに行った夜桜チョコパイが売り切れで!!」
「人気あるンだなァ、夜桜チョコパイ」
ウィズ・ザー(闇蜥蜴・h01379)もきりの声に顔を向け、そう頷いて返す。
それから、不動院・覚悟(ただそこにある星・h01540)と共に、ガザミは改めて、眼前の桜の神を見遣りつつ。
「桜の神様って、本当ですか?」
こてりと首を大きく傾けてみせた後。
疑うような眼差しを向けて、桜の神へと告げる。
「桜の神様なら、公園で二つとない立派な桜の木のはずです」
……見せてくれたら、神様って信じます、って。
それを聞けば、またもや得意顔で。
『ふふ、勿論見せてやろう……えーいっ』
ぽふんっと、出現させた桜の木を目の前に咲かせてみせる。
ちなみに当然ながらこの桜は、狸の生み出した嘘まやかしである。
それから、どや顔で桜を咲かせてみた桜の神であったが、ガザミは大きく首を傾けてみせて。
「うーん、全然小さい。まだまだ、大きく。もっともっと、枝を広げて、ぐーんて高く」
『まだ小さい? むむ、では……これでどうだ?』
ちょっぴりむきになりつつ、化け術を使って、もっと大きな桜を咲かせてみせる古妖。
そして、どう? みたいに様子を窺う様子に、今度はガザミは大きく頷いて返して。
「すごぉい、公園で一番立派できれいな大桜です」
きりと一緒に、全力で拍手!
『ふふ、まぁ桜の神だからな、こんなところだな』
でも、調子に乗っている古妖は気づいていない――おだてて持ち上げると同時に、ガザミが召喚したオニホタルイカたちをこっそり差し向けていることには。
そしてオニホタルイカを、桜の神を騙る狸と密かに融合させて行動力を削ぎ落しておく。
それからウィズも、ガザミやきりに続いて声を上げる。
「おおー、見事見事。やるなァ!」
『そうだろう、何せ我は神……、えっ!?』
刹那、一斉に桜の神――いや、古妖『隠神刑部』へと向くのは、周囲に静かに展開していた刻爪刃と融牙舌。
しかもその数は、各280にも及ぶ。
『なっ、何を!?』
それから、思いもしない状況に、瞳を大きく見開く桜の神もどきであるが。
「あ、コレ、一見狸を褒めてる様だが、実は褒めてるのガザミだからな?」
見事なのは化かし損ねている狸ではなく、オニホタルイカを召喚したガザミの方である。
そんなウィズの攻撃を皮切りに、覚悟も慌てふためく古妖を見遣り、紡ぐ。
「狸さんと折り合いをつけられないかと、良い面を探して考えていたのですが……」
――残念ながら、ただの「悪い狸さん」でした、と。
いたいけな少女の傷心につけこみ、まやかしをみせて自分達を騙そうとした、まさに現行犯。
擁護の余地もなく、申し訳ない気持ちです、と続ける覚悟であるが。
そんな狸に、びしっと言い放つのは、しゅんとしていたはずのきり。
「嘘つき狸に酌量の余地はありません。イライラを全てぶつけます」
『く……は、謀ったな!』
そしてようやく状況を察した隠神刑部であるが、時すでに遅し。
ウィズは、偽物の桜の神のかわりに、戦場に咲かせてみせる。
「桜ァ、桜ァ、今咲き誇れェ〜っと来りゃ。生けるにはちいと枝も太いみてェだな」
星脈精霊術【薄暮】を発動させ、捕食力、貫通力、蹂躙を増加させて繰り出す波状攻撃を。
ガザミのカムロとツブテの攻撃に援護されながら、仲間の攻撃に合わせて。
「たんたん狸の腹太鼓、さァ良い音聞かせてくれよ?」
『ぐぬぬ……って、ふぎゃあっ!?』
特に、光に依り輪郭を強める黒霧や陰影の蹂躙力を増し増しにして、今回は切り裂くよりも打撃攻撃メインで、狸をポコポコ!
いや……実際は、そんな効果音ほど可愛くないような威力をほこる打撃をぶとこんでやって。
「他の雅楽器も欲しくなる所だぜ」
「ただ、状況を見るに、これはあまりにもオーバーキルすぎます」
そう判断した覚悟は、古妖をぼこるのは皆に任せることにして。
「ですので、僕は春灯祭を楽しみに来られた一般の方々が巻き込まれないよう、避難誘導に徹するつもりです」
……今は何よりも、周囲への気遣いが大切だと考えています、と。
そんな覚悟に、ウィズは首を傾けつつ、こうも紡ぐのだけれど」
「……んー、そんなにオーバーでも無ェ気ィするけどなァ?」
周囲の人々の避難誘導を担いながらも、それはそれ。
『ぐ、だが俺は賢い狸だ、まともに相手などしない……!』
またすかさず逃亡をはかろうとしたのを見れば、容赦なく覚悟はお見舞いしてやる。
「これが、限界を超えた渾身の力です。燃え尽きる覚悟はできていますか」
――『阿頼耶識・修羅』!
『え、ちょっ……うぎゃっ!!』
逃がせばもっと被害者が出てしまうし、当然逃がしなどしない。
蒼い炎を纏った拳で、逃亡しようとする狸を、すかさず渾身の一撃をもってぶん殴れば。
「チョコパイ食べたーい!!」
きりもそう力を込めて、禍祓霊域を発動させて鏑矢を放ち、さらに滅茶苦茶頑丈な載霊木刀を振り下ろす。
勿論、掛け声はこれです。
「チョコパイ食べたーい!!」
そして、チョコパイへの昂る思いを打撃に全力で込めながらも。
「聞いて下さいよー、屋台に並んでたら目の前で夜桜チョコパイが売り切れで!! ほんっとうにショックだったんです」
いえ、敵の誘き寄せ作戦でもあったのだけれど……でも狸も騙されるほど迫真であっただけあって、チョコパイの件は何気に本当でした。
そんな荒ぶっている様子のきりを、そっと優しく宥める覚悟。
……みんなで夜桜チョコパイの屋台を探して歩きましょうか、って。
ちょっぴり大人気分を味わった後、幻想的な夜桜の景色を歩いていれば。
何だか夜更かしいているみたいで、さらに気持ちもわくわく上がる……と言いたいところであるが。
「さっ、こっからは能力者の仕事だ!」
楽しかった春の夜のひとときも存分に満喫したし、これからが本番。
天ヶ瀬・勇希(エレメンタルジュエル・アクセプター・h01364)は最後きっちりと締めるべく。
ひとりでもう少し飲んでおくと言うおじさんに送り出され、師匠と一緒に古妖退治へ!
ええ、むしろ本来の目的である古妖退治、なのだけれど。
「はー、満喫しました!」
確かにある意味めっちゃ満喫していた師匠、アリス・アイオライト(菫青石の魔法宝石使い・h02511)をちらりと見て。
(「……師匠酔っ払ってるけど、まあ、決めるとこは決める人だから大丈夫って信じよう」)
そうは思っている勇希なのだけれど。
「ちょっとふわふわしますけど、ええ、わかってますよお、ちゃんとお仕事はしませんと!」
なまじ張り切っているその姿は、ふわふわほわほわ、どこからどう見ても、幸せそうで楽しそうすぎる。
そして勇希は、そんな師匠の姿を見て、改めて思うのだ。
いや、肝心な時はきっとやってくれる、とは思うのは本当なのだけれど。
(「でも囮は無理だ、傷心のふりできる状態じゃないもん」)
人の傷心につけこんで誑かす古妖の囮として、これほど相応しくない姿はないくらい、哀愁がミリも感じられない。
だから、囮は自分がするから師匠は奇襲をと告げる勇希であるが。
「ええー、私ちゃんとできますよお?」
よりによって囮役をつとめようとしていたアリスのそんな言葉を聞けば、ますます不安でしかない。
だから、ふわほわしているアリスに、勇希はお願いする。
「いいから、俺に任せて桜の影に隠れててくれ!」
そしてその言葉を聞けば、ようやく。
「仕方ありませんねえ、ユウキくんの熱意に免じて、囮役はお任せします〜」
桜の影に身を潜め、古妖がかかるのを待つことにするアリス。
まさか囮無理だとか思われているなど微塵も思ってない様子で、むしろ、仕方ありませんね囮をしたいお年頃なんですね譲ってあげます~くらいにほのぼの思いながら。
というわけで、何とか師匠も大人しくちょこんと桜の影に隠れたようなので。
勇希は古妖が逃げてくると予知された目的地にとぼとぼとひとり歩いていって、深くため息をついてみせる。
「はあ、新しいクラスしんどいなあ……」
ちょうどお誂え向きに季節は春、新学期がうまくいってないふりをしながらも。
そして一刻も早く人間を誑かしエネルギーを得たい古妖が、そんないかにも悩める少年である勇希を放っておくわけはなく。
『そこの少年、我は桜の神。汝の願いを叶えてやるぞ!』
「桜の神? すげえ!」
まんまと現れたのは、桜の神……を騙る狸。
というわけで、敵を調子に乗せるために、ちょこっとだけのってみせた後。
「……それが、本当ならなっ!」
勇希は腰のベルトに宝石をすかさず嵌め、魔法使いらしいローブ姿に変身!
アリスも勇希を脅かそうと古妖が姿を現した瞬間を狙って、魔法宝石のかけらを指先砕き魔法を展開! せんとしたのだけれど。
「クリスタルよ〜、え〜となんでしたっけ」
「師匠ー! はしゃいでないで、ちゃんと狙えよ!」
こてりと首を傾けてみせる酔っぱらいに、魔法少女……いや、ヒーローに変身した勇希は声と視線を向けるけれど。
「うふふ大丈夫大丈夫、詠唱なんておまけですから」
――クリスタルよ、我が手に凍れる杖を与え給え。
ちょっぴりふわほわではあるものの、決める時は決める師匠ではあるから、そうちゃんと詠唱して。
煌めく宝石の魔力を戦場に迸らせれば。
『なっ、奇襲!? ぎゃっ!!』
「私の魔法宝石は優秀なので勝手に攻撃してくれるんですよお〜!」
酔っているから逆に手心なく、凍てつく煌めきの衝撃を敵に確りとアリスが与えた刹那。
氷の宝石を装着したジュエルブレイドから氷の礫を繰り出し、師匠と攻撃を重ねていく勇希。
そんな師弟の連携攻撃に、元々随分手負いな隠神刑部はたまらずに逃亡をはかるけれど。
勇希がそれを追わないのは、敵が逃げた、誘導した方向にも、仲間がいることを知っているから。
足元がちょっぴりおぼつかずふらつくアリスを支えつつも。
「っと! もー、おじさんとこに戻るまでは自力で歩いてくれよ!」
「ふふ〜、終わったらおうちで飲み直しましょうねえ!」
いや、やはりやるときはやってくれるのだけれど……でもやはり全然懲りていない感すごい師匠に、勇希は釘をさしておくのだった。
「今日は帰ったら寝るからな!」
夜桜がはらり舞う春の夜――自分達を待つおじさんの元へと、帰りながら。
夜桜が舞う春の夜の静寂を、無粋にもやぶるように。
仲間達の攻撃を受け続け、慌てて逃げてきた古妖の姿に、少し複雑な気持ちを抱くのは、ライラ・カメリア(白椿・h06574)。
(「隠神刑部さん……ああ、別の場所で共闘した|貴方《存在》とは違う方なのね」)
だが、以前共に闘ったのも一時的なことで、その時の彼とは別の存在だということも、そして隠神刑部が古妖であることも、ライラにはよく分かっているから。
少し戸惑いはあるけれど、やるべきことは決して違えずに。
「今宵はお手合わせ願います──!」
『!? 何っ、また待ちかまえられていたのか……くっ』
そう忌々し気に呟きを零す隠神刑部に、ライラはこうも続ける――正直に言いましょう、と。
「スーパーウルトラ尊くて麗しい推し様とのお時間は、本当に楽しくて、夢のようなひと時だったわ」
推しから本当にキャパ越え以上に様々な供給がりすぎて、思い出すだけで情緒が極まりそうになるけれど。
でもだからこそ、推しに恥じぬよう在りたいともおもうし、それに何よりも。
「どのような形であれ貴方に「お礼」しなくては!」
そんな尊い機会を作ってくれた古妖には、たっぷり「お礼」をするつもり。
だから、春の夜空に舞う桜花弁と戯れるかのように、白椿の嵐が巻き起こって。
それを纏えば、ライラは必殺・剣の舞をもって、舞うように衝撃をひらりと舞うように閃かせる。
勿論、優雅な所作ながらも……傷口を抉りながら、鎧などすら無視した貫通攻撃を古妖へと容赦なく繰り出して。
敵の強力な神通力も、3倍になった移動速度をもって、迷彩で身を隠しつつ、空中移動を駆使して身を翻し、なるべく躱しながらも。
避けきれない攻撃があったとしても、ディヴァインブレイドの「Valkyrie」で武器受けと受け流しで対処していきつつ。
『く、ぅっ! 我の化け術は完璧のはずなのに……ぐっ!?』
……せめてもの餞を貴方に、と。
容赦なく閃く刃を隠神刑部へとライラは向ける――白椿と桜の舞い散る、この春の夜の楽しく尊かった思い出を胸に。
まさか、自分を狙う者達がこれほどまでやって来ていて。
人を誑かそうとしていた自分が、逆にこれほどまでに追い詰められるとは。
古妖『隠神刑部』はそうよろめきながらも、何とか逃亡をはかるべく。
桜の神に姿をかえて、美しく咲く夜桜に紛れようとするも。
「おんや、桜の神さまちゃん?」
ふいに聞こえた声に、再び自分を成敗しにきた者の仲間ではないかと少し警戒するも。
「ね。ね。俺、困ったことあってさ、ちょーち話聞いちょくれん?」
本当に困っていれば、いいターゲットになるし……あまり自分を倒しにきたような緊張感もないようなきもするから、とりあえず話を聞いてみることにして。
『いかにも、我は桜の神だ。困りごととは?』
「俺ね! 迷子になったん!!!」
そう八卜・邏傳(ハトでなし・h00142)は答えつつも、眼前の桜の神様にこう告げる。
……だから友達みつかるまで、俺と遊んでくれね? たぬきのおっちゃん♡ って。
そんな迷子の言葉に、桜の神は一瞬首を傾けるも。
『遊ぶって何をして……って、た、狸!?』
偽物だと最初からバレていることに、ハッと気づく古妖であるが。
「見てみて。俺の詠唱錬成剣、略してエレンちゃん! 可愛いっしょ〜」
じゃーんと邏傳がキャッキャ取り出すのは、エレンちゃん。
というわけで――さーて! 何色掛けていってみる? と。
エレンちゃんへと目を向ける邏傳であるが。
「今の気分は欲張りエレン〜」
今の気分は春に淡く咲く桜色、さらにもひとつ思い出の彩り追加で、真っ赤な春灯のモクテルちゃん色。
「甘い香りに酔いしれながら熱く赫く炎の剣バージョンなエレンで気分も最高潮に燃え上がるってもんよ☆」
ということで、そんな春の夜に熱く滾るエレンちゃんを。
『さ、最高潮って、何……うぎゃっ!?』
グッとしたらビュンッとしてバシュッってなって、無邪気に容赦なく遊んじゃう。
そして満身創痍ながらも、たぬきのおっちゃんも神通力を使って振り切ろうとしてくるも。
「あんま痛そなんで攻撃してきちゃやーよ」
……もしやエレンの熱いお返し期待しちょる? なんて。
そう笑んでみせれば、まだ桜の神様ぶって狸は悪足掻きをする。
『! あそこにいるのが、汝の友達では?』
自分から少しでも意識を逸らして、逃亡をはかる隙を生み出すため。
そんな声に、邏傳はぱっと顔を上げるも。
「あ、俺の友達みつかったかも!」
……え?化かされちょる? そなまさか、なんて言ってみせてから。
「その手には乗らねんだからね」
複数の属性を編んだエレンちゃんを再び、グッとしたらビュンッとしてバシュッってして。
邏傳は堪らずに、でも辛うじて逃げていく隠神刑部へと言葉を投げる。
「そんじゃ、おっちゃん遊んでくれてあんがとー!」
――ば〜い♡
そう仲間達が実は待ち構えている方向にまんまと誘導され向かう狸に、手を降りながら。
まるで何かを告げるかのように、ふいに吹く春の夜風が数多の薄紅を舞い踊らせれば。
巻き起こる桜吹雪の中、祭那・ラムネ(アフター・ザ・レイン・h06527)は仲間の誘導で此方へと逃げてくる古妖の姿を確認しながらも。
己の胸に咲く、幾つもの感情を自覚はしているのだ。
(「よくないってわかってる」)
……これは遊びじゃない、なんてことは、わかっている。
けれど、それでもやっぱり、高揚する自分もいて。
そんな心が昂る理由だって、わかっている。
(「なんせ誰より信頼する友が傍にいて。共に戦えるのだから」)
だから、遊びのつもりは勿論ないけれど。
ラムネは己の心に満ちる熱に抗わず、昂る衝動のまま動くことを迷わず選ぶ。
そして、そんな戦意が満ちる傍らの友の姿を目にすれば。
久瀬・千影(退魔士・h04810)は、ラムネがどう動こうとするかはわかっている。
「俺が盾になる」
そう、やはり買って出たのは、盾役。
それは自分の知る他の誰よりも、その身に染み付いているから――“護る”という性分が。
だから小さく溜息をついてしまう千影なのだけれど。
「好きなものは、大事なものは護りたいだろ」
そんな彼へとそう、ラムネは逆に笑ってみせる。
だって、それは当然の感情だから。
(「久瀬のことは好ましいと思っている」)
恋とかそういうのじゃなくて、一人のひととして。
そしてそんな大事で好きな存在を護りたいという思いは、ごく自然なことであるし。
「それに俺は盾役が気質に合ってるから」
何よりも、ラムネにとっての矜持。
だから己の魂の欠片たる白焔から犬面と長槍を顕現させ、輝き翔ける翼で、幸いへと虹を架けるヒーローと化す。
この身を盾として、守りたいものを護るために。
けれど降ってくるのは、己の提案に、仕方ないといったように告げる声。
「……俺を庇って怪我をするようなら盾役は解雇だ。分かったな?」
そんな千影に、了解、とラムネは笑ってみせて。
『ぐぬぬ、どこまで我の邪魔を……退け!』
やって来た古妖、隠神刑部を誘う香を戦場に天咲かせれば、敵視を取り、駆ける。
(「さきのバスケで互いの呼吸は掴んだ」)
……意識せずとも自然と噛み合う、そう強く感じるから。
そしてそんなラムネの動きを見れば、千影もその意図をすぐに察する。
自分の『天津甕星』のチャージ時間を稼ぐ腹積もりらしい、と。
だから千影も、バスケで読んだ呼吸の中で敵の動きを見切り、彼へと伝える。
「祭那、古妖が仕掛けてくる。もらうんじゃねぇぞ」
ラムネへと意識が向いている、隠神刑部の攻撃の挙動を。
(「コイツが怪我無く己の信念を全う出来る様に尽くそう」)
そしてラムネも、彼の言葉を一言一句漏らすことなく聞き取っては、至極冷静に対処して。
「──大丈夫」
『くっ! この……ッ』
千影のもとにまで、抜かせやしない。
魂の断片を雨があがるように輝く天槍アルカンシェルへと変じさせ、時間を稼ぎながら立ち塞がり、反撃の機を窺う。
先程のバスケのように……いや、さっきのバスケとは違うし、それに刹那戦場に雨が降る。
(「神通力による殺傷力の高い物体……人の居なくなった店とかその辺か?」)
あの猪武者の――背面を護ってやる、と。
ラムネへと向かうその軌道を読んだ千影が降らせる、雨は雨でも、宛ら剣の結界の如き雨が。
そして千影が口にするのは、こんな皮肉めいた言葉。
「俺は護られてばかりのお姫様じゃねぇっつーの」
そんな投げられた声に、ラムネはまた笑って。
雨の次は、練り上げた霊力を以て、星の神が放つかの如き煌めきを閃かせる千影。
「合わせろ、祭那。タイミング、遅れるなよ?」
それと同時に……遅れるなよ、なんて誰に言ってる、なんて言いながら。
ラムネの足は彼に合わせて、自然と大きく地を蹴っていて。
「任せてくれ」
……お前の友だ、信じてくれ。
そう向けた虹彩に、弾けるような星の煌めきを確かに映す。
チャージが完了した『天津甕星』を満を持して発動させて。
『くっ、見ろ! 我は偉大なる桜の神ぞ……、ッ!? ぐはぁっ!!』
絶妙のタイミングで共に、巨大化し九十九神と化した隠神刑部を斬り伏せる、その閃きを。
そしてついに、春の夜に紛れて暗躍していた古妖『隠神刑部』を仕留めたのだった。
それから全部が終われば、千影はラムネへとこう告げる。
「――古妖を解き放った奴に会いに行きたい」
最初こそ、やって来たふたりに、古妖を解き放ってしまった彼は驚いた表情を宿したが。
「説教とかそう言うんじゃねぇよ」
千影はそう告げた後、ただ、これだけを伝える。
「全て終わった。だからもう――気に病むな」
それから、抱えていた色々な思いが一気に溢れ出したのか、堰を切ったように瞳から零れ落ちるそれを見なかったように、千影は彼の元を後にして。
思い切り泣いた後、きっと彼は前を向けるだろうって、ラムネはそう確信しつつ。
千影と共に並んで歩きながらも思う……彼の行動に、言葉にもっと彼のことが好きになる、と。
そして、じゃれるように肩組めば。
「一件落着だな、久瀬」
桜花弁が舞い遊ぶ春の夜、改めて笑って告げる――お疲れさん、って。