シナリオ

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さくら、お花見、春灯祭

#√妖怪百鬼夜行 #シナリオ50♡

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 はらり、ひらり、くるくると。
 舞い踊るひとひらたちが染め上げるのは、この時期だけの特別な春の色。
 √妖怪百鬼夜行の世界にある公園は、一足先に桜が満開に咲き綻んでいる。
 だって……ほら、今年も桜を咲かせようか。ほれほれ、見事な桜だろう? って。
 花咲か妖怪たちが待ちきれずに、公園中の桜を満開に咲かせたから。
 でも、それは悪戯ではなくて。何せ今宵開かれるのは、桜の祭りなのだから。
 麗らかな春の陽を浴びてのどかに咲く、昼の桜。
 灯された光と月に照らされて美しく幻想的に浮かび上がる、夜の桜。
 今日はそのどちらも満喫できる、絶好のお花見日和。

 桜が咲き誇る公園内は、十分に広いけれど。
 その中でもより良い場所を、日中からばっちり確保しておいたり。
 青空の下、昼の桜を眺めながらのお花見も勿論楽しめるし、公園の中央にある広場には昼から屋台も並んでいる。
 そして、公園の近くにある妖怪百貨店も、今だけ満開の春色。
 日中は『桜フェア』が行われている百貨店巡りをしてから、夜に開かれる『春灯祭』に赴いてもいいだろう。
 妖怪百貨店の今の目玉は、美味しさも爛漫な花見弁当や桜スイーツが買える、春グルメの催事。それにいわゆるデパ地下でも、桜にちなんだものや妖怪世界ならではな、食べ物や飲み物などを調達したり味わえたりもできるし。成人していれば、春らしい酒類も買えるだろう。
 あとは、√コレクションも近いから、春ものの服や桜の装飾を見たりだとか。本屋や文房具屋や雑貨屋などで、桜の栞やブックマーク、文具や日用品等を見てみてもいいし。春限定の桜コスメを買ったり、桜デパコスでプロの妖怪化粧師に春メイクやネイルをして貰うのもまた気分が変わって良いかもしれない。

 それから夜になれば、はじまるのは『春灯祭』。
 日が落ちた頃、妖怪たちが、仄かな灯火を数え切れないほどたくさん燈して。
 柔く降る月光と共に満開桜を照らしては、春の夜に美しく浮かび上がらせるという。
 そんな光を纏う幻想的な桜を愛でながら、夜桜の花見を存分に楽しめるし。
 公園の広場には屋台もずらりと並ぶから、花より団子のグルメ三昧も堪能できる。
 この祭り限定の屋台や妖怪グルメが楽しめるもあるようなので、要チェック。
 勿論、手作り弁当や購入品を持ち込むこともできるし、屋台並ぶ広場で現地もできるというわけだ。

 だが、そんな桜咲く祭りに潜むのは――人を化かす存在と、化かされた存在。
 化かす存在は、上手に夜桜に紛れているようだけれど。
 決して、機が訪れるまでは気づかれないように。
 でもしっかりと、その尻尾をつかまえて、こらしめるためにも。
 桜咲く中で密かにはじまるのはそう、化かし合いのかくれんぼ。

●桜尽くしな一日
「すっかり春めいてきたな。ということで早速だが、春のお出かけなどどうだろうか」
 楪葉・伶央(Fearless・h00412)は穏やかな笑みで皆を迎え、礼を告げてから。
 星詠みの内容を語り始める。
「今回皆に赴いてもらうのは、√妖怪百鬼夜行だ。凶暴で他者の血肉を喰らう危険な「古妖」の封印は、√妖怪百鬼夜行の各地に存在するが。「情念」を抱えた人がこの封印に引き寄せられ、その願いを叶えるという約束と引き換えに、古妖を封印から解き放ってしまったようだ」
 解き放たれた古妖を自由にのさばらせておく訳には当然いかないし。
 封印を解いてしまった人も、また同じ過ちを犯してしまいかねないから。見つけられれば、何らかのフォローをしてあげられるといいかもしれないし。
 また、古妖や人々に怪しまれぬよう、春のお出かけを目一杯満喫している一般人のフリをすることも必要だろう。
 そして時が来れば、解き放たれた古妖を倒す――これが今回の依頼である。

 それから伶央は、詳細を説明する。
「古妖を解き放った人は、大学合格を約束すると古妖にそそのかされたようだ。そして結局は結果も出せずに、自責の念に駆られ、「自分の願いの為には必要だった」と自分にいい聞かせるように、祭りがおこなわれる公園や妖怪百貨店で春グルメをやけ食いしたり、桜を呆けたように眺めたりしているらしい。そして解き放たれた古妖は、巧妙に次にそそのかすターゲットを探しつつ人に紛れ、満開桜咲く祭りの会場にいるという。だが祭りは夜なので、日中は自由に過ごしてもらって構わないし。夜の桜祭りでも、敵に怪しまれないように、花見や屋台巡りを楽しんでいる客を装う役割を担う人も必要だろうし。古妖を解き放ってしまった人に声をかけたりなど、色々と行動できる時間は十分にある」
 敵が尻尾を見せるのは、夜に公園で催される『春灯祭』が終わる頃の時間。
 なので、それまでは自由に過ごせるというから。
 敵に怪しまれぬよう一般人を装うべく、公園の桜や百貨店や花見を楽しむも良し。封印を解いた人を探してみてフォローしてみるのもまた良し。
 他にもやれることをできる時間は伶央も言うように、十分なほどにある。
 そして、解き放たれた古妖が尻尾を見せれば、機を逃さずに倒して欲しいというのが、今回の依頼内容である。

 そこまで星詠みの説明した後、皆を見回して。
「古妖を退治するのが一番の目的だが、時間までは自由に過ごして貰って構わないし。桜咲く春を目一杯楽しめば、敵を欺くことにもなる。それに、妖怪世界ならではな珍しいものもあるだろうし、燈される灯りと夜桜も美しいのだろうな」
 だから、折角なのでお出かけも楽しんできてくれ、と伶央は小さく笑んだ後。
 改めて、よろしくお願いする、と丁寧に頭を下げて皆を送り出すのだった。
これまでのお話

第2章 冒険 『見ざる、言わざる、聞かざる』


 陽が落ちて、夜を迎えれば。
 今かと待ち侘びていた妖怪達の手によって、刻が来た、と一斉に灯りが燈る。
 それが桜の夜祭り『春灯祭』のはじまりの合図。
 数え切れぬ灯篭に炎が宿れば、これまでは春の陽光を浴びた花弁が纏っていた輝きが、仄かな灯火の彩りへとかわって。
 雲一つない春の空を見上げれば、和らかな月光が桜たちを照らす、一面の星月夜。
 燈る灯篭、月の光、屋台の明かり――春に灯る数多の煌めきたちは桜を様々な表情に染めて、降る花弁たちは花見客とひらりらと戯れるように舞い踊る。
 桜が満開に咲き誇っている期間は短いけれど、でも、これからはじまる春の夜はこれから。
 まだまだ長い春夜の花見の祭りを、目一杯楽しむ人で、公園の賑わいも最高潮。

 この夜祭りでやることは、至ってシンプル。満開の夜桜を各々楽しむこと。
 けれどどのように楽しむかは、千差万別、十人十色。
 お気に入りの桜の木の下にシート等を敷いての、花見の宴会も定番の楽しみ方であるし。
 ふらり広い公園の桜の風景を散歩するも良し、気軽にベンチに座って花を見上げるのもいいだろうし。
 公園の展望台からの眺めも絶景のようなので、足を運んでみてもいいし。
 賑やかな雰囲気の中で花見を楽しむのも、逆に人が少ない穴場を見つけてみるのもいいだろう。
 花より団子で屋台巡りに全力投球する過ごし方だって勿論、祭りの醍醐味。何をすればいいか迷う時は、祭りの催しに参加するのも楽しいかと。

 昼に百貨店や屋台などで買っておいたものや、手作りの花見弁当を持ち込んで味わうのも勿論のこと。
 昼間から公園の広場に出ている屋台は、夜も引き続き出ているし。『春灯祭』がはじまった夜だけ開く屋台もある。
 たとえば、夜桜スイーツの屋台。夜を思わせる夜桜チョコパフェ、黒の餡子に夜空色の寒天に桜色や白の白玉に黒蜜をかけていただく夜桜あんみつ、薄紅色パウダーが香る桜黒糖ドーナツ、桜など春のデコが施された夜桜カヌレなど、昼にはなかった夜桜スイーツが楽しめるし。
 夕食として屋台飯でおなかを満たすのもいいし、生地にイカ墨を練り込んで桜色のマヨネーズかけた夜桜イカタコ焼きを売っている夜限定屋台も。
 そして人気なのは、ぴかぴかと光る春灯ソーダ。提灯型のボトルの中にはぴかぴか光る桜色の電球が施され、しゅわり星空のようなサイダーが弾けて。ちょっぴり愉快な気持ちになるし、足元が暗い夜道のお供にも最適かもしれない。光る桜カチューシャや光る桜ねこ耳、桜色のピカピカブレスレットや謎の光る棒などの、愉快な光る玩具も祭りならでは。
 そして夜限定で、屋台バーも開店する。昼にもいただけた、春色をした「桜ビール」や日本酒の「|桜舞《さくらまい》」は勿論。夜の屋台バーでは、オリジナルカクテルがいただける。自分の好きなイメージやモチーフを伝えて作ってもらうこともできるし、好みのカクテルを指定してもいいし。この祭り限定の透明感あるすっきりした藍色の和酒に食べられる桜花弁を浮かべた和カクテル「|春灯《はるあかり》」を注文するのもいいだろう。ノンアルコールのモクテルにもできるので、未成年やアルコールが苦手でも好きなカクテルを楽しめる。
 他にも、食べ物の屋台だけでなく、夜桜を纏う動物や人物のお面を各種売っている珍しい桜面の屋台だったり。定番の桜柄ヨーヨー釣りや桜色水槽の金魚すくい、桜型抜きや射的などの遊べる屋台も勿論並んでいる。
 
 他にも、沢山の妖怪たちが訪れた花見客を楽しませようと、催しを行っているという。
 妖怪骨董夜市は、桜にちなんだ様々なものがごちゃっと雑多に並んでいて、ちょっとした宝探しのよう。綺麗な桜アクセサリーや桜和雑貨、何に使うかわからない不思議道具まで、掘り出し物が沢山。
 妖怪職人による、ストールの桜染め体験や、桜の花びらを閉じ込めたハーバリウム作り、チャームやブレスレットなど好きな種類のアクセサリーを、好きな色の組紐や摘まみ細工の桜で作れる桜アクセサリー作りなどのお花見ワークショップであったり。
 桜ラムネ一気飲み大会などの愉快なものまであるというので、参加してみるのもいいだろう。

 そして星詠みによれば、この祭りには悪戯が過ぎる怪異が潜んでいるようだが。
 祭りで盛り上がっている人々の多い公園で戦闘になるのは得策ではなく、怪異も人が減るまでは次のターゲットを見定めながら大人しく潜んでいるという。
 隠れるのが上手だという怪異に討伐に来ていると気付かれれば、逃げられてしまうかもしれないし。
 怪異の封印を解いた唆された彼もこの祭りにきているというが、祭りを楽しんで盛り上げれば、きっと気分も晴れるだろうから。
 だから――見ざる、言わざる、聞かざる。何も知らぬ顔をして、夜祭りを目一杯楽しむ客を装うのがいいだろう。
 仄かに照る夜の桜を楽しんでいれば、きっと怪異の尻尾は掴めるだろうから。 
ヴェーロ・ポータル
リリアーニャ・リアディオ

 人の賑わいから離れたその場所にも満開に咲き誇る、美しい夜桜たち。
 灯火に仄か照らされた薄紅の彩りは、はらりひらりと、春の宵を幻想的に染め上げていて。
 その光景は目を奪われるほどなのだけれど。
 でも、ヴェーロ・ポータル(紫炎・h02959)の目を何よりも惹いたのは、薄明りの下に立つ彼女の姿。
 そしてリリアーニャ・リアディオ(深淵の爪先・h00102)も、自分の元へと真っ直ぐに歩んでくる彼へと向けた鮮やかな碧の瞳を、嬉し気に綻ばせる。
 ……ああ、ちゃんと見つけてくれたのね、って。
 いや、でも、見つけてくれただけではなくて。
「……おや、今日は一段と美しい。特別な準備をしてくれたのですか?」
 向けられた言葉にぱちりと瞬けば、瞼を彩るラメもきらり。
「今夜の為に少しだけね」
 ちょっぴり特別な煌めきに気付いてくれたことにそう微笑み、リリアーニャはその手を伸ばす。
 ……さ、行きましょうか? って。
 そっと手を取ってくれた彼と、手と手を繋いで。
 そして桜色が降り積もる春の夜道を並んで歩き出しながら。
「今日は友人とお出かけをしていたそうですね」
「ええ、今つけているコスメも友達と買ったのよ。お揃いの春限定の桜コスメなの」
「よく似合っています。限定と言われれば、余計に心惹かれますね」
「そうなの、迷いながら友達と色々試してみるのも楽しかったのだけど」
 今日これまでのことをお喋りしつつ辿り着いたのは、活気と美味しそうな匂いに溢れた、屋台が並ぶ公園の広場。
 そんな賑わいの中心を歩きながら、たまにふと足を止めたりして。
「屋台のメニューも、春らしい限定のものが多くあるのですね」
「やっぱり限定のものは人気みたいね」
 目に付いたものについて話したり、他愛もない会話を交わしては、色々と見て回る。
 いや、このような人混みは、正直あまり得意じゃないというリリアーニャなのだけれど。
 彼と手を繋ぎ直したり身を寄せたりすれば、心もほっと安心するし。
 何より、こうやって一緒に、春の賑わいを巡る時間は楽しいって思う。
 ヴェーロも彼女と一緒に屋台を見て回りながらも咲くのは、ほっこりとした気持ち。
 ……ちょっとしたお喋りを楽しむ時間が心地よい、って。
 そして少し歩いた後は、また静かな場所でひと休みすることにして。
 一緒に夜桜を眺めながら堪能するのは……少しだけだから、と。
 リリアーニャが強請ったお酒。勿論、屋台で買った春限定。
 そんな春の味わいを手に、花見酒とふたり洒落込むのだけれど。
 でもやっぱりすぐに頬を染めてふわふわと。
「……月も桜も綺麗」
 リリアーニャが桜空を仰げば、ふと隣から届く声。
「桜より綺麗、なんて、月並みかな」
 そして瞳を彼へと移し向ければ、ぱちりと合う視線。
 だって、桜を見上げる彼女の横顔が光に浮かんで……ヴェーロは目を奪われてしまっていたから。
 それからふわりと、桜色に染まった笑みをそっと開き咲かせながら。
「……ね、これからどの季節の花を見ても、同じように言ってくれる?」
 リリアーニャは花弁が舞う中、再びそんなお強請りを。
 ……そうだといいなと、願いを込めて。
 でもそれは、きっとまた近いうちに叶うはず。
 だってヴェーロも、胸に咲き灯る思いをこう告げるだから。
 ……この先も、廻る季節の中で貴女と同じ景色を分かち合いたい、って。

桜良・ひな
屍累・廻

 夜が訪れれば、見事に満開を迎えた桜は幻想的な彩りを纏う。燈された灯火の輝きを纏って。
 そしてそんな春の夜、ふたり並んで歩くのは、沢山の屋台が並んだ祭りの風景。
 活気溢れる声と漂う美味しそうな香りに思わず、ふらり誘われそうになりながらも。
「桜色モクテルと、食べ物何か二人分用意したいところですね」
 屍累・廻(全てを見通す眼・h06317)は並ぶ屋台へとくるり視線を巡らせて。
「桜色モクテルなんてお洒落ですね、大人になった気分」
 桜良・ひな(春の呪詛・h06323)も、桜とお揃いの色をした髪をふんわりふわり。
 まるで今の気持ちと同じように、春の夜に躍らせて。
 大人になったみたいで、ドキドキしちゃうけれど。
 でもやっぱりそわそわ目がいってしまうのは、夜桜のお祭りならではのグルメ。
 そして美味しそうな匂いに誘われるまま、食べ物の屋台をひなが軽く見ている間に。
 おや、これは……なんて。
「こんなアイテムまであるんですね」
 廻の気をふとひいたのは、食べ物とはまた違った屋台。
 それからひとつ買ってみてから、戻ってきた彼女へと向けた金の瞳を細めて。
「ひなさん、何か食べたいもの見つかりましたか?」
「えっと……夜桜イカタコ焼きと、あっ、黒糖ドーナツも美味しそう!」
 そうくるりと新緑のような瞳で目移りしている彼女の頭に、すちゃり。
「あぁ、それと……光る桜ねこ耳を頭につけてあげますね。ふふ、似合っていますよ」
 ぴかぴかにゃーんと、不意打ちのアイテム――そう、光る桜ねこ耳を。
 そして、急につけられた桜色猫耳に、ぱちりと瞬いた後。
「わぁ、可愛い! ありがとうございます、廻先輩っ」
 ぱあっと笑みを綻ばせたひなは、嬉しそうにはにかむ。
 そんな様子に再びそっと目を細めた後。
「あの辺なら、ゆっくり二人で座れそうですよ」
 桜花弁のじゅうたんが敷かれた、空いてるスペースへ。
 人混みではぐれないようにと、彼女の手を取って。
 そんな感じる手のぬくもりに、ひなは顔が赤くなってしまう。
 そして繋がれた手をきゅっと握り返すのは、ほんのり恨めしく思うから。
 ふわり密かに綻ぶ嬉しさと、胸に咲いた恋心を刺激してくる先輩を。
 それからふたり腰掛ければ――夜桜の下ではじまるのは、ちょっとした交換会。
 昼間、妖怪百貨店で別行動をしている時に、互いに買っておいたもの。
「これは、桜とイニシャルの入ったネックレスですか」
 ひなが廻へと贈るのは、桜のトップにイニシャルが入っているネックレス。
 そんな彼女が選んでくれた桜を眺めれば。
「結構シンプルで、けれど可愛すぎないので付けやすそうですね」
「えへへ、喜んでもらえてよかったです」
「ありがとうございます。早速、付けさせてもらいますね」
 そっと首元にも桜花を咲かせて。
 ひなの胸が高鳴るのは、桜の交換こも勿論なのだけれど。
「廻先輩は……桜モチーフのヘアゴムとネックレス? 可愛い……! 大切にします!」
 お互いに、ネックレスを選んだ偶然に。
 それから、傍らの彼女にも咲いた桜を見た後、廻はふいに天を仰いで。
「こうして誰かと夜桜を楽しむ日が来るなんて思いませんでした」
「そうなんですか? じゃあ、初めてを私とですね」
「今日はゆっくり楽しみましょう」
 そう告げる彼はやっぱり、恋心を刺激してくる罪な先輩。
 それに勿論、仄かに燈る淡い気持ちだけじゃなくて。
「はいっ、買ったものも食べましょ?」」
「妖怪百貨店で、ひなさんに桜色メロンパンも買っておいたんです」
「わ、可愛くて美味しそう!」
 ひながわくわく眺めるのは、美味しさ爛漫の桜。
 そっと向けられた彼の声に頷きつつ――大好きな桜を大好きな人と見られる幸せを、噛み締めながら。

ネム・レム

 ふわふわな毛並みにも、舞い降ってきた花弁がひらり、ひらひら。
 そんな桜色に飾られた、白いワンちゃんみたいなハニーを連れて。
「のんびり夜の花見もええもんやねぇ」
 ネム・レム(半人半妖の駄菓子屋店主・h02004)はそう、夜空に浮かび上がる幻想的な桜を見上げた後。
 ふと屋台に目を向ければ、わくわく擽られる好奇心。
「なんやおもろそうなんもあんなぁ」
 美味しそうな食べ物も、桜や春を思わせるような限定のものも多いのだけれど。
 ネムがふと見つけて手を伸ばしたのは、桜は桜でも。
「あっ、これとかハニーに似合いそうやん」
 そう――ぴかぴか光る、桜カチューシャ!
 そしてすちゃりと、ふわふわな頭にそれを飾ってあげれば。
 満足げに、こくり。
「かいらしい桜の妖精さんみたいやねぇ」
 それから、光る桜がはしゃぐようにみょんみょん揺れる様を見れば、笑み咲かせる。
 ……ハニーがご機嫌さんでネムちゃんもうれしいわぁ、って。
 でも、ネムはふと、こうも思うのだった。
(「やけどハニーにだけやと他の子が拗ねてまうやろか……」)
 だから――なんか他に……と。
 桜をぴこぴこ揺らすご機嫌なハニーを連れて、他の屋台を見て回れば。
「この洒落とる首輪……すたいいうの? これにしよか」
 でも、沢山の色や柄があって目移りしちゃうから。
「せっかくやから桜のを……ハニーはどれがええ思う?」
 品物が見えるよう小さな体をわふっと抱えれば――ぽふ、ぽふり、ぽふん。
 小さな前足が選ぶのは、ひらひらとまるで花弁みたいなデザインの、桜のワンポイントが咲いた春色スタイ。
 それを……色違いのお揃いでどう? なんて言わんばかりに見つめてくるハニーに。
「どれもかいらしなぁ……さすがやでハニー」
 ネムはそう言いつつ、迷わずみんなの分お買い上げ!
 それから、猫さんや狐さんや蛇さん、どの子にどの色がいいかなんて考えながらも、戦利品にほくほく。
「みんなでお洒落しとる姿見るのん楽しみやわぁ」
 やっぱりぴかぴかご機嫌に揺れる、光る桜に瞳を細めながら……ハニーのと他の子のと、お土産たくさんや、って。

白・琥珀

 ひらりくるくる、灯火を纏っては輝く夜の桜花弁も気侭だけれど。
 舞い降る春の彩りの中を歩む白・琥珀(一に焦がれ一を求めず・h00174)も、見つめる彩りや姿はその時の気分。
 今日の彼は、接客される側だから、青年の姿をとっているものの。そもそも琥珀にとって、性別は飾り程度のものだ。
 とはいえ、その見た目は若々しいのだが……でも、やはり。
「夜桜と言えば酒盛りだと言える」
 ――だからもちろん目指すのは屋台バー、と。
 そういそいそ嬉々と向かう姿は、のんべぇな爺を思わせる……気がする。
 何せ琥珀は、実際はかなりの年月を過ごしているのだから。
 そして花見酒と洒落込むのならばと、まず向かうのは。
「ただしその前にいくつかつまみになりそうな食い物を見繕ってからだな」
 酒にぴったりな肴は必須ですから。
 屋台をぐるりと回ってみて、つまみになりそうなものをいくつか調達すれば。
 屋台バーへと満を持して向かって、やはりまずは――とりあえずビールから。
 ビールはビールでも、桜の彩りと香を纏う桜ビールで開幕した、気侭な春の酒宴なわけなのだけれども。
「次はどうするかな……」
 琥珀は狭い屋台に犇めくように並べられた酒たちをくるりと眺めてみつつ。
(「結構他の香りのするビールは好きだから続けて頼んでもいいんだが」)
 でもやはり、いろいろ呑めるときに吞みたいのがのんべぇ根性。
 だからビール以外のものにしてみることにして、ふと次に見つめるのは「桜舞」という名を冠する酒。
 だが、そんな日本酒もいいのだけれど……今の琥珀の気を、もっとひいたのは。
(「オリジナルカクテルもいいな。俺は人に聞く自分の印象ってのは結構好きでな」)
 ……自分が思ってるのとの違いに結構新鮮味を感じたりする、と。
 そう思えば、こくりとひとつ頷いてから。
「うんそうだな、カクテルを頼もう」
「どんなカクテルにしましょうか?」
「自分は本体がロイヤルアンバーの勾玉の付喪神だ。今の見た目からでもいいし、本体イメージからでもいい。好きに作ってくれ」
 どのようなカクテルが出てくるか、わくわくとつまみを口に運びながら待てば。
 黄色から緑そして青へと、色が移ろうグラデーションが綺麗な、柚子リキュールにオレンジジュース、ブルーキュラソーをメインに使ったカクテル。
 それに添えられているのは、くるりと開いた、小さくてかわいい和傘のピック。
 そして、口にしてみれば――ふわりと感じる桜の香。
 そう、先程見ていた日本酒「桜舞」が隠し味の、和カクテル。

ツァガンハル・フフムス

 春の彩りの中を歩くその姿は、うきうきと楽し気なのだけれど。
 ツァガンハル・フフムス(忘れじのトゥルルトゥ・h01140)は勿論、また綺麗に忘れてしまっていて。
 でも、それももう慣れっこだし、それに何よりも。
「おお、賑やかな「まつり」だなぁ」
 まつり――そう道行く人が言っているのを聞きながら歩けば。
 仄かに覚えのある雰囲気に、心も弾むから。
 そしてふと、とある屋台に目が留まって。
「あの輪っかみたいなの、思い出せないけどなんかすごく食べたいぞ……!」
 他にも美味しそうなものは沢山あるのだけれど、ツァガンハルの心を離さないのは、屋台に並ぶ輪っかみたいなもの。
 そして、ふらふら引き寄せられる途中――ぽすん、と。
 小さな衝撃を感じた足元に、目を向けてみれば……桜色のぴかぴか猫さん?
 いや、よく見れば、光る桜ねこ耳をぴこりとつけたちっこいやつ。
 それからぱちりと目があえば、きょとりとして首を傾けてしまう。
 その光る桜ねこ耳のちびっこが、わぁんっと泣き出したのだから。
 でも、何で泣かれたのか、わからなくて。自分が泣きたくなるようなことを考えてみれば。
「どーした、「はらへり」か?」
 そう同じ目線に屈んで訊いてみるツァガンハルだけれど。
「違う? ああ、「まいご」なのか……って。なんだ、オレはでっかいけど怖くないぞ! ……たぶん!」
 ふるふる首を振っては、まいご、とだけ精一杯発した子は、大きな自分にちょっぴりびびっているようだと。
 理由が色々となんとなくわかれば、しゃがんだまま笑いかけて。
「じゃあさ、一緒にアレ食べながら探そうぜ」
 指差すのは勿論、めちゃめちゃ気になっている輪っかのやつ。
 そんな指先を目でそろりと追った子は、ドーナツ、と口にしつつ泣き止んだから。
 すかさず輪っかを手帳に描いて、ドーナツ、とその名前もちゃんと書き記してから。
「うおお、すっげえうまいな「ドーナツ」!」
 桜のドーナツを並んではむはむ一緒に食べれば、すっかりちっこいのとも仲良しに。
 だから、輪っかの名前を教えてくれたお礼に肩車!
 キャッキャ喜ぶちびっこの姿を見れば、嬉しくなるし。
「誰か近寄ってくる……あんたさんの親か!」
 ……うはは、でっかくて良かった、って。
 大きいから目立ったことで、無事に親も見つかりました!
 そして手を振って見送った後、ツァガンハルは上機嫌で手帳を開いて。
 すっげえうまい輪っかことドーナツの絵の横に、ばっちり記しておく――『まいごをたすけた』! って。

桐生・綾音
桐生・彩綾
藤原・菫
海棠・昴

 桜花弁が舞い降る公園を、足早に歩きながら。
「ふう、なんとか仕事終わらせてきた」
 そう言葉を零すのは、仕事を片付けてやって来た藤原・菫(気高き紫の花・h05002)。
 その足が逸るように速度をあげるのは、先に来ている3人を待たせてしまっているから。
 だって菫が抱えているのは、皆の分作ったお弁当なのだから。
 ということで、急ぎ、お花見の会場へと足を踏み入れた菫の姿を見つけて。
 一瞬ぱちりと瞳を瞬かせ、桐生・綾音(真紅の疾風・h01388)と桐生・彩綾(青碧の薫風・h01453)が思わず紡ぐのは、同じ言葉。
「あ、菫さん来た……凄い荷物じゃない?」
「菫さん来たね。凄い荷物だね」
 確かに皆の分のお弁当の量は、それなりに多いだろうが。
 それにしても、菫の荷物が凄い量だと思うのは、きっとふたりの気のせいではない。
 けれどそれはそれとして、綾音と彩綾も迎えにいきがてら、賑やかな屋台でスイーツや飲み物は調達済。
「よし、ドーナッツとカヌレとサイダー買った!!」
「桜の下にシートをしいて昴さん準備してくれてるから行こう。荷物持つよ」
 そうまずは出迎えに出てきた綾音と彩綾の言葉や姿をみれば、菫は瞳を柔く細める。
 ふたりが持っている美味しそうなお菓子をみれば、楽しんでるようでよかった、という気持ちになるから。
 そして向かうのは、先程から話に出ている彼が待つ、桜の木の下。
「昴がきっちり場所を確保してくれてるというのでいこうか」
 そう菫も、綾音と彩綾と一緒に、春の夜道を歩んでいる頃。
(「まあ、楽しんでれば目的の怪異は尻尾を掴めるというので星詠みの言うとおり夜を存分に楽しく過ごそうか」)
 海棠・昴(紫の明星・h06510)はそう思いながらも、視線を巡らせて。
「姉さんは綾音と彩綾が迎えにいったのでベストなところに場所を確保しないとな」
 燈された提灯の光を纏う満開の夜桜が綺麗に見える場所を見つけて。
 その桜の木の下にシートを敷いて準備をしつつ、3人を待てば。
 やって来る菫を遠くに見つけた昴は、やはりまず思ったことは、綾音や彩綾と同じ。
「姉さん、随分な荷物になったな」
 でもそれは、昴にはある程度分かっていることでもあったから。
 だって、無事に皆で合流して、シートの上に早速並べられていくお弁当を見れば。
「お弁当は各種海苔巻きと卵焼き、鶏唐揚げ、豚肉のロール巻き、各種サンドイッチ、エビフライ?」
「海苔巻きも種類あるし、たまご焼き、鶏唐揚げ、豚肉のロール巻き、エビフライ?」
 彩綾と綾音はびっくりしちゃって。
「流石菫さんと昴さんが組むと最強だ」
「凄い……これ、昴さんのお手伝いないとダメだね」
「まあ、海苔巻きと卵焼きと鳥の唐揚げだけでもいいのに姉さんが更に作りたいというから」
「ああ、折角の4人の花見なので昴と張り切った。まあ、巻き寿司とサンドイッチはさすがに分担したね」
 昴もさすがに手伝ったのだという、菫お手製弁当はまさに美味絢爛。
「サンドイッチは昴の方が作り慣れてる。よく会社の作業の時に差し入れてもらってるしね」
「まあ、サンドイッチは俺は作りなれてるな」
 菫もお墨付きのサンドイッチを綾音は手にして、はむり。
 もぐもぐと味わえば――今宵の桜のように、灯篭の光を仄か纏う笑みを宿す。
「うん、おいしいよ。そしてとっても幸せだよ」
 それに彩綾も続いて、花見弁当を美味しくいただけば。
「昴さんに料理習ってるけどいつかはこういう豪華なお弁当作れるようになるかなあ」
「え? 彩綾も昴さんに料理習ってるの? 私も菫さんに習うかな」
 今度は料理を習って、自分達の手料理をいつか振舞う番がくればいいなって思う。
 眼前の豪華な菫のお弁当へと箸を伸ばしながら、その美味しさに舌鼓を打ちつつ。
 そして沢山の品々を並べた花見弁当を完食すれば、ご馳走様……のその前に。
(「桜灯ソーダを飲みながらドーナッツとカヌレを食べる!!」)
 勿論、食後のデザートと飲み物は欠かせませんから!
 ドーナッツとカヌレを食べながら、4人で飲むのは春灯ソーダ。
 それから彩綾と綾音は、昴と菫を見つつも、改めてこう口にする。
「菫さんと昴さんが並んでいるのをみてると本当そっくりだなあと思う」
「私と彩綾も良く似てると言われるけど、菫さんと昴さんも良く似てるよね。こうして並んでるのをみてると」
 だがそんな言葉にも、どこか慣れたように。
「まあ、小さい頃から言われてるな」
「まあ9歳も離れてるが、並んでると姉弟にしか見えないと良く言われる」
「従姉弟だからだろうけど、知的で世話好きなところとか。笑顔も似てるよね」
 そっくりだと言う姉妹の言葉に菫が微笑めば、昴も頷きながらもこう続けるのだった。
「従姉弟のはずだが実の姉弟のように似てると。とても嬉しくて光栄に思ってるぜ」
 ……姉さんも悪い気はしないだろう、なんて。

花喰・小鳥
天國・巽

 ゆうらり手元で揺れる夜色に、ふわりと浮かぶ桜花弁。
 それはまるで、今ふたり並んで眺めている桜の夜空の様で。
 夜桜を望む屋台バーで、花喰・小鳥(夢渡りのフリージア・h01076)と揃いで注文した和カクテル・春灯を手に。
「ほい乾杯。今日はお誘いありがとよ」
 天國・巽(同族殺し・h02437)は、彼女とグラスを重ね合う。
 そして乾杯を済ませ、カクテルを口に含めば、仄か桜の香がして。
 片手は恋人繋ぎのまま、暫くはとくに会話もせずに、春の夜のひとときをただ共に過ごす。
 それから、眼前の夜を思わせる春灯を花弁ごと飲み干せば、次は桜舞。
 春の如き柔らかさを纏った味わいの日本酒をくいっとやりながらも、巽はすぐ隣にいる小鳥へとそっと目を向ける。
 夜桜を照らす燈籠の明かりが、満開に咲く桜だけでなく、彼女の白い面も照らし出して。
 不思議な女だと、思う。
 そしたら刹那、ふいに向けられた赤と視線が重なったから。
「ん? ああ、いや。なんでもねェよ」
 桜舞を再び口に運びながらも、敢えてこう思ったなんてことは言わないでおく。
 ……なんでこんなに、俺のことなんざ気に入ってくれてんのかね、なんて。
 そして桜舞も飲み終われば、次は――といきたいところだけれど。
 でも、これでおしまい。だって、飲み過ぎると眠くなるから。
「そうさねェ、二杯くれェで止めとくか」
「酔い潰れても巽さんがいるから安心なんですけど」
 その美貌にふわりと綺麗に咲いた無防備な小鳥の笑みは、信頼と好意の証。
 じわり互いの体温がまざりあう、手のひらと肩のぬくもりが心地よくて。
 そんな熱にこそ、浮かされて酔い痴れてしまいそうなくらいだけれど。
「一応このあと、悪さする妖怪の尻を叩いてやらねェとならねェからな」
 此処を訪れた任務を忘れない今くらいのほろ酔いが、きっと丁度良い。
 そして小鳥は、懐から出したそれを巽にも一本お裾分け。ふと、煙草が吸いたくなって。
 それから小鳥は、自分の煙草には燐火で火を着けてから。
 差し出した一本を咥えた巽にも火を分けてあげる――顔を寄せて、シガレットキスで。
 そんな人間災厄の胸に燃える炎を、巽はほんの少し貰って。
「ありがとよ」
 花を照らす月の如き目を細めて静かに微笑む。
 そんな耳を擽るように紡がれた声に、小鳥は笑み返して。
「怪異の悪戯よりは赦されるでしょう?」
 春の夜に燻る二人の紫煙が混じり合っては、桜咲く喧騒に溶けていく。
 それから、こんな花見酒にずっと興じているのも、いいかもしれないけれど。
「一服つけたら夜桜あんみつでも食いにいかねェ? もちっと腹に入れておきてェわ」
 巽が持ち掛けるのは、そんな提案。
 それからあと――お目当ては、もうひとつ。
「それと桜カチューシャもな、買ってやるからつけててくれよ」
 小鳥も、彼の夜桜あんみつの提案には、頷いて返すものの。
「でも、カチューシャなんてどうしたんです?」
 そうこてりと首を傾げるのだけれど。
「あン? 決まってるだろ」
 ……お前がつけた姿を見てェからだよ、って。
 言い切る彼の言葉に浮かべたのは、そう、春の夜に花咲くような笑み。

空廼・皓
白椛・氷菜

 昼に巡った百貨店にも、色々な楽しい桜が満開だったけれど。
「桜、すごい……!」
「夜の桜も綺麗ね……」
 公園内に足を踏み入れれば、まさに息を飲むほどの夜桜が咲き誇っていて。
 空廼・皓(春の歌・h04840)は尻尾をふりふり、白椛・氷菜(雪涙・h04711)へと視線を移せば。
「氷菜、どこにする?」
「公園で少し静かな所が良いかな、穴場探しね。展望台は食べ終わったら行ってみたい……」
 賑やかな百貨店も楽しめたのだけれど、でもやっぱり、静かなところが好きだから。
 桜花弁が降る春の夜を巡って、いざ穴場探し――。
「あ、その前に、何か屋台見る?」
「うん、まず飲み物買おう」
 ……の前に、夜桜を楽しむ準備を。
 まずは飲み物が売っている屋台を見てみることにするのだけれど。
「屋台も沢山……」
「飲み物も……たくさん、あるね? 何にしよ……夜限定のもある、みたい?」
 並ぶ屋台も沢山で、飲み物の種類もいっぱい。
 だから皓はきょろりと、困った様子をみせるも。
「氷菜、は?」
「私は……昼からの屋台で桜ストロベリーラテで」
「なる、ほど……それも美味しそう」
 氷菜の言葉を参考に、夜とか限定とかとりあえず関係なく、気になったものを選んでみる。
「俺も夜限定じゃない、けど。桜空苺サイダーにする」
 そして選んだ桜空のいろをした苺サイダーを受け取れば、お耳がぴこり。
「……しゅわしゅわ」
 そんなじいとしゅわしゅわを見つめる様子と、ふりふりと揺れる尻尾を見れば、氷菜は瞳を細める。
「晧、しゅわしゅわが気に入ったのね」
 甘やかな春色をした桜ストロベリーラテを受け取りながら。
 それから飲み物も無事調達し終われば、桜色の絨毯が染める春の夜の道を歩いて。
「ここ、落ち着いて桜も弁当も楽しめそう」
 静かにお花見を楽しめそうな穴場を見つければ、シートを敷いて。
 氷菜もシートには御礼を言ってから、皓と共に座って。
「乾杯、してみる?」
 桜色のサイダーを掲げる皓に合わせて、ラテも掲げて――乾杯。
 それからひとくち、それぞれ飲んでみれば。
「ん、ほっとする味」
「……しゅわしゅわ」
 そんな乾杯が終われば、おなかもすいているから。
 昼に百貨店で買ったごはんを、わくわく御開帳。
「わ、綺麗……」
「わっすごい……妖怪花見弁当やっぱり豪華、だ」
 氷菜の春彩ちらし寿司は彩り華やかでまさに美味爛漫。
 皓の妖怪花見弁当も、楽しいと美味しいがぎゅっと詰まっていて。
「氷菜のも綺麗」
 そう相手の花見弁当にも目を向けた後、ミートボールをぱくと頬張れば……うん美味しい、って。
 やっぱり尻尾がゆらゆら。
「酢飯も良い具合で美味しい」
 氷菜の春彩ちらし寿司も見た目だけではなく、酢飯も絶妙な塩梅でとても美味。
 でもひとりで楽しむより、ふたりで楽しむほうがきっと、嬉しくて美味しいから。
「晧、お弁当の蓋貸して、お裾分けするから」
「氷菜もどれか食べる?」
「じゃあ…蒟蒻の煮付け、一つ貰っても良い?」
 交換こしたものを、一緒にぱくりと口にすれば。
「交換した寿司も美味しい、よ」
「……蒟蒻もしみしみ」
 あまり感情を大きく表に出すふたりではないのだけれど。
 春の美味を味わいながら、ほわほわと綻んで。
 花見弁当を堪能した後は、デザートトがてらに桜メロンパンをぱく。
「甘くて美味しい……氷菜も食べて」
 勿論、氷菜にもお裾分けして。
 皓からひとくち貰って、食べてみれば。
「うん、甘さが程良くてラテとも合うわ」
 口に広がるのはやっぱり、優しくて甘い春のような味。
 それからおなかも満たされて、ふと氷菜は樹を見上げて。
 そっと伸ばした手の中に招き入れる。
「あっ花びら」
 ひらり降って来たひとひらを掌で受けて。
 それを見た皓の尻尾は、ゆらゆらご機嫌。
「雪女に桜、あり、だ」
「ん? ……春と場違いな気がしてたけど、良いのかな」
 でも……晧も居るしね、って。
 嬉しそうな姿を見れば、良いかなって思う。
 ふりふり尻尾を振る彼に降る桜花弁たちは、春に舞う雪の様にも見えるから。

花七五三・椿斬

 花とは縁は深いのだけれど、冬菫と常磐のいろにも、はらりひらり。
「わぁ、綺麗な夜桜だね」
 灯火に耀う桜花弁たちを舞い降らせながら。
 花七五三・椿斬(椿寿・h06995)は天を仰ぎ、言の葉を咲かせる。
 これが……春の夜……、と。
 そして、赤椿咲かせた雪玉のようなもふもふな相棒を指先にとまらせれば、桜に染った夜をひらりと舞う。
「僕の住処はいつも冬だから……新鮮だな」
 桜花弁たちと戯れるように、六花を連れて。
 そんな椿斬にとっては、見るものも彩りも咲く花も、普段知っているものとはちょっぴり違って。
「何を食べよう。この夜桜カヌレは初めて見た、このたこ焼きも」
 わくわくな気持ちを咲かせながら、屋台を巡っていく……気になるものは全部楽しみたいね! って。
 それから、買ってみたものをそっと食べてみれば。
「六花、これも美味しいよ?」
 ぱっと花笑んで、六花にも、お裾分けの半分こ。
 しゅわり弾ける桜ソーダも飲みながら、勿論もっとたくさん、色々なことを目一杯楽しむつもり。
 花も美味もお祭りの空気も、どれも全部。
 そしてふと目に留まったのは、食べ物系ではなさそうな出店。
 何の店だろうと、六花と一緒に覗いてみれば。
「これは……桜のつまみ細工が作れるの?」
 花のつまみ細工が作れるのだというから。
「丁度いいね。羽団扇の飾りが欲しかったんだ」
 当然、挑戦してみることに。ちゅんとやる気を見せる六花と一緒に。
 そして頑張って楽しく作業を進めて、出来上がり。
 ころんと掌の上にふたつ咲かせるのは、可愛いつまみ細工の桜たち。
 そんな賑やかな屋台が並ぶ公園の広場も、楽しくて心躍るのだけれど。
 でも椿斬が足を向けたのは、人の少ない小高い場所。
 そして静かに夜桜を眺めながら、胸に花開く想いをそっと零れ咲かせる。
「……いつか、兄様とも来られたらいいのにな」
 でも、わかってもいるのだ。
 それはきっと……春の夜の夢のような、儚い願いだということは。
 けれどそれでも、椿斬は春の宵に想い願う。桜舞う夜風にゆらり、つまみ細工の桜を揺らしながら。