②博多うまかもん大集合~定番も甘味も!ご当地グルメ巡り
熱々の名物料理から甘いものまで、食の楽しみが尽きない街、福岡・博多。
濃厚な豚骨ラーメンやごぼ天うどん、ぐるぐる鶏皮や豚バラなどの焼き鳥、明太子料理の専門屋台に、ぱりぱり熱々の餃子屋台、定番のおでん屋台も。
さらには、真っ赤な苺を贅沢に使った甘味屋台や、色とりどりの果実カクテル、洋風の軽食やご当地甘味を楽しめる、ちょっと珍しい屋台まで。
ずらりと並ぶ屋台に明かりが灯れば、心躍るご当地のおいしさが、博多の夜を華やかに彩る。
博多といえばの豚骨ラーメンや、鉄板で香ばしく仕上げる屋台名物の焼きラーメン。
豚バラ串やぐるぐる鶏皮を、炭火で焼き上げる焼き鳥。
炙り明太子や明太出汁巻きを肴に、酒を味わえる明太子料理。
ひと口サイズから鉄鍋仕立て、棒餃子に明太子餃子、様々な形を楽しめる餃子。
出汁を沢山含んだ具材がぐつぐつ、福岡ではお馴染みの餃子巻きも味わえるおでん。
真っ赤で大粒な甘い県産苺を、飴や大福、パフェに仕立てた苺尽くしの屋台。
艶やか果実のカクテルドリンク、焼きたてキッシュ等が並ぶ洋風カフェバー屋台。
他にも、やわらかなうどんとかしわめしやもつ鍋など、福岡らしい味が揃っている。
まずは定番の博多ラーメン屋台。
王道の豚骨ラーメンは、熱々の白いスープに、カタやバリカタなど好みの硬さで茹でた極細麺。ねぎや胡麻、辛子高菜を添え、替え玉まで楽しみたい。
じゅうっと鉄板で軽快な音を立てているのは、福岡屋台の名物たる焼きラーメン。
けれど、これは汁に浸して味わうラーメンではない。鉄板の熱で豚骨スープを煮詰め、特製ソースとともに麺や野菜に濃厚な旨味を絡ませて。かりりと香ばしかったり、もっちりとした麺の食感が楽しめる。
他にも、明太焼きラーメン、高菜ラーメン、煮玉子ラーメン、焼豚盛りなども選ぶことができるし。
ラーメンだけでなく、福岡はうどんも名物だ。
澄んだ出汁にやわい麺の福岡うどんには、ごぼ天や丸天、甘辛の肉を乗せてもいい。
鶏肉とごぼうや人参の旨味を炊き込んだかしわめしを添えるのも定番だ。
もつにたっぷりのにら、締めのちゃんぽんが名物のもつ鍋を味わえる屋台もある。
そして香ばしい煙が立ちのぼる、焼き鳥屋台。
福岡の焼き鳥屋で外せない豚バラ串は、脂の層がじゅわりと美味な厚切り肉。
まずは豚バラの注文からはじめるのが地元風。
幾重にもぐるぐると巻いた鶏皮も博多名物のひとつ。
時間をかけて脂を落とし、表面はかりっかり、噛めば内側には弾力が残っていて、甘辛いたれの香ばしさが溜まらない。
お代わり自由の酢だれキャベツがさっぱり味変になり、何本でもいけてしまう。
他にも、砂ずり、つくね、ぼんじり、ねぎま、野菜巻きなどの定番串も絶品だ。
そして福岡ならではな、明太子専門屋台も。
明太子を贅沢に一本、表面だけ炙れば。薄い皮に香ばしい焼き目がつき、中の粒はしっとりとしたまま。箸でほぐして口へ運ぶと、ぷちぷちな食感とともに、辛味と濃厚な旨味が広がっていく。
炊きたての白いご飯にも、地元の酒にも、とてもよく合う美味しさ。
他にも、明太子を包んだ出汁巻き玉子、明太フランス、明太おにぎり、明太茶漬け、明太れんこん、明太ポテト……まさに屋台の中は、明太子尽くし。
そして、餃子尽くしの屋台。
丸い鉄鍋を隙間なく埋める餃子は、熱々のぱりっぱり。
福岡らしい小ぶりな博多餃子は、いわゆるひと口餃子。
外はパリッ、中は肉汁あふれてジューシー、柚子こしょうとタレで是非。
博多ならではの鍋スタイルの炊き餃子に挑戦してみてもいいし。
定番の焼き餃子、細長く包んだ棒餃子、明太子入り餃子、水餃子、揚げ餃子なども楽しめる。
ぐつぐつ出汁の香りが漂う、おでん屋台も外せない。
大根、玉子、厚揚げ、こんにゃく、牛すじ、巾着などの出汁がしみしみな定番の具材は勿論。
福岡で親しまれている餃子巻きは、魚のすり身で餃子を包んだ練り物。
ふっくらすり身を口に運べば、中から肉と野菜の餡が。
名前から想像する以上に食べ応えのある、試して欲しい一品だ。
また、定番のごはん屋台だけでなく、スイーツや飲み物などが楽しめる屋台もある。
赤い苺がずらりと並ぶ苺屋台は、大粒の甘酸っぱさを目一杯楽しめる。
薄い飴をまとわせた県産苺のいちご串は、夜店の灯でキラキラ。
纏わせた飴をぱりぱり噛み砕けば、同時に柔らかな果肉が弾け、瑞々しい甘酸っぱさが口に広がる。
苺とクリームを重ねたパフェには、果肉たっぷり苺ソースに濃厚ミルクアイス、ふわりと甘い生クリーム。
大粒がごろり入った苺大福、大きな苺を潰して味わう苺ミルク、ごろごろ苺クレープ、苺かき氷、苺ソーダなどもメニューに並んでいる。
小さなランプと色鮮やかな果物に彩られている屋台は、カクテルやドリンクの洋風カフェバー屋台。
赤く熟れた県産苺を潰し、氷と酒とともにシェイカーへ。
グラスへ注がれたカクテルには、甘い果汁と細かな果肉がたっぷり。
20歳未満でもノンアルコールカクテルにもしてくれて、苺の濃い甘味と爽やかな酸味が、華やかな余韻となって喉を通り抜けていく。
お好みの各種フルーツカクテルも注文でき、同様に20歳未満や酒を飲まない人にはソーダにもしてくれるから。搾りたての果汁がしゅわり、博多の夜の灯りを受けて輝く。
ドリンクと一緒に味わえるキッシュは、幾重にも重なった生地が、さくりと軽やか。
卵と生クリームを合わせた柔らかなフィリングに、炒めた玉ねぎの甘味、ベーコンや茸の旨味、焼けたチーズの香ばしさが重なり合って。生ハムやチーズ、バゲットサンド、ご当地野菜のマリネなど、ドリンクに合う肴も用意されていて。フランス料理などのお洒落で本格的なメニューもあるようだ。
20歳以上なら、屋台ごとに用意された酒も、もちろん自由に味わっていい。
焼き鳥には冷えたビールや焼酎を、おでんには日本酒、明太子を肴に福岡の酒をゆっくり楽しむのもいいし、にわか面の地ビールを試してみるのもいいかもしれない。
果実のカクテルやワインを片手に、ちょっぴり洒落た夜を過ごすのも自由だ。
酒を飲まない人や20歳未満の皆も、名産の苺や葡萄のノンアルコールドリンクやソーダ、県産緑茶サイダーなどのご当地ドリンクも多彩だ。
一軒に腰を落ち着け、料理と酒をじっくり味わうもよし。
気になる暖簾を次々にくぐり、少しずつ福岡の味をはしごするもよし。
妖魔の子も何気に紛れているけれど、楽しんでいればそれで悪戯も防げて問題なし。
さて――今夜は、どの名物から味わおうか。
●博多うまかもん大集合!
楪葉・望々(ノット・アローン・h03556)は集まった皆に、星詠みの内容を告げる。
「福岡の中洲の屋台街に、『ガルガンチュア商会』が出現するのが視えたよ」
現れるのは、『妖魔シュエバオ・マオマオ』。
「野良の個体は好奇心旺盛で温厚だから、ひんやりするけど、撫でてあげたり落ち着かせたり、飛びついてくるのを体でガードしたりするくらいで大丈夫そう」
つまりは、立ち並ぶ屋台で飲み食いして楽しみつつ、妖魔の子が悪戯しないようにしてほしいというわけだ。
屋台に飛びついたら大変だが、ただ飲み食いしていればそれも防げるというから。
折角の機会、定番から甘味まで――博多のうまいもんを存分に楽しんで欲しい。
第1章 集団戦 『妖魔シュエバオ・マオマオ』
川面に街の灯りが揺れる、中洲の夜。
橋を渡れば、川沿いに立ち並ぶのは橙色の提灯を掲げた、たくさんの屋台。
立ちのぼる湯気や食欲をそそる匂い、人々の賑やかな声が夜風に入り混じっている。
そんな屋台街を、明星・暁子(鉄十字怪人・h00367)は歩いていた。
食べ歩きを楽しみながら、周囲へ目を配る。
妖魔の子が悪戯をしないよう見回ることも、今夜の大切な任務だ。
だが、それはそれとして。
香ばしい煙に誘われ、暁子は焼き鳥屋台へと足を向けて。
席に座れば、早速注文を。
「豚バラと、炙りチャーシュー。ウィンナー串もお願いします」
ここは焼き鳥屋台。
なのに、注文にまったく「鶏肉」がないが。
福岡では、串に刺して焼けば、牛でも豚でも魚介でも野菜でも、すべてひっくるめて焼き鳥と呼ぶのだ。
そして注文を終えると、まず出てきたのは、酢だれをかけたキャベツ。
暁子は焼き上がりを待ちながら、瑞々しい葉をぱりぱりと食べていく。
さっぱりとした酸味が心地よく、これだけでも箸が進む美味しさ。
炭火の上では、厚切りの豚バラから脂が滴り、そのたびに炎がぱっと立ち上がる。
表面に香ばしい焼き色がついた肉に塩が振られ、焼き上がった串は先ほどのキャベツの上へ。
熱々の豚バラを口に運べば、こんがり焼けた表面の内側から、肉汁と脂の濃厚な甘味がじゅわり。
いや、若いうちなら、豚バラは二本はいける。
濃厚な脂も、酢だれキャベツを挟めば、さっぱりとまた次の一本へ手が伸びる。
だがお年を召すと、それでも一本がつらくなってくるらしい——諸行無常。
もっとも、暁子はまだ二本いける。
香ばしく炙った柔らかなチャーシューと、皮がぱりっと弾けるウィンナー串もキャベツの上へ受け取り、順に味わっていく。
その間も、油断なく屋台街を見回していたが。
見つけたのは、焼き鳥へ飛びつこうと、おしりをふりふり構える妖魔の子。
「メッ」
そんな悪戯しようとしている気配を感じて叱れば、マオマオはぴたりと止まってびっくり。飛びつくのを諦め、引き下がっていった。
そして妖魔の悪戯を未然に防いだ暁子は、何事もなかったように再び舌鼓を打つ。
人生は短いが、福岡の夜はまだまだ長い。
ならば任務を果たしながら、今だけの美味を楽しもうと。
二本目の豚バラへと手を伸ばし、はむりと口に運んで味わうのだった。
小さなランプと、色とりどりの果物に彩られた洋風カフェバー屋台。
カウンターに並んで座るのは、劉・ミラ(千変万華・h13330)と与田・宗次郎(半人半妖の汚職警官・h01067)。
博多には詳しくなかった宗次郎だが、捜査の基本は足にあり。
あらかじめ自分の足で周辺を歩き、店のことも調べていた。
折角、別の世界から来た相手と祝杯を挙げるなら、少し珍しい洋風屋台も面白いだろうと選んだのだ。
ふたりが出会ったのは、デスゲームが催された八重洲博多ビルの戦場。
その場で偶然組んだ策は、互いに示し合わせたわけでもないのに、面白いほど鮮やかに決まった。
「あのときは、上手く噛み合ったねぇ」
「お巡りさんとの連携も、なかなか見事デシタネー」
そう軽くその時の戦いを振り返っていれば。
ふたりの前に運ばれてきたのは、鮮やかな果実のカクテル。
グラスの中には、赤く熟れた県産苺や瑞々しい葡萄の果肉がたっぷり。
そんな提灯の灯りを受けてきらめく二杯を、カチリと。
互いに合わせて乾杯すれば、美味しい祝杯の始まり。
そして並べられる料理は、店員へおすすめを尋ねて選んでもらったもの。
まずは、明太子とほうれん草の焼きたてキッシュ。
幾重にも重なった生地を口にすれば、さくりと軽やかに崩れて。
卵と生クリームを合わせた柔らかなフィリングには、ほうれん草と炒めた玉ねぎ、香ばしく焼けたチーズ。
まろやかな味わいを、明太子の塩気とぴりりとした辛味が引き締めている。
次は、かしわとごぼうを包んだ食事仕立てのガレット。
香ばしく焼いた蕎麦粉の生地の中には、甘辛い味つけの鶏肉と風味豊かなごぼう。
半熟卵を崩せば、とろりとした黄身が具材に絡み、濃厚なチーズとともに全体を包み込む。
福岡では馴染み深い組み合わせを、洋風屋台らしく仕立てた一皿である。
さらに、小さな鉄鍋から熱々の湯気を立てているのは、もつのアヒージョ。
ぷりぷりとしたもつを、にんにくの利いたオイルでじっくり煮込んでいる。
焼いたバゲットへたっぷり染み込ませれば、最後の一滴まで楽しめそうだ。
「もぐもぐ……お巡りさんは、√百鬼夜行から来られたんデスカ〜」
キッシュを頬張りながら、ミラが訊ねる。
宗次郎は果実のカクテルをひと口味わいながら、人の好さそうな笑顔で頷いた。
「√百鬼夜行は面白いよ、駄菓子もおいしいしね。よかったら、今度遊びにおいでよ」
そんな話も料理の肴に、ミラはガレットを切り分けて、またもぐもぐ。
「|√仙術サイバー《あっち》の食事は、階層によっていろいろデスカラネー。こっちの√は何を食べても美味しくて、まるで天国デース」
「へええ、話には聞いてたけど、そっちの√は厳しい世界なんだねぇ」
それぞれの世界の話などを交わしながら、ふたりは福岡仕立ての洋食を存分に堪能していく。
だがふと、そのカウンターの下から、ひんやり。
料理に興味を示す妖魔シュエバオ・マオマオ。
ミラは袖から伸ばした触手を、猫じゃらしのようにゆらゆらさせて。
「よしよし、いい子デスネー」
触手へ夢中になったマオマオは、料理への悪戯も忘れてしまったらしい。
ひんやりさらさらの身体を撫でられ、あやされるうちに大人しくなった。
別の世界から戦場へ集まり、偶然出会い、共に戦って。
そして今夜は、屋台のカウンターに並んで座って、美味しい料理を囲んでいる。
……√能力者どうしでも、一期一会ってあるもんだねぇ、なんて。
次に顔を合わせる場所も、それがいつになるのかも分からないけれど。
「そうデスネ、またどこかで会えましたら、一緒に頑張りマショウ!」
「うんうん、出会えたらまたどこかで! それまで、お互い頑張りましょ」
また、どこかで出会えることを楽しみに。
それぞれ次なる戦場へと向かう前に、今は一緒に、おなかいっぱい博多の屋台を堪能するのだった。
橋を渡ればそこは、川沿いに幾つもの屋台が連なる、夜の中洲の街。
そんな、揺れる提灯の光と賑やかな声で満ちる屋台通りへと足を踏み入れた途端。
見下・ハヤタ(弾丸黒柴号・h07903)の鼻先は、忙しなくひくひく。
「わんわん! わうー!」
(あすさんあすさん、おいしいにおいです! おなかすきました!)
炭火で焼かれた肉の香りに、鉄板から立つ湯気。
甘い苺の匂いまで、ふわりと風に乗って漂ってくるものだから。
ハヤタは黒い瞳をきらきらさせて、わくわくと今にも駆け出しそうに。
アストラガルス・シニクス・グリーヴァ(戦場駆ける銀蓮華・h09567)も、博多の夜の光景をぐるりと見回してから。
「おっ、通りの向こうまでずっと屋台や。賑やかやしええ匂いしとる」
足元へ目を向ければ、今宵は人の姿をした小さな友人が、嬉しそうにうきうきと跳ねている。
それからハヤタは大事そうに、お小遣いを入れた袋をしゃきんと掲げた。
「わう、わんわん!」
(えへへ、ぼく今日、ご主人からおこづかいもらってきたんです!)
「ハヤタもお小遣い貰て来たん? そんなら色々楽しまんとな!」
「わんわん、わんっ!」
(おいしいものをおかねとこうかんでもらうんですよね? たのしみです!)
だが、博多の屋台街は今日も大盛況。大勢の客でいっぱいだ。
「それと人多いからはぐれん様に気を付けてな」
アスは自分の半分ほどしかない背丈を気に掛け、はぐれないよう声を掛けながら歩いていく。
けれど魅力的な匂いが、あまりにも多すぎて。
「くうん? きゅう……」
(でも、いいにおいがいっぱいすぎて、ちょっと目が回ってきました……。どれをもらったらいいんでしょうか……)
きょろりと周囲を見回すハヤタは、ちょっぴり困ったようにこてりと首を傾けるけれど。
「わう、わふわふ!」
(あすさん、おすすめありますか? おしえてほしいです!)
そう期待の眼差しで見上げられれば、アストラガルスは改めて並ぶ屋台を眺めてから。
「そやな、多すぎて迷ってまう……よし、ほなら肉喰お、肉!」
向かったのは、香ばしい煙を上げる焼き鳥屋台!
最初に受け取った酢だれキャベツをぱりぱり齧りながら、焼き上がりを待つ。
博多ならではの厚切りの豚バラ串は、炭火へ脂が落ちるたびに威勢よく炎を上げていて。
キャベツの上に置かれた焼きたての串は、表面はこんがり、噛めば熱い肉汁と脂の甘味がじゅわり。
幾重にもぐるぐると巻かれた鶏皮は、外側がかりかりに焼けていながら、中はもっちり弾力があって。
甘辛いたれの香ばしさも相まって、つい何本も手が伸びてしまいそうで。
ねぎまやつくねといった定番の串も追加すれば、酢だれキャベツの上には、焼きたての串がずらり。
それと一緒に頼んだのは、ひとくちサイズの博多餃子。
「ひき肉がジューシーな餃子も美味いな」
口へと運べば、ぱりっ。中からは、豚肉と野菜の旨味を含んだ肉汁が溢れ出す。
小ぶりだから、いくつでも食べてしまいそうで。
「わふ、わふっ」
はふはふ、熱々の餃子を嬉々と頬張るハヤタ。
柚子こしょうでもいただいてみれば、爽やかな辛みがまた絶品。
そんな美味しい食事のお供にと。
「折角やからドリンクは苺のカクテルにしよかな。ハヤタもジュース飲むか?」
アストラガルスが頼んだのは、県産苺をたっぷり使った、果肉と酒の香りが溶け合う甘酸っぱい一杯。
ハヤタの苺ジュースも、甘酸っぱくて濃厚で。
「わんっ!」
ハヤタが嬉しそうに、冷たい苺ジュースを味わっていれば。
ふと、屋台の下から顔を覗かせたのは、白くてもふもふの子。
「わふ?」
(あれ、ねこさんです。こんにちはー!)
そうハヤタが元気にご挨拶する中。
「おっと、御前が件の妖魔か。まあ、ほんと悪い事するいうより遊びの悪戯やな」
現れたマオマオが料理へ飛びつくより先に、アストラガルスは肉を串から外し、差し出して。
「よしよし、御前も肉喰うか?」
肉を受け取った妖魔の子を、大きな手で撫で撫でしてあげれば。
「わんわん!」
(ねこさんもおなかすきましたか? いっしょにたべましょー!)
ハヤタも隣から楽しそうに覗き込み、尻尾を振るような勢いで声を弾ませる。
マオマオも交えた食卓を楽しむ間にも、屋台通りには他にも気になる香りがいっぱい。
二人で満喫する博多の美味しい夜は、まだまだ終わりそうにない。
寸胴鍋からあがる白い湯気が、暖簾の隙間から夜空へと立ちのぼって。
炭火の爆ぜる音、鉄鍋で餃子が焼ける音、歩くほどに次のごちそうが現れる、心躍る屋台街。
人波の間から顔を覗かせるほどの小さな姿で、猫間・百(好きな相手にはスリ魔の当たり屋・h04427)は、椿之原・希(慈雨の娘・h00248)の隣へぴたり。
「女子組にゃーん!! お出かけにゃ!」
「すごく楽しみなのです!」
嬉しさのまま、ぎゅっと抱きつく百と一緒に、希も全身から嬉しさを溢れさせて。
「希さん、静時さん、百さん、今日は楽しみましょうね。いっぱいおいしいもの食べましょう」
見下・七三子(使い捨ての戦闘員・h00338)も柔らかな笑みを浮かべる。
けれど、くるりと屋台街を見回して、瞳をぱちり。
「わあ、それにしてもすごい人ですね。にぎやかですし。希さん、百さん、押しつぶされないように気を付けてくださいね」
今夜の屋台街は大勢の客でいっぱいだ。
だから、迷子にならないように。
「ふふ、はぐれそうならみんなで手でもつなぎますか?」
「手。ぜひぜひ繋ぎましょ。人混みで逸れては大変でございますもの!」
睡眠寺・静時(移動するフォークロア・h01690)も朗らかに賛成する。
四人で手を繋げば、百は希の手をぎゅっと握って、二人のお姉さんにも甘えるように身を寄せながら歩き出した。
「皆さんと一緒でウキウキワクワク、お腹もぺこぺこでございます。あちこちからいい匂いがいたしますね」
そんな静時の声と炭火の煙を追うように、百もきょろきょろと屋台を見回して。
「ご飯するにゃ?? デザート食べるにゃ?」
「皆さんはこれがたべたい! ってものはありますか?」
七三子の問いに、それぞれ気になる屋台へ視線を巡らせる。
「私は地鶏の炭火焼が気になっています!」
「とんこつラーメンも、餃子も、とっても気になるのです!」
「明太子はご飯に乗せるのもよいですし、餃子は皆で色々な味を食べてみたいし、苺串とパフェも外せませんな!」
静時はそうわくわくと言った後、皆の希望を確かめるように頷いて。
「七三子さんは地鶏、希さんはラーメンと餃子屋台が気になるのですね」
「頼んだらお分けするので、味見してみませんか?」
七三子は皆を見回して、にっこり。
「せっかくですし、いろんなもの食べてみましょう! ふふ。お気に入りの味、いろいろみつかるといいですね」
「ゆきましょう! ちょっとずつ分け合って、いろんなものをぜ〜んぶ食べましょう!」
ということで、いざ屋台の暖簾をどきどき潜れば。
まず頼んでみるのは、香ばしい煙を上げる地鶏の炭火焼。
強い火で一気に焼かれた地鶏は、表面に炭の香りをまといながら、中はしっとり。
噛み締めれば、弾力ある肉から溢れ出すのは、濃い旨味と脂の甘味。
味変で、添えられた柚子こしょうや七味や山椒などを少しつければ、また次のひと切れへとつい手が伸びる。
次に並んだのは、ぱりりと焼けた小ぶりな餃子。
定番の肉餡には、刻んだ野菜の甘味と豚肉の旨味がたっぷり。
明太子入りは、ぴりっとした塩気が肉汁に重なって、鉄鍋餃子は最後まで熱々だ。
炊きたての白いご飯へ明太子をのせれば、米の甘味に辛味がよく映える。
そして、希が気になっていたとんこつラーメン。
白濁したスープは豚骨の旨味を凝縮しながら、口当たりはまろやか。
細い麺へ濃厚なスープがよく絡み、薄切りのチャーシューは箸で持ち上げるだけでほろりとほどける。
「わぁ……とんこつラーメン、いただきます!」
ふうふうと冷まし、はふはふとひと口食べてみれば。
その美味しさに希の焦茶色の瞳が、きらきら。
そして食事を楽しんだあとは、もちろんスイーツも欠かせません!
大粒の県産苺を使った、艶やかな苺串と赤い果実を贅沢に重ねたパフェ。
薄い飴をぱりっと割れば、中から瑞々しい苺の果汁が弾けて。
パフェには濃厚な苺アイスと軽やかな生クリーム、さくさくの焼き菓子が重なっている。
「|希《にょぞみ》ぃー、これ半分こしようにゃーん?」
百がパフェを差し出せば、希は嬉しそうに頷いて。
(「百さんが半分こを提案してくれて嬉しいし、見下さんともご一緒できて嬉しいし、睡眠寺さんともご一緒できて嬉しいし……」)
「わわ、嬉しいがいっぱいで目がくるくるしちゃうのです……!」
にこにこ、ばんざーいと両手を上げる希に、皆も笑顔になる。
だって、希は思うから。
(「みなさんのお願いには精一杯お答えしてお食事楽しみたいのです」)
そして、わくわくそわりと。
「|静時《せーとく》さんと|七三子《にゃみこ》さんにょ食べてるにょも美味しそうにゃーん。ひと口欲しいにゃーん♪」
苺スイーツを見比べながら、百がおねだりすれば。
「百さんには色々な苺スイーツの最初のひとくちお裾分け。こちらもこちらも、ぜひどうぞ」
静時から苺菓子が次々に差し出されて。
皆が美味しそうに食べる姿を眺めるたび、静時も皆の様子にニコニコしちゃう。
「美味しくて楽しくて、夢のような心地でございます」
そのとき——ふと、四人の足元へ白い影がひょこり。
「って。わあ。この子が星詠みさんが言ってた妖魔さん。ふふ、かわいい。じゃれますかね」
七三子が指先をちょいちょいと動かせば、興味津々にその動きを追いかけるマオマオ。
「にゃ! マオマオさんも遊ぶにゃー!!」
百も猫の姿になって、マオマオたちと一緒に元気いっぱいに動き回って。
希が抱き留めるように撫でれば、白い毛並みはひんやりふわふわ。
「ご飯の後はマオマオさん達をいっぱい撫でるのですー。わぷっ、ふわふわなのです……!」
七三子と静時も笑みながら見守り、時には一緒になってじゃれ合いながら。
今夜の屋台街には、四人の嬉しいと美味しいが、提灯の明かりよりも賑やかに弾んでいる。
夜空へ細く昇る炭火の煙を、屋台の提灯が赤く染めている。
暖簾の内側では、鉄鍋から立つ湯気と香ばしい匂いが入り混じって。
川沿いに夜風が吹き抜けるたび、楽しげな声とともに、通りいっぱいに美味しさが満ち溢れる。
そんな屋台街へと繰り出した龍・琥珀(逆天而行・h12677)は、いつものようににこにこと笑って。
「博多は初めてや! お二人と一緒に来られてよかったわ! 来た理由は僕もわからんけど」
向かいには、日南・ユウタ(黄昏の写し鏡・h04707)とロイ・フォスター(真昼の深淵・h12847)。
どうして三人が揃って博多へ来たのかは、ひとまず美味しい料理の前ではきっと多分些細なこと。
ということで、まずはこれ!
「僕、とりあえず生! っていうの憧れてたんだ! いつもはシャンパンとかワインだから今日は日本に染まるぞ~!」
ロイの手には、きめ細かな泡をたたえた生ビール。
それから、披露するのは。
「さぁさぁ龍さんもうぇ~い!」
「あははっ、ロイくん決まっとんね! うぇ~い!」
どこからか覚えてきたウエイ系。
それに乗って、琥珀も老酒の杯を掲げれば。
「とりあえず乾杯~! 僕は老酒やな!」
「今日は龍さんとフォスターさんとの出会いに乾杯!」
ユウタのグラスで爽やかに弾けているのは、芋焼酎のソーダ割り。
三つのグラスが陽気に触れ合い、博多の夜へ軽やかな音を響かせた。
そして乾杯したあとは、屋台グルメに舌鼓。
「博多といえば豚骨ラーメンといいたい所だけど、お酒の共なら皮がパリっと焼かれた焼き鳥に、明太子入り餃子に明太子乗せ厚焼き玉子、それとおでんあたりかな」
自らも店で料理を提供しているユウタが、屋台に並ぶ品々を楽しげに眺める。
「どう? 龍さんにフォスターさん。お二人は√仙術サイバーのお人なんでしょ? √EDENの食もなかなかでしょ? 気になったものどんどん遠慮なく頼んでね!」
「あ、僕な~おでん気になっとるんよ。あとは明太子入り餃子っちゅうのも気になるわ」
「ほんと博多屋台のお料理美味しいよね~」
幾重にもぐるぐると巻かれた鶏皮は、炭火で表面がぱりっと香ばしく、中はもっちりした弾力感。
甘辛いたれと脂の旨味がじゅわりと広がり、三人それぞれの酒によく合うし。
明太子入り餃子は、薄い皮がぱりっ。肉汁の濃い旨味に、明太子の塩気と辛味が重なって。
ふっくらした厚焼き玉子はだしの甘さがふわり優しくて、上に乗った鮮やかな明太子が見目でも味でも良いアクセントに。
そして、おでん鍋で湯気を立てているのは、博多ならではの餃子巻き。
魚のすり身で餃子を包んだ練り物は、透き通っただしをたっぷり吸い込んで、噛めば柔らかな甘味の中から餡の肉汁がじゅわっ。
定番の具材と一緒にいただいてみたい、だしと肉の旨味が一緒に広がる、酒の肴にもぴったりの味わいだ。
「自分も店で料理を提供している身だけど……こうして他の人が調理した料理を頂くのはやっぱり最高だね」
ユウタが嬉しそうに堪能する中、琥珀は料理と酒を共に囲む二人へ顔を向けて。
「しかし、これも縁やな~。それで日南サンにも知り合えたわけやし」
「√EDENに休暇で遊びに来た時にたまたまランチに立ち寄ったお店でそこの店主、日南さんと会ったんだよね。まさかそこからこんなに意気投合しちゃうなんて! まさに旅での出会いは宝だね!」
その縁の始まりを思い出し、ロイも楽しげに頷けば。
「ねー! 龍さんも√仙術サイバーなんだもんねー。知ってるよ~便利屋さんでしょ? 噂はかねがね!」
「そうなんよ、便利屋なんややっとるせいで色々行くんやけど、あんま√EDEN自体は詳しゅうなくてな」
そう答えながら、琥珀はロイの情報網へ、なんとも言えない意味深な間を置いて。
「ロイくんの情報網はアレやね……うん」
「え? どこで聞いたって? うふふ、それは内緒☆」
その情報源については……どうやら秘密らしい。
そんな二人のやり取りを聞いていたユウタも、琥珀に目を向ける。
「へ~便利屋さんか~なかなか興味深いお仕事だね。ふふ、今度ゆっくり聞かせて欲しいな」
「日南サンも今後なんかあったら便利屋つこてな~」
そして料理と酒をうぇ~いと楽しみつつ、偶然から始まった縁の話に花を咲かせていれば。
足元にそっと近づいてきたのは、白い妖魔の子。
そんなマオマオに視線を落として。
「妖魔のほうは……なんや可愛らしい子がおるな。撫でてもええかな?」
悪戯したらアカンよ~と、琥珀が優しく手を伸ばせば。
ロイも隣から、ひょいと屈み込んで。
「おや? キミどうしたんだい? 可愛い猫ちゃんだね~」
なでなでと撫でてみれば、マオマオの毛並みは、ひんやりさらさら。
構って貰えた子は料理へ悪戯することもなく、三人の手元ですっかり大人しくなる。
それからふと、ユウタに浮かぶ疑問。
(「って、あれ? そういえば僕達どうして博多に来てたんだっけ?」)
でもそれはとりあえず、芋焼酎と一緒に飲み込むことにして。
来た理由は、やはり最後まで分からないけれど。
交わした乾杯も、美味しい料理と酒を囲んでいる今も、楽しいひとときであることは確かで。
答えの出ない問いもひとまず肴に、三人は笑いながら、博多の美味しい料理へとまた箸を伸ばすのだった。
川沿いに軒を連ねた屋台の灯りが、ずっと先まで続いている。
そんな屋台街を見回したあと、暖簾の向こうから漂う美味しそうな匂いと楽しげな声が行き交う中。
「ずーっと先までお店だね。どこがなんのお店か、れーち、パンフレット、もう一回見せて?」
小弓・佐倉(夜黒の椿・h08163)がひょこりと木邑・零壱(黒き彼岸・h08169)の手元を覗き込めば。
零壱は手にしていたパンフレットを佐倉のほうへ傾け、屋台街の案内へと改めて目を落とした。
いや、ただ博多の屋台を楽しみにきただけではない。
現れると星詠みされた妖魔を現場付近で待ち伏せる――というのが、今回の役目なのだが。
「屋台街に現れる妖魔の被害から守るねぇ……屋台に飛びついてくるとかすげぇ現実的な被害だな……?」
敵の襲撃というよりは、食べ物を狙った悪戯への警戒といったほうが正しいかもしれない。
それでも屋台や客に被害が出る前に防ぐ必要はあるから、仕事を兼ねて食事を楽しむことにして。
「客に扮して現場付近で待ち伏せって話だが、気になる店あるか? コキュー、イルゼ」
佐倉はパンフレットと実際の屋台を見比べたあと、ランプに照らされた一軒を指差した。
「この……かふぇばー? ランプ、綺麗。周りの飾りの果物も、ライトアップでつやつや、きれい。あそこ、行ってみたい……です」
色とりどりの果物を飾った屋台の軒先には、小さなランプが幾つも灯っていて。
艶やかな果実へ淡い光が映り込み、風に揺れるたびに赤や橙の輝きが揺れては夜道を彩っている。
そして佐倉は、イルゼ・ラウィーネ・ローゼンクランツ(埋火・h02039)のそばへと近寄って。
イルゼもそんな佐倉の提案に笑みつつ、頷いて返す。
「ふふ、私はどこでもいいもの。小弓ちゃんがカフェバーが気になるのなら、そこにしましょうか」
ということで、三人で向かってみるのは、洋風カフェバー屋台。
切り分けた果物や花が並び、グラスと銀色のカトラリーが光を返していて。
夜とはいえ、夏の屋台街には人の熱気が満ちている。
さらに、あちこちの鉄板や鍋から立ちのぼる湯気や煙も加わって、辺りの暑さがいっそう増しているけれど。
「っと、二人とも。熱中症にならないように冷気を広げておくから、あまり私から離れないようにね?」
イルゼが纏う氷雪の気配が、三人の周囲を涼やかに包み込む。
そんな心地よい冷気に守られながら席へ着けば、零壱はぐるりと店内を見回して。
「へぇ、カフェバー屋台なんてあるんだな……俺は苺の――酒無しで頼む」
まず選ぶのは、それぞれの飲み物。
零壱が頼んだのは、赤く熟れた県産苺を潰し、果汁と炭酸を合わせたノンアルコールの一杯。
「いちじくも、博多、有名? じゃあわたしは、いちじくモクテル。一緒に飲んで、ふんいき、たのしむ」
佐倉は、県産いちじくの果肉をたっぷり使ったモクテル。
「私は、そうねぇ……せっかくだし苺のカクテルとデザートチーズの盛り合わせでも貰おうかしら」
イルゼが選んだカクテルには、瑞々しい苺の果肉と酒が鮮やかに溶け合っていて。
「カクテル程度のアルコールで酔いはしないもの、遠慮なく飲むわよ」
甘酸っぱいカクテルを塩気のあるチーズと合わせれば、何杯でもお酒が進みそう。
そしてそれぞれの飲み物が目の前に並べられれば。
三つのグラスがランプの光を映し、それぞれ違う色のきらめきを纏う。
それからメインに選んだのは、焼きたてのキッシュ。
幾重にも重なった生地は、フォークを入れればさくりと崩れ、卵と生クリームを合わせた中身はふんわり柔らかい。
じっくり炒めた玉ねぎは甘く、香ばしいチーズとほうれん草の風味もとろりと重なって。
「……これが、キッシュ。玉ねぎとろとろで、おいしい」
「普段の外食とも雰囲気違って新鮮だな——ん、キッシュうめぇ」
目を瞬く佐倉の隣で、零壱も焼きたてを存分に味わえば。
ひと口ごとにふわりと、優しい旨味が広がった。
そして、イルゼのデザートチーズの盛り合わせには、白く滑らかなフレッシュチーズや、果実を練り込んだクリームチーズが。
「ン、おいしい苺だわ。お酒もチーズも進むわね」
蜂蜜や薄く焼いたパンも添えられ、苺と合わせれば、乳のまろやかさへ甘酸っぱさが重なっていく。
それから、そう涼しい空気の中で屋台を楽しんでいると。
「……おでましってところか」
不意に零壱の視界の端を、白い姿が横切った。
屋台の料理へ飛びつこうと身を弾ませるマオマオ。
けれど零壱はすぐにその間へ入り、危なげなく受け止めて。
「悪いな、ココは遊び場とかそういうんじゃねぇんだ。元気なのは良いんだがな」
そう言い聞かせながら、ゴロゴロと撫でてやる。
その横では、イルゼも自らの尻尾をゆらりと揺らし、マオマオの興味を料理から逸らしていて。
ひらひらと動く尻尾へ夢中になってじゃれつく姿に、イルゼは楽しげに目を細める。
「あ、ねこちゃん。ふわふわ……かわいい……」
そして、ふたりがいなすマオマオに、佐倉もそっと優しく手を伸ばしてみれば。
白い毛並みは柔らかくて、指先へ伝わるのは雪のようにひんやりとした感触で。
「……これから昼間、暑くなるのに。お外で大丈夫なのかな?」
佐倉が心配そうにじっと見つめれば、イルゼも改めてマオマオへ目を向けて。
「ふふ、それにしても可愛い子ね。野生ということは野良。つまりは飼い主がいないのだもの、私が連れ帰っても許されるわよね?」
「え、連れ帰るのか……? 妖魔」
「……イルゼさんのとこなら、ひんやりしてるから、この子達も快適そう。また会えるね」
思わず零壱が聞き返す傍ら、イルゼとマオマオを交互に見つめる佐倉。
そんな三人のやり取りをよそに、マオマオは撫でられたりイルゼの尻尾へ飛びついたりと、悪戯も忘れてすっかりご機嫌な様子。
こうして三人はマオマオと遊びながら、賑やかな博多の夜をもう少し楽しむのだった。
屋台の明かりが川面へ揺らめき、香ばしい匂いと楽しげな声が博多の夜へ広がっている。
鉄板の上では麺がじゅうっと軽快な音を立て、その隣では炊きたてのご飯から白い湯気が立ちのぼっていた。
そして今日はそんな賑やかな屋台街に、アレスター・ペクスパンテーラ(彷徨の歌・h06027)と一緒にご飯を食べに来た架間・透空(天駆翔姫ハイぺリヨン・h07138)であるのだが。
今回の目的は、博多の美味しい料理——だけではなくて。
「たまには生物部野外活動をしないとね? 透空先輩もマオマオ先輩に触りたいよね」
やっぱりもふもふなのかな、って……ぼくも気になってて、なんて。
屋台の周囲へ姿を見せるという白い妖魔の子も、二人にとっては気になる存在。
そして、そわそわきょろりと辺りを見回すアレスターの隣で、透空も期待に瞳を輝かせていたけれど。
目の前にひょこりとマオマオが姿を現した途端。
「きゃ~! これまた可愛らしい猫ちゃんが!? な、なでなでしても許されますかね?」
ごくりと息を呑んで、じっとその愛らしい見目の妖魔を見つめる。
そんな様子に、アレスターは瞳を細めつつも。
「まあ出来たらしたいくらいだよね、ふふ」
そう笑みながら、マオマオが嫌がらないようにまずはそっと手を差し出した。
それからふたりで優しく、念願のマオマオを撫でてみれば。
白い毛並みはふわふわ、それでいて感触は雪のようにひんやりとしていて。
マオマオも気持ちよさそうに目を細め、二人のそばで悪戯する気もなくすっかり落ち着いている。
それから改めて、透空は気を取り直してから。
「そんな冗談はさておき、私の注文は焼きラーメン!」
……折角博多に来たんですもの! 食べてみたかったんです、これ、って。
透空が嬉々と注文したのは、博多屋台の名物、焼きラーメン!
豚骨スープを絡めた麺や具材を、ソースと一緒に鉄板で香ばしく焼き上げたもの。
湯気とともに濃厚な豚骨の香りが立ち、刻んだ葱や紅生姜が鮮やかな彩りを添えている。
そしてわくわく、マオマオをなでなでしながら、まずは一口。
はむりと食べてみれば、透空は大きくひとつ頷いて。
「むむっ……これは! お味はまさしく豚骨ラーメンのそれなんですけど、焼きそばとはまた違った食感が実にいいです!」
焼かれてカリッとなった麺の表面は香ばしく、スープやソースと絡んだ麺を噛めばもっちり。
濃厚な豚骨の旨味が染み込みながらも、鉄板で焼かれた軽快な食感が新鮮で美味しい一品だ。
それから、アレスターが選んだのは。
「明太おにぎりは食べたいと思ってたんだよ、博多というと明太とはいうものね。豚骨ラーメンも捨てがたいけど勿論欠かせないと思うけど!」
炊きたてつやつやのご飯で、くるりと明太子を包んだおにぎり。
ふっくら柔らかな米の甘味に、明太子のぴりりとした辛味と塩気が絶妙で。
「あっ、でもアレスターさんの明太おにぎりも美味しそう……」
透空の視線が再びごくりと、今度は明太おにぎりへ引き寄せられる。
そして、料理を狙われないよう気を配りつつ。
「ぼくも全体的に色素薄目で真っ白ちゃんだからマオマオ先輩も気をつけないとね? シミは悲しくなっちゃうもんね?」
アレスターは当たり障りなくマオマオへ語りかける。
そんなマオマオは撫でてもらったり声を掛けられてはご機嫌、悪戯することもなく二人の足元で大人しくしていた。
そしておなかもいっぱい、ご馳走様……は、まだもうちょっとだけあと。
「やっぱり終わりにはパフェは別腹、ってやつだったりしない?」
「……ぱふぇ。いいですね、それ! 是非是非行きましょう!」
そう、甘いものは別腹です!
ということで食後に向かった苺尽くしな屋台で、二人で注文したのは、県産苺をたっぷり飾った華やかなパフェ。
甘酸っぱい苺がごろりと贅沢に入っていて、冷たいアイスと軽やかなクリームがよく合っている。
食べ進めるたびに違う味と食感が現れて、最後まで飽きることもなくて。
「友達と、こういう現地の屋台巡りは流石に初めて!」
だからその記念にと、アレスターがスマートフォンをすちゃっと掲げれば。
「じゃあハッピー撮影込で! はい、ぴーすして!」
「ふふっ、ハッピーハッピーがいっぱいで、とっても楽しいですねっ!」
満面の笑みをにぱっと向ける透空も。
そしてそんな、お揃いの素敵な笑顔とピースサインと、その足元にいるマオマオまで一緒に——ぱしゃりっ。
写真を撮るたびに増えていくのは、友達と初めて楽しむ現地での屋台巡りと、ハッピー尽くしな博多の夜の思い出。
提灯の灯りに照らされた通りには、焼き物や麺料理、甘味の屋台がずらり。
どの屋台へ入ろうかと迷う時間まで楽しい、博多の夜。
「わぁ……流石は屋台街。いろんな料理の屋台がある……」
恵宮・アキ(恋愛知らぬ心優しき乙女・h13025)が、目移りするようにくるりと辺りを見回していれば。
真壁・蒼穹(飛燕空剣流末弟子・h02281)は、楽しげに屋台を眺めて。
「さてさて、堪能していいと言われてるし! アキさん、甘いものは好き?」
「甘い物は大好きです」
その言葉を聞けば、蒼穹は自然にアキの手を取って。
「だったら苺食べよう、イチゴ!」
「って、あわわ、蒼穹さん待ってー」
苺尽くしの屋台へまっしぐら!
手を引かれていくアキは、ぱちりと瞬きながらも手を繋いで、目指す屋台に入っていけば。
「苺のスイーツがいっぱい……いちご串、実物見たの初めて……とってもキレイ……♪」
辿り着いた店先で、透明な飴をまとった苺が、屋台の灯りを受けてきらきらと輝いていて。
「飴に大福にパフェに……うう、お腹が鳴る……」
白い大福から覗く赤い果実に、クリームを重ねた大粒いちごのパフェまで、苺の甘味がずらりと並んでいる。
そして、気になるものをいくつかわくわくと注文して。
「じゃあいただきまーす」
運ばれてくれば早速——はむりっ。
ぱりっと軽やかに割れる飴の中からは、苺の甘酸っぱい果汁がじゅわり。
大福はもちもちの生地と滑らかな餡が果実の酸味を優しく包みこみ、噛むほどにそれぞれの甘味が溶け合っていく。
もちろん、パフェだって忘れてはいけない。
軽やかなクリームと冷たいアイス、たっぷりの苺をスプーンですくった蒼穹は、アキの前へと差し出して。
「ほら、アキさん、パフェどうぞ! あーん♪」
「そらさ、むぐっ」
言い終えるより早く、甘酸っぱいひと匙がアキの口へ。
そして瞳を瞬かせつつ、もぐもぐと味わえば。
「パフェも、おいしい♪」
アキの表情も嬉しそうにほわりと綻んだ。
そんな様子を見つめながら、蒼穹は笑って。
「あはは、なんかデートみたいだね? 見る人が見たら」
「デート……ですか?」
少しぽかんとして、首を傾げるアキ。
そして、その姿をじっと見つめつつも。
(「……見る人が見ればカップルっぽく見える言動をしているのにアキさんの反応が思った以上に薄い……? 少しくらい恥ずかしがってもいいものなのに……?」)
これって……なんて、思わず考え込む蒼穹。
その隣で、当のアキはご機嫌に。
(「蒼穹さんも楽しんでるみたい。友達と食べ歩きするの、憧れてたんだ~♪ 楽しい~♪」)
うきうきで、苺をぱくっと頬張っている。
なんだか二人が感じていることは、ちょっぴりだけずれているような気がするけれど。
でも、美味しい甘味を一緒に楽しむ時間が嬉しいことだけはきっと同じだから。
そのとき——ぴょんっと。
苺飴へ飛びつこうとする白い妖魔が、屋台の向こうを横切るのが見えて。
甘い時間の最中でも襲撃の準備は万端、今回の目的はもちろん忘れてはいないから。
「迎撃に行こうか、アキさん!」
「おっと、そうでした。名残惜しいですが、行きましょう、蒼穹さん!」
顔を見合わせて頷きあって、悪戯っ子のマオマオのもとへ。
中洲の屋台を守るべく、並んで駆け出していく——甘くて美味しい時間を、またふたりで楽しむためにも。
夜の中洲に、暖かな提灯の明かりが連なっている。
狭い店先から響く店主の声や客たちの笑い声。
あちらにもこちらにも暖簾が揺れ、屋台街は見渡すほどに賑やかだ。
「話に聞いていた以上に屋台街は美味しい物が沢山並んでいるな」
「屋台も壮観ですわね」
雪願・リューリア(願い届けし者・h01522)とアレクシア・ディマンシュ(ウタウタイの令嬢・h01070)は並んで歩きながら、最初に入る一軒を探してみる。
屋台といっても、色々な種類の屋台がずらりと並んでいるのだけれど。
「やはり博多なら豚骨ラーメンは外せない」
「わたくしは博多の豚骨ラーメンを食べたいですわね」
二人の希望が重なれば、向かう先はすぐに決まる。
暖簾をくぐり、肩を並べてラーメン屋台の席へ。
リューリアは品書きに並ぶ様々な一杯へ目を向けて。
「我は定番の豚骨ラーメンにしよう」
アレクシアも品書きを眺めて注文する。
「わたくしは豚骨ラーメン……明太焼きと煮卵を盛りつけたラーメンを注文しますわね」
そして二人の前にそれぞれが注文したラーメンが置かれれば、白い湯気とともに豚骨の濃厚な香りが立ち昇る。
リューリアは、まず白いスープをひと口。
濃厚ながらもまろやかな旨味を確かめてから、熱々のスープを絡めた極細麺を啜る。
歯切れのよい麺の後には、胡麻とねぎの香りがふわりと残った。
アレクシアの一杯を彩るのは、香ばしい焼き目をつけた明太子と、つややかな煮卵だ。
表面を炙った明太子は香り高く、中の粒はしっとりと柔らかい。
「うん、焼いた明太子が美味しいですわね」
リューリアは豚骨ラーメンを味わいながらも、アレクシアが美味しそうに食べている様子をちらり。
「明太子にも興味があるぞ」
その興味に誘われるまま、ラーメンを存分に味わった後、次に向かうのは明太子料理と餃子の屋台。
リューリアは、明太子を包んだ出汁巻き玉子をはじめとする明太子料理を。
「餃子も美味しそうですわね」
アレクシアが注文したのは、明太子入りをはじめとした小ぶりな餃子と、冷たいジンジャーエール。
そして二人の前に揃って並んだのは、香りも彩りも食欲をそそる博多の味。
リューリアの出汁巻き玉子は、ふるりと柔らかな玉子を箸で割れば、中から鮮やかな明太子が覗く。
口へ運ぶと温かな出汁がじゅわりと広がり、明太子の塩気と辛味が玉子の優しい甘さを引き締めた。
「ぷちぷちな食感に濃厚な味わい。つい食べ過ぎてしまいそうだ」
アレクシアの餃子は、薄い皮の焼き目がぱりりと香ばしく、中には熱々の餡と明太子の旨味がたっぷり。
柚子胡椒をつければ爽やかな香りと鮮烈な辛味が重なって、しゅわりと弾けるジンジャーエールが口の中を心地よく整えてくれる。
それに、せっかくだから。
「お互いに交換こし合いながら食べましょうか」
それぞれの料理を少しずつ取り分けて、交換して味わってみる。
同じ明太子を使った料理でも、出汁巻き玉子はふんわり柔らかく、餃子はぱりりと香ばしい。
互いの感想を言い合いながら、二人で食感や味わいの違いを楽しんで。
楽しく美味しく交換こしつつ、リューリアは瞳を細める。
「楽しんでもらえているなら我も嬉しい」
けれど、美味しそうな肉の香りにそわそわ。
飼い猫のアーシアが落ち着かない様子で辺りを見回していることに気づいたから。
「アーシアにはひとまず猫でも食べれそうな肉串を買って落ち着かせよう」
リューリアは店主に頼み、アーシアにも食べられそうな肉串を一本買って。
串から外して冷ましてから渡せば、アーシアも満足そうにもぐもぐ。
無事に落ち着いたところで、やはり食後のデザートも欠かせないから。
次に二人が足を運んだのは、アイスクリームや苺甘味を扱う屋台。
甘いものが好きなリューリアが店員に訊ねれば、おすすめされたのは、大粒の県産苺を使ったパフェと苺大福。
そして二人で選んだパフェには、真っ赤な苺と果肉たっぷりのソース、濃厚なミルクアイスが幾重にも重なっていて。
ひと匙すくって口に運ぶと、濃厚なミルクアイスと瑞々しい苺の甘酸っぱさが絶妙で。
苺大福は、もっちり柔らかな餅の中に餡と大粒の苺がごろり。
まろやかな餡の甘さと、苺の瑞々しい果汁が口いっぱいに広がって。
「うん、甘酸っぱくて美味しいですわね」
「苺パフェに大福も凄く美味しいぞ」
二人は甘味を口へ運びながら、その美味しさをゆっくりと楽しんでいる。
だが、今回の目的は、美味しいものを食べ歩くだけではない。
熱い料理を避け、冷たいアイスの近くなら白い妖魔の子も現れるかもしれない……そう考えたリューリアの予想通り、甘味屋台へ近づいてきたのはシュエバオ・マオマオ。
マオマオは屋台に悪戯しようと、今にも飛び掛かる寸前だったが。
すかさずアレクシアが感情共有によって興奮を鎮め、飛びつこうとする体を優しく受け止める。
リューリアもアーシアと一緒に手を伸ばして、ひんやりさらさらとした感触を楽しみながら撫でて大人しくさせれば、白い妖魔の子も落ち着いたから。
二人は再びパフェへスプーンを伸ばして、甘く賑やかな博多の夜を引き続き楽しむのだった。
川沿いの屋台街に夜風が吹き抜ければ、暖簾と提灯の明かりがゆらりと揺れて。
料理の匂いも、人々の声も、酒の香りも、夜の空気に混ざり合うように満ちている此処は、今宵も沢山の人で賑やかだ。
そんな屋台が立ち並ぶ中、小さなランプと色鮮やかな果実に彩られた洋風カフェバー屋台で、篭宮・咲或(Butterfly effect・h09298)は柔らかな笑みを浮かべた。
「美味い酒が飲めるなら飲んでおきたいよねぇ」
金の髪に灯りを受けながら楽しげに言いつつ、蜜色の双眸を並ぶ料理に巡らせたあと。
咲或が選んだのは、博多らしく、かしわを使った旨味たっぷりのキッシュと白ワイン。
幾重にも重なった生地は、フォークを入れればさくりと軽やか。卵と生クリームを合わせた柔らかなフィリングに、鶏肉の旨味と炒めた玉ねぎの甘味、焼けたチーズの香ばしさが重なっている。
白ワインをひと口含めば、すっきりとした酸味が濃厚な旨味をさらに引き立てて。
「あ~美味」
咲或は満足そうにグラスを傾け、美味しい余韻をゆっくりと味わっている。
そんな咲或と並んで座る藤代・玲慈(|桜香の守り手《Cage de Cerisier》・h12755)は、ウイスキーの入ったロックグラスを傾けていた。
桜めいた薄紅色の瞳に、グラスに満ちて揺れる琥珀を映して。
澄んだ氷がグラスの中で音を立てるのを耳にしつつ、添えられた苺と生ハム、チーズを少しずつ摘まみながら玲慈は紡ぐ。
「食事なら食事。戦いなら戦いではっきりして欲しいものですが。まあ、こういう潜入捜査めいたものも悪くはありません」
その言葉に、柔らかな笑みのまま返す咲或。
「咲或ちゃんは好きよ。楽しく過ごしてれば任務完了なんて。血生臭いブツ追いかけてるよりよくない?」
そんな声を聞きながら、玲慈はふと賑やかな屋台街へと薄紅の色を向けて。
「ええ。血生臭いものを追うよりは、よほど良い夜でしょう」
「そうそう折角なんだから楽しも」
咲或は満足そうに白ワインを飲み干すと、早くも次の酒を求めて、再び品書きへ視線を落としてから。
目に留まった酒と肴を、指先で示して。
「れーいじ、ウイスキーも甘いのもいいけど日本酒とかどお? 明太子と合うんだって」
咲或は甘い声音のまま、もうひと押し。
「えー1人じゃ味気ないだもん。ちょっと付き合ってよ~。ね? 咲或ちゃんのお願い」
そんなお願いに、示された品書きへと目を向ければ。
わずかに間を置いて。
「……しょうがありませんね。明太子に合うと言われては、試さないのも勿体ない」
それから、そんな言葉を前置きに玲慈は続けた。
「一杯だけ、お付き合いしますよ」
ということで、追加で日本酒とともに炙り明太子を注文して。
表面に香ばしい焼き目がついた明太子に早速箸を入れてみれば、ほぐした中の粒はしっとりとしたまま。
それを口に運べば、ぷちぷちとした食感の後から広がる、辛味と濃厚な旨味。
そこへすかさず、日本酒をひと口。
すっきりとした酒の味わいが明太子の塩気と辛味を引き立て、余韻までゆっくりと楽しませてくれる。
そして咲或はさらに、何杯目かの色鮮やかなフルーツカクテルを煽りながら。
潰した果実の甘味と爽やかな酸味を味わいつつ、ふと屋台の外へと目を向ける。
氷を揺らすグラスの向こうには、屋台を行き交う人々の姿がある。
「屋台の喧噪俺も好き~。騒がしくて賑やかで……活気があるのよねぇ」
「屋台の賑わいは、嫌いではありません。人の距離が近く、声も匂いも混ざっている」
玲慈もそう続けて、賑わいの中へ再び静かに視線を巡らせる。
「僕の香の影響も、基本的には薄れますから」
「ふふきみの香が薄くなるくらいに。人の子たちは飲食に夢中だからね」
桜の香気も今は、夜の喧騒に溶け込んで。
咲或の甘い声音が、賑わいに紛れる花の香と重なれば。
「少々騒がしくはありますが、こういう夜が続く方が健全でしょう」
玲慈の言葉に、咲或は蜜色の目を細めて。
色鮮やかなカクテルをもうひと口楽しんでから、甘やかに柔く笑った。
「たまにはこういうのも悪くないでしょ? また付き合ってね」
「次があるかは予定と仕事次第です」
そう返る言葉に、咲或は笑みを浮かべカクテルを傾けて。
そんな様子を見つめ、玲慈はロックグラスの氷を静かに揺らした。
「……まあ。こういう場所で飲むのなら、悪くはありません」
酒と料理、人々の声が混ざり合う夜。
もうしばらく博多の味と酒をゆっくり楽しみながら、二人は今宵の賑わいに身を委ねる。
川沿いに連なる屋台には、今宵も美味しそうな匂いと賑やかな声が満ちている。
ずらりと並ぶ品書きを前に、ヨシマサ・リヴィングストン(朝焼けと珈琲と、修理工・h01057)は楽しげに目を細めた。
「ふふ~、やっぱり博多と言えば美味いもの。大体どの店に入っても美味い土地と聞きました。ここは食い倒れる他ありませんよね~」
「ラーメンは知ってましたケド、他にもたくさん名物があるんですね……迷っちゃう」
……今日はよろしくお願いしますっ! と。
皆に告げつつ、八手・真人(当代・蛸神の依代・h00758)もそっと、あちらこちらへ視線を彷徨わせて。
その傍らでは、スティルフラウ・リーフキィ(静鉄の婦人・h09604)が静かに一礼する。
「こういったお出かけは初めてでございます。皆様の思い出に残るよう努めさせていただきます、主に葉鍵様の手綱を握って」
その言葉通り、水の配膳や注文がありそうな時の声掛けと、スティルフラウは早速、甲斐甲斐しく動き始める。
そして隣では、オメガ・毒島(サイボーグメガちゃん・h06434)が、早くもビール片手に鶏皮串を満喫していた。
「なんと素晴らしき屋台グルメ……!」
まずオメガが堪能しているのは、博多名物の鶏皮串。
幾重にも巻かれた鶏皮は、表面を香ばしく焼き上げられてかりりと軽く。噛めばむちりとした弾力と、凝縮された脂の旨味が口いっぱいに広がっていく。
「このギュッと巻かれた濃縮カリむち……恐ろしい、10本が一瞬で消えました」
皿の上から本当に十本の串が消えるまで、そう時間はかからなかった。
スティルフラウは空いた皿をさっと端へ寄せ、新しい水を配り、オメガの口元についた小さな欠片まで手際よく拭っていく。
その立ち働きぶりはあまりに自然で、隣席の客から追加注文を頼まれるほど。
スティルフラウはそれにも淡々と応じ、店員へ注文を伝えてから。
けれど今夜のスティルフラウも、店員ではなく食事を楽しみに来た一人だ。
ひと通り周囲の世話を済ませて、ようやく皆と同じ席へ腰を落ち着ける。
そして外せないのは、やはりこれ。
続いて運ばれてきたのは、白い湯気を立てる博多ラーメン。
食欲を誘う濃厚な豚骨の香りに、強いコシが特徴の極細麺。
「はあ、このこってりスープに紅ショウガと木耳の食感が最高に合いますね。もちろん麺はバリカタで」
「とりあえず、本場のラーメンは外せませんねっ。俺もバリカタで……!」
ヨシマサに続いて真人も注文し、オメガも加わって、揃ってずるっと麺を啜れば。
「ガツンとした動物系の旨みに反し、こんなにも軽く平らげてしまえる不思議。このバリカタ極細麺が何とも……あ、替え玉ください」
バリカタに茹でられた麺に、こってりとした豚骨スープがよく絡む。
それから、何気に早速替え玉を頼むオメガの声を聞きながら。
真人がそっと箸で摘まんで見つめるのは木耳。
「最近知ったんですケド……キクラゲってクラゲじゃないらしいんですよ……」
しみじみと告げた真人の背で、たこすけも興味深げにゆらりと触腕を揺らした。
ヨシマサが選んだ明太子おにぎりに、香ばしく焼けたひとくち餃子。
「ここら辺トレイに入れてもらって皆でシェアしますか」
その提案に、オメガもまた別の餃子を追加して。
運ばれてきた料理をひとつのトレイへまとめれば、それぞれの皿を行き来させる食べ比べが始まった。
「屋台ご飯って、色々シェアできて楽しいですね……エヘヘ……」
ぴりりと辛い明太子を包む温かなご飯も、薄皮から肉汁が溢れる餃子も、皆で分ければ次々と違う味を楽しめる。
そんなシェアの輪に紛れて、隣から伸びたオメガの箸が、真人の皿から餃子をひとつ、またひとつと実に自然な動きで頂戴していく。
「アッ……」
真人が気づいた時には、皿の上の餃子がだいぶ減っていた。
いや、正確には、気づいていた。
(「メガくんが俺のお皿からだいぶ持っていってるな……」)
そう思いながらも、真人は何も言わない。
そんなオメガは、スティルフラウの至れり尽くせりぶりにどこか気恥ずかしそうにしつつ、しれっと真人から頂戴した餃子をもぐもぐ。
そして——そんな賑やかな食事の最中に。
屋台の外に現れたのは、白い妖魔の子。
人々の間からこちらを窺うマオマオへ、スティルフラウは静かに視線を向ける。
「ふむ、出ましたか。それでは葉鍵様、引率の役割を果たす時です。皆様が食事に専念できるよう、御相手をお願いします」
取り出したのは、今となっては貴重な一枚のテレホンカード。
「葉鍵様、|出番《囮》でございます」
銀色の指が、容赦なくそれを握り潰した。
次の瞬間、悲しみを背負った早口オタク——葉鍵・八御(√WZの恥部・h11532)が召喚される。
「かわいいコの引率できると思って来たら男子ばっかじゃないか!!」
期待に満ちていた八御の顔が、一瞬にして曇る。
けれど諦めきれずに、一人ずつ品定めするように男たちを見回して。
「……でもヨシマサくんも八手くんも意外と線細めか……? 脳内変換すれば……イケるか! よし! それじゃワシについて来い!」
……とりあえず博多ギャルがワイワイしてそうな屋台なら美味いじゃろ! と。
ヨシマサと真人の辺りで視線を止めて脳内補完しつつ、自分に言い聞かせるように何度か頷いて勢いよく言ったものの。
「あ”ーー!!今となっては貴重なギャルゲ予約特典のテレカがーーー!!!」
無残な姿になった、大事なコレクションのテレホンカードを目にすれば、思わず叫び声をあげて。潰れたテレホンカードへ縋りつき、取り返しのつかない悲劇を前にしたように震える。
だが嘆くだけでは終わらない。悲しみを背負ったまま勢いよく顔を上げれば、誰に求められたわけでもない解説が始まった。
「ところでなんでテレカが特典? と思う諸氏もおるじゃろうが金券に該当するから複製が困難だし犯罪なんじゃよな。特典のコピーを防ぐためというあーマオマオちゃん引かないで!」
止まらない早口と情報量に圧倒され、マオマオまでドン引きしているようだ。
そしてそんな八御へと、あくまで善意で声を掛けるオメガ。
「折角来たのですから、一緒に食べましょうよ」
だが——スティルフラウの隣へ来たばかりに、博士は引き続き大変な目に遭うこととなる。
「マオマオ様も引いておりますので一旦黙りましょうか。労いがてらこちらをどうぞ」
そう……スティルフラウが差し出したのは、出汁をたっぷり含んだ熱々の博多おでん。
餃子を魚のすり身で包んだ餃子巻きが、博士の口へ迷いなくねじ込まれた。
次の瞬間、八御は目を見開き、頬を膨らませ、声にならない絶叫を上げながら椅子ごと跳ね上がった。
熱い。だが口いっぱいに出汁が染み出して、迂闊に吐き出すこともできない。
屋台の端で悶える博士の口元から、白い湯気が勢いよく噴き出した。
「エッ、スティルさん……? おでんを……!? ワァ……」
真人が恐怖に固まる前で、博士は足を踏み鳴らし、天を仰いで悶えている。
「は……博士さん大丈夫ですか……!?」
大丈夫ではない。
けれど餃子巻きは美味しいらしく、涙を流しながらもしっかり咀嚼している。
「わざとじゃないです!」
食卓へ呼び寄せたばかりに、結果として博士をスティルフラウの射程へ招いてしまい、思わず弁明するオメガ。
そしてヨシマサは、そんな眼前で繰り広げられているおでん芸を目にしつつ。
「それはそれとして、能力発動のためとはいえ博士のコレクションがなくなるのは見ててなかなか心が痛みますね……」
……博士とマオマオにイチゴ串あげちゃお、と。
貴重なテレホンカードを失い、熱々おでんまでねじ込まれた、踏んだり蹴ったりな様子を見かねて。
そっと苺串を差し出せば、博士は涙ぐみながら手を伸ばし、ヨシマサの同情という名の優しさを受け取って。
「猫ってイチゴ大丈夫でしたよね?」
マオマオも赤い果実をひとつ受け取ると、これ以上は関わらない方がよさそうだとでもいうように、ささっと屋台の向こうへ去っていった。
それから、やはりしれっと。
「後でお土産も買い込まねば……あ、替え玉ください」
「アッ、俺も兄ちゃんにお土産買っていかないと……!」
はっと品書きへ目を向けた真人を後目に、オメガは再び替え玉した麺をずるずるとすすって。
ヨシマサは引き続き皆とシェアを楽しみつつ、スティルフラウは空いた皿を片づけながらもさらに何気に博士へと追いおでんを捻じ込む。外側も熱くて中の餅はさらに熱い、さらに噛めば出汁まで襲ってくる熱々のもち巾着を。
そんな食べ比べも、土産選びも、そして博士のおでん芸も、まだまだこれから……?
博多の屋台街の夜は——美味しいものと、ある意味賑やかな皆の声が溢れる中、もうしばらく続いていく。
川沿いに明かりが連なり、行き交う人々の声と料理の匂いが混ざり合う夜。
「前に行った屋台とは雰囲気が違うのね」
見渡す限りの賑わいに、フルール・ペタル(花揺籠・h05932)は銀の双眸をきらきらと輝かせながら。
こてりと首を傾けて、物部・真宵(憂宵・h02423)へと目を向けて。
「ところで……今日はなんのおまつりなのかしら?」
「ふふふ、この街の夜はこれがふつうなんですよ」
無邪気な問いかけに柔らかく細められるのは、今のような夏の宵を思わせる淡いルールブルーの瞳。
井碕・靜眞(蛙鳴・h03451)も、改めて周囲を見回しながら瞬きをひとつ。
「博多の屋台は賑やかとは聞いていたが、これが普通とは」
そんなふたりの声を聞いて、フルールも瞳をぱちり。
「まぁ! ずぅっとにぎやかなの? すてきね!」
お祭りでなくとも、毎夜こんなに華やかな場所がある。
嬉しそうに屋台を眺めてから、ずらりと並ぶ品書きを見れば。
フルールは再び首を傾ける。
「おすすめはなぁに?」
「おすすめはやっぱりラーメンやごぼ天うどんでしょうか」
真宵の答えに、靜眞も福岡うどんや焼きラーメンの文字へ目を留める。
どちらも、今夜初めて知る博多の味だ。
「歓歓、うどんを一緒に食べましょうね」
真宵が呼びかけたのは、彼岸花の咲く美しい月夜に出会った、こぱんだ妖怪の歓歓。
普段は真宵の膝や頭の上で、いつもねむねむしている子だけれど。
今夜は美味しそうな匂いにわくわくと、期待いっぱいな様子で。
「ひとりで一杯食べられる?」
もちろんとでも言いたげにこくこく頷く歓歓に、真宵はますます微笑みを深める。
「じゃああなたは肉うどんね。わたしは煮玉子ラーメンにしようかしら」
そうして歓歓の分と自分の注文も決めた真宵に続いて。
靜眞はおすすめに倣い高菜ラーメンを、フルールも大きなごぼ天が載ったうどんを注文して。
それぞれの前に湯気を立てる器が並んだ。
それから嬉々と、柔らかくもちもちとした麺を箸で器用に掴んで。
歓歓は上手に啜って、美味しそうにちゅるちゅる。
その様子を見守る靜眞も、こぱんだの器用さには毎度驚かされる、と感心したように目を細めて。
「箸の使い方も上手だな……」
「歓歓ちゃんおじょうずだわ! そうやって食べるのね」
フルールも箸の動きを真似てみるけれど。
なかなかうまく掴めなくて、つるりと麺が逃げちゃうから。
「……フォークをもらおうかしら」
受け取ったフォークで改めてうどんを口へ運べば、柔らかな麺はもっちり。
そしてごぼ天を口に運んでみれば、また違った食感。
「もちもち……! ごぼ天? は歯ごたえがあるの! スープはほっとするお味!」
さっくり揚がった衣の中には、しゃきりとしたごぼう。
けれど優しい出汁が効いた優しい味のスープが染み込めば次第にしっとりとして、噛むほど豊かな香りが広がる。
「もちもちのうどんって、いいですよね」
靜眞もフルールに頷きつつ、硬めの麺を豚骨スープへ絡めてすすってみれば。
ひとつ、こくりと頷く。
「豚骨スープに硬めの麺がよく馴染む。ピリ辛ですけど、美味しいですね」
そして高菜の塩気と辛味も、濃厚なスープの美味しさを引き締めて。
真宵も味の染みた煮玉子を、はむりと頬張る。
黄身はとろりと半熟、豚骨スープとの相性も申し分ない。
屋台の明かりと賑わいに囲まれて、皆で食べる一杯。
「普段ラーメンって食べないので、なんだか特別な味がします」
それは、どこか特別なものに感じるのだった。
そしてフルールは、ふと気づいたように。
「ラーメンとうどんは色がちがうのね?」
白濁した豚骨スープと、澄んだうどんの出汁をきょろりと見比べて。
そこへ運ばれてきたのは、鶏の旨味と醤油の香りが食欲を誘う、かしわめしのおにぎり。
「あ! マヨイちゃん、かしわめしをすこぅしくださいな」
「ふふ、もちろん」
真宵はおにぎりをフルールと分けっこしてから、歓歓ともはんぶんこ。
そんな二人が仲良くかしわめしを分け合う微笑ましい姿に和む靜眞。
けれど、傍らのこぱんだの興味はそれだけでは終わらないようで。
「……歓歓、食べたいのか?」
靜眞の高菜ラーメンを、じっと見つめる歓歓。
そしてそっと高菜を差し出してみれば、はむはむ。
「まぁ、辛いのが平気なら……食べてるな……」
辛さなど気にした様子もなく美味しそうに咀嚼していて。
「もう歓歓ったら、食いしん坊ねぇ」
すみません、井碕さん、と告げながら続ける。
「この子、中華街の出身だから、辛いの平気なのかもしれませんね」
「好き嫌いがなくてえらいですよ」
「シズマちゃんのタカナはからいのね、おとなだわ?」
真宵と靜眞の声を聞いて感心しつつ。
ふと、不思議そうに歓歓を見つめるフルール。
……歓歓ちゃんに食べられないものってないのかしら、なんて。
そして、温かな麺とかしわめしをたっぷり楽しんだ後は、甘い苺が並ぶ屋台へ。
「苺がいっぱい……!」
「苺屋台……そうか、特産品でしたね」
艶やかな赤い果実に囲まれ、ますます弾むフルールの声。
靜眞も、大粒の県産苺を見てそう思い返しつつ。
「ラーメンで温まった分、苺ソーダを」
冷たいグラスを傾けて口にすれば、しゅわり。
甘みと酸味がちょうど良く、火照った身体も炭酸で心地よく適度に冷えて。
真宵が選んだのは、もちもち柔らかな餅の中に、甘くて丸い苺がごろりと入った苺大福。
ひと口頬張れば、優しい餡の甘さに果実の瑞々しさが重なる。
「ふふ、美味しい」
そしてフルールの興味をひいたのは、たっぷりの苺をミルクの中で潰して味わう食べ方。
「苺ミルクをつぶしてしまうの?」
そう首を傾けつつ、そっと倣って苺を潰して。
赤く染まったミルクを口に運んでみれば。
「そのままもいいけれど、まろやかであまくておいしいわ!」
果肉の甘酸っぱさがまろやかに包まれて、口の中に甘さと美味しさが広がる。
靜眞も苺ソーダを手に、ずらりと並ぶ屋台を眺める。
「これだけ美味しい物尽くしだと、うっかり長居しそうだ」
いや……甘い香りに誘われたのは、自分達だけではなくて。
「妖魔の子もうずうずしているようだし」
ちらりと見遣るのは、少し離れたところからこちらを窺う白い妖魔の子。
真宵は苺大福から赤い果実をひとつ取り出し、そんなマオマオにそっと差し出して。
「大人しくしてくれるなら苺をあげますよ」
怖がらせないよう、柔らかな声で問いかける。
「どうかしら?」
フルールも苺ミルクのグラスを手に、もふもふとしたその姿へ微笑みかける。
「あら? もふもふさん、あなたもひとくちほしい?」
差し出された苺へと白い妖魔の子はそろりと近づいて、はむはむ。
甘酸っぱくて濃厚な果実を食べれば尻尾をふりふり、大人しくなる。
賑やかな屋台の夜はまだまだ長い。
温かな麺も甘い苺も、皆で分け合えばいっそう美味しいし。
博多の味を楽しみながら、もうしばらく皆で——提灯揺れる美味しい夜を、たくさん満喫するつもり。
提灯の灯りが川沿いに連なり、夕暮れを過ぎてもなお賑わう屋台街。
鉄板で料理の焼ける音や、湯気とともに立ちのぼる美味しそうな香りが、夜風に乗って流れてくる。
ご飯の屋台にも心惹かれるけれど、セレネ・デルフィ(泡沫の空・h03434)が足を止めたのは、苺尽くしの甘味屋台だった。
大粒の苺を飾ったパフェに、クリームをたっぷり包んだクレープ。赤い果実へ薄い飴を纏わせた苺串まで、どれも可愛らしく並んでいて。
「私あんなにいちご尽くしな屋台初めて」
夕星・ツィリ(星想・h08667)も、ずらりと並ぶ甘味を前に青い瞳を輝かせている。
でも、ひとつを見れば隣も気になって。
「とても美味しそうで選べない……夕星さんはどれにしますか?」
「パフェもクレープも飴も全部気になる……!」
どれかひとつになんて、とても決められそうにない。
だからセレネは、その悩みを解決する、こんな提案を。
「ね、良ければシェアしませんか……?」
「わーいシェア賛成です!」
セレネが選んだのは、苺をたっぷり包んだクレープ。
ツィリも、白いアイスに真っ赤な苺が映えるパフェにして。
それから、艶々と飴を纏った苺串もふたりでシェア。
これなら気になっていた甘味を、ふたりで少しずつ楽しめる。
まずはセレネが、柔らかなクレープをひと口ぱくり。
「……! たっぷり苺があって美味しい……」
薄い生地の中には、ふんわりとしたクリームと瑞々しい苺が惜しみなくぎゅっと詰まっていて。
頬張れば、優しい甘さの中で果実の酸味が。
その美味しさに感動して瞳を輝かせながら、セレネはクレープを差し出して。
「クレープ、とてもおいしいです。よければどうぞ」
「苺たっぷりクレープいただきます!」
ツィリも嬉しそうに頬張れば、クリームの甘さと苺の酸味が絶妙で、思わず笑みが零れる。
そして、ツィリがひと匙すくったのは苺パフェ。
白いアイスと赤い果実のコントラストも美しく、甘酸っぱい苺ソースが濃厚なアイスへとろりと絡む。
冷たいアイスの中にも、刻んだ苺の食感が楽しくて。
「甘酸っぱいソースと濃厚アイスの相性ばっちり……! パフェもとっても美味しいよー!」
「ふふ、夕星さんの方も美味しそう……!」
きらきら艶々の苺串も、ふたりで仲良く分けっこ。
ぱりりと砕ける薄い飴を艶やかに纏う、果汁たっぷりの大粒苺。
「とてもきらきらして可愛いのに更に美味しいなんて……!」
「このままでもパフェのアイスと合わせても美味しいー!」
苺飴に冷たいアイスを添えれば、ぱりぱりの飴と瑞々しい果実に、濃厚な甘さが重なって。
この美味しさはセレネちゃんにもお裾分けしなきゃ……! と。
ツィリは差し出した苺とアイスを、セレネにもお裾分け。
そのまま齧っても、冷たいアイスを添えても、また違った美味しさ。
あれもこれも分け合えば、選べなかった甘味を余すことなく楽しめる。
互いのスイーツを分けっこするたび、嬉しそうな笑顔も重なってキラキラ。
そして——そんなふたりの甘くて美味しいひとときを、少し離れた場所から興味津々に覗き込む影があった。
白い妖魔の子が、苺の香りに誘われてひょっこり姿を現したのだ。
ツィリは驚かせないよう、こんばんはと声をかけてから、そっとその頭をなでなで。
セレネも柔らかな毛並みを撫でながら、優しく声をかけて。
「向こうに行ってはだめですよ」
「そうだ! 良かったらあなたも苺スイーツいかが?」
ツィリが苺をひと粒、マオマオの口元に差し出してみれば。
白い妖魔の子は匂いを確かめるように鼻先を寄せてから——ぱくり。
甘酸っぱい苺を夢中でもぐもぐと食べる姿は、あまりにも可愛らしくて。
ふたりの手が代わる代わる、ふわふわの頭や背を優しく撫でてあげるのだけれど。
セレネはマオマオを見つめながら、そわり。
「ぎゅってしたいな……。だめですか……?」
「……! ぎゅってするの私もしたい……!」
ツィリもそう瞳を輝かせつつ、さり気なく後ろに並んじゃう。
そして苺を食べ終えた白い妖魔の子は、期待に満ちたふたつの視線を見上げた後。
そろりと、ふたりのもとへ近づいてきた。
まずはセレネが、ふわふわの身体をそっと抱き締める。
「……ひんやり、ふわふわです」
氷のように冷たい毛並みへ頬を寄せ、しばしその感触を満喫するセレネ。
ツィリも嬉しそうに、白い妖魔の子をぎゅっ。
甘いものを分け合った博多の夜、ひんやりとしたふわふわまで仲良く分けっこ。
苺の香りに包まれながら、ふたりの笑顔はいっそうキラキラと輝く。
美味しくて甘くてもふもふなひとときをまだまだ、存分に楽しみながら。
川沿いに提灯の灯りがずらりと連なり、ゆうらりと夜風に揺れている。
行き交う人々の賑やかな声や、鉄板の上で肉や麺が焼ける音。
白い湯気とともに漂ってくるのは、豚骨や出汁、香ばしい醤油の匂い。
「ここが福岡ですか。人が多くて賑やかなところですね」
セレン・ディ・バイト(|影護《シャドウ・ガーディアン》・h05579)が、夜の闇に浮かぶ活気に満ちた街の光景を見回せば。
「やってきたきたやたいがいー! じつは、もうなんどかきてるけど……いーよね、おいしーことはなんどでも!」
冬月・楠音(氷原より貫く一閃・h01569)は早くも楽しげに声を弾ませる。
一度食べて美味しかったものなら、何度でも。
それに今夜は、まだ食べたことのない味にもたくさん出会えそうだから。
「ん、此処が博多の屋台街かー。……いい匂いがしてくるね」
夜久・椛(御伽の黒猫・h01049)も、あちらこちらから漂う香りに赤い瞳を細めれば。
「屋台街と言うだけあって、色んな屋台が出てるみたいだな」
「ん、楽しみだね、オロチ」
尻尾の蛇——オロチもまた、ずらりと並ぶ屋台に興味深げ。
「ふむ、いっぱい屋台が出ているね」
ルナ・ルーナ・オルフェア・ノクス・エル・セレナータ・ユグドラシル(|星樹《ホシトキ》の言葉紡ぐ|妖精姫《ハイエルフ》・h02999)も、提灯の下に掲げられた品書きへ視線を巡らせる。
ラーメン、うどん、餃子、串焼き。明太子料理や苺の甘味、それに色鮮やかな酒まで。
ひと晩ですべてを味わうには、胃袋が足りないかもしれない。
いや、エレノール・ムーンレイカー(蒼月の守護者・h05517)にとっては、この景色はまさしく天国。
「ここが中洲の屋台街ですか……! よりどりみどりの食べ物たちの、なんとも食欲を刺激する香り、たまりませんね」
そう深く息を吸い込みながら瞳を輝かせる彼女は、大食いで食費がかさむのが悩みの種。
しかも好物がラーメンであるのだから、わくわくして冷静沈着ではいられないのも無理はない。
そして、連続してぱしゃぱしゃと響くのは、軽快なシャッター音。
「ここが博多の屋台街……この数々の名物料理から甘味まで……博多のうまかもんが集いし楽園……これは撮影せざるを得ませんな〜!」
ユナ・フォーティア(ドラゴン⭐︎ストリーマー・h01946)は、スマートフォンを構えたまま右へ左へ。
川面に映る明かりも、軒先を飾る赤提灯も、美味しそうな料理を囲む人々の笑顔も、逃さず連写して撮影して。
今夜の動画配信もばっちり、食レポでバズっちゃいます!
けれど今回は、ただ屋台を楽しむことだけが目的ではなく。
屋台街に現れると星詠みされたのは、悪戯な妖魔の子。
でも、だからこそ。
「どうやら屋台で食べ歩いていればあちらから目標が姿を現すよう。だったら屋台をはしごして思いっきり食べちゃいましょう!」
「あ! 屋台で食べてる時にマオマオちゃんが出てくるんだっけ? それなら遠慮なく博多の食を楽しもうぜ皆の者! いやっほー!」
エレノールの提案に、ユナも勢いよく片手を上げて大賛成。
食べていれば向こうから来るというのなら、遠慮する理由はひとつもない。
そしてアネラス・ハルピュイア(|嵐鳥《アエロー》の使い手・h12744)も、たくさん並ぶ屋台を目にしながら。
「ここが博多の屋台街ですか。色んなお店からいいにおいがしますね……みなさんは目星をつけているグルメはありますか?」
皆へと問いかけてみれば。
「うーん。美味しそうないい匂いがいっぱい♪ ラーメン、うどん、串焼き……どれも美味しそうで迷うなぁ」
タージェ・シャルトルーズ(ルートブレイカー・h04741)はふわりと美味しそうな匂いを纏う夜風に誘われるように、きょろきょろ。
どれも美味しそうで、一軒見るたびに、その隣の屋台も気になってしまう。
そして皆がそれぞれ、気になっている屋台を口にする。
「さて何にしましょう。……やはり最初は有名な名物たちを味わいましょうか」
「最初はラーメンかな。ラーメンと言えば冒険者のソウルフードといっても過言じゃないからね」
エレノールとルナは、まずは名物料理から攻めるつもりで。
「こんかいは、スイーツいってみよっかなー!」
最初から、甘味屋台に狙いを定める楠音。
「ふむ。確かにどれも美味しそうで迷いますが、私はまずは飲み物を……苺ミルクにしましょうか」
セレンがまず手始めに買ってみたのは、透明なカップの中で白と赤が混ざり合う苺ミルク。
底にたっぷり沈んだ果肉を潰して混ぜれば、滑らかなミルクが淡い桃色へと染まっていく。
それから、皆で暖簾を潜った屋台は。
「まずは名物の焼きラーメンが食べたいかな」
「お〜博多の名物焼きラーメンですとな! これは食べずにいられないよね★」
博多屋台名物、焼きラーメン!
椛に続いて、ユナもわくわくと席に座って。
「やはり、博多の名産物を使った料理やこの焼きラーメンは欠かせないところでしょうか。それにしても、焼きラーメンは焼きそばと何が違うんでしょうか……?」
「焼きそばっぽいけど、どんな味なのか気になる。……何だか、凄く美味しそうな匂い」
アネラスと椛が見守る前で、茹でたての細麺が豚肉や野菜とともに鉄板へ広げられる。
白濁した豚骨スープが注がれた途端、じゅわっと勢いよく湯気が立ちのぼって。
さらにソースを絡めながら炒めれば、豚骨のまろやかな香りに、焦げたソースの香ばしさが重なる。
焼きそばに似ているけれど、それだけではない。
鉄板で焼いて、豚骨ラーメンの旨味をぎゅっと麺に閉じ込めたような一皿だ。
そして、出来立て熱々の品が並べられて。
「それじゃあ、福岡名物の焼きラーメンからお相伴にあずかろうか」
「それじゃあ、頂きます。……ん、濃厚なとんこつの味。スープとソースが麺に絡んで美味しいね」
ルナと椛が焼きラーメンの麺を啜れば、豚骨のコクと甘辛いソースの味わいが口いっぱいに広がっていく。
表面は香ばしくカリッと焼けているのに、細麺にはスープがしっかり染み込んで、もちりとした食感。
「スープのないラーメンだけど、油そばやまぜそばとはまた違った感じだね」
ルナも麺と野菜を一緒に箸で持ち上げては、口へと運んでいって。
「けど、豚骨の味が染みててこれは病みつきになりそうだね」
「これは! 白濁とした濃厚かつコクのあるスープに絡むもっちり茹でたて麺! またとろけるチャーシューが更に楽しみ倍増させる味!」
ユナはスマートフォンへ向けて、熱々の食レポをお届け。
——最高に美味しい〜★ って。
いいねが次々と押されるのも納得なくらい、しっかり美味しく味わって。
「オロチもどうぞ」
「んむ、たしかに美味いな。トッピングのチャーシューもいい味だ」
椛が麺と一緒に味の染みたチャーシューを差し出せば、はむはむと口にしたオロチも満足げ。
箸で持ち上げれば崩れそうなほどほろりと柔らかい肉には、豚骨とソースの旨味がじんわりと染み込んでいる。
「わ、みんなのも美味しそう」
焼きラーメンを囲む皆を眺めて、タージェもますます迷ってしまうけれど。
苺ミルクを飲み終えたセレンとともに注文する。
「次は豚骨ラーメンと餃子を。食べやすくて美味しいですね」
「わ。こってりしてそうなのに、思ったよりさっぱりしてる。餃子もシャキシャキで美味しい♪」
白濁したラーメンスープは濃厚で、豚骨の旨味もたっぷり。
けれど硬めに茹でられた極細麺と一緒に啜れば、重たさを感じるより先に、するすると胃へ収まっていく。
小ぶりの餃子も、薄い皮の焼き目はぱりっと香ばしくて。
ひと口で頬張れば、中から熱い肉汁がじゅわりと溢れる。
細かく刻まれた野菜の軽い歯触りに、肉の旨味。
小さいからこそ、ひとつ、もうひとつと箸が止まらなくなる。
そしてエレノールの前には、博多の名物料理がずらり。
「豚バラ串、焼きラーメン、一口餃子に明太だし巻き……。それらと共に頂く冷えたビール……。はぁ、まさに極楽ですね!」
香ばしく焼かれた豚バラ串を齧れば、脂の甘さがじゅわり。
添えられた酢キャベツを挟めば、酸味で口の中がさっぱりとして、また次の串に手が伸びる。
明太だし巻きは、箸を入れるとふるりと揺れるほど柔らかくて。
出汁の利いた卵の優しい甘さに、明太子の塩気とぴりりとした辛さがよく合う。
そこへ冷えたビールを流し込めば、幸せいっぱい。
そして塩気たっぷりの名物を楽しむ皆の傍ら、楠音はいよいよお待ちかねの甘味屋台へ。
「とゆーわけで、いちごづくしでいってみよー! まずは、いちご串!」
まずは、艶々とした薄い飴を纏った大粒の苺を——ぱくり!
ぱりっと軽やかな音を立てて飴が砕け、その内側から瑞々しい果汁が溢れ出す。
「ふわぁ、あまずっぱーい! しかも、パリパリのアメのころものあまさもいいかんじー!」
苺の爽やかな酸味に、飴の甘さが絶妙で。
食べ応えある甘いひと粒に、楠音の頬もすっかりほわほわ。
「で、こっちはいちご大福……こっちもいいなー! いちごのあじに、もちもち大福があうー!」
続いて頬張った苺大福は、もっちもち。
柔らかな餅に包まれた滑らかな餡の中から、大粒苺がごろり。
いろんな食感が一度に重なって、噛むたびに違った甘さが広がっていく。
「ラーメンの後は、苺のかき氷を食べに行こう」
焼きラーメンを楽しんだ椛も、楠音が堪能している苺いっぱいの甘味屋台へ。
そして楠音と一緒に、しゃくしゃくとひと匙すくって。
「さらに、苺かき氷ー! すごーい! シロップになるとあまずっぱさがきょーちょーされるー!」
器へふわりと盛られた細かな氷には、果肉入りの真っ赤な苺シロップがたっぷり。
匙を入れるたびに、雪のような氷がほろり。
口へ運んだ途端、冷たさと甘酸っぱさがすうっと溶けて。
「それに、あつい日のかき氷は……ごぞーろっぷにしみわたるよー」
「暑い時期は冷たいものも美味しいよね」
屋台の熱気で火照った身体を内側から涼しくしてくれる。
「あたまいたくならないのも、いーねー」
そう、はむはむと口に運んでいく楠音。
溶けかけた氷へ苺シロップが濃く染みた部分も、また格別だ。
「次は苺パフェ、苺ソーダにしようかな」
そしてタージェも、真っ白なアイスに赤い苺が映えるパフェと、炭酸の泡がきらきら弾ける苺ソーダを手にして。
冷たいアイスをひと匙、口に運べば。
苺ソースの甘酸っぱさと濃厚なミルクの味が重なって、ラーメンの後の口にも心地よい。
そのついでに、土産の苺飴も購入して。
「あ、セレン。これお願い」
「家族へお土産ですか? 喜んでもらえると良いですね」
託された苺飴を受け取るセレン。
けれどタージェが甘味を選んでいる間、セレンも香ばしい匂いに釣られて。
購入したのは、豚バラ串を十本。
「あ、それも美味しそう。僕にもちょうだい」
「しょうがないですね。一本だけですよ」
差し出された一本を嬉々と頬張れば、かりっと焼けた表面から、脂の旨味がじゅわり。
塩気も絶妙で、苺ソーダの甘酸っぱさとも意外によく合うし。
「うーん美味しい。ありがと、だよ」
「あ、皆さんもよろしければどうぞ」
皆にも、美味しさをお裾分け。
さらにはラーメンや餃子などの屋台だけではなく、果実酒や軽食を揃えた洋風の屋台も。
「洋風カフェバー……? あら、ここではお酒が飲めるのですか。ではカクテルを一杯いただきましょう」
「おや、アネラスはカクテルも頼むのかい? 今が旬の時期だし、ボクはいちじくのカクテルをもらおうかな」
見つけた屋台へと入ったアネラスが選んだのは苺のカクテル。
一緒に席についたルナのグラスには、熟したいちじくを使った、柔らかな色合いの一杯が注がれる。
まずルナが、香りを楽しむようにゆっくりグラスを傾けて。
「口に含むと熟れたいちじくの優しい甘みが広がって、食後にゆっくり味わいたくなる一杯だね」
熟れた果実の穏やかな甘さは、焼きラーメンを食べた後にも優しい口当たりで。
一気に飲むよりも、屋台街の明かりを眺めながら少しずつ楽しみたくなる。
隣でアネラスも、赤く澄んだカクテルをひと口。
「……苺の濃い甘さを感じつつもさっぱりとした後味……。ふふっ、マリネをつまみに何杯も飲みたくなってしまいますね」
広がるのは、苺の香りと濃い甘さ。
けれど後口は思いのほか軽く、ほどよく酸味を利かせたマリネを挟めば、また自然とグラスへ手が伸びる。
これなら本当に、二杯、三杯と進んでしまいそう。
そして皆がそれぞれ、博多の味を存分に楽しんでいた——その時だった。
ふいに足元に近づいてきたのは、ひんやりとした気配。
「わっとと、マオマオもきたねー。いちごたべるー?」
楠音が苺を差し出せば、白い妖魔の子は鼻先を寄せて、くんくん。
赤い果実へ興味津々な様子で、そろりと近づいてきて。
「おや……あなたも匂いに釣られて? ……食べますか?」
セレンも豚バラ串をそっと差し出してみる。
甘い苺と香ばしい肉、どちらも美味しそうというように、白い妖魔の子の鼻先が右へ左へ。
「わわ。可愛い。……抱っこして良いかな?」
タージェが尋ねるように両手を差し出せば、白い妖魔の子は嫌がる様子もなく腕の中へちょこん。
「ひんやりしてて気持ちいい♪」
柔らかな身体を抱き締めながら、喉元をこしょこしょ。
気持ちよさそうに目を細めるマオマオの氷のように冷たい毛並みが、屋台の熱気で火照った腕へ心地よい。
「食後に……キャー噂をすればご馳走に釣られてマオマオちゃんが来た!」
ユナも嬉々として優しく抱っこして、スマートフォンの画面へ。
「配信とナデナデしながら苺大福楽しも♡」
……えへへ♡ 幸せ〜♡ なんて満面の笑みが零れれば。
片手には苺大福、腕の中にはひんやりもふもふ。
画面越しに見ても、幸せいっぱいの組み合わせ。
「ん、マオマオも匂いにつられてやって来た? 優しく抱っこして、落ち着かせよう」
椛もそっと妖魔の子を腕へ迎え入れて。
柔らかな背をゆっくりと撫でてあげれば……ん、ひんやりもふもふ、と頷く。
オロチも隣から興味深げに眺めているけれど、まずは驚かせないよう静かにそろり。
「おや? いつの間にか妖魔の猫ちゃんが隣に」
美味しいものに舌鼓を打っていたエレノールも、マオマオが横にいることに気づいて。
丁度良かった、と膝にのせてなでなで。
「はぁ、気持ちいい……」
屋台の熱気で少し暑いと感じていたから、氷の気配を纏う子のひんやりとした感触も存分に味わって。
熱いラーメンや串焼き、それに冷えたビールで温まった身体に、その冷たさが心地良い。
「あら、あちらに猫が……いえ、話に聞いた妖魔でしたね。ほら、こちらに来てください」
アネラスも手招きして、そっと頭を撫でれば。
「はぁ……ひんやりしていて……可愛い……お持ち帰りしたいです」
澄ました表情も思わず緩み、可愛いもの好きな本音がぽろり。
でも可愛い妖魔の子も、放っておいたら悪戯しかねないから。
「なんだかひんやりすると思ったらマオマオが釣れたね。暴れたりしないようにゆっくりと撫でて、落ち着かせようか」
ルナもやって来たマオマオの白い背をゆっくり撫でていく。
そして白い妖魔の子も皆に抱っこされたり撫でられて、すっかり大人しく寛いでいるようだ。
それから、ひんやりした毛並みを満喫したタージェはもう一度、苺かき氷の屋台へ視線をちらり。
「……何だか冷たいもの欲しくなってきたな」
食べたいものも、味わいたいものも、まだまだ尽きることはなくて。
ひんやりもふもふの白い妖魔の子を傍らに。
引き続き皆で、賑わい溢れる美味しい博多の夜を、まだまだ楽しく満喫していく。
夜を迎えた博多の街を彩るのは、連なる屋台の明かりと、絶え間なく行き交う人々の賑わい。
そして、夜風に乗って流れてくる美味しそうな匂いを辿るように、マルサイ第五班の一行も中洲の屋台街へ足を踏み入れた。
「うっわ~!! 屋台ってなんでこんなテンション上がるんだろーね!?」
古出水・蒔生(Flow-ov-er・h00725)は屋台街の活気に、わくわくと声を上げて。
「うん、なかなかの賑わいだ」
リーガル・ハワード(イヴリスの|炁物《きぶつ》・h00539)もこくりと頷くのだけれど。
人の波を避けるため、もふりと。
「うわ見てみてあれ、明太子専門店だって!」
「おい蒔生押すな翼の間に入るな」
蒔生は彼の翼をちゃっかり盾にしながら、背中をぐいぐい。
リーガルの抗議もなんのその、視線は早くも、ずらりと並ぶ屋台へ釘づけである。
斎部・七鯉(忌み部の錨・h08925)もくるりと視線を巡らせて。
「大変な賑わいようです。この混み合い方では私の背丈は見難い高さにあると推測します」
人々の隙間から周囲を確認しつつ、淡々と分析する。
「はしゃぐのいいけど、人混みの中で迷子になるなよ」
そして天使・夜宵(|残煙《ざんえん》・h06264)が蒔生へと声を掛ければ、七鯉はその姿を見上げて。
「一般の方との不要な接触を避ける為には、……天使様、お傍に置いて頂いても良いでしょうか」
構わないと、小さく頷いた夜宵の傍に位置取る。
これなら七鯉も人の波に埋もれず、屋台を巡ることができそうだ。
そしてチェスター・ストックウェル(幽明・h07379)も今宵は追惜を装備して実体化して、それに伴う痛みも対処済。
ということで、屋台を存分に堪能……する、その前に。
蒔生はふと、潤と夜宵を見上げて凄む。
「そこのオトナふたり! お酒は控えめにしてよね! 特に兄貴、今日は半分仕事なんだから!」
「はいはい。分かっていますよ、蒔生」
古出水・潤(夜辺・h01309)はそんな妹の言葉へとにこにこ応じて。
夜宵も酒を控えろと言われては、仕方ないと割り切るしかない。
けれど、蒔生へと視線を向けて返す。
「……蒔生、お前も人の事言えねぇからな」
早くも、明太子の辛味を絡めたほくほくのポテトと香ばしい鶏皮串を両手に持った、その姿を眺めれば。
釘を刺す側の説得力もないのであった。
そんなやりとりを耳にしながら。
「ま、こんな状況なら潤と夜宵は飲みたくなるだろう」
楽しげに歓談しながら屋台を巡る人々の姿に、自然と上がるリーガルの口角。
仕事は忘れてはいないが、目的を果たすためにも今は屋台を楽しむことが先決だから。
「……ああ、豚骨の良い匂いがしますね。食べ比べてみたいところですが、皆様も焼きラーメンは食べたいですよね」
潤が鼻先をくすぐる香りに誘われるように顔を向ければ。
鉄板へ注がれた豚骨スープが、じゅわっと白い湯気を上げていた。
「潤。僕も焼きラーメン食べたい」
リーガルもすぐさま告げてから、傍らへと実体化させるのは、エゾタヌキのグレンデル。
「グレンデルは今日はこれ必須な。あとお行儀良く」
そう言い聞かせつつ、鈴のついた首輪とハーネスをすちゃり。
肉や魚の匂いが満ちた場所だからこそ、今夜は特にお行儀良くしてもらわなくては、と。
ちゃんと装着させれば、グレンデルも準備万端。
「何人前買うべきか……七鯉様、お手伝いいただけますか?」
「何かお預かりしましょうか?」
数人分の焼きラーメンを受け取りに向かう潤に、七鯉も付き添って。
他の皆もそれぞれ気になる料理を選び、屋台の並びの一角へと持ち寄っていく。
リーガルが選んだ飲み物は、果肉入りの苺ソーダ。
炭酸の泡がきらきらと弾ける赤い一杯に、大きな明太子が贅沢に入った明太おにぎり。
定番から博多ならではな餃子巻きまで、出汁の染みた店主おすすめのおでんも数種類調達して。
そんな、皆の気になった料理が揃い始めた頃。
チェスターが、串を山ほど携えて戻ってきた……のは、いいのだけれど。
「え、夜宵の奢りじゃないの!?」
「は? 今日は奢らねぇぞ。自分の金で買っ……」
「“そこの赤髪長身カミガリが払います”って言っちゃったよ」
「……って、奢り前提で買ってきてんじゃねぇ……!」
豚バラや鶏皮など、合計八本。
|指の間に挟み《バルログ持ちし》ながら、チェスターが顎で焼き鳥屋を示してみせれば。
夜宵の眉間へ刻まれる皺が、ぐっと深くなる。
いや、さらに。
「ええ~! 後でアイス奢ってもらう気だったのに。まいっか、兄貴に頼も」
蒔生まで、さも当然のように奢られる前提だったらしい。
夜宵は重い溜息を吐き、チェスターの串を二本ほど奪ってから。
自分の分を買うついでに渋々代金を払い、少しならばとビールと豚バラ串も購入した。
そして、しゃきんと串を両手の指に挟んでいるチェスターだが。
「どうやって食べるのって……俺には念動力があるからね」
串を宙にふわりと浮かせれば、空いた手で緑茶サイダーをごくごくしゅわり。
お茶の爽やかな香りと弾ける炭酸が、脂の乗った串焼きにもぴったり。
そんなチェスターと、両手に明太ポテトと鶏皮串を抱えた蒔生を見比べながら。
「手の数以上に持てるというのは非常に有用ですね」
こくりと頷く七鯉の片手には、いちご串が。
「蒔生もチェスター様も、楽しんでいるようで何よりです。念動力はこういう時に便利ですね」
そしてそう続ける潤の両手には、いつの間に買ったのか、大量の料理が入った袋が提げられていた。
焼きラーメンだけを取りに行ったはずなのに、明らかに品数が増えている。
そうこうしながら料理を並べ終えれば、まずは皆で乾杯。
熱々の焼きラーメンには、豚骨の旨味とソースの香ばしさがぎゅっと絡んでいる。
表面は香ばしく、細麺はスープを含んでもちり。
野菜の甘さや柔らかな豚肉も加わって、箸が止まらなくなる味だ。
蒔生の明太ポテトも、ほくほくのじゃがいもに明太子の塩気とぴりっとした辛さが重なり、つまむ手が止まらない。
幾重にも巻かれた鶏皮串は外側がかりっと、中はむちり。
噛めば、凝縮された脂の旨味が口いっぱいに広がっていく。
そして、皆と料理をシェアしていたリーガルに。
「リーガル、夜宵様。顰めっ面をしていては場に相応しくありませんよ」
潤がそう言うなり押し付けたのは、表面を香ばしく炙った焼き明太子。
ひと口齧れば、外はぷちりと香ばしく、中はしっとり。
濃厚な旨味と辛味は、冷えた酒にも白いご飯にもよく合いそうだ。
「お酒も少しなら大丈夫でしょう」
夜宵も冷たいビールをひと口飲み、香ばしい豚バラ串を頬張る。
かりっと焼かれた表面から、甘い脂がじゅわりと溢れて。
添えられた酢キャベツを挟めば口の中もさっぱり、また次のひと串が欲しくなる。
もちろん潤も、どれも美味しくいただいて。
「潤に比べたら俺の食べっぷりなんてまだまだだよ」
チェスターがそう、次々と料理を平らげていく潤に視線を向ければ。
「ふふ、お褒めに預かり光栄です。次はあちらの餃子を、んぐ」
さらに別の餃子屋台へ向かおうとした潤の首根っこを、夜宵が素早く掴んだ。
「何をなさいます、夜宵様。私は猫ではなく梟で……」
梟であっても、動きが怪しそうだと察すれば、しっかり捕獲です。
それからチェスターは、指の串からひとつ。
「リーガルとグレンデルも豚バラ串はどう? 脂身が口の中で溶けるんだ」
ふたりの方へと移動させた豚バラ串をお裾分け。
リーガルは、ありがとうとそれを受け取って。
グレンデルにも肉を少し分けてやりながら思うのだった。
(「肉を前にした時のグレンデルの行儀の良さがすごい」)
それから、じっといい子に待っていたグレンデルも肉を貰って、嬉しそうにはむはむ。
けれど、チェスターはふと、視線をその足元へと向ける。
「ん? あ、あれ……例の妖魔!」
蒔生も小さな影に気づいて声を上げた。
料理を囲む皆の様子を窺っていたのは、白い妖魔の子。
「可愛くても食べ物にイタズラしたらダメだからね!」
「蒔生が食いしん坊スタイルで言っても説得力がなあ」
「変な持ち方してたチェスターさんに言われたくないし!」
両手に食べ物を持った蒔生と、串を八本も妙な持ち方で抱えていたチェスター。
どちらも説得力については似たようなものである。
そして七鯉は現れた妖魔シュエバオ・マオマオを確認すると、動物の扱いに慣れていそうなリーガルを見上げる。
「どう対処なさいますか、ハワード様」
「僕は扱いに慣れてるというか——あ、おい」
答え終えるより先に、グレンデルが背を丸め、もふっと毛を逆立てて。
自分を大きく見せるように身体を膨らませれば、マオマオへと、横へ横へと踏み出すやんのかステップ。
「七鯉、ちょっと撫でてあげたら?」
チェスターに言われれば、七鯉はマオマオの様子をじっと観察する。
こちらを警戒している様子はなく、料理の匂いに惹かれて興味津々。
改めて警戒を解く動作は不要と判断し、しゃがみ込んで両手を広げれば。
白い妖魔の子は、七鯉の腕の中へとそろり。
氷の気配を纏うひんやりとしたその毛並みを、七鯉はゆっくりと撫でていく。
「やっぱ可愛い……」
蒔生も、七鯉に抱かれたマオマオをちらり。
ふわふわな姿を見れば、そわりと訊ねてみる。
「ねぇ、何かあげてもいいかなぁ。グレンデルちゃんも食べる?」
マオマオとグレンデルに、屋台の味を分けてあげたくて。
いや、せっかくだからマオマオも一緒に、シェアするなら皆で。
「では、私から出汁巻きを贈呈致しましょうか。どうぞ、味は保証しますよ」
「いちご串もいかがですか」
潤が出汁をたっぷり含んだふわふわの卵を差し出せば、七鯉からは甘酸っぱい苺串。
「妖魔なら、多少味ついてても食えるだろ。グレンデルにもあげれそうだしな。それで平和に済むなら、それでいい」
夜宵も、皆で分けっこすることには異論なし。
「そうだな、一緒に楽しむことで悪戯を防げるならそれがいい」
リーガルも頷いて、マオマオとグレンデルにも、それぞれ食べやすいよう小さく分けた料理を分けてあげる。
皆と一緒に美味しいものを味わえば、マオマオだって悪戯をする必要なんてない。
それに、食べたいものはまだまだ尽きないから。
博多の屋台街で過ごす賑やかで美味しい夜は、もうしばらく続きそう。
暖簾の向こうから飛び交う注文の声に、行き交う人々の笑い声。
中洲の川沿いには賑やかな屋台がずらりと軒を連ねている。
そんな夜の屋台街に、ひときわ賑やかな声が響く。
「コウくん連れてきました! 飲み&おつまみ選んでもらうスペシャリストです。さあ、飲みますよ~!!」
「初っ端から突っ込み処が多いよ」
意気揚々と宣言する野分・時雨(初嵐・h00536)に、諦観の混じる声でぼやく尾崎・光(晴天の月・h00115)。
飲みとつまみを選ぶ係として連れて来られたと思えば、もう飲み始めるつもりらしい。
とはいえ、飲むなら先に腹へ何か入れておきたいし。
今夜はただ飲み食いを楽しむだけでなく、屋台街に現れる妖魔への対処が目的でもあるから。
「空きっ腹に酒は良くないから食べ物から選ぼう。任務上、腰を据えずに済む店が無難だろうね」
「空きっ腹に酒はダメ正論すぎる」
そんな光の言葉に、時雨もこくりと頷いて。
いい匂いがする屋台へと目を向けてみる。
「お腹ペコペコ? 何食べたい?」
漂うのは香ばしい串焼きや、濃厚な豚骨の匂い。
酒だけを先に入れるには、あまりに食欲を誘われる夜である。
というわけで、暖簾をくぐったのは、酒も肴もありそうな屋台。
炭火の上では、鶏だけでなく様々な具が刺さった串が香ばしく焼かれていて。
「僕はぐるぐる鳥皮と麦酒。他の串は店にお任せで」
「初心に返って日本酒飲みます。おつまみは胡麻さばで」
光はビールと鶏皮串に、店主おすすめの串を数本。
時雨が嬉々と頼んだのは冷えた日本酒と、福岡名物のごまさば。
ぐるぐると巻かれた鶏皮は、表面がかりっと香ばしく、中はむちり。
噛むほどに凝縮された脂の旨味が溢れ、冷たいビールの苦味が心地よく喉を潤していく。
そして名物のごまさばは、艶やかな身に甘めの醤油だれと香ばしい胡麻がたっぷり。
「甘めの醤油ダレで美味し!」
口に運べば、脂の乗った鯖へ濃厚なたれが絡んで、薬味の爽やかさが後口を引き締める。
そんな美味な肴と酒を、時雨は上機嫌に味わいつつ。
「コウくんはい、育ち盛り食べな」
「人間は成人したらほぼ育たないよ。きみの方のがまだ伸びそうだ」
「わかんないじゃんまだ伸びるかも」
その言葉に……野分の中での自分の年齢がおかしくないか、と目で訴えながら。
光は時雨の皿へ串物を置いて、代わりにごまさばをひと切れ失敬する。
そして時雨は、光の盃が空いているのを見逃さない。
「コウくんはい、盃空いてるから注いでおくね」
「はいはい勝手に入れない。終わったら河岸を変えるよ」
止めるより先に、酒がとくとくと注がれつつ。
光は半ば諦めたように告げ、屋台街の様子へも視線を配る。
ひとところに長居せず、食べ終えたら次へ。
任務中であることまで忘れたわけではないから。
もっとも時雨の興味は、今度は光の手元へ向いていて。
「ぐるぐる鶏皮ってなにちょうだい」
分けてもらった鶏皮を頬張れば、ぱりっと焼けた表面の内側にはむちむちとした弾力。
噛むほどに甘い脂の旨味がじゅわりと広がって。
なるほどこれは酒にもよく合うと、また日本酒が進んでしまう。
そして焼き鳥やごまさばを楽しんだ後、長居せずに移動して。
「うどんでしめたいな~。ごぼ天うどん気になる。福岡ってうどんも有名なんだ」
「冷たいうどんがいいな。明太釜バターうどんにしよう」
締めは、ラーメンと実は並んで福岡の名物であるうどん。
時雨が選んだのは、丼を覆うほど大きなごぼ天を載せた温かなうどん。
光は冷たく締めた麺に、明太子と卵とバターを絡めた一杯だ。
福岡らしい柔らかなうどんは、出汁を含んでもちもち。
「カリカリ衣のごぼううまうま。飲みまくったお腹に優しく染み入る出汁」
ごぼ天の衣はさくっと軽く、出汁が染みたところはじゅわりと柔らかくて。
噛めば、ごぼうの豊かな香りが鼻へ抜けていく。
それに黄金色の出汁を啜れば、昆布や魚介の優しい旨味がじんわり。
酒とつまみを楽しんだ身体に、ほっと染み渡る温かさ。
光の明太釜バターうどんは、冷たい麺へ明太子の辛味と卵のまろやかさと、溶けたバターのコクが絡み合って。
「まったりしているけど意外とさっぱりしていて面白いかな」
濃厚な組み合わせなのに、冷たい麺のおかげで口当たりは軽やか。
明太子の辛みと卵とバターのまろやかさが、もちもちの麺によく絡んでいる。
そして、光が味わっている一杯を時雨は見つめて。
「……明太釜バター。ちょうだい」
「そうやって返事を待たずに持って行かない。足りないならトッピングを」
「うまぁ。リセットされた」
満足げに目を細めた時雨は、続けて尋ねる。
「もう一杯行く?」
「……その一杯って絶対酒だよね?」
締めのうどんまで食べ終えたというのに、まだ飲むつもりなのか。締めとは。
そう思いつつ、任務もあることだし。
何より、酒も肴も、きっと美味しいに違いないから。
次はどの屋台を覗こうかと話しながら、再び賑やかな夜の中へ歩き出す。
川面に屋台の灯りが揺れ、夜風に乗って食欲を誘う匂いが流れていく。
そんな、今夜も多くの人々で賑わう中洲の屋台街を歩きながら。
「お、見て見てとーにゃん。スイーツ系の屋台が並んでるよ」
「本当だな、甘味系屋台は少数派ゆえ此処まで手厚いのは珍しい」
弾んだ声で呼びかける雨夜・氷月(壊月・h00493)に、狗狸塚・澄夜(天の伽枷・h00944)も興味深そうに屋台を眺める。
焼き菓子に冷たい甘味、そして目の前で生地を焼き上げるクレープ屋台。
「何食べる? 俺苺クレープ!」
「屋台クレープとは通だなひーにゃん、私も頂こう。悩ましいがバナナカスタードクレープを」
氷月が選んだのは、真っ赤な苺がごろごろと入ったクレープ。
澄夜は薄く焼かれた生地にバナナとカスタードを包み、さらにヨーグルトクリームをたっぷり追加してもらう。
受け取ったばかりのクレープに早速、氷月がはむりとかぶりつけば。
瑞々しい苺の甘酸っぱさとクリームの甘みが、口いっぱいに広がって。
「うまーい! とーにゃんの方はどう? おいしい?」
「溢れんばかりのヨーグルトクリームも追加にゃん……バナナとヨーグルトの甘酸っぱさが最高だな」
澄夜のクレープも、バナナとカスタードの濃厚な甘さに、ヨーグルトクリームの爽やかな酸味がよく合っていて絶品。
それを聞けば、氷月は澄夜のクレープにも目を輝かせて。
「ならそっちも買って食べようかな」
「俺太らないし、なんて世のオンナノコを敵に回してみたりして」
「そちらの方も美味しそうだ、ダブルでいくか……そういえば私も太らん。二人で恨まれよう」
「あっはは恨みの濃度が凄くなりそ!」
オンナノコに恨まれちゃうかもだけれど、それでももちろん、甘いものに対する意思は揺るぐことなく。
苺とバナナカスタードの味をダブルで、存分に楽しんでいく。
それから、クレープを美味しく食べたあと。
少し進めば、また果物を扱っていそうな屋台を見つけたけれど。
でも今度はクレープではなくて。
「アレはカクテル? とーにゃんアレも飲んでこ!」
氷月が指し示すのは、果物のカクテルがいただけるカフェバー屋台。
誘われるまま、澄夜も共に足を向けて。
「甘味を食べたら甘い飲み物が欲しい、心理だな」
甘いものの次ももちろん甘い飲み物の、甘いもの尽くしです!
屋台に入れば並んでいるのは、瑞々しい果実をふんだんに使った色鮮やかなグラス。
ふたりはそれぞれ、気になった一杯を選んでみることにして。
「私は大人メロンソーダを」
「ベリー系を掛け合わせたフルーツカクテルをお願い」
澄夜のグラスには、芳醇な生メロンとバニラアイス。
爽やかなスパークリングが注がれれば、甘くしゅわりと弾ける泡の上でアイスがゆっくりと溶けていく。
「生メロンにバニラアイスをスパークリングで割る、正に甘党の為のカクテルだ」
一方の氷月のグラスには、幾つものベリーを掛け合わせた鮮やかな色合いが。
「んー、甘さと酸味が絶妙」
口をつければ、果実の甘みと爽やかな酸味が、冷たいカクテルの中で心地よく重なって。
「ひーにゃんはベリー系が好き……成る程、確かに苺推しのようで」
「なんか苺が有名? ぽいから近いのにしよっかなって」
クレープに続いてカクテルも、苺に近いベリー系のものを選んだ氷月。
そんな氷月がグラスを傾けていると、ふと足元へ近づいてくる気配があった。
「ん? あれ、もふもふが来てる」
ひんやりとした毛並みを揺らしながらふたりの方へ寄ってくるのは、もふもふな妖魔の子。
そして勢いよく飛びつこうとするのを、氷月は笑いながらもふっと受け止めて。
「コラコラ飛びついちゃダメだよ」
頭をぽふぽふと撫でて宥めてみれば、マオマオは悪戯しようとするのをやめて。
大人しくその場に落ち着いたのだけれど。
「とーにゃん、このコひんやりしててきもちいよー」
「可愛い上にひんやりなのか。私も触りたい。ダブルイケメンで愛でよう」
妖魔の子の冷たい身体は、夏の夜にはちょうど心地よいから。
柔らかな毛並みを撫でてあげつつ、ひんやりもしっかり堪能して。
マオマオもすっかり満足したように目を細めている。
甘いもの尽くしな屋台の灯りが揺れる中——もふもふと、ダブルイケメンに愛でられて。
橋を渡れば、屋台の暖簾が夜風に揺れ、誘うような灯りが川沿いに連なっている。
そんな中洲の屋台街を歩きながら、中洲の街へと視線を巡らせるヴェーロ・ポータル(紫炎・h02959)。
この地にもすっかり馴染んでいるものの、異国の生まれ。
今夜は少しばかり観光客の気分で、地酒と焼酎、それにご当地グルメを目当てに屋台街を巡るつもりだ。
それに、今日は酒を飲み交わす友もいる。
「ハハハ、我も出身は日本ではのうてな。ヴェーロ殿とご一緒できるなれば、楽しゅうならぬはずがない」
ヴェーロと並んで歩くのは、酒を嗜める姿となった治部・亞比栖(紅玉の貴人・h00488)。
出身こそ異なるけれど、ふたりで共に巡れば。
「楽しくなりそうですね」
有意義な夜になるに、違いないから。
そして並ぶ屋台を見比べたあと。
ふたりが暖簾をくぐったのは、地酒や焼酎と共に福岡の定番料理を味わえる屋台。
「まぁまずは酒を一献」
亞比栖が上機嫌に杯を掲げ、それに応じるヴェーロ。
まず注いでもらったのは、福岡の地酒。
澄んだ酒を口に含んだ亞比栖はじっくりと味わった後、満足げに目を細める。
「……旨い! 旨味が豊かに広がる、この街の人情が表れたかのようだ」
続いては芋焼酎も試してみることにして。
「芋焼酎は初めてだな。ふむ……おお、なんと芳醇なコクだ」
豊かな芋の香りと、舌へ残るまろやかな甘み。
ゆっくりと喉を通っていく濃厚な味わいに、すっかり感心した様子の亞比栖。
もちろん、酒だけでは終わらない。
「焼き鳥や餃子は定番ですね」
ヴェーロが目を留めた焼き鳥は、鶏皮や鶏ももだけではなく、福岡ではお馴染みの豚バラも並んでいる。
焼き上がっては酢キャベツの上に置かれていく串を手にして口に運べば、豚の脂の甘みがいっぱいに広がって。
添えられた酢キャベツのさっぱりとした酸味が、脂の旨味を心地よく引き締めてくれる。
熱々の鉄なべで運ばれてきたひと口餃子も、底はぱりぱり、皮はもっちり。
中から溢れる肉汁と野菜の甘みが、地酒にも焼酎にもよく合っている。
「これに味の濃き食が、実に合う」
芳醇な芋焼酎を傾けながら、亞比栖も博多ならではの焼き鳥や餃子を堪能して。
そして福岡を訪れたならば、やはり外せないのが辛子明太子。
艶やかな赤い身へ箸を伸ばしかけ、ヴェーロは一瞬動きを止めるけれど。
「明太子……魚卵は少々抵抗がありますが試しに一口……」
恐る恐る口へと運んでみれば。
ぷちぷちとした食感に、唐辛子の辛みと魚卵の濃厚な旨味。
「ふむ、意外にも美味しい」
ただ辛いだけではなく、調味液の奥深い味わいが酒を誘う。
その反応に、すでに幾分酔いの回った亞比栖がご機嫌な様子で瞳を細めて。
「アビィさんはどれがお気に入りですか?」
「我の気に入りは辛子明太子だ」
亞比栖は明太子をじっと眺めながら、うっとりと語り始める。
「複雑な味であった。調味に工夫に工夫を重ねた味だ」
長く受け継がれながら、より美味しくなるよう手を加えられてきた味。
「人々がその命を継ぎ、高めてきた味なのであろうなぁ」
「我々にとってはちょっとした異文化交流でしょうか。確かにこの国の食には歴史を感じます」
酒や料理だけでなく、その向こうにある人々の営みにも思いを馳せて。
「ふ、人の暮らしも悪くありませんね」
「ああ。先住民を食らうほど野蛮ではないつもりだ」
さらりと失言が混ざった気もするけれど、それも賑やかな声に紛れて。
酒のせいということにして、二人は次の屋台へと移動する。
そして、次にふたりが足を向けた屋台は。
「デザートには苺のスイーツを」
大粒の県産苺がふんだんに使われたスイーツがいただけるという、苺尽くしの甘味屋台。
ヴェーロが選んだのは、大粒の苺を贅沢に飾った冷たいパフェ。
瑞々しい苺の下には、なめらかなミルクアイスと甘酸っぱい苺ソース。
さくさくの焼き菓子も重なって、食べ進めるたびに異なる食感を楽しめる。
「……ヴェーロ殿」
ふと呼ばれて瞳を向けば、亞比栖が果物へ期待に満ちた視線を落としていて。
「我も果物が欲しいなぁ。あーん」
「おや……酔っていらっしゃる?」
そう尋ねながらも、ヴェーロは大粒の苺をひとつ、亞比栖の口元へ差し出した。
そして甘い果汁を味わった亞比栖は、満足そうに目を細めて。
「みなで食すとより美味しいぞ。あーん」
今度はにこにこと、ヴェーロへと甘やかな果実をひとつぶ。
やはり酔っているのでは、と怪訝に思いつつも。
そのあーんには、ヴェーロも応じる。
そしてふいに、二人の足元に近づいてきたのは小さな影。
「おや、小さな猫さん」
甘い香りに誘われたのか、もふもふとした猫姿の妖魔がパフェを見上げている。
「あなたも空腹? 気持ちは分かりますよ」
それからヴェーロは屈み込み、猫妖魔へ優しく手を差し伸べて。
「妖魔といえ猫、人の食べ物は身体に悪いですよ」
……ほら、いらっしゃい、野菜や果実はいかがですか、と。
甘いソースの掛かっていない苺や、屋台で分けてもらった野菜を差し出してみれば。
猫妖魔は興味深そうに鼻を寄せ、やがて小さくひと口。
亞比栖も微笑ましそうにその様子を眺めながら、再び酒の余韻と甘味を楽しんで。
福岡の酒と食を巡る二人の異文化交流は、小さな猫妖魔まで加わった、賑やかで美味しいひとときに。
夜の中洲には屋台の灯りが連なり、行き交う人々の間を、食欲を誘う香りが漂っている。
そんな賑やかな屋台街を、皆で並んで歩きながら。
「こうして皆さんでお出かけするのは、何度あっても良い物ですね」
改めて紡ぐウィンディ・ディス・アストライア(|Dis Astraia《正義ならざる》・h12470)の言葉に、間宵・理央(まっさらから書き綴るわたし・h12873)も瞳を輝かせて。
「皆さんと一緒に美味しいものを食べに行ける……最高にハッピーです♩」
「皆さん、今夜は遠慮なく楽しみましょうね」
愛神・永愛(愛を求め彷徨う乙女・h00221)も博多の夜のひとときに心躍らせつつ、三人の位置へ気を配っている。
今宵の屋台街もたくさんの人々が訪れているから、人混みの中で誰かがはぐれてしまわないようにと。
そんな永愛の心遣いを感じつつ、クラーラ・ミュスティアウゲン(閉ざした瞳の武侠剣士・h12663)も周囲の気配には注意を払って。
四人で並ぶ屋台を眺めながら、今夜楽しむ美味しい味を探していく。
そして一軒の屋台の暖簾を潜れば、まず永愛が多めに注文したのは豚バラ串に鉄鍋餃子、それから焼きラーメン。
焼き立ての豚バラ串は表面が香ばしく、噛めば脂の甘みがじゅわり。
添えられた酢キャベツの酸味が後口をさっぱりと整えて、何本でも食べられそう。
鉄鍋の上で音を立てる餃子は、底がぱりっ、中からは熱々の肉汁と野菜の旨味が溢れて。
博多屋台の名物のひとつである焼きラーメンは、香ばしく炒めた麺に濃厚な豚骨の旨味とソースが絡み合って、箸が止まらなくなる美味しさ。
そんな福岡の美味を永愛がそれぞれの皿へ取り分ければ、理央は嬉しそうに次々と口へ運んで。
「おいしおいし〜♩」
はむはむと、小柄な身体のどこへ入っていくのかと思うほど気持ちよく平らげていく。
そしてその傍らで、ウィンディが自分用に確保していたのは大盛りの豚骨ラーメン。
癖になるほど濃厚な豚骨スープが細い麺に絡む一杯を、一杯目はカタでいただいて。
替え玉の二杯目は普通の茹で加減に。
三杯目には紅生姜を添え、爽やかな辛みで味を変える。
さらに四杯目には辛子高菜を加え、その刺激まで余すことなく味わって。
お茶を一杯飲み、口の中をすっきりと整えたかと思えば。
今度は、ご飯と爆弾餃子を追加注文。
「よく入りますね」
そんな替え玉の勢いや大きな餃子追加の声を聞きながらクラーラが告げれば、平然と答えるウィンディ。
「豚骨ラーメンは若い衆が空腹を満たす為の物ですから」
「ウィンディさん、素晴らしい食べっぷり……負けられない……!」
その様子を目の当たりにした理央も、俄然やる気を燃やして。
ふたりの気持ち良い食べっぷりに、嬉しそうに料理を追加注文する永愛。
クラーラも皆が頼んだ料理を少しずつ分けてもらい、福岡らしい味を皆で楽しんでいく。
そんなクラーラが選んだのは、やはり博多名物のごぼ天うどんとかしわめし。
福岡らしい柔らかなうどんを啜れば、優しい出汁の旨味がじんわりと身体へ染みていく。
大きなごぼ天は、衣のさくさくした部分と出汁を吸った柔らかな部分、どちらも楽しめて。
噛むたびに、ごぼうの豊かな香りが鼻へ抜けて。
「落ち着いた味わいが良いですね」
うどんと共に注文した、鶏肉と具材の旨味が染みたかしわめしも、素朴ながら後を引く味わいだ。
そしてクラーラも、皆にお裾分け。
「うどんを分けるのは……少々難しいですが、かしわめしなら少しどうぞ」
理央はその言葉に甘えて、かしわめしを一口、はむり。
もぐもぐと噛み締めれば、思わず瞳を輝かせる。
「美味……!」
その後も四人は、気になる料理を見つけるたびに買い足しながら、屋台街を巡っていく。
そして、理央が見つけたのは。
「むむ! 明太ポテトですって! 絶対美味しい! 皆さんの分買ってきてわけっこです♩」
さっそく注文してみれば、ほくほくのじゃがいもに、明太子のぷちぷちとした食感と程よい辛みがよく合って。
永愛も皆と一緒に、それぞれ頼んだものを分けあいこしつつ、笑顔で屋台巡りを楽しんで。
そうして温かな料理をたっぷり食べ歩けば、次に恋しくなるのは冷たい甘味。
「はっ! 暑くなってきましたし、苺かき氷も買ってきちゃう! これも皆さんの分買ってきます!」
理央が調達した苺かき氷は、ふわりとした氷に、県産苺を使った赤い蜜がたっぷり。
苺の甘酸っぱさと冷たさが火照った身体を心地よく冷ましてくれる。
けれど今夜の苺スイーツは、ただ美味しいだけではなくて。
「少し遅くなりましたが、お誕生日おめでとうございます」
永愛がクラーラへ贈ったのは、大粒の苺を贅沢に飾ったパフェ。
突然の祝いに、クラーラは少し意外そうな様子を見せた後。
「おや、ありがとうございます」
ありがたく苺パフェを受け取って。
さらに皆の手には苺ソーダ、そして永愛には苺カクテル。
しゅわしゅわと弾ける赤い飲み物を全員で掲げて——乾杯!
それからクラーラは、瑞々しい苺や甘酸っぱいソースがかかったミルクアイスを味わいながら、皆からの祝いを噛み締めていく。
そして、その時——勢いよく現れたのは、白いもふもふの妖魔。
屋台の料理へぴょんっと飛びつこうとしたマオマオだが、永愛が大きな身体で優しく受け止めて。
そのまま目線を合わせるように屈み、ふわふわの頭をなでなで。
「良い子にできたら、皆さんと一緒に食べましょうね……うふふ」
さらにウィンディの肥大化した右手が、ワシッとマオマオを掴んで。
「悪戯するのを止めるなら、ボク達の食事を分けてあげますが……どうします?」
「大人しくしてるなら明太ポテト、分けてあげますからね♩」
理央と共にルートブレイカーを発動させれば、触れた手からその力を打ち消して。
妖魔の子を落ち着かせるように、よしよし、いいこいいこ♩ と撫でて宥めていく理央。
そしてクラーラもそっと屈んで。
「食事を少々分ければ大人しくなるでしょう」
苺をひとつ差し出してみれば、マオマオは四人の傍ですっかり落ち着いて。
嬉しそうに、分けてもらった美味しいものをはむはむと味わい始めた。
福岡の名物料理に、苺尽くしの甘味、そして誕生日の祝いにと盛りだくさんの夜。
今夜の賑やかな屋台巡りは、白いもふもふの子も一緒に——美味しくて楽しい、笑顔のひとときに。
暖簾の下から漂う香ばしい匂いに、飛び交う注文の声。
今夜も多くの人々で賑わう中洲の屋台街へとやって来たのは、八曲署『捜査三課』の面々。
日南・カナタ(捜査三課のおまわりさん・h01454)は気合十分、びしっと手を挙げてから。
「張り込み捜査ですね! お供いたしますよ!」
渡された捜査内容へと、目を通してみれば。
「って……捜査内容を読ませて頂きましたが……どこまで読んでも食べ物のことしか書かれてない!?」
——豚骨ラーメン、焼きラーメン、餃子に焼き鳥、明太子。
「最後の方にちょろっと妖魔の事書かれてましたが……」
一応、出現する妖魔のことも書いてはあるのだけれど。
並んでいるのは、どう見ても福岡の美味しいものばかり。
そして、今回の案件の内容をしっかりと確認したカナタは。
(「なんだこのお仕事~~……大正解!!」)
いや、妖魔への対処ももちろん大切だ。
けれど今回は、屋台の料理を楽しむのも立派な任務。
ということで!
「日南カナタ張り切って参ります!」
「さぁ張込捜査だ! 色んな屋台の味を現場検証しないとねぇ……」
花畔・アケミ(越境特殊捜査室支部長・h00447)も威勢よく皆に告げた後、ずらりと連なる暖簾を懐かしそうに眺めて。
「若い頃はマル暴潰す手伝いに来たついでにハシゴしたもんさ」
やはり、仕事も屋台巡りも経験豊富な頼もしいボスである。
そして、擬人化装置で人の姿となった一戸・藍(外来種・h00772)も。
「博多の屋台って初めて来ました〜。いろいろなお店があって迷ってしまいます」
ずらりと並ぶ屋台を物珍しそうにきょろりと眺めて。
「経費で落とすし足りなきゃアタシの奢りだ。さ、好きに注文して食べな」
「出張費も飲食費も経費……なんて素晴らしい言葉……」
アケミの景気のいい言葉に、きらきらと瞳を輝かせるカナタ。
というわけで、まずは皆で気になる博多の味を注文していく。
「あ、俺豚骨ラーメンに餃子くださ~い! 焼き明太子も追加で~!」
「腹が減っては戦はできぬだべ! カナタくんの頼んだ豚骨ラーメン、美味しそうだべなぁ」
番田・陽葉(はぐれ 熊猫パンダ純情派・h10140)も屋台に並ぶ料理にわくわく、期待いっぱい。
それからメニューをひと通り眺めたあと。
「わだすは焼きラーメンと明太だし巻き玉子と、おでん盛り合わせを注文するべ。みんなでシェアすれば色んな味をたくさん食べられるべ」
皆で分け合いながら色々な種類のものを堪能するべく、気になる博多ごはんを選んでいく。
「焼きラーメン? 普通のラーメンとは違うんでしょうか。焼きそばみたいな?」
そして、藍はこてりとそう首を傾けるも。
「せっかくですので、焼きラーメンを頼んでみます」
博多ならではの焼きラーメンを陽葉と一緒に注文してみて。
運ばれてきた一品から漂うのは、濃厚な豚骨と香ばしいソースの匂い。
「汁無しの豚骨ラーメンなんですね、いい匂いです」
藍は食欲をそそる香りに瞳を細めたあと、はむりと口に運んでみれば。
炒められた細麺に豚骨の旨味がしっかり絡んで、熱々な麺と具材の美味しさが口いっぱいに広がっていく。
それから、陽葉が小皿へと取り分けるのは、明太だし巻き玉子。
「藍ちゃん! ほれ、だし巻き玉子だべよ」
ふるふると柔らかな玉子からは、優しい出汁の香りがして。
中に包まれた明太子の塩気と程よい辛みが、まろやかな玉子によく合っている。
そして各務・鏡(幽明・h09413)も、皆に続いて注文を。
「もつ鍋にご飯を頼もうかな。あとでお酒のあてにするからもつ鍋は大きめがいいなぁ」
酒も楽しみたいからこそ……まずはお腹を満たさないと、と。
頼んだ鏡の前に、湯気を立てる大きなもつ鍋が用意されれば。
「皆さんが頼んだ明太出汁巻きやモツ鍋もおいしそうですね~」
陽葉に分けてもらった明太だし巻き玉子を味わいながら、藍もその鍋へ視線を向けて。
湯気を立てる鍋の中には、ぷるりとしたもつに、たっぷりのキャベツとニラ。
醤油仕立ての澄んだスープに、もつの脂と野菜の甘みが溶け込んでいる。
「醤油味のもつ鍋って初めてだよ。今まで食べたことあるのは内臓ってことだからかな、味噌味がほとんどでね」
そう話しながら、鏡は小鉢にもつ鍋をよそい、皆の前へとそっと置いていく。
柔らかなもつを噛めばぷりっとしていて、甘い脂がじゅわり。
にんにくの香りが利いた醤油味のスープは、白いご飯にもよく合って。
アケミも嬉々と箸を進めつつ、屋台の店主に声を向ける。
「大将、何か旨いの見繕ってくれるかい? アタシは好き嫌いないからね」
そう頼まれれば、屋台の大将も腕の見せどころ。
まず並べられたのは、博多の酒肴として親しまれている酢もつ。
丁寧に下拵えされたもつは臭みもなく、噛めばこりこりと小気味良い歯応え。
爽やかなポン酢の酸味に、葱の香りと柚子胡椒のぴりりとした辛みが重なって、さっぱりしていながら後を引く美味しさ。
続いて焼き上がったのは、福岡の焼き鳥屋では定番の豚バラ串。
炭火で香ばしく焼かれた表面には、じゅわりと脂が滲んで。
頬張れば、程良く締まった肉の旨味と脂の甘みが、口の中いっぱいに溢れる。
合間に添えられた酢キャベツを摘めば、甘酸っぱい味わいで後口もさっぱり、また次の一本へと手が伸びてしまう。
さらに、大将が自信をもって差し出したのは、幾重にも串に巻きつけて焼き上げた、ぐるぐる鶏皮。
表面はかりっと香ばしく、中はむちりと弾力があって。
噛み締めるほどに、鶏皮の濃厚な旨味と脂の甘み、甘辛いたれの味わいがたまらない。
どれも皆で摘まむのにぴったりな、博多らしいとびきりの味であるし。
「あ、これビールに凄く合うヤツ」
酒の肴にもぴったりなものばかり。
「えっ! お酒も頼んでいいんだべか……? じゃあとりあえず生! みんなと乾杯するべ〜」
陽葉もやはりまずは、とりあえず生!
冷えたビールやノンアルコールの飲み物がそれぞれ届けば、皆でグラスを掲げて——乾杯!
喉を潤す苦みと爽快な喉越しが、濃い味の料理をますます美味しくしてくれて。
「ビールと味が染み込んだ焼きラーメンや、おでんが最高に合うべ!」
出汁をたっぷり吸った大根や餃子巻きを、はふはふもぐもぐと頬張っていけば。
あっという間にペロリと平らげてしまった陽葉だけれど……すぐさま屋台の大将に、おかわり!
そして、ちらりと視線を向けつつ、こう告げる藍。
「お酒も興味ありますけど、今回は遠慮しておきましょうかね。私、魚ですし……。酔って水面に浮かんだりしたら周りが困りそうなので……」
瞬間、ふと脳裏に浮かぶのは――夜の那珂川をぷかぷかと漂う、五十センチ超の立派なアロワナ……!?
いや、楽しい張り込み捜査が一転して、謎の外来魚騒動になってはたまらないから。
「……うん、藍は止しておこうね。那珂川にアロワナ浮いてたら流石にニュースになる」
アケミの言葉に、藍もこくりと素直に頷いて。
酒の代わりに、焼きラーメンやもつ鍋を美味しく味わっていく。
そして鏡は残しておいたもつを酒の肴に。
「銘柄はおすすめで頼むよ」
注いでもらった地酒を一口含めば、すっきりとした飲み口の向こうに、米の柔らかな旨味が広がった。
もちろん無理強いはしないし、無理に飲ませるぐらいなら自分で飲むけれど。
鏡は、飲める年齢の皆にも日本酒を勧めてみて。
「アケミさんにはぜひ一献」
「お酌は遠慮無く頂くよ。だって呑みたいもの!」
アケミは差し出された酒を当然のように、笑みながら受け取る。
ちなみに、少しくらいでは酔う気配もないザルである。
「鏡くんが頼んだお酒も気になるべ」
だから陽葉も……もちろん飲むべ! と。
鏡から勧められた酒をくいっと口にすれば、芳醇な香りと旨味に、ほわりと頬を緩ませて。
「むふふっ! いい気分だべさ〜♪ ほらほら、ボスも一杯どうだべか? わだすがお酌をするべさ〜」
陽葉からの酒ももちろん、アケミは遠慮なく受け取る。
そんな姿を眺めながら、鏡は穏やかに笑って口にする。
「こんなに若いのにボスなんて偉いねぇ。でも気張りすぎないでね」
長い時を生きる鏡からすれば、アケミはまだまだ十分に若い。
そしてそんな言葉を聞きながら。
「あらやだ、若いだなんて嬉しい」
アケミが啜るのは、食べたかった豚骨ラーメン。
「豚骨のコラーゲンがアタシの美肌の秘訣だよ」
「豚骨いける若い胃袋がうらやましいね」
濃厚な白濁スープと細麺を楽しむアケミへ、鏡はそうしみじみと告げるのだった。
そうしてボスや署の仲間達と、わいわい屋台の味を楽しんでいた——その時。
少し離れた席で、他の客同士が声を荒らげ始めた。
次第に激しくなる言い争いを見て、すぐに立ち上がるカナタ。
いくら食事を満喫していても、おまわりさんとして見過ごすわけにはいかない。
だから、素早く間に入って喧嘩を止めれば、興奮した客の矛先が変わる。
「お前誰や!」
「八曲署の捜査三課や!」
だが臆することなく、そうすかさずガンを飛ばして返してきたカナタに驚いて。
何も言い返すことができず、大人しくなる客達。
それから、大事になる前に喧嘩を収めたあと——もっふり、ひやり。
「おっと熱くなっちまった。こんな時にはひんやりマオマオ~」
少し熱くなった頭を冷やすため、現れた白いもふもふをひょいと頭へ載せるカナタ。
ひんやりとした身体と柔らかな毛並みが、火照った頭に心地よくて。
アケミも、いたずらっ子なマオマオを宥めるように、撫でて愛でながら。
「〆にパフェも頂くかね」
最後に注文するのはやはり、デザートの甘いもの。
瑞々しい大粒の県産苺や冷たいアイスが重なったパフェを味わえば、酒と濃い味の料理を楽しんだ後の口にもぴったり。
張り込み捜査に、屋台料理の現場検証。
さらには喧嘩の仲裁と、マオマオの対処まで。
捜査三課の面々は、賑やかな博多の夜の美味しい任務をきっちりと、楽しく遂行していくのだった。
那珂川にかかる橋を渡れば、夜の中洲に連なる屋台の灯りがゆらりと揺れて。
暖簾の向こうからは美味しそうな香りが漂い、あちらこちらから聞こえてくる楽しげな声。
「すげー、賑やか!」
……師匠とおじさんと、夜の中洲屋台! って。
ふたりと共に屋台街へやって来た天ヶ瀬・勇希(エレメンタルジュエル・アクセプター・h01364)は、初めて目にする光景に瞳を輝かせて。
(「せっかくの屋台ですから恭司さんもお誘いして、みんなで来ました!」)
アリス・アイオライト(菫青石の魔法宝石使い・h02511)も三人で過ごす夜に、|菫青石《アイオライト》の瞳を細める。
館花・恭司(天ヶ瀬・勇希のAnkerの√能力喪失者・h05086)も、世界を越えた屋台巡りに穏やかに笑って。
「王劍戦争の付き添いで√マスクド・ヒーローの博多に宿をとったけど、観光は√EDENへ来ることになるなんてね」
三人で過ごす賑やかな夜も、楽しいものになりそうだし。
「今日はおじさんがいるから師匠が酔い潰れても大丈夫だし、俺も美味しいものいっぱい食べようっと!」
「えっ、ユウキくん、何で酔い潰れる前提なんですか?」
早くも勇希から寄せられた信頼ならぬ心配に、心外そうに返すアリス。
「もう成人して一年以上経ちましたし、許容量くらいわかってますよ」
「はは、それじゃ一年の成果を見せてもらおう」
そんなふたりのやり取りを微笑ましく見守る恭司も穏やかに笑って。
「はしご酒がしたいなら、軽めのお酒を選ぶようにね」
保護者からの助言にアリスは頷いてみせながら、まずは三人で暖簾を潜ったのは焼き鳥の屋台。
炭火の上では串が香ばしい音を立て、食欲を誘う煙が立ち昇っている。
そしてメニューを眺めながら。
「焼き鳥屋で豚バラから注文するなんて面白い」
まずは、当たり前のように豚バラから頼むものだと、そう聞いたから。
福岡流に今夜は添ってみるのもいいと、恭司は大将へ注文を告げる。
「じゃあまずは豚バラを三人分、後はお任せで頼もう」
そして恭司が選んだ飲み物は、冷えたビール。
アリスは、名産の果物を使ったカクテルやサワーの中から、県産苺のカクテルを選んで。
「俺はご当地っぽいジュースが飲みたい!」
勇希が選んだのは、県産の大粒苺を使った、鮮やかな赤い苺サイダー。
甘酸っぱい果実の風味と、しゅわしゅわ弾ける炭酸が爽やかな一杯だ。
それから運ばれてきた恭司のグラスへと、アリスは少し羨ましそうな視線を向けて。
「ビールが飲めたらいいんですけどね」
全員の飲み物が揃えば、三人でグラスを掲げる。
「かんぱーい!」
「乾杯! うーん、お酒も串料理も美味しいです!」
そして、グラスをカチリと重ね合っている間にも。
焼かれていく豚バラ串は、滴る脂が炭火の上でじゅっと音を立てて。
表面に香ばしい焼き色がつけば、焼き立ての串が酢キャベツの上に置かれていく。
そんな豚バラ串へと、早速手を伸ばしてみて——はむり。
「豚バラ熱っ、はぐ、でもうまい!」
勇希が熱々を頬張れば、程良く締まった肉の歯応えと共に、甘い脂がじゅわり。
塩気が肉の旨味を引き立てて、噛むほどに美味しさが溢れてくる。
そしてお通しとして出された酢キャベツをぱりぱりと食べてみれば、甘酸っぱくてさっぱりした味わい。
豚バラの脂もすっきり、飽きることなく、すぐに次の一本へと手が伸びてしまう。
さらに、大将のお任せで並んだのは、かりっと焼けた鶏皮や弾力のある砂ずり、脂がのったぼんじり。
普段は焼き鳥を食べる機会があまりない勇希は、恭司からそれぞれの部位を教えてもらいつつ、次々と味わってみて。
串と酢キャベツがあればいくらでも飲めそうだけれど——でも、はしご酒はまだ始まったばかり。
恭司はビールを一杯だけ楽しみ、次の屋台へ移る頃合いを見計らう。
けれど、アリスは果実酒と串料理の組み合わせがすっかり気に入った様子で、ほわほわ。
「これは席を立つタイミングに迷ってしまいます……!」
でも名残惜しいくらいが、次の楽しみを残すにはちょうどいい、と。
そう恭司に教えられれば、アリスも後ろ髪を引かれながら席を立つ。
「次は俺が選んでいい?」
再び屋台街へ出た勇希が早速、辺りをぐるりと見回して。
「明太子の屋台がいい! おにぎり食いたいんだー!」
わくわくと指したのは、福岡名物のひとつ、明太子尽くしの屋台!
「ふふ、やっぱりユウキくんはごはんがいいんですね」
そんな勇希の選択にアリスは微笑みながら、三人で暖簾を潜って。
勇希が注文したのはもちろん、ほかほかの白いご飯にたっぷりと明太子が入った、明太おにぎり。
それを待ちきれないようにぱくり、大きくひと口頬張れば。
「うーん、やっぱり本場のはすごくうまい!」
ふっくら炊き上がった米の甘みと共に、明太子の粒がぷちぷちと弾けて。
ぴりっとした程良い辛みの後から、濃厚な旨味と塩気がじわりと広がれば。
またすぐにひとくち頬張って、もぐもぐ。
恭司は、そんな夢中でおにぎりを食べる勇希を見つめながら。
ふと、以前から気になっていたことを口にする。
「そう言えば明太子を冷蔵庫に入れておくといつのまにか量が減っていたけど、もしかして勇希が食べてたのかい?」
そしてアリスがいただく明太だし巻き玉子は、ふわりと柔らかで。
幾重にも巻かれた玉子から出汁が溢れ、中に包まれた明太子の塩気と辛みと合わさったその味わいは絶品。
一緒に、大将のおすすめのすっきり飲みやすいサワーもいただきつつ。
恭司も地酒を一杯。酒の肴にと勧められた、表面を香ばしく炙った焼き明太子もお願いして。
薄皮の中に詰まった粒はふっくら、噛めばぷちぷちと。
凝縮された旨味と香ばしさが、口いっぱいに広がって。
すっきりとした地酒を含めば、その辛みと塩気がさらに後を引いた。
そして、ほんのりと頬を赤く染めて。
「ふあ~、ちょっとふわふわしてきました……」
明太だし巻き玉子を味わっていたアリスの瞼が下がってくれば。
「って師匠! やっぱり酔っぱらって寝てる!」
「違いますよお、昨日も夜更かしだっただけで……」
反論する声も、どこかふわふわ。
それからアリスは案の定、こくりこくりと舟を漕ぎ始めてしまう。
そんな師匠を呆れたように見ながらも。
「もー、その辺のマオマオに頼んでひんやり起こすしかないか!?」
勇希は食べかけのおにぎりを手に、近くに現れた白いもふもふを誘ってみて。
美味しそうな香りにつられ、マオマオは勇希の傍へ。
そのまま眠るアリスへと近づいた妖魔の子が、ひんやりとした鼻先をちょんと寄せれば。
「ひゃっ……!?」
冷たい感触に、アリスがぱちりと目を開いた。
そして、自分がうとうとしていたことは棚に上げて。
「もうっ、ユウキくん……!」
「寝てたのは師匠だろ!」
驚かされたことに頬を膨らませるアリス。
そんな、だいたい予想していた通りの彼女の様子に、恭司も楽しげに笑いつつ。
「ははは、アリスくん、スイーツの屋台にも行くんだろう? ここで寝てたら名産苺が逃げてしまうよ?」
名産苺という言葉を聞けば、眠気が残っていた|菫青石《アイオライト》の瞳もぱちり。
そして三人は甘い味を求めて、次は苺尽くしのスイーツ屋台へと向かうのだった。
博多の夜に連なる屋台の灯りを眺め、ゆっくりとふたり並んで歩きながら。
初めて訪れる博多で、初めての屋台。
戦争とはいえ……おいしい気配にるんるん。
暖簾の向こうから漂ってくる香りと、夜の屋台デートに、不忍・ちるは(ちるあうと・h01839)の足取りも自然と弾んで。
「ようやく足を運べた屋台だ。存分に食べ明かそう、ちるは」
屋台が初めての彼女を気遣うように、隣を歩く和紋・蜚廉(現世の遺骸・h07277)は、そっとその歩幅に合わせて。
予兆に上がった時はどうなることかと危惧したものの……思いのほか存分に巡らせてもらえる戦場となった、と。
そう思っていれば聞こえるのは、わくわくと弾む声。
「いっぱいお店があって悩んでしまいますね」
あちらにもこちらにも、気になる暖簾がいっぱい。
そして何より、今宵も屋台街にはたくさんの人が訪れているから。
(「無論、逸れぬことも第一にな」)
蜚廉は隣を歩く彼女へと手を差し出して。
その手を取り合えば、ふたりで手を繋いで、賑やかな屋台街を歩いてみる。
そして、ちるはは少しばかり緊張しながら、蜚廉と一緒に屋台の暖簾を潜って。
隣同士に腰を下ろせば、立ち昇る湯気がふわりと頬を撫でた。
「博多と言えば、これも外せまい」
蜚廉が示したのは、ぐつぐつと煮え立つもつ鍋。
まずはふたりでウーロン茶を掲げて、かんぱーい。
それからちるはは箸を構えて、きりり。
……蜚廉さんが外せないという以上ばっちり食べねばなりません、と。
見つめる鍋の中には、艶やかなもつとたっぷりのキャベツ、鮮やかな山盛りのニラ。
にんにくの香りを纏った醤油仕立ての出汁が煮立つたびに、食欲をそそる香りが辺りに広がっていく。
そして丁寧に下処理されたもつは、箸で持ち上げればぷるりと揺れて。
はむりと口へ運べば、柔らかな身がとろけるようにほどけて、濃厚な脂の甘みがじゅわりと溢れ出した。
もつの旨味と野菜の甘さが溶け込んだ出汁も、白いご飯との相性は抜群。
出汁を少し吸わせた米をもぐもぐ、もつを頬張って、また米をぱくり。
「実に味わい深い」
蜚廉も満足げに頷きながら、もつ鍋と米を存分に味わっていく。
そして具材を堪能した後はまだ旨味がたっぷりと残る鍋へと、ちゃんぽん麺を投入。
熱い出汁の中を潜った太めの麺は、もちりとしていて。
もつと野菜の味を余すことなく纏った麺を啜れば、今度は二膳目のご飯へと手が伸びる。
ちゃんぽんと米——そう、米2回目。
けれど、この美味しさならば仕方ありません。
〆を迎えたはずなのに、まだ食べられてしまう美味しさ。
これはまさに、替え玉ならぬ〆のループの始まりであった。
けれど、福岡には美味しいものがまだまだたくさん。
「だが、醍醐味は主役だけではない」
蜚廉が箸を向けたのは、お通しとして並べられた酢もつ。
薄く切られたもつを口に運べば、こりこりと心地良い歯応え。
ぽん酢の爽やかな酸味に、柚子胡椒の香り高い辛みがきりりと利いている。
「この組み合わせが外れる道理はあるまい」
確かに、さっぱりとしていながらも後を引く味わいで。
そして蜚廉の言う通り、これもまた米とよく合っていて。
ちるはも、酢もつをもぐもぐ。
「んむむ……これはきっと、お酒がのめたらもっとよいのでは……」
まだ今はウーロン茶だけれど、この味を酒と共に楽しめる年齢までは、あと少し。
その時が待ち遠しい気持ちと、また今度もふたりで来る楽しみと。
どちらも隣にいる蜚廉と一緒に味わえるのだから——やはり美味しいは幸せだ。
さらに、出汁の染みた大根や博多ならではの餃子巻きが並ぶ、おでんも頼んでみて。
箸を入れればふわりと柔らかな明太だし巻き玉子からは、優しい出汁がじゅわっ。
玉子のまろやかな甘みの中、明太子の塩気と程良い辛みがぷちぷちと弾け、ついつい何杯でも米が欲しくなってしまいそう。
そして、温かな料理をたっぷり味わった後は、冷たい甘味も気になるところ。
「最後は、暑さを吹き飛ばす苺のかき氷で締めとしよう」
蜚廉の言葉に頷きながら、ちるはも気になる県産の大粒苺を使ったかき氷を探してみて。
ふたりが見つけたのは、鮮やかな赤色が目を引く苺尽くしの屋台。
早速お目当ての、苺のかき氷を頼んでみれば。
ふんわりと盛られた真っ白な氷の上には、果肉感のある鮮やかな赤い苺の蜜がたっぷり。
ひと匙掬えば、氷は舌の上で淡くほどけて。
苺の瑞々しい甘さと爽やかな酸味が、火照った身体をすうっと冷ましていく。
蜚廉も冷たい甘味を味わいながら、うきうきと幸せそうなちるはへと穏やかな視線を向けて。
ひんやり甘酸っぱい苺の美味しさを、ふたりで存分に堪能する。
けれど、気になる暖簾は尽きないから。
「まだまだハシゴしましょう」
「ああ。次は何を味わおうか」
これからも連戦が続くのならば、次なる屋台を選ぶことだって、大切な作戦会議。
だから、再び手と手を繋いで——ふたりは次の美味しい戦場へ挑むべく、賑やかな屋台街を歩き出す。
賑わう屋台街を巡りながら、気になる暖簾を見つけるたびに足を止めて。
これまで福岡の味をたっぷり堪能してきたふたり。
シンシア・ウォーカー(放浪淑女・h01919)は、味わってきた料理を思い返しながら指折り数えて。
「境華さんと色々な屋台行きましたからねぇ。ラーメン、餃子、小篭包に……」
「殆どのお店を回れたのではないでしょうか……あ」
そう口にした神隠祇・境華(金瞳の御伽守・h10121)が、不意に足を止める。
そして、ふと向けられた金の瞳が見つめる先。
「シンシアさん、苺の屋台があります」
屋台を鮮やかな赤色に染めているのは、ずらりと並んだ大粒の苺。
そして赤く艶めく果実を使った、華やかな甘味の数々。
それを目にすれば、シンシアも銀の瞳を瞬かせて。
「はっ、スイーツ系は全然行ってませんね。私も苺食べたいです!」
ふたりで早速、甘酸っぱい香りが漂う屋台へ。
店先を見渡せば、瑞々しい苺を使った様々な甘味が並んでいて。
「ひとくちに苺スイーツといっても色々あるのですね」
「苺串に、苺大福、苺パフェ……飲み物も」
どれも美味しそうで、つい目移りしちゃうけれど。
こういう時の一番の解決法を、境華は告げる。
「これは、少しずつ頼むしかありません」
そしてそう紡がれた言葉に、シンシアも大きく頷けば。
まず境華が選んだのは、大粒の苺を連ねた苺串。
表面を包む薄い飴へと歯を立てれば、ぱきんと小気味良く割れて。
瑞々しい苺の果汁と共に、甘酸っぱさが口いっぱいに広がっていく。
その美味しさに、境華は金の瞳を細めて。
「……美味しいです」
「私も苺串ください。あとは苺大福に苺かき氷も気になります……!」
シンシアは色々な苺スイーツに心惹かれながらも、境華の横で。
同じ苺串を手にすれば早速、ぱくり。
「水飴の甘さが苺のおいしさを引き立てています!」
ぱりぱりの甘い飴と大粒の甘酸っぱい苺の味わいが絶妙で。
苺串を美味しく食べ終えても、まだ目の前には気になる甘味がたくさん。
「大福も気になりますし、パフェは二人で分ければきっと大丈夫です」
境華が次に手を伸ばした苺大福は、白く柔らかな求肥の間から鮮やかな苺が顔を覗かせて。
もちりとした生地を噛めば、なめらかな餡の甘みと苺の瑞々しい酸味がひとつになる。
やさしい甘さの後に果実の香りがふわり、苺串とはまた違った美味しさで。
「苺ミルクも、苺ソーダも……あ、苺かき氷も良いですね」
まろやかなミルクの中に、潰した果肉がたっぷり入った苺ミルクをくるり。
かき混ぜてみれば、白と赤が混ざり合い、淡い桃色へと変わっていく。
そして苺ソーダは、鮮やかな赤色の中を細かな泡がしゅわり。
弾ける炭酸と甘酸っぱい風味が、軽やかで爽やかで。
ふたつのグラスを時折交換しながら、境華はシンシアへとこう提案する。
「今日は苺に溺れる日ということで、いかがでしょうか……?」
「れっつ苺祭り! 今日は苺に溺れましょう!」
そう——これから始まるのは、ふたりの苺祭り!
続いて注文した苺かき氷は、ふんわり削られた氷の上に、惜しみなくかけられている果肉感たっぷりの苺の蜜。
匙を入れれば氷はさらりと崩れて、ふわっと冷たい余韻を残すように消える口どけ。
苺の瑞々しい甘みと酸味が残る中、その冷たさが、たくさん屋台を巡った身体を心地良く冷ましてくれて。
そして次にふたりで分け合うのは、苺パフェ。
透明な器の中には、大粒の苺に甘酸っぱい果実のシロップ、冷たいアイスが彩りよく盛りつけられていて。
「苺はもちろんですが、このソースもおいしいです。ミルクアイスと滅茶苦茶合います」
じっくり味わいながら、シンシアがご機嫌に笑みを深めれば。
境華も同じように、苺とミルクアイスを一緒に掬って。
「本当ですね、アイスを合わせるとすごく美味しいです」
濃厚でまろやかなアイスが苺の酸味をやさしく包み、果実の甘さをより引き立ててくれる。
そして——そんなふたりの苺祭りに惹かれてか、現れたのは白いもふもふ達。
甘い果実に興味津々な様子でそろりと近づいてくるマオマオ達に、境華は苺串をそっと掲げて。
「こちらで一緒に食べましょう」
穏やかに招けば、妖魔の子達も大人しくふたりの傍へ。
そんな妖魔の子に、シンシアは首を傾けて見せつつ。
「どうしましたマオマオ達。普段はわけてあげないところですが、なにせ今日の私はゴキゲンですからね」
とびきり上機嫌な笑顔で、苺をひとつ。
「特別に苺のおすそわけですよっ。どうぞっ!」
マオマオ達は差し出された果実を嬉しそうに、はむり。
そのご機嫌なおすそ分けの様子に、境華もくすりと微笑みを零して。
まさに甘酸っぱい苺尽くしな今宵の屋台巡りは、白いもふもふ達も交えた、楽しい苺祭りのひととき。
白濁した豚骨スープの香りに、炭火から立ち昇る香ばしい煙。
賑わう中洲の屋台街を歩けば、あちらからもこちらからも、食欲を誘う気配が漂ってきて。
「面白い謎と美味いもんの匂いだにゃ!」
愛嬌たっぷりに笑い、楽しげに辺りを見回すのはロマイサ・アズール(怪奇を喰らう虚像・h09075)。
「博多の屋台、ずっと来てみたかったんだよね。ロマイサ、何から食べる?」
隣を歩くガザミ・ロクモン(葬河の渡し・h02950)も、初めて訪れた屋台街に赤い瞳を輝かせながら。
まず暖簾を潜ったのは、濃厚な豚骨の香りが漂うラーメンの屋台。
そしてすかさず、博多名物の豚骨ラーメンを注文するロマイサ。
「わたしはバリカタだにゃ!」
「バリカタ……? ラーメン専用の詠唱なのかな」
そんな聞き慣れない言葉にガザミは不思議そうに首を傾けたものの、同じものを頼んでみて。
ほどなく目の前へ置かれたのは、真っ白な湯気を立てる博多ラーメン。
白濁したスープへ細い麺が沈み、青葱ときくらげ、柔らかな叉焼が彩りを添えている。
まず最初にスープを口に含めば、豚骨の力強い旨味がまろやかに舌を包んで。
バリカタに茹で上げられた麺は噛むたびに小気味良い歯応えで、濃厚なスープがしっかりと絡んでいる。
ロマイサは箸を止めることなく、ずずっと豪快に麺を啜って。
ガザミも熱々の一杯を味わったあと、次に漂ってきた炭火の香りへ瞳を輝かせた。
「次の店は焼き鳥にしよう」
続いてふたりが向かったのは、炭火の上で串が焼かれている屋台。
早速頼んだのは、博多ならではの厚切りの豚バラ串に、幾重にも巻かれたぐるぐる鶏皮。
炭火で焼き上げられ、香ばしい焦げ目がついた豚バラには、厚い肉の断面から熱い肉汁が滲んでいて。
大きく噛みつけば、心地良い弾力と共に肉の旨味がじゅわり。
きりりと利いた塩味が、その美味しさをさらに引き立てる。
ぐるぐる鶏皮の表面は、何度も焼かれてカリカリで。
噛み締めれば内側の食感はむっちりとしていて、染み込んだ甘辛いたれの香ばしさが口いっぱいに広がる。
ガザミがひと串ずつ、にこにことゆっくりそれらを噛み締める傍ら。
ラーメンから変わらぬ勢いで、豚バラ串も鶏皮も次々と平らげていくロマイサ。
負けず嫌いな猫娘探偵は最後のひと口を飲み込めば、得意げに胸を張って。
「にゃはは! わたしの勝ちだにゃん!」
「すごいなぁ、負けちゃったよ」
ガザミはにこにこと、ロマイサの見事な食べっぷりを素直に称える。
けれど、勝利した猫娘探偵はそれだけでは終わらない。
すかさず焼き鳥に大量の辛子を塗りつけると、何も知らないガザミへ差し出して。
「あーん」
ぱくりと口に放り込まれた、その次の瞬間。
からしの強烈な刺激が一気に鼻へ抜けて――ガザミはぴしりと一瞬硬直!
赤い瞳にはじわりと涙が浮かび、ふるふると辛さに震えつつ、しばし動けないまま。
そんな見事な反応を目にすれば、悪戯成功とロマイサは大はしゃぎ!
それでもガザミは、辛子たっぷりのその一本をしっかり噛み締めて。
「タレの甘辛さと刺激が合って美味しいよ」
あくまで前向きに完食する。
そして同じように辛子をたっぷり塗った串を手に取れば、今度はロマイサの前へ。
そんな差し出されたその串を、大きく口を開けて——ぱくり。
ぴりりと鋭い辛みを楽しげに味わえば、満足そうに笑うロマイサ。
「からし焼き鳥、うまいにゃ。気に入ったにょ♪」
そんなふたりが、辛くて美味しい焼き鳥を味わっていれば。
ふいに屋台の料理へと目がけ、白いもふもふが勢いよく飛び出して、ぴょんっ。
けれど、ガザミが大きな身体で進路を優しく遮り、ロマイサも横からしっかりと受け止める。
ひんやりとしたその身体を傷つけないように抱えれば、そのままふたりで穏やかに撫で撫で。
「冷たくて気持ちいいにょ〜」
ロマイサはふわふわの毛並みに触れながら、すっかりご機嫌に。
ガザミも妖魔の子が落ち着くまで涼みつつ、ゆっくり優しく頭を撫で続ける。
そしてマオマオも悪戯をやめて、ふたりの傍で大人しく寛ぎ始めれば。
賑やかな博多の夜の屋台街で、再び誇らしげに胸を張るロマイサ。
――美味しく楽しく、博多の夜を完璧に解決だにゃ! って。
夜の中洲に並ぶ屋台からは、湯気と共にさまざまな香りが流れてきて。
焼ける肉の香ばしさに、濃厚な豚骨スープ、甘い匂いまで、屋台街いっぱいに漂っている。
そんなたくさんの人々で賑わう中洲の川沿いをわくわくと歩きながら。
「食の楽しみが尽きない街、福岡博多……!」
……さっそく屋台ご飯を覗かせて貰おうかな、って。
常磐・兼成(酒侵讃歌・h10142)は楽しげにきょろり、周囲を見渡して。
「どこからも美味しそうな匂いが漂ってるけど……」
でも、まず向かう先はもう決まっている。
——此処はやっぱり、明太子専門屋台からで!
ということで、赤く艶めく明太子が並ぶ暖簾を見つければ。
兼成は迷わずその席へと腰を下ろした。
「辛味と濃厚な旨味は酒の肴にもピッタリだよなぁ」
まずは明太子をそのまま味わって、地元で造られた酒も一献。
そう注文すれば、ほどなく兼成の前に、瑞々しく艶めく明太子と冷えた酒が並べられて。
明太子を箸で切れば、薄い皮の中から粒がほろり。
口に含めば、ぷちぷちとした小気味良い食感と共に、唐辛子の辛味と魚卵の濃厚な旨味が広がっていく。
そこへ酒を流し込めば、鋭く澄んだ味わいが明太子の濃厚な旨味を引き締め、もう一口と箸が進んだ。
「専門屋台らしいし他には何があるかな?」
そう改めて品書きを眺めれば、明太子を使った料理がずらり。
出汁巻き玉子で包んだものは、ちょっと話に聞いたような気がして。
早速頼んでみれば、ふっくらとした玉子の中から鮮やかな明太子が姿を見せる。
熱い出汁がじゅわりと滲むやさしい甘みにぴりりとした辛味が加わって、これもまた酒が進む味わいだ。
「明太フランスに明太おにぎり……パンにも米にも合うなぁ」
焼き立ての明太フランスは表面がぱりっと香ばしく、中はもっちり。
染み込んだ明太子の塩気とバターの芳醇な香りが重なり、噛むほどに濃厚な旨味が増していく。
明太おにぎりは、ほかほかの白米の甘みと明太子の辛味が絶妙で。
酒の合間に明太茶漬けを口にすれば、温かな出汁へ明太子の塩気と旨味が溶け込んで、さらさらと喉を通っていく。
「明太れんこんと明太ポテトと……大体なんでも明太子と合わせたら、おいしい気がしてきたな?」
そう言いつつ頼んだ明太れんこんは、薄切りの蓮根へ明太子を詰めた、しゃきしゃきと小気味良い歯触りの一品。
ほくほくのじゃがいもへ明太子を絡めた明太ポテトも、まろやかな味わいの中に辛味が利いている。
そんな福岡の気になる味を堪能しながら——此処でしか味わえない屋台ご飯も、目一杯に楽しませてもらおうっと、なんて。
兼成は酒杯を傾けつつ、明太子尽くしの夜をまだまだ満喫していくのだった。
灯りを連ねた中洲の屋台街には、熱々の料理や甘味の香りが満ちているけれど。
「妖を迎え撃つ為に屋台を楽しむ、であるか……」
そんな今回の目的に思案するように、レイパスト・サンカバー(新生せし「|界食《EclipseZero》」・h06654)は中洲の屋台街を見渡した。
立ち並ぶ暖簾の向こうからは、食欲を誘うさまざまな匂いが漂ってくる。
そして、如何に楽しむべきかと考えていれば。
「明太子を生地に練り込んだ煎餅……?」
屋台の店主から差し出されたのは、一枚の薄い煎餅。
では、と勧められるままに一口、試しに食べてみれば。
ぱりっと軽快な音を立てて割れた煎餅からは、香ばしく焼かれた生地の風味と共に、明太子の旨味が広がって。
後からぴりりと訪れる心地良い辛み。
そして。
「気がついたら2枚目が我の手に……!?」
いつの間にか再び手が伸びていたくらい、予想以上に美味しくて。
驚きながらも二枚目をぱりぱりと食べ終えたレイパストは、店頭に並ぶ小袋へ金の瞳を向ける。
「こ、これも縁、一口サイズが詰まった袋を一つ、待ち伏せの伴としよう」
そして明太子煎餅を手に入れれば、話に聞いた妖魔の子が現れるのを待つのだけれど。
「だがまだ妖は見えぬ……」
未だそれらしい姿は見当たらない。
それからきょろりと辺りを見回すと、次にレイパストの目へ飛び込んできたのは、鮮やかな赤色の果実であった。
「……ふむ、苺の甘味……」
目に留まったのは、県産の苺を使った甘味が並ぶ屋台。
そして赴いた店で選んだのは、アイスやいくつもの大粒苺が飾られた華やかなパフェ。
そんなひんやりと内に通るような、甘酸っぱいパフェを味わっていれば——レイパストの足元にもふりと、何か柔らかなものが外から触れてきて。
「……!? ね、猫!? も、もしや汝が件の妖であるか!?」
驚いて見下ろせば、そこにいたのは白くふわふわとした妖魔の子。
「……こ、ここはしかと迎え撃たねば、な」
相手は屋台を狙って現れた妖魔。
ならば、この場でしっかりと食い止めなければならない、と。
「煎餅か、パフェか、あるいは……」
そして屋台に並んでいた、淡い桃色の飲み物へ目を留めた。
「……いちごみるく……であるか……!」
選んだのは、潰した苺の果肉がたっぷり入った苺ミルク。
共に苺ミルクや甘いパフェを味わえば、警戒していた妖魔の子もすっかり大人しくなって。
そのまま、レイパストの小さな膝へくるり。
「むむ、我の膝上で眠るか……!」
白い身体を丸めてしまった。
そんな、すうすうと寝息を立て始めたマオマオを見下ろして。
「な、なれば我も汝を抱えて……」
レイパストは戸惑いながらも、落ちないように両腕で、もふもふの身体をそっと抱き留める。
こうして妖魔をしかと迎え撃ち、屋台も十分に楽しんで。
レイパストはもふもふひんやり、博多の夜を過ごすのだった。
夜の中洲に連なる屋台からは、香ばしい煙と熱々の湯気が立ち昇っていて。
「あっちこっちから美味しそうな匂いがっ……!」
猫・桃花(梦想厨师・h13139)は緑の瞳をきらきらと輝かせ、賑わう屋台街を見渡した。
「はっ……! ここが噂に聞く日本の食い倒れの街なのでしょうかっ!」
どこを向いても、気になる料理ばかり。
次々と暖簾を見比べながら、桃花は期待に声を弾ませて。
「日本に来たらラーメンを食べてみたかったのですよねっ♪ あとあと餃子もっ!」
鉄板の上でこんがりと焼かれていく餃子にも、料理好きな桃花の興味は尽きないから。
「日本では焼き餃子が主流と聞きましたし、私の育った中国の水餃子との違いを体験してみないとなのですっ!」
ラーメンも餃子も、どちらも見逃せない。
そして、まずどちらから味わおうかと、桃花は屋台を見比べて。
「まずは餃子を買ってからラーメンの方がいいでしょうか?」
そう決めて向かったのは、鉄板から香ばしい音が響く餃子の屋台。
品書きを覗けば、定番から博多らしい変わり種まで並んでいる。
「餃子も味が色々と! えっと普通の焼き餃子と……あと明太子入りをお願いしますっ!」
焼き立ての餃子を、熱さに気をつけながら——ぱくり。
香ばしく焼けた底はぱりっと、薄い皮はもちり。
中からは熱い肉汁がじゅわっと溢れ出して。
「焼き目がぱりぱりで香ばしいですねっ! もちっとした水餃子とは、全然違う美味しさなのです♪」
続いて明太子入りも味わってみれば、肉餡の旨味に、辛味と塩気がぴりっ。
「明太子のぷちぷちした食感も楽しくて、程良い辛さが後を引きますっ。これは次々食べたくなる味ですね!」
そして、故郷の水餃子との違いもしっかり確かめた後は。
「焼きラーメンも気になるところですが……今回は普通のラーメンにしましょう……!」
待ち望んでいたラーメンの屋台で、定番の博多ラーメンを注文してみたものの。
「カタ? バリカタ? えっと……普通でお願いしますっ!」
麺の硬さを尋ねられれば、聞き慣れない言葉に少し迷いつつも普通でお願いして。
ほどなくして運ばれてきたのは、白い湯気を立てる博多ラーメン。
「白いスープのラーメン! どんな味か楽しみなのですよっ♪」
まず蓮華で白濁した豚骨スープをひと口。
濃厚な旨味とまろやかなこくが広がれば、桃花の顔もぱっと綻んだ。
「見た目はとっても濃厚なのに、まろやかでするっと飲めちゃいますっ! お肉の旨味がぎゅっと詰まっているのですね♪」
細い麺を啜ると、程良い歯応えと共にスープがたっぷり絡んでくる。
「細い麺に白いスープがよく絡みますねっ。きくらげのこりこりした食感も、良いアクセントなのです!」
日本ならではの焼き餃子と、初めて味わう博多ラーメン。
料理好きらしく、その味わいを存分に確かめながらも。
桃花は新たな美味との出会いを、笑顔で食レポしながら楽しむのだった。
灯りを連ねる中洲の屋台街を、カシエル・アズリオン(Blue Grace・h12926)はひとり歩いていた。
立ち並ぶ屋台をひとりで巡るのは、これが初めて。
賑わう人々や暖簾の向こうを、きょろり、きょろりと窺いながら進んでいけば。
甘い香りに誘われるように辿り着いたのは、苺を使ったスイーツが並ぶ屋台。
「……此れならば一人で食べれそうですね」
そして選んだのは、大粒の苺を連ねた苺串。
艶やかな赤い果実を包む薄い飴は、屋台の灯りをきらきらと映していて。
まるで宝石のような美しさに、カシエルは暫しじっと見入ってしまう。
それからようやく、そっと口元へ運んで——ぱくり。
ぱり、と小気味良く飴が割れた後、瑞々しい果汁と共に苺の甘酸っぱさが口いっぱいに満ちて。
飴のまっすぐな甘みが果実の酸味をやさしく包んで、噛むほどに香りもふわりと広がる。
そしてそんな美味しさに、思わずほわりと頬を緩めていれば。
「おや……」
自分を興味津々に覗く、白いもふもふがひとつ。
甘い香りに惹かれた妖魔の子は、今にも屋台へ飛び込んでしまいそうな様子で。
「こら、屋台に突撃してはなりませんよ」
穏やかに窘めれば、マオマオはぴたりと足を止める。
でもその視線は、カシエルの苺串に釘付けのまま。
「……もしかして、あなたも食べたいのでしょうか」
そう尋ねながら、苺串をそっと差し出してみれば。
妖魔の子は尻尾をふりふり、赤い果実をぱくっ。
嬉しそうにはむはむ味わうその様子を見届けてから、その頭を優しく撫でてあげて。
ふんわりと柔らかな毛並みは、触れてみればひんやりとした心地。
その感触にも、カシエルの頬はますますやわらかく緩んで。
「ふふ……もっと食べますか?」
呼びかける声に、マオマオもそわり、期待するように見上げてくる。
だから、カシエルは屋台へ向き直ると、穏やかな笑みのまま店主へ声を掛けた。
「屋台のお兄さん」
そして傍らの小さな妖魔の子を示しながら、やさしくお願いして。
「この子も食べやすいスイーツをいただけますか」
用意されたひと口大の苺や柔らかな甘味を、仲良く分け合いこ。
初めてのひとり屋台巡りはいつしか、白いもふもふの子と共に楽しむ、甘く穏やかなひとときに。
香ばしい煙に白い湯気、さらに甘い香りまで。
賑わう中洲の屋台街には、美味しそうな気配がいっぱい溢れていて。
「うーんうーん」
その中で、玉響・刻(探偵志望の大正娘・h05240)は立ち並ぶ暖簾を前に腕を組む。
「どうしましょう! こんなにいっぱい屋台があってはどれを選んでいいか、わかりません!」
あちらには熱々のラーメン、こちらには明太子料理。
さらに向こうには、色鮮やかな果実のスイーツまで。
うーんと真剣な顔で悩んで、悩んで、さらに長考するけれど。
いつまでも頭を悩ませているだけでは、せっかくの博多の味を楽しめないから。
「とりあえず考えてても始まらないので行動してみます!」
意を決して、まず向かったのは豚骨の濃厚な香りが漂う屋台。
「まずは……やはり豚骨ラーメンですっ!」
本場へ来たからには、これは外せない。
ほどなく運ばれてきた一杯は、白濁したスープに細麺、青葱やきくらげ、柔らかな叉焼が添えられていて。
熱々のスープを口に含めば、豚骨の深い旨味がまろやかに広がる。
そこへ細麺を啜れば、濃厚な味わいがよく絡み、箸が止まらなくて。
思わず、再びメニューへと目を向けそうになるけれど。
「トッピングや替え玉等もやりたい所ですが、ここは涙を飲んで一杯だけですっ、他もありますから」
名残惜しさを振り切って、次に目指すのは明太子の専門屋台。
「次は名物明太子! ここは、明太子だし巻き玉子とおにぎりですっ!」
ふっくら焼かれた出汁巻き玉子を割れば、中には鮮やかな明太子。
口に運べば、やさしい出汁の甘みに、ぴりりとした辛味と塩気がいいアクセントに。
明太おにぎりも、ほかほかの白米の甘みに、明太子の濃厚な旨味や辛味がよく合っていて。
「うーん、これは美味しいですねっ、やはり本場は一味違いますっ!」
そうこくりと大きく頷きながら、美味しさに唸りつつ。
食事の締めくくりにと、刻の視線がふと向いたのは。
「さて、これだけでも大満足ですが、やはりこう甘いものも欲しくなりますっ」
色鮮やかな県産苺を使った甘味の屋台。
そして、締めに選んだのは。
「苺パフェを最後にいただきますっ!」
大粒の苺をたっぷり飾った華やかなパフェ。
瑞々しい苺の甘酸っぱさに、冷たくてクリーミーなアイス。
果実のソースやクリームも重なれば、飽きることなく匙が進んで。
「はぁ、博多の美味しい物に少しは触れられた気がしますっ!」
迷いに迷って始まった屋台巡りは、どれも大正解!
満足そうに笑み咲かせながら、刻は美味しい余韻と共に、賑やかな博多の夜を楽しむのだった。
橋の下の川面にゆらりと、いくつも揺れている屋台の灯り。
そんな賑やかな博多の夜に並ぶ店々を気ままに眺めながら。
「たまには一人でぶらついてみんのも悪かねえな」
……屋台飯巡りでもするとすっか、と。
夜縹・雨菟(仮初・h04441)は、香ばしい匂いが漂う中洲を歩いてみることに。
そして、まず足を止めたのは。
「博多明太はやっぱ外せねえよな」
博多名物のひとつ、明太子を使った料理が並ぶ専門屋台。
そのまま味わうものから、香ばしく炙ったものまで、どれも美味そうだけれど。
「普段あんま食わねえやつにしとくか。出汁巻きとれんこんで行ってみるか」
注文してみた明太出汁巻きは、ふっくら柔らかな玉子の中に明太子がたっぷり。
噛めば温かな出汁が滲んで、やさしい甘みの中で辛味と塩気が程良く利いている。
明太れんこんは、しゃきっとした蓮根の歯触りに、明太子の濃厚な旨味がぴったり。
「明太って色んなもんと相性良いよなあ。なんか酒も飲みたくなってきたな」
違った食感の二品を味わううちに、自然と酒も欲しくなってくる。
それから次に見つけたのは、ちょっぴり他の屋台とは違った雰囲気。
「こっちはなんだ? 洋風スタイルか」
それは、洋風の料理と色鮮やかな飲み物が並ぶ屋台であった。
ご当地もんの酒もいいが、カクテル系でもいいな、と。
そう考えていた雨菟の目にふと留まったのは、こんがりと焼き上げられた一品。
「お、あのキッシュ美味そうじゃん。まだ腹には余裕あるし、苺カクテルとキッシュも食っちまうか」
焼きたてにフォークを入れれば、さくり。
さくさくな生地の中には、熱々でまろやかな卵の生地と具材の旨味が詰まっていて。
キッシュのお供にと頼んだ冷えた苺カクテルは、果実の甘酸っぱさと華やかな香りがふわりと広がって、濃厚なキッシュともよく合っている。
そして、カクテルのグラスを傾けていたら——ふと見えたのは、屋台へ近づく白いもふもふ達。
「ん……? これが件の妖魔か?」
甘い香りに惹かれたマオマオ達は、今にも料理へ飛びつきそうな様子。
「可愛かろうが屋台荒らしはいただけねえからな」
けれど、無理に追い払う必要もないと。
雨菟は大きな白い尻尾をふわっと揺らしてみせて。
「こっちも猫なんでね。猫の扱いには慣れてんだわ」
――お前らはこっちだ、と。
ゆらり、ふわふわと動く尻尾に、マオマオ達の興味はたちまち釘付けに。
料理のことも忘れたように、てしてしとじゃれつく白いもふもふを、雨菟は巧みに遊ばせて。
一人で気ままに楽しむ屋台飯巡りは、美味しいものを堪能しつつも白いもふもふ達と戯れる、賑やかな夜になるのだった。
中洲の川面に揺れる赤提灯の灯りと、暖簾の向こうから漂ってくる美味しそうな香り。
そして、賑わいをみせる中洲の屋台街を前にして。
「博多といえば、ポンコツラーメン!」
開幕からボケ倒す、今宵のジェイド・ウェル・イオナ・ブロウクン・フラワーワークス(笑おうぜ・h07990)は絶好調。
そんな声に、クラウス・イーザリー(太陽を想う月・h05015)は、ぱちりと瞳を瞬かせたあと。
「ポンコツ? 豚骨ラーメンのことかな」
「ん? あ、そうそうそれそれ!」
そう柔らかくクラウスが笑えば、笑顔のまま頷いて。
飲む前からほろ酔いなのかと思うほど、テンションが高いジェイド。
だって、美味しそうなものがたくさん並ぶこの場所をまた、先輩と一緒に巡れるのだから。
そしてそれは、クラウスも同じ気持ち。
(「美味しそうなものがたくさんあるし、何よりもジェイドと一緒だからわくわくする」)
それから、ふたり笑い合いながら、周囲をくるりと見回してみて。
まずは白い湯気と濃厚な香りに誘われ、博多といえばの、豚骨ラーメンの屋台へ。
けれど暖簾を潜ろうとした、その瞬間——ぴょんっ。
屋台へ飛び込もうとしたのは、白いもふもふ。
だがジェイドは、しかし……と。
そんな悪戯しようとする妖魔を見遣りながらも思う。
(「ねこちゃん大好きイーザリー先輩にかかれば、延々もふもふの刑に処されるのみ」)
そして、それと同時に。
「わあ、ねこちゃんだ!」
クラウスが素早くマオマオを、もふっと抱き留めた。
そしてそのまま、つかまえたふわふわの身体を思う存分、もふり倒しながら。
「君もおいしいものを食べたくて来たの? えへへー、冷たくて気持ちいいなあ」
ひやりとしたかわいい妖魔の子に、すっかりでれでれ。
マオマオも屋台への突撃も忘れて、大人しくクラウスの腕にちょこんと収まっている。
そんな、あまりにも予想通りの光景に、ジェイドの笑顔もますます深くなって。
——此処が|楽園《√EDEN》か……。
そうそっと、賑やかな博多の夜空を仰ぐ。
(「かわいいものを愛でる先輩がかわいい」)
それからマオマオが落ち着いたところで、改めてふたりは暖簾をくぐり、博多ラーメンを注文して。
白濁した豚骨スープは、濃厚な旨味をたたえながらも口当たりはまろやか。
細い麺を啜れば、その一本一本に熱いスープがよく絡む。
そして博多の定番を堪能した後は、炭火の香りに誘われて焼き鳥屋台へ。
けれど、肉そのものを前にすると、ジェイドの笑顔の奥にはほんの少し緊張が走る。
それを知るクラウスは急かさず、並ぶ串の中から食べやすそうなものを指差して。
「これなんていいんじゃないかな。柔らかい骨? みたい感じで美味しいよ」
「軟骨? 骨食うの?」
首を傾げつつ、肉だけでは少し構えてしまうジェイドは、まずは葱が挟まった焼き鳥を選んでみる。
香ばしく焼けた鶏肉の旨味に、葱の甘さと瑞々しさが加われば、肩の力も少し抜けて。
続いてクラウスが勧めた軟骨を齧ってみれば、小気味良い歯触り。
「コリコリしてて好みかも」
そう無理なく少しずつ味わう様子に、クラウスも穏やかに笑んで。
焼き鳥を楽しめば、今度は地酒も気になってくるジェイド。
でも、クラウスがあまり酒に強くないことも知っているから、小さな酒杯で地元の酒をちまっと味わって。
楽しそうに杯を傾けるそんな彼のことを、隣で見守るクラウス。
それから向かったのは、大粒の苺や華やかな甘味が並ぶ屋台。
苺が好きなクラウスの表情は、店先を見ただけでほわりと明るく綻んで。
「先輩苺好きだし、こないだの猫と苺の店を思い出すね」
「うん。√妖怪百鬼夜行での苺スイーツ巡りを思い出すね」
ふたりが同時に思い出して口にしたのは、春のお出かけ。
猫又の店主に迎えられ、苺団子や苺ミルクをふたりで味わった、あの苺祭り。
食べ物に臆病なジェイドが、クラウスと一緒だからと少しずつ甘味へ手を伸ばせた、春色の思い出。
そんなことを思い返しながら、瑞々しい苺を飾ったパフェをふたりで味わっていると。
「あ、またねこちゃんがじゃれてきた」
甘い香りに惹かれたマオマオが再び、クラウスの足元へもふり。
クラウスは嬉しそうにしゃがみ込み、またその頭から背まで撫で回していく。
「苺もちょっと分けてあげよう」
差し出された果実を嬉しそうにはむはむ食べるマオマオと、それを見守りながら笑うクラウス。
そんなやりとりを目にしながら、かわいいなあ、とジェイドは思う。
……もちろん、先輩が、って。
そしてお互いそれぞれ、ふわりと和みながら。
「お、苺のカクテルいく? 果実酒だと牛乳割もおすすめって、知り合いから聞いたよ」
店主へ尋ねれば、苺の果実酒をミルクで割った、まろやかなカクテルも作れるというから。
クラウスの分は少量にしてもらって、淡い桃色のグラスをふたつ。
かちりと軽く合わせて——ふたりで、乾杯。
苺の甘酸っぱさとミルクの優しいこくを楽しみながら、ほろ酔い気分で屋台を巡る。
戦争の最中とは思えないほど、楽しい観光気分で。
飲んで、食べて、時々寄ってくる白いもふもふを撫でて。
そして、屋台巡りの締めに選んだのは明太子茶漬け。
「〆はお茶漬けだね」
ほかほかのご飯に明太子と刻み海苔を添え、熱い出汁をたっぷり注いだ一杯。
さらさらと口に運べば、出汁へ溶けた旨味と、明太子のぴりりとした辛味が身体へ染み渡って。
「この明太子ってやつ、辛くて美味しいな」
「しあわせ! ごちそうさま!!」
満面の笑みで声を弾ませるジェイドに、クラウスも幸せそうに笑い返す。
——すごく幸せだ、って。
そして、ふたりが存分に屋台巡りを楽しむ頃。
料理へ飛びつこうとしていたマオマオ達もたくさん構ってもらって、すっかり穏やかになっていた。
皆のおかげで満ち足りた白いもふもふ達は、もう屋台を荒らすこともなく、博多の夜にのんびりと寛いでいる。
美味しいものと、時々のもふもふ、そして賑やかな声が溢れる楽しいひととき。
そして、そんな幸福な笑顔に満ちた博多の夜に響き渡る声はもちろん——たくさんの、ごちそうさま!
