⑮欢迎!氷菓花宴
『……暑いですね』
水鏡天満宮で、食鉄大師がぽそりと呟いた。
もふもふの白黒毛皮に、重厚な装束。涼しげな顔を保ってはいても、夏の暑さからは逃れられないらしい。
そして、そんな食鉄大師の何気ない一言を聞き逃さずに。
『教主様が、暑いと仰せだ!』
『氷菓を用意しよう。かき氷に、冷たいアイスもだ!』
『氷菓の後には、温かなものも欲しくなるかもしれぬ。湯の中で花が咲き、目でも舌でも楽しめる工芸茶など、教主様にもお喜びいただけるのでは?』
カルト教団『黑白蓮教』のパンダ信者たちは大張り切り。
教主を喜ばせたい一心で手配した結果、水鏡天満宮には、数え切れないほどの氷菓と中国茶が運び込まれた。
——ところが。
『心頭滅却すれば、火もまた涼し、です』
既に平静を取り戻し、威厳たっぷりにそう告げる食鉄大師。
それを聞けば、パンダ信者たちは大慌て。
『えっ、教主様は、召し上がらないのか!?』
『しかし、こんなに頼んでしまったぞ!』
『保存の術にも限度がある。いずれ氷菓は溶けてしまう……』
『ならば茶会を開き、新たな信者を迎えよう!』
こうして始まったのが、黑白蓮教の信者勧誘を兼ねた氷菓と花の茶宴である。
けれど、これは単なる夏の茶宴ではない。
パンダたちは、カルト教団『黑白蓮教』の信者。その教主である食鉄大師は今、水鏡天満宮に集積したゾディアックから、謎の神器『ゾディアック・ミラー』を創造しようとしている。
氷菓と花の宴は、その神器が形作られてゆく傍らで開かれているのだ。
『欢迎! 氷菓花宴へ、よく来られた!』
訪れた者は入信を考えているのだろうと、パンダ信者たちは快く迎え入れてくれる。
大量に注文してしまった品々を食べてもらえれば、彼らも大助かり。
遠慮せず、好きなものを好きなだけ楽しんで構わないらしい。
アイスは、定番のバニラやチョコレート、ソーダやチョコミント等はもちろん。
あかくて、まるくて、おおきくて、うまい——そんな甘い県産苺を使った苺ミルクや、福岡の茶どころで育った香り高い抹茶。地元で採れた爽やかな甘夏やレモン、甘みの濃い完熟いちじくも揃っている。
甘い九州醤油とミルクを合わせた、キャラメルかみたらし団子を思わせる甘じょっぱい味や、明太子の粒を練り込んだミルク味という変わり種まで。
一段でも二段でも、望むなら何段でも、好きな味を重ねていい。
かき氷は、用意されたものを選んでもいいし。自ら氷を削ってオリジナルの一杯を作ってもいい。宴の準備を手伝ってくれたのだと、パンダ信者たちもきっと喜ぶだろう。
県産苺や完熟いちじく、爽やかなレモン、香り高い抹茶など、地元の味を楽しめる色とりどりのシロップを、ひとつだけ掛けても、好きなものを組み合わせても。
練乳や白玉、あんこ、寒天、果実も、好きなだけ添えられる。
中国茶には、湯を注ぐと花開く工芸茶。
咲かせたい花の色を選んでも、どんな花かは開いてからのお楽しみにしてもいい。
ほかにも、香り華やかなジャスミン茶や烏龍茶、こく深いプーアル茶など、様々な茶葉が並ぶ。温かいまま味わっても、氷を加えて冷たいお茶にしても構わない。
パンダ信者たちが楽しそうに氷菓を頬張り、透明な茶器の中では、色鮮やかな花がゆっくりと開いていく。
その光景は、食鉄大師の背後で揺らめく、創造途中の神器『ゾディアック・ミラー』にも幾重にも映し出されていた。
『…………』
心頭滅却を続ける食鉄大師の視線が、苺のかき氷へ向けられている。
ほんの少しだけ、先ほどよりも長く。
こうして水鏡天満宮では、新たな信者を歓迎するための——賑やかな氷菓花宴が、幕を開けたのだった。
●欢迎、氷菓花宴
「水鏡天満宮で、新たな王権執行者『食鉄大師』が、神器を創ろうとしているよ」
楪葉・望々(ノット・アローン・h03556)は集まった皆に、星詠みの予知を告げる。
食鉄大師は、√仙術サイバーでカルト教団『黑白蓮教』を率いる教主。
ドロッサス・タウラスから奪ったゾディアックを水鏡天満宮へ集積させ、謎の神器『ゾディアック・ミラー』を創造しようとしているのだという。
「ただ、今は信者のパンダたちが、氷菓と中国茶をたくさん用意して、入信希望者を歓迎する茶会を開いているみたい」
水鏡天満宮を訪れれば、パンダ信者たちは、茶会へ来た者を『黑白蓮教』への入信を考えているのだと思い込み、喜んで迎え入れてくれる。
大量に頼んでしまった氷菓を食べてもらえるだけでも、彼らにとっては大助かり。
好きなかき氷やアイスを選んで食べるのはもちろん。
アイスを何段にも重ねたり、オリジナルかき氷を自分達で作ったりもできるし。
工芸茶や中国茶を味わうこともできるという。
この宴に参加すれば、自然と紛れ込めるだろう。
「でも、食鉄大師の背後にある鏡のようなオーラには、もうゾディアックの力が集まっているよ。その力で、食鉄大師は数秒先の未来を予知できるようになっているみたい」
こちらが攻撃を仕掛けても、その動きを先に読み、回避や反撃を行うことができる。
正面から挑むだけでは、攻撃を届かせるのは難しいだろう。
けれど今、ゾディアック・ミラーの周囲には、色とりどりの氷菓や、透明な茶器の中で花開く工芸茶が並んでいる。
工芸茶の花や宴の光景を鏡へ幾重にも映し、数秒先に起こる出来事を読みづらくしてもいい。食鉄大師が気にしている氷菓を美味しそうに目の前で食べて、その注意を鏡や戦いから逸らすこともできるだろう。
それぞれが得意とする手段で、数秒先の予知を上回っても構わない。
「それでね、氷菓花宴を楽しみながら、食鉄大師の予知を惑わせて、ゾディアック・ミラーを奪ってきてほしいんだ」
この水鏡天満宮を制圧できれば、ゾディアック・ミラーはEDENたちの手に渡る。
新たな未来を、敵ではなく自分たちの力で見通すために、作戦を成功させて欲しい。
望々はそこまで告げると、EDENたちに指し示す。
氷菓と花咲く茶宴が開かれる、水鏡天満宮への道を。
第1章 ボス戦 『食鉄大師』
水鏡天満宮にずらりと並ぶ、色とりどりの氷菓。
賑わう茶宴を眺めながら、レイラ・ウー(|契約至上主義のアウトロー武侠《ウラギリハユルサナイ》・h12286)は楽しげに口元を緩めた。
「せっかく福岡まで来たネ。今日は楽しませてもらうヨ」
戦いのことは、ひとまず忘れて。
せっかくこれだけの品が揃っているのだから、今日はご当地の味を存分に堪能していこう、と。
まず目を留めたのは、福岡ならではの素材を使ったアイスだ。
甘い苺ミルクに、香り高い抹茶。爽やかな甘夏と、濃厚な甘みの完熟いちじく。
ひとつに絞る必要なんてないと、気になった味を一段ずつ重ねてもらえば、四つの色が華やかに連なるアイスのできあがり。
「どれから食べるか迷うネ……でも、全部食べれば問題ないヨ」
迷った末の結論は、実に単純明快。
まず掬った甘夏は、口いっぱいに広がる爽やかな酸味が夏の暑さに心地いい。
続く苺ミルクは、果実の甘酸っぱさをまろやかなミルクが包み込む、やさしい味わいだ。
抹茶は鼻へ抜ける豊かな香りと、甘さの中に残るほろ苦さが印象的。
完熟いちじくは、とろりと濃密な甘みが舌に残る。
ひとつずつ違う味を楽しんでもいいし、ときには隣の味と一緒に掬ってみても面白い。
レイラは満足そうにスプーンを進めながら、冷たさとともに火照った身体をゆっくりと涼ませていく。
そしてご当地アイス四段重ねをすっかり平らげれば、今度は飲み物へ。
透明な茶器の中でゆっくりと花開く工芸茶にも目を向けたものの、今日は少し趣向を変えてみたくなって。
「お茶もいいケド……アイリッシュコーヒーがあるなら、それをお願いするネ」
注文した一杯から立ち昇る、芳醇な珈琲とウイスキーの香り。
口をつければ、まろやかな甘みの奥にウイスキーの風味と温もりが広がって、たっぷり味わったアイスの余韻とはまた違った心地よさを運んでくれる。
冷たいものを存分に楽しんだ後だからこそ、温かな一杯もまた格別だ。
氷菓から飲み物まで、気になるものを自分らしく選んで味わって。
レイラは福岡で開かれた夏の茶宴を、最後まで悠々と満喫するのだった。
夏の日差しに灼かれた博多を歩けば、それだけでも体力はじわじわと削られていく。
まして巫・黒星(鬼面道士デスマスク・h08880)は、この水鏡天満宮を訪れるのも一度や二度ではない。
今日くらいは戦いを急がず、少しくらい休んでも罰は当たらないだろう。
「夏の博多は暑いの。パンダ大師はおもてなしをしてくれないけど信者パンダは気が利くのね。何度も水鏡天満宮にお参りして疲れたしワタシも一時の間お休みするのね」
氷菓が何気に気になっているらしい食鉄大師はさておき、茶宴を開いたパンダ信者たちは実に歓迎上手。
席へ落ち着いた黒星が注文したのは、暑い日にぴったりの台湾かき氷だった。
マンゴーの果汁を混ぜ込んだ氷をシャリシャリと、薄く、細やかに削って。
器へふわりふわりと重なっていくそれは、普通のかき氷とはまた違う姿。
スプーンでひと掬いして口へ運べば、しゃりりとした冷たさを残しながらも、舌の上ではまるで絹のようになめらかにほどけていく。
広がるマンゴーの濃厚な甘みも、火照った身体には嬉しい。
けれど、台湾の甘味を楽しむのならば、これだけで終わるつもりはない。
黒星の傍らにはもうひとつ、ふっくらと焼き上がった台湾カステラが。
切り分けた一片を口へ運べば、こちらはふわふわと軽く、やわらかな食感。
冷たくとろけるマンゴーのかき氷を味わっては、今度ははむりとカステラをひと口。
またかき氷へ戻れば、それぞれ違う甘さと舌触りのおかげで、どちらもいっそう美味しく感じられる。
賑やかな茶宴の中、パンダたちにもてなされながら、黒星は急ぐことなく二つの甘味を食べ比べていく。
戦場にいることなど、今だけは忘れてしまいそうなほどに穏やかな時間。
「桃源郷は今まさに此処にあるのね」
それはまさしく、至福のひととき。
満足げにくつろげば、創造途中のゾディアック・ミラーのことが頭を過ぎらないわけではない。
けれど、それを回収しようと動いている者なら他にもいる。
ならば今はそちらへ任せてしまおう。これも大師を攪乱する作戦のひとつ。
黒星は甲斐甲斐しくもてなしてくれるパンダたちに甘えながら、もうしばらく、この夏の桃源郷を満喫するのだった。
氷菓と花の茶宴があると聞いてやって来た、水鏡天満宮の境内で。
「やっぱり色々冷たいものを味わうとしたら、アイスが良さげっすかねぇ」
ずらりと並んだ味を前にして、さて何を選ぼうかとひと通り眺めてみるのは、ガラティン・ブルーセ(Scapegoat・h06708)。
定番のソーダやチョコミントにも惹かれるけれど、せっかく九州まで来たのだ。
ここは、この土地ならではの味を目一杯取り込んでみたい。
ということで!
「好きなだけ味を重ねるとしましょう~」
そうと決まれば、遠慮はいらない。
まずは、甘い県産苺を使った苺ミルク。
鮮やかな苺色に続けるのは、香り高い抹茶だ。
爽やかな甘夏とレモンも一段ずつ。
さらに珍しい完熟いちじくまで重ねてもらえば、器の上には色も味わいも賑やかなアイスが積み上がっていく。
けれど、ガラティンが気になった九州の味はまだ終わらない。
「やや、甘い九州醤油とミルクの合わせ味もあるなんて……キャラメルかみたらし団子みたいなんでしょうか?」
これはぜひ確かめてみなければ、と。
口に運んでみると、ミルクのまろやかな甘さへ九州醤油の甘じょっぱさが重なって、甘さの中に感じる醤油の香ばしさがあとを引く。
そして最後に待っているのは、明太子の粒を練り込んだミルク味。
甘いアイスに明太子という意外な取り合わせにも怯まず、もちろんこちらもスプーンでひと掬い。
ぷちぷちとした粒の存在やぴりっとした辛みまで楽しみながら、珍しい味をじっくり確かめていく。
苺の甘さ、抹茶のほろ苦さ。柑橘の爽やかさに、いちじくの濃厚な甘み。
そこへ九州醤油や明太子まで加われば、ひとつの器だけでも次々と違う味に出会えて、食べ進める手も止まらない。
暑い日が続いているからこそ、冷たいアイスの美味しさもひとしおだ。
気になる味をひとつ残らず満喫して、ガラティンは満足そうに笑う。
「九州に来た甲斐のあるアイスを満喫したっす……!」
この土地ならではの味を重ねに重ねた、これ以上ないご当地アイス。
夏の博多で味わう、冷たくて美味しい、心躍るひととき。
涼やかな氷菓の彩りと、透明な茶器の中で花ひらく工芸茶——夏の水鏡天満宮は、甘く華やかな色に満ちていた。
「まあ……! なんて素敵なおもてなしなのかしら!」
水鏡天満宮で催される氷菓花宴へ足を踏み入れるなり、ライラ・カメリア(白椿・h06574)の空色の瞳がぱっと輝いた。
今日は黑白蓮教への入信希望者を装っての参加だけれど、目の前に広がる茶宴の華やかさは、それを忘れてしまいそうなほど。
何より、これだけたくさんの氷菓やお茶を用意して迎えてくれたのだ。
ならば遠慮せず、めいっぱい楽しむのが一番だろう。
まずライラが選んだのは、甘い県産苺の色鮮やかなシロップがたっぷり掛かった苺ミルクのかき氷。
ふわりと削られた氷の上へ、もちもちの白玉を添えて。
……ええ、せっかくですもの、って。さらにあんこもたっぷりと。
少し欲張りかしら、なんて一瞬だけ考えたものの。
「運動すれば大丈夫だから、欲張ってしまいましょう!」
きっと問題ない……そう自分へ言い聞かせれば、甘味を目一杯楽しむライラ。
早速ひと口頬張れば、甘酸っぱい苺とまろやかなミルクが冷たく溶けて。
次はあんこや白玉も一緒に、はむり。
ひんやり甘い、欲張った甲斐のある美味しさに自然と頬も緩んでいく。
そして、近くで何を食べようか迷っている人を見かければ。
「こちら、とても美味しいですわ!」
ふわりと咲かせた笑みを向けて、にこやかに自分のかき氷をおすすめしてみて。
パンダ信者たちも交え、気になる味やおすすめの食べ方を教え合いっこ。
『レモンも爽やかで夏にぴったりだし、ヨーグルトをかけるとまろやかだ』
「まあ……! そちらもいただいていいかしら」
どんな味を選んだのか尋ねてみたり、互いの氷菓を眺めながら笑い合ったり。
あちらこちらで交わされる会話に笑顔が増えていけば、茶宴はますます賑やかになっていく。
次に誰がどの氷菓へ手を伸ばすのか。
誰と誰が言葉を交わし、その笑顔につられて、また誰かが動き出すのか。
そんなささやかな未知が次々と生まれ、鏡の中にも色鮮やかな未来となって幾重にも映り込んで。
一つに絞り切れないほどの未来が、この宴に咲いていく。
様々な氷菓の彩りを皆と囲みながら、ライラはそんな華やかで和やかな夏の宴を、心ゆくまで楽しむのだった。
容赦なく照りつける夏の日差しに、戦場であることさえ一瞬忘れそうになるほどの暑さ。
「ここ最近の暑さに堪えられないのは敵味方変わらない、ってことか。暑さはヤバい。精神論でどうにかなる域超えているな」
心頭滅却を続ける食鉄大師を遠目に、白片・湊斗(溟・h05667)は淡々とそう評した。
「白片さんはいつもお疲れ様です……最近の暑さヤバいですし、アイスとか色々食べて休んだりもしましょ?」
そんな湊斗へ声を掛ける波路・玲央(人魚の子・h06040)も、今日は氷菓花宴を楽しむ気満々。
「……俺も正直仕事がどうこう以前に、単純に冷たいものが食べたい」
そうとなれば話は早い。
入信希望者を装って茶宴へ紛れ込めば、まずは思い思いに涼を取ることにして。
湊斗が選んだのは、抹茶のかき氷。
鮮やかな緑の抹茶シロップを掛けて、さらに練乳をたっぷりと。もちもちの白玉も添えてもらう。
ひと匙掬えば、抹茶の香りとほろ苦さに練乳のまろやかな甘みが重なって。
しゃりっと冷たい氷が、夏の熱を少しずつ鎮めてくれる。
その傍らでは、水怪たちも何やら興味を示しているよう。
「ぷわちゃん達も、アイス、食べるかな……?」
食べさせてみたい気持ちを隠し切れず、玲央がうずうずと様子を窺う。
けれど湊斗自身、彼らが物を食べるところは見た覚えがない。
試しに白玉やアイスを見せてやれば、そろりと伸びた触手の先が、ちょん、ちょん。
「あ、白玉ちょんちょんしてる。可愛い」
「多分遊びの範疇だろう……多分」
どうやら食事というより、今のところはちょっぴりじゃれている感じらしい……多分。
湊斗は一匙分をそんなぷわちゃんずにも見せてやってから。
溶けてしまわないうちに、自分のかき氷を黙々とシャクシャク食べ進めていく。
そして茶宴へ入った時から、玲央が気になっていたのは、透明な茶器に収められた花咲く中国茶であった。
「工芸茶……お茶にも色々あるんだ……ちょっと気になるかもです」
茶葉へ湯が注がれるのを、じっと見守っていれば。
「うわ、本当にお湯を入れた途端、花が開いた……どういう仕組みになってるんだろう……綺麗だ……」
小さく纏まっていた茶葉がゆっくりとほどけ、透明な湯の中へ鮮やかな花を咲かせていく。
それから……とりあえず、なんかインスピレーションが働きそうだから写真も撮っとこ、と。
美大生の創作意欲を刺激されたように、玲央は早速スマートフォンを向けて、ぱしゃり。
茶器の中で花開くその姿を写真へ収めていく。
そんな様子に、湊斗も珍しそうに花開く工芸茶を覗き込みつつ。
「……暑い日に熱いものって大丈夫なのか」
……アイスがあるなら良いし、冷たいものばかりが良くないのもわかるが、なんて。
やはりかき氷で涼んでいるものの、博多の夏は暑いことには変わりない。
けれど何より、見て楽しめる茶というのは確かに面白いとは思うから。
ふたり揃って茶器の中をじっと眺めながら、どういう仕組みなのだろう、と改めて互いに首を傾げてみる。
そしてもちろん玲央も、温かな茶だけではなく。
せっかく中国茶と合わせるのならばと選んだのは、爽やかな甘さのライチアイス。
ひんやりとしたひと匙を口に運べば、ほわりと笑みも咲いて。
花と香りが豊かに咲いた茶を楽しみ、冷たいものと温かなもの、それぞれ違う心地よさを行き来する。
花ひらく工芸茶に、夏を涼ませるかき氷とアイス。
触手で白玉をつついて遊ぶ水怪たちまで交えれば、鏡に映る茶宴の景色もますます賑やかに。
けれど今はそんなことよりも、暑さを忘れてひと休み。
湊斗と玲央は思い思いの氷菓と茶を前に、束の間の涼やかな時間を楽しむのだった。
しゃりしゃりと氷を削る涼やかな音が、賑やかな境内に重なっていく。
氷菓と花茶の宴へやって来た柊・七瀬(鎮魂歌・h07075)は、歓迎してくれるパンダ信者たちを眺めながら、ふと首を傾げた。
「なんだか不思議な光景。パンダさんは、他にも林檎とか人参とかも食べるそうよ」
「パンダの主食って笹とか竹だろ? なんで氷? 涼めそうでいいけど」
「ええと……氷漬けの果物とか、夏に動物さん達にあげたりするから、いいんじゃないかしら?」
月森・千尋(守護者・h07085)も、どうにも不思議そうではあるものの。
暑い夏に冷たいものを楽しむこと自体には、異論もないらしい。
そんな中、七瀬がふと目を留めたのは、自分で氷を削れる一角。
「かき氷、作れるみたい。ちょっとやってみようかな」
自分で氷を削れると知れば、七瀬は早速かき氷作りへ。
削った白い氷をふわりと器へ盛り、まずはみぞれのシロップを。
そこへ苺に林檎、無花果、桃。それだけでは終わらず、目についた果物をあれこれと彩りよく重ねていく。
傍らからその様子を見ていた千尋は、少しだけ目を細めた。
こうして何かを選び、作ることを楽しんでいる七瀬を見るのは、悪くない。
万葉を失ってから、どこかぼんやりと漂うように日々を過ごしてきた七瀬。
そして千尋はそれを知っているからこそ——こんな小さな変化だって、きっと良いものなのだと思える。
とはいえ。
「って、果物乗せすぎじゃね? 落とさなきゃいいけど」
積み上がっていく果物の量には、さすがに一言。
けれど七瀬はどうにか形を整え、色とりどりの一杯を完成させた。
その時、不意に何となく視線を感じて、チラリ。
「? 食鉄大師さんの神器に、私のかき氷映ってる? 食べたい、のかしら?」
創造途中の神器へ映り込む、自作のかき氷。
もしかして、と七瀬が食鉄大師の方を気にすれば、千尋は即座に口を挟む。
「食べたいっつーより、果物落ちそうなのが気になってんじゃね? 差し入れとかする気じゃないだろーな。あいつは心頭滅却だろ」
「そ、そうだったわね」
はっとした七瀬の様子を見る限り、どうやら少しくらい分けてあげようかと本気で考えていたらしい。
食鉄大師もまた、ほんの少しだけ残念そうに視線を逸らした……ような気がした。
そして七瀬は、そのかき氷をまず自分で楽しむことにして。
匙で氷と果物を一緒に掬って頬張れば、しゃりりとした冷たさに、果実それぞれの甘みや酸味が重なって美味しい。
たくさん乗せたからこそ、次はどの果物と合わせようかと選ぶ楽しみもある。
「かき氷かー。甘いのは……」
一方、そう言いつつ視線を巡らせて。
並ぶ品を眺めてみた千尋が見つけたのは、だし汁のかき氷。
「これにするか」
甘すぎるものは少し苦手だから、これならちょうどいい。
しゃり、と口にすれば、冷たさのあとからじんわり広がる、鰹や焼きあごの上品な旨み。
ほのかな香ばしさとやさしい塩気が後を引いて、甘くないかき氷も意外なほどにするすると食べられる。
その珍しい一杯を、七瀬もじっと見つめて。
「ちーちゃんのかき氷、少し興味がある」
「俺のかき氷? 一口くらいいいけど」
「一口もらって……いいの?」
差し出された匙から、七瀬もひと口。
冷たい氷とだしの風味を確かめれば、想像していたよりもずっと自然に馴染んでいて。
「意外と美味しい。家に帰ったら、作ってみるね」
「家で再現? へぇ、楽しみにしてる」
さらりと返しつつも、その言葉に千尋はほんの少し瞳を細める。
果物たっぷりの華やかなかき氷と、甘くない変わり種のだし汁かき氷。
互いに違う一杯を囲んで過ごす、夏のひととき。
そして何より、今日の七瀬が楽しそうなら——千尋にとっては、それもまた嬉しい収穫なのだった。
きらきら眩しい夏の日差しの下、涼やかな氷菓が甘い彩りを咲かせている。
そんな氷菓と花茶で賑わう水鏡天満宮で、夕星・ツィリ(星想・h08667)は並んだアイスやかき氷を前に瞳をキラキラ。
「氷菓は常に美味しいけれど、やっぱり夏に食べるのが一番だと思う私です!」
「わかるわツィリ。暑い中でたべる氷菓はいっとうに美味しく感じるのよ。一気に食べて頭がキーンとするのも楽しいの」
ララ・キルシュネーテ(白虹迦楼羅・h00189)もこくりと頷いて、大いに同意。
ならば早速、夏だからこその美味しさを存分に満喫しよう、と。
「ララちゃんアイスとかき氷どっちから行く? 私アイスから攻めに行こうと思います」
「何から食べようかしら。ツィリがアイスからなら、ララはかき氷を攻めるわ」
最初の狙いは綺麗に別れて、それぞれ好みの一杯を作り始める。
ツィリがまず重ねたのは、定番のバニラ。
その上へ甘酸っぱい苺ミルク、さらに香り高い抹茶を乗せれば。
白、桃色、緑——三色団子カラーの三段アイスのできあがり!
ひと匙ごとに違う味を楽しみ、ときには二色を一緒に掬ってみたり。
もちろん、それだけで終わるつもりもなくて。
「後から甘じょっぱいのも食べたい……ララちゃんの力作が……!」
ふと向けたツィリの視線の先で完成していたのは、ララのかき氷。
「見て可愛い食べて美味しいかき氷シュネーちゃんだ!」
そんなララの力作かき氷は、ふわふわに削った氷をこんもりと。
そこへ苺とレモン、いちじくを彩りよく盛りつけて、白玉に餡子、寒天、果実も惜しみなく爆盛りに!
そして大切な仕上げはツィリも言っていたように、白玉で作ったシュネーのお顔。
「どう? ララオリジナルのかき氷なの」
得意げに披露された一杯は、愛らしくも豪華絢爛。
そして見た目を存分に楽しんだなら、今度はもちろん味わう番。
ララはしゃくしゃくと氷を頬張って、果実の甘酸っぱさや餡子の甘み、もちもちの白玉まで次々と堪能すると同時に。
勢いよくそのままに食べ進めれば——きーん!
額の奥へ走る冷たさも夏の氷菓の醍醐味とばかりに、背の翼までぴょんと跳ねた。
そんなララの力作に負けじと、今度はツィリも自分だけのかき氷作りへ。
真っ白な氷を苺シロップで鮮やかに染めたら、練乳をとろり。
さらに追い苺シロップを重ね、白玉も苺もたっぷりと添えていく。
そして忘れてはいけない、大事なあんこもこんもり。
苺の甘酸っぱさへ練乳のまろやかな甘みと餡子が重なった、甘いもの好きには嬉しい欲張りな一杯に。
その横では、ツィリの三色団子カラーのアイスをしっかり見ていたララも次なる氷菓へ。
「次はララもアイスにするわ」
選ぶのはもちろん、ツィリと同じバニラ、苺ミルク、抹茶の三段重ね。
お揃いの三色団子アイスを並べれば、わくわくと楽しい彩りが咲き誇る。
それから、たっぷり冷たいものを味わったあとは、今度は温かな茶でひと休み。
ツィリは華やかな香りのジャスミン茶で、冷えたお腹をゆっくり温める。
「ふう。冷たいものを食べたあとのお茶も美味しいわ」
ララが選んだ工芸茶には、湯の中でふわりと鮮やかな花が開いて。
ふたりそれぞれの茶器を手に取れば、花と香りを楽しみながら——乾杯!
アイスに、かき氷に、お茶まで。
今日一日でこれだけたくさんの美味しい幸せに囲まれたのだから。
「いっぱいたべたから今日の夜は氷菓に囲まれた夢みちゃうかも」
「素敵な夢ね。ララもご一緒したいわ」
「夢で会えたらアイスとかき氷の盛り盛りパフェ作ろうね!」
そうふたりで顔を見合わせて、甘いお茶会の続きの約束。
夢の中なら、今日以上にどれだけ盛ってもきっと溶けないから。
そんな機会を楽しみに、ふたりの氷菓と花茶の宴はもちろん、まだまだ続いていく。
夏の水鏡天満宮には、涼やかな氷菓と花開く工芸茶がずらりと並んで。
賑やかな茶宴には、甘く爽やかな香りが満ちている。
「氷菓を食べれると聞いて、桜さんと来ちゃった。へぇ、氷菓だけじゃなくて工芸茶もあるの?」
矢神・霊菜(氷華・h00124)が興味深そうに覗き込む先、透明な茶器には小さく纏まった茶葉が用意されている。
「工芸茶って俺良く知らんのよな。たまーにSNSで流れてくるのは見た事あるけど、中国のお茶って事でいいのかな?」
祭囃子・桜(百妖を宿し者・h01166)も隣から眺めて、こてりと首を傾げつつ。
「お湯を注いだら花が開くの? あ、聞いたことあるわ。一度飲んでみたいと思ったのよね」
ならば後で、実際に咲くところも見てみるつもりだけれど。
でもまずはやっぱり、お目当ての氷菓から。
「桜さんは何にする?」
「アイスかー。この時期なら何でもおいしいけど、俺アレが食べたい!」
それって何? なんて、初めて聞くアイスに霊菜が訊き返せば。
「キンキンに冷えた鉄板の上でアイスに凍った果物とかチーズケーキとかを捏ねながら混ぜるアイス!」
「へぇ、そんなアイスがあるのね。でもここ、冷やした鉄板ってあるのかしら……?」
辺りを見回してみるものの、それらしいものは見当たらない。
けれど、ないのならば諦める——なんて選択肢を選ぶ霊菜ではなく。
「まぁ、なければ作ればいいのね!」
必要なら、その場で用意してしまえばいい。
錬成した金属板を平らに整えれば、氷雪の力を宿す二羽の鷹が舞い、その表面を一気にキンキンになるまで冷やしていく。
「おおー、錬金術が使えるとそういう事も出来るんだな。付喪神でも呼び出そうかと思ったけどこっちの方が便利そうだ」
感心する桜の前で、即席の冷却鉄板のできあがり。
「あとはえーっと、アイスと果物とかを混ぜ合わせるんだっけ?」
冷たい板にバニラアイスを広げ、その上に色鮮やかな果物とクッキーを。
へらを使って果物やクッキーをざくざくと砕きながら、柔らかくなったアイスに練り込んでいく。
白いバニラの中に果実の色が混ざり、細かなクッキーが散っていけば、作っている途中からもう美味しそう。
冷えた鉄板の上だからこそ溶けきることもなく、何度か折り畳むように混ぜ合わせて、具材がたっぷり詰まったアイスへと仕上がっていく。
そして最後は形を整え、器へとこんもり盛りつけて。
「はい、桜さん。できあがったわよ」
「うん! やっぱり混ぜ合わせると普通のアイスには無い美味しさがでるな!」
桜も早速ひと匙頬張れば、ひんやり濃厚な味わいに満足そう。
霊菜も一緒に自分の分を掬って。
「それじゃいただきましょうか」
たっぷり具材の混ざったひと匙を、早速ぱくりと口に運んでみれば。
「んー、フルーツの爽やかな酸味と濃厚なバニラのコクが美味しいわ。それにクッキーのサクサクとした食感がアクセントになってて良いわね」
甘くなめらかなバニラだけでも美味しいけれど、噛むたびに果実の爽やかな風味やクッキーの香ばしさが次々と現れる。
ひとつに混ぜ合わせたからこそ、一匙ごとに少しずつ違う味と食感に出会えるのも楽しくて。
スプーンが止まらなくなりそうだわ、なんて、言葉通りにもうひと匙。
そして、冷たいアイスをたっぷり堪能する合間には。
先ほどから気になっていた工芸茶に、いよいよ熱い湯を注いでみる。
小さく閉じていた茶葉が水中でゆっくりと開いて、やがて色鮮やかな花がふわり。
透明な茶器の中で咲いていく様子をふたりで眺めながら、温かな茶をひと口味わえば。
「合間に呑むお茶が身体が冷えすぎないようにしてくれて丁度いいわね」
たっぷりアイスを食べた身体に、じんわりと温もりが戻ってくる。
目でも舌でも香り豊かな花茶を楽しめるのだから、氷菓の合間のひと休みにもぴったり。
それから霊菜はほっこりとひとときを楽しみつつ、桜へと微笑んで告げる。
「桜さん、素敵なアイスを教えてくれてありがとうね」
「どういたしまして!」
冷たい鉄板まで一から作って、ふたりで楽しんだアイス作り。
次はどんな具材を混ぜれば美味しいだろう。
そんな新しい楽しみまで増えたなら、この氷菓花宴へ足を運んだ甲斐も十分。
花咲く茶の温もりを合間に挟みながら、霊菜と桜は手作りの冷たい一皿を、最後までゆっくりと味わうのだった。
透明な茶器の中で、ふわりと花が咲き開いて。
温かな茶の香りが漂うその傍らにこれでもかと並んでいるのは、ひんやり甘い氷菓。
「全部食べられる……?」
物部・真宵(憂宵・h02423)が問いかければ、もちろん! とばかりに。
こくこくと嬉しげに頷くのは、こぱんだの歓歓。
その前にあるのは、苺ミルクに抹茶、甘夏、みたらし団子風のアイス。
それからさらに、白玉とあんこ、果物をたっぷり乗せ、練乳をかけたかき氷まで。
一方の真宵は温かな工芸茶を手に、歓歓の食べっぷりを見守っていたのだけれど。
冷たいものを勢いよくはむはむと頬張っていた歓歓が、不意にぴたりと動きを止めて。
頭を抱えて、ころんころん。
「頭がキーンとする? もう……困った子ねぇ」
呆れながらも淡く微笑んで、少し休みましょうね、と見守る真宵。
そこに通りかかったのは、お盆を手にしたセレネ・デルフィ(泡沫の空・h03434)。
苺ミルクと工芸茶を楽しむ場所を探していたのだけれど。
ふと目に留まったのは、小さな食いしん坊こぱんだの前にずらりと並ぶたくさんの氷菓。
あんな体で食べ切れるのでしょうか……と、ぱちりと瞬きつつ。
よく見れば、その傍らには見覚えのある女性の姿が。
「あら、以前うちの店でお会いしたことがありますね? よろしければご一緒しませんか?」
「こんにちは、……よろしいのですか……?」
真宵に誘われ、セレネはそっとその横へ腰を下ろして。
「歓歓ご挨拶しましょうね」
促されれば、歓歓もにぱっと愛想よく笑ってご挨拶。
「ふふ、可愛らしいですね。私も、苺ミルクをいただいてきたんです。お揃いですね」
セレネもやわらかく笑んで、手にしていた苺ミルクをひと口、はむっ。
冷たくまろやかなミルクの甘さに、苺の甘酸っぱさがふわりと重なって。
その美味しさに、自然と頬も緩んでほわほわ。
そんなかわいらしい姿を眺めれば、真宵の口元にも浮かぶ穏やかな微笑。
「あの……真宵さん、とお呼びしても……?」
「もちろんです。ではわたしもセレネさんと」
そう交わし合う傍らでは、元気を取り戻した歓歓が再び氷菓へと挑んで。
「歓歓ちゃん、たくさん食べる子なのですね。その……お腹は大丈夫ですか?」
「福岡の食べ物を気に入ったみたいで」
真宵も歓歓の食欲には慣れているらしい。
けれど、またしても頭を抱えてしまった歓歓の様子に少し心配になって。
「食べるのお手伝いしましょうか……?」
「……どうする?」
真宵が訊ねれば、歓歓は少し考えてから、こくこく。
……おねがい、と言うように、ちょこり。
半分こにした抹茶と甘夏のアイスをセレネへと差し出した。
さらに、白玉とフルーツまでおすそわけ。
「わ、ありがとうございます。いただきますね」
抹茶のほろ苦さに、甘夏の爽やかな甘酸っぱさ。
もちもちの白玉や瑞々しい果物も交えながら、今度は皆でゆっくりと味わっていく。
ひんやり甘い苺ミルクに、色鮮やかなアイスや果物。
そして合間には、茶器の中でふわりと花ひらく温かな工芸茶。
ひとりでは少し多すぎたご馳走も、こうして分け合えば。
楽しさも美味しさも嬉しさも、たくさん咲き誇って。
歓歓もすっかり満足そうに、にぱりと笑って——ふたりの間でころころ、おなかもいっぱい。
真夏の日差しの下だというのに、ここには氷が山ほどあって、冷たい甘味も選び放題。
「……氷にアイス……何て居心地の良い空間……」
水鏡天満宮に広がる茶宴の一角は、暑さを苦手とする人にとってはそれだけでも随分と過ごしやすい。
白椛・氷菜(雪涙・h04711)はずらりと並んだ氷菓を前に、ほう、と安堵したように息を零す。
「氷菜氷菜、すごい、よ。かき氷、も、アイスも、たくさん」
空廼・皓(春の歌・h04840)もあちらこちらへ視線を巡らせ、狼の耳をぴこり。
「それに、ぱんだ」
ぱんだ信者たちの姿まで見つければ、さらに尻尾がゆらゆら。
「ここは天国だったん、だ……」
「……天国では無いと思うわ」
ぶんぶんと勢いよく振られ始めた尾を横目に、そう返すも。
とはいえ、氷菜にとっても居心地が良いことだけは間違いない。
「氷菜は、どうする? かき氷も、いいけど、アイス、も、おいしそう」
「そうね、多くて迷う……」
色とりどりのシロップに、ずらりと並ぶアイス。
どちらかひとつを選ぶには、惜しいものばかり。
そんな氷菜を見ながら、皓の耳がまたぴくりと動いて。
「かき氷、の上、にアイス……乗せちゃ、う?」
「……皓、天才ね。かき氷とアイスを一緒にしちゃおう」
迷うくらいなら、両方楽しんでしまえばいい。
というわけで。
皓がひらめいた通りに、ふたりそれぞれ好みの組み合わせを作っていく。
「しょうゆとミルクの、気に、なる……」
皓が選んだアイスは、九州らしい甘い醤油とミルクを合わせた味。
かき氷の脇にえいっと添えて、白い氷には苺のシロップをたっぷりと。
一方の氷菜は檸檬のシロップをかけたかき氷に、爽やかなソーダアイスを添えていく。
仕上げにレモンの輪切りまで飾れば、見た目から涼やかなレモネード風。
「ほわ。氷菜のもいい、ね」
皓の尾も嬉しそうにゆうらり。
「せっかくだし、こうげいちゃ? ももらう? 口の中キンキンなったらリセット、できる」
「工芸茶はそうね。温度差も困るし、貰ったら少し冷まそうかな」
熱いものはあまり得意ではない氷菜だから、淹れたての茶はしばらく置いておくことにして。
まずは、待ちきれない氷菓から。
「じゃあさっそく」
皓は醤油とミルクのアイスをぱくっ。
「んっ甘じょっぱい。たしかにキャラメルのような、みたらしのような」
まろやかな甘さの中へ醤油の香ばしさが重なって、思っていた以上にあとを引く。
耳をぴんと立て、こてりと小さく首を傾けつつ味わう皓の隣で。
氷菜もまずは自分のかき氷をひと匙、はむり。
「ん、甘酸っぱいけど、爽やか……」
檸檬の酸味と冷たい氷がすっと馴染み、暑さまで遠ざけてくれるよう。
それから隣のアイスへ、ちらりと視線を向けて。
「醤油とミルクも不思議ね……」
「氷菜も食べる?」
皓がすぐにひと匙差し出せば。
「……ん、良いの?」
そのまま一口貰って、ぱくっ。
「ん、面白い味、だけど、美味しいわ」
「ね?」
こくりと頷く皓の尻尾が、満足そうにゆらり。
「みたらしが醤油と砂糖を煮詰めるらしいものね」
なるほど、と味の近さにも納得して。
皓は今度は、苺色の氷をしゃくり。
「いちごかき氷はやくそくされしうまさ」
こくこくと大きく頷くくらい、こちらは迷う余地もない美味しさ。
「皓も、爽やかかき氷食べる?」
今度は氷菜が、自分の器をそっと差し出して。
「ソーダアイスもあって、レモンスカッシュみたいになるのよ」
皓もうきうきとひと口貰えば、檸檬の甘酸っぱさとソーダのしゅわりとした味わいが一緒になって。
「うんうん氷菜のもおいしい」
耳もぴこぴこ、尻尾もご機嫌に揺れている。
そして互いの氷菓を味わっている間に、少し冷ましておいた工芸茶もちょうど良い飲み頃に。
「あっすごい。お茶の中に花、さいた、よ」
透明な茶器を覗き込んだ皓の耳がぴん。
声につられて氷菜も目を向ければ、水中では束ねられていた茶葉が開いて。
「……あ、本当。お茶の中で花が咲くのね……」
鮮やかな花が咲いた茶器にそっと瞳を細める。
ひんやり冷たい氷菓と、少し冷ました花茶。
互いの選んだ氷菓を分け合いながら、目の前で咲く花もお茶も一緒に楽しんで。
暑い夏の日だということも忘れそうなほど心地よいひとときを、ふたりはゆっくりと味わっていくのだった。
白い氷を彩る鮮やかな赤や緑に、艶やかな餡子や真白な白玉。
戦いの最中とは思えないほど、水鏡天満宮の一角には甘く涼やかな景色が広がっている。
「頭使ったり体動かしたり色々すると、甘くて冷たいものが恋しくなるのですよね……」
それから、ずらりと並ぶ氷菓に銀の瞳を輝かせれば……いざ、と意気込んで。
「そう、つまりはかき氷!境華さん、食べましょう!」
シンシア・ウォーカー(放浪淑女・h01919)が弾む声で誘うと、神隠祇・境華(金瞳の御伽守・h10121)も柔らかく頷いて。
「色々なところで、沢山戦ったりしましたからね。折角ですし、少し特別なものを頂きましょうか」
「せっかく福岡まで来たのですからねえ、土地のものも食べたいところです」
どうせなら、ここでしか味わえない一杯を。
「ここはひとつ、香り高い抹茶のかき氷をお願いしましょうか。あんこに白玉も乗っていて豪華ですね!」
シンシアが選んだのは、深い緑が目にも鮮やかな抹茶のかき氷。
香り高い抹茶蜜をたっぷりとかけた氷に、艶やかな餡子ともちもちの白玉を添えた、和を思わせる一杯だ。
一方、境華が惹かれたのは——やっぱり苺。
福岡の特産苺を惜しみなく使った、特製の苺ミルクかき氷を受け取って。
「わぁ……氷にまで苺が」
「境華さんはいちごですか!お好きですもんね。氷にまでとは驚きです!」
削られた氷そのものにも苺が混ざり、ふんわり淡い紅色に染まっている。
そこへさらに苺とミルクのまろやかな甘さが重なる一匙を、境華はそっと口へ。
「甘酸っぱくて、美味しいです」
瑞々しい苺の風味が冷たく口いっぱいに広がって、金の瞳がそっと細められたあと。
「苺味のものを見るとやはり捨てがたくて……お味見なさいますか?」
シンシアにも気に入った味をひと匙、おすそわけ。
そして、もちろん。
「抹茶も上品な味わいで……ふふっ、境華さんもよければぜひ! 一口といわず!」
「シンシアさんの方は抹茶味、白玉と餡子でとても立派ですね。ふふ、ありがとうございます、頂きますね」
それぞれの味を交換こ。
今度は境華が、シンシアの餡子と白玉を合わせた抹茶かき氷をぱくり。
ほろ苦く香り高い抹茶に、餡子のやさしい甘さがよく似合う。
苺の甘酸っぱさとはまた違った美味しさを味わって、ふたりで互いの幸せを少しずつ分け合いっこ。
そして、かき氷を存分に楽しんだなら。
「工芸茶……なるほど、お花お任せも可能なのですね。ならお任せにしてみましょうか」
次は並んでいた工芸茶にも興味を向けて。
どんな花が咲くのかは、湯を注いでからのお楽しみ。
境華も同じようにお任せを選び、ふたり揃って透明な茶器を覗き込む。
注がれた熱い湯の中で、固く結ばれていた茶葉がゆっくり、ゆっくりとほどけて。
境華の茶器には、明るい黄色の菊花がぱっと咲いて。
シンシアの茶器には、ころんと愛らしい赤紫の千日紅の花が。
「わぁ、とってもきれいで可愛いです」
境華は金の瞳をきらきらと輝かせて。
シンシアも興味深そうに花開く様子を眺めながら、出来上がった茶を手にする。
そして二人同じ花茶でも、楽しみ方はそれぞれ。
境華は温かなままひと口含み、先ほどまでの冷たいかき氷との温度差に、ほっと息を吐く。
一方のシンシアはというと。
「あっ、私は氷入りで!」
こちらはしっかり冷たくして、ひんやりひと口。
戦い続きの合間に見つけた少し特別な美味しさを、ふたりで一緒に、ゆっくりと楽しむことにする。
しゃりしゃりと氷を削る音に、賑やかな声が重なって。
好きなだけ氷菓を作って楽しめる水鏡天満宮の一角は、どこか祭りにも似た賑わいを見せている。
けれど、この催しが開催されることとなった発端は、パンダたちが氷菓や花茶を頼みすぎたかららしい。
そんな事情を聞きつけ、ふたりで今回やって来たというわけだが。
「人助け……この場合はパンダ助けって言うべき? まぁなんにせよ困っているなら|カミガリ《オマワリさん》の出番だよねぇ。ね、あくたん」
篭宮・咲或(Butterfly effect・h09298)がそう声を向ければ、夜鷹・芥(stray・h00864)はもふもふなぱんだ信者たちを眺めて。
「暑いんだろうなぁ……パンダ助け……まあな、カミガリなら。人だけじゃならずパンダくらい助けられないと。な、咲或センパイ?」
ならば|カミガリ《オマワリさん》として、たくさん食べて減らしてあげるのもパンダ助け。
というわけで、ふたりも早速、氷菓を楽しむことにして。
「アイスは種類があるっぽくて。かき氷の方はー……自分で作るスタイルか」
「自分で作れるならかき氷かな。アイスも乗せて良いのでは?」
自分好みに盛れるとなれば、芥もほんの少し楽しくなってしまったりしながら。
ふわっふわな氷や様々なトッピングへ視線を巡らせる。
それから、咲或は蕩ける蜜色の如き双眸を細めて。
「ほらまだまだ育ち盛りなんだから。たくさんお食べ」
「えっ俺の育ち盛りは過ぎましたよ先輩。というかそんな年齢変わらないでしょ」
「もー細かいことは気にしないの」
さらりと押し切る咲或に、芥は首を傾けるも。
ならば、細かいことは置いておいて——偶には童心に戻ってわんぱくにいこう。
というわけで、咲或はふわりと削った氷に抹茶シロップをたっぷりかけて。
餡子と寒天も少しずつ盛りつけ、その上にさらに抹茶アイスと、それに甘じょっぱい醤油ミルクのアイスまで乗せていく。
「すげー、盛り盛りだ。抹茶アイスと甘じょっぱいの美味そ」
抹茶の緑に餡子、寒天、二種類のアイス。
見た目的にもなかなかわんぱくな一杯を眺めていた芥の手が、すっと伸びて。
「ひとくちもーらい」
「あら|可愛い《悪い》子がいるわ」
止めるより先に、はむりとひと匙。
「ふは、育ち盛りなんで良いだろ? 先輩」
先ほどの言葉をちゃっかり使い返す芥に、咲或も笑えば。
抹茶のほろ苦さに餡子の甘み。
そこに醤油ミルクの甘じょっぱさまで重なれば、一口の中だけでも味の変化は賑やかだ。
続いて芥も、自分の一杯を作り始める。
「俺は抹茶シロップに好きな白玉とあんこ、変わり種っぽい明太のミルクアイスチャレンジしてみよっかな」
抹茶のかき氷に、もちもちの白玉と餡子を添えて。
仕上げに乗せるのは、淡い色をした明太ミルクのアイス。
「あくたんのかき氷も先輩にみーせて」
「咲或ちゃん先輩もチャレンジしてみます?」
「シンプル美味そうー……明太ミルク……折角の機会だし……ちょっとだけ」
「食べさせてあげますよ」
そう言って芥が掬ったのは——ちょっと、とは到底言い難い山盛りのひと匙。
「はい、どーぞ」
「ちょっとで大丈夫よ」
言う頃にはもう咲或へと差し出されていて。
口に含めばミルクのまろやかな甘さの向こうから、明太子らしい塩気と風味がふわり。
抹茶や餡子とも一緒に食べてみれば、変わり種ながら思った以上にあとを引く味わい。
互いに味見し合ったり、気になるものを試してみたりして。
ぱんだ助けに来たはずが——いつの間にか自分たちまでしっかり氷菓を満喫中。
でも今日くらいは、ぱんだ助けしつつも、一緒に存分楽しむことにする。
盛り盛りでわんぱくな、ひやり冷たい夏の一杯を。
夏の暑さに火照った身体へ、ひんやり冷たい甘さをひと匙。
そんな誘惑がいくつも並ぶ茶宴では、どの味から試そうかと迷う時間さえ楽しくて。
「暑い夏はやっぱり冷たいもの! パンダ信者さんたちもよくわかってるなあ。早速いただいちゃお、先輩!」
五十鈴・珠沙(Bell the cat・h06436)が待ちきれない様子で声を弾ませれば、浮石・尾灯(ウキヨエ・妖怪・ヒーロー・h06435)ものんびりと頷く。
「最近暑いからねぇ。冷たいアイスが美味しくて仕方ないよね」
ならば、まずはずらりと揃った氷菓から。
「かき氷よりはアイスがいいかな。あたしはうーん、やっぱり苺ミルク!」
「うん、僕もアイスにしようかな。味が色々有って迷うねぇ」
珠沙は迷った末に、福岡らしい苺ミルクを。
尾灯は、珍しい味まで並ぶアイスをじっくりと眺めて。
「明太子味も有るのは気になるけど、みたらし味試そうかな」
選んだのは、甘い九州醤油とミルクを合わせたアイス。
香ばしい甘じょっぱさが、どこかみたらし団子を思わせるという一品だ。
それから、珠沙は二又の尻尾をゆらゆら。
「ビート先輩、一口ずつ交換しよう?」
「うん、折角だしシェアしようか。2つの味が楽しめてお得だね」
話が決まれば、早速それぞれのアイスをひと匙ずつ。
珠沙がまず味わう苺ミルクは、ミルクのまろやかな甘さに苺の甘酸っぱさが重なって。
「あまーい! あまずっぱーい! 先輩も、ほらほら!」
気に入った味をすぐに尾灯へ差し出せば、今度は珠沙もみたらし風のアイスをひと口。
濃厚なミルクの甘みの中に、醤油の甘じょっぱさと香ばしさがきいていて。
二種類を交互に味わえば、甘酸っぱいものと甘じょっぱいもの、違った味が一緒に楽しめて。
なるほど、確かにひとつ選ぶよりお得かもしれない。
そして美味しいアイスでたっぷりひんやり涼んだあとは。
「冷たい物で体を冷やしたからちょっと温かい物も。工芸茶ってやつだね」
今度は温かな茶で、ほっこりひと休み。
珠沙は、茶器の中でころんと丸く纏まっている茶葉を、不思議そうにじっと見つめて。
「こんな丸いものの上にお湯を注いだらお花が咲くの?」
お湯を注いで……と透明な茶器に熱い湯を注いでみれば、お耳をぴこり。
茶葉がゆっくりふわりと開いていって。
「……うわあ、本当にお花が開いたみたい! 綺麗だけど不思議だね」
「これにお湯が注がれると……おぉ、開花した」
同じく尾灯も、茶器の中で咲いた花を暫し眺める。
鮮やかに開いた赤い花は、湯の揺らぎに合わせてゆらゆら。
「先輩は見たことあった? すずさんは初めて!」
「僕も知ってたけど見るのは初めて。面白いお茶だね」
茶に咲いた花につられるように尻尾も一緒にゆらゆらさせる珠沙の姿に笑んで頷きつつ。
ふたり揃って花を眺めながら、今度は温かな茶をひと口。
「味は普通? の烏龍茶っぽい、お花の味じゃないんだー。赤い花がゆらゆら揺れて綺麗だね」
「お味は……ほっとする烏龍茶の味だ。見た目が華やかだと味も美味しくなってる気がするね」
冷たいアイスのあとだからこそ、じんわり広がる温もりも心地いい。
苺ミルクとみたらし風、ふたつのアイスを交換して。
今度は同じ茶器の花に目を奪われながら、のんびり温かな茶を楽しむ——のも、もちろんだけれど。
「……なんて言いながら、予知を惑わせちゃうねっ」
「これで予知は邪魔できたかなぁ?」
パンダな大師を見遣りながら、こっそり内緒話。
色も味も次々に移り変わる、楽しい茶宴のひととき。
そんな美味しくて華やかな未来を食鉄大師が読み切るのは、きっと簡単ではないだろうから。
ひと匙の甘味を楽しむ合間にも、鏡の向こうでは数秒先の未来が覗かれている。
けれど、だからといって折角の茶宴を楽しまない理由にはならない。
「ふむ。暑いしな。丁度ええかもしれん。雲雀、氷菓子とお茶しばきにいこか」
朔月・彩陽(月の一族の統領・h00243)が誘えば、刻見・雲雀(最果てに挑む翠瞳・h01237)もすぐに頷いて。
「いいね、この暑い夏にはぴったりだ」
ふたり並んで、氷菓と花茶が咲き並ぶ一角へ。
氷菓は主に雲雀に任せて、彩陽が選んだ飲み物は温かな工芸茶。
暑い時期だからこそ、冷たいものばかりでは身体も冷えやすい。
湯を注いでみれば、結ばれていた茶葉がゆるりと開いて、鮮やかな花が茶器に咲いた。
そして雲雀は爽やかな甘夏アイスを選んで。
さらに彩陽にも味わってほしいと、茶請けに合うおすすめを訊いて、完熟いちじくのアイスも添えてもらえば。
「うん、おいしい」
甘夏の爽やかな酸味と、いちじくのまろやかな甘さ。
ふたつの味を楽しんだあとは、彩陽にもそっと勧めて。
彩陽もひと匙いただきながら、温かな工芸茶にほっと息を吐く。
そして……花咲く茶器を、わずかに傾けた。
その姿を、そして工芸茶に咲いた花を——食鉄大師の持つ鏡にも映して。
(「咲き誇るるはその意志ぞ……ってね」)
数秒先を映す鏡へ、彩りと揺らぎをひとつ増やす。
もちろん、それだけで終えるつもりもない。
工芸茶に咲く花を映していた鏡が、きらりと光を返して。
その中に浮かんだ数秒先を確かめるなり、食鉄大師は迷いなく身を翻した。
『ふむ。見えておるぞ』
未来を先取りした動きから放たれる攻撃を、彩陽は自ら引き受ける。
幾重にも重ねた術式と障壁で威力を削り、走る痛みさえ表には出さずに受け止めて。
鏡の向こうの大師へ向けるのは、したり顔の微笑み。
思い通りにいかすわけはない、と告げるように。
けれど——雲雀が、それに気づいていないはずもなく。
(「……どうせ彩陽さんのことだから、攻撃引き受けてるだろうね」)
大師から見て彩陽を隠せる位置へ座り、次に飛んできた一撃へさりげなく身を差し入れる。
そして半分を引き受け、痛みに耐えながらも。
『……!?』
予知したはずの未来との僅かな違いに、食鉄大師が鏡を覗き直した、その隙に。
雲雀が密かに散らしていた血は、既に大師のもとへ届いていた。
血に宿した呪いが穢れを生み、予測しきれぬ不運を次々と引き寄せていく。
鏡を頼りに身を躱した先で足元が崩れ、体勢を立て直したところへ別の災いが重なって。
『ぬ……予知した未来が……!?』
直接の攻撃を予知して防げても、その先で起こる偶然まで思い通りになるとは限らない。
そして、その機を彩陽も逃さない。
静かな声で命を下せば、応えた式神が大師へと突撃する。
鏡に次々と数秒先が映り、食鉄大師は視線を忙しく巡らせながら次々に身を躱すけれど。
ひとつ、ふたつではない攻撃が四方から押し寄せ、そこへ雲雀の招いた不運まで重なれば。
「予知が出来たとてそれはどうだろうな」
『ぐっ……!』
数秒先が見えていたとしても、全てを思い通りに捌けるとは限らない。
咲き誇る花を映した鏡の中で、見えていたはずの未来が次々と外れていく。
それでも、茶宴の席では再び、彩陽は何事もなかったように温かな工芸茶をもうひと口。
いつもの穏やかな顔のままで——怪我を悟られぬ様、と。
「……最後まで一緒に楽しもうな。雲雀」
そう告げるのだけれど。
だが、雲雀は甘夏アイスを手にしたまま、さらりと返す。
「そうだね、楽しんだら手当しようか。気づいてないワケないでしょ?」
——君が無茶するのなんて、誰よりも知ってるんだから、って。
そしてそれはきっと、お互い様。
相手に悟らせまいとした傷も互いにわかっていながら、それでも今はまだ。
花咲く茶と冷たい甘夏を挟み、ふたりでこの茶宴を楽しむことにする。
氷を削る涼やかな音。甘いアイスを頬張る声。透明な茶器の中で咲く、色鮮やかな花々。
賑やかな氷菓と花茶の宴は、夜が更けてもまだまだ楽しげに続いている。
「連日暑いからな……敵対組織とはいえ、こういうイベントはありがたいぜ」
そんな光景を眺めながら、空地・海人(フィルム・アクセプターポライズ・h00953)も素直にこの催しを歓迎して。
けれど、もちろん楽しむだけで終わるつもりもない。
——もふもふタイムだ!
そう召喚するのは、変身ベルトに棲んでいるパンダたち。
ベルトから、ぽこん、ころころ、と。
次から次へと現れる、もふもふでまんまるなこぱんだ妖怪たち。
あっという間に、辺りはたくさんのこぱんだでいっぱいになって。
現れた仲間たちを前に、海人は今回の大事な任務を腰を屈めつつそっと伝える。
「今回はお前たちにゾディアック・ミラーを奪ってきてほしい。同じぱんだなら、疑われ難いだろうからな」
それから、こうも付け加えるのだった。
「もちろん、途中で好きなアイスを食べてきてもいいぜ」
それを聞けば、こくこくと。
任せて、とばかりに頷いたこぱんだたちは、早速ぱんだ信者たちの中へと、ころりと紛れていく。
とはいえ、途中でアイスを食べてもいいと言われたから。
苺ミルクに甘夏に抹茶……気になる味を見つけるたび、ちょこんと立ち止まってはひと口、またひと口。
任務中なのか氷菓巡りなのか、少々怪しくなってきた子もいるけれど——同じぱんだ同士、周囲から疑われる様子はない。
そんなこぱんだたちを見送りつつ、海人自身も県産苺のアイスをひとつ。
真っ赤な苺の甘酸っぱさとまろやかなミルクの甘みをひんやり味わいながら、のんびりとこぱんだたちの帰りを待つ。
その間にも目の前を行き交うのは、思い思いの氷菓を手にした人々と、茶を運ぶぱんだ信者たち。
敵も味方も関係なく、同じ夏の暑さの中で冷たいものを食べながら、皆この宴を満喫している。
「こぱんだも、パンダ信者も、それ以外の人も、みんな仲良く楽しんでいる……」
アイスをひと匙掬う手を止めて、海人は改めてその景色を眺めた。
「やり方はともかく、こういう景色こそ食鉄大師が理想とする世界なのかもな」
信じるものも、立場も違う。
それでも今だけは同じ場所に集まり、同じものを美味しいと味わっている。
少なくとも、目の前に広がる光景そのものは悪くないと、そう思うのだけれど。
「それはそれとして、ゾディアック・ミラーは奪わせてもらうけどな」
そして、その頃。
氷菓を手にうろうろしているだけに見えたこぱんだたちが、いつの間にやら食鉄大師の傍らへ。
『む? おぬしたち、何を——』
だが——大師が振り向いた時には、もう遅い。
ひょい、とゾディアック・ミラーを抱え上げれば、もふもふの一団はそのまま一斉にころころ逃走!
『!? ま、待たぬか! それは我が神器ぞ!』
追いかける大師をよそに、こぱんだたちは仲間から仲間へ鏡を渡して、するり、するり。
最後には無事、鏡を海人のもとまで届けて。
「お、やったな。お疲れさん」
戻ってきたこぱんだたちを迎え、海人は満足そうに笑う。
——これで任務も無事完了、と。
賑やかな声と、ひんやり甘い氷菓。
湯の中で咲く花々と、その間をころころ駆け回るこぱんだたち。
未来を映す鏡はもう食鉄大師の手を離れても——そんなことなど知らぬように。
奪取した鏡に映っている夏の氷菓花宴は、最後まで美味しく楽しく、華やかに続いていくのだった。
