シナリオ

【王権決死戦】黒き竜と白き御手

#√ドラゴンファンタジー #融合ダンジョン #王権決死戦 #王劍『縊匣』 #シナリオ50♡

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王権決死戦

これは王権決死戦です。必ずこちらのページを事前に確認の上、ご参加ください。
また、ページ右上の 一言雑談や特定の旅団等で、マスターが追加情報を出すこともあります。

『融合ダンジョン』関連シナリオ

これは⚔️王劍戦争:秋葉原荒覇吐戦、及び、√ドラゴンファンタジーのダンジョンが√EDENに出現する融合ダンジョン事件の関連シナリオです。これまでの物語は、#融合ダンジョンの検索で確認できます。

●王権決死戦へ至る
 いくら殺そうとも、死そうとも蘇る。
 しかし、絶対死領域の中では永遠の死しかない。
 黒き竜と|王劔《おうけん》『|縊匣《くびりばこ》』が共に並ぶ。
 絶対死領域たる場所、本拠地。今ならば――|まだ《・・》繋がっている、そこに到る道が。
 王権決死戦――星告げるその時が乙女椿・天馬(独楽の付喪神・h02436)の瞳に映る。
 その時がきたのだと、見得た光景を天馬は√能力者たちへと伝えていく。
「秋葉原荒覇吐戦の最中に悪い、忙しい状況はなのはわかってんだけど、リンドヴルム『ジェヴォーダン』を斃す好機が巡って来た!」
 秋葉原の芳林公園でのリンドヴルム『ジェヴォーダン』との戦い。重ねられたその戦いが王権決死戦への道を開いたのだと。
「ジェヴォーダンは、王劍戦争の混乱を利用して芳林公園を『融合ダンジョン』とする作戦を行っていたんだけどな」
 それを行おうとしていたのは、自分の手勢が減ったから。
 7月から起こっていた融合ダンジョンの事件。融合ダンジョンの作戦が阻止され、そして最近では南フランスに有していた複数の配下組織を失ったジェヴォーダン。芳林公園を融合ダンジョンとする作戦は、戦力が低下しているジェヴォーダンの逆転を狙う一手だったのだろう。
「けど、皆がめっちゃくちゃにボコしたから!」
 王劍戦争に参戦した√能力者達がジェヴォーダンの企みを打ち崩したことにより、撃破する千載一遇のチャンスを得ることができたのだ。

「これから、ジェヴォーダンの元に辿り着く道筋を説明する! ひとまず俺が見た限りだから、もしかしたらそれ以外のことも起こるかもしれない」
 そう前置いて、天馬はまず出発地点は――秋葉原の芳林公園だと告げる。
「皆も足を運んだばっかりの場所、『融合ダンジョン』化の阻止に成功した秋葉原の芳林公園なんだけど、ここに作られようとしてた融合ダンジョンは大戦力を送り込むため、ジェヴォーダンの本拠地……つまり、√ドラゴンファンタジーに直接繋がってる」
 でも融合ダンジョン化は失敗した。そして今、√間の繋がりが消えようとしている。
「だから消える前に、追撃する!」
 まだ繋がりは絶たれていない。相手の本拠地へとつながる道へと飛び込むことができるのだ。この機を逃せば、次にいつ機会が巡ってくるかはわからない。
「けど、ジェヴォーダンも追撃されることを予期してる。繋がりが消えるまでの間、侵入を阻止するための決死隊を置いてるんだ」
 √間のつながりが消えれば、その決死隊は√EDENに取り残されることになるだろう。それを覚悟の上でいるから、手強い相手となることが予想される。
 つまりは、決死隊。ジェヴォーダンに忠実な者達が、本拠地へとつながる道筋や重要な場所に立ちふさがっているのだ。
 しかしどんな相手であっても倒し、√能力者はその先へ進むことを選ぶだろう。

「その敵を倒して融合ダンジョンを抜ければ、そこがジェヴォーダンの本拠地。そこはさらに複雑なダンジョンになってる」
 強力な防衛戦力がもともとは配置されていたはず。けれど、王劍戦争にほぼ全ての戦力を投入したために有力な敵は残っていない。
 しかし、侵入者対策の罠などは生きている。それがどのようなものかと言えば、様々だ。
 たとえば、落とし穴や槍がふってきたり。崩れる天井や巨大鉄球といったもの。毒や幻覚を見せる霧の立ち込める通路。ぬるぬるで進みにくい場所があったり。はたまた、通れば全方位から砲撃が来る殺意の高い場所があったり色々な手法で追い詰めようとしてくるだろう。

 その罠を潜り抜け最深部へ至れば、そこに、『|王権執行者《レガリアグレイド》』であるジェヴォーダンがいる。
 今まで戦ってきたジェヴォーダンとは段違いに、強化もされているだろう。
「|王権執行者《レガリアグレイド》との戦いは、√能力者であっても死の危険から逃れられない。死ぬ覚悟があるやつだけ……死んでもいいって覚悟ができてるやつだけ向かってほしい」

 ここから先は|王劍《おうけん》の座す領域。死の稜線を√能力者は歩まねばならない。生きては戻れぬかもしれない。その覚悟を持って、√能力者たちは向かわねばならないから。
 天馬は改めて問う。
 Ankerとのつながりが切れるその場所へ、向かう気はあるかと。

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第1章 集団戦 『ボーグル』


 秋葉原の芳林公園――√間のつながりはまだここにあった。
 そこへためらいなく飛び込む√能力者たち。その先はダンジョン。
 岩壁の場所であったり、レンガで作られた場所であったり。はたまた緑のダンジョンであったりがちぐはぐに合わさっているような状態だ。
 その中を進んでいく√能力者たち。しかし、往く手を塞ぐ者達がいる。
 それはボーグルたち。
「キタ!! ジェヴォーダン様ノタメニ!!」
「アノ方ノタメニ、コロセ!!」
「コロセ!! コロセ!!!」
「ヒトリデモオオクココニトドメロ!!」
 その瞳は血走っている。異様に戦意が高くジェヴォーダンの為にとその忠誠心を見せる叫び。
「ココヲ守ッテモ、オレタチハカエレナイ!! ダガソレデイイ!!」
「ジェヴォーダンサマノタメニ!!」
「イノチヲカケルノダ!!!」
 オ゛オ゛オオオォッ!! と雄叫びをあげた。その声はダンジョンの中に反響し、何処までも響き渡る。
 このボーグルたちは、√間のつながりが途切れたら√ドラゴンファンタジーに再び戻ることができないことを理解していた。
 つまり、決死隊。命を賭してジェヴォーダンのために、この場を守ることにすべてを傾けている。
 ボーグルたちは何体かずつに分かれ通路の各所を塞いでいるようだ。この先へ進ませないとぎらぎらと戦意を滾らせて。
 道を塞ぐボーグルを倒さなければ、この融合ダンジョンは抜けられない。しかしその敵こそがジェヴォーダンがいる本拠地への|導《しるべ》でもあった。
サン・アスペラ
空地・海人

 消えゆく融合ダンジョンへ入った途端――すでに、そこに最初の壁があった。
 複数のボーグルたちが陣取っていたのだ。なるほど、入り口で叩けたならそれが最上ということなのだろう。
 けれど、この場所は絶対に崩し、押し通ると√能力者たちの士気も高い。
 初めは興味本位で首を突っ込んだ融合ダンジョン事件だった。
 けれど、今は純粋に少しでも早く事件を解決したいとサン・アスペラ(ぶらり殴り旅・h07235)は思う。
 だから――
「迷ってる暇なんてない! ここを突っ切って、ジェヴォーダンのバカをみんなで殴りに行こう!」
 サンの声に呼応するように共に駆けるのは、同じく融合ダンジョン事件を追っていたひとり。
「ジェヴォーダンと決着つける絶好の機会……逃すわけにはいかない……!」
 空地・海人(フィルム・アクセプター ポライズ・h00953)は走り抜けた先に居る存在へと意識を向けている。
「ここは押し通らせてもらうぜ!」
 変身ベルトを腰に巻き「現像!」の掛け声。緑の装甲を纏うフィルム・アクセプターポライズ √汎神解剖機関フォームへと変身した。
 最初に会敵したボーグルたちの一団も、此処を通らせぬと大きな雄たけびを上げる。
 その身に毒棘を滾らせたボーグルたち。
 あれは避けると面倒とサンは判断する。今傍にいるのはダメージの肩代わりをしてくれる42の木精たち。
 飛行移動で道塞ぐボーグルへと一気に距離詰める。
「ドクヲアビロ!!」
 突き出されたボーグルの毒棘。けれどその前に木精が飛び出しそのダメージを肩代わりする。
 そしてカウンターとサンは殴って反撃を。消えていく木精にありがとと一瞥もともに。
 海人もイチGUN――エネルギー弾を発射する拳銃での牽制射撃で間合いを取る。
 その身に棘を巡らせて体当たり攻撃を仕掛けてくるボーグル。
「俺の第六感が離れろって告げてるんでね!」
 それを受け止めず、海人は後方に飛んで、√汎神解剖機関フォーム専用武器である空撮爆弾・ハイアングルボマーの上へ。
 しかし避けたと同時に海人のいた場所に無数の毒棘が突き上がる。
 そして今、海人は上をとっている。
「さあ、|撮影会《超必殺爆撃》の時間だ!」
 ミニハイアングルボマーの数は42。現れたそれは毒棘の場所も含め爆破を行っていく。その爆破に載せるのは疑心暗鬼。この攻撃を耐えたとして、その心に疑念が映えれば動きの精彩さは鈍るだろうから。
「ガアアアッ!!」
 爆破を受け、その体の一部を弾かれながらもボーグルの戦意は衰えない。
「ジェヴォーダンサマノタメニ、ココハ……!」
 その様子にサンは、しかし驚いたと零す。
「まさかジェヴォーダンにここまで忠誠を誓う手下が居たなんて」
 その言葉に、自分たちの存在を固辞するようにボーグルたちは咆える。
「ワレワレハ! アノカタノタメニ!!」
「お前たち、本当にジェヴォーダンなんかのために命を懸けるのか?」
 そこへ海人が言葉投げかける。疑心暗鬼となっているはず。だから向けた言葉でその戦意が鈍るのではないかと。
「あいつは姑息と卑怯の塊みたいな奴だ。お前たちのことなんか、これっぽっちも気にかけてないと思うぜ」
 その言葉に異を唱えるように唸り声が重なる。
「ソレガナンダトイウ!! ワレワレノイノチナド!!」
「アノカタノステゴマデイイ!!」
 疑心暗鬼も揺らがぬほどの忠誠。雄たけびと共に毒棘を一層滾らせ向かってくる。
 海人はそういうつもりなら、正面からやるしかないなとイチGUNを構え、その懐にはいり至近距離で打ち放つ。
 そしてサンも、その言葉を耳にして。
「そうか……お前たちも死を覚悟してるんだね」
 根性曲がってるアイツの手下にしては真っ直ぐなヤツらだと僅かに笑う。
「イイじゃん、燃えてきた!」
 その言葉と共にサンの太陽の翼が一層の激しさをもって燃え上がる。
「私も本気でやってやる!それで恨みっこなしだよ!」
 太陽の翼を燃え盛らせて、毒棘を滾らせるボーグルたちへとサンは正面から、空中駆ける。
「燃やせ魂!」
 その声と共に一層激しく燃え上がる太陽の翼。燃え盛るボーグルたち。
 しかし、その体燃え尽き果てるまで戦うのだと、正面より突っ込んでくるものもいる。
 そのボーグルを前に根性あるヤツ! とサンは構えてただ拳を前に出しぶっ飛ばす。
「悪いけどここは通らせてもらう!」
 ボーグルたちの上で再びの爆発。それは海人が仕掛けた一撃でもある。
 ボーグルたちの中に燃え尽きて落ちていくものもある。この場所を制するのはもうすぐだろう。
 やがてその道の先が開けて。
「道は拓けた! みんな続け!」
 サンはその声を仲間たちへと向け、そして自身もただ前へ、この先へと駆ける。

夢野・きらら
タマミ・ハチクロ

 最初のボーグルの壁を打ち払われた。
 しかしまだこの消えかけの融合ダンジョンにはボーグルたちが各所に配置されている。通してはならないと各所に陣取り道を塞いでいるから。
 √能力者たちはダンジョンの中へとそれぞれ散っていく。ボーグルたちが集う場所を進んでいけば、いずれは本拠地たるダンジョンへと辿り着くだろうから。
 この融合ダンジョンが消えるまえに――それは√能力者にとってもボーグルにとっても時間との戦いでもある。
 融合ダンジョンが消えれば本拠地へは辿りつけずジェヴォーダンが再起を計れる。その礎になるのだとボーグルたちはぎらついていた。
「このボーグル達、士気が高い……覚悟を決めているんだ」
「まるで狂信でありますな……しかし、決死の覚悟で臨んでいるのは小生らとて同じであります」
 夢野・きらら(獣妖「紙魚」の|古代語魔術師《ブラックウィザード》・h00004)タマミ・ハチクロ(TMAM896・h00625)は魔導書を手に、ボーグルたちと向かい合って、タマミ・ハチクロ(TMAM896・h00625)の言葉に頷く。
「うん、王権決死戦に挑むぼく達もそれは同じ」
 毒棘を纏い、突撃してくるボーグルたちがいる。きららはその前に立って、自分の全面へとエネルギーバリアを展開した。そのままボーグルの毒棘の攻撃を防いで、そしてぐっと押し込まれそうになるのを耐えて、踏みとどまる。
「タマちゃんはバリアの内側から準備をおねがい!」
 そう、きららはタマミへと声かけながら魔力を魔導書へと集中させる。
 どれだけボーグルが強化されても、完全無欠の敵って訳じゃない――竜漿魔術でボーグルの隙を見出してみせるときららは言う。そこへ攻撃をして欲しいんだと。
「照らし出せ、暴いてみせろ」
 魔導書が燃え上がる。ボーグルたちの隙――今それは、まだ見えない。
 ボーグルたちは猛々しく獣人の長の記憶を滾らせその腕力をあげてきららのバリアを圧し割ろうとしてくる。
 タマミもプロテクトバリアを巡らせ、きららの助けを。
 そして自身は攻撃の機会逃さぬように構える。
「守って頂く分の仕事はやってみせるであります!」
 その声にきららは頷いて、そして集中する。ボーグルたちが毒棘を巡らせて再びの突撃をかけようとしてくるのを前に、息をのむきらら。
「……受け止めるしかないかな」
 避けたなら周囲一帯を毒棘だらけにされてしまう。
 ダメージを癒す√能力はあとで使えばいい。
「√の繋がりがどの程度持つのかわからないから先を急ごう」
 ここで止まってはいられないときららは思う。
「ぼく達はボーグルの思い通りになんてなってやらないさ」
 ボーグルたちが毒棘でバリアを刺し貫くように仕掛けてくる。その、貫いた瞬間が隙。
 今! ときららがタマミへと伝えれば。
「主よ、我らを哀れみ給え――」
 天使の羽を模した軽量型レイン端末。その羽より放たれる聖属性の弾丸が放たれる。
 それはバリアを通り抜け、ボーグルたちの身だけを貫いていく。その毒棘を貫いて。時には地面を撃ったものもあるがそれは聖なる光となりボーグルたちの身を激しく貫いた。
 そしてきららには聖なる加護を。
「きら殿」
「これなら、押し返せる!」
 バリアを支える手に力を入れて、ボーグルたちを弾くように押し返す。
 戦っている仲間たちは他にもいる。そちらからも、すぐに追撃が入っていく。

其之咲・光里
クラウス・イーザリー
ウララ・ローランダー
誉川・晴迪

 ボーグルたちと正面からぶつかり合う。けれど真面目に付き合う必要もない。
「さて、舞台を整えましょうか」
 爽やかな風と共に現る誉川・晴迪(幽霊のルートブレイカー・h01657)。しかしその風はすぐに不気味で不思議な濃霧を運んでくる。
 今まさに目の前に敵がいたというのに、霧に飲まれて見えなくなったボーグルたちは声を荒げて、しかし目の前にいるとなりふり構わず攻撃をしかけてくる。
 その様子に青白く燃え上がりながら浮遊する人魂を晴迪はいくつも呼び出した。
 現れては消える――霧の中でのこと。だがボーグルからすれば敵影なのだ。
 魂魄炎がゆらめく。その瞬間ボーグルは毒棘を滾らせて体当たり。しかしそこには何もないのだ。
 そこへ無数の√能力者の幻がボーグルへと襲い掛かる。ボーグルたちは得物を振り回すが、手応えはない。
「何せ幻ですから」
 ふ、と晴迪は笑って死角からヒトダマ死霊が容赦ない不意打ちを。
 その攻撃続けばどこから、と混乱するボーグルたち。
 五里霧中――と、晴迪は紡ぐ。
「ムキムキなあなた達にもぴったりの言葉ですね」
「霧ナドフリハラエ!!」
「棘ヲシカケロ!! イルノハマチガイナイ!!」
「ジェヴォーダンサマノモトニイカセルナ!!」
 ボーグルたちは猛々しく声あげる。
(「ジェヴォーダン……僕様ちゃんはまだこの人と殺り合ったことはないのだ」)
 けれど、噂はかねがね聞いているわとウララ・ローランダー(カラフルペインター・h07888)は零す。
 融合ダンジョンを作り、非道な実験をしていた。その事実を知ったなら、じっとしている事なんてウララには出来なかった。
「ヒーローたる僕様ちゃんはそんな事、絶対許せないんだから!」
 特殊ウォーターガンに紫インクをアクセプト。
 霧の中だけれども、相手がどこにいるかは十分にわかる。
(「僕様ちゃんの『時間操銃』は誰かのフォローするとより強い、だから」)
 ウララは誰かの手伝いになるように動く。
「バイオレット・アクセプト! 時よ僕様ちゃんに味方して!」
 ウォーターガンから放たれた弾がボーグルを彩る。
 その攻撃受けたボーグルはなんだ、と思うがその足が、体が全く動かなくなる。
「アイツをボコボコにするのよ!」
 その声に、反応する。動きが停まっている――であれば、狙い時。
 其之咲・光里(無銘の騎士・h07659)は即座に踏み込んで、|無銘輝剣《ストレイライト》を振り抜いた。
 鈍い音と共に、ボーグルが密集する場所へとその敵は吹き飛ばされる。
「バッチリ!! 僕様ちゃんもボコボコに撃ってやるわ!」
 その吹き飛ばされた勢いで霧が僅かに途切れたが、ウララは遠距離から属性乗せた制圧射撃を繰り出す。
 近接攻撃を仕掛けられそうになる、でもその前に討ち取ればいいだけ。
「ガァッ……! イノチヲツカイツクセ!!」
 自分たちの力が削られても、ボーグルたちの戦意は衰えず。光里はその様を目にし改めて、向かい合う。
(「相手の絶対負けられないという意気込みは、力の入りすぎに繋がって、隙を生むはず……!」)
 |無銘輝剣《ストレイライト》――光を歪に吸収し、反射する研ぎ澄まされていないその刀身。大剣型の竜漿兵器を構え光里は強化された腕力で振り下ろされる無骨なナタを受け止める。
「っ!!」
 重い、けれど――全身の竜漿を右目に集中させ、次の攻撃の為に大きくふりかぶり、あいたその胴へと無銘輝剣を向ける。
 光里もなぎ払うための挙動で隙ができる。どちらが一撃を入れるのが早いか。
 重さを乗せて、光里がなぎ払う方がわずかに早かった。敵の集う場所へ吹き飛ばしさらに隙を。
 しかし、敵も薙ぎ払われながら振り下ろす挙動はやめず。本来の威力を鈍らせるように無銘輝剣へと攻撃をあててきた。
「オシカエセ!! ココヲトオスナ!!」
「負けられない理由があるのは、あなた達だけじゃない!」
 押し込もうと、崩れた隊列をボーグルたちは再び築き、光里へも再び飛び掛かる。
「悪いけど、押し通させてもらうよ。ジェヴォーダンにもあなた達にも……その先の光は与えない!」
「ジェヴォーダン様ノジャマハサセヌ!! グアアアッ!!!」
 高らかと叫びながら光里へ仕掛けようとしていたボーグルが、レーザー射撃によってその目のあたりが撃ち抜かれる。
「立派な覚悟だ。だけど俺達も退くことはできない」
 遠距離からのレイン砲台での射撃。クラウス・イーザリー(太陽を想う月・h05015)は間合いを計りながら、体内の魔力を剣の形に錬成し走り込む。
 急接近。走り込みながら居合を放ち、目のあたり抑えるボーグルを斬り捨てた。
 クラウスの視線は厳しい。
 人の心を蝕んだ融合ダンジョンの騒動は記憶に新しい。クラウスも融合ダンジョンの事件に関わったひとり。
 その行動企てたジェヴォーダンの首元にこの剣が届くというのなら。
(「この好機に、何としてでも止めなければいけないんだ」)
 ボーグルが荒々しく武器を振り払う。思いのほか俊敏な動き――能力が上がっているのだろう。けれど隙が無くなる訳ではない。
 素早いのなら広範囲への射撃による牽制をとレイン砲台を動かすクラウス。
 動きが早く捉えにくいなら射程範囲を広げればその中に入るはず。
 時折、動きを止める個体もいる。それがウララの攻撃によるものと見て、クラウスはタイミングを合わせるようにしかけた。

フィオ・エイル・レイネイト
シアニ・レンツィ
御剣・刃

 御剣・刃(真紅の荒獅子・h00524)はダンジョンを進んだ先、新手のボーグル性質と対していた。
「ジェヴォーダンサマノモトヘハイカセン!!」
「ココデシネ!!」
 ボーグルたちの戦意はみなぎっている。刃はなるほど、とその瞳を細めた。
「ジェヴォーダンにそれだけの人望があるかどうかはともかく、士気は高いようだ」
 なら真正面から打ち砕き、突き進むのみ。
「戦士として、誉ある死をくれてやろう」
「デハキサマニハグドンナルシヲ!!」
 ボーグルが己を強化し、その腕に力をみなぎらせる。その力が入る瞬間を刃は見て、自身のリミッターを解除する。
 身体能力の限界を無くし、それ以上の力を。
 敵が無骨なナタを振り下ろすより早く、拳をその懐にねじり込むように打ち込だ。
「グボォッ!!」
 良いところに入る感覚。そのまま続けて零距離格闘をしかける。
 だが横から、別の一体が刃へ攻撃を繰り出そうとした。
 しかしその動きが来る前に、捨て身の一撃で目の前の一体を殴り砕き粉砕する。
「良い勝負だった。ジェヴォーダンもすぐにそっちに送ってやるから、そんなに寂しくねぇぞ」
 倒れた一体へと手向ける言葉。
 けれどさっきの一体がいると、すぐさま刃は身を翻すが、それは魔力の鎖で戒められていた。
 その鎖を操るのはミニドラゴン。シアニ・レンツィ(|不完全な竜人《フォルスドラゴンプロトコル》の羅紗魔術士見習い・h02503)の召喚したものたちだ。
 この先はいつ死の谷底に落ちても不思議はない。
 死ぬのは怖い――そう思う事は普通だ。
 シアニもいま、その想いを抱いていた。
(「……でも。魔物にされた子も、酷い実験をされた人もそうだったはずなんだ」)
 ここで止めないと、また誰かが同じ目に遭う。それは嫌とシアニは顔をあげ、だからと一歩を踏み出す。
「怖がるのは後回しっ!」
 前に進むのが救えなかった人たちに報いることだと信じて今は戦くだけだ。
 シアニは羅紗マフラーで魔術巡らせ遠距離から攻撃を。
 けれどボーグルたちも排除を擦るべく突撃をかけてくる。
 シアニの傍らで緑竜「ユア」が鳴き声あげ火球を放ち牽制。けれどそれをものともせず突き進んでくるボーグルは耐久力が高いのだろう。
 手心は加えられない。気を抜いたらやられてしまうのがシアニにはわかるから。
 けれど、思う。
(「この魔物たちも騙されてるのならやるせないね……」)
 ユアが鎖でからめったところをシアニはハンマーで打つ。鈍い音と共に目をまわしながらボーグルは膝を付くがなお立ち上がろうとしていた。
「ゼッタイに……トオサヌ!!」
 その声には決意がある。死を覚悟しているからこそ絞り出した声だ。
 互いに決死は覚悟の上と――上等だ、とフィオ・エイル・レイネイト(無尽廻廊・h06098)は紡ぐ。
「その上で私は君たちを踏み抜いていく。その覚悟、踏み抜かせてもらうよ」
 呻きながらも戦意滾らせるボーグルがフィオの姿を認識する。
 その直後に、獣の姿が刻まれた、緑色の刀身を持つ刀――妖刀『無尽廻廊』に手をかけフィオはその妖力を解放する。
 途端、フィオの視界の中にいるボーグルたちを振動が襲った。
 立っていられぬほどの揺れ――地面が揺れるならば跳躍すれば僅かでも逃れられるのではと動くボーグル。
 けれど、空中ですら振動は止まらない。ならば一撃をボーグルは腕力強化しフィオへ飛び掛かる。 
 その刹那、フィオは一気に溜めた力と共に妖刀抜き放ち両断する。
「グァ、アアアアッ!!!」
「!!」
 それは絶命の一撃。だがまだ残る命を賭してボーグルはフィオへナタを振り下ろした。
 フィオは硬化した右腕でそれをしのいだが、鈍い痛みが走る。
 倒れ、光失うボーグルの眼。そこに無念さを感じ、フィオは紡ぐ。
「こちらも覚悟は決めて来たんでね。先に進む覚悟さ」
 だから、残る敵に視線向ける。
「一個聞いておこうか。君たちの目から見るジェヴォーダン、どんな奴だった?」
 何故そんなことを聞くのか、とボーグルたちは唸る。
「ここまで君たちを熱狂させられる奴だ。私が勝とうが負けようが、どんな印象があったのかは知っときたい」
 ボーグルはスバラシイカタダ!! ツヨイ!! カッコイイ!! アタマガイイ!! とたたえるように声を上げる。
 その様子にフィオはしまったな、と思う。
「士気をさらに上げてしまった……」
 それでも、ここにいるボーグルたちを倒すだけだ。

パンドラ・パンデモニウム
アマランス・フューリー

 絶対死領域――その気配に近付いていくごとにアマランス・フューリー(星漣の織り手にして月詠の紡ぎ手・h08970)はその記憶を鮮明に思い起こしていく。
(「……あの魔術塔での決死戦は私の運命の転機だった」)
 あの時救われた私だからこそ今度は他の人も救いたいと、消えゆく融合ダンジョンにアマランスも足を踏み入れたのだ。
 僅かに表情を硬くする彼女をちらりとみて、パンドラ・パンデモニウム(希望という名の災厄、災厄という名の希望・h00179)の胸中にも芽吹くものがある。
 まさかアマランスさんと他の決死戦に出るとは思いませんでした、とその気持ちを素直にパンドラは零す。
「いやあ人生も運命も何があるかわかりませんねえ」
 そう言ってパンドラはまっすぐアマランスを見つめる。
「頑張りましょうねアマランスさん、私が護りますから」
 その視線をアマランスは受け止める。そしてパンドラの唇がまだ動くのを目にした。
「……あなたは死んではいけない人です」
 その言葉にパンドラの深い想いを感じ、アマランスは頷きつつも、自分の言葉を彼女へ向ける。
「パンドラ、無理はしないで。あなたも私の……大切な人なのよ」
 パンドラは笑って頷くと、この先にいる気配がしますと意識をそちらへ。
「ココハトオサナイ!!」
「コロセ!! コロセ!!」
 激しい雄たけびを上げるボーグルたち。パンドラはわぁ、とその表情を微かに歪める。
「なんかボーグルさんたち盛り上がってますね……」
 けれどそんなこと知ったことではない。
「人に迷惑をかけてまでテンアゲしないでください」
 そしてアマランスもひとつ吐息零す。
「過ぎた忠誠心は哀れなもの、羅紗にいた私だからこそわかるわ」
 せめて死をもって解放してあげましょう――そう言ってアマランスはパンドラに動きを合わせる。
 パンドラはウラヌスの右目とクロノスの左目を使い戦場全体を測る。そしてハーデスの隠れ兜をかぶり、ボーグルたちの認識を阻害しつつ幻影を操り、その意識を乱す。
 アマランスも気配を殺し、その機を伺う。
「我が身より今ひとたび放たれよ、三重に終焉をもたらすもの」
 パンドラが静かに紡ぐ。
 するとボーグルたちの動きが変わった。
「ココダ! ヤッタ!! ヤッタゾ!!!」
 その幻影はどんなものだろうか。壁を殴りつけ喜んでいるボーグルが始まりだった。次第に壁から、ボーグル同士へとその動きは変わっていく。
 その動きに重ねるように、混乱の最中でアマランスは踊る様にその羅紗端切を振りまく。
 同士討ちの中に火炎や雷撃が走る――すると流石にボーグルたちもおかしいと気付いた。しかし、だ。
 パンドラが災厄を解放する。どこからともなく隕石が現れボーグルたちを潰すように落ちてきた。
 それは|封印災厄解放「終末の三重葬」《メギド・トリスメギストス》の終わりに来るもの。
「グアッ!!」
「ウデガア!!!」
「ガアッ!!!」
 痛みを感じて叫び声が響く。しかしそれをなんとか耐えきったボーグルもいるのだ。
 ぎらぎらと敵意をみなぎらせボーグルは最後の力を振り絞るように向かってくる。
「アマランスさん!」
「ええ、大丈夫」
 まかせてとアマランスは紡ぐ。
「時の果て虚空の彼方より織り為さん、紡がれよ白き呪いの手」
 |純白の騒霊の招来《エヴォカーエ・レムレース・アルブス》をもって、アマランスは終わりを下す。
「行きなさいレムレース、触れたものすべてを消し去るその光で道を切り開くのよ」
 未来へつながる道をね――とアマランスの声はあえかに紡がれる。
 嘆きの光が残るボーグルたちを消し去るのだった。

真心・観千流
レイ・イクス・ドッペルノイン
赫夜・リツ

「玲子? あれ? 電波悪い?」
 Ankerとの連絡が途切れる。オペレーターとしていつも共に立ち回ってくれていた彼女とのつながりが。
 レイ・イクス・ドッペルノイン(人生という名のクソゲー・h02896)は新ためて自分が向かっていく場所を理解する。
「……そっか、そういう場所なんだ、此処は」
 そして――前方から感じる気配。それはこの先に行かせまいと立ち塞がるボーグルたち。
「数が多い上に狭い! 圧倒的質量には圧倒的暴力って玲子も言ってた!」
 戦いとなればレイはすぐに切り替える。
 ラビングストライクの爆破範囲と手数を、そしてラベンダー・ブルーのノックバック範囲を、複数人入れるほどに拡大を。
 当たり判定を|メソッド・亜空間力学《ナゾノシ》を自身の得物に注ぎ込んだのだ。
 集団狩猟の体勢をとりボーグルたちが向かってくる。レイはラビングストライクを投げ放つ。爆ぜる爆発にボーグルたちは苛まれる。
 そして世界の歪みが向かってくるのを邪魔して近寄らせず押し戻す。
 それでも突破してこようとするボーグルもいるから。
 重力変異現象であるキリング・アワーでそれを弾き飛ばす。
 それでもまだ、押し寄せてくるのだ。決死隊であるボーグルたちは一体とて引くことが無い。
「敵は通路にミチミチと……ならば一手何得かと行きましょう!」
 真心・観千流(最果てと希望を宿す者・h00289)は戦っている場に遭遇する。
 まだボーグルは観千流人気付いていない。近接攻撃が届かぬ場所で観千流は高らかと。
「私は常に、進化する!」
 4100発のナノ・クォーク――電子より小さく特殊な観測装置を使わない限り結果を確定させない性質を持つ極小物質――その属性の弾丸を撃ち放つ。
 それを受け、そしてその着弾付近にいるボーグルたちはインビジブル崩壊の弱体化と量子崩壊による2倍ダメージを与えるのだ。
 そして味方には、回復と短距離テレポートという強化を。
 一気に放たれた弾幕が敵を翻弄し削り、戦線を押し上げる。
 そしてその弾丸はダンジョンにも撃ち込まれている。ダンジョンの構造をハッキングし情報収集を。量子の並びを読みとりダンジョンの構造を把握できればと行動するが消えかけているここはとても不安定で、状況は移り変わっていく。
(「石橋を叩くように慎重に、確実に崩していきましょう」)
 何か罠などがあれば、量子干渉弾頭で固定し動かなくし、不利を減らそうとしていたが揺れ動く中で罠のようなものは見当たらなかった。
 観千流の援護が面倒だと判断したボーグルたち。すぐさま狙いを定めてくる。
「ヤッカイナヤツヲツブセ!!」
 毒棘をその身に生やし観千流のもとへ。
 けれどその間に素早く入る影がひとつ。
 異形化した赫夜・リツ(人間災厄「ルベル」・h01323)の左腕がボーグルを殴り飛ばし、襲い来る一撃を邪魔した。
「グアッ!! コロス!!」
 殴り飛ばしたボーグルはすぐさま起き上がり、リツへといらだたしげに視線を向ける。観千流からリツへと標的を変えたのだ。
 融合ダンジョンは色んな人が巻き込まれて大変だった。その元を断てるなら、早い方がいい――だからリツは今ここにいる。
 よし。丁度一段落ついた頃だし、急いで現地に向かおう――とやってきて、遭遇するのも早く。
 躱す言葉もなく殴り飛ばすことからリツの戦いは始まった。
「ボーグル達の熱気、すごいな……」
 ぎらぎらと向けられる敵意。リツはそれを瞬き一つでいなしてしまう。
「そこまで尽くせるものがジェヴォーダンにあるんだろうけど」
 僕たちにも譲れないものがある――その熱気に気圧されないように、こっちも気を引き締めていこうとリツは己の左腕に声かける。
「ギョロ、出番だ」
「出番? それは暴れていいってことだな!」
 楽しそうに笑う左腕の怪異。今日は荒ぶっても注意はきっとないだろう。リツは頷いて、一緒にたくさん敵を殴り飛ばそうと告げる。
 その言葉にけらけらと楽しそうにギョロは笑って、もちろんそのつもりだぜ! と応じた。
 多くの人が進めるように、道を切り開いていく。それが今、自分のすべきこととリツは分かっている。
 隠れて忍び寄って来たボーグルの気配に反射的に左腕を振り上げて耐えたなら、痛い! とギョロの文句の声。
 けれどその痛みをボーグルに殴って返す。
 集ってくるボーグルたちへ、まとめて。やられたなら倍にして返すだけ。

一百野・盈智花
七々手・七々口

「決死隊なんて慕われてるじゃんジェヴォーダンサマ」
 まあ私らには関係ねーけどなと零しながら一百野・盈智花(災匣の鍵・h02213)は見つけた敵の元へと駆ける。
「ロクでもないことしかしてないみたいだし、そろそろオトシマエつけてもらおうか」
 ボーグルの配置されている場所を辿れば本拠地に辿り着けることに盈智花は小さく笑った。
「迷わずに済むぜ。ナイス目印」
 そしてそのまま集う場所へと盈智花は走る。
「|解体《バラ》せ、ジャック・ザ・リッパー」
 盈智花は怪異を解放する。瘴霧と影で構成された輪郭をもつ人型怪異は捉えどころがなく先行する。
「ナニカクルゾ! ギャア!!!」
 明らかにおかしいとボーグルたちが構える。しかし、構えても、霧は実体がないのだ。
 そしてその霧に紛れて、盈智花も不意打ちをボーグルへ。
 しかし大きく武器を振り払い、ジャックの霧を払おうとしてくる者もいる。
「ジャック!」
 もし、その身に傷を負ったら。削られたら――遠慮なく切断して食べていい。ジャックは盈智花の意思組んで、刃物を斬りの中で躍らせてボーグルの身を削いだ。
 そしてその削いだものが霧の中に消えて行けば、薄れた場所が満たされる。
 突然の攻撃にボーグルたちは警戒を深めている。
 盈智花はまぁそうなるかと思う。
「覚悟ガンギマリで恐怖感じではなさそうだけど、でも」
 戸惑いの中で死んでいけ――何が起こるかわかっていない。戸惑いはそこに確かにあった。
 どこからくるかわからぬ攻撃にボーグルたちは解決策を見いだせないままだった。
 と――まぐれか、それとも探し当てたか。ボーグルの一体が盈智花を明確にとらえて攻撃を駆けてきた。
 しかし、その攻撃は届かない。盈智花に見覚えのある魔手が受け止めていた。
「アンタも来てたのね」
 視線の先は、下へ。軽やかな足取りで黒猫が――七々手・七々口(堕落魔猫と七本の魔手・h00560)いた。
 七々口はゆらりと7本の魔手を揺らす。その瞳はボーグルたちを捉えていた。
「ジェヴォーダンサマノモトニハイカセン!!」
「ふむ。ジェヴォーダンは随分と部下に慕われてるんやのう」
 その理由を聞いたら答えてくれるかな? と七々口は笑って。
「ま、殺す事にゃあ変わらんのやけども」
 くつりと喉鳴らして、紡がれる言葉。
「我が身を門とし、来れ。世界を均す妬みの蛇よ」
 嫉妬な魔手が大罪深化して、七々口の視界を覆ってしまう。それは一時的なものだがまっくらな世界が七々口に降りてくる。そしてその世界はボーグルたちにも襲い掛かる。
「メガ! マックラダゾ!?」
 その慌てている声を気にせず、七々口は嫉妬ちゃん以外の魔手たちに命じる。
「さてと、敵が目が見えなくなって混乱しているうちに、さっさと殺しちゃって魔手達?」
 怪力全開でぶん殴って殺ってくださいなーと言う声に、黒に赤纏う魔手たちは拳握ってボーグル性質を殴り始める。
「グアッ!!」
「ゴアァッ!! ギャアアッ」
 殴り飛ばされたボーグル。そこへ盈智花のジャックも刃走らせる。ボーグルの視界が奪われてさらにやりやすくなった。
「このあたり一帯、バラしちゃいましょ」
 盈智花の言葉に七々口はではそちらに運んでしまおかと一声。すると魔手が盈智花の方へボーグルを殴り飛ばす。
 しかしその拳の中を運良く潜り抜けたボーグルが七々口に迫っていた。けれど――嫉妬ちゃんがそれを許さない。
 目隠しされたその隙間から金の瞳がわずかに除く。その瞳はボーグルが殴り潰されるのを、あらまぁ派手にと見つめていた。

峰・千早
白石・明日香
八海・雨月

 ボーグルの雄たけび。その声の重さに峰・千早(ヒーロー「ウラノアール」/獣妖「巨猴」・h00951)は思う。
「そちらが覚悟を決めているのに、こちらが生半可で挑むのは失礼に当たるでしょう」
 で、あれば――ヒーロー『ウラノアール』に変身し戦うのが千早の、ウラノアールの礼儀。
「ホロベ!! クチハテロ!!」
 体に毒棘を巡らせ、そして鉈を振り上げ迫るボーグル。ウラノアールは両端に宝玉を備えた儀礼用の杵、宝珠杵でその攻撃に対抗する。
 近距離――にやりと笑うボーグルの顔。
 来る、とウラノアールは予感する。毒棘の攻撃は周囲にも散る。だからここは受け止めるべきと察知して。
 毒棘を前面にだし体当たりを仕掛けてくるボーグル。ウラノアールの身をその棘は貫き、毒で浸していく。
 だが宝珠杵を握る手に力を込めて殴り返す。
「因果は逆転する……貴方の見る真実は絶望です」
「ナニ? グアアアッ!!??」
 |巨猴誑かし《ウラノ・トリック》ををもってボーグルに痛みを、毒を転嫁する。
 傷は塞がりウラノアールの足元に毒棘が落ちる。躱せばこの周辺に広がっていたであろう毒棘。しかしウラノアールは攻撃を受けた。
 くらったそれは広がることなく、その場にとどまったのだ。
「多くの人を巻き込み、いざ狙われれば貴方がたを足止めに逃げ帰る」
 だが、まだボーグルは呻いている。自身の毒に苛まれて。それでも、敵意を向け襲い掛かろうとうするのは執念なのだろう。
「そんな|獣《ジェヴォーダン》に与した事、悔いて倒れろ!」
 ウラノアールは言い放ち、仕留めるための一撃を食らわせる。
 吹き飛ぶボーグルは仲間の作る壁へとぶちあたる。その様を目にし、白石・明日香(人間(√マスクド・ヒーロー)のヴィークル・ライダー・h00522)は溜息ひとつ。
「はぁ……道塞がれて邪魔だな」
 多数のボーグル性質が居るこの場所。先には進ませまいと士気もいまだに高いまま。
 明日香は面倒くさそうに。けれど、その瞳に戦う意志を乗せて駆ける。
「押し通らせてもらうぞ!」
 物陰に隠れながら可能な限りボーグルへと近づいて弾道計算を。
 狙いを付けた先は――ボーグルたちがその身に映えさせている毒棘。
「こいつで終わりだ。あばよ」
 鮮血属性の弾丸を明日香はボーグルたちへ放つ。毒棘を貫いて、血の雨降ればボーグルたちにとってそこは死地に近くなる。
 そして。
「壁からの跳弾にも気をつけな。言っても遅いけど」
「グギャアア!!」
 先に放った弾丸が跳ねて別の方向からもボーグルたちを穿つ。ボーグルたちが攻撃により生み出した棘もその弾丸で牽制するように打ち崩していく。
「あとは接近されないように……っと」
 走り込んでくるボーグル。躱すよりも仕留める方が早い。明日香が狙うのはボーグルの、頭部。
 顔面に打ち込まれた弾丸。そのひとつでは微かに怯むだけ。まだぎらぎらとした視線をボーグルは向けてくる。だからさらに距離詰めて、零距離より明日香はありったけの弾を叩き込む。
 穴だらけになった頭。そのままボーグルはその場に崩れ散る。そして明日香には先に続く道が見えた。
「さて、この先にダンジョンか……決着をつけてやるよジェヴォーダン」
 ジェヴォーダン――その名を紡ぐ。明日香も融合ダンジョンの事件の一端に関わったひとり。
 かと思えば融合ダンジョン事件にかかわることなく、この場に赴いたものだっている。
 八海・雨月(とこしえは・h00257)がそんなひとりだ。
 ジェヴォーダンには何の因縁も無く。融合ダンジョン事件にも手を付けてこなかったしねぇと零す。
「……でも、此処に至るまで頑張って戦って来た子達がいるんでしょ」
 それを繋ぐのは命を賭すのに十分だわぁと雨月も戦いの中へ加わった。皆の手助けを、此処まで繋いできたことを無為にせぬように――その気持ちがある。
 けれど、もうひとつ。
「それに、獣人の肉も味わってみたかったしねぇ……」
 だから雨月は本来の姿を取る。強大な鋏角を持つ白い外骨格の、巨大なダイオウウミサソリに変異する。
 ボーグルたちよりも何倍も大きなその姿。ボーグルたちはその姿を見て、僅かにためらいを見せる。巨大なそれとどう戦うか――その逡巡だ。
 その合間に、ギチギチギチと軋轢音を放出する雨月。それは思考操作の呪いが籠った音だ。
 ふらり――ボーグルの内の一体が自分から雨月へと近づいて。他のボーグルがおかしいと止める間もなく、雨月の鋏角が裂き、そして巨体が引き潰す。それを見てもボーグルたちはタオセ! と叫びながら飛び掛かってくるがその巨体が動くだけでもボーグルたちは吹き飛ばされる。
「わぁ」
 飛び散った肉片、それを食みながら雨月はダンジョン内を這いずり回る。
「よかったわねぇ、ジェヴォーダンサマの為に死ねて」
 雨月はふふと小さく笑う。でも味はいまいちねぇ――なんて、零しながら。

二階堂・利家
見下・七三子
機神・鴉鉄
ゾーイ・コールドムーン
ゴッドバード・イーグル

 ダンジョンの中を駆ける。先を行く者達が開いてくれた道を通り、さらにその先へ。√66の面々は共に奥へと向かっていた。
「間一髪って所か」
 二階堂・利家(ブートレッグ・h00253)は零す。姑息で卑怯――この先に居るジェヴォーダンを思い浮かべながら。
 これ程の戦力を有していながらも自らを予知への囮にして。そして迷宮に|拉致《集団失踪》した一般人が余裕で鏖殺できる精兵を星詠みから隠し通していた――そう利家は考えていた。
「本ッ当にセコいな!」
「ジェヴォーダンさんはもう、本当に色々色々、人が嫌がることばっかりしてくれましたからね! もう」
 見下・七三子(使い捨ての戦闘員・h00338)も融合ダンジョンの事件に触れていた。だから何かしら、思うことはあるわけだ。
「決死の覚悟で妨害してくるボーグルさん達には悪いですけど、絶対押し通るんですから!」
 その言葉にうんうんとゾーイ・コールドムーン(黄金の災厄・h01339)も頷く。
「ずっと隠れていた相手が自分から出てきたんだ」
 この機を逃すわけにはいかないとゾーイも思うのだ。
 短銃を構え、隠密状態の敵を警戒しつつ機神・鴉鉄(|全身義体の独立傭兵《ロストレイヴン》・h04477)も続く。
 チームで進むのは心強い――そう思っていた矢先だ。
「この先にいます」
 周辺のマッピングと索敵を行っていたゴッドバード・イーグル(金翅鳥・h05283)が告げる。
 芳林公園の戦いは、ダンジョン化に巻き込まれた一般人の被害を最小限に防ぐ事が出来ました、とゴッドバードはこれまでの戦いのひとつを振り返る。
「逆説的に此処はジェヴォーダンの配下しか居ない筈ですが、万が一には留意しておきましょう」
 上空からチームを先導し、そしてハウリングキャノンのエコーロケーションで敵の姿を警戒する。伏兵や奇襲の可能性もあるからだ。
 ゴッドバードのそれにひっかかったボーグルたち。進んだ先にいることを告げたゴッドバードはエネルギーバリアを纏って自衛を。
 そして行く手に立ちふさがるボーグルたちの姿が見えた。すでにそこにいることがわかっていたから戦いに入る準備はできている。
「彼らには悪いけど、道を開けて貰わないとね」
 ゾーイは強力な死霊を横に、いつでも切り結べる準備を。
 そしてボーグルたちも、きたぞと猛々しく声をあげ、士気をあげていた。
 その姿を目にして利家は言う。
「こいつらは俺達を1人たりとも通らせまいとしている。マトモに付き合ってたら時間切れだ」
 だから。
「押し通る!」
 先頭を走る利家は走りこみながら怪異腹腹時計をいくつも投げ放つ。乱れ撃つように放たれたそれはボーグルたちの上で爆ぜその隊列の一部を吹き飛ばした。
 そこが斬り込む場所。崩れた場所を立て直そうとするボーグルたちへ牽制射撃を浴びせるゴッドバード。視線を向けられたならすぐにその場を離れて回避する。
 ボーグルたちもただではやられない。すぐさまその体に毒棘を生やしそのまま突撃をかけてくる。ボーグルたちは凶暴化し、なりふり構わぬようなそぶりだ。
 ゾーイは強力な死霊を纏いその移動速度を高め攪乱も兼ねる。
 集団狩猟の耐性を取るボーグルたちの間をゾーイは駆ける。そして閃かせる黄金色――災厄としての力で刃が黄金化した短刀をゾーイは振るう。その刃は今、呪詛の刃となっていた。
 斬りつけたならそこよりボーグルたちは呪詛を浴びることになる。
 得物を振り上げて襲い来るボーグルを、上手にゾーイはいなす。ゾーイへとボーグルたちが集おうとする、だがそこへ声が一つ響く。
「では、戦闘員さん達、よろしくお願いしますー!」
 荒ぶるボーグルたちを邪魔するように、戦闘員の幻影達も現れた。七三子は手数を増やし、死角を減らしていく。もし潜んでいるものがいたとしてもきっと対応できるだろう。
 戦って、怪我をしていた仲間がいれば回復もと七三子は考えていた。けれど今会敵したばかり。その必要はまだなさそう。
 そしてそろりと戦闘員がボーグルの死角をとったなら。
 七三子はすぐさま入れ替わって蹴り上げた。手数重視、深追いはしない七三子。ヒットアンドアウェイに徹し、隙をつくるのだ。
「ゴフッ!!」
 その攻撃でボーグルがバランス崩したならさらなる好機。
 遠距離から鴉鉄が射撃を行う。|重質量砲《マスドライバー》と|電磁投射砲《レールガン》を思念操作で制御しながら、隙ができた敵を撃ち抜く鴉鉄。
 鴉鉄の周囲の浮遊砲台が複数目標をロックオンしている。
 であれば、と鴉鉄は皆へ声を向ける。一掃します、と。
「|識別信号を確認I.F.F.《シグナル・コンファームド》……敵機捕足……排除開始……」
 その言葉に、皆素早く動いてその射程から逃げたり端へ。その直後、ボーグルたちを暴風の如く、複数の火器での一斉掃射が始まる。
 断末魔の声が響き――やがてそれが収まれば道は開けていた。まだ動けるボーグルもいるようだが、追ってこれない状態だ。そんなボーグルを相手にする必要はないとすぐさま判断できる。
「行くぞ!」
 ダンジョンはまだ続くのだから、さらに奥へと進むのみ。
 再び皆の先を飛びながらゴッドバードは思う。
(「|偽飛竜《カトンボ》の最期を見届けられないのは些か残念ですが……皆さん」)
 ついでに利家さんとAnkerを思いつつ。
(「武運長久を祈ります」)
 その言葉はこのダンジョンを抜けた先に、改めてまた送るのだろう。

色城・ナツメ
ファウ・アリーヴェ
ヨシマサ・リヴィングストン

 一般人を巻き込んだ融合ダンジョン。
 その存在を色城・ナツメ(頼と用の狭間の|警視庁異能捜査官《カミガリ》・h00816)は認める事はない。
 被害者をもう出さない為にも叩き潰す絶好の機会とくれば、その中へ飛び込まぬわけがないのだ。
 だがこの先が危険な場所であることもわかっているから、いつも以上に冷静に。
 ナツメは煙草を吸い、煙を吐く。バニラの甘い香りが漂い霊的防護を纏い気持ちを落ち着かせながら慎重に進んでいた。
 そして進む先に、ボーグルたちの気配。
 士気が低いものはどこにもいない。
「ジェヴォーダンサマノタメニシシュスルノダ!!」
「ジカンカセギコソワレラノヤクメ!!」
 その言葉を耳にしてナツメもシル。
「……そうか、この領域は……お前らは生きても帰れず、死しても戻れないのか」
 この場所が消えれば、ボーグルたちは√ドラゴンファンタジーに戻ることはできなくなる。
 だからこそ命をかけてジェヴォーダンにすべてを捧げようとしているのだろう。
 それに気づいてナツメも改めて、思うのだ。
「これが決死戦……俺達だけじゃなく、敵も抱える重みは同じか」
 ぐるぐると喉を鳴らしボーグルたちが威嚇する。
 ナツメの姿を視界に収め、そしてココデツブセ! と高らかに。その心が折れぬ強さを持っていることをナツメも感じる。
「だが……俺たちも黒幕見逃してハイそうですかと戻るわけにはいかねぇんだよ」
 ナツメは眼光鋭くボーグルたちへと駆ける。
「いくぞ……蒼、力を貸せ!」
 眠たげに揺蕩う、片目に傷のあるはぐれ鎌鼬「蒼」をナツメは纏う。集団狩猟の体勢をとっているボーグルたち。しかし、ボーグルたちが動くより早く、ナツメが仕掛けた。
 ボーグルたちも全力だ。ならせめて、ナツメもまた全力で戦う。その経緯を、刀に霊力を込めて現す。夜明けの光で清められた刀より放たれる斬撃がボーグルの身を斬り裂いた。
 戦いの気配。血の匂いに微かな甘い香りもするとヨシマサ・リヴィングストン(朝焼けと珈琲と、修理工・h01057)はその気配の方へと走り戦いの中に即座に加わった。
 八曲署『捜査三課』で、とナツメもヨシマサも思うが今は戦いの方に意識を向ける。
 ヨシマサもボーグルたちから感じるものに思わず笑み零す。
「ふふ~、死を厭わず特攻する姿勢……良いですね。気に入りました~!」
 ボーグルたちは決死隊だ。もう戻れないことを知った上でここにいるからこそ、鬼気迫るものがある。
 その空気にヨシマサはいつもの調子崩さず向き合うのだ。
「でもなるべくこういう時は死を覚悟しても死ぬつもりもないぐらいが良いと思いますよ。ボクみたいにね~」
 死んだら悲しむものがいることもわかっている。だから死ぬ覚悟はあるけれど、ここで――少なくともボーグル相手に死ぬ気はない。
「マタヒトリ!! コロセ!!」
「コロス!!」
「オオオッ!!!」
 声あげて集団狩猟の体勢をとる。そうなるとレギオンでの探知も難しくなるようだ。
 レギオンでの一斉掃射は今この場では向かないようで、攻撃されるまえにとヨシマサは物陰に隠れる。
「ボクもこの身で特攻する他なさそうです」
 じゃあ、とその手に重火器を。こうして突撃するのも楽しくはある。様子見つつ子撃ち込んで、爆破の波を広げていく。
 それに巻き込まれたボーグルたちはその熱も痛みに声をあげても戦うことをやめない。
 そしてまた集団狩猟をすべく集う――その時が、ヨシマサにとっての好機。
「いいかんじで密集してますね~。しっかり肉眼で見据えて~……ふぁいや~」
 攻撃を雨のように。派手な音の誘爆も重なりボーグルたちは声にならぬ声をあげる。
 だがすべてが滅ばぬように盾になったものも、そして陰に隠れていたものもいる。
 焼けた身体で動く。それでも倒れない――その立ち上がった一体を、疾・鎌風をもってナツメが仕留める。
 この場に残るボーグルはあと少しか。しかし攻撃を受け、慎重にもなっている様子。
 そこへファウ・アリーヴェ(果ての揺籃・h09084)が、一体受け持つと助けに入る。ナツメとヨシマサも、まだ残るボーグルと相対しており、それはありがたい助け。
 ファウは勇んで先行しないよう、周囲を伺いながら進んでいた。拓けた場所に出るときは特に慎重に――そして戦いの気配に気づいてやってきた。まだ残すボーグルを僅かでも受け持てるように一体つり出す。
「見事な忠誠心だ」
 がふっと血を吐いてもまだなお、ここに立っているボーグル。
 将の為にあなた達が命を賭けるのだ。此方もまた会いたい皆を想い命を賭ける――それがファウが向ける礼儀だ。
 ボーグルは自身を探知されぬようにする。戦闘力などを落としても、今はこの場を長引かせればいいだけと考えたのだろうか。
 その存在が薄くなるがファウは慌てない。同じ場に留まらないように注意しつつ、ただ空間を斬り伏せる。
 故郷に戻れずとも、魂はやがて星の海を彷徨い生まれ変わるよう、勇敢なあなた達に刀を向け祈ろう――ファウは霊刀「祈雨」を振るう。
 そこにいると断じた先に刃走らせたなら、ボーグルがその場に崩れ落ちた。
「さようなら。通らせてもらうよ」
 この場を抑えていたボーグルはすべて倒れる。
 またひとつ、道が開け√能力者たちはこの先へと進んでいく。

バーニャ・カウダ
エアリィ・ウィンディア
断幺・九
春満・祐定

 消えゆく融合ダンジョンでの戦いはいくつも繰り広げられている。
 ここでもまたひとつ――エアリィ・ウィンディア(精霊の娘・h00277)の前にボーグルの群がいた。
「ジェヴォーダンサマノタメニコロセ!!」
 士気があがるボーグルたち。
「ジェヴォーダン……」
 その名をエアリィは紡ぐ。これまで対してきた事件の数々が脳裏を巡る。
「融合ダンジョン事件はここで終わらせるよっ!!」
 そのために立ち塞がる敵を倒さなければならない。
 こっちも覚悟しているけど、向こうの覚悟もすごい――エアリィはその気迫を感じながら敵の方へと駆ける。
「…それじゃ、全力全開でお相手しますっ!!」
 左手に精霊銃、右手に精霊剣をもって、精霊銃で牽制しつつ高速詠唱を始める。
 集団狩猟の体勢をとったボーグルたち。カコンデシトメロと聞こえる声。すっと姿を消すように動く個体もいる。全てを目で追うのは難しいとエアリィは判断する。
 エアリィが使うのは殲滅精霊拡散砲――だけど。
(「うーん、見えるところにいるだけじゃないんだよね、相手は。ならっ!」)
 エアリィが狙うのは、敵陣の中心。
「六界の使者たる精霊達よ、集いて力となり、我が前の障害を撃ち砕けっ!」
 そこを狙えば、そこそこ巻き込めるはず。
 火・水・風・土・光・闇の6属性の魔力弾が半径42メートルの中に降り注ぐ。
 ボーグルたちは魔力弾に貫かれる。当たりのいいものもいれば、軽くすむものも。
 傷が深くないボーグルは、エアリィを狩らんと向かってくる。その身に生やした棘での体当たり。精霊剣を構えてエアリィはそれを受け止めるが力で押されそうになる。
 けれど左手には精霊銃がある。零距離射撃を見舞えば、身体に穴をあけてボーグルは倒れる。
 しかし傷を負っても、ボーグルたちは未だ猛る。
 その光景にバーニャ・カウダ(|踊り明かす者《ティターニア》・h00093)は頬押さえて、ふふと笑零していた。
「まあ、何て情熱的な眼差し。私嬉しくなっちゃうわ!」
 向けられているのは殺意。けれどそれをものともせず、バーニャはひらりと薄絹を躍らせる。
「お礼に見せてあげる、脳裏に焼きつくような刺激的な|踊り《ショー》を!」
 そこが戦場であってもバーニャにとっては舞台。
 武器振りあげてくるボーグルは踊りの相手としては無粋。幻影を狙わせ躱して、そして共に戦う皆への鼓舞を。
「誰にもショーの邪魔はさせないもの!」
 その踊りは周囲の仲間たちへの援護。
「悲劇を喜劇に、悲鳴を喝采に。ニヤの|踊り《奇跡》は常識を覆すの」
 アドレナリンが溢れ昂揚する。再生能力も増幅され、軽い傷はふさがっていく。
「皆さま、どんどん攻めてくださいな。私が熱くしてあげる♪」
 その声にいい感じだと断幺・九(|不条理《テンペスト》・h03906)は笑う。
「そう、死を覚悟する――つっても死にに来たつもりはねーんで? 安全第一で|鏖殺《ぶっころ》しまチュか!」
 こんなに熱狂的にジェヴォーダンに付き従うこのボーグルたちへ九は笑う。
「あんなんドコがよくて忠誠やってンだか知んねーけど」
 |士気《モチベ》高けえ連中と正面から殺り合うのもダリいでチュねと九は状況をみていた。
「ンじゃま、その辺りから崩してくかな――√能力|煉封胚《セブンスシール》!」
 右の銃に疑心暗鬼、左の銃には凶暴化の精霊弾を装填セット。
 九は身軽に動きながら素早く先に攻撃を向ける。その弾丸に撃ち抜かれたならその忠誠心は揺らいで、暴発パニック集団の出来上がり――と思っていたがその忠誠心はなかなか崩れぬ様子。わけもわからず暴れるなんてことにはならないが、自制と戦っているようでそれはそれでいい塩梅に集団は混乱していた。
 それでも、目の前に敵はいるはず。攻撃をとなりふり構わぬようすで毒棘をその身に生やし突撃してくる。
「危ないっチュね!」
 けれど隊列は乱れている。崩れたそこを見逃さず九は突っ切って――そして、通路の先へと辿りつく。
 其処まで来たら、振り返り戻ることはない。自分の安全を保ちつつ殲滅狙いの深追いはナシ。
「卑怯に姑息にやってきたいトコでチュね!」
 上手にこの場を切り抜けていく。敵の数も減っているしあとは任せても大丈夫だろうと判断して九は先に進んでいく。
 残るボーグルたちは、一人行かせてしまったが他はこの場に留めると動いていた。
 傷を負ってもまだ戦い続ける。そこには何か執念のようなものがあった。
 春満・祐定(|D.E.P.A.S.《デパス》の|載霊禍祓士《さいれいまがばらいし》・h02038)もボーグルを斃しその先へ進む道を生み出していく。
(「本音を言えば、死ぬなど御免じゃ。命を捨てるような真似などしとうない」)
 しかしのう、とその瞳はダンジョンの奥へ続く道を捉える。
 ここでジェヴォーダンめを逃してしまえば、次はどんな手で攻め込んでくるかわからんからのうと、未来の事を思っていた。
 ジェヴォーダンの首元に手が届くというのなら、今が好機なのは間違いない。
 禍事は祓うべしと祐定は動く。
 集団狩猟体勢をとるボーグルたちの動きを祐定は目でおう。
「ボーグルども、忠義であるのは結構なことじゃが、今ばかりはそれを利用してくれよう」
 ジェヴォーダンへの道を塞ぐというのなら、おそらくボーグルどもがいる道を選んで進んでいけばハズレはないじゃろう――祐定も戦いの気配を追ってここまで進んできた。
「叫べや、喚けや、載霊ども!」
 卒塔婆でただ叩く。一度ではなく二度、そして流れるように広範囲に。その威力にふらつくボーグルの間を抜け、祐定も先へと進んでいく。
 あまり先に進めば囲まれてしまうかもしれない。それはおもしろくない――それに踊るバーニャの援護は祐定にとってもありがたい。
 エアリィが多くを撃ってくれたことでボーグルの力も落ち叩きやすいことこの上ない。
「このあま足並みをそろえていくとするかのう」
 それが自分に一番あっていると祐定は思うから。そして確実に、ダンジョンは踏破されていく。

不動院・覚悟
インディアナポリス・ノーベンバー・サーティーン・ワン
太曜・なのか

 ダンジョンの奥に進むにつれボーグルの殺意が弱まる、なんてことはない。
 むしろここまできたのかと殺意は高まっていると思えた。
 不動院・覚悟(ただそこにある星・h01540)はその殺意を一身に向かせるべく、前へでる。
「魂の奥底、阿頼耶の淵より咲き誇れ――『阿頼耶識・青蓮華』」
 覚悟の魂に刻まれた迦楼羅炎と融合し、青蓮華が浮かぶ蒼い炎を纏った姿となる覚悟。
 集団狩猟の体勢をとったボーグルたちは殺意の高さで今はその姿を隠す気がない。しかし囲んで叩きにくる、その執拗さが感じられる。しかし食すためではなく、殺すための猟なのだから
 毒棘をはやし、体当たりをかけてくる。覚悟は仲間を守るべくその前に立った。
 あの毒棘は周囲を汚染する。それを広がらせないためには受け止めるのが一番だ。
 どのような痛みがあろうとも、鉄壁の守りで受け止める構えを見せる。
「シネ!!!」
「っ!!」
 痛みはあるが耐えられる。覚悟が仲間を守って戦うのは強い意志があるからだ。
(「皆で生きて帰ります」)
「死んでも勝つなんてことは言わん、全員で生きて勝って帰るでぇ!」
 乱戦の中でインディアナポリス・ノーベンバー・サーティーン・ワン(旧レリギオス・ランページ所属 11-13部隊初号・h07933)が高らかに叫ぶ。
 その言葉に覚悟も笑って、血路を切り開きます! と覚悟は声かける。覚悟の動きに呼応するようにインディアナポリスも連携を共に。
「路ぃ切り拓け、『アラバマ』ァ!」
 浮遊型飛輪武装『アラバマ』をインディアナポリスは大きく動かし回転刃で切り裂いていく。ボーグルの鮮血、肉片が飛ぶ。それを浴びてもお構いなしに。
 ボーグルたちの数も戦意も高いのはわかりきったこと。
(「せやけど決死隊ゆうんならこっちもそうや、覚悟は決めとる」)
「片っ端から薙ぎ払って突破するで!」
 集団狩猟の体勢をとったがゆえに、移動力が落ちているボーグル。インディアナポリスにとっては狙いやすい状況だ。
「移動力下がっとるアンタらじゃ避け切れんやろなぁ!」
 けれど気配を消して近づいてくる個体がいるのもわかっている。死角から襲い掛かられると厄介――だから。
 インディアナポリスの両手には電磁パルスブレード『カンザス』とレーザーブレード『オレゴン』がある。
 そう油断せずにいたけれど、襲い掛かる影がある。だがそのボーグルを見つけるのは太曜・なのか(彼女は太陽なのか・h02984)の方が早かった。
 天候をその身に宿し斗う騎士「ウェザリエ」のレイニーフレームに変身して戦うなのか。
「本日は雨天。ところにより局地的突風、ダウンバーストにご注意ください!」
 フォーキャスターをガンモードにし、風雨属性の弾丸をなのかは放つ。強風と打ち付ける雨の弾丸、でもそれは味方にとっては追い風だ。
「ええ風ふいとるな、そこやで!」
 そしてその風に後押しされるようにインディアナポリスが仕留めていく。
 近接戦闘を避けるなのかにとっては覚悟が前にいてくれることも心強い。覚悟も仲間を守りつつ、前へとただ攻撃を向けていく。
「ダンジョンという閉じられた空間の中でなら風の不規則さと激しさは更に激しくなるでしょう!」
 追撃のバレットストームにもご注意ください! と、高らかに。 吹き荒れる風がボーグルたちを襲う。それに押されて動き鈍ったところをなのかも撃ち抜いて。
 そして覚悟がインディアナポリスが動きやすいよう機動を確保する。
 互いに視界を補いつつ、攻撃に備えて立ち回っていく。確実に道は切り開かれていた。

糸根・リンカ
セリナ・ステラ

 ボーグルたちの姿に糸根|・リンカ《輪禍あるいは鈴華》(ホロウヘイロー・h00858)は瞳細めて零す。
「死兵ですか……」
 ジェヴォーダンの為にと叫ぶボーグルたち。
 その忠誠心に足る理由があるんでしょうけど、どんな事情でも侵略は許せませんとリンカは思う。
 だが正面からあのボーグルたちと戦って倒すのは難しそう。
 けれど戦えないわけではない。
 決戦用重量可変式大槌『|愛華《アイカ》』を手に。そして自作バッテリーに詰められたインビジブルで力を供給すればいい。
 この場にいる仲間にも影響は出てしまうけれど、それをどうにかする手立てはある。
「蛇の囁き、無花果の葉、還らずの門。咎人は楽園を証明す」
 異世界に繋がる光輪が広がって、全てを吸い込もうとしてくる。
 この先へと仲間を送り届けるためにリンカはボーグルを排し、手を尽くすだけだ。
 リンカは愛華を重くし、その吸い込みの力に耐える。
 ボーグルたちの中にはその光輪に吸い込まれていくものがいる。それをみて、吸い込まれまいと周辺にしがみつく者達も。
 と、セレスティアルの少女がその吸い込みに抗うのをみてレンカはこっちと手を伸ばす。
 愛華に捕まっていれば、とばされないから。そしてインビジブル欠乏も補われていく。
 セリナ・ステラ(羽の色が星空のように煌めくセレスティアルの御伽使い・h03048)はありがとうとございますと言ってその吸い込みに耐える。
 融合ダンジョン――もしかしたら、親友の手掛かりを得られるかも……と、セリナは赴いたのだ。
 それに、そんな作戦を企てたものを放ってはおけません! という気持ちももちろんあった。
 そして今、吸い込まれて別ルートに飛ばされているボーグルたち。それでも吸い込まれまいと耐えているものたちもいて、敵意をまき散らしている。
「争いたくはないのですが倒さざるをえないようですね……」
 セリナはそう言って、でも今が狙い時と思う。
「手、塞がりましたね?」
 攻撃、いけます? とセリナへと目配せひとつ。√能力を閉じればこの吸い込みは消えていく。敵が対応するその前に攻撃をと。
 セリナは頷いてその時を待つ。
「空に瞬く無数の星々よ、わたしの導きに応え降り注いで! 弾丸となり悪しきを貫き、絶望を爆ぜ、加護により希望を灯す! スーパーノヴァ!」
 その詠唱が完成する間際に、リンカは√能力を切った。
 そしてセリナの星属性の弾丸が落ち、ボーグルたちには超新星爆発を、そして仲間には星の加護を与えていく。
「先へ進ませてください!!」
 ボーグルたちが倒れる。どうにか耐えたものもいるが傷は深く十分動けない様子。
 であれば無理に戦う必要もないだろうか。
 リンカは先に行って、とセリナの背中を押す。残るボーグルくらいならすぐ片付くからと。
 セリナは気になりつつも頷いて、先へ進む。自分が発した言葉通り、この先へ進む必要があるから。

剣崎・スバル
戦闘補助システム・アリス

「行くよアリス……! これ以上融合ダンジョンの被害は出させない!」
 その強い気持ちを抱えて剣崎・スバル(気弱な|機械剣使い《ドラゴンスレイヤー》・h02909)は戦闘補助システム・アリス(サイバーウィッチ・h05544)と共に消えかけの融合ダンジョンを駆けていた。
「えぇ……マスターがそうするのなら私も覚悟を決めるわ」
 アリスはスバルのスマートフォンの中で一緒に行動を。
 仲間たちが戦う場を見かければ、ボーグルの集団を惹きつけるように動いてサポートをしていた。
 今もまたひとつ――ボーグルの群と対している。
 腕力をあげてきたボーグル。それの振り下ろす一撃は重くなる。
 けれどスバルは、エネルギーバリアと撃竜機大剣をシールドモードにさせた大盾でそれをしのいで見せる。
「ぐっ……負ける……もんかぁ!」
 耐えながら|撃竜機大剣・救世の盾《ドラゴンブレイカー・ブレイブガード》を発動するスバル。
 そしてアリスがスマホからたくさんのドローンを操作して、周囲の情報を集める。隠れたものやトラップは無いか。スバルの為に、アリスは動くのだ。
「マスター、あなたは死なせないわ」
 その声はスマートフォンの中だけで響く。スバルには言わぬアリスの心。
 そしてスバルは目の前のボーグルを倒し、はぁと一息。
「ダンジョン内部の構造を解析……ジェヴォーダンのいる地点までの最短ルートを計算するわ」
「うん、アリスお願い」
 しばらく休めば受けた傷も全快する。周囲に注意払いながらスバルは思う。
 死ぬのも痛いのも、叩くのだって怖い。
「だけどジェヴォーダンを取り逃がせば大切な人が被害に遭うかもしれない」
 スバルも融合ダンジョンの事件に関わっていた。
「そんなこと絶対にさせない!」
 抱く思いを言葉にして。
 スバルの声が聞こえる。アリスはその気持ちの助けになるように動くだけだ。
「マスター、向かう方向の予想ができました」
 行きましょうという言葉にスバルは頷く。ジェヴォーダンのところへたどり着くために。

玖老勢・冬瑪
瀬堀・秋沙
星宮・レオナ
深見・音夢

 その空気に僅かに気圧されそうになる。
 けれど深見・音夢(星灯りに手が届かなくても・h00525)はボーグルたちを前にひかない。
「この気迫と戦意、最初から生きて帰る気は無しってことっすか」
 向こうが死んでもやり遂げる覚悟ならボクは死を賭して生きる覚悟を決めるまでっすと音夢の心はすでに固まっていた。
「ボクだけじゃなく生物部のみんなで生きて帰る覚悟で敵の決死を上回る!」
 その言葉はこの場にいる四人すべて同じ気持ちだろう。
「成程、決死隊。帰れぬと知りながら残るとは」
 その心意気は天晴と思いつつも玖老勢・冬瑪(榊鬼・h00101)は引くことはない。
「ジェヴォ―ダンの何に心酔したかはわからんが、此方にも事情があるでな。押し通る」
 その言葉にこくと星宮・レオナ(復讐の隼・h01547)は頷く。
 そして一番最初に動いた。風属性の弾丸を射出する――敵には風を纏った弾丸での二倍ダメージを。
 そして味方にはスピード強化と風のバリアをレオナは与えていく。
「死兵って奴だね。厄介な相手だけど押し通るよ」
 冬瑪は前に立つから、この援護はありがたいものでもあった。
 前を冬瑪が受け持ってくれているから、瀬堀・秋沙(都の果ての魔女っ子猫・h00416)も遊撃に走れる。
「排水の陣ってやつにゃ? そっちがその気なら、猫たちもその気にゃ!」
 敵のこの気迫に呑まれないためにも場の雰囲気を変えるべく音夢は推しへの愛を語る。すると周囲はコンサートステージへと早変わり。そしてここでは、音夢が物語の主人公。
「たとえAnkerとの繋がりを断たれる場所でも推しは心の中にあり!」
 だからいつも一緒――このステージの上では音夢が主役。狙った制圧射撃は必中の一撃だ。
「どんなに狡猾に隠れたとしてもステージの上からなら良く見えてるっすよ!」
 そこにも! と撃って居場所を暴いて。集団狩猟体勢をとり隠れていたものは撃たれて思わずその姿をさらした。
 すると秋沙とレオナの援護にもなる。
 そして共に戦う異世界√生物部の皆へ攻撃がいかぬように冬瑪は前衛で壁となっていた。皆を守ると鉄壁、それが今為す役目と。
「ナギハラエ!!」
 ボーグルたちの士気は高い。引くものなど一体とておらず、その身に毒棘攻撃をかけてくる。これを躱せば周囲に毒棘が広がる。
 だから受け止めるしかない。冬瑪はその攻撃を正面から受ける。毒棘が刺さる、痛みはある。
 だがそれを堪えて玖老勢家に伝わる長柄の鉞を振り抜きボーグルの身体を打ち据える。
 その一撃を与えれば身に受けた傷は回復されていく。
「皆、孤立せんようにな」
 その言葉に秋沙はにゃ! と頷く。冬瑪が粘っている間に秋沙は敵を一ヶ所に集めていくように全力魔法の誘導弾を振りまいていく。
 レオナもその手伝いを。マグナシューターで援護射撃をうち、動きを阻害していく。
 その中でも毒棘をその身に宿し、突出して秋沙を狙ってくるものだっている。
 空を蹴ってその攻撃を避ける。けれどそこに海属性の誘導弾を発射し秋沙は自分の代わりとして毒棘を防ぐ。
 そしてだいたい、一ヶ所に集っているのを見て秋沙は行くにゃ~! と皆へ声かける。
「これが猫の十八番にゃ! ばっしゃーん!!」
 海水で出来た、巨大な抹香鯨の形をした海属性の弾丸。巨大なその一撃がボーグルたちを飲み込んでいくように放たれる。
 超高水圧に押し流されていくボーグルたち。そしてその抹香鯨は味方には母なる海の加護を与えていた。
 しかしその中から立ち上がるものも、まだいる。
 毒棘を生やし向かってくるボーグルの前にレオナは立つ。エネルギーなり合を纏ってガードし、お返しとばかりに風を纏った弾丸を至近距離から撃ちこんだ。撃ち込んだ瞬間ボーグルは吹き飛ばされてダンジョンの壁に激突し頽れる。
「毒には少し耐性があるんだ」
 身体に刺さる毒棘をレオナは抜く。残っているのはと周囲をみれば冬瑪が対していた。
「あんたさんらの覚悟は見た。だが、鬼は斃れてやれん。部員皆の命も呉れてはやれん!」
 事切れそうであっても立ち上がったボーグルへと冬瑪は立ち塞がる。
 ボーグルたちに譲れぬものがあるのもわかっている。しかしそれを受け入れるわけにもいかないから、敬意を込めて確実に息の根を止めた。それがこの戦場に立った礼儀というように。
 周囲のボーグルたちが片付いて秋沙は開けた道の先をみる。
 次はどちらへ向かうか、というところ。
「さて、ここから先が本番だね」
 レオナはダンジョンの先を見つめる。この先本拠地となれば――罠もあるというから。
「罠に出来る限り掛からない様に行きたいね」
「敵がいる方向にジェヴォ―ダンがいるにゃ?」
「ここは通過点っすからね。油断なくしっかりと進路を踏み固めていくっす」
 音夢はそう言って、まだ敵いるんすかねーと零す。
「みんな、まだいけるかにゃ? 怪我が重いなら、すぐに言ってにゃ!」
 その言葉に皆大丈夫と頷く。行こうと冬瑪が先を切り、またダンジョンの奥へと向かうのだった。

シスピ・エス
ウィズ・ザー
アゥロラ・ルテク

「……考え過ぎじゃないですか?」
 傷対策に仙丹を仕込みながらシスピ・エス(天使の破片・h08080)はアゥロラ・ルテク(絶対零度の虹衣・h08079)を見る。
 アゥロラはそんなことはないと首を横に振る。
「――」
 そして、意を汲み虚無内包する氷刃の得物となったアゥロラはウィズ・ザー(闇蜥蜴・h01379)と同化し、周囲に外殻を浮かばせた。
「|√刻遡行《忘れようとする力》でこの通路を破壊しかね無いってのがなァ~」
 そう言いながらウィズはアゥロラに任せるぜと告げる。アゥロラの防護を信頼しての言葉だ。
 ウィズは宙を泳ぐ水大蜥蜴に変じて、シスピはその背中に跨る。そしてシスピは氷の精狼と融合し、いつでも絶対零度の空間を呼び起こせるようにしておく。
 振り落とされないように姿勢を低めにし、ウィズが進むままに。
 周囲に罠があればアゥロラが防ぐように、先に破壊を行っていく。
 そしてウィズは視線の先にその一団を見つけた。
「さァ、おいでなすったぜ」
 ボーグルたちが殺意をみなぎらせて待っている。
「クルゾ!!」
「ミナゴロシダ!!」
「オオオオッ!!」
 猛々しくボーグルたちが叫ぶ。元気なもんで、とウィズは零し加速する。
 つまりここを通り抜ければ、ジェヴォーダンの本拠地へと近づくということだ。
 避けられぬ戦いの気配にシスピも構える。アゥロラも融合したままでウィズの援護と、更に戦力の増強を。
「物言わぬ|骸《むくろ<》が|案内《あない》する永劫よ」
 ボーグルたちが集団狩猟の体勢をとったとしてもウィズには問題ない。
「俺には視えてンだよ。ハッキリとな」
 影を基に知覚するウィズ。だから肉眼と機能は同じだが視野は広いのだ。
 シスピが空間を生み出しボーグルたちを引き寄せる。絶対零度の空間がボーグルたちの身を凍てつかせ動きを鈍く。
 そしてそこはウィズの射程でもある。
「食べ放題じゃねェの!」
 黒霧靡く闇の波乗りを。そしてアゥロラの力で2倍攻撃力を得ている。
 虚無の精霊が産み出す、黒い霧に似た不可視の刃と黒霧に似た虚無の焔が踊る様に、すでに数えられぬほどにウィズより伸ばされる。
 進みながらドリルの如く近づく敵全てを切り刻んで、一体でも多く捕食していくのだ。
 だがその身を食われながらも攻撃しかけてくるボーグルたち。
 その身に毒棘生やしたボーグルが迫る。シスピがその攻撃に対処して、その重さを改めてシル。
「流石……一撃、一撃が強力です」
 黒鎖で敵を引き倒し捕縛し、そしてウィズの前へ。
 アゥロラも援護をしながら――ふと、思う。
(「……あの小劍も此方を見ているのだろうか」)
 そう意識は一瞬向くけれど意識は目の前のボーグルたちへ。
 けれどそれもウィズが最後の一体を闇顎で喰らったところだった。
 戦いの喧騒は一気に静まる。
 最後まで、ジェヴォーダンサマと称えていたボーグルたち。その言葉をシスピは反芻する。
「彼にそれ程の魅力があるのですね…不思議です。」
 直接会えば……魅力も解るのでしょうか? と零すシスピの言葉をアゥロラは拾い上げる。
(「さて、あの狼の名前を持つ飛竜は何処だろう?」)
 真竜を望む、歪な存在を想い、何とも言えない感情がアゥロラに芽生える。それに気づいて心は乱れるのだ。
(「あぁ……度し難いな」)
 ウィズが行くぜ! と再び奥を目指す。本拠地たるダンジョンへと向かうために。

柳・芳
タミアス・シビリカス・リネアトゥス・フワフワシッポ・モチモチホッペ・リースケ
久瀬・八雲

 無駄死には馬鹿のすることだが必要な危険を避けるほど臆病ではなく。柳・芳(柳哥哥・h09338)は自身の力を過信しない。
 若輩者がやれることは限度があると知っている。だから。
「出来ることをやらせていただきますよっと」
 芳は|妖術「鏡花水月」《キョウカスイゲツ》をもって、この場に穏やかな陽光注ぐ、花咲く桃源郷を展開する。
 罠の類がないか――そういったことに芳は鋭敏になる。それは暗殺を生業にして、自然とそうなったからだ。
 ダンジョンを進み、奥へ。
 戦いのあとを追いかけ、そしてまた新たな戦いに出会うのだ。
「よぉ、ボーグル」
 芳が大したボーグルの群れ。殺意を滾らせ、高々と吼えるものたちは集団狩猟の体勢つくり芳を囲み攻撃を。
「その忠誠心天晴れだがこちらも譲れないものがあるんでね」
 けれど、物語の主役たる芳は軽業でかわして、手甲より黒色の金属線を放つ。それは暗器「黑线」――ボーグルを捉え、そして香りをボーグルたちに残していく。
 探知を無効化しても、後付けの香りはそれこそ水にでも入り落さなければ対処できないだろう。
 そこと金属線を放ちその首を断ち切る。ボーグルが倒れる様を芳は目にするも、まだまだ数は多い。
 しかし、そこへ久瀬・八雲(緋焔の霊剣士・h03717)も駆けこむ。
 八雲の手にあるのは霊剣・緋焔。浄化の焔と煤を発する、意思ある霊剣は長大な長巻の形をとっていた。
 芳はすぐ、目印に香をのせたと告げる。
 八雲はその香りを目印にすればいいのですねと、目測がついて戦いやすいと笑んだ。
「あちらの士気は十二分、それでもこちらに引く理由も無し!」
 ボーグルたちはぎらつく視線をとり、自分たちの力を落としてでも見つからず確実に仕留めようと動いている。
「一切ぶっ飛ばして、押し通らせていただきます!」
 けれど香りが八雲を導いてくれる。
 囲もうと、そして死角からひそりと迫るものがいても獣の者ではない良い香りがすればそこにいると八雲は気づける。
 狙われている、囲まれている。そして、ボーグルたちが息を合わせて攻撃を駆けてくるが軽やかにジャンプして後退。
 そしてそのまま、集う場所へ霊剣の一振りを見舞う。
 渦巻く熱と刃が敵の場所を暴き引き寄せ、そして切り裂いていく。
 それでもなお攻撃しようと動くボーグルたち。
 けれど皆を鼓舞する音が響く。
 それはタミアス・シビリカス・リネアトゥス・フワフワシッポ・モチモチホッペ・リースケ(|大堅果騎士《グランドナッツナイト》・h06466)が鳴らす|街道の女王《レジーナ・ヴィアルム》の奏でる音。
 決戦型WZ|騎士長官《マギステル・エクィトゥム》の搭乗者であるリースケ。その高まる戦意に戦馬型WZ――超重鉄騎が現れ一体化し、人馬一体の動きを見せる。
 ちょっと荒々しい動きに、りすであるリースケがいるフェイスシールド奥の操縦席ではどんぐりが転がる。
 しかしリースケの視線はボーグルたちを捉えていた。
「大胆不敵な者にこそ、女神は微笑むのだ」
 正面にいるボーグルたちへと向けるのは|重弩砲《スコルピウス》。数が増えれば命中下がるが威力はあがるそれを向けた。
 この砲撃でおこるであろう混乱に乗じ、長剣サイズとした|一切虚無《オムニア・ウァーニタース》を振るい薙ぎ払うため構える。
「命を賭すという覚悟は評価する。しかし、我々が目指すはジェヴォーダンの討伐だ」
 リースケは高らかと告げる。
「貴様らの忠誠心ごと、ここで粉砕させてもらう!」
 そして放たれる砲撃にボーグルたちが晒される。それを耐えたボーグルを攻撃で薙ぎ払うリースケ。
 それに八雲と芳も好機とボーグルを蹴散らしていく。
 傷を負っているボーグル相手に、なお油断はできないと八雲は思う。
「油断はできません、確実に敵が居なくなったことを確認して先を急ぎましょう!」
 その声にリースケも応と返し、芳は敵を倒し応える。
 ジェヴォーダンの元に向かうために立ち止まってはいられないのだから。

夜風・イナミ

 消えゆくダンジョンの中を夜風・イナミ(呪われ温泉カトブレパス・h00003)は息を潜め、ゆっくりと確実に進んでイク。
「やっと本拠地を叩きにいけるんですね」
 ジェヴォーダンの本距離へと続いているこの融合ダンジョン。
「もう融合ダンジョンは作らせませんよぉ……」
 イナミはびくびくと進んでいく。
 絶対に死ねない――その気持ちを抱えて。びくびくおどおどと何か小さな音がしただけでも。自分が小石を踏んだだけでもびくっと体が震えてしまう。
 けれど、前に進まなければ。
「呪術も本業ですからねぇ……」
 恨み晴らし代行サービスで呪詛をばら撒いて、イナミは周囲を探る。索敵しながら奥へ奥へ、確実に。
 悪い気持ちが籠った罠があればきっと察知できるはず。それに反応があったら一層気を付けないと、と思いながら通れない道を。
 敵の姿がない道をずっといければよかった。けれど、やはりイナミも、ボーグルたちと出くわすことになる。
 だがボーグルたちはまだ気づいていない。
「はぁ……思ってるよりたくさんいますよぉ……」
 でも、固まっているし狙いやすい。
 不意打ちされたら死んじゃうとふるりとイナミは震える。だから先に仕掛けるのだ。
 自身の射程範囲にすべてのボーグルは入っている。
 ボーグルたちは周囲に殺気を向け、いつどこから敵が現れても対応できるように構えていた。
 だから、イナミは物陰からボーグルたちを視界の中にいれて。
「と、止まってください!」
「!! グオッ……」
「ガッ……!」
 鎮メ牛の呪詛から創造した石化の視線を向ける。
 いつもはその目を封印しているが今は解き放たねばならぬ時。
「ひっ……い、いきなりこっちにこないでくださいねぇ……」
 ボーグルたちを絡め取った石化の視線。動けない、けれど敵意を向け動こうとしているのがわかる。
 ビビらなければ、大丈夫……! と思いながらイナミはそのそばを通り抜けるように。
 けれど――一体がその呪詛払うように動く。イナミは咄嗟に呪詛から釘を取り出し、思い切り蹄で蹴り飛ばしボーグルに突き刺し迎撃する。
 それにあわせて、呪詛を重ねがけ。麻痺に混乱石化、デバフをこれでもかと向けて動けなくしていく。
 呪詛に負けたかボーグルたちの口端からは泡も零れて。
 その手から得物がとり落される。もう力もうまくはいらないのかもしれない。
 今なら、とイナミはその蹄を向ける。本気の踏みつけでその首元を狙って踏みつぶした。
「あんな悪者に忠誠誓っちゃうのが悪いんですよぉ……」
 ボーグルに向ける言葉。けれど返事はない。すでに事切れているからだ。
 そしてまた探索をしながらイナミは奥へ。身長へ、確実に進んでいく。

ガイウス・サタン・カエサル
ヴォルフガング・ローゼンクロイツ
ディラン・ヴァルフリート

 ガイウス・サタン・カエサル(邪竜の残滓・h00935)が向ける視線の先で、ボーグルたちが猛る。
 ダンジョンを進みながらボーグルを倒し。しかしまた道を塞ぐように群れはいるのだ。
「ココハトオサナイ!!」
「ジェヴォーダンサマノジャマハサセヌ!!」
 そのボーグルたちの様子にガイウスは瞳細める。
「殿を務める決死隊はボーグル達か。ふむ、士気が高いね。強制という訳でもなさそうだ」
 ジェヴォーダン君はあれで良いところがあるのかもしれないねとガイウスは零す。 少なくとも彼等の忠誠心を得るだけの価値はあったという訳だ、と。
「よろしい、ならばこちらも全力を尽くして鏖殺しよう。それが礼儀だろうからね」
 ボーグルたちは集団狩猟の体勢をとる。複数でガイウスを囲み、仕留める気で動いていた。
 その動きをガイウスはみつつ、自分が主導をとるように動く。
「此処は私の|領域《セカイ》だ」
 魔人領域と魔人領域・弐をガイウスは同時に発動する。
 戦闘力を激増し、かつ無敵の空間を形成しその中へボーグルを招き入れたのだ。
 ガイウスはその動きを視線でなぞる。肉眼で見えている――だがそれ以外の気配もある気がして。
 ボーグルたちは自身の持つ力を下げても気配を断ち仕留めようと動いてくる。
 正面からくる敵の攻撃をガイウスは回避する。次に向けられた攻撃を、魔人の剣で受け流して。そしてなんとなく、こことうい場所に魔人の剣を向けて切り裂いた。
 するとそこには気配を消していたボーグル。
「ああ、そこにやっぱりいたのか」
 仲間が攻撃をうけ、別のボーグルがガイウスへと攻撃をかける。攻撃直後を狙われたからか、その一撃はガイウスを討つ。
 ダメージはなく傷はないが、攻撃を受けた事にガイウスはすごいなと素直に賞賛し、自身の修練不足を認める。
 だがここでこの命をくれてやる気はないとボーグルたちへ反撃をかけた。
 その戦いの音にヴォルフガング・ローゼンクロイツ(螺旋の錬金術師|『万物回天』《オムニア・レヴェルシオー》・h02692)は気づいて向かう。
「ボーグルも厄介だが罠はそれ以上だ。だが俺も冒険者、罠を見破る手札ぐらいはある。来たれ、群狼!」
 魔導機巧獣|『群狼』《ウルフスルーデル》たちが駆ける。光学迷彩で身を隠し、群狼たちは先を進んでいた。
 敵が潜伏している場所を見つけたりと、今までも進んできた。
 そして戦いの場所に合流したなら――群狼たちはボーグルたちへと牙をむく。
「ジェヴォーダンの企みを阻止する為、突破させて貰うぞ」
 魔導機巧大盾|『天狼護星』《ズィーリオス》は音響閃光弾を搭載した魔導機巧自律式大盾。 ヴォルフガングを自動追尾するそれは、ボーグルが攻撃繰り出してくるのを受け止めて防ぐ。
 そして音響閃光弾が炸裂すればボーグルのその視界を奪うのだ。
「グアアッ!!」
「アア、ミエヌッ!!」
 目を抑え悶えるボーグルへと群狼が飛び掛かり魔導機関銃と、その爪に電磁波載せて振り下ろした。
 そしてヴォルフガングも、自身の力をボーグルへと向ける。
「竜漿をその身に宿すなら抗えない力をみせてやる」
 魔導機巧錬成剣|『終極淵源』《アゾット》をその手にヴォルフガングは紡ぐ。
「錬成陣展開。天に星、地に水。血潮は命の川。共振の理、領域に満ちよ。流れ、逆巻け! アルケミッシェ・ブルートレゾナンツ・ツォーネ!」
 それは竜漿含む血液成分を破壊・阻害する錬血共振。ボーグルたちに震度7相当の震動を与えその場に縫い止める。
 そしてヴォルフガングは終極淵源にマヒ攻撃の刃を生み出し、動けぬボーグルたちを切断するように駆けた。
 その様子をガイウスも目にし、負けていられないとボーグルたちに対する。
 戦いの喧騒――それに導かれるようにディラン・ヴァルフリート(|義善者《エンプティ》・h00631)もその場に合流する。
 死を覚悟している。且つ、生きて勝利するために。ディランの心はすでに固まっている。
 ここまで警戒し、そしてうまく辿りついた。だがこの場のボーグルは倒さなければ先には勧めない。
(「弱者を糧とする事も許されなければ餓え燻るのみ。慎重を期しただけよく励んだ方としか思えませんが……正義なるものは、その弱者の為に憤るのでしたか」)
 ボーグルたちがその名を呼んで称える存在。ジェヴォーダンの今までの動き――それを反芻しながらディランは思う。
「……ならば……僕も、そのように」
 ディランは紡ぐ、|仁刻:正道に捧ぐ讃歌《ロア・イデアール》を。
「僕は……信じます。生命いのちの本質は、善であると」
 この場にいる仲間への援護、冷静な思考に身体性能、助け合う心を増幅する。
 ガイウスとヴォルフガングもその恩恵を受けボーグルたちと再び切り結んだ。
 そして、Evol/蝕竜装躯ヴァルフリートをディランは使う。
 竜の本性と肉体を復元する戦闘形態――腕部と翼部に目を増やしその視界を拡張する。
 ボーグルたちがどこからくるか。後方からだとしても見逃さぬように。
 集団狩猟の体勢をとり、ディランを囲むボーグルたち。しかしそれは好都合でもある。
 聴覚媒介に任意の錯覚を齎す旋律を放ち叩き込む――それによって敵の動きを留めてしまえるから。
「仮に取り逃がせば……救われぬ犠牲者が、増え続けるのでしょう」
 このダンジョンが消えた時、ボーグルたちは√EDENに取り残される。それを承知でここにいるのだ。もし、ここで生きている個体を残せば、その牙はおそらく√EDENの何も知らぬ無辜の民にも向く。
「ならば此処で……確実に」
 ボーグルたちを薙ぎ払うようにディランは大剣を振るう。その身に傷を負ったボーグルは引くことなくまた向かってくるが、すでに万全でない状態。
 命を絶つのは簡単なことだ。ディランは損耗を最小限に抑えるように動く。
 しかしできるだけ早く。このダンジョンもいつ消えていくかは、わからないのだから。

弓槻・結希
森屋・巳琥
チェルシー・ハートサイス

 ボーグルたちの殺意は、奥に向かうにつれて高くなる。その勢いが衰えるということはなかった。
 すでに半分以上はダンジョンを踏破しているだろう。しかしまだ、本拠地のダンジョンには至らない。
 森屋・巳琥 (人間(√ウォーゾーン)の量産型WZ「ウォズ」・h02210)は自分が何をすべきかを決めていた。
 ジェヴォーダンの控える融合ダンジョンへの道を繋げる。そして経路が閉じる前に突破できる戦力を多くする様努めるということを。
 巳琥は出会ったジェヴォーダンの一団を冷静に観察する。
「ジェヴォーダンサマノタメニ! ココヲマモルゾ!!」
「イノチヲカケロ!!」
「クルモノスベテ、オシツブセ!!」
「相手は時間稼ぎとしての殿部隊を務めるだけあって士気が高いようですね」
 経路が閉じるまで最後の一兵まで抵抗するのは予想に難くない。
(「ですが先に進む為にも私達でその突破口を開きます」)
 進む先にボーグルの一団がいる。
「並列操作補助機構「蜃気楼」起動」
 巳琥は自分自身を軸に、見た目を類似させた各素体を展開運用する。それと共に決戦気象兵器「レイン」をボーグルたちへと向ける。
 しかしボーグルたちも集団狩猟の体勢をとり、巳琥の手数を潰す様に仕留めようとしてくる。
 集団狩猟の体勢を取り、囲もうと動いてくるボーグルたち。巳琥はレーザー光線を放って、その行動を散らそうとしていく。
 自分がするのは、此処を皆が通り抜けることができるようにすること。
 ボーグルが突撃してくる。射撃をかけるがドラゴンガーダーを構え巳琥は受け流す。
「!!っ」
 攻撃の重さは感じるが耐えられないほどではない。ボーグルの殺意に満ちた表情が巳琥に迫る。
 けれど距離を取る様に射撃を重ね、巳琥はそのボーグルを弾いた。
 巳琥は皆を先に進めるために、損耗しないように動いていた。だから、抜けれそうな瞬間があれば声をかける。
「こちらは任せて先に行くのですよ!」
 と、言ってから所謂フラグ的に危険かしら? と巳琥はちょっと不安になる。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
 だがその言葉にチェルシー・ハートサイス(強者たれ・h08836)は巳琥の横を駆け抜けた。
 その姿に制圧射撃をかけ、突破できるように巳琥は援護する。ボーグルの足の多くを止めるが、前に立ちふさがってくる個体もいた。
 チェルシーはハートサイス一族の家宝たる豪華な大鎌を思い切り振りぬいて、目の前の敵を倒しダンジョンの先へ。
 チェルシーの口の端は僅かにあがる。最近、戦ってきた軍団、兵隊達は腑抜けばかりだったけれど――今日は、この場ではそうではなかったから。
「……いいわね。獣であろうと、一つの意思のもとに統率の取れた軍勢は好きよ」
 相手にとって不足はないわとチェルシーは先へ進む。しかしそこでもまたボーグルたちが待ち受けていた。
 この道はきっと正しくジェヴォーダンのもとに続く路なのだろうとチェルシーは思う。
「コロセ!!」
「トオスナ!!」
 ボーグルたちの敵意に満ちた声にチェルシーは笑って、その群れに飛び込むように見せかけ、その足で地を穿つように踏み込んだ。
「我が力、天地神明に届かん!」
 衝撃波がボーグルたちを穿つ。震度7に襲われ、ボーグルたちの身動きはままならない。
 動けないその状態は、チェルシーにとっては狙い時。
「腹拵えよ」
 その怪力もって、片手でハートサイス握り勢いつけて振り上げる。重量乗せての一撃はボーグルがその膂力上げても防ぐことできず、その体を真っ二つにして血しぶきがあがる。
 ボーグルたちは仲間がやられたと一掃、士気上げて吼える。
 けれどそれはチェルシーにとっては美味しいご馳走に過ぎない。命をかけた、とつくが。
「普段なら何気なく相手をするけど……これだけ高い士気にあって、しかもここは絶対死領域」
 一つのミスが文字通り命取りとチェルシーは分かっている。ここは堅実に。
 緩まず鍛えたこの力があれば絶対に大丈夫と自信はあれども慢心はない。
 ボーグルたちとチェルシーが戦う。その一つ隣の分かれ目でも、また戦いは行われていた。
 死という恐怖、理不尽――をれを前にしても求める未来の為に、弓槻・結希(天空より咲いた花風・h00240)はその背の白い翼を広げる。
 その青い瞳で見つめる未来。結希は思う。王劍という災いを払い、幸福の風を喚ぶ翼として斯くあれかしと――生き抜く為に。
 けれどその為にはまず彼の黒き竜へと辿り着かなければならないことを結希は分かっている。
 だからその手に青薔薇の装飾施されている美しい天星弓『フェルノート』を手に駆ける。
 そして対峙するボーグルたち。
「そこを通らせていただきます」
 結希は番える矢に氷を纏わせる。青い薔薇を灯し、多重詠唱を重ねて狙うはボーグルの群れ。
「風よ、花よ。その色彩をもって、私の道をお守りください」
 放たれた矢がボーグルの一体を射抜いた瞬間、渦巻く氷雪が巻き起こし周辺を凍結させる。
「アガッ」
「グギッ……!」
 その凍った身体を無理やり動かそうとして、ボーグルたちは足を失い崩れ落ちる。しかし眼光は鋭いまま、結希を睨みつけていた。
「青薔薇の花びらと共に、凍て付いてくださいな」
 結希のその言葉に唸る声はやまない。そして――群れの奥、ボーグルたちの中から一体が飛び出てくる。
 それはその一帯を守る様に重なる中から。とっさの判断かそれとも運が良かったのか。無傷のボーグルがいたのだ。
 凍結した場所を飛び越えるように。ボーグルたちはジェヴォーダンのために命を賭している。
 しかしやはりそうきますよねと、結希も予想していた。士気と忠誠心は、負傷など意に介させないと思っていたから。
 それに狩りの体勢をとっており、それより繰り出される不意打ちは脅威でもある。
「数多の星が、如何なる罪咎をも照らす」
 けれど、不意を撃とうとしても――結希の周囲に燦めく星光ボーグルを撃ち抜き落とす。
 星の光は凍結した者達をも打ち砕き、この場に散らしていった。
 結希はこの場にまだ生きているボーグルが居ないことを確認し、さらに奥へと足を向ける。
 本拠地へとまずは、辿り着くために。

シンシア・ウォーカー
玉響・刻

 シンシア・ウォーカー(放浪淑女・h01919)はただダンジョンの奥を目指す。
 このさきに、かの黒き竜の本拠地があるから。
「追いかけますよ、ジェヴォーダン」
 シンシアが関わった融合ダンジョン事件は南フランスの一件。
 けれど、あの地域の犯罪統計の数字だけを見ても相当数被害があったことは想像に難くなく。
 それを思うとシンシアの眉は僅かによる。
 それがより広範囲に。√EDENにももちこまれかけていた。それは戦争の檻にジェヴォーダンを叩くことによって防げたのだ。
 そしてそれが今、本拠地への足掛かりとなっている。
 もし、√EDENのあの場所に融合ダンジョンが繋がり何かしらを行われていたら。
「本当にどれだけの被害が……」
 それを思うと、実現を防ぐことが出来て本当によかったとシンシアは思うのだ。
 そしてこの消えかけの融合ダンジョンは√ドラゴンファンタジーにあるというジェヴォーダンの本拠地に繋がっているという。
(「√ドラゴンファンタジーは学生時代を過ごした大切な場所。この悪行を見過ごす訳には」)
 この戦いは普段と勝手の違う過酷な戦いだ。士気の高いボーグルの集団を真正面から当たり続けるのは厳しい。
「……何があるかわかりませんから」
 シンシアは認識阻害のオーラを纏いつつ、魔導書片手に駆けていた。いつでも全力魔法の光を放てるように。手数を増やしその数にも対応してきた。
 その途中――交わる道で敵か、と構えたけれど同じ√能力者と行き会った。
「向かう先は」
「一緒です!」
 玉響・刻(探偵志望の大正娘・h05240)はもちろんとそこから二人で駆けてゆく。
 刻も、また融合ダンジョンの事件に関わっていた。それは無差別な人身売買に繋がっていた事件。
 関わったのはただそれだけ。
(「でも、それだけでもジェヴォーダンを討つ、そう思うに十分足る理由ですっ!」)
 その想いがあったから、刻は今ここにいる。
「この機会、逃しはしません!」
 思わず零れた言葉にシンシアもええと頷く。
 進んだ先、開けた場所に出る気配。雑用インビジブルも召喚し、先を進ませていたシンシアはこの先いますと告げた。
「絶対生きて帰りましょうね!」
 シンシアの言葉に刻は頷く。
 そして開けた場所に出たなら、そこには集団狩猟体勢を整え来たものを仕留めようとするボーグルたちがいた。
「キタゾ!!!」
「オオオオオッ!!!」
「ジェヴォーダンサマノタメニ!!!」
 猛々しく咆えるその様、ボーグルたちがジェヴォーダンのために戦おうとしている姿を前に刻は零す。
「それにしても、決死隊とは意外と人望あるみたいで少し意外ですっ」
 ボーグルたちが何故慕っているかはわからないけれど。
「でも、命を掛けて臨んでいるのは私達も同様ですっ! 負けません!」
 だが囲まれたら危うい。一体ずつ確実に仕留めていきたいところと刻は思う。
 ボーグルが動き、壁をつくる。
 咄嗟に、シンシアは踏み込み、降りかかる攻撃を防ぐように仕掛けた。
 それは装甲を貫通する威力二倍の攻撃。霊障を直接流し込み、相手を怯ませる魔術をレイピアに載せてボーグルへと放つ。それは|発火点《フラッシュポイント》の恩恵もあり広範囲に、そして連ねての攻撃になる。
「黒い胡蝶は死を告げる蝶、ですっ!」
 そのわずかの間に刻は淡く光る無数の黒い霊蝶を纏う。とんと地を蹴っただけでボーグルの射程から抜け、そして後ろをとった。
 其処では距離がある。けれど、これでいい。
「|天《そら》を疾るは風斬る蝶! ですっ!」
 斬撃から生じた鎌鼬。
 狙うのは武器を持つ腕か。いや、今は狙うのは足がいいと刻は狙う。移動が出来なくなれば行動の制限が出来る。その場より動けなくなれば、動きが鈍くなれば攻撃を交わしやすくなる。
 そしてシンシアも好機とみて動きが鈍い相手へと霊障を直接流し込みボーグルを怯ませる。
 刻がそこを狙ってまた動く。閃く刃は死を告げる蝶。鋭い居合から繰り出される超速の横薙ぎがボーグルの命を絶つ。
 ボーグルの方が数は多いが、二人の対処は間違いなく確実に敵を減らしている。
 この先に進むために。なにより生きて帰るために、二人は自身の持てる全てで戦っていく。

マハーン・ドクト

 融合ダンジョンを進みながら、マハーン・ドクト(レイニーデイ・ホールインザウォール・h02242)は思う。
「……わっかんねぇんだよな。命を懸けるだの、惜しくないだの」
 人は死んでいってるってのに。ただでさえ、この戦争で何もかも滅茶苦茶になっていってるってのにとマハーンは零す。
 √ウォーゾーンで生きてきたマハーンは命というのは恐ろしく軽く。けれど重たいものであることも知っている。
「それでも、こうしてわけのわかんねぇまま、誰かが傷付いて、誰かが傷付けて、そしてそれを当然の様に世界は回ってやがる」
 己の気持ちを吐き出しながらマハーンは――開けた場所へと近づいていた。
 そこにいるという気配を感じて進んでいく。
 外ならば雨を纏っていただろう。しかしここは閉じられた洞窟のような場所。
 霧と見紛うような細かい霧雨がさらさらと降り始めた。
 その雨脚はだんだんと、強くなっていく。
「アメ……?」
「コンナノココデハナイゾ!」
 その変化にボーグルたちは僅かに動揺する。その動揺を見つつ、青を基調とした顔を覆う仮面をつけ、マハーンは歩いていく。
「……どうしようもない事も、喚いたって仕方がない事も解ってる。……だから、これは」
 小さな水たまりができていた。その上でマハーンは足を止める。
「……八つ当たりだ。『転身、開始』……!」
 マハーンの全身を青のスーツが包み込む。その上から黒いレインコートを羽織り、ボーグルたちへと告げる。
「突然の霧雨にご注意ください。濡れずにいられると思うなよ?」
 レインコード・プリズム――レイン兵器に増設された、プリズム光線を発射するための副砲台より放たれるレーザーは雨で分散し乱反射する。
 一気に広範囲にいるボーグルたちをあらゆる角度から包囲しマハーンは攻撃仕掛けた。
 集団狩猟の体勢を取り、探知できぬようにしていたとしてもその攻撃を素通りできるわけではなく。
 一気に広範囲集中砲火を見舞えばボーグルたちも逃げ切れない。
 ボーグルたちは痛みに吼える。
 倒れるボーグルもいれば、まだ立ち上がるボーグルも。
「ジェヴォーダンサマノタメニ……ココハ、ゼッタイニ……!」
 傷を負ってもぎらつく視線は揺らがない。マハーンはそれなら倒れるまでやるだけだと思うのだ。
「……そこまで覚悟してるってんなら……! 何もできずに倒れる覚悟も、出来てるんだろうな!?!?」
 この場の最後の一体まで、倒し切るまで道を譲ってはくれそうにない。
 マハーンはボーグルの矜持を否定はしない。正面から受けて、ただ倒していくだけだ。

深雪・モルゲンシュテルン
澄月・澪

 背筋に走る冷たい感覚。
 澄月・澪(楽園の魔剣執行者・h00262)はただ前を見て、その場所へと駆ける。
「感じる、この寒気がする感じ。前と同じ、絶対死領域……!」
 ここで相手を倒すっていうのは命を奪うっていうこと。本当はそんなことはしたくない――澪の表情に走る緊張。
(「……けど。ここで迷って、隣で戦う大事な友達が傷つくのも、√EDENの大事な人が傷つくのも嫌。だから、覚悟は決めてきた」)
 澪が戦いに向けての気持ちをすでに固めている。その表情を深雪・モルゲンシュテルン(明星、白く燃えて・h02863)はそっと見詰めていた。
(「長い間、私にとって敵の殺害は当然の行動でした」)
 でも、今はそうではなく。そしてそうなれたのは。
(「対話の道を知ったのは澪さんが教えてくれたからです」)
 深雪に違う道を示した澪。敵を斃す――それ以外を示してくれた彼女が今、戦う道を選んでいるのを深雪は感じていた。
(「そんなあなたが、敢えて命の奪い合いに飛び込むなら――同じ覚悟を、私も背負います」)
 青の瞳を瞬かせ深雪は澪を見つめる。と、澪も深雪を見て。
「王劍とジェヴォーダンの元に進もう、深雪ちゃん!」
 改めて向けられる言葉に深雪は頷く。いくつか戦いを経て、融合ダンジョンも奥まで進んできたように思える。
 深雪は周囲にずっと意識を向けていた。近くの草むらや物陰などもいるのではないかと情報収集をしていた。
 そして向かう先――多数の熱源を深雪は感知する。
「澪さん」
 名を呼ぶ。それだけで澪は察した、この先に敵がいると。
「魔剣執行。因果を断て、忘却の魔剣『オブリビオン』!」
 澪は魔剣執行者へと変身する。
 この先に行かせまいとするボーグルたちへ駆けると見せかけて澪は留まる。
 それは不意をついて飛び掛かろうとする気配を感じたから。振り下ろされる鉈を魔剣で弾く。盛大に舌打ちをするボーグルは引いて、そして他の仲間たちと共に集団狩猟の体勢をふたたびとる。
 正面――この先にはいかせまいと連なるボーグルたちは澪と深雪へ、ぎらぎらとした視線を向ける。
 ここで狩り、この先には活かせまいとする強い意思を二人も感じる。
 そして、何かが咬みあった瞬間、どちらも同時に攻撃へと動く。正面からくる敵へ澪が対する。
 その澪の死角から迫る敵は深雪が向かえ撃つ。
「アナイアレイターモジュール展開。『従霊』フュルギャ各機、システムオールグリーン」
 超高火力浮遊砲台を意のままに。六連装思念誘導砲|『従霊』《フュルギャ》をボーグルの後ろにもぐりこませ穿つ。
 そしてその陣を崩す様に深雪はレーザー砲を放っていく。
 集団狩猟の体勢を取るボーグルたちは視界に納める事でしか認識できない。だから二人で四角を補い合う。
「澪さん、正面開けます」
 毒棘を生やし向かってくるボーグルを見て、深雪は構える。
「射線上に僚機なし。ロケット弾発射用意」
 物理と炎の複合属性の弾丸を深雪は放つ。大爆発と飛び散る破片がボーグルたちを苛む一撃。その様子に澪は、深雪ちゃんすごい! と思わず声をあげ、私も負けてられない! と戦意を高めた。
 ボーグルの数もだいぶ減って来ただろうか。澪と深雪の攻撃も重なり、ボーグルたちの動きに精彩さが失われていく。
「深雪ちゃん!」
 今が仕掛け時。深雪は澪へと頷き返し、タイミングを合わせる。
「私の大切なものを守るために……容赦しないからっ!」
 魔剣オブリビオンから不可視の刃を伸ばし半径42mを薙ぎ払う澪の範囲攻撃。それに合わせて放つ深雪のロケット弾の爆発が、毒棘をも吹き飛ばしていく。
 脅威への抑止力となることが、|兵器《ひとごろし》の存在意義です――そう思いながら深雪が向けた砲撃。
 その爆発の中にあったボーグルたちは、半身が吹き飛んでもなお、深雪と澪へ敵意を向けていた。
 やけくそのように武器を投げてくるが、それは簡単に弾ける。反撃、と思った時にはすでにそのボーグルは事切れていた。
 奥にきて、ボーグルたちの執念を改めて強く感じる一戦。
 周囲のボーグルたちがもう動かないのを確認し、深雪と澪は更なる奥へと向かう。
「きっと、あと少しだね」
「ええ、油断せず行きましょう」
 融合ダンジョンの終わりも近い。そんな予感が二人にはあった。

橋本・凌充郎

 橋本・凌充郎(鏖殺連合代表・h00303)にとって死を覚悟する――それは『いつだって、そういうものだ』と思うことでありどんな戦いの場でも持ち得る気持ち。
 死は絶対であり、死は平等であるが故にと、知っているから。
 今だって、多数のボーグルたちが道を塞ぐ場所にひとりで行き会った。
 ボーグルたちはここを通しはしないと荒々しい気迫で守っている。
 この先がジェヴォーダンのいる本拠地に続いているのは間違いない。
 であれば、凌充郎のすることはひとつ。
「――――――ふむ。では、露払い位は引き受けよう」
 バケツで顔を隠した男は自分がいかなものかを理解している。
「何、元より殺すしか能のないものだ」
 一歩ずつボーグルたちの元へとただ歩んでいくのみ。
 怪異を殺し、災厄を殺し、人の澱みを殺し、人の腐りを殺す。
「本来はそれが俺の在り方だが―――――少しばかりのサービスという奴だ。折角の殺しだ、こちらも多少なりとも力は振るっておかんとな」
 その言葉をボーグルたちに向けて理解してくれるだろうか。
 わからずとも、大事なことはわかりあっているのは確かなのだが。
「―――――ではいくぞ、命は惜しくないとのたまう者ども」
「クルゾ!! タタキツブセ!!」
「ソノクビヲハネロ!!」
 ボーグルたちは己の能力を底上げし凌充郎を迎え撃つ。
「――――――鏖殺連合代表、橋本凌充郎。これより、鏖殺を開始する」
 地を蹴ったのはどちらが早いだろうか。
 限界突破は最初から。回転ノコギリを己の怪力をもって、重量かけて降り回しその肉を千切り裂く。
「くたばれ。死に損なう事は許さん」
 薙ぎ払うように叩き伏せながら凌充郎は麻痺弾による射撃を。それに射抜かれ動きが鈍る様を確認する。
 確実に殺せるボーグルを見定め、時にその間を抜け凌充郎は縦横無尽に駆け回る。
「―――――クハハ! 実に単純でよいではないか」
 思わず漏れる笑い。向かってくるボーグルの重い一撃を構えたバス停で防ぎ、その腹に回転ノコギリを走らせ両断する。
 飛び散る血の中、絶えた仲間ごと叩き斬ろうとしてくるボーグルの一撃を回避しながら攻撃をまた別のボーグルへ。
 単純な殺し合いの様相。ボーグルたちもさらに盛る。それを凌充郎はいなしながら仕掛けていた。
 ――――――この√をも喰らい、殺したまえよ、と凌充郎は戦場を踊りボーグルを駆逐していく。

リリンドラ・ガルガレルドヴァリス
ルメル・グリザイユ
禍神・空悟

 決死隊であると、リリンドラ・ガルガレルドヴァリス(ドラゴンプロトコルの屠竜戦乙女《ドラゴンヴァルキリー》・h03436)はボーグルたちのことを聞いてきた。
「決死隊ねぇ、正直ジェヴォーダンはここで打倒したいからこちらも手は抜けないけれど」
 それでも、簒奪者とは言え、誰かの為に戦う姿勢は素直に感嘆する。
「だけどこちらも同じく死を覚悟してここに立っているのよ。であれば後は多く語らずね、推して参るわよ!」
 目の前にいるボーグルたちへとリリンドラは向かう。
「ココデコロス!! タオスノダ!!」
「ゼッタイイカセヌ!!」
 吼えるボーグルたちとぶつかるためにリリンドラは黒曜真竜人へと変身する。
「少し、本気でいかせてもらうわ!」
 人型の竜となり、紫電を纏う。
 リリンドラへと毒棘を生やした身体で突撃してくるボーグルたち。
 しかし跳躍は二倍、ボーグルたちの上を飛び越えることは容易い。そして持つ力も四倍に跳ね上がっている。
 ボーグルたちの攻撃は何もない場所にあたり、そして毒棘をその場に生やす。
「こういう場所では真竜になるよりこちらの方が便利なのよね」
 狭い場所もある。こういうダンジョンでは動きやすい姿の方がいい。
 ボーグルの上を飛び越えて、リリンドラは待つ。ボーグルたちが自分を見る瞬間を。
「深淵はあなたに何を見せるのかしら?」
 それは五感を奪う視線。目が合ったボーグルたちは武器を握っているのに握っていないような。それに視覚、嗅覚、聴覚をも奪われていく。
「こちらも先を急ぐから加減はできないし」
 屠竜大剣を構えたリリンドラはボーグルたちを近距離で薙ぎ払う。まとめて複数体――しかし攻撃を受け反射的に武器を振り回すものもいる。
 リリンドラは大雑把な攻撃を当たらないわとかわす。屠竜大剣を再び振るって、重量乗せてボーグルたちを払い飛ばした。
 それでもなお攻撃をかけようとするボーグルがいる。自分の能力を底上げしリリンドラの気配を探り攻撃を。
 でもその五感を奪われたままではやはり十分な攻撃ができるはずがなくリリンドラは避けてその命を絶つ。
「……もういなさそうね」
 なら、と壁へ道標を描いておくリリンドラ。
 ボーグルの先にジェヴォーダンがいるのであれば、この道は正解だと知らせる意味も込めて。
 そしてリリンドラは先へと進む。
 そのしばらく後――その印を見つけた者がいた。
「ふふふ、こ~んなに早くまたチャンスが巡ってくるだなんて、ツイてるなあ。やっぱり日頃の行いかな~」
 戦いの後がある。そして壁の道標。ここまでも何度か見ていたそれは奥へと示していた。それを何となく追っていたルメル・グリザイユ(寂滅を抱く影・h01485)は、更にその先へ。
 けれど、分かれ道がありどちらにいこうかとルメルは思う。
「ん~、こっちかな」
 なんとなく殺気を感じたほうへ、ルメルは霊薬を飲みつつ進んでいく。
 と、戦いの音が聞こえてきた。そちらへ向かえば戦う姿がある。
 多数のボーグルたちと対している男がいた。
「随分とやる気でいいじゃねぇの」
 禍神・空悟(万象炎壊の非天・h01729)は笑って対する。
「んじゃまぁ、こっちも遠慮なく皆殺しといかせてもらおうか? ま、元から遠慮する気なんざ欠片もねぇんだがな」
 全てを焼き尽くし灰すら残さない黒き炎を纏う。
「テメェにとっての死の凶兆、それが俺だ」
 打ち崩す、と空悟は走りこみ近くにいたボーグルへと計都炎尖禍の一撃を叩きこむ。
 ボーグルたちは集団狩猟の体勢をとっていた。その伊動力と戦闘力を落としても潜む事を選んだため。
 けれど目の前にいる相手を空悟は逃さない。空悟の動きに合わせる事も出来ず、その場に沈んだボーグル。
「ま、問題は個々の強さよりも数ってな」
 だが一体倒したところで空悟は慢心しない。己を囲む数はまだまだ多いのだから。
 地を踏み砕く震脚は黒炎の波濤を踊らせる。姿は見えなくとも、その範囲にいるのなら焼却に抱かれるはず。
 その狙いの通り、炎に踊らされるボーグルたちが端から出てくる。だがそれだけでは、倒れない。身を焼かれながらもボーグルは空悟へと敵意を向ける。
「これで全て片が付くなら決死戦の名は冠しちゃいねぇし、死の覚悟なんて求められやしねぇ」
 身を焼かれながらも空悟を囲み攻撃向ける。だが鍛えられた体はその一撃を受け止めて耐える。
 けれど、もう一つの方向から来ると思っていた攻撃がこない。
「一体もらいましたよ~」
 ボーグルの死角から、Requiem Fang――ナイフでその首を切り裂いたのはルメル。抉り裂いた肉を手にしてその場にとどまる。
 まだ数が多いボーグル。空悟はそっち任せるぜと告げて、ルメルもお任せと返した。
「向こうさんも決死の覚悟でお出迎えしてくれたんだ。お望み通り殺してやらねぇとなぁ?」
 空悟は正面からくるボーグルたちへと攻撃仕掛ける。
 そしてルメルも。
「準備完了~っと。あとは良いタイミングまで、大事にとっておくだけだねえ。……あ、む……」
 肉を口に含んだまま、咀嚼も飲み込みもせず。ちょっとくさいな、なんて思うけれどルメルは我慢して最低限の動きでボーグルたちの攻撃をかわし、そしてナイフで攻撃する。そのナイフで生命力を吸収しつつ。
 しかしその攻撃が来たときは正面から敢えて受け止めた。毒棘を生やし突撃してきたボーグル。避ければその場所が毒棘まみれになる。
 だから敢えて、自分でうけて――その衝撃を利用し、含んでいた肉を一気に呑み込んだ。
「~~ッ、……ふう、ご馳走様~」
 よおし全快とルメルは言う。その言葉の通り、貫かれた場所は綺麗に治ってその毒も消えている。
 ボーグルは何がおこったと状況が呑み込めていないようだ。
 そんなボーグルへと、ルメルはにっこり笑ったかと思うと。
「これであとは、キミを殺すだけだあ」
 その手を伸ばし掴むと地面へと叩きつけた。グオッと潰れる様な声を零すボーグル。そのままヒールで串刺すように踏みつけけ、ナイフを再びボーグルへ。傷口抉って血飛沫跳ねる。
 まだやります? やりますよねとルメルは笑う。
 ボーグルが向ける視線はぎらついたまま。戦いはまだしばらく激しく続くことを予感させた。

祭那・ラムネ
八辻・八重可
ルーシー・シャトー・ミルズ
贄波・絶奈

 人は脆弱で儚く数が多い。
 簒奪者にとっては取るに足りない存在なのでしょう――八辻・八重可(人間(√汎神解剖機関)・h01129)が思い起こすのは、人を魔物へ変える実験をしている研究施設だ。
 それは融合ダンジョンに関わっているときにみたもの。
 そこで与える痛みを意にも解さず、問答無用のやりようだった事は容易に想像できる。
 八重可は口をきゅっと結ぶ。脳裏に蘇るその姿を忘れることなどできないから。
 酷い研究を施され、打ち捨てられた人々がダストシュートに放り込まれていた。
 息のあるものもいた。けれどそれは酷い状態で、助けられなかったひとでもある。
 そこで亡くなった男性の遺言を――『愛している。帰れなくてすまない』という言葉を、八重可は家族へと届けた。
 けれど、どうして帰れないのか。どうなってしまったのかという事実――実験材料として非業の死に至った事は伝えられなかった。
 苦い記憶でもある。けれど八重可は思うのだ。
 手段を選ばず怪異を狩り続ける私と差異はないのかもしれないと。
(「思えば、酷いと嘆くのも違うような気がします」)
 戦う限り、殺される覚悟も出来ている。とはいえ、死なない努力は怠らない。
 今だって前もって情報収集を怠らない。もうすぐ開けた場所。そして――ボーグルたちが居る。
 そこへ辿りついて、八重可はハッとする。ボーグルたちの後ろに研究施設のようなものがあることを。
 そこはもう使われてはいないのだろうけれど、八重可の心をざわめかせる。
「キタゾ! コノサキヘイカスナ!!」
「ココデコロセ!!」
 ボーグルたちが雄叫びを上げる。荒々しくジェヴォーダンサマノタメニ! と声をそろえて。
「――最高の環境を展開しましょう」
 その声に臆する事なく八重可はすぐさま己の研究成果を語った。するとこの場所は様々な実験器具が並ぶ理想の研究室へと変わる。
 先程の場所を否定するように八重可は自身のフィールドにボーグルたちを引き込んだ。
 シリンジシューターを手に八重可は仕掛ける。ボーグルがその身に毒棘をはやし体当たりを駆けようとしてくるのを鉄壁の防御を持って耐える。走って攪乱と回避――と思ったが避ければそこは毒棘に塗れるだろうから。
「一片たりとも逃しません」
 そして至近距離、ボーグルにシリンジをあてその場所を切断する。肩のあたりにあてたなら、腕が一本とんで鮮血が噴き出した。
 それでもまだ戦えると、ボーグルは八重可へと攻撃を。
「!! ゼッタイニコノサキヘ!! トオスナ!!」
 ボーグルたちの必死さが――段違いだ。つまりもうこの先は本拠地に繋がっているのだろう。
 その戦闘場所へ贄波・絶奈(|星寂《せいじゃく》・h00674)は合流する。
 戦闘していたその広い場所に一歩足を踏み入れただけで、ボーグルたちのぎらついた視線が絶奈も捉えた。死を覚悟した決死隊――油断がないのだろう。
「それはこっちもそうなんだけどそんな相手を正面から突破するのはリスクが高すぎる」
 かと言って時間を掛け過ぎるのもいけない。と、なるとここは強襲過ぎるに限るねと絶奈は駆けた。
 駆けながら絶奈の脳裏にも巡る。
(「融合ダンジョンね。なんていうかスッキリしない事件だったよね」)
 その何とも言えないもやもやした気持ちをぶつける先は、ひとつだ。
「というワケでこのスッキリしないモヤモヤ感を晴らす為にジェヴォーダンには落とし前を付けて貰う事にしまーす」
 ま、これ以上面倒な仕事増やさないでくれってのもあるけどねと零しながらボーグルたちの群れに突っ込む――その直前で、絶奈は|【星幻】ー遠き日の白昼夢ー《セイゲン・スターレヴァリエ》を使い、その背後のインビジブルと入れ替わった。
 目の前に突っ込んでくるとみていた絶奈の姿が消えて、代わりに現れたインビジブルは煌めく星屑となりボーグルたちにダメージを与える。
 集団狩猟の体勢をとり、集っていたボーグルたちは呻き。しかしそれだけでは終わらず、絶奈はライオットガンを背中にぶち込んでいく。
 背中で弾ける弾は貫いていくものもある。呻き声を上げて倒れるボーグルを視界にいれつつ、けれどまた他方からも毒棘生やして絶奈に向かってくる姿を見つける。
 なら、早めに対処するだけ。狙い撃って、遠距離からも攻撃を仕掛けた。
「死の終わりに冥し……」
 攻撃しようとしているボーグルを暗器の射程に収めるべく跳躍する。そして攻撃した後、夜を纏って絶奈は隠密状態になる。
「!? ドコニイル!!!」
 そのまま、絶奈はボーグルたちの中を抜けてしまおうと動く。
 だが数はまだ多くその先に進むのは難しそうだ。
 そんな中へ飛び込んでくる影ひとつ。
「キマってるねえ~!」
 元居るべき所に戻るべくでもなく、ただ主君への忠誠を遂行する。それがここにいるボーグルたちの在り方。その在り方をルーシー・シャトー・ミルズ(|おかし《・・・》なお姫様・h01765)はショウさんする。
「その生命の輝き、とっても良いですよぉ~!」
 が――死は救済ではないとルーシーは知っている。
「親玉の為に? じゃあ望み通りにしてあげる」
 ボーグルたちのように命はかけている。けれど、同じではないのだ。
「決死を生き抜いて必ず生きて帰る――それがあたしの目標なんでね」
 ルーシーは他の√能力者たちを見る。孤立は致命が一気に近づくだろうから離れすぎることを避けたいから。
 そしてボーグルたちへは、背後を取られないように立ち回りつつ攻撃を。
 目の前のボーグルがその力を強化し攻撃を繰り出そうとする。けれど、ルーシーが懐にもぐりこみその右手で殴ったなら強化は溶けて消えてなくなる。
「ナニッ!?」
 驚きつつもボーグルはただ得物を振り下ろす。ルーシーはその攻撃を両腕で庇いつつ的確に防いで安全マージンをとる。
 取れた分だけ得をする。負傷を最小限に抑えてルーシーもすすんでいく。
「獣人の長には有給取ってもらわなきゃ」
 あんたがこの隊、指揮してるの? とルーシーは後方にいた一体へと迫る。
 ボーグルが自身の力を底上げしてくるが、攻撃をルーシーは弾き返す。
「ぱく、」
 そして意識を揺さぶる強烈なパンチを繰りだし顎下から頭揺らして。そして数歩下がったなら、自身の能力値にブーストをさらにかけ、飛び蹴りの強烈な一撃を見舞った。
「まずは此処を、確実に突破させてもらうよっ!」
 そう、もうここまでくれば敵の本拠地はまであと一歩なのだ。
(「──やっと、」)
 |やっと《・・・》だ、と祭那・ラムネ(アフター・ザ・レイン・h06527)も思う。
 融合ダンジョンで苦しむ人も悲しむ人も見てきた。
 だから、今、ここで決着をつける――ラムネは怯まずボーグルの元へ踏み込む。
 敵は手強い。それもわかっている。
 けれどラムネは俺たちにも成すべきことが、護らなければならないものがあると思うから。
(「その使命と責任が、俺の背を押してくれる」)
 ラムネは不可視の光を皆へと繋ぐ。すると命中率と反応速度が1.5倍になり動き易く。ボーグルたちの速さ上回り先が取りやすくなる。それは荒れる戦場での優位性の確保。
 決して油断はせず、終始冷静に対処しつつ皆の動きにも目を配っていた。
 ボーグルたちが集団狩猟の体勢をとって誰かを狙おうとするなら、ラムネはそれを引き付ける。
 刺さる敵意の視線。動いて、引き付けて。ラムネもボーグルたちの姿を視界の中に留める。視認以外の感知を無効とするために力を削いでいるが数で押せばいいというようにボーグルたちは動いていた。
 攻撃を、鉄壁の守りのオーラまとって受け流す。衝撃波あるがダメージにはならず。
 けれどラムネを狙っているということは他の皆に背中を向けていることになる。その隙を三人とも見逃さない。
 ルーシーが√能力を消す拳で殴ったなら八重可がシリンジを放ち、絶奈は至近距離からライオットガンを撃ちボーグルたちが倒れていく。
 そしてラムネもボーグルの一瞬の隙を見切り、雲裂衝を放つ。己の得物で急所ごと撃ち抜くように貫いてやればボーグルはその場に倒れてしまう。
「クソッ! ゼッタイニトオスナ! トオスナアアア!!!」
「オオオッ!!」
 異様な熱気をもって残るボーグルたちが襲い掛かる。けれどもう、数の利はボーグルたちにはなく。
「終わりにしましょう」
 八重可はシリンジシューター構えて攻撃放ちその飛ばした肉片を捕まえて食む。傷はそれで塞がり、この先も十分戦えるだろう。
「ジェヴォーダン様も、あとでおくってあげるよぉ~!」
 だからここで倒れろとルーシーも一撃をかけボーグルを打ち倒す。深い傷おって倒れたボーグルが尽きてその場には静寂が戻って来た。
「周囲にはもういないみたい」
 あたりに生き残りがいないか絶奈は確認し、そしてこっちねとボーグルたちが守っていた先を見つめる。
 行こうとラムネが一歩を踏み出した。
 ダンジョンの中、アリの巣のようにひろがった道が一ヶ所に集約される。
 ジェヴォーダンのいる本拠地へ。

第2章 冒険 『ダンジョンの罠を越えて』


 融合ダンジョンの終わり。それを空気が変わったことで√能力者たちは知る。
 ボーグルたちを倒し、進んだ先――今までのダンジョンとは明らかに雰囲気が変わったのだ。
 遺跡のような内部の様相。おそらくここがジェヴォーダンの本拠地であると誰もが思った。
 様子が変わったことに√能力者たちは一度足を止め、その先を探る様にしばらくゆっくりと進んでいく。
 しかし、何かしら敵がいるようには見られなかった。本来なら多くの敵が配置されていたのだろう。だがジェヴォーダンは多くの戦力を失っている。
 で、あれば――ただ進むのみ。
 しかし、ダンジョンは決して優しくない。このダンジョンを守る者達がいなくても防衛機構は生きているのだ。

 ある道は、ただ前へと進むしかなかった。ただ、進むだけだ。
 だが足元も、天井も、壁も。ぬるぬるとした謎の液体によりコーティングされている。一歩進むためにぬるぬるの中から足をひっこぬいては、一歩と時間がかかる。所々深い場所もあって腰まですぼっと入ってしまったり大変なことになるかもしれない。
 ではこの通路を飛んでいけば、ぬるぬるに引っかからずに進めるのではないか。そう考えたとしてもうまくはいかない。
 天井から一気に、滝のようにおちてくるのだ。それに出会えば床へと叩き落とされぬるぬる。
 ここは肉体の力でダンジョンの罠を正面から粉砕するしかないのだ。
 ちなみにこのぬるぬるは綺麗にすることがなぜかできない。頭から被ってしまえば、おそらくジェヴォーダンの元へ辿り着いたとしてもぬるぬるのままだろう。

 ある道は――容赦なく原始的な攻撃を仕掛けてくる。進んでいたらかちっと音がして、槍がふってきたり落とし穴にはまったり。
 進んでいれば天上が崩れ始め、一気に駆け抜けなければならなくなる。そして走っていれば、逃げ道の無い場所で巨大鉄球が追ってきたり。
 それはどれも、罠を素早く回避して、ダンジョンを駆け抜けて奥に進むことが一番の対処法だろう。

 そして最も殺意の高い道は――通り抜ければ全方位から砲撃がくる通路だ。通り始めれば、大小さまざまな魔法陣が展開される。魔法陣は暫し力溜めたのち、多種多様な魔法の砲撃を放つ。魔法陣は炎であれば燃える様な絵柄を。水であれば水流というように何が放たれるかは見ればわかる。壁や天井、時には足元から行われる魔法砲撃は何度か躱すことはできるだろう。しかし延々と続くのだ、それが。どこまで続くかわからぬ通路を一切気が貫けぬ状況で駆け抜ける。で、あればこの砲撃をどうにかする方法を見つけて対処しながら駆けるほうが楽だろう。
 どうすればいいかは駆けながら試していくことになるだろうが、罠の構造などを理解し、罠を解除するなどして先に進めば安全にすすめるだろう。

 どの道を選んで進むかは――√能力者たちの選択次第。
 しかしどの道も最奥、ジェヴォーダンの元に続いている。ここを踏破しなければならない。

====================

 POW 肉体の力でダンジョンの罠を正面から粉砕する、ぬるぬるの道。
 SPD 罠を素早く回避して、ダンジョンを駆け抜けて奥に進む、罠の道。
 WIZ 罠の構造などを理解し、罠を解除するなどして先に進む、全方位砲撃の道。

 上記、三つの道にわかれています。
【死を覚悟する】の次にどの道を行くか、記載してください。
 記載なくとも、確実にどの道を進んでいるかわかる内容であればなくてOKです。

====================
御剣・刃
真心・観千流
クラウス・イーザリー
フィオ・エイル・レイネイト

 ぬるぬるの道を真心・観千流(最果てと希望を宿す者・h00289)は見つめて、いやいやと首を横に振る。
「ぬるぬるが気になりますが……ここは決死戦、ギャグ無しで行かせてもらいましょう!」
 観千流が向かうのは罠の道。
「再現するなら多分だいたいこんな感じ!」
 戦場全域の熱量を掌に圧縮集中すれば空気が冷える。通路全域を凍らせていく――けれどすべてを短時間でそうするには、この先は長く広いようだ。
 それでも、いくつかの可動部分は、目に見える範囲では凍らせ動かぬようにできている。
「……もうちょっと固めておこう」
 観千流は量子干渉弾頭の固定属性攻撃を放つ。幾つも放たれるそれは弾幕。それによって通路を固めていけば、今はまだ動かない罠ごと固定できる。
 天井が崩落――なんてこともないようにそちらも忘れずに。
 これで準備はできた所。氷結の範囲外から何かあっても、対応はできる。
 今、観千流の能力値はいつもの三倍。
 今なら――情報収集してダンジョンの構造を可能な限り暴いてしまえるかもしれない。
 だがダンジョンはそんなに甘くはない。
 凍てついている道の横が凍っている状態を問答無用で無視するように開いて、鉄球を転がしてくる。
「!」
 咄嗟に圧縮した熱量をレーザーとして、直前にぶつけ融解さえ観千流は事なきを得る。
 しかし次は頭上から突然落ちてくるギロチン――観千流の思考を邪魔するようにダンジョンは罠を再び落としてくる。
 凍っても罠は動き続けるのだというように。けれど観千流は避けることができる。空を蹴って次にどこから来るか情報収集からの予測と学習もできるから。
「このまま抜けますよ!」
 終わりを目指してただ駆けるのみ。
 その先に駆ける姿を御剣・刃(真紅の荒獅子・h00524)は見つめていた。
「罠の山か」
 この先に進めば、次々と襲い来る罠がある。刃は頭をがしがしと乱暴にかいて、ひとつ息吐いた。
「あれこれ考えるのも面倒くせぇ」
 は、と息吐いた刃は鋭い視線を向ける。そこは、今見る限りはただの通路。
「俺らしく、最短距離を、最速で行かせてもらうぜ」
 そう思ったなら、ただ真直ぐに走り始めた。
「どうせジェヴォーダンの居城なんだ。どんだけ壊れても、問題ないだろ」
 大きく踏み出した足が何かを踏んだ感覚。踏んだなら次はどこからくるか――カコッと小さな音が聞こえたのは背後だ。
 刃は振り返らず、そのまま左に大きく踏み出した瞬間、その場所にやりが落ちてきた。落ちてきた槍はそのまま倒れていく。
 原始的な罠だと思いながら刃はそのままただ真っ直ぐ、早く駆け抜ける。
 最短距離で真直ぐ。正面に壁があっても気にせず壁をぶち抜いて。
 その先に落とし穴があるなら飛び越える。
 と――風の流れを感じたならその拳を握りこんだ。鉄球が正面から落ちて転がってくる――それを殴り砕き。ただただ、刃は前へ突き進み駆け抜ける。
「準備運動、にもなりゃしないか。ただ真っ直ぐに速く駆け抜けただけだもんな」
 無為に発動された罠の数々に言葉向ける。しかしまだ通路は続いている様子、刃やそのまま、突き進む。
 罠の作動する音。先に進んでいる者がいるというのに、際限なく罠が発動する。
 それは一度踏めば終わり、ということはないということだ。
 行くしかないというのなら、行くだけだ。
 クラウス・イーザリー(太陽を想う月・h05015)は陽光のような暖かい光を纏った翼をその背に現す。
 この先は罠が犇めくという。クラウスは地上の罠を踏まないように空中を、インビジブルを次々と乗り継いで進むことにしたのだ。
 飛翔を保ち素早く抜ける――それが自分にとっての最適解。
 視線の先にいるインビジブルの場所まで飛翔しながら、罠の発動源となるようなスイッチやワイヤーが無いか注意する。
 何もない、けれど何かあるような――通っただけでそれは作動するのだ。
 何かが自分を捕えたような気がしてクラウスは身を翻した。すると後方の天井から斜め――つまり自分へと向け放たれる弓矢の雨。
 破壊するより目先のインビジブルへと向かった方が早い。クラウスは素早く動いて回避する。
 しかし着地せずに飛翔し続けるとその身は徐々にインビジブル化してしまう。
 とんと、一度地面に足をついた瞬間、その場所がぬけた。
「!」
 その足元には落ちたものを容赦なく突き刺す槍が待っている。だが今、翼のあるクラウスは落ちることはない。
「ちょっと肝が冷えたな……」
 ふ、と息を吐きながら通路へと再び戻るクラウス。
 時間をかけてしまえばしまう程、奴に迎え撃つ準備の猶予を与えてしまうことになる――そう思うと早く抜けなければと思うのだ。
「できる限り急いで進んでいこう」
 クラウスは前を向きジェヴォーダンのところへ、と再び駆ける。
 罠が作動する様子を前に、思わずといったように。
「ええ……」
 先を行く者達へと襲い掛かる罠の数々――フィオ・エイル・レイネイト(無尽廻廊・h06098)はその様子を目に引いていた。
 容赦なく降り注ぐ弓、槍。落とし穴に鉄球が転がってきたり。その様子がよくわかってしまうから。
「ダンジョンの機能は生きてるって言ったって限度あるでしょうに」
 ジェヴォーダンは一回罠を解除して逃げ込んだ後再度復旧させたってことだよね、とフィオはその光景をちょっと想像して。
「……ずるいぞ」
 むっと唸りながら零した。
 けれどここでずっとその気持ちにさいなまれているわけにはいかない。フィオはぱんと軽く自分の頬を叩いた。
「さて。泣き言はこの辺にしといて進もうか」
 鞘の中で妖刀解放するフィオ。
(「私が見切れない部分はこの刀に見てもらおう」)
 基本は最短距離の踏破。ただただ、真っ直ぐ進むだ。目視の範囲内で明らかに変な地形は避けながら。
 走り始めたフィオへと弓が放たれる。咄嗟に腰に挿した刀で切って捨てたなら、矢じりが落ちる。それを見ればどろりと変な色を纏っている。おそらく毒――えげつないとフィオは思いながらまた前を向く。
 正面に刃のふりこが現れたなら、衝撃波を放ちそのタイミングずらして駆け抜ける。
 罠は原始的なものばかり。躱すことも難しくないが連続して放たれ気は抜けない。
「さあて。チェックメイトも一つ二つ先だ」
 でも、進めているとフィオは感じる。
「覚悟はいいかい、ジェヴォーダン」
 この先にいる存在を見つめつつ。足元から突きあがる槍を目にしたフィオは妖刀から溢れる妖を踏み台に飛び越えた。

糸根・リンカ
ルーシー・シャトー・ミルズ

 全方位から容赦なく魔法砲撃がくる道――糸根・リンカ(ホロウヘイロー・h00858)は世界の歪みであるホロウヘイローと完全融合し守りを絡める。自身に「世界の穴」という概念を宿したのだ。
 そうすることにより、物理攻撃やエネルギーを全て別√へ受け流す――これで大丈夫と思ったけれど、リンカははっとする。
「でも毒の魔法とかあったら防げませんし、いきなり行くのは怖いですね」
 リンカは囮を特攻させることにする。
「ドラゴンプロトコル・イグニッション!」
 リンカの騎乗する大型バイク、総長専用大型二輪『|愛暗女威電《アイアンメイデン》』の形が変わる。それは機竜『レッドメイデン』へとなったのだ。
「行ってください」
 一定の距離を往復でいい。罠が実際にどんな動きをするのかリンカは観察する。
 レッドメイデンが走り始めたと同時に、周囲に魔方陣が次々と浮かぶ。そしてしばし――5秒程度だろうか。さまざまな魔法がレッドメイデン目がけて放たれる。
 その身にある竜漿ガソリンがある限り、その攻撃を干渉とみなし完全無効化するレッドメイデン。
 そしてその口をあけ、魔法を発する魔方陣へと電撃のブレスを放つ。だがそれは魔法砲撃と相殺され届かない。
 しかし魔法発動前の、チャージ中の魔法陣はブレスを喰らうとそれにひびが入り、発動せずに消えて行った。
 それをリンカは見逃さない。そして、竜漿ガソリンが尽きたレッドメイデンは手折れるギリギリでリンカのところに戻ってきた。
「……よくできました。全部終わったら、ちゃんと修理してあげますからね」
 そしてリンカは、分かったことを纏める。
 魔方陣の場所や種類はランダム。次から次へと新たに生まれ決まった法則はなさそうに見える。
 魔方陣の破壊は、魔法砲撃発動前なら可能。
 砲撃の種類は、発動する炎や水といった性質により放たれ方は変わるようだ。
 侵入者を感知するセンサーはどこ? と観察したがわからない。いや、むしろこの道すべてがそういう仕掛けなのだろう。
「……これ、砲撃のエネルギー源はなんでしょう」
 無駄撃ちさせ続けたら止まりませんかね、と思うけれど――それを探るより進んだ方がいいかもしれない。
 愛称の悪い砲撃を絵柄で判別し避けながらいく。可能なら魔方陣を壊してしまえばいい。
 リンカは自分が導き出した答えに従って駆ける、その前に感じたことを皆へと伝える。そしてそれをもとにルーシー・シャトー・ミルズ(|おかし《・・・》なお姫様・h01765)もどういくかと考えて。
「頭と身体を同時に。大変だよねぇ」
 でもあたし流石に欲しいものがあって、とルーシーはその名前を呼ぶ。
「ジュレ」
 インビジブル『ジュレ』によって視界内のインビジブルを飛行機状に。
 そしてルーシーは周囲のインビジブルたちへと尋ねる。
 この罠の構造、解除方法はないのかと。
 けれど、インビジブルたちにそれはわからない。
「わかんないかぁ。じゃあ、もうひとつ」
 ジェヴォーダン打倒に繋がりやすい手掛かりを知らないか、と。
 しかしその質問にも、良い反応はなかった。
「『白き御手』は? 本当に見たもの聞いたものなんでも良いから、掴んでみたいんですよ」
 それならば――とインビジブルたちは答える。
 背後に箱を抱くたくさんの手。その手には剣が握られている――そういうのをみたことがある、と。
 だが弱点や何か対抗手段のようなものについては、インビジブルたちは知らないのだ。
 情報収集は難しく。欲しい答えが得られるとは限らないというもの。
 ルーシーは通路の先を見つめる。このまま走り抜けるしかないと。
 インビジブルたちを伴って、自分ごとエネルギーバリアを纏いそのままひきつれて走り抜けるだけ。
 ルーシーにはまだうてる手がある。
 インビジブル制御と○-omniは、あれ見つけたから如何しても欲しいよとか、痒いところに手が届かない時の保険と定めて、とんと爪先で地面叩いて行く先を見つめたルーシー。
「どうせ何回も避けられないんです、これくらい堅く行って初めてスタートライン、って気持ちで頑張らなきゃ」
 先を走った者の姿を見つける。追いかけるように魔方陣が連なり砲撃を行うさまを。
「解除、というか魔方陣壊しちゃえばいいのか」
 やれば出来そうなら――フィーリングで。
「情報屋で魔女ですからね、砲撃の道抜けるのだって戦いなんですよ」
 どれだけ最高の状態であれに挑めるか、皆に重要な情報を無事運べるか――その二つは外せないとルーシーは思う。
「幸運にも、捕まえてみせるって」
 魔法砲撃の中を駆ける。バリアに砲撃ぶつかれば吹き飛ばされそうになる。
 前から撃たれた時には両手二度叩いて、インビジブル達を合体させ突撃させ相殺した。
 一瞬たりとて気が抜けない。ルーシーはただ、前へと走り続ける。

白神・真綾
ガイウス・サタン・カエサル
八海・雨月

「雰囲気の良いダンジョンねぇ」
 ここがジェヴォーダンの本拠地と八海・雨月(とこしえは・h00257)は周囲を見回す。
 何の変哲もないように見えて、簡単に通らせないというような意思を感じさせる。
「時間を掛けて見て回りたい所だけど、今回は突破を優先しましょうか」
 全方位から砲撃がくる道――ふぅんと雨月は見詰める。
「罠の性質を考えると人の姿に戻っておく方が良さそうねぇ」
 ダイオウウミサソリの姿から人の姿に。突破なら砲撃を防ぐ術が必要。
 その砲撃を解除するにしても、構造理解の為には撃たれるのが早そう。
「それなら……」
 雨月はダイオウウミサソリの霊体を召喚する。先程の戦いを経て雨月の元には200を超えるダイオウウミサソリの霊体たちが集う。
「かなり呼べたわぁ」
 ふふと雨月は笑い零す。そして雨月は行って、とダイオウウミサソリ達の数体へと命じる。
 通路を駆け抜けるダイオウウミサソリたち。するとすぐさま、魔法陣がいくつも通路に浮かんでいく。魔法陣が生じた数秒後、激しい砲撃がダイオウウミサソリたちを炎で焼いて、水流で貫き、風が切り裂く。石の礫が雨のように降り注ぐことだってあった。
「なるほど」
 魔法陣は砲撃を放てばすぐに消えて。そしてまた新たに生まれる。魔法陣が現れるトリガーが何かと言えばそこを通ったからくらいなのだろう。
 さて行こうかしら、というところへ皆が開いた道を通り抜けて――白神・真綾(|首狩る白兎《ヴォーパルバニー》・h00844)も竜の迷宮へと辿り着いた。
「ヒャッハー! 真綾ちゃんとしたことが祭りに出そびれちまったデース! ここから一気に巻き返すデスヨ!」
 ここから先、どの道を選ぶか。真綾は、全方位から砲撃が来る道の前に立っていた。
「全方位からの砲撃デスカ! そいつは一番面白そうデスネェ。精々楽しませてもらうデスヨ」
 真綾は何の策も練らない。砲撃がくるというのなら、ただ避けるだけというスタンスだ。
 それに先に駆けた者達が魔法陣は発動前なら攻撃し、壊せることを見出してくれた。
「ナルホド! 真綾ちゃんもいけそうデース!」
 じゃ、いっちゃうデスヨ! と真綾は元気に飛び出す。
 走り始めた瞬間四方八方、魔法陣が現れた。真綾は目の前の魔法陣へと事象や概念すらも断絶する神威の大鎌を振り下ろした。
「真綾ちゃん、今全てを殺すデース!」
 魔法陣が砕かれる。しかしその先の魔法陣のチャージが終わり真綾へと放たれる雷撃。
 プロテクトビット――防御特化型の半自律型浮遊エネルギーフィールド発生器を真綾は正面に回してその雷撃を防いだ。
「ヒャッヒャッヒャー! なかなか派手な歓待デスネェ! 祭りはこうじゃなきゃいけねぇデス!」
 何度か受けたらプロテクトビットも破壊されてしまうかも。それを感じながらも、真綾は笑っていた。
 この空気を楽しむように。楽しそうに駆ける姿に雨月は小さく笑って。
「ま、行くしかありませんね」
 ダイオウウミサソリたちを身代わりに通路を駆け抜けていく。
 解除できそうなら霊力込めて突き刺してやろうかしらと、強固な外殻で創られた一本銛に似た槍をひゅっと空を切りその手で遊ばせる雨月。
「誰かいるなら付いてらっしゃいな、護ってあげるわぁ」
 何にせよ、此処を駆けるしかない。ダイオウウミサソリたちと共に雨月は駆ける。
 魔法陣の前にダイオウウミサソリが飛び出し雨月を守り。そして目前に現れたそれに雨月は銛を投げた。砲撃放つ前のそれは簡単に砕け散る。
 ああ、こうすればいいのねぇと雨月は笑って現れたばかりのそれにダイオウウミサソリを突撃させる。
「放たれる前にやっちゃいましょ」
 砕ける魔法陣は小気味よく。砲撃の幾つかを封殺してしまえばこの道を通るのも苦ではない。
 先を進む者達の姿。ガイウス・サタン・カエサル(邪竜の残滓・h00935)も全方位から砲撃がくる道を見つめる。
 後続の為にも魔法陣をある程度解除して行った方が良いだろう――しかし、見ていれば一度通った場所に再び魔方陣が現れている。
 解除といったことはできなさそうだなとふんでガイウスは砲撃を躱しながら終わりに向かって駆ける。
 と、目の前に現れた魔方陣。走り去りながらガイウスは魔力を吸収する。
 魔方陣はチャージが終わらず、発動の機会を失い沈黙した。それを見てハッキングし、他の魔法陣を攻撃するよう命令を書きかえればと思ったが――発動までは短く難しそうだ。
 しかし、魔法砲撃の密度が増してくる。
 これは避けられないと直感した砲撃――その先にいるインビジブルとその場所を入れ替えたなら、先程までいた場所に炎と水、雷撃が落ちていた。
 それをちらりと見つつ、そのまま駆け抜ける。
 消滅の魔力を帯びた10秒間、触れたものはダメージをうける。
 であれば正面に現れた魔方陣も、そのまま突っ切った瞬間に消え去った。
 ガイウスは10秒の間、何も気にせずただ進む。そしてその効果切れたなら、また同じことの繰り返し。
「ゴールはまだ遠いな」
 その道の終わりはまだ見えない。

白石・明日香
ウララ・ローランダー

 白石・明日香(人間(√マスクド・ヒーロー)のヴィークル・ライダー・h00522)が乗り回すバイク、ダムナティオ。それは今、サイドカーとなっていた。
「ウララ!」
 その声にウララ・ローランダー(カラフルペインター・h07888)は頷いて。
「よろしくね、明日香ちゃん! 運転技術、信頼しているわよ!」
 任せろ! と明日香は言ってエンジンふかす。ウララがサイドカーに乗ったなら行くぜ! と明日香は出発。
 駆け抜けるダンジョンの中――車体に伝わる感覚で明日かは咄嗟にハンドルを切る。僅かな感覚で斬り返したのは正解。真直ぐ進んでいたら穴の中に落ちていただろうから。
 ぽっかり空いた道をちらとみれば、底にはどろどろの液体。ごぼっと泡立つものは毒のようにも見えた。
「あっぶな! ウララ、スピード更にあげてくぜ!」
「はーい! 正面の罠は任せて!」
 僕様ちゃんもタダ乗りじゃないわと言いながらウララは特殊ウォーターガンを構える。前方の天上からがこっと弓矢の束が向けられた。
 それを放たれる前に炎乗せてえ放ち燃やして落とす。しかしその矢は始まりに過ぎない。次から次へ、新たな罠が起動していく。
 正面から転がってくる巨大鉄球――それを前にウララも明日香も焦ることはなかった。
「このまま打ち砕けると思……いや、2個ないか?」
「僕様ちゃんにも2個見えてる! 明日香ちゃん!」
 二人同時にその鉄球へと向かって攻撃を。強化した弾丸を放って撃ち砕ける! と明日香は思う。いや、砕くまで撃つだけだ。鮮血属性の弾丸が、血の雨降らせ。そして自分たちへの強化を一緒に。
 そしてウララも。
「イエロー・アクセプト! 雷よ僕様ちゃんに力を貸して!」
 黄色インクアクセプトによる雷属性の弾丸を向けるウララ。
「どっかーん!」
 一つ目を明日香が砕くと同時に、二つ目に向かって攻撃放ったウララ。その一撃は鉄球を割り、そのまま二人は爆風、そして砕けた破片の中を走り抜けていく。
「このまま突破してくぞ。時間が敵だしな!」
「待ってなさい、ジェヴォーダン……必ず、あなたをボコボコにしに行くわ!!」
 二人で協力してただ真直ぐ。罠の待つ道を進んでいく。

パンドラ・パンデモニウム
アマランス・フューリー

 迷宮――行く先は三つに分かれている。
 しかしパンドラ・パンデモニウム(希望という名の災厄、災厄という名の希望・h00179)は不敵に笑ってみせた。
「フッ、この私に対して迷宮で挑むとは笑止千万、裏ドラバンバン!」
 お任せくださいとばかりにパンドラは胸をはる。
「私は神話時代には元祖迷宮攻略者たるテーセウスさんともお友達だったのですからね」
 だからパンドラは攻略法をすでに知っているのだ。それは単純明快。
「その攻略法とは……こうです、スピードでぶっちぎる!」
 きぱっと言い切った言葉にアマランス・フューリー(星漣の織り手にして月詠の紡ぎ手・h08970)は瞬いて。
「……テーセウスと友達だったから迷宮を突破できるって理論はよくわからないけれど」
 でも、とアマランスはパンドラを見る。めちゃくちゃいい笑顔をしている彼女を。
「まあ細かいことはいいわ……パンドラだしね……」
 ため息をふぅと零し小さく笑い零す。彼女の事はわかっているから、いつものことというように。
「では素早く駆けるために――我が身より今ひとたび放たれよ、12の神の怒りと慈愛」
 オリュンポス12神への祈りを弾丸としてパンドラは放つ。12神の加護がパンドラとアマランスに降り注ぐ。
 それより全ステータスが12倍に上昇する――アマランスも自身の能力があがる感覚を感じて頷きひとつ。
「これはありがたいわ」
「では行きましょう」
 パンドラのヘルメスの靴は空中と水上を地上のように駆けることを可能にする。アマランスも、靴底に空間歪曲魔法陣が刻印された飛天の舞踏靴で、短い距離の瞬間移動を可能に。
 パンドラが前を行く。「ウラヌスの右目」と「クロノスの左目」で見る世界――広域精密認識と極超短時間観測は罠を見出す。
「アマランスさん! この先落ちてきます!」
「!」
 パンドラの動きをアマランスは見逃さないように追いかける。
 天上が落ちてくるのをその先でパンドラは見た。であれば、アマランスの√能力で止めてしまえばいい。
「時の果て虚空の彼方より織り為さん、紡がれよ輝ける呪いの文字」
 ひらりと羅沙を揺らす。それは空間自体を断裂するもの。それより触れたものの動きを止める輝く文字列が放たれた。
 それと同時に天上が落ちて――だが文字列がそれにあたると同時に動きを止める。
「今のうちに」
「はい! 突破しちゃいましょう!」
 釣り天井も落とし穴も、それが動くのがわかれば止められる。
「次は……振り子の刃が沢山でてきそうです」
「あら」
 それも止めてしまいましょうとアマランスは紡ぐ。
 動き始めた瞬間に文字列が踊る。発動を止めてしまえば、罠はもう罠ではないのだから。

玉響・刻
レイ・イクス・ドッペルノイン
赫夜・リツ

 罠が潜む道――レイ・イクス・ドッペルノイン(人生という名のクソゲー・h02896)はその切り抜け方に心当たりがあった。
「玲子がやってたスピードラン……あとは」
 罠の無効化の合わせ技。それを重ねれば切り抜けられるはずとレイは思う。
 であればとレイは一呼吸。
「『デバッグモード』起動」
 レイが持っている技能、空中ダッシュとジャストガードと情報収集を強化の能力を他の能力からの力を持ってきて底上げする。
 それに異常耐性を強化し、本来使えない筈のテストプレイ用武器をレイは手にした。
 レイはこれで準備できたと罠の道を走る。
 足元で何かを踏んだ感触がして、レイは壁を走る様に移動を。さっき何かを踏んだと思った少し先に落とし穴。真直ぐ走っていたら足を取られていたかもしれない。
 そう思いながらまた駆け抜ける――と、前方からの気配に武器を振り上げた。放たれた矢を叩き落とし素早く抜ける。
 これくらいなら、そのまま走り抜けられそう。けれど気は抜かない。
 周囲の情報を拾い上げながらレイはトラップに警戒する。
 前方に障害物――その上に跳躍して乗ったならその先が道ではなく、足場がいくつか並ぶ道。そして頭上にブロックが現れて落ちてくる。
「!」
 レイはそのブロックを避けて目の前の足場に跳躍した。そして次と思った瞬間、足場が逃げる。
 それを瞬間的に踏んで次の足場へとレイは機敏に動いていった。
「偽のチェックポイント、時間差で画面外から高速で戻ってくる罠……なんかもあったり」
 そう零しながらそうだと思いつく。
 ついでに罠データも保存しておこうと。
 もしかしたらジェヴォーダンの待つエリアに意地悪トラップがあるかもしれない。その場合に備えるために。
 レイが駆け抜けていった。その姿を視線で追っていたのは赫夜・リツ(人間災厄「ルベル」・h01323)だ。
「ここを進んだらジェヴォーダンがいる場所に着くんだね」
 進む先は分かれている――リツはその道がどのようなものか見て。
「なら、こっちの道に行ってみようかな」
 ぬるぬるの道も厄介そう。全包囲からの砲撃の道もなんとなく合わない気がした。
「罠とか怖いけど」
 そう零すと異形の腕『ギョロ』が笑う。罠なんか全部壊していけばいいだろ! と。
「それはギョロに任せる。突破できるように頑張ろう」
 地を駆ければ何かしらを踏むかもしれない。だから空中移動をもってリツは進んでいく。
 リツはその瞳に深紅の光を宿らせ、超加速をもって奥へ。
 しかしダンジョンは、地に足がついてなくともその気配で罠を起動してくる。
 正面から煌めくものが飛んでくる。
 異形のその腕が飛んできた者――矢を弾いてリツには届かない。単純で、けれど攻撃的な罠。
 そして振り子の鉄球が横から率を狙って向かってくる。
「!」
 それを超加速でリツは避けた。あれに当たったら痛いだろうななんて思う。
「こんな危険な場所で負傷したら、罠から逃げられなくなっちゃうし。巨大鉄球なんて来たら、目も当てられないよね……」
 なんて言っていると、今度は巨大鉄球が後方から転がってくる。
 噂をすればなんとやら、のようなその登場にリツは駆ける。行く先を曲がれば、巨大鉄球は通りすがっていくだろうから。
 その鉄球が通りぎていくのをみつつ一息。
 と、その鉄球が過ぎ去った後に、駆け抜けていったのは玉響・刻(探偵志望の大正娘・h05240)だ。
「最奥までもう少し、この先にジェヴォーダンがいるんですねっ!」
 刻はダンジョンの先を見つめていた。
 数々の罠が仕掛けられているという道――この先に、と刻は気持ちを新たに引き締める。
「ですが、ただでは進めないでしょうし、油断大敵ですっ!」
 淡く光る無数の黒い霊蝶を刻は周囲に纏ってずっとここまで進んできた。
 移動速度を上げてゴリ押し、という考えは危険だと刻もわかっている。けれど速い分有利なのは間違いないはず。
 けれど、一気に駆けるではなく――準備して、最初は慎重に刻も動いていた。
 怪しいスイッチはないかを確認して。進む先に変な所はない。何かおかしいと思ったならそれはわかる範囲で回避できた方が効率は良いはずと。
 そして刻は目に見えるものだけでなく、音にも注意を払って聞き耳立てる。例えばからくりのような音がしないかと注意してみたり。
 それらに注意しながら刻は走り始めたのだ。そして今、いくつもの罠を回避してきた。
 でもなにかあればいつでも刀を抜けるように注意はしている。
 走っていると――足音以外の音が小さく響く。刻はその音が後ろからと意識向けた。すると、後方から放たれる弓矢。
 振り向きざまに刀でそれを薙ぎ払って足を止めたなら。
「!」
 その踵が沈む感覚がして咄嗟にジャンプする。跳んだ瞬間、足元が貫ける。
 ――落とし穴っ! と後方に着地して刻はほっとする。
「罠が連続……油断できませんっ!」
 刻はふ、と息を吐いてまた奥へと進み始めた。
 と、その姿を見てリツは思う。あんな罠もあるのかと。
 ここに来ている人達が強いし大丈夫だと思うけど、万が一の時は抱えて駆け抜けようと。
 誰も置き去りにはしないよ――と胸に抱いてその先へとまた進んでいく。

色城・ナツメ

 ぬるぬるの道の前に立って、色城・ナツメ(頼と用の狭間の|警視庁異能捜査官《カミガリ》・h00816)はため息ついた。
「負傷するリスク少ないかこの道は、と選んだが……体よりも精神にくるぞなんだこれ、変な害はないだろうな?」
 この先、ぬるぬるに浸されている。天上からどろっと落ちてくるのも視えて、ナツメは眉を寄せた。
 ナツメはぬるぬるを観察してみるが、異臭を漂わせているわけもなく、毒っぽさもなく。
 本当にただぬるぬるしている。しかし――これに足を取られてこけたなら、どうなるかは簡単に想像できた。
「結構な量だな……ヌルヌルどうにかするより覚悟決めていったほうが早く突破できそうか」
 ナツメはズボンの裾をまくり上げ、その中に一歩踏み込んだ。
「うわ……」
 ヌルヌルだ……と零す。そして刀の鞘を使って底を探りながら慎重に一歩ずつ。
 足が重い。一歩進むのがただただ遅く、重い。
 この道を進んで、そしてジェヴォーダンとの戦いでも生きてやる――その想いをナツメは心の中でひたひたと育てていく。
 万が一、攻撃などがあればその負傷なども全快するように√能力も使いながら。
「……ったく……こんな大量のヌルヌル……なんかムカついてきたな?」
 いやがらせという点で、この道は間違いなく完璧だ。苛立ちが募ってくる――と、どちゃっと嫌な音がした。
 ナツメはぱっとその音が下方向を見る。するとこの先――ランダムに天上からヌルヌルが落ちてくるゾーン。
「……」
 なるだけ服を汚さないようにはしたい。したいがこの先それが叶うだろうか。
 刀で先を探りながら一歩進む。と、探り足りなかったか、思ったより深かったか。一歩、がくっと深みに沈んだ。それと同時に頭上から落ちてくる気配がして。
「……っ!」
 ハッとして身を反らせたが、肩口にそれが確り降りかかってくる。
 ナツメはそれを払おうとするがヌルヌルはヌルヌルのまま、べったりと。払おうとした掌を見てもヌルヌル。払う飛ばそうとするがやはりヌルヌル。
「……絶対にこのヌルヌルぶつけてやる……!」
 ジェヴォーダンへの怒りをふつふつと育てながら、ナツメは確実な一歩を刻んでいく。

エアリィ・ウィンディア

 その通路が仕掛けてくる事にエアリィ・ウィンディア(精霊の娘・h00277)は瞬きを零す。
 通れば魔法陣が浮かび上がり何かしらの魔法砲撃がくる。とても覚えのあるものだ。
「……えーと、魔力砲撃が全方位で来るとか、何それ、あたしっぽいなぁ」
 魔法砲撃はエアリィも得意とするところ。連ねて束ねた攻撃ではないようだが既視感がとてもある。
 エアリィは先を行く皆が砲撃をうけつつも、それを躱したり崩したりしていくのを目にして思う。
「さ、流石にただ駆け抜けるだけじゃ体がもたなそう」
 しかしそれが何処まで続くかはわからないのだ。ずっと避け続ける? それも際限ない場合、どこかで緊張がきれたら危険でもある。
「でも、どんなものにも穴はあるはず」
 進めば、魔法陣が発動する。発動するまで対策も立てられないように見える。
 エアリィはオーラ防御とエネルギーバリアの二重防御で体を覆って、その道へと踏み出した。
「チャージタイムがあるなら、それの隙間に駆け抜けたいけど、隙は補い合いそうだなぁ……」
 走り始めて暫くすると、魔法陣がいくつも通路に浮かびあがっていく。数秒の溜めの時間、そして始まる砲撃。
「わ!」
 横から飛んできた炎の矢。かと思えば反対から雷撃が踊る。
 それを避けたり、時には守り固めて防ぎつつエアリィは高速詠唱で精霊たちと交信する。
 ね、教えてとエアリィは精霊たちに問いかける。
「魔法陣から砲撃が撃ち出される時に何か特別な事とかあったりするのかな?」
 しかし精霊たちは特別? と何がそれに当てはまるのかわからない。
「チャージのタイミングとか、前兆とか、砲撃の癖とか……少しでもいいから教えてほしいの!」
 そう告げながらも砲撃の中を駆ける。右へ、左へとエアリィは移動しつつ精霊たちの声へ耳を傾けた。
 精霊たちは、現れて、数秒置いて砲撃が放たれる。それはすべて同じという。けれど場所などについては法則もなにもないと。
 魔法陣が現れてから砲撃が起こるまでの時間は全部同じ。ならチャージの間に攻撃してみたらどうなるのか。
 目の前にあるのは樹木のような魔法陣。なら、と精霊銃に炎をのせてエアリィは撃ち放った。
 それに打たれた魔法陣は砕け散り、発動されることはない。
 あの魔法陣は壊せる。それならと精霊剣にも属性をのせる。
 解除が出来なくても砲撃威力が減ればいいと思っていた。だが一撃で魔法陣は壊すことができる様子。
「焦らず確実に行こう!」
 壊せるとわかったなら。対応を間違えなければ恐れるものではないとエアリィは気付く。
 砲撃をされる前に壊してしまえばいいだけだと。

七々手・七々口

「おー、こりゃまた見事なぬるぬるな道やねぇ」
 七々手・七々口(堕落魔猫と七本の魔手・h00560)は面白いものを見たというように笑って、そのぬるぬるの道を見つめる。
 魔手達もぬるぬるになるの覚悟しときーと七々口は笑う。
 この中に猫の身で飛び込めばぬるぬるになって身動きもとれなくなりそうな。だから七々口は魔手たちを使う。
 さぁいこかねと、魔手を大きく振り上げ、ぬるぬるを吹っ飛ばす勢いで全力をもって地面を――ぬるぬるを叩いた。
 ぬるぬるは散って、跳ねあがる。それと同時に七々口もその反動で自身を吹っ飛ばし、高速移動。
 それを繰り返し、奥を目指すのだ。
 ぬるぬるは上手に思う方向へと飛ばせてくれない。けれど魔手で叩ける壁が、天井があるなら問題ない。
 七々口はまた同じように叩いては飛んでと奥へ向かう。それはまるで。
「猫ピンボールぬるぬるを添えて、的な感じかねー」
 と、言っていると目の前にぬるぬるの壁。それは滝のように天上から流れ落ちてくる。
 あれを完璧に避けるのは無理そう。けれどぬるぬるを魔手で叩けば一瞬道が開けるけれど七々口の頭にもどばっとかかる。
 しかしそれがかかろうともなんら気にせず一気に抜けていくだけ。
「ぬるぬるをお裾分けしてあげようっと。面白そうだし」
 これをつけたら一体どんな顔をするだろうかとちょっと楽しくなってくる。頭突きしたら丁度擦り付けられそうでもある。
「強欲、鴉ちゃん達使ってぬるぬるの回収よろー」
 黄金の鴉を放って、そのぬるぬるをひとかき。
 傷つけるわけでもなく、ただぬるぬるしている――この道考えたのやっぱりジェヴォーダンやろか、と思いつつ七々口は進んで行く。

二階堂・利家
見下・七三子
シアニ・レンツィ
機神・鴉鉄
ゾーイ・コールドムーン
ゴッドバード・イーグル

 シアニ・レンツィ(|不完全な竜人《フォルスドラゴンプロトコル》の羅紗魔術士見習い・h02503)もこの先を見て唸っていた。
「絶対死領域と罠、嫌な組み合わせだなあ」
 あ、でもとシアニはふと思う。
「逆に考えると無傷で殺到されたら嫌がる?」
 なら、あたしの知る強い人たちに混ざってお手伝いしよっと――ということで合流。
 ゴッドバード・イーグル(金翅鳥・h05283)は見つつ、溜息零すように紡ぐ。
「苦難が続きますね」
 引き際は心得ていますので。お構いなくと続けながらゴッドバードは思う。この先罠があるというのなら、自分ができることはある。そう思いつつ視線の先では。
「nrnr!? hmm!? なるほどなるほど!」
 二階堂・利家(ブートレッグ・h00253)がぬるぬるの道に興味を示していた。
「実際に見てみないとわかりませんね! 非っ常に興味深いですね!」
 この道をいくか? しかし逡巡はある。でもと思う所へぴしゃりとゴッドバードは言い放つ。
 ダンジョンの崩落。落とし穴の罠は、わたしの機動力が役に立つ場面もあるでしょう、と。
「あなた方に出来ないことはわたしがサポートしますので。突破後の事はお任せします」
 その言葉は心強くある。しかし。
「ぬるぬるは知りません。管轄外です」
 あ、助けてくれないんだ……と利家は思う。
「いやでも利家くんがずるずるになっても誰得だからやっぱりパスで……」
 ひとりなら行ったかもしれない。でも今は√66の皆と一緒だから、今は罠の道を。
 ゾーイ・コールドムーン(黄金の災厄・h01339)もその進むことを選んだ道を見つめる。
 周囲の気配――探るが√能力者たちだけだ。
(「敵がいないのは幸いだけど、あのジェヴォーダンの事だ。用意が万全だからこそ最深部に留まっている可能性もある」)
 ゾーイはこの道を踏破してもその後がまだまだ怖いなと思う。
「怪我をしないよう注意しながら、先を急ごうか」
 しかし進まねばならないから――と、その前に。
「ちょっと失礼するよ」
 サイバー・リンケージ・ワイヤーをゾーイは伸ばす。これが切断されず繋がっている限り、命中率と反応速度はあがる。
「罠に回避し易くなるだろうからね」
 それに助かる! と利家は返す。
「では、罠を回避しながら、みんなで走りましょうか」
 確かにこれは幸いと見下・七三子(使い捨ての戦闘員・h00338)は笑って。
「でも、回避する罠は少ないほどいいと思うので……」
 七三子は下っ端戦闘員たちを呼び出して、未発動の罠を探しながら霊体で先行してください! と声向ける。
 了解! と霊体で先行していく戦闘員たち。
 早速ここ、と踏むと危なそうな罠を発見してお知らせ。
「あれは踏まないようにしていきましょう!」
 むしろ先に作動させてしまえば何が起こるかわかるのでは、なんて思って。
 その罠をぽちっと、実体になって踏んですぐさま霊体に戻る戦闘員。
 すると少し先の壁がかぱっと開いてトゲトゲ鉄球が勢いよく飛び出て反対の壁にのめり込む。
「……不用意に踏まないほうが良さそうですね」
 七三子は回避可能なものは回避。解除できそうなものは発動の前に潰せないか試してみますと言う。
 そして機神・鴉鉄(|全身義体の独立傭兵《ロストレイヴン》・h04477)も小型無人兵器「レギオン」を放った。
 超感覚センサーでの索敵――と、しばし進ませると突然、レギオンへ矢が放たれた。
 その情報はアシスタントAIがすでに解析している。どうやら、この道を通るだけで発動するようだ。
 そしてその場所をレギオンがいったりきたりするたびに放たれる。一度作動したら終わり、ということはないようだ。
「スイッチがない罠もあり。おそらく通過で発動」
 鴉鉄はその事を皆に告げる。そしてこの場合はどうする? と鴉鉄は七三子に尋ねた。
「……え? 解除できない、というかトリガーが見つからない場合、ですか?」
 んー、と七三子は考える。そう言う場合は――、そう、簡単な答えがある。だからとってもいい笑顔で、走ればいいと思います! と答えた。
 ダンジョンには様々な罠がある――ぽちっと利家が何かうっかり踏んだなら、ぼふっと天井から煙幕がふりまかれた。
 前が見えないことで僅かの混乱。けれどゴッドイーグルの声が響く。
「皆さん動かないで、そのまま」
 ジェットパックとウェポンエンジンからの推力を利用した排気で、その煙幕を散らしていく。
 毒ガスじゃなくてよかったですね、という言葉に怖い事いうなよと利家は返すのだった。
 最初は通路をゆっくりと。罠にかからぬよう、見つけたなら避けるのを優先。
 シアニも周囲の状況に視線を向けて観察をする。
 ワイヤーの類――天井のあたりにあるなぁと見つけたり。周囲の壁とちょっと色ツヤが違う箇所を見極めて。
「これも危なそう、と」
 印をつけたらあとから来る人にもわかるかもしれない。
「うーん、魔術による通路や罠の偽装なんかはなさそうだね」
 ゾーイも周囲を観察する。あとから作動する類のものがないかもゾーイは探っていた。この後、ジェヴォーダンとの戦いがある。その最中に何かあっても嫌だからだ。
 しかし、ダンジョンは容赦ない。スイッチなどをぽちっと踏んでなくても突然作動する罠ももちろんあるのだ。
 鎖につながる巨大鉄球が振り落とされる。咄嗟に利家は前に出て、シールド構えて飛び込みそれを怪力と、そしてタイミング合わせて弾き飛ばす。
「此処は俺に任せて先に行け!」
 と言いつつも、利家の内心は。
(「本当に置いていくのはやめてね!」)
 振り子は通り過ぎてさえしまえば追いかけてこない。先を行く皆を素早く追いかける。
「利家さんも早く」
「すぐ行く!」
 と、後詰のゴッドイーグルが素早く空中を駆ける。利家はゴッドイーグルに捕まって素早く皆のもとへ。
 シアニは先頭走りながら、右から飛び出てくる槍を羅紗マフラー硬化させ、盾がわりにして弾く。
 そして駆けていくと――目の前の壁が閉じるようにゆっくりと動いていくのが見えた。そして後方も壁が迫り閉じられているのが見えた。
 閉じ込められる、と判断した利家は素早く走り、装備を外しながらそこへ滑り込む。閉じる力は装備挟んで――それを圧し潰さんとするが皆が通る時間くらいは稼げるというもの。
「そろそろ買い替えの時期かなと思ってたから丁度いいよ!」
 しかし、ふっと息をつく暇を与えてくれないのがダンジョンである。
 姑息で卑怯――ジェヴォーダンの性格を反映しているのかどうかは分からないが休ませてくれない。
 かこっと何かが作動する音がして、通路が一気に滑り台状になり皆を滑り落としていく。悪戯かと思うような簡単な罠。結構滑り落とされた、また昇るか。それともこの先に延びている平たんな道を往くか。
どうするかともといた場所を見上げていると――天井が開いてそれがどすっと落ちてきた。
 それを目にした瞬間、何が起こるかすぐに察する。
 そう、お約束の後方から転がってくる巨大鉄球の罠――ごろ、と転がり始める音がして。
「……えへへっ、それじゃあ、走りましょうか!」
 それが正解と七三子は走り始める。戦闘員たちだとあれは弾き飛ばされちゃいそうと止めるのを諦めて。
「道の100メートル先、開けた場所だ」
 鴉鉄はレギオンを既にとばしその先を把握していた。そこに出れば鉄球を避ける事は造作もない。
 だから今は走るべきと鴉鉄は告げる。レギオンをいくつか犠牲にしてみたが止まる気配はなかった。
「皆さん全員を運べたら良いのですが流石に」
 ゴッドイーグルはしんがりを。もし何かあっても、エネルギーバリアで僅かの間はきっと止められるだろうから。
 シアニもまだ詰みといえる状況ではないから√能力は温存だ。
「ひーん! 後で覚えといてよジェヴォーダンんんー!!」
 けれど文句を言うのは自由。シアニの声は思いきりダンジョンに反響する。
「くっ、古典的! でも大正解!」
 走れー! と利家もダッシュ。盾で弾くか? けどもし爆発する鉄球とかだったら危ないしなぁとココは逃げの一択。
 ゾーイのワイヤーは生きている。反応速度はあがり、足が動くのも心なしか早く。 開けた場所に出たならば、鉄球の進路塞がぬように皆、散った。
 その直後、鉄球はすごい勢いで転がっていきぶつかる轟音を上げていく。
「なんて罠だ……」
 ゾーイは良かったとふっと一息。鴉鉄はすぐさま、この先へとレギオンを放ちどう動けばいいかの情報を収集していた。
「嫌な感じで削ってくる、ほんとに……ジェヴォーダンめ!」
 シアニは此処での苦労もあとで叩きつけてやるんだから! と心に誓う。七三子もうんうんと頷いて、その気持ちに同意を。
「でもまた違う雰囲気の場所に来たよね」
 遺跡みたいな感じがするとゾーイは紡ぐ。そして鴉鉄は進む先は一つと知らせる。
 残りも気を抜かず、進まなければ。ジェヴォーダンへの道のりはまだ少し続く。

チェルシー・ハートサイス

「姑息という言葉の意味、正しく理解しているようね。ジェヴォーダン」
 それはその場忍び。少々誤魔化すだけの行動――チェルシー・ハートサイス(強者たれ・h08836)はそう覆うのだ。
「……まあ、有効な手であれば、少しくらいは褒めてあげましょう」
 チェルシーの視線の先――ぬるぬるが広がる道。足を踏み入れたら、きっと動きにくくなる。
 ふ、とチェルシーは息を吐く。あのジェヴォーダンがこの道を楽しそうに考えて作ったのかしら、なんて思いながら。
「やっていることは、低俗の一言ですけれど」
 ちょんと足先でぬるぬるをつついてみようかしら、と思ったがチェルシーはやめる。
 その背中の翼を広げ、これを踏むことは避けるのを選んだから。
「わたくしに翼があってよかった、と言うべきかしら」
 けれど、上からもどちゃっと時折、ぬるぬるが落ちてくるのが見える。
 油断は出来ない――と少し先でぼたぼたと落ちているゾーンがあるのを見て瞳細めるチェルシー。
「淑女たるもの、エレガントでない装いは避けるべきよ」
 このぬるぬるを被るのはチェルシーの美意識に欠けるものがある。
 ぬるぬるが落ちてくる前に、ハートサイスを振って放つ衝撃波でチェルシーは吹き飛ばしていく。
「……上から降るものは、無限なのかしら?」
 それでも、しばらくするとまたぬるぬるは生まれて天井から落ちてくるのだ。
 周囲にほかに誰もいないことを確認し、ハートサイスを持つ手に魔力を集わせるチェルシー。
「我が力、天地神明に届かん!」
 大鎌ひとふり。超大なる衝撃波が天井のぬるぬるを揺らす――すると。
「!!」
 嫌な予感がしてチェルシーは下がった。しかし想像よりも大量のぬるぬるがどばっと天井から落ちてくる。
 初撃は避けた。しかし後方から静かに、つーっと落ちてきたぬるぬるがチェルシーの首筋に落ちる。冷たい感覚に一瞬びくりとしてしまうけれど。
「っ!」
 触ればぬるぬるが広がる気がする。だからあえて今は拭わない。
 こんな、ぬるぬるにと思いつつも今は早さが求められる場面。
「光栄に思いなさい。わたくしの全力よ」
 ハートサイスの真の力を解放したなら、紅いドレスの姿へと変わる。その姿であればパワーとスピードは二倍。
 ぼたぼたとぬるぬるが際限なく落ちてくる。それを空を舞い避けて。踊る様にチェルシーはハートサイスを振り、進む先のぬるぬるを退けながら進んでいく。
「さあ、参りましょう。悪趣味なこの道の主のもとへ」
 ドレスの裾にもまとわりつきかける。優雅にドレス摘まんで、そのぬるぬるを躱して。
 最奥まで、ただひたすらと進んでいく。

春満・祐定
祭那・ラムネ
セリナ・ステラ

 春満・祐定(|D.E.P.A.S.《デパス》の|載霊禍祓士《さいれいまがばらいし》・h02038)は全方位砲撃の道に進もうとしていた。
「これを抜ければおそらく敵の本丸じゃろう。気を抜かずに進むぞ」
 祐定は載霊鳴哭を使い、インビジブルを撃ち出す。道を進んでいくインビジブル。それは囮――とするが罠は反応しない。
 どこにでもいるインビジブルはいても当たり前と全方位砲撃の範囲にははいらないのかもしれない。
「罠の場所が分かれば、解除するにせよ回避して進むにせよ助けになると思ったのじゃが……」
 進むしかないようじゃなと祐定は零す。
 祐定は、左眼窩から四季の花が生えた翁面の精を纏う。そうすることで移動速度が3倍になるからだ。
 己を強化し、その道を進み始めると魔法陣が浮かび、祐定を狙うように魔法砲撃を放ってくる。
 しかしその速度は今、上がっている――後続がこの様を見たなら対応もできるだろう。
 と、目の前に現れた魔法陣。魔力を溜めている様を見て祐定は家伝・花屑をもって破壊する。
 これは砕けるのじゃなと思いつつ更に先へ。
 ああやって突き進むのもありなのかと、祭那・ラムネ(アフター・ザ・レイン・h06527)は祐定の攻略法を見つめる。
 ラムネは後天性D.E.P.A.S.だ。それ故か、以前より勘が鋭くなったと自身でも理解している。
 霊感というか、第六感というのか――それをどう呼べばいいのかはよくわからないけれど。
 でもそれがきっとこの場では生きるはず。
「……うっし!」
 駆ける――ラムネの前にいくつもの魔法陣が現れる。それが何処に来るかなんとなく察して、その構造を解析するようにハッキングを。
 けれど溜めの時間は短く――構造を瞬時に頭に叩き込んで。
 魔法砲撃が発動するのと、ラムネが霊力攻撃かけるのはほぼ同時――いや、僅かにラムネの方が早くて、発射の間際に魔法陣が砕かれた。
 だが魔法陣は複数現れている。背後から感じた眩しさは雷撃。けれど、蠱惑的な香りを纏う間はその動きは何時もの三倍速く。一歩踏みこんだだけで大きくその場所から離れることになる。
 バスケやパルクールはラムネの動きを補強する。その経験は自然と動きに現れていた。
 そして連続で連なる魔法陣――それを目にし、ラムネはふと笑う。
 ここで死ぬわけにはいかないから――一気に距離をつめ、攻撃を叩きこんでいく。気は抜かず、取りこぼしなく。
 綺麗に砕けていく魔法陣の列。それが一区切りしたら、ぱっと足止めて。
「一丁あがり!」
 砲撃の最中に一瞬の間を作り出していた。
 すごい、とその光景をセリナ・ステラ(羽の色が星空のように煌めくセレスティアルの御伽使い・h03048)は見つめる。
 心強い味方がいれば協力と思っていたけれど、皆さくさくと進んでいる様子。
 危険性が少ないのは――とセリナはぬるぬるの道を見る。でも、ぬるぬるするのは嫌です……と思ったから首は横にふる。
 飛んで解決できなさそうと思うのは、上からもぬるぬるが落ちてくるから。
「わたしはあまり力がないので合わない気がします……そうなると、知恵で解決できる砲撃の道で行きましょう」
 皆が通る姿を見ていた。魔法陣を壊すことは可能とセリナはもう様々な情報を得ていた。
 それにセリナは今まで沢山の本を読んできた。その知識の集積、そして想像力は罠の構造をなんとなく見透かしていく。
「壊せる……魔力の溜めは短くて。砲撃すると消えちゃう……」
 発動前に攻撃すれば解除できる。魔法砲撃が発動しても、自分がいた場所に打たれていたので動いていれば大丈夫そうだ。
 セリナも進もうと心決める。と、思い起こすのは今まで読んできた物語たち。
「罠を解除して颯爽とダンジョンを突き進む主人公の物語――わたしにその力や知恵、そして勇気を今こそ貸してください!」
 ぎゅっと拳握って気合入れて、セリナも全方位砲撃の道へと踏み出した。
 進んでいれば、自分を狙う魔法陣たちが現れる――その瞬間、ちょっと緊張するけれど、楽園の叢檻をセリナは放つ。
 それに触れたなら魔法陣は動きを止めた。
「今のうち!」
 セリナは迷いなく真直ぐかける。再び魔法陣が動き出した時、もうそこにセリナはいないのだ。

夢野・きらら
タマミ・ハチクロ

「本拠地ともなれば、罠への対処は避けられませぬか」
 むぅ、とタマミ・ハチクロ(TMAM896・h00625)は唸る。けれど、夢野・きらら(獣妖「紙魚」の|古代語魔術師《ブラックウィザード》・h00004)はこれでいいんだよと笑っていた。
「罠があるってことはこの先で間違いないよ。行こう、タマちゃん」
 その言葉にこくとタマミは頷いて。
「ここはスピード重視でありますな……大胆かつ大胆に行くであります」
 天使の羽を模した軽量型レイン端末をタマミは展開する。
「御使いのお力、お借りするでありますよ」
 視界内ならインビジブルを辿って自由に飛行可能になる。飛び続けていれば回避力も三倍――罠が作動した時に避けやすくもなるだろう。
 とはいえ、どちらか一人だけがたどり着いても意味が無い――タマミはきららをじっと見る。
 きららは、改めてどうしたんだろう? と首を小さく傾げた。
「今度は小生がきら殿をお守りする番でありますよ!」
「ふふ、じゃあ今日のナイトはお任せしようかな」
 お任せください! とタマミは言う。
 きららは心強いと笑って、先に進んで行った皆の姿を見る。それは情報収集でもあった。
 罠の判別――スイッチを押したら反応する者から始まり、通っただけで感知して始まる罠。
 とりあえず、足を地に付けないことでまず罠の作動を減らせそうだ。
 ふたりで空中を駆ける。きららもウイングブースターでタマミと並んで、一緒にインビジブルを経由して飛んでいく。
「タマちゃん!」
 罠が作動するのが見える。鎖のついた鉄球がいくつも天上から現れて左右にぶんぶんと触れている。これはタイミングを見なければ通り過ぎざまに叩かれそうだ。
 タマミは大丈夫でありますと返す。舞い散る羽根から放たれるレーザー射撃がその鉄球を撃ち抜いていく。
 これで問題はなくとタマミは笑む。前方の罠がなくなり、きららも、次のインビジブルへと向かって飛翔する。
 ちょっとばかり、インビジブルを追尾する起動をとるからクセはあるけれど、使いこなせれば罠の回避にだって役立つものだときららは思う。
「待っていてねジェヴォーダン! ぼくたち2人がお相手するからさ!」
 タマミも頷く。この調子で、インビジブルを使って二人はどんどん奥へと進んでいく。

タミアス・シビリカス・リネアトゥス・フワフワシッポ・モチモチホッペ・リースケ

「ジェヴォーダンの本拠地……いよいよ王手というわけだな」
 この先にやつがとタミアス・シビリカス・リネアトゥス・フワフワシッポ・モチモチホッペ・リースケ(|大堅果騎士《グランドナッツナイト》・h06466)は未知の先を見つめていた。
 そして視線は――落ちてそこにあるものを見る。
「それにしても、罠の趣味が悪すぎるのではないか?」
 そこにあるのはぬるぬる。足元も、壁も天井もぬるぬるである。思わずリースケの尻尾がぶわわとなった。
「このフワフワシッポが汚れたらどうしてくれるのだ!」
 そのふわふわがぬるぬるになる――なんて恐ろしいことだろうか。絶対にそうなりたくない。ここに生身で飛び込んだら、そもそもリースケはシマリス。小さな身体なのだ。一瞬でぬるぬるまみれになってしまうのは間違いない。
「だが、進まねばなるまい。我らは泥濘ごと踏み砕いて進む」
 ふ、とリースケは息を吐いて、尻尾を奮い立たせる。
「|Cognosce te ipsum《汝自らを知れ》.」
 どのような困難があろうとも、リースケはただ進むしかないのだ。
「さぁ盟友よ、死すべき定めであることを自覚し、共に参ろう。栄光のために!」
 |騎士長官《マギステル・エクィトゥム》の操縦席へリースケは乗り込む。そして騎士長官は戦馬型WZである|超重鉄騎《クリバナリウス》と合体し、その姿は人馬一体のもの。
 リースケは真紅に輝く決戦モードにWZをし、そして盾を構え頭上の方へ。
 ぬるぬるの先へいざ征かんと、四脚で床を踏みつけ、推進力を伝えて進み始めた。
 一歩進み、がくんと体のバランスが崩れる。そこは少し深くなっているようだ。
 リースケは剣でその場所を薙ぎ払う。するとぬるぬるは減って、僅かの間だけ動き易くなる。
 その隙を見切って突破して――天井から落ちてくるぬるぬるを盾で受け流しその体に掛からぬように気を付ける。
 着実にリースケは進んで行く。ぬるぬるに塗れぬようにしながら。

星宮・レオナ
玖老勢・冬瑪
瀬堀・秋沙
深見・音夢

 この先はジェヴォーダンに続いている――しかし、深見・音夢(星灯りに手が届かなくても・h00525)は思う。
「ここまでの道程で倒してきた守備戦力は帰還する気が無かった」
 立ち塞がっていたボーグルたちは決死隊だった。それは戦ったからこそ、その決意を音夢もひしひしと感じたのだ。
「……つまりこの先の罠は味方が通ることを前提としてないってことっすよね」
 だからこそ、そう感じる。
「うーむ。音夢さんが言う通り、これは確かに帰還が叶わん筈だわ」
 玖老勢・冬瑪(榊鬼・h00101)も向かう先を見つめ思案する。この先に待ち受けるものはきっと一筋縄ではいかない。
 それでも。
「……だが、乗り越えて、飛竜めに刃を届けねば」
 その気持ちをしっかり、ここでまた固める。
「それにしたって限度ってものがあると思うんすけど!」
 しかし、先に進んでいる皆に向かう罠を目にする。
 だから思わず音夢は。
「こんな冒険映画に出てくるような罠の密度、陰湿にも程があるっすよ!」
 もし、独りなら突破を諦めていただろう。けれどひとりではない。
 こんな時こそチームプレイだ。
「にゃっ! 罠だらけ! 猫たちはチームの力で突破にゃ!」
 瀬堀・秋沙(都の果ての魔女っ子猫・h00416)はすちゃっと箒を掲げる。この箒でみんなを運搬しながら空中ダッシュで加速すれば、通路にある罠のスイッチを踏むことはなくなるだろうから。
「地上面の罠はこれで回避にゃ!」
 それにもし天井や道が崩れたとしても。
「速さで勝負にゃ!」
 しかしその前に、と星宮・レオナ(復讐の隼・h01547)は待ったをかける。
「スピードアップと風の守りを先に!」
 レオナは風属性の弾丸を放つ。すると周辺にいる皆にはスピード強化と風のバリアを。
 これで移動中、些細な罠くらいなら弾けそうだ。
 そんなわけで皆で秋沙の箒につかまり出発。
「箒から落ちないようにしないといけませんね」
 もし落ちたら走って追いかけなきゃとレオナは笑う。
「行くにゃ~!」
 皆で秋沙の箒に乗って、スピードつけてダンジョンを駆け抜ける。
 しかし地上のスイッチを踏まずとも、通過するだけで作動する罠もある。
「にゃっ!」
 往く手の天井から現れる何か――矢筒だ。それが一気に放たれる気配。
「任せるっす!」
 正面から降ってくる矢の雨。それを狙って音夢は着弾地点で炸裂する対物斬裂弾を放った。
 かかる火の粉は先手を打って払っていく――音夢の一手はまさにそれ。大きな障害であれば難しいが、この程度の罠であれば射程の範疇。
 矢と当たった瞬間、その周辺の矢が一気に斬り落とされる。
 そしてレオナが風を纏った弾丸でそれを吹き飛ばし視界を開けていく。
 砕け、吹き飛ばされた矢の中を秋沙は構わず進んでいく。
 しかし罠はそれでは終わらなくて――突然、後方から重たい音がして。圧し潰そうと転がってくる巨大な鉄球。
「とーまくん!」
 その声に冬瑪は魂の鬼火をチャージする。それがたまったなら焔の大槌を鉄球へと放つ。
 それと同時にレオナの風の援護――火勢が増して一気に燃え上がる。
 熱されていく鉄球――後ろから熱さも共に迫ってくる感覚。だがこれは鉄球を破壊するための一手目だ。
 秋沙が十分に熱されたところで海属性の魔法弾を一気に全力で叩き込んだなら――冷える。
 ということは、もろくなると言う事だ。
「ここに攻撃かけたら、壊れんモンはないだらぁ!」
「音夢ちゃん、レオナちゃん、任せたにゃ!」
 その声にレオナと音夢が攻撃かける。脆くなった鉄球は一気に斬裂され、そして風に撃ち抜かれて砕かれていく。
「まさか映画みたいに罠がある道を駆け抜ける日が来るなんて」
 こんなことがあるなんて思わなかったとレオナは零す。
 けれどまだ、ダンジョンは続いている。
「怪我は自己申告してにゃ! 生きて帰るのも大事!」
 その声に、怪我は今のところ無しと三人の声が返る。
「このまま踏破だらぁ!」
 まだ罠は続くだろう。けれど皆で力を合わせれば越えられる。進む勢いが衰える事は決してなかった。

太曜・なのか
シスピ・エス
ウィズ・ザー
アゥロラ・ルテク

 道は分かれている――皆で同じ道を進む必要もないから。
「一気に駆け抜けるよ。ウィズさん、そっちルートは頼んだ!」
 合流した太曜・なのか(彼女は太陽なのか・h02984)はウィズ・ザー(闇蜥蜴・h01379)へと声かける。
「そっちもヨロシクなァ~また後で!」
 ウィズと一緒に行くのはアゥロラ・ルテク(絶対零度の虹衣・h08079)。しかしアゥロラは少し待ってと態度でウィズに告げる。
 狂気耐性を付与した霊的防護のエネルギーバリアを皆へ。そして仙丹を皆に渡し、自身は口に仕込んでウィズの背に。
「んじゃ!」
 ウィズは今、豹海豹型になっていた。背中にアゥロラが乗ったならゆるりと空を泳ぐように全方位砲撃の道へと進んだ。
 この先、どちらも選んだ道を踏破し、ジェヴォーダンの元で会うことを信じてあえて別れる。
 その姿見送って、シスピ・エス(天使の破片・h08080)となのかは罠の道の方へ向き直った。
 この先、進めばさまざまな罠が町売掛Kていれぎ荘様いると言う。
 シスピはアゥロラから貰った仙丹を口に含む。それをいつでも使えるように。
「……気が抜けませんね!」
 この先にワクワクしている。そんな様子になのかは笑って、そして準備を。
 この先を進むために選ぶ姿――なのかは電撃を操る忍者戦士、クラウディフレームに変身を。
 そして|騎士曜衛生《サテライド》ヒマワリをこの場に。
「シスピさん、乗ってください」
 その言葉に頷いて。失礼します、と一言告げてからシスピは後ろに。そして再び、氷の精狼と再び完全融合し進む準備はばっちり。
「舌噛まないでよね!」
 エンジン駆けてただ真っ直ぐ、道の通りに進んでいくだけ。
 罠の道――足元に罠のスイッチがいくつもありそうだ。だからなのかはヒマワリをホバーモードに切り替え、飛行を。
 罠を作動させないよう道を見極めつつ、されど止まることなく進み続ける。
 しかし通過するだけで反応する罠もあるのだ。
 四方八方から放たれる弓。それが発動する気配を感じていたシスピが退魔黒鎖の捕縛と闇顎の分体の捕食それが向かぬように防ぎきる。
 だからなのかは運転に集中できた。打ち払える罠をシスピは次々と発動前に、あるいは発動後に破壊し防いでいく。
 と、前方が突然大きな音を立て崩れていく。落盤――行く先がふさがれた。
「太曜さん、あの罠の破壊お願いできますか?!」
 なのかは頷いて、ちょっと言ってくるねと、跳躍する。その跳躍の勢いをつけ、なのかは岩を蹴り砕いた。
 道は開かれて――シスピはなのかを操縦席へと引き戻す。空間引き寄せ能力であっという間に元の位置に。
 再びそこに戻ってきたなのかは、砕いた穴の中をすっと通り抜けていく。
「まだまだ罠、ありそうだね」
「そうですね。次は鉄球とか転がってきたり」
 なんて、話しながら進んでいる頃――全方位砲撃の道では。
「クカカ! 今回も魔力喰い放題じゃねェか!!」
 ウィズがご機嫌で空中を颯爽と泳いでいた。
 現れる魔方陣――それをまっすぐ突っ切ればまず簡単に破壊ができた。時折砲撃がくるが回避し、囲まれる前に喰らって破壊する。
 言葉竹で術式を翻訳し、ダンジョン内の魔力の流れを把握していくウィズ。
 しかしご機嫌でも、全方位の知覚は常に行っている。継戦能力で油断はしねェよと、何が起こっても対処できるように動いていた。
 そして得た情報はアゥロラにも共有されていた。
 刻爪刃と融牙舌で周囲に現れた魔法陣を一斉に攻撃し、生命力と魔力を捕食する。
 その範囲から外れた魔方陣が現れても、アゥロラがいる。
 アゥロラは他√を同時に観察し、魔法陣を凍結させる。そこに走るは闇雪華――氷精の混じる闇顎がそれを砕く。
 他√には何もない。問題ないとアゥロラは判断し、ウィズの背からこの先を見つめる。
 この後も、仲間の護りに徹しようとその心に抱いて。
 まだまだ、魔方陣は際限なく現れる。ウィズは腹いっぱいになりそうと思いながらそれでも打ち砕く。
 慣れてくれば簡単な対策になるが――油断はない。

剣崎・スバル
戦闘補助システム・アリス

 この先に進むんだと剣崎・スバル(気弱な|機械剣使い《ドラゴンスレイヤー》・h02909)は深呼吸を。
 その息遣いを戦闘補助システム・アリス(サイバーウィッチ・h05544)はスマートフォンの中で感じていた。
「マスター、私がサポートします」
 うん、とスバルは頷く。
 アリスはスマートフォンの中からドローンを多数操る。そしてそのセンサーも利用し、罠の挙動を調べる。
 その間――スバルは撃竜機大剣をフロートモードにし、高速機動で走り抜ける。
 アリスの解析が終われば走り抜けるのも楽になるだろう。
 でも今は。
「逃げないって決めたんだ……! フルスピードで走り抜けるよ!」
 いくつも並ぶ魔方陣はスバルを囲むようにも展開される。
 その間を抜けるようにスピード上げて――そして砲撃の中を器用に切り抜けていく。
 雷撃の炎、水――スバルはぎりぎりで回避しながら駆ける。
「これは……魔法陣が砲撃を放つまで少し時間があるわね……」
 すると――アリスの情報収集、解析も終わる。
 魔法のチャージ時間、有効射程、破壊力。調べられる事を全部調査していたアリス。
(「この情報一つ一つがマスターと私の命を左右するのだから」)
 そして、ひとつの結論に辿りつく。
 マスターのトップスピードなら魔法陣に検知されてから砲撃が発動するまでに射程から出られるかもしれないということに。
「マスター、そのままのスピードを維持してください」
「え!?」
 けれどアリスは、その事実を告げない。
 しかし次に砲撃が来る方向などを予測してスバルに告げる。
「マスター……砲撃が来るわ、回避を!」
 右へ、左へ。
 魔方陣が現れて、チャージが始まり放たれる。得た情報と合わせてアリスは的確に指示を出し、走る方向をオペレートしていく。
 スバルはその言葉に従って、ただ自分の全てを使って駆ける。
 もし攻撃があたりそうなら、とその時のことも考えつつただ最奥を目指すのだった。

不動院・覚悟
インディアナポリス・ノーベンバー・サーティーン・ワン

「なんや空気が変わったな……」
 インディアナポリス・ノーベンバー・サーティーン・ワン(旧レリギオス・ランページ所属 11-13部隊初号・h07933)は周囲を見回す。
 先程までと違い、このダンジョンには誰かがいる気配がしないのだ。
「ぱっと見、敵はおらんようやけど、この感じ」
 けれど――緊張感は途切れない。
「ダンジョンそのものが敵、って思ったほうが良さそうや」
 こっちは多勢やけど、用心して進みましょとインディアナポリスは不動院・覚悟(ただそこにある星・h01540)へと声かける。
 覚悟もダンジョンの様子が変わった事には勿論気づいていた。
 しかしこの先に進まぬわけにはいかないのだ。
「行きましょう」
 そして進んだ先――突然、足元から槍が突き上がったり、弓が放たれたり――ここが罠の道であることは明確だった。
「わしらの進む道は罠が多発的に出てくるようやね!」
 インディアナポリスは弓に居られるがその硬質な身体が弾き落とすのを見つめる。この程度ならいいが、他なら痛手を負う可能性だってあるかと。
「ほなら攻撃性能より回避性能を上げますわ。アクセスポイント起動!」
 覚悟、そして近くにもし√能力者がいたら無線通信でサポートをとインディアナポリスは動く。
 何かあったとき――例えば不意の崩落や陥没に反応しやすくなるだろうから。
 そして覚悟は、自身の役目は露払いと前に立つ。
 己の持つ第六感を研ぎ澄まし、進む先を偵察。作動音は殺気を先読みするように動いていく。
「ここ、進めば足元が開きます」
 とんと足元を叩く。これは発動させてしまったほうが解りやすそうですと覚悟は物理的に作動させ破壊する。
 足を置いた瞬間に足元が崩れる。そしてその下には鋭い針山だ。
 これを残しておいては誰かが困るかもしれない。覚悟は壊してしまいましょうと提案する。
 インディアナポリスは手伝うで! と軽く答える。覚悟は針山を破壊し、安全に。そして周囲へとこの罠の事を知らせるのも忘れずに。
 そして進めば再びの罠の気配。インディアナポリスに止まる様に告げ覚悟が先に駆ける。
 阿頼耶識で反応速度を高め、発動する罠を回避するだけだ。
 進んだ瞬間、上からギロチンの刃が落ちてくる。容赦なくそれは足元に落ちて地面の中に刃を埋めた。
「うお、容赦ないやつや」
「単発の罠なら問題なく見切れますね。もう大丈夫なので通ってください」
 でも単発な罠ばかりではない。個人での対処が難しい場面もでてくるかもしれないと覚悟は零す。
 するとインディアナポリスは大丈夫や! という。
 共に行動しているのだから、心配ないと。
「個人で対処できへん罠があってもすぐに手を貸せる訳や」
 その言葉にそうですねと覚悟は頷く。
「背中を預けられる仲間となら、この死線も越えられます」
「さあ本番はこの先や、消耗抑えてささっと進みましょうや!」
 ふたりにはこの最奥に辿り着くという意思がある。そしてジェヴォーダンとの戦いも待っているのだから。
 必ず全員で生還しましょう! と覚悟は紡ぐ。そしてまた、ダンジョンの奥へと歩み始めた。

夜風・イナミ
誉川・晴迪

 全方位から砲撃がくる――誉川・晴迪(幽霊のルートブレイカー・h01657)は魂魄炎を先行させ、それがどのようなものかを見る。
「解除できるならしてしまいましょう」
 魂魄炎が進むと魔方陣が現れて、しばしの溜めのあとに魔法砲撃を発射するそれは終われば消えていく。
 晴迪はふわりと浮いたままなるほどとそれを見ていた。
 こういったものはとても繊細な作りをしている――例えば、描いた線が少しでも途切れてしまえば、発動してくれないように。
 だから、と晴迪は進み始める。すると周囲に現れる魔方陣。
 晴迪は破壊の炎を一点に集中させ、その陣の先を焼き切る。
 すると、魔方陣は砕けて消えていく。しかし魔方陣は複数現れている。
 他の方向からの雷撃――世界の歪みを広げ飲みこんで晴迪は回避する。
「できるものを確実にひとつずつ崩していきましょうか」
 と――その耳に届いた声。
「助けてくださいぃ……!!」
 その声の方へと晴迪は向かう。
 そこには夜風・イナミ(呪われ温泉カトブレパス・h00003)が砲撃に晒されていて、晴迪は魔方陣を攻撃しその度合いを減らしていく。
 するとイナミもやっとひといき。
「た、助かりましたぁ……」
 イナミは晴迪へと礼を言って、思わず零す。
「罠ばっかり……いちいちいやらしいですもぅ……」
 身体は強くないしスピードもない。だから周りの呪詛やインビジブルを取り込んで体を思いきり強化してイナミは進んでいた。
 スピードもアップしてゴリ押し突破――それで最初は調子よくいっていたのだ。
「私もビビりだけどジェヴォーダンもビビりですねぇ……」
 なるべくいっぱい纏ってモフモフに。攻撃を喰らっても多少は大丈夫だった。
「水流? ふふ、お水は弾いちゃいますよぉ、炎は燃えたら困ります!」
 転がって消火、としつつ難なくクリアしていたイナミ。
 そして周囲に現れる魔方陣も、呪詛で壊して妨害して。周囲に釘も侍らせ破壊していたのだ。
「41個もあればきっとなんとかぁ……っ」
 ――だったのだが、それが尽きてしまったのだ。
 それからは四足ダッシュで命を大事に走り抜ける。
 釘が尽きて砲撃の邪魔ができなくなってから、撃たれ続ければ誰かに助けを求めたくなるというもの。
 その声が届いて、ほっと一息したもののすぐまた全方位からの砲撃が続く。
 が、一息つけたから新ためて呪詛の釘を構え、そして最奥を目指すのみ。
「魔法罠の発生源みたいなのを感知できたらして破壊したいですねぇ……なさそうですし」
 その前に。
「……そんな余裕なさそうですけどっ……!」
 周囲にいくつも現れる魔方陣。釘で壊すか、しかしまた足りなくなったら困るから必要最低限。となれば逃げの一途が最良かもしれないとイナミは思う。
 何か重要そうなものを索敵できたらとも思ったがそういうものもなさそうだし。
「また危なくなったら助けてくださいぃ……!」
「分担すれば意外とあっという間かもしれませんよ」
 晴迪は、右からくるのは私がと請け負う。イナミも、他のをがんばりますぅ! と答えてダンジョンの最奥へ。

和紋・蜚廉
サン・アスペラ

 ボーグルたちとの戦っていたこれまでの空気と打って変わる――それを肌で感じ、サン・アスペラ(ぶらり殴り旅・h07235)は一層、警戒する気持ちを引き締めた。
「さっきとは打って変わって敵の気配がない……もぬけの殻って感じだね」
「それだけやつも今回の侵攻に懸けていたという事か」
 阻止された故に、必死さもこうして露呈していると和紋・蜚廉(現世の遺骸・h07277)は紡いで、サンを見る。
「こういう手合いの本気は、侮れぬな」
 融合ダンジョン事件を解決しジェヴォーダンの戦力を削いできた。それがここにきて効いている――そのことを改めて肌でも感じ、サンはぐっと拳を握る。
「だったらもう、後は駆け抜けるだけ! 行こう、旦那!」
「無論だ、サン。我が速度に、しっかりついてくるのだぞ」
 うん! とサンは大きく頷く。改めて迷宮に向きなおった蜚廉は潜響骨にて、迷宮内の反響音を聞き取っていく。
「……これだけでは事足りんな」
 そしてサンも、自身の力を振るう。
「帰り道はどーっちだ!」
 視界内のインビジブルと完全融合してみるのは周辺のマップ情報。
 なるほど行きどまりもある、あっちへ、こっちへ――とわかる範囲の道順を。罠もある。でもそれがどんなものかまではわからない。
「旦那、道順ある程度進むところまで分かると思う! でも罠の作動まではどうくるかはわからなさそう」
 行き止まりにはまらないように行こうとサンは言う。で、あれば――蜚廉もその道筋に頼りつつ、斥殻紐で罠の仕掛けを読み取ろうと告げる。
「偽竜が仕掛けた罠に対する感情も、今まで挑んで来た者達の感情も感じ取れるだろうか」
 翳嗅盤で感じたのは此処を通った者達の思いのみ。
 斥殻紐が周辺を読み取って――ここは進めば矢が雨の様に放たれる罠が仕掛けられているようだ。
「すばやく通り抜けるのが良さそうだな」
 丁度、あのインビジブルのいる辺りで罠は終わるとしばし先を浮遊するそれを蜚廉は示した。
 なら、とサンはその背中に太陽の翼を。蜚廉も行くかとインビジブルの元までその翅で飛翔を。
 駆けはじめた途端、降る矢をサンはその翼で燃やし落とす。
 そして駆け抜けた先――ぴたと蜚廉が動きとめたのに合わせ、サンも止まる。
 それは何か勘のようなもの。この先は、罠が無数に仕掛けられていると。
「ひとつずつ調べていては時間がかかりそうだ」
「そうだね。罠攻撃を、避けて通る!」
 槍でも天井でもなんでも来い! と紡ぐサンへ蜚廉は笑う。
「危ない時は旦那の力も貸してね!」
 勿論と蜚廉は頷く。
 ふたり同時に振み出し駆ける。飛翔をもって蜚廉は飛び、サンも太陽の翼と共に。
 足元から槍が飛び出しても避け、突如横の壁が突きだしてきても身を低くして躱し。
 連続する罠を避け続けているとそれは突然、現れた。
 何かが勢い付けてやってくる鈍い音。どこから、と蜚廉は意識を巡らせこの少し先――と察した瞬間。
「! サン!」
 蜚廉とサンのすぐ横の壁がぽかりと口を開いて特大の鉄球をぶち当てようとしてくる。
 しかし蜚廉が咄嗟にサンを抱え、インビジブルが導く場所へと飛翔する。
 ふたりが今までいた場所を圧し潰し鉄球が反対の壁に当たるのを目にし、サンは瞬く。
「ありがとっ、旦那! 今のはちょっと危なかった!」
 と、振り返ると――サンは目にする。新たな鉄球が後方に落ちるように現れ転がってきているのを。
「旦那、また来るよ!」
 蜚廉はサンに捕まっているように言う。
「我は感知と移動に専念する。払えぬ露は、汝に頼むぞ」
 その言葉に任せてと鉄球が追ってくるのを目にしつつサンは太陽の翼をより多きく。
 降りかかる小さな攻撃ならこれで焼き払える。
 蜚廉は発動する罠に意識を向けつつ、サンは露払いを引き受ける。
 しかしまだまだ、鉄球は追ってくる。
 それは罠のテンプレとも言えるもの。サンは思わず笑い零して。
「……不謹慎だけど、巨大鉄球に追いかけられるのはちょっと楽しいかも」
「……いや、分かっていたが。我も、楽しんでいたからな。否定はせぬ」
 だがいつまでも追いかけられているわけにもいかない。
「丁度良い。加速衝動も溜まった所だ」
 あの鉄球を砕こうと、蜚廉は身を翻す。頃月鉄球を砕く一点へ、殻駆の一撃を叩き込んだ。
 鈍い音と共に鉄球が付近の壁へとめり込み動きを止める。
「さっすが旦那!」
 サンは笑って、次は右だよと再び最奥を目指すべく駆けた

ディラン・ヴァルフリート
ヴォルフガング・ローゼンクロイツ

 目の前には三つの道が示されている。
 どの道を進むか――それを決めるのに時間はかからなかった。
「ディラン行くぜ!」
「ええ……よろしくお願いします」
 共にこの先へと進むディラン・ヴァルフリート(|義善者《エンプティ》・h00631)へとヴォルフガング・ローゼンクロイツ(螺旋の錬金術師|『万物回天』《オムニア・レヴェルシオー》・h02692)は声かけ、そして高らかと告げる。
「逆因果律の螺旋を持って、黄金の大業を成せ!」
 攻撃干渉を完全無効化する黄金大業形態に変身したヴォルフガングは自身が持っている力を二倍に引き上げて、そして錬成螺旋騎槍|『逆因果律』《ラグナロク》をその手にしていた。
 ディランも、風属性に特化させた装備[錬気竜勁]と完全融合しオーラを身に纏う。異形化を応用し己の出力を増強し、この先の罠への対処を。
 準備ができたなら、先を駆けるのはヴォルフガング。
 その速度に合わせディランは低空飛行で続く。ヴォルフガングが道を切り開く。それをディランはサポートしていた。
 例えば知覚外への危険に対する警戒を絶やさず、有事の際は迅速な対応に努めるよう心掛けていた。
 と、槍が横から何本も突きでてくる。それは簡単に避けれるもので、ヴォルフガングとディランはものともしない。
「よくある罠が多いから対処しやすいが、数があるな。ディラン大丈夫か?」
「此方も……問題無く」
 ディランは今までうけた罠を思い返す。原始的な罠は、数は多いものの、対処は十分できるものばかりだったから。
 ディランは風そのものと化しているから、物理的な攻撃は透過し意味はない。
 すべて受け流し通り過ぎていくような感覚だ。
 そして矢が降り注ぐようにくる罠が発動する。今、風であるディランにとって矢は通過していくだけのもの。だが刺されているような心地になるのは気持ち良いものではない。
 ディランは風を圧縮し、矢にぶつけてそれを吹き飛ばしてしまう。
 単一的な攻撃は、対処も容易いものだ。ディランはふと、一呼吸し零す。
「質の伴わない物量が相手になる僕達では……ないでしょう」
 しかしだからこそ、思う。
「僕なら物量を囮に"本命"を仕込むところです――全方位砲撃の道がその役回りなのかもしれませんが」
 選ばなかったそちらの道は全方位から常に魔法砲撃がくる道だった。
 しかしどの道を選んでいても、成すことは変わらない。最奥へと向かうだけだ。
 油断せずに行きましょうとディランは告げる。
 頷きながらヴォルフガングが一歩進む――と、その足元がぬけた。
「ヴォルフガングさん!」
 思わずディランは声をあげるが大丈夫だとヴォルフガングの表情を見ればわかる。
 ヴォルフガングは魔導リフターシステム|『雷天大壮』《メギンギョルズ》をもって空中を駆け上がれば問題ないとそれを使う。
 大穴を越えてまた通路に戻る。ディランはそもそも空中にいるからこの罠にひっかかることはない。
 そうしていくつもの罠を越えてお約束の罠にも見える。
 前方から転がってくるのは鉄球だ。二人を引き潰そうと迫る――ディランは問題ないが、このままであればヴォルフガングとぶつかる。
 あれを止めることはディランもできるだろう。が、その心配がないこともわかっている。
「鉄球か。これも定番だが、そんなもので止められると思うなよ!」
 |錬成螺旋騎槍《ドリルランス》を構え、ヴォルフガングは紡ぐ。
「|赤雷の精霊《エレクトラ・テスタロッサ》よ、我が身に宿れ。神速の力、今ここに解き放つ。穿て! ブリッツシュネル・ヴフトッ!』」
|赤雷の精霊《エレクトラ・テスタロッサ》を纏って放つ一撃。
 それは装甲を貫通する攻撃。鉄球は錬成螺旋騎槍に貫かれそこで動きを止めた。
 ディランはそれをみつつ、こんな罠をジェヴォーダンは戦いの中で使ってくる可能性を考える。
 あらかじめ供えられる要素があればと思考巡らせつつ、ふたりも最奥へと再び歩み始めた。

其之咲・光里
マハーン・ドクト
バーニャ・カウダ

 進む先は罠の道。
「ぬるぬる……は大剣だとちょっとマズいか……一気に駆け抜けるよ……!」
 其之咲・光里(無銘の騎士・h07659)はふ、と一呼吸。
「私と一緒にいるっていうインビジブルも、力を貸して……!」 それは光里と共にあるインビジブルに助力を願う言葉。そのインビシブルと完全融合して、咄嗟の一撃の力を高め、空間を引き寄せる能力を得る。
 その能力得たなら、光里は走る。罠を踏んでもそのまままっすぐ。さっき自分がいた所に落ちる槍。
 かちっと音が下かと思えば天上から放たれる弓の雨。
 弓の雨は咄嗟に安全な空間を引き寄せてその弓の落ちる位置をずらす。
 と、踏み込んだ瞬間――足元が消えた。
「!」
 落とし穴――と思った瞬間、光里は足元を引き寄せた。叩きつけられることなく、着地する光里。
 結構落ちちゃったかなと思いつつ、ダンジョンは他の道にも続いているようだ。
 上へ戻るか、このままいくか――このまま進んでみようと光里は進む。
 しかしその先もまた罠に満ちているのだ。
 ぱら、と頭上から何かが落ちてきた気がする。見上げたなら――天井にひびが入っていた。それは広範囲にわたり、走ってかわすのも難しい。
 光里は咄嗟に|無銘輝剣《ストレイライト》を振り上げ落ちてくるものを破壊した。
 巨大な岩の塊は砕け、落ちていく。しかしまら頭上からの攻撃は終わらないようで光里はすぐさま走ってこの瓦解する場所を抜けていく。
 けれど、これだけで罠は終わらなくて。
「前から鉄球!?」
 さすがにこれは逃げることも避けることもできない。
 無銘輝剣で身を護る様に盾にする。その無銘輝剣へと鉄球がぶつかる――その一瞬を耐えて光をチャージする光里。
 そして力を溜めて、攻撃として鉄球へ返す。全部まとめて吹き飛ばす一撃に、鉄球は砕け散った。
 よし、と頷いて光里はまた最奥へと向かう。
 そして罠の道をまた、バーニャ・カウダ(|踊り明かす者《ティターニア》・h00093)も進んでいた。
「まあまあまあ! 至る所から|死《トラップ》の香り、まるで殺意のテーマパークね! 苦難と絶望にドキドキしちゃう♪」
 バーニャは足を踏み入れた道を恐れることなく、軽やかに笑って進んで行く。
 ひゅっと飛んできた弓をくるりと回って躱し。横から突如突き出された槍を、後ろに身を反らせて避けた。
 なんて情熱的! とバーニャは笑う。
「でも逆を返せばそれだけ奥には行かせたくないってこと」
 少し歩くだけで罠がいくつも発動する。そんな刺激が一杯というのは自分の所へこさせたくないからだとバーニャは思う。
「一気に突破してミスター、貴方の顔を覗かせて頂戴な♪」
 この先にいるジェヴォーダンを思う――会いにいくためにもこのダンジョンを踏破しなければならない。
「優しく、時には激しく。乙女心のように」
 バーニャは祈る。そして風の精霊の加護を纏って駆けた。移動速度は風の精霊の力であがっていく。
 すばやくダンジョンを駆け抜け、飛んでくる槍や弓を感じたならオーラをその身に纏って拳や蹴りで破壊しながら進んで行く。
「とびだしてくる罠は対処が楽ねぇ」
 と、思っていたら――足元から突然、行く手を塞ぐ壁のように棘が突きだした。
 しかし何か来る気がして足を止めていたから間一髪。
「これは壊しちゃいましょう」
 この場所、燃やしておけば何かあると後続にもわかりやすくなるだろう。
「ご覧になって。私の燃えるような愛を、焦がすような情熱を!」
 バーニャは火炎蠢く小さき竜を召喚し、その場所に高密度の火球を放った。
 棘はぼろりと熱で崩れ、そして黒く焼かれた後が残った。
 これでよしと先を進んでいればどんどん細い下り道になって――そして、ごとん! と後ろで重い音。
 何の音、と見れば鉄球が転がってくる。あれは避けるのも、逃げ切るのも難しそう。
 であれば正面から受ける飲み。
「私の思いっきり、ぶつけてあげる!」
 くるり、くるりとその場で回って勢いを付けたなら、渾身の回し蹴りを鉄球へと放った。
 鉄球は転がる勢いを殺され、そして傍の壁へとめり込む。これでもう追ってくることはないだろう。
 バーニャもまた、最奥へ向かう。と、進んでいればふと霧が立ち込める気配にバーニャは気付いた。
 けれどそれは罠といったものではなく、マハーン・ドクト(レイニーデイ・ホールインザウォール・h02242)が齎すもの。
「……まぁ、こそこそ素早く駆け抜ける事には慣れてるけどさ」
 ここまで来るのにもいくつかの罠が作動して。引っかからぬように動く事が何回もあったマハーン。
「|あのクソッタレ世界《√ウォーゾーン》の|戦闘機械《屑鉄》共の弾丸砲撃雨あられとはまた違った感じだなぁこれ……」
 罠を越えるたびに、自分が今まで経験していたものとの違いを感じていく。
「ちょっとやそっとの環境とか地形位の影響ならなんなく乗り越えてやるんだけど」
 はぁとマハーンはため息一つ。
 霧と見まがうような細かい霧雨は降り続けそして強まる。この状況はマハーンの持つ能力を底上げする状況でもあった。
 そしてこのダンジョンで己が出来ることをマハーンは考える。
「……ハッキングも……どこまで通じるもんか、わかったもんじゃないな。それなら……仕方ない」
 そもそも、自分の常識がまるで通じない可能性もある。そう思いいたったなら、おのずとどう動くかも定まっていった。
(「なら、罠を可能な限り早く見定め、起動するより速く駆け抜けるしかない」)
 それは――慣れたものでもある。だから思わず、笑い零れた。
(「上等じゃねぇか、今まで散々ヒィヒィ言いながら死にたくないってだけで駆け抜けて来てんだ」)
 それは己の世界で。死にたくないと――力の限り。
 この場所は|あのクソッタレ世界《√ウォーゾーン》とは違う場所だがやることは同じ。そう思えばシンプルになっていく。
「……文字通りの通り雨だ、行くぞこの野郎……!」
 雨と共にマハーンは駆ける。
 目の前に立ちふさがる壁が現れたなら雨属性の弾丸放ち暴風雨と雷雨で撃ち砕いて。
 そして自分には、周囲の皆には追い風を――一歩踏み込むごとにその歩幅は大きくなる。
 疾く駆けて、深部に辿り着くために。

断幺・九
シンシア・ウォーカー
森屋・巳琥

 融合ダンジョンを抜けたなら、またダンジョンが続いている。
 先程までとは雰囲気が違う――いよいよ、ジェヴォーダンへと近付いているのだ。
「……ぎゃは、死にたくねえー!」
 断幺・九(|不条理《テンペスト》・h03906)
 その言葉と表情はウラハラのよう。九はくるりと周囲を見回し、零す。
「なぁんでちゅーちゃんこんなトコまで来たンだろ」
 ふと、思う。けれどその理由はあるのだ。
「ま、しゃーなしでチュね。融合ダンジョンにゃあ世話ンなったからな、お返しくらいはさせてもらわねーと割に合わねえッての」
 ジェヴォーダンにやられっぱなし、というのも性に合わない。だから九は此処にいた。
「さァて、ダンジョン攻略のお時間でチュか! 正攻法でやンなら、殺意高かろうと罠の種別知れてるコースのがマシでチュかね?」
 魔方陣が現れ、しばしの溜めの後に魔法砲撃がくる――何が起こるかわかっているから、九は自身の√能力を重ねる。
「それじゃあ張り切って――ご注文はァ? サーチ・アンド・オペレーション!」
 護霊「パイドパイパー」たちを召喚し、九はうろつかせる。
 そして自身は、周囲を汚染する瘴気の煙霧を纏った。この煙霧を纏う限り、移動速度は三倍となるから。
 九は先行させた不可視の護霊たちに魔方陣の位置特定を任せる――けれど、それは護霊たちを感じてか、周囲に現れ魔法砲撃を放ち始める。発動したら消えていく魔方陣はランダムで決まった場所はなさそうだ。
 それならもう、走り抜けるしかないだろう。砲撃があればその弾道は計算できそう。九は力の限り駆ける。
「あの狡すっからい|けだもの《ジェヴォーダン》がココ根城にしてるッてンなら、安全な|通用口《ぬけあな》の一つ二つあってもおかしかねーでチュね」
 そういうのがあるかどうか。片手間に追跡できそうな痕跡あれば探してみようかなと思いつつも、その余裕を魔法砲撃は与えてくれないようだ。
 九は同じ道をたどるものが居れば、連携してサポートも視野に。
「これも生存戦略でチュからね!」
 出来ることはやっていく――すれ違いざまに放たれた砲撃に攻撃かけて相殺し、九は駆けていく。
「!」
 後方からの砲撃を、九の助けでかわしたシンシア・ウォーカー(放浪淑女・h01919)は先に進んでいくのを見送る。
 油断はしていなかったが、全方位からの魔法砲撃の執拗さを改めて感じた。
「疾走中に魔法でドン。……ちょっと嫌な記憶がありますね」
 そして蘇る記憶。でも、今はそれに唸っている場合ではないから、駆けて魔方陣の間を抜けていく。
「来なさい、お前たち」
 武装した死霊を放ち、40秒先の未来を視る。先を走る自分、そして砲撃が放たれる瞬間――それがわかっていれば走る位置を少し変えるだけでもいい。
 でもその先までは見えていないから、シンシアは何が起こっても良いように油断しない。
 魔方陣を見れば属性は判別できる。避けきれずとも、相反する属性のオーラで防御すれば少しでも負傷は軽くなるだろう。
 それにシンシアはもう一つ手を打っていた。
 √能力『|"Be a lady."《ビー・ア・レディ》』によって、論理的思考力は増し、そして何かしらの負傷などを受けても10分以内に全快する状態なのだ。
 その思考力で罠の解析に取り組みつつ進む――。
「ジェヴォーダンってこういう魔法を使うのですね?」
 出力は殺意の塊ですが、力を貯める時間があるのは気にかかると、シンシアは考える。
 それが事実かどうかはまだわからないが思考を止める事は無い。
「これは私達をどのように感知しているのでしょう? 別所に監視媒体が仕込まれているのか、魔法陣中に何かあるのか」
 周囲に浮かぶ魔方陣。とにかく死霊に怪しいものを探させつつシンシア自身は前身する。
 霊気を介した視界共有で確認しながら――魔方陣見れば、魔力が集うのがわかった。
 それを攻撃してみれば魔方陣は簡単に砕かれ散っていく。
「なるほど?」
 これは攻撃したら簡単に壊れる? といくつか試しながら。放たれる前であれば属性は関係なさそう。そう言ったことがわかってくれば対処も簡単になってくる。
 そして見つめる魔方陣以外からの攻撃もかわしながらシンシアも最奥へ。
 速さをある程度保ちつつ進む物もいれば、別の道を選ぶ者だっている。
 神速を貴ぶもいいが、急がば回れ――森屋・巳琥(人間(√ウォーゾーン)の量産型WZ「ウォズ」・h02210)は全方位から魔法砲撃がくる道を見つめる。
 ひとつひとつ潰しながらは時間がかかる。しかし厳しい道を先行では消耗が厳しくもなるだろう。
 巳琥は足は遅くとも負担の少ない共通の道をくみ上げ、皆で総力を入れられるよう、確実なジェヴォーダンへの道を気づきあげようと考えた。
 しかし魔法砲撃の道は、情報を収集するとそれが難しいことも分かってくる。
 砲撃を行う魔方陣の出現に決まった法則はない。あるのかもしれないが、ランダムのように見える。
 400近くのシマエナガ型自律性ビットが道を通れば狙いを付けるように魔方陣が現れ砲撃を放ってくる。しかし砲撃が放たれるまでは数秒の溜めがあった。
 その間に駆ければ、砲撃の射程をずらし躱すことはできそうだ。
 巳琥は周辺の地形も調べて、範囲的に巻き込まれにくい場所なども探す。
 そう言うことをしながら、巳琥はふと思う。
「シーフというにはなんかカッコ物理な気もしますが安全な道造りはこういうものなのかもです」
 特に制限時間の罠で詰むが今回の行動と一番相性が悪い――それをどうやって確実に排除をする必要もある。
(「皆が無事に進めますように……」)
 |やさしい嘘《ホワイト・ライ》でその排除を願うけれど、この場の魔法陣を止めておくことはできないようだ。それは願いとしては、大きすぎるから。
 けれど、進んでもらうために巳琥は皆の手助けとして動く。
 このダンジョンを踏破するために。

弓槻・結希
八辻・八重可

 弓槻・結希(天空より咲いた花風・h00240)が足を向けたのは、全方位から魔法砲撃がくるという道。
「如何にして進みましょうか」
 どうすればいいか――結希は考える。
 一陣の風となって走られれば楽ではあっても、それを許さない造り。
 全方位からと神経を削るような通路とトラップ――結希はその瞳を僅かに細め、一番自分にとって良い方法を考える。
 心を乱されるような状況はきっとよくない。
 であれば、常に祈りを捧げような心境で。
 セレスティアルの少女はそう決めたなら微笑を浮かべて見せた。次なる戦いに向かうための道最中に穏やかな笑みを。
「決して揺らがず、震えず、動じない祈りを心に灯してもって進みましょう」
 つまりは心眼、奇跡を求めて織り成す歩み。
 どんな理不尽に思えても、それを突破する手立ては必ずあるのだと信じて進む。
 それが一番、結希が自然体で進める姿。
 まだ安全地帯。けれど一歩進めば始まるのだと、なんとなく肌に伝わる魔力の波動のようなもので感じる。
 祈りを――心の眼はそれを見据える。何処からでも気を抜かず、されど焦らずに。
 天星弓『フェルノート』をその手に。弦を爪弾いて魔力を増幅し溜めていく。
 そして歩み始めたなら魔方陣が現れる。火に草、水と――何が見舞われるかは察知できた。
 まだ放たれる気配はない。それならと紡ぐ。
「災いを払い、幸いの風を招くことを」
 幸せを呼ぶセレスティアルとしての覚悟を。すると薄暗いダンジョンは花と光あふれる天上界の光景へと変化する。
 かさねて、紡ぐのは。
「風よ、花よ。その色彩をもって、私の道をお守りください」
 魔方陣と真逆の属性を纏わせそれを射たならば、光と花びらとなってその周囲に矢がはじけ他の魔方陣も破壊していく。
 一度砕かれた魔方陣――しかし新たなものが生み出され結希を狙う。
 その砲撃が来る前にふたたび攻撃をかけた結希。砕かれていく魔方陣の中を結希は歩みただ前へと進んでいく。
 自分にあった方法を模索していく――それは八辻・八重可(人間(√汎神解剖機関)・h01129)も同じ。
 八重可は咄嗟の判断や反射神経には自信がない。
 だからまずは観察して推測解析、罠の解除方法を探す。それが八重可がとった進む方法だ。
「時間はかかるかもしれませんが、着実に進みたいですね」
 罠の通路――先を行く人の様子もみつつ、八重可は良く見て情報収集する。
 天井、壁面、地面を隈なく目視する――特に何かスイッチやセンサーらしきものがあるわけではない。
 色彩や質感と言ったところに不自然な箇所はないように見える。
 となると、次は表面上見えず隠された仕掛けが無いかをチェック――だがこれもおかしいところはみつからない。
 となれば実際、発動するのを見て見るしかない。
 魔方陣が発生する場所のあたりをつけ、ドローンを飛ばす。 だが飛ばした瞬間、ドローンの周囲に魔方陣が現れた。
 ドローンは機械。人には限らない。そしておそらく、動いているからその射程にはいった――そう、八重可はいくつも推測を重ねていく。
「……シリンジみたいなものだとどうかな」
 八重可は確認するようにシリンジシューターでシリンジを通路に飛ばす。
 するとやはり魔方陣は現れて砲撃を放ってきた。
 砲撃の映像は自分の横においたドローンで撮っている。その映像をタブレットに取り込み、感覚や規則性がないかを解析していく。
 何度か試してみて、出た結果は罠を切るような特にスイッチもなく。罠発生装置があるのかといえば――いや、しいて言うなら、もうこのダンジョン全体がスイッチみたいなものなのだろう。
 通れば勝手に魔方陣を生み出し、そして狙ってくる。
「……解除方法も何もわからないとくれば」
 魔方陣自体に次は手を入れてみるだけだ。現れた魔方陣へとシリンジを放つ。すると当たった瞬間にそれは砕け、発動を止めた。
「!」
 つまりは砲撃が来る前に攻撃していけばこの罠は崩していくことができる。問題は。
「魔方陣の発生の多さ……」
 しかし攻略方法は分かった。であれば、八重可は行くしかないかと思う。
 だがこの通路に対する研究成果はあった。それを語れば自身の研究室のように――射程が届く限りは全てがあたる。
 であれば、進むこともできそうだ。
 事前に全て解除できればよかったがそれが出来ないと分かったならできる方法で進むだけ。
 八重可も頑張りましょうと歩み始めた。

空地・海人
ルメル・グリザイユ

「うわっと! 危なっ!?」
 近くに浮かんだ魔方陣。そこから放たれた雷撃を空地・海人(フィルム・アクセプター ポライズ・h00953)は、砲撃放たれた瞬間に後ろに跳んで躱した。
「魔法陣のトラップか……なら、魔法には魔法でこのフォームだ」
 進もうとした先は全方位から魔法砲撃が行われる道。
 で、あればと海人は変身ベルトのカメラ型バックル内のルートフィルムを交換して。
「竜現像!」
 その掛け声で、竜の力を宿し、弓矢を使いこなす強化形態――フィルム・アクセプターポライズ √ドラゴンファンタジーフォームへとチェンジする。
 己の姿を改めたなら、海人はまっすぐ最奥へ向かって走り始める。
 その途端、現れる魔方陣。しかしそれを海人はすぐさま魔力で構成された光の矢で撃ち抜いた。
 ひとつ、ふたつと撃ち抜いて破壊するがそれは進む限り際限なく現れてくる。
「このフォームなら多少の被弾はどうってことない!」
 時折間に合わず、攻撃を受けるが躱したり、掠ったり。
 だがこれが延々続くとなれば話は別だ。
「……とはいえ、キリがないな。魔法陣そのものの発生を止めないと。罠の本体……魔法陣を発生させている大本がどこかにあるはずだよな。メインコンピュータみたいなのが」
 それを探せば、と感覚を研ぎ澄ます。第六感をはじめとした様々な感覚が専売へと跳ね上がる――見つけてやるぜ、と海人は紡ぐ。
「ダンジョントラップの『隙』をな!」
 研ぎ澄ませば――魔方陣がいくつも連なっていくのがゆっくりと見えてくるような。
 だが罠の隙のようなものはみつからない。感覚を研ぎ澄ましても――いや、感覚が示すと言うのならダンジョンの四方八方、全てから感じる。
 この通路自体が罠――止める手立てがないというように。
 海人は、それなら目の前に現れたものを打ち砕いていくしかないと魔方陣を次々と破壊していく。
「ジェヴォーダンまであと少しだ!」
 ここを抜ければ、そこにいるはず――海人は駆ける速度を一層上げていく。
 と、海人の姿が道の先に見得た気がして――ルメル・グリザイユ(寂滅を抱く影・h01485)はそちらを見たが既にその姿はない。
 ルメルも全方位から砲撃が来る道をたどっていた。
「ふふ、どの道も楽しそう~」
 他の道にも興味はあったのだけれども。
「……だけれども。一番楽そうなのは、やっぱここかな~。この子達との相性も良いしねえ」
 自律思考型の魔法人形たちとルメルは歩んでいた。
 隊列汲んで魔法人形たちが歩む――魔術探知で気配を探ろうとしたがそれより早く、魔方陣は周囲に現れる。
 先行した数対の魔法人形の前に。後方の殿の前にはないが、自身の周辺――そして上空にもそれは現れる。
 しかし魔方陣はすぐに砲撃を放ってくるわけではなかった。
 しばしの溜め。魔力が流れている事をルメルは感じ、それを断ち切る様に爆発魔術を魔方陣へと喰らわせた。
 しかしそれは手近にあったひとつ。それを攻撃するとともに人形たちへ放たれていた雷撃。人形たちは散る様に動いてそれから逃げきった者もいれば運悪くあたって動かなくなってしまうものも。
「もしかして」
 魔方陣は現れた段階で目標が決まっている? とルメルは予想する。
 人形たちを討った雷撃は自分に向くそぶりはなかった。近くにきて壊した魔方陣の狙いはおそらく自分だっただろう。
 なんとなくわかってくれば、進みやすくもなる。
 ルメルはまぁいってみよう~というような軽さで奥へと進んでいく。魔方陣が現れたなら、壊せるものは壊して。
 間に合わなければ爆破魔術で砲撃を相殺しつつ、受け流す。
 爆風に巻き込まれそうなら安全方向にダッシュで回避と上手くしのいでいた。
 その途中、人形を生贄にもしてかわしたり。穏やかに笑いながら散っていくそれを見送った。
「残った人形の数は~……ん、こんなもんだねえ」
 いち、に、さん、とルメルは数えていく。魔法砲撃に晒されながらだいぶ奥へと進んできたと周囲を見回す。
「さて、と…。…いよいよこの先が|ジェヴォーダンの根城《絶対死領域》、かな~?」
 ルメルはまだもうちょっと先かな~と零して。
「……ふふ、ふふふ。嬉しいなあ」
 今回はきっと、誰の邪魔も入らないだろうから――と、その戦いを楽しみというように笑み零していた。

澄月・澪
深雪・モルゲンシュテルン

 融合ダンジョンを抜けて――空気が変わったと澄月・澪(楽園の魔剣執行者・h00262)は感じ、足を止めた。
 それに合わせ深雪・モルゲンシュテルン(明星、白く燃えて・h02863)も立ち止まり周囲の様子を伺った。
「ジェヴォーダンの元に辿り着いた……っていうわけじゃないみたいだね」
 周囲に敵の気配はない――しかしダンジョンは√能力者たちを簡単に通すほど優しくはない。いや、ジェヴォーダンが易々と通してくれるわけがないことはわかる。
 何にせよこの周辺にはいない。で、あれば――奥にいるはずだ。
「もうちょっと先に進まないとみたい」
 三つの道に分かれている。進むならこの道かなと澪と深雪は罠がはびこる道の前にいた。
「でも……うー……見るからに罠がたくさん……気を付けて進まないと」
 きゅっと表情引き締める澪。そして深雪はそっと紡ぐ。
「多くの罠が待ち受け、地形すらも変化する道では、正確な判断を迅速に下す必要があるでしょう」
 けれど、大丈夫と深雪は澪へ視線向ける。
「私の電脳はそのためにあります」
 性能の限りを尽くしてあなたと自身の身を守り切るまでですと、深雪は迷いなく。
 だからその為に。
「アサルトモジュール展開完了」
 多数の推進装置を備えた装甲を装着していく深雪。最高速度と防御力は二倍になる。最高速度を引き上げた今、この罠の道を高速で駆け抜けることも可能だ。
 澪も魔剣執行者に変身し、速度を強化。これで一緒に走れるよと笑む。
「どんな罠があるか分からないし、前方の警戒と後方、側面への警戒を分担しよっか」
「はい。隠された罠や地形の変化の兆候などは私が見ます」
 二人でどう進むかを迅速に決め、共に走り始める。
 罠がひそむダンジョン。
「右横!」
 澪が早速、右から飛んでくる矢を告げる。けれど動いた方が早い。手にした魔剣で澪が切り払いながら駆け抜ける。
 そして深雪がその異変を察知して告げる。
「次、天井が崩れます」
「急ごう!」
 全力疾走――澪と深雪は自分たちの後ろに瓦礫が落ちていく音を感じながら進む。
 その崩壊はいつまで続くのか。そして追い立てるように前方の天井もぱらぱらと崩れ始めた。
 そして行く手を塞ぐように、それが落ちてくる。
「砕きます」
 けれどそれに行く手を挫かれる事はない。深雪が装盾杭打機『|鉄甲《ヤルングレイプル》』を構え、目の前に落ちてくる瓦礫を貫き、そのまま砕いて真直ぐ前へ。
 澪と深雪は互いの位置を確認しつつ、足を止めずに前へ。
 ただ飛び出してくる矢や槍はそれほど恐れることはない。突如、横から鉄球が飛び出してきたなら回避や、深雪が足元貫いて穴を作ったならそこにハメて止めたり。どうにも間に合わなければ、視界内のインビジブルの場所まで飛んで、場所を入れ替えて。
 そうやって二人はどんどんと進んで行く。
「結構奥まで来たと思うけど……」
「まだ終わりは見えま――澪さん!」
「――ッ!!」
 それは突然の事。二人の足元が突如として消えたのだ。
 落下する強制的な浮遊感。しかし深雪はダイダロスユニットで飛べるが澪はそうはいかない。
 だからすぐさま、深雪の進行方向は澪へと向かう。
「深雪ちゃん!」
 澪は知っている。深雪がくることを、来てくれる事を。見上げた先にインビジブルも見当たらないから入れ替わることもできない。落ちるままに、手を伸ばして、待つしか今はできない。
 深雪は勢いつけて澪を追いかけ手を伸ばす。そして、その手を互いに掴んだなら方向を切り替え、上へ。
 手だけの繋がりだけでは心もとないから、深雪は抱きかかえるように澪を支えて空を飛ぶ。
「――私があなたの翼になります」
 たとえ進む道が消えても、飛翔すればいい。そのための翼になると深雪は紡ぐ。
 その深雪の声が飛ぶ風の音に紛れて届いて、澪は笑った。
「うん、二人で行こうっ!」
 降りかかる罠を振り払って、迷いなく。ダンジョンからの敵意ある攻撃がくるなら澪が魔剣をふるって叩き斬る。
 疾く駆けて、ふたりもダンジョンの最奥――その場所に辿り着くのだった。

第3章 ボス戦 『リンドヴルム『ジェヴォーダン』』


 √EDENの『芳林公園』から消えかけの融合ダンジョンへ。その先へ行かせまいと足を止めようとするボーグルたちを倒し、辿りついたのは√ドラゴンファンタジー・飛竜の迷宮。
 その迷宮にある数々の罠を乗り越えた先の最深部――開けた場所へと辿りついた瞬間、それは決定的になる。
 ――最深部に近付くほどに、その気配を感じていた者もいるかもしれない。
 開けた場所に入り、その姿を視とめた瞬間、つながりが断ち切られた。
 それは問答無用。何の報せも予兆もなく、ただ一方的に叩き込まれる事実。
 Ankerとのつながりを断ち切って、かえる場所を見失わせる強制力。どこにもいけない、この場で立ち尽くすが良いというように。そしてインビジブルとなったなら、この場をそうしているそれに喰われてしまうのだろう。
 足の先から冷たいものが駆けあがる。それは恐怖か、焦燥か、それとももっと別のものか。だがそれをねじ伏せて√能力者たちは此処に立つしかない。
 もうこの場に来てしまったのだから。死ぬ気はもちろん誰だってないだろう。
 しかし、ひたりとAnkerとのつながりの消失と、自身の傍に死が寄り添う感覚がいやでも知らせる――ここは、つまり『絶対死領域』であると。
 それをもたらしているのは無数の真っ白な手を咲かせる箱の異形――|王劔《おうけん》『|縊匣《くびりばこ》』の小分身。
 その異形の前に立つは、主たる|王権執行者《レガリアグレイド》。ここまで√能力者が追い詰めた存在、リンドブルム『ジェヴォーダン』だ。
「やはり来たか」
 こうなることを見越していたのだろう。苦虫潰す様な声色でジェヴォーダンは零す。
「だが、まぁいい。√間の繋がりは既に切れている」
 つまり、ここでお前達さえ全滅させてしまえば、あとはどうにでもなる――ジェヴォーダンは笑って、そして高らかと言い放つ。
 目の前の√能力者たちへ、まるで見せつけるかのように。
「|王劔《おうけん》『|縊匣《くびりばこ》』よ、さらなる征服のため、俺に力を貸せ!」
 それは何本もの白い剣を持っている。その手にある剣を――見たことがあるものもいるだろうか。
 |王劔《おうけん》『|縊匣《くびりばこ》』はジェヴォーダンの傍でその手を伸ばす。虚空より出でる真っ白な手が花の様にジェヴォーダンの周囲で咲き誇っていく――にんまりとジェヴォーダンは笑っていた。
 己がその力を存分にふるえていると、ジェヴォーダンは確信している。今最も、優れたる|王劔《おうけん》『|縊匣《くびりばこ》』の使い手は自分であろうと思っているのだ。
「|縊匣《くびりばこ》よ、俺と共に戦い、あいつらを縊り殺してやれ!!」
 ジェヴォーダンは√能力者たちを示す。その言葉に従って、その手は√能力者たちへと伸ばされた。
 その首を、圧倒的な力で縊り殺さんと。それに捕まったら最後――絶対死を与えられることになるだろう。
「はははは!! 一切合切、お前たちすべて、|鏖《みなごろし》だ!!!」
 |王権執行者《レガリアグレイド》として、リンドブルム『ジェヴォーダン』は今また、√能力者たちと対峙する。

====================

 これより先は一層、死の危険性が高まります。
 【死を覚悟する】ことが必須となります。
 プレイングの冒頭、一番最初に【死を覚悟する】が無い場合、採用しません。

 ジェヴォーダンは、本来の√能力に加えて|王劔《おうけん》『|縊匣《くびりばこ》』の力を発動させています。
 これにより戦闘中、√能力とは別に「白い手が虚空から現れて相手の首を掴み、圧倒的な力で縊り殺す(首が無ければ致命的な急所を握り潰す)」という現象を発生させます。
 対策無しだと、死にます。対策無しだと、死にますので対策は必須です。
 この白い手への対策が出来ているプレイングには、プレイングボーナスが与えられます。
 なお、二章でPOWを選んだ方々、ぬるぬるしています。首や急所がぬるぬるしていれば、白い手はぬるぬるですべってしまうので、縊れません。すでに対策ができている状況となります。
 もちろん他の対策もしていただくのもOKです。

 |王権執行者《レガリアグレイド》として皆様と対するジェヴォーダンは以前よりも強力になっています。
 今まで通じていた√能力も通じない場合があるかもしれません。
 また、戦いながらの会話もできますが、情報を吐け、などというような事には答えないでしょう。
 けれど、今までの戦い重ねて思う事や知りたい事などがあれば、それは会話の持っていき方次第かもしれません。
 すべて、皆様の行動次第です。

====================
空地・海人

 融合ダンジョンの事件から始まり、空地・海人(フィルム・アクセプター ポライズ・h00953)が長い間、ジェヴォーダンを追っていた。
 そして|秋葉原荒覇吐戦《あきはばらあらはばきのいくさ》、芳林公園にて幾度となく戦い、次に会う時は、王権決死戦だと告げた――そして、今見えたなら。
「待たせたな、ジェヴォーダン!」
 その時が来たのだと、海人は告げる。
「今度こそ、この”竜の力”でお前を完全に叩き潰すぜ」
 そう言って、海人は変身ベルトを腰に巻く。
 竜現象! の掛け声とともに黒い鎧纏う、フィルム・アクセプターポライズ √ドラゴンファンタジーフォームへ。
「は! 叩き潰されるのはお前たちのほうだ! 王劍戦争の時と同じと思うな!」
 ジェヴォーダンはその姿を飛竜へとその姿を変え翼広げる。上方を取り、海人へと突撃する。その口開け噛みつき、海人の身体を空中へと放り投げた。
 ただの通常攻撃。それでも深く牙が食い込む感覚があった。だがこの程度で海人も倒れはしない。
「芳林公園で何度もお前と戦ったお陰で、このフォームにも慣れてきたところだ。とっておきの能力を使ってやるよ――再現像!」
 竜弓召喚機へと白いルートフィルムを装填し、海人は光の矢を地面へ。それは10秒の瞑想の時間が必要だ。
 動きを止めた海人に好機とジェヴォーダンは仕掛ける。
「お前たち、遊んでやれ!」
 獣型モンスターの群れを召喚したジェヴォーダンは海人へ、そして他の√能力者たちへも嗾ける。
 海人は、敵の力による√能力を封じる光のブレスを今、放てる。しかしそれは毎度絶対的に起こる事ではなかった。外部干渉完全無効化が働いて、海人のエネルギーをごっそりと奪っていく。
 だから獣たちの牙がその身に深く刺さるが――それを耐えた10秒の後。それは現れる。
 白い装甲を纏う√ウォーゾーンフォームの海人が召喚されたのだ。その姿が維持できるのは43秒。
 しかしジェヴォーダンはさらに手を打ってくる。
「|縊匣《くびりばこ》!!」
 その白い手が現れる――だから素早く、白い海人はネガフィルムセルを器用に操り、二人の首回りにネガシールドを形成する。|縊匣《くびりばこ》の白い手が近づいたなら、その首のネガシールドはネガマズルへとなり早打ちでの迎撃。
 しかしその手は撃たれようとも構わず、その首を掴んだ。
「――っ!」
 しかし直接ではなかった。その首のネガシールドが邪魔だという様に力を込める。そのシールドを砕くほどの力。しかし絶えず続けられた攻撃が、ネガシールドが壊れるのと同時にその手を砕いた。
 はらはらと砕け散っていく白い手――これは壊せる。しかしそれを注視している場合ではなく残されている時間は少ない。
 白の海人はネガミサイルランチャーを放ち、ジェヴォーダンを妨害するように動く。
 その間に黒の海人は――海人自身は弓を限界まで引き絞り魔力を最大まで溜めていく。
「これ以上、お前の目論見で犠牲者は出させない。姑息も卑怯も……全てここで終わらせる……!」
 その力が極限に達した時、白の海人も動く。
「ポライズ……プラズマシューティングッ!」
 それは必殺技、数多の光の矢を放つ海人。それと同時にネガプラズマキャノンによる攻撃を白の海人もかける。
「前に言ったろ? “逃がさない”って」
 その攻撃が終わると同時に白い海人は消えた。
 確実にジェヴォーダンを捉えた攻撃。しかしその攻撃振り払うようにジェヴォーダンはその身を再び飛竜に変える。
「ははは!! 痛いな!! この前の俺ならこの一撃でギリギリまで追い詰められていただろうな!! だが!!」
 俺は今、力を得ている――|王劔《おうけん》『|縊匣《くびりばこ》』の与えた力は強大なものなのだろう。ジェヴォーダンはその身に傷を負ってはいるがなんともないというようなそぶり。
 飛竜となったジェヴォーダンは海人の懐まで一気に飛んだ。しかし突撃せずその体を回転させ尾で振り払ったのだ。
 それは思い切り力を込めた一撃。海人の体の中心を捉え、その体に衝撃を走らせる。
 気の遠くなる一撃の重さ、そして力を使い切って海人の変身はその場で解け、吹き飛ばされ地面を転がされる。
 口の中を切ったか、血の味がする――海人は痛みを感じながらもジェヴォーダンをしっかりと視界の中に捉える。
 先日のジェヴォーダンとは明らかに、格が違う。|王権執行者《レガリアグレイド》としてそこに在るとはこういうことかと。しかし全く攻撃が通じないということはない。傷は、間違いなく負っている。
 √能力を重ねて行けば勝機はあると海人は感じた。そしてそれは、最初の一撃を目にしていた者達も同じく感じた事だろう。

色城・ナツメ
八辻・八重可

 ぬるぬるの道を通ってきた色城・ナツメ(頼と用の狭間の|警視庁異能捜査官《カミガリ》・h00816)はその苛立ちを隠さない。
「だぁー、くそ……結局ぬめりやがった!」
 雑に拭って、手を振ってぬるぬるを飛ばす。びちゃっと地面に落ちるものの、体に纏わりつくものは完全にとれない。
 むしろ。
「拭こうとすれば広がるし、刀握るのも不安があるな」
 そう思っていると――高らかとジェヴォーダンの声が響く。
「|縊匣《くびりばこ》よ! やれ!」
 虚空から現れる無数の白い手。それはナツメの前にも現れその首を掴もうと伸ばされる。
 咄嗟に守る様に腕を出したなら、その白い手が掴んでくる。
 しかし、つるん――と。
 力を込めた瞬間、面白いほどに滑っていった。その様にナツメは瞬く。
「握る、掴む……はっ! これはちょうどいい」
 だが閃いた。相手は首を掴もうとしてくる。しかしこのぬるぬる、つるりと滑らせて|掴ませない《・・・・・》。
 それに気づいたならナツメの動きは早かった。服を脱ぎ、体に就いたぬめりを急所の首、腕に塗り伸ばす。
「髪も掴まれたら厄介か」
 耳の傷跡が見えることになる。だがワックス代わりにぬるぬるをもって髪を掻きあげた。
 ダンジョン被害をここで完全に潰す為、なりふり構っていられない――ナツメは己のすべきことを定めていた。
 生きてぶっ飛ばして帰る為なら、俺の見た目なんざどうでもいいとナツメはまっすぐジェヴォーダンを見据えている。
「こんな世界でも望むなら、それでも生きたい、そう願ってしまうから……死を覚悟するのと同じくらい、無事に帰る決意もあるからな」
 生きたいと、強く想う。それは周囲にいる√能力者たちも共に抱く想いだろう。それは伝播し、影響を及ぼす。
 自分の住んでいる場所、集う場所をダンジョンに変えられた奴らの事を、と心のうちにナツメは思い浮かべる。
(「復讐心をつつかれ、誘われた奴らの事を――そして、捕らえられ、変えられる恐怖を味わった奴らの事を」)
 それはきっとジェヴォーダン、その配下たち。
「奴らはもう忘れているだろうが、俺達能力者の記憶には残り続ける事実なんだよ」
 お前のしてきたことを忘れはしないとナツメは思う。
 ジェヴォーダンは何をいっているという風で、ああやっぱりなとナツメは歯噛みする。
「反省なんざしないだろう、したところで許さねぇ。だから拳でぶっ飛ばす」
 脱ぎ捨て、上半身は裸。拳握りナツメは真っ直ぐ駆ける。自分に向かってくる存在に気付いたジェヴォーダンはまた白い手を向かわせる。その手は首を掴むが、ぬるりと掴みきれず外れていった。
「何!? あっ、お、お前あのぬるぬるを!!」
 ダンジョンに配置した罠。ジェヴォーダンはしまったという表情をするが、しかしすぐになら自分で叩き潰せばいいと気付く。
「噛みつきならそのぬるぬるも関係ないからな!」
 ジェヴォーダンはその身を大狼へと変えた。互いに正面に立つ構図。どう動くかは心理戦のようでもあった。
「真っ直ぐ行く、避けんじゃねぇぞ……!」
 ナツメはその言葉の通り動く。その言葉にのったと、ジェヴォーダンは大きく口開きその牙を向けてきた。
(「見切れ、俺」)
 その口を左の拳で弾くように動く。だがジェヴォーダンは構わず噛みついてきた。振り払われぬよう牙を立て食いちぎらんとする。その拳を食いつぶすかのように牙がめり込み、骨が逝ったのを感覚の鈍さで察することになる。
 しかし痛みは苛烈にめり込んでくる。その痛みに顔をしかめるもののナツメはこれも好機と右拳を握りこんで。
「――痛いだろうが!!」
 ジェヴォーダンの顔へと叩き込んだ。ジェヴォーダンの顔が歪み、噛みつく力も緩む。
 しかしその目はナツメをぎらぎらと、殺意を乗せてまだ捉えていた。ジェヴォーダンは吼え、ナツメを押し倒すように飛び掛かりその牙を向ける。
 その喉元食い破らんと――しかし、即座にジェヴォーダンは飛びのいた。
 放たれたシリンジにあたるのを避けるために。それを放ったのは八辻・八重可(人間(√汎神解剖機関)・h01129)だ。
 ジェヴォーダンは強大な敵性存在。それを倒すのには数の暴力が効果的。
 私の微力でも無いよりは良いでしょうと、出来うる限りの行動を。
 八重可はナツメを|縊匣《くびりばこ》の手が捉えられないのを見て、ガジェットポーチ内の薬品類をすぐさま混ぜていた。
 粘度を調節するように混ぜ、頸部に塗布をしぬるつかせてかわす。呪詛耐性と霊的防護も重ねて、対応できるように。
 その薬品の調合は上手くいき、捕まってもその手から逃れることが今、できていた。その手はただ単に力を込めて縊り殺さんとしてくるだけのよう。
 それを躱せているのだから、その手を恐れる必要なく動けている。ジェヴォーダンが狙ったなら、攻撃を当て気を逸らすように。
 しかしそれは自分にも攻撃が向くということ。
 ジェヴォーダンが遠吠えを擦れば、その周囲から獣型モンスターが湧く。狼のようなそれが周囲に散って攻撃をかけてきた。
 囲まれぬように走り、八重可も回避を。飛び掛かれらたなら守りを厚くして。
(「余裕はありませんが……|縊匣《くびりばこ》とジェヴォーダンの情報収集も記録できたら」)
 しかし、その牙と爪に囲まれかけ、後方へ下がることになる。
 まだジェヴォーダンの勢いは衰える様子がない。むしろ、勢いに乗って√能力者たちを攻め立てんと攻撃は苛烈になってくる。

見下・七三子
シアニ・レンツィ

 シアニ・レンツィ(|不完全な竜人《フォルスドラゴンプロトコル》の見習い羅紗魔術士・h02503)はジェヴォーダンを前にして思う。
(「いっぱい言いたいことあったのにな。これで最後って思ったら、なんだか……」)
 ここで決着がつく予感がある。どちらが死の道を歩むことになるかはまだ拮抗しているのだろうけれど。
 胸にうずくまる想い。けれど今はそれを振り払う。戦わねばならないのは分かっているから。傍らを駆ける仲間の存在が気持ちを戦いに引き戻す。
 インビジブル化――それは√能力者たちが取れる手の一つ。
 見下・七三子(使い捨ての戦闘員・h00338)の顔を仮面が覆う。多で1、1で多の戦闘員集団が七三子のとる姿。
 その首にぬるぬるするよう液体ジェル状の石鹸をぬって、ううと七三子は唸る。
「気持ち悪いですが、死んじゃうよりはましですし」
 そう零しながら、七三子は同じ仮面をつけた戦闘員たちの召喚を。それは今は亡き七三子の|親族一同《家族》だ。
「戦闘員さんは各自ジェヴォーダンさんへ近づいてください」
 それは手数が増えたようにジェヴォーダンには見えたのだろう。
 すぐさま白い手が伸びてくる。戦闘員たちにも伸びる手。だがその手は戦闘員たちをすり抜けていく。霊体化していたからすり抜けたのだ。
 なら、と七三子へ向くその手。七三子の首を掴む――ぬるついて込められる力は鈍い。しかし苦しさは徐々に増すから、その手を咄嗟に七三子は攻撃し、他の戦闘員と位置を入れ替えた。位置を入れ替えたなら、戦闘員の体をその手は擦りぬけていく。
「けほっ……」
 七三子は喉をさする。まともに受ければ確かにこれはと死がちらついた。大丈夫!? と声かけるシアニに頷いて七三子は無事を示す。シアニもまた、首元に巻いた羅紗マフラーの硬度を一層あげる。掴まれた時の時間稼ぎにはなるだろうから。
 白い手がくる――ミニドラゴンの幻影たちの一体、緑竜のユアが傍で白い手に向かって炎球を放って、その手を燃やして回避する。それでもまだ、白い手は無数に伸びて。
「油断できませんね。とりあえず安全第一で行きます!」
 私たちの強みは集団による攪乱と七三子は動く。一つ所に留まらないように、七三子は戦闘員たちと位置入れ替えをして。
 自分がすべきことは、攻撃の隙を作ること――そう思っているから。
 その多数の戦闘員たちへとジェヴォーダンは獣型モンスターたちを消しかけていた。
 そしてもちろん七三子へもその攻撃は向く。さらにジェヴォーダン自身も、大狼の姿を小さくし機動力を上げて駆け抜ける。
 その動きを制するように戦闘員たちが協力し追い込むように動いてくる。
「……じゃあ、ちゃんとただいまって言うためにも、行きます」
 戦闘員たちが戦いの流れを作ってくれている。であれば七三子もその攻撃を届けるのみ。位置を入れ替えて、蹴撃を――しかし、ジェヴォーダンも攻撃がくると察していた。
 蹴りを貰うのは織り込み済み。そこで衝撃を踏み縛り耐えたなら、今度は自分が地面を蹴って体当たりをかましてくる。
 そのまま、その爪と牙を向けるがその間にシアニが攻撃をもって割って入った。
 ジェヴォーダンめがけ放たれるビーム。それに半身を焼かれ、ジェヴォーダンは大狼から元の姿に戻る。
「くそ、震える!」
 ダメージは入っている。しかしジェヴォーダンはまだ衰えぬままだ。そのビームの余波で周囲の手も震えて動けなければと思ったが、それは僅かの間。
 すぐさま、また動き始める。
「あなたのしてきたことは許せないこと」
 そしてシアニは言葉を向ける。ジェヴォーダンは、は? と何をいまさらと言うような表情を見せた。
「だけど真竜になれない苦しさも、何かせずにいられないもどかしさも分かるんだ。あたしもそうだから」
 シアニも自身の不完全さを知っている。
 真竜になりたいというそのジェヴォーダンの気持ちをまったく察することができない、という事はないのだ。
「傷の舐め合いはごめんだって思う? あたしは、同じ悩みを共有してみたかったよ」
「悩みぃ? ははは! 違うぞ! それは俺の野望だ!」
 俺は真竜になるのだとジェヴォーダンは言う。
 かつて、遙か昔にいた『|竜《ドラゴン》』たちと同じ存在になってみせるのだと。
「そのためなら俺は何でもするぞ! お前達を殺し、また地下に潜み力を蓄え機を伺う!! |縊匣《くびりばこ》と共に! この|縊匣《くびりばこ》も! 全てを得てみせる!!」
 そう言いながら|縊匣《くびりばこ》の力をまた手向ける。白い手が羅紗マフラーを掴む。硬化したそれがきしむ音――シアニはハンマーを手に正面から突っ込む。
 ジェヴォーダンはその動きを苦し紛れかと笑って見ている。
 ミニドラゴンたちと一緒に駆けて火急向ければ、ジェヴォーダンは巨大な飛竜へと変わり翼で受ける。この程度何ともないというように。
 けれど、ジェヴォーダンはシアニの姿を見失った。さっきまでいたはずの場所には、ミニドラゴンの姿。
 倒すべき敵で、同類のあなた――シアニの瞳は増したにいるジェヴォーダンを捕えている。
 頭上をとっていたミニドラゴンと位置を入れ替えたのだ。
「そんな剣じゃなく、今まで犠牲にしてきた人たちの手を取って欲しかった」
 |縊匣《くびりばこ》はジェヴォーダンの後ろに静かに佇む。
 シアニは自身の思いを込めて、シアニハンマーをその脳天へと叩き下ろす――だがジェヴォーダンは、それを頭突きで受け返し、シアニを吹き飛ばす。
「さすがに頭で受けたらくらくらするな」
 その身を巨大にしていたからカウンターの力も大きくなる。シアニも地面を転がるが、ミニドラゴンたちが受け止め緩和している。
 ジェヴォーダンはふんと鼻ならし、周囲を見回す。
 まだ優位は自分に在るように思えた。しかし√能力者たちはまだいるし、傷を負わされている。無傷ではいられないのは自明の理。
 油断は絶対にできない。それはジェヴォーダンも√能力者たちも同じ状況。

サン・アスペラ
八海・雨月

「|縊匣《くびりばこ》、厄介な能力だけど……ぬめりで対処出来るのねぇ」
 それなら話が早いわぁと八海・雨月(とこしえは・h00257)は行動する。
 右腕だけ鋏角に変えて左腕を切断――自分で腕を落とす。その思い切りの良さ。そして流れるのは粘性のある血液。
 それを頭や首にたっぷりと浴びて、雨月は白い手から逃れる。
 白い手がその首掴めば掌は赤く。しかしぬると、いやなぬめりつきをもってその手は滑っていく。一瞬喉に入る力はあったが、息が詰まる程度。縊るところまでその力は伝わらなかった。だが何度もされたらそれはそれで面倒くささはある。
 雨月は使った左手を見てこのまま捨て置くのもと思う。けれど、使い道はあったと気付く。
 それを食べておけばいいだけ――そうすれば傷だって癒えるのだから。
 最敵採餌理論をもって食む己の左腕。食べれるのなら、なんだってその口に雨月はいれる。
「……ァは、我ながら悪くない味だわぁ」
 今まで様々なものを口にしてきたけれど、思わず笑ってしまう。まさかこんな死の傍らで自身を食む経験なんてそうそうできるものではないだろうから。
 腕の再生には時間が掛かるだろうが、すでに出血は止まっている。傷口に癒えていく熟れた痛みを感じつつも、雨月は笑ってこの場で一番の獲物を見る。
「選ばれる側に過ぎないのに悦に浸れるような奴と刺し違えるくらい、片腕だけで十分よねぇ?」
 獲物と話す気は無いしさっさと逝くわよぉと、駆ける。左腕がなくてちょっとバランスがとりづらいかもと思ったがしばらくすればそれにも慣れた。
 ジェヴォーダンが放った獣型モンスターたちを払いながら雨月も距離を詰めて、攻撃の機会を伺う。
 その瞳は複眼に変異し、右腕の鋏角が金色に煌めき燃えている。
 やるなら、正面からがいい。こっちよ、と向かう。その瞳は今、隙を見通す瞳。
 雑な動きをしたなら雨月はその懐にもぐりこみ鋏角を振るって肉片を削ぎ、食べていく。
 ジェヴォーダンは雨月の動きにも視線を向ける。いないと思えば現れて――と、その動きが読み切れない。自身の隙を見て動いているとは思っていないのだ。
「ちょこまかと!」
「ふふ、ここかしらぁ」
 今飛竜の姿を取っているジェヴォーダンは尾をしならせた。しかし雨月は滑りこむようにその下をすり抜けてその体に攻撃を。
 その視線を集めていれば動きやすくものもいるだろう。
 白い手が√能力者たちを縊り殺さんと迫る――その様を前にあの白い手は厄介とサン・アスペラ(ぶらり殴り旅・h07235)も思う。対処としてぬるぬるを纏うものもいるが。
「ぬるぬるは無いし、どうしよっか」
 そう思いながら迫る白い手から逃げつつサンも対策を思いつく。
「よし、あの手でいこう!」
 無天瓢を取り出し、その中の酒をぐびぐびと飲むサン。酔えば酔う程回避力があがっていくサン。
 酔いどれ八仙、千鳥足――酔拳モードのサンはその足をふらつかせる。
「うぃ? ……ひっく。イイ感じに酔いが回ってきた~」
 あははと笑いつつ、さらに無天瓢からぐびぐびと。一人で始めた宴会だが、白い手が迫ればふらありその体は傾いで。くるりと回って捕まるらないよう逃げていく。
 もし躱せなくても今は干渉を完全無効化できる。しかし、その状態になる度に体内のアルコールか魔力か大量に食われていく。それが枯渇すれば気絶――そうなれば終わり。それは避けなきゃと、酔っていてもマナバッテリーでも魔力の回復と、無天瓢でアルコールをさらにつぎ込むことは忘れない。
 ふとその手に触れられ掴まれる。その瞬間がっつりアルコールと魔力が持っていかれた。縊り殺せないと判断した手は離れていくが続けてこられたらまずいとサンは一層、飲んで酔って、魔力を回復する。
 そして白い手をかわしながらサンもジェヴォーダンへと距離詰める。けれど足はふらふら、アルコールの匂いがふんわりすればジェヴォーダンも気付く。
「酒……? この戦いの場で、のんきなものだな!」
「ふざけてるように見える? 私はいつだって大真面目だよ、今はちょっと千鳥足だけど。おっとと」
 ふらふらしながら、酒を一口のんでサンは剣呑な視線をジェヴォーダンへ向ける。
「ここに遊びで来てる奴なんて一人もいない!」
 サンは言い放つ。ジェヴォーダンは、はっ! と笑って返した。だが言い返さず酔っぱらいの言葉を聞いてやるという態度。そこには自分が優位だと思っている余裕があった。
「みんな死を覚悟してこの戦場に立っているんだ! お前にその覚悟があるのか!? ジェヴォーダン!」
「俺を遊びで殺しに来たとは思わん! 何度も何度も、邪魔してきたお前たちから簡単に逃れられるとも、さすがにもうこの俺も思わん!」
 だから、確実に殺すために『絶対死領域』の中で戦うことを選んだと言い放つ。
 その黒い身体が膨らむように巨大化して模るのは飛竜、その足でサンを潰さんとジェヴォーダンは動く。
 何時もなら避けられただろう。しかしふわふわと酔いが回って――その動きへの対応が遅れた。まずい、と思ったが助けの手が伸びる。
 今、ひとりで戦っているわけではないから。
 雨月の瞳は、ジェヴォーダン以外の仲間の隙も見える。だから察知した、その瞬間を。
「そこいたら危ないわよぉ」
 あなたはこっちと雨月はサンの身を引っ張ってその攻撃の外へと出す。でも、少し間に合わない――だから雨月は自分の身を使って守る様に動いていた。
「あなたの覚悟を邪魔してごめんなさいねぇ」
 ここに立っていると言う事は命をかけていいと思っているはず。でも目の前で危なければ体が動いた。
 飛竜の爪が雨月のその背を抉る。けれど痛みを声に出さず、表情に出さずその背中を押す。
「でも、その命はもう少し先に取っときなさいなぁ」
 一撃、かわりにいれてきてぇとサンを送り出す。雨月はさすがにこの傷でさっきと同じ攻撃を続けるのは難しそうと後ろに下がる選択を。
 刺し違えてでも、と思ったが守れたらそれはそれでいいのだから。
 仲間の助けに礼を短く言って、サンはジェヴォーダンに向き直る。
「決着をつける!」
 酔いの周りは最高潮。ふらふらする、けれどこれは戦いへのステップになる。軽やかな足取りに変えて、ジェヴォーダンの周囲を動いて牽制――いつ攻撃が来るかと思わせながら右ストレートをその身に打ち込む。続けて、緋環拳のワイヤー伸ばし捕縛を描けようとするがそれをジェヴォーダンは断ち切った。
「この程度で、俺が抑えられると思うな!」
「でも、まだ……もう一撃!」
 最後にサンは刻印拳の一撃を――それは弱点を刻み込む一撃。巨大化した飛竜のジェヴォーダン、その下を潜り抜けるように動いて首あたりに打ち込んだ。
「ぐァッ……!」
 良い場所に入ったのだろう。ジェヴォーダンが思わずと言うように呻いた。
「後は……託す!」
 その様子に笑って一瞬、気が抜ける。その隙をジェヴォーダンは見逃さず、くそ! と悪態つきながら飛竜の爪でサンを掴むと強い力で放り投げた。周囲の壁に激突すればただでは済まない。だから空中で受け身を取ったが――しかし、世界が回転する。
 どうにか着地した瞬間、サンは口元を押さえ蹲った。酔っている状況で今のはキツい。
 私は、ここまで――顔色青くして、サンは仲間へと託す。

チェルシー・ハートサイス

「漸く会えたわね、ジェヴォーダン」
 戦いの場――己が感じる昂揚をチェルシー・ハートサイス(強者たれ・h08836)は隠さない。
 ジェヴォーダン、そして|縊匣《くびりばこ》を前のその瞳を細めるチェルシー。
「……ふぅん。|縊匣《くびりばこ》の力は、やはり強力なようね」
 見違えたわ、とチェルシーは笑む。先の公園での戦いとは、格が違うのがわかるから。
「今の貴方となら、少しくらい踊って差し上げてもよくてよ」
 とんと、踊る様に血を蹴りながらその身に纏うは紅いドレスの姿。
「光栄に思いなさい、全力で踊ってあげるわ」
 ハートサイスの真の力を解放し、先程くっついたぬるぬるをチェルシーは首のあたりへ。
「最初はジェヴォーダンの罠かと思ったのだけれど、どうやら|縊匣《くびりばこ》に対しては上手く利用できそうね。手間が省けたわ」
 あの白い手。首を狙ってくるそれに掴まれぬようにするにはどうしたらいいか。
 いくつか方法はあるだろう。例えば速さを上げて回避をし続ける。それもチェルシーにはおそらくできた。けれど首をぬめらせ、滑るというのならただ真っ直ぐジェヴォーダンに向かうことができる。
 しかしジェヴォーダンからも攻撃が来る。獣型モンスターによる襲撃。何体かハートサイスで切り飛ばすが微かにその爪、牙が掠っていく。
 けれど問題ないと判断し、チェルシーは頭の中で戦いを構築する。戦闘の基本は、衝撃波での牽制。ダメージを嵩ませ、接近し怪力込めた重量攻撃を叩き込むこと。
 衝撃波は、己の持つ√能力『天地震冥』はできるだけあてたい。
 其れの持つ力。強烈な震動の裡に入れることは、自由を奪う手段として強力。動きが僅かでも止まったなら重い一撃を入れやすくなるのだから。
 けれどその攻撃は、すでに先の公園での戦いで見せてしまっている。
「……そう簡単に当たってくれないでしょうね」
 白い手がチェルシーの首を掴んだ。しかしぬるりと滑って無意味に終わる。それも思考の間には些事。
 けれど、この真紅の薔薇姫たる姿と、もうひとつは見せていない。
 ジェヴォーダンの前へチェルシーは飛び出す。緩急つけ、先程よりも二倍早く。同時にハートサイスを振り放つ衝撃波。
 それは始まり。衝撃波にはチェルシー自身の魔力の籠った血液が込められている。
「!!」
 ジェヴォーダンを揺らす衝撃波。そして飛び散った血が紐状となりジェヴォーダンを戒める。
「良い場所にいてくれてるわ」
 そのまま、ハートサイスを持って強撃の連続攻撃。
 それは初見では対処が難しい動きだった。ジェヴォーダンの身の上に傷が走る、増えていく。
「こざかしい!!」
 それをわずらわしいとジェヴォーダンは飛竜となり尾で振り払う。
 その尾をハートサイスを振って相殺して、弾かれた一瞬でジェヴォーダンの動きが止まる。だから攻撃の手を緩めない。
 ここ、と放つ√能力。
「我が力、天地神明に届かん!」
 くるりと身を返す。その勢いものせてハートサイスで空を切り放たれる魔力こめられた衝撃波。ダメージと共に、体勢を崩し戻せないジェヴォーダン。
 それはどんなに巨大な身であっても影響を受けた。震度7相当の揺れに襲われたジェヴォーダンに、隙が訪れる。
 チェルシーはその瞬間を見逃さない。
「貰って頂戴、この一撃」
 ハートサイスに己の持てる力を全てのせ、その首元目がけて振り払う。
 知っている、そこには先程つけられた弱点があることを。
 重い一撃。作られた弱点の上、深く入る大鎌の刃が深い傷を作り出していく――そこより、黒い靄が噴き出した。それはジェヴォーダンの体を作る一部なのだろう。
「グォアアアッ――ッ!!!!」
 ジェヴォーダンの口から痛み堪えられぬと叫びが響いた。

弓槻・結希
深雪・モルゲンシュテルン
澄月・澪

 痛みに声あげている――つまり、その強大さに翳りがあるのだ。
(「これが王劔たる|縊匣《くびりばこ》を手にしたジェヴォーダン」)
 偽りの竜は渇望の為にあらゆるを縊り殺す手を手に入れたと、弓槻・結希(天空より咲いた花風・h00240)は見つめる。
「……けれど、それは何処までも簒奪するモノの腕」
 箱を抱く白き手、そして劍。あれが与えるものはいかなるものか――災禍だと、結希の瞳は捉えていた。
 であれば、なすべきことはひとつなのだとセレスティアルの少女は知っている。
「ならば、災禍を払いて幸せを喚ぶ白き翼として、全身に全霊を賭して挑みましょう」
 鏖殺の衝動に決して負けはしないのだと眦を決する。結希が一歩、足進めた場所より広がる花と光あふれる天上界の光景。
 インビジブル化をし結希は自身の力を一層高める。一対の蒼薔薇の絡む白翼と力を得ながら、結希は自らの命を護る為、一族が世界にもたらしたセレスティアルの秘法を紡ぐ。
 それは超自然より力を引き出す祈りの力。
 詠唱を重ねて激しき流水が結希の首回りで渦巻く。白い手が、結希の首にも伸びたが、その流水の障壁がその手を弾く。それでも掴もうと伸びるが流れに阻まれその指は首へと届かない。
 結希は、勝負を決するのは一瞬だと――ジェヴォーダンへ向かってかける。
「くそっ!! やれ、やれ|縊匣《くびりばこ》!! お前のその手で殺してしまえ!!」
 しかしジェヴォーダンも己が手負いだとわかっている。飛竜の姿で受けた傷が思いのほか深く、自分の体から黒い靄が零れていくことに舌打ちしながら|縊匣《くびりばこ》の力を振るう。
 さらに多くの白い手が√能力者たちへと襲い掛かる。
 結希は雪のように真白く、花のように優美な剣が風の花弁を纏わせた。それは空を踊り流水の障壁に触れた瞬間、斬り払って地面に落す。
 その攻撃は白い手と共にジェヴォーダンにも届く。その身を切り刻むようにジェヴォーダンの身を斬り裂いた。
「邪魔だ!!」
 ジェヴォーダンは今、元の姿に戻りその翼を真竜のものへと変える。その羽ばたきは風の刃を生んで結希の身を斬り裂いた。肌の上を血が流れる。しかし浅い、だから戦えると結希は駆ける。
 そして白い手は、深雪・モルゲンシュテルン(明星、白く燃えて・h02863)と澄月・澪(楽園の魔剣執行者・h00262)の周囲にも集う。
 存在の繋がりを断ち斬られても、一番大切な|人《Anker》は傍で共に闘っている。
 白い手に囲まれようとも、恐れることなどなにもないと深雪は思う。
 そして澪もジェヴォーダンの姿を、厳しい視線で捉えていた。
 秋葉原でも、その前も――あなたは√EDENの人たちを傷つけようとしたと澪の心にはジェヴォーダンに対する怒りに似たものがある。
「家族、友達。繋がりは絶たれても、私たちには奪われたくないものがあるから」
「ただ王劍の機能を利用した程度で、私達の結束まで絶てたなんて思わないで下さい」 ええ、と深雪は頷く。彼女の気持ちを理解しているから。そのために自分は力になると決めているのだから。
「守るために……あなたを倒します! 勝って帰ろうね、深雪ちゃん!」
「往きましょう、澪さん。作戦目標は勝利、そして……生還です」
 澪はジェヴォーダンへと駆けながら|魔剣執行・忘失技術《マケンシッコウ・ロストテクノロジー》でCSLM――軽装型強化外骨格の首回りを頑丈且つ、滑る素材へと進化させる。
 白い手が伸び、澪の首へ至る。だがその手では掴み切れずつると滑って通り過ぎていく。澪は深雪ちゃんのも、と視線向ける。深雪に伸びる白い手――それは今、粘液に塗れてその首を掴めずにいた。
「掴もうとする手の方を滑らせてしまえば良いだけです」
 |暗号化通信《エンクリプテッド・コミュニケーション》で手元に転送させた火炎放射器を、メカニックの技術で可燃性ガスの容器を即座に取り外し、即席の粘性の燃料を圧搾ガスで噴射する装置としたのだ。
 澪が死角を補ってくれていたから、目の前にきたものを素早く空中駆け避ける間にそれができる。
 あとは燃料を噴射すれば白い手は粘性の黒い液体を纏ってドロドロに汚損されていく。手に対処しながらも、|殲滅兵装形態《アナイアレイターモジュール》へとなる深雪。
 その注意には超火力浮遊砲台が、そして六連装思念誘導砲|『従霊』《フュルギャ》が共に。その姿となり反応速度と空間把握能力も跳ね上がる――白い手が来るのを感じればすぐさま粘性の燃料をばらまいてその動きを阻害していく深雪。
 そこへジェヴォーダンが獣型モンスターをばらまく様に展開してくる。
 数の力というように今まででも一層、多い。
「対処します」
 けれど、深雪がその前に出る。レーザー射撃で向かってくる獣型モンスターたちを処理しながら駆ける。その後ろを澪が駆け、獣型モンスターの波が停まった瞬間、深雪を飛び越えてジェヴォーダンへと肉薄する。
 一歩で瞬間的に距離を詰めれたのは、移動速度が三倍になっているから。魔剣「オブリビオン」を下から上へと振りあげる――その刃をジェヴォーダンは避けるように後ろに下がった。
 届くまいとにたりと笑う舵手―だが不可視の刃が伸び、ジェヴォーダンの片腕を斬り払った。斬り払われた勢いでその腕が空を跳びながら霧散していく。
「俺の、腕を!! 斬りおとすそれをお前も受けろ!!」
 もう一方の腕を高く掲げるジェヴォーダン。その手に握られたのは見覚えのある剣――それを、澪を叩き潰すようにジェヴォーダンは振り下ろす。
 澪の手にしている忘却の魔剣をコピーされた。それは記憶を削り取って忘却させるもの。
(「でも、隣で戦う深雪ちゃんのことは忘れない」)
「記憶を失わせるその剣でも、私たちの|想い《繋がり》は断ち切れない……!」
 ジェヴォーダンが振り下ろす瞬間に合わせて、オリジナルの魔剣「オブリビオン」で澪は受け身を守る。
 刃の咬みあう音がぎちぎちと聞こえる。重さがあり押し負けそうになる――けれど、その気配を感じたから。
 澪は力を抜いて受け流し、ジェヴォーダンの剣は地面に突き刺さると共に消えた。
 そこへ深雪が詰め、次の一手の為に澪が下がる。
「チェーンソーユニット、安全装置解除。工作モードから戦闘モードに移行します」
 それは|対WZ用大鎖鋸<滅竜>《アンチウォーゾーンメガチェーンソー・ノートゥング》――戦線工兵用鎖鋸変形し、ジェヴォーダンに対して威力を上げ、防御力低下を齎す状態に変え、深雪が振り下ろす。
 ジェヴォーダンの肩口から斜めに、唸る鋸がその身に食い込んでいく。
「オアアアアアアア゛ッ!!!??」
 己の身を食い千切るように、食い込んでくる。ジェヴォーダンはこれを振るう深雪を己から話すべく獣型モンスターの群れを至近距離で追い立て噛みつかせていく。
 けれど深雪は離れない。この刃の上に重ねてくれると、知っているから。
「命を奪われる覚悟も、命を奪う罪も、一緒に背負います」
「は!?」
 何をいっているのかと、その鋸の刃を掴み押し返そうとするジェヴォーダンは変な声を出す。けれど深雪のそれはジェヴォーダンに向けたものではない。
「私は、澪さんの――親友ですからッ!」
 その言葉を受け取るのは澪。
「魔剣執行。因果を断て、忘却の魔剣『オブリビオン』!」
 駆けながら魔剣執行者の姿へ。強烈なプレッシャーを纏い走り込む澪。ジェヴォーダンはそのプレッシャーに気おされて身を引こうとしたが深雪がそうはさせない。
 駆ける速度もその一撃にのせ、深雪の鋸刃を押し込むように魔剣執行・断罪を冗談から振り下ろす。
「皆が平和に暮らす|√EDEN《いま》を守るために……切り裂けぇーっ!」
 鋸刃がさらに食い込みジェヴォーダンの身を食い破って、胸元の灯に入る亀裂。
「ウグァッ、アア゛ア゛ア゛ッ!!゛」
 後方によろめきながら――ジェヴォーダンは己の身が千切れぬように残る腕で支え、そして真竜の強大な尾を作り出し二人を払い飛ばす。
「俺にっ、俺にこんな、傷を!!」
 やはり、やはりここで、EDEN共は殺していかねば、俺は安心して身を隠すこともできない、殺す、殺すとジェヴォーダンは怨嗟の声を落とすがその呼吸は荒々しく――切羽詰まっている。
「ジェヴォーダン、あなたの命運もここで尽きます」
 最後の一手が、必要だ。
「空に咲いた花、流れた風よ。どうか、この剣をお導きください」
 結希は天上界に在った神秘の花風を纏う。駆ける速度は三倍に、ジェヴォーダンの元へと一気に距離を詰めて。
「くっ、|縊匣《くびりばこ》!!! あれを殺せ!!! 守れ!!!」
 ジェヴォーダンが白い手を向けようともその首の流水の守りは触れようとするものを弾く。
 向かってくる手を躱しつつ、結希は澄み渡る空の色を宿す長剣――蒼穹剣『レガリア』を握る力に手を込める。
 加速、一気に距離を詰めその懐へ――そう見せかけ、地を蹴った結希。
 真竜とした残る腕を振りおろしたジェヴォーダンは手ごたえのなさに知る。
 ひたりと、死が一歩近づいたと。
 結希の瞳はジェヴォーダンを捕えている。空を駆け、翼広げたなら後ろに回り込み、この位置と空を蹴った。
 そして、結希はジェヴォーダンを見つめるかのような|王劔《おうけん》『|縊匣《くびりばこ》』ともすれ違う。
 けれど、今は。
「未来を切り拓く、希望の力よ!」
 終わりを齎すために。
 蒼穹剣と共に、花開く事を知らせる風を纏ってジェヴォーダンを貫く。
 重ねられた攻撃は、ジェヴォーダンを確実に追い詰めていた。そして最後に吹き抜けた風がその身を貫き、もはやこの場に繋ぎ止める事ままならぬ状態へと達する。
 貫き、地に足付けた結希がジェヴォーダンを見れば――裂かれた傷跡が爆ぜるように広がって、その身体は二つに分たれた。
「あ゛……? な……ア゛っ!!??」
 視界が下がった。落ちた衝撃がある。ジェヴォーダンの視界は地面を捉え――いや、自身の半身がそこに。何故そこにある。身体はもう動かない。
 何故、何故か――そういうことだ。やられたのだと理解したジェヴォーダンは悪態吐きだす前にざらりと、靄になって全てが消えていく。最後の怨嗟を零すことも許されず、死の中へと落ちて行った。もう二度と、蘇ることはない。
 いや、残っているものはあった。その趨勢を見つめていたもの――|王劔《おうけん》『|縊匣《くびりばこ》』がそこに、ある。
 それは『失望』の色を漂わせているように、この場にいる者達は感じた。
 破壊か、確保か――しかし、√能力者たちが動く前に|王劔《おうけん》『|縊匣《くびりばこ》』は砕け散った。誰にも触れさせる事無く。

 戦いの終わりは、皆が重ねた力の末に。
 融合ダンジョン事件から始まり、そして辿りついたジェヴォーダンとの戦いは終わる。
 そしてジェヴォーダンが持っていた|王劔《おうけん》『|縊匣《くびりばこ》』も砕け散ったがそれは小分身――まだ、|王劔《おうけん》『|縊匣《くびりばこ》』との戦いは終わらない。

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