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【王権決死戦】黒き竜と白き御手
●王権決死戦へ至る
いくら殺そうとも、死そうとも蘇る。
しかし、絶対死領域の中では永遠の死しかない。
黒き竜と|王劔《おうけん》『|縊匣《くびりばこ》』が共に並ぶ。
絶対死領域たる場所、本拠地。今ならば――|まだ《・・》繋がっている、そこに到る道が。
王権決死戦――星告げるその時が乙女椿・天馬(独楽の付喪神・h02436)の瞳に映る。
その時がきたのだと、見得た光景を天馬は√能力者たちへと伝えていく。
「秋葉原荒覇吐戦の最中に悪い、忙しい状況はなのはわかってんだけど、リンドヴルム『ジェヴォーダン』を斃す好機が巡って来た!」
秋葉原の芳林公園でのリンドヴルム『ジェヴォーダン』との戦い。重ねられたその戦いが王権決死戦への道を開いたのだと。
「ジェヴォーダンは、王劍戦争の混乱を利用して芳林公園を『融合ダンジョン』とする作戦を行っていたんだけどな」
それを行おうとしていたのは、自分の手勢が減ったから。
7月から起こっていた融合ダンジョンの事件。融合ダンジョンの作戦が阻止され、そして最近では南フランスに有していた複数の配下組織を失ったジェヴォーダン。芳林公園を融合ダンジョンとする作戦は、戦力が低下しているジェヴォーダンの逆転を狙う一手だったのだろう。
「けど、皆がめっちゃくちゃにボコしたから!」
王劍戦争に参戦した√能力者達がジェヴォーダンの企みを打ち崩したことにより、撃破する千載一遇のチャンスを得ることができたのだ。
「これから、ジェヴォーダンの元に辿り着く道筋を説明する! ひとまず俺が見た限りだから、もしかしたらそれ以外のことも起こるかもしれない」
そう前置いて、天馬はまず出発地点は――秋葉原の芳林公園だと告げる。
「皆も足を運んだばっかりの場所、『融合ダンジョン』化の阻止に成功した秋葉原の芳林公園なんだけど、ここに作られようとしてた融合ダンジョンは大戦力を送り込むため、ジェヴォーダンの本拠地……つまり、√ドラゴンファンタジーに直接繋がってる」
でも融合ダンジョン化は失敗した。そして今、√間の繋がりが消えようとしている。
「だから消える前に、追撃する!」
まだ繋がりは絶たれていない。相手の本拠地へとつながる道へと飛び込むことができるのだ。この機を逃せば、次にいつ機会が巡ってくるかはわからない。
「けど、ジェヴォーダンも追撃されることを予期してる。繋がりが消えるまでの間、侵入を阻止するための決死隊を置いてるんだ」
√間のつながりが消えれば、その決死隊は√EDENに取り残されることになるだろう。それを覚悟の上でいるから、手強い相手となることが予想される。
つまりは、決死隊。ジェヴォーダンに忠実な者達が、本拠地へとつながる道筋や重要な場所に立ちふさがっているのだ。
しかしどんな相手であっても倒し、√能力者はその先へ進むことを選ぶだろう。
「その敵を倒して融合ダンジョンを抜ければ、そこがジェヴォーダンの本拠地。そこはさらに複雑なダンジョンになってる」
強力な防衛戦力がもともとは配置されていたはず。けれど、王劍戦争にほぼ全ての戦力を投入したために有力な敵は残っていない。
しかし、侵入者対策の罠などは生きている。それがどのようなものかと言えば、様々だ。
たとえば、落とし穴や槍がふってきたり。崩れる天井や巨大鉄球といったもの。毒や幻覚を見せる霧の立ち込める通路。ぬるぬるで進みにくい場所があったり。はたまた、通れば全方位から砲撃が来る殺意の高い場所があったり色々な手法で追い詰めようとしてくるだろう。
その罠を潜り抜け最深部へ至れば、そこに、『|王権執行者《レガリアグレイド》』であるジェヴォーダンがいる。
今まで戦ってきたジェヴォーダンとは段違いに、強化もされているだろう。
「|王権執行者《レガリアグレイド》との戦いは、√能力者であっても死の危険から逃れられない。死ぬ覚悟があるやつだけ……死んでもいいって覚悟ができてるやつだけ向かってほしい」
ここから先は|王劍《おうけん》の座す領域。死の稜線を√能力者は歩まねばならない。生きては戻れぬかもしれない。その覚悟を持って、√能力者たちは向かわねばならないから。
天馬は改めて問う。
Ankerとのつながりが切れるその場所へ、向かう気はあるかと。
第1章 集団戦 『ボーグル』
秋葉原の芳林公園――√間のつながりはまだここにあった。
そこへためらいなく飛び込む√能力者たち。その先はダンジョン。
岩壁の場所であったり、レンガで作られた場所であったり。はたまた緑のダンジョンであったりがちぐはぐに合わさっているような状態だ。
その中を進んでいく√能力者たち。しかし、往く手を塞ぐ者達がいる。
それはボーグルたち。
「キタ!! ジェヴォーダン様ノタメニ!!」
「アノ方ノタメニ、コロセ!!」
「コロセ!! コロセ!!!」
「ヒトリデモオオクココニトドメロ!!」
その瞳は血走っている。異様に戦意が高くジェヴォーダンの為にとその忠誠心を見せる叫び。
「ココヲ守ッテモ、オレタチハカエレナイ!! ダガソレデイイ!!」
「ジェヴォーダンサマノタメニ!!」
「イノチヲカケルノダ!!!」
オ゛オ゛オオオォッ!! と雄叫びをあげた。その声はダンジョンの中に反響し、何処までも響き渡る。
このボーグルたちは、√間のつながりが途切れたら√ドラゴンファンタジーに再び戻ることができないことを理解していた。
つまり、決死隊。命を賭してジェヴォーダンのために、この場を守ることにすべてを傾けている。
ボーグルたちは何体かずつに分かれ通路の各所を塞いでいるようだ。この先へ進ませないとぎらぎらと戦意を滾らせて。
道を塞ぐボーグルを倒さなければ、この融合ダンジョンは抜けられない。しかしその敵こそがジェヴォーダンがいる本拠地への|導《しるべ》でもあった。
消えゆく融合ダンジョンへ入った途端――すでに、そこに最初の壁があった。
複数のボーグルたちが陣取っていたのだ。なるほど、入り口で叩けたならそれが最上ということなのだろう。
けれど、この場所は絶対に崩し、押し通ると√能力者たちの士気も高い。
初めは興味本位で首を突っ込んだ融合ダンジョン事件だった。
けれど、今は純粋に少しでも早く事件を解決したいとサン・アスペラ(ぶらり殴り旅・h07235)は思う。
だから――
「迷ってる暇なんてない! ここを突っ切って、ジェヴォーダンのバカをみんなで殴りに行こう!」
サンの声に呼応するように共に駆けるのは、同じく融合ダンジョン事件を追っていたひとり。
「ジェヴォーダンと決着つける絶好の機会……逃すわけにはいかない……!」
空地・海人(フィルム・アクセプター ポライズ・h00953)は走り抜けた先に居る存在へと意識を向けている。
「ここは押し通らせてもらうぜ!」
変身ベルトを腰に巻き「現像!」の掛け声。緑の装甲を纏うフィルム・アクセプターポライズ √汎神解剖機関フォームへと変身した。
最初に会敵したボーグルたちの一団も、此処を通らせぬと大きな雄たけびを上げる。
その身に毒棘を滾らせたボーグルたち。
あれは避けると面倒とサンは判断する。今傍にいるのはダメージの肩代わりをしてくれる42の木精たち。
飛行移動で道塞ぐボーグルへと一気に距離詰める。
「ドクヲアビロ!!」
突き出されたボーグルの毒棘。けれどその前に木精が飛び出しそのダメージを肩代わりする。
そしてカウンターとサンは殴って反撃を。消えていく木精にありがとと一瞥もともに。
海人もイチGUN――エネルギー弾を発射する拳銃での牽制射撃で間合いを取る。
その身に棘を巡らせて体当たり攻撃を仕掛けてくるボーグル。
「俺の第六感が離れろって告げてるんでね!」
それを受け止めず、海人は後方に飛んで、√汎神解剖機関フォーム専用武器である空撮爆弾・ハイアングルボマーの上へ。
しかし避けたと同時に海人のいた場所に無数の毒棘が突き上がる。
そして今、海人は上をとっている。
「さあ、|撮影会《超必殺爆撃》の時間だ!」
ミニハイアングルボマーの数は42。現れたそれは毒棘の場所も含め爆破を行っていく。その爆破に載せるのは疑心暗鬼。この攻撃を耐えたとして、その心に疑念が映えれば動きの精彩さは鈍るだろうから。
「ガアアアッ!!」
爆破を受け、その体の一部を弾かれながらもボーグルの戦意は衰えない。
「ジェヴォーダンサマノタメニ、ココハ……!」
その様子にサンは、しかし驚いたと零す。
「まさかジェヴォーダンにここまで忠誠を誓う手下が居たなんて」
その言葉に、自分たちの存在を固辞するようにボーグルたちは咆える。
「ワレワレハ! アノカタノタメニ!!」
「お前たち、本当にジェヴォーダンなんかのために命を懸けるのか?」
そこへ海人が言葉投げかける。疑心暗鬼となっているはず。だから向けた言葉でその戦意が鈍るのではないかと。
「あいつは姑息と卑怯の塊みたいな奴だ。お前たちのことなんか、これっぽっちも気にかけてないと思うぜ」
その言葉に異を唱えるように唸り声が重なる。
「ソレガナンダトイウ!! ワレワレノイノチナド!!」
「アノカタノステゴマデイイ!!」
疑心暗鬼も揺らがぬほどの忠誠。雄たけびと共に毒棘を一層滾らせ向かってくる。
海人はそういうつもりなら、正面からやるしかないなとイチGUNを構え、その懐にはいり至近距離で打ち放つ。
そしてサンも、その言葉を耳にして。
「そうか……お前たちも死を覚悟してるんだね」
根性曲がってるアイツの手下にしては真っ直ぐなヤツらだと僅かに笑う。
「イイじゃん、燃えてきた!」
その言葉と共にサンの太陽の翼が一層の激しさをもって燃え上がる。
「私も本気でやってやる!それで恨みっこなしだよ!」
太陽の翼を燃え盛らせて、毒棘を滾らせるボーグルたちへとサンは正面から、空中駆ける。
「燃やせ魂!」
その声と共に一層激しく燃え上がる太陽の翼。燃え盛るボーグルたち。
しかし、その体燃え尽き果てるまで戦うのだと、正面より突っ込んでくるものもいる。
そのボーグルを前に根性あるヤツ! とサンは構えてただ拳を前に出しぶっ飛ばす。
「悪いけどここは通らせてもらう!」
ボーグルたちの上で再びの爆発。それは海人が仕掛けた一撃でもある。
ボーグルたちの中に燃え尽きて落ちていくものもある。この場所を制するのはもうすぐだろう。
やがてその道の先が開けて。
「道は拓けた! みんな続け!」
サンはその声を仲間たちへと向け、そして自身もただ前へ、この先へと駆ける。
最初のボーグルの壁を打ち払われた。
しかしまだこの消えかけの融合ダンジョンにはボーグルたちが各所に配置されている。通してはならないと各所に陣取り道を塞いでいるから。
√能力者たちはダンジョンの中へとそれぞれ散っていく。ボーグルたちが集う場所を進んでいけば、いずれは本拠地たるダンジョンへと辿り着くだろうから。
この融合ダンジョンが消えるまえに――それは√能力者にとってもボーグルにとっても時間との戦いでもある。
融合ダンジョンが消えれば本拠地へは辿りつけずジェヴォーダンが再起を計れる。その礎になるのだとボーグルたちはぎらついていた。
「このボーグル達、士気が高い……覚悟を決めているんだ」
「まるで狂信でありますな……しかし、決死の覚悟で臨んでいるのは小生らとて同じであります」
夢野・きらら(獣妖「紙魚」の|古代語魔術師《ブラックウィザード》・h00004)タマミ・ハチクロ(TMAM896・h00625)は魔導書を手に、ボーグルたちと向かい合って、タマミ・ハチクロ(TMAM896・h00625)の言葉に頷く。
「うん、王権決死戦に挑むぼく達もそれは同じ」
毒棘を纏い、突撃してくるボーグルたちがいる。きららはその前に立って、自分の全面へとエネルギーバリアを展開した。そのままボーグルの毒棘の攻撃を防いで、そしてぐっと押し込まれそうになるのを耐えて、踏みとどまる。
「タマちゃんはバリアの内側から準備をおねがい!」
そう、きららはタマミへと声かけながら魔力を魔導書へと集中させる。
どれだけボーグルが強化されても、完全無欠の敵って訳じゃない――竜漿魔術でボーグルの隙を見出してみせるときららは言う。そこへ攻撃をして欲しいんだと。
「照らし出せ、暴いてみせろ」
魔導書が燃え上がる。ボーグルたちの隙――今それは、まだ見えない。
ボーグルたちは猛々しく獣人の長の記憶を滾らせその腕力をあげてきららのバリアを圧し割ろうとしてくる。
タマミもプロテクトバリアを巡らせ、きららの助けを。
そして自身は攻撃の機会逃さぬように構える。
「守って頂く分の仕事はやってみせるであります!」
その声にきららは頷いて、そして集中する。ボーグルたちが毒棘を巡らせて再びの突撃をかけようとしてくるのを前に、息をのむきらら。
「……受け止めるしかないかな」
避けたなら周囲一帯を毒棘だらけにされてしまう。
ダメージを癒す√能力はあとで使えばいい。
「√の繋がりがどの程度持つのかわからないから先を急ごう」
ここで止まってはいられないときららは思う。
「ぼく達はボーグルの思い通りになんてなってやらないさ」
ボーグルたちが毒棘でバリアを刺し貫くように仕掛けてくる。その、貫いた瞬間が隙。
今! ときららがタマミへと伝えれば。
「主よ、我らを哀れみ給え――」
天使の羽を模した軽量型レイン端末。その羽より放たれる聖属性の弾丸が放たれる。
それはバリアを通り抜け、ボーグルたちの身だけを貫いていく。その毒棘を貫いて。時には地面を撃ったものもあるがそれは聖なる光となりボーグルたちの身を激しく貫いた。
そしてきららには聖なる加護を。
「きら殿」
「これなら、押し返せる!」
バリアを支える手に力を入れて、ボーグルたちを弾くように押し返す。
戦っている仲間たちは他にもいる。そちらからも、すぐに追撃が入っていく。
ボーグルたちと正面からぶつかり合う。けれど真面目に付き合う必要もない。
「さて、舞台を整えましょうか」
爽やかな風と共に現る誉川・晴迪(幽霊のルートブレイカー・h01657)。しかしその風はすぐに不気味で不思議な濃霧を運んでくる。
今まさに目の前に敵がいたというのに、霧に飲まれて見えなくなったボーグルたちは声を荒げて、しかし目の前にいるとなりふり構わず攻撃をしかけてくる。
その様子に青白く燃え上がりながら浮遊する人魂を晴迪はいくつも呼び出した。
現れては消える――霧の中でのこと。だがボーグルからすれば敵影なのだ。
魂魄炎がゆらめく。その瞬間ボーグルは毒棘を滾らせて体当たり。しかしそこには何もないのだ。
そこへ無数の√能力者の幻がボーグルへと襲い掛かる。ボーグルたちは得物を振り回すが、手応えはない。
「何せ幻ですから」
ふ、と晴迪は笑って死角からヒトダマ死霊が容赦ない不意打ちを。
その攻撃続けばどこから、と混乱するボーグルたち。
五里霧中――と、晴迪は紡ぐ。
「ムキムキなあなた達にもぴったりの言葉ですね」
「霧ナドフリハラエ!!」
「棘ヲシカケロ!! イルノハマチガイナイ!!」
「ジェヴォーダンサマノモトニイカセルナ!!」
ボーグルたちは猛々しく声あげる。
(「ジェヴォーダン……僕様ちゃんはまだこの人と殺り合ったことはないのだ」)
けれど、噂はかねがね聞いているわとウララ・ローランダー(カラフルペインター・h07888)は零す。
融合ダンジョンを作り、非道な実験をしていた。その事実を知ったなら、じっとしている事なんてウララには出来なかった。
「ヒーローたる僕様ちゃんはそんな事、絶対許せないんだから!」
特殊ウォーターガンに紫インクをアクセプト。
霧の中だけれども、相手がどこにいるかは十分にわかる。
(「僕様ちゃんの『時間操銃』は誰かのフォローするとより強い、だから」)
ウララは誰かの手伝いになるように動く。
「バイオレット・アクセプト! 時よ僕様ちゃんに味方して!」
ウォーターガンから放たれた弾がボーグルを彩る。
その攻撃受けたボーグルはなんだ、と思うがその足が、体が全く動かなくなる。
「アイツをボコボコにするのよ!」
その声に、反応する。動きが停まっている――であれば、狙い時。
其之咲・光里(無銘の騎士・h07659)は即座に踏み込んで、|無銘輝剣《ストレイライト》を振り抜いた。
鈍い音と共に、ボーグルが密集する場所へとその敵は吹き飛ばされる。
「バッチリ!! 僕様ちゃんもボコボコに撃ってやるわ!」
その吹き飛ばされた勢いで霧が僅かに途切れたが、ウララは遠距離から属性乗せた制圧射撃を繰り出す。
近接攻撃を仕掛けられそうになる、でもその前に討ち取ればいいだけ。
「ガァッ……! イノチヲツカイツクセ!!」
自分たちの力が削られても、ボーグルたちの戦意は衰えず。光里はその様を目にし改めて、向かい合う。
(「相手の絶対負けられないという意気込みは、力の入りすぎに繋がって、隙を生むはず……!」)
|無銘輝剣《ストレイライト》――光を歪に吸収し、反射する研ぎ澄まされていないその刀身。大剣型の竜漿兵器を構え光里は強化された腕力で振り下ろされる無骨なナタを受け止める。
「っ!!」
重い、けれど――全身の竜漿を右目に集中させ、次の攻撃の為に大きくふりかぶり、あいたその胴へと無銘輝剣を向ける。
光里もなぎ払うための挙動で隙ができる。どちらが一撃を入れるのが早いか。
重さを乗せて、光里がなぎ払う方がわずかに早かった。敵の集う場所へ吹き飛ばしさらに隙を。
しかし、敵も薙ぎ払われながら振り下ろす挙動はやめず。本来の威力を鈍らせるように無銘輝剣へと攻撃をあててきた。
「オシカエセ!! ココヲトオスナ!!」
「負けられない理由があるのは、あなた達だけじゃない!」
押し込もうと、崩れた隊列をボーグルたちは再び築き、光里へも再び飛び掛かる。
「悪いけど、押し通させてもらうよ。ジェヴォーダンにもあなた達にも……その先の光は与えない!」
「ジェヴォーダン様ノジャマハサセヌ!! グアアアッ!!!」
高らかと叫びながら光里へ仕掛けようとしていたボーグルが、レーザー射撃によってその目のあたりが撃ち抜かれる。
「立派な覚悟だ。だけど俺達も退くことはできない」
遠距離からのレイン砲台での射撃。クラウス・イーザリー(太陽を想う月・h05015)は間合いを計りながら、体内の魔力を剣の形に錬成し走り込む。
急接近。走り込みながら居合を放ち、目のあたり抑えるボーグルを斬り捨てた。
クラウスの視線は厳しい。
人の心を蝕んだ融合ダンジョンの騒動は記憶に新しい。クラウスも融合ダンジョンの事件に関わったひとり。
その行動企てたジェヴォーダンの首元にこの剣が届くというのなら。
(「この好機に、何としてでも止めなければいけないんだ」)
ボーグルが荒々しく武器を振り払う。思いのほか俊敏な動き――能力が上がっているのだろう。けれど隙が無くなる訳ではない。
素早いのなら広範囲への射撃による牽制をとレイン砲台を動かすクラウス。
動きが早く捉えにくいなら射程範囲を広げればその中に入るはず。
時折、動きを止める個体もいる。それがウララの攻撃によるものと見て、クラウスはタイミングを合わせるようにしかけた。
御剣・刃(真紅の荒獅子・h00524)はダンジョンを進んだ先、新手のボーグル性質と対していた。
「ジェヴォーダンサマノモトヘハイカセン!!」
「ココデシネ!!」
ボーグルたちの戦意はみなぎっている。刃はなるほど、とその瞳を細めた。
「ジェヴォーダンにそれだけの人望があるかどうかはともかく、士気は高いようだ」
なら真正面から打ち砕き、突き進むのみ。
「戦士として、誉ある死をくれてやろう」
「デハキサマニハグドンナルシヲ!!」
ボーグルが己を強化し、その腕に力をみなぎらせる。その力が入る瞬間を刃は見て、自身のリミッターを解除する。
身体能力の限界を無くし、それ以上の力を。
敵が無骨なナタを振り下ろすより早く、拳をその懐にねじり込むように打ち込だ。
「グボォッ!!」
良いところに入る感覚。そのまま続けて零距離格闘をしかける。
だが横から、別の一体が刃へ攻撃を繰り出そうとした。
しかしその動きが来る前に、捨て身の一撃で目の前の一体を殴り砕き粉砕する。
「良い勝負だった。ジェヴォーダンもすぐにそっちに送ってやるから、そんなに寂しくねぇぞ」
倒れた一体へと手向ける言葉。
けれどさっきの一体がいると、すぐさま刃は身を翻すが、それは魔力の鎖で戒められていた。
その鎖を操るのはミニドラゴン。シアニ・レンツィ(|不完全な竜人《フォルスドラゴンプロトコル》の羅紗魔術士見習い・h02503)の召喚したものたちだ。
この先はいつ死の谷底に落ちても不思議はない。
死ぬのは怖い――そう思う事は普通だ。
シアニもいま、その想いを抱いていた。
(「……でも。魔物にされた子も、酷い実験をされた人もそうだったはずなんだ」)
ここで止めないと、また誰かが同じ目に遭う。それは嫌とシアニは顔をあげ、だからと一歩を踏み出す。
「怖がるのは後回しっ!」
前に進むのが救えなかった人たちに報いることだと信じて今は戦くだけだ。
シアニは羅紗マフラーで魔術巡らせ遠距離から攻撃を。
けれどボーグルたちも排除を擦るべく突撃をかけてくる。
シアニの傍らで緑竜「ユア」が鳴き声あげ火球を放ち牽制。けれどそれをものともせず突き進んでくるボーグルは耐久力が高いのだろう。
手心は加えられない。気を抜いたらやられてしまうのがシアニにはわかるから。
けれど、思う。
(「この魔物たちも騙されてるのならやるせないね……」)
ユアが鎖でからめったところをシアニはハンマーで打つ。鈍い音と共に目をまわしながらボーグルは膝を付くがなお立ち上がろうとしていた。
「ゼッタイに……トオサヌ!!」
その声には決意がある。死を覚悟しているからこそ絞り出した声だ。
互いに決死は覚悟の上と――上等だ、とフィオ・エイル・レイネイト(無尽廻廊・h06098)は紡ぐ。
「その上で私は君たちを踏み抜いていく。その覚悟、踏み抜かせてもらうよ」
呻きながらも戦意滾らせるボーグルがフィオの姿を認識する。
その直後に、獣の姿が刻まれた、緑色の刀身を持つ刀――妖刀『無尽廻廊』に手をかけフィオはその妖力を解放する。
途端、フィオの視界の中にいるボーグルたちを振動が襲った。
立っていられぬほどの揺れ――地面が揺れるならば跳躍すれば僅かでも逃れられるのではと動くボーグル。
けれど、空中ですら振動は止まらない。ならば一撃をボーグルは腕力強化しフィオへ飛び掛かる。
その刹那、フィオは一気に溜めた力と共に妖刀抜き放ち両断する。
「グァ、アアアアッ!!!」
「!!」
それは絶命の一撃。だがまだ残る命を賭してボーグルはフィオへナタを振り下ろした。
フィオは硬化した右腕でそれをしのいだが、鈍い痛みが走る。
倒れ、光失うボーグルの眼。そこに無念さを感じ、フィオは紡ぐ。
「こちらも覚悟は決めて来たんでね。先に進む覚悟さ」
だから、残る敵に視線向ける。
「一個聞いておこうか。君たちの目から見るジェヴォーダン、どんな奴だった?」
何故そんなことを聞くのか、とボーグルたちは唸る。
「ここまで君たちを熱狂させられる奴だ。私が勝とうが負けようが、どんな印象があったのかは知っときたい」
ボーグルはスバラシイカタダ!! ツヨイ!! カッコイイ!! アタマガイイ!! とたたえるように声を上げる。
その様子にフィオはしまったな、と思う。
「士気をさらに上げてしまった……」
それでも、ここにいるボーグルたちを倒すだけだ。
絶対死領域――その気配に近付いていくごとにアマランス・フューリー(星漣の織り手にして月詠の紡ぎ手・h08970)はその記憶を鮮明に思い起こしていく。
(「……あの魔術塔での決死戦は私の運命の転機だった」)
あの時救われた私だからこそ今度は他の人も救いたいと、消えゆく融合ダンジョンにアマランスも足を踏み入れたのだ。
僅かに表情を硬くする彼女をちらりとみて、パンドラ・パンデモニウム(希望という名の災厄、災厄という名の希望・h00179)の胸中にも芽吹くものがある。
まさかアマランスさんと他の決死戦に出るとは思いませんでした、とその気持ちを素直にパンドラは零す。
「いやあ人生も運命も何があるかわかりませんねえ」
そう言ってパンドラはまっすぐアマランスを見つめる。
「頑張りましょうねアマランスさん、私が護りますから」
その視線をアマランスは受け止める。そしてパンドラの唇がまだ動くのを目にした。
「……あなたは死んではいけない人です」
その言葉にパンドラの深い想いを感じ、アマランスは頷きつつも、自分の言葉を彼女へ向ける。
「パンドラ、無理はしないで。あなたも私の……大切な人なのよ」
パンドラは笑って頷くと、この先にいる気配がしますと意識をそちらへ。
「ココハトオサナイ!!」
「コロセ!! コロセ!!」
激しい雄たけびを上げるボーグルたち。パンドラはわぁ、とその表情を微かに歪める。
「なんかボーグルさんたち盛り上がってますね……」
けれどそんなこと知ったことではない。
「人に迷惑をかけてまでテンアゲしないでください」
そしてアマランスもひとつ吐息零す。
「過ぎた忠誠心は哀れなもの、羅紗にいた私だからこそわかるわ」
せめて死をもって解放してあげましょう――そう言ってアマランスはパンドラに動きを合わせる。
パンドラはウラヌスの右目とクロノスの左目を使い戦場全体を測る。そしてハーデスの隠れ兜をかぶり、ボーグルたちの認識を阻害しつつ幻影を操り、その意識を乱す。
アマランスも気配を殺し、その機を伺う。
「我が身より今ひとたび放たれよ、三重に終焉をもたらすもの」
パンドラが静かに紡ぐ。
するとボーグルたちの動きが変わった。
「ココダ! ヤッタ!! ヤッタゾ!!!」
その幻影はどんなものだろうか。壁を殴りつけ喜んでいるボーグルが始まりだった。次第に壁から、ボーグル同士へとその動きは変わっていく。
その動きに重ねるように、混乱の最中でアマランスは踊る様にその羅紗端切を振りまく。
同士討ちの中に火炎や雷撃が走る――すると流石にボーグルたちもおかしいと気付いた。しかし、だ。
パンドラが災厄を解放する。どこからともなく隕石が現れボーグルたちを潰すように落ちてきた。
それは|封印災厄解放「終末の三重葬」《メギド・トリスメギストス》の終わりに来るもの。
「グアッ!!」
「ウデガア!!!」
「ガアッ!!!」
痛みを感じて叫び声が響く。しかしそれをなんとか耐えきったボーグルもいるのだ。
ぎらぎらと敵意をみなぎらせボーグルは最後の力を振り絞るように向かってくる。
「アマランスさん!」
「ええ、大丈夫」
まかせてとアマランスは紡ぐ。
「時の果て虚空の彼方より織り為さん、紡がれよ白き呪いの手」
|純白の騒霊の招来《エヴォカーエ・レムレース・アルブス》をもって、アマランスは終わりを下す。
「行きなさいレムレース、触れたものすべてを消し去るその光で道を切り開くのよ」
未来へつながる道をね――とアマランスの声はあえかに紡がれる。
嘆きの光が残るボーグルたちを消し去るのだった。
「玲子? あれ? 電波悪い?」
Ankerとの連絡が途切れる。オペレーターとしていつも共に立ち回ってくれていた彼女とのつながりが。
レイ・イクス・ドッペルノイン(人生という名のクソゲー・h02896)は新ためて自分が向かっていく場所を理解する。
「……そっか、そういう場所なんだ、此処は」
そして――前方から感じる気配。それはこの先に行かせまいと立ち塞がるボーグルたち。
「数が多い上に狭い! 圧倒的質量には圧倒的暴力って玲子も言ってた!」
戦いとなればレイはすぐに切り替える。
ラビングストライクの爆破範囲と手数を、そしてラベンダー・ブルーのノックバック範囲を、複数人入れるほどに拡大を。
当たり判定を|メソッド・亜空間力学《ナゾノシ》を自身の得物に注ぎ込んだのだ。
集団狩猟の体勢をとりボーグルたちが向かってくる。レイはラビングストライクを投げ放つ。爆ぜる爆発にボーグルたちは苛まれる。
そして世界の歪みが向かってくるのを邪魔して近寄らせず押し戻す。
それでも突破してこようとするボーグルもいるから。
重力変異現象であるキリング・アワーでそれを弾き飛ばす。
それでもまだ、押し寄せてくるのだ。決死隊であるボーグルたちは一体とて引くことが無い。
「敵は通路にミチミチと……ならば一手何得かと行きましょう!」
真心・観千流(最果てと希望を宿す者・h00289)は戦っている場に遭遇する。
まだボーグルは観千流人気付いていない。近接攻撃が届かぬ場所で観千流は高らかと。
「私は常に、進化する!」
4100発のナノ・クォーク――電子より小さく特殊な観測装置を使わない限り結果を確定させない性質を持つ極小物質――その属性の弾丸を撃ち放つ。
それを受け、そしてその着弾付近にいるボーグルたちはインビジブル崩壊の弱体化と量子崩壊による2倍ダメージを与えるのだ。
そして味方には、回復と短距離テレポートという強化を。
一気に放たれた弾幕が敵を翻弄し削り、戦線を押し上げる。
そしてその弾丸はダンジョンにも撃ち込まれている。ダンジョンの構造をハッキングし情報収集を。量子の並びを読みとりダンジョンの構造を把握できればと行動するが消えかけているここはとても不安定で、状況は移り変わっていく。
(「石橋を叩くように慎重に、確実に崩していきましょう」)
何か罠などがあれば、量子干渉弾頭で固定し動かなくし、不利を減らそうとしていたが揺れ動く中で罠のようなものは見当たらなかった。
観千流の援護が面倒だと判断したボーグルたち。すぐさま狙いを定めてくる。
「ヤッカイナヤツヲツブセ!!」
毒棘をその身に生やし観千流のもとへ。
けれどその間に素早く入る影がひとつ。
異形化した赫夜・リツ(人間災厄「ルベル」・h01323)の左腕がボーグルを殴り飛ばし、襲い来る一撃を邪魔した。
「グアッ!! コロス!!」
殴り飛ばしたボーグルはすぐさま起き上がり、リツへといらだたしげに視線を向ける。観千流からリツへと標的を変えたのだ。
融合ダンジョンは色んな人が巻き込まれて大変だった。その元を断てるなら、早い方がいい――だからリツは今ここにいる。
よし。丁度一段落ついた頃だし、急いで現地に向かおう――とやってきて、遭遇するのも早く。
躱す言葉もなく殴り飛ばすことからリツの戦いは始まった。
「ボーグル達の熱気、すごいな……」
ぎらぎらと向けられる敵意。リツはそれを瞬き一つでいなしてしまう。
「そこまで尽くせるものがジェヴォーダンにあるんだろうけど」
僕たちにも譲れないものがある――その熱気に気圧されないように、こっちも気を引き締めていこうとリツは己の左腕に声かける。
「ギョロ、出番だ」
「出番? それは暴れていいってことだな!」
楽しそうに笑う左腕の怪異。今日は荒ぶっても注意はきっとないだろう。リツは頷いて、一緒にたくさん敵を殴り飛ばそうと告げる。
その言葉にけらけらと楽しそうにギョロは笑って、もちろんそのつもりだぜ! と応じた。
多くの人が進めるように、道を切り開いていく。それが今、自分のすべきこととリツは分かっている。
隠れて忍び寄って来たボーグルの気配に反射的に左腕を振り上げて耐えたなら、痛い! とギョロの文句の声。
けれどその痛みをボーグルに殴って返す。
集ってくるボーグルたちへ、まとめて。やられたなら倍にして返すだけ。
「決死隊なんて慕われてるじゃんジェヴォーダンサマ」
まあ私らには関係ねーけどなと零しながら一百野・盈智花(災匣の鍵・h02213)は見つけた敵の元へと駆ける。
「ロクでもないことしかしてないみたいだし、そろそろオトシマエつけてもらおうか」
ボーグルの配置されている場所を辿れば本拠地に辿り着けることに盈智花は小さく笑った。
「迷わずに済むぜ。ナイス目印」
そしてそのまま集う場所へと盈智花は走る。
「|解体《バラ》せ、ジャック・ザ・リッパー」
盈智花は怪異を解放する。瘴霧と影で構成された輪郭をもつ人型怪異は捉えどころがなく先行する。
「ナニカクルゾ! ギャア!!!」
明らかにおかしいとボーグルたちが構える。しかし、構えても、霧は実体がないのだ。
そしてその霧に紛れて、盈智花も不意打ちをボーグルへ。
しかし大きく武器を振り払い、ジャックの霧を払おうとしてくる者もいる。
「ジャック!」
もし、その身に傷を負ったら。削られたら――遠慮なく切断して食べていい。ジャックは盈智花の意思組んで、刃物を斬りの中で躍らせてボーグルの身を削いだ。
そしてその削いだものが霧の中に消えて行けば、薄れた場所が満たされる。
突然の攻撃にボーグルたちは警戒を深めている。
盈智花はまぁそうなるかと思う。
「覚悟ガンギマリで恐怖感じではなさそうだけど、でも」
戸惑いの中で死んでいけ――何が起こるかわかっていない。戸惑いはそこに確かにあった。
どこからくるかわからぬ攻撃にボーグルたちは解決策を見いだせないままだった。
と――まぐれか、それとも探し当てたか。ボーグルの一体が盈智花を明確にとらえて攻撃を駆けてきた。
しかし、その攻撃は届かない。盈智花に見覚えのある魔手が受け止めていた。
「アンタも来てたのね」
視線の先は、下へ。軽やかな足取りで黒猫が――七々手・七々口(堕落魔猫と七本の魔手・h00560)いた。
七々口はゆらりと7本の魔手を揺らす。その瞳はボーグルたちを捉えていた。
「ジェヴォーダンサマノモトニハイカセン!!」
「ふむ。ジェヴォーダンは随分と部下に慕われてるんやのう」
その理由を聞いたら答えてくれるかな? と七々口は笑って。
「ま、殺す事にゃあ変わらんのやけども」
くつりと喉鳴らして、紡がれる言葉。
「我が身を門とし、来れ。世界を均す妬みの蛇よ」
嫉妬な魔手が大罪深化して、七々口の視界を覆ってしまう。それは一時的なものだがまっくらな世界が七々口に降りてくる。そしてその世界はボーグルたちにも襲い掛かる。
「メガ! マックラダゾ!?」
その慌てている声を気にせず、七々口は嫉妬ちゃん以外の魔手たちに命じる。
「さてと、敵が目が見えなくなって混乱しているうちに、さっさと殺しちゃって魔手達?」
怪力全開でぶん殴って殺ってくださいなーと言う声に、黒に赤纏う魔手たちは拳握ってボーグル性質を殴り始める。
「グアッ!!」
「ゴアァッ!! ギャアアッ」
殴り飛ばされたボーグル。そこへ盈智花のジャックも刃走らせる。ボーグルの視界が奪われてさらにやりやすくなった。
「このあたり一帯、バラしちゃいましょ」
盈智花の言葉に七々口はではそちらに運んでしまおかと一声。すると魔手が盈智花の方へボーグルを殴り飛ばす。
しかしその拳の中を運良く潜り抜けたボーグルが七々口に迫っていた。けれど――嫉妬ちゃんがそれを許さない。
目隠しされたその隙間から金の瞳がわずかに除く。その瞳はボーグルが殴り潰されるのを、あらまぁ派手にと見つめていた。
ボーグルの雄たけび。その声の重さに峰・千早(ヒーロー「ウラノアール」/獣妖「巨猴」・h00951)は思う。
「そちらが覚悟を決めているのに、こちらが生半可で挑むのは失礼に当たるでしょう」
で、あれば――ヒーロー『ウラノアール』に変身し戦うのが千早の、ウラノアールの礼儀。
「ホロベ!! クチハテロ!!」
体に毒棘を巡らせ、そして鉈を振り上げ迫るボーグル。ウラノアールは両端に宝玉を備えた儀礼用の杵、宝珠杵でその攻撃に対抗する。
近距離――にやりと笑うボーグルの顔。
来る、とウラノアールは予感する。毒棘の攻撃は周囲にも散る。だからここは受け止めるべきと察知して。
毒棘を前面にだし体当たりを仕掛けてくるボーグル。ウラノアールの身をその棘は貫き、毒で浸していく。
だが宝珠杵を握る手に力を込めて殴り返す。
「因果は逆転する……貴方の見る真実は絶望です」
「ナニ? グアアアッ!!??」
|巨猴誑かし《ウラノ・トリック》ををもってボーグルに痛みを、毒を転嫁する。
傷は塞がりウラノアールの足元に毒棘が落ちる。躱せばこの周辺に広がっていたであろう毒棘。しかしウラノアールは攻撃を受けた。
くらったそれは広がることなく、その場にとどまったのだ。
「多くの人を巻き込み、いざ狙われれば貴方がたを足止めに逃げ帰る」
だが、まだボーグルは呻いている。自身の毒に苛まれて。それでも、敵意を向け襲い掛かろうとうするのは執念なのだろう。
「そんな|獣《ジェヴォーダン》に与した事、悔いて倒れろ!」
ウラノアールは言い放ち、仕留めるための一撃を食らわせる。
吹き飛ぶボーグルは仲間の作る壁へとぶちあたる。その様を目にし、白石・明日香(人間(√マスクド・ヒーロー)のヴィークル・ライダー・h00522)は溜息ひとつ。
「はぁ……道塞がれて邪魔だな」
多数のボーグル性質が居るこの場所。先には進ませまいと士気もいまだに高いまま。
明日香は面倒くさそうに。けれど、その瞳に戦う意志を乗せて駆ける。
「押し通らせてもらうぞ!」
物陰に隠れながら可能な限りボーグルへと近づいて弾道計算を。
狙いを付けた先は――ボーグルたちがその身に映えさせている毒棘。
「こいつで終わりだ。あばよ」
鮮血属性の弾丸を明日香はボーグルたちへ放つ。毒棘を貫いて、血の雨降ればボーグルたちにとってそこは死地に近くなる。
そして。
「壁からの跳弾にも気をつけな。言っても遅いけど」
「グギャアア!!」
先に放った弾丸が跳ねて別の方向からもボーグルたちを穿つ。ボーグルたちが攻撃により生み出した棘もその弾丸で牽制するように打ち崩していく。
「あとは接近されないように……っと」
走り込んでくるボーグル。躱すよりも仕留める方が早い。明日香が狙うのはボーグルの、頭部。
顔面に打ち込まれた弾丸。そのひとつでは微かに怯むだけ。まだぎらぎらとした視線をボーグルは向けてくる。だからさらに距離詰めて、零距離より明日香はありったけの弾を叩き込む。
穴だらけになった頭。そのままボーグルはその場に崩れ散る。そして明日香には先に続く道が見えた。
「さて、この先にダンジョンか……決着をつけてやるよジェヴォーダン」
ジェヴォーダン――その名を紡ぐ。明日香も融合ダンジョンの事件の一端に関わったひとり。
かと思えば融合ダンジョン事件にかかわることなく、この場に赴いたものだっている。
八海・雨月(とこしえは・h00257)がそんなひとりだ。
ジェヴォーダンには何の因縁も無く。融合ダンジョン事件にも手を付けてこなかったしねぇと零す。
「……でも、此処に至るまで頑張って戦って来た子達がいるんでしょ」
それを繋ぐのは命を賭すのに十分だわぁと雨月も戦いの中へ加わった。皆の手助けを、此処まで繋いできたことを無為にせぬように――その気持ちがある。
けれど、もうひとつ。
「それに、獣人の肉も味わってみたかったしねぇ……」
だから雨月は本来の姿を取る。強大な鋏角を持つ白い外骨格の、巨大なダイオウウミサソリに変異する。
ボーグルたちよりも何倍も大きなその姿。ボーグルたちはその姿を見て、僅かにためらいを見せる。巨大なそれとどう戦うか――その逡巡だ。
その合間に、ギチギチギチと軋轢音を放出する雨月。それは思考操作の呪いが籠った音だ。
ふらり――ボーグルの内の一体が自分から雨月へと近づいて。他のボーグルがおかしいと止める間もなく、雨月の鋏角が裂き、そして巨体が引き潰す。それを見てもボーグルたちはタオセ! と叫びながら飛び掛かってくるがその巨体が動くだけでもボーグルたちは吹き飛ばされる。
「わぁ」
飛び散った肉片、それを食みながら雨月はダンジョン内を這いずり回る。
「よかったわねぇ、ジェヴォーダンサマの為に死ねて」
雨月はふふと小さく笑う。でも味はいまいちねぇ――なんて、零しながら。
ダンジョンの中を駆ける。先を行く者達が開いてくれた道を通り、さらにその先へ。√66の面々は共に奥へと向かっていた。
「間一髪って所か」
二階堂・利家(ブートレッグ・h00253)は零す。姑息で卑怯――この先に居るジェヴォーダンを思い浮かべながら。
これ程の戦力を有していながらも自らを予知への囮にして。そして迷宮に|拉致《集団失踪》した一般人が余裕で鏖殺できる精兵を星詠みから隠し通していた――そう利家は考えていた。
「本ッ当にセコいな!」
「ジェヴォーダンさんはもう、本当に色々色々、人が嫌がることばっかりしてくれましたからね! もう」
見下・七三子(使い捨ての戦闘員・h00338)も融合ダンジョンの事件に触れていた。だから何かしら、思うことはあるわけだ。
「決死の覚悟で妨害してくるボーグルさん達には悪いですけど、絶対押し通るんですから!」
その言葉にうんうんとゾーイ・コールドムーン(黄金の災厄・h01339)も頷く。
「ずっと隠れていた相手が自分から出てきたんだ」
この機を逃すわけにはいかないとゾーイも思うのだ。
短銃を構え、隠密状態の敵を警戒しつつ機神・鴉鉄(|全身義体の独立傭兵《ロストレイヴン》・h04477)も続く。
チームで進むのは心強い――そう思っていた矢先だ。
「この先にいます」
周辺のマッピングと索敵を行っていたゴッドバード・イーグル(金翅鳥・h05283)が告げる。
芳林公園の戦いは、ダンジョン化に巻き込まれた一般人の被害を最小限に防ぐ事が出来ました、とゴッドバードはこれまでの戦いのひとつを振り返る。
「逆説的に此処はジェヴォーダンの配下しか居ない筈ですが、万が一には留意しておきましょう」
上空からチームを先導し、そしてハウリングキャノンのエコーロケーションで敵の姿を警戒する。伏兵や奇襲の可能性もあるからだ。
ゴッドバードのそれにひっかかったボーグルたち。進んだ先にいることを告げたゴッドバードはエネルギーバリアを纏って自衛を。
そして行く手に立ちふさがるボーグルたちの姿が見えた。すでにそこにいることがわかっていたから戦いに入る準備はできている。
「彼らには悪いけど、道を開けて貰わないとね」
ゾーイは強力な死霊を横に、いつでも切り結べる準備を。
そしてボーグルたちも、きたぞと猛々しく声をあげ、士気をあげていた。
その姿を目にして利家は言う。
「こいつらは俺達を1人たりとも通らせまいとしている。マトモに付き合ってたら時間切れだ」
だから。
「押し通る!」
先頭を走る利家は走りこみながら怪異腹腹時計をいくつも投げ放つ。乱れ撃つように放たれたそれはボーグルたちの上で爆ぜその隊列の一部を吹き飛ばした。
そこが斬り込む場所。崩れた場所を立て直そうとするボーグルたちへ牽制射撃を浴びせるゴッドバード。視線を向けられたならすぐにその場を離れて回避する。
ボーグルたちもただではやられない。すぐさまその体に毒棘を生やしそのまま突撃をかけてくる。ボーグルたちは凶暴化し、なりふり構わぬようなそぶりだ。
ゾーイは強力な死霊を纏いその移動速度を高め攪乱も兼ねる。
集団狩猟の耐性を取るボーグルたちの間をゾーイは駆ける。そして閃かせる黄金色――災厄としての力で刃が黄金化した短刀をゾーイは振るう。その刃は今、呪詛の刃となっていた。
斬りつけたならそこよりボーグルたちは呪詛を浴びることになる。
得物を振り上げて襲い来るボーグルを、上手にゾーイはいなす。ゾーイへとボーグルたちが集おうとする、だがそこへ声が一つ響く。
「では、戦闘員さん達、よろしくお願いしますー!」
荒ぶるボーグルたちを邪魔するように、戦闘員の幻影達も現れた。七三子は手数を増やし、死角を減らしていく。もし潜んでいるものがいたとしてもきっと対応できるだろう。
戦って、怪我をしていた仲間がいれば回復もと七三子は考えていた。けれど今会敵したばかり。その必要はまだなさそう。
そしてそろりと戦闘員がボーグルの死角をとったなら。
七三子はすぐさま入れ替わって蹴り上げた。手数重視、深追いはしない七三子。ヒットアンドアウェイに徹し、隙をつくるのだ。
「ゴフッ!!」
その攻撃でボーグルがバランス崩したならさらなる好機。
遠距離から鴉鉄が射撃を行う。|重質量砲《マスドライバー》と|電磁投射砲《レールガン》を思念操作で制御しながら、隙ができた敵を撃ち抜く鴉鉄。
鴉鉄の周囲の浮遊砲台が複数目標をロックオンしている。
であれば、と鴉鉄は皆へ声を向ける。一掃します、と。
「|識別信号を確認I.F.F.《シグナル・コンファームド》……敵機捕足……排除開始……」
その言葉に、皆素早く動いてその射程から逃げたり端へ。その直後、ボーグルたちを暴風の如く、複数の火器での一斉掃射が始まる。
断末魔の声が響き――やがてそれが収まれば道は開けていた。まだ動けるボーグルもいるようだが、追ってこれない状態だ。そんなボーグルを相手にする必要はないとすぐさま判断できる。
「行くぞ!」
ダンジョンはまだ続くのだから、さらに奥へと進むのみ。
再び皆の先を飛びながらゴッドバードは思う。
(「|偽飛竜《カトンボ》の最期を見届けられないのは些か残念ですが……皆さん」)
ついでに利家さんとAnkerを思いつつ。
(「武運長久を祈ります」)
その言葉はこのダンジョンを抜けた先に、改めてまた送るのだろう。
一般人を巻き込んだ融合ダンジョン。
その存在を色城・ナツメ(頼と用の狭間の|警視庁異能捜査官《カミガリ》・h00816)は認める事はない。
被害者をもう出さない為にも叩き潰す絶好の機会とくれば、その中へ飛び込まぬわけがないのだ。
だがこの先が危険な場所であることもわかっているから、いつも以上に冷静に。
ナツメは煙草を吸い、煙を吐く。バニラの甘い香りが漂い霊的防護を纏い気持ちを落ち着かせながら慎重に進んでいた。
そして進む先に、ボーグルたちの気配。
士気が低いものはどこにもいない。
「ジェヴォーダンサマノタメニシシュスルノダ!!」
「ジカンカセギコソワレラノヤクメ!!」
その言葉を耳にしてナツメもシル。
「……そうか、この領域は……お前らは生きても帰れず、死しても戻れないのか」
この場所が消えれば、ボーグルたちは√ドラゴンファンタジーに戻ることはできなくなる。
だからこそ命をかけてジェヴォーダンにすべてを捧げようとしているのだろう。
それに気づいてナツメも改めて、思うのだ。
「これが決死戦……俺達だけじゃなく、敵も抱える重みは同じか」
ぐるぐると喉を鳴らしボーグルたちが威嚇する。
ナツメの姿を視界に収め、そしてココデツブセ! と高らかに。その心が折れぬ強さを持っていることをナツメも感じる。
「だが……俺たちも黒幕見逃してハイそうですかと戻るわけにはいかねぇんだよ」
ナツメは眼光鋭くボーグルたちへと駆ける。
「いくぞ……蒼、力を貸せ!」
眠たげに揺蕩う、片目に傷のあるはぐれ鎌鼬「蒼」をナツメは纏う。集団狩猟の体勢をとっているボーグルたち。しかし、ボーグルたちが動くより早く、ナツメが仕掛けた。
ボーグルたちも全力だ。ならせめて、ナツメもまた全力で戦う。その経緯を、刀に霊力を込めて現す。夜明けの光で清められた刀より放たれる斬撃がボーグルの身を斬り裂いた。
戦いの気配。血の匂いに微かな甘い香りもするとヨシマサ・リヴィングストン(朝焼けと珈琲と、修理工・h01057)はその気配の方へと走り戦いの中に即座に加わった。
八曲署『捜査三課』で、とナツメもヨシマサも思うが今は戦いの方に意識を向ける。
ヨシマサもボーグルたちから感じるものに思わず笑み零す。
「ふふ~、死を厭わず特攻する姿勢……良いですね。気に入りました~!」
ボーグルたちは決死隊だ。もう戻れないことを知った上でここにいるからこそ、鬼気迫るものがある。
その空気にヨシマサはいつもの調子崩さず向き合うのだ。
「でもなるべくこういう時は死を覚悟しても死ぬつもりもないぐらいが良いと思いますよ。ボクみたいにね~」
死んだら悲しむものがいることもわかっている。だから死ぬ覚悟はあるけれど、ここで――少なくともボーグル相手に死ぬ気はない。
「マタヒトリ!! コロセ!!」
「コロス!!」
「オオオッ!!!」
声あげて集団狩猟の体勢をとる。そうなるとレギオンでの探知も難しくなるようだ。
レギオンでの一斉掃射は今この場では向かないようで、攻撃されるまえにとヨシマサは物陰に隠れる。
「ボクもこの身で特攻する他なさそうです」
じゃあ、とその手に重火器を。こうして突撃するのも楽しくはある。様子見つつ子撃ち込んで、爆破の波を広げていく。
それに巻き込まれたボーグルたちはその熱も痛みに声をあげても戦うことをやめない。
そしてまた集団狩猟をすべく集う――その時が、ヨシマサにとっての好機。
「いいかんじで密集してますね~。しっかり肉眼で見据えて~……ふぁいや~」
攻撃を雨のように。派手な音の誘爆も重なりボーグルたちは声にならぬ声をあげる。
だがすべてが滅ばぬように盾になったものも、そして陰に隠れていたものもいる。
焼けた身体で動く。それでも倒れない――その立ち上がった一体を、疾・鎌風をもってナツメが仕留める。
この場に残るボーグルはあと少しか。しかし攻撃を受け、慎重にもなっている様子。
そこへファウ・アリーヴェ(果ての揺籃・h09084)が、一体受け持つと助けに入る。ナツメとヨシマサも、まだ残るボーグルと相対しており、それはありがたい助け。
ファウは勇んで先行しないよう、周囲を伺いながら進んでいた。拓けた場所に出るときは特に慎重に――そして戦いの気配に気づいてやってきた。まだ残すボーグルを僅かでも受け持てるように一体つり出す。
「見事な忠誠心だ」
がふっと血を吐いてもまだなお、ここに立っているボーグル。
将の為にあなた達が命を賭けるのだ。此方もまた会いたい皆を想い命を賭ける――それがファウが向ける礼儀だ。
ボーグルは自身を探知されぬようにする。戦闘力などを落としても、今はこの場を長引かせればいいだけと考えたのだろうか。
その存在が薄くなるがファウは慌てない。同じ場に留まらないように注意しつつ、ただ空間を斬り伏せる。
故郷に戻れずとも、魂はやがて星の海を彷徨い生まれ変わるよう、勇敢なあなた達に刀を向け祈ろう――ファウは霊刀「祈雨」を振るう。
そこにいると断じた先に刃走らせたなら、ボーグルがその場に崩れ落ちた。
「さようなら。通らせてもらうよ」
この場を抑えていたボーグルはすべて倒れる。
またひとつ、道が開け√能力者たちはこの先へと進んでいく。
消えゆく融合ダンジョンでの戦いはいくつも繰り広げられている。
ここでもまたひとつ――エアリィ・ウィンディア(精霊の娘・h00277)の前にボーグルの群がいた。
「ジェヴォーダンサマノタメニコロセ!!」
士気があがるボーグルたち。
「ジェヴォーダン……」
その名をエアリィは紡ぐ。これまで対してきた事件の数々が脳裏を巡る。
「融合ダンジョン事件はここで終わらせるよっ!!」
そのために立ち塞がる敵を倒さなければならない。
こっちも覚悟しているけど、向こうの覚悟もすごい――エアリィはその気迫を感じながら敵の方へと駆ける。
「…それじゃ、全力全開でお相手しますっ!!」
左手に精霊銃、右手に精霊剣をもって、精霊銃で牽制しつつ高速詠唱を始める。
集団狩猟の体勢をとったボーグルたち。カコンデシトメロと聞こえる声。すっと姿を消すように動く個体もいる。全てを目で追うのは難しいとエアリィは判断する。
エアリィが使うのは殲滅精霊拡散砲――だけど。
(「うーん、見えるところにいるだけじゃないんだよね、相手は。ならっ!」)
エアリィが狙うのは、敵陣の中心。
「六界の使者たる精霊達よ、集いて力となり、我が前の障害を撃ち砕けっ!」
そこを狙えば、そこそこ巻き込めるはず。
火・水・風・土・光・闇の6属性の魔力弾が半径42メートルの中に降り注ぐ。
ボーグルたちは魔力弾に貫かれる。当たりのいいものもいれば、軽くすむものも。
傷が深くないボーグルは、エアリィを狩らんと向かってくる。その身に生やした棘での体当たり。精霊剣を構えてエアリィはそれを受け止めるが力で押されそうになる。
けれど左手には精霊銃がある。零距離射撃を見舞えば、身体に穴をあけてボーグルは倒れる。
しかし傷を負っても、ボーグルたちは未だ猛る。
その光景にバーニャ・カウダ(|踊り明かす者《ティターニア》・h00093)は頬押さえて、ふふと笑零していた。
「まあ、何て情熱的な眼差し。私嬉しくなっちゃうわ!」
向けられているのは殺意。けれどそれをものともせず、バーニャはひらりと薄絹を躍らせる。
「お礼に見せてあげる、脳裏に焼きつくような刺激的な|踊り《ショー》を!」
そこが戦場であってもバーニャにとっては舞台。
武器振りあげてくるボーグルは踊りの相手としては無粋。幻影を狙わせ躱して、そして共に戦う皆への鼓舞を。
「誰にもショーの邪魔はさせないもの!」
その踊りは周囲の仲間たちへの援護。
「悲劇を喜劇に、悲鳴を喝采に。ニヤの|踊り《奇跡》は常識を覆すの」
アドレナリンが溢れ昂揚する。再生能力も増幅され、軽い傷はふさがっていく。
「皆さま、どんどん攻めてくださいな。私が熱くしてあげる♪」
その声にいい感じだと断幺・九(|不条理《テンペスト》・h03906)は笑う。
「そう、死を覚悟する――つっても死にに来たつもりはねーんで? 安全第一で|鏖殺《ぶっころ》しまチュか!」
こんなに熱狂的にジェヴォーダンに付き従うこのボーグルたちへ九は笑う。
「あんなんドコがよくて忠誠やってンだか知んねーけど」
|士気《モチベ》高けえ連中と正面から殺り合うのもダリいでチュねと九は状況をみていた。
「ンじゃま、その辺りから崩してくかな――√能力|煉封胚《セブンスシール》!」
右の銃に疑心暗鬼、左の銃には凶暴化の精霊弾を装填セット。
九は身軽に動きながら素早く先に攻撃を向ける。その弾丸に撃ち抜かれたならその忠誠心は揺らいで、暴発パニック集団の出来上がり――と思っていたがその忠誠心はなかなか崩れぬ様子。わけもわからず暴れるなんてことにはならないが、自制と戦っているようでそれはそれでいい塩梅に集団は混乱していた。
それでも、目の前に敵はいるはず。攻撃をとなりふり構わぬようすで毒棘をその身に生やし突撃してくる。
「危ないっチュね!」
けれど隊列は乱れている。崩れたそこを見逃さず九は突っ切って――そして、通路の先へと辿りつく。
其処まで来たら、振り返り戻ることはない。自分の安全を保ちつつ殲滅狙いの深追いはナシ。
「卑怯に姑息にやってきたいトコでチュね!」
上手にこの場を切り抜けていく。敵の数も減っているしあとは任せても大丈夫だろうと判断して九は先に進んでいく。
残るボーグルたちは、一人行かせてしまったが他はこの場に留めると動いていた。
傷を負ってもまだ戦い続ける。そこには何か執念のようなものがあった。
春満・祐定(|D.E.P.A.S.《デパス》の|載霊禍祓士《さいれいまがばらいし》・h02038)もボーグルを斃しその先へ進む道を生み出していく。
(「本音を言えば、死ぬなど御免じゃ。命を捨てるような真似などしとうない」)
しかしのう、とその瞳はダンジョンの奥へ続く道を捉える。
ここでジェヴォーダンめを逃してしまえば、次はどんな手で攻め込んでくるかわからんからのうと、未来の事を思っていた。
ジェヴォーダンの首元に手が届くというのなら、今が好機なのは間違いない。
禍事は祓うべしと祐定は動く。
集団狩猟体勢をとるボーグルたちの動きを祐定は目でおう。
「ボーグルども、忠義であるのは結構なことじゃが、今ばかりはそれを利用してくれよう」
ジェヴォーダンへの道を塞ぐというのなら、おそらくボーグルどもがいる道を選んで進んでいけばハズレはないじゃろう――祐定も戦いの気配を追ってここまで進んできた。
「叫べや、喚けや、載霊ども!」
卒塔婆でただ叩く。一度ではなく二度、そして流れるように広範囲に。その威力にふらつくボーグルの間を抜け、祐定も先へと進んでいく。
あまり先に進めば囲まれてしまうかもしれない。それはおもしろくない――それに踊るバーニャの援護は祐定にとってもありがたい。
エアリィが多くを撃ってくれたことでボーグルの力も落ち叩きやすいことこの上ない。
「このあま足並みをそろえていくとするかのう」
それが自分に一番あっていると祐定は思うから。そして確実に、ダンジョンは踏破されていく。
ダンジョンの奥に進むにつれボーグルの殺意が弱まる、なんてことはない。
むしろここまできたのかと殺意は高まっていると思えた。
不動院・覚悟(ただそこにある星・h01540)はその殺意を一身に向かせるべく、前へでる。
「魂の奥底、阿頼耶の淵より咲き誇れ――『阿頼耶識・青蓮華』」
覚悟の魂に刻まれた迦楼羅炎と融合し、青蓮華が浮かぶ蒼い炎を纏った姿となる覚悟。
集団狩猟の体勢をとったボーグルたちは殺意の高さで今はその姿を隠す気がない。しかし囲んで叩きにくる、その執拗さが感じられる。しかし食すためではなく、殺すための猟なのだから
毒棘をはやし、体当たりをかけてくる。覚悟は仲間を守るべくその前に立った。
あの毒棘は周囲を汚染する。それを広がらせないためには受け止めるのが一番だ。
どのような痛みがあろうとも、鉄壁の守りで受け止める構えを見せる。
「シネ!!!」
「っ!!」
痛みはあるが耐えられる。覚悟が仲間を守って戦うのは強い意志があるからだ。
(「皆で生きて帰ります」)
「死んでも勝つなんてことは言わん、全員で生きて勝って帰るでぇ!」
乱戦の中でインディアナポリス・ノーベンバー・サーティーン・ワン(旧レリギオス・ランページ所属 11-13部隊初号・h07933)が高らかに叫ぶ。
その言葉に覚悟も笑って、血路を切り開きます! と覚悟は声かける。覚悟の動きに呼応するようにインディアナポリスも連携を共に。
「路ぃ切り拓け、『アラバマ』ァ!」
浮遊型飛輪武装『アラバマ』をインディアナポリスは大きく動かし回転刃で切り裂いていく。ボーグルの鮮血、肉片が飛ぶ。それを浴びてもお構いなしに。
ボーグルたちの数も戦意も高いのはわかりきったこと。
(「せやけど決死隊ゆうんならこっちもそうや、覚悟は決めとる」)
「片っ端から薙ぎ払って突破するで!」
集団狩猟の体勢をとったがゆえに、移動力が落ちているボーグル。インディアナポリスにとっては狙いやすい状況だ。
「移動力下がっとるアンタらじゃ避け切れんやろなぁ!」
けれど気配を消して近づいてくる個体がいるのもわかっている。死角から襲い掛かられると厄介――だから。
インディアナポリスの両手には電磁パルスブレード『カンザス』とレーザーブレード『オレゴン』がある。
そう油断せずにいたけれど、襲い掛かる影がある。だがそのボーグルを見つけるのは太曜・なのか(彼女は太陽なのか・h02984)の方が早かった。
天候をその身に宿し斗う騎士「ウェザリエ」のレイニーフレームに変身して戦うなのか。
「本日は雨天。ところにより局地的突風、ダウンバーストにご注意ください!」
フォーキャスターをガンモードにし、風雨属性の弾丸をなのかは放つ。強風と打ち付ける雨の弾丸、でもそれは味方にとっては追い風だ。
「ええ風ふいとるな、そこやで!」
そしてその風に後押しされるようにインディアナポリスが仕留めていく。
近接戦闘を避けるなのかにとっては覚悟が前にいてくれることも心強い。覚悟も仲間を守りつつ、前へとただ攻撃を向けていく。
「ダンジョンという閉じられた空間の中でなら風の不規則さと激しさは更に激しくなるでしょう!」
追撃のバレットストームにもご注意ください! と、高らかに。 吹き荒れる風がボーグルたちを襲う。それに押されて動き鈍ったところをなのかも撃ち抜いて。
そして覚悟がインディアナポリスが動きやすいよう機動を確保する。
互いに視界を補いつつ、攻撃に備えて立ち回っていく。確実に道は切り開かれていた。
ボーグルたちの姿に糸根|・リンカ《輪禍あるいは鈴華》(ホロウヘイロー・h00858)は瞳細めて零す。
「死兵ですか……」
ジェヴォーダンの為にと叫ぶボーグルたち。
その忠誠心に足る理由があるんでしょうけど、どんな事情でも侵略は許せませんとリンカは思う。
だが正面からあのボーグルたちと戦って倒すのは難しそう。
けれど戦えないわけではない。
決戦用重量可変式大槌『|愛華《アイカ》』を手に。そして自作バッテリーに詰められたインビジブルで力を供給すればいい。
この場にいる仲間にも影響は出てしまうけれど、それをどうにかする手立てはある。
「蛇の囁き、無花果の葉、還らずの門。咎人は楽園を証明す」
異世界に繋がる光輪が広がって、全てを吸い込もうとしてくる。
この先へと仲間を送り届けるためにリンカはボーグルを排し、手を尽くすだけだ。
リンカは愛華を重くし、その吸い込みの力に耐える。
ボーグルたちの中にはその光輪に吸い込まれていくものがいる。それをみて、吸い込まれまいと周辺にしがみつく者達も。
と、セレスティアルの少女がその吸い込みに抗うのをみてレンカはこっちと手を伸ばす。
愛華に捕まっていれば、とばされないから。そしてインビジブル欠乏も補われていく。
セリナ・ステラ(羽の色が星空のように煌めくセレスティアルの御伽使い・h03048)はありがとうとございますと言ってその吸い込みに耐える。
融合ダンジョン――もしかしたら、親友の手掛かりを得られるかも……と、セリナは赴いたのだ。
それに、そんな作戦を企てたものを放ってはおけません! という気持ちももちろんあった。
そして今、吸い込まれて別ルートに飛ばされているボーグルたち。それでも吸い込まれまいと耐えているものたちもいて、敵意をまき散らしている。
「争いたくはないのですが倒さざるをえないようですね……」
セリナはそう言って、でも今が狙い時と思う。
「手、塞がりましたね?」
攻撃、いけます? とセリナへと目配せひとつ。√能力を閉じればこの吸い込みは消えていく。敵が対応するその前に攻撃をと。
セリナは頷いてその時を待つ。
「空に瞬く無数の星々よ、わたしの導きに応え降り注いで! 弾丸となり悪しきを貫き、絶望を爆ぜ、加護により希望を灯す! スーパーノヴァ!」
その詠唱が完成する間際に、リンカは√能力を切った。
そしてセリナの星属性の弾丸が落ち、ボーグルたちには超新星爆発を、そして仲間には星の加護を与えていく。
「先へ進ませてください!!」
ボーグルたちが倒れる。どうにか耐えたものもいるが傷は深く十分動けない様子。
であれば無理に戦う必要もないだろうか。
リンカは先に行って、とセリナの背中を押す。残るボーグルくらいならすぐ片付くからと。
セリナは気になりつつも頷いて、先へ進む。自分が発した言葉通り、この先へ進む必要があるから。
「行くよアリス……! これ以上融合ダンジョンの被害は出させない!」
その強い気持ちを抱えて剣崎・スバル(気弱な|機械剣使い《ドラゴンスレイヤー》・h02909)は戦闘補助システム・アリス(サイバーウィッチ・h05544)と共に消えかけの融合ダンジョンを駆けていた。
「えぇ……マスターがそうするのなら私も覚悟を決めるわ」
アリスはスバルのスマートフォンの中で一緒に行動を。
仲間たちが戦う場を見かければ、ボーグルの集団を惹きつけるように動いてサポートをしていた。
今もまたひとつ――ボーグルの群と対している。
腕力をあげてきたボーグル。それの振り下ろす一撃は重くなる。
けれどスバルは、エネルギーバリアと撃竜機大剣をシールドモードにさせた大盾でそれをしのいで見せる。
「ぐっ……負ける……もんかぁ!」
耐えながら|撃竜機大剣・救世の盾《ドラゴンブレイカー・ブレイブガード》を発動するスバル。
そしてアリスがスマホからたくさんのドローンを操作して、周囲の情報を集める。隠れたものやトラップは無いか。スバルの為に、アリスは動くのだ。
「マスター、あなたは死なせないわ」
その声はスマートフォンの中だけで響く。スバルには言わぬアリスの心。
そしてスバルは目の前のボーグルを倒し、はぁと一息。
「ダンジョン内部の構造を解析……ジェヴォーダンのいる地点までの最短ルートを計算するわ」
「うん、アリスお願い」
しばらく休めば受けた傷も全快する。周囲に注意払いながらスバルは思う。
死ぬのも痛いのも、叩くのだって怖い。
「だけどジェヴォーダンを取り逃がせば大切な人が被害に遭うかもしれない」
スバルも融合ダンジョンの事件に関わっていた。
「そんなこと絶対にさせない!」
抱く思いを言葉にして。
スバルの声が聞こえる。アリスはその気持ちの助けになるように動くだけだ。
「マスター、向かう方向の予想ができました」
行きましょうという言葉にスバルは頷く。ジェヴォーダンのところへたどり着くために。
その空気に僅かに気圧されそうになる。
けれど深見・音夢(星灯りに手が届かなくても・h00525)はボーグルたちを前にひかない。
「この気迫と戦意、最初から生きて帰る気は無しってことっすか」
向こうが死んでもやり遂げる覚悟ならボクは死を賭して生きる覚悟を決めるまでっすと音夢の心はすでに固まっていた。
「ボクだけじゃなく生物部のみんなで生きて帰る覚悟で敵の決死を上回る!」
その言葉はこの場にいる四人すべて同じ気持ちだろう。
「成程、決死隊。帰れぬと知りながら残るとは」
その心意気は天晴と思いつつも玖老勢・冬瑪(榊鬼・h00101)は引くことはない。
「ジェヴォ―ダンの何に心酔したかはわからんが、此方にも事情があるでな。押し通る」
その言葉にこくと星宮・レオナ(復讐の隼・h01547)は頷く。
そして一番最初に動いた。風属性の弾丸を射出する――敵には風を纏った弾丸での二倍ダメージを。
そして味方にはスピード強化と風のバリアをレオナは与えていく。
「死兵って奴だね。厄介な相手だけど押し通るよ」
冬瑪は前に立つから、この援護はありがたいものでもあった。
前を冬瑪が受け持ってくれているから、瀬堀・秋沙(都の果ての魔女っ子猫・h00416)も遊撃に走れる。
「排水の陣ってやつにゃ? そっちがその気なら、猫たちもその気にゃ!」
敵のこの気迫に呑まれないためにも場の雰囲気を変えるべく音夢は推しへの愛を語る。すると周囲はコンサートステージへと早変わり。そしてここでは、音夢が物語の主人公。
「たとえAnkerとの繋がりを断たれる場所でも推しは心の中にあり!」
だからいつも一緒――このステージの上では音夢が主役。狙った制圧射撃は必中の一撃だ。
「どんなに狡猾に隠れたとしてもステージの上からなら良く見えてるっすよ!」
そこにも! と撃って居場所を暴いて。集団狩猟体勢をとり隠れていたものは撃たれて思わずその姿をさらした。
すると秋沙とレオナの援護にもなる。
そして共に戦う異世界√生物部の皆へ攻撃がいかぬように冬瑪は前衛で壁となっていた。皆を守ると鉄壁、それが今為す役目と。
「ナギハラエ!!」
ボーグルたちの士気は高い。引くものなど一体とておらず、その身に毒棘攻撃をかけてくる。これを躱せば周囲に毒棘が広がる。
だから受け止めるしかない。冬瑪はその攻撃を正面から受ける。毒棘が刺さる、痛みはある。
だがそれを堪えて玖老勢家に伝わる長柄の鉞を振り抜きボーグルの身体を打ち据える。
その一撃を与えれば身に受けた傷は回復されていく。
「皆、孤立せんようにな」
その言葉に秋沙はにゃ! と頷く。冬瑪が粘っている間に秋沙は敵を一ヶ所に集めていくように全力魔法の誘導弾を振りまいていく。
レオナもその手伝いを。マグナシューターで援護射撃をうち、動きを阻害していく。
その中でも毒棘をその身に宿し、突出して秋沙を狙ってくるものだっている。
空を蹴ってその攻撃を避ける。けれどそこに海属性の誘導弾を発射し秋沙は自分の代わりとして毒棘を防ぐ。
そしてだいたい、一ヶ所に集っているのを見て秋沙は行くにゃ~! と皆へ声かける。
「これが猫の十八番にゃ! ばっしゃーん!!」
海水で出来た、巨大な抹香鯨の形をした海属性の弾丸。巨大なその一撃がボーグルたちを飲み込んでいくように放たれる。
超高水圧に押し流されていくボーグルたち。そしてその抹香鯨は味方には母なる海の加護を与えていた。
しかしその中から立ち上がるものも、まだいる。
毒棘を生やし向かってくるボーグルの前にレオナは立つ。エネルギーなり合を纏ってガードし、お返しとばかりに風を纏った弾丸を至近距離から撃ちこんだ。撃ち込んだ瞬間ボーグルは吹き飛ばされてダンジョンの壁に激突し頽れる。
「毒には少し耐性があるんだ」
身体に刺さる毒棘をレオナは抜く。残っているのはと周囲をみれば冬瑪が対していた。
「あんたさんらの覚悟は見た。だが、鬼は斃れてやれん。部員皆の命も呉れてはやれん!」
事切れそうであっても立ち上がったボーグルへと冬瑪は立ち塞がる。
ボーグルたちに譲れぬものがあるのもわかっている。しかしそれを受け入れるわけにもいかないから、敬意を込めて確実に息の根を止めた。それがこの戦場に立った礼儀というように。
周囲のボーグルたちが片付いて秋沙は開けた道の先をみる。
次はどちらへ向かうか、というところ。
「さて、ここから先が本番だね」
レオナはダンジョンの先を見つめる。この先本拠地となれば――罠もあるというから。
「罠に出来る限り掛からない様に行きたいね」
「敵がいる方向にジェヴォ―ダンがいるにゃ?」
「ここは通過点っすからね。油断なくしっかりと進路を踏み固めていくっす」
音夢はそう言って、まだ敵いるんすかねーと零す。
「みんな、まだいけるかにゃ? 怪我が重いなら、すぐに言ってにゃ!」
その言葉に皆大丈夫と頷く。行こうと冬瑪が先を切り、またダンジョンの奥へと向かうのだった。
「……考え過ぎじゃないですか?」
傷対策に仙丹を仕込みながらシスピ・エス(天使の破片・h08080)はアゥロラ・ルテク(絶対零度の虹衣・h08079)を見る。
アゥロラはそんなことはないと首を横に振る。
「――」
そして、意を汲み虚無内包する氷刃の得物となったアゥロラはウィズ・ザー(闇蜥蜴・h01379)と同化し、周囲に外殻を浮かばせた。
「|√刻遡行《忘れようとする力》でこの通路を破壊しかね無いってのがなァ~」
そう言いながらウィズはアゥロラに任せるぜと告げる。アゥロラの防護を信頼しての言葉だ。
ウィズは宙を泳ぐ水大蜥蜴に変じて、シスピはその背中に跨る。そしてシスピは氷の精狼と融合し、いつでも絶対零度の空間を呼び起こせるようにしておく。
振り落とされないように姿勢を低めにし、ウィズが進むままに。
周囲に罠があればアゥロラが防ぐように、先に破壊を行っていく。
そしてウィズは視線の先にその一団を見つけた。
「さァ、おいでなすったぜ」
ボーグルたちが殺意をみなぎらせて待っている。
「クルゾ!!」
「ミナゴロシダ!!」
「オオオオッ!!」
猛々しくボーグルたちが叫ぶ。元気なもんで、とウィズは零し加速する。
つまりここを通り抜ければ、ジェヴォーダンの本拠地へと近づくということだ。
避けられぬ戦いの気配にシスピも構える。アゥロラも融合したままでウィズの援護と、更に戦力の増強を。
「物言わぬ|骸《むくろ<》が|案内《あない》する永劫よ」
ボーグルたちが集団狩猟の体勢をとったとしてもウィズには問題ない。
「俺には視えてンだよ。ハッキリとな」
影を基に知覚するウィズ。だから肉眼と機能は同じだが視野は広いのだ。
シスピが空間を生み出しボーグルたちを引き寄せる。絶対零度の空間がボーグルたちの身を凍てつかせ動きを鈍く。
そしてそこはウィズの射程でもある。
「食べ放題じゃねェの!」
黒霧靡く闇の波乗りを。そしてアゥロラの力で2倍攻撃力を得ている。
虚無の精霊が産み出す、黒い霧に似た不可視の刃と黒霧に似た虚無の焔が踊る様に、すでに数えられぬほどにウィズより伸ばされる。
進みながらドリルの如く近づく敵全てを切り刻んで、一体でも多く捕食していくのだ。
だがその身を食われながらも攻撃しかけてくるボーグルたち。
その身に毒棘生やしたボーグルが迫る。シスピがその攻撃に対処して、その重さを改めてシル。
「流石……一撃、一撃が強力です」
黒鎖で敵を引き倒し捕縛し、そしてウィズの前へ。
アゥロラも援護をしながら――ふと、思う。
(「……あの小劍も此方を見ているのだろうか」)
そう意識は一瞬向くけれど意識は目の前のボーグルたちへ。
けれどそれもウィズが最後の一体を闇顎で喰らったところだった。
戦いの喧騒は一気に静まる。
最後まで、ジェヴォーダンサマと称えていたボーグルたち。その言葉をシスピは反芻する。
「彼にそれ程の魅力があるのですね…不思議です。」
直接会えば……魅力も解るのでしょうか? と零すシスピの言葉をアゥロラは拾い上げる。
(「さて、あの狼の名前を持つ飛竜は何処だろう?」)
真竜を望む、歪な存在を想い、何とも言えない感情がアゥロラに芽生える。それに気づいて心は乱れるのだ。
(「あぁ……度し難いな」)
ウィズが行くぜ! と再び奥を目指す。本拠地たるダンジョンへと向かうために。
無駄死には馬鹿のすることだが必要な危険を避けるほど臆病ではなく。柳・芳(柳哥哥・h09338)は自身の力を過信しない。
若輩者がやれることは限度があると知っている。だから。
「出来ることをやらせていただきますよっと」
芳は|妖術「鏡花水月」《キョウカスイゲツ》をもって、この場に穏やかな陽光注ぐ、花咲く桃源郷を展開する。
罠の類がないか――そういったことに芳は鋭敏になる。それは暗殺を生業にして、自然とそうなったからだ。
ダンジョンを進み、奥へ。
戦いのあとを追いかけ、そしてまた新たな戦いに出会うのだ。
「よぉ、ボーグル」
芳が大したボーグルの群れ。殺意を滾らせ、高々と吼えるものたちは集団狩猟の体勢つくり芳を囲み攻撃を。
「その忠誠心天晴れだがこちらも譲れないものがあるんでね」
けれど、物語の主役たる芳は軽業でかわして、手甲より黒色の金属線を放つ。それは暗器「黑线」――ボーグルを捉え、そして香りをボーグルたちに残していく。
探知を無効化しても、後付けの香りはそれこそ水にでも入り落さなければ対処できないだろう。
そこと金属線を放ちその首を断ち切る。ボーグルが倒れる様を芳は目にするも、まだまだ数は多い。
しかし、そこへ久瀬・八雲(緋焔の霊剣士・h03717)も駆けこむ。
八雲の手にあるのは霊剣・緋焔。浄化の焔と煤を発する、意思ある霊剣は長大な長巻の形をとっていた。
芳はすぐ、目印に香をのせたと告げる。
八雲はその香りを目印にすればいいのですねと、目測がついて戦いやすいと笑んだ。
「あちらの士気は十二分、それでもこちらに引く理由も無し!」
ボーグルたちはぎらつく視線をとり、自分たちの力を落としてでも見つからず確実に仕留めようと動いている。
「一切ぶっ飛ばして、押し通らせていただきます!」
けれど香りが八雲を導いてくれる。
囲もうと、そして死角からひそりと迫るものがいても獣の者ではない良い香りがすればそこにいると八雲は気づける。
狙われている、囲まれている。そして、ボーグルたちが息を合わせて攻撃を駆けてくるが軽やかにジャンプして後退。
そしてそのまま、集う場所へ霊剣の一振りを見舞う。
渦巻く熱と刃が敵の場所を暴き引き寄せ、そして切り裂いていく。
それでもなお攻撃しようと動くボーグルたち。
けれど皆を鼓舞する音が響く。
それはタミアス・シビリカス・リネアトゥス・フワフワシッポ・モチモチホッペ・リースケ(|大堅果騎士《グランドナッツナイト》・h06466)が鳴らす|街道の女王《レジーナ・ヴィアルム》の奏でる音。
決戦型WZ|騎士長官《マギステル・エクィトゥム》の搭乗者であるリースケ。その高まる戦意に戦馬型WZ――超重鉄騎が現れ一体化し、人馬一体の動きを見せる。
ちょっと荒々しい動きに、りすであるリースケがいるフェイスシールド奥の操縦席ではどんぐりが転がる。
しかしリースケの視線はボーグルたちを捉えていた。
「大胆不敵な者にこそ、女神は微笑むのだ」
正面にいるボーグルたちへと向けるのは|重弩砲《スコルピウス》。数が増えれば命中下がるが威力はあがるそれを向けた。
この砲撃でおこるであろう混乱に乗じ、長剣サイズとした|一切虚無《オムニア・ウァーニタース》を振るい薙ぎ払うため構える。
「命を賭すという覚悟は評価する。しかし、我々が目指すはジェヴォーダンの討伐だ」
リースケは高らかと告げる。
「貴様らの忠誠心ごと、ここで粉砕させてもらう!」
そして放たれる砲撃にボーグルたちが晒される。それを耐えたボーグルを攻撃で薙ぎ払うリースケ。
それに八雲と芳も好機とボーグルを蹴散らしていく。
傷を負っているボーグル相手に、なお油断はできないと八雲は思う。
「油断はできません、確実に敵が居なくなったことを確認して先を急ぎましょう!」
その声にリースケも応と返し、芳は敵を倒し応える。
ジェヴォーダンの元に向かうために立ち止まってはいられないのだから。
消えゆくダンジョンの中を夜風・イナミ(呪われ温泉カトブレパス・h00003)は息を潜め、ゆっくりと確実に進んでイク。
「やっと本拠地を叩きにいけるんですね」
ジェヴォーダンの本距離へと続いているこの融合ダンジョン。
「もう融合ダンジョンは作らせませんよぉ……」
イナミはびくびくと進んでいく。
絶対に死ねない――その気持ちを抱えて。びくびくおどおどと何か小さな音がしただけでも。自分が小石を踏んだだけでもびくっと体が震えてしまう。
けれど、前に進まなければ。
「呪術も本業ですからねぇ……」
恨み晴らし代行サービスで呪詛をばら撒いて、イナミは周囲を探る。索敵しながら奥へ奥へ、確実に。
悪い気持ちが籠った罠があればきっと察知できるはず。それに反応があったら一層気を付けないと、と思いながら通れない道を。
敵の姿がない道をずっといければよかった。けれど、やはりイナミも、ボーグルたちと出くわすことになる。
だがボーグルたちはまだ気づいていない。
「はぁ……思ってるよりたくさんいますよぉ……」
でも、固まっているし狙いやすい。
不意打ちされたら死んじゃうとふるりとイナミは震える。だから先に仕掛けるのだ。
自身の射程範囲にすべてのボーグルは入っている。
ボーグルたちは周囲に殺気を向け、いつどこから敵が現れても対応できるように構えていた。
だから、イナミは物陰からボーグルたちを視界の中にいれて。
「と、止まってください!」
「!! グオッ……」
「ガッ……!」
鎮メ牛の呪詛から創造した石化の視線を向ける。
いつもはその目を封印しているが今は解き放たねばならぬ時。
「ひっ……い、いきなりこっちにこないでくださいねぇ……」
ボーグルたちを絡め取った石化の視線。動けない、けれど敵意を向け動こうとしているのがわかる。
ビビらなければ、大丈夫……! と思いながらイナミはそのそばを通り抜けるように。
けれど――一体がその呪詛払うように動く。イナミは咄嗟に呪詛から釘を取り出し、思い切り蹄で蹴り飛ばしボーグルに突き刺し迎撃する。
それにあわせて、呪詛を重ねがけ。麻痺に混乱石化、デバフをこれでもかと向けて動けなくしていく。
呪詛に負けたかボーグルたちの口端からは泡も零れて。
その手から得物がとり落される。もう力もうまくはいらないのかもしれない。
今なら、とイナミはその蹄を向ける。本気の踏みつけでその首元を狙って踏みつぶした。
「あんな悪者に忠誠誓っちゃうのが悪いんですよぉ……」
ボーグルに向ける言葉。けれど返事はない。すでに事切れているからだ。
そしてまた探索をしながらイナミは奥へ。身長へ、確実に進んでいく。
ガイウス・サタン・カエサル(邪竜の残滓・h00935)が向ける視線の先で、ボーグルたちが猛る。
ダンジョンを進みながらボーグルを倒し。しかしまた道を塞ぐように群れはいるのだ。
「ココハトオサナイ!!」
「ジェヴォーダンサマノジャマハサセヌ!!」
そのボーグルたちの様子にガイウスは瞳細める。
「殿を務める決死隊はボーグル達か。ふむ、士気が高いね。強制という訳でもなさそうだ」
ジェヴォーダン君はあれで良いところがあるのかもしれないねとガイウスは零す。 少なくとも彼等の忠誠心を得るだけの価値はあったという訳だ、と。
「よろしい、ならばこちらも全力を尽くして鏖殺しよう。それが礼儀だろうからね」
ボーグルたちは集団狩猟の体勢をとる。複数でガイウスを囲み、仕留める気で動いていた。
その動きをガイウスはみつつ、自分が主導をとるように動く。
「此処は私の|領域《セカイ》だ」
魔人領域と魔人領域・弐をガイウスは同時に発動する。
戦闘力を激増し、かつ無敵の空間を形成しその中へボーグルを招き入れたのだ。
ガイウスはその動きを視線でなぞる。肉眼で見えている――だがそれ以外の気配もある気がして。
ボーグルたちは自身の持つ力を下げても気配を断ち仕留めようと動いてくる。
正面からくる敵の攻撃をガイウスは回避する。次に向けられた攻撃を、魔人の剣で受け流して。そしてなんとなく、こことうい場所に魔人の剣を向けて切り裂いた。
するとそこには気配を消していたボーグル。
「ああ、そこにやっぱりいたのか」
仲間が攻撃をうけ、別のボーグルがガイウスへと攻撃をかける。攻撃直後を狙われたからか、その一撃はガイウスを討つ。
ダメージはなく傷はないが、攻撃を受けた事にガイウスはすごいなと素直に賞賛し、自身の修練不足を認める。
だがここでこの命をくれてやる気はないとボーグルたちへ反撃をかけた。
その戦いの音にヴォルフガング・ローゼンクロイツ(螺旋の錬金術師|『万物回天』《オムニア・レヴェルシオー》・h02692)は気づいて向かう。
「ボーグルも厄介だが罠はそれ以上だ。だが俺も冒険者、罠を見破る手札ぐらいはある。来たれ、群狼!」
魔導機巧獣|『群狼』《ウルフスルーデル》たちが駆ける。光学迷彩で身を隠し、群狼たちは先を進んでいた。
敵が潜伏している場所を見つけたりと、今までも進んできた。
そして戦いの場所に合流したなら――群狼たちはボーグルたちへと牙をむく。
「ジェヴォーダンの企みを阻止する為、突破させて貰うぞ」
魔導機巧大盾|『天狼護星』《ズィーリオス》は音響閃光弾を搭載した魔導機巧自律式大盾。 ヴォルフガングを自動追尾するそれは、ボーグルが攻撃繰り出してくるのを受け止めて防ぐ。
そして音響閃光弾が炸裂すればボーグルのその視界を奪うのだ。
「グアアッ!!」
「アア、ミエヌッ!!」
目を抑え悶えるボーグルへと群狼が飛び掛かり魔導機関銃と、その爪に電磁波載せて振り下ろした。
そしてヴォルフガングも、自身の力をボーグルへと向ける。
「竜漿をその身に宿すなら抗えない力をみせてやる」
魔導機巧錬成剣|『終極淵源』《アゾット》をその手にヴォルフガングは紡ぐ。
「錬成陣展開。天に星、地に水。血潮は命の川。共振の理、領域に満ちよ。流れ、逆巻け! アルケミッシェ・ブルートレゾナンツ・ツォーネ!」
それは竜漿含む血液成分を破壊・阻害する錬血共振。ボーグルたちに震度7相当の震動を与えその場に縫い止める。
そしてヴォルフガングは終極淵源にマヒ攻撃の刃を生み出し、動けぬボーグルたちを切断するように駆けた。
その様子をガイウスも目にし、負けていられないとボーグルたちに対する。
戦いの喧騒――それに導かれるようにディラン・ヴァルフリート(|義善者《エンプティ》・h00631)もその場に合流する。
死を覚悟している。且つ、生きて勝利するために。ディランの心はすでに固まっている。
ここまで警戒し、そしてうまく辿りついた。だがこの場のボーグルは倒さなければ先には勧めない。
(「弱者を糧とする事も許されなければ餓え燻るのみ。慎重を期しただけよく励んだ方としか思えませんが……正義なるものは、その弱者の為に憤るのでしたか」)
ボーグルたちがその名を呼んで称える存在。ジェヴォーダンの今までの動き――それを反芻しながらディランは思う。
「……ならば……僕も、そのように」
ディランは紡ぐ、|仁刻:正道に捧ぐ讃歌《ロア・イデアール》を。
「僕は……信じます。生命いのちの本質は、善であると」
この場にいる仲間への援護、冷静な思考に身体性能、助け合う心を増幅する。
ガイウスとヴォルフガングもその恩恵を受けボーグルたちと再び切り結んだ。
そして、Evol/蝕竜装躯ヴァルフリートをディランは使う。
竜の本性と肉体を復元する戦闘形態――腕部と翼部に目を増やしその視界を拡張する。
ボーグルたちがどこからくるか。後方からだとしても見逃さぬように。
集団狩猟の体勢をとり、ディランを囲むボーグルたち。しかしそれは好都合でもある。
聴覚媒介に任意の錯覚を齎す旋律を放ち叩き込む――それによって敵の動きを留めてしまえるから。
「仮に取り逃がせば……救われぬ犠牲者が、増え続けるのでしょう」
このダンジョンが消えた時、ボーグルたちは√EDENに取り残される。それを承知でここにいるのだ。もし、ここで生きている個体を残せば、その牙はおそらく√EDENの何も知らぬ無辜の民にも向く。
「ならば此処で……確実に」
ボーグルたちを薙ぎ払うようにディランは大剣を振るう。その身に傷を負ったボーグルは引くことなくまた向かってくるが、すでに万全でない状態。
命を絶つのは簡単なことだ。ディランは損耗を最小限に抑えるように動く。
しかしできるだけ早く。このダンジョンもいつ消えていくかは、わからないのだから。
ボーグルたちの殺意は、奥に向かうにつれて高くなる。その勢いが衰えるということはなかった。
すでに半分以上はダンジョンを踏破しているだろう。しかしまだ、本拠地のダンジョンには至らない。
森屋・巳琥 (人間(√ウォーゾーン)の量産型WZ「ウォズ」・h02210)は自分が何をすべきかを決めていた。
ジェヴォーダンの控える融合ダンジョンへの道を繋げる。そして経路が閉じる前に突破できる戦力を多くする様努めるということを。
巳琥は出会ったジェヴォーダンの一団を冷静に観察する。
「ジェヴォーダンサマノタメニ! ココヲマモルゾ!!」
「イノチヲカケロ!!」
「クルモノスベテ、オシツブセ!!」
「相手は時間稼ぎとしての殿部隊を務めるだけあって士気が高いようですね」
経路が閉じるまで最後の一兵まで抵抗するのは予想に難くない。
(「ですが先に進む為にも私達でその突破口を開きます」)
進む先にボーグルの一団がいる。
「並列操作補助機構「蜃気楼」起動」
巳琥は自分自身を軸に、見た目を類似させた各素体を展開運用する。それと共に決戦気象兵器「レイン」をボーグルたちへと向ける。
しかしボーグルたちも集団狩猟の体勢をとり、巳琥の手数を潰す様に仕留めようとしてくる。
集団狩猟の体勢を取り、囲もうと動いてくるボーグルたち。巳琥はレーザー光線を放って、その行動を散らそうとしていく。
自分がするのは、此処を皆が通り抜けることができるようにすること。
ボーグルが突撃してくる。射撃をかけるがドラゴンガーダーを構え巳琥は受け流す。
「!!っ」
攻撃の重さは感じるが耐えられないほどではない。ボーグルの殺意に満ちた表情が巳琥に迫る。
けれど距離を取る様に射撃を重ね、巳琥はそのボーグルを弾いた。
巳琥は皆を先に進めるために、損耗しないように動いていた。だから、抜けれそうな瞬間があれば声をかける。
「こちらは任せて先に行くのですよ!」
と、言ってから所謂フラグ的に危険かしら? と巳琥はちょっと不安になる。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
だがその言葉にチェルシー・ハートサイス(強者たれ・h08836)は巳琥の横を駆け抜けた。
その姿に制圧射撃をかけ、突破できるように巳琥は援護する。ボーグルの足の多くを止めるが、前に立ちふさがってくる個体もいた。
チェルシーはハートサイス一族の家宝たる豪華な大鎌を思い切り振りぬいて、目の前の敵を倒しダンジョンの先へ。
チェルシーの口の端は僅かにあがる。最近、戦ってきた軍団、兵隊達は腑抜けばかりだったけれど――今日は、この場ではそうではなかったから。
「……いいわね。獣であろうと、一つの意思のもとに統率の取れた軍勢は好きよ」
相手にとって不足はないわとチェルシーは先へ進む。しかしそこでもまたボーグルたちが待ち受けていた。
この道はきっと正しくジェヴォーダンのもとに続く路なのだろうとチェルシーは思う。
「コロセ!!」
「トオスナ!!」
ボーグルたちの敵意に満ちた声にチェルシーは笑って、その群れに飛び込むように見せかけ、その足で地を穿つように踏み込んだ。
「我が力、天地神明に届かん!」
衝撃波がボーグルたちを穿つ。震度7に襲われ、ボーグルたちの身動きはままならない。
動けないその状態は、チェルシーにとっては狙い時。
「腹拵えよ」
その怪力もって、片手でハートサイス握り勢いつけて振り上げる。重量乗せての一撃はボーグルがその膂力上げても防ぐことできず、その体を真っ二つにして血しぶきがあがる。
ボーグルたちは仲間がやられたと一掃、士気上げて吼える。
けれどそれはチェルシーにとっては美味しいご馳走に過ぎない。命をかけた、とつくが。
「普段なら何気なく相手をするけど……これだけ高い士気にあって、しかもここは絶対死領域」
一つのミスが文字通り命取りとチェルシーは分かっている。ここは堅実に。
緩まず鍛えたこの力があれば絶対に大丈夫と自信はあれども慢心はない。
ボーグルたちとチェルシーが戦う。その一つ隣の分かれ目でも、また戦いは行われていた。
死という恐怖、理不尽――をれを前にしても求める未来の為に、弓槻・結希(天空より咲いた花風・h00240)はその背の白い翼を広げる。
その青い瞳で見つめる未来。結希は思う。王劍という災いを払い、幸福の風を喚ぶ翼として斯くあれかしと――生き抜く為に。
けれどその為にはまず彼の黒き竜へと辿り着かなければならないことを結希は分かっている。
だからその手に青薔薇の装飾施されている美しい天星弓『フェルノート』を手に駆ける。
そして対峙するボーグルたち。
「そこを通らせていただきます」
結希は番える矢に氷を纏わせる。青い薔薇を灯し、多重詠唱を重ねて狙うはボーグルの群れ。
「風よ、花よ。その色彩をもって、私の道をお守りください」
放たれた矢がボーグルの一体を射抜いた瞬間、渦巻く氷雪が巻き起こし周辺を凍結させる。
「アガッ」
「グギッ……!」
その凍った身体を無理やり動かそうとして、ボーグルたちは足を失い崩れ落ちる。しかし眼光は鋭いまま、結希を睨みつけていた。
「青薔薇の花びらと共に、凍て付いてくださいな」
結希のその言葉に唸る声はやまない。そして――群れの奥、ボーグルたちの中から一体が飛び出てくる。
それはその一帯を守る様に重なる中から。とっさの判断かそれとも運が良かったのか。無傷のボーグルがいたのだ。
凍結した場所を飛び越えるように。ボーグルたちはジェヴォーダンのために命を賭している。
しかしやはりそうきますよねと、結希も予想していた。士気と忠誠心は、負傷など意に介させないと思っていたから。
それに狩りの体勢をとっており、それより繰り出される不意打ちは脅威でもある。
「数多の星が、如何なる罪咎をも照らす」
けれど、不意を撃とうとしても――結希の周囲に燦めく星光ボーグルを撃ち抜き落とす。
星の光は凍結した者達をも打ち砕き、この場に散らしていった。
結希はこの場にまだ生きているボーグルが居ないことを確認し、さらに奥へと足を向ける。
本拠地へとまずは、辿り着くために。
シンシア・ウォーカー(放浪淑女・h01919)はただダンジョンの奥を目指す。
このさきに、かの黒き竜の本拠地があるから。
「追いかけますよ、ジェヴォーダン」
シンシアが関わった融合ダンジョン事件は南フランスの一件。
けれど、あの地域の犯罪統計の数字だけを見ても相当数被害があったことは想像に難くなく。
それを思うとシンシアの眉は僅かによる。
それがより広範囲に。√EDENにももちこまれかけていた。それは戦争の檻にジェヴォーダンを叩くことによって防げたのだ。
そしてそれが今、本拠地への足掛かりとなっている。
もし、√EDENのあの場所に融合ダンジョンが繋がり何かしらを行われていたら。
「本当にどれだけの被害が……」
それを思うと、実現を防ぐことが出来て本当によかったとシンシアは思うのだ。
そしてこの消えかけの融合ダンジョンは√ドラゴンファンタジーにあるというジェヴォーダンの本拠地に繋がっているという。
(「√ドラゴンファンタジーは学生時代を過ごした大切な場所。この悪行を見過ごす訳には」)
この戦いは普段と勝手の違う過酷な戦いだ。士気の高いボーグルの集団を真正面から当たり続けるのは厳しい。
「……何があるかわかりませんから」
シンシアは認識阻害のオーラを纏いつつ、魔導書片手に駆けていた。いつでも全力魔法の光を放てるように。手数を増やしその数にも対応してきた。
その途中――交わる道で敵か、と構えたけれど同じ√能力者と行き会った。
「向かう先は」
「一緒です!」
玉響・刻(探偵志望の大正娘・h05240)はもちろんとそこから二人で駆けてゆく。
刻も、また融合ダンジョンの事件に関わっていた。それは無差別な人身売買に繋がっていた事件。
関わったのはただそれだけ。
(「でも、それだけでもジェヴォーダンを討つ、そう思うに十分足る理由ですっ!」)
その想いがあったから、刻は今ここにいる。
「この機会、逃しはしません!」
思わず零れた言葉にシンシアもええと頷く。
進んだ先、開けた場所に出る気配。雑用インビジブルも召喚し、先を進ませていたシンシアはこの先いますと告げた。
「絶対生きて帰りましょうね!」
シンシアの言葉に刻は頷く。
そして開けた場所に出たなら、そこには集団狩猟体勢を整え来たものを仕留めようとするボーグルたちがいた。
「キタゾ!!!」
「オオオオオッ!!!」
「ジェヴォーダンサマノタメニ!!!」
猛々しく咆えるその様、ボーグルたちがジェヴォーダンのために戦おうとしている姿を前に刻は零す。
「それにしても、決死隊とは意外と人望あるみたいで少し意外ですっ」
ボーグルたちが何故慕っているかはわからないけれど。
「でも、命を掛けて臨んでいるのは私達も同様ですっ! 負けません!」
だが囲まれたら危うい。一体ずつ確実に仕留めていきたいところと刻は思う。
ボーグルが動き、壁をつくる。
咄嗟に、シンシアは踏み込み、降りかかる攻撃を防ぐように仕掛けた。
それは装甲を貫通する威力二倍の攻撃。霊障を直接流し込み、相手を怯ませる魔術をレイピアに載せてボーグルへと放つ。それは|発火点《フラッシュポイント》の恩恵もあり広範囲に、そして連ねての攻撃になる。
「黒い胡蝶は死を告げる蝶、ですっ!」
そのわずかの間に刻は淡く光る無数の黒い霊蝶を纏う。とんと地を蹴っただけでボーグルの射程から抜け、そして後ろをとった。
其処では距離がある。けれど、これでいい。
「|天《そら》を疾るは風斬る蝶! ですっ!」
斬撃から生じた鎌鼬。
狙うのは武器を持つ腕か。いや、今は狙うのは足がいいと刻は狙う。移動が出来なくなれば行動の制限が出来る。その場より動けなくなれば、動きが鈍くなれば攻撃を交わしやすくなる。
そしてシンシアも好機とみて動きが鈍い相手へと霊障を直接流し込みボーグルを怯ませる。
刻がそこを狙ってまた動く。閃く刃は死を告げる蝶。鋭い居合から繰り出される超速の横薙ぎがボーグルの命を絶つ。
ボーグルの方が数は多いが、二人の対処は間違いなく確実に敵を減らしている。
この先に進むために。なにより生きて帰るために、二人は自身の持てる全てで戦っていく。
融合ダンジョンを進みながら、マハーン・ドクト(レイニーデイ・ホールインザウォール・h02242)は思う。
「……わっかんねぇんだよな。命を懸けるだの、惜しくないだの」
人は死んでいってるってのに。ただでさえ、この戦争で何もかも滅茶苦茶になっていってるってのにとマハーンは零す。
√ウォーゾーンで生きてきたマハーンは命というのは恐ろしく軽く。けれど重たいものであることも知っている。
「それでも、こうしてわけのわかんねぇまま、誰かが傷付いて、誰かが傷付けて、そしてそれを当然の様に世界は回ってやがる」
己の気持ちを吐き出しながらマハーンは――開けた場所へと近づいていた。
そこにいるという気配を感じて進んでいく。
外ならば雨を纏っていただろう。しかしここは閉じられた洞窟のような場所。
霧と見紛うような細かい霧雨がさらさらと降り始めた。
その雨脚はだんだんと、強くなっていく。
「アメ……?」
「コンナノココデハナイゾ!」
その変化にボーグルたちは僅かに動揺する。その動揺を見つつ、青を基調とした顔を覆う仮面をつけ、マハーンは歩いていく。
「……どうしようもない事も、喚いたって仕方がない事も解ってる。……だから、これは」
小さな水たまりができていた。その上でマハーンは足を止める。
「……八つ当たりだ。『転身、開始』……!」
マハーンの全身を青のスーツが包み込む。その上から黒いレインコートを羽織り、ボーグルたちへと告げる。
「突然の霧雨にご注意ください。濡れずにいられると思うなよ?」
レインコード・プリズム――レイン兵器に増設された、プリズム光線を発射するための副砲台より放たれるレーザーは雨で分散し乱反射する。
一気に広範囲にいるボーグルたちをあらゆる角度から包囲しマハーンは攻撃仕掛けた。
集団狩猟の体勢を取り、探知できぬようにしていたとしてもその攻撃を素通りできるわけではなく。
一気に広範囲集中砲火を見舞えばボーグルたちも逃げ切れない。
ボーグルたちは痛みに吼える。
倒れるボーグルもいれば、まだ立ち上がるボーグルも。
「ジェヴォーダンサマノタメニ……ココハ、ゼッタイニ……!」
傷を負ってもぎらつく視線は揺らがない。マハーンはそれなら倒れるまでやるだけだと思うのだ。
「……そこまで覚悟してるってんなら……! 何もできずに倒れる覚悟も、出来てるんだろうな!?!?」
この場の最後の一体まで、倒し切るまで道を譲ってはくれそうにない。
マハーンはボーグルの矜持を否定はしない。正面から受けて、ただ倒していくだけだ。
背筋に走る冷たい感覚。
澄月・澪(楽園の魔剣執行者・h00262)はただ前を見て、その場所へと駆ける。
「感じる、この寒気がする感じ。前と同じ、絶対死領域……!」
ここで相手を倒すっていうのは命を奪うっていうこと。本当はそんなことはしたくない――澪の表情に走る緊張。
(「……けど。ここで迷って、隣で戦う大事な友達が傷つくのも、√EDENの大事な人が傷つくのも嫌。だから、覚悟は決めてきた」)
澪が戦いに向けての気持ちをすでに固めている。その表情を深雪・モルゲンシュテルン(明星、白く燃えて・h02863)はそっと見詰めていた。
(「長い間、私にとって敵の殺害は当然の行動でした」)
でも、今はそうではなく。そしてそうなれたのは。
(「対話の道を知ったのは澪さんが教えてくれたからです」)
深雪に違う道を示した澪。敵を斃す――それ以外を示してくれた彼女が今、戦う道を選んでいるのを深雪は感じていた。
(「そんなあなたが、敢えて命の奪い合いに飛び込むなら――同じ覚悟を、私も背負います」)
青の瞳を瞬かせ深雪は澪を見つめる。と、澪も深雪を見て。
「王劍とジェヴォーダンの元に進もう、深雪ちゃん!」
改めて向けられる言葉に深雪は頷く。いくつか戦いを経て、融合ダンジョンも奥まで進んできたように思える。
深雪は周囲にずっと意識を向けていた。近くの草むらや物陰などもいるのではないかと情報収集をしていた。
そして向かう先――多数の熱源を深雪は感知する。
「澪さん」
名を呼ぶ。それだけで澪は察した、この先に敵がいると。
「魔剣執行。因果を断て、忘却の魔剣『オブリビオン』!」
澪は魔剣執行者へと変身する。
この先に行かせまいとするボーグルたちへ駆けると見せかけて澪は留まる。
それは不意をついて飛び掛かろうとする気配を感じたから。振り下ろされる鉈を魔剣で弾く。盛大に舌打ちをするボーグルは引いて、そして他の仲間たちと共に集団狩猟の体勢をふたたびとる。
正面――この先にはいかせまいと連なるボーグルたちは澪と深雪へ、ぎらぎらとした視線を向ける。
ここで狩り、この先には活かせまいとする強い意思を二人も感じる。
そして、何かが咬みあった瞬間、どちらも同時に攻撃へと動く。正面からくる敵へ澪が対する。
その澪の死角から迫る敵は深雪が向かえ撃つ。
「アナイアレイターモジュール展開。『従霊』フュルギャ各機、システムオールグリーン」
超高火力浮遊砲台を意のままに。六連装思念誘導砲|『従霊』《フュルギャ》をボーグルの後ろにもぐりこませ穿つ。
そしてその陣を崩す様に深雪はレーザー砲を放っていく。
集団狩猟の体勢を取るボーグルたちは視界に納める事でしか認識できない。だから二人で四角を補い合う。
「澪さん、正面開けます」
毒棘を生やし向かってくるボーグルを見て、深雪は構える。
「射線上に僚機なし。ロケット弾発射用意」
物理と炎の複合属性の弾丸を深雪は放つ。大爆発と飛び散る破片がボーグルたちを苛む一撃。その様子に澪は、深雪ちゃんすごい! と思わず声をあげ、私も負けてられない! と戦意を高めた。
ボーグルの数もだいぶ減って来ただろうか。澪と深雪の攻撃も重なり、ボーグルたちの動きに精彩さが失われていく。
「深雪ちゃん!」
今が仕掛け時。深雪は澪へと頷き返し、タイミングを合わせる。
「私の大切なものを守るために……容赦しないからっ!」
魔剣オブリビオンから不可視の刃を伸ばし半径42mを薙ぎ払う澪の範囲攻撃。それに合わせて放つ深雪のロケット弾の爆発が、毒棘をも吹き飛ばしていく。
脅威への抑止力となることが、|兵器《ひとごろし》の存在意義です――そう思いながら深雪が向けた砲撃。
その爆発の中にあったボーグルたちは、半身が吹き飛んでもなお、深雪と澪へ敵意を向けていた。
やけくそのように武器を投げてくるが、それは簡単に弾ける。反撃、と思った時にはすでにそのボーグルは事切れていた。
奥にきて、ボーグルたちの執念を改めて強く感じる一戦。
周囲のボーグルたちがもう動かないのを確認し、深雪と澪は更なる奥へと向かう。
「きっと、あと少しだね」
「ええ、油断せず行きましょう」
融合ダンジョンの終わりも近い。そんな予感が二人にはあった。
橋本・凌充郎(鏖殺連合代表・h00303)にとって死を覚悟する――それは『いつだって、そういうものだ』と思うことでありどんな戦いの場でも持ち得る気持ち。
死は絶対であり、死は平等であるが故にと、知っているから。
今だって、多数のボーグルたちが道を塞ぐ場所にひとりで行き会った。
ボーグルたちはここを通しはしないと荒々しい気迫で守っている。
この先がジェヴォーダンのいる本拠地に続いているのは間違いない。
であれば、凌充郎のすることはひとつ。
「――――――ふむ。では、露払い位は引き受けよう」
バケツで顔を隠した男は自分がいかなものかを理解している。
「何、元より殺すしか能のないものだ」
一歩ずつボーグルたちの元へとただ歩んでいくのみ。
怪異を殺し、災厄を殺し、人の澱みを殺し、人の腐りを殺す。
「本来はそれが俺の在り方だが―――――少しばかりのサービスという奴だ。折角の殺しだ、こちらも多少なりとも力は振るっておかんとな」
その言葉をボーグルたちに向けて理解してくれるだろうか。
わからずとも、大事なことはわかりあっているのは確かなのだが。
「―――――ではいくぞ、命は惜しくないとのたまう者ども」
「クルゾ!! タタキツブセ!!」
「ソノクビヲハネロ!!」
ボーグルたちは己の能力を底上げし凌充郎を迎え撃つ。
「――――――鏖殺連合代表、橋本凌充郎。これより、鏖殺を開始する」
地を蹴ったのはどちらが早いだろうか。
限界突破は最初から。回転ノコギリを己の怪力をもって、重量かけて降り回しその肉を千切り裂く。
「くたばれ。死に損なう事は許さん」
薙ぎ払うように叩き伏せながら凌充郎は麻痺弾による射撃を。それに射抜かれ動きが鈍る様を確認する。
確実に殺せるボーグルを見定め、時にその間を抜け凌充郎は縦横無尽に駆け回る。
「―――――クハハ! 実に単純でよいではないか」
思わず漏れる笑い。向かってくるボーグルの重い一撃を構えたバス停で防ぎ、その腹に回転ノコギリを走らせ両断する。
飛び散る血の中、絶えた仲間ごと叩き斬ろうとしてくるボーグルの一撃を回避しながら攻撃をまた別のボーグルへ。
単純な殺し合いの様相。ボーグルたちもさらに盛る。それを凌充郎はいなしながら仕掛けていた。
――――――この√をも喰らい、殺したまえよ、と凌充郎は戦場を踊りボーグルを駆逐していく。
決死隊であると、リリンドラ・ガルガレルドヴァリス(ドラゴンプロトコルの屠竜戦乙女《ドラゴンヴァルキリー》・h03436)はボーグルたちのことを聞いてきた。
「決死隊ねぇ、正直ジェヴォーダンはここで打倒したいからこちらも手は抜けないけれど」
それでも、簒奪者とは言え、誰かの為に戦う姿勢は素直に感嘆する。
「だけどこちらも同じく死を覚悟してここに立っているのよ。であれば後は多く語らずね、推して参るわよ!」
目の前にいるボーグルたちへとリリンドラは向かう。
「ココデコロス!! タオスノダ!!」
「ゼッタイイカセヌ!!」
吼えるボーグルたちとぶつかるためにリリンドラは黒曜真竜人へと変身する。
「少し、本気でいかせてもらうわ!」
人型の竜となり、紫電を纏う。
リリンドラへと毒棘を生やした身体で突撃してくるボーグルたち。
しかし跳躍は二倍、ボーグルたちの上を飛び越えることは容易い。そして持つ力も四倍に跳ね上がっている。
ボーグルたちの攻撃は何もない場所にあたり、そして毒棘をその場に生やす。
「こういう場所では真竜になるよりこちらの方が便利なのよね」
狭い場所もある。こういうダンジョンでは動きやすい姿の方がいい。
ボーグルの上を飛び越えて、リリンドラは待つ。ボーグルたちが自分を見る瞬間を。
「深淵はあなたに何を見せるのかしら?」
それは五感を奪う視線。目が合ったボーグルたちは武器を握っているのに握っていないような。それに視覚、嗅覚、聴覚をも奪われていく。
「こちらも先を急ぐから加減はできないし」
屠竜大剣を構えたリリンドラはボーグルたちを近距離で薙ぎ払う。まとめて複数体――しかし攻撃を受け反射的に武器を振り回すものもいる。
リリンドラは大雑把な攻撃を当たらないわとかわす。屠竜大剣を再び振るって、重量乗せてボーグルたちを払い飛ばした。
それでもなお攻撃をかけようとするボーグルがいる。自分の能力を底上げしリリンドラの気配を探り攻撃を。
でもその五感を奪われたままではやはり十分な攻撃ができるはずがなくリリンドラは避けてその命を絶つ。
「……もういなさそうね」
なら、と壁へ道標を描いておくリリンドラ。
ボーグルの先にジェヴォーダンがいるのであれば、この道は正解だと知らせる意味も込めて。
そしてリリンドラは先へと進む。
そのしばらく後――その印を見つけた者がいた。
「ふふふ、こ~んなに早くまたチャンスが巡ってくるだなんて、ツイてるなあ。やっぱり日頃の行いかな~」
戦いの後がある。そして壁の道標。ここまでも何度か見ていたそれは奥へと示していた。それを何となく追っていたルメル・グリザイユ(寂滅を抱く影・h01485)は、更にその先へ。
けれど、分かれ道がありどちらにいこうかとルメルは思う。
「ん~、こっちかな」
なんとなく殺気を感じたほうへ、ルメルは霊薬を飲みつつ進んでいく。
と、戦いの音が聞こえてきた。そちらへ向かえば戦う姿がある。
多数のボーグルたちと対している男がいた。
「随分とやる気でいいじゃねぇの」
禍神・空悟(万象炎壊の非天・h01729)は笑って対する。
「んじゃまぁ、こっちも遠慮なく皆殺しといかせてもらおうか? ま、元から遠慮する気なんざ欠片もねぇんだがな」
全てを焼き尽くし灰すら残さない黒き炎を纏う。
「テメェにとっての死の凶兆、それが俺だ」
打ち崩す、と空悟は走りこみ近くにいたボーグルへと計都炎尖禍の一撃を叩きこむ。
ボーグルたちは集団狩猟の体勢をとっていた。その伊動力と戦闘力を落としても潜む事を選んだため。
けれど目の前にいる相手を空悟は逃さない。空悟の動きに合わせる事も出来ず、その場に沈んだボーグル。
「ま、問題は個々の強さよりも数ってな」
だが一体倒したところで空悟は慢心しない。己を囲む数はまだまだ多いのだから。
地を踏み砕く震脚は黒炎の波濤を踊らせる。姿は見えなくとも、その範囲にいるのなら焼却に抱かれるはず。
その狙いの通り、炎に踊らされるボーグルたちが端から出てくる。だがそれだけでは、倒れない。身を焼かれながらもボーグルは空悟へと敵意を向ける。
「これで全て片が付くなら決死戦の名は冠しちゃいねぇし、死の覚悟なんて求められやしねぇ」
身を焼かれながらも空悟を囲み攻撃向ける。だが鍛えられた体はその一撃を受け止めて耐える。
けれど、もう一つの方向から来ると思っていた攻撃がこない。
「一体もらいましたよ~」
ボーグルの死角から、Requiem Fang――ナイフでその首を切り裂いたのはルメル。抉り裂いた肉を手にしてその場にとどまる。
まだ数が多いボーグル。空悟はそっち任せるぜと告げて、ルメルもお任せと返した。
「向こうさんも決死の覚悟でお出迎えしてくれたんだ。お望み通り殺してやらねぇとなぁ?」
空悟は正面からくるボーグルたちへと攻撃仕掛ける。
そしてルメルも。
「準備完了~っと。あとは良いタイミングまで、大事にとっておくだけだねえ。……あ、む……」
肉を口に含んだまま、咀嚼も飲み込みもせず。ちょっとくさいな、なんて思うけれどルメルは我慢して最低限の動きでボーグルたちの攻撃をかわし、そしてナイフで攻撃する。そのナイフで生命力を吸収しつつ。
しかしその攻撃が来たときは正面から敢えて受け止めた。毒棘を生やし突撃してきたボーグル。避ければその場所が毒棘まみれになる。
だから敢えて、自分でうけて――その衝撃を利用し、含んでいた肉を一気に呑み込んだ。
「~~ッ、……ふう、ご馳走様~」
よおし全快とルメルは言う。その言葉の通り、貫かれた場所は綺麗に治ってその毒も消えている。
ボーグルは何がおこったと状況が呑み込めていないようだ。
そんなボーグルへと、ルメルはにっこり笑ったかと思うと。
「これであとは、キミを殺すだけだあ」
その手を伸ばし掴むと地面へと叩きつけた。グオッと潰れる様な声を零すボーグル。そのままヒールで串刺すように踏みつけけ、ナイフを再びボーグルへ。傷口抉って血飛沫跳ねる。
まだやります? やりますよねとルメルは笑う。
ボーグルが向ける視線はぎらついたまま。戦いはまだしばらく激しく続くことを予感させた。